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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1250611
審判番号 不服2009-1175  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-14 
確定日 2012-01-19 
事件の表示 特願2003- 30205「トランスフェクション試薬を使用して、ペプチド、DNAタンパク質複合体又は金属微粒子を原核細胞に導入する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月 4日出願公開、特開2004- 65238〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成15年2月7日(優先日,平成14年6月13日)の出願であって,平成19年3月26日に手続補正がなされたが,平成20年12月10日付で拒絶査定がなされ,これに対して平成21年1月14日に審判請求がなされたものである。
そして本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成19年3月26日の手続補正書により補正された明細書の記載からみて,以下のとおりのものである。

「【請求項1】 ペプチドグリカンを含む細胞壁を有する原核細胞にペプチド,DNAタンパク質複合体及び金属微粒子からなる群から選択されるいずれかを導入する方法であって,該方法をトランスフェクション試薬の共存下に行うことを特徴とする方法。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された,本願優先日前に頒布された刊行物である「第6回マリンバイオテクノロジー学会大会講演要旨集」,2002.05.25, p. 97, (P-5)は,「Spirulina platensisの安定的遺伝子組換え手法の高効率化」の表題の抄録であって,
「【目的】スピルリナは商業培養されている数少ない微細藻類の一つであるが,その利用は健康食品などにとどまり,高度利用のために安定的な遺伝子組換え技術の開発が期待されている。近年,自然のトランスポゾンの詳細な構造,機能,メカニズムの解折が進み,必須な構成要素のみを取り出して再構成した人工トランスポゾンシステムが開発されている。その利用はin vitroでの変異導入が主であったが,ゲノムヘの遺伝子導入法としても有効である。筆者らは,TnSトランスポゾンを用いてSpirulina platensisの遺伝子組換え法を検討してきたが,十分な形質転換効率が得られなかった。そこで遺伝子導入手法を大腸菌において検討し,従来の手法に比べて100倍程度向上することに成功した。
【方法・結果】カナマイシン耐性を示すKAN2 Tn5トランスポゾンをナチュラルのTn5 トランスポゼース複合体を形成させた後,通常はそのままエレクトロポーレーションにより細胞内に導入するが,複合体にカチオンリポソームを混合し,安定度を向上させた後に導入すると,大腸菌においてその効率は100倍程度向上し,3×10^(6)/μgDNAを示した。市販のミュータントの酵素でも同様の傾向を示した。現在この手法をスピルリナの形質転換に適用し,スピルリナ由来の強力なプロモーターとcat遺伝子をTn5由来のトランスポゾンに導入し,Tn5トランスポゼースと共にスピルリナの藻体に導入し形質転換を行っている。」と記載されている。

3.対比
本願発明を引用例に記載された発明と比較すると,引用例に記載される「大腸菌」,「カナマイシン耐性を示すKAN2 Tn5トランスポゾンをナチュラルのTn5 トランスポゼース複合体」及び「カチオンリポソーム」は,それぞれ本願発明における「ペプチドグリカンを含む細胞壁を有する原核細胞」,「DNAタンパク質複合体」及び「トランスフェクション試薬」に相当するものである。そして,引用例には,複合体にカチオンリポソームを混合し,安定度を向上させ,大腸菌に導入することが記載されており,このとき,カチオンリポソームは共存していることになり,本願発明のうち,ペプチド,DNAタンパク質複合体及び金属微粒子からなる群からDNAタンパク質複合体を選択した場合の発明と,引用例に記載された発明に差異がない。

4.判断
したがって,本願発明は,引用例に記載された発明である。

(請求人の反論について)
請求人は,「トランスフェクション試薬」とは,「真核細胞」に対して用いるもので,(i)「トランスフェクション試薬」を用いて物質導入する方法が,「トランスフェクション試薬」そのものの,機序・効果によって,「真核細胞」への物質導入という目的が達成され,(ii)「トランスフェクション試薬」を用いて物質導入を行うことが,物理法や化学法と比較して簡便であり,態々他の導入方法と併用するまでも無く,(iii)トランスフェクション試薬のパンフレットである,参考資料2?8のいずれにも,エレクトロポレーション法を併用する旨の記載が無いことから,「トランスフェクション試薬」を用いて細胞内に物質導入するのであれば,エレクトロポレーション法を併用することは当業者が採用する方法として考えらず,「トランスフェクション試薬」を用いるという技術思想において,エレクトロポレーションを併用することは出願時において当業者が採用する方法ではなく,本願発明はエレクトロポレーション法を用いるものではないことを主張している。

「トランスフェクション試薬」という用語を,そのまま解釈すれば,トランスフェクションに用いる試薬のことであり,トランスフェクションの方法を何ら限定するものではないし,本願明細書の段落0030にも,「トランスフェクション試薬としては,一般に動物の培養細胞に使用されるトランスフェクション試薬を用いることができ,好ましくは脂質を主成分とするトランスフェクション試薬,更に好ましくはカチオンリポソームを主成分とするトランスフェクション試薬がよい。」とあり,トランスフェクションの方法が限定されることの説明はない。そして本願発明においては,トランスフェクション試薬を共存させることが要件となっているだけであるから,エレクトロポレーションを特段排除しているものと解釈できない。
また,請求人が主張するように,「トランスフェクション試薬」が,そのものの,機序・効果によって,「真核細胞」への物質導入という目的が達成されなければならないものとすれば,本願発明は,原核細胞に対して用いるということであるから,請求人が主張する「トランスフェクション試薬」を用いるという技術思想と本願発明は,そもそも矛盾しているのであり,このことからも,本願発明においてエレクトロポレーションの併用が排除されていると解釈できない。
さらに,トランスフェクション試薬のパンフレットである,参考資料2?8のいずれにも,エレクトロポレーション法を併用する旨の記載が無いとのことであるが,エレクトロポレーションを併用を排除するとの記載があるわけではないし,例えば,Biophysical Journal, 81 (2001) p.960-968や,Gene Therapy, 7 (2000) p.541-547に記載されるように,トランスフェクション試薬とエレクトロポレーションを併用することも知られていることからみても,参考資料2?8には,単にエレクトロポレーションを併用する旨の記載が無いというだけのものにすぎず,このことからも,本願発明においてエレクトロポレーションの併用が排除されていることにならない。
さらに付記すれば,平成20年12月10日付の拒絶査定において,「本願請求項1-4の記載には、原核生物にDNAタンパク質複合体を導入する方法であって、該方法をトランスフェクション試薬の共存下に行うことのみが記載されているにすぎず、エレクトロポレーションを実施しないことは何ら記載されていないことから、引用例1の発明も、本願請求項1-4の発明も、原核生物にDNAタンパク質複合体を導入する方法であって、該方法をトランスフェクション試薬の共存下に行う方法であると言え、本願請求項1-4に係る発明は、引用例1に記載されている発明と何ら区別ができないものと言える」と指摘されているが,これに対して請求人は,エレクトロポレーションの併用が排除されているように請求項を補正することで,対応することが容易であったにもかかわらず,そのような補正をしていないことからも,本願発明はエレクトロポレーションを併用する方法も包含していることが裏付けられる。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

したがって,本出願に係る他の請求項について検討するまでもなく,本出願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-17 
結審通知日 2011-11-22 
審決日 2011-12-05 
出願番号 特願2003-30205(P2003-30205)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 花野子  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 六笠 紀子
鵜飼 健
発明の名称 トランスフェクション試薬を使用して、ペプチド、DNAタンパク質複合体又は金属微粒子を原核細胞に導入する方法  

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