• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C11D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C11D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C11D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C11D
管理番号 1241832
審判番号 不服2007-33174  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-07 
確定日 2011-08-10 
事件の表示 特願2002-514260「洗浄性組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年1月31日国際公開、WO02/08375、平成16年3月25日国内公表、特表2004-509176〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2000年12月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2000年7月19日 米国(US)、2000年7月25日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成16年12月8日付けで拒絶理由が通知され、平成17年6月14日に意見書及び手続補正書が提出され、平成19年9月5日付けで拒絶査定がされ、同年12月7日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、手続補正書が提出され、平成22年5月25日付けで審尋が通知されたが、何ら応答がされなかったものである。

第2 平成19年12月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定

〔補正の却下の決定の結論〕
平成19年12月7日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正
平成19年12月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の
「調理器具及び食器から食品の調理汚れ、焼きつき又は焦げつきを除去する方法であって、有機溶媒系の存在で自動食器洗い機で調理器具/食器を洗浄することを含み、前記有機溶媒系が、50重量%未満の揮発性有機含量、及び100?10,000ppmの洗浄液体における濃度を有する方法。」を、
「調理器具及び食器から食品の調理汚れ、焼きつき又は焦げつきを除去する方法であって、アルコール、アミン、エステル、グリコールエーテル、グリコール、テルペン類及びこれらの混合物から選択される有機溶媒系の存在で自動食器洗い機で調理器具/食器を洗浄することを含み、前記有機溶媒系が、50重量%未満の揮発性有機含量、及び500?5,000ppmの洗浄液体における濃度を有する方法。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
請求項1についての補正は、「有機溶媒系」を、「アルコール、アミン、エステル、グリコールエーテル、グリコール、テルペン類及びこれらの混合物から選択される」ものに限定し、かつ、「洗浄液体における濃度」を、「100?10,000ppm」から、「500?5,000ppm」に限定するものであり、該補正は、願書に最初に添付された明細書の記載(段落【0005】、【0018】)からみて新規事項を追加するものではない。
また、該補正は、特許請求の範囲を減縮し、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて検討すると、当審は、以下の理由A?Cにより、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであると判断する。

(2-1)理由A
ア 引用刊行物
特開2000-96097号公報(原査定における引用文献2。以下、「刊行物1」という。)

イ 刊行物1に記載された事項
この出願の優先日前に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。

1a「(a)アルカリ剤 0.5?50重量%
(b)低泡性ノニオン界面活性剤 0.1?25重量%
(c)一般式(I)で表される脂肪酸又はその塩 0.1?30重量%(脂肪酸として)
R-COOH (I)
(式中、Rは炭素数3?13の直鎖脂肪族炭化水素基又は炭素数3?17の分岐鎖脂肪族炭化水素基を示す。)
(d)グリコール類 0.1?30重量%
(e)ビルダー 0.5?50重量%
を含有する水性液体洗浄剤。」(請求項1)
1b「本発明は、自動洗浄機用に適した水性液体洗浄剤に関する。」(段落【0001】)
1c「自動洗浄機により、食器、コップ、缶、ボトル、プラスチックコンテナー、買い物かご、車両、床面等、多岐にわたる洗浄が行われているが、食品用コンテナ、食器類、食品用ボトル、缶等には、食品由来の油脂やタンパク質、澱粉等の汚れが多く付着する。また、その他のコンテナや買い物かご等には油脂汚れが多く付着する。」(段落【0002】)
1d「このため、アルカリ剤を配合して加水分解作用等により汚れを可溶化し、洗浄、除去し、さらに油洗浄力向上の為に、界面活性剤、特にノニオン界面活性剤を併用することが行われている。自動洗浄機を用いたスプレー洗浄の場合は、界面活性剤の泡立ちが多いと、泡があふれ、スプレー装置の吐出圧が低下するため、低泡性であることが要求される。」(段落【0003】)
1e「本発明の目的は、洗浄性能が高く、また白濁や分離等がない安定な低泡性の水性液体洗浄剤を提供することである。」(段落【0006】)
1f「アルカリ剤(a)としては モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム等のアルカリ金属珪酸塩、等が挙げられる。(a)成分は洗浄性能や安定性の面から洗浄剤中に0.5?50重量%(以下%)、好ましくは4?30%、更に好ましくは5?25%配合される。」(段落【0008】)
1g「グリコール類(d)としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(Mw=200?12000)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(Mw=600?4000)、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(Mw=650?1000)、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール等が挙げられる。特に、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールが好ましい。(d)成分は、好ましい溶液安定性が得られることから、洗浄剤中に0.1?30%、好ましくは0.5?10%、更に好ましくは1?5%配合される。」(段落【0012】)
1h「実施例1?6、比較例1?3
表1に示す水性液体洗浄剤を調製した。三洋電機株式会社製自動食器洗浄機DW-230Lに洗浄剤供給機を設置し、この供給機より洗浄剤を供給し、以下の条件で洗浄試験を行い、以下に示す基準で洗浄性及び低泡性を評価した。また、保存安定性の評価も行った。
〔I〕洗浄性
・洗浄条件
洗浄温度:60±2℃
洗浄時間:45秒
洗浄剤濃度:0.15%
濯ぎ時間:15秒
濯ぎ温度:80±2℃
・被洗物
被洗物1:複合モデル汚れ(蛋白質、油脂、デンプンの混合物)を1枚当たり5g塗布し乾燥した磁性皿(直径200mm×高さ30mm) 4枚
被洗物2:サラダ油を1枚当たり5g塗布したポリプロピレン製の皿(直径200mm×高さ30mm) 4枚
・判定基準
◎:完全に汚れが除去された。
○:殆ど汚れが除去された。
△:汚れの除去が不十分である。
×:殆ど汚れが除去されない。・・・
〔II〕低泡性・・・
〔III〕安定性・・・」(段落【0017】?【0020】)
1i「【表1】

」(段落【0021】)
1j「本発明の水性液体洗浄剤は、洗浄力、低泡性及び保存安定性に優れ、短時間で効果的な洗浄を要求される自動洗浄機用の水性液体洗浄剤として好適である。」(段落【0023】)

ウ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「食器類」の「食品由来の油脂やタンパク質、澱粉等の汚れ」を除去するため(摘示1c)の「自動洗浄機用に適した水性液体洗浄剤」(摘示1b)であって、「(a)アルカリ剤 0.5?50重量%
(b)低泡性ノニオン界面活性剤 0.1?25重量%
(c)一般式(I)で表される脂肪酸又はその塩 0.1?30重量%(脂肪酸として)
R-COOH (I)
(式中、Rは炭素数3?13の直鎖脂肪族炭化水素基又は炭素数3?17の分岐鎖脂肪族炭化水素基を示す。)
(d)グリコール類 0.1?30重量%
(e)ビルダー 0.5?50重量%
を含有する水性液体洗浄剤。」(摘示1a)が記載されている。
そして、具体的に、水性液体洗浄剤として、(a)成分である「モノエタノールアミン 10重量%」、(d)成分である「1,4-ブタンジオール 2.5重量%」を含む組成を有する実施例4の水性液体洗浄剤(摘示1i)を用い、洗浄剤供給機より自動食器洗浄機に供給し、「蛋白質、油脂、デンプンの混合物」、すなわち、「食品由来の油脂やタンパク質、澱粉等の汚れ」の付着した「磁性皿」、すなわち、「食器類」を洗浄することが記載されているので、該水性液体洗浄剤を供給し、自動食器洗浄機で食器類を洗浄する方法の発明についても記載されているといえる。また、洗浄の際、洗浄剤濃度が「0.15%」であることも記載されている(摘示1h)。

そうすると、刊行物1には、
「食器類からの食品由来の油脂やタンパク質、澱粉等の汚れを除去する方法であって、モノエタノールアミン 10重量%、1,4-ブタンジオール 2.5重量%を含む組成を有する実施例4の水性液体洗浄剤を、洗浄剤濃度0.15%となるように供給し、自動食器洗浄機で食器類を洗浄する方法。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているということができる。

エ 対比
本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「食器類」は、本願補正発明の「調理器具及び食器」及び「調理器具/食器」に相当し、引用発明1の「食品由来の油脂やタンパク質、澱粉等の汚れ」は、本願補正発明の「食品の調理汚れ、焼きつき又は焦げつき」のうち少なくとも「食品の調理汚れ」に相当し、引用発明1の「自動食器洗浄機」は、本願補正発明の「自動食器洗い機」に相当する。
そして、引用発明1の「モノエタノールアミン」、及び、「1,4-ブタンジオール」(審決注:別名「1,4-ブチレングリコール」)はそれぞれ、本願補正発明の「アルコール」又は「アミン」、及び、「グリコール」に相当し、共に「有機溶媒系」であることが明らかである。また、引用発明1において、「モノエタノールアミン」及び「1,4-ブタンジオール」の有機溶媒系を「含む組成を有する実施例4の水性液体洗浄剤」を「供給」して「洗浄」するということは、「有機溶媒系の存在で」洗浄するということであるといえる。他方、本願補正発明の「・・・有機溶媒系の存在で」も、本願補正明細書の段落【0007】に「有機溶媒系は、界面活性剤、特に低発泡非イオン性界面活性剤及び洗浄ビルダーと共に使用することが好ましい。例えば、本発明の別の実施例では、食品の調理汚れ、焼きつき及び焦げつきを調理器具及び食器から除去する方法を提供し、この方法は、界面活性剤、洗浄ビルダー及び有機溶媒系の存在で自動食器洗い機で調理器具/食器を洗浄することを含む。」と記載され、実施例20?24として、「溶媒含有自動食器洗い洗剤組成物」(本願補正明細書の段落【0065】)が記載されているように、界面活性剤等の成分を含む洗浄剤組成物中に有機溶媒系を含む態様を包含するものである。
してみると、引用発明1の「モノエタノールアミン・・・、1,4-ブタンジオール ・・・を含む組成を有する実施例4の水性液体洗浄剤を、・・・供給し」は、本願補正発明の「アルコール、アミン、・・・、グリコール・・・及びこれらの混合物から選択される有機溶媒系の存在で」に相当する。

したがって、両者は、
「調理器具及び食器から食品の調理汚れ、焼きつき又は焦げつきを除去する方法であって、アルコール、アミン、グリコール及びこれらの混合物から選択される有機溶媒系の存在で自動食器洗い機で調理器具/食器を洗浄する方法。」
である点で一致し、以下の点で相違するということができる。

A 有機溶媒系が、本願補正発明においては、「50重量%未満の揮発性有機含量」及び「500?5,000ppmの洗浄液体における濃度」を有するのに対し、引用発明1においては、「モノエタノールアミン 10重量%、1,4-ブタンジオール 2.5重量%を含む組成を有する実施例4の水性液体洗浄剤を、洗浄剤濃度0.15%となるように供給」するものの、「揮発性有機含量」及び「洗浄液体における濃度」について特定がない点
(以下、「相違点A」という。)

オ 検討
(ア)相違点Aについて
(ア-1)まず、「揮発性有機含量」について検討する。
本願補正発明の「揮発性有機含量」については、本願補正明細書の段落【0005】にその定義が示されており、「溶媒系の揮発性有機含量は、25℃における規定圧及び大気圧より高い蒸気圧を有する溶媒系中の有機成分の含量」であるところ、平成17年6月14日付けの意見書(2)(2-1)において、「請求項1中の『揮発性有機含量』に関する『規定圧』は、1mmHgです。」と記載されているから、「50重量%未満の揮発性有機含量」とは、有機溶媒系において、25℃における1mmHg及び大気圧より高い蒸気圧を有する有機溶媒の含有量が50重量%未満であることを意味するものと認められる。
一方、引用発明1の「モノエタノールアミン」及び「1,4-ブタンジオール」は、その蒸気圧がそれぞれ、0.40mmHg(25℃)及び<0.075mmHg(24℃)であり、いずれも25℃における蒸気圧が1mmHgより低いことが明らかであって、引用発明1の洗浄剤には、他に蒸気圧が1mmHg及び大気圧より高い有機溶媒系が存在しないから、引用発明1は、有機溶媒系が「50重量%未満の揮発性有機含量」を有するといえるものであり、この点については実質的な相違点であるということができない。

(ア-2)次に、「洗浄液体における濃度」について検討する。
引用発明1は、「モノエタノールアミン 10重量%、1,4-ブタンジオール 2.5重量%を含む組成を有する実施例4の水性液体洗浄剤を、洗浄剤濃度0.15%となるように供給」するものであるので、モノエタノールアミン及び1,4-ブタンジオールからなる有機溶媒系の洗浄液体における濃度は、188ppm(=(12.5/100)×(0.15/100)×10^(6))であると認められ、本願補正発明の「500?5,000ppm」の範囲外である。
しかしながら、引用発明1において、モノエタノールアミンは、「(a)アルカリ剤」(摘示1a、1f)として含有されているところ、アルカリ剤を配合する目的については、「アルカリ剤を配合して加水分解作用等により汚れを可溶化し、洗浄、除去」(摘示1d)するものであることが記載され、「(a)成分は洗浄性能や安定性の面から洗浄剤中に0.5?50重量%」(摘示1f)と記載されているから、所定重量範囲の中においては、配合量を増やすほど、食品由来の油脂やタンパク質、澱粉等の汚れの洗浄、除去性能が上がることが記載されているといえる。
そうしてみると、引用発明1において、該汚れの洗浄、除去性能を上げるために、「0.5?50重量%」の範囲内で、モノエタノールアミンの配合量を10重量%よりも増やすことは当業者が容易に想到し得ることである。そして、モノエタノールアミンの配合量を50重量%(+1,4-ブタンジオール 2.5重量%)とした場合の、有機溶媒系の洗浄液体における濃度は、787.5ppm(=(52.5/100)×(0.15/100)×10^(6))となるから、引用発明1において、モノエタノールアミンの配合量を増やすことにより、洗浄液体における濃度を188ppmから増加させて、787.5ppmまでの範囲に設定することは当業者が容易に想到し得ることであるといえる。

(ア-3)よって、「揮発性有機含量」については実質的に相違しておらず、また、「洗浄液体における濃度」については、引用発明1において、洗浄液体における濃度を188ppmから増加させて、787.5ppmまでの範囲に設定し、特に、汚れの洗浄、除去性能を上げるために、例えば、「500?5,000ppm」と重複する「500?787.5ppm」に設定することは当業者が容易に想到し得ることである。

(イ)本願補正発明の効果について
本件補正後の明細書の段落【0054】には、「実施例1?5の2成分組成物は、食品の調理汚れ、焼きつき及び焦げつきに対して、優れた除去能力を示した。」と記載されているところ、本願補正発明は、「調理器具及び食器から食品の調理汚れ、焼きつき又は焦げつきを除去する方法」であるから、これらを総合すると、本願補正発明の効果は、「食品の調理汚れ、焼きつき又は焦げつきに対して、優れた除去効果を奏する」ことであると認められる。
しかしながら、引用発明1において、モノエタノールアミンの配合量を増やすことにより、洗浄液体における濃度を上げることで、食品由来の油脂やタンパク質、澱粉等の汚れの洗浄、除去性能が上がることは、刊行物1の摘示1d、1fの記載から、当業者が予測し得ることであるから、本願補正発明の効果は、格別顕著なものであるとはいえない。
しかも、発明の詳細な説明を参酌しても、「500?5,000ppm」の範囲において臨界的意義を有するとはいえない。それどころか、発明の詳細な説明のいずれの実施例においても、有機溶媒組成物の放出(供給)量については記載されているものの、洗浄液体中の濃度については何ら記載されていないから、「洗浄液体における濃度」を「500?5,000ppm」と特定したことにより、当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏するということはできない。

カ 理由Aについてのまとめ
以上のとおり、本願補正発明は、その出願前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(2-2)理由B
ア 引用刊行物
米国特許第4123395号明細書(当審において新たに引用。以下、「刊行物2」という。)

イ 刊行物2に記載された事項
この出願の優先日前に頒布された刊行物2には、以下の事項が記載されている(当審による仮訳)。

2a「改善された汚染物の再付着防止性を有し、自動食器洗い機での使用に特に適した洗浄剤組成物であって、
(a)以下の群から選択される少なくとも4重量%の低起泡性アルコキシル化非イオン界面活性剤・・・
(b)少なくとも5重量%のスルホン化芳香族親和剤であって、その限界ミセル濃度が25℃において1重量%以上であるもの、
を含有し、該アルコキシル化非イオン界面活性剤と該スルホン化親和剤の重量比が2:5?5:3であり、実質的に塩素漂白成分を含有せず、固体、ペースト、ゲル又は非水性液体の形態である組成物。」(15欄43行?16欄52行の請求項1)
2b「本発明の組成物は、従来の使用に比べて、特に油脂や油脂-タンパク質の複合体の汚れに対して、著しく強化された再付着防止能を与える。」(第1欄22?25行)
2c「これまで述べてきた成分に加え、本発明の組成物は、自動食器洗い機に使用するのに適切であることが知られる洗浄剤組成物の添加成分を含有することができる。有機及び無機の洗浄剤ビルダー成分、アルカリ剤・・・などが代表的な例として挙げられる。」(第11欄27?39行)
2d「上記の組成物において、ビルダーとして、あるいはアルカリ性を付与するために好ましい材料には、・・・アルカノールアミン、特に、モノ-、ジ-およびトリエタノールアミン・・・が含まれる。」(11欄63?68行)
2e「自動食器洗い機を食器で満たした。・・・2つの試験用グラスは、ミルクの薄い膜で汚した。・・・マーガリンと乾燥ミルクの混合物を50mlのビーカーに入れ、食器洗い機の上段のラックに伏せた。・・・規定量の洗剤製品をディスペンサーカップに添加した。」(12欄42?53行)
2f「追加試験パラメータ:
製品濃度(Product concentration)0.3%」(12欄64?65行)
2g「ペースト又はゲル状組成物の実施例は以下のとおりである。
・・・
実施例IX
成分 組成物中の重量%
Pluradot HA-430 15
タローアルコール1モルと
エチレンオキサイド9モルの縮合物 15
トルエンスルホン酸ナトリウム 20
トリエタノールアミン 20
オレイン酸 4
酸性リン酸モノステアリル 0.4
SAG-100 0.6
炭酸ナトリウム 25 」(14欄55行?15欄14行)

ウ 刊行物2に記載された発明
刊行物2には、「自動食器洗い機での使用に特に適した洗浄剤組成物」(摘示2a)について記載されており、「油脂や油脂-タンパク質の複合体の汚れに対して、著しく強化された再付着防止能を与える」(摘示2b)と記載されているので、自動食器洗い機で食器を洗浄し、食器から油脂や油脂-タンパク質の複合体の汚れを除去する方法が記載されているといえる。
そして、該組成物は、「低起泡性アルコキシル化非イオン界面活性剤」及び「スルホン化芳香族親和剤」(摘示2a)の他に、「自動食器洗い機に使用するのに適切であることが知られる洗浄剤組成物の添加成分を含有することができ」、「有機及び無機の洗浄剤ビルダー成分、アルカリ剤・・・などが代表的な例として挙げられ」(摘示2c)、「ビルダーとして、あるいはアルカリ性を付与するために好ましい材料には、・・・アルカノールアミン、特に、モノ-、ジ-およびトリエタノールアミン・・・が含まれる」(摘示2d)ことも記載されている。
そして、具体的に実施例IXとして、「トリエタノールアミン」を20重量%含む組成を有する「ペースト又はゲル状組成物」(摘示2g)が記載されており、これを、「自動食器洗い機」の「ディスペンサーカップに添加」(摘示2e)して、自動食器洗い機に供給されるようにし、「製品濃度・・・0.3%」(摘示2f)でグラス等の食器を洗浄する方法が記載されている(摘示2e)。

よって、刊行物2には、
「食器から油脂や油脂-タンパク質の複合体の汚れを除去する方法であって、トリエタノールアミン 20重量%を含む組成を有する実施例IXのペースト又はゲル状洗浄剤組成物を、製品濃度0.3%となるように供給し、自動食器洗い機で食器を洗浄する方法。」
の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているということができる。

エ 対比
本願補正発明と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「食器」は、本願補正発明の「調理器具及び食器」及び「調理器具/食器」に相当し、引用発明2の「油脂や油脂-タンパク質の複合体の汚れ」は、摘示2eからみても食品由来であることが明らかであるから、本願補正発明の「食品の調理汚れ、焼きつき又は焦げつき」のうち少なくとも「食品の調理汚れ」に相当し、両発明は共に「自動食器洗い機で食器を洗浄する」方法である。
そして、引用発明2の「トリエタノールアミン」は、「アルコール」又は「アミン」に相当し、共に、「有機溶媒系」であることが明らかである。また、引用発明2において、「トリエタノールアミン」の有機溶媒系を「含む組成を有する実施例IXのペースト又はゲル状洗浄剤組成物」を「供給」して「洗浄」するということは、「有機溶媒系の存在で」洗浄するということであるといえる。他方、本願補正発明の「・・・有機溶媒系の存在で」も、上記(2-1)エで述べたとおり、界面活性剤等の成分を含む洗浄剤組成物中に有機溶媒系を含む態様を包含するものである。
してみると、引用発明2の「トリエタノールアミン・・・を含む組成を有する実施例IXのペースト又はゲル状洗浄剤組成物を、・・・供給し」は、本願補正発明の「アルコール、アミン、・・・及びこれらの混合物から選択される有機溶媒系の存在で」に相当する。

したがって、両者は、
「調理器具及び食器から食品の調理汚れ、焼きつき又は焦げつきを除去する方法であって、アルコール、アミン及びこれらの混合物から選択される有機溶媒系の存在で自動食器洗い機で調理器具/食器を洗浄する方法。」
である点で一致し、以下の点で一応相違するということができる。

a 有機溶媒系が、本願補正発明においては、「50重量%未満の揮発性有機含量」及び「500?5,000ppmの洗浄液体における濃度」を有するのに対し、引用発明2においては、「トリエタノールアミン 20重量%を含む組成を有する実施例IXのペースト又はゲル状洗浄剤組成物を、製品濃度0.3%となるように供給」するものの、「揮発性有機含量」及び「洗浄液体における濃度」について特定がない点
(以下、「相違点a」という。)

オ 検討
(ア)相違点aについて
(ア-1)まず、「揮発性有機含量」について検討する。
上記「(2-1)オ(ア)(ア-1)」で述べたとおり、「50重量%未満の揮発性有機含量」とは、有機溶媒系において、25℃における1mmHg及び大気圧より高い蒸気圧を有する有機溶媒の含有量が50重量%未満であることを意味するものと認められる。
一方、引用発明2の「トリエタノールアミン」は、その蒸気圧が0.01mmHg(20℃)であり、25℃における蒸気圧が1mmHgより低いことが明らかであって、引用発明2の洗浄剤組成物には、他に蒸気圧が1mmHg及び大気圧より高い有機溶媒系が存在しないから、引用発明2は、有機溶媒系が「50重量%未満の揮発性有機含量」であるといえるものであり、この点については実質的な相違点であるということができない。

(ア-2)次に、「洗浄液体における濃度」について検討する。
引用発明2は、「トリエタノールアミン 20重量%を含む組成を有する実施例IXのペースト又はゲル状洗浄剤組成物を、製品濃度0.3%となるように供給」するものであり、製品濃度の製品とは、洗浄剤組成物のことであると認められるから、自動食器洗い機に洗浄剤組成物の濃度が0.3%となるように供給していると認められる。そうすると、トリエタノールアミンからなる有機溶媒系の洗浄液体における濃度は、600ppm(=(20/100)×(0.3/100)×10^(6))であると認められ、本願補正発明の「500?5,000ppm」に該当する。
よって、この点についても実質的な相違点であるということができない。

(ア-3)また、仮に、洗浄液体における濃度として、「500?5,000ppm」という数値範囲がないことが、実質的な相違点であるとしても、引用発明2の600ppmを含む範囲を設定することは当業者が適宜なし得ることである。

(ア-4)よって、相違点a(「揮発性有機含量」及び「洗浄液体における濃度」について)は実質的な相違点ではないか、又は、「洗浄液体における濃度」については、引用発明2において、洗浄液体における濃度を、600ppmの範囲を含む範囲、例えば、「500?5,000ppm」に設定することは当業者が適宜なし得ることである。

(イ)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は、上記「(2-1)オ(イ)」で述べたとおり、「食品の調理汚れ、焼きつき又は焦げつきに対して、優れた除去効果を奏する」ことであると認められる。
しかしながら、引用発明2は、「揮発性有機含量」及び「洗浄液体における濃度」において、本願補正発明と実質的に相違するものではないから、食品の調理汚れに対して同等の優れた除去効果を奏するものということができ、本願補正発明の効果が、当業者の予測を超える効果であるとは認められない。

カ 理由Bについてのまとめ
以上のとおり、本願補正発明は、その出願前に頒布された刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、該刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(2-3)理由C
ア はじめに
特許法第36条第6項は、「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号に規定する要件(いわゆる、「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」(知財高裁特別部平成17年(行ケ)第10042号判決)である。
以下、この観点に立って、本願補正発明について検討する。

イ 本願補正発明の課題
本願補正発明は、「調理器具及び食器から食品の調理汚れ、焼きつき又は焦げつきを除去する方法」であり、本願補正明細書の段落【0004】に「自動食器洗い機を使用して、下洗いの工程を経ることなく、調理器具及び食器から調理汚れ、焼きつき及び焦げつきを除去するために、より有効な方法及び製品が依然として求められている。」と記載されていることを考慮すると、本願補正発明の課題は、「自動食器洗い機を使用して、調理器具及び食器から調理汚れ、焼きつき又は焦げつきを除去するために、より有効な方法を提供すること」であると認められる。

ウ 発明の詳細な説明の記載
本願補正発明は、「アルコール、アミン、エステル、グリコールエーテル、グリコール、テルペン類及びこれらの混合物から選択される有機溶媒系」の存在で洗浄することを発明特定事項とするものであるところ、本願補正明細書の発明の詳細な説明には、有機溶媒系に関し、以下の事項が記載されている。

a「(発明の概要)
本発明の第1の観点は、食品の調理汚れ、焼きつき及び焦げつき(油脂、肉類、乳製品、果物、パスタ及びその他の特に調理後の除去が難しい食品など)を調理器具及び食器(ステンレススチール、ガラス、プラスチック、木及び陶器製の物品を含む)から除去する方法を提供する。本法は、有機溶媒系の存在で自動食器洗い機で調理器具/食器を洗浄することを含む。このとき、有機溶媒系(単一溶媒成分又は混合溶媒成分を含む)は、1mmHg以上において、溶媒系の約50重量%未満、好ましくは約20重量%未満、更に好ましくは約10重量%未満の揮発性有機含量を有する。本明細書において、溶媒系の揮発性有機含量は、25℃における規定圧及び大気圧より高い蒸気圧を有する溶媒系中の有機成分の含量として定義される。
洗浄液体における溶媒の最適な濃度は、約100?約10,000ppm、好ましくは約200?約8,000ppm、更に好ましくは約500?約5,000ppmである。」(段落【0005】)
b「有機溶媒系は、界面活性剤、特に低発泡非イオン性界面活性剤及び洗浄ビルダーと共に使用することが好ましい。例えば、本発明の別の実施例では、食品の調理汚れ、焼きつき及び焦げつきを調理器具及び食器から除去する方法を提供し、この方法は、界面活性剤、洗浄ビルダー及び有機溶媒系の存在で自動食器洗い機で調理器具/食器を洗浄することを含む。・・・有機溶媒系は約100?約10,000ppm、・・・更に好ましくは約500?約5,000ppmの洗浄液体における濃度を有する。洗浄液体のpHは一般にアルカリ性であり、好ましくは10.5以上・・・であると考えられる。・・・」(段落【0007】)
c「本発明の方法は、専用の有機溶媒組成物の存在で行うことができる。ただし、好ましい観点では、本発明は少なくとも1つの有機溶媒組成物を含んだ複数の組成物を使用することを想定している。組成物は、自動食器洗い機の同一又は異なる工程時に放出することができる。得られた溶媒含有洗浄液体で、汚れた調理器具/食器を洗浄する。
本発明の別の観点では、調理器具及び食器から食品の調理汚れ、焼きつき及び焦げつきを除去するために、1つ以上の有機溶媒組成物(この場合、「溶媒組成物」とは、有機溶媒系と、任意の追加有効成分及び希釈溶液を含有すると解釈される)及び1つ以上の自動食器洗い洗剤組成物を使用することができる。有機溶媒組成物は、ビルダーを含んでも、含まなくても、ほぼ含まなくてもよい。・・・」(段落【0008】)
d「本明細書に用いるのに好適な有機溶媒は広範囲に及ぶが、アルコール、アミン、エステル、グリコールエーテル、グリコール、テルペン類及びこれらの混合物から選択されることが好ましい。有機溶媒系は、上述した揮発性溶媒成分の規定に適合するように処方されることが好ましい。非常に好ましい実施例では、溶媒系は、25℃で約0.1mmHgより大きく大気圧より大きい蒸気圧を有する溶媒成分を、約50%未満、好ましくは20%未満、更に好ましくは10%未満含有すると考えられる。非常に好ましい実施例では、溶媒は、約150℃未満の沸点、約100℃未満の引火点、又は25℃で約1mmHgより大きく大気圧より大きい蒸気圧を有する溶媒成分を基本的に含まない(約5重量%未満)。」(段落【0018】)
e「別の好ましい実施例では、好適な有機溶媒は、1以上の水溶性又は分散性有機アミン溶媒(とりわけアルカノールアミン溶媒)を含有し、この有機アミン溶媒は、好ましくはヒドロキシル化されたものであり、8.8以上・・・のpKaを有する。・・・」(段落【0020】)
f「好ましい実施例では、有機溶媒は1つ以上の有機アミンを含有する。・・・
・・・有機溶媒系は、溶媒系の表面張力を低下させるために有効な湿潤剤と共に使用することが好ましい。・・・本明細書に用いるのに好ましい湿潤剤は、シリコーンポリエーテルコポリマー、とりわけシリコーンポリ(アルキレンオキシド)コポリマーであり、このときアルキレンは、エチレン、プロピレン及びこれらの混合物から選択される。」(段落【0021】)
g「実施例1?5
食品の調理汚れ、焼きつき及び焦げつきで汚れた調理器具及び食器を洗浄するために、溶媒組成物及び自動食器洗い洗剤の合成物を使用する。・・・実施例1?5の組成物の存在で、洗い物を5l容量のBosch6032食器洗い機で洗浄する(55℃、下洗いは行わない)。実施例1?5は、2相錠剤型自動食器洗い洗剤及び有機溶媒組成物の組み合せを使用し、食器洗い機の本洗いの工程時で別々に添加する方法について説明する。実施例1?5の2成分組成物は、食品の調理汚れ、焼きつき及び焦げつきに対して、優れた除去能力を示した。
【表2】
(審決注:表は省略。
ここで、表2には、「有機溶媒組成物」の構成成分として、「MEA」(モノエタノールアミン)、「MAE」(2-(メチルアミノ)エタノール)、「SF1488」(ポリジメチルシロキサンコポリマー)が記載されている。)
自動食器洗い洗剤組成物として上記と同じものを使用し、有機溶媒組成物として10mlの2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール及び2mlのSilwetL7600の存在で、実施例1?5を繰り返した。組成物は、食品の調理汚れ、焼きつき及び焦げつきに対して、優れた除去能力を示した。」(段落【0054】?【0056】、略称については段落【0052】参照)
h「実施例6?10
・・・実施例6?10の2成分組成物を使用し、上記の方法(実施例1?5)に従って、調理器具及び食器の汚れを洗浄する。食器洗い洗剤30ml及び溶媒組成物10mlを、5l容量のBosch6032食器洗い機の本洗いの工程時に別々に放出する(55℃、前洗浄は行わない)。実施例6?10の組成物は、食品の調理汚れ、焼きつき及び焦げつきに対して、優れた除去能力を示す。
【表3】
(審決注:表は省略。
ここで、表3には、「有機溶媒組成物」の構成成分として、「MEA」(モノエタノールアミン)、「MAE」(2-(メチルアミノ)エタノール)、「SF1488」(ポリジメチルシロキサンコポリマー)が記載されている。)
自動食器洗い洗剤組成物として上記と同じものを使用し、有機溶媒組成物として10mlの2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール及び2mlのSilwetL7600の存在で、実施例6?10を繰り返した。組成物は、食品の調理汚れ、焼きつき及び焦げつきに対して、優れた除去能力を示した。」(段落【0057】?【0059】)
i「実施例11?15
・・・実施例11?15の2成分組成物を使用し、上記の方法(実施例1?5)に従って、調理器具及び食器の汚れを洗浄する。自動食器洗い液体洗剤及び有機溶媒組成物を、1回用量(食器洗い洗剤30ml及び溶媒組成物10ml)の部分加水分解性PVA水溶性袋の個々の区画に放出する。パウチは、Bosch6032食器洗い機の本洗いの工程時に放出する(55℃、下洗いは行わない)。実施例11?15の2成分組成物は、食品の調理汚れ、焼きつき及び焦げつきに対して、優れた除去能力を示す。同時に、これらの組成物は、PVAパウチ材料との優れた適合性も示す。
【表4】
(審決注:表は省略。
ここで、表4には、「有機溶媒組成物」の構成成分として、「MEA」(モノエタノールアミン)、「MAE」(2-(メチルアミノ)エタノール)、「ベンジルアルコール」、「SF1488」(ポリジメチルシロキサンコポリマー)が記載されている。)」(段落【0060】?【0062】)
j「実施例16?19
・・・2つの成分から成る組成物を電動ポンプを有する2つの区画を有するボトルに詰め、3:1の供給率(食器洗い液体洗剤:有機溶媒組成物)で放出する。実施例16?19の組成物を使用し、上記の方法(実施例1?5)に従って、洗い物を洗浄する。食器洗い洗剤30ml及び溶媒組成物10mlは、2つの区画を有するボトルから、Bosch6032食器洗い機の本洗いの工程時に別々に放出する(55℃、下洗いは行わない)。実施例16?19の2成分組成物は、食品の調理汚れ、焼きつき及び焦げつきに対して、優れた除去能力を示す。食器洗い液体洗剤:有機溶媒組成物の比が4:1の組み合せの存在で、上記の実施例16?19を繰り返した。結果は、同等の結果が得られた。
【表5】
(審決注:表は省略。
ここで、表5には、「有機溶媒組成物」の構成成分として、「MEA」(モノエタノールアミン)、「MAE」(2-(メチルアミノ)エタノール)、「PBI-50」(過ホウ酸ナトリウム1水和物)、「FN3」(プロテアーゼ)、「Termamyl」(α-アミラーゼ)、「増粘剤」が記載されている。)」(段落【0063】?【0064】)
k「実施例20?24
実施例20?24は、「一体型」の溶媒含有自動食器洗い洗剤組成物について説明する。実施例20?24の組成物を使用し、上記の方法(実施例1?5)に従って、洗い物を洗浄する。食器洗い組成物40mlをBosch6032食器洗い機の本洗いの工程時に放出する(55℃、下洗いは行わない)。実施例20?24の「一体型」組成物は、焼きつき汚れに対して、優れた除去能力を示す。
【表6】

」(段落【0065】?【0066】)

エ 検討
(ア)上記ウで述べたとおり、本願補正発明は、「アルコール、アミン、エステル、グリコールエーテル、グリコール、テルペン類及びこれらの混合物から選択される有機溶媒系」の存在で洗浄することを発明特定事項とするものである。
しかし、上記摘示g?jに示されるように、実施例1?19に具体的に記載された「有機溶媒組成物」において使用される有機溶媒系は、「MEA」(モノエタノールアミン)、「MAE」(2-(メチルアミノ)エタノール)、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールのみであり、また、摘示kの実施例20?24の「食器洗い洗剤溶媒組成物」のうち、どの成分が有機溶媒系であるか明示されていないが、各成分の融点、沸点、蒸気圧を勘案すると、「MEA」(モノエタノールアミン)及び「1,2-プロパンジオール」が有機溶媒系に相当するものと認められる。
なお、実施例1?19の有機溶媒組成物中の他の成分、「SF1488」(ポリジメチルシロキサンコポリマー)、「PBI-50」(過ホウ酸ナトリウム1水和物)、「FN3」(プロテアーゼ)、「Termamyl」(α-アミラーゼ)及び「増粘剤」は、有機溶媒系に追加して使用される「任意の追加有効成分」(摘示c、f)に該当する。
そうすると、実施例には、上記以外の有機溶媒系についての具体的な開示はなく、少なくとも、本願補正発明の上記有機溶媒系のうち、エステル、テルペン類については具体的に記載されていない。
そして、発明の詳細な説明の他の記載をみても、実施例に記載された上記以外の有機溶媒系、特に、エステル、テルペン類が、実施例記載の有機溶媒系と同等の除去効果を有するといえる理論的な説明がされているとはいえない。例えば、「モノエタノールアミン」等のアルカノールアミンは、アルカリ性で極性という性質を有し、「1,2-プロパンジオール」も極性という性質を有するのに対し、エステル、テルペン類は中性で非極性という性質を有するものが多いことから、エステル、テルペン類は、実施例に記載された有機溶媒系とは、洗浄力に影響を及ぼし得るアルカリ性や極性という性質だけをとっても明らかに異なり、同等の除去効果を有するということができない。
そうすると、本願補正発明で特定される「アルコール、アミン、エステル、グリコールエーテル、グリコール、テルペン類及びこれらの混合物から選択される有機溶媒系」のいずれを用いても、上記イの課題を解決できる程度に発明の詳細な説明が記載されているということができない。
よって、本願補正発明全体が、発明の詳細な説明の記載により、当業者が上記イの課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。

(イ)また、本願補正発明で特定される「アルコール、アミン、エステル、グリコールエーテル、グリコール、テルペン類及びこれらの混合物から選択される有機溶媒系」のいずれを用いても、上記イの課題を解決できるという出願時の技術常識があるともいえない。
よって、本願補正発明は、発明の詳細な説明にその記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし、上記イの課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。

(ウ)したがって、本願補正発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、当業者が出願時の技術常識に照らし、該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないから、本願補正発明が発明の詳細な説明に記載したものであるということはできず、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

オ 理由Cについてのまとめ
以上のとおり、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
上記2(2)のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余のことについて検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成19年12月7日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1?41に係る発明は、平成17年6月14日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。なお、本願明細書の発明の詳細な説明の記載内容は、本願補正明細書のそれと同じである。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?41に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「調理器具及び食器から食品の調理汚れ、焼きつき又は焦げつきを除去する方法であって、有機溶媒系の存在で自動食器洗い機で調理器具/食器を洗浄することを含み、前記有機溶媒系が、50重量%未満の揮発性有機含量、及び100?10,000ppmの洗浄液体における濃度を有する方法。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定は、「この出願については、平成16年12月8日付け拒絶理由通知書に記載した理由5によって、拒絶をすべきものです。」というものであるところ、平成16年12月8日付けの拒絶理由通知及び原査定の備考欄の記載からみて、原査定の拒絶の理由は、本願発明は、「引用文献2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、特許を受けることができない。」(特許法第29条第2項)という理由を含むものである。
なお、「引用文献2」は、上記「第2 2(2)(2-1)ア」の「刊行物1」と同じであり、以下、同様に「刊行物1」という。

3 刊行物に記載された事項
刊行物1に記載された事項は、上記「第2 2(2)(2-1)イ」に示したとおりである。

4 刊行物1に記載された発明
上記「第2 2(2)(2-1)ウ」で述べたとおり、刊行物1には、
「食器類からの食品由来の油脂やタンパク質、澱粉等の汚れを除去する方法であって、モノエタノールアミン 10重量%、1,4-ブタンジオール 2.5重量%を含む組成を有する実施例4の水性液体洗浄剤を、洗浄剤濃度0.15%となるように供給し、自動食器洗浄機で食器類を洗浄する方法。」
の発明(以下、同様に「引用発明1」という。)が記載されているということができる。

5 対比
本願発明は、本願補正発明において、「有機溶媒系」について、「アルコール、アミン、エステル、グリコールエーテル、グリコール、テルペン類及びこれらの混合物から選択される」との特定がなく、かつ、「洗浄液体における濃度」が、「100?10,000ppm」であるものである。
ところで、本願発明の「有機溶媒系」に、「アルコール、アミン、エステル、グリコールエーテル、グリコール、テルペン類及びこれらの混合物から選択される」ものを包含することは、本願明細書の段落【0018】の記載からみて明らかであるから、上記「第2 2(2)(2-1)エ」でも述べたように、引用発明1の「モノエタノールアミン・・・、1,4-ブタンジオール ・・・を含む組成を有する実施例4の水性液体洗浄剤を、・・・供給し」は、本願補正発明の「有機溶媒系の存在で」に相当する。
その他、上記「第2 2(2)(2-1)エ」で述べた点を踏まえて、本願発明と引用発明1を対比すると、両者は、
「食器から食品の調理汚れ、焼きつき又は焦げつきを除去する方法であって、有機溶媒系の存在で自動食器洗い機で食器を洗浄する方法」
である点で一致し、以下の点で相違するということができる。

A’有機溶媒系が、本願発明においては、「50重量%未満の揮発性有機含量」及び「100?10,000ppmの洗浄液体における濃度」を有するのに対し、引用発明1においては、「モノエタノールアミン 10重量%、1,4-ブタンジオール 2.5重量%を含む組成を有する実施例4の水性液体洗浄剤を、洗浄剤濃度0.15%となるように供給」するものの、「揮発性有機含量」及び「洗浄液体における濃度」について特定がない点
(以下、「相違点A’」という。)

6 検討
(1)相違点A’について
ア まず、「揮発性有機含量」については、上記「第2 2(2)(2-1)オ(ア)(ア-1)」で述べたのと同様の理由により、実質的な相違点であるとはいえない。

イ 次に、「洗浄液体における濃度」について検討する。
上記「第2 2(2)(2-1)オ(ア)(ア-2)」で述べたとおり、引用発明1におけるモノエタノールアミン及び1,4-ブタンジオールからなる有機溶媒系の洗浄液体における濃度は、188ppm(=(12.5/100)×(0.15/100)×10^(6))であると認められるから、100?10,000ppmの洗浄液体における濃度と重複するものである。
そして、同じく上記「第2 2(2)(2-1)オ(ア)(ア-2)」のとおり、引用発明1において、モノエタノールアミンの配合量を増やすことにより、洗浄液体における濃度を188ppmから増加させて、787.5ppmまでの範囲に設定することは当業者が容易に想到し得ることであるといえる。

ウ よって、「揮発性有機含量」については実質的に相違しておらず、また、「洗浄液体における濃度」については、引用発明1において、洗浄液体における濃度を「100?10,000ppm」と重複する「188?787.5ppm」の範囲に設定することは当業者が容易に想到し得ることである。

(2)本願発明の効果について
本願明細書の段落【0054】には、「実施例1?5の2成分組成物は、食品の調理汚れ、焼きつき及び焦げつきに対して、優れた除去能力を示した。」と記載されているところ、本願発明は、「調理器具及び食器から食品の調理汚れ、焼きつき又は焦げつきを除去する方法」であるから、これらを総合すると、本願発明の効果は、「食品の調理汚れ、焼きつき又は焦げつきに対して、優れた除去効果を奏する」ことであると認められる。
しかし、該効果は、本願補正発明の効果と同様であるから、「第2 2(2)(2-1)オ(イ)」で述べたのと同様の理由により、当業者の予測を超える格別顕著な効果であるということはできない。

7 まとめ
したがって、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余のことを検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-03 
結審通知日 2011-03-15 
審決日 2011-03-28 
出願番号 特願2002-514260(P2002-514260)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C11D)
P 1 8・ 121- Z (C11D)
P 1 8・ 537- Z (C11D)
P 1 8・ 575- Z (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之中村 浩  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 木村 敏康
松本 直子
発明の名称 洗浄性組成物  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 梶並 順  
代理人 古川 秀利  
代理人 大宅 一宏  
代理人 曾我 道治  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ