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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1246880
審判番号 不服2010-24771  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-04 
確定日 2011-11-10 
事件の表示 特願2004-379320「ゴルフクラブヘッドの性能シミュレーション方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月13日出願公開、特開2006-181189〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成16年12月28日の出願であって、同日付けで手続補正がなされ、平成22年2月18日付け拒絶理由通知に対し、同年4月21日付けで手続補正がなされ、同年5月10日付け拒絶理由通知に対し、同年7月16日付けで意見書のみが提出され、同年2月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって同年7月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2 本願発明
本願請求項1ないし3に係る発明は、平成22年4月21日付け手続補正後の特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「中空構造のゴルフクラブヘッドを有限要素を用いてモデル化分割する場合に、
前記有限要素としてシェル要素を用いるとともに、当該シェル要素を肉厚の表面に配置し、かつ、前記シェル要素のベクトル面方向を全ての要素に対して均一に合わせる
ことを特徴とするゴルフクラブヘッドの性能シミュレーション方法。」

3 引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された特開2004-242875号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載が図とともにある(下線は審決にて付した。以下同じ。)。
ア 【0029】
以下、上記設計方法について詳述する。
まず、コンピュータによりゴルフクラブのウッド型ヘッドとゴルフボールをモデル化し、初期条件を設定する。
【0030】
図2(A)(B)にシミュレーションで用いたウッド型ヘッドモデル(以下、クラブヘッドモデルと称す)10を示す。クラブヘッドモデル10は中空型で、その体積を300cc、重量を188.0gとし、7394個の要素11に分割し、多数の節点12を得ており、有限要素の一辺の平均長さは約2.5mmとしている。クラブヘッドモデル10は、全体を4節点シェル要素の弾性体でモデル化している。要素11の肉厚を各部位で変更させることで、実形状のモデル化を行っている。なお、クラブヘッドモデル10は、ソリッドモデルを用いて解析を行っても良い。
クラブヘッドモデル10のフェース部13は略楕円形状の板状とし、材質はチタンとし、チタンの材料物性として入力している。フェース面13aは965個の要素11に分割されている。
フェース部13の肉厚の初期設定は、図2(C)に示すように、略楕円形状のフェース部13の中央部13Aを2.7mmとし、中央部13Aの周囲の外周部13Bを2.0mmとしている。具体的には、市販のXXIO W#1の肉厚の値を用いている。
イ 【0032】
次に、クラブヘッドモデル10とボールモデル20を用い、図4(A)(B)(C)に示すように、ゴルフクラブのヘッドによるゴルフボールの打撃を想定したシミュレーションを行う。
即ち、ボールモデル20をクラブヘッドモデル10で打撃する部分の近くに配置した後に、クラブヘッドモデル10に初速40m/sを与え、ボールモデル20に打撃させる。打撃時にクラブヘッドモデル10のフェース部13の各要素に発生する応力を有限要素法により解析している。
例えば、図5は、打撃時のある要素の応力発生状況を示し、時間(解析step)の経過に伴い発生する応力値が時々刻々変化しており、接触時間のほぼ中間時点で応力が最大となっている。

上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「コンピュータによりゴルフクラブのウッド型ヘッドとゴルフボールをモデル化し、初期条件を設定し、
クラブヘッドモデル10とボールモデル20を用い、ゴルフクラブのヘッドによるゴルフボールの打撃を想定したシミュレーションを行い、打撃時にクラブヘッドモデル10のフェース部13の各要素に発生する応力を有限要素法により解析する方法であって、
シミュレーションで用いるクラブヘッドモデル10は中空型で、7394個の要素11に分割し、多数の節点12を得ており、全体を4節点シェル要素の弾性体でモデル化しているものであり、要素11の肉厚を各部位で変更させることで、実形状のモデル化を行っており、
フェース部13の肉厚の初期設定は、市販のXXIO W#1の肉厚の値を用い、略楕円形状のフェース部13の中央部13Aを2.7mmとし、中央部13Aの周囲の外周部13Bを2.0mmとする、
応力を有限要素法により解析する方法。」(以下「引用発明」という。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された特開2002-207777号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載が図とともにある。
ウ 【0002】
【従来の技術】有限要素法に代表される数値シミュレーションでは、図19のように解析の対象となる物体の形状を一般にメッシュと呼ばれる三角形12、あるいは四角形といった2次元的な微小平面要素の集合体11でモデル化する方法が広く用いられている。
【0003】この微小平面要素は、形状的には厚みを有しない面として定義し、それぞれの微小要素に厚みを数値として定義するシェル要素とよばれる要素が広く使われている。しかし、実際には物体は厚みを有するため、このモデル化による形状の再現性は厚肉の物体でついては保証されず、このモデル化の適用は、比較的薄肉の物体に限定されることとなる。
【0004】ところで、部品の設計ではCADシステムを利用するケースがほとんどであり、解析を行う際にはCADデータを利用して解析用メッシュモデルを生成するのが効率的である。CADデータは、主に形状を定義するポイントとライン、および前述のサーフェースから構成されており、物品は表面と裏面2枚のサーフェスで形状定義がされるのが通常である。従来これらCADデータから解析用メッシュモデルを生成する際には、前述のように表裏いずれかのサーフェスを利用する方法や、表裏のサーフェスの中間に中立面サーフェスを改めて生成し、これを用いる方法が用いられてきた。特に中立面を生成する方法は、物品の厚みを考慮した方法であるため、物品形状の再現性が高く、好ましい方法である。従来、この中立面モデルの生成は、オペレータが表裏のサーフェスデータから、その中心に相当するサーフェスを改めて生成し直して、解析用メッシュモデルを生成する場合がほとんどであったが、非常に手間がかかる作業であり、形状的にサーフェスの結合が困難な部分、リブ付け根部分など中立面の定義が困難な部分については試行錯誤により対処しており、オペレータの経験、技量によるところが大きかった。
【0005】物体のシェル要素によるモデル化では、厚みを有する物体の形状をサーフェスと呼ばれる平面あるいは曲面の集合で定義し、このサーフェス上にメッシュを生成させるという手順をとることが多い。実際には厚みを有する物体形状からメッシュ分割を行うためのサーフェスを定義する方法としては、図20に示すように物体21の片側の面のサーフェス22、または23を利用する方法や、図21に示すように中立面と呼ばれる厚さ方向の中心面24を利用してサーフェス25を定義する方法があった。

4 対比
a 本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「ゴルフクラブのウッド型ヘッド」、「要素11」、「7394個の要素11に分割」及び「4節点シェル要素」は、それぞれ本願発明の「ゴルフクラブヘッド」、「有限要素」、「モデル化分割」及び「シェル要素」に相当する。
b 引用発明の「シミュレーションで用いるクラブヘッドモデル10は中空型」であり「実形状のモデル化を行って」いるから、引用発明の解析対象である実形状のゴルフクラブのウッド型ヘッドは、中空構造のゴルフクラブヘッドであるといえ、要素11(有限要素)を用いて7394個の要素11に分割(モデル化分割)するものといえる。
c 引用発明のクラブヘッドモデル10は「全体を4節点シェル要素の弾性体でモデル化しているものであ」るから、引用発明は、有限要素としてシェル要素を用いるものといえる。
d 引用発明は「ゴルフクラブのヘッドによるゴルフボールの打撃を想定したシミュレーションを行い、打撃時にクラブヘッドモデル10のフェース部13の各要素に発生する応力を有限要素法により解析する」ものであり、応力は、ゴルフクラブヘッドの性能の1種といえるから、引用発明は、ゴルフクラブヘッドの性能シミュレーション方法であるといえる。
e aないしdより、本願発明と引用発明とは、
「中空構造のゴルフクラブヘッドを有限要素を用いてモデル化分割する場合に、
前記有限要素としてシェル要素を用いる
ゴルフクラブヘッドの性能シミュレーション方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]本願発明は「当該シェル要素を肉厚の表面に配置し、かつ、前記シェル要素のベクトル面方向を全ての要素に対して均一に合わせる」と特定されているのに対し、引用発明は、有限要素として4節点シェル要素(シェル要素)を用いているものの、どこに配置しているか明らかでなく、シェル要素のベクトル面方向を全ての要素に対して均一に合わせているか否か明らかでない点。

5 判断
上記相違点について検討する。
a 刊行物2の段落【0003】に「微小平面要素は、形状的には厚みを有しない面として定義し、それぞれの微小要素に厚みを数値として定義するシェル要素とよばれる要素が広く使われている。」と記載されているから、引用発明の「4節点シェル要素」も厚みを数値として定義され、形状的には厚みを有しない面として定義されるものといえる。
b 刊行物2の段落【0004】に「物品は表面と裏面2枚のサーフェスで形状定義がされるのが通常である。従来これらCADデータから解析用メッシュモデルを生成する際には、前述のように表裏いずれかのサーフェスを利用する方法・・・が用いられてきた。」と記載されており、段落【0005】に「物体のシェル要素によるモデル化では、厚みを有する物体の形状をサーフェスと呼ばれる平面あるいは曲面の集合で定義し、このサーフェス上にメッシュを生成させるという手順をとることが多い。実際には厚みを有する物体形状からメッシュ分割を行うためのサーフェスを定義する方法としては、図20に示すように物体21の片側の面のサーフェス22、または23を利用する方法・・・があった。」と記載されているから、引用発明のコンピュータが中空構造のゴルフクラブのウッド型ヘッドの実形状データとして、外側と内側の2枚のサーフェスのデータを有するようにし、引用発明において、外側と内側のいずれかのサーフェスのデータを利用して、いずれかのサーフェス上にシェル要素を生成させるようにすることは当業者が容易になし得る程度のことである。
c 上記bで検討した外側と内側のいずれかのサーフェス上にシェル要素を生成させた引用発明は、シェル要素を肉厚の表面に配置したものといえるから、引用発明において、シェル要素を肉厚の表面に配置することは当業者が容易になし得る程度のことである。
d 本願発明の「シェル要素のベクトル面方向を全ての要素に対して均一に合わせる」に対応する具体的記載が本願の発明の詳細な説明の項には何等記載されておらず、何を意味しているか必ずしも明らかではないが、平成22年7月16日付け意見書に「本願発明では、シェル要素を肉厚の表面に配置するため、厚み方向のベクトルYが一方の方向Fを向いている場合には、その方向Fにシェル要素の厚みがあるが、ベクトルYが他方の方向Gを向いている場合(図2の下図)には、その方向Gにシェル要素の厚みがない。したがって、ベクトルYが他方の方向Gを向いている図2下図のようなシェル要素が存在すると、シミュレーション結果の精度が低下する。
そこで、本願発明では、シェル要素のベクトル面方向を全ての要素に対して均一に合わせることにより、全てのシェル要素においてベクトルYが一方の方向Fを向くようにして、シミュレーション結果の精度向上を図っている。
これに対し、従来のように、シェル要素を肉厚の中立面に配置した場合には、図3に示すように、ベクトルYが一方の方向Fを向いている場合および他方の方向Gを向いている場合のいずれでも、その方向F、Gにシェル要素の同じ厚みがあるため、各シェル要素のベクトル面方向を特定する必要はない。」と記載され、審判請求書に対する平成22年11月22日付けの手続補正書に「本願発明では、上記構成を採用したことにより、参考図に示すように、ゴルフクラブヘッド(ウッドモデル2)のクラウン部ではシェル要素(分割線L1により分割)のベクトル面が下方を向き、ソール部ではシェル要素のベクトル面が上方を向き、フェース部やサイド部ではシェル要素のベクトル面が側方を向くため、その結果、全てのシェル要素のベクトル面がゴルフクラブの内側を向くことになる。
つまり、本願発明では、ベクトル面方向を全てのシェル要素でゴルフクラブヘッドの内側方向に一致させることにより、シミュレーション結果の精度向上を図っている。」と記載されていることから、本願発明の「シェル要素のベクトル面方向」とは、実形状では肉厚を有する中空構造のゴルフクラブヘッドの表面にシェル要素を配置したため、シェル要素に対して、内外いずれの方向に厚みを有しているのかを特定するための方向であると解され、本願発明の「全ての要素に対して均一に合わせる」とは、全てのシェル要素でゴルフクラブヘッドの内側方向に厚みがあると設定すること、或いは、全てのシェル要素でゴルフクラブヘッドの外側方向に厚みがあると設定することと解される。
e 上記aないしcで検討したように、引用発明において、シェル要素を肉厚の表面に配置することは当業者が容易になし得る程度のことであり、外側のサーフェス上にシェル要素を生成させた引用発明においては、実形状に合わせ、シェル要素に対して、内側に厚みがあると設定することは当然のことであるし、内側のサーフェス上にシェル要素を生成させた引用発明においては、実形状に合わせ、シェル要素に対して、外側に厚みがあると設定することは当然のことである。
f 上記eのような引用発明は、シェル要素のベクトル面方向を全ての要素に対して均一に合わせるものといえる。
g 上記aないしfから、引用発明において本願発明の上記相違点のような特定事項は当業者が容易になし得る程度のことである。

以上のとおりであるから、本願発明の上記相違点に係る特定事項は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載の事項に基づいて当業者が容易に想到することができたものであり、それにより得られる効果も当業者が予測できる範囲のものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-07 
結審通知日 2011-09-13 
審決日 2011-09-27 
出願番号 特願2004-379320(P2004-379320)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 励  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 桐畑 幸▲廣▼
菅野 芳男
発明の名称 ゴルフクラブヘッドの性能シミュレーション方法  
代理人 伊藤 高英  
代理人 畑中 芳実  
代理人 玉利 房枝  
代理人 鈴木 健之  
代理人 中尾 俊輔  
代理人 大倉 奈緒子  

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