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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1246860
審判番号 不服2010-11107  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-24 
確定日 2011-11-10 
事件の表示 特願2005-342695「インクカートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月14日出願公開、特開2007-144811〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成17年11月28日の出願であって、同年11月29日及び平成21年12月7日に手続補正がなされ、平成22年2月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月24日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において、平成23年5月12日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年7月25日付けで手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし13に係る発明は、平成23年7月25日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項によって特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明は次のとおりである。

「内部にインクを貯留するインク貯留室を有するとともに、インクジェット記録装置に装着されたときの姿勢で略鉛直方向に延在する複数の側面を備え、前記インクジェット記録装置に着脱自在に装着されるインクカートリッジであって、
前記複数の側面のうち一の側面には、前記インク貯留室内に貯留されたインクを前記インクジェット記録装置に供給するインク供給部と、前記インク貯留室内に大気を導入する大気導入部と、前記インク貯留室内のインク残量を検出するために前記インクジェット記録装置に設けられた光学式センサからの出射光が照射される被検出部とが配置されており、
前記大気導入部は、前記インク供給部よりも上方に位置するとともに、前記被検出部は前記インク供給部よりも上方で且つ前記大気導入部よりも下方に位置することを特徴とするインクカートリッジ。」(以下「本願発明」という。)

3 刊行物の記載事項
当審拒絶理由で引用した「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-328277号公報(以下「引用例」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている(下線は審決で付した。)。
(1)「【0002】
【従来の技術】インクジェット記録装置は、圧力発生室を加圧する圧力発生手段と、加圧されたインクをノズル開口からインク滴として吐出するノズル開口とを備えたインクジェット記録ヘッドをキャリッジに搭載する。インクジェット記録装置は、インクタンクのインクを流路を介して記録ヘッドに供給しながら印刷を継続可能に構成されている。インクタンクは、インクが消費された時点で、ユーザが簡単に交換できるように着脱可能なカートリッジとして構成されている。
【0003】従来、インクカートリッジのインク消費の管理方法として、記録ヘッドでのインク滴の吐出数やメンテナンスにより吸引されたインク量をソフトウエアにより積算してインク消費を計算により管理する方法と、インクカートリッジに液面検出用の電極を取付けることにより、実際にインクが所定量消費された時点を管理する方法などがある。
【0004】…略…。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、ソフトウェアによりインク滴の吐出数やインク量を積算してインク消費を計算上管理する方法は、ユーザサイドでの印刷形態等により誤差が生じたり、また同一カートリッジの再装着時には大きな誤差が生じるという問題がある。また、使用環境により、例えば室温が極端な高低、あるいはインクカートリッジの開封後の経過時間などによってインクカートリッジ内の圧力やインクの粘度が変化して、計算上のインク消費量と実際の消費量との間に無視できない誤差が生じてしまうという問題もあった。
【0006】一方、電極によりインクが消費された時点を管理する方法は、インクの実量を検出できるため、インク残量を高い信頼性で管理できる。しかしながら、インクの液面の検出をインクの導電性に頼るので、検出可能なインクの種類が限定されたり、また電極のシール構造が複雑化する問題がある。また、電極の材料として通常は導電性が良く耐腐食性も高い貴金属を使用するので、インクカートリッジの製造コストがかさむという問題もあった。さらに、2本の電極を装着する必要があるため、製造工程が多くなり結果として製造コストがかさんでしまうという問題もあった。
【0007】…略…。
【0008】そこで本発明は、液体の残量を正確に検出でき、かつ複雑なシール構造を不要とした液体容器を提供することを目的とする。」

(2)「【0032】図1から図13は、本発明に従った液体容器の実施例として、例えば、単色のブラックインク用のインクカートリッジの一形態の断面図である。本実施例に従ったインクカートリッジは、液体Kを収容する容器1と、液体Kを容器1の外部へ供給するインク供給口2と、容器1内のインクの消費状態を検出するアクチュエータ106と、アクチュエータ106に対向する位置に配備される防波壁と、を備える。
【0033】インク供給口2にはパッキン4及び弁体6が設けられている。図18に示すように、パッキン4は記録ヘッド31に連通するインク供給針32と液密に係合する。弁体6は、バネ5によってパッキン4に対して常時弾接されている。インク供給針32が挿入されると、弁体6はインク供給針32に押されてインク流路を開放し、容器1内のインクがインク供給口2およびインク供給針32を介して記録ヘッド31へ供給される。容器1の上壁の上には、インクカートリッジ内のインクに関する情報を格納した半導体記憶手段7が装着されている。」

(3)「【0042】尚、インクの消費に伴い、インクカートリッジの内部が極度の負圧になるとインク供給口2からインクを記録ヘッドへ供給できなくなるので、インクカートリッジの内部が極度の負圧にならない(審決注:「負圧ならない」は「負圧にならない」の明らかな誤記であるので訂正して摘記した。)ように、容器の一部に通気孔(図示せず)を配設する。」

(4)「【0058】本発明に従ったインクカートリッジのさらに他の実施例の側断面図を図8から図10に示す。尚、図8から図10においては、アクチュエータ106は、インク供給口2が配設される側壁1010に配備されている。
【0059】図8において、防波壁1192iは、アクチュエータ106に直面するように、対向する位置に配備される。防波壁1192iは、インクカートリッジのインク供給口2の近傍の内壁のうち、インク供給口2の外壁ともなっている供給口壁2aから延びている。一方で、頂壁1040と防波壁1192iとの間には、間隙が設けられている。
【0060】本実施例によるインクカートリッジの正面からみた断面図は図5(B)と類似するので図8においては、省略する。防波壁1192iと側壁1020との間には間隙がある。したがって、インクが消費された場合でも、図5の実施例と同様に、容器1のうち防波壁1192iによって仕切られるアクチュエータ106の側にのみインクが残存することがない。したがって、アクチュエータ106の周辺におけるインクの液面のレベルは、容器1の他の領域のインクの液面のレベルと常に等しい。」

(5)「【0063】図10において、防波壁1192kは、アクチュエータ106に直面するように、対向する位置に配備される。防波壁1192kは、頂壁1040から、供給口壁2aまで延びている。
【0064】本実施例によるインクカートリッジの正面からみた断面図は図7(B)と類似するので図10においては、省略する。防波壁1192kと側壁1020(図7(B)参照)との間には間隙がある。したがって、インクが消費された場合でも、図5の実施例と同様に、容器1のうち防波壁1192kによって仕切られるアクチュエータ106の側にのみインクが残存することがない。したがって、アクチュエータ106の周辺におけるインクの液面のレベルは、容器1の他の領域のインクの液面のレベルと常に等しい。」

(6)「【0075】図16は、複数種類のインクを収容するインクカートリッジの他の実施例を示す裏側から見た斜視図である。容器8は、隔壁により3つのインク収容室9、10及び11に分割される。それぞれのインク収容室には、インク供給口12、13及び14が形成されている。アクチュエータ15、16および17は、それぞれのインク供給口12、13および14のすぐ上に配備されている。アクチュエータ15、16および17は、容器8に設けられた貫通孔(図示せず)を介して各インク収容室内に収容されているインクに接触できるように取付けられている。」

(7)「【0080】図18は、図1に示したインクカートリッジに適したインクジェット記録装置の要部の実施形態を示す断面図である。記録用紙の幅方向に往復動可能なキャリッジ30は、サブタンクユニット33を備えていて、記録ヘッド31がはサブタンクユニット33の下面に設けられている。また、インク供給針32はサブタンクユニット33のインクカートリッジ搭載面側に設けられている。尚、本実施例においては図1に示したインクカートリッジが使用されている。従って、防波壁1192aがアクチュエータ106と対向する位置に配備されている。しかし、図2から図17に示したインクカートリッジを図1に示したインクカートリッジに代えて使用してもよい。従って、本実施例に図2から図17の防波壁を使用してもよい。」

(8)「【0086】図18に示すように、容器1のインク供給口2をサブタンクユニット33のインク供給針32に挿通すると、弁体6がバネ5に抗して後退し、インク流路が形成され、容器1内のインクがインク収容室34に流れ込む。インク収容室34にインクが充填された段階で、記録ヘッド31のノズル開口に負圧を作用させて記録ヘッド31にインクを充填した後、記録動作を実行する。
【0087】記録動作により記録ヘッド31においてインクが消費されると、膜弁36の下流側の圧力が低下するので、図4に示すように、膜弁36が弁体38から離れて開弁する。膜弁36が開くことにより、インク収容室34のインクはインク供給路35を介して記録ヘッド31に流れこむ。記録ヘッド31へのインクの流入に伴なって、容器1のインクは、インク供給針32を介してサブタンクユニット33に流れ込む。
【0088】尚、アクチュエータ106および防波壁は、インクカートリッジまたはサブタンクユニットのいずれかに配備すれば足りるが、インクカートリッジおよびサブタンクユニットの両方に配備してもよい。」

(9)「【0106】ここでアクチュエータによる液面検出の原理について説明する。
【0107】媒体の音響インピーダンスの変化を検出するには、媒体のインピーダンス特性またはアドミッタンス特性を測定する。インピーダンス特性またはアドミッタンス特性を測定する場合には、例えば伝送回路を利用することができる。伝送回路は、媒体に一定電圧を印加し、周波数を変えて媒体に流れる電流を測定する。または、伝送回路は、媒体に一定電流を供給し、周波数を変えて媒体に印加される電圧を測定する。伝送回路で測定された電流値または電圧値の変化は音響インピーダンスの変化を示す。また、電流値または電圧値が極大または極小となる周波数fmの変化も音響インピーダンスの変化を示す。
【0108】上記の方法とは別に、アクチュエータは、液体の音響インピーダンスの変化を共振周波数のみの変化を用いて検出することができる。液体の音響インピーダンスの変化を利用する方法として、アクチュエータの振動部が振動した後に振動部に残留する残留振動によって生ずる逆起電力を測定することによって共振周波数を検出する方法を用いる場合には、例えば圧電素子を利用することができる。圧電素子は、アクチュエータの振動部に残留する残留振動により逆起電力を発生する素子であり、アクチュエータの振動部の振幅によって逆起電力の大きさが変化する。従って、アクチュエータの振動部の振幅が大きいほど検出がしやすい。また、アクチュエータの振動部における残留振動の周波数によって逆起電力の大きさが変化する周期が変わる。従って、アクチュエータの振動部の周波数は逆起電力の周波数に対応する。ここで、共振周波数は、アクチュエータの振動部と振動部に接する媒体との共振状態における周波数をいう。
【0109】共振周波数fsを得るために、振動部と媒体とが共振状態であるときの逆起電力測定によって得られた波形をフーリエ変換する。アクチュエータの振動は、一方向だけの変形ではなく、たわみや伸長等様々な変形をともなうので、共振周波数fsを含め様々な周波数を有する。よって、圧電素子と媒体とが共振状態であるときの逆起電力の波形をフーリエ変換し、最も支配的な周波数成分を特定することで、共振周波数fsを判断する。
【0110】周波数fmは、媒体のアドミッタンスが極大またはインピーダンスが極小であるときの周波数である。共振周波数fsとすると、周波数fmは、媒体の誘電損失または機械的損失などによって、共振周波数fsに対しわずかな誤差を生ずる。しかし、実測される周波数fmから共振周波数fsを導出することは手間がかかるため、一般には、周波数fmを共振周波数に代えて使用する。ここで、アクチュエータ106の出力を伝送回路に入力することで、アクチュエータ106は少なくとも音響インピーダンスを検出することができる。
【0111】媒体のインピーダンス特性またはアドミッタンス特性を測定し周波数fmを測定する方法と、アクチュエータの振動部における残留振動振動によって生ずる逆起電力を測定することによって共振周波数fsを測定する方法と、によって特定される共振周波数に差がほとんど無いことが実験によって証明されている。
【0112】アクチュエータ106の振動領域は、振動板176のうち開口161によって決定されるキャビティ162を構成する部分である。液体容器内に液体が充分に収容されている場合には、キャビティ162内には、液体が満たされ、振動領域は液体容器内の液体と接触する。一方で、液体容器内に液体が充分にない場合には、振動領域は液体容器内のキャビティに残った液体と接するか、あるいは液体と接触せず、気体または真空と接触する。
【0113】本発明のアクチュエータ106にはキャビティ162が設けられ、それによって、アクチュエータ106の振動領域に液体容器内の液体が残るように設計できる。その理由は次の通りである。
【0114】アクチュエータの液体容器への取り付け位置や取り付け角度によっては、液体容器内の液体の液面がアクチュエータの装着位置よりも下方にあるにもかかわらず、アクチュエータの振動領域に液体が付着してしまう場合がある。振動領域における液体の有無だけでアクチュエータが液体の有無を検出している場合には、アクチュエータの振動領域に付着した液体が液体の有無の正確な検出を妨げる。たとえば、液面がアクチュエータの装着位置よりも下方にある状態のとき、キャリッジの往復移動などにより液体容器が揺動して液体が波うち、振動領域に液滴が付着してしまうと、アクチュエータは液体容器内に液体が充分にあるとの誤った判断をしてしまう。そこで、逆にそこに液体を残存した場合であっても液体の有無を正確に検出するように設計されたキャビティを積極的に設けることで、液体容器が揺動して液面が波立ったとしても、アクチュエータの誤動作を防止することができる。このように、キャビティを有するアクチュエータを用いることで、誤動作を防ぐことができる。
【0115】また、図23(E)に示すように、液体容器内に液体が無く、アクチュエータ106のキャビティ162に液体容器内の液体が残っている場合を、液体の有無の閾値とする。すなわち、キャビティ162の周辺に液体が無く、この閾値よりキャビティ内の液体が少ない場合は、インク無しと判断し、キャビティ162の周辺に液体が有り、この閾値より液体が多い場合は、インク有りと判断する。例えば、アクチュエータ106を液体容器の側壁に装着した場合、液体容器内の液体がアクチュエータの装着位置よりも下にある場合をインク無しと判断し、液体容器内の液体がアクチュエータの装着位置より上にある場合をインク有りと判断する。このように閾値を設定することによって、キャビティ内のインクが乾燥してインクが無くなったときであってもインク無しと判断し、キャビティ内のインクが無くなったところにキャリッジの揺れなどで再度インクがキャビティに付着しても閾値を越えないので、インク無しと判断することができる。
【0116】ここで、図22および図23を参照しながら逆起電力の測定による媒体とアクチュエータ106の振動部との共振周波数から液体容器内の液体の状態を検出する動作および原理について説明する。アクチュエータ106において、上部電極端子168および下部電極端子170を介して、それぞれ上部電極164および下部電極166に電圧を印加する。圧電層160のうち、上部電極164および下部電極166に挟まれた部分には電界が生じる。その電界によって、圧電層160は変形する。圧電層160が変形することによって振動板176のうちの振動領域がたわみ振動する。圧電層160が変形した後しばらくは、たわみ振動がアクチュエータ106の振動部に残留する。
【0117】残留振動は、アクチュエータ106の振動部と媒体との自由振動である。従って、圧電層160に印加する電圧をパルス波形あるいは矩形波とすることで、電圧を印加した後に振動部と媒体との共振状態を容易に得ることができる。残留振動は、アクチュエータ106の振動部を振動させるため、圧電層160をも変形する。従って、圧電層160は逆起電力を発生する。その逆起電力は、上部電極164、下部電極166、上部電極端子168および下部電極端子170を介して検出される。検出された逆起電力によって、共振周波数が特定できるため、液体容器内の液体の状態を検出することができる。
【0118】一般に、共振周波数fsは、
fs=1/(2*π*(M*Cact)^(1/2)) (式1)
で表される。ここで、Mは振動部のイナータンスMactと付加イナータンスM’との和である。Cactは振動部のコンプライアンスである。
【0119】図22(C)は、本実施例において、キャビティにインクが残存していないときのアクチュエータ106の断面図である。図23(A)および図23(B)は、キャビティにインクが残存していないときのアクチュエータ106の振動部およびキャビティ162の等価回路である。
【0120】Mactは、振動部の厚さと振動部の密度との積を振動部の面積で除したものであり、さらに詳細には、図23(A)に示すように、
Mact=Mpzt+Melectrode1+Melectrode2+Mvib (式2)
と表される。ここで、Mpztは、振動部における圧電層160の厚さと圧電層160の密度との積を圧電層160の面積で除したものである。Melectrode1は、振動部における上部電極164の厚さと上部電極164の密度との積を上部電極164の面積で除したものである。Melectrode2は、振動部における下部電極166の厚さと下部電極166の密度との積を下部電極166の面積で除したものである。Mvibは、振動部における振動板176の厚さと振動板176の密度との積を振動板176の振動領域の面積で除したものである。ただし、Mactを振動部全体としての厚さ、密度および面積から算出することができるように、本実施例では、圧電層160、上部電極164、下部電極166および振動板176の振動領域のそれぞれの面積は、上述のような大小関係を有するものの、相互の面積の差は微小であることが好ましい。また、本実施例において、圧電層160、上部電極164および下部電極166においては、それらの主要部である円形部分以外の部分は、主要部に対して無視できるほど微小であることが好ましい。従って、アクチュエータ106において、Mactは、上部電極164、下部電極166、圧電層160および振動板176のうちの振動領域のそれぞれのイナータンスの和である。また、コンプライアンスCactは、上部電極164、下部電極166、圧電層160および振動板176のうちの振動領域によって形成される部分のコンプライアンスである。
【0121】尚、図23(A)、図23(B)、図23(D)、図23(F)は、アクチュエータ106の振動部およびキャビティ162の等価回路を示すが、これらの等価回路において、Cactはアクチュエータ106の振動部のコンプライアンスを示す。Cpzt、Celectrode1、Celectrode2およびCvibはそれぞれ振動部における圧電層160、上部電極164、下部電極166および振動板176のコンプライアンスを示す。Cactは、以下の式3で表される。
【0122】
1/Cact=(1/Cpzt)+(1/Celectrode1)
+(1/Celectrode2)+(1/Cvib) (式3)
式2および式3より、図23(A)は、図23(B)のように表すこともできる。
【0123】コンプライアンスCactは、振動部の単位面積に圧力をかけたときの変形によって媒体を受容できる体積を表す。また、コンプライアンスCactは、変形のし易さを表すといってもよい。
【0124】図23(C)は、液体容器に液体が十分に収容され、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が満たされている場合のアクチュエータ106の断面図を示す。図23(C)のM’maxは、液体容器に液体が十分に収容され、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が満たされている場合の付加イナータンスの最大値を表す。M’ maxは、
【0125】
M’max=(π*ρ/(2*k^(3)))*(2*(2*k*a)^(3)/(3*π))/(π*a^(2))^(2) (式4)
(aは振動部の半径、ρは媒体の密度、kは波数である。)
【0126】で表される。尚、式4は、アクチュエータ106の振動領域が半径aの円形である場合に成立する。付加イナータンスM’は、振動部の付近にある媒体の作用によって、振動部の質量が見かけ上増加していることを示す量である。式4からわかるように、M’maxは振動部の半径aと、媒体の密度ρとによって大きく変化する。
【0127】波数kは、
k=2*π*fact/c (式5)
(factは液体が触れていないときの振動部の共振周波数である。cは媒体中を伝播する音響の速度である。)
【0128】で表される。
【0129】図23(D)は、液体容器に液体が十分に収容され、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が満たされている図23(C)の場合のアクチュエータ106の振動部およびキャビティ162の等価回路を示す。
【0130】図23(E)は、液体容器の液体が消費され、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が無いものの、アクチュエータ106のキャビティ162内には液体が残存している場合のアクチュエータ106の断面図を示す。式4は、例えば、液体容器に液体が満たされている場合に、インクの密度ρなどから決定される最大のイナータンスM’maxを表す式である。一方、液体容器内の液体が消費され、キャビティ162内に液体が残留しつつアクチュエータ106の振動領域の周辺にある液体が気体または真空になった場合には、
【0131】M’=ρ*t/S (式6)
と表せる。tは、振動にかかわる媒体の厚さである。Sは、アクチュエータ106の振動領域の面積である。この振動領域が半径aの円形の場合は、S=π*a^(2)である。従って、付加イナータンスM’は、液体容器に液体が十分に収容され、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が満たされている場合には、式4に従う。一方で、液体が消費され、キャビティ162内に液体が残留しつつアクチュエータ106の振動領域の周辺にある液体が気体または真空になった場合には、式6に従う。
【0132】ここで、図23(E)のように、液体容器の液体が消費され、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が無いものの、アクチュエータ106のキャビティ162内には液体が残存している場合の付加イナータンスM’を便宜的にM’cavとし、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が満たされている場合の付加イナータンスM’maxと区別する。
【0133】図23(F)は、液体容器の液体が消費され、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が無いものの、アクチュエータ106のキャビティ162内には液体が残存している図23(E)の場合のアクチュエータ106の振動部およびキャビティ162の等価回路を示す。
【0134】ここで、媒体の状態に関係するパラメータは、式6において、媒体の密度ρおよび媒体の厚さtである。液体容器内に液体が充分に収容されている場合は、アクチュエータ106の振動部に液体が接触し、液体容器内に液体が充分に収容されていない場合は、キャビティ内部に液体が残存するか、もしくはアクチュエータ106の振動部に気体または真空が接触する。アクチュエータ106の周辺の液体が消費され、図23(C)のM’maxから図23(E)のM’cavへ移行する過程における付加イナータンスをM’varとすると、液体容器内の液体の収容状態によって、媒体の厚さtが変化するため、付加イナータンスM’varが変化し、共振周波数fsも変化することになる。従って、共振周波数fsを特定することによって、液体容器内の液体の有無を検出することができる。ここで、図23(E)に示すようにt=dとした場合、式6を用いてM’cavを表すと、式6のtにキャビティの深さdを代入し、
【0135】M’cav=ρ*d/S (式7)
となる。
【0136】また、媒体が互いに種類の異なる液体であっても、組成の違いによって密度ρが異なるため、付加イナータンスM´が変化し、共振周波数fsも変化する。従って、共振周波数fsを特定することで、液体の種類を検出できる。尚、アクチュエータ106の振動部にインクまたは空気のいずれか一方のみが接触し、混在していない場合には、式4によって計算しても、M’の相違を検出できる。
【0137】図24(A)は、インクタンク内のインクの量とインクおよび振動部の共振周波数fsとの関係を示すグラフである。ここでは液体の1例としてインクについて説明する。縦軸は、共振周波数fsを示し、横軸は、インク量を示す。インク組成が一定であるとき、インク残量の低下に伴い、共振周波数fsは、上昇する。
【0138】インク容器にインクが十分に収容され、アクチュエータ106の振動領域の周辺にインクが満たされている場合には、その最大付加イナータンスM’maxは式4に表わされる値となる。一方で、インクが消費され、キャビティ162内に液体が残留しつつアクチュエータ106の振動領域の周辺にインクが満たされていないときには、付加イナータンスM’varは媒体の厚さtに基づいて式6によって算出される。式6中のtは振動にかかわる媒体の厚さであるから、アクチュエータ106のキャビティ162のd(図22(B)参照)を小さく、即ち、基板178を十分に薄くすることによって、インクが徐々に消費されていく過程を検出することもできる(図23(C)参照)。ここで、tinkは振動にかかわるインクの厚さとし、tink-maxはM’maxにおけるtinkとする。例えば、インクカートリッジの底面にアクチュエータ106をインクの液面に対してほぼ水平に配備する。インクが消費され、インクの液面がアクチュエータ106からtink-maxの高さ以下に達すると、式6によりM’varが徐々に変化し、式1により共振周波数fsが徐々に変化する。従って、インクの液面がtの範囲内にある限り、アクチュエータ106はインクの消費状態を徐々に検出することができる。
【0139】また、アクチュエータ106の振動領域を大きくまたは長くし、かつ縦に配置することによってインクの消費による液面の位置にしたがって、式6中のSが変化する。従って、アクチュエータ106はインクが徐々に消費されていく過程を検出することもできる。例えば、インクカートリッジの側壁にアクチュエータ106をインクの液面に対してほぼ垂直に配備する。インクが消費され、インクの液面がアクチュエータ106の振動領域に達すると、水位の低下に伴い付加イナータンスM’が減少するので、式1により共振周波数fsが徐々に増加する。従って、インクの液面が、キャビティ162の径2a(図23(C)参照)の範囲内にある限り、アクチュエータ106はインクの消費状態を徐々に検出することができる。
【0140】図24(A)の曲線Xは、アクチュエータ106のキャビティ162を十分に浅くした場合や、アクチュエータ106の振動領域を十分に大きくまたは長くした場合のインクタンク内に収容されたインクの量とインクおよび振動部の共振周波数fsとの関係を表わしている。インクタンク内のインクの量が減少するとともに、インクおよび振動部の共振周波数fsが徐々に変化していく様子が理解できる。
【0141】より詳細には、インクが徐々に消費されていく過程を検出することができる場合とは、アクチュエータ106の振動領域の周辺において、互いに密度が異なる液体と気体とがともに存在し、かつ振動にかかわる場合である。インクが徐々に消費されていくに従って、アクチュエータ106の振動領域周辺において振動にかかわる媒体は、液体が減少する一方で気体が増加する。例えば、アクチュエータ106をインクの液面に対して水平に配備した場合であって、tinkがtink-maxより小さいときには、アクチュエータ106の振動にかかわる媒体はインクと気体との両方を含む。したがって、アクチュエータ106の振動領域の面積Sとすると、式4のM’max以下になった状態をインクと気体の付加質量で表すと、
【0142】
M’=M’air+M’ink= ρair*tair/S+ρink*tink/S (式8)
となる。ここで、M’airは空気のイナータンスであり、M’inkはインクのイナータンスである。ρairは空気の密度であり、ρinkはインクの密度である。tairは振動にかかわる空気の厚さであり、tinkは振動にかかわるインクの厚さである。アクチュエータ106の振動領域周辺における振動にかかわる媒体のうち、液体が減少して気体が増加するに従い、アクチュエータ106がインクの液面に対しほぼ水平に配備されている場合には、tairが増加し、tinkが減少する。それによって、M’varが徐々に減少し、共振周波数が徐々に増加する。よって、インクタンク内に残存しているインクの量またはインクの消費量を検出することができる。尚、式7において液体の密度のみの式となっているのは、液体の密度に対して、空気の密度が無視できるほど小さい場合を想定しているからである。
【0143】アクチュエータ106がインクの液面に対しほぼ垂直に配備されている場合には、アクチュエータ106の振動領域のうち、アクチュエータ106の振動にかかわる媒体がインクのみの領域と、アクチュエータ106の振動にかかわる媒体が気体の領域との並列の等価回路(図示せず)と考えられる。アクチュエータ106の振動にかかわる媒体がインクのみの領域の面積をSinkとし、アクチュエータ106の振動にかかわる媒体が気体のみの領域の面積をSairとすると、
【0144】
1/M’=1/M’air+1/M’ink
=Sair/(ρair*tair)+Sink/(ρink*tink) (式9)
となる。
【0145】尚、式9は、アクチュエータ106のキャビティにインクが保持されない場合に適用される。アクチュエータ106のキャビティにインクが保持される場合については、式7、式8および式9によって計算することができる。
【0146】一方、基板178が厚く、即ち、キャビティ162の深さdが深く、dが媒体の厚さtink-maxに比較的近い場合や、液体容器の高さに比して振動領域が非常に小さいアクチュエータを用いる場合には、実際上はインクが徐々に減少する過程を検出するというよりはインクの液面がアクチュエータの装着位置より上位置か下位置かを検出することになる。換言すると、アクチュエータの振動領域におけるインクの有無を検出することになる。例えば、図24(A)の曲線Yは、小さい円形の振動領域の場合におけるインクタンク内のインクの量とインクおよび振動部の共振周波数fsとの関係を示す。インクタンク内のインクの液面がアクチュエータの装着位置を通過する前後におけるインク量Qの間で、インクおよび振動部の共振周波数fsが激しく変化している様子が示される。このことから、インクタンク内にインクが所定量残存しているか否かを検出することができる。
【0147】図24(B)は、図24(A)の曲線Yにおけるインクの密度とインクおよび振動部の共振周波数fsとの関係を示す。液体の例としてインクを挙げている。図24(B)に示すように、インク密度が高くなると、付加イナータンスが大きくなるので共振周波数fsが低下する。すなわち、インクの種類によって共振周波数fsが異なる。したがって共振周波数fsを測定することによって、インクを再充填する際に、密度の異なったインクが混入されていないか確認することができる。
【0148】つまり、互いに種類の異なるインクを収容するインクタンクを識別できる。
【0149】続いて、液体容器内の液体が空の状態であってもアクチュエータ106のキャビティ162内に液体が残存するようにキャビティのサイズと形状を設定した時の、液体の状態を正確に検出できる条件を詳述する。アクチュエータ106は、キャビティ162内に液体が満たされている場合に液体の状態を検出できれば、キャビティ162内に液体が満たされていない場合であっても液体の状態を検出できる。
【0150】共振周波数fsは、イナータンスMの関数である。イナータンスMは、振動部のイナータンスMactと付加イナータンスM’との和である。ここで、付加イナータンスM’が液体の状態と関係する。付加イナータンスM’は、振動部の付近にある媒体の作用によって振動部の質量が見かけ上増加していることを示す量である。即ち、振動部の振動によって見かけ上媒体を吸収することによる振動部の質量の増加分をいう。
【0151】従って、M’cavが式4におけるM’maxよりも大きい場合には、見かけ上吸収する媒体は全てキャビティ162内に残存する液体である。よって、液体容器内に液体が満たされている状態と同じである。この場合にはM’が変化しないので、共振周波数fsも変化しない。従って、アクチュエータ106は、液体容器内の液体の状態を検出できないことになる。
【0152】一方、M’cavが式4におけるM’ maxよりも小さい場合には、見かけ上吸収する媒体はキャビティ162内に残存する液体および液体容器内の気体または真空である。このときには液体容器内に液体が満たされている状態とは異なりM’が変化するので、共振周波数fsが変化する。従って、アクチュエータ106は、液体容器内の液体の状態を検出できる。
【0153】即ち、液体容器内の液体が空の状態で、アクチュエータ106のキャビティ162内に液体が残存する場合に、アクチュエータ106が液体の状態を正確に検出できる条件は、M’cavがM’maxよりも小さいことである。尚、アクチュエータ106が液体の状態を正確に検出できる条件M’max>M’cavは、キャビティ162の形状にかかわらない。
【0154】ここで、M’cavは、キャビティ162の容量とほぼ等しい容量の液体の質量である。従って、M’max>M’cavの不等式から、アクチュエータ106が液体の状態を正確に検出できる条件は、キャビティ162の容量の条件として表すことができる。例えば、円形状のキャビティ162の開口161の半径をaとし、およびキャビティ162の深さをdとすると、
【0155】
M’max>ρ*d/πa^(2) (式10)
である。式10を展開すると
【0156】a/d>3*π/8 (式11)
という条件が求められる。尚、式10、式11は、キャビティ162の形状が円形の場合に限り成立する。円形でない場合のM’maxの式を用い、式10中のπa^(2)をその面積と置き換えて計算すればキャビティの幅及び長さ等のディメンジョンと深さの関係が導き出せる。
【0157】従って、式11を満たす開口161の半径aおよびキャビティ162の深さdであるキャビティ162を有するアクチュエータ106であれば、液体容器内の液体が空の状態であって、かつキャビティ162内に液体が残存する場合であっても、誤作動することなく液体の状態を検出できる。
【0158】付加イナータンスM’は音響インピーダンス特性にも影響するので、残留振動によりアクチュエータ106に発生する逆起電力を測定する方法は、少なくとも音響インピーダンスの変化を検出しているともいえる。
【0159】また、本実施例によれば、アクチュエータ106が振動を発生してその後の残留振動によりアクチュエータ106に発生する逆起電力を測定している。しかし、アクチュエータ106の振動部が駆動電圧による自らの振動によって液体に振動を与えることは必ずしも必要ではない。即ち、振動部が自ら発振しなくても、それと接触しているある範囲の液体と共に振動することで、圧電層160がたわみ変形する。この残留振動が圧電層160に逆起電力電圧を発生させ、上部電極164および下部電極166にその逆起電力電圧を伝達する。この現象を利用することで媒体の状態を検出してもよい。例えば、インクジェット記録装置において、印字時における印字ヘッドの走査によるキャリッジの往復運動による振動によって発生するアクチュエータの振動部の周囲の振動を利用してインクタンクまたはその内部のインクの状態を検出してもよい。
【0160】図25(A) および図25(B)は、アクチュエータ106を振動させた後の、アクチュエータ106の残留振動の波形と残留振動の測定方法とを示す。インクカートリッジ内のアクチュエータ106の装着位置レベルにおけるインク水位の上下は、アクチュエータ106が発振した後の残留振動の周波数変化や、振幅の変化によって検出することができる。図25(A) および図25(B)において、縦軸はアクチュエータ106の残留振動によって発生した逆起電力の電圧を示し、横軸は時間を示す。アクチュエータ106の残留振動によって、図25(A) および図25(B)に示すように電圧のアナログ信号の波形が発生する。次に、アナログ信号を、信号の周波数に対応するデジタル数値に変換する。
【0161】図25(A) および図25(B)に示した例においては、アナログ信号の4パルス目から8パルス目までの4個のパルスが生じる時間を計測することによって、インクの有無を検出する。
【0162】より詳細には、アクチュエータ106が発振した後、予め設定された所定の基準電圧を低電圧側から高電圧側へ横切る回数をカウントする。デジタル信号を4カウントから8カウントまでの間をHighとし、所定のクロックパルスによって4カウントから8カウントまでの時間を計測する。
【0163】図25(A)はアクチュエータ106の装着位置レベルよりも上位にインク液面があるときの波形である。一方、図25(B)はアクチュエータ106の装着位置レベルにおいてインクが無いときの波形である。図25(A)と図25(B)とを比較すると、図25(A)の方が図25(B)よりも4カウントから8カウントまでの時間が長いことがわかる。換言すると、インクの有無によって4カウントから8カウントまでの時間が異なる。この時間の相違を利用して、インクの消費状態を検出することができる。アナログ波形の4カウント目から数えるのは、アクチュエータ106の振動が安定してから計測をはじめるためである。4カウント目からとしたのは単なる一例であって、任意のカウントから数えてもよい。ここでは、4カウント目から8カウント目までの信号を検出し、所定のクロックパルスによって4カウント目から8カウント目までの時間を測定する。それによって、共振周波数を求める。クロックパルスは、インクカートリッジに取り付けられる半導体記憶装置等を制御するためのクロックと等しいクロックのパルスであることが好ましい。尚、8カウント目までの時間を測定する必要は無く、任意のカウントまで数えてもよい。図25においては、4カウント目から8カウント目までの時間を測定しているが周波数を検出する回路構成にしたがって、異なったカウント間隔内の時間を検出してもよい。
【0164】例えば、インクの品質が安定していてピークの振幅の変動が小さい場合には、検出の速度を上げるために4カウント目から6カウント目までの時間を検出することにより共振周波数を求めてもよい。また、インクの品質が不安定でパルスの振幅の変動が大きい場合には、残留振動を正確に検出するために4カウント目から12カウント目までの時間を検出してもよい。
【0165】また、他の実施例として所定期間内における逆起電力の電圧波形の波数を数えてもよい(図示せず)。この方法によっても共振周波数を求めることができる。より詳細には、アクチュエータ106が発振した後、所定期間だけデジタル信号をHighとし、所定の基準電圧を低電圧側から高電圧側へ横切る回数をカウントする。そのカウント数を計測することによってインクの有無を検出できるのである。
【0166】さらに、図25(A)および図25(B)を比較して分かるように、インクがインクカートリッジ内に満たされている場合とインクがインクカートリッジ内に無い場合とでは、逆起電力波形の振幅が異なる。従って、共振周波数を求めることなく、逆起電力波形の振幅を測定することによっても、インクカートリッジ内のインクの消費状態を検出してもよい。より詳細には、例えば、図25(A)の逆起電力波形の頂点と図25(B) の逆起電力波形の頂点との間に基準電圧を設定する。アクチュエータ106が発振した後、所定時間にデジタル信号をHighとし、逆起電力波形が基準電圧を横切った場合には、インクが無いと判断する。逆起電力波形が基準電圧を横切らない場合には、インクが有ると判断する。」

(10)「【0207】図43は、図22に示したアクチュエータ106を用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録装置の実施形態を示す。複数のインクカートリッジ180は、それぞれのインクカートリッジ180に対応した複数のインク導入部182及びホルダー184を有するインクジェット記録装置に装着される。複数のインクカートリッジ180は、それぞれ異なった種類、例えば色のインクを収容する。複数のインクカートリッジ180の底面には、少なくとも音響インピーダンス検出手段であるアクチュエータ106が装着されている。アクチュエータ106をインクカートリッジ180に装着することによって、インクカートリッジ180内のインク残量を検出することができる。
【0208】尚、防波壁(図示せず)は、アクチュエータ106と対向するようにインクカートリッジ180内に配備される。
【0209】図44は、インクジェット記録装置のヘッド部周辺の詳細を示す。インクジェット記録装置は、インク導入部182、ホルダー184、ヘッドプレート186、及びノズルプレート188を有する。インクを噴射するノズル190がノズルプレート188に複数形成されている。インク導入部182は空気供給口181とインク導入口183とを有する。空気供給口181はインクカートリッジ180に空気を供給する。インク導入口183はインクカートリッジ180からインクを導入する。インクカートリッジ180は空気導入口185とインク供給口187とを有する。空気導入口185はインク導入部182の空気供給口181から空気を導入する。インク供給口187はインク導入部182のインク導入口183にインクを供給する。インクカートリッジ180がインク導入部182から空気を導入することによって、インクカートリッジ180からインク導入部182へのインクの供給を促す。」

(11)「【0213】図45(B)のインクカートリッジ180Bのアクチュエータ106は、容器194の供給口の側壁上に装着されている。インク供給口187の近傍であれば、アクチュエータ106は、容器194の側壁又は底面に装着されてもよい。防波壁1192wは、アクチュエータ106に対向するように容器194内のインク供給口187の付近に配備される。防波壁1192wは、インクの波を効果的に防ぐためにL字型に成形されている。また、アクチュエータ106は容器194の幅方向の中心に装着されることが好ましい。インクは、インク供給口187を通過して外部に供給されるので、アクチュエータ106をインク供給口187の近傍に設けることにより、インクニアエンド時点までインクとアクチュエータ106とが確実に接触する。したがって、アクチュエータ106はインクニアエンドの時点を確実に検出することができる。
【0214】更に、アクチュエータ106をインク供給口187の近傍に設けることで、容器をキャリッジ上のカートリッジホルダに装着する際に、容器上のアクチュエータ106とキャリッジ上の接点との位置決めが確実となる。その理由は、容器とキャリッジとの連結において最も重要なのは、インク供給口と供給針との確実な結合である。少しでもずれがあると供給針の先端を痛めてしまったりあるいはOリングなどのシーリング構造にダメージを与えてしまいインクが漏れ出してしまうからである。このような問題点を防ぐために、通常インクジェットプリンタは容器をキャリッジにマウントする時に正確な位置合わせができるような特別な構造を有している。よって供給口近傍にアクチュエータを配置させることにより、アクチュエータの位置合わせも同時に確実なものとなるのである。さらに、アクチュエータ106を容器194の幅方向の中心に装着することで、より確実に位置合わせすることができる。容器が、ホルダへの装着時に幅方向中心線を中心として軸揺動した場合に、もっともその揺れが少ないからである。」

(12)上記(11)で「インク供給口187の近傍であれば、アクチュエータ106は、容器194の側壁又は底面に装着されてもよい。」(【0213】参照。)と説明されている図45(B)のインクカートリッジ180Bのうち、容器194の側壁にアクチュエータ106を装着したインクカートリッジ180Bは、上記(10)及び(11)の記載、並びに、図43、図44及び図45(B)の記載からみて、次のものであることが明らかである。

「インクカートリッジに空気を供給する空気供給口181とインクカートリッジからインクを導入するインク導入口183とを有するインク導入部182、ホルダー184、ヘッドプレート186、及びノズルプレート188を有するインクジェット記録装置に装着されたインクカートリッジ180は、空気導入口185を上端に、インク供給口187を下端に、それぞれ有するとともに、該インク供給口187の近傍にアクチュエータ106を装着した第1の側壁を含む、装着状態で略鉛直方向に延在する4つの側壁と、同じく装着状態で略水平方向に延在する上下壁とからなる容器194で構成され、該容器194内に特定の色のインクを収容しており、インクカートリッジの空気導入口185はインクジェット記録装置の空気供給口181から空気を導入し、インクカートリッジのインク供給口187はインクジェット記録装置のインク導入口183にインクを供給し、インクカートリッジ180がインクジェット記録装置のインク導入部182から空気を導入することによって、インクカートリッジ180からインクジェット記録装置のインク導入部182へのインクの供給を促し、インクカートリッジのアクチュエータ106によりインク残量を検出するもの。」

(13)上記(1)ないし(12)から、引用例には、
「インクタンクのインクを流路を介して記録ヘッドに供給しながら印刷を継続可能に構成されているインクジェット記録装置に着脱可能なカートリッジとして構成されているインクタンクであるインクカートリッジにおいて、
従来あった、記録ヘッドでのインク滴の吐出数やメンテナンスにより吸引されたインク量をソフトウエアにより積算してインク消費を計算により管理するインクカートリッジのインク消費の管理方法では、ユーザサイドでの印刷形態等により誤差が生じたり、また同一カートリッジの再装着時には大きな誤差が生じるという問題があり、また、使用環境により、例えば室温が極端な高低、あるいはインクカートリッジの開封後の経過時間などによってインクカートリッジ内の圧力やインクの粘度が変化して、計算上のインク消費量と実際の消費量との間に無視できない誤差が生じてしまうという問題もあり、
同じく従来あった、インクカートリッジに液面検出用の電極を取付けることにより、実際にインクが所定量消費された時点を管理するインクカートリッジのインク消費の管理方法では、インクの液面の検出をインクの導電性に頼るので、検出可能なインクの種類が限定されたり、また電極のシール構造が複雑化する問題があり、また、電極の材料として通常は導電性が良く耐腐食性も高い貴金属を使用するので、インクカートリッジの製造コストがかさむという問題もあり、さらに、2本の電極を装着する必要があるため、製造工程が多くなり結果として製造コストがかさんでしまうという問題もあったので、
液体の残量を正確に検出でき、かつ複雑なシール構造を不要とした液体容器を提供することを目的とし、
液体を収容する容器と、液体を容器の外部へ供給するインク供給口と、容器内のインクの消費状態を検出するアクチュエータと、アクチュエータに対向する位置に配備される防波壁と、を備え、インク供給口に記録ヘッドに連通するインク供給針と液密に係合するパッキン及びバネによってパッキンに対して常時弾接されている弁体を設け、インク供給針が挿入されると、弁体はインク供給針に押されてインク流路を開放し、容器内のインクがインク供給口およびインク供給針を介して記録ヘッドへ供給されるようになすとともに、インクの消費に伴い、インクカートリッジの内部が極度の負圧になるとインク供給口からインクを記録ヘッドへ供給できなくなるので、インクカートリッジの内部が極度の負圧にならないように、容器の一部に通気孔を配設したインクカートリッジであって、
インクカートリッジに空気を供給する空気供給口181とインクカートリッジからインクを導入するインク導入口183とを有するインク導入部182、ホルダー184、ヘッドプレート186、及びノズルプレート188を有するインクジェット記録装置に装着されるようになっており、
空気導入口185を上端に、インク供給口187を下端に、それぞれ有するとともに、該インク供給口187の近傍にアクチュエータ106を装着した第1の側壁を含む、装着状態で略鉛直方向に延在する4つの側壁と、同じく装着状態で略水平方向に延在する上下壁とからなる容器194で構成され、
該容器194内に特定の色のインクを収容しており、
インクカートリッジの空気導入口185はインクジェット記録装置の空気供給口181から空気を導入し、インクカートリッジのインク供給口187はインクジェット記録装置のインク導入口183にインクを供給し、インクカートリッジ180がインクジェット記録装置のインク導入部182から空気を導入することによって、インクカートリッジ180からインクジェット記録装置のインク導入部182へのインクの供給を促し、インクカートリッジのアクチュエータ106によりインク残量を検出するようになっており、
インクはインク供給口187を通過して外部に供給されるので、アクチュエータ106をインク供給口187の近傍に設けることにより、インクニアエンド時点までインクとアクチュエータ106とが確実に接触して、アクチュエータ106がインクニアエンドの時点を確実に検出することができるようにしたインクカートリッジ。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「インク」、「液体を収容する容器」、「インクジェット記録装置」、「装着状態で」、「『略鉛直方向に延在する4つの側壁』の面」、「『インクジェット記録装置に着脱可能』で『インクジェット記録装置に装着される』」、「インクカートリッジ」、「『第1の側壁』の面」、「インク供給口187」、「空気」、「空気導入口185」及び「インクカートリッジのアクチュエータ106によりインク残量を検出する」は、それぞれ、本願発明の「インク」、「内部にインクを貯留するインク貯留室」、「インクジェット記録装置」、「装着されたときの姿勢で」、「略鉛直方向に延在する複数の側面」、「インクジェット記録装置に着脱自在に装着される」、「インクカートリッジ」、「一の側面」、「インク供給部」、「大気」、「大気導入部」及び「インク貯留室内のインク残量を検出する」に相当する。

(2)引用発明の「インクカートリッジ」は、「内部にインクを貯留するインク貯留室(液体を収容する容器)」を備え、「インクジェット記録装置に着脱自在に装着される(インクジェット記録装置に着脱可能でインクジェット記録装置に装着される)」ようになっており、装着状態で略鉛直方向に延在する4つの側壁と、同じく装着状態で略水平方向に延在する上下壁とからなる容器194で構成されているから、本願発明の「インクカートリッジ」と、「内部にインクを貯留するインク貯留室を有するとともに、インクジェット記録装置に装着されたときの姿勢で略鉛直方向に延在する複数の側面を備え、前記インクジェット記録装置に着脱自在に装着される」ものである点で一致する。

(3)引用発明の「アクチュエータ106」は、容器内のインクの消費状態を検出し、インク残量を検出するものであるから、本願発明の「前記インク貯留室内のインク残量を検出するために前記インクジェット記録装置に設けられた光学式センサからの出射光が照射される被検出部」と、「インク貯留室内のインク残量を検出するための手段」である点で一致する。

(4)引用発明の「インク供給部(インク供給口187)」は、「インクカートリッジ(インクカートリッジ180)」から「インクジェット記録装置」のインク導入口183に「インク」を供給するから、本願発明の「インク供給部」と、「前記インク貯留室内に貯留されたインクを前記インクジェット記録装置に供給する」点で一致する。

(5)引用発明の「大気導入部(空気導入口185)」は、「インクジェット記録装置」の空気供給口181から「大気(空気)」を導入するから、本願発明の「大気導入部」と、「前記インク貯留室内に大気を導入する」点で一致する。

(6)引用発明において、「前記複数の側面(装着状態で略鉛直方向に延在する4つの側壁の面)」のうち「一の側面(第1の側壁の面)」を有する第1の側壁は、その上端に「大気導入部(空気導入口185)」を、その下端に「インク供給部(インク供給口187)」を、それぞれ有するとともに、該「インク供給部」の近傍に「インク貯留室内のインク残量を検出するための手段(アクチュエータ106)」が装着されているから、引用発明の「複数の側面のうち一の側面」には、「大気導入部」と、「インク供給部」と、「インク貯留室内のインク残量を検出するための手段」とが配置されているといえる。
したがって、引用発明の「複数の側面のうち一の側面」と本願発明の「複数の側面のうち一の側面」とは、そこに、「前記インク貯留室内に貯留されたインクを前記インクジェット記録装置に供給するインク供給部と、前記インク貯留室内に大気を導入する大気導入部と、前記インク貯留室内のインク残量を検出するための手段とが配置されて」いる点で一致する。

(7)上記(6)のとおり、引用発明の「複数の側面のうち一の側面」には、その上端に「前記インク貯留室内に大気を導入する大気導入部」が有り、その下端に「前記インク貯留室内に貯留されたインクを前記インクジェット記録装置に供給するインク供給部」があり、さらに「インク貯留室内のインク残量を検出するための手段(アクチュエータ106)」が配置されているところ、引用発明において、「インク」は「インク供給部(インク供給口187)」を通過して外部に供給されるので、「インクカートリッジ」は、「インク貯留室内のインク残量を検出するための手段」を「インク供給部」の近傍に設けることにより、インクニアエンド時点まで「インク」と「インク貯留室内のインク残量を検出するための手段」とが確実に接触して、「インク貯留室内のインク残量を検出するための手段」がインクニアエンドの時点を確実に検出することができるようにされているから、前記「大気導入部」は、前記「インク供給部」よりも上方に位置するとともに、前記「インク貯留室内のインク残量を検出するための手段」は前記「インク供給部」よりも上方で且つ前記「大気導入部」よりも下方に位置するといえる。
したがって、引用発明の「インクカートリッジ」と本願発明の「前記大気導入部は、前記インク供給部よりも上方に位置するとともに、前記被検出部は前記インク供給部よりも上方で且つ前記大気導入部よりも下方に位置することを特徴とするインクカートリッジ」とは、「前記大気導入部は、前記インク供給部よりも上方に位置するとともに、前記インク貯留室内のインク残量を検出するための手段は前記インク供給部よりも上方で且つ前記大気導入部よりも下方に位置する」点で一致する。

(8)上記(1)ないし(7)からみて、本願発明と引用発明とは、
「内部にインクを貯留するインク貯留室を有するとともに、インクジェット記録装置に装着されたときの姿勢で略鉛直方向に延在する複数の側面を備え、前記インクジェット記録装置に着脱自在に装着されるインクカートリッジであって、
前記複数の側面のうち一の側面には、前記インク貯留室内に貯留されたインクを前記インクジェット記録装置に供給するインク供給部と、前記インク貯留室内に大気を導入する大気導入部と、前記インク貯留室内のインク残量を検出するための手段とが配置されており、
前記大気導入部は、前記インク供給部よりも上方に位置するとともに、前記インク残量を検出するための手段は前記インク供給部よりも上方で且つ前記大気導入部よりも下方に位置するインクカートリッジ。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
本願発明では、前記インク残量を検出するための手段が、「光学式センサ」と「該光学式センサからの出射光が照射される被検出部」とからなり、そのうち、「光学式センサ」はインクジェット記録装置に設けられており、前記複数の側面のうち一の側面に配置されているのは「被検出部」であるのに対して、
引用発明では、前記インク残量を検出するための手段が、アクチュエータ106であって、該アクチュエータ106が前記複数の側面のうち一の側面に配置されている点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)「印刷が行われるごとに使用インク量を算出し、その総和を初期インク量から差し引く方法では、計算されたインク残量と実際のインク残量とに誤差が生じやすいので、インクの液量を正確に測定し、インクカートリッジ内のインク残量がほぼゼロに近い所定量に達したことを小さな誤差で検出することができるようにするため、インクタンク内にインクよりも比重の小さいウキを収容し、このウキの鉛直方向に沿った位置を検出するようにしたインク残量検出手段であって、
発光部及び受光部からなる光学式センサと該光学式センサからの出射光が照射される被検出部とから構成し、
前記光学式センサをインクジェット記録装置に設け、
前記被検出部を、インクカートリッジの側壁部の高さ方向の略中央の位置に形成された内側が凹部とされている突出部とし、
該凹部内にシャッター機構の遮光板を配置し、
該シャッター機構は、前記遮光板と、フロートと、前記遮光板と前記フロートとを連結する連結部材と、該連結部材を回転可能に支持する支持台とを備えたものであり、
インクカートリッジのインク室内のインク残量が多い状態では、浮力により前記フロートが浮いて、前記遮光板が前記発光部からの光を遮断し、
インクカートリッジのインク室内のインク残量が少なくなり、前記フロートが下降すると、前記発光部からの光が、前記遮光板に遮断されなくなり、前記受光部に受光されるようになって、前記光学式センサによりインク室内のインク残量が少ない状態が検出されるようになっているインク残量検出手段。」は、本願の出願前に周知である(以下「周知技術」という。例.いずれも当審拒絶理由で引用した、特開2005-262564号公報(【0003】、【0004】、【0021】?【0033】、図4?図7参照。)、特開2005-262565号公報(【0003】、【0004】、【0023】?【0035】、図4?図7参照。)、特開2005-125738号公報(【0002】、【0029】?【0045】、図1、図2、図4参照。「計算」、「凹部52」、「内部空間52a」、「シャッター34」、「光センサ21」、「インクジェットプリンタ」が、それぞれ「算出」、「突出部」、「凹部」、「遮光板」、「光学式センサ」、「インクジェット記録装置」に相当する。))。

(2)周知技術の「インク室」は「内部にインクを貯留するインク貯留室」であるといえるから、周知技術の「インク室内のインク残量が少ない状態が検出されるようになっているインク残量検出手段」は「インク貯留室内のインク残量を検出するための手段」である。
そこで、引用発明の「インク貯留室内のインク残量を検出するための手段(アクチュエータ106)」と周知技術の「インク貯留室内のインク残量を検出するための手段(インク残量検出手段)」とを比較すると、引用発明のものは、上記3(9)の記載からみて、アクチュエータを駆動したりインク残量を検出したりするための制御が明らかに複雑であるのに対して、周知技術のインク残量検出手段は、受光部が発光部からの光を受光したかどうかでインク室内のインク残量が少ない状態が検出されるようになっているから、簡単な制御で検出することができ、さらに、光学式センサとして安価な透過型の光センサを利用することができる(上記特開2005-262564号公報の【0057】、上記特開2005-262565号公報の【0059】、上記特開2005-125738号公報の【0026】及び同公報の【0054】)ので、インクカートリッジが装着されるインクジェット記録装置の低コスト化を図ることができる(上記特開2005-125738号公報の【0026】参照。)ものであることが、当業者に自明である。
してみると、従来あった、記録ヘッドでのインク滴の吐出数やメンテナンスにより吸引されたインク量をソフトウエアにより積算してインク消費を計算により管理するインクカートリッジのインク消費の管理方法では、ユーザサイドでの印刷形態等により誤差が生じたり、また同一カートリッジの再装着時には大きな誤差が生じるという問題があり、また、使用環境により、例えば室温が極端な高低、あるいはインクカートリッジの開封後の経過時間などによってインクカートリッジ内の圧力やインクの粘度が変化して、計算上のインク消費量と実際の消費量との間に無視できない誤差が生じてしまうという問題もあったので、液体の残量を正確に検出できる液体容器を提供することを目的とした引用発明において、
簡単な制御で検出することができ、さらに、安価な透過型の光センサを利用してインクジェット記録装置の低コスト化を図るために、
前記「インク貯留室内のインク残量を検出するための手段(アクチュエータ106)」を、第1の側壁にアクチュエータ106を装着し、該アクチュエータに対向する位置に防波壁を配備していたのに代えて、
「印刷が行われるごとに使用インク量を算出し、その総和を初期インク量から差し引く方法では、計算されたインク残量と実際のインク残量とに誤差が生じやすいので、インクの液量を正確に測定し、インクカートリッジ内のインク残量がほぼゼロに近い所定量に達したことを小さな誤差で検出することができるようにするため、インクタンク内にインクよりも比重の小さいウキを収容し、このウキの鉛直方向に沿った位置を検出するようにしたインク残量検出手段であって、
発光部及び受光部からなる光学式センサと該光学式センサからの出射光が照射される被検出部とから構成し、
前記光学式センサをインクジェット記録装置に設け、
前記被検出部を、インクカートリッジの側壁部の高さ方向の略中央の位置に形成された内側が凹部とされている突出部とし、
該凹部内にシャッター機構の遮光板を配置し、
該シャッター機構は、前記遮光板と、フロートと、前記遮光板と前記フロートとを連結する連結部材と、該連結部材を回転可能に支持する支持台とを備えたものであり、
インクカートリッジのインク室内のインク残量が多い状態では、浮力により前記フロートが浮いて、前記遮光板が前記発光部からの光を遮断し、
インクカートリッジのインク室内のインク残量が少なくなり、前記フロートが下降すると、前記発光部からの光が、前記遮光板に遮断されなくなり、前記受光部に受光されるようになって、前記光学式センサによりインク室内のインク残量が少ない状態が検出されるようになっているインク残量検出手段。」となし、前記第1の側壁における前記アクチュエータ106を装着していた箇所であるインクカートリッジの側壁部の高さ方向の略中央の位置に「突出部とした被検出部」を形成すること、すなわち、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術及び引用例に記載された事項に基づいて容易になし得た程度のことである。

(3)そして、引用発明は、従来あった、インクカートリッジに液面検出用の電極を取付けることにより、実際にインクが所定量消費された時点を管理するインクカートリッジのインク消費の管理方法では、インクの液面の検出をインクの導電性に頼るので、検出可能なインクの種類が限定されたり、また電極のシール構造が複雑化する問題があり、また、電極の材料として通常は導電性が良く耐腐食性も高い貴金属を使用するので、インクカートリッジの製造コストがかさむという問題もあり、さらに、2本の電極を装着する必要があるため、製造工程が多くなり結果として製造コストがかさんでしまうという問題もあったので、複雑なシール構造を不要とした液体容器を提供することも目的とするものであるが、上記(2)のようにしたときに、このような問題点が生じることもなく、複雑なシール構造を不要とした液体容器を提供できることは、周知技術のインク残量検出手段が液面検出に電極を利用していないことから、当業者に自明である。

(4)本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、周知技術の奏する効果及び引用例に記載された事項から、当業者が予測することができた程度のものである。

(5)したがって、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明、周知技術及び引用例に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例に記載された発明、周知技術及び引用例に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-05 
結審通知日 2011-09-06 
審決日 2011-09-20 
出願番号 特願2005-342695(P2005-342695)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤本 義仁  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 菅野 芳男
桐畑 幸▲廣▼
発明の名称 インクカートリッジ  

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