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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
管理番号 1241260
審判番号 不服2007-11738  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-23 
確定日 2011-08-05 
事件の表示 特願2001-323486「放射線硬化性塗装組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年5月9日出願公開、特開2002-129066〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成13年10月22日(パリ条約による優先権主張2000年10月21日、欧州特許庁(EP))の出願であって、以降の手続の経緯は、以下のとおりのものである。

平成15年11月12日付け 拒絶理由通知書
平成16年 5月18日 意見書・手続補正書
平成19年 1月29日付け 拒絶査定
平成19年 4月23日 審判請求書
平成22年 2月23日付け 審尋
平成22年 8月25日 回答書

第2 本願発明
この出願の発明は、平成16年5月18日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「少なくとも1つのシラン化されたケイ酸及び重合されることができる二重結合を有する反応性結合剤を含有することを特徴とする放射線硬化性塗装組成物であって、前記シラン化されたケイ酸が、次の方法:
ケイ酸をヘキサメチルジシラザン、3-メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリアルコキシシラン及びその混合物の群から選択されたシランと共に噴霧し、
シランと共に噴霧したケイ酸を混合して混合物を形成し、
前記混合物を100?400℃の温度で1?6時間の期間に亘り熱処理してシラン化されたケイ酸を形成し、
シラン化されたケイ酸を圧縮し、かつ
シラン化されたケイ酸を粉砕することにより製造されることを特徴とする。」

第3 原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成15年11月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由2,3によって、拒絶をすべきものである。」というものであって、その備考欄には、<理由2について>として、「引用例A?Iにおいて、重合されることができる二重結合を有する反応性結合材を含有することを特徴とする放射線硬化性塗装組成物に含有させるシラン化されたケイ酸として引用例Jに記載されているような特定の方法で製造されたシラン化されたケイ酸を用いる点は、いずれも当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、その効果についても、当業者であれば当然に予測し得る範囲内のものであり、格別顕著なものではない。」と記載されている。
上記理由2は、「この出願の請求項1-4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記刊行物A-Jに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、上記「請求項1-4に係る発明」のうちの、「請求項1に係る発明」は、「本願発明」に相当し、「下記引用文献A-J」には、引用文献Hとして、特開昭61-261365号公報(以下、「刊行物H」という。)、引用文献Jとして、特開平10-087317号公報(以下、「刊行物J」という。)が含まれる。
以上によれば、原査定の理由は、「刊行物Hにおいて、重合されることができる二重結合を有する反応性結合材を含有することを特徴とする放射線硬化性塗装組成物に含有させるシラン化されたケイ酸として引用例Jに記載されているような特定の方法で製造されたシラン化されたケイ酸を用いる点は、いずれも当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、その効果についても、当業者であれば当然に予測し得る範囲内のものであり、格別顕著なものではない」から、「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である刊行物H、Jに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」という理由を含むものである。

第4 当審の判断
本願発明は、原査定の理由のとおり、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である刊行物H、Jに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
その理由は、以下のとおりである。

1.刊行物の記載事項
(1)刊行物H
刊行物Hには、以下の事項が記載されている。

(H-1)「下記成分(A)、(B)および(C)、
(A)多官能エポキシオリゴマー100重量部、
(B)一般式 (RO)_(3-n)SiR^(1)R^(2)_(n)・・・[ I ]
[I式中、nは0または1、Rはメチル、エチルまたはプロピル基、R^(1)はエポキシアルキル、エポキシシクロアルキルおよび、グリシドキシ基より選ばれる炭素数1?20のエポキシ基含有有機残基、R^(2)はアルキルシクロアルキル、アミノアルキル、アルキルアミン、アルコキシ、アルコキシアルキル、エポキシアルキル、エポキシシクロアルキル、アルケニル、クリシドキ、メタクリロキシアルキルおよびγ-メルカプトプロピル基からなる群より選ばれた炭素数1?20の有機残基]で表わされる化合物を加水分解したものでその表面を処理された微粉状の無機充填剤5?100重量部、
(C)紫外線の照射によりエポキシ基を反応させ得る光開始剤0.1?10重量部、
を必須成分として含有する紫外線硬化性被覆用組成物。」(特許請求の範囲)

(H-2)「本発明は、耐摩耗性に優れた被覆組成物に関する。」(第1頁右欄第8?9行)

(H-3)「本発明に用いられる多官能エポキシオリゴマーとは、いわゆるエポキシ樹脂が広く使用され得る。より具体的には、下式に示すような各種のエポキシ樹脂が挙げられる。
(…中略…)

(…中略…)」(第3頁右上欄第3行?第5頁左下欄第4行)

(H-4)「本発明の被覆用組成物に配合される有機ケイ素化合物で表面を処理された微粉状の無機充填剤(成分(B))とは、微粉状のシリカやアルミナ等の表面をいわゆるシランカップリング剤で処理したものである。」(第5頁左下欄第5?9行)

(H-5)「合成例
200gのβ-グリシドキシプロピル-トリメトキシシランをPH4.0に調整した水4000g中に撹拌して分散させ1時間保つと透明になった。これに800gの微粉状シリカ、AEROSIL-380を高速撹拌機つきのホモジナイザー(NIRO ATOMIZER社製、デンマーク)で20分撹拌して分散液を調製した。これをスプレードライヤー(特殊機化工業社製)で脱水乾燥させて白色の処理シリカ(以下、B-1と略記)を得た。」(第7頁右上欄第14行?左下欄第3行)

(H-6)「実施例1
液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、エピコート 828(成分(A)、シェル社製)100gと合成例で調製した処理シリカB-1(成分(B))25gを混合し、ボールミル中で20時間処理して分散液を調製した。これに光開始剤として4弗化ホウ素ジフェニルジアゾニウム塩(成分(C))2gを溶解させ被覆組成物(組成物1)を得た。
この組成物をPMMA樹脂板(協和ガス化学製)上にスピンナー(4000rpm )で12μmに塗布し、18W/cmの高圧水銀ランプ(ウシオ電機製)を15cmの距離で10秒照射して硬化させた。樹脂板上に形成された塗膜は透明(Haze Meterによる曇り度0.1%)で、密着性はテープテストにより評価したところ100/100で良好であった。
さらにテーパ一式摩耗試験を行なった。(条件:ASTM D-1044に基づき、CS10.500g×2.100rpm)
試験後Haze Meter(スガ試験機社製)で曇り度を測定したところ0.8%でほとんど透明性は低下せず、耐摩耗性は良好であった。
実施例2?4および比較例1
成分(A)、(B)および(C)を表1に示したように変更したことを除いては実施例1と同様にして被覆用組成物を調製した。これら組成物を実施例1と全く同様にして塗布、硬化させて塗膜を形成し、これら被膜についての密着性試験およびテーパー摩耗試験を行なった。結果を表2に示した。

本発明の実施例2?4においては耐摩耗性は優れているが、成分(2)が配合されていない比較例1においては耐摩耗性が十分でなかった。
比較例2
光反応性のアクリロイル基を有するトリメチロールプロパントリアクリレート50gおよびペンタエリスリトールアクリレート50gにラジカル開始型光開始剤ベンゾインメチルエーテル3gを溶解させた。この組成物をスピンナーでPMMA樹脂板 に15μmの厚みに塗布し、実施例1の同様の条件で紫外線を照射して硬化塗膜を形成させた。
この塗膜は透明(曇り度:0.1%)であった、実施例1と同様の条件でテーパー摩耗試験を行なったところ曇り度17%で十分ではなかった。アクリロイル基の重合反応により硬化させる従来のタイプの充硬化組成物は、反応による体積収縮が大きいため、硬化塗膜に否を生じるために密着性が劣るものと考えられる。
比較例3
実施例1において、成分(B)処理シリカの代わりに未処理のシリカ、AEROSIL 880を用いた他は全く同じ配合で組成物1′を調製した。組成物1′は全く不透明となり、かつその製造中に増粘しチキソトロピックとなり全く流動性を示さず塗布剤としては使用し得なかった。すなわち未処理のシリカを均一に分散させて流動性の良い組成物を得ることは困難であった。」(第7頁左下欄第4行?第8頁左下欄第7行)

(2)刊行物J
刊行物Jには、以下の事項が記載されている。

(J-1)「【請求項1】 次の物理学的-化学的特性を有するシラン化ケイ酸:
比表面積(m^(2)/g) 80?400、
一次粒度(nm) 7?40、
タップ密度(g/l) 50?300、
pH 3?10、
炭素含有率(%) 0.1?15、
DBP-数(%) <200。
【請求項2】 請求項1に記載のシラン化ケイ酸の製法において、適当な混合容器中のケイ酸に、激しい混合下に、場合により、先ず水又は希酸を、引き続き、表面変性反応薬又は数種の表面変性反応薬からなる混合物を噴霧し、15?30分、後撹拌し、100?400℃の温度で、1?6時間熱処理し、引き続き、この疎水性シラン化ケイ酸を、機械的作用により破壊/圧縮し、かつミル中で後粉砕することを特徴とする、請求項1に記載のシラン化ケイ酸の製法。」(特許請求の範囲)

(J-2)「表面変性反応薬としては、例えば、ヘキサメチルジシラザンを使用することができる。」(段落【0006】)

(J-3)「本発明のもう1つの目的は、本発明の低粘稠化性シラン化ケイ酸を、低い降伏価を有する低粘度のポリマー系、例えば、1-及び2-成分過酸化物縮合架橋性シリコーンゴム材料及び付加架橋性シリコーンゴム材料、接着剤、成形体、充填物等の製造のために使用すること、例えば、ラッカー、シート中でのつや消し剤として、フリーフロー剤(例えば、SAP、消火粉末)として、ケーブルゲル(Kabelgelen)の製造のために、液体プラスチック系及び反応樹脂(例えば、合成大理石、ポリマーコンクリート、義歯)中での抗沈降剤として、研磨剤及び/又は研磨体として使用することである。」(段落【0007】)

(J-4)「本発明の低粘稠化性シラン化ケイ酸は、次の利点を有する:合成ケイ酸で強化されるポリマー系中で、初めて非常に高い充填率で、良好な機械的強度が達成される。これは、公知のケイ酸では、相応する充填物、成型物、複製物等の製造/コンパウンドの際の強化ケイ酸のその場の疎水によってのみ可能であった。この方法は、非常に時間がかかり、かつエネルギーを浪費する。
本発明のケイ酸は、その僅かな粘稠化作用及び低い降伏価により、例えば、高い充填率及びそれによる良好な機械的強度を可能にする。前記の経費のかかるコンパウンドプロセスは、完全に除くことができる。」(段落【0008】?【0009】)

2.刊行物Hに記載された発明
刊行物Hには、「下記成分(A)、(B)および(C)、
(A)多官能エポキシオリゴマー100重量部、
(B)一般式 (RO)_(3-n)SiR^(1)R^(2)_(n)・・・[ I ]
[I式中、nは0または1、Rはメチル、エチルまたはプロピル基、R^(1)はエポキシアルキル、エポキシシクロアルキルおよび、グリシドキシ基より選ばれる炭素数1?20のエポキシ基含有有機残基、R^(2)はアルキルシクロアルキル、アミノアルキル、アルキルアミン、アルコキシ、アルコキシアルキル、エポキシアルキル、エポキシシクロアルキル、アルケニル、クリシドキ、メタクリロキシアルキルおよびγ-メルカプトプロピル基からなる群より選ばれた炭素数1?20の有機残基]で表わされる化合物を加水分解したものでその表面を処理された微粉状の無機充填剤5?100重量部、
(C)紫外線の照射によりエポキシ基を反応させ得る光開始剤0.1?10重量部、
を必須成分として含有する紫外線硬化性被覆用組成物」が記載され(摘記(H-1))、上記「(A)多官能エポキシオリゴマー」として「ダイマー酸ジグリシジルエステル」が記載されている(摘記(H-3))。
また、上記成分(B)の無機充填剤として、「シリカ」が記載されている(摘記(H-5))。
そうすると、刊行物Hには、
「下記成分(A)、(B)および(C)、
(A)ダイマー酸ジグリシジルエステル100重量部、
(B)一般式 (RO)_(3-n)SiR^(1)R^(2)_(n)・・・[ I ]
[I式中、nは0または1、Rはメチル、エチルまたはプロピル基、R^(1)はエポキシアルキル、エポキシシクロアルキルおよび、グリシドキシ基より選ばれる炭素数1?20のエポキシ基含有有機残基、R^(2)はアルキルシクロアルキル、アミノアルキル、アルキルアミン、アルコキシ、アルコキシアルキル、エポキシアルキル、エポキシシクロアルキル、アルケニル、クリシドキ、メタクリロキシアルキルおよびγ-メルカプトプロピル基からなる群より選ばれた炭素数1?20の有機残基]で表わされる化合物を加水分解したものでその表面を処理された微粉状のシリカ5?100重量部、
(C)紫外線の照射によりエポキシ基を反応させ得る光開始剤0.1?10重量部、
を必須成分として含有する紫外線硬化性被覆用組成物」
の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているといえる。

3.本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「(A)ダイマー酸ジグリシジルエステル100重量部」は、摘記(H-3)の化学構造式からみて、「重合されることができる二重結合」を有する反応性結合剤であるといえるから、本願発明の「重合されることができる二重結合を有する反応性結合剤」に相当する。
そして、引用発明の成分(B)のシリカは、「表面をいわゆるシランカップリング剤で処理したもの」であるから(摘記(H-4))、「シラン化されたシリカ」、すなわち「シラン化されたケイ酸」である。
そうすると、引用発明の「(B)一般式 (RO)_(3-n)SiR^(1)R^(2)_(n)・・・[ I ]
[I式中、nは0または1、Rはメチル、エチルまたはプロピル基、R^(1)はエポキシアルキル、エポキシシクロアルキルおよび、グリシドキシ基より選ばれる炭素数1?20のエポキシ基含有有機残基、R^(2)はアルキルシクロアルキル、アミノアルキル、アルキルアミン、アルコキシ、アルコキシアルキル、エポキシアルキル、エポキシシクロアルキル、アルケニル、クリシドキ、メタクリロキシアルキルおよびγ-メルカプトプロピル基からなる群より選ばれた炭素数1?20の有機残基]で表わされる化合物を加水分解したものでその表面を処理された微粉状のシリカ5?100重量部」は、本願発明の「少なくとも1つのシラン化されたケイ酸」に相当する。
また、引用発明の「紫外線硬化性被覆用組成物」は、本願発明の「放射線硬化性塗装組成物」に相当する。
以上によれば、本願発明と引用発明は、
「少なくとも1つのシラン化されたケイ酸及び重合されることができる二重結合を有する反応性結合剤を含有することを特徴とする放射線硬化性塗装組成物」
の点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点1」、「相違点2」という。)。

(1)相違点1
シラン化されたケイ酸が、本願発明は、
「次の方法:
ケイ酸をヘキサメチルジシラザン、3-メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリアルコキシシラン及びその混合物の群から選択されたシランと共に噴霧し、
シランと共に噴霧したケイ酸を混合して混合物を形成し、
前記混合物を100?400℃の温度で1?6時間の期間に亘り熱処理してシラン化されたケイ酸を形成し、
シラン化されたケイ酸を圧縮し、かつ
シラン化されたケイ酸を粉砕することにより製造されることを特徴とする」
ものであるのに対し、引用発明は、そのようなものではない点

(2)相違点2
引用発明は、「(C)紫外線の照射によりエポキシ基を反応させ得る光開始剤0.1?10重量部」を必須成分として含有するものであるのに対し、本願発明はそのようなものであるか明らかでない点

4.相違点1についての判断
刊行物Hには、「本発明の実施例2?4においては耐摩耗性は優れているが、成分(2)が配合されていない比較例1においては耐摩耗性が十分でなかった」と記載されているところ(摘記(H-6))、成分(2)とは、摘記(H-6)の表-1によれば、合成例で合成された処理シリカB-1、すなわち、引用発明における成分(B)であるから、刊行物Hには、成分(B)が配合されていないと耐摩耗性が十分でないことが記載されているといえる。
そうすると、引用発明において、成分(B)のシラン化されたケイ酸は、耐摩耗性を向上させるための添加剤といえる。

一方、刊行物Jには、シラン化されたケイ酸の製法として、「適当な混合容器中のケイ酸に、激しい混合下に、場合により、先ず水又は希酸を、引き続き、表面変性反応薬又は数種の表面変性反応薬からなる混合物を噴霧し、15?30分、後撹拌し、100?400℃の温度で、1?6時間熱処理し、引き続き、この疎水性シラン化ケイ酸を、機械的作用により破壊/圧縮し、かつミル中で後粉砕する」製法(摘記(J-1)の【請求項2】)、すなわち、「ケイ酸に、表面変性反応薬を噴霧し、攪拌し、100?400℃の温度で、1?6時間熱処理し、この疎水性シラン化ケイ酸を圧縮し、かつ粉砕する」製法が記載されている。
そして、上記「表面変性反応薬」としては、「ヘキサメチルジシラザン」が挙げられているから(摘記(J-2))、刊行物Jには、シラン化ケイ酸の製法として、「ケイ酸に、ヘキサメチルジシラザン等の表面変性反応薬を噴霧し、攪拌し、100?400℃の温度で、1?6時間熱処理し、この疎水性シラン化ケイ酸を圧縮し、かつ粉砕する」製法が記載されており、この製法と、本願発明における
「次の方法:
ケイ酸をヘキサメチルジシラザン、3-メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリアルコキシシラン及びその混合物の群から選択されたシランと共に噴霧し、
シランと共に噴霧したケイ酸を混合して混合物を形成し、
前記混合物を100?400℃の温度で1?6時間の期間に亘り熱処理してシラン化されたケイ酸を形成し、
シラン化されたケイ酸を圧縮し、かつ
シラン化されたケイ酸を粉砕する」
という製法とは、実質的に差異がないから、刊行物Jに記載された製法で得られるものは、本願発明の
「次の方法:
ケイ酸をヘキサメチルジシラザン、3-メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリアルコキシシラン及びその混合物の群から選択されたシランと共に噴霧し、
シランと共に噴霧したケイ酸を混合して混合物を形成し、
前記混合物を100?400℃の温度で1?6時間の期間に亘り熱処理してシラン化されたケイ酸を形成し、
シラン化されたケイ酸を圧縮し、かつ
シラン化されたケイ酸を粉砕することにより製造されることを特徴とする」
シラン化ケイ酸であるといえる。

そして、刊行物Jには、上記シラン化ケイ酸は、「ラッカー」、すなわち、「塗装組成物」の添加剤として有用であること(摘記(J-3))、「合成ケイ酸で強化されるポリマー系中で」、「良好な機械的強度」が達成されると記載されているところ(摘記(J-4))、塗装組成物において良好な機械的強度が達成されると、塗膜の耐摩耗性の向上が期待できるから、刊行物Jには、上記シラン化ケイ酸が、塗装組成物の添加剤として有用であること、それにより耐摩耗性の向上が期待できることが記載されているといえる。

そうすると、引用発明において、耐摩耗性を向上させるための添加剤として、成分(B)に代えて、同じく塗装組成物の耐摩耗性の向上が期待できる添加剤である刊行物Jに記載された
「次の方法:
ケイ酸をヘキサメチルジシラザン、3-メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリアルコキシシラン及びその混合物の群から選択されたシランと共に噴霧し、
シランと共に噴霧したケイ酸を混合して混合物を形成し、
前記混合物を100?400℃の温度で1?6時間の期間に亘り熱処理してシラン化されたケイ酸を形成し、
シラン化されたケイ酸を圧縮し、かつ
シラン化されたケイ酸を粉砕することにより製造されることを特徴とする」
シラン化ケイ酸を配合することは、当業者が容易に行うことである。

5.相違点2について
この出願の明細書の段落【0013】には、「光開始剤」について記載されており、また、本願発明の具体例である実験1?3のいずれにおいても、「3%光開始剤」が添加されている。
そうすると、本願発明は、「3%光開始剤」が添加されている場合も包含するものであるから、「(C)紫外線の照射によりエポキシ基を反応させ得る光開始剤0.1?10重量部」を必須成分として含有する場合も包含するものということができ、よって、この点において、本願発明と引用発明に差異はない。

6.効果について
この出願の明細書の段落【0016】には、「本発明による放射線硬化性塗装系は次の利点を有する:塗布性及び架橋された塗膜の光学的性質を損なうことのない、表面硬さ、特に耐引っかき性の改善。」と記載され、【表6】によれば、処理シリカを配合しないものに較べて、処理シリカを配合する本願発明は、残留光沢が向上することが記載されている。
しかしながら、刊行物Hには、引用発明は、「耐摩耗性に優れた被覆組成物」であること(摘記(H-2))、実施例1?4において、「塗膜は透明(Haze Meterによる曇り度0.1%)で」、摩耗試験を行ったところ、「透明性は低下せず、耐摩耗性は良好であった」ことが確認されている(摘記(H-6))。
さらに、比較例3によれば、未処理のシリカを使用すると、「全く流動性を示さず塗布剤としては使用し得なかった」と記載されているから(摘記(H-6))、刊行物Hには、処理シリカを配合することにより、塗布性に優れた塗料となることが記載されているといえる。
そして、上記4.で述べたとおり、刊行物Jには、シラン化ケイ酸により耐摩耗性の向上が期待できることが記載されている。
よって、本願発明の効果は、刊行物H、Jの記載から、当業者が予測できる程度のものである。

7.まとめ
したがって、本願発明は、刊行物H、Jに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

8.請求人の主張について
請求人は、平成22年8月25日の回答書において、以下の主張をしている。
「 (1)刊行物J(特開平10-087317号公報)には、シラン化ケイ酸が記載されています。しかしながら、刊行物Jに記載されているのは、シラン化ケイ酸が「ラッカー、シート中でのつや消し剤」として有用であることだけであり、「合成ケイ酸で強化されるポリマー系中で、初めて非常に高い充填率で、良好な機械的強度が達成される」という利点が奏されることだけです(段落[0007]、[0008])。さらに実施例では2K-RTV-シリコーンラバーの引張強度、伸張度、引裂強さ、ショアーA硬度が示されているに過ぎません。すなわち、刊行物Jには、塗料組成物におけるつや消し剤としての使用と、放射線硬化性ではないポリマー中での良好な機械的強度とが開示されているに過ぎません。
したがって、当業者は、放射線硬化性塗装組成物の機械的性質の向上を期待して、刊行物Jのシラン化ケイ酸を選択することはないと思われます。
(…中略…)
(5)刊行物H(特開昭61-261365号公報)には、シラン処理されたシリカが記載されています。しかしながら、刊行物Hには、シリカを構造変性することは記載されていません。刊行物Hでは、成分(2)[シラン処理したシリカ](実施例2?4)と使用した場合と使用しなかった場合(比較例1)とでは、テーパー摩耗試験前後の塗膜の曇り度(第2表)が、使用した場合では1.0?1.3%であるのに対し、使用しなかった場合では、15.0%です。すなわちシラン処理したシリカを使用することで15%の向上が見られます。それに対し、本願実施例の第2表によれば、ケイ酸を使用しない場合に比べて20%もの向上がみられます。」

そこで、上記主張について検討すると、請求人は、刊行物Jには、シラン化ケイ酸が「ラッカー、シート中でのつや消し剤」として有用であることだけしか記載されていないと主張しているが、刊行物Jには、つや消し剤のみならず、「フリーフロー剤(例えば、SAP、消火粉末)として、ケーブルゲル(Kabelgelen)の製造のために、液体プラスチック系及び反応樹脂(例えば、合成大理石、ポリマーコンクリート、義歯)中での抗沈降剤として、研磨剤及び/又は研磨体として使用すること」など様々な有用性が記載されている(摘記(J-3))。
そして、刊行物Jには、シラン化ケイ酸が、「ラッカー」、すなわち、「塗装組成物」の添加剤として有用であること(摘記(J-3))、「合成ケイ酸で強化されるポリマー系中で」、「良好な機械的強度」が達成されることが記載されているのであるから(摘記(J-4))、上記4.で述べたとおり、刊行物Jには、シラン化ケイ酸が、塗装組成物の添加剤として有用であること、それにより耐摩耗性の向上が期待できることが記載されているといえる。
よって、刊行物Hに、本願発明のシラン化ケイ酸について記載されていなくとも、耐摩耗性を向上させる成分として、刊行物Jに記載されたシラン化ケイ酸を配合することは、当業者が容易に行うことである。

また、請求人は、この出願の明細書記載の第2表と刊行物H記載の表2を比較して、本願発明は、刊行物Hからは予測し得ないような優れた効果を奏するものであると主張しているが、この出願の明細書記載の第2表と刊行物H記載の表2で使用されている塗装組成物は、シラン化されたケイ酸の種類のみならず、バインダーその他の成分の種類や配合比も異なる組成物であるし、また、試験の方法も同じではないから、単純に表に記載された数値を比較して、本願発明が刊行物Hからは予測し得ないような優れた効果を奏するかどうかについて検討することができるものではない。
そして、本願発明の効果が、刊行物H、Jの記載から、当業者が予測できる程度のものであることは、上記6.で述べたとおりである。
したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-02 
結審通知日 2011-03-09 
審決日 2011-03-23 
出願番号 特願2001-323486(P2001-323486)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 達也  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 井上 千弥子
橋本 栄和
発明の名称 放射線硬化性塗装組成物  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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