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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16F
管理番号 1249417
審判番号 不服2010-23078  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-13 
確定日 2012-01-04 
事件の表示 特願2005-73487「ゴム支承」拒絶査定不服審判事件〔平成18年9月28日出願公開、特開2006-258132〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年3月15日の出願であって、その請求項1及び2に係る発明は特許を受けることができないとして、平成22年7月14日付けで拒絶査定がされたところ、平成22年10月13日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成22年1月27日付けの手続補正によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
ゴム層と中間補強部材とを上下方向に交互に積層してなる積層体と、積層体の上端面及び下端面にそれぞれ取付けられた一対の板状部材とを備えたゴム支承において、
前記中間補強部材をゴム層の弾性変形に追従して水平方向に撓む平織り状の高強度繊維によって形成した
ことを特徴とするゴム支承。」

2.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開平10-88852号公報
(2)刊行物2:特開平4-125136号公報
(3)刊行物3:特開平4-312237号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「アイソレータ」に関して、図面(特に、図8?11を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本発明は、一般に建造物の基礎部分に配置されて、地震等の振動外力による建造物の揺動を抑制するようにしたゴムを主体とするアイソレータに関する。」(第2頁第1欄第11?14行、段落【0001】参照)
(b)「本発明の実施形態を添付図面を参照して詳細に説明する。図1から図4は本発明のアイソレータの一実施形態を示し、図1はアイソレータの全体斜視図、図2はアイソレータを断面した斜視図、図3はアイソレータの積層ゴム部分の斜視図、図4は積層ゴム部分の巻回工程を示す説明図である。
即ち、本実施形態のアイソレータ10は図1,図2に示すように、積層ゴム部分12の上下両端に基板14,16を取付けることにより構成され、従来と同様に上,下基板14,16を建造物の下側と地盤とに取付けて使用される。前記積層ゴム部分12は図3にも示すように、シート状ゴム18と高強度繊維シートとしての炭素繊維布20とを重ね合わせつつ筒体状に巻回し、この炭素繊維布20を骨部材として用いると共に、その巻回中心軸(積層ゴム部分12の軸心)Cを建造物重量等の載荷重量支持方向に沿って上下方向に配置してある。
前記上,下基板14,16は前記積層ゴム部分12より大径な円盤状に形成され、この積層ゴム部分12の上,下端に自己融着ゴム等を介して接着される。また、前記上,下基板14,16が積層ゴム部分12から突出される周縁部に、取付ボルトの取付穴14a,16aが形成される。」(第2頁第2欄第20?42行、段落【0010】?【0012】参照)
(c)「図8から図11は他の実施形態を示し、前記実施形態と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して延べる。図8はアイソレータを断面した斜視図、図9はシート状ゴムの斜視図、図10は炭素繊維布の斜視図、図11は炭素繊維布の配置関係を示す斜視図である。
即ち、この実施形態のアイソレータ10aでは図9および図10に示すようにシート状ゴム18と炭素繊維布20とをそれぞれ環状に切断し、これらシート状ゴム18および炭素繊維布20を図8に示すように交互に積層して接着することにより、積層ゴム部分12を構成するようになっている。このとき、前記炭素繊維布20は図11に示すように積層される順に炭素繊維の方向を異ならせてある。
従って、この実施形態のアイソレータ10aにあっては、前記実施形態と同様に炭素繊維布20によって積層ゴム部分12の形状を保持できると共に、全体の軽量化を達成して施工性の向上を図ることができるのは勿論のこと、従来の鋼板と同じ性能をきわめて薄い炭素繊維布20によって得ることができ、アイソレータ10aの高さを低くして小型化することができる。
ところで、前記各実施形態では高強度繊維シートとして炭素繊維布20を用いた場合を開示したが、これに限ること無く所定の強度を備えたアラミド繊維など、他の繊維を用いてもよいことは勿論である。」(第3頁第4欄第15?39行、段落【0022】?【0025】参照)
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
【引用発明】
シート状ゴム18と高強度繊維シートとを上下方向に交互に積層してなる積層ゴム部分12と、積層ゴム部分12の上下両端にそれぞれ取付けられた上基板14及び下基板16とを備えたアイソレータ10aにおいて、
前記高強度繊維シートを炭素繊維布20によって形成したアイソレータ10a。

(刊行物2)
刊行物2には、「繊維強化複合材料」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(d)「本発明は人工衛星等宇宙構造物、OA機器、自動車・レジャー用品などの構造体に用いて振動・騒音の低減を実現する繊維強化複合材料に関するものである。」(第2頁第13及び14行、段落【0001】参照)
(e)「繊維強化複合材料層(I)は、強化繊維又は強化連続繊維にエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などの高剛性樹脂を予め含浸し、各種形状に加熱成形したもの、またエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂のような熱硬化性樹脂では、強化繊維を含浸後、温和な加熱によりやや硬化反応をすすめたプリプレグ状態(B-ステージ)のものが使用できる。強化繊維は、公知のものが使用でき、炭素繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、ガラス繊維などの無機繊維及び無機連続繊維、アラミド繊維、テクミロンなどの有機繊維及び有機連続繊維が使用できる。連続繊維の形態としては一方向に引きそろえたもの、編物(平織、あや織、しゅす織など)が使用できる。強化繊維は連続した長繊維のものを用いると層状にし易くなるとともに強度のばらつきが改善されより一層信頼性を高めることができる。」(第4頁第19?29行、段落【0012】参照)

(刊行物3)
刊行物3には、「積層型制振材料および該制振材料を内層に有する繊維強化複合材料ならびにその作製方法」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(f)「本発明は、構造体の振動、衝撃あるいは騒音を緩衝させるための構造材料に関するものであって、より詳しくは、人工衛星等宇宙構造物、OA機器、各種車両あるいはレジャー用品などの構造体の作動に伴なう振動エネルギーを吸収し、振動、衝撃あるいは騒音の低減を実現する制振材料および繊維強化複合材料ならびにその作製方法に関する。」(第2頁第1欄第15?21行、段落【0001】参照)
(g)「ここでいう強化繊維とは、マトリックス樹脂同様、高強度、かつ高弾性率を有する繊維であり、具体例にはカーボン繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、アラミド繊維、高延伸ポリエチレン繊維等を挙げることができる。これらの繊維の形態としては一方向に引きそろえたもの、編織物(平織、あや織、しゅす織)や切断した短繊維、短繊維がからみ合ったマツト状の織物や不織布が使用できる。」(第3頁第3欄第44行?第4欄第1行、段落【0011】参照)

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「シート状ゴム18」は本願発明の「ゴム層」に相当し、以下同様にして、「高強度繊維シート」は「中間補強部材」に、「積層ゴム部分12」は「積層体」に、「上下両端」は「上端面及び下端面」に、「上基板14及び下基板16」は「一対の板状部材」に、「アイソレータ10a」は「ゴム支承」に、それぞれ相当する。また、引用発明の「炭素繊維布20」は、「布状の高強度繊維」である限りにおいて、本願発明の「平織り状の高強度繊維」にひとまず相当するので、両者は下記の一致点、及び相違点を有する。
<一致点>
ゴム層と中間補強部材とを上下方向に交互に積層してなる積層体と、積層体の上端面及び下端面にそれぞれ取付けられた一対の板状部材とを備えたゴム支承において、
前記中間補強部材を布状の高強度繊維によって形成したゴム支承。
(相違点)
前記中間補強部材に関し、本願発明は、「ゴム層の弾性変形に追従して水平方向に撓む平織り状」としたのに対し、引用発明は、炭素繊維布20であるものの、本願発明のような構成を具備しているといえるかどうか明らかでない点。
そこで、上記相違点について検討する。
(相違点について)
刊行物1には、「高強度繊維シートとしての炭素繊維布20」(上記摘記事項(b)参照)と記載されているところ、一般にシート状のものとして代表的な布の織り方として、縦糸と横糸を一本ずつ交互に組み合わせた平織は、最も単純な織り方として広く知られているものである。
そして、制振の技術分野において、補強部材の繊維を平織り状とすることは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物2には、「連続繊維の形態としては一方向に引きそろえたもの、編物(平織、あや織、しゅす織など)が使用できる。」(上記摘記事項(e)参照)と記載されている。刊行物3には、「これらの繊維の形態としては一方向に引きそろえたもの、編織物(平織、あや織、しゅす織)や切断した短繊維、短繊維がからみ合ったマツト状の織物や不織布が使用できる。」(上記摘記事項(g)参照)と記載されている。)にすぎない。
また、刊行物1には、「これらシート状ゴム18および炭素繊維布20を図8に示すように交互に積層して接着することにより、積層ゴム部分12を構成するようになっている。」(上記摘記事項(c)を参照)と記載されていることからみて、刊行物1に記載された炭素繊維布20は隣接するシート状ゴム18に接着されており、炭素繊維布20はシート状ゴム18の変形を拘束するものの、変形する限りにおいては、シート状ゴム18の弾性変形に追従して水平方向に撓むことができることが記載又は示唆されている。
してみれば、引用発明のシート状ゴム18(ゴム層)に接着されている炭素繊維布20に、上記従来周知の技術手段を適用することにより、シート状ゴム18(ゴム層)の弾性変形に追従して水平方向に撓む平織り状として、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
また、本願発明が奏する効果についてみても、引用発明、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「引用例1(注:本審決における「刊行物1」に対応する。以下同様。)には、(中略)炭素繊維布20をアラミド繊維等からなる高強度繊維を一方向に引きそろえた布により形成したアイソレータが開示されている。」(「(2)引用例の説明」の項を参照)、及び「引用例1は、図4の製造工程の記載及び『炭素繊維布20は図11に示すように積層される順に炭素繊維の方向を異ならせてある』との記載から、炭素繊維布20を平織り状に形成したものではないと考えられる。即ち、引用例1の炭素繊維布20は、高強度繊維を一方向に引きそろえて形成した布であり、積層される順に高強度繊維の方向を異ならせることにより、地震の時にアイソレータが水平方向に繰り返し変形を受けた場合に積層ゴム部分全体が水平方向に変形し、その耐久性が低下しないようにしたものである。」(「(3)請求項1と引用例との対比」の項を参照)と、刊行物1に記載された炭素繊維布20は高強度繊維を「一方向に引きそろえて形成した布」であると主張している。
しかしながら、刊行物1には、「炭素繊維布20」と記載されており、「一方向に引きそろえて形成した布」という趣旨の記載はないことから、審判請求人の主張は、刊行物1の記載に基づかない主張であるし、仮に、審判請求人の主張のように、刊行物1に記載された「炭素繊維布20」が「一方向に引きそろえて形成した布」であるとしても、上記(相違点について)において述べたように、本願発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、審判請求人が主張する本願発明が奏する作用効果は、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものにすぎず、本願発明の構成を備えることによって、本願発明が、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものとは異なる、相乗的で予想外の作用効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

4.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-16 
結審通知日 2011-08-18 
審決日 2011-11-18 
出願番号 特願2005-73487(P2005-73487)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鎌田 哲生  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 倉田 和博
常盤 務
発明の名称 ゴム支承  
代理人 柳 順一郎  
代理人 角田 成夫  
代理人 吉田 精孝  
代理人 長内 行雄  

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