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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1233920
審判番号 不服2008-4397  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-25 
確定日 2011-03-14 
事件の表示 特願2003-399307「炭化物パネル体」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月16日出願公開、特開2005-154243〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年11月28日の出願であって、平成18年10月23日付けで拒絶理由が通知され、同年12月25日に意見書とともに手続補正書が提出され、平成20年1月18日付けで拒絶査定された。
これに対し、平成20年2月25日に拒絶査定不服審判請求がなされ、同年3月26日に手続補正書が提出されたものであり、その後、平成22年9月9日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、これに対する回答書が同年11月12日に提出されている。

2.平成20年3月26日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年3月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正は、補正前(平成18年12月25日付け手続補正書により補正されたもの)特許請求の範囲を、以下のようにする補正を含むものである。

「 【請求項1】
所定部位に配設されるパネル体であって、炭化物と無機系中性固化材としての焼石膏と水とから成り、前記炭化物が前記無機系中性固化材により結合されることでポーラス状となっており、また、前記炭化物及び前記無機系中性固化材により形成される空隙並びに前記無機系中性固化材に形成された空隙が排水作用を発揮し、更に、前記炭化物が有する小空隙が保水作用を発揮するように構成され、また、植物を植生する植栽部が設けられていることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項2】
請求項1記載の炭化物パネル体において、無機系固化材が混合されていることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の炭化物パネル体において、前記炭化物として粒状の炭化物が採用されていることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項4】
請求項1,2いずれか1項に記載の炭化物パネル体において、前記炭化物として粉状の炭化物が採用されていることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項5】
請求項4記載の炭化物パネル体において、増粘材が混合されていることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項6】
請求項1?5いずれか1項に記載の炭化物パネル体において、高分子吸収材が混合されていることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項7】
請求項6記載の炭化物パネル体において、前記高分子吸収材は、所定厚さで配設された高分子吸収材層であることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項8】
請求項1?7いずれか1項に記載の炭化物パネル体において、前記植物は種子を吹き付けて植生したものであることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項9】
請求項1?8いずれか1項に記載の炭化物パネル体において、前記植物として張芝,苔類,セダム類等の地被植物が採用されていることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項10】
請求項1?9いずれか1項に記載の炭化物パネル体において、前記パネル体は、平面視方形状であり、所定面積毎に分割することができるものであることを特徴とする炭化物パネル体。」

「 【請求項1】
所定部位に配設されるパネル体であって、炭化物,無機系中性固化材としての焼石膏,水,高分子吸収材並びにSiO_(2),MgO,CaO,Al_(2)O3,Fe_(2)O_(3)及びP_(2)O_(5)を含む無機系固化材((株)エコ・プロジェクト製:商品名泥ん固)から成り、前記炭化物が前記無機系中性固化材により結合されることでポーラス状となっており、また、前記炭化物及び前記無機系中性固化材により形成される空隙並びに前記無機系中性固化材に形成された空隙が排水作用を発揮し、更に、前記炭化物が有する小空隙が保水作用を発揮するように構成され、また、植物を植生する植栽部が設けられていることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項2】
請求項1記載の炭化物パネル体において、前記炭化物1m^(3)あたり、前記焼石膏が100?300kg、前記泥ん固が10?60kg混入されていることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の炭化物パネル体において、前記炭化物として粒状の炭化物が採用されていることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項4】
請求項1,2いずれか1項に記載の炭化物パネル体において、前記炭化物として粉状の炭化物が採用されていることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項5】
請求項4記載の炭化物パネル体において、増粘材が混合されていることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項6】
請求項1?5いずれか1項に記載の炭化物パネル体において、前記高分子吸収材は、所定厚さで配設された高分子吸収材層であることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項7】
請求項6記載の炭化物パネル体において、前記パネル体は複数の分割体を連設して形成されるものであり、前記高分子吸収材層は各分割体の厚さ方向中間部に夫々配設されていることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項8】
請求項1?7いずれか1項に記載の炭化物パネル体において、前記植物は種子を吹き付けて植生したものであることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項9】
請求項1?8いずれか1項に記載の炭化物パネル体において、前記植物として張芝,苔類,セダム類等の地被植物が採用されていることを特徴とする炭化物パネル体。
【請求項10】
請求項1?9いずれか1項に記載の炭化物パネル体において、前記パネル体は、平面視方形状であり、所定面積毎に分割することができるものであることを特徴とする炭化物パネル体。」
とする。
(当審注:アンダーラインが補正箇所)

(2)補正の目的について
上記補正は、下記補正事項A?Eに示す補正を行うものである。
補正事項A:補正前の請求項2を引用する請求項6を補正後の請求項1とするとともに、「無機系固化材」について、「SiO_(2),MgO,CaO,Al_(2)O3,Fe_(2)O_(3)及びP_(2)O_(5)を含む無機系固化材((株)エコ・プロジェクト製:商品名泥ん固)」と特定する
補正事項B:上記補正事項Aに伴い、補正前の請求項1及び2を削除する
補正事項C:請求項2を新たに追加する
補正事項D:上記補正事項Aに伴い、補正前の請求項7を請求項6とする
補正事項E:請求項7を新たに追加する

しかしながら、上記補正事項C及びEのように、新たに請求項を追加する補正は、いわゆる増項補正であって、「請求項の削除」を目的とするものに該当せず、「特許請求の範囲の減縮」、「誤記の訂正」、「明りょうでない記載の釈明」のいずれにも該当しない。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(3)独立特許要件について
本件補正は、上記(2)で述べたとおり、補正却下されるべきものであるが、仮に、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものとして、さらに検討する。

(3-1)本件補正発明
本件補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲および明細書並びに図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次の事項により特定されるものである。
「 【請求項1】
所定部位に配設されるパネル体であって、炭化物,無機系中性固化材としての焼石膏,水,高分子吸収材並びにSiO_(2),MgO,CaO,Al_(2)O3,Fe_(2)O_(3)及びP_(2)O_(5)を含む無機系固化材((株)エコ・プロジェクト製:商品名泥ん固)から成り、前記炭化物が前記無機系中性固化材により結合されることでポーラス状となっており、また、前記炭化物及び前記無機系中性固化材により形成される空隙並びに前記無機系中性固化材に形成された空隙が排水作用を発揮し、更に、前記炭化物が有する小空隙が保水作用を発揮するように構成され、また、植物を植生する植栽部が設けられていることを特徴とする炭化物パネル体。」

(3-2)「SiO_(2),MgO,CaO,Al_(2)O_(3),Fe_(2)O_(3)及びP_(2)O_(5)を含む無機系固化材((株)エコ・プロジェクト製:商品名泥ん固)」について
請求項1には、「SiO_(2),MgO,CaO,Al_(2)O_(3),Fe_(2)O_(3)及びP_(2)O_(5)を含む無機系固化材((株)エコ・プロジェクト製:商品名泥ん固)」という発明特定事項が記載されているが、これらの成分割合(例えば、重量%等)について何ら特定されていない。
一方、本件補正により補正された明細書(以下、「本件補正明細書」という。)の段落【0039】?【0041】にはそれぞれ、
「また、パネル体1には、SiO_(2),MgO,CaO,Al_(2)O_(3)を主成分とする無機系固化材が助材として混合されている。」、
「この無機系固化材には、上記主成分の他に、Fe_(2)O_(3),P_(2)O_(5)等が微量混合されている。」、
「尚、本実施例では、無機系固化材として、株式会社エコ・プロジェクト製の商品名「泥ん固」が採用されている。」
と記載されているが、いずれの記載においても無機系固化材の成分割合について何ら特定されておらず、前記無機系固化材の商品名を例示したとしても、成分割合が特定されるとはいえない。
そして、「SiO_(2),MgO,CaO,Al_(2)O_(3),Fe_(2)O_(3)及びP_(2)O_(5)を含む無機系固化材((株)エコ・プロジェクト製:商品名泥ん固)」が、どのような成分割合であるときに、あるいは、どの成分が、本件補正明細書の段落【0042】、【0058】、【0059】に例示されるような、「焼石膏に更に強度を付与する」、「焼石膏は経時と共に、微量ではあるが、水に溶ける性質があることからこれを抑制する」という特性を示すのか不明であることからみて、無機系固化材の成分割合を明確に規定していない本件補正発明において、上記「焼石膏に更に強度を付与する」、「焼石膏は経時と共に、微量ではあるが、水に溶ける性質があることからこれを抑制する」のか不明であり、出願時の技術常識に照らしても、本件補正発明全てにおいて、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件補正発明は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成20年3月26日付の手続補正は、上記のとおり、却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成18年12月25日付けで補正された特許請求の範囲および明細書並びに図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載されたとおりのものであり、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるものである。

「 【請求項1】
所定部位に配設されるパネル体であって、炭化物と無機系中性固化材としての焼石膏と水とから成り、前記炭化物が前記無機系中性固化材により結合されることでポーラス状となっており、また、前記炭化物及び前記無機系中性固化材により形成される空隙並びに前記無機系中性固化材に形成された空隙が排水作用を発揮し、更に、前記炭化物が有する小空隙が保水作用を発揮するように構成され、また、植物を植生する植栽部が設けられていることを特徴とする炭化物パネル体。」

4.引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特開2003-189737号公報(以下、「引用文献1」という。)、特開平8-283079号公報(以下、「引用文献2」という。)には、それぞれ次の事項が記載されている。

(1)引用文献1
(ア)「所定の部位を緑化する際に配設されるパネル体であって、植物を植生する培土の下方に敷設され、複数の粒状の炭化物とセメントとから成り、該炭化物がセメントにより結合されることでポーラス状となっていることを特徴とする緑化用のパネル体。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(イ)「【発明の作用及び効果】炭化物3は多数の小空隙16を有しているから、この小空隙16が水分を保持する作用を発揮し、これにより、パネル体2は良好な保水性を発揮することができる。」(段落【0021】)
(ウ)「また、パネル体2はポーラス状であるから、多数の通水可能な空隙15,18を有しており、これにより、パネル体2は良好な排水性を発揮できることになる。」(段落【0023】)
(エ)「本実施例は、所定の部位を緑化する緑化工法であって、複数の粒状の炭化物3とセメント4とを混合して固化することでポーラス状の緑化用パネル体2を形成し、この緑化用パネル体2を前記所定の部位に敷設し、続いて、この緑化用パネル体2の上方に培土7を敷設し、この培土7で植物12を植生するものである。」(段落【0030】)
(オ)「尚、本実施例におけるセメントとはセメント粉に水を混合して固化したもの、コンクリートとはセメントに砂利等が骨材として含まれているものである。」(段落【0032】)
(カ)「この緑化用パネル体2は、図4に図示したように、複数の粒状の炭化物3とセメント4を混合して固化することでポーラス状(多孔質状態)に形成している。
この緑化用パネル体2の製造方法について説明すると、粒状に形成された炭化物3に粉末セメントを加えて混合し、よく撹拌する。
続いて、この撹拌した混合物に適量の水分を加えて液状の混合物とする。
続いて、この液状の混合物を型枠に流し込み、乾燥固化することで、ポーラス状(多孔質状態)の緑化用パネル体2を形成する(図5参照)。尚、炭化物3とセメント4との混合物(液状)を単に乾燥固化するだけでポーラス状の緑化用パネル体2が形成されるのは、該緑化用パネル体2を形成する際の炭化物3の量に対するセメント4の量が少ないためである。
この緑化用パネル体2の炭化物3とセメント4との混合割合は、炭化物1m^(3)当たりセメント4を60乃至100kgに設定されている。尚、この数値は、繰り返し行った実験により、緑化用パネル体2がポーラス状となり、排水層として最適な特性を発揮し、且つ、植物12の植生に必要な保水性,保肥性等を発揮し得る数値であることを確認している。」(段落【0035】?【0039】)
(キ)「本実施例によれば、降雨の際には、この水分が植物12を植生する培土7に浸み込み、この培土7に浸み込んだ水分の余剰分がフィルター6を介して緑化用パネル体2内に流入し、該水分の一部は緑化用パネル体2を構成する炭化物3の小空隙16に入り込んで、該炭化物3に保持されることになる。また、残る余剰な水分は、ポーラス状に固化された緑化用パネル体2に形成された多数の空隙(この空隙は、セメント4の空隙15と,炭化物3とセメント4との間に生じた空隙18の双方である。)を通過することになる。」(段落【0050】)

(2)引用文献2
(ク)「内在する孔部が相互に連通し、かつ部材端部に存在する孔部が外部に開放されていることを特徴とする多孔質部材。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(ケ)「水和反応により硬化する基材と、混練することにより当該基材をペースト状にする水と、湿潤状態から乾燥することにより収縮する粒状の多数の自己収縮材とを、当該自己収縮材が相互に接触する配分比率で混練した後、硬化させ、さらに乾燥させることを特徴とする多孔質部材の製造方法。」(特許請求の範囲【請求項3】)
(コ)「前記基材が、セメントであることを特徴とする請求項3ないし8のいずれか1項に記載の多孔質部材の製造方法。」(特許請求の範囲【請求項9】)
(サ)「前記基材が、石膏であることを特徴とする請求項3ないし8のいずれか1項に記載の多孔質部材の製造方法。」(特許請求の範囲【請求項10】)
(シ)「【産業上の利用分野】本発明は、防音壁や建築資材として用いられる吸音材、透水性を有する舗装材、植物を植込み可能な造園材など、多目的に用いられる多孔質部材およびその製造方法に関するものである。」(段落【0001】)
(ス)「(第1実施例)図1は、本発明の第1実施例に係る多孔質部材の製造方法の説明図である。この多孔質部材1の製造方法では先ず、自己収縮材としてケイ酸ナトリウムゲル粒子(以下「生ゲル」と略称する)2を、基材としてセメントを、また必要に応じて骨材や減水剤などを、さらに水(水道水)を用意する。この生ゲル2は、シリカゲルの製造過程で生ずる中間体であり、常温に放置すると、水分がゆっくり蒸発して収縮する性質を有している。」(段落【0026】)
(セ)「(第2実施例)第2実施例の多孔質部材1は、第1実施例と基材が異なるだけで、基本構造はほぼ同一であるため、図1をそのまま援用して説明する。先ず、自己収縮材として第1実施例と同様に生ゲル2を、基材として石膏を、そして水(水道水)を用意する。生ゲル2は第1実施例と同様に適宜、粉末状、粒子状または塊状のものを用意し、石膏は水硬性のものを用意する。」(段落【0035】)
(ソ)「【発明の効果】以上のように請求項1の多孔質部材によれば、基材内に相互に連通した孔部を有するため、単に軽量になるだけでなく、吸音性能や透水・保水性能を持たせるとができ、防音壁や建材としての吸音材、透水性を有する舗装材、護岸や公園の植込み用に用いる造園材など、広く用いることができる。すなわち、基材を選択することにより、多目的に応用可能なものとすることができる。」(段落【0086】)

5.対比・判断
引用文献1には、記載事項(ア)に、「所定の部位を緑化する際に配設されるパネル体であって、植物を植生する培土の下方に敷設され、複数の粒状の炭化物とセメントとから成り、該炭化物がセメントにより結合されることでポーラス状となっている・・・緑化用のパネル体。」が記載されている。 この「緑化用のパネル体」について、記載事項(カ)に、「この緑化用パネル体2は、図4に図示したように、複数の粒状の炭化物3とセメント4を混合して固化することでポーラス状(多孔質状態)に形成している。
この緑化用パネル体2の製造方法について説明すると、粒状に形成された炭化物3に粉末セメントを加えて混合し、よく撹拌する。
続いて、この撹拌した混合物に適量の水分を加えて液状の混合物とする。
続いて、この液状の混合物を型枠に流し込み、乾燥固化することで、ポーラス状(多孔質状態)の緑化用パネル体2を形成する(図5参照)。」と記載されており、「水分を加えて」いるから、この「緑化用のパネル体」は、「炭化物3」と「セメント4」と「水」から成っているといえる。
また、記載事項(ウ)に、「パネル体2はポーラス状であるから、多数の通水可能な空隙15,18を有しており、これにより、パネル体2は良好な排水性を発揮できることになる。」と記載され、前記「空隙15,18」について、記載事項(キ)に、「この空隙は、セメント4の空隙15と,炭化物3とセメント4との間に生じた空隙18の双方である。」と記載されており、上記「緑化用のパネル体」には、「セメント4の空隙15と,炭化物とセメント4との間に生じた空隙18」が形成され、「良好な排水性を発揮」しているといえる。
上記「炭化物」について、記載事項(イ)に、「炭化物3は多数の小空隙16を有しているから、この小空隙16が水分を保持する作用を発揮し、これにより、パネル体2は良好な保水性を発揮することができる。」と記載されている。
上記「セメント」について、記載事項(カ)に、「尚、炭化物3とセメント4との混合物(液状)を単に乾燥固化するだけでポーラス状の緑化用パネル体2が形成されるのは、該緑化用パネル体2を形成する際の炭化物3の量に対するセメント4の量が少ないためである。」と記載されており、この「セメント」は、炭化物の固化材として用いられているといえる。

これらの記載を本願発明の記載ぶりに則して整理すると、引用文献1には、
「所定の部位を緑化する際に配設されるパネル体であって、複数の粒状の炭化物と固化材としてのセメントと水とから成り、該炭化物が固化材により結合されることでポーラス状となっており、前記炭化物と固化材の間に生じた空隙と、固化材の空隙が良好な排水性を発揮し、炭化物が有する小空隙が保水性を発揮し、植物を植生する培土を施設した緑化用のパネル体。」(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで本願発明と引用文献1発明とを比較する。
(a)引用文献1発明の「緑化用のパネル体」について、記載事項(カ)に、「該緑化用パネル体2を形成する際の炭化物3の量に対するセメント4の量が少ないためである。
この緑化用パネル体2の炭化物3とセメント4との混合割合は、炭化物1m^(3)当たりセメント4を60乃至100kgに設定されている。」と記載されている。
一方、本願明細書の段落【0052】には、「パネル体1は、炭化物1m^(3)あたり、焼石膏100kg乃至300kg,無機系固化材(助材)10kg乃至60kgが混合され形成されている。」と記載されており、炭化物と固化材との混合比からみて、多量の炭化物を用いる点で共通するから、引用文献1発明の「緑化用のパネル体」は、本願発明の「炭化物パネル体」に相当する。
(b)引用文献1発明の「炭化物と固化材の間に生じた空隙」、「固化材の空隙」、「植物を植生する培土」は、それぞれ本願発明の「炭化物及び無機系中性固化材により形成される空隙」、「無機系中性固化材に形成された空隙」、「植物を植生する植栽部」に相当する。
(c)セメントは無機物であるから、引用文献1発明の「固化材」は、本願発明の「無機系中性固化材」と、「無機系固化材」で共通する。

上記(a)?(c)を踏まえると、両者は、
「所定部位に配設されるパネル体であって、炭化物と無機系固化材と水とから成り、前記炭化物が前記無機系固化材により結合されることでポーラス状となっており、また、前記炭化物及び前記無機系固化材により形成される空隙並びに前記無機系固化材に形成された空隙が排水作用を発揮し、更に、前記炭化物が有する小空隙が保水作用を発揮するように構成され、また、植物を植生する植栽部が設けられている炭化物パネル体。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点A:本願発明は、上記「無機系固化材」として、「無機系中性固化材である焼石膏」を用いているのに対し、引用文献1発明では「セメント」を用いている点

上記相違点Aについて検討する。
引用文献2には、記載事項(ク)に、「内在する孔部が相互に連通し、かつ部材端部に存在する孔部が外部に開放されている・・・多孔質部材。」が記載され、この「多孔質部材」は、記載事項(ソ)に、「基材内に相互に連通した孔部を有するため、・・・透水・保水性能を持たせることができ、・・・造園材など、広く用いることができる。」と記載され、前記「基材」として、記載事項(コ)、(ス)に「セメント」を用いる点が、記載事項(サ)、(セ)に「石膏」を用いる点が、それぞれ記載されている。
これらの記載から、引用文献2には、「造園材などに用いる透水・保水性能有する多孔質部材の基材として、セメントまたは石膏を用いる」点が記載されているといえる。
なお、水硬性の石膏として、焼石膏が用いられること、水硬性の石膏が中性で植物の生育に影響を与えないことは、例えば、拒絶査定時に周知例として提示した、特開平6-299152号公報の段落【0012】、【0013】に記載されている通り、本願出願前周知である。

引用文献1と引用文献2とでは、ポーラス状の物質を用いた植物を植生するパネル体という同一の技術分野に属し、かつ、排水作用と保水作用とを持たせるという課題も共通することから、引用文献1発明の「無機系固化材」として、引用文献2の「石膏」を用いることで、相違点Aにかかる特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、パネル化することで作業性を向上させる本願の作用効果も、引用文献1及び2から、当業者が予測しうる程度のものである。

よって、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.補正案について
なお、請求人は、回答書において補正案を提示し、本件補正における、請求項2を引用する請求項6をさらに引用する請求項7を、新たな請求項1とするための補正の機会を求めている。

しかしながら、この補正案は、上記2.(2)で述べたとおり、本件補正において追加された事項(補正事項C及びE)を含むものであるから認められない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることがでず、本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-14 
結審通知日 2011-01-17 
審決日 2011-01-28 
出願番号 特願2003-399307(P2003-399307)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C04B)
P 1 8・ 573- Z (C04B)
P 1 8・ 121- Z (C04B)
P 1 8・ 574- Z (C04B)
P 1 8・ 572- Z (C04B)
P 1 8・ 571- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増山 淳子正 知晃塩見 篤史武重 竜男  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 中澤 登
吉川 潤
発明の名称 炭化物パネル体  
代理人 吉井 雅栄  
代理人 吉井 剛  

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