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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F15B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F15B |
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管理番号 | 1242251 |
審判番号 | 不服2010-4892 |
総通号数 | 142 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-03-05 |
確定日 | 2011-08-02 |
事件の表示 | 平成11年特許願第521045号「油圧加圧装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 4月22日国際公開、WO99/19947、平成14年 4月 2日国内公表、特表2002-510380号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、1998年(平成10年)10月15日(パリ条約による優先権主張 1997年(平成 9年)10月15日、ドイツ国、1998年(平成10年) 6月 5日、ドイツ国)を国際出願日とする特許出願であって、平成21年10月22日付けで拒絶査定(発送日:平成21年11月10日)がなされ、これに対して、平成22年 3月 5日付けで本件審判請求がなされるとともに手続補正(前置補正)がなされたものである。 II.平成22年 3月 5日付けの手続補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年 3月 5日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「【請求項1】 油圧により加圧するための工具に設けられる油圧加圧装置であって、静止部分(26)及び可動部分(24)と、油圧ピストン(9)と、復帰ばね(10)と、開放位置及び閉止位置をもつ還流バルブ(1)と、を備え、前記還流バルブ(1)が閉止位置にあるとき前記可動部分(24)は前記油圧ピストン(9)によって前記復帰ばね(10)に対抗して前記静止部分(26)の方向に相対的に移動し、そして前記油圧ピストン(9)は復帰ストロークにおいて前記復帰ばね(10)により初期位置に復帰可能である、該油圧加圧装置において、 前記還流バルブ(1)は、全ピストン面(5)とそれよりも小さい部分ピストン面(4)とを備えたバルブピストン(3)として形成され、該全ピストン面(5)と該部分ピストン面(4)との面積比は400:1であり、前記バルブピストン(3)は圧縮ばね(8)により前記閉止位置となる方向へ付勢され、前記閉止位置にあるときは該部分ピストン面(4)に対して圧力が有効に働いており、前記油圧ピストン(9)の所定の最大圧力において前記還流バルブ(1)が自動的に前記開放位置へ開放されるように該圧縮ばねの押圧力及び該部分ピストン面の大きさが決定されており、 前記油圧ピストン(9)の復帰ストロークは、前記還流バルブ(1)が自動的に開放される前記最大圧力で開始され、 前記還流バルブ(1)は、還流する油の圧力によって前記油圧ピストン(9)の全復帰ストロークにわたって前記開放位置に保持され、該開放位置にあるときは前記全ピストン面(5)に対して圧力が有効に働いており、かつ 前記復帰ばね(10)による復帰力が除去された後、前記還流バルブ(1)の開放位置における制限圧力以下となることにより該還流バルブ(1)が自動的に前記閉止位置に復帰し、該開放位置における制限圧力は前記最大圧力よりも前記面積比に応じて低減されていることを特徴とする油圧加圧装置。」 と補正された。 本件補正は、実質的に、補正前の請求項1に記載されていた発明を特定するために必要な事項である「油圧加圧装置」、「全ピストン面(5)とそれよりも小さい部分ピストン面(4)」、「所定の最大圧力」、「復帰ばね(10)による復帰力が除去された後、前記還流バルブが自動的に前記閉鎖位置に復帰すること」のそれぞれを、「油圧により加圧するための工具に設けられる油圧加圧装置」、「該全ピストン面(5)と該部分ピストン面(4)との面積比は400:1であり」、「前記油圧ピストン(9)の所定の最大圧力」、「復帰ばね(10)による復帰力が除去された後、前記還流バルブ(1)の開放位置における制限圧力以下となることにより該還流バルブ(1)が自動的に前記閉止位置に復帰し、該開放位置における制限圧力は前記最大圧力よりも前記面積比に応じて低減されていること」とそれぞれ限定するものであって、この限定された事項は、願書に最初に添付された明細書又は図面に記載されており、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2.引用例及びその記載事項 原査定の平成21年 2月 9日付けの拒絶理由で引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である米国特許第5472322号明細書(以下「引用例1」という。)には、「POSITIVE DISPLACEMENT VACUUM PUMP HAVING A PISTON ACTUATED BY AN ALTERNETIVE LINEAR MOVEMENT」に関し、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。 なお、{}内は、当審における仮訳である。 a:「1. Field of the Invention The invention is related to a positive displacement vacuum pump having a piston actuated by an alternative linear movement. The invention is especially intended to constitute a motorized pump to displace a fluid towards the body of a hydraulic jack, for example, to activate tools such as crimping pliers, punch/clippers, etc.」(第1欄第8行?第15行) {1.発明の分野 その発明は、往復運動によって作動されるピストンを有する容積形真空ポンプに関連する。 その発明は、例えば、やっとこ、パンチ/はさみ等の工具を作動するための油圧ジャッキの本体に向けて流体を置き換える電動ポンプを構成するように、特に意図される。} b:「The invention will be better understood upon reading the following description with reference to the annexed drawings where: FIG. 1 shows a simplified longitudinal section of a pump according to the invention, provided to activate a hydraulic jack;」(第2欄第19行?第24行) {その発明は、付加された図面に関する次の記述を読むことで一層理解されるであろう。 図1は、油圧ジャッキを作動させるために提供された、その発明によるポンプの単純化された縦断面を示す。} c:「These schematic and simplified figures show a pump equipped with a body 1 forming a hollow cylinder 2 for a pump piston 3. Here, in addition, body 1 simultaneously constitutes, in a single element, a body 1' for a hydraulic jack equipped with a piston 4 arranged to slide into the body 1', and which is biased by a spring 5 working under compression.」(第2欄第31行?第37行) {これらの概要を表し単純化された図は、ポンプピストン3用の中空シリンダ2を形成する本体1を備えたポンプを示す。 ここで、さらに、本体1は、圧縮ばね5によって付勢され、本体1’の中でスライドするように配置されたピストン4を備えた油圧ジャッキ用の本体1’を、1つの要素として同時に構成する。} d:「The alternative movement of piston 3 in cylinder 2 enables conventional suctioning of a fluid contained in a deformable tank formed by a flexible membrane 16', by means of at least one suction valve 15, to force back the fluid by means of a recoil valve 17 in body 1' of the hydraulic jack. Hydraulic jack (1',4) enables activation of any means and in particular, a tool, as already mentioned. 」(第3欄第3行?第10行) {シリンダ2の中のピストン3の往復運動は、少なくとも1つの吸込弁15によって、柔軟な膜16’によって形成された変形可能なタンクに含まれていた流体を吸引し、油圧ジャッキの本体1’の中に、リコイルバルブ17によって流体を圧入することを可能とする。 油圧ジャッキ(1’,4)は、既に述べたように、任意の手段、特に工具の、作動を可能とする。} e:「In a known manner, the device is also provided with a delivery valve 18 retained on its seat by a spring 19. Possibly, valve 18 can be activated either automatically (calibrated spring) or by maneuvering a trigger-shaped lever 20 so as to control the retraction of piston 4 from the jack while emptying body 1' by a discharge circuit schematized in 21, the fluid then returning towards tank 16.」(第3欄第15行?第21行) {公知の手法により、本装置もまた、圧縮ばね19により弁座に付勢されたディリバリバルブ18が設けられている。 ディリバリバルブ18は、自動的に(調整された圧縮ばね)により作動されるか、または、トリガー型レバー20の操作により作動されることにより、ジャッキからのピストン4の復帰を制御する一方、放出路21を通して本体1’の中の流体をタンク16に戻す。} f:図1からは、「ディリバリバルブ18は、全ピストン面とそれよりも小さい部分ピストン面とを備えたバルブピストンとして形成され」ていることが看て取れる。 g:摘記事項eと図1からみて、「ディリバリバルブ18が、開放位置と閉止位置をもつこと」、「ディリバリバルブ18のバルブピストンは、圧縮ばね19により閉止位置となる方向へ付勢され、閉止位置にあるときは部分ピストン面に対して圧力が有効に働いており、ピストン4の所定の圧力においてディリバリバルブ18が自動的に開放位置に開放されるように該圧縮ばね19の押圧力及び該部分ピストン面の大きさが決定されて」いること、及び、「ディリバルバルブ18は、開放位置にあるときには、全ピストン面に対して圧力が有効に働いて」いることは、明らかである。 さらに、これらの記載に摘記事項cをふまえると、「ディリバリバルブ18が閉止位置にあるときピストン4と共に動く部分はピストン4によって圧縮ばね5に対抗して本体1’の方向(図1における下方向)に相対的に移動し、そしてピストン4は復帰ストロークにおいて圧縮ばね5により初期位置に復帰可能であること」および「ピストン4の復帰ストロークはディリバリバルブ18が自動的に開放される所定の圧力で開始され」ることは、明らかである。 これらの記載事項及び図示内容を総合すると、上記引用例1には、 「流体をその中に圧入し、工具を作動させる油圧ジャッキ1’,4であって、本体1’及びピストン4と共に動く部分と、ピストン4と、圧縮ばね5と、開放位置及び閉止位置をもつディリバリバルブ18と、を備え、前記ディリバリバルブ18が閉止位置にあるとき前記ピストン4と共に動く部分は前記ピストン4によって前記圧縮ばね5に対抗して前記本体1’の方向(図1における下方向)に相対的に移動し、そして前記ピストン4は復帰ストロークにおいて前記圧縮ばね5により初期位置に復帰可能である、該油圧ジャッキ1’,4において、 前記ディリバリバルブ18は、全ピストン面とそれよりも小さい部分ピストン面とを備えたバルブピストンとして形成され、前記バルブピストンは圧縮ばね19により前記閉止位置となる方向へ付勢され、前記閉止位置にあるときは該部分ピストン面に対して圧力が有効に働いており、前記ピストン4の所定の圧力において前記ディリバリバルブ18が自動的に前記開放位置へ開放されるように該圧縮ばね19の押圧力及び該部分ピストン面の大きさが決定されており、 前記ピストン4の復帰ストロークは、前記ディリバリバルブ18が自動的に開放される前記所定の圧力で開始され、 前記ディリバルバルブ18は、該開放位置にあるときは、前記全ピストン面に対して圧力が有効に働いている油圧ジャッキ1’4。」 の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 原査定の平成21年 2月 9日付けの拒絶理由で引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である実願昭49-82618号(実開昭51-11427号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には、「圧力作動弁」に関し、図面とともに以下の事項が記載または示されている。 h:「本考案はアクチユエータの作動順序を制御する圧力作動弁、つまりシーケンス弁に関するものにして、1個のアクチユエータの往復動を繰返して行なえる如くしたことを特徴とするものである。」(明細書第1ページ第18行?第2ページ第1行) i:「以下本考案の実施例を図面に基づき説明する。 第1図に示す如く本考案の圧力作動弁(1)はポンプ(2)とシリンダ(3)とを連結する回路(4)に接続している。・・・ 前記の圧力作動弁(1)は基本的な構造が従来のシーケンス弁と同じようにリリーフ弁形態であることは変りなく、弁箱(10)とスプール(11)と圧力調整用のスプリング(12)等から成り立つている。しかし乍ら該弁が従来品と異なるところは2個の可変オリフイス(30a)(30b)と特殊な断面積のポンプアンロード通路(24)を備えていることである。即ち前記弁箱(10)は小径の一次ポート(13)と大径のスプール室(14)とを同芯状に形成して、一次ポート(13)の出口側口縁に弁座(15)を形成すると共に、前記スプール室(14)の内周面に輪溝(16)を形成し、該輪溝(16)に二次ポート(17)を連通せしめている。さらに前記スプール室(14)の一端にはネジ部(18)を介してネジ蓋(19)を設けると共に、該ネジ蓋の近傍にタンクポート(20)を開口せしめている。 一方スプール(11)は一端に円錐形のポペット部(21)を形成し、周囲にランド(22)を備え、後端にプツシユロッド(23)を突出し、前後間にポンプアンロード通路(24)を穿設している。該スプール(11)をスプール室(14)内に設置しネジ蓋(19)との間に設けたスプリング(12)力を作用させた場合、第2図の如く弁座(15)とポペット部(21)との間に形成した第1可変オリフイス(30a)及び輪溝(16)とランド(22)との間に形成した第2可変オリフイス(30b)をそれぞれ閉鎖する如くしている。前記ポンプアンロード通路(24)の断面積については後に詳述するが、要はポンプ(2)の吐出量とシリンダ(3)からの戻り量との合算流量では所定の流動抵抗が生じ、スプール(11)前後に第2可変オリフイス(30b)を所定開度に保持し得る差圧が形成し得る大きさである。」(明細書第3ページ第3行?第4ページ第20行) j:「本考案は上記の如く構成するものにして以下作用を説明する。 ネジ蓋(19)を回転させることによつてスプリング(12)の荷重を変化させて設定圧力を調整することができる。シリンダに作用する負荷(W)によつて発生する圧力(P1)と弁座(15)の断面積(A1)とを乗じた値よりもスプリング(12)の荷重(S)を大きく設定したとき、すなわち、 P1A1<S のとき、スプール(11)を後退させることなく、ポンプ(2)から吐出した液体によつてシリンダ(3)を順調に上昇させることができる。 その後前記シリンダ(3)の運動が例えばストロークエンドに達するなど、回路(4)の圧力が上昇して(P2)という値になり、前記の力の関係が P2A1>S になつたとき、スプール(11)は後退して第1可変オリフイス(30a)を開放する。 こゝでそれまでは弁座(15)の断面積(A1)だけでポペット部(21)に圧力が作用していた状態から、二次室(14a)の断面積、つまりポペット部(21)の全有効面積(A2)に圧力が作用することになる。このためスプール(11)はさらに大きく後退し回路(4)と二次ポート(17)とを連通させる。この結果前記回路(4)の圧力(P2)は(P3)という値に減少し、前記の力の関係がくずれてスプール(11)は再び第2可変オリフイス(30b)を閉じる方向に復帰し始める。しかし乍ら第2可変オリフイス(30b)の開度が小さくなると、ポペット部(21)に作用する圧力は再び上昇するから、最終的には第2可変オリフイス(30b)の開度を P3A2=S の位置に保持する。この場合回路(4)の圧力は負荷(W)を支持する圧力(P1)よりも低くなつているから、シリンダ(11)(当審注:シリンダ(3)の誤記)の負荷(W)は自重で下降し始めるものである。」(明細書第5ページ第4行?第6ページ第18行) k:「前記シリンダ(3)が下降し終ると流量はポンプ(2)の吐出量だけとなる。このためスプール(11)は先づ第2可変オリフイス(30b)を閉じさらに続いて第1可変オリフイス(30a)を閉じる方向に復帰し始める。これまでの作用のみからすればポンプアンロード通路(24)は必要な要素ではない。しかし第2可変オリフイス(30b)が閉じられたのち第1可変オリフイス(30a)を閉じるためには二次室(14a)に圧力を残留させてはならず、このため前記のポンプアンロード通路(24)が必要である。しかし乍らこのポンプアンロード通路(24)の大きさが無制限というものではない。すなわち該ポンプアンロード通路(24)はシリンダ(3)の下降制御時、二次室(14a)にスプリング(12)力とバランスして第2可変オリフイス(30b)を所定開度に保持する如き圧力を発生させる断面積に形成することが重要である。 第1可変オリフイス(30a)が完全に閉じると回路(4)の圧力は再び負荷(W)の対応圧まで上昇するが、ポペット部(21)における作用面積は(A1)であるから、第1可変オリフイス(30a)は閉状態に保持されるものである。 以上の如き作用の繰返しによつて、シリンダ(3)は所定の周期でもつて上下運動を繰返し行なうものである。」(明細書第6ページ第19行?第8ページ第2行) l:「またスプール(11)の周囲のクリアランスを大きくし、該クリアランスによつてポンプアンロード通路(24)の役割を果す如くしてもよいことは勿論である。」(明細書第8ページ第16行?第19行) m:「叙上の如く本考案は一次ポート(13)の口縁の弁座(15)とスプール(11)の端面との間に第1可変オリフイス(30a)を形成し、アクチユエータを作動しているときは小径の受圧面で圧力を制御して負荷に抗する充分なる圧力を発生させ、例えばアクチユエータがストロークエンドに達するなど所定の圧力が発生すると、斯る大圧力を利用してスプール(11)を後退させ、その後は二次室(14a)における大きな受圧面積とポンプアンロード通路(24)の抵抗との関係で第2可変オリフイス(30b)の閉鎖を防止してアクチユエータの下降を容易ならしめ、さらにアクチユエータが下降し終つて流量がポンプ吐出量だけになるとポンプアンロード通路(24)のアンロード機能でもつて第1可変オリフイス(30a)を閉鎖し再びスプール(11)の小さな受圧面でもつて圧力制御する如くしたから、ポンプ(2)を連続運転させていてもアクチユエータは規制的な上下運動を繰返すことができるものである。」(明細書第8ページ第20行?第9ページ第17行) n:第1図からは、「シリンダ(3)が、液圧ピストンと復帰ばねを有している」ことが看て取れる。 3.発明の対比 本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「油圧ジャッキ1’,4」は前者の 「油圧加圧装置」に相当し、以下同様に、「本体1’」は「静止部分」に、「ピストン4と共に動く部分」は「可動部分」に、「ピストン4」は「油圧ピストン」に、「圧縮ばね5」は「復帰ばね」に、「ディリバリバルブ18」は「環流バルブ」に、「圧縮ばね19」は「圧縮ばね」にそれぞれ相当する。 また、後者の「所定の圧力」は、油圧ジャッキ1’内の圧力が「所定の圧力」になるとディリバルバルブ18が開放されて、該「所定の圧力」より大きい圧力になることはないから、前者の「所定の最大圧力」に相当する。 そして、後者の「流体をその中に圧入し、工具を作動させる油圧ジャッキ1’,4」は、前者の「油圧により加圧するための工具に設けられる油圧加圧装置」に相当する。 そうすると、両者は、 「油圧により加圧するための工具に設けられる油圧加圧装置であって、静止部分及び可動部分と、油圧ピストンと、復帰ばねと、開放位置及び閉止位置をもつ環流バルブと、を備え、前記環流バルブが閉止位置にあるとき前記可動部分は前記油圧ピストンによって前記復帰ばねに対抗して前記静止部分の方向に相対的に移動し、そして前記油圧ピストンは復帰ストロークにおいて前記復帰ばねにより初期位置に復帰可能である、該油圧加圧装置において、 前記環流バルブは、全ピストン面とそれよりも小さい部分ピストン面とを備えたバルブピストンとして形成され、前記バルブピストンは圧縮ばねにより前記閉止位置となる方向へ付勢され、前記閉止位置にあるときは該部分ピストン面に対して圧力が有効に働いており、前記油圧ピストンの所定の最大圧力において前記環流バルブが自動的に前記開放位置に開放されるように該圧縮ばねの押圧力及び該部分ピストン面の大きさが決定されており、 前記油圧ピストンの復帰ストロークは、前記環流バルブが自動的に開放される前記所定の最大圧力で開始され、 前記環流バルブは、該開放位置にあるときは、前記全ピストン面に対して圧力が有効に働いている油圧加圧装置」 の点で一致し、以下の各点で相違する。 <相違点1> 環流バルブに関し、本願補正発明では、「全ピストン面と部分ピストン面との面積比は400:1であ」るのに対して、引用発明では「全ピストン面とそれより小さい部分ピストン面」であるものの、それ以上の特定がなされていない点。 <相違点2> 本願補正発明では、「還流バルブは、還流する油の圧力によって油圧ピストンの全復帰ストロークにわたって開放位置に保持され」ているのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。 <相違点3> 本願補正発明では、「復帰ばねによる復帰力が除去された後、還流バルブの開放位置における制限圧力以下となることにより該還流バルブが自動的に閉止位置に復帰し、該開放位置における制限圧力は最大圧力よりも面積比に応じて低減されている」のに対して,引用発明では、そのような特定がなされていない点。 4.相違点の検討(当審の判断) <相違点1>について 環流バルブの全ピストン面と部分ピストン面の面積比については、作業のために必要な所定の最大圧力と、油圧ピストンの復帰ストローク時の圧力の関係に基づいて、適宜設計すべき事項であって、本願補正発明のように「400:1」とすることも、技術の具体的適用に伴い、当業者が容易に想到し得たものである。 <相違点2><相違点3>について 上記引用例2には、摘記事項h?n及び図示内容を総合すると、 「ポンプ2から吐出した液体(油圧)によつてシリンダ3の液圧ピストン(油圧ピストン)を上昇させる装置(油圧加圧装置)であって、液圧ピストン(油圧ピストン)と、復帰ばねと、第1可変オリフィス30aを開放した状態(開放位置)及び第1可変オリフイス30aを閉状態に保持した状態(閉止位置)をもつ圧力作動弁1(環流バルブ)と、を備え、前記圧力作動弁1(環流バルブ)が第1可変オリフイス30aを閉状態に保持した状態(閉止位置)にあるときには、負荷(W)(可動部分)は前記液圧ピストン(油圧ピストン)によって前記復帰ばねに対抗して第1図による上方向に相対的に移動し、そして前記液圧ピストン(油圧ピストン)は下降制御時(復帰ストローク)において前記負荷(W)の自重により下降し終わる(初期位置に復帰可能である)、装置(油圧加圧装置)において、 前記圧力作動弁1(環流バルブ)は、ポペット部21の全有効面積A2(全ピストン面)とそれよりも小さいポペット部21の弁座15の断面積A1に対応する部分(部分ピストン面)とを備えたスプール11(バルブピストン)として形成され、前記スプール11(バルブピストン)はスプリング12(圧縮ばね)により前記第1可変オリフイス30aを閉状態に保持した状態(閉止位置)となる方向へ付勢され、第1可変オリフイス30aを閉状態に保持した状態(閉止位置)にあるときはポペット部21の弁座15の断面積A1に対応する部分(部分ピストン面)に対して圧力が有効に働いており、前記液圧ピストンの所定の圧力(最大圧力)において前記圧力作動弁1(環流バルブ)が自動的に前記第1可変オリフィス30aを開放した状態(開放位置)へ開放されるように該スプリング12(圧縮ばね)の押圧力及びポペット部21の弁座15の断面積A1に対応する部分(部分ピストン面)の大きさが決定されており、 前記液圧ピストン(油圧ピストン)の下降制御時(復帰ストローク)は、前記圧力作動弁1(環流バルブ)が自動的に開放される前記所定の圧力(最大圧力)で開始され、 前記圧力作動弁1(環流バルブ)は回路4の圧力P3(環流する油の圧力)によって前記液圧ピストン(油圧ピストン)が下降し終わるまで(全復帰ストロークにわたって)前記第1可変オリフィス30aを開放した状態(開放位置)に保持され、該第1可変オリフィス30aを開放した状態(開放位置)にあるときは前記ポペット部21の全有効面積A2(全ピストン面)に対して圧力が有効に働いており、かつ、 前記シリンダ(3)の前記液圧ピストン(油圧ピストン)が前記負荷(W)の自重により下降し終わると(前記復帰ばねによる復帰力が除去された後)、前記圧力作動弁1(環流バルブ)の第1可変オリフィス30aを開放した状態(開放位置)における圧力(制限圧力)以下となることにより該圧力作動弁1(環流バルブ)が自動的に前記第1可変オリフイス30aを閉状態に保持した状態(閉止位置)に復帰し、該第1可変オリフイス30aを開放した状態(開放位置)における圧力(制限圧力)は、前記所定の圧力(最大圧力)よりも前記全有効面積A2:断面積A1(面積比)に応じて低減されている、ポンプ2から吐出した液体(油圧)によつてシリンダ3の液圧ピストン(油圧ピストン)を上昇させる装置(油圧加圧装置)」 が開示されているものと認められる。 そうすると、引用発明と上記引用例2に開示された事項は、少なくとも、油圧加圧装置における環流バルブに関するものである点で共通するから、引用発明の油圧ジャッキ1’,4(油圧加圧装置)のディリバリバルブ18(環流バルブ)に上記引用例2に開示された事項の上記下線部の構成を適用して、上記相違点2及び相違点3における本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。 そして、上記相違点を併せ備える本願補正発明の奏する作用効果について検討してみても、引用発明及び上記引用例2に開示された事項から当業者が予測し得たものであって、格別なものとはいえない。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記引用例2に開示された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。 6.付言 なお、審判請求人は、回答書において、引用発明と上記引用例2とは、技術分野が相違するため適用できない旨の主張をしているが、この点については、上記4.で述べたように、両者とも、油圧加圧装置の環流バルブに関するものであるから、この主張は失当である。 また、審判請求人は、同じく、回答書において、引用例2は、ポンプアンロード通路24が必須のものであって、本願補正発明とは相違する旨の主張をしているが、この主張は、本願補正発明の特許請求の範囲の請求項1の記載に基づくものではなく、失当である。 したがって、これらの主張はいずれも採用することができない。 III.本願発明について 1.本願発明の記載事項 平成22年 3月 5日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成19年11月 9日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 静止部分(26)及び可動部分(24)と、油圧ピストン(9)と、復帰ばね(10)と、開放位置及び閉鎖位置をもつ還流バルブ(1)と、を備え、前記還流バルブが閉鎖位置にあるとき前記可動部分(24)は前記油圧ピストン(9)によって前記復帰ばねに対抗して前記静止部分(26)の方向に相対的に移動し、そして前記油圧ピストンは復帰ストロークにおいて前記復帰ばね(10)により初期位置に復帰可能である油圧加圧装置において、 前記還流バルブ(1)は、全ピストン面(5)とそれよりも小さい部分ピストン面(4)とを備えたバルブピストン(3)として形成され、前記バルブピストンは圧縮ばね(8)により前記閉止位置となる方向へ付勢され、前記閉止位置にあるときは該部分ピストン面(4)に対して圧力が有効に働いており、所定の最大圧力において前記還流バルブが自動的に前記開放位置へ開放されるように該圧縮ばねの押圧力及び該部分ピストン面の大きさが決定されており、 前記油圧ピストン(9)の復帰ストロークは、前記還流バルブが自動的に開放される前記最大圧力で開始され、 前記還流バルブ(1)は、還流する油の圧力によって前記油圧ピストン(9)の全復帰ストロークにわたって前記開放位置に保持され、該開放位置にあるときは前記全ピストン面(5)に対して圧力が有効に働いており、かつ 前記復帰ばね(10)による復帰力が除去された後、前記還流バルブが自動的に前記閉鎖位置に復帰することを特徴とする油圧加圧装置。」 2.引用例の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は前記II.2.に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、実質的に、前記II.1.で検討した本願補正発明の「油圧により加圧するための工具に設けられる油圧加圧装置であって」、「該全ピストン面(5)と該部分ピストン面(4)との面積比は400:1であり」とした限定をそれぞれ削除するとともに、本願補正発明の「前記油圧ピストン(9)の所定の最大圧力」、「復帰ばね(10)による復帰力が除去された後、前記還流バルブ(1)の開放位置における制限圧力以下となることにより該還流バルブ(1)が自動的に前記閉止位置に復帰し、該開放位置における制限圧力は前記最大圧力よりも前記面積比に応じて低減されていること」を、それぞれ「所定の最大圧力」、「復帰ばね(10)による復帰力が除去された後、前記還流バルブが自動的に前記閉鎖位置に復帰すること」としたものである。 そうすると、本願補正発明が、引用発明及び上記引用例2に開示された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明の上位概念発明である本願発明も、同様に、引用発明及び上記引用例2に開示された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び上記引用例2に開示された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-02-21 |
結審通知日 | 2011-03-01 |
審決日 | 2011-03-15 |
出願番号 | 特願平11-521045 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F15B)
P 1 8・ 575- Z (F15B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 熊谷 健治 |
特許庁審判長 |
田良島 潔 |
特許庁審判官 |
藤井 昇 倉橋 紀夫 |
発明の名称 | 油圧加圧装置 |
代理人 | 小島 高城郎 |