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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E03C
管理番号 1233542
審判番号 無効2010-800096  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-05-26 
確定日 2011-02-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4118635号発明「排水集合管」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4118635号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続きの経緯
特許第4118635号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る発明は、平成14年8月28日に特許出願され、平成20年5月2日にその特許権の設定登録がなされ、その後、株式会社小島製作所から無効審判請求がなされたものである。そして、本件無効審判における経緯は、以下のとおりである。

平成22年5月26日 無効審判請求(無効2010-800096号、甲
第1号証ないし甲第3号証の提出)
8月13日 審判事件答弁書(乙第1号証及び乙第2号証の提
出)
8月13日 訂正請求書
9月22日 審判事件弁駁書(甲第4号証(仮)及び甲第6号証
の提出)
10月21日 審理事項通知書
10月28日 上申書(請求人、甲第4号証及び甲第5号証の提
出)
12月 1日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
12月 8日 口頭審理陳述要領書(請求人)
12月15日 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
12月15日 第1回口頭審理

第2 訂正請求について

1 本件訂正の内容
平成22年8月13日付け訂正請求書による訂正内容は次のとおりである(下線部は、訂正箇所である。)。

(1)訂正事項a
訂正事項aは、本件特許の特許請求の範囲の請求項1について、
「 【請求項1】
立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数設けられ、
これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ前記管本体の管軸方向の同じ位置に設けられて突出しており、
前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられている
ことを特徴とする排水集合管。」
と訂正するものである。

(2)訂正事項b
訂正事項bは、本件特許の特許請求の範囲の請求項2について、
「 【請求項2】
立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数設けられ、
これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ前記管本体の管軸方向の同じ位置に設けられて突出しており、
前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられており、
前記逆流防止リブは、
それぞれ、前記管軸方向において少なくとも前記開口部の開口中心を含む前記管軸方向の前記開口部の上端位置から前記開口部の下端位置までにわたって形成されている
ことを特徴とする排水集合管。」
と訂正するものである。

(3)訂正事項c
訂正事項cは、本件特許の特許請求の範囲の請求項3について、
「 【請求項3】
立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数設けられ、
これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出しており、該複数の管継ぎ手部のうち少なくとも2つが互いに前記管本体の管軸方向の異なる位置に設けられて突出しており、
前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられており、
前記逆流防止リブは、
それぞれ、前記管軸方向において少なくとも前記開口部の開口中心を含む前記管軸方向の前記開口部の上端位置から前記開口部の下端位置までにわたって形成されている
ことを特徴とする排水集合管。」
と訂正するものである。

(4)訂正事項d
訂正事項dは、本件特許の特許請求の範囲の請求項4について、
「 【請求項4】
立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた複数の管継ぎ手部の少なくとも2つが前記管本体の管軸方向の異なる位置に設けられ、
これらの管継ぎ手部が前記管軸方向にみたときに前記管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出しており、
前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられており、
前記逆流防止リブは、前記管軸方向において上方側に位置する前記管継ぎ手部の開口部よりも上方寄り位置から、前記管軸方向において下方側に位置する前記管継ぎ手部の開口部よりも下方寄りの位置まで延びている
ことを特徴とする排水集合管。」
と訂正するものである。

(5)訂正事項e
訂正事項eは、本件特許明細書の段落【0021】について、
「 【0021】
例えば、この排水集合管1の形成材料、管継ぎ手部6,7,20の配置数や配置、その管径サイズ等は何ら限定されるものではない。従って、平面L型の二方とする他、平面T型やY型等の三方、平面十字型の四方などとすることも可能である。
また、この排水集合管1は、多層階建物において使用されることが限定されるものではない。
逆流防止リブ10?13における管中心へ向けた張り出し長さなどは、限定されない。」
と訂正するものである。

2 訂正の適否に関する当審の判断

(1)訂正事項aについて

ア 「管継ぎ手部」についての訂正
請求項1の「これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出」を「これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ前記管本体の管軸方向の同じ位置に設けられて突出」とする訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当する。
そして、本件特許の図2、図4及び図5に記載からみて、それぞれの管継ぎ手部が同じ高さのものであると認められることから、上記訂正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲内においてしたものである。

イ 「逆流防止リブ」についての訂正
請求項1の「前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブ」を「前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブ」とする訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当する。
そして、本件特許明細書の段落【0007】の「このような逆流防止リブが設けられていると、便器排水のように勢いのある排水流が管継ぎ手部(例えば符号6)を介して管本体内に流れ込んだ場合に、この排水流が管本体内で対向する内周面に突き当たっても、その反射流はすぐに逆流防止リブにぶつかるようになる。そのため、管本体内へ流れ込んだ排水流が管本体の内周面を伝うといった現象は抑制され、結果として、この排水流が他方の管継ぎ手部(符号7)から横枝管(103)へと逆流することは防止されるものである」との記載からみて、「逆流防止リブ」が「前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する」ことが記載されていることは明らかであるから、上記訂正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲内においてしたものである。

(2)訂正事項bについて

ア 「管継ぎ手部」についての訂正
請求項2の「これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出」を「これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ前記管本体の管軸方向の同じ位置に設けられて突出」とする訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当する。
そして、本件特許の図2、図4及び図5に記載からみて、それぞれの管継ぎ手部が同じ高さのものであると認められることから、上記訂正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲内においてしたものである。

イ 「逆流防止リブ」についての訂正
請求項2の「前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブ」を「前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブ」とする訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当する。
そして、本件特許明細書の段落【0007】の「このような逆流防止リブが設けられていると、便器排水のように勢いのある排水流が管継ぎ手部(例えば符号6)を介して管本体内に流れ込んだ場合に、この排水流が管本体内で対向する内周面に突き当たっても、その反射流はすぐに逆流防止リブにぶつかるようになる。そのため、管本体内へ流れ込んだ排水流が管本体の内周面を伝うといった現象は抑制され、結果として、この排水流が他方の管継ぎ手部(符号7)から横枝管(103)へと逆流することは防止されるものである」との記載からみて、「逆流防止リブ」が「前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する」ことが記載されていることは明らかであるから、上記訂正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲内においてしたものである。
また、請求項2の「前記逆流防止リブは、」「前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側」に設けられ、複数であることは明らかであることから、請求項2の「前記逆流防止リブは、」を「前記逆流防止リブは、それぞれ、」とする訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(3)訂正事項cについて

ア 「管継ぎ手部」についての訂正
請求項3の「管継ぎ手部」についての訂正は、請求項2の従属項であった請求項3を独立項として記載するのにともなって、「複数の前記管継ぎ手部のうち少なくとも2つが互いに前記管軸方向の異なる位置に設けられた」を「該複数の管継ぎ手部のうち少なくとも2つが互いに前記管本体の管軸方向の異なる位置に設けられて突出しており」と訂正するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

イ 「逆流防止リブ」についての訂正
請求項3の「前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブ」を「前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブ」とする訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当する。
そして、本件特許明細書の段落【0007】の「このような逆流防止リブが設けられていると、便器排水のように勢いのある排水流が管継ぎ手部(例えば符号6)を介して管本体内に流れ込んだ場合に、この排水流が管本体内で対向する内周面に突き当たっても、その反射流はすぐに逆流防止リブにぶつかるようになる。そのため、管本体内へ流れ込んだ排水流が管本体の内周面を伝うといった現象は抑制され、結果として、この排水流が他方の管継ぎ手部(符号7)から横枝管(103)へと逆流することは防止されるものである」との記載からみて、「逆流防止リブ」が「前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する」ことが記載されていることは明らかであるから、上記訂正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲内においてしたものである。
また、請求項3の「前記逆流防止リブは、」「前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側」に設けられ、複数であることは明らかであることから、請求項3の「前記逆流防止リブは、」を「前記逆流防止リブは、それぞれ、」とする訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(4)訂正事項dについて
請求項4は、本件特許明細書の段落【0019】の「管本体2に対し、管継ぎ手部6,7とは高さを異ならせた配置で、新たに別の管継ぎ手部20が設けられたものとなっている。」との記載を根拠とし、請求項4の「複数の管継ぎ手部の少なくとも2つが前記管軸方向の異なる位置に設けられ」を「複数の管継ぎ手部の少なくとも2つが前記管本体の管軸方向の異なる位置に設けられ」と訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(5)訂正事項eについて
訂正事項eは、訂正事項aないしcにともない、本件特許明細書の段落【0021】の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(6)小括
以上のとおり、上記訂正事項aないしeは、特許法第134条の2第1項ただし書、及び同条第5項において準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するから、当該訂正を認める。

第3 本件発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、上記訂正の請求が認められることから、平成22年8月13日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数設けられ、
これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ前記管本体の管軸方向の同じ位置に設けられて突出しており、
前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられている
ことを特徴とする排水集合管。」(以下「本件発明1」という。)

「 【請求項2】
立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数設けられ、
これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ前記管本体の管軸方向の同じ位置に設けられて突出しており、
前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられており、
前記逆流防止リブは、
それぞれ、前記管軸方向において少なくとも前記開口部の開口中心を含む前記管軸方向の前記開口部の上端位置から前記開口部の下端位置までにわたって形成されている
ことを特徴とする排水集合管。」(以下「本件発明2」という。)

「 【請求項3】
立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数設けられ、
これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出しており、該複数の管継ぎ手部のうち少なくとも2つが互いに前記管本体の管軸方向の異なる位置に設けられて突出しており、
前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられており、
前記逆流防止リブは、
それぞれ、前記管軸方向において少なくとも前記開口部の開口中心を含む前記管軸方向の前記開口部の上端位置から前記開口部の下端位置までにわたって形成されている
ことを特徴とする排水集合管。」(以下「本件発明3」という。)

「 【請求項4】
立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた複数の管継ぎ手部の少なくとも2つが前記管本体の管軸方向の異なる位置に設けられ、
これらの管継ぎ手部が前記管軸方向にみたときに前記管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出しており、
前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられており、
前記逆流防止リブは、前記管軸方向において上方側に位置する前記管継ぎ手部の開口部よりも上方寄り位置から、前記管軸方向において下方側に位置する前記管継ぎ手部の開口部よりも下方寄りの位置まで延びている
ことを特徴とする排水集合管。」(以下「本件発明4」という。)

第4 当事者の主張

1 請求人の主張
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明2ないし4は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明することができたものであるであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明である。したがって本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
証拠方法として、以下の甲第1号証ないし甲第6号証を提出した。

甲第1号証:特開平11-29965号公報
甲第2号証:特開2001-26955号公報
甲第3号証:特開2000-144838号公報
甲第4号証:実験結果報告書-排水集合管継手 逆流防止効果確認実験-
甲第5号証:動画 DVD 排水集合管継手 逆流防止効果確認実験
甲第6号証:特開平11-93232号公報

2 被請求人の主張
一方、被請求人は、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明2ないし4は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明することができたものではない旨主張し、証拠方法として、以下の乙第1号証及び乙第2号証を提出した。

乙第1号証:実験結果報告書-排水集合管 逆流防止効果確認実験-
乙第2号証:「排水集合管 逆流防止効果確認実験<動画>」DVD

第5 各甲号証およびその内容

1 甲第1号証
本件特許の出願前に頒布された甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている(以下において、下線は、当審にて付与したものである。)。

(1)「【請求項1】 横枝管受け口に対抗する管内壁面であって、横枝管排水が衝突する位置の側方に、該横枝管排水の衝突後における側方への飛散を防止するための整流板を設けたことを特徴とする排水集合管継手。」

(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、排水立て管に排水横枝管を接続するための排水集合管継手に関する。」

(3)「【0017】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施形態を図1?図3に基づいて説明する。図1は、以下説明する排水集合管継手1を用いた施工例が示されている。この排水集合管継手1は、上部継手2と下部継手3からなるいわゆる二体型の管継手であって、上部継手2の下端部が下部継手3の上部受け口3aに挿入されて一体化されている。上部継手2の上部受け口2aには上流側の立て管4が接続され、下部継手3の下部接続口3bは下流側の立て管5の受け口5aに接続されている。
【0018】上部継手2には横枝管受け口6が設けられており、この受け口6には横枝管7を介して大便器8が接続されている。一方、下部継手3にも横枝管受け口9が設けられており、この受け口9には図示は省略したが雑排水用の横枝管が接続されている。」

(4)「【0024】次に、第2整流板30,30は、横枝管受け口6に対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の側方に設けられている。両第2整流板30,30は、管内壁面から管中心に向けて張出し形成されており、排水の衝突位置を囲うように配置されている。この第2整流板30,30により、管内壁面に衝突した排水の衝突後における側方への飛散が防止され、これにより他の横枝管受け口9への排水の逆流が防止される。
【0025】両第2整流板30,30は、横枝管受け口6に対向するほぼ正面の高さから上部継手2の下端に至る範囲で上下に長く形成されている。」

(5)「【0029】さらに、横枝管受け口6の対向壁面であって、横枝管排水の衝突位置の両側方には第2整流板30,30が設けられているので、横枝管受け口6を経て流入した横枝管排水が対向壁面に衝突しても側方へ飛散することはなく、両整流板30,30間に沿って流下する。このことから、管内の閉塞が防止されて、管内の圧力変動が抑制され、、ひいてはトラップ破封等のトラブルを未然に防止することができる。
【0030】また、第2整流板30,30により衝突後の側方への飛散が防止されるので、一旦管継手1内に流入した横枝管排水が他の横枝管受け口9に逆流することが防止される。」

(6)「【0036】また、例示した実施形態では、上部継手2と下部継手3を管軸回りの相対位置について所定の関係で一体化したいわゆる二体型の排水集合管継手1を例示して説明したが、本発明はいわゆる一体型の排水集合管継手にも同様に適用できることは言うまでもない。
【0037】最後に、第1整流板20と第2整流板30の双方を設ける構成で例示したが、必要に応じて何れか一方のみを設ける構成としてもよく、この構成によっても横枝管排水あるいは立て管排水により管内の閉塞を防止することができる。」

(7)図1の記載から、立て管が接続された排水集合管継手の側面部で(排水集合管継手の)管軸方向の異なる位置に2つの横枝管受け口6,9が設けられていること、及び、横枝管受け口6,9が(排水集合管継手の)管軸方向にみたときに排水集合管継手に対して互いに平面交差する方向へ突出していることが、見て取れる。

(8)上記(1)ないし(7)から、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「立て管が接続された排水集合管継手の側面部で管軸方向の異なる位置に2つの横枝管受け口6,9が設けられ、横枝管受け口6,9が管軸方向にみたときに排水集合管継手に対して互いに平面交差する方向へ突出しており、横枝管受け口6には横枝管7を介して大便器が接続され、第2整流板30,30は、横枝管受け口6に対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方に設けられ、両第2整流板30,30は、管内壁面から管中心に向けて張出し形成されており、排水の衝突位置を囲うように配置され、この第2整流板30,30により、管内壁面に衝突した排水の衝突後における側方への飛散が防止され、これにより他の横枝管受け口9への排水の逆流が防止される排水集合管継手」

2 甲第2号証
本件特許の出願前に頒布された甲第2号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、多階層建造物内に配設された単管式排水通気システムにおける、立管に横枝管を接合するための排水管継手に関する。」

(2)「【0018】継手中部管3の横枝管との接合部31の管内側で隣り合う開口32の間には、開口32の上縁より高い位置から開口32の下縁より低い位置まで伸びるリブ形状の逆流制御板33が形成されている。逆流制御板33は、一つの横枝管からの多量の排水が流入し、落下する排水と衝突したり或いは誘導管25の下端部に衝突して、隣り合う開口32に逆流することを防ぐために設けられている。」

3 甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、例えばマンション等の建築物において上階から下階に貫いて配管される排水立て管に、例えば各階の大便器排水や雑排水を排水するための横枝管を接続するための排水管継手(以下、単に「管継手」とも言う)に関する。」

(2)「【0007】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態を図1?図3に基づいて説明する。図1は、本実施形態の管継手10を示している。この管継手10は、上流側の立て管(図示省略)を接続するための上部受け口11と下流側の立て管(図示省略)を接続するための下部受け口12と、該上部受け口11と下部受け口12との間の胴部13と、該胴部13から側方へ突き出し状に設けられた、横枝管(図示省略)を接続するための横枝管受け口14を備えている。この横枝管受け口14の当該管継手内壁側の開口部(以下、単に「内側開口部14a」と略記する)の上側及び両側部に沿って逆流防止壁15が形成されている。本実施形態に係る管継手10は、横枝管受け口14の内側開口部14aに、立て管排水の逆流を防止するための逆流防止壁15を設けたことに特徴を有するものであり、その他の構成については従来公知の技術に比して特に変更を要しないので、説明を省略する。
【0008】さて、本実施形態の逆流防止壁15は、図2に示すように内側開口部14aの上側に管中心側に張り出し形成した庇部15aと該庇部15aの両側から下方に向けて延出した側壁部15b、15bを有している。図示するようにこの両側壁部15b、15bが内側開口部14aの両側部に位置している。庇部15aの上面は、その張り出し基部側から張り出し先端側に向かって下傾する方向に傾斜している。又、この庇部15aは、管中心側から見て、内側開口部14aの形状に沿った概ね円弧形状に湾曲形成されている。」

(3)図2の記載から、内側開口部14aの上縁より高い位置から内側開口部14aの下縁より低い位置まで伸びる逆流防止壁15の側壁部15bが、見て取れる。

第6 当審の判断

1 本件発明1について

(1)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。

ア 甲1発明における「立て管」、「接続され」、「排水集合管継手」、「『側面部で』『2つの横枝管受け口6,9』」、「『横枝管受け口6,9が』『排水集合管継手に対して互いに平面交差する方向へ突出』」、「横枝管受け口6に対向する管内壁面」、「両側方」、「『管内壁面から管中心に向けて張出し形成され』る『両第2整流板30,30』」及び「第2整流板30,30により、管内壁面に衝突した排水の衝突後における側方への飛散が防止され、これにより他の横枝管受け口9への排水の逆流が防止される」は、それぞれ、本件発明1における「立主管」、「介設され」、「『管本体』又は『排水集合管』」、「側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数」、「『これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ』『突出』」、「『管本体における』『管継ぎ手部の開口部に対向する面』」、「両側」、「管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブ」及び「管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する」に相当する。

イ 甲1発明において、「第2整流板30,30は、横枝管受け口6に対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方に設けられ」ていることから、甲1発明の「『横枝管受け口6に対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方に設けられ』た『第2整流板30,30』」と本件発明1の「『前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側』に設けられた『逆流防止リブ』」とは、「複数の管継ぎ手部のうちの1つの開口部に対向する面の両側に設けられた逆流防止リブ」である点で一致する。

ウ 上記ア及びイから、本件発明1と甲1発明とは、「立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数設けられ、これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出しており、前記管本体における複数の管継ぎ手部のうちの1つの開口部に対向する面の両側には、前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられている排水集合管。」の点で一致し、次の相違点1及び2で相違する。

相違点1:
本件発明1は、「これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ前記管本体の管軸方向の同じ位置に設けられて突出している」のに対して、
甲1発明は、「『横枝管受け口6,9が』『排水集合管継手に対して互いに平面交差する方向へ突出している』」ものの、「前記管本体の管軸方向の同じ位置」との特定がない点。

相違点2:
本件発明1は、「『管継ぎ手部が複数設けられ、』『前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、』『逆流防止リブが設けられている』」のに対して、
甲1発明は、「第2整流板30,30」(逆流防止リブ)は、「横枝管受け口6に対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方に設けられ」ている点。

(2)判断
上記相違点1及び2について検討する。

ア 相違点1について

(ア)管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ前記管本体の管軸方向の同じ位置に設けられて突出している排水集合管(排水集合管継手)は慣用技術にすぎない。
したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成となすことは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)被請求人は、12月1日付け口頭審理陳述要領書において、以下のとおり主張する。
「引用例の、『排水集合管継手1』の『上部継手2』に、本件発明1ないし2の排水集合管1のように管継ぎ手部を『管本体に対して互いに平面に交差する方向へ前記管本体の管軸方向の同じ位置に突き出して』設けた場合、引用例に『第1整流板20の内面には分流ガイド21が設けられており、この分流ガイド21により立て管排水が、横枝管受け口6の真上(流下方向手前)で左右に分岐するので、この分流ガイド21により横枝管排水のスムーズな流入が一層促進される』(段落【0028】)と記載があるとおり、下図に示すように、排水集合管継手の上流から流れてきた排水が、第1整流板20の分流ガイド21に整流されて左右に分岐し、横枝管7からの排水と衝突しないような構成が採用されている。
よって、上記引用例において『上記管本体の管軸方向の同じ高さで平面交差する方向へ突き出して設けた管継ぎ手部』を設けると、該『管軸方向の同じ高さで平面交差する方向へ突き出して設けた管継ぎ手部』に逆流する流れが形成されることになる。したがって、引用例に、通知書において一般的な技術と認定される『互いに平面交差する方向へ前記管本体の同じ位置に設けられて突出している』管継ぎ手を組み合わせることについては、該管継ぎ手部への立て管排水の逆流という支障を生ずることが明らかであることから、該組合せには技術的な阻害要因がある。」(第7頁、審決注:「分岐する」は「分岐される」の誤記と認める。)
「さらに、引用例において、『上記管本体の管軸方向の同じ高さで平面交差する方向に突き出して設けた管継ぎ手部』に加えて、排水が流入する横枝管7の対向する管内面に横枝管7開口部の上端位置から下端位置にまでにわたって第2整流板が設けられると、第2整流板が第1整流板に近接するので、第1整流板の分流ガイド21で整流されることによって左右に分流された排水の一部がさらに第2整流板によって横枝管7開口部の内部に誘導されることになり、益々、『管軸方向の同じ高さに平面交差する方向に突き出して設けた管継ぎ手』に逆流することになる。したがって、甲第1号証の第2整流板を上方に延長させることには技術的阻害要因がある。」(第8頁)
しかしながら、甲第1号証には、上記第5 1(6)で摘記したように、「第1整流板20と第2整流板30の双方を設ける構成で例示したが、必要に応じて何れか一方のみを設ける構成としてもよく」と、第1整流板を設けず、第2整流板のみを設ける構成についても記載されているので、甲1発明において、「横枝管受け口6,9が排水集合管継手に対して互いに平面交差する方向へ前記排水集合管継手の管軸方向の同じ位置に設けられて突出している排水集合管継手」及び「第2整流板30,30を、それぞれ、管軸方向において少なくとも横枝管受け口の開口部の開口中心を含む前記管軸方向の前記開口部の上端位置から前記開口部の下端位置までにわたって形成する」構成とすることに関して、上記阻害要因は存在しない。

イ 相違点2について
甲1発明の両第2整流板30,30は、管内壁面から管中心に向けて張出し形成されており、排水の衝突位置を囲うように配置され、この第2整流板30,30により、管内壁面に衝突した排水の衝突後における側方への飛散が防止され、これにより他の横枝管受け口9への排水の逆流が防止されるものであることから、複数の横枝管受け口が、それぞれ、排水の逆流の可能性がある場合には、複数の横枝管受け口の対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方に第2整流板を設けるようになすことは、当業者が容易に想到する事項にすぎない。
したがって、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成となすことは、当業者が容易に想到する事項である。

ウ 効果について
請求人は、甲第4号証及び甲第5号証を、被請求人は、乙第1号証及び乙第2号証を、実験結果として提出している。そして、請求人の甲第1号証タイプとして実験を行った試験体の第2整流板は、甲第1号証段落【0025】(上記第5 1(4)で摘記)の「両第2整流板30,30は、横枝管受け口6に対向するほぼ正面の高さから上部継手2の下端に至る範囲で上下に長く形成されている。」との記載をもとに、その上端の高さ位置を、管継ぎ手部の開口中心の高さ位置に対向する位置とするものであり、被請求人の甲第1号証のものとして実験を行った試験体の第2整流板は、甲第1号証の図1及び図2の記載をもとに、管継ぎ手部の開口部に対向する面の下方の両側に、開口部の下端から下方にわたるように形成するものであり、それぞれ、本件発明のものとして実験を行った試験体と対比し、さらに、被請求人は、甲第2号証のものとして実験を行った試験体も本件発明のものとして実験を行った試験体と対比している。
その結果、請求人は、便器排水の流速が大きい場合と便器排水の流速が一般的な場合により、甲第1号証の逆流の長さの再現を試みたが本件発明の優位性は認められなかったとし、被請求人は、便器排水のような勢いのある排水流を排水させる場合には、甲第1号証の第2整流板や甲第2号証の逆流制御板では横枝管への逆流を防止する効果が確認できない一方で、本件発明の逆流防止リブの形成が横枝管への逆流を防止する手段として非常に有効であることを確認したとしている。
そこで上記実験結果を検討するに、甲1発明は、横枝管受け口6には横枝管を介して大便器が接続され、他の横枝管受け口9への排水の逆流が防止されるものであるので、排水立て管の大きさや排水の流速等を考慮し、さらに、甲第1号証段落【0025】を参酌し、他の横枝管受け口9への排水の逆流が防止されるように第2整流板を設ける配置にすることは、当業者が当然考慮するべき事項にすぎない。
よって、本件発明1ないし4の「便器排水などのような勢いのある排水流を排水する場合に、その排水が他の横枝管へ逆流することがない」との効果については、甲1発明が、横枝管受け口6には横枝管を介して大便器が接続され、他の横枝管受け口9への排水の逆流が防止されるものである以上、当業者が当然予測し得る程度のものである。

エ 小括
したがって、本件発明1は、当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

2 本件発明2について

(1)対比
本件発明2と甲1発明を対比する。

ア 甲1発明における「立て管」、「接続され」、「排水集合管継手」、「『側面部で』『2つの横枝管受け口6,9』」、「『横枝管受け口6,9が』『排水集合管継手に対して互いに平面交差する方向へ突出』」、「横枝管受け口6に対向する管内壁面」、「両側方」、「『管内壁面から管中心に向けて張出し形成され』る『両第2整流板30,30』」及び「第2整流板30,30により、管内壁面に衝突した排水の衝突後における側方への飛散が防止され、これにより他の横枝管受け口9への排水の逆流が防止される」は、それぞれ、本件発明2における「立主管」、「介設され」、「『管本体』又は『排水集合管』」、「側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数」、「『これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ』『突出』」、「『管本体における』『管継ぎ手部の開口部に対向する面』」、「両側」、「管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブ」及び「管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する」に相当する。

イ 甲1発明において、「第2整流板30,30は、横枝管受け口6に対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方に設けられ」ていることから、甲1発明の「『横枝管受け口6に対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方に設けられ』た『第2整流板30,30』」と本件発明2の「『前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側』に設けられた『逆流防止リブ』」とは、「複数の管継ぎ手部のうちの1つの開口部に対向する面の両側に設けられた逆流防止リブ」である点で一致する。

ウ 上記ア及びイから、本件発明2と甲1発明とは、「立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数設けられ、これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出しており、前記管本体における複数の管継ぎ手部のうちの1つの開口部に対向する面の両側には、前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられている排水集合管。」の点で一致し、次の相違点1ないし3で相違する。

相違点1:
本件発明2は、「これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ前記管本体の管軸方向の同じ位置に設けられて突出している」のに対して、
甲1発明は、「『横枝管受け口6,9が』『排水集合管継手に対して互いに平面交差する方向へ突出している』」ものの、「前記管本体の管軸方向の同じ位置」との特定がない点。

相違点2:
本件発明2は、「『管継ぎ手部が複数設けられ、』『前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、』『逆流防止リブが設けられて』いる」のに対して、
甲1発明は、「第2整流板30,30」(逆流防止リブ)は、「横枝管受け口6に対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方に設けられ」ている点。

相違点3:
本件発明2は、「逆流防止リブは、それぞれ、前記管軸方向において少なくとも開口部の開口中心を含む前記管軸方向の前記開口部の上端位置から前記開口部の下端位置までにわたって形成されている」のに対して、
甲1発明は、その特定がない点。

(2)判断
上記相違点1及び2については、上記1(2)に記載したとおり、当業者が甲1発明に基づいて容易に想到する事項にすぎないので、上記相違点3について検討する。

ア 相違点3について

(ア)立管に横枝管を接合するための排水管継手に関する技術において、開口の上縁より高い位置から開口の下縁より低い位置まで伸びる逆流制御板は、甲第2号証及び甲第3号証にも記載されているように本件特許出願前に周知である(以下「周知技術」という。)。

(イ)上記(ア)に記載したように、立管に横枝管を接合するための排水管継手に関する技術において、開口の上縁より高い位置から開口の下縁より低い位置まで伸びる逆流制御板は周知技術であり、また、甲1発明の「第2整流板30,30」は、「横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方」で「排水の衝突位置を囲うように配置され」ており、すなわち、第2整流板30,30は、横枝管から流入した排水の衝突位置を考慮して配置されていることから、排水の衝突位置を考慮し、第2整流板30,30を、それぞれ、管軸方向において少なくとも横枝管受け口の開口部の開口中心を含む前記管軸方向の前記開口部の上端位置から前記開口部の下端位置までにわたって形成するようになすことは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
したがって、甲1発明において、周知技術を採用し、上記相違点3に係る本件発明2の構成となすことは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

(ウ)被請求人は、審判事件答弁書において、以下のとおり主張する。
「この記載及び図面から甲第2号証に記載された『逆流制御板』の意義を敷衍すると、次の2つ意義がある。
一つ目は、甲第2号証の図1(a)、(b)に示される接合部31に接合される横枝管から流入する多量の排水と立管11から落下する排水が衝突するといずれか若しくは両方の排水が広がり方向を変えて、この横枝管と直交する横枝管に逆流することを防止するためであり、二つ目は、横枝管から流入する多量の排水が誘導管25の下端部に衝突し、その反射流がこの横枝管に直交する横枝管に飛び散り逆流することを防止するものである。
いずれの現象も、甲第2号証に開示されている、逆流制御板を、排水が流入して来る横枝管の開口左右縁に設ける構成でなければ防止し得ないものであって、これを本件発明2の如く開口部の対向側に移設するならば、2つの現象はいずれも防止し得なくなる。つまり、甲第2号証の逆流制御板を本件発明2のごとに『管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側』に設ける構成に改変することは、明らかな阻害要因が存在する。
甲第1号証を参考としたとしても、横枝管から流入する多量の排水と立て管排水の衝突防止、或いは、横枝管から誘導管の下端部に衝突した反射流の他の横枝管への逆流防止のための位置決めされた甲第2号証の『逆流制御板』は、該横枝管と真逆の対向面に付け変えることによって存在意義を喪失するのである。
そしてまた、甲第1号証の『第2整流板』は横枝管受け口6の下端に相当する高さから下方の横枝管受け口と対向面側に設けられており、甲第2号証の『逆流制御板』はこれと真逆の、横枝管の開口部側左右に設けられている。」(第16頁)
「以上述べたとおり、構成はもとより課題や作用効果が全く異なる発明が記載された甲第1号証と甲第2号証を組み合わせることに技術的な阻害要因があるし、またこれらの発明を組み合わせても本件発明2の構成は導き出せない。
甲第3号証においても、『逆流防止壁』(15b、15b)が内側開口部14aの両側部に位置している』構成が開示されているのみであり(段落【0008】)、甲第1号証に甲第3号証の逆流防止壁を組み合わせても本件発明2の構成とはならない。さらにいえば、甲第3号証は複数の管継ぎ手部を有する排水集合管に関するものですらない。
更に重要なことは、そもそも、何らの周知技術が存在するだけでそれを甲第1号証に記載された排水集合管に適用できる動機が無ければ、該排水集合管を改変して本件発明2のようにすることが出願時当業者にとって容易であったとはいえないことである。」(第17頁)
しかしながら、甲1発明の「『第2整流板30,30は、横枝管受け口6に対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方に設けられ、』『排水の衝突位置を囲うように配置され、この第2整流板30,30により、管内壁面に衝突した排水の衝突後における側方への飛散が防止され、これにより他の横枝管受け口9への排水の逆流が防止される』」ものであることから、甲1発明には、管内壁面に衝突した排水の衝突後における側方への飛散が防止され、これにより他の横枝管受け口への排水の逆流が防止されるような高さ位置に、第2整流板を設けなければならないとの動機が存在し、そうすると第2整流板の高さ位置に関して、甲第2号証及び甲第3号証にも記載されている逆流制御板の高さ位置に関する周知技術を組み合わせることに関して、上記阻害要因は存在しない。

イ 効果について
本件発明2の奏する効果は、甲1発明及び周知技術から当業者が予測できたものである。

ウ 小括
したがって、本件発明2は、当業者が甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

3 本件発明3について

(1)対比
本件発明3と甲1発明を対比する。

ア 甲1発明における「立て管」、「接続され」、「排水集合管継手」、「『側面部で』『2つの横枝管受け口6,9』」、「『排水集合管継手の』『管軸方向の異なる位置に2つの横枝管受け口6,9が設けられ』」、「『横枝管受け口6,9が』『排水集合管継手に対して互いに平面交差する方向へ突出』」、「横枝管受け口6に対向する管内壁面」、「両側方」、「『管内壁面から管中心に向けて張出し形成され』る『両第2整流板30,30』」及び「第2整流板30,30により、管内壁面に衝突した排水の衝突後における側方への飛散が防止され、これにより他の横枝管受け口9への排水の逆流が防止される」は、それぞれ、本件発明3における「立主管」、「介設され」、「『管本体』又は『排水集合管』」、「側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数」、「複数の管継ぎ手部のうち少なくとも2つが互いに前記管本体の管軸方向の異なる位置に設けられ」、「これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出」、「『管本体における』『管継ぎ手部の開口部に対向する面』」、「両側」、「管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブ」及び「管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する」に相当する。

イ 甲1発明において、「第2整流板30,30は、横枝管受け口6に対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方に設けられ」ていることから、甲1発明の「『横枝管受け口6に対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方に設けられ』た『第2整流板30,30』」と本件発明3の「『前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側』に設けられた『逆流防止リブ』」とは、「複数の管継ぎ手部のうちの1つの開口部に対向する面の両側に設けられた逆流防止リブ」である点で一致する。

ウ 上記ア及びイから、本件発明3と甲1発明とは、「立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数設けられ、これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出しており、該複数の管継ぎ手部のうち少なくとも2つが互いに前記管本体の管軸方向の異なる位置に設けられて突出しており、前記管本体における複数の管継ぎ手部のうちの1つの開口部に対向する面の両側には、前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられている排水集合管。」の点で一致し、次の相違点2及び3で相違する。

相違点2:
本件発明3は、「『管継ぎ手部が複数設けられ、』『前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、』『逆流防止リブが設けられて』いる」のに対して、
甲1発明は、「第2整流板30,30」(逆流防止リブ)は、「横枝管受け口6に対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方に設けられ」ている点。

相違点3:
本件発明3は、「逆流防止リブは、それぞれ、前記管軸方向において少なくとも開口部の開口中心を含む前記管軸方向の前記開口部の上端位置から前記開口部の下端位置までにわたって形成されている」のに対して、
甲1発明は、その特定がない点。

(2)判断

ア 上記相違点2は、上記1(2)イに記載したとおり、当業者が甲1発明に基づいて容易に想到する事項にすぎず、上記相違点3は、上記2(2)アに記載したとおり、甲1発明において、周知技術を採用し、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

イ 効果について
本件発明3の奏する効果は、甲1発明及び周知技術から当業者が予測できたものである。

ウ 小括
したがって、本件発明3は、当業者が甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 本件発明4について

(1)対比
本件発明4と甲1発明を対比する。

ア 甲1発明における「立て管」、「接続され」、「排水集合管継手」、「『側面部で』『2つの横枝管受け口6,9』」、「『排水集合管継手の』『管軸方向の異なる位置に2つの横枝管受け口6,9が設けられ』」、「横枝管受け口6,9が管軸方向にみたときに排水集合管継手に対して互いに平面交差する方向へ突出」、「横枝管受け口6に対向する管内壁面」、「両側方」及び「『管内壁面から管中心に向けて張出し形成され』る『両第2整流板30,30』」は、それぞれ、本件発明4における「立主管」、「介設され」、「『管本体』又は『排水集合管』」、「側面部で横向きとされた複数の管継ぎ手部」、「少なくとも2つが前記管本体の管軸方向の異なる位置に設けられ」、「これらの管継ぎ手部が前記管軸方向にみたときに前記管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出」、「『管本体における』『管継ぎ手部の開口部に対向する面』」、「両側」及び「管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブ」に相当する。

イ 甲1発明において、「第2整流板30,30は、横枝管受け口6に対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方に設けられ」ていることから、甲1発明の「『横枝管受け口6に対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方に設けられ』た『第2整流板30,30』」と本件発明4の「『前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側』に設けられた『逆流防止リブ』」とは、「複数の管継ぎ手部のうちの1つの開口部に対向する面の両側に設けられた逆流防止リブ」である点で一致する。

ウ 上記ア及びイから、本件発明4と甲1発明とは、「立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた複数の管継ぎ手部の少なくとも2つが前記管本体の管軸方向の異なる位置に設けられ、これらの管継ぎ手部が前記管軸方向にみたときに前記管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出しており、前記管本体における複数の管継ぎ手部のうちの1つの開口部に対向する面の両側には、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられている排水集合管。」の点で一致し、次の相違点2及び4で相違する。

相違点2:
本件発明4は、「『複数の管継ぎ手部』が『設けられ、』『前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、』『逆流防止リブが設けられて』いる」のに対して、
甲1発明は、「第2整流板30,30」(逆流防止リブ)は、「横枝管受け口6に対向する管内壁面であって、該横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方に設けられ」ている点。

相違点4:
本件発明4は、「逆流防止リブは、前記管軸方向において上方側に位置する前記管継ぎ手部の開口部よりも上方寄り位置から、前記管軸方向において下方側に位置する前記管継ぎ手部の開口部よりも下方寄りの位置まで延びている」のに対して、
甲1発明は、その特定がない点。

(2)判断
上記相違点2については、上記1(2)イに記載したとおり、当業者が甲1発明に基づいて当業者が容易に想到する事項にすぎないので、上記相違点4について検討する。

ア 上記2(2)ア(ア)に記載したように、立管に横枝管を接合するための排水管継手に関する技術において、開口の上縁より高い位置から開口の下縁より低い位置まで伸びる逆流制御板は周知技術であり、また、甲1発明の「第2整流板30,30」は、「横枝管から流入した排水が衝突する位置の両側方」で「排水の衝突位置を囲うように配置され」ており、すなわち、第2整流板30,30は、横枝管から流入した排水の衝突位置を考慮して配置されていることから、排水の衝突位置を考慮し、第2整流板30,30を、管軸方向において上方側に位置する横枝管受け口の開口部よりも上方寄り位置から、前記管軸方向において下方側に位置する横枝管受け口の開口部よりも下方寄りの位置まで延びるようになすことは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
したがって、甲1発明において、周知技術を採用し、上記相違点4に係る本件発明4の構成となすことは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

イ 効果について
本件発明4の奏する効果は、甲1発明及び周知技術から当業者が予測できたものである。

ウ 小括
したがって、本件発明4は、当業者が甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび

以上のとおり、本件発明1は、当業者が甲第1号証に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであり、本件発明2ないし4は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1ないし4についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
排水集合管
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数設けられ、
これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ前記管本体の管軸方向の同じ位置に設けられて突出しており、
前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられている
ことを特徴とする排水集合管。
【請求項2】
立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数設けられ、
これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ前記管本体の管軸方向の同じ位置に設けられて突出しており、
前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられており、
前記逆流防止リブは、
それぞれ、前記管軸方向において少なくとも前記開口部の開口中心を含む前記管軸方向の前記開口部の上端位置から前記開口部の下端位置までにわたって形成されている
ことを特徴とする排水集合管。」
【請求項3】
立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数設けられ、
これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出しており、該複数の管継ぎ手部のうち少なくとも2つが互いに前記管本体の管軸方向の異なる位置に設けられて突出しており、
前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、前記管継ぎ手部を介して前記管本体内へ流れ込み対向する面に突き当たった排水流の反射流がぶつかり他方の管継ぎ手部への逆流を防止する、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられており、
前記逆流防止リブは、
それぞれ、前記管軸方向において少なくとも前記開口部の開口中心を含む前記管軸方向の前記開口部の上端位置から前記開口部の下端位置までにわたって形成されている
ことを特徴とする排水集合管。
【請求項4】
立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた複数の管継ぎ手部の少なくとも2つが前記管本体の管軸方向の異なる位置に設けられ、
これらの管継ぎ手部が前記管軸方向にみたときに前記管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出しており、
前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられており、
前記逆流防止リブは、前記管軸方向において上方側に位置する前記管継ぎ手部の開口部よりも上方寄り位置から、前記管軸方向において下方側に位置する前記管継ぎ手部の開口部よりも下方寄りの位置まで延びている
ことを特徴とする排水集合管。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、排水集合管に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図7及び図8に示すように、集合住宅等の多層階建物で採用される排水管システムは、各階を縦方向に貫いて配管される立主管100に対し、各階ごとに対応させて排水集合管101が介設され、これらそれぞれの排水集合管101を介して、各階用の横枝管102,103が接続されるようになっている。
この種の排水集合管101では、核となる管本体105の側部に、横枝管102,103に対応して横向きの管継ぎ手部106,107が複数設けられている。
【0003】
図例の排水集合管101は、管継ぎ手部106,107が互いに平面L字状を呈するようにして平面交差方向へ突出されたものとなっている。
このようなL字タイプの排水集合管101を用いて便器排水を排水させる場合、いずれか一方の管継ぎ手部(いま仮に符号106の方とおく)に接続する横枝管102を便器108へと繋げ、他方の管継ぎ手部(従って符号107の方である)に接続する横枝管103を例えば風呂等の排水機器109等へと繋げることになる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記した平面L字状タイプの排水集合管101では、これを用いて便器排水のように勢いのある排水流を排水させるようにした場合、便器108側の横枝管102から管継ぎ手部106を介して管本体105内に便器排水が流れ込んだ場合に、この便器排水が管本体105内で対向する内周面に突き当たり、その反射流が勢い余って内周面を伝いながら他方の管継ぎ手部107へと流れ込み、もって横枝管103に逆流してしまうということがあった。
【0005】
なお、このような問題は便器排水に限らず、勢いのある排水流を排水させる場合に起こりうるものであった。
ところで、従来、この種の問題を解消できるものとして管本体105内に垂下壁を設けることも考えられている(特開平8-85989号公報参照)が、垂下壁は試験球の通過を考慮しながらの形成になるので、構造的にコスト高を伴う等の問題があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、便器排水などのような勢いのある排水流を排水する場合にその排水が他の横枝管へ逆流することがないようにできる排水集合管を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係る排水集合管は、立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数設けられており、これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出しており、前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられている。
【0007】
このような逆流防止リブが設けられていると、便器排水のように勢いのある排水流が管継ぎ手部(例えば符号6)を介して管本体内に流れ込んだ場合に、この排水流が管本体内で対向する内周面に突き当たっても、その反射流はすぐに逆流防止リブにぶつかるようになる。
そのため、管本体内へ流れ込んだ排水流が管本体の内周面を伝うといった現象は抑制され、結果として、この排水流が他方の管継ぎ手部(符号7)から横枝管(103)へと逆流することは防止されるものである。
【0008】
なお、このような逆流防止リブは、試験球の通過にとって障害となるものではないので、構造的に簡潔であり、コスト高には繋がらないという利点もある。
本発明に係る他の排水集合管は、立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた管継ぎ手部が複数設けられ、これらの管継ぎ手部が管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出しており、前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられており、前記逆流防止リブは、前記管軸方向において少なくとも前記開口部の開口中心を含む前記管軸方向の前記開口部の上端位置から前記開口部の下端位置までにわたって形成されている。
【0009】
逆流防止リブの配置をこのようにすることで、管本体内に流れ込んだ排水流の内周面伝い現象を抑制する作用が高まり、逆流防止効果を高めることができる。
複数の前記管継ぎ手部のうち少なくとも2つを互いに前記管軸方向の異なる位置に設けてもよい。
本発明に係る他の排水集合管は、立主管に介設される管本体に対しその側面部で横向きとされた複数の管継ぎ手部の少なくとも2つが前記管軸方向の異なる位置に設けられ、
これらの管継ぎ手部が前記管軸方向にみたときに前記管本体に対して互いに平面交差する方向へ突出しており、前記管本体における前記管継ぎ手部の開口部に対向する面の両側には、管中心方向へ向けて張り出し管軸方向に延びる逆流防止リブが設けられており、
前記逆流防止リブは、前記管軸方向において上方側に位置する前記管継ぎ手部の開口部よりも上方寄り位置から、前記管軸方向において下方側に位置する前記管継ぎ手部の開口部よりも下方寄りの位置まで延びている。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図3及び図4は、本発明に係る排水集合管1の第1実施形態を示しており、図1及び図2は、この第1実施形態の排水集合管1を用いて集合住宅等の多層階建物での排水管システムを配管させた状況を示している。
この排水集合管1は、多層階建物の各階を縦方向に貫いて建て込まれる立主管100に対して、各階に対応した部分で介設される。
【0011】
そのため、この排水集合管1において核を成している管本体2に対し、その上端部及び下端部に立主管100用縦管と接続するための上部継ぎ手部3及び下部継ぎ手部4が設けられている。
なお、図例の上部継ぎ手部3は受け口(ソケット又はメカニカル)タイプとしてあり、下部継ぎ手部4は差し口(ストレート管)タイプとしてあるが、これらはフランジ継ぎ手タイプ等の他のタイプとしてもよい。
この管本体2の側面部には、複数(図例では二つ)の管継ぎ手部6,7が設けられている。
【0012】
図例の管継ぎ手部6,7はいずれも受け口(ソケット又はメカニカル)タイプとしてあるが、フランジ継ぎ手タイプや差し口(ストレート管)タイプ等の他のタイプでもよい。
これら管継ぎ手部6,7は横向きであり、平面L字状を呈するように管本体2に対して互いに平面交差方向へ突出されたものとなっている。各管継ぎ手部6,7には横枝管102,103を接続可能になっており、このうち一方の横枝管102が便器108へと繋げられるものとする。
【0013】
なお、他方の横枝管103は、例えば風呂等の排水機器109へと繋げられるものとする。
管本体2の内部には複数の逆流防止リブ10?13が設けられている。
逆流防止リブ10?13は、いずれも、管本体2の内周面から管中心方向(正確な管中心でなくてもよい)へ向けて張り出したものである。また逆流防止リブ10?13は、いずれも、管軸方向に沿って延びている。
各逆流防止リブ10?13が管本体2の管軸方向において設けられる位置付けは、管継ぎ手部6,7と同じ位置付けとなるように設定されている。
【0014】
また、各逆流防止リブ10?13が管本体2の周方向において設けられる位置付けは、平面交差状に隣接している各管継ぎ手部6,7に対し、それらが管本体2の内側で開口している部分(図3に示すように一方の管継ぎ手部6の開口部を15とし、他方の管継ぎ手部7の開口部を16とする)の中間位置を含んだものとされている。
いま、この位置付けにあるものを説明の便宜上、第1逆流防止リブ10とおき、且つその他の逆流防止リブ11,12,13を時計回り方向で昇順的に呼称するものとおくと、第2逆流防止リブ11は、第1逆流防止リブ10から管継ぎ手部6の開口部15を挟んだ対称位置に位置付けられている。従って、この開口部15に対してその両脇位置に逆流防止リブ10,11が設けられていることになる。
【0015】
また、第4逆流防止リブ13は、第1逆流防止リブ10から管継ぎ手部7の開口部16を挟んだ対称位置に位置付けられている。従って、この開口部16に対してその両脇位置に逆流防止リブ10,13が設けられていることになる。
そして、第3逆流防止リブ12は、第1逆流防止リブ10に対して管本体2の管中心を挟んだ対称位置に位置付けられている。
従って、これらの説明から明らかなように、逆流防止リブ10?13は、管本体2の内周面を四等分する位置付けで設けられていることになる。
【0016】
なお、本第1実施形態の管本体2では、排水を効率よく立主管100へ流下させるための旋回羽根17が設けられているものとした。
図1及び図2に示すように、このような構成の排水集合管1では、便器108に接続する横枝管102から一方の管継ぎ手部6を介して管本体2内へ便器排水が勢いよく流れ込んだとしても、この排水流は、管本体2内で対向する内周面2aに突き当たった後、その反射流がすぐに第3逆流防止リブ12や第4逆流防止リブ13にぶつかるようになる。
【0017】
のみならず、仮にこれら第3、第4の逆流防止リブ12,13を乗り越える反射流があったとしても、それらは第1逆流防止リブ10や第2逆流防止リブ11にぶつかることになる。
そのため、排水流の反射流が管本体2の内周面を伝うといった現象は確実に抑制され、結果として、この排水流が他方の管継ぎ手部7から横枝管103へと逆流することは防止されるものである。
なお、上記したように逆流防止リブ10?13は、管本体2の内周面に対して四等配置で設けられているので、管継ぎ手部7に接続した横枝管103側から勢いのある排水流が流入した場合(勿論、この横枝管103を便器108へ繋いだ場合を含む)でも、管本体2内へ流れ込んだ排水流が管本体2の内周面を伝うという現象は確実に抑制されることになる。すなわち、排水集合管1として、その配管(使用態様)が限定されることはない。
【0018】
図5は、本発明に係る排水集合管1の第2実施形態を示している。
この第2実施形態の排水集合管1が上記第1実施形態と異なるところは、管本体2が縦長に形成されており、それに伴って逆流防止リブ10?13も縦長に形成されている点にある。
管本体2の縦長化は、管継ぎ手部6,7の下部側で行われたものとしてあるが、管継ぎ手部6,7の上部側で行われたものとしてもよい。
その他の構成、構造及び作用効果等は第1実施形態の場合と略同様であるので、ここでの詳説は省略する。
【0019】
図6は、本発明に係る排水集合管1の第3実施形態を示している。
この第3実施形態の排水集合管1も上記第2実施形態の場合と同様に、管本体2が縦長に形成されたものであるが、更に管本体2に対し、管継ぎ手部6,7とは高さを異ならせた配置で、新たに別の管継ぎ手部20が設けられたものとなっている。
そして、これに伴い、管本体2の管軸方向において管継ぎ手部6,7と同じ位置付けで設けられた逆流防止リブ10A?13Aとは別に、管継ぎ手部20と同じ位置付けで逆流防止リブ10B?13Bが設けられたものとしてある。
【0020】
なお、図例では、上方側の逆流防止リブ10A?13Aと下方側の逆流防止リブ10B?13Bとが上下に分離されたものとしてあるが、一連に連続させたものとしてもよい。
その他の構成、構造及び作用効果等は第1実施形態や第2実施形態の場合と略同様であるので、ここでの詳説は省略する。
ところで、本発明は、上記した各実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
【0021】
例えば、この排水集合管1の形成材料、管継ぎ手部6,7,20の配置数や配置、その管径サイズ等は何ら限定されるものではない。従って、平面L型の二方とする他、平面T型やY型等の三方、平面十字型の四方などとすることも可能である。
また、この排水集合管1は、多層階建物において使用されることが限定されるものではない。
逆流防止リブ10?13における管中心へ向けた張り出し長さなどは、限定されない。
【0022】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明に係る排水集合管は、便器排水などのような勢いのある排水流を排水する場合に、その排水が他の横枝管へ逆流することがないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る排水集合管の第1実施形態を用いた配管形態を示した平面図である。
【図2】図1に対応する側面図である。
【図3】本発明に係る排水集合管の第1実施形態を示した一部破砕平面図である。
【図4】本発明に係る排水集合管の第1実施形態を示した一部破砕側面図である。
【図5】本発明に係る排水集合管の第2実施形態を示した一部破砕側面図である。
【図6】本発明に係る排水集合管の第3実施形態を示した一部破砕側面図である。
【図7】従来の排水集合管を用いた配管形態を示した平面図である。
【図8】図7に対応する側面図である。
【符号の説明】
1 排水集合管
2 管本体
6 管継ぎ手部
7 管継ぎ手部
10?13 逆流防止リブ
15,16 開口部
100 立主管
102 横枝管
108 便器
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2010-12-27 
出願番号 特願2002-249696(P2002-249696)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (E03C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 秀幹  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 長島 和子
野村 伸雄
登録日 2008-05-02 
登録番号 特許第4118635号(P4118635)
発明の名称 排水集合管  
代理人 岩坪 哲  
代理人 特許業務法人岡田国際特許事務所  
代理人 岩坪 哲  
代理人 速見 禎祥  
代理人 速見 禎祥  

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