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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1240905
審判番号 不服2006-19462  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-04 
確定日 2011-07-05 
事件の表示 平成10年特許願第500715号「インターネット・ファイル・システム」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年12月11日国際公開、WO97/46956、平成12年 9月12日国内公表、特表2000-512044〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1997年6月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1996年6月7日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年5月24日付けで拒絶査定され、これに対して平成18年9月4日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたが、当審において平成21年12月24日付けで拒絶理由が通知され、平成22年7月6日付けで手続補正書が提出されたものである。

2.本願特許請求の範囲の記載
本願特許請求の範囲の記載は、平成22年7月6日付け手続補正書(以下、「審判時の手続補正書」という。)に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】 計算システムであって、
プロセッサと、
該プロセッサに接続されたメモリとを含み、該メモリは、
アプリケーションと、
オペレーティングシステムと、
該オペレーティングシステムと関連するキャッシュと、
該アプリケーションと該オペレーティングシステムとの間に存在する論理層であって、アクセスサーバと共有ライブラリとを含む論理層とを含み、該共有ライブラリは、パーソナルネイムスペースを有し、該パーソナルネイムスペースは、パーソナルパスネイムのプレフィックスを有し、
該共有ライブラリは、(a)あるファイルの該アプリケーションから該オペレーティングシステムへのシステムコールを傍受して、(b)傍受されたシステムコール中の該ファイルのパスネイムが該メモリ内の該パーソナルネイムスペースに位置しているか否かを、該傍受されたシステムコール中の該ファイルの該パスネイム内の該パーソナルパスネイムのプレフィックスの存在に基づいて判定し、(c)該パスネームが該パーソナルネイムスペースに位置し、且つ、該ファイルが該キャッシュに記憶されていない場合に、インターネット資源から該ファイルを検索するための要求を発行し、
該アクセスサーバは、該共有ライブラリからの該要求に応答して、該インターネット資源から該ファイルを検索し、該キャッシュ内に該検索されたファイルをキャッシュし、および
該供給ライブラリが該キャッシュから該ファイルを検索することが可能となるように、該アクセスサーバが該インターネットリソースからファイルを検索する場合に、該共有ライブラリは、該オペレーティングシステムに対して、該共有ライブラリによって初めに傍受された該システムコールを発呼する計算システム。
【請求項2】 請求項1に記載の計算システムにおいて、
該アクセスサーバは、複数のエージェントを含み、各エージェントは、所定のインターネットアクセスプロトコルを実行し、
該アクセスサーバは、適切なアクセスプロトコルを選択して、該インターネット資源からファイルを検索する計算システム。
【請求項3】 請求項2に記載の計算システムにおいて、該共有ライブラリは、該メモリ内で動作しているアプリケーションからの該システムコールを受信する計算システム。
【請求項4】 請求項3に記載の計算システムにおいて、該アプリケーションがファイルを閉じるときに、該アクセスサーバは、該インターネット資源にファイルを再格納する計算システム。
【請求項5】 請求項3に記載の計算システムにおいて、該アクセスサーバは、ユーザーのパスワード情報を使用して該インターネット資源からのファイルにアクセスする計算システム。
【請求項6】 請求項5に記載の計算システムにおいて、該アクセスサーバが該ユーザーのパスワード情報を使用して該インターネット資源からのファイルにアクセスする場合に、該共有ライブラリは、該共有ライブラリを該アクセスサーバに認証する計算システム。
【請求項7】 請求項2に記載の計算システムにおいて、該アクセスサーバは、該インターネットリソースと関連する遠隔サーバと直接交信することにより、該インターネット資源からファイルを検索する計算システム。
【請求項8】 請求項2に記載の計算システムにおいて、該アクセスサーバは、該インターネット資源と関連する遠隔サーバと代理サーバを介して交信することにより、該インターネット資源からファイルを検索する計算システム。
【請求項9】 インターネットに接続されている資源にアクセスする方法であって、
共有ライブラリにおいて、あるアプリケーションからオペレーティングシステムへのあるファイルについてのシステムコールを受信するステップと、
該ファイルがローカル的に貯蔵されているか否かを判定するステップと、
該受信されたシステムコール中の該ファイルについてのパスネイムの中のパーソナルパスネイムのプレフィックスの存在に基づいて、該ファイルについての該パスネイムがパーソナルネイムスペースに配置されているか否かを判定するステップであって、該パーソナルネイムスペースが、該共有ライブラリの中に含まれているステップと、
該ファイルがキャッシュの中に記憶されておらず、且つ、該ファイルが該パーソナルネイムスペースに配置されているパスネイムを有している場合に、該パーソナルネイムスペースに配置されている該パスネイムに基づいて、インターネット資源から該ファイルを検索するステップと、
該インターネット資源から該ファイルを検索する場合に、計算システムのオペレーティングシステムに対して、初めに受信されたシステムコールを発呼するステップと、
該共有ライブラリが該キャッシュから該ファイルを検索することが可能となるように、該キャッシュ内に該検索されたファイルをキャッシュするステップとを含む方法。
【請求項10】 請求項9に記載の方法において、該ファイルを閉じるときに、該インターネット資源に該ファイルを再格納するステップをさらに含む方法。
【請求項11】 請求項10に記載の方法において、該インターネットリソースから該ファイルを検索するステップは、ユーザーのパスワード情報を使用して該インターネットリソースからの該ファイルにアクセスするステップを含む方法。
【請求項12】 請求項9に記載の方法において、該ファイルがローカル的に貯蔵されている場合に、該ファイルがキャッシュされた最新の時間と有効ファイルキャッシュ時間とに基づいて、該ファイルが有効であるか否かを判定するステップをさらに含む方法。」

3.当審において通知した拒絶理由
当審において、平成21年12月24日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の「1.」は、以下のとおりである。
「1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点(平成18年5月24日付けの拒絶査定の備考の欄の[ 理由2について ]と同趣旨)で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)
平成18年3月7日付けの手続補正書(以下、単に「手続補正書」という。)による補正後の請求項に記載された「統合」(請求項1?13)の文言について、「統合されたパーソナルネイムスペース」や「パーソナルネイムスペースは…統合されており」等の文言からは、依然として、「統合」の文言が具体的にどのような技術的意義を有するのかが不明である。

(2)
上記手続補正書による補正後の請求項に記載された「該ファイルの…位置しているか否かを…プレフィックスに基づいて判定し」(請求項1?9)、「パスネイムの中の…プレフィックスに基づいて…配置されているか否かを判定する」(請求項10?13)の文言について、該文言からは、依然として、具体的な制御内容が何ら特定されないから、補正後の請求項1?13に係る発明が全体として技術的意義を為さず、不明確である。

(3)
上記手続補正書による補正後の請求項に記載された「該パーソナルパスネイムのプレフィックスに基づいてキャッシュ内に該検索されたファイルを配置」(請求項1?13)、「該パーソナルネイムスペースに配置されている該パスネイムに基づいて、インターネット資源から該ファイルを検索する」(請求項10?13)の文言について、該文言からは、依然として、具体的な制御内容が何ら特定されないから、補正後の請求項1?13に係る発明が全体として不明確である。
すなわち、補正後の請求項の文言は技術的に意味を特定できない(例えばJade File Systemのように、パスネイムからディレクトリを特定し、該ディレクトリに対応付けられたプロトコル等の情報を用いてインターネットからファイルを取得するとも読み取れる)と同時に、発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌してみても、発明の詳細な説明全体の記載内容からして、共有ライブラリによって傍受されるシステム・コール内のパスネイムに、アクセスプロトコル、ホスト、認証情報、遠隔パス情報のようなインターネットファイルにアクセスするために必要な情報が含まれるという技術的事項(第6頁第18行?第14頁第13行、表Iを参照)が発明の詳細な説明及び図面に記載された発明を認定するにあたっては不可欠のものであると認められる一方で、該技術的事項が補正後の請求項において記載されていないから、補正後の請求項に係る発明と発明の詳細な説明に記載された技術的事項との対応関係が不明であり、その結果として、補正後の請求項に係る発明の技術内容を特定することができない。

(4)
上記手続補正書による補正後の請求項に記載された「該アクセスサーバが…検索する場合に、該共有ライブラリは、該オペレーティングシステムに該システムコールを発呼する」(請求項1?9)、「該インターネット資源から…検索する場合に、計算システムのオペレーティングシステムにシステムコールを発呼する」(請求項10?13)の文言について、該文言からは、依然として、具体的にどのような技術的事項を意味するのか(具体的にどのようなシステムコールを意味するのか等)が何ら特定されないから、補正後の請求項1?13に係る発明が全体として技術的意義を為さず、不明確である。

(5)
上記手続補正書による補正後の請求項に記載された「該システムコールに応答して、トランスペアレントに動作する」(請求項3?7)の文言について、該文言からは、依然として、具体的な制御内容が何ら特定されないから、補正後の請求項3?7に係る発明が全体として技術的意義を為さず、不明確である。

(6)
上記手続補正書による補正後の請求項に記載された「該アクセスサーバがユーザーのパスワード情報を使用して該インターネット資源からのファイルにアクセスする場合に、該共有ライブラリは、該共有ライブラリを該アクセスサーバに認証する」(請求項7)の文言について、該文言からは、依然として、具体的にどのような技術的事項を意味しているのかが特定されず、意味不明である。

(7)
上記手続補正書による補正後の請求項9?13の記載は、各ステップの主体が不明確であるから、補正後の請求項9?13に係る発明が全体として技術的意義を為さず、不明確である。」

4.請求人の意見書における主張
上記当審拒絶理由の通知に対し、請求人が上記審判時の手続補正書とともに提出した平成22年7月6日付け意見書における主張の概要は、以下のとおりのものである。
「(1)本件出願は、特許請求の範囲および発明の詳細な説明の記載が不備と認められるから、特許法第36条第6項第2号および同法第3条第4項の規定により、ならびに本願発明が先願である特願2006-273051号(特許第4060874号公報)に係る発明として実質同一であると認められるから、特許法第39条第2項の規定により、それぞれ特許を受けることができないとする旨の平成21年12月24日付けの拒絶理由通知に接しました。
(2)これに対して、本願発明の構成をより明確に特定するために、本日別途提出する手続補正書により特許請求の範囲の記載を補正しております。
(a)今回補正された特許請求の範囲のうち、独立請求項1および独立請求項10(補正後の請求項9)における補正事項は、明細書の9頁15行目ないし10頁11行目における記載により裏づけられております。
(b)特定の請求項における記載から、文言「統合」および「トラスペラント」を削除するように致しました。
(c)今回補正された特許請求の範囲に記載の発明は、上記先願に係る発明と実質同一ではありません。
(3)以上申し上げましたように、拒絶理由は悉く解消したものと思料致しますので、本件出願を再度ご審理の上、特許をすべき旨の審決を下されるようお願い申し上げます。」

5.当審の判断
上記「3.」で示した当審拒絶理由の「1.」の「(1)」?「(7)」について、請求人が提出した上記審判時の手続補正書及び意見書の内容を検討した結果、当審は、以下のとおり判断する。
結論としては、以下のとおり、当審拒絶理由の「1.」の内、「(4)」、「(6)」及び「(7)」については、依然として不明確である。

5-1.「(1)」の指摘事項について
審判時の手続補正書により補正された請求項1?12において、「統合」の文言が削除されたので、技術的意義が不明であるとの指摘事項は解消した。

5-2.「(2)」の指摘事項について
ア)審判時の手続補正前の請求項1に記載された、「該ファイルの…位置しているか否かを…プレフィックスの存在(該下線部の記載は、当審拒絶理由では明らかな脱字である。)に基づいて判定し」なる文言については、審判時の手続補正書により、「傍受されたシステムコール中の該ファイルのパスネイムが該メモリ内の該パーソナルネイムスペースに位置しているか否かを、該傍受されたシステムコール中の該ファイルの該パスネイム内の該パーソナルパスネイムのプレフィックスの存在に基づいて判定し」と補正された。
該補正によると、共有ライブラリが、インターネット資源からファイルを検索するための要求をアクセスサーバに対して発行するに当たって、それを発行するための判定は、「傍受されたシステムコール中の該ファイルのパスネイムが該メモリ内の該パーソナルネイムスペースに位置しているか否かを、該傍受されたシステムコール中の該ファイルの該パスネイム内の該パーソナルパスネイムのプレフィックスの存在に基づいて」行われるものである。その結果、該パスネイムが該パーソナルネイムスペースに位置し、且つ、該ファイルがキャッシュに記憶されていない場合に、共有ライブラリは、インターネット資源からファイルを検索するための要求をアクセスサーバに対して発行するのである。この点に関しては、本願明細書の発明の詳細な説明において、第7頁6行?第8頁2行、及び、第8頁14行?第9頁9行の各記載が対応する。これらの記載内容から、共有ライブラリは、システムコールにおいて特定されるファイルのためのパスネイムが、パーソナルネイムスペースのもとに、「?/IFS」なる「マウント・ポイント」が配置されているかを検査することにより、上記発行を決定(判定)するものであることが理解される。そして、該「?/IFS」は、「?/IFS/http://www.att.com/reserch.html」(他にも、表Iに示される「IFS Pathname」)に示されるように、パーソナルパスネイムのプレフィックスといえるものである。
そうすると、「(2)」で具体的な制御内容が特定されるものとはいえないとの指摘事項は解消したと判断でき、不明確とまではいえない。
イ)審判時の手続補正前の請求項10に記載された、「パスネイムの中の…プレフィックスの存在(該下線部の記載は、当審拒絶理由では明らかな脱字である。)に基づいて…配置されているか否かを判定する」なる文言については、審判時の手続補正書により、「該受信されたシステムコール中の該ファイルについてのパスネイムの中のパーソナルパスネイムのプレフィックスの存在に基づいて、該ファイルについての該パスネイムがパーソナルネイムスペースに配置されているか否かを判定するステップであって、該パーソナルネイムスペースが、該共有ライブラリの中に含まれているステップ」と補正された。
該補正により、上記ア)で説示した内容と同様に、「(2)」で具体的な制御内容が特定されるものとはいえないとの指摘事項は解消したと判断でき、不明確とまではいえない。なお、当該ステップの主体が明確にされていない点については、他のステップと含めて以下の「5-7.」でまとめて指摘した。

5-3.「(3)」の指摘事項について
ア)審判時の手続補正前の請求項1に記載された、「該パーソナルパスネイムのプレフィックスに基づいてキャッシュ内に該検索されたファイルを配置し」なる文言については、審判時の手続補正書により、「該キャッシュ内に該検索されたファイルをキャッシュし」と補正された。これにより、「該検索されたファイル」に対する動作主体及び動作態様(「(3)」では「制御内容」と指摘した。)につき、動作主体がアクセスサーバであり、「該パーソナルパスネイムのプレフィックスに基づいて」(この点は、共有ライブラリの動作態様に係わる内容)が削除されたことによりアクセスサーバによる動作態様(「制御内容」)が明確になったといえるから、制御内容が特定されず不明確であるとの指摘事項は解消したと判断できる。
イ)審判時の手続補正前の請求項10に記載された、「該パーソナルネイムスペースに配置されている該パスネイムに基づいて、インターネット資源から該ファイルを検索する」なる文言は、審判時の手続補正書において何ら補正されていないが、当該文言を含む「該ファイルがキャッシュの中に記憶されておらず、且つ、該ファイルが該パーソナルネイムスペースに配置されているパスネイムを有している場合に、該パーソナルネイムスペースに配置されている該パスネイムに基づいて、インターネット資源から該ファイルを検索するステップ」の記載については、当該ステップの主体が明確にされていない点を別にすると(この点については、他のステップと含めて以下の「5-7.」でまとめて指摘した。)、当該ステップによる制御内容が特定されず不明確であるとまではいえない。その意味では、審判時の手続補正前の請求項10に対する「(3)」の指摘事項は必ずしも適切ではなかった。

5-4.「(4)」の指摘事項について
審判時の手続補正前の請求項1に記載された、「該アクセスサーバが…検索する場合に、該共有ライブラリは、該オペレーティングシステムに該システムコールを発呼する」なる文言については、審判時の手続補正書により、「該供給ライブラリが該キャッシュから該ファイルを検索することが可能となるように、該アクセスサーバが…検索する場合に、該共有ライブラリは、該オペレーティングシステムに対して、該共有ライブラリによって初めに傍受された該システムコールを発呼する」と補正された(なお、「該供給ライブラリ」は「該共有ライブラリ」とすべき明らかな誤記であるので、以下では「該共有ライブラリ」とする。)。
そこで、「(4)」で指摘した「具体的にどのような技術的事項を意味するのか(具体的にどのようなシステムコールを意味するのか等)が何ら特定されない」点が、上記補正により明確になったといえるか否かについて検討する。
1)まず、「該共有ライブラリは、該オペレーティングシステムに対して、該共有ライブラリによって初めに傍受された該システムコールを発呼する」の記載から明確になったといえるか否かについては、以下のとおり依然として不明確である。
「該システムコール」は、「該共有ライブラリによって初めに傍受された」ものとして特定されたが、この「初めに」が技術的に意味するところ(タイミング的なことを意味しているのか、システムコールが複数回あってその内の最初のものを意味しているのか)が明確ではない。また、「該システムコール」は、請求項1における前段のパラグラフ「該共有ライブラリは、(a)あるファイルの該アプリケーションから該オペレーティングシステムへのシステムコールを傍受して、」の記載から、「あるファイルの該アプリケーションから該オペレーティングシステムへのシステムコール」を指し、かつ、共有ライブラリが傍受するものであるところ、該共有ライブラリが「該システムコール」を傍受するタイミングや発生するシステムコールの回数等については、請求項1には記載も示唆もないことから、上記「該共有ライブラリによって初めに傍受された」と特定されたことは、それ以外の請求項1の記載内容とも整合がとれず明確でない。
次に、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、明細書第5頁下から3?1行「アクセス・サーバがファイルを引き出したときには、次に共用ライブラリは、システム・コールをオペレーティング・システムに発する。」、同第8頁下から5?4行「システムコールを取り扱うために必要な機能性の全ては、共有ライブラリ16により提供される。」、及び、同第19頁17?21行「要求された情報が、そのキャッシュに存在するならば、処理の流れは、ステップ52に引き継がれ、キャッシュが、有効期間又は有効マスクの下で有効かどうか決定される。有効であるならば、処理の流れは、ステップ53に引き継がれ、キャッシュの中の情報は、システムコールに対して回復される。」の各記載と照らし合わせても、「該共有ライブラリによって初めに傍受された」と特定されたことについて、前段で指摘した明確でない点及び整合がとれない点が明確になるものではない。
2)審判時の手続補正前の請求項10の記載に対して、当該「(4)」で指摘した文言についても、上記1)で説示した内容は、同様に該当するものである。
3)「該共有ライブラリが該キャッシュから該ファイルを検索することが可能となるように、」との記載は、インターネットリソースから検索されたファイルをキャッシュ内にキャッシュすることの目的を示す記載にすぎず、共有ライブラリがオペレーティングシステムに対して発呼する「システムコール」の内容(範囲)を明確にするものではない。なお、この点は、審判時の手続補正書により補正された請求項9に記載された、「該共有ライブラリが該キャッシュから該ファイルを検索することが可能となるように、該キャッシュ内に該検索されたファイルをキャッシュするステップ」からも窺えることである。よって、上記記載は、発明が不明確である点を解消するものではない。

5-5.「(5)」の指摘事項について
審判時の手続補正書により、「該システムコールに応答して、トランスペアレントに動作する」なる文言を特定した請求項(審判時の手続補正前の請求項3)は削除されたので、技術的意義が不明であるとの指摘事項は解消した。

5-6.「(6)」の指摘事項について
審判時の手続補正前の請求項7(審判時の手続補正書により補正された請求項6)に記載された、「該アクセスサーバがユーザーのパスワード情報を使用して該インターネット資源からのファイルにアクセスする場合に、該共有ライブラリは、該共有ライブラリを該アクセスサーバに認証する」なる文言については、審判時の手続補正において何ら補正がなされていないし、上記「4.」のとおり、意見書においても何ら釈明されていないから、当該文言がどのような技術的事項を意味しているのかが特定されず、意味不明であるとの指摘事項は、依然として解消されていない。
すなわち、アクセスサーバがインターネット資源からのファイルにアクセスするに当たり、共有ライブラリが該アクセスサーバに対して自らを認証することの技術的意義及び共有ライブラリがその自らの認証をどのように行うのかについて、依然として明確となっていない。

5-7.「(7)」の指摘事項について
審判時の手続補正前の請求項10?13の記載は(なお、当審拒絶理由では「請求項9?」と記したが、請求項「10?」とすべき誤記であることは明らかである。)、各ステップの主体が不明確であると指摘したが、審判時の手続補正書により補正された請求項9の記載全体及び出願時の技術常識を勘案しても、依然として大半のステップにおいてその主体が不明確である点は解消されていない。
具体的に、当該請求項9の記載を、各ステップを区別するために便宜的に以下のように記して、不明確な点を検証する。
「【請求項9】 インターネットに接続されている資源にアクセスする方法であって、
A 共有ライブラリにおいて、あるアプリケーションからオペレーティングシステムへのあるファイルについてのシステムコールを受信するステップと、
B 該ファイルがローカル的に貯蔵されているか否かを判定するステップと、
C 該受信されたシステムコール中の該ファイルについてのパスネイムの中のパーソナルパスネイムのプレフィックスの存在に基づいて、該ファイルについての該パスネイムがパーソナルネイムスペースに配置されているか否かを判定するステップであって、該パーソナルネイムスペースが、該共有ライブラリの中に含まれているステップと、
D 該ファイルがキャッシュの中に記憶されておらず、且つ、該ファイルが該パーソナルネイムスペースに配置されているパスネイムを有している場合に、該パーソナルネイムスペースに配置されている該パスネイムに基づいて、インターネット資源から該ファイルを検索するステップと、
E 該インターネット資源から該ファイルを検索する場合に、計算システムのオペレーティングシステムに対して、初めに受信されたシステムコールを発呼するステップと、
F 該共有ライブラリが該キャッシュから該ファイルを検索することが可能となるように、該キャッシュ内に該検索されたファイルをキャッシュするステップとを含む方法。」
まず、ステップAについては、その主体は共有ライブラリであると理解できる。
ステップB?Fについては、その各ステップの記載からその主体を明確に把握することはできない。
また、ステップAの先頭の「共有ライブラリにおいて」が、それ以降の全てのステップに係りその主体であると解しても、当該請求項9に対応する請求項1の記載及び本願明細書の発明の詳細な説明と照らし合わせると、整合がとれないステップがあり、不明確であることに変わりはない。例えば、ステップDにおける「インターネット資源からファイルを検索する」主体、及び、ステップFにおける「ファイルをキャッシュする」主体は、共有ライブラリではなく、アクセスサーバである。
なお、当該ステップに関して、発明の詳細な説明を参酌すればその主体を把握できるとしても、請求項にその主体を明示することは何ら困難ではなくそれを妨げる要因もないことから、それをことさらに発明の詳細な説明に記載するにとどめることは許されないことである。

5-8 請求人の意見書に対して
上記「4.」で記した意見書は、その内容を参酌しても、審判時の手続補正書による補正が、特許を受けようとする発明が明確であることを担保するものである点について、何ら釈明するものではないから、当審拒絶理由の「1.」を解消させるものではない。

6.むすび
以上のとおり、本願特許請求の範囲の各請求項の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その他の拒絶の理由を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-03 
結審通知日 2011-02-07 
審決日 2011-02-21 
出願番号 特願平10-500715
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 佳邦相崎 裕恒  
特許庁審判長 岩崎 伸二
特許庁審判官 久保 正典
小曳 満昭
発明の名称 インターネット・ファイル・システム  
代理人 岡部 讓  
代理人 岡部 正夫  
代理人 朝日 伸光  
代理人 越智 隆夫  
代理人 本宮 照久  
代理人 加藤 伸晃  
代理人 臼井 伸一  

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