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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E03D
管理番号 1238608
審判番号 不服2010-888  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-15 
確定日 2011-06-17 
事件の表示 特願2000-163598「水洗トイレ用薬剤供給具」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月14日出願公開,特開2001-342667〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成12年5月31日の出願であって,平成21年10月7日付けで拒絶査定がなされ,平成22年1月15日に審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。
その後,当審において,同年12月27日付けで拒絶の理由を通知したところ,これに対して,平成23年3月17日受付けで意見書及び手続補正書が提出された。

第2.本願発明
本願発明は,平成23年3月17日受付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであると認められ,そのうち,請求項1に係る発明は次のとおりのものである。
「【請求項1】 貯水タンク式水洗トイレの貯水タンク上蓋上に配置可能な供給具本体と,この供給具本体の底面部上に配置され液状の薬剤を含浸して保持し,かつこの保持した薬剤を水に溶解させる薬剤保持体と,液状の薬剤を収容するとともにこの薬剤を導出する導出孔が設けらた薬剤容器とを備え,この薬剤容器を前記供給具本体に支持して前記導出孔から薬液を導出し,該導出孔の下部に配置された前記薬剤保持体に供給する一方,放水タップから前記貯水タンク上蓋上に流下した水を前記薬液保持体に供給し保持されている前記薬剤を溶解させる水洗トイレ用薬剤供給具において,
前記供給具本体は,上部開放状に形成されるとともに,前記薬剤保持体が配置された底面部の一方側のみに,前記放水タップから前記貯水タンク上蓋上に流下した水が流入する流入用開口部が設けられ,この流入用開口部から流入した水に溶解した前記薬剤が水とともに流出する流出用開口部が前記底面部の他方側のみに設けられたことを特徴とする水洗トイレ用薬剤供給具。」(以下,「本願発明」という。)

第3.引用刊行物とその記載事項
刊行物1:実願平1-85253号(実開平3-25665号)
のマイクロフィルム
刊行物2:特開平2-229333号公報
刊行物3:実願平5-1007号(実開平6-57877号)
のCD-ROM

ア.当審の拒絶の理由に引用され,本願出願前に日本国内において頒布された上記刊行物1には,次の事項が記載されている。
(1a)「2.実用新案登録請求の範囲
(1) 水洗トイレの貯水タンクの上面に載置される基盤と,該基盤の上面に設けられた揮散体と,該揮散体の上面に載置される固形の薬剤と,前記揮散体の上面に位置して前記薬剤を覆う椀状のケースとを具え,前記揮散体は前記ケースの外側まで広がっていることを特徴とする水洗トイレ用洗浄剤容器。
・・・」
(1b)「この考案は・・・芳香・洗浄剤等の薬剤に一定量の水が接触するようにして,芳香・洗浄剤等の薬剤を一定にすることができるとともに,溶解した薬剤から発する香りをトイレの内部に漂わせることができる水洗トイレ用洗浄剤容器を提供することを目的とするものである。」(明細書4頁6?13行)
(1c)「〔作用〕
この考案は・・・椀状のケースの内部に位置して,上面に薬剤が載置されている揮散体の一部が前記ケースの外側まで延出していることにより,ケースの内部で溶解された薬剤が揮散体でケースの外側まで導かれて,薬剤の香りを漂わせることができることとなる。」(明細書5頁8?16行)
(1d)「・・・この水洗トイレ用洗浄剤容器は,水洗トイレの貯水タンクの上面に載置される基盤1と,この基盤1の上面に載置される揮散体2と,前記基盤1の上面に載置した固形の薬剤(芳香・洗浄剤)4を覆うケース3とから構成されている。
前記基盤1は,楕円状をなす基部5を有し,この基部5の前面側および後面側に起立部6,6が形成され,また,両側部には延出部7,7が形成され,この延出部7,7の前後端縁部には,湾曲しているとともに,中央部が他の部分よりも高く起立している被い部8,8の前後端が一体に連結されていて,この被い部8,8には複数のスリット9,9,……が形成されている。
また,この基盤1は,その基部5の中央部に円形状の空所10が穿設され,この空所10に連なるスリット11,11,……が放射状に形成され・・・」(明細書6頁6行?7頁3行)
(1e)「・・・前記基盤1の上面を覆うケース3は椀状をなし,・・・ケース3を前記基盤1に被せたとき・・・」(明細書7頁9?16行)
(1f)「・・・前記基盤1の上面に載置されている揮散体2は,板状をなすとともに,前記基部5および延出部7,7の上面に合致する形状をなし,両端部は前記ケース3の外側まで伸びて前記両被い部8,8の内面に対応するようになっている。」(明細書8頁1?6行)
(1g)「・・・各部材を組み立てる場合には,まず,前記基盤1の上面に前記揮散体2を位置する。
この場合,前記揮散体2は,両側に延出部7,7が設けられた基盤1の上面に合致する大きさならびに形状となっているので前記基盤1の上面に確実に載置されるようになっている。
こののち,前記揮散体2の上面に固形の薬剤(芳香・洗浄剤)4を位置し,前記基盤1の上面に前記ケース3を位置し,これで組立が終了する。」(明細書8頁7?17行)
(1h)「・・・貯水タンク20の上面に載置したこの考案による水洗トイレ用洗浄剤容器にあっては,前記ケース3の真上,もしくはそれ以外の場所の水道水の蛇口から滴下する水が貯水タンク20の流水流入口21に流人する際に,水位lが水洗トイレ用洗浄剤容器に対して第2図に鎖線で示す状態になる。
したがって,前記基盤1の上面に揮散体2を介して載置された固形の薬剤(芳香・洗浄剤)4は水に浸漬されることにより溶解し,溶解された薬剤4の一部が水とともに流入流水口21を介して貯水タンク20の内部に流入して貯溜されることとなる。
そして,前記溶解時にあっては,貯水タンク20の上面の水位lが前記基盤1の上面に載置された固形の薬剤4の下面よりも高くなって,薬剤4が浸漬されることで溶解される・・・
そして,上記のように前記ケース3の内部で溶解した薬剤4の一部は前記揮散体2に含浸されることとなり,揮散体2の内部を通って,水に浸漬されることのない両端部に導かれて前記基盤1の被い部8,8のスリット9,9,……を介して空気と接触し,芳香剤の芳ばしい香りがトイレ内に漂うこととなる。」(明細書9頁15?11頁10行)
(1i)第2,4,5図には,上記(1d),(1h)の記載事項からみて,基盤1の被い部8,8の底部の開口と,基部5のスリット11,11,……及び空所10が,蛇口から貯水タンク20の上面に滴下した水が流入し,流入した水に溶解した薬剤が水とともに流出する開口部として機能していることが,記載されている。

そして,上記(1h)の「基盤1の上面に揮散体2を介して載置された固形の薬剤(芳香・洗浄剤)4は水に浸漬されることにより溶解」する際に,同時に揮散体2に保持した薬剤が水に溶解することは自明であるから,
そうすると,上記記載事項及び当業者の技術常識からみて,刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。
「水洗トイレの貯水タンク20の上面に載置可能な基盤1と,この基盤1の基部5上に載置され固形の薬剤4から溶解した薬剤の一部を含浸して保持し,かつこの保持した薬剤を水に溶解させる揮散体2と,前記固形の薬剤4を覆うケース3とを備え,このケース3内の前記固形の薬剤4から溶解した薬剤の一部を前記固形の薬剤4の下部に配置された前記揮散体2に含浸する一方,蛇口から前記貯水タンク20の上面に滴下した水を前記揮散体2を介して前記固形の薬剤4に供給し,前記固形の薬剤4と前記揮散体2に保持した薬剤を溶解させる水洗トイレ用洗浄剤容器において,
前記基盤1は,被い部8,8にスリット9,9,……が形成されるとともに,前記揮散体2が載置された前記基部5に,前記蛇口から前記貯水タンク20の上面に滴下した水が流入し,流入した水に溶解した薬剤が水とともに流出する開口部が設けられた水洗トイレ用洗浄剤容器。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

イ.同じく,上記刊行物2には,次の事項が記載されている。
(2a)「2.特許請求の範囲
1 液体の流出する吐出口を有する液体芳香清浄剤を収納した容器と,吐出口より流出した液体芳香清浄剤が浸透し保持される浸透部と,容器を吐出口を下向きにしてタンク上に支持する補助台とからなり,該浸透部に保持された液体芳香清浄剤を手洗い水により溶解してタンク内に流入せしめるようにしたことを特徴とするオンタンク式水洗トイレ用液体芳香清浄剤装置。」
(2b)「本発明の液体芳香洗浄剤装置は吐出口4を有する液体芳香洗浄剤5を収納した容器1,液体芳香洗浄剤の浸透部2,貯水タンク上で容器1を吐出口4を下向きにして支持する補助台3からなる。吐出口4には適当な大きさの小孔4’が設けられていて液体が少量ずつ流下していくようになっている。
液体芳香洗浄剤5は容器1の下部の吐出口4に接して設けられた浸透部2に浸透し・・・」(2頁右上欄4?12行)
(2c)「フラッシュ時の手洗い水6は容器1の外側を流下し,さらに浸透部2の全面に拡がって,その中に保持された清浄剤を溶解して貯水槽の穴7’を通って貯水槽7に流入する。・・・」(2頁右上欄19行?左下欄2行)
(2d)「・・・浸透部はフラッシュ1回分の芳香清浄剤を保持できるものであればよく,その材質,形状は特に限定されない。例えば第1図に示したような金網メッシュを重ねたものでも,また第2図に示したような吐出口4から貯水槽の穴7’内へ延びるように設けられた筒状の浸透部でもよい。」(2頁右下欄7?13行)

ウ.同じく,上記刊行物3には,次の事項が記載されている。
(3a)「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 内部に固型薬剤を収納するとともに,貯水タンクの受皿に載置され,該受皿に供給される水に前記固型薬剤を接触させる洗浄剤容器であって,下部が閉塞し,閉塞した下部に開口部が形成され,この開口部の周縁部にじゃま板が設けられたことを特徴とする洗浄剤容器。
【請求項2】 内部に固型薬剤を収納するとともに,貯水タンクの受皿に載置され,該受皿に供給される水に前記固型薬剤を接触させる洗浄剤容器であって,上部が開口するとともに,下部が閉塞し,閉塞した下部に開口部が形成され,この開口部の周縁部にじゃま板が設けられたことを特徴とする洗浄剤容器。
【請求項3】 内部に固型薬剤を収納するとともに,貯水タンクの受皿に載置され,該受皿に供給される水に前記固型薬剤を接触させる洗浄剤容器であって,上部が開口するとともに,下部が閉塞し,閉塞した下部中央部が突出するとともに,この突出した部位以外の部位に開口部が形成され,この開口部の周縁部にじゃま板が設けられたことを特徴とする洗浄剤容器。
・・・」
(3b)「【0029】
・・・この洗浄剤容器1は,上部が開口するとともに,下部が閉塞した椀状をなし,閉塞した下部に開口部2が形成されている。
・・・
【0032】
さらに,隣接する支持部6,6間であって,前記張出し部3の下面に,前記下部の中心から等距離に,かつ,下部の中心からの放射線に対して直交する向きにじゃま板7が設けられている。したがって,このじゃま板7は前記開口部2の開口周縁部の内周側に設けられていることになる。
・・・
【0037】
・・・前記洗浄剤容器1の下部には前記じゃま板7が位置するため,孔13に向かって流れてきた水は,このじゃま板7に当たって上方に向きを変え,開口部2を介して洗浄剤容器1の内部に流入し,この流入した水は前記固型薬剤11と接触して,これを溶解させる。そして,洗浄剤,芳香剤,殺菌剤等の薬剤を含む水が再び開口部2を介して,洗浄剤容器1の外部に流出し・・・」
(3c)「【0040】
この洗浄剤容器21は,上部が開口するとともに,下部が閉塞し,閉塞した下部中央部が突出するとともに,この突出した部位以外の部位に開口部22が形成されている。
【0041】
すなわち,この洗浄剤容器21の下部は中央部から外側に傾斜面23が形成されていて,この傾斜面23に開口部22が形成され,この開口部22は周方向に所定の間隔で5箇所形成されている。
【0042】
また,前記傾斜面23には,中心から所定の距離であるとともに,中心からの放射線に対して直交する向きに,かつ,前記開口部22を横断するようにじゃま板27が設けられている。したがって,このじゃま板27は前記開口部22の開口周縁部の内周側に設けられていることになる。
・・・
【0045】
・・・また,前記開口部22の下端側は前記受皿12に形成した孔13に開口し,じゃま板27で上方に向きを変えた水が前記固型薬剤11を溶解して,開口部22から貯水タンク10の内部に流入するようになっている。・・・」

第4.本願発明と刊行物1記載の発明の対比
本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると,
刊行物1記載の発明の「水洗トイレ」が本願発明の「貯水タンク式水洗トイレ」に相当し,以下同様に,「貯水タンクの上面」が「貯水タンク上蓋上」に,「載置」が「配置」に,「基盤」が「供給具本体」に,「基部」が「底面部」に,「揮散体」が「薬剤保持体」に,「蛇口」が「放水タップ」に,「滴下」が「流下」に,「水洗トイレ用洗浄剤容器」が「水洗トイレ用薬剤供給具」に,「被い部にスリットが形成される」ことが「上部開放状に形成される」ことに,それぞれ相当する。
また,刊行物1記載の発明の「固形の薬剤から溶解した薬剤の一部を含浸して保持(する)・・・揮散体と,前記固形の薬剤を覆うケースとを備え,このケース内の前記固形の薬剤から溶解した薬剤の一部を前記固形の薬剤の下部に配置された前記揮散体に含浸する一方,・・・水を前記揮散体を介して前記固形の薬剤に供給し,前記固形の薬剤と前記揮散体に保持した薬剤を溶解させる」ことと,本願発明の「液状の薬剤を含浸して保持(する)・・・薬剤保持体と,液状の薬剤を収容するとともにこの薬剤を導出する導出孔が設けらた薬剤容器とを備え,この薬剤容器を供給具本体に支持して前記導出孔から薬液を導出し,該導出孔の下部に配置された前記薬剤保持体に供給する一方,・・・水を前記薬液保持体に供給し保持されている前記薬剤を溶解させる」ことは,「薬剤を含浸して保持(する)・・・薬剤保持体と,薬剤を覆う薬剤容器とを備え,この薬剤容器内の薬剤を前記薬剤容器の下部に配置された前記薬剤保持体に供給する一方,・・・水を前記薬液保持体に供給し保持されている前記薬剤を溶解させる」ことである点で共通し,
刊行物1記載の発明の「基部に,・・・水が流入し,・・・薬剤が水とともに流出する開口部が設けられた」ことと,本願発明の「底面部の一方側のみに,・・・水が流入する流入用開口部が設けられ,・・・薬剤が水とともに流出する流出用開口部が前記底面部の他方側のみに設けられた」こととは,「底面部に,水が流入し,・・・薬剤が水とともに流出する開口部が設けられた」ことである点で共通する。

そうすると,両者は,
「貯水タンク式水洗トイレの貯水タンク上蓋上に配置可能な供給具本体と,この供給具本体の底面部上に配置され薬剤を含浸して保持し,かつこの保持した薬剤を水に溶解させる薬剤保持体と,薬剤を覆う薬剤容器とを備え,この薬剤容器内の薬剤を前記薬剤容器の下部に配置された前記薬剤保持体に供給する一方,放水タップから前記貯水タンク上蓋上に流下した水を薬液保持体に供給し保持されている薬剤を溶解させる水洗トイレ用薬剤供給具において,
前記供給具本体は,上部開放状に形成されるとともに,前記薬剤保持体が配置された底面部に,前記放水タップから前記貯水タンク上蓋上に流下した水が流入し,流入した水に溶解した前記薬剤が水とともに流出する開口部が設けられた水洗トイレ用薬剤供給具。」である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点1)
水に薬剤を溶解させるための構成について,本願発明では,薬剤容器が「液状の薬剤を収容するとともにこの薬剤を導出する導出孔が設けらた」ものであって,この薬剤容器を「供給具本体に支持して前記導出孔から薬液を導出し,前記導出孔の下部に配置された薬剤保持体に供給する一方」,「水を前記薬液保持体に供給し保持されている前記薬剤を溶解させる」ものであるに対して,
刊行物1記載の発明では,薬剤容器が「固形の薬剤を覆う」ものであって,この薬剤容器「内の前記固形の薬剤から溶解した薬剤の一部を前記固形の薬剤の下部に配置された薬剤保持体に含浸する一方」,「水を前記薬剤保持体を介して前記固形の薬剤に供給し,前記固形の薬剤と前記薬剤保持体に保持した薬剤を溶解させる」ものである点。

(相違点2)
底面部に設けられた開口部について,本願発明では,底面部の「一方側のみに」水が流入する「流入用開口部」が設けられ,「他方側のみに」薬剤が水とともに流出する「流出用開口部」が設けられているのに対して,
刊行物1記載の発明では,開口部に流入用と流出用という区別が明確になく,水が流入し薬剤が水とともに流出する開口部が設けられている点。

第5.当審の判断
上記各相違点について,以下に検討する。
(相違点1について)
まず,上記相違点1について検討するために,刊行物2の上記第2.2.(1)のイ.の記載をみると,該刊行物2により,上記相違点1に係る「薬剤容器([容器]。[ ]内は刊行物2の用語を示す。以下同様。)が液状の薬剤([液体芳香洗浄剤])を収容([収納])するとともにこの薬剤を導出する導出孔([小孔])が設けられたものであって,この薬剤容器を供給具本体([補助台])に支持して前記導出孔から薬液を導出し,前記導出孔の下部に配置された薬剤保持体([浸透部])に供給する一方,水を前記薬液保持体に供給し保持されている前記薬剤を溶解させる」こと(以下,「刊行物2記載の発明」という。)は,本願出願時において既に公知である。
そして,刊行物1,2記載の発明は,いずれも薬剤保持体を備えて水に薬剤を溶解させる水洗トイレ用薬剤供給具に係るものであるから,刊行物1記載の発明の水に薬剤を溶解させるための構成として,刊行物2記載の発明のものを適用し,「液状の薬剤を含浸して保持(する)・・・薬剤保持体と,液状の薬剤を収容するとともにこの薬剤を導出する導出孔が設けらた薬剤容器とを備え,この薬剤容器を供給具本体に支持して前記導出孔から薬液を導出し,該導出孔の下部に配置された前記薬剤保持体に供給する一方,・・・水を前記薬液保持体に供給し保持されている前記薬剤を溶解させる」構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
したがって,刊行物1,2記載の発明に基づいて,上記相違点1に係る事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
次に,上記相違点2について検討するにあたり,まず上記相違点2に係る本願発明の「流入用開口部」及び「流出用開口部」について検討するに,本願明細書には,両開口部に関わる説明として,
「【0018】
底面部21には,前面部22の基端との間に流出用開口部32が形成されており,背面部23との間に一対の流入用開口部31が形成されている。流入用開口部31には,ガイド部材としての邪魔板30が設けられており,この邪魔板30は,基端部を底面部21に結合され先端部側が徐々に下降した傾斜状に形成されている。・・・」,
「【0029】
この使用状態において,放水タップ107からの水は,水はタンク貯水タンク上蓋106の表面に沿って穴108方向に流動する際に,邪魔板30により流動を阻害されて,流入用開口部31から供給具本体2内に流入する。この供給具本体2内に流入した水は,含浸体4に含浸されている薬剤を溶解させ,しかる後に,流出用開口部32及び円形孔26から流出し,・・・」,
「【0030】
このとき,放水タップ107から吐出した水は,必ずしもその全てが流入用開口部31から供給具本体2内に流入するとは限らず,該供給具本体2内への流入量は,流入用開口部3の面積,邪魔板30の大きさや角度に応じた量となる。したがって,流入用開口部3の面積,邪魔板30の大きさや角度をチューニングしつつ設計を行うことにより,流入する水の量を制御することができる。・・・」,
「【0032】
また,放水タップ107からの単位時間当たりの放水量が多い場合には,水は流入用開口部31から流入して流出用開口部32から流出するのみならず,両側開口部35から流入しあるいは流出する。したがって,この場合には,供給具本体2内への水の流入量が増大し,含浸体4からの薬剤の溶解量も増大する。・・・」と記載され,
さらに,本願の図面1,2には,流入用開口部31及び流出用開口部32が,いずれも供給具本体の底面に形成されていることが記載され,前記流出用開口部32からの水の浸入を積極的に防ぐ構成,及び,前記流入用開口部31からの水の流出を積極的に防ぐ構成は,特に見当たらない。
以上の記載事項及び当業者の技術常識からみて,本願明細書に記載された水洗トイレ用薬剤供給具は,放水タップからの水の流下時において,その周囲を含浸体4(薬剤保持体)及び両側開口部35を越えるか,或いはそれに近い水位の水に取り囲まれた場合には,含浸体4(薬剤保持体)及び両側開口部35よりも低位に位置する流出用開口部32は水の浸入を防ぎ得ないものであり,また,流入用開口部31も,少なくとも水の流下の終盤以降は,水洗トイレ用薬剤供給具内の水の流出を防ぎ得ないものである。
そうすると,本願発明の「水が流入する流入用開口部」とは,水の流出もあるものの,(邪魔板30によって)他の開口よりは水が流入しやすい開口部であり,また,本願発明の「薬剤が水とともに流出する流出用開口部」とは,水の流入もあるものの,(積極的に水を流入させる構成を持たないため)他の開口よりは流出しやすい開口部であると解することができる。
そのうえで,刊行物3の上記(3b),(3c)の記載事項をみると,刊行物3に記載された開口部2,22のじゃま板7,27より周縁部側は,じゃま板7,27によって上方に向きを変えた水が流入するための開口であって,他の開口よりは水が流入しやすいものであるから,本願発明の「流入用開口部」に相当するものであり,同様に,開口部2,22のじゃま板7,27より中心部側は,本願発明の「流出用開口部」に相当するものであって,
刊行物3には,「底面部([洗浄剤容器の下部]。[ ]内は刊行物3の用語を示す。以下同様。)に,水が流入する流入用開口部が設けられ,かつ,薬剤が水とともに流出する流出用開口部が設けられている水洗トイレ用薬剤供給具([洗浄剤容器])。」(以下,「刊行物3記載の発明」という。)が,記載されていると認められ,この刊行物3記載の発明の「流入用開口部」及び「流出用開口部」を,同一の技術分野に属する刊行物1記載の発明の開口部に適用することは,当業者が容易に想到し得たことである。
そして,各開口部の位置は,薬剤が水により適切に溶解しやすいように,供給具本体の形状等を考慮して当業者が適宜決定するべき配置上の設計的事項に過ぎないから,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の発明の「流入用開口部」及び「流出用開口部」を適用するに際して,上記相違点2のごとく底面部の「一方側のみに」流入用開口部を設け,「他方側のみに」流出用開口部を設けることは,当業者が適宜なし得たことに過ぎない。
したがって,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の発明を適用して,「底面部の一方側のみに,・・・水が流入する流入用開口部が設けられ,・・・薬剤が水とともに流出する流出用開口部が前記底面部の他方側のみに設けられた」構成として,上記相違点2に係る事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本願発明が奏するとされる効果について検討するに,本願明細書の【発明の効果】に記載された,「薬剤保持体に保持された薬剤を効果的に外部に揮散させて,周囲空間に十分な薬剤効果を発生させることができる」との効果は,刊行物1記載の発明から予測可能なものであり,
「流入用開口部の面積に応じて流入する水の量を制御することができ,流入する水の量により溶解する薬剤の量を制御して,該溶解する薬剤の量を適正に維持することができる」との効果は,本願発明を特定する事項に,流入用開口部の面積を調整変化させる構成が見出せないので,本願発明が奏する効果とは認められず,また,仮に,単に流入用開口部を設けたことによる効果であるとしても,それは刊行物3記載の発明から自明なものであり,
「水が薬剤容器内に吸引されてしまう現象が発生することもない」との効果は,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用することによって自ずと奏され,予測可能なものであって,いずれの効果も格別なものではない。

よって,本願発明は,刊行物1?3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-29 
結審通知日 2011-04-05 
審決日 2011-04-22 
出願番号 特願2000-163598(P2000-163598)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E03D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩田 裕介鷲崎 亮伊藤 昌哉  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 山本 忠博
宮崎 恭
発明の名称 水洗トイレ用薬剤供給具  
代理人 三好 千明  

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