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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1229012
審判番号 不服2009-12697  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-13 
確定日 2010-12-09 
事件の表示 特願2003-191820「液体吐出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年1月27日出願公開、特開2005- 22319〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成15年7月4日の出願であって、平成21年4月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年7月13日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に同日付けの手続補正がなされたものである。

2 平成21年7月13日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
本件手続補正を却下する。
〔理由〕
(1)補正後の本願発明
本件手続補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】ノズル面に形成された複数の液体吐出ノズルから所定の液体を吐出する液体吐出ヘッドと、
この液体吐出ヘッドのノズル面に対向するように配置され底面部から所定の間隔で並んで立ち上げられたプラテンリブにより吐出対象物を下から支持して上記液体吐出ヘッドとの位置関係を規定するプラテン板と、
上記液体吐出ヘッドに対する吐出対象物の供給側から排出側へ吐出対象物を搬送する搬送ベルトが配置された搬送手段と、
を有する液体吐出装置において、
上記液体吐出ヘッドから所定の液体が吐出される領域内では、搬送手段の搬送ベルトを液体吐出ヘッドに対してプラテン板よりも後方に配置し、
上記液体吐出ヘッドの下面側には、該液体吐出ヘッドのノズル面を保護するヘッドキャップを液体吐出ヘッドに対し相対的に移動可能に装着し、
上記ヘッドキャップの開動作に伴って、上記搬送手段及びプラテン板が連動して上昇するようにしたことを特徴とする液体吐出装置。」
と補正された。
上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面の記載に基づいて、補正前の請求項1に記載された発明を特定する事項である「プラテン板」に関する「吐出対象物を支持」を「底面部から所定の間隔で並んで立ち上げられたプラテンリブにより吐出対象物を下から支持」と限定し、同請求項1に記載された発明を特定する事項である「ヘッドキャップの開閉動作に伴って、上記搬送手段及びプラテン板が連動して上昇又は下降する」を「ヘッドキャップの開動作に伴って、上記搬送手段及びプラテン板が連動して上昇する」と限定するものであり、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではない。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件手続補正後の上記請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-178582号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の記載がある。
「【0021】…図1及び図2において、本発明の実施の形態1に係るインクジェット記録装置としてのインクジェットプリンタP_(1)は、…給紙トレイ2と排紙トレイ3との間にこれらに連なるように設けられた記録紙搬送路4、給紙トレイ2と記録紙搬送路4との間に設けられた給紙側搬送ローラ5、この搬送ローラ5に従動する給紙側従動ローラ6、記録紙搬送路4の…下流側に設けられたプラテン板9、このプラテン板9の上方に設けられ記録ヘッド(インクヘッド)としての印字ヘッドが取り付けられたインクキャリッジ10、プラテン板9と排紙トレイ3との間に設けられた排紙側搬送ローラ11及び、この搬送ローラ11に従動する排紙側従動ローラ12を備えてなる。」
「【0025】印字部15では、その画像情報に対応して、必要な記録ヘッドからインクが吐出されて、記録紙1の上に記録される。この時、記録紙1は一旦停止し、インクキャリッジ10の1ライン(1方向)の走査が終了した時点で、記録ヘッドが有する複数のインクノズル分に相当する記録紙1の搬送がされる。」
「【0032】…インクジェットプリンタP_(1)はさらに、給紙側搬送ローラ5及び排紙側搬送ローラ11に張り掛けられて前記2つの従動ローラ6・12との間に記録紙1を挟んで搬送する複数本の搬送ベルト20を備えている。これらの搬送ベルト20は、記録紙1の搬送方向に直交する方向へ複数本設けられている。また、これらの搬送ベルト20は互いに、同じ材質で同じ寸法から構成されており、2つの搬送ローラ5・11の中間部に配設された2つのテンションローラ21・22により、中間部全体が記録紙1及びプラテン板9から遠ざかる方向へテンションがかけられている。なお、記録紙1の中間部はプラテン板9に載せられている。」
そして、図4には、搬送手段の搬送ベルトをインクキャリッジ10に対してプラテン板よりも後方に配置した態様が図示されている。
以上の記載及び図1、図2、図4、図5によれば、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。
「複数のインクノズルからインクを吐出する記録ヘッドが取り付けられたインクキャリッジと、インクキャリッジの下方に設けられたプラテン板と、給紙側搬送ローラ及び排紙側搬送ローラに張り掛けられて記録紙を搬送する搬送ベルトが配置された搬送手段とを備えるインクジェットプリンタにおいて、搬送手段の搬送ベルトをインクキャリッジに対してプラテン板よりも後方に配置した、インクジェットプリンタ。」

同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-94676号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の記載がある。
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、プリンタヘッドにインクジェット方式のラインヘッドを用いるのに最適なインクジェットプリンタに属するものであって、特に、プリンタヘッドのヘッド面を開閉する機構に関する技術分野に属するものである。
【0002】【従来の技術】…従来、プリンタヘッドとしてラインヘッドを用いたインクジェットプリンタが既に開発されていて、このラインヘッドはほぼ長方形状のヘッドカートリッジの下部に結合されたヘッドカートリッジ一体型プリンタヘッドに構成されている。…
【0003】そして、このラインヘッドは、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のカラーインクの小滴を色別にプリント用紙の幅方向に一度に、一列状に噴射して付着させながら、プリント用紙の搬送方向に重ね塗りするようにしてフルカラーの画像をプリントすることができるので、プリンタヘッドをキャリッジでプリント用紙の搬送方向と直交する方向に移動させるシリアルスキャンタイプのプリンタの欠点である印画速度を克服することができ、高画質のフルカラー画像を高速でプリントすることができるものである。」
「【請求項1】定位置に設定されたプリンタヘッドと、前記プリンタヘッドのヘッド面を開閉するヘッドキャップと、前記ヘッドキャップを前記ヘッド面の閉塞位置と、開放位置との間で開閉駆動するヘッドキャップ開閉機構とを備え…を特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】前記プリンタヘッドがラインヘッドに構成され…を特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。」
「【請求項5】前記プリンタヘッドのヘッド面と対向されて配置され、プリント用紙をそのヘッド面に沿って搬送するプリント用紙搬送ユニットと、
前記プリント用紙搬送ユニットを前記ヘッド面に平行状に近接させた印刷可能位置と、前記ヘッドキャップの開閉移動経路を確保するために前記ヘッド面から下方に離間させた印刷待機位置との間で昇降駆動する搬送ユニット昇降機構とを備えたことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】前記プリント用紙搬送ユニットが搬送ベルトによって構成され、一端側の回転支点を中心に他端側を上下方向にスイング駆動されるように構成されていることを特徴とする請求項5に記載のインクジェットプリンタ。」
「【0074】……この搬送ベルトユニット31の昇降駆動は、前述したヘッドキャップ10の開閉動作と同期して行われる。」
「【0078】…ヘッドキャップ10が図35に示す開放位置P12のすぐ下の位置から37に示す開放位置P12まで、図29で説明した主ガイド溝82の傾斜部82e及び副ガイド溝83の円弧状部83cに沿って斜め上方(矢印d4、d2′方向)に押し上げられる動作に追従するようにして、搬送ベルトユニット31が印刷待機位置P31から上昇位置である印刷可能位置P32へ矢印e方向にスイング駆動(上昇)されることになる。」
「【0082】…ヘッドキャップ10が図37に示す開放位置P12から図34に示す閉塞位置P11まで閉動作される間に…図38、図39に示すように、搬送ベルトユニット31が、ヘッドキャップ10に対して先行するようにして、印刷可能位置P32から印刷待機位置P31へ矢印e′方向に即座に自重降下(又はばねによる強制降下)されることになる。」
以上の記載及び図1ないし図39によれば、引用例2には、次の発明が記載されていると認められる。
「ラインヘッドに構成されたプリンタヘッドと、プリンタヘッドのヘッド面の閉塞位置と開放位置との間で開閉駆動されるヘッドキャップと、プリンタヘッドのヘッド面に対向して配置され、プリント用紙をそのヘッド面に沿って搬送する搬送ベルトユニットとを備えたインクジェットプリンタであって、ヘッドキャップの開閉移動経路を確保するために、ヘッドキャップの開動作に同期して、搬送ベルトユニットが上昇し、ヘッドキャップの閉動作に同期して、搬送ベルトユニットが降下する、インクジェットプリンタ。」

同じく本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-192706号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の記載がある。
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、被記録用紙上にインクを吐出し記録を行うインクジェット記録装置に関し…」
「【0015】図1あるいは図12に於いて、10はインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、11は被記録用紙を案内・支持するプラテン…」
「【0020】LFローラ33により搬送される被記録用紙13は,プラテン11に設けられたリブ列に案内・支持され排紙部に導かれる。なお、プラテン11に設けられたリブは,被記録用紙13との接触面積を小さくして抵抗を少なくするようにしており、これにより被記録用紙13はスムースに排紙部に搬送される。」
「【0039】図5はプラテン11とプラテンインク吸収体12の関係を示す、模式的斜視図である。前述した理由で、プラテンにはリブが設けられている訳であるが、本発明では、リブ列を複数組配している。図5(A)で示すように、プラテン11には被記録用紙搬送方向上流側の略半分までに略等間隔に並んだプラテンリブ列11bを配し、被記録用紙搬送方向下流側の略半分には、プラテンリブ列11bのリブ同士の略中央になるように、プラテンリブ列11aを配している。また、被記録用紙搬送方向で見ると、図6で示すように、吐出ノズル列16の上流側おおむね半分までプラテンリブ列11bが有り、吐出ノズル列16の下流側おおむね半分にプラテンリブ列11aが有る。…」
そして、図6には、プラテンリブ列により被記録用紙13を下から支持し、インクを吐出する記録ヘッド10との位置関係を規定するプラテン11が図示されている。
以上の記載並びに図5及び図6によれば、引用例3には、次の発明が記載されていると認められる。
「略等間隔に並んだプラテンリブ列により被記録用紙を下から支持し、被記録用紙の搬送をスムースにするプラテンを備えたインクジェット記録装置。」

(3)対比
本願補正発明と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明の「複数のインクノズルからインクを吐出する記録ヘッド」、「記録紙」、「給紙側搬送ローラ及び排紙側搬送ローラに張り掛けられて記録紙を搬送する搬送ベルトが配置された搬送手段」及び「インクジェットプリンタ」は、それぞれ本願補正発明の「ノズル面に形成された複数の液体吐出ノズルから所定の液体を吐出する液体吐出ヘッド」、「吐出対象物」、「液体吐出ヘッドに対する吐出対象物の供給側から排出側へ吐出対象物を搬送する搬送ベルトが配置された搬送手段」及び「液体吐出装置」に相当する。
また、引用例1のプラテン板9は、図4を参照すると、インクキャリッジ10に取り付けられた、複数のインクノズルからインクを吐出する記録ヘッドのノズル面に対向するように配置され、記録紙1を下から支持して記録ヘッドとの位置関係を規定していると認められるとともに、プラテン板9は、記録ヘッドからインクが吐出される領域内に有るものと認められる。
したがって、両者は、
「ノズル面に形成された複数の液体吐出ノズルから所定の液体を吐出する液体吐出ヘッドと、
この液体吐出ヘッドのノズル面に対向するように配置され吐出対象物を下から支持して上記液体吐出ヘッドとの位置関係を規定するプラテン板と、
上記液体吐出ヘッドに対する吐出対象物の供給側から排出側へ吐出対象物を搬送する搬送ベルトが配置された搬送手段と、
を有する液体吐出装置において、
上記液体吐出ヘッドから所定の液体が吐出される領域内では、搬送手段の搬送ベルトを液体吐出ヘッドに対してプラテン板よりも後方に配置した、液体吐出装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。
《相違点1》
本願補正発明では、プラテン板が、底面部から所定の間隔で並んで立ち上げられたプラテンリブにより吐出対象物を下から支持するのに対して、引用例1記載の発明では、プラテン板がそのようなプラテンリブを有すると特定されていない点。
《相違点2》
本願補正発明では、液体吐出ヘッドの下面側には、該液体吐出ヘッドのノズル面を保護するヘッドキャップを液体吐出ヘッドに対し相対的に移動可能に装着し、ヘッドキャップの開動作に伴って、搬送手段及びプラテン板が連動して上昇するようにしたのに対して、引用例1記載の発明では、そのような構成を備えていない点。

(4)相違点の検討
そこで、上記各相違点について検討する。
《相違点1について》
引用例3には、「略等間隔に並んだプラテンリブ列により被記録用紙を下から支持し、被記録用紙の搬送をスムースにするプラテンを備えたインクジェット記録装置」が記載されており、引用例1記載の発明において、吐出対象物の搬送をスムースにするように、引用例3に記載の、略等間隔に並んだプラテンリブ列により被記録用紙を下から支持するプラテンの構造を採用して、相違点1に係る本願補正発明の事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

《相違点2について》
引用例2には、「ラインヘッドに構成されたプリンタヘッドと、プリンタヘッドのヘッド面の閉塞位置と開放位置との間で開閉駆動されるヘッドキャップと、プリンタヘッドのヘッド面に対向して配置され、プリント用紙をそのヘッド面に沿って搬送する搬送ベルトユニットとを備えたインクジェットプリンタであって、ヘッドキャップの開閉移動経路を確保するために、ヘッドキャップの開動作に同期して、搬送ベルトユニットが上昇し、ヘッドキャップの閉動作に同期して、搬送ベルトユニットが降下する、インクジェットプリンタ」の発明が記載されている。
インクジェットプリンタは、記録ヘッドがインクキャリッジに取り付けられた型式も、記録ヘッドがラインヘッドに構成された型式も、本願の出願前に周知のものであり(ラインヘッドについては例えば、引用例2、特開2001-71480号公報、特開2000-289275号公報参照。)、ラインヘッドを使用したインクジェットプリンタは、記録ヘッドをキャリッジで記録用紙の搬送方向と直行する方向に移動させるシリアルスキャンタイプのプリンタよりも高速で高画質の画像をプリントできることは、広く知られていることである(例えば、引用例2の段落【0003】参照)。したがって、引用例1記載の発明において、より高速で高画質の画像をプリント可能なラインヘッドを使用したインクジェットプリンタとするために、引用例2に記載のラインヘッドに構成されたプリンタヘッドと、プリンタヘッドのヘッド面の閉塞位置と開放位置との間で開閉駆動されるヘッドキャップと、ヘッドキャップの開閉移動経路を確保するために必要な、ヘッドキャップの開動作に同期して搬送ベルトユニットが上昇し、ヘッドキャップの閉動作に同期して搬送ベルトユニットが降下するという技術的事項とを採用することは、当業者であれば容易になし得たことである。そして、その採用の際に、引用例1記載の発明におけるプラテン板を、搬送手段と共に移動させるようにすることは、搬送手段(搬送ベルトユニット)の上昇、降下がヘッドキャップの開閉移動経路を確保するためであることを踏まえて、当業者が当然になし得た設計的事項であるといえる。
そうすると、引用例1記載の発明において、ラインヘッドを使用したインクジェットプリンタとするために、引用例2に記載のインクジェットプリンタが備える、上記ラインヘッドに構成されたプリンタヘッドと開閉駆動されるヘッドキャップ、及び上記搬送手段に関する技術的事項を採用して、相違点2に係る本願補正発明の事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

しかも、本願補正発明が全体として奏する効果も、引用例1ないし引用例3記載の発明から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用例1ないし引用例3記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)まとめ
以上のとおり、本件手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 本願発明について
(1)本願発明
上記のとおり、本件手続補正は却下されたので、本願の請求項1ないし請求項4に係る発明は、平成20年2月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1は次のとおり記載されている。
「【請求項1】ノズル面に形成された複数の液体吐出ノズルから所定の液体を吐出する液体吐出ヘッドと、
この液体吐出ヘッドのノズル面に対向するように配置され吐出対象物を下から支持して上記液体吐出ヘッドとの位置関係を規定するプラテン板と、
上記液体吐出ヘッドに対する吐出対象物の供給側から排出側へ吐出対象物を搬送する搬送ベルトが所定の経路上に配置された搬送手段と、
を有する液体吐出装置において、
上記液体吐出ヘッドから所定の液体が吐出される領域内では、搬送手段の搬送ベルトを液体吐出ヘッドに対してプラテン板よりも後方に配置し、
上記液体吐出ヘッドの下面側には、該液体吐出ヘッドのノズル面を保護するヘッドキャップを液体吐出ヘッドに対し相対的に移動可能に装着し、
上記ヘッドキャップの開閉動作に伴って、上記搬送手段及びプラテン板が連動して上昇又は下降するようにしたことを特徴とする液体吐出装置。」
(以下、請求項1に係る発明を、「本願発明1」という。)
なお、平成20年10月6日付けの手続補正は、平成21年4月7日付けの補正の却下の決定により却下された。

(2)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び引用例2、並びにその記載事項は、上記2(2)に記載したとおりである。

(3)対比
本願発明1と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明の「複数のインクノズルからインクを吐出する記録ヘッド」、「記録紙」、「給紙側搬送ローラ及び排紙側搬送ローラに張り掛けられて記録紙を搬送する搬送ベルトが配置された搬送手段」及び「インクジェットプリンタ」は、それぞれ本願発明1の「ノズル面に形成された複数の液体吐出ノズルから所定の液体を吐出する液体吐出ヘッド」、「吐出対象物」、「液体吐出ヘッドに対する吐出対象物の供給側から排出側へ吐出対象物を搬送する搬送ベルトが所定の経路上に配置された搬送手段」及び「液体吐出装置」に相当する。
また、引用例1のプラテン板9は、図4を参照すると、インクキャリッジ10に取り付けられた、複数のインクノズルからインクを吐出する記録ヘッドのノズル面に対向するように配置され、記録紙1を下から支持して記録ヘッドとの位置関係を規定していると認められるとともに、プラテン板9は、記録ヘッドからインクが吐出される領域内に有るものと認められる。
したがって、両者は、
「ノズル面に形成された複数の液体吐出ノズルから所定の液体を吐出する液体吐出ヘッドと、
この液体吐出ヘッドのノズル面に対向するように配置され吐出対象物を下から支持して上記液体吐出ヘッドとの位置関係を規定するプラテン板と、
上記液体吐出ヘッドに対する吐出対象物の供給側から排出側へ吐出対象物を搬送する搬送ベルトが所定の経路上に配置された搬送手段と、
を有する液体吐出装置において、
上記液体吐出ヘッドから所定の液体が吐出される領域内では、搬送手段の搬送ベルトを液体吐出ヘッドに対してプラテン板よりも後方に配置した、液体吐出装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。
《相違点》
本願発明1では、液体吐出ヘッドの下面側には、該液体吐出ヘッドのノズル面を保護するヘッドキャップを液体吐出ヘッドに対し相対的に移動可能に装着し、ヘッドキャップの開閉動作に伴って、搬送手段及びプラテン板が連動して上昇又は下降するようにしたのに対して、引用例1記載の発明では、そのような構成を備えていない点。

(4)相違点の検討
そこで、上記相違点について検討する。
上記相違点に係る本願発明1の事項は、液体吐出ヘッドの下面側には、該液体吐出ヘッドのノズル面を保護するヘッドキャップを液体吐出ヘッドに対し相対的に移動可能に装着し、ヘッドキャップの開動作に伴って、搬送手段及びプラテン板が連動して上昇し、ヘッドキャップの閉動作に伴って、搬送手段及びプラテン板が連動して下降する態様を包含している。
引用例2には、「ラインヘッドに構成されたプリンタヘッドと、プリンタヘッドのヘッド面の閉塞位置と開放位置との間で開閉駆動されるヘッドキャップと、プリンタヘッドのヘッド面に対向して配置され、プリント用紙をそのヘッド面に沿って搬送する搬送ベルトユニットとを備えたインクジェットプリンタであって、ヘッドキャップの開閉移動経路を確保するために、ヘッドキャップの開動作に同期して、搬送ベルトユニットが上昇し、ヘッドキャップの閉動作に同期して、搬送ベルトユニットが降下する、インクジェットプリンタ」の発明が記載されている。
インクジェットプリンタは、記録ヘッドがインクキャリッジに取り付けられた型式も、記録ヘッドがラインヘッドに構成された型式も、本願の出願前に周知のものであり(ラインヘッドについては例えば、引用例2、特開2001-71480号公報、特開2000-289275号公報参照。)、ラインヘッドを使用したインクジェットプリンタは、記録ヘッドをキャリッジで記録用紙の搬送方向と直行する方向に移動させるシリアルスキャンタイプのプリンタよりも高速で高画質の画像をプリントできることは、広く知られていること(例えば、引用例2の段落【0003】参照)である。したがって、引用例1記載の発明において、より高速で高画質の画像をプリント可能なラインヘッドを使用したインクジェットプリンタとするために、引用例2に記載のラインヘッドに構成されたプリンタヘッドと、プリンタヘッドのヘッド面の閉塞位置と開放位置との間で開閉駆動されるヘッドキャップと、ヘッドキャップの開閉移動経路を確保するために必要な、ヘッドキャップの開動作に同期して搬送ベルトユニットが上昇し、ヘッドキャップの閉動作に同期して搬送ベルトユニットが降下するという技術的事項とを採用することは、当業者であれば容易になし得たことである。そして、その採用の際に、引用例1記載の発明におけるプラテン板を、搬送手段と共に移動させるようにすることは、搬送手段(搬送ベルトユニット)の上昇、降下がヘッドキャップの開閉移動経路を確保するためであることを踏まえて、当業者が当然になし得た設計的事項であるといえる。
そうすると、引用例1記載の発明において、ラインヘッドを使用したインクジェットプリンタとするために、引用例2に記載のインクジェットプリンタが備える、上記ラインヘッドに構成されたプリンタヘッドと開閉駆動されるヘッドキャップ、及び上記搬送手段に関する技術的事項を採用して、相違点に係る本願発明1の事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
しかも、本願発明1が奏する効果も、引用例1及び引用例2記載の発明から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明1は、引用例1及び引用例2記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-06 
結審通知日 2010-10-12 
審決日 2010-10-26 
出願番号 特願2003-191820(P2003-191820)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 立人島田 信一  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 熊倉 強
谷治 和文
発明の名称 液体吐出装置  
代理人 金本 哲男  
代理人 中村 正  
代理人 亀谷 美明  
代理人 萩原 康司  

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