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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01M
管理番号 1229199
審判番号 不服2009-18508  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-30 
確定日 2010-12-24 
事件の表示 特願2003-366607「加熱蒸散装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月19日出願公開、特開2005-124542〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続きの経緯
本願は,平成15年10月27日の出願であって,平成21年6月25日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年9月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。
また,当審において,平成22年4月22日付けで審査官による前置報告書に基づく審尋がなされたところ,同年6月28日に回答書が提出されたものである。

【2】平成21年9月30日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年9月30日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成21年9月30日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の請求項1について,補正前(平成20年12月22日付け手続補正書参照。)に,

「【請求項1】
発熱部を内蔵した器体と、この器体前面に設けられ気体通過孔を有する蓋体とを備え、蒸散剤保持体を前記器体と蓋体との間に介在させて該蒸散剤保持体を前記発熱部により加熱して蒸散剤を蒸散させるようにした加熱蒸散装置であって、
前記蒸散剤保持体は、蒸散剤を収容した容器の上方開口を気体透過性フィルムで覆い、容器の上方周縁にフランジ状側縁部を設けた構成であり、蒸散時には前記発熱部が容器の底部に接触して、前記側縁部が前記発熱部から離隔しており、
前記器体は、前記蒸散剤保持体を出し入れするための開口部と、前記蒸散剤保持体の側縁部で前記蒸散剤保持体を支持し、前記開口部から前記蒸散剤保持体の少なくとも一部を前記器体の外に押し出すための押出手段とを備えていることを特徴とする加熱蒸散装置。」
とあったものを,

「【請求項1】
発熱部を内蔵した器体と、この器体前面に設けられ気体通過孔を有する蓋体とを備え、蒸散剤保持体を前記器体と蓋体との間に傾斜させた状態で支持し該蒸散剤保持体を前記発熱部により加熱して蒸散剤を蒸散させるようにした加熱蒸散装置であって、
前記蒸散剤保持体は、蒸散剤を収容した容器の上方開口を気体透過性フィルムで覆い、容器の上方周縁にフランジ状側縁部を設けた構成であり、蒸散時には前記発熱部が容器の底部に接触して、前記側縁部が前記発熱部から離隔しており、
前記器体は、前記蒸散剤保持体を出し入れするための開口部と、前記蒸散剤保持体の側縁部で前記蒸散剤保持体を支持し、前記開口部から前記蒸散剤保持体の少なくとも一部を前記器体の外に押し出すための押出手段とを備えており、
蒸散剤保持体の上端に対して鉛直方向上方に開口する開口部が設けられ、
前記蓋体は、その蓋表面に上下方向に細長形状に伸びる複数の気体通過孔が設けられており、この複数の気体通過孔の蓋表面に対する開口率は40%以上で、かつこれら気体通過孔のそれぞれの短手方向長さが5mm以下に構成され、
さらに前記複数の気体通過孔はそれぞれの前記短手方向長さが前記蒸散剤保持体に近づくにつれて大きくなるように形成されていることを特徴とする加熱蒸散装置。」
と補正しようとする補正事項を含むものである。

2.補正の目的についての判断
上記補正は,蓋体表面に設けられた気体通過孔について,「それぞれの短手方向長さが蒸散剤保持体に近づくにつれて大きくなるように形成されている」点を付加している。
一方,本願明細書の段落【0030】には「・・・図6に示すように、蓋体12の柱部12cは、断面が略三角形で、かつこの略三角形の底面が蓋体12の裏面側に位置するように構成されている。・・・」と記載されており,図6を参酌しても,蓋の柱部と柱部の間に形成される気体通過孔の断面形状は,柱部の断面形状とは逆に,略三角形の底部が蓋体の表面側に位置するよう,すなわち,「短手方向長さが前記蒸散剤保持体に近づくにつれて小さくなるように形成されている」点が開示されているものの,「短手方向長さが前記蒸散剤保持体に近づくにつれて大きくなるように形成されている」点については,記載されておらず,またこの点は,当初明細書の記載から自明な事項でもなく,当初明細書及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものとは言えない。

したがって,本件補正発明は,新規事項を追加するものであるから,特許法第17条の2第3項の規定により却下すべきものである。

3.独立特許要件についての検討
一方,審尋においての上記新規事項についての当審からの指摘に対して,請求人は回答書においてこの点を認め,補正の機会を希望している。そこで,本件補正発明の「複数の気体通過孔はそれぞれの前記短手方向長さが前記蒸散剤保持体に近づくにつれて大きくなるように形成されている」点が「・・・小さくなるように形成されている」の誤記であると認め,上記補正が,少なくとも,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものであるとして,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているか,について以下に検討する。

3-1.刊行物の記載事項
<引用刊行物>
刊行物1:特開2003-265086号公報
刊行物2:実願昭54-73152号(実開昭55-174287号)の マイクロフィルム

(1)原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された上記刊行物1には,図面とともに,以下の記載がある。
(1a)「【請求項1】 略直方体状の蒸散剤保持体を傾斜させた状態で発熱体により加熱する加熱蒸散装置において、
前記発熱体を内蔵する器体と、前記器体に設けられた蓋体と、前記蓋体の内面に設けられて前記蒸散剤保持体を弾性的に支持する押さえ部とを備えていることを特徴とする加熱蒸散装置。
・・・
【請求項3】 前記蒸散剤保持体をセットする際に前記蒸散蒸散剤保持体の挿入を案内するガイドと、前記蒸散剤保持体が所定位置まで挿入されたらそれ以上進まないようにするリブストッパーとを前記蓋体及び前記器体の少なくとも一方に備えている請求項1又は2に記載の加熱蒸散装置。
【請求項4】 前記蒸散剤保持体が、前記ガイドによって案内される側縁部と、前記側縁部より内側の蒸散剤保持部とを備え、前記押さえ部が前記側縁部を弾性的に支持する請求項3に記載の加熱蒸散装置。」

(1b)「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。図1に示す、本発明の一実施形態の加熱蒸散装置10は、器体11と、器体11に対して開閉可能に設けられた蓋体15とを備えている。蓋体15は、器体11に対して閉じた状態で、水平方向(地面に対して平行な方向)に対して傾斜(例えば10度?50度で傾斜)した表面15aを有し、その表面15aに複数の蒸散開口16が設けられている。ここでは蒸散開口16が、上下方向にスリット状に延びるように複数設けられている。」

(1c)「【0012】・・・蓋体15の内面には、押さえ部となる板ばね18が設けられている。く字状に形成された板ばね18は、蓋体15の上端側に片持ち支持され、下方かつ器体11へ接近する方向(蓋体15から離れる方向)へ延び、その長さの半分より先端側で屈曲され、屈曲部より先は蓋体15へ近づく方向へ傾斜して延びている。蓋体15内面の、板ばね18先端より下端側に、リブストッパー19aが立設されている。」

(1d)「【0013】・・・この蒸散剤保持体20は、加熱蒸散液を収容した略直方体状の容器21の上方開口を気体透過性フィルム22で覆い、容器21の上方周縁にフランジ状の側縁部23を設けた構成である。容器21は、例えば金属製とすることができる。側縁部23の端部には、凸条23aが設けられている。この蒸散剤保持体20は、容器21の下面を加熱されて、気体透過性フィルム22を介して薬剤を蒸散するものなので、目詰まりなどの心配がない。」

(1e)「【0014】・・・蓋体15の両側縁部には、L字状のガイド19b,19bが設けられている。ガイド19bは、蓋体15の表面と略平行に延びている。前述の板ばね18は、蓋体15の内面に幅方向に間隔をあけて一対設けられ、各板ばね18はガイド19b付近に位置している。蓋体15を開いた状態で、板ばね18とガイド19bとの間に、蒸散剤保持体20の側縁部23が挿し込まれる。図2に示したリブストッパー19aに蒸散剤保持体20の先端が当たるまで、蒸散剤保持体20が挿し込まれる。こうして、蒸散剤保持体20の側縁部23が、板ばね18の屈曲部とガイド19bとによって挟持された状態となる。
【0015】・・・図5(A)に示すように、板ばね18の屈曲部付近が、傾斜状態の蒸散剤保持体20を発熱体25に向けて押圧している。蓋体15を閉じると、蒸散剤保持体20が発熱体25に押し付けられて、板ばね18は蓋体15を閉じる前より大きく弾性変形する。したがって、板ばね18が強い弾性力により蒸散剤保持体20をしっかりと支持する。蒸散剤保持体20は、水平方向に対して例えば10度?90度で傾斜した状態で支持される。
【0016】発熱体25は、発熱部25aと、発熱部25a上に設けられた面状の伝熱部25bとを備えている。電源が供給されて発熱部25aが発熱すると、その熱が伝熱部25bに伝わり、伝熱部25bが蒸散剤保持体20の裏面を面状に加熱する。すると、蒸散剤保持体20の表面の気体透過性フィルムを介して殺虫剤等の薬剤が蒸散され、蓋体15の蒸散開口16を介して外部に拡散される。そのとき、板ばね18が蒸散の邪魔にならない。板ばね18に、蒸散液が付着することもない。」

(1f)図5には,蓋体が器体前面に設けられた点が開示されている。

したがって,これらの記載によれば,刊行物1には次の発明(以下,「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
「発熱体を内蔵する器体と,前記器体前面に設けられ,蒸散開口を有する蓋体とを備え,蒸散剤保持体を蓋体に傾斜した状態で支持し該蒸散剤保持体を発熱体により加熱して薬剤を蒸散させるようにした加熱蒸散装置であって,
前記蒸散剤保持体は,薬剤を収容した容器の上方開口を気体透過性フィルムで覆い,容器の上方周縁にフランジ状の側縁部を設けた構成であり,蒸散時には蒸散剤保持体が発熱体に押し付けられており,
前記蓋体は,その蓋表面に上下方向にスリット状に延びる複数の蒸散開口が設けられている加熱蒸散装置。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された上記刊行物2には,図面とともに,以下の記載がある。
(2a)「蚊取り器本体1内に、マツトくん蒸用の発熱体4を設けたものにおいて、上記発熱体4上の透孔2eの上方に、発熱体4上面との間でマツト6を挿脱自在に挟持するマツト押え2fを設けると共に、操作部が上記蚊取り器本体1外へ突出し、かつこの操作部を操作することにより押出し杆7aの先端が発熱体4上へ突出して、発熱体4上のマツト6を押出すマツト押出し機構7を蚊取り器本体1内に設けてなる電気蚊取り器。」(実用新案登録請求の範囲)

(2b)「この考案は上記マツト押えを有する電気蚊取り器をさらに改良したもので、使用済マツトを発熱体とマツト押えの間より押出すマツト押出し機構を設けることによりマツトの交換を容易とした電気蚊取り器を提供することを目的とする。」(明細書2頁8?13行)

(2c)「・・・図において1は上部器体2と、該上部器体2の下面に嵌合された下部器体3とよりなる蚊取り器本体で、下部器体3は上面の開口する扁平な角箱状をなしており、内部中央に底部3aを膨出させて2条の互に離間する発熱体取付け部3bが形成されている。これら発熱体取付け部3bの頂部には長溝3cが形成されていて、これら長溝3cに発熱体4を取付けた金属板4aの両端が嵌入されていると共に、発熱体4には切欠3dより挿入されたコード5の先端が電気的に接続されている。・・・
一方上記上部器体2の上面は一側部のほぼ3分の1が上段2bに、また残りの部分のほぼ3分の2が中段2cに、またこれら中段2cの間にさらに低い下段2dが形成された3段形状となつており、下段2dの高段2b側端にマツト6よりやや大きな角形の透孔2eが開口されていると共に、下段2dの透孔2e側縁部と上記下部器体3の発熱体取付け部3bの間で発熱体4の金属板4aを挟着している。また透孔2eの上方には、可燃物などが発熱体4に接するのを防止するブリツジを兼ねた2本のマツト押え2fが高段2b側より互に平行するよう突出され、これらマツト押え2fの扇状部2gと発熱体4上面との間で発熱体4上に装填したマツト6を挟持できるようになつていると共に、高段2b内にはマツト押出し機構7が設けられている。マツト押出し機構7はほぼL字形の押出し杆7aを有しており、この押出し杆7aの先端側は上記マツト押え2fの間において、発熱体4の上面に沿つて出没できるように案内されていると共に、反対側は上段2bに形成された長孔2hより上段2b上方へ突出され、上端部に摘子7bが設けられて、この摘子7bをスライドさせることにより押出し杆7aの先端を発熱体4上へ出没できるようになつている。」(明細書2頁14行?4頁16行)

(2d)「この考案は以上詳述したようになるから、マツト6を装填する場合は、上部器体2の下段2dに沿つて透孔2e側ヘマツト6を押込み、マツト押え2fの扇状部2gと発熱体4の間でマツト6を挟持すればよく、蚊取り器本体lを逆にしてもマツト6が脱落することがないと共に、使用中誤つて蹴つたような場合でも発熱体4上よりマツト6がずれたり脱落することもない。またマツト6を新たなものと交換する場合は、マツト押出し機構7の押出し杆7aを発熱体4側へ押出せばよく、これによつて押出し杆7aの先端でマツト6が発熱体4上より押出されるので、使用済マツト6の除去が短時間で行なえると共に、その後新たなマツト6を発熱体4上へ装填すればよく、マツト押出し機構7のないものに比べてマツト6の交換が容易に行なえるようになる。」(明細書6頁9行?7頁5行)

したがって,これらの記載によれば,刊行物2には次の発明(以下,「刊行物2記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
「蚊取り器本体内にマツトくん蒸用の発熱体を設けたものにおいて,発熱体上面との間でマツトを挿脱自在に挟持するマツト押えを設けると共に,操作部が上記蚊取り器本体外へ突出し,かつこの操作部を操作することにより押出し杆の先端が発熱体上へ突出して,発熱体上のマツトを押出して使用済マツトの除去が短時間で行なえるマツト押出し機構を蚊取り器本体内に設けた電気蚊取り器。」

3-2.対比
本件補正発明と刊行物1記載の発明を対比する。
刊行物1記載の発明の「発熱体」は,本件補正発明の「発熱部」に相当し,以下同様に,「蒸散開口」が「気体通過孔」に,「薬剤」が「蒸散剤」に,「スリット状」が「細長形状」に,それぞれ相当する。
また,刊行物1記載の発明も,蒸散時には蒸散剤保持体が発熱体に押し付けられて保持されるものであり,その際,蒸散剤保持体の容器の底部が発熱体に接触するとともに,側縁部は発熱体に接触しないような状態となることは明らかである。

したがって,両者は,
「発熱部を内蔵した器体と,この器体前面に設けられ気体通過孔を有する蓋体とを備え,蒸散剤保持体を傾斜させた状態で支持し該蒸散剤保持体を前記発熱部により加熱して蒸散剤を蒸散させるようにした加熱蒸散装置であって,
前記蒸散剤保持体は,蒸散剤を収容した容器の上方開口を気体透過性フィルムで覆い,容器の上方周縁にフランジ状側縁部を設けた構成であり,蒸散時には前記発熱部が容器の底部に接触して,前記側縁部が前記発熱部から離隔しており,
前記蓋体は,その蓋表面に上下方向に細長形状に伸びる複数の気体通過孔が設けられている加熱蒸散装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本件補正発明は,蒸散剤保持体が器体と蓋体との間に支持されており,蒸散剤保持体を出し入れするために,器体には,蒸散剤保持体の上端に対して鉛直方向上方に開口する開口部と,蒸散剤保持体の側縁部で蒸散剤保持体を支持し,開口部から蒸散剤保持体の少なくとも一部を器体の外に押し出すための押出手段とを備えているのに対し,刊行物1記載の発明は,蒸散剤保持体が蓋体に支持されており,蓋体を開閉して蒸散剤保持体の出し入れを行うものであって,本件補正発明のような開口部及び押出手段を備えていない点。

<相違点2>
気体通過孔について,本件補正発明は,蓋表面に対する開口率が40%以上で,かつこれら気体通過孔のそれぞれの短手方向長さが5mm以下に構成され,さらに複数の気体通過孔はそれぞれの短手方向長さが蒸散剤保持体に近づくにつれて小さくなるように形成されているのに対し,刊行物1記載の発明は,気体通過孔の開口率,及び形状が不明である点。

3-3.判断
上記相違点について検討する。
<相違点1について>
刊行物2記載の発明は,下部器体に設けられた発熱体とマツト押えとの間にマツトを挟持し,当該マツトを押出して使用済マツトの除去が短時間で行なえるマツト押出し機構を蚊取り器本体に設けたものであり,刊行物2記載の発明のマツト押えを除いた蚊取り器本体が本件補正発明の器体に相当し,本件補正発明の蓋体と刊行物2記載の発明のマツト押えが蒸散剤保持体支持機能を有する部材として共通することを鑑みれば,本件補正発明の押出手段と刊行物2記載の発明のマツト押出し機構はいずれも,挟持された状態の蒸散剤保持体を押し出すことによって,蒸散剤保持体支持機能を有する部材を動かすことなく,蒸散剤保持体を取り外すことができる機構である点で両者は共通しており,また,刊行物2記載の発明も,マツト押出し機構を器体に設けているから,本件補正発明の押出手段を器体に設けた点と同一である。
一方,刊行物1記載の発明は,蒸散剤保持体の側縁部がリブストッパーで支持されているから(【2】3-1(1e)参照),刊行物1には「蒸散剤保持体の側縁部で蒸散剤保持体を支持し」た点が開示されているといえる。
したがって,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用して,蒸散剤保持体を器体と蓋体との間に支持し,器体に,蒸散剤保持体の側縁部で蒸散剤保持体を支持し,蒸散剤保持体の少なくとも一部を器体の外に押し出すための押出手段を備えるようにすることは,当業者が容易になし得たことである。そして,刊行物2記載の発明は,マツトを除去する際のマツト押出し機構進行方向へマツトが移動し,マツト押えの先端部分と上部器体との隙間から除去されるものであるから,上記のように刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用した際,蒸散剤保持体の出し入れをする開口部を器体に設け,該開口部の位置を蒸散剤保持体の出没方向,すなわち蒸散剤保持体の上端に対して鉛直方向上方とすることは,当業者が適宜なし得た事項である。

<相違点2について>
気体通過孔について数値限定について検討するために,本願の発明の詳細な説明をみると,段落【0039】には「複数の気体通過孔13は開口率が40%以上になるように構成することで、蒸散させた蒸散剤が気体通過孔13の隙間に付着して残留する状態、ひいては空気の流れが悪くなるなど、付着により蒸散性が低下する現象を防止することができる。・・・これら気体通過孔13のそれぞれの短手方向長さが5mm以下(本実施形態においては2.5mm)になるように構成されている。このため、使用者や幼児の手指が気体通過孔13を介して発熱部25や蒸散剤保持体に接触してしまうことを防止することができる。従って、蒸散剤の蒸散効率を良好に維持することが可能でかつ使い勝手のよい加熱蒸散装置を提供することができる。」と記載されており,開口率を40%以上とすることで蒸散剤が気体通過孔に残留して空気の流れが悪くなる現象を防止すること,短手方向長さを5mm以下とすることで,使用者や幼児の手指が気体通過孔を介して発熱部や蒸散剤保持体に接触してしまうことを防止することが説明されている。
一方,気体通過孔の開口率が低すぎれば薬剤が十分に蒸散せず,気体通過孔周辺に薬剤が付着して薬剤が残留する現象が起こることは,当業者にとって自明の課題であり,また,当該40%という数値の臨界的意義については,発明の詳細な説明で何ら記載されていないため,不明である。
さらに,そもそも蓋体を設ける目的は,本願明細書の段落【0003】にも説明されているように,使用者や幼児の手指が加熱した発熱部や蒸散剤保持体に不測に接触することを防止することであり,このような目的を鑑みれば,使用者や幼児の手指が気体通過孔を介して発熱部や蒸散剤保持体に接触することを防止する大きさとすることは,当業者であれば当然のことであり,当該蓋体を設ける目的,及び薬剤が十分蒸散する目的を勘案して,開口率や気体通過孔の大きさを適宜な範囲とすることは,当業者が容易に想到し得たことに過ぎず,具体的に,開口率を40%以上,気体通過孔のそれぞれの短手方向長さを5mm以下に構成することは,当業者が容易になし得たことである。
一方,本件補正発明の「気体通過孔はそれぞれの短手方向長さが蒸散剤保持体に近づくにつれて小さくなるように形成」した点について,本願の発明の詳細な説明を参酌してもその技術的意義については何ら記載されておらず,また,本願明細書の段落【0030】に「なお、蓋体12の柱部12cは、断面が三角形状になる構成に限られない。例えば、断面が台形などの形状になるよう構成されていてもよい。」と記載されていることから,気体通過孔の断面形状はどのような形状でもよく,これを「短手方向長さが蒸散剤保持体に近づくにつれて小さくなるように形成」することは,設計的事項にすぎない。
してみると,相違点2にかかる事項は,刊行物1記載の発明に基づいて,当業者が容易になし得たことに過ぎない。

そして,本件補正発明の効果は,刊行物1及び2記載の発明から予測することができる程度のことである。

よって,本件補正発明は,刊行物1及び2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.補正の却下の決定のむすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また,仮に,本件補正が出願人の主張通り誤記を含むものであると認めたとしても,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,[補正の却下の決定の結論]のとおり,決定する。

【3】本願発明
1.平成21年9月30日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成20年12月22日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり,「【2】1.」に記載されたとおりのものと認める。

2.本願発明と刊行物記載の発明との対比・判断
2-1.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物,および,その記載事項は,前記「【2】3.3-1.」に記載した通りである。

2-2.対比・判断
本願発明は,前記【2】で検討した本件補正発明の蒸散保持体について,「傾斜させた状態で支持し」た点,器体に設けた開口部について,「蒸散剤保持体の上端に対して鉛直方向上方に開口する」とした点,気体通過孔について,「蓋表面に上下方向に細長形状に伸びる複数の気体通過孔が設けられており、この複数の気体通過孔の蓋表面に対する開口率は40%以上で、かつこれら気体通過孔のそれぞれの短手方向長さが5mm以下に構成され、さらに前記複数の気体通過孔はそれぞれの前記短手方向長さが前記蒸散剤保持体に近づくにつれて大きくなるように形成され」た点を省いたものである。
そうすると,本願発明を含む本件補正発明が,前記「【2】3.3-3.」に記載したとおり,刊行物1及び2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物1及び2記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたのものである。

3.むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1及び2記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-25 
結審通知日 2010-10-26 
審決日 2010-11-08 
出願番号 特願2003-366607(P2003-366607)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (A01M)
P 1 8・ 121- Z (A01M)
P 1 8・ 575- Z (A01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 三成伊藤 昌哉  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 宮崎 恭
草野 顕子
発明の名称 加熱蒸散装置  
代理人 深井 敏和  

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