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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない A01F
管理番号 1237625
審判番号 訂正2010-390129  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2010-12-21 
確定日 2011-05-30 
事件の表示 特許第3672916号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3672916号の請求項1?3に係る発明についての出願は,平成15年1月7日の国内優先権を主張して平成15年9月5日に特許出願され,平成17年4月28日にその請求項1?3に係る発明について特許の設定登録がなされ,その後,平成22年12月21日に本件訂正審判が請求されたものである。
その後,平成23年2月9日付けで当審より訂正拒絶理由を通知したところ,同年3月17日付けで意見書が提出された。

2.訂正の内容
本件訂正審判の請求の要旨は,特許第3672916号の願書に添付された特許請求の範囲及び明細書(以下,「本件特許請求の範囲」「本件明細書」という。)を審判請求書に添付された特許請求の範囲及び明細書(以下,「訂正特許請求の範囲」「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものであって,以下の訂正事項1?13からなる。

(1)訂正事項1
本件特許請求の範囲中の請求項1の「・・・平面状に・・・」を,「・・・平面上に・・・」と訂正する。
(2)訂正事項2
本件特許請求の範囲中の請求項1の「・・・,この板材の板面に沿って前記凹凸面を形成した傾斜折曲部をグライディングして前記凹凸刃縁を形成した・・・」を,「・・・,この板材をコ字状に折曲形成し,焼き入れした後,この板材の板面に沿って前記凹凸面を形成した傾斜折曲部をグライディングして前記左右の刃板部の縁部に前記凹凸刃縁を形成した・・・」と訂正する。
(3)訂正事項3
本件特許請求の範囲中の請求項2を削除する。
(4)訂正事項4
本件特許請求の範囲中,「請求項3」の表示を「請求項2」に訂正する。
(5)訂正事項5
訂正事項4の訂正に基づき表示を「請求項2」に訂正する特許請求の範囲中の請求項3の「・・・並設形成し,この刃板部の・・・」を,「・・・並設形成し,焼き入れした後この刃板部の・・・」と訂正する。
(6)訂正事項6
訂正事項4の訂正に基づき表示を「請求項2」に訂正する特許請求の範囲中の請求項3の「・・・請求項2記載の・・・」を,「・・・請求項1記載の・・・」と訂正する。
(7)訂正事項7
本件明細書中の段落番号【0014】の「・・・・平面状に・・・」を,「・・・平面上に・・・」と訂正する。
(8)訂正事項8
本件明細書中の段落番号【0014】の「・・・,この板材の板面に沿って前記凹凸面を形成した傾斜折曲部5をグライディングして前記凹凸刃縁を形成した・・・」を,「・・・,この板材をコ字状に折曲形成し,焼き入れした後,この板材の板面に沿って前記凹凸面を形成した傾斜折曲部5をグライディングして前記左右の刃板部の縁部に前記凹凸刃縁を形成した・・・」と訂正する。
(9)訂正事項9
本件明細書中の段落番号【0015】を削除する。
(10)訂正事項10
本件明細書中の段落番号【0016】の「・・・並設形成し,この刃板部2の・・・」を,「・・・並設形成し,焼き入れした後この刃板部2の・・・」と訂正する。
(11)訂正事項11
本件明細書中の段落番号【0016】の「・・・請求項2記載の・・・」を,「・・・請求項1記載の・・・」と訂正する。
(12)訂正事項12
本件明細書中の段落番号【0018】の「・・・請求項2,3記載・・・」を,「・・・請求項2記載・・・」と訂正する。
(13)訂正事項13
本件明細書中の段落番号【0019】の「・・・請求項2,3記載・・・」を,「・・・請求項2記載・・・」と訂正する。

3.訂正拒絶理由の要旨
平成23年2月9日付けで当審より通知した訂正拒絶理由の要旨は,以下の通りである。

訂正事項2は,訂正前の請求項1において,わら切り刃を形成する際に「板材の刃板部となる部分の凹凸刃縁形成側を傾斜折曲すると共にこの傾斜折曲部分に凹凸面をプレス成形し,この板面に沿って凹凸面を形成した傾斜折曲部をグライディングして形成する」としていた構成について,焼き入れをするものに限定するとともに,焼き入れの工程と折曲形成工程その他の工程との関係について,「板材の刃板部となる部分の凹凸刃縁形成側を傾斜折曲すると共にこの傾斜折曲部分に凹凸面をプレス成形し,この板材をコ字状に折曲形成し,焼き入れした後,この板材の板面に沿って前記凹凸面を形成した傾斜折曲部をグライディングして左右の刃板部の縁部に凹凸刃縁を形成」するものに限定するものであり,確認的に,左右の刃板部に縁部に凹凸刃縁が形成されることを明記するものであるから,特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項である特許請求の範囲の減縮を目的とする。
よって,訂正特許請求の範囲の請求項1及びこれを引用する請求項2に係る発明は,特許法第126条第5項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
しかし,訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は,本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,本件審判の請求は,特許法第126条第5項の規定に適合しないものであるから,認めることができない。

4.当審の判断
4-1.訂正の目的,新規事項の追加の有無及び拡張・変更について
訂正事項1は,特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項である誤記の訂正を目的とするものである。
訂正事項2,3は,特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4?13は,特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項である明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

そして,訂正事項1?13は,本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

4-2.独立特許要件について
前記「4-1.」で検討したように,訂正事項2は,特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,当該訂正により,訂正後の請求項1及び訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2は,その範囲が減縮されたものとなった。そこで,訂正特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項1及び請求項2に係る発明が,特許法第126条第5項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かにつき,以下に検討する。

(1)本件訂正発明
訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下,「本件訂正発明1」及び「本件訂正発明2」という。)は,それぞれ,次のとおりのものである。
「【請求項1】
脱穀部のこぎ胴の対向位置に配設されるわら切り刃であって,板材をコ字状に折曲形成して取付部の左右に刃板部を並設状態に突設した構成とし,この刃板部の縁部には,基端部から突出先端部にかけて頂部と谷部とが連続した凹凸刃縁を形成したわら切り刃Hにおいて,この刃板部の凹凸刃縁を,刃板部の板面方向(板厚を見る方向)から見て頂部と谷部とが夫々左右に出入りした刃縁とせず,頂部と谷部とが同一平面上に位置して刃板部の板面方向(板厚を見る方向)から見て頂部と谷部とが刃縁形成方向に一直線上に配される凹凸刃縁に形成し,板材の前記刃板部となる部分の凹凸刃縁形成側を傾斜折曲すると共にこの傾斜折曲部分に凹凸面をプレス形成し,この板材をコ字状に折曲形成し,焼き入れした後,この板材の板面に沿って前記凹凸面を形成した傾斜折曲部をグライディングして前記左右の刃板部の縁部に前記凹凸刃縁を形成したことを特徴とする脱穀部におけるわら切り刃。
【請求項2】
前記板材の前記刃板部となる部分の凹凸刃縁形成側を外側方向若しくは内側方向に傾斜折曲すると共にこの傾斜折曲部分に凹凸面をプレス形成した後,この板材をコ字状に折曲形成して取付部の左右に,夫々外側若しくは内側に傾斜折曲されていて凹凸面を有する前記傾斜折曲部を設けた刃板部を並設形成し,焼き入れした後この刃板部の外面若しくは内面に沿ってこの外面若しくは内面と面一状態に傾斜折曲部をグライディングすることで刃板部の外面若しくは内面と同一平面上に頂部及び谷部が連続形成された前記凹凸刃縁を形成したことを特徴とする請求項1記載の脱穀部におけるわら切り刃。」

(2)刊行物の記載事項
刊行物1:実願昭60-35470号(実開昭61-150441号)のマイクロフィルム(甲第2号証に係る実用新案登録出願の願書に最初に添付した明細書及び図面)
刊行物2:特開昭48-69186号公報(甲第5号証)

(2-1)刊行物1の記載事項及び刊行物1記載の発明
本件特許出願の優先日前に頒布された上記刊行物1には,図面と共に以下の記載がある。
(1a)「扱歯(15)の回動軌跡面に対向する面(8B)と,その面(8B)と鋭角に交わつて波形の刃先(8C)を形成する斜面(8A)とを有する脱穀機用ワラ切刃であって,前記斜面(8A)を刃先(8C)長手力向において波形の面に形成すると共に,前記扱歯(15)の回動軌跡面に対向する面(8B)を平坦面に形成してある脱穀機用ワラ切刃。」(実用新案登録請求の範囲)
(1b)「第3図,第4図で示すように,扱胴(1)を軸架してある扱室(2)と二番還元物を再処理するための処理胴(3)を軸架してある処理室(4)とを並設形成し,これら両室(2),(4)を区画する脱穀壁(5)で,扱口(6)側に向かつて開口する凹入部に,扱胴回転軸芯方向視において上方拡がりのほぼU字状の固定取付け枠(7)を設けるとともに,この固定取付け枠(7)の扱胴回転軸芯方向に適宜間隔を隔てた4箇所に夫々,扱室(2)内に突出位置する一部のワラ切刃(8)・・を取付けて脱穀機を構成している。
前記ワラ切刃(8)・・は第1図(ロ)及び第2図に示すように夫々,前記の扱胴回転軸芯方向で相対向する一対を,平面視でほぼコの字状に板部(8b)によつて一体に繋いで構成してあり,その一対のワラ切刃(8),(8)間に扱歯(15)が通過するように配置してある。」(明細書第3頁第15行?第4頁第11行)
(1c)「前記ワラ切刃(8)の取付け構造は,・・・全装着ワラ切刃(8)・・の繋ぎ板部(8b)・・背面と固定取付け枠(7)の他方の側板部(7b)内面とに接当する状態で上方から押込みならびに,上方に抜出し分離可能な一つの板状部材(10)を設け,この板状部材(15)の両接当部分(l0a),(10b)を,押込み先端側ほど,つまり,下方ほど対向間隔が狭まる楔状に形成し,もつて,前記板状部材(15)の長手方向2箇所を,前記両側板部(7a),(7b)の下側部間に亘つて固着した板部材(11)にボルト・ナツト(12),(13)・・を介して前記の押込み姿勢で締付け固定することにより,前記各ワラ切刃(8)・・を固定取付け枠(7)に背部から押圧固定すべく構成している。」(明細書第4頁第12行?第5頁第12行)
(1d)「前記ワラ切刃(8)は,また,第1図(ロ)及び第2図に示すように,扱歯(15)の回動軌跡面に対向する面(8B)と,その面(8B)と鋭角に交わる斜面(8A)とを有し,斜面(8A)をプレス成形によつて刃先(8C)長手方向において波形の面に形成すると共に,扱歯(15)の回動軌跡面に対向する面(8B)を焼き入れした後に研摩して平坦面に形成してあり,前記面(8B)と斜面(8A)とによつて波形のノコ刃状の刃先(8C)が形成されている。」(明細書第6頁第7?15行)
(1e)「前記コの字形に一体連結された一対のワラ切刃(8)は,第5図に示すように,一対のワラ切刃(8),(8)が互いに向かい合う内側に,刃先(8C)長手力向において波形の面を形成した斜面(8A)を設け,互いに外側の面(8B)が平坦な研摩面にして,各対を成す複数のワラ切刃(8)が,それらの隣接する外側の面(8B),(8B)どうしの間に扱歯(15)が通過する様に配置するものでも良く,・・・」(明細書第6頁第17行?第7頁第4行)
(1f)第1図(ロ)を参酌すると,ワラ切刃(8)が扱胴(1)の対向位置に配設されていることは明らかである。
(1g)第1図(ロ),第2図,第5図及び記載事項(1c)を参酌すると,ワラ切刃(8)が板材をコ字状に折曲形成した形状となっており,固定取付け枠(7)に取り付けられる繋ぎ板部(8b)の左右それぞれに先端に刃先(8C)を形成する板部が並設状態に突設してあり,波形の刃先(8C)を形成する斜面(8A)がそれぞれ内側または外側に向けられていることは明らかである。
(1h)第1図(ロ)及び記載事項(1a)を参酌すると,基端部から突出先端部にかけて波形の刃先(8C)が形成されていることは明らかである。

これら記載事項,図面の記載および当業者の技術常識を総合すると,刊行物1には,次の発明(以下,「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

(刊行物1記載の発明)
「扱室(2)に軸架された扱胴(1)の対向位置に配設される,繋ぎ板部(8b)の左右に板部が並設状態に突設して構成されて,全体として板材をコ字状に折曲形成した形状となっているワラ切刃(8)であって,その板部の先端に基端部から突出先端部にかけて波形の刃先(8C)が形成されており,刃先は,扱歯(15)の回転軌跡面に対向する面(8B)と鋭角に交わる斜面(8A)をプレス成形によって刃先(8C)長手方向において波形の面に形成すると共に,扱歯(15)の回動軌跡面に対向する面(8B)を焼き入れした後に研摩して,回動軌跡面に対向する面(8B)を平坦面に形成したものであり,左右の板部にそれぞれ,刃先(8C)長手方向において波形の面を形成した斜面(8A)を内側または外側に向けて設けているワラ切刃(8)」

(2-2)刊行物2の記載事項及び刊行物2記載の発明
同じく,上記刊行物2には,図面と共に以下の記載がある。
(2a)「・・・本発明の第1の実施態様によれば,粗材薄板は2粍以下の厚みの金属製の小定規の形状を有し,本発明の方法は型打加工によつて薄板の1部を約15°以下の角度で長手方向に折曲げ,折曲線が直線状で前記薄板の長手方向の縁部に平行であるようにし,前記折曲げられた部分を型打加工することにより薄板の縁部に沿つて互に側方に並んで配置される実質的に同じ形状の1連の凹部を作り,型打加工された区域と型打されない区域の分離線が薄板の縁部によつて連続される並置される多数の円弧の外観を与えると共に前記凹部の凹面が前記折曲げによつて形成された直線状の突出せる縁部の側に向けられる如くし,薄板の折曲げられた部分に対して前記折曲げによつて形成された凹入せる縁部の側の面を平面に形成し,前記平面の形成が前記薄板の薄片を斜めに削る如くなし,前記凹部の凹んだ部分によつて形成される突出部を切除することにより前記歯列を構成する鋭い歯を有する三日月状切込の外観を与える如くなすことを含んでいる。
このようにして歯列が,極めて迅速な簡単な型打加工及び例えば研削輪による如くして薄板の1面を平らにする為に平面に形成することを含む単1の仕上げ作業により薄板の長さ全体にわたつて形成されるのである。薄板の歯全体に対して同時に行われるこの平面形成は何等調節の困難を伴わずに極めて短時間で行い得るのである。従つて,上述の方法は極めて安価である利点を有し,仕上つた薄板の原価を極めて低減出来る要因となるものである。
注目すべきことは,上述の直線状の折曲げ及び凹部の形成が型打加工の唯1回の作業によつて同時に行い得ることであつて,このことは監視並びに歯列の製造に要する時間を減少出来るのである。」(第3頁左上欄第1行?左下欄第5行)
(2b)「本発明の第1の実施態様によれば本発明の方法は小定規1を折曲げ線2の廻りに直線状に長手方向の縁部に平行に折曲げることを含む。この小定規1は約12/10粍の厚みを有し,1方その巾は例えば約半糎で長さは20糎程度である。折曲げられた部分3の巾は約7乃至8粍で,折曲げ角度は約10°である。この折曲げは型打加工によつて行われ,この部分3に対して第2図にて矢印により示される如くプレスによつて適当な圧力が与えられる。
折曲げ作業の説明の明瞭化の為に分離されて示されるが,この折曲げ作業と同時に行われることの出来る次の作業は,折曲げ部分3の1部に4で示す如き1連の型打部を形成し,型打部の区域を境界する線5が薄板の縁部を通つて連続する1連の円弧曲線の外観を与える如くすることを含む。この型打部はプレスによつて型打加工される区域に適当な圧力を与えることによつて得られる。薄板の縁部に沿う各型打部4の中央区域内の変形の最大巾は得られるべき歯列の所望の形状により約6/10乃至15/10粍の間値に調節されることが出来る。型打部の巾(薄板の縁部と円弧5の交叉部の2つの区域6及び7の間の寸法)は得たいと望まれる歯の巾に等しい値になされるのである。
第3a図は第3図の平面aに沿う薄板の断面を示す。この平面に沿つて薄板は型打部の形成の際に何等変形を受けないことが判る。
本発明の方法の最後の作業は平面rr(第3a図)に沿つて薄板を平面に形成することを含む。このようにして薄板の薄片は斜めにそがれると共にこの平面形成によつてそがれた型打部は薄板の縁部に第4図に示されたものと同様の鋭い縁を有する1連の三日月状切込を形成する。之等の三日月状切込は互に側方に並んで配置され,薄板の歯列を形成する。第4b図は1つの歯の先端に沿う平面bを通る断面を示す。
このようにして本発明の方法が,薄板全体を1緒に同時に型打加工及び平面形成を行う迅速な作業によつて個々に歯を研削する必要を伴わずに鋭い歯列を得ることが出来ることが理解される。」(4頁右上欄第2行?右下欄第11行)
(2c)第3a図,第4図及び記載事項(2a)(2b)を参酌すれば,折曲及びプレスによる凹部の形成によつて凹凸面を形成した傾斜折曲部を,傾斜折曲部が薄板の板面と面一状となるように薄板の板面に沿つて研削輪等によりグライディングして,薄板の縁部に同一平面上に頂部と谷部とが連続形成された凹凸刃縁を形成していることは明らかである。

これら記載事項,図面の記載および当業者の技術常識を総合すると,刊行物2には,次の発明(以下,「刊行物2記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

(刊行物2記載の発明)
「切削器具の薄板の縁部に鋭い縁を有する凹凸刃縁を形成する方法であつて,薄板の1部を折曲線が直線状で薄板の長手方向の縁部に平行であるように折曲げるとともに,前記折曲げられた部分をプレスによって型打加工することにより薄板の縁部に沿って凹部を作り,板面に沿って凹凸部を形成した傾斜折曲面を,傾斜折曲部が薄板の縁部と面一状態となるようにグライディングして薄板の縁部に凹凸刃縁を形成する方法。」

(3)本件訂正発明1について
本件訂正発明1と刊行物1記載の発明とを対比する。
刊行物1記載の発明の「扱胴(1)」,「ワラ切刃(8)」,「繋ぎ板部(8b)」,「繋ぎ板部(8b)の左右に板部」,「刃先(8C)」,「回動軌跡面に対向する面(8B)」,「研磨」は,それぞれ,本件訂正発明1の「こぎ胴」,「わら切り刃」,「取付部」,「刃板部」,「凹凸刃縁」,「板材の板面」,「グライディング」に相当する。
刊行物1記載の発明の「扱室(2)」は,脱穀をする部分であるから,本件訂正発明1の「脱穀部」に相当する。
刊行物1記載の発明の刃先は,鋭角の頂部に形成されたものであり,「刃板部の板面方向(板厚を見る方向)から見て頂部と谷部とが夫々左右に出入りした刃縁」ではなく,「頂部と谷部とが同一平面状に位置して刃板部の板面方向(板厚を見る方向)から見て頂部と谷部とが刃縁形成方向に一直線上に配される」ものであることは明らかである。
刊行物1記載の発明は,板材の板面(回動軌跡面に対向する面(8B))を平坦にするものであるから,「板材の板面に沿って」グライディングしていることは明らかである。

してみると,本件訂正発明1と刊行物1記載の発明とは,
「脱穀部のこぎ胴の対向位置に配設されるわら切り刃であって,板材をコ字状に折曲形成した形状の,取付部の左右に刃板部を並設状態に突設した構成とし,この刃板部の縁部には,基端部から突出先端部にかけて頂部と谷部とが連続した凹凸刃縁を形成したわら切り刃Hにおいて,この刃板部の凹凸刃縁を,刃板部の板面方向(板厚を見る方向)から見て頂部と谷部とが夫々左右に出入りした刃縁とせず,頂部と谷部とが同一平面状に位置して刃板部の板面方向(板厚を見る方向)から見て頂部と谷部とが刃縁形成方向に一直線上に配される凹凸刃縁に形成したものであり,凹凸刃縁は,傾斜した部分に凹凸面をプレス成形し,焼き入れした後に回動軌跡面に板材の板面に沿ってグライディングして左右の刃板部の縁部に前記凹凸刃縁を形成した脱穀部におけるわら切り刃」である点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
本件訂正発明1は,「板材の前記刃板部となる部分の凹凸刃縁形成側を傾斜折曲すると共にこの傾斜折曲部分に凹凸面をプレス形成し,この板材をコ字状に折曲形成し,焼き入れした後,この板材の板面に沿って前記凹凸面を形成した傾斜折曲部をグライディングして前記左右の刃板部の縁部に前記凹凸刃縁を形成した」ものであるのに対し,刊行物1記載の発明は,板材をコ字状に折曲形成した形状のわら切り刃であって,傾斜部に凹凸面をプレス成形し,焼き入れした後にグライディングして形成するものではあるが,傾斜部を「板材の刃板部となる部分の凹凸刃縁形成側を傾斜折曲」して形成するものではなく,また,「板材をコ字状に折曲形成する」ことが明示されておらず,折曲形成する工程をいつ行うかも,当然,開示されていない点。

上記相違点1について検討する。
まず,刃の形成手段について検討する。
刊行物2記載の発明には,切断器具の薄板に鋭い歯列を形成するにあたり,板材の凹凸刃縁を形成する縁部を傾斜折曲すると共にこの傾斜折曲部分に凹凸面をプレス形成し,この板材の板面に沿って前記凹凸面を形成した傾斜折曲部をグライディングして頂部と谷部とが刃縁形成方向に一直線上に配される凹凸刃縁を形成する技術が開示されている。
刊行物2記載の発明は,刊行物1記載の発明に比べて,カミソリのようなエッジの鋭い刃を得られる,斜面(8A)の形成工程を省略できる等の利点を有するものであるから,刊行物1記載の発明のわら切り刃の凹凸刃縁を得る手段として,刊行物2記載の発明の「板材の縁部を傾斜折曲するとともに傾斜折曲部分に凹凸面をプレス成形し,当該傾斜折曲部をグライディングすることで頂部と谷部とが刃縁形成方向に一直線上に配される凹凸刃縁を得る」技術を採用し,板材の刃板部となる部分の凹凸刃縁形成側を傾斜折曲すると共にこの傾斜折曲部分に凹凸面をプレス形成し,この板材の板面に沿って前記凹凸面を形成した傾斜折曲部をグライディングして左右の刃板部の縁部に凹凸刃縁を形成するようにすることは,当業者が容易になし得ることである。

また,刊行物1記載の発明には,わら切り刃が板材をコ字状に折曲して形成するものであることは明示されていないが,コ字状の部材を形成するにあたり,板材を折曲して形成することは例を挙げるまでもなく周知の技術であり,刊行物1記載の発明の,板材をコ字状に折曲形成した形状のわら切り刃に接した当業者にとって,これを「板材をコ字状に折曲して形成する」よう構成することは,適宜なし得ることである。

次に,わら切り刃の形成手順について検討する。
わら切り刃を形成する際の手順について,刊行物1記載の発明は,プレス成形,焼き入れ,グライディングをこの手順で行うことを開示するものであり,板材をコ字状とする折曲工程がいつ行われるのかが定かでない点で本願と相違するものである。
そして,当該相違点について検討するに,各作業のしやすさ等を考慮して各工程の順序を定めることは技術の適用に伴って当業者が適宜なすべきことである。コ字状の部材よりも平板に対しての方がプレス形成作業がしやすいこと,焼き入れして材料が硬くなってしまうと折曲作業が困難になることは自明であるから,刊行物1記載の発明において,わら切り刃を板材をコ字状に折曲して形成するものとするにあたり,折曲形成工程をプレスの後段かつ焼き入れの前段に行うものとし,全体の作業を,プレス形成し,この板材をコ字状に折曲形成し,焼き入れした後,グライディングするという手順で行うよう定めることに,格別の困難性を認めることができない。

なお,刊行物2記載の発明は,板材の縁部を傾斜折曲するとともに傾斜折曲部分に凹凸面をプレス成形し,当該傾斜折曲部をグライディングするものであるから,刊行物1記載の発明よりもグライディングする部分は多くなるが,刃物の製造の際,焼き入れした後に刃先部を形成することは,例えば特開平10-58378号公報に記載のように通常行われていることであって,刃先の形成方法として刊行物2記載の発明の凹凸面を形成した傾斜折曲部分をグライディングするものを採用したからといって刊行物1記載の手順で行うことができなくなるといったものではない。

以上検討したように,刊行物1記載の発明において,刊行物2記載の発明を適用して傾斜部を板材の刃板部となる部分の凹凸刃縁形成側を傾斜折曲して形成し,また,板材をコ字状に折曲して形成するものとするとともに,折曲形成する工程をプレスの後段かつ焼き入れの前段に行うものとして,相違点1に係る発明の構成とすることは,当業者が容易になし得ることである。

本件訂正発明1の効果について検討する。
本件訂正発明1の,簡単な手法で一直線上の凹凸刃縁を得ることは,刊行物1,2記載の発明も奏する効果である。また,コーナーは肉厚部のままとすることができ,耐久性が向上するとの効果は,コ字状部材を板面に沿ってグライディングする刊行物1記載の発明も奏する効果である。
焼き入れした後にグライディングすることで刃縁を鋭く形成できるとの効果は,焼き入れ後にグライディングをする刊行物1記載の発明も奏する効果である。
先端が薄くなっていない状態で焼き入れすることにより,斜面が形成された状態で焼き入れされる場合に比べて焼き入れの状態が均一となり,良好な切り刃が得られるとの効果は,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の技術を採用したわら切り刃が奏する効果であり,厚みが均一である方が焼き入れの状態も均一になるであろうことは刊行物1,2記載の発明に接した当業者が把握できることであるから,刊行物1,2記載の発明から予測し得うる程度のものである。
以上のとおり,本件訂正発明1の効果は,全体として,刊行物1,2記載の発明及び周知技術から予測し得る程度のものである。

したがって,本件訂正発明1は,刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)本件訂正発明2について
本件訂正発明2と刊行物1に記載された発明とを対比すると,刊行物1記載の発明と本件訂正発明2とは,以下の一致点,相違点を有する。

[一致点]
「脱穀部のこぎ胴の対向位置に配設されるわら切り刃であって,板材をコ字状に折曲形成した形状の,取付部の左右に刃板部を並設状態に突設した構成とし,この刃板部の縁部には,基端部から突出先端部にかけて頂部と谷部とが連続した凹凸刃縁を形成したわら切り刃Hにおいて,この刃板部の凹凸刃縁を,刃板部の板面方向(板厚を見る方向)から見て頂部と谷部とが夫々左右に出入りした刃縁とせず,頂部と谷部とが同一平面状に位置して刃板部の板面方向(板厚を見る方向)から見て頂部と谷部とが刃縁形成方向に一直線上に配される凹凸刃縁に形成したものであり,凹凸刃縁は,傾斜した部分に凹凸面をプレス成形し,焼き入れした後に回動軌跡面に板材の板面に沿ってグライディングして左右の刃板部の縁部に前記凹凸刃縁を形成した脱穀部におけるわら切り刃であって,板材の刃板部となる部分の凹凸刃縁形成側をコの字の板材の内側または外側としたわら切り刃。」

[相違点2]
本件訂正発明2は,板材の刃板部となる部分の凹凸刃縁形成側を外側方向若しくは内側方向に傾斜折曲すると共にこの傾斜折曲部分に凹凸面をプレス形成した後,この板材をコ字状に折曲形成して取付部の左右に,夫々外側若しくは内側に傾斜折曲されていて凹凸面を有する前記傾斜折曲部を設けた刃板部を並設形成し,焼き入れした後この刃板部の外面若しくは内面に沿ってこの外面若しくは内面と面一状態に傾斜折曲部をグライディングすることで刃板部の外面若しくは内面と同一平面上に頂部及び谷部が連続形成された前記凹凸刃縁を形成したものであるのに対し,刊行物1記載の発明は,板材をコ字状に折曲形成した形状のわら切り刃であって,取付部の左右に,それぞれ,内側若しくは外側を向く凹凸刃縁を形成した刃板部を設けており,凹凸刃縁は傾斜部に凹凸面をプレス成形し,焼き入れした後にグライディングして形成するものではあるが,傾斜部を取付部の左右夫々の刃板部に「板材の刃板部となる部分の凹凸刃縁形成側を外側方向若しくは内側方向に傾斜折曲」して形成するものではなく,また,「板材をコ字状に折曲形成する」ことが明示されておらず,折曲形成する工程をいつ行うかも,当然,開示されていない点。

上記相違点2について検討する。
刊行物1記載の発明も,取付部の左右の刃板部にそれぞれ,内側若しくは外側に向いた凹凸刃縁を形成するものであり,このような刊行物1記載の発明の刃縁の形成に刊行物2記載の発明の技術を採用し,板材の刃板部となる部分の凹凸刃縁形成側を傾斜折曲すると共にこの傾斜折曲部分に凹凸面をプレス形成し,この板材の板面に沿って前記凹凸面を形成した傾斜折曲部をグライディングして前記左右の刃板部の縁部に前記凹凸刃縁を形成するにあたっては,当然,凹凸刃縁形成側を「内側方向若しくは外側方向」折曲するものと認められる。そして,刊行物2記載の発明も,傾斜折曲部が薄板の縁部と面一状態となるようにグライディングして薄板の縁部に凹凸刃縁を形成するものであるから,刊行物1記載の発明において,凹凸面を形成した傾斜折曲部をグライディングして左右の刃板部の縁部に凹凸刃縁を形成するにあたり,この外面若しくは内面と面一状態に切削して刃縁を形成することは当業者が容易になし得ることである。

板材をコ字状に折曲して形成すること,及び,プレス形成し,この板材をコ字状に折曲形成し,焼き入れする手順をこの順に行うことは,上記「(3)本件訂正発明1について」で検討したとおり,当業者が容易になし得ることである。

以上検討したように,刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて本件訂正発明2を構成することは,当業者が容易になし得ることであり,本件訂正発明2の効果も,刊行物1,2記載の発明及び周知技術から予測し得る程度のものである。
したがって,本件訂正発明2は,刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)まとめ
以上検討したように,本件訂正発明1及び2は,刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり,本件審判の請求は,特許法第126条第5項の規定に適合しないものであるから,本件訂正は認めることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-06 
結審通知日 2011-04-08 
審決日 2011-04-19 
出願番号 特願2003-313647(P2003-313647)
審決分類 P 1 41・ 121- Z (A01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 隆一  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 土屋 真理子
宮崎 恭
登録日 2005-04-28 
登録番号 特許第3672916号(P3672916)
発明の名称 脱穀部におけるわら切り刃  
代理人 吉井 雅栄  
代理人 吉井 剛  

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