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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  E04H
管理番号 1229674
審判番号 無効2010-800089  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-05-12 
確定日 2011-01-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第4005604号発明「横行昇降式立体駐車装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第4005604号に係る発明に係る出願についての手続の経緯は以下の通りである。
平成17年 2月18日:特許出願
平成19年 8月31日:特許権の設定登録(特許第4005604号)
平成22年 5月12日:本件無効審判の請求(無効2010-800089号)
平成22年 7月29日:被請求人より審判事件答弁書提出
平成22年10月22日:請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成22年10月26日:被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成22年11月 9日:口頭審理(審理終結)


第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲に係る発明のうち,本件無効審判が請求された請求項6に係る発明(以下,「本件特許発明」という。)は,特許明細書の特許請求の範囲の請求項6に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項6】
パレットをm列(mは2以上の整数)、地上に1段及び地下にn段(nは2以上の整数)配置し、パレットを地上1段と地下n-1段までの段にはm-1個及び地下n段にはm個配置した横行昇降式立体駐車装置において、地下のパレットの内、地下最下段以外のパレットは横行車輪を、地下1段以外のパレットは他段のパレットの横行車輪用のレールを夫々備え、地上1段のパレットは、ピットの開口フレームに設けたレール上を自走する横行車輪を備え、地下最下段のパレットは各列の昇降用パレットであることを特徴とする横行昇降式立体駐車装置。」


第3 当事者の主張の概要
1.請求人の主張
請求人は,本件特許発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,証拠方法として甲第1号証乃至甲第3号証を提出して,次の無効理由を主張している。

1-1.無効理由
本件特許発明は,甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づいて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,この特許は特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

(1)具体的理由
本件特許発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると,以下の点で相違する。
<相違点>
本件特許発明は,地下のパレットの内,地下1段以外のパレットは他段のパレットの横行車輪用のレールを夫々備えているのに対し,甲第1号証に記載された発明は,地下1段以外のパレットがこのようなレールを備えておらず,駐車場の長手側の隔壁に横行ガーダが設置されている点。

一方,上記相違点についての主張は以下のとおりである。
甲第2号証及び甲第3号証には,支柱や梁・桁構造及び,その上に設けたレールと車輪を有する横行できるようなパレットが記載されている。
甲第1号証に記載された発明のパレットに甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明のパレットを適用することは,容易である。
甲第1号証に記載された発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明を適用すれば,本件特許発明のように,複数列で横移動できることは当然である。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平6-146631号公報
甲第2号証:実願昭48-79034号
(実開昭50-25270号)のマイクロフィルム
甲第3号証:実願昭50-55186号
(実開昭51-136278号)のマイクロフィルム

2.被請求人の主張
被請求人は,本件無効審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め,その理由として次のように主張している。

2-1.無効理由に対して
本件特許発明は,甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づいて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法第29条第2項の規定に該当するものではない。

(1)具体的理由
本件特許発明と甲第1号証に記載された発明との上記相違点は認める。

一方,上記相違点についての主張に対する反論は以下のとおりである。
甲第1号証に記載された発明と甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明の駐車システムの構成は異なっており,甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明のパレットの構成のみを取り出して甲第1号証に記載された発明の特定の段に適用することの根拠は示されておらず,本件特許発明に基づく後知恵である。


第4 無効理由についての判断
1.証拠方法に記載された事項
(1)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】n層m列の地下式立体格納庫であって、昇降装置で昇降自在なm台の昇降型格納パレットを各列の最下層に各列毎に設置し、横行装置で隣接列に移動自在なm-1台の横行型格納パレットを最上層から最下層より1層上までの各層にそれぞれ設置し、前記昇降型格納パレットには、その列の上層に位置する横行型格納パレットの底面に当接して該横行型格納パレットを昇降させる押上げポストが立設されており、最上層を入出庫層兼用としたことを特徴とする地下式立体格納庫。」

(1b)「【0005】本発明はかかる事情に鑑み、同一容積でより多くの自動車や物品を格納でき、しかもそれらの入出庫操作を円滑に行ないうる地下式立体格納庫および入出庫法を提供することを目的とする。」

(1c)「【0011】まず、本実施例の立体駐車場の基本構成を説明すると、これは最上層を入出庫層とし、それより下層を地下に入れて格納層とした地下式立体駐車場である。図1は本発明の一実施例に係る5層5列の駐車場の隔壁1を断面して示す正面図、図2は図1の駐車場の隔壁1を断面して示す側面図である。最上層1Fは入出庫層を兼ねており、図1に示す全幅のどこからでも自動車の入出庫が可能である。格納層2F?5Fが地下に設けられており、地下4階が最下層5Fである。
【0012】各列の最下層5Fには昇降型駐車パレット(以下、昇降パレットPAという)が、各列に1台ずつ配置されており、最下層5Fを除く各格納層は1F?4Fには横行型駐車パレット(以下、横行パレットPBという)が全列数より1台少ない4台ずつ配置されている。
【0013】図3は前記駐車場の一部平面図で、A部分は図1、2のIII A線矢視図を、B部分は図1、2のIII B線矢視図を示している。。駐車場の長手側の隔壁1には、各列間隔で縦方向に延びる昇降ガイド2が設置されており、中間層2F?4Fには水平方向に延びる横行ガーダ3が設置されている。前記昇降ガイド2は昇降パレットPAの昇降動作の案内用であり、前記横行ガーダ3は横行パレットPBの横行動作の支持部材である。
【0014】前記昇降パレットPAは図4に示すように、自動車を積載するベースフレーム4の4隅にガイドローラ5と昇降用シーブ6が軸着されており、ベースフレーム4の上面に4本の押上げポスト7が立設され、さらにベースフレームの下面に少なくとも1個のロックシリンダ8が取付けられている。ガイドローラ5は図5に併せ示すように、昇降ガイド2の両側端に接して転動し、昇降パレットPAの昇降動作をガイドする。パレット片側の2個の昇降用シーブ6には、ワイヤロープやチェーン等の索条体(以下、ロープ9という)が順に掛け廻れされ、さらにロープ9は最上層に軸着されたガイドシーブ10で案内されて、一端が減速機付モータ11に連結された巻取ドラム12に巻掛けられ、他端がアンカー13に固定されている。なお、上記巻上機構には適当なカウンタウエイト14を付設し、巻上動力を軽減するのが好ましい。前記ローラ9の掛回し経路を全体的に見ると図1に示すとおりであり、巻取ドラム12から繰出されているロープ9が、最下層まで下って昇降パレットPAの両側の昇降シーブ6、6に巻き掛けられ、再度上昇して最上層1Fのガイドシーブ10へ、再び下って隣接列の昇降パレットPAの昇降シーブ6、6へ巻き掛けられ、再び隣接するガイドシーブ10へと順に繰返し、最末端は最上層1Fに設けられたアンカー13に固定されているのである。
・・・
【0016】前記押上げポスト7は図4に示すように、最上端で横桁15により連結され、横行パレット押上げ時の荷重を安定して支えるようになっている。
【0017】前記横行パレットPBは、図6に示すように、自動車を積載しうるパレット本体16とその両側壁に軸着された車輪17と、車輪17を駆動する原動機18とから構成されている。車輪17はパレット本体16の4隅において、各隅で2個ずつ設けられ、前記昇降ガイド2と横行ガーダ3の交差個所の切欠き部19に落ち込まないで、走行できるようになっている。したがって、この横行パレットPBは図1に矢印a、bで示す方向に移動することができる。また、図7に示すように、昇降パレットPAを上昇させると(矢印U)、押上げポスト7で、その上方に位置している横行パレットPBを下から支えて、上昇させることができる。
【0018】なお、最上層1Fの横行パレットPBは図7に示すようなレール20上を走行するため全長がやや長くなっているが、実質的構成は中間層1F?4Fに配備の横行パレットPBと同様である。」

(1d)「【0021】(3) 中間層の横行パレットPBの自動車を入出庫させるケース
図9(A) に示す符号(マル)3の自動車を出庫させる場合、その上方に数台の横行パレットPBが位置しているので、そのままでは出庫できない。そこで同図(B) に示すように横行パレットPBを空きスペースのある矢印a方向へ移動させて昇降空間を作る。この場合、最初から上方空間があいておれば、横行パレットPBを移動させる必要のないこと勿論である。次に同図(C) に示すように、最下層の昇降パレットPAを上昇させる。このとき押上げポスト7で自動車を積載している横行パレットPBを下方から支えて押し上げることができる。図示のごとく横行パレットPBが最上層に達すると、自動車を出庫させればよい。自動車を入庫させる場合は上記と逆順に操作すればよい。」

(1e)「【0023】つぎに本発明の他の実施例を説明する。前記実施例は5層5列であったが、地下格納層の層数は任意であり、4階以下であっても6階以上であってもよい。また各層は5列に区画されているが、4列以下であっても6列以上であってもよい。また、前記実施例の横行パレットはパレット自体に車輪を設けたものであったが、床面上に連続して車輪を設けてパレットを搬送する構成としてもよい。」

(1f)図1には,最上層1層が地上に配置された点が開示されている。

(1g)図7には,地下駐車場の開口部分の内側に張り出した構造物にレールが設けられた点が開示されている。

これらの記載によれば、甲第1号証には次の発明が記載されていると認められる。
「n層m列の地下式立体駐車場であって,
n層のうち,最上層1層が地上に配置されており,
横行装置で隣接列に移動自在なm-1台の横行型格納パレットを最上層から最下層より1層上までの各層にそれぞれ設置し,駐車場の長手側の隔壁に各列間隔で縦方向に設けられた昇降ガイドに案内されて昇降装置で昇降自在なm台の昇降型格納パレットを各列の最下層に各列毎に設置し,
前記昇降型格納パレットには,その列の上層に位置する横行型格納パレットの底面に当接して該横行型格納パレットを昇降させる押上げポストが立設されており,最上層を入出庫層兼用とし,
最上層から最下層より1層上までの各層にそれぞれ設置された横行型格納パレットは車輪を備え,
駐車場の長手側の隔壁の中間層には,横行型格納パレットの横行動作の支持部材である水平方向に延びる横行ガーダが設置され,
最上層1層の横行型格納パレットが走行するレールが,駐車場の開口部分の内側に張り出した構造物に設けられた,
地下式立体駐車場。」
(以下,「甲1発明」という。)

(2)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。
(2a)「上昇列と下降列とに配列されて最上段部分と最下段部分とで横移動されるよう循環する複数個のトレイをそれぞれそれらの上面と下面とが接合して重積されるように設け、前記各トレイの上面と下面とに横移動方向に沿わせたレールとこのレールに噛み合うローラとをそれぞれ設けたことを特徴とする駐車装置。」(実用新案登録請求の範囲)

(2b)「この考案は、・・・上昇列最下段部分のトレイを上昇列最上段部分に上昇させ、つづいて、その部分から下降列最上段部分にスライドさせ、つづいて、その部分から下降列最下段部分に下降させ、さらにつづいて、その部分から上昇列最下段部にスライドさせ、このように、各トレイを順次循環させることにより自動車の先入先出しが行われるようにし、各トレイをそれらの上面と下面とが接合して重積状態で設けることにより上方に対するデツドスペースを少なくし、上昇列最上段部分に位置するトレイが、そのトレイの下面に設けられたローラもしくはレールと、上昇列および下降列の上方から二段めに位置するトレイの上面に設けられたレールもしくはローラとの噛み合いにより一定の軌跡をもつてスライドしうるようにし、これにより、各トレイの昇降および横移動動作の範囲を少なくして装置全体を小型化しうるよう構成したものである。」(明細書3頁8行?4頁11行)

(2c)「(1)はアングル材等により枠組みされた本体で、この本体(1)は、左側の上昇列および右側の下降列にそれぞれ三つづつトレイ格納室(A)(B)(C)(D)(E)(F)を備えている。・・・
ついで、前記トレイ格納室(A)(F)の下方には架台(4)(5)が昇降自在に設けられている。これらの架台(4)(5)は枠状に形成されたもので、その前方および後方には後述する各トレイの下面に設けられたローラに噛合うレール(6)が横方向に二本設けられている。このような架台(4)(5)は、前記本体(1)の上方に設けられた駆動機構(7)(8)が駆動することにより上下動するワイヤロープ(9)に四隅が吊り下げられている。
しかして、前記トレイ格納室(A)(B)(C)(D)(E)には個々に自動車(10)を載置するトレイ(11)が格納されている。これらのトレイ(11)はアングル材により枠組みされたもので、下面には前記自動車(10)を載置する載置板(12)を備えている。また、各トレイ(11)の上面(13)には断面逆V字形のレール(14)が横方向に二本平行に固着され、下面(15)には、各トレイ(11)を積み重ねたとき前記レール(14)に噛み合う断面V字形のローラ(16)が前後に四個づつ設けられている。・・・」(明細書4頁13行?5頁17行)

(2d)「このような構成において、トレイ格納室(E)に格納されたトレイ(11)上の自動車(10)を出庫させる場合には、・・・架台(5)を上昇させ、トレイ格納室(E)に位置するトレイ(11)に接合させる。・・・そして、ふたたび架台(5)を下降させると、トレイ格納室(E)内のトレイ(11)とこのトレイ(11)の下面(15)に接合して保持されているトレイ格納室(D)内のトレイ(11)とはともに下降する。・・・これにより、トレイ格納室(D)内のトレイ(11)はトレイ格納室(E)に移動し、トレイ格納室(E)内のトレイ(11)のみが地上つまりトレイ格納室(F)に移動しトレイ格納室(D)は空室となる。ここにおいて、トレイ格納室(F)に移動したトレイ(11)上の自動車(10)を運転することにより、その自動車(10)は出庫される。つづいて、新たに自動車(10)を入庫する場合には、・・・トレイ格納室(C)内のトレイ(11)は、その下面(15)に設けられたローラ(16)が、トレイ格納室(B)内のトレイ(11)の上面(13)に設けられたレール(14)とトレイ格納室(E)に移動したトレイ(11)の上面(13)に設けられたレール(14)との上を転がりトレイ格納室(D)に移動する。つまり、トレイ格納室(C)は空室となる。つづいて、架台(4)を上昇させるとトレイ格納室(A)内のトレイ(11)は保持機構(3)の保持状態を開除させつつトレイ格納室(B)内のトレイ(11)を押し上げる。・・・トレイ格納室(A)は空室となる。そして、・・・架台(4)のみが下降する。つづいて、・・・あらかじめトレイ格納室(F)に移動しかつ空になつたトレイ(11)は、・・・トレイ格納室(A)に移動する。ここにおいて、トレイ格納室(A)内のトレイ(11)に自動車(10)は入庫される。・・・」(明細書6頁19行?9頁4行)

これらの記載によれば、甲第2号証には次の発明が記載されていると認められる。
「上昇列と下降列とに配列されて最上段部分と最下段部分とで横移動されるよう循環する複数個のトレイをそれぞれそれらの上面と下面とが接合して重積されるように設け,前記各トレイの上面と下面とに横移動方向に沿わせたレールとこのレールに噛み合うローラとをそれぞれ設けた駐車装置。」(以下,「甲2発明」という。)

(3)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。
(3a)「自動車1台を収容できる内容積をもつケージの複数個を縦2列に複数段に積上げて配置した一方の列の最上段と他方の列の最下段とを空室とし,一方の列のケージを上昇させると同時に必ず他方の列のケージを下降させる巻上装置と,最上段と最下段のケージをそれぞれの隣りの空室に同時に横送りする横送り装置とを設け,上記巻上と横送りを反復することにより任意のケージの自動車を最上段または最下段のケージ正面を出入口として出入させることを特徴とする循環式駐車装置。」(実用新案登録請求の範囲)

(3b)「・・・1は車庫本体で,それぞれの荷重に対して充分の強度を有する鉄骨構造とし,・・・2はケージで,実施例ではC1からC6までの番号をもつ6個を2列,4段に積上げて配置するとともに,左列最上段には上部空室13を,右列最下段には下部空室14が設けられる。各ケージは自動車1台を収容できる内容積をもつように構造される。3は巻上用原動機,4は巻上用チエン車,5は巻上用そらせ車,6は巻上用チエンである。7および18は巻上用吊り具,8は上部横送り装置,9は下部横送り装置,10および19はストッパ,11は横送り用ガイドレール,12は横送り用ローラである。・・・」(明細書3頁11行?4頁5行)

(3c)「C2の押ボタンが押されたことと,ケージC2が現在左列にあることとにより,電気回路はケージの反時計方向循環を指令し,まず上部横送り置8でケージC4を左方向に横送り駆動すると同時に下部横送り装置9でケージC1を右方向に横送り駆動して定位置で停止する。各ケ一ジの上梁および地上には横送り用ガイドレール11が設けてあり,また各ケージの底面には横送り用ローラが取付けてあり,これらのレール11,ローラ12によってケージは横方向に移動する。
・・・横送り駆動が終了して巻上装置が始動すると,左吊り具18が上昇し,それと同時に右吊り具7が下降をはじめる。左吊り具18が上昇することにより左吊り具18がケージC2の上梁に吊り具掛金が掛り,ケージC3,C4ともにある一定距離上昇して停止する。と同時に左列ストッパ10は,・・・上方に移動し,つぎにケージが下降するときの妨害にならない位置で停止する。・・・
ストッパ10が外れたことの確認信号を受けて巻上装置は逆転をはじめ,吊り具18は下降し,吊り具7は上昇をはじめる。吊り具7はまずケージC1・・・の上梁に掛り,ケージC1の上面とケージC6の下面が接触した時点から3個のケージC1,C6,C5を同時に持ち上げる。・・・
右列の吊り具7の場合は,ケージC6,C5が一定距離上昇するとストッパ19は,前述のようにケージ1の通過の妨害にならないように移動し,吊り具7が上限に到達して停止したとき原点に復帰してケージの下降を待つ。吊り具18はケージC3,C4をストッパ10に預け,ケージC2だけを地上のガイドレール上に置くが,なお吊り具7が上限に達するまで下降する。それぞれが上限,下限に達した時点で巻上装置は,一たん,停止し再び逆転してケージC1,C6,C5をストッパ19上に完全に預けるまで吊り具7は下降し,そして停止するが,この状態では吊り具18がケージC2のじゃまになってケージC2からの自動車の出入庫はできないので,再び横送り装置が始動し,ケージC2は空室14へ,ケージC5は空室13へ移動する。これにより,ケージC2の自動車の出入庫が可能となる。」(明細書5頁13行?8頁11行)

これらの記載によれば、甲第3号証には次の発明が記載されていると認められる。
「自動車1台を収容できる内容積をもつケージの複数個を縦2列に複数段に積上げて配置した一方の列の最上段と他方の列の最下段とを空室とし,一方の列のケージを上昇させると同時に必ず他方の列のケージを下降させる巻上装置と,各ケ一ジの上梁および地上に設けた横送り用ガイドレールと各ケージの底面に設けた横送り用ローラによって最上段と最下段のケージをそれぞれの隣りの空室に同時に横送りする横送り装置とを設け,上記巻上と横送りを反復することにより任意のケージの自動車を最上段または最下段のケージ正面を出入口として出入させる循環式駐車装置。」(以下,「甲3発明」という。)

2.対比・判断
本件特許発明と甲1発明を対比すると,甲1発明の「層」が,本件特許発明の「段」に相当し,以下,「車輪」が「横行車輪」に,「駐車場」が「ピット」に,「開口部分の内側に張り出した構造物」が「開口フレーム」に,「昇降型格納パレット」が「昇降用パレット」に,それぞれ相当する。
甲1発明の地下式立体駐車場も,パレットが横行及び昇降移動するものであるので,甲1発明の「地下式立体駐車場」が,本件特許発明の「横行昇降式立体駐車装置」に相当する。
また,甲1発明は,m=1であれば,最上層から最下層より1層上までの各層のパレット数がm-1=1-1=0台となってしまい,地下式立体駐車場として成立しないので,mが2以上の整数であることは明らかである。さらに,地下格納層の層数についても,上記記載事項(1e)に,5層だけでなく,4階以下でも6階以上であってもよい旨の記載があり,nが2以上の整数である点で本件特許発明と一致している。

したがって、両者は、
「パレットをm列(mは2以上の整数),地上に1段及び地下にn段(nは2以上の整数)配置し,パレットを地上1段と地下n-1段までの段にはm-1個及び地下n段にはm個配置した横行昇降式立体駐車装置において,地下のパレットの内,地下最下段以外のパレットは横行車輪を備え,地上1段のパレットは,ピットの開口フレームに設けたレール上を自走する横行車輪を備,地下最下段のパレットは各列の昇降用パレットである横行昇降式立体駐車装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
本件特許発明は,地下のパレットの内,地下1段以外のパレットは他段のパレットの横行車輪用のレールを夫々備えているのに対し,甲1発明は,地下1段以外のパレットがこのようなレールを備えておらず,駐車場の長手側の隔壁に横行ガーダが設置されている点。

相違点について検討する。
本件特許発明のパレットは,パレット毎に独立した自走する横行車輪と上段の横行車輪用のレールを備える構造となっており,パレットが横行するためには,横行するパレットの出発位置から移動先位置にかけて,その下段に,パレットの移動軌跡となるレールが必要であり,そのために,横行するパレットの出発位置から移動先位置への軌跡の下段にパレットが存在しなければ,別の段からパレットを昇降移動し,配置する必要がある(図2に示された実施例であれば,C11がそれである。)。
一方,甲1発明の横行パレットは,本件特許発明と同様,自走する車輪がパレット毎に設けられているものの,パレットを支え,横行動作を支持する部材として横行ガーダが設けられた構造となっている。このような構造によって,例えば図9(A)に示されたように,出庫させる自動車が搭載されているパレット以外の横行パレットは隣の列に移動させて昇降空間を作り,最下層の昇降パレットの昇降動作により,押上げポストを介して,出庫させる自動車が搭載されているパレットを地上部分まで上昇させて,自動車を出庫させるというパレットの移動方法をとることになる。すなわち,移動させるパレットの下段のパレットの位置に拘束されず,移動先が空いていれば自由にパレットを横行させて,出庫させる自動車が搭載されているパレットの昇降空間を作ることが前提となっている技術であるといえる。
したがって,本件特許発明と甲1発明とでは,パレットの構造のみならず,駐車装置の原理そのものが異なるものである。

一方,甲2発明及び甲3発明は,循環式の駐車装置であって,個々のトレイまたはケージ(本件特許発明のパレットに相当。)の上面にレールを,下面に下段のパレットのレールに噛み合うローラを,それぞれ設けた点が開示されており,このような甲2発明及び甲3発明の個々のパレットの構造と,本件特許発明の個々のパレットの構造は同様のものであると言える。しかし,駐車装置全体としてみた場合,甲2発明及び甲3発明は、循環式の駐車装置であり,実際には2列しかなく,横行するのは最上段と最下段のみであって,本件特許発明の2以上の列(2列も含むが,それ以上の列も含む)間で,かつ中段部分も自由に横行する本件特許発明とは異なる技術であると言える。
そして,上記したように,本件特許発明と甲1発明とでは,駐車装置の原理そのものが全く異なるものであって,甲1発明の横行ガーダは,駐車装置の原理の根幹をなし,横行ガーダを備えることによって,上記の動きによって出庫させる自動車が搭載されているパレットを地上部分まで上昇させるものである。仮に,この甲1発明のパレットとして甲2発明及び甲3発明のパレットを採用すると,甲1発明の動き自体,即ち駐車装置自体が異なるものとなってしまうから,甲1発明のパレットとして甲2発明及び甲3発明のパレットを採用することは,当業者が容易に想到することではない。
したがって,甲1発明と甲2発明及び甲3発明は,その機能作用上の基本的な相違が存在し,甲1発明の横行ガーダ,特に地下1段以外のパレットに対応する部分の横行ガーダの代わりに,甲2発明及び甲3発明における個々のパレットのレール構造を適用することによって甲1発明自体の特徴を損なってしまうこととなるから,例え甲1発明乃至甲3発明が駐車装置という同一の技術分野に属するとしても,甲1発明に対して甲2発明及び甲3発明を採用することには動機付けが存在せず,甲1発明乃至甲3発明を組み合わせて本件特許発明とすることは,当業者が容易に想到し得るものではない。

そして,本件特許発明はこのような構成を採用したことにより,甲1発明のように横行ガーダの設置スペースが不要となり,その分ピットが小さくできるという効果を奏することができ(本件特許明細書の段落【0010】参照。),本件特許発明の本来の目的である地下の設置スペースを小さくすること(本件特許明細書の段落【0006】参照。)を達成できるものである。

したがって,本件特許発明の相違点にかかる事項は,甲1発明乃至甲3発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。


第5 むすび
以上のとおり,請求人の主張する理由及び証拠方法によっては,本件特許発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2010-11-19 
出願番号 特願2005-41709(P2005-41709)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (E04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江成 克己  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 宮崎 恭
草野 顕子
登録日 2007-08-31 
登録番号 特許第4005604号(P4005604)
発明の名称 横行昇降式立体駐車装置  
代理人 町田 能章  
代理人 岡林 義弘  
代理人 八幡 義博  
代理人 磯野 道造  

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