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審決分類 審判 一部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  F01P
審判 一部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  F01P
審判 一部無効 2項進歩性  F01P
審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F01P
管理番号 1251818
審判番号 無効2011-800052  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-04-01 
確定日 2012-01-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4422193号発明「サーモスタット装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4422193号の請求項1ないし10に係る発明についての出願は、2007(平成19)年2月22日(優先権主張2006年3月17日、日本国、パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年9月15日、大韓民国)の国際出願であって、平成21年12月11日にその発明について特許権の設定登録がなされたものである。
これに対し、平成23年4月1日に審判請求人 日本サーモスタット株式会社より本件特許の請求項2に係る発明について本件特許無効審判の請求がなされたところ、平成23年7月27日付けで被請求人 富士精工株式会社及び高麗電子株式会社より訂正請求がなされると共に、同日付けで審判事件答弁書が提出されたものである。

第2 訂正請求による訂正について
1.訂正請求による訂正の内容
平成23年7月27日付けの訂正請求書による訂正請求は、明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおりに訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。

(1)訂正事項a
本件特許第4422193号の特許登録時の特許請求の範囲の請求項2における「前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後」とされていた記載を、「前記温度感知可動部の周囲(底面側から側面にかけて)に接触させた後」に減縮する訂正をする。

(2)訂正事項b
本件特許第4422193号の特許登録時の特許請求の範囲の請求項2における「吐出開口部」の構成を「前記吐出開口部は、前記高温冷却液整流部の上端側と前記温度感知可動部との隙間部分のみに形成されている」点に限定する訂正をする。

(3)訂正事項c
本件特許第4422193号の特許公報第6ページ第45行の「前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後」とされていた記載を、「前記温度感知可動部の周囲(底面側から側面にかけて)に接触させた後」に訂正する。

(4)訂正事項d
本件特許第4422193号の特許公報第6ページ第46行の「高温冷却液整流部を形成する構造」とされていた記載を、「高温冷却液整流部を形成し、前記吐出開口部は、前記高温冷却液整流部の上端側と前記温度感知可動部との隙間部分のみに形成されていること」に訂正する。

2.訂正の適否の判断
(1)訂正事項a及びb
訂正事項aの訂正は、本件特許請求の範囲の請求項2について、同請求項2に係る発明の発明特定事項である「高温冷却液」の「温度感知可動部」に対する接触の経路を、「温度感知可動部の周囲(底面側から側面にかけて)に接触」と限定する訂正であり、訂正事項bは、同請求項2に係る発明の発明特定事項である「吐出開口部」の構成を限定するための「吐出開口部は、前記高温冷却液整流部の上端側と前記温度感知可動部との隙間部分のみに形成されている」点を付加する訂正(以下、「訂正b」という。)であるから、両訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項a及びbは、図1及び2に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項c及びd
訂正事項c及びdの訂正は、明細書の段落【0022】の記載を訂正後の請求項2の記載と整合させようとするものであり、訂正事項c及びdは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項c及びdの訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.訂正の適否の結論
したがって、平成23年7月27日付けで請求された訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、並びに、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 本件発明
上述したように、訂正請求による訂正が認められたので、本件特許第4422193号の請求項1ないし10に係る発明は、全文訂正明細書、全文訂正特許請求の範囲及び本件特許第4422193号の特許登録時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路の流路断面を、そのままの流路断面で、前記高温冷却液が前記温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長した高温冷却液整流部を形成し、
該高温冷却液整流部と前記温度感知可動部との隙間部分が前記高温冷却液の循環通路を形成して、
前記高温冷却液整流部に流れる高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させる高温冷却液整流部構造
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項2】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
前記弁体を閉弁方向に押し付勢する付勢部材を備え、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面側から側面にかけて)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、前記付勢部材と前記温度感知可動部との間に高温冷却液整流部を形成し、
前記吐出開口部は、前記高温冷却液整流部の上端側と前記温度感知可動部との隙間部分のみに形成されていること
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項3】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
前記弁体を閉弁方向に押し付勢する付勢部材と、
該付勢部材の付勢力を受けるとともに前記弁体に対応する弁座側の部材に固定されるフレームとを備え、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、前記フレームの内側で前記温度感知可動部側に突出されて高温冷却液整流部を形成する構造
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項4】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、前記温度感知可動部の延長軸が、前記高温冷却液整流部内の支持案内部に支持案内される構造
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項5】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、
前記温度感知可動部が前記高温冷却液整流部内の支持案内部に挿入案内される構造
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項6】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、該高温冷却液整流部は、ハウジング本体の高温冷却液の流入路と支持案内部62とにより形成され、前記吐出開口部が前記支持案内部62に形成されるとともに、前記温度感知可動部が前記支持案内部62に支持案内される構造
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項7】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、
前記温度感知可動部は、その外周において前記高温冷却液整流部との間隙の形状に対応した突起部が設けられていること
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項8】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、
前記高温冷却液整流部は、内側へ縮径された縮径部が形成され、
前記温度感知可動部の駆動に応じて、当該温度感知可動部と前記高温冷却液整流部との間隙が絞り自在に構成されていること
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項9】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、
前記温度感知可動部の外周から離間した位置からこれを取り囲むように、前記メインバルブ側から延長されているディフレクターを備えること
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項10】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、エンジンにおいて加熱された高温冷却液を流入させるエンジン連結ポートと、エンジンへ再び冷却液を送り返すバイパスポートと、ラジエタへ冷却液を送り出すラジエタ連結ポートとを備え、
冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
前記バイパスポートに連絡され、前記エンジン連結ポートからの前記高温冷却液を前記温度感知可動部の周囲へと導いた後、これを前記バイパスポートへ流出させる冷却液整流部と、前記温度感知可動部におけるバイパスポート側に設けられたバイパスバルブとを備え、
前記冷却液整流部は、前記温度感知可動部が前記エンジン連結ポートから流入する前記高温冷却液に対して常時露出された状態となる程度まで高さ調整された筒形で構成され、
前記バイパスバルブは、前記温度感知可動部の駆動状態に応じて前記冷却液整流部内に挿入自在に構成されていること
を特徴とするサーモスタット装置。」

第4 請求人が主張する無効理由の概要
1.主張の要点
請求人は、「特許第4422193号の請求項2に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」との趣旨で特許無効審判を請求しており、その理由は以下のとおりである。

「特許第4422193号(以下、「本件特許」という。)の請求項2に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、甲第1号証(特開2004-308743号公報)に記載された発明(以下、「引用発明1」という。)、甲第2号証(実開平4-95619号全文公報)に記載された発明(以下、「引用発明2」という。)及び周知技術に基づいて、当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本件特許の請求項2は、特許法123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。」

2.証拠方法
請求人は、証拠として、以下の甲第1ないし7号証を提出している。

甲第1号証:特開2004-308743号公報
甲第2号証:実開平4-95619号全文公報
(実願平3-5465号(実開平4-95619号)のマイクロフィルム)
甲第3号証:特開平10-19160号公報
甲第4号証:実開昭61-175534号全文公報
(実願昭60-58877号(実開昭61-175534号)のマイクロフィルム)
甲第5号証:特開2004-353602号公報
甲第6号証:特開2004-84526号公報
甲第7号証:特開平10-220633号公報

3.主張の概要
請求人が提出した審判請求書を参酌すると、主張の概要は、以下のとおりである。

(1)本件特許発明と引用発明1との対比
(a)一致点
本件特許発明と引用発明1とを対比すると、両者は、
「エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、
この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により
摺動駆動するピストンシャフトを有し、
該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
前記弁体を閉弁方向に押し付勢する付勢部材を備え、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて」いる点、で一致する。

(b)相違点
他方、本件特許発明は、「該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、前記付勢部材と前記温度感知可動部との間に高温冷却液整流部を形成する」構造を備えるのに対して、引用発明1は、高温冷却液を温度感知可動部の底面に接触させるのみである点、で両者は相違する。

(2)相違点の判断
(a)相違点に関する引用発明2の記載内容
引用発明1と引用発明2は、いずれもサーモスタット装置であり、技術分野が共通するものである。
そして、引用発明2は、ばねA_(8)(付勢部材)と感温部ケースA_(1)(温度感知可動部)との間に、感温部ケースA_(1)(温度感知可動部)が摺動自在に挿入された「筒型ホルダー7」を備えている。この「筒型ホルダー7」は、高温冷却液をバイパスさせる冷却水循環経路4(高温冷却液流路)から、感温部ケースA_(1)(温度感知可動部)に対して横向きに流入した冷却水(高温冷却液)を、筒型ホルダー7の各通孔9から各凹み溝8内に流入させ、感温部ケースA_(1)(温度感知可動部)の外周面(側面)のうち筒型ホルダー7内に嵌まる部分に接触させた後、該凹み溝8の両端から流出させることにより、冷却水(高温冷却液)と感温部ケースA_(1)(温度感知可動部)のワックスA_(2)(熱膨張体)との相互間における熱の伝達を行わせることができるから、本件特許発明の「高温冷却液整流部」に相当する。
従って、引用発明2は、本件特許発明と引用発明1との前記相違点に係る構成である「該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、前記付勢部材と前記温度感知可動部との間に高温冷却液整流部を形成する」構造を備えている。

(b)容易想到性
上記のとおり、引用発明2は、本件特許発明と引用発明1との相違点に係る構成を備えているから、引用発明1に引用発明2を組合せることにより本件特許発明の構成を想到することができるものである。
ここで、上記のとおり、引用発明1と引用発明2とは、いずれもサーモスタット装置であり、技術分野が共通するものである。
また、甲第1号証には、バイパス通路から流れる高温冷却液が全て筒状部41内を流れて「必ずサーモエレメント21における温度感知部を通って流れるために、流体が確実に混合され、所要の温度を感知することができるから、温度ハンチング等の不具合もなく、流体温度に伴う制御を所要の状態で行える。また、流体の流れを筒状部41で制御できる」(段落【0005】)と記載されているので、甲第1号証には、「バイパスポートからの高温冷却液をその温度や流速を大きく損なうことなく確実に温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させ伝熱させる」(本件特許公報段落【0032】)ようにして、「冷却液温を高精度に制御することが出来るサーモスタット装置を提供する」(本件特許公報段落【0020】)という本件特許発明の解決課題が示唆されている。
甲第2号証にも、高温冷却水が、感温部ケースに被嵌した筒型ホルダーの側面の通孔から凹み溝内に流入して両端から流出することにより、「サーモスタット弁における感温部ケースの外周面のうち筒型ホルダー内に嵌まる部分に接触することになるから、当該部分においても、冷却水と感温部ケース内のワックスとの相互間における熱の伝達を行わせることができる」(段落【0006】)と記載されているので、甲第2号証にも、「バイパスポートからの高温冷却液をその温度や流速を大きく損なうことなく確実に温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させ伝熱させる」(本件特許公報段落【0032】)ようにして、「冷却液温を高精度に制御することが出来るサーモスタット装置を提供する」(本件特許公報段落【0020】)という本件特許発明の解決課題が示唆されている。
また、甲第3号証、甲第4号証に示されたように、バイパス通路からの高温冷却液をサーモエレメントの温度感知可動部に積極的に当てないと、冷却液回路の冷却液温の制御が正確に行われないとの問題点があること、及び、その問題点を解消するため、バイパス通路からの高温冷却液が温度感知可動部に十分に接するように様々な工夫をすることは、従来より当業者に周知であった。
また、甲第5号証ないし甲第7号証に示されたように、サーモスタット開弁温度を高温側に設定し、冷却液温を高温に設定すると、オイル粘度低減によるフリクションが減少し、また熱損失低減により燃費が向上することも、当業者に周知であった。
以上によれば、
1)引用発明1と引用発明2とは技術分野が共通すること、
2)甲第1号証にも甲第2号証にも、「バイパスポートからの高温冷却液を確実に温度感知可動部の周囲に接触させ伝熱させる」ようにして、「冷却液温を高精度に制御する」という本件特許発明の解決課題が示唆されていること、
3)バイパス通路からの高温冷却液を温度感知可動部に積極的に当てないと、冷却液温の制御が正確に行なわれないとの問題点が周知であり、その問題点を解消するため、バイパス通路からの高温冷却液を温度感知可動部に十分に接するように様々な工夫をすることも周知であったこと、
4)サーモスタット開弁温度を高温側に設定し、冷却液温を高温に設定すれば、オイル粘度低減によるフリクションが減少し、また熱損失低減により燃費が向上することも、当業者に周知であったこと、
からすれば、
5)引用発明1において、冷却液温を精度よく制御するために、また、ひいては、冷却液温を高温に設定して、フリクション減少、熱損失低減、燃費の向上を図るために、引用発明1において、引用発明2の筒型ホルダーを適用して、バイパス通路からの高温冷却水をサーモエレメントの温度感知部の底面に接触させるだけでなく、更に温度感知部の側面にも接触させるようにして、相違点に係る構成である「該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、前記付勢部材と前記温度感知可動部との間に高温冷却液整流部を形成する」構造を得ることは、当業者が容易に想到できたものである。
従って、本件特許発明は、引用発明1、引用発明2、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

第5 被請求人の主張
1.主張の要点
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」としている。

2.主張の概要
本件特許発明は、高温冷却液の流路を温度感知可動部の底面側から側面にかけて接触させる点を積極的に限定するとともに、吐出開口部の位置を、高温冷却液整流部の上端と前記温度感知可動部の隙間部分のみに形成されていることを必須としたものである。本件特許発明は、温度感知可動部の底面にのみ高温冷却液を接触させる引用発明1と比較して、温度感知可動部の底面側から側面にかけて高温冷却液を接触させる点において構成が相違し、また引用発明2では、あくまで高温冷却液の感温部ケースA_(1)への接触経路を感温部ケースA_(1)の中段から上端方向並びに底方向に分岐させているものであり、本発明のように底面側から側面にかけて一方向で接触させている点、並びに吐出開口部を高温冷却液整流部の上端と温度感知可動部の隙間部分のみに形成させている点、高温冷却液の全てを、温度感知可動部に接触させる点が相違する。よって、この引用発明2は、本件特許発明と引用発明1との相違点にかかる構成を備えていないものであることから、引用発明1に引用発明2を単に組み合わせるのみでは当業者を以ってしても本件特許発明の構成には到底想到しえないものである。

第6 当審の判断
1.甲第1号証ないし甲第7号証の記載事項

(1)甲第1号証には、例えば、以下の事項が記載されている。
ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、たとえば自動車等に使用される内燃機関(以下、エンジンという)を冷却する冷却水を、熱交換器(以下、ラジエータという)との間で循環させるエンジンの冷却水回路において、冷却水の温度変化により作動することでエンジン冷却水の流れを切換えて冷却水温度を制御するために用いられる温度感知式自動弁であるサーモスタット装置に関する。」(段落【0001】)

イ.「【0004】
サーモスタットを用いた自動車用エンジンの冷却システム(冷却水温度制御系)の全体の概要を、図6を用いて以下に説明する。
図6において、1はシリンダブロックおよびシリンダヘッドにより構成された内燃機関としての自動車用エンジンであり、このエンジン1のシリンダブロックおよびシリンダヘッド内には、矢印aで示した冷却水通路が形成されている。
2は熱交換器、すなわちラジエータであり、このラジエータ2には周知の通り冷却水通路が形成されており、ラジエータ2の冷却水入口部2aおよび冷却水出口部2bは、前記エンジン1との間で冷却水を循環させる冷却水回路3により接続されている。
【0005】
この冷却水回路3は、エンジン1に設けられた冷却水の出口部1cからラジエータ2に設けられた冷却水の入口部2aまで連通する流出側冷却水路3aと、ラジエータ2に設けられた冷却水の出口部2bからエンジン1に設けられた冷却水の入口部1bまで連通する流入側冷却水路3bと、これら冷却水路3a,3bの途中の部位を接続するバイパス通路3cとから構成されている。
これらのエンジン1、ラジエータ2、冷却水路3によって冷却水循環路が形成されている。」(段落【0004】及び【0005】)

ウ.「【0034】
【発明の実施の形態】
図1ないし図5は本発明に係るサーモスタット装置の一実施の形態を示し、この実施の形態では、エンジンの冷却システムにおいてエンジンの入口側に付設され、冷却水温度を制御するために用いた場合を説明する。
【0035】
これらの図において、符号20で示す温度感知式自動弁であるサーモスタット装置は、図2や前述した従来例を示す図6から明らかなように、ラジエータ2側の冷却水路3bと、エンジン出口部1c側からのバイパス通路3cとの交差部に付設され、これらの通路によって構成される第1、第2の流体流路での冷却水の流れを選択的に切り換えてエンジン入口部1bに至る冷却水路3dに給送するために用いられる。ここで、第1の流体流路は、冷却水路3bから冷却水路3dに至るものであり、第2の流体流路は、前記バイパス通路3cから冷却水路3dに至るものであるとして、以下の説明を行う。
【0036】
このサーモスタット装置20は、図1、図2に示すように、冷却水の温度変化により作動する作動体としてのサーモエレメント21と、このサーモエレメント21に一体または一体的に設けられ第1、第2の流体流路を開閉するための第1、第2の弁体22,23と、第1の弁体22を弁閉位置に、第2の弁体23を弁開位置に付設する付勢手段であるコイルばね24と、これらの周囲を覆うフレーム25とを備えている。
【0037】
ここで、前記フレーム25の上部には、後述するサーモエレメント21のピストンの上端部を係止する係止部26aを上方に突設したキャップ26が、該フレーム25に一体的に連結されている。このキャップ26の外周フランジ部には、パッキン27が設けられ、図2?図4に示すように、装置ハウジングの一部に液密性を保って係止保持される。なお、このキャップ26の内周縁部分には、前記第1の弁体22に対する弁座26bが設けられ、これにより第1の流体流路での冷却水の流れを開閉する第1のバルブが構成される。
【0038】
前記サーモエレメント21は、図5に示すように構成されている。これを詳述すると、このサーモエレメント21は、ほぼ同一径寸法をもつ有底筒状の中空容器からなる金属製ケース31を備え、その有底部分にケース31外部からの熱影響を受けて熱膨張、熱収縮する熱膨張体としてのワックス32が封入されている。
ここで、この実施の形態では、ケース31の長手方向の一部に段差部31aが形成され、有底部分が小径、開口側が大径に形成されている。これは、図1、図2に示すようにサーモスタット装置20として組み立てた際の抜け止め、および後述するシール部材35の位置決めのための部分である。尤も、ワックス32の充填量を一定に管理することによって、該ケース31をストレートにすることも可能である。
【0039】
このケース31内部には、ピストン33が軸線方向に沿って配置され、その内方端が前記ワックス32内に臨むとともに、外方端がケース31の開口部から外方に突出し、前記ワックス32の膨張、収縮に伴って軸線上を進退動作するように構成されている。なお、ピストン33のケース31内への退出動作は、外部に設けたリターンスプリング等の付勢力(この実施の形態ではコイルばね24)によって行われる。」(段落【0034】ないし【0039】)

エ.「【0044】
このようなサーモエレメント21において、本発明によれば、ケース31先端の有底部分であってワックス32を入れた温度感知部は、第2の弁体23として用いられている。すなわち、図1、図2に示すように、フレーム25の下端には、サーモエレメント21のケース31の下端部分を摺動自在に保持する筒状部41が一体に設けられている。そして、この筒状部41の先端側を、前記第2の流体流路(バイパス通路3c側)に接続して該筒状部41内部を第2の流体流路の流体が流れるように構成されている。
また、この筒状部41の一部にサーモエレメント21の他端部による第2の弁体23で開閉される開口部42を窓として設けている。
【0045】
ここで、このような筒状部41をフレーム25に一体に設けると、第2のバルブを構成する部材を最小限とし、全体としての部品点数を削減できる。さらに、この筒状部41の先端を、第2の流体流路(バイパス通路3c側)を構成するハウジングの通路孔に挿入することで、筒状部41内を第2の流体流路とすることができ、従来装置に比べて部品点数の削減効果も発揮させることができる。
【0046】
上述した構成によるサーモスタット装置20において、冷却水温度が低いときは、図1、図3、図4に示すように、ピストン33はワックス32内に臨みケース31に対しての相対的な突出量が小さくなっている。このときには、コイルばね24の付勢力によりサーモエレメント21は、図中上方に付勢されており、これにより第1の弁体22は弁閉位置にあり、また第2の弁体23は弁開位置にある。
このときには、バイパス通路3cからの冷却水が、第2の流体流路によってエンジン入口部1bに流れ、エンジン1に戻る。
【0047】
冷却水温度が高くなると、その状態が筒状部41内でサーモエレメント21の温度感知部に伝えられ、ワックス32が膨張してピストン33を押し出す。このとき、ピストン33はキャップ26により係止されているから、相対的にサーモエレメント21のケース31等が下方に移動し、その下端の第2の弁体23が開口部42を閉じるとともに、第1の弁体22が弁開動作する。
このようになると、バイパス通路3cからの冷却水の流れは少なくなり、ラジエータ2側を介して冷却された冷却水が、エンジン1側に送られる。
【0048】
以上の構成によれば、サーモスタット装置20のフレーム25とサーモエレメント21とによって第2の流体流路(バイパス通路3c側)を開閉するバルブを構成していることから、構成部品点数が少なく、組立性、加工性、コスト低減の面で優れている。
【0049】
また、第2の流体流路(バイパス通路3c側)を開閉する第2のバルブを、装置フレーム25に一体に設けた筒状部41によって構成しており、該筒状部41の先端側を、バイパス通路3cとなる通路孔に挿入することで接続して該筒状部41内部のみを第2の流体流路側の冷却水(流体)が流れるようにしているので、サーモエレメント21に横方向から加わる流体流による流体圧が小さく、偏摩耗を低減できる。
【0050】
さらに、上記バルブ部分を通る流体は必ずサーモエレメント21における温度感知部を通って流れるために、流体が確実に混合され、所要の温度を感知することができるから、温度ハンチング等の不具合もなく、流体温度に伴う制御を所要の状態で行える。また、流体の流れを筒状部41で制御できるから、前述した従来装置のような流体の流れを制御する制御板は不要で、この点でも部品点数を削減できるのである。」(段落【0044】ないし【0050】)

(2)甲第2号証には、例えば、以下の事項が記載されている。
ア.「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、内燃機関における冷却水に対するワックス型のサーモスタット弁を、前記内燃機関からラジエータへの冷却水循環経路中におけるチャンバー内に装着する場合において、前記サーモスタット弁に対する保護装置に関するものである。」(段落【0001】)

イ.「【0002】
【従来の技術】
一般に、この種のワックス型のサーモスタット弁Aは、図4に示すように、内部に封入したワックスA_(2) の膨張・収縮によりピストンA_(3) がピストンガイド部A_(4) から出没作動するようにした感温部ケースA_(1) と、リング状の弁座板A_(5) とから成り、前記感温部ケースA_(1) を、前記弁座板A_(5) の下面側に取付けたブラケットA_(6) にて摺動自在に支持し、前記ガイド部A_(4) に、前記弁座板A_(5) に対する弁体A_(7) を係着し、該弁体A_(7) をばねA_(8) にて前記弁座板A_(5) に対して押圧付勢する一方、前記ピストンA_(3) の先端を、前記弁座板A_(5) の上面側に取付けたアーム部材A_(9) に接当することにより、前記ピストンA_(3) の前記ピストンガイド部A_(4) からの出没作動によって、前記弁体A_(7) を開閉作動するように構成していることは、周知の通りである。
・・・・(後略)・・・・」(段落【0002】)

ウ.「【0004】
【考案が解決しようとする課題】
このように構成すると、筒型ホルダー7にて、感温部ケースA_(1) を確実に支持することができると共に、該感温部ケースA_(1) に対する冷却水流の衝撃を緩和することができることにより、サーモスタット弁Aにおける耐久性の低下を防止できる。
しかし、その反面、冷却水と感温部ケースA_(1) 内のワックスA_(2) との相互間における熱の伝達が、前記筒型ホルダー7によって著しく妨げられることになるから、前記サーモスタット弁Aにおける感応性が大幅に低下するのである。
本考案の技術的課題は、サーモスタット弁における感温部ケースを、これに被嵌した筒型ホルダーにてガイドする場合において、前記サーモスタット弁の感応性が、前記筒型ホルダーのために低下するのを防止することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この技術的課題を達成するため本考案は、内燃機関における冷却水出口からラジエータに至る冷却水循環経路中に設けたチャンバー内に、ワックス型のサーモスタット弁を、当該サーモスタット弁における感温部ケース及びピストンガイド部の軸線が前記チャンバー内への冷却水入口の軸線と略直交するように装着し、前記感温部ケースを、前記サーモスタット弁における弁座板に対して取付くブラケットに固着した筒型ホルダー内に、その軸方向に摺動自在に挿入して成る内燃機関において、前記筒型ホルダーには、その内周面に、凹み溝を、当該凹み溝の一端又は両端が前記筒型ホルダーの一端面又は両端面に対して開口するように刻設すると共に、該凹み溝と筒型ホルダーの外周面とを連通する通孔を穿設する構成にした。
【0006】
【考案の作用・作用】
このように構成すると、サーモスタット弁における感温部ケースを、ブラケットに固着した筒型ホルダーにて、確実に支持することができるものでありながら、チャンバー内に冷却水入口から流入した冷却水の一部が、通孔から凹み溝内に流入したのち、当該凹み溝の一端又は両端からチャンバー内に流出することになる。
すなわち、チャンバー内に流入した冷却水は、通孔を介して凹み溝内を流れて、サーモスタット弁における感温部ケースの外周面のうち筒型ホルダー内に嵌まる部分に接触することになるから、当該部分においても、冷却水と感温部ケース内のワックスとの相互間における熱の伝達を行わせることができる。
従って、本考案によると、サーモスタット弁における感温部ケースに対して、これに被嵌する筒型ホルダーを設けることによって、サーモスタット弁の耐久性を向上したものでありながら、前記筒型ホルダーのために、サーモスタット弁における感応性が低下することを確実に防止できる効果を有する。」(段落【0004】ないし【0006】)

エ.「【0007】
【実施例】
以下、本考案の実施例を図面(図1、図2及び図3)について説明する。
この図において符号1は内燃機関を、符号4,5は前記内燃機関1における冷却水出口2からラジエータ3に至る冷却水循環経路を各々示し、前記冷却水循環経路4,5中には、チャンバー6が設けられている。
前記チャンバー6内には、前記従来の場合と同様に、ワックスA_(2) を封入した感温部ケースA_(1) 、ピストンA_(3) を備えたピストンガイド部A_(4) 、弁座板A_(5) 、ブラケットA_(6) 、弁体A_(7) 、ばねA_(8) 及びアーム部材A_(9) によって構成されるワックス型のサーモスタット弁Aが、当該サーモスタット弁Aにおける感温部ケースA_(1) 及びピストンガイド部A_(4) の軸線が前記チャンバー6内への冷却水入口6aの軸線と略直交するように装着されている。
また、前記サーモスタット弁AにおけるブラケットA_(6) には、合成樹脂製の筒型ホルダー7が固着され、この筒型ホルダー7内に、前記サーモスタット弁Aにおける感温部ケースA_(1) が、その軸線方向に摺動自在に挿入されている。
【0008】
そして、前記筒型ホルダー7の内周面には、その円周方向の複数個所に、感温部ケースA_(1) の軸線方向に延びる凹み溝8を、当該各凹み溝8の両端が前記筒型ホルダーの両端面に対して開口するように刻設する一方、前記筒型ホルダー7には、前記各凹み溝8内と当該筒型ホルダー7の外周面とを連通する通孔9を穿設する。
【0009】
この構成において、サーモスタット弁Aにおける感温部ケースA_(1) は、これが嵌まる筒型ホルダー7にて、確実に支持されるものでありながら、チャンバー6内に、その冷却水入口6aからサーモスタット弁Aにおける感温部ケースA_(1) に対して横向きに流入した冷却水の一部は、各通孔9から各凹み溝8内に流入したのち、当該凹み溝8の両端からチャンバー6内に流出することにより、サーモスタット弁Aにおける感温部ケースA_(1) の外周面のうち筒型ホルダー7内に嵌まる部分に接触して、当該部分においても、冷却水と感温部ケースA_(1) 1のワックスA_(2) との相互間における熱の伝達を行わせることができるから、サーモスタット弁Aにおける感温部ケースA_(1) を、筒型ホルダー7内に挿入したことによって、前記サーモスタット弁Aにおける感応性が低下することを確実に防止できるのである。
【0010】
なお、前記凹み溝8は、複数本に構成する必要がないと共に、該凹み溝8は、その少なくとも一端部のみを、筒型ホルダー7の一端面に対して開口するように構成しても良いのであり、また、本考案は、例えば、実開昭60-57731号公報等に記載されているボトムバイパス式のサーモスタット弁に対しても適用できることは言うまでもない。」(段落【0007】ないし【0010】)

(3)甲第3号証及び甲第4号証には、サーモスタット装置において、バイパス通路からの高温冷却液を温度感知可動部に積極的に当てないと、冷却液温の制御が正確に行われないとの問題点があり、その問題点を解消するため、バイパス通路からの高温冷却液を温度感知可動部に十分に接するように様々な工夫をすることが開示されている。

(4)甲第5号証ないし甲第7号証には、サーモスタット装置において、サーモスタット開弁温度を高温側に設定し、冷却液温を高温に設定すると、オイル粘度低減によるフリクションが減少し、また熱損失低減により燃費が向上することが開示されている。

2.甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明
(1)甲第1号証に記載された発明
上記1.(1)及び図面の記載を総合すると、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「エンジンの冷却水回路3に設けられ、冷却水の温度変化により熱膨張、熱収縮するワックス32を封入するサーモエレメント21と、このサーモエレメント21に一端を収納され前記ワックス32の熱膨張、熱収縮により軸線上を進退動作するピストン33を有し、該ピストン33の動作により第1の弁体22の開閉を行うサーモスタット装置20において、
前記第1の弁体22を弁閉位置に付勢するコイルばね24を備え、
エンジンで加熱された高温冷却水をサーモスタット装置20にバイパスさせるバイパス通路3cが、サーモエレメント21の下端部分を覆うまで連絡・延長されて、
該バイパス通路3cに流れる前記高温冷却水を、前記サーモエレメント21の底面に接触させた後、開口部42から流出させるように、筒状部41を形成し、
前記開口部24は、前記筒状部41の側面に形成されている
サーモスタット装置20。」

(2)甲第2号証に記載された発明
上記1.(2)及び図面の記載を総合すると、甲第2号証には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「内燃機関の冷却水循環経路に設けられ、冷却水の温度変化により膨張・収縮するワックスA_(2)を封入した感温部ケースA_(1)と、この感温部ケースA_(1)に接続されたピストンガイド部A_(4)に一端を収納され前記ワックスA_(2)の膨張・収縮により出没作動するピストンA_(3)を有し、該ピストンA_(3)の出没作動により弁体A_(7)の開閉を行うサーモスタット弁において、
前記弁体A_(7)を弁座板A_(5)に対して押圧付勢するばねA_(8)を備え、
内燃機関で加熱された冷却水の一部を、筒型ホルダー7の通孔9から凹み溝8内に流入させ、前記感温部ケースA_(1)の側面に接触させた後、凹み溝8の一端又は両端の開口から流出させるように、前記ばねA_(8)と前記感温部ケースA_(1)との間に筒型ホルダー7を形成している
サーモスタット弁。」

3.対比
本件特許発明と甲1発明とを対比すると、その構造または技術的意義からみて、甲1発明における「エンジン」は、本件特許発明における「エンジンなど」及び「エンジン」に相当し、以下同様に、「冷却水回路3」は「冷却液回路」に、「冷却水」は「冷却液」に、「熱膨張、熱収縮」は「熱膨張または収縮」及び「熱膨張、収縮」に、「ワックス32」は「熱膨張体」に、「サーモエレメント21」は「温度感知可動部」に、「軸線上を進退動作する」は「摺動駆動する」に、「ピストン33」は「ピストンシャフト」に、「動作」は「駆動」に、「第1の弁体22」は「弁体」に、「サーモスタット装置20」は「サーモスタット装置」に、「弁閉位置に付勢」は「閉弁方向に押し付勢」に、「コイルばね24」は「付勢部材」に、「バイパス通路3c」は「高温冷却液流路」に、「(サーモエレメント21の)下端部分」は「(温度感知可動部の)全部または一部」に、「開口部42」は「吐出開口部」に、「筒状部41」は「高温冷却液整流部」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明における「高温冷却水を、前記サーモエレメント21の底面に接触させた」は、本件特許発明における「高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面側から側面にかけて)に接触させた」に、「高温冷却液を、前記温度感知可動部に接触させた」という限りにおいて相当する。

したがって、本件特許発明と甲1発明とは、
「エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
前記弁体を閉弁方向に押し付勢する付勢部材を備え、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成している
サーモスタット装置。」
である点で一致し、以下の(1)ないし(3)の点で相違する。

(1)高温冷却液を、温度感知可動部に接触させることに関し、本件特許発明においては、高温冷却液を、温度感知可動部の「周囲(底面側から側面にかけて)」に接触させるのに対し、甲1発明においては、高温冷却液を、温度感知可動部の「底面」に接触させる点(以下、「相違点1」という。)

(2)本件特許発明においては、「付勢部材と温度感知可動部との間に高温冷却液整流部が形成」されているのに対し、甲1発明においては、筒状部41(本件特許発明における「高温冷却液整流部」に相当。)がコイルばね24(本件特許発明における「付勢部材」に相当。)とサーモエレメント21(本件特許発明における「温度感知可動部」に相当。)との間に形成されていない点(以下、「相違点2」という。)。

(3)本件特許発明においては、「吐出開口部は、前記高温冷却液整流部の上端側と前記温度感知可動部との隙間部分のみに形成されている」のに対し、甲1発明においては、開口部24(本件特許発明における「吐出開口部」に相当。)は、筒状部41(本件特許発明における「高温冷却液整流部」に相当。)の側面に形成されている点(以下、「相違点3」という。)。

4.判断
上記相違点1ないし3のうち、相違点1について検討する。

(1)上記2.(2)で述べたとおり、甲2発明は、
「内燃機関の冷却水循環経路に設けられ、冷却水の温度変化により膨張・収縮するワックスA_(2)を封入した感温部ケースA_(1)と、この感温部ケースA_(1)に接続されたピストンガイド部A_(4)に一端を収納され前記ワックスA_(2)の膨張・収縮により出没作動するピストンA_(3)を有し、該ピストンA_(3)の出没作動により弁体A_(7)の開閉を行うサーモスタット弁において、
前記弁体A_(7)を弁座板A_(5)に対して押圧付勢するばねA_(8)を備え、
内燃機関で加熱された冷却水の一部を、筒型ホルダー7の通孔9から凹み溝8内に流入させ、前記感温部ケースA_(1)の側面に接触させた後、凹み溝8の一端又は両端の開口から流出させるように、前記ばねA_(8)と前記感温部ケースA_(1)との間に筒型ホルダー7を形成している
サーモスタット弁。」
である。

(2)しかしながら、甲2発明は、内燃機関で加熱された冷却水(本件特許発明における「高温冷却液」に相当。)を、感温部ケースA_(1)(本件特許発明における「温度感知可動部」に相当。)の側面に接触させた後、開口(本件特許発明における「吐出開口部」に相当。)から流出させるものであり、感温部ケースA_(1)(本件特許発明における「温度感知可動部」に相当。)の底面側から側面にかけて接触させた後、開口から流出させるものであるとはいえない。
よって、甲2発明は、上記相違点1に係る本件特許発明の発明特定事項を備えているとはいえない。

(3)一方、請求人は、上記第4の3.(2)のとおり、「引用発明2は、本件特許発明と引用発明1との相違点に係る構成を備えているから、引用発明1に引用発明2を組合せることにより本件特許発明の構成を想到することができるものである。」と主張し、そして、引用発明1に引用発明2を組み合わせる際の動機付けとして、上記第4の3.(2)の1)ないし4)の事項を考慮したうえで、「引用発明1において、引用発明2の筒型ホルダーを適用して、バイパス通路からの高温冷却水をサーモエレメントの温度感知部の底面に接触させるだけでなく、更に温度感知部の側面にも接触させるようにして、相違点に係る構成である「該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、前記付勢部材と前記温度感知可動部との間に高温冷却液整流部を形成する」構造を得ることは、当業者が容易に想到できたものである。」と主張している。
しかしながら、上記のとおり、甲2発明は、上記相違点1に係る本件特許発明の発明特定事項を備えているとはいえないので、甲1発明に甲2発明を組み合わせる動機付けの有無にかかわらず、甲1発明に甲2発明を組み合わせることにより、上記相違点1に係る本件特許発明の発明特定事項を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(4)したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明は、甲第1号証、甲第2号証及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明についての特許を無効とすることはできない。
また、他に本件特許発明についての特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
サーモスタット装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に自動車のエンジンを冷却する冷却液温度の自動制御を行うサーモスタット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のサーモスタット装置20は、図10に示すように、ラジエタなどで冷却された低温冷却液Aをハウジング本体内部19に流入させるラジエタ連結ポート2、このラジエタ連結ポート2に略対抗する側に設けられた、エンジンで加熱された高温冷却液Bをハウジング本体内部19に流入させるバイパスポート3、ラジエタ連結ポート2とバイパスポート3から流入し混合形成された冷却液Cをエンジンに送出するエンジン連結ポート4とからなるハウジング本体16を備えている。
【0003】
また、このサーモスタット装置20は、ハウジング本体内部19の液温に対応して可動する熱膨張体エレメントである温度感知可動部8と、この温度感知可動部8に一端を収納され熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフト7と、このピストンシャフト7の他端を支持するようにラジエタ連結ポート2側に設けられたピストンシャフト支持部6と、温度感知可動部8と一体的に可動してラジエタ連結ポート2からの低温冷却液Aのハウジング本体内部19への流入量を制御するメインバルブ9と、ハウジングカバー1により支持されたフレーム10と、メインバルブ9とフレーム10の間に押し付勢状態で設けられ、メインバルブ9をラジエタ連結ポート2に付勢押し付けするメインスプリング11と、温度感知可動部8からバイパスポート3に向かう方向で設けられたバイパスシャフト12と、このバイパスシャフト12に設けられたバイパスポート3からの高温冷却液Bのハウジング本体内部19への流入量を制御するバイパスバルブ13と、このバイパスバルブ13と温度感知可動部8との間に押し付勢状態で取り付けられ、バイパスバルブ13をバイパスポート3に付勢押し付けするバイパススプリング14とを備えている。
【0004】
温度感知可動部8の周囲の液温上昇時においては、カップ15の中に密封された熱膨張体が、熱膨張しピストンシャフト7を押し出し動作し、これにより、温度感知可動部8とともにメインバルブ9をメインスプリング11の荷重に逆らって開移動させ、低温冷却液Aの流入量を増大させ、且つ、バイパスバルブ13を閉め移動させて高温冷却液Bの流入量を減少させる。
【0005】
また、温度感知可動部8の周囲の液温の降下の際には、熱膨張体の収縮が起こり、メインスプリング11の付勢力によってピストンシャフト7を押し戻し、メインバルブ9がそれに伴って閉め移動し、ラジエタからの低温冷却液Aの流入量を減少させ、且つ、高温冷却液Bの流入量を増大させる。
【0006】
このような動作により、従来のサーモスタット装置20は、高温冷却液Bとラジエタからの低温冷却液Aの混合液である冷却液Cの液温を主に感知して制御し、該冷却液Cをエンジンに供給する。
【0007】
同様な構成および動作をするサーモスタット装置として、特許文献1?5の開示技術が提案されている。
【特許文献1】実開平2-5672号公報
【特許文献2】実開平6-37524号公報
【特許文献3】特開平10-19160号公報
【特許文献4】特公昭47-16584号公報
【特許文献5】実開昭61-175534号公報
【0008】
尚、特許文献5には、上記のようないわゆるボトムバイパス式のサーモスタットにおいて、バイパスからの冷却液が温度感知可動部の周囲に導かれるように冷却水誘導筒を取り付けてなる構造が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来のサーモスタット装置は次に述べるような欠点があった。
【0010】
(1)ハウジング本体内部19において、バイパスポート3およびディフレクター18が温度感知可動部8から離れた構成である上、高温冷却液の流れを温度感知可動部8の手前でバイパスバルブ13が遮る構成であるので、温度感知可動部8に高温冷却液Bが届き難い。したがって低温冷却液Aと高温冷却液Bとが温度感知可動部8の部位で効率よく混合できず、温度感知可動部8が冷却液Cの温度を感知し難くなる。その結果、エンジンを冷却する冷却液Cの液温が不安定となり、且つ、エンジン負荷変動等に伴う温度制御幅が大きくなるという欠点を有する。
【0011】
さらに、このハウジング本体内部19に、車室ヒーター用の回路から戻ってくる冷却液が流入する場合、ますます混合を高効率に行うことができず、上記欠点は増幅する。
【0012】
またさらに、高温冷却液Bを感温する性能が悪いために冷却系全体の温度上昇時にオーバーシュートの懸念が大きいという欠点も有する。
【0013】
このため、冷却液温には上限があるために通常の制御液温をあらかじめ比較的低温に抑えておかなければならず、エンジンの燃焼効率の低下、及びエンジンのフリクションロス、熱的損失の増大により燃費の悪化などを招く。
【0014】
また、冷却液Cのエンジン負荷変動に伴う温度制御幅が大きくなるということは、図11に示すような従来のサーモスタット装置の特性となり、エンジンの熱的膨張収縮が大きくなる。また、それが頻繁に起こることになれば、エンジンのストレスの増大による低寿命化、温度降下時と温度差によるエンジン性能の低下等を招く。
【0015】
(2)従来では、高温冷却液Bを遮断して全ての高温冷却液Bをラジエタに通す際に、バイパススプリング14によってバイパスバルブ13をバイパスポート3に押し付けていた。しかしながら、このバイパススプリング14の荷重は、温度感知可動部8に対する負荷となる。温度感知可動部8への負荷が大きいと、必然的に温度感知可動部8の寿命が短くなる。また、熱膨張体にかかる圧力が高くなるために熱膨張体の融点が上昇し、メインバルブ9の開度を大きくとるには、より高い冷却液温が必要となる。即ち、冷却液Cの温度が上昇し、更なるメインバルブ9の開度が必要な際に、図12に示す従来のサーモスタット装置の特性のように、メインバルブ9の開度を稼ぐことができないという欠点を有するものであった。
【0016】
(3)バイパスポート3の閉止時において、急激にバイパスポート3を遮断してしまうため、閉止直後に温度ハンチングが生じ冷却液Cの温度が安定しないという欠点を有するものであった。
【0017】
(4)従来のサーモスタット装置におけるバイパスバルブ13は、フラットな円板の面で、バイパスポート3全面に当たり閉じる構造である。そして、メインバルブ9閉弁時のバイパスバルブ13とバイパスポート3の距離は、
a:メインバルブ9閉弁時におけるバイパスポート3の高温冷却液の流路面積の確保
b:バイパスバルブ13閉弁後、更に冷却液Cの温度が上昇して、温度感知可動部8が更に移動した際にバイパススプリング14の線間が密着しないこと、
c:バイパスバルブ13と温度感知可動部8が接触しないこと、という因子で決められていた。
【0018】
即ち、メインバルブ9閉弁時にバイパスバルブ13とバイパスポート3の距離を大きくとる必要があった。
【0019】
このため、高温冷却液Bを出来るだけ温度感知可動部8方向に導くためにディフレクター18のような複雑な構造が必要となった。
【0020】
本発明は以上のような従来のサーモスタット装置の欠点に鑑み、冷却液温を高精度に制御することが出来るサーモスタット装置を提供することを目的としている。結果、エンジンの燃焼効率の向上及び、エンジンのフリクションロスの低減、熱的損失の低減に寄与し、エンジンの低燃費化に寄与するサーモスタット装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
第1の発明は、エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路の流路断面を、そのままの流路断面で、前記高温冷却液が前記温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長した高温冷却液整流部を形成し、該高温冷却液整流部と前記温度感知可動部との隙間部分が前記高温冷却液の循環通路を形成して、前記高温冷却液整流部に流れる高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させる高温冷却液整流部構造を特徴とするサーモスタット装置である。
【0022】
第2の発明は、エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、前記弁体を閉弁方向に押し付勢する付勢部材を備え、エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面側から側面にかけて)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、前記付勢部材と前記温度感知可動部との間に高温冷却液整流部を形成し、前記吐出開口部は、前記高温冷却液整流部の上端側と前記温度感知可動部との隙間部分のみに形成されていることを特徴とするサーモスタット装置である。
【0023】
第3の発明は、エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、前記弁体を閉弁方向に押し付勢する付勢部材と、該付勢部材の付勢力を受けるとともに前記弁体に対応する弁座側の部材に固定されるフレームとを備え、エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、前記フレームの内側で前記温度感知可動部側に突出されて高温冷却液整流部を形成する構造を特徴とするサーモスタット装置である。
【0024】
第4の発明は、エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、前記温度感知可動部の延長軸が、前記高温冷却液整流部内の支持案内部に支持案内される構造を特徴とするサーモスタット装置である。
【0025】
第5の発明は、エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、前記温度感知可動部が前記高温冷却液整流部内の支持案内部に挿入案内される構造を特徴とするサーモスタット装置である。
【0026】
第6の発明は、エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、該高温冷却液整流部は、ハウジング本体の高温冷却液の流入路と支持案内部62とにより形成され、前記吐出開口部が前記支持案内部62に形成されるとともに、前記温度感知可動部が前記支持案内部62に支持案内される構造を特徴とするサーモスタット装置である。
【0027】
第7の発明は、エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、前記温度感知可動部は、その外周において前記高温冷却液整流部との間隙の形状に対応した突起部が設けられていることを特徴とするサーモスタット装置である。
【0028】
第8の発明は、エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、前記高温冷却液整流部は、内側へ縮径された縮径部が形成され、前記温度感知可動部の駆動に応じて、当該温度感知可動部と前記高温冷却液整流部との間隙が絞り自在に構成されていることを特徴とするサーモスタット装置である。
【0029】
第9の発明は、エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、前記温度感知可動部の外周から離間した位置からこれを取り囲むように、前記メインバルブ側から延長されているディフレクターを備えることを特徴とするサーモスタット装置である。
【0030】
第10の発明は、エンジンなどの冷却液回路に設けられ、エンジンにおいて加熱された高温冷却液を流入させるエンジン連結ポートと、エンジンへ再び冷却液を送り返すバイパスポートと、ラジエタへ冷却液を送り出すラジエタ連結ポートとを備え、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、前記バイパスポートに連絡され、前記エンジン連結ポートからの前記高温冷却液を前記温度感知可動部の周囲へと導いた後、これを前記バイパスポートへ流出させる冷却液整流部と、前記温度感知可動部におけるバイパスポート側に設けられたバイパスバルブとを備え、前記冷却液整流部は、前記温度感知可動部が前記エンジン連結ポートから流入する前記高温冷却液に対して常時露出された状態となる程度まで高さ調整された筒形で構成され、前記バイパスバルブは、前記温度感知可動部の駆動状態に応じて前記冷却液整流部内に挿入自在に構成されていることを特徴とするサーモスタット装置である。
【発明の効果】
【0031】
以上の構成からなる本発明は、以下の効果を奏する。
【0032】
バイパスポートからの高温冷却液をその温度や流速を大きく損なうことなく確実に温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させ伝熱させるようにする。前記温度感知可動部の全部または一部を覆い該温度感知可動部に近接する部位にその開口部位を位置させてなる高温冷却液整流部が設けられ、開口部位より手前では高温冷却液整流部の内側で温度感知可動部との隙間部分が高温冷却液の循環通路を形成し、開口部位の先では温度感知可動部の周囲を高温冷却液が取り巻き支配する状態となっている。以上により前記温度感知可動部が配置される域を高温冷却液が支配する領域とする高温冷却液整流部構造を形成するので次に述べるような効果を奏する。
【0033】
本発明では、殆ど高温冷却液の温度のみによって温度感知可動部の可動を制御することができる。高温冷却液の温度感知可動部への温度支配率を十分に高め該高温冷却液の温度の影響を受けて該温度感知可動部の可動状態を制御できる状態を実現することができる。
【0034】
ハウジング本体内部(高温冷却液整流部の吐出開口部から高温冷却液が吐出した先のスペース、以下同様)に、車室ヒーター用の回路から戻ってくる冷却液が流入する場合でも、高温冷却液整流部と該高温冷却液整流部を通過した高温冷却液が車室ヒーター用の回路からの冷却液をガードして、高温冷却液の温度感知可動部への温度支配率を維持することができる。
【0035】
ここで「高温冷却液の温度感知可動部への温度支配率」とは、下記の式で示される係数aで定義されるものである。
(温度感知可動部の感温温度)=a×(高温冷却液温)+b×(低温冷却液温)
【0036】
冷却液の熱を利用した車室ヒーターを流れる回路からの冷却液がハウジング本体内部に戻される場合でも、基本的には、上記式と同様である。
【0037】
したがって、従来のサーモスタットは、混合液である冷却液Cの液温を主に感知する装置であるが、本発明のサーモスタットは、十分にエンジン出口の冷却液(高温冷却液B)の液温を主に感知し該高温冷却液Bの液温を一定温度に保つように冷却液Cをエンジンに供給する装置への転換である。
【0038】
またこの転換は、冷却系におけるサーモスタット装置の装着位置関係を変更することなく実現するので、広く普及している従来のサーモスタット装置を採用して構築された冷却系設計を大きく見直す必要なく実現可能である。
【0039】
一般に冷却系において冷却液の最高温度には限度があり、それを超えないように冷却液温が設定され制御されなければならない。ところで、自動車などに搭載される冷却系において、冷却液がもっとも高温になる部分がエンジン出口の冷却液である。従来のサーモスタット装置では、さまざまな運転状況でエンジン出口の冷却液の温度(高温冷却液温)が許容限度を超えないように予めエンジンに供給する冷却液の温度を低く制御して供給する。しかし、本発明によれば、上記説明の効果により、エンジン出口液温を直接感知し制御するので、許容限度いっぱいの冷却液温設定が可能である。必要に応じてエンジンに供給する冷却液温を上げ下げしながらも、エンジン出口の冷却液温を高温側の許容限度付近で安定に保つので、エンジン内部の平均水温を従来技術に比べて高く設定することができる。
【0040】
このことは、エンジンの燃焼効率の向上及び、エンジンのフリクションロスの低減、熱的損失の低減等、に寄与し、結果としてエンジンの低燃費化を実現する。また、車室ヒーターの能力向上等にも寄与出来る。
【0041】
上記説明の効果により、安定して高温冷却液の温度を感知するので、エンジンを冷却する冷却液の液温が不安定となるという問題を克服し、高温冷却液温を中心とした冷却液温の安定した制御を実現することができる。これにより、エンジンの冷却液温変動による熱的膨張収縮を抑えることができ、エンジンへのストレスの軽減を実現する。
【0042】
これらの効果は、具体的には図11に示すような、本発明によって得られる自動車走行中の冷却液温特性により得ることが出来るものである。
【0043】
図11に示すデータは、同一の自動車に図10で説明した従来のサーモスタット装置を搭載した場合と本発明のサーモスタット装置を搭載した場合で、その他の条件は同一にして、また同一走行モードで試験したときのエンジン出口液温(高温冷却液温)の推移を記録したものである。
【0044】
例示的に説明すると、図11に示すような挙動を呈するある自動車においては、冷却系におけるエンジン出口の冷却液温はT℃(例えば97℃)が最も高能率、低燃費でエンジンが動作する冷却液温度理想値である。すなわち97℃一定のエンジン出口冷却液温でエンジンが動作することが理想的である。
【0045】
従来のサーモスタット装置ではエンジン出口の冷却液温度がT_(max)℃(例えば100℃)?T_(2)℃(例えば88℃)の温度差で、主にエンジンの負荷状態に同調して、次いでハウジング本体内部の冷却液流通状態の変動に伴い主に低温冷却液と高温冷却液との混合状態が不安定で変動し温度感知可動部が感温する該温度感知可動部周辺液温が不安定であること、等のために大きく変動する。
【0046】
本発明のサーモスタット装置によると、エンジン出口の冷却液温がT_(max)℃(例えば100℃)?T_(1)℃(例えば95℃)の温度差で安定的に推移する。
【0047】
エンジン出口の冷却液温(高温冷却液温)は、該エンジンの冷却必要度合いを示す指標と考えられ、上記説明の効果のごとく、エンジン出口液温を直接感知することは、サーモスタット装置がエンジンの必要冷却量を直接認識することであり、混合液の温度を主に感知するために従来のサーモスタット装置には困難であった対応応答性の向上を実現させる。
【0048】
また、高温冷却液整流部と温度感知可動部の位置関係に注目すれば、高温冷却液の温度が上昇する局面ではピストンシャフトが伸び動作をするので温度感知可動部は高温冷却液整流部の内部に進入し「高温冷却液の温度感知可動部への温度支配率」を上昇させ、エンジン出口液温が要求する冷却能力引出し方向への動作(メインバルブの開動作)の応答を早め、高温冷却液の温度が下降する局面ではピストンシャフトが押戻され動作をするので温度感知可動部は高温冷却液整流部の内部から外側に移動し「高温冷却液の温度感知可動部への温度支配率」を下降させ、エンジン出口液温が要求する冷却能力抑制方向への動作(メインバルブの閉動作)の応答を早める。以上によって温度感知可動部の高温冷却液温に対する応答性がメカニカルに向上する。
【0049】
また、バイパス回路の高温冷却液の流通量を少なくする場合でも、高温冷却液の温度への感度が高いので本発明の機能を十分発揮することが出来る。
【0050】
上記説明の効果により、従来のサーモスタット装置の欠点(4)で述べたディフレクター18のような複雑な構造をとる必要がない。
【0051】
従来のサーモスタット装置のメインバルブ9は、メインスプリング11の端末位置によって規定される方向に傾きながら開弁し始めるという特徴を持っているために、冷却系内における特性は、メインスプリングの端末位置によって異なったものである。それに対し、本発明のサーモスタット装置の冷却系内における特性は、高温冷却液整流部がメインバルブから流入する低温冷却液の温度感知可動部への作用を十分にガードするのでメインスプリングの端末位置によって殆ど左右されない。また、請求項2に記載の発明においては、メインバルブの傾き自体を抑制することが出来る。
【0052】
高温冷却液整流部を設けることにより、「高温冷却液の通路を絞る」機能を追加することが可能になり、従来のサーモスタット装置のバイパスバルブ13をバイパスポート3に押し付けるバイパススプリング14を不要とし、メインバルブを低温冷却液ポート側に押し付勢する付勢手段1つにすることを可能とする効果を奏する。
【0053】
また、この1つの付勢手段は高温冷却液整流部の外側に配置すると、高温冷却液整流部と温度感知可動部の感温部との間の領域には付勢手段が存在しない状態を作り出すことが可能となる。
【0054】
さらに、「付勢手段1つにすること」は、温度感知可動部内部へピストンシャフトが押し込まれる形で負荷される荷重を1つの付勢手段のみの付勢力に軽減させるという効果を奏する。
【0055】
図12は、この付勢力軽減の動作効果を、従来のサーモスタット装置と本願発明のサーモスタット装置の「冷却液温度とメインバルブの開度」の特性比較で示している。
【0056】
すなわち、従来のサーモスタット装置はバイパスバルブによってバイパスポートを閉止後、メインスプリングとバイパススプリングの二重付勢力であることから、温度感知可動部の内部の熱膨張体にかかる圧力が高くなるために熱膨張体の融点が上昇し、メインバルブの開度を大きくとるには、より高い冷却液温が必要となるため、変態点のある冷却液温に対するメインバルブの開度の変化となる。これに対して本発明のサーモスタット装置は一つの付勢力によるので、メインバルブの冷却液温に対する開度の変化は、スムーズで、より精度の高い冷却液温度の制御を実現するものである。また、相対的に低い冷却液温でメインバルブの開度を大きくとることができ、冷却液温が高くなったときにラジエタの冷却能力を十分に引き出すことができ、冷却液温のオーバーシュートを防ぐことができる。
【0057】
また、付勢力の軽減は、温度感知可動部への荷重負荷の軽減による長寿命化を実現する。
【0058】
また、温度感知可動部への荷重負荷を小さくすることができたことにより、より小型の温度感知可動部を使用することが可能となる。温度感知可動部を小型化すると、応答性(液温変化に対する追従性)が良くなるため、より安定した冷却液の温度制御が可能となり、小型化によるコスト低減もできる。
【0059】
また、請求項4に記載の発明においては、ピストンシャフト、温度感知可動部および延長軸からなる同軸構造体をピストンシャフト支持部と、該ピストンシャフト支持部から離れた支持案内部との二点支持構造としたことと、温度感知可動部の感温部の側面をガイドするのではなく延長軸を支持案内部でガイドする構造としたので、延長軸と支持案内部のクリアランスを小さく設定できることにより、エンジンの振動や冷却液の脈動、走行振動による温度感知可動部の振れ幅を小さくできるという効果を奏する。
【0060】
これにより、温度感知可動部、メインバルブの動きがスムーズな動きとなり、且つ、ストレスを軽減してサーモスタット装置の長寿命化を実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、自動車のエンジンの冷却温度を制御する際に適用可能なサーモスタット装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0062】
図1は、本発明の第1の実施形態としてのサーモスタット装置300の構成を示している。
【0063】
このサーモスタット装置300は、ラジエタ52で冷却された低温冷却液Aと、エンジン51からバイパス53を介して供給される高温冷却液Bとが流入され、これらの混合比率を制御することで、エンジン51へ流入させる冷却液Cの温度を制御するいわゆる入口制御方式の範疇に入るものである。
【0064】
即ち、この制御系においては、エンジン51を通過した高温冷却液Bがバイパス53を介してそのまま送られてくるバイパスポート33と、エンジン51を通過した高温冷却液Bの一部がラジエタ52において冷却されて低温冷却液Aとされ、この低温冷却液Aがラジエタ52から供給されるラジエタ連結ポート31とを備え、ハウジング本体内部32において低温冷却液A及び高温冷却液Bは互いに混合されて冷却液Cが生成される。この生成された冷却液Cは、エンジン連結ポート30を介してエンジン51へと供給されることになる。
【0065】
サーモスタット装置300が特徴的なのは、殆ど高温冷却液の温度のみによって温度感知可動部の可動状態を制御できる状態を実現することができるので、エンジン51から流出される高温冷却液Bの水温を一定にするべく動作することである。
【0066】
なお、このバイパス53からラジエタ52に至る途中において車室ヒータ101が設けられている。
【0067】
この制御を実行する上で、サーモスタット装置300は、さらにハウジング本体48と、このハウジング本体48に対して取り付けられたハウジングカバー47によりその筐体を形成することになる。ハウジング本体48は、内部にバイパスポート33と、エンジン連結ポート30に対応した形状が成型されてなる。またハウジングカバー47は、ラジエタ連結ポート31に対応した形状が成型されてなる。なお、このハウジング本体48と、ハウジングカバー47はそれぞれアルミ(ダイカスト)やプラスチック等からなる。
【0068】
また、このサーモスタット装置300は、温度感知可動部39と、温度感知可動部39に一端を収納されたピストンシャフト34と、ラジエタ連結ポート31側に設けられ、ピストンシャフト34の他端を支持するピストンシャフト支持部35と、温度感知可動部39に対して一体的に取り付けられたメインバルブ36と、このメインバルブ36をラジエタ連結ポート31側に押し付勢するスプリング41と、バイパスポート33からハウジング本体内部32へ向けて突出されてなり、当該バイパスポート33からハウジング本体内部32へ向けて吐出開口部46を介して連結された高温冷却液整流部42と、を備え、さらに、温度感知可動部39からバイパスポート33側に延長されている延長軸43と、これを支持案内するため高温冷却液整流部42内に形成された支持案内部44とを備えている。
【0069】
高温冷却液整流部42の材質は、例えば樹脂製であるが、これに限定されるものではない。高温冷却液整流部42の上端は、図1に示すように、温度感知可動部39の下端よりも上方に位置する。その結果、温度感知可動部39の下端は、高温冷却液整流部42内に入り込む形となる。なお、ここでいう上下における上方とは、ラジエタポート31側に相当し、下方とは、バイパスポート33側に相当する。以下の説明においても同様とする。
【0070】
なお、この高温冷却液整流部42の内径は、温度感知可動部39の外径よりも広めに設定されている。その結果、この高温冷却液整流部42を構成する管内に、温度感知可動部39の先端を挿入する際には、この高温冷却液整流部42の内壁と、温度感知可動部39の外壁とが互いに空間的に余裕を持った状態で挿入される、いわゆる遊挿可能な状態とされている。
なお、この図1に示されるサーモスタット装置300は、エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路の流路断面を、そのままの流路断面で、前記高温冷却液が温度感知可動部39の全部または一部を覆うまで連絡・延長した高温冷却液整流部42を形成し、該高温冷却液整流部42と温度感知可動部39との隙間部分が前記高温冷却液の循環通路を形成して、高温冷却液整流部42に流れる高温冷却液を、温度感知可動部39の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部46から流出させる高温冷却液整流部構造を有している。
【0071】
ちなみに、この高温冷却液整流部42の外周には、上記したスプリング41が嵌合されることになる。この高温冷却液整流部42には、フレーム59が更に埋め込まれてなり、このフレーム59の一端は、ハウジングカバー47に固定されている。ハウジング本体48がエンジンブロックの場合、ハウジングカバー47に固定された形が望まれる場合が多いことから、図1に示すようなフレーム59の形態が望ましい。ちなみに、このフレーム59の構成は、省略されていてもよい。
【0072】
支持案内部44は、その周囲が高温冷却液整流部42の内壁に形成されている。また、この支持案内部44は、図示しない孔が上下面にかけて貫通されており、高温冷却液Bはこの図示しない孔を介してバイパスポート33から吐出開口部46に向けて流れ、ハウジング本体内部32へと流出されることになる。
【0073】
次に、上述の如き構成からなるサーモスタット装置300の動作について説明をする。エンジン51により熱せられた高温の高温冷却液Bがバイパスポート33へと供給されてきた場合に、当該高温冷却液Bは高温冷却液整流部42へと送られる。この高温冷却液整流部42は、送られてきた高温冷却液Bを直接に温度感知可動部39の周囲に接触させることができる。この高温冷却液整流部42内には、温度感知可動部39が予め遊挿された状態で静止していて、この温度感知可動部39と、高温冷却液整流部42との間に所定の隙間が予め形成されている。高温冷却液Bは、この温度感知可動部39と高温冷却液整流部42との間に形成された隙間を通ってハウジング本体内部32へと流出していくことになる。これにより、高温冷却液Bを温度や流速を損なうことなく直接に温度感知可動部39の周囲(底面・側面)に接触させ伝熱させるようにすることが可能となる。また、これに伴って温度感知可動部39は、高温冷却液Bの温度を高効率に感知することができ、当該高温冷却液Bの液温に応じてこの温度感知可動部39を可動させることが可能となる。
【0074】
また吐出開口部46からハウジング本体内部32へと流出した高温冷却液Bも、最初は温度感知可動部39の周囲を取り巻くようにして流れる。これにより温度感知可動部39が配置される領域を高温冷却液が支配する状態を形成することができる。
【0075】
メインバルブ36は、スプリング41によりラジエタ連結ポート31側に押し付勢されているため、温度感知可動部39が駆動しない場合には、ラジエタ連結ポート31とハウジング本体内部32とが互いに遮蔽された状態となっている。これに対して、所定温度以上の高温冷却液Bが高温冷却液整流部42内に供給された場合には、温度感知可動部39がバイパスポート33側へ駆動し、これに伴ってメインバルブ36は、スプリング41の荷重に逆らって開駆動され、ラジエタ連結ポート31からハウジング本体内部32への低温冷却液Aの流入量を増大させることが可能となる。その結果、このサーモスタット装置300においては、ラジエタ連結ポート31からハウジング本体内部32への低温冷却液Aの流入量を高温冷却液Bの温度に応じて制御することが可能となる。
【0076】
本発明を適用したサーモスタット装置300は、図2に示す第2実施形態のように、温度感知可動部39が高温冷却液整流部42内部の支持案内部62に挿入案内される構成にされていても良い。なお、この図2以降において、上述した図1と同様の構成要素、部材に関しては、同一の符号を付すことにより以下での説明を省略する。
【0077】
支持案内部62は、鋼材を折曲げ加工、プレス加工等することにより構成されてなり、温度感知可動部39の側面を挿入可能に配置することにより、これを支持案内可能な構成としている。ちなみに、この支持案内部62は、上述したフレーム59と一体化されるものであってもよいし、また互いに離間されているものであってもよい。また、この支持案内部62には、図示しない孔が多数設けられている。高温冷却液Bは、この図示しない孔を通過していくことになる。
【0078】
本発明を適用したサーモスタット装置300は、図3に示す第3実施形態に適用されるようにしてもよい。
【0079】
この図3に示す形態では、高温冷却液整流部42がハウジング本体48の高温冷却液の流入路と支持案内部62との組み合わせにより形成され、吐出開口部46が支持案内部62に形成されるとともに、温度感知可動部39が支持案内部62に支持案内されている。
【0080】
支持案内部62には、図示しない複数の孔=吐出開口部46が設けられており、バイパスポート33から供給された高温冷却液Bは、直接に温度感知可動部39の周囲(底面・側面)に接触、伝熱した後この吐出開口部46を介してハウジング本体内部32へと流出されることになる。これにより、高温冷却液整流部の機能を維持しながら簡単コンパクトな構成を実現することができる。
【0081】
本発明を適用したサーモスタット装置300は、例えば図1に示すように、温度感知可動部39の外周において高温冷却液整流部42との間隙の形状に対応した突起部40が形成されていてもよい。高温の高温冷却液Bが供給された場合には、図1(b)に示すように温度感知可動部39がバイパスポート33側へ駆動し、また、これに伴って突起部40も同様にバイパスポート33側へとシフトしていくことになる。その結果、温度感知可動部39と高温冷却液整流部42との間に形成された隙間を突起部40により狭めることが可能となり、高温冷却液Bのハウジング本体内部32への流路を狭くすることが可能となる。その結果、バイパスポート33からハウジング本体内部32への高温冷却液Bの流量を少なくすることが可能となる。このため、この突起部40を設けることによっても、エンジン51からの高温冷却液Bとラジエタ52からの低温冷却液Aとの混合比を制御することが可能となる。また、高温冷却液Bの液温が高い場合により多くの高温冷却液Bをラジエタ52へまわし、冷却能力を最大に引き出すことができ、さらにこれをシンプルな構造で実現可能としている。
【0082】
本発明を適用したサーモスタット装置300は、例えば図4に示すように、高温冷却液整流部42における内壁において、内側に縮径された縮径部61を形成するようにしてもよい。これにより、温度感知可動部39の駆動に応じて温度感知可動部39と高温冷却液整流部42との間隙が絞り自在に構成される。
【0083】
その結果、高温冷却液ポート33からハウジング本体内部32への高温冷却液Bの流量を少なくすることが可能となり、より多くの高温冷却液Bをラジエタ52へまわし冷却能力を最大に引き出すことができる。また、この縮径部61によってもエンジン51からの高温冷却液Bとラジエタ52からの低温冷却液Aとの混合比を制御することが可能となる。
【0084】
さらにまた、バイパスポート33からの高温冷却液Bのハウジング本体内部32への流入量を抑制制御しながらも温度感知可動部39周辺の高温冷却液Bの流通クリアランスを狭めることで該高温冷却液Bの流速を大きく損なわなくすることができる。これにより、高温冷却液整流部42内の高温冷却液Bの流通量が抑制された状態でも温度感知可動部39が配置される領域を高温冷却液Bが支配する状態をより確実に維持できる。
【0085】
また、縮径部61は、テーパー形態、凹湾曲形態、凸湾曲形態など様々な形態を形成することができるので、温度感知可動部39の進入により、高温冷却液Bの流路を絞る際に高温冷却液Bの流入が適度に徐々に絞られるようにチューニングすることができる。これにより、急激に高温冷却液Bの通路を絞る場合、或いはバイパスポート33と、ハウジング本体内部32とを完全に遮蔽してしまう場合に、従来のサーモスタット装置と比較して、冷却液の温度ハンチングが生じることなく、安定した冷却液温制御を実現することができる。
【0086】
本発明を適用したサーモスタット装置300は、例えば図5に示す形態に適用されるようにしてもよい。
【0087】
この図5に示す形態では、更にメインバルブ36側から延長されてきているディフレクター70を備えている。ディフレクター70は、温度感知可動部39の外周から離間した位置から、これを取り囲むようにして配設されている。図5では、ディフレクター70は、スプリング41の外側に配置されているが、それに限らず、スプリング41の内側にこのディフレクター70を備えることも可能である。このディフレクター70を備えることにより、高温冷却液整流部42の内壁に沿って導かれた高温冷却液Bは、ディフレクター70によりその流れをより確実に温度感知可動部39の周囲に接触させることが可能となる。また、このディフレクター70の存在により、低温冷却液Aを温度感知可動部39に不用意に接触させないようにガードすることが可能となる。
【0088】
また、温度感知可動部39が駆動したときに、ディフレクター70の下端部分と高温冷却液整流部42の上端部分との位置関係によって、高温冷却液Bのハウジング本体内部への流出を絞る構造にするようにしてもよい。その結果、バイパスポート33からハウジング本体内部32への高温冷却液Bの流量を少なくすることが可能となる。このため、このディフレクター70を設けることによっても、エンジン51からの高温冷却液Bとラジエタ52からの低温冷却液Aとの混合比を制御することが可能となる。また、高温冷却液Bの液温が高い場合により多くの高温冷却液Bをラジエタ52へ回すことができ、冷却能力を最大に引き出すことが可能となる。
【0089】
本発明を適用したサーモスタット装置300は、例えば図6(a)に示す形態に適用されるようにしてもよい。
【0090】
この図6(a)に示す形態では、温度感知可動部39とメインバルブ36とを連結する前記温度感知可動部と一体的なメインバルブ連結部位66を備えている。また、メインバルブ連結部位66を支持案内するための支持案内部67も備えている。
【0091】
このメインバルブ連結部位66は、温度感知可動部39に一体的に取り付けられていると共に、メインバルブ36にも一体的に取り付けられている。このため、温度感知可動部39が高温冷却液整流部42に向けて駆動されると、このメインバルブ連結部位66も同様に当該方向へ向けて駆動され、さらにこれに伴ってメインバルブ36も駆動することになる。このような構成からなるメインバルブ連結部位66を支持案内部67により支持案内することにより、特に温度感知可動部39とメインバルブ36の上下駆動を安定した状態で実行することが可能となる。
【0092】
また、この図6(a)に示す形態においては、メインバルブ連結部位66を長めに設定し、その先端において温度感知可動部39を設けている。そして、高温冷却液整流部42の上端の高さを押し下げられている。その結果、バイパスポート33の出口付近にこの温度感知可動部39を位置させることが可能となり、バイパスポート33から排出される高温冷却液Bをこの温度感知可動部39の周囲に整流させることができる。なお、この高温冷却液整流部42の上端の高さは、冷却系内部における本サーモスタット装置に対するニーズに応じて適正にチューニング出来る。
【0093】
また、本発明を適用したサーモスタット装置300は、高温冷却液整流部42における内壁において、内側に縮径された縮径部63を形成するようにしてもよい。この縮径部63を高温冷却液整流部42内において形成させることにより、温度感知可動部39の駆動に応じて、図6(b)に示すように、当該温度感知可動部39と高温冷却液整流部42との間隙に形成される流路を狭く構成することが可能となり、いわゆる絞り自在に構成することが可能となる。
【0094】
特に、この図6に示す形態では、バイパスポートの高温冷却液の流路を殆どそのまま高温冷却液整流部とする、よりシンプルな高温冷却液整流構造とすることができ、温度感知可動部39の全面に対し、バイパスポート33から高温冷却液整流部42を通じてなんらの障害物もなく高温冷却液Bを作用(伝熱)させることができ、整流効果をより効果的に発揮できる。また、ハウジング本体がエンジンブロックに成型される場合には特に、装置全体をよりコンパクトな構成とすることが可能となる。
【0095】
本発明を適用したサーモスタット装置300は、例えば図7(a)に示す形態に適用されるようにしてもよい。
【0096】
なお、図6、7では、エンジンブロック等に形成される高温冷却液Bの通路を高温冷却液整流部と兼用させることができることから、製作に伴う加工費、材料費を低減させることが可能となる。
【0097】
本発明を適用したサーモスタット装置300は、例えば図8(a)に示す形態に適用されるようにしてもよい。
【0098】
この図8(a)に示す形態では、温度感知可動部39の周囲には、案内部材68を形成している。高温冷却液整流部42は、筒形で構成され、開口部内に案内部材68を嵌挿させることにより案内自在としている。即ち、この案内部材68が、これが嵌挿される高温冷却液整流部42により案内されることにより、温度感知可動部39を上下方向へ安定した状態で駆動させることが可能となる。
【0099】
なお、図8に示す形態は、案内部材68を筒形の高温冷却液整流部42の内側に嵌挿させる場合の図であるが、案内部材68が、高温冷却液整流部42の外壁側により案内されても良い。
【0100】
また、この案内部材68は、バイパスポート33から供給されてきた高温冷却液Bを温度感知可動部39の周囲へ整流し、さらにハウジング本体内部32へ向けて流出可能な整流路69が形成されている。この整流路69を流れる高温冷却液は、案内部材の周壁に設けた孔102を通ってハウジング本体内部32へ流出される。
【0101】
温度感知可動部39が駆動したときに、孔102と高温冷却液整流部42との位置関係によって、高温冷却液Bのハウジング本体内部32への流出路を絞る構造にするようにしてもよい。その結果、バイパスポート33からハウジング本体内部32への高温冷却液Bの流量を少なくすることが可能となる。このため、この案内部材68を設けることによっても、エンジン51からの高温冷却液Bとラジエタ52からの低温冷却液Aとの混合比を制御することが可能となる。また、高温冷却液Bの液温が高い場合により多くの高温冷却液Bをラジエタ52へ回すことができ、冷却能力を最大に引き出すことが可能となる。
【0102】
なお、この案内部材68の長さをバイパスポート33側へさらに延長した構成としておくことにより、高温冷却液整流部としての主たる機能を案内部材68が担うようにしてもよい。
【0103】
本発明を適用したサーモスタット装置400は、上記の如き制御を実行する上で適用される場合に限定されるものではなく、出口制御を実行する上で適用されるものであってもよい。
【0104】
図9は、出口制御を実行する上で適用されるサーモスタット装置400の構成を示している。このサーモスタット装置400は、エンジン51において加熱された高温冷却液を内部へと流入させるためのエンジン連結ポート72と、エンジン51へ再び冷却液を送り返すバイパスポート73と、ラジエタへ冷却液を送り出すラジエタ連結ポート71とを備えている。なお、この図9に示すサーモスタット装置400においても、上述した図1と同様の構成要素、部材に関しては、同一の符号を付すことにより以下での説明を省略する。
【0105】
この図9に示すサーモスタット装置400は、さらに延長軸43に取り付けられているバイパスバルブ74を備えている。このバイパスバルブ74を形成させておくことにより、温度感知可動部39の駆動に応じて、図9(b)に示すように、バイパスポート73への流路をこのバイパスバルブ74により閉塞させることが可能となる。これにより、流量を制御することが可能となる。
【0106】
なお、高温冷却液整流部42は、温度感知可動部39の駆動状態の如何に関わらず、温度感知可動部39がエンジン連結ポート72から流入する高温冷却液に対して露出された状態となる程度まで高さ調整された筒形で構成されている。このため、エンジン連結ポート72から供給されてくる高温冷却液が直接的にこの温度感知可動部39に接触し伝熱することになり、主として、かかる高温冷却液の温度に基づいて温度感知可動部39が上下に駆動自在とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の第1の実施形態と突起部が設けられた例を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施形態を示す図である。
【図4】本発明の縮径部の実施例を示す図である。
【図5】本発明のディフレクターの実施例を示す図である。
【図6】本発明を適用したサーモスタット装置の他の構成例を示す図である。
【図7】エンジンブロック等に形成される高温冷却液Bの通路を高温冷却液整流部と兼用した場合の一例を示す図である。
【図8】温度感知可動部の周囲に案内部材を形成した例を示す図である。
【図9】本発明の出口制御の実施形態を示す図である。
【図10】従来のサーモスタット装置の構成例を示す図である。
【図11】各負荷運転モードに対するエンジン出口温度の関係を示す図である。
【図12】冷却液温度に対するメインバルブの開度の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0108】
30 エンジン連結ポート
31 ラジエタ連結ポート
32 ハウジング本体内部
33 バイパスポート
34 ピストンシャフト
35 ピストンシャフト支持部
36 メインバルブ
39 温度感知可動部
41 スプリング
42 高温冷却液整流部
44 支持案内部
46 吐出開口部
47 ハウジングカバー
48 ハウジング本体
51 エンジン
52 ラジエタ
53 バイパス
59 フレーム
62 支持案内部
300 サーモスタット装置
400 サーモスタット装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路の流路断面を、そのままの流路断面で、前記高温冷却液が前記温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長した高温冷却液整流部を形成し、
該高温冷却液整流部と前記温度感知可動部との隙間部分が前記高温冷却液の循環通路を形成して、
前記高温冷却液整流部に流れる高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させる高温冷却液整流部構造
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項2】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
前記弁体を閉弁方向に押し付勢する付勢部材を備え、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面側から側面にかけて)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、前記付勢部材と前記温度感知可動部との間に高温冷却液整流部を形成し、
前記吐出開口部は、前記高温冷却液整流部の上端側と前記温度感知可動部との隙間部分のみに形成されていること
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項3】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
前記弁体を閉弁方向に押し付勢する付勢部材と、
該付勢部材の付勢力を受けるとともに前記弁体に対応する弁座側の部材に固定されるフレームとを備え、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、前記フレームの内側で前記温度感知可動部側に突出されて高温冷却液整流部を形成する構造
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項4】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、前記温度感知可動部の延長軸が、前記高温冷却液整流部内の支持案内部に支持案内される構造
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項5】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、
前記温度感知可動部が前記高温冷却液整流部内の支持案内部に挿入案内される構造
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項6】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、該高温冷却液整流部は、ハウジング本体の高温冷却液の流入路と支持案内部62とにより形成され、前記吐出開口部が前記支持案内部62に形成されるとともに、前記温度感知可動部が前記支持案内部62に支持案内される構造
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項7】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、
前記温度感知可動部は、その外周において前記高温冷却液整流部との間隙の形状に対応した突起部が設けられていること
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項8】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、
前記高温冷却液整流部は、内側へ縮径された縮径部が形成され、
前記温度感知可動部の駆動に応じて、当該温度感知可動部と前記高温冷却液整流部との間隙が絞り自在に構成されていること
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項9】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
エンジンで加熱された高温冷却液をサーモスタット装置にバイパスさせる高温冷却液流路が、温度感知可動部の全部または一部を覆うまで連絡・延長されて、
該高温冷却液流路に流れる前記高温冷却液を、前記温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させた後、吐出開口部から流出させるように、高温冷却液整流部を形成し、
前記温度感知可動部の外周から離間した位置からこれを取り囲むように、前記メインバルブ側から延長されているディフレクターを備えること
を特徴とするサーモスタット装置。
【請求項10】
エンジンなどの冷却液回路に設けられ、エンジンにおいて加熱された高温冷却液を流入させるエンジン連結ポートと、エンジンへ再び冷却液を送り返すバイパスポートと、ラジエタへ冷却液を送り出すラジエタ連結ポートとを備え、
冷却液の温度変化により熱膨張または収縮する熱膨張体を内蔵する温度感知可動部と、この温度感知可動部に一端を収納され前記熱膨張体の熱膨張、収縮により摺動駆動するピストンシャフトを有し、該ピストンシャフトの駆動により弁体の開閉を行うサーモスタット装置において、
前記バイパスポートに連絡され、前記エンジン連結ポートからの前記高温冷却液を前記温度感知可動部の周囲へと導いた後、これを前記バイパスポートへ流出させる冷却液整流部と、前記温度感知可動部におけるバイパスポート側に設けられたバイパスバルブとを備え、
前記冷却液整流部は、前記温度感知可動部が前記エンジン連結ポートから流入する前記高温冷却液に対して常時露出された状態となる程度まで高さ調整された筒形で構成され、
前記バイパスバルブは、前記温度感知可動部の駆動状態に応じて前記冷却液整流部内に挿入自在に構成されていること
を特徴とするサーモスタット装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2011-11-01 
結審通知日 2011-11-08 
審決日 2011-11-22 
出願番号 特願2008-506204(P2008-506204)
審決分類 P 1 123・ 832- YA (F01P)
P 1 123・ 853- YA (F01P)
P 1 123・ 851- YA (F01P)
P 1 123・ 121- YA (F01P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 粟倉 裕二  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 小谷 一郎
安井 寿儀
登録日 2009-12-11 
登録番号 特許第4422193号(P4422193)
発明の名称 サーモスタット装置  
代理人 安彦 元  
代理人 林 信之  
代理人 安彦 元  
代理人 林 信之  
代理人 安彦 元  
代理人 鷺 健志  
代理人 林 信之  

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