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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1240284
審判番号 不服2010-19947  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-03 
確定日 2011-07-14 
事件の表示 特願2005- 4299「記憶装置及び情報処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月27日出願公開、特開2006-195569〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、
平成17年1月11日の出願であって、
平成22年3月5日付けで手続補正がなされ、
同年3月12日付けで最初の拒絶理由通知(同年同月18日発送)がなされ、
同年5月17日に意見書が提出されるとともに、手続補正がなされ、
同年5月31日付けで拒絶査定(同年6月3日発送)がなされ、
同年9月3日付けで審判請求されたものである。

第2.本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年5月17日付けの手続補正により補正された、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認められる。

「情報処理装置とデータ通信するためのデータ通信手段と、
データを記憶する複数のメモリ手段と、
複数の上記メモリ手段を制御して、上記情報処理装置から上記データ通信手段を介して取り込んだ上記データを複数の上記メモリ手段に書き込むデータ書込処理、又は上記情報処理装置から要求された上記データを複数の上記メモリ手段から読み出すデータ読出処理を任意のデータ転送速度で実行する制御手段と
を具え、
上記制御手段は、
上記情報処理装置から上記データ通信手段を介して取り込んだ、消費電力の異なる複数の処理実行形態のうち、上記情報処理装置の実行している処理に適合した1の当該処理実行形態を指定する指定信号に基づき、当該指定信号により指定された上記処理実行形態での上記消費電力に見合ったデータ転送最低速度を保障するデータ転送速度で上記データ書込処理又は上記データ読出処理を実行する
記憶装置。」

第3.引用発明の認定
3の1.引用例1に記載されている技術的事項
原審が拒絶理由通知において引用した特開2003-36205号公報(平成15年2月7日出願公開。以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の技術的事項が記載されている。

(1の1)
「【0012】
【発明が解決しようとする課題】携帯型情報処理機器によるフラッシュメモリカードへのアクセスの頻度は、機種に依存して大きく異なる。従って、フラッシュメモリカードに対して要求されるデータ処理速度も、携帯型情報処理機器の機種に依存して大きく異なる。例えば、ディジタルビデオカメラ(DVC)は動画データをフラッシュメモリカードへリアルタイムに書き込む。従って、フラッシュメモリカードによるデータの書き込みは速くなければならない。それに対して、ディジタルスチルカメラ(DSC)は静止画データをフラッシュメモリカードへ、散発的に書き込む。従って、フラッシュメモリカードによるデータの書き込みは、DVCでの使用時に比べて遅くても良い。」

(1の2)
「【0014】上記のフラッシュメモリカードのように、複数のフラッシュメモリについてパラレルにデータを書き込み、読み出し、又は消去を実行する時、単一のフラッシュメモリについての実行時に比べ、消費電流が増大する。上記のフラッシュメモリカードは図5で示したように、ホストHから電源ラインVDDを通して電力を得ている。それ故、フラッシュメモリカードでの消費電流が増えると、ホストHの内部電源に対する負荷が増す。こうして、従来のフラッシュメモリカード100では、ホストH、すなわち、携帯型情報処理機器の内部電源に対する負荷の増大によりデータ処理速度を増大していた。
【0015】しかし、携帯型情報処理機器は更に小型かつ軽量であることを望まれている。それ故、内部電源の容量が更に制限される。その上、内部電源による使用時間を更に延長することを望まれている。これらの要望を満たすには、内部電源に対する負荷を減少しなければならない。従って、携帯型情報処理機器の内部電源に対する負荷の増大は上記の要望に反するので、好ましくなかった。
【0016】本発明は、記憶素子を複数含む記憶装置であり、用途に応じてデータ処理時の消費電流を低減し、かつ、データ処理速度を向上できる記憶装置、の提供を目的とする。」

(1の3)
「【0017】
【課題を解決するための手段】本発明の一つの観点による記憶装置は、
(A) ホストからのコマンドを識別してそのコマンドの識別情報をコマンド識別信号として出力するためのコマンド識別部、を含み、前記ホストとの間で前記コマンドとデータとを通信するためのホストインタフェース;
(B) 前記データを記憶するための、少なくとも二つ以上の記憶素子;
(C) (a) 並列に動作する前記記憶素子の数を制御モード信号により指示される数に制御し、(b) 前記コマンドに応じて前記データを、動作中の前記記憶素子へ書き込み、及び、動作中の前記記憶素子から読み出す、ための記憶素子制御部;並びに、
(D) 前記並列に動作する記憶素子の数を前記コマンド識別信号に応じて決定し、その数を前記制御モード信号として前記記憶素子制御部へ与えるための制御モード決定部;を有する。」

(1の4)
「【0018】上記の記憶装置はホストからのコマンドを識別し、そのコマンド識別情報に応じて、並列に動作する記憶素子の数を決定する。それにより、コマンドにより要求されるデータ処理速度を確保すると共に、過剰な消費電流を削減する。
【0019】その時、ホストが上記の記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を、特定のコマンドにより指定しても良い。その特定のコマンドは例えば、ホストの種類等のホストについての情報、及び、データ転送速度等のホストとの間の通信についての情報、を示すものであっても良い。特定のコマンドはそのパラメータの中に、並列に動作する記憶素子の数の最適値を含んでも良い。」

(1の5)
「【0020】上記の記憶装置では、並列に動作する記憶素子の数がホストからのコマンドを通じて、例えばホストの種類に応じて次のように決定される: DVC等、高速なデータ処理を必要とするホストに対しては、並列に動作する記憶素子の数が多い。その時、上記の記憶装置では、データ処理速度が大きい。一方、DSC等、データの処理速度より消費電流の低減を重視するホストに対しては、並列に動作する記憶素子の数が少ない。その時、上記の記憶装置では消費電流が小さい。こうして、上記の記憶装置では、並列に動作する記憶素子の数がホストの種類に応じて最適に決定される。その結果、上記の記憶装置ではホストの種類に応じて、データ処理速度と消費電流とが最適に調節される。」

(1の6)
「【0021】更に、ホストが、例えば上記の記憶装置との通信でデータ転送速度を設定する時、上記の記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を、データ転送速度に合わせて最適値に指定できる。こうして、上記の記憶装置では、並列に動作する記憶素子の数がホストとのデータ転送速度に応じて最適値に決定される。その結果、ホストとの間でのデータ転送速度に応じて、データ処理速度と消費電流とが最適に調節される。」

(1の7)
「【0032】ホストHからのコマンドがデータの書き込み命令である時、ホストインタフェース1はデータラインからシリアル信号を1バイトずつ読み出してパラレル信号に変換し、そのパラレル信号をバッファ1bへ一時記憶する。それらの動作は、クロックラインCLKからの転送クロックに同期して行われる。更に、ホストインタフェース1はフラッシュメモリ制御部2へ、コマンドから解読された書き込み先のアドレスを伝達する。」

(1の8)
「【0038】フラッシュメモリ制御部2はホストインタフェース1とメモリ部3との間でのデータの入出力処理を、内部クロックに同期して次のように制御する:フラッシュメモリ制御部2は、ホストインタフェース1から書き込み先のアドレスを伝達された時、そのアドレスに対応するメモリ部3内のフラッシュメモリのセルへ、バッファ1b内のデータを転送する。」

3の2.引用発明の認定
上記(1の3)に「ホストからのコマンドを識別してそのコマンドの識別情報をコマンド識別信号として出力するためのコマンド識別部、を含み、前記ホストとの間で前記コマンドとデータとを通信するためのホストインタフェース」と記載され、また、上記(1の4)に「ホストが上記の記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を、特定のコマンドにより指定しても良い。」と記載されていることから明らかなように、ホストインタフェースは、ホストとデータ通信を行うためのものであり、かつ、記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンドを識別してそのコマンドの識別情報をコマンド識別信号として出力するためのものであると認められる。

上記(1の3)に「前記データを記憶するための、少なくとも二つ以上の記憶素子」と記載されていることから明らかなように、データを記憶する複数の記憶素子が存在するものと認められる。

上記(1の3)に「前記並列に動作する記憶素子の数を前記コマンド識別信号に応じて決定し、その数を前記制御モード信号として前記記憶素子制御部へ与えるための制御モード決定部」と記載されていることから明らかなように、制御モード決定部は、コマンド識別信号に応じて、並列に動作する記憶素子の数を決定し、その数を制御モード信号として出力するものであると認められる。

上記(1の3)に「前記データを記憶するための、少なくとも二つ以上の記憶素子」と記載され、かつ、上記(1の3)に「(a) 並列に動作する前記記憶素子の数を制御モード信号により指示される数に制御し、(b) 前記コマンドに応じて前記データを、動作中の前記記憶素子へ書き込み、及び、動作中の前記記憶素子から読み出す、ための記憶素子制御部」と記載されていることから明らかなように、記憶素子制御部は、複数の記憶素子を制御するものであり、かつ、データを複数の記憶素子に書き込むデータ書込処理を、制御モード信号により定められる態様で実行するものであると認められる。
引用例1の【0017】?【0021】(上記の(1の3)?(1の6))における「記憶素子制御部」に対応する引用例1の【0029】?【0059】の実施例1における「フラッシュメモリ制御部2」に関連して、上記(1の7)に「ホストHからのコマンドがデータの書き込み命令である時、ホストインタフェース1はデータラインからシリアル信号を1バイトずつ読み出してパラレル信号に変換し、そのパラレル信号をバッファ1bへ一時記憶する。…(中略)…更に、ホストインタフェース1はフラッシュメモリ制御部2へ、コマンドから解読された書き込み先のアドレスを伝達する。」と記載され、上記(1の8)に「フラッシュメモリ制御部2は、ホストインタフェース1から書き込み先のアドレスを伝達された時、そのアドレスに対応するメモリ部3内のフラッシュメモリのセルへ、バッファ1b内のデータを転送する。」と記載されている。これらの記載から明らかなように、記憶素子制御部は、ホストからホストインタフェースを介して取り込んだデータを記憶素子に書き込むデータ書込処理を実行するものであると認められる。
さらに、上記(1の3)に「前記並列に動作する記憶素子の数を前記コマンド識別信号に応じて決定し、その数を前記制御モード信号として前記記憶素子制御部へ与える」と記載され、上記(1の5)に「DVC等、高速なデータ処理を必要とするホストに対しては、並列に動作する記憶素子の数が多い。その時、上記の記憶装置では、データ処理速度が大きい。一方、DSC等、データの処理速度より消費電流の低減を重視するホストに対しては、並列に動作する記憶素子の数が少ない。その時、上記の記憶装置では消費電流が小さい。」と記載されていることから明らかなように、制御モード信号により並列に動作する記憶素子の数が定められ、その並列に動作する記憶素子の数によりデータ転送速度が定まるのであるから、制御モード信号により定められる態様で実行することは、制御モード信号により定められるデータ転送速度で実行することであると認められる。
以上を併せれば、記憶素子制御部は、複数の記憶素子を制御して、ホストからホストインターフェースを介して取り込んだデータを複数の記憶素子に書き込むデータ書込処理を、制御モード信号により定められるデータ転送速度で実行するものと認められる。

上記(1の2)に「上記のフラッシュメモリカードのように、複数のフラッシュメモリについてパラレルにデータを書き込み…(中略)…を実行する時、単一のフラッシュメモリについての実行時に比べ、消費電流が増大する。上記のフラッシュメモリカードは図5で示したように、ホストHから電源ラインVDDを通して電力を得ている。それ故、フラッシュメモリカードでの消費電流が増えると、ホストHの内部電源に対する負荷が増す。」と記載され、上記(1の5)に「DSC等、データの処理速度より消費電流の低減を重視するホストに対しては、並列に動作する記憶素子の数が少ない。その時、上記の記憶装置では消費電流が小さい。こうして、上記の記憶装置では、並列に動作する記憶素子の数がホストの種類に応じて最適に決定される。その結果、上記の記憶装置ではホストの種類に応じて、データ処理速度と消費電流とが最適に調節される。」と記載され、上記(1の6)に「ホストが、例えば上記の記憶装置との通信でデータ転送速度を設定する時、上記の記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を、データ転送速度に合わせて最適値に指定できる。こうして、上記の記憶装置では、並列に動作する記憶素子の数がホストとのデータ転送速度に応じて最適値に決定される。その結果、ホストとの間でのデータ転送速度に応じて、データ処理速度と消費電流とが最適に調節される。」と記載され、また、引用例1における「消費電流」という用語は一般的な「消費電力」という用語と同様の意味で用いられていることから明らかなように、並列に動作する記憶素子の数が異なれば消費電力が異なるものであると認められる。
また、上記(1の3)に「(a) 並列に動作する前記記憶素子の数を制御モード信号により指示される数に制御し、(b) 前記コマンドに応じて前記データを、動作中の前記記憶素子へ書き込み、…(中略)…ための記憶素子制御部」と記載されていることから明らかなように、記憶素子制御部は、複数の並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態のうち、1の並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態を指定する制御モード信号に基づき、当該制御モード信号により指定された並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態でデータ書込処理を実行するものであると認められる。
さらに、上記(1の4)に「上記の記憶装置はホストからのコマンドを識別し、そのコマンド識別情報に応じて、並列に動作する記憶素子の数を決定する。それにより、コマンドにより要求されるデータ処理速度を確保すると共に、過剰な消費電流を削減する。」と記載され、上記(1の5)に「DVC等、高速なデータ処理を必要とするホストに対しては、並列に動作する記憶素子の数が多い。その時、上記の記憶装置では、データ処理速度が大きい。一方、DSC等、データの処理速度より消費電流の低減を重視するホストに対しては、並列に動作する記憶素子の数が少ない。その時、上記の記憶装置では消費電流が小さい。こうして、上記の記憶装置では、並列に動作する記憶素子の数がホストの種類に応じて最適に決定される。その結果、上記の記憶装置ではホストの種類に応じて、データ処理速度と消費電流とが最適に調節される。」と記載され、上記(1の6)に「ホストが、例えば上記の記憶装置との通信でデータ転送速度を設定する時、上記の記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を、データ転送速度に合わせて最適値に指定できる。こうして、上記の記憶装置では、並列に動作する記憶素子の数がホストとのデータ転送速度に応じて最適値に決定される。その結果、ホストとの間でのデータ転送速度に応じて、データ処理速度と消費電流とが最適に調節される。」と記載され、引用例1における「消費電流」という用語は一般的な「消費電力」という用語と同様の意味で用いられており、引用例1における「データ処理速度」という用語は一般的な「データ転送速度」という用語と同様の意味で用いられていることから明らかなように、並列に動作する記憶素子の数が示す処理の実行形態で実行することは、当該実行形態での消費電力に見合ったデータ転送速度で処理を実行することであると認められる。
上記(1の1)に「フラッシュメモリカードに対して要求されるデータ処理速度も、携帯型情報処理機器の機種に依存して大きく異なる。例えば、ディジタルビデオカメラ(DVC)は動画データをフラッシュメモリカードへリアルタイムに書き込む。従って、フラッシュメモリカードによるデータの書き込みは速くなければならない。それに対して、ディジタルスチルカメラ(DSC)は静止画データをフラッシュメモリカードへ、散発的に書き込む。従って、フラッシュメモリカードによるデータの書き込みは、DVCでの使用時に比べて遅くても良い。」と記載され、上記(1の5)に「上記の記憶装置では、並列に動作する記憶素子の数がホストからのコマンドを通じて、例えばホストの種類に応じて次のように決定される: DVC等、高速なデータ処理を必要とするホストに対しては、並列に動作する記憶素子の数が多い。その時、上記の記憶装置では、データ処理速度が大きい。一方、DSC等、データの処理速度より消費電流の低減を重視するホストに対しては、並列に動作する記憶素子の数が少ない。その時、上記の記憶装置では消費電流が小さい。こうして、上記の記憶装置では、並列に動作する記憶素子の数がホストの種類に応じて最適に決定される。その結果、上記の記憶装置ではホストの種類に応じて、データ処理速度と消費電流とが最適に調節される。」と記載され、上記(1の6)に「ホストが、例えば上記の記憶装置との通信でデータ転送速度を設定する時、上記の記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を、データ転送速度に合わせて最適値に指定できる。こうして、上記の記憶装置では、並列に動作する記憶素子の数がホストとのデータ転送速度に応じて最適値に決定される。その結果、ホストとの間でのデータ転送速度に応じて、データ処理速度と消費電流とが最適に調節される。」と記載されていることから明らかなように、例えば、ホストが動画データを処理する場合にはその処理に適合するように、並列に動作する記憶素子の数を多くする指定を含むコマンドが、ホストから記憶装置に送られる一方で、ホストが静止画データを処理する場合にはその処理に適合するように、並列に動作する記憶素子の数を少なくする指定を含むコマンドが、ホストから記憶装置に送られるものである。ホストからのコマンドに対してホストインタフェースがコマンド識別信号を出力し、コマンド識別信号に対して制御モード決定部が制御モード信号を出力するものであることは既に示したとおりであるから、結局のところ、制御モード信号は、ホストの実行している処理に適合した1の並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態を指定するものであると認められる。
以上を併せれば、記憶素子制御部は、消費電力の異なる複数の並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態のうち、ホストの実行している処理に適合した1の並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態を指定する制御モード信号に基づき、当該制御モード信号により指定された並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態での消費電力に見合ったデータ転送速度でデータ書込処理を実行するものと認められる。

上記引用例1の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。

「ホストとデータ通信を行い、記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンドを識別してそのコマンドの識別情報をコマンド識別信号として出力するためのホストインタフェースと、
データを記憶する複数の記憶素子と、
コマンド識別信号に応じて、並列に動作する記憶素子の数を決定し、その数を制御モード信号として出力する制御モード決定部と、
複数の記憶素子を制御して、ホストからホストインターフェースを介して取り込んだデータを複数の記憶素子に書き込むデータ書込処理を、制御モード信号により定められるデータ転送速度で実行する記憶素子制御部と、
を具え、
記憶素子制御部は、
消費電力の異なる複数の並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態のうち、ホストの実行している処理に適合した1の並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態を指定する制御モード信号に基づき、当該制御モード信号により指定された並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態での消費電力に見合ったデータ転送速度でデータ書込処理を実行する
記憶装置。」

上記で認定した発明において、「記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンドを識別」した「ホストインタフェース」が「そのコマンドの識別情報をコマンド識別信号として出力」し、その「コマンド識別信号に応じて、」「制御モード決定部」が「並列に動作する記憶素子の数を決定し、その数を制御モード信号として出力」し、その「制御モード信号により定められるデータ転送速度で」「ホストからホストインターフェースを介して取り込んだデータを複数の記憶素子に書き込むデータ書込処理を」「記憶素子制御部」が「実行する」のであるから、上記で認定した発明においては「記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンド」に基づいて「制御モード信号」が定まるわけであり、結局のところ、上記で認定した発明における「ホストからホストインターフェースを介して取り込んだデータを複数の記憶素子に書き込むデータ書込処理を、制御モード信号により定められるデータ転送速度で実行する」ことは、ホストからホストインターフェースを介して取り込んだデータを複数の記憶素子に書き込むデータ書込処理を、記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンドにより定められるデータ転送速度で実行することであると認められる。

同様に、上記で認定した発明においては「記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンド」に基づいて「制御モード信号」が定まることから、上記で認定した発明における「消費電力の異なる複数の並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態のうち、ホストの実行している処理に適合した1の並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態を指定する制御モード信号に基づき、当該制御モード信号により指定された並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態での消費電力に見合ったデータ転送速度でデータ書込処理を実行する」ことは、消費電力の異なる複数の並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態のうち、ホストの実行している処理に適合した1の並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態を指定する、記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンドに基づき、当該特定のコマンドにより指定された並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態での消費電力に見合ったデータ転送速度でデータ書込処理を実行することであると認められる。

また、上記で認定した発明において、「制御モード決定部」は「コマンド識別信号に応じて、並列に動作する記憶素子の数を決定し、その数を制御モード信号として出力」しているのであるから、「制御モード決定部」はコマンド識別信号を入力するものであることは自明である。

さらに、上記で認定した発明における「制御モード決定部」と「記憶素子制御部」とを併せて「コントローラ」と呼ぶことにすれば、結局のところ、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ホストとデータ通信を行い、記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンドを識別してそのコマンドの識別情報をコマンド識別信号として出力するためのホストインタフェースと、
データを記憶する複数の記憶素子と、
コマンド識別信号を入力するものであり、複数の記憶素子を制御して、ホストからホストインターフェースを介して取り込んだデータを複数の記憶素子に書き込むデータ書込処理を、記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンドにより定められるデータ転送速度で実行するコントローラと、
を具え、
コントローラは、
消費電力の異なる複数の並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態のうち、ホストの実行している処理に適合した1の並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態を指定する、記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンドに基づき、当該特定のコマンドにより指定された並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態での消費電力に見合ったデータ転送速度でデータ書込処理を実行する
記憶装置。」

第4.対比
本願発明と引用発明を比較する。

引用発明における「ホスト」は、本願発明における「情報処理装置」に相当する。
引用発明における「ホストインタフェース」は、本願発明における「データ通信手段」に相当する。
引用発明における「記憶素子」は、本願発明における「メモリ手段」に相当する。
引用発明における「記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンドにより定められるデータ転送速度で実行する」ことは、本願発明における「任意のデータ転送速度で実行する」ことに相当する。
引用発明における「記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンド」は、本願発明における「指定信号」に相当する。
よって、引用発明における「コントローラ」と本願発明における「制御手段」は、複数のメモリ手段(記憶素子)を制御して、情報処理装置(ホスト)からデータ通信手段(ホストインタフェース)を介して取り込んだデータを複数のメモリ手段(記憶素子)に書き込むデータ書込処理を任意のデータ転送速度で実行する制御手段であり、消費電力の異なる複数の処理実行形態のうち、上記情報処理装置(ホスト)の実行している処理に適合した1の当該処理実行形態を指定する指定信号に基づき、当該指定信号により指定された上記処理実行形態での上記消費電力に見合ったデータ転送速度で上記データ書込処理を実行する制御手段である点で一致する。

すると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。

<一致点>
情報処理装置とデータ通信するためのデータ通信手段と、
データを記憶する複数のメモリ手段と、
複数の上記メモリ手段を制御して、上記情報処理装置から上記データ通信手段を介して取り込んだ上記データを複数の上記メモリ手段に書き込むデータ書込処理、又は上記情報処理装置から要求された上記データを複数の上記メモリ手段から読み出すデータ読出処理を任意のデータ転送速度で実行する制御手段と
を具え、
上記制御手段は、
消費電力の異なる複数の処理実行形態のうち、上記情報処理装置の実行している処理に適合した1の当該処理実行形態を指定する指定信号に基づき、当該指定信号により指定された上記処理実行形態での上記消費電力に見合ったデータ転送速度で上記データ書込処理又は上記データ読出処理を実行する
記憶装置。

一方で、両者は、次の点で相違する。

<相違点1>
指定信号に関して、本願発明では、「指定信号」は「上記情報処理装置から上記データ通信手段を介して」「上記制御手段」が「取り込んだ」ものであるのに対し、引用発明では、「記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンド」(指定信号)は「ホスト」(情報処理装置)から「ホストインタフェース」(データ通信手段)までは取り込まれるものであるものの、「ホストインタフェース」(データ通信手段)は「記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンドを識別してそのコマンドの識別情報をコマンド識別信号として出力」し、「コントローラ」(制御手段)は、「コマンド識別信号を入力する」ものであるので、「記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンド」(指定信号)そのものを「コントローラ」(制御手段)に入力する(取り込む)わけではない点。

<相違点2>
指定信号により指定された処理実行形態での消費電力に見合ったデータ転送速度に関して、本願発明では「データ転送速度」は「データ転送最低速度を保障する」ものであるのに対し、引用発明における「データ転送速度」は「並列に動作する記憶素子の数が示すデータ書込処理の実行形態」でのデータ転送速度であるものの、引用例1においてデータ転送最低速度に関する言及がない点。

第5.判断
上記相違点1及び2について検討する。

5の1.相違点1について
引用発明において、「記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンド」は、当該「ホストからの特定のコマンド」自体が「記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定する」ものである。そのため、引用発明における、「ホストからの特定のコマンド」に応じて「ホストインタフェース」が「コマンド識別信号」を出力することに代えて、当該「ホストからの特定のコマンド」をそのまま「ホストインタフェース」が「コントローラ」に出力するようにすること、つまり、「記憶装置で並列に動作する記憶素子の数を指定するホストからの特定のコマンド」を「ホスト」から「ホストインタフェース」を介して「コントローラ」が取り込むようにすることに特段の困難性はない。
よって、上記相違点1は格別のものではない。

5の2.相違点2について
引用発明における「データ転送速度」は「並列に動作する記憶素子の数」が指定されて「データ書込処理」が実行されることにより実現されるものであるから、その「データ転送速度」には最低限保障できる値が見込めることは当業者には自明である。そのため、引用発明において「データ転送速度」をデータ転送最低速度を保障するものとすることに特段の困難性はない。
よって、上記相違点2は格別のものではない。

また、本願発明が有する作用効果は引用発明から当業者が予測できた範囲内のものである。

よって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討をするまでもなく、本願は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-11 
結審通知日 2011-05-17 
審決日 2011-06-02 
出願番号 特願2005-4299(P2005-4299)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 多賀 実  
特許庁審判長 赤川 誠一
特許庁審判官 石井 茂和
清木 泰
発明の名称 記憶装置及び情報処理装置  
代理人 田辺 恵基  

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