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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C25C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C25C
管理番号 1236818
審判番号 不服2009-10887  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-09 
確定日 2011-05-12 
事件の表示 特願2005- 89336「エッジストリップとカソード板の密着方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月 5日出願公開、特開2006-265699〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年3月25日の出願であって、平成21年3月31日付けで平成21年3月10日付けの手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年6月9日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、手続補正がなされたものである。

II.平成21年6月9日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年6月9日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は次のとおりとなった。
「【請求項1】 パーマネントカソード法に用いるカソード板とABS樹脂またはPPE樹脂からなり前記カソード板の厚み方向に貫通孔を有さないエッジストリップとを強固に密着するために、シリコンシーラントを用い、前記エッジストリップに前記カソード板が内挿される部分に、前記シリコンシーラントを侵入させ充填することを特徴とするエッジストリップとカソードの密着方法。」(以下、「本願補正発明1」という。)

上記補正は、補正前の請求項1において、「エッジストリップ」を、「前記カソード板の厚み方向に貫通孔を有さないエッジストリップ」と補正するとともに、「前記エッジストリップに前記カソード板が内挿される部分に、前記シリコンシーラントを侵入させ充填する」という特定事項を付加するものであって、補正前の請求項1において、エッジストリップを形状の観点で、シリコンシーラントを使用形態の観点で、それぞれさらに限定するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

次に、本願補正発明1が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭63-166986号公報(以下、「引用例1」という。)、特開2005-29843号公報(以下、「引用例2」という。)、特開2005-29844号公報(以下、「引用例3」という。)、及び特開昭58-42783号公報(以下、「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。

(1)引用例1:特開昭63-166986号公報
(1a)「5)・・・電極部材の上端部にシリコーンゴム系接着剤又はコーキング剤を介して板状の絶縁性部材を接着する工程、前記電極部材の両側端部及び下端部にシリコーンゴム系接着剤又はコーキング剤を介して断面がコの字形の絶縁性部材を接着する工程・・・を具備することを特徴とする金属電解精製用電極の製造法。」(特許請求の範囲第5項)
(1b)「6)電極部材の両側端部及び下端部に接着される断面がコの字形の絶縁性部材には予め該絶縁性部材の内部にシリコーンゴム系接着剤又はコーキング剤が充填されて成る特許請求の範囲第5項記載の金属電解精製用電極の製造法。」(特許請求の範囲第6項)
(1c)「7)電極部材は種板製造用母板である特許請求の範囲第5項又は第6項記載の金属電解精製用電極の製造法。」(特許請求の範囲第7項)
(1d)「実施例 ・・・本発明に従って製造される電極は、第2図に関連して説明したと同様の構成とされる。つまり、電極1は、通常ステンレススチールにて形成される概略矩形状の母板4がホールダ2に取付けられて形成される。又、母板4の周辺、つまり、上端部A、両側面部B、C及び下端部Dの各両面には、電解により母板に付着した銅板を剥離する際の剥離性を容易とするために絶縁性部材6、8、10、12が設けられる。絶縁性部材12は、場合によっては該下端部Dに設けられないこともある。」(3頁右上欄11行?左下欄5行)
(1e)「接着剤は・・・シリコーンゴム系の接着剤又はコーキング剤とされ、例えば・・・シリコーンゴム系シーラント・・・が好適である。」(3頁左下欄8?16行)
(1f)「断面がコの字形をした塩化ビニールサッシ8(10、12)・・・内には適当量の接着剤が充填される。・・・接着剤が充填された塩化ビニールサッシを・・・母板4へと嵌め込み圧着される。」(4頁左上欄4行?右上欄5行)
(1g)第2図には、母板4の両側部B、Cには絶縁性部材8、10が接着され、母板4の下端部Dには絶縁性部材12が接着された電極1が図示され、第5図には、断面がコの字形の絶縁性部材8(10、12)の断面が図示され、コの字形内部の空間部44に、接着剤が侵入充填されたことが看取できる。また、第2、5図に図示された断面がコの字形の絶縁性部材8(10、12)は、電極(母板)の厚み方向に貫通孔を有さないことが看取できる。

(2)引用例2:特開2005-29843号公報
(2a)「【請求項1】導電体からなる板本体の縁部のうち、少なくとも下縁部が・・・エンジニアリングプラスチック樹脂からなる絶縁層によって被覆されていることを特徴とする電解精錬用電極板。・・・
【請求項3】前記エンジニアリングプラスチック樹脂が・・・PPE(ポリフェニルエーテル)からなることを特徴とする請求項1・・・に記載の電解精錬用電極板。」(特許請求の範囲の請求項1、3)
(2b)「銅などの金属の電解精錬・・・においては、ステンレス鋼などの金属からなる電極板を陰極とし、これを粗銅などからなる陽極とともに電解槽に収納して硫酸を含む電解液に浸して電解を行って、電極板の両表面に陽極から溶出した金属を析出電着させ、これを剥離して板状精製物を得る(以下、析出電着物をカソード電着物とする)。」(【0002】)
(2c)「電極板には電極板の両面に電着するカソード電着物が電極板の縁部において接続するのを防止し、かつカソード電着物の剥離を容易にし、さらに陰陽両極が接触しないように、電極板の両側縁部には縁部絶縁部材が取り付けられ・・・る。」(【0003】)

(3)引用例3:特開2005-29844号公報
(3a)「【請求項1】 ・・・電解精錬の陰極として用いられる電解精錬用電極板であって、板本体のうち、電解液の液面上に露出され得る領域のうちの少なくとも一部が・・・エンジニアリングプラスチック樹脂からなる保護層によって被覆されていることを特徴とする電解精錬用電極板。
【請求項2】前記エンジニアリングプラスチック樹脂が・・・PPE(ポリフェニルエーテル)からなることを特徴とする請求項1記載の電解精錬用電極板。」(特許請求の範囲の請求項1、2)
(3b)「金属の電解精錬においては、精錬する金属とは異なる金属からなる電極板を陰極とし、これを精錬する金属からなる陽極とともに電解槽に収納して硫酸を含む電解液に浸して電解を行うか(電解精製)、または原料金属が含まれる電解液を用いて電解を行うことで(電解採取)、電極板の両表面に陽極から溶出した金属を析出電着させ、これを剥離して板状精製物を得る・・・。以下、析出電着物をカソード電着物とする。」(【0002】)
(3c)「電解精錬において電極板として用いることができる材質は・・・電解精錬する金属の種類によって決定される。例えば、銅の電解精錬の場合には、銅、チタン、ステンレス製の電極板が用いられ・・・る。」(【0004】)
(3d)「本実施の形態では、亜鉛精錬に用いる電極板について説明するが、これに限らず、本発明は、他の金属の精錬に用いる電極板に適用してもよい。」(【0012】)
(3e)「板本体2には、板本体2の両面に電着するカソード電着物が板本体2の縁部において接続するのを防止し、かつカソード電着物の剥離を容易にし、さらに陰陽両極が接触しないように、その下縁部2aは・・・絶縁層6によって被覆されており、両側縁部2b、2cには、縁部絶縁部材8が取り付けられている。」(【0015】)

(4)引用例4:特開昭58-42783号公報
(4a)「銅のストリッピングを容易にするためには、種板シートのエッジが効果的にマスクされていることが必要で、それにより銅の沈着がそれらのエッジまで続かない様にしなければならない。・・・マスキング手段は・・・プラスチック製玉ぶち・・・から成っている。・・・玉ぶち・・・は・・・プラスチック物質から作られることが望ましく、その一つの好適な物質は・・・アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)とポリカーボネートとのポリマーアロイである。」(2頁左下欄8行?右下欄5行)

3.当審の判断
(1)引用例1に記載の発明
引用例1の摘記事項(1a)によれば、電極部材の両側端部及び下端部にシリコーンゴム系接着剤又はコーキング剤を介して断面がコの字形の絶縁性部材を接着する工程を具備する金属電解精製用電極の製造法が記載され、摘記事項(1b)によれば、断面がコの字形の絶縁性部材には予め該絶縁性部材の内部にシリコーンゴム系接着剤又はコーキング剤が充填されていること、摘記事項(1c)によれば、電極部材は種板製造用母板であること、摘記事項(1e)によれば、接着剤であるシリコーンゴム系接着剤又はコーキング剤は、シリコーンゴム系シーラントが好適であることも記載されている。 これらの記載から、金属電解精製用電極は、金属電解精製に用いる種板製造用電極であって、電極部材である通常ステンレススチールで形成される母板と断面がコの字形の絶縁性部材とを接着するために、シリコーンゴム系シーラントを用い、前記断面がコの字形の絶縁性部材の内部には、前記シリコーンゴム系シーラントを充填することが理解できるし、断面がコの字形の絶縁性部材は、母板の両側端部及び下端部に接着されるのであるから、エッジストリップといえる。
また、摘記事項(1f)の「断面がコの字形をした塩化ビニールサッシ」、及び、「接着剤が充填された塩化ビニールサッシを・・・母板4へと嵌め込み圧着される。」という記載から、断面がコの字形の絶縁性部材は塩化ビニール樹脂からなるものであり、接着剤(シリコーンゴム系接着剤又はコーキング剤)が充填されたコの字形内部に母板が内挿され、圧着により密着されている。
さらに、第2、5図には、断面がコの字形の絶縁性部材は、母板4の厚み方向に貫通孔を有しておらず、母板4の両側端部及び下端部に接着された断面がコの字形の絶縁性部材8、10、12は、母板4の両側端部及び下端部に接着されていることが、示されている。
そこで、引用例1の摘記事項(1a)?(1c)、(1e)?(1g)の記載を、エッジストリップ(断面がコの字形の絶縁性部材)と種板製造用電極の母板との密着方法の観点で総合すれば、
引用例1には、「金属電解精製に用いる種板製造用電極の母板と塩化ビニール樹脂からなり前記母板の厚み方向に貫通孔を有さないエッジストリップとを強固に密着するために、シリコーンゴム系シーラントを用い、前記エッジストリップに前記母板が内挿される部分に、前記シーラントを侵入させ充填するエッジストリップと母板の密着方法。」(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていることになる。

(2)対比・判断
本願補正発明1と、引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「シリコーンゴム系シーラント」は、本願補正発明1の「シリコンシーラント」に相当し、引用例1発明の「種板製造用電極の母板」は、本願補正発明1の「カソード板」に相当するから、両者は、
「カソード板と前記カソード板の厚み方向に貫通孔を有さないエッジストリップとを強固に密着するために、シリコンシーラントを用い、前記エッジストリップに前記カソード板が内挿される部分に、前記シリコンシーラントを侵入させ充填するエッジストリップとカソードの密着方法。」で一致し、次の点で相違する。

相違点:
(イ)本願補正発明1は、カソード板が、「パーマネントカソード法に用いるカソード板」であるのに対し、引用例1発明は、パーマネントカソード法に用いるものであるか否か明らかではない点
(ロ)本願補正発明1は、エッジストリップが、「ABS樹脂またはPPE樹脂」からなるのに対し、引用例1発明は、塩化ビニール樹脂からなる点

上記相違点について検討する。
相違点(イ)について
本願補正発明1では、カソード板がパーマネントカソード法に用いるものであるが、引用例1発明も、ステンレススチール等からなるカソード板に銅を電着させる際に用いるカソード板であるから、本願補正発明1と同様の用いられ方をするものである。
引用例1発明において本願補正発明1のようにパーマネントカソード法に用いる点については特段の記載はなされていないが、上記の点を考慮すれば、引用例1発明におけるカソード板をパーマネントカソード法に用いるものと限定することに何ら困難性は認められず、当業者が適宜なし得たことである。

相違点(ロ)について
本願補正発明1では、エッジストリップがABS樹脂またはPPE樹脂からなるものであるが、カソード板のエッジストリップの材料としてABS樹脂またはPPE樹脂を用いることは、引用例2(摘記事項2a)、引用例3(摘記事項3a)及び引用例4(摘記事項4a)に記載されているように公知の事項である。
してみれば、引用例1発明のエッジストリップを、ABS樹脂又はPPE樹脂からなるものとすることは、当業者が容易になし得ることにすぎない。

そして、本願補正発明1の奏する効果も、引用例1?4の記載から予測することができる程度のものであって、格別顕著であるとは認められない。

したがって、本願補正発明1は、引用例1発明、及び引用例2?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

III.本願発明について
1.本願発明
平成21年6月9日付けの手続補正は上記のとおり却下され、平成21年3月10日付けの手続補正も拒絶査定と同日付けで却下されたので、本願の請求項1、2に係る発明は、平成20年8月11日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 パーマネントカソード法に用いるカソード板とABS樹脂またはPPE樹脂からなるエッジストリップとを強固に密着するために、シリコンシーラントを用いることを特徴とするエッジストリップとカソード板の密着方法。」

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1?4とその主な記載事項は、前記「II.2.」に記載したとおりである。

3.当審の判断
本願発明1を特定するに必要な事項を全て含み、さらに具体的に限定したものに相当する本願補正発明1が、前記「II.3.」に記載したとおり、引用例1発明、及び引用例2?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も同様の理由で、引用例1発明、及び引用例2?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-09 
結審通知日 2011-03-22 
審決日 2011-03-29 
出願番号 特願2005-89336(P2005-89336)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C25C)
P 1 8・ 121- Z (C25C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馳平 憲一日比野 隆治瀬良 聡機  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 鈴木 正紀
田村 耕作
発明の名称 エッジストリップとカソード板の密着方法  
代理人 片山 修平  

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