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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R
管理番号 1231863
審判番号 不服2008-16479  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-30 
確定日 2011-02-09 
事件の表示 特願2004-504349号「電気ケーブルのストレインリリーフ及びクロージャー」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月20日国際公開、WO03/96487号、平成17年11月10日国内公表、特表2005-534141号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、2003年4月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年5月10日、2003年4月17日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年3月28日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年4月1日)、これに対し、同年6月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成20年7月29日付けで手続補正がなされたものである。

第2.平成20年7月29日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年7月29日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前に「少なくとも1つの電気伝導体と電気伝導編組とを有する電気伝導ケーブルと、リア部、平坦な外面を少なくとも1つ有するフロント部、及び前記リア部と前記フロント部との間に位置する窪み部を具備する、前記ケーブル上に設けられたストレインリリーフと、前記電気伝導編組の上に配置され、該編組の素線の広がりを防止する電気伝導テープとを備え、前記電気伝導編組は折り返されて前記フロント部を覆い、かつ前記窪み部の中に入り込んでいることを特徴とする電気伝導組立体。」とあったものを、「少なくとも1つの電気伝導体と電気伝導編組とを有する電気伝導ケーブルと、リア部、平坦な外面を少なくとも1つ有するフロント部、及び前記リア部と前記フロント部との間に位置する窪み部を具備する、前記ケーブル上に設けられたストレインリリーフと、前記電気伝導編組の上に配置され、該編組の素線の広がりを防止する電気伝導テープとを備え、前記ストレインリリーフは、その全長に亘って延びる間隙が一側面に形成されたスリップオンストレインリリーフであり、前記ストレインリリーフは、該ストレインリリーフの内側部位に配置された少なくとも1つの歯を備えており、前記電気伝導編組は折り返されて前記フロント部を覆い、かつ前記窪み部の中に入り込んでいることを特徴とする電気伝導組立体。」(下線は当審にて付与。以下同様。)と補正することを含むものである。

上記補正について検討する。
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、ストレインリリーフについて、「ストレインリリーフは、その全長に亘って延びる間隙が一側面に形成されたスリップオンストレインリリーフであり、ストレインリリーフは、該ストレインリリーフの内側部位に配置された少なくとも1つの歯を備えており」と限定するものであり、かつ、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野および解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて検討する。

2.刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である米国特許第4272148号明細書(以下「刊行物」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
a)「FIG. 1 shows a perspective view of a shielded connector housing 10 comprising mating upper and lower shells 12 and 14. Housing 10 has an opening 16 in one end for an electrical cable and a retaining lip 18 in another end for a connector.(図1は、かみ合う上側シェル12と下側シェル14とからなる磁気遮蔽コネクターハウジング10の透視図である。ハウジング10は、一端に電気ケーブル用の開口16を有し、他端にコネクターのための保持縁18を有する。当審訳。以下同様。)」(第2欄第23行?同第27行)

b)「FIG. 2 shows a partially cut away top view of housing 10 with a cable 20 entering the housing through opening 16 and a connector 22 held by retaining lip 18. Cable 20 has a number of individually insulated conductors 24 which are connected to connector pins 26 in connector 20. A ferrule 17 surrounds cable 20 in opening 16, securely clamping the cable and providing strain relief and a means of connection to a shielding braid 21 inside the cable, as will be described in further detail below. Screws 28, retained in holes provided in housing 10, are used to mount connector 22 to a mating receptacle or connector (not shown).(図2は、開口16からハウジングに入り込んでいるケーブル20と、保持縁18に保持されたコネクター22を備えたハウジング10を部分的に切り取った平面図を示す。ケーブル20は、コネクター22内でコネクターピン26に結合される、個々に絶縁されている複数の導線24を有する。フェルール17は、開口16においてケーブル20を囲み、確実にケーブル20をクランプし、緊張を除去し、ケーブル内のシールド網組み線21との結合手段として提供されるが、詳細は以下に述べる。ハウジング10に備えられた孔に保持されたねじ28は、コネクター22を対応するソケットまたはコネクター(図示されていない)に取り付けるために使われる。)」(第2欄第28行?同第39行)

c)「The upper and lower shells of the preferred embodiment are identical, therefore only one of the shells will be described in detail. FIG. 3 shows the inside of shell 12, and FIGS. 4, 5 and 6 shows various sectional views of shell 12 as indicated in FIG. 3. Shell 12 has longitudinal semicylindrical slots 30 along either side which form one half of the holes for retaining screws 28. Retaining lip 18 has a groove 32 for engaging a flange on connector 22 to retain the connector as well as to provide an electrical seal against leakage of electromagnetic radiation.(好適な実施例では、上側と下側シェルは同一であるので、一方のシェルについてのみ詳述する。図3は、シェル12の内側を示し、図4、5および6は、図3に示されるシェルのいくつかの断面図を示している。シェル12は、ねじ28のための穴の2分の1を形成する、いずれかの側面に沿う縦の半円筒形のスロット30を有する。保持縁18は、電磁放射の漏れに対する電気的なシールを提供するとともに、コネクターを保持するためにコネクターのフランジにかみ合う溝32を有する。)」(第2欄第40行?同第50行)

d)「A seal against electromagnetic radiation is also provided by rib 34 and groove 36 along the sides of shell 12. The rib and groove mate with a matching groove and rib on shell 14 when the two parts are mated together to form housing 10. A curved recess 38 in one end of shell 12 forms one half of opening 16 and has ridges 40 and 42 for engaging ferrule 17.(電磁放射の漏れに対するシールは、シェル12側面に沿うリブ34と溝36によって提供される。該リブと溝は、ハウジング10を形成するために、シェル12とシェル14とが嵌合するとき、2つで一組の片方のシェル14の対をなす溝とリブとかみ合う。シェル12一端部内にある曲がった凹部38は、開口16の2分の1を形成し、フェルール17にかみ合う隆起40、42を有する。)」(第2欄第51行?同第57行)

e)「A side view of ferrule 17 is shown in FIG. 7 and an end view, in FIG. 8. There is a hole 44 through ferrule 17 which is approximately the same diameter as the outside diameter of cable 20. The outer surface of ferrule 17 has a recess 46 for mating with ridge 40 in opening 16 and a boss 48 on an end 49 abutting one end of shell 12. Longitudinal slots 50 are also cut in the same end of ferrule 17.(フェルール17の側面図が図7に示され、端面図が図8に示されている。フェルール17を貫通した孔44があり、孔44の径はケーブル20の外径とほぼ同じである。フェルール17の外表面は、隆起40と適合する凹所46と、シェル12の一端に隣接するボス48を一端部上に有する。フェルール17の同じ一端部に、縦方向にスロット50が切り欠かれている。)」(第2欄第58行?同第65行)

f)「To assemble the cable and connector in housing 10, ferrule 17 is slipped over cable 20 and a portion of each of the insulated conductors 24 is exposed to permit connection to connector 22. Also, a portion of shield 21, which is typically braided wire, is exposed, unbraided and folded back over ferrule 17 as shown in FIG. 9. A piece of insulating tape 52 may be placed over the ends of the shield wires to hold them in place during assembly. After conductors 24 are connected to the appropriate pins on connector 22, connector 22 is located in recess 32 in shells 12 and 14 while ferrule 17 is located in recess 38. The shells are fastened together by four screws 54.(ケーブルとコネクターをハウジング10内に組み込み立てるために、フェルール17は、ケーブル20に被せられ、そして、各々の絶縁された導線24部分は、コネクター22との結合を許容されるように露出されている。また、シールド21部分は、典型的には編組み線21からなるが、露出され、図9に示されるように編組みを解かれずに、フェルール17上に折り返されている。組立て中にシールドワイヤの端を定位置に保持するために、絶縁テープ52がシールド編組の端部に配置される。導線24がコネクター22の適切なピンに接続された後、フェルール17が凹部38に位置決めされると同時に、コネクター22は、シェル12、14の溝32に位置決めされる。シェルは4つのねじ54により固着される。)」(第3欄第1行?同第13行)

g)「When screws 54 are tightened to clamp shells 12 and 14 together, ridges 40 are forced into intimate contact with shield 21 to make a good electrical connection between the shield and the housing. At the same time, ridge 42 compresses end 49 of ferrule 17, securely clamping cable 20 to prevent it from slipping or rotating in housing 10.(ねじ54がシェル12、14をしっかりと締め付けたとき、シールドとハウジングとがよい電気接続をするように、隆起40は、強いてシールド21と親密な接触をする。同時に、隆起42は、フェルール17の端49を押し縮めて、ケーブルがハウジング10内ですべったり回動したりしないように、ケーブル20を確実に固定する。」(第3欄第14行?同第20行)

h)「FIG. 10 shows a cross-sectional view through the rear portion of an assembled housing where the section is taken along the part line between shells 12 and 14. Cable 20, covered by an insulating sheath 56, passes through hole 44 in ferrule 17 and sheath 56 stops inside ferrule 17 to allow shield 21 to be unbraided and folded over the ferrule. As mentioned above, slots 50 allow end 49 of ferrule 17 to be compressed slightly in order to engage or grasp cable 20. Since sheath 56 is usually a soft plastic, it will deform and flow into slots 50, helping to prevent rotation of the cable. Compression of ferrule 17 around the body of the cable also helps provide strain relief for the connections between conductors 24 and the connector pins, since the cable is held against longitudinal movement in the ferrule. The ferrule, in turn, is held against movement by ridges 40 and 42 in cooperation with groove 46 and boss 48.(図10は、シェル12と14との間の部分線に沿って取り出された部分である組み立てられたハウジングの後部分の断面図である。絶縁被膜56により覆われたケーブル20は、フェルール17の孔44を通って、シールド21が編組みを解かれ、フェルール17上に折り返されることを許容するように、フェルール17内で止まる。上述したようにスロット50は、フェルール17の端49を、ケーブル20にかみ合わせるか把持するためにわずかに圧縮される。何故ならば、被膜56は、たいていやわらかいプラスチックであるので、変形され、スロット50内に流れ込み、ケーブルの回転防止に役立つ。ケーブル本体の回りでのフェルール17の圧縮は、導線24とコネクターピン間の結合のための緊張の除去の提供に役立つ。何故ならば、ケーブルは、フェルール17内で、縦運動に逆らって保持されているからである。逆にいえば、フェルールは、隆起40、42が、凹所46やボス48と協同して、動かないように保持されている。)」(第3欄第21行?同第37行)

i)「Thus it can be seen that housing 10 provides a complete electromagnetic shield around the connection between cable 20 and connector 22 with just three pieces: shells 12 and 14 are ferrule 17. In addition, the connection is protected from physical damage, the user is protected from possible shock danger through contact with any exposed connections between conductors 24 and connector 22, and axial and tortional strain relief is provided for the cable.(このように、ハウジング10は、シェル12、14、フェルール17のたった3つの部品により、ケーブル20とコネクター22の回りでの完全な電磁気の遮蔽を行っている。これに加えて、接続は、物理的な損傷から保護され、使用者は導線24とコネクター22の間のいかなる接続を通して生じる感電の危険からも保護され、ケーブルのための軸方向と、ねじれ方向の緊張の除去が与えられる。)」(第3欄第38行?同第46行)

j)上記b、eの記載事項および第7?10図の図示内容によると、フェルール17が、ボス48を有し、スロット50が切り欠かれた一端部、他端部、外表面に隆起40と適合する凹所46 を有する一端部と他端部の間の部分からなることが示されている。

k)上記b、e、hの記載事項および第7?10図の図示内容によると、シールド網組み線21の編組みは、フェルール17上に折り返されて一端部を覆うとともに、凹所46表面に沿って設けられ、シェルの一端部内にある凹部38とフェルール17の他端部、凹所46との間に保持されることが示されている。

上記a?iの記載事項、j、kの認定事項および図面の図示内容を総合勘案すると、刊行物には、次の発明が記載されていると認められる。
「導線24とシールド網組み線21を有するケーブル20と、
ボス48を有し、スロット50が切り欠かれた一端部、他端部、外表面に隆起40と適合する凹所46を有する一端部と他端部の間の凹所46とからなり、ケーブル20を囲むフェルール17と、
フェルール17上に折り返されたシールド網組み線21の編組みを解かれた編組みの端部に絶縁テープ52が配置され、
フェルール17のスロット50は、その一端部に縦方向に切り欠かれ、
シールド網組み線21の編組みは、フェルール17上に折り返されて一端部を覆うとともに、凹所46表面に沿って設けられ、シェルの一端部内にある凹部38とフェルール17の他端部、凹所46との間に保持される、
ハウジングの隆起42がフェルール17の端49を押し縮め、ケーブル20を確実に固定する、
磁気遮蔽コネクター。」

3.対比
本件補正発明と刊行物に記載された発明とを対比する。
刊行物に記載された発明の「導線24」は、その構成および機能からみて、本件補正発明の「少なくとも1つの電気伝導体」に相当し、以下同様に、
「シールド網組み線21」は「電気伝導編組」に、
「ケーブル20」は「電気伝導ケーブル」に、
「ボス48を有し、スロット50が切り欠かれた一端部」は「リア部」に、
「他端部」は「フロント部」に、
「一端部と他端部の間の凹所46」は「リア部とフロント部との間に位置する窪み部」に、
「ケーブル20を囲む」ことは「ケーブル上に設けられた」ことに、
「フェルール17」は「ストレインリリーフ」に、
「シールド網組み線21の編組みは、フェルール17上に折り返されて一端部を覆うとともに、かつ凹所46表面に沿って設けられ、シェルの一端部内にある凹部38とフェルール17の他端部、凹所46との間に保持される」ことは「電気伝導編組は折り返されてフロント部を覆い、かつ窪み部の中に入り込んでいること」に、
「磁気遮蔽コネクター」は「電気伝導組立体」に、
それぞれ相当する。
また、刊行物に記載された発明の「フェルール17上に折り返されたシールド網組み線21の編組みを解かれた編組みの端部に絶縁テープ52が配置され」ることと、本件補正発明の「電気伝導編組の上に配置され、該編組の素線の広がりを防止する電気伝導テープとを備え」ることとは、「電気伝導編組の上に配置され、該編組の素線の広がりを防止するテープとを備え」ることで共通し、同様に、
「フェルール17のスロット50は、その一端部に縦方向に切り欠かれ」ることと「ストレインリリーフは、その全長に亘って延びる間隙が一側面に形成されたスリップオンストレインリリーフであ」ることとは、「ストレインリリーフは、間隙が一側面に形成された」ことで共通する。

したがって、上記両者の一致点および相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「少なくとも1つの電気伝導体と電気伝導編組とを有する電気伝導ケーブルと、
リア部、フロント部、及び前記リア部と前記フロント部との間に位置する窪み部を具備する、前記ケーブル上に設けられたストレインリリーフと、
前記電気伝導編組の上に配置され、該編組の素線の広がりを防止するテープとを備え、
前記ストレインリリーフは、間隙が一側面に形成され、
前記電気伝導編組は折り返されて前記フロント部を覆い、かつ前記窪み部の中に入り込んでいる電気伝導組立体。」

[相違点1]
フロント部が、本件補正発明では、平坦な外面を少なくとも1つ有するのに対して、刊行物に記載された発明では、当該発明特定事項を具備しない点。

[相違点2]
編組の素線の広がりを防止するテープが、本件補正発明では、電気伝導テープであるのに対して、刊行物に記載された発明では、絶縁テープ52である点。

[相違点3]
ストレインリリーフが、本件補正発明では、その全長に亘って延びる間隙が一側面に形成されたスリップオンストレインリリーフであるのに対して、刊行物に記載された発明では、一端部の縦方向に切り欠かれている点。

[相違点4]
本件補正発明では、ストレインリリーフは、該ストレインリリーフの内側部位に配置された少なくとも1つの歯を備えているのに対して、刊行物に記載された発明では、当該発明特定事項を具備していない点。

4.当審の判断
(1)相違点1について
まず、本件補正発明のフロント部が、平坦な外面を少なくとも1つ有することの意義について検討する。このことに関して、本願明細書には、「フロント部もまた平坦または滑らかな外側端面を備えている。六角形の外側形状は、フロント部の外側に平坦面36を提供する。・・・あるいは少なくとも1つの平坦面を含む、または後述するように、電気コネクターシェルの結合面に結合する平面(それらの間に編組24の一部が挟まれる)を少なくとも1つ含むあらゆる好適な形状を有してもよい。」(段落【0017】)こと、「シェル42の平坦部52はテープ50及び編組24をストレインリリーフ18,77,79,81のフロント部30の対向する2つの平坦面36に押し付けるようにしてシェル42とストレインリリーフ18,81との間に挟む。このようにすることでシェル42がストレインリリーフ77,79,81を保持し、その最終位置に押圧し、これによって編組とシェルとの間で電気的結合がなされる。」(段落【0029】)ことが記載されている。したがって、本件補正発明において、フロント部の平坦な外面は、電気コネクターシェルの結合面に結合する平面として機能し、該平面と電気コネクターシェルの平坦部52との間に、テープ50及び編組24を挟み、編組とシェルとの間で電気的結合をなすものである。
一方、刊行物に記載された発明において、シールド網組み線21の編組みは、シェルの凹部38とフェルール17の他端部、凹所46との間に保持され、シールド網組み線21の編組みとシェルの凹部38との間で電気的接続をなすものであるから、他端部は、本願発明のフロント部と同じ機能を果たすものといえる。
そして、刊行物に記載された発明において、フェルール17の他端部外面の形状は、シールド網組み線21の編組みをシェルの凹部38内面との間に保持するために、シェルの凹部38内面に対応した形状を有するものである。
しかも、シェルの凹部38内面をどのような形状とするのかは、コネクターの全体形状や全体強度等を考慮して、当業者が適宜決定し得たものである。
したがって、刊行物に記載された発明において、シェルの凹部38内面の形状が平坦部を少なくとも1つ有するようにすることは、当業者が容易になし得たものである。

(2)相違点2について
編組の素線の広がりを防止するテープとして電気伝導テープを用いることは、本願の優先権主張の日前に周知の技術事項である(例えば、実願昭56-97875号(実開昭58-2972号)のマイクロフィルムの導電テープ10や、特開平11-205948号公報の導電テープ2eや、実願昭59-7490号(実開昭60-121277号)のマイクロフィルムの導電テープ60を参照。以下「周知の技術事項1」という。)。
したがって、刊行物に記載された発明の編組の素線の広がりを防止するテープに、上記周知の技術事項1を適用して、絶縁テープに換えて、電気伝導テープを用いることは当業者が容易になし得たものである。

(3)相違点3および4について
刊行物に記載された発明は、ハウジングの隆起42がフェルール17の端49を押し縮め、ケーブル20を確実に固定するものである。
そして、ケーブルに固定される部材の技術分野において、ケーブルに固定される部材として、全長に亘って延びる間隙が一側面に形成され、内側部位に少なくとも1つの歯を配置された部材を用いることは、本願の優先権主張の日前に周知の技術事項である(例えば、実願平2-89184号(実開平4-47291号)のマイクロフィルムの第2、3図のアウタースリーブ10や、特開平3-250571号公報の摩擦スリーブ16を参照。以下「周知の技術事項2」という。)。
したがって、刊行物に記載された発明のケーブルに固定されるフェルール17に、上記周知の技術事項2を適用して、上記相違点3、4における本件補正発明が具備する発明特定事項に到達することは、当業者が容易になし得たものである。

(4)小括
本件補正発明の奏する効果についてみても、刊行物に記載された発明および周知の技術事項から当業者が予測できた効果の範囲内のものである。
したがって、本件補正発明は、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に想到し得たものである。
ゆえに、本件補正発明は、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成20年7月29日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成20年2月18日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「少なくとも1つの電気伝導体と電気伝導編組とを有する電気伝導ケーブルと、
リア部、平坦な外面を少なくとも1つ有するフロント部、及び前記リア部と前記フロント部との間に位置する窪み部を具備する、前記ケーブル上に設けられたストレインリリーフと、
前記電気伝導編組の上に配置され、該編組の素線の広がりを防止する電気伝導テープとを備え、
前記電気伝導編組は折り返されて前記フロント部を覆い、かつ前記窪み部の中に入り込んでいることを特徴とする電気伝導組立体。」

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物、刊行物に記載された事項および刊行物に記載された発明は、前記「第2[理由]2.刊行物に記載された発明」に記載したとおりである。

3.対比および判断
本願発明は、前記「第2[理由]」で検討した本件補正発明におけるストレインリリーフについて、「ストレインリリーフは、その全長に亘って延びる間隙が一側面に形成されたスリップオンストレインリリーフであり、ストレインリリーフは、該ストレインリリーフの内側部位に配置された少なくとも1つの歯を備えており」との限定を省くものである。
そうすると、実質的に本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2[理由]3.対比および4.当審の判断」に記載したとおり、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-08 
結審通知日 2010-09-14 
審決日 2010-09-27 
出願番号 特願2004-504349(P2004-504349)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01R)
P 1 8・ 121- Z (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 哲男  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 長崎 洋一
稲垣 浩司
発明の名称 電気ケーブルのストレインリリーフ及びクロージャー  
代理人 廣澤 哲也  
代理人 小杉 良二  
代理人 渡邉 勇  

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