• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1251903
審判番号 不服2009-5289  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-11 
確定日 2012-02-09 
事件の表示 特願2003-132280「乳児重症ミオクロニーてんかん関連遺伝子変異と乳児重症ミオクロニーてんかん診断方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日出願公開、特開2004-329153〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は,平成15年5月9日の出願であって,平成21年2月5日付けで拒絶査定がなされ,平成21年3月11日にこれを不服とする審判請求がなされたものである。
そしてその請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成20年9月29日に提出された手続補正書により補正された本願明細書及び図面の記載からみて以下のとおりのものである。

「【請求項1】 乳児重症ミオクロニーてんかんに関連する遺伝子由来のポリヌクレオチドであって,配列番号1の塩基配列において,以下の変異:
(a) 第302位gがaに置換;
(b) 第429-430位gtが欠失;
(c) 第568位tがcに置換;
(d) 第1303位gがtに置換;
(e) 第2772位gがcに置換;
(f) 第2772位gがaに置換;
(g) 第2801位tがaに置換;
(h) 第2806位cがtに置換;
(i) 第2807位gがaに置換;
(j) 第2825位gがaに置換;
(k) 第3494-3495位ttが欠失;
(l) 第4034位tがcに置換;
(m) 第4641-4643位aatが欠失;
(n) 第4903位cがtに置換;
(o) 第5045位tがcに置換;
(p) 第5051位aがgに置換;
(q) 第5266-5268位tttが欠失;
(r) 第5312位aがgに置換;および
(s) 第5704位cがtに置換
のいずれか1を有するポリヌクレオチド。」

第2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された,本願優先日前に頒布された刊行物であるNeurology,2002年 4月,Vol. 58,pp.1122-1124は,「乳児重症ミオクロニーてんかんにおけるSCN1Aの頻々と起こる変異」の表題の論文であり,
「ニューロンの電圧作動性ナトリウムチャネルのαサブユニットタイプI遺伝子(SCN1A)中の突然変異は,乳児重症ミオクロニーてんかん(SMEI)の原因であることが見出された。著者は,SMEIの日本人患者のSCN1Aの新しい変異について記述する。それらは12人の無関係な患者および1組の一卵性双生児をスクリーニングし,タンパク質の短縮に結びつく10の変異を検知した。」(要約)と記載され,
「最近,SMEIの患者に,電圧作動性ナトリウムチャネルのαサブユニットタイプIをコードする遺伝子(SCN1A)に変異が見出された。これらの変異はヘテロ接合体でde novoであった(4つのフレームシフト,1つのナンセンス,1つのスプライスドナー,そして1つのミスセンス)。・・・」(1122頁左欄第2段落)と記載され,
「SCN1A及びSCN2Aの変異分析の方法は,我々の以前の文献に記載されている。・・・ゲノムDNAは,・・・PCRにより増幅され,配列決定により分析された。PCRプライマーは,cDNA(GenBankアクセッション番号AY043484)とゲノム配列(番号AC010127及びAC021673)の比較により明らかにされたSCN1Aの全ての26のコードエクソンと・・を増幅するようデザインされた。・・・」(1122頁右欄変異分析の項)と記載され,
図1に乳児重症ミオクロニーてんかんにおける電圧作動性ナトリウムチャネルNa_(V)1.1の変異が図示され,
「患者3,7,12及び13の両親は,正常な対立遺伝子を持っていることが明らかにされ,これらの患者の変異はde novoであることが示されている(図2)」(1123頁左欄10?12行)と記載され,
「我々は,SMEIの14の日本の患者のなかに,SCN1A遺伝子に3つのフレームシフトと7つのナンセンス変異を同定した。我々の結果は,ナンセンスとフレームシフト変異(ミスセンス変異よりもむしろ)が,SMEIの主要因であることを確認するものである。興味深いことに,難治か悪性の経過を示すSMEIをSCN1Aの短縮変異が引き起こすのに対して,同じ遺伝子のミスセンス変異だけが,むしろ良性なGEFS+表現型となる。・・・」(1123頁左欄から右欄のディスカッションの項)と記載されている。

第3 対比
引用例においては,コード領域においては本願の配列番号1のものと同じ配列である,GenBankアクセッション番号AY043484の配列を利用して,PCRによりコード領域のポリヌクレオチドを得,これを配列決定することにより乳児重症ミオクロニーてんかん患者における変異を特定している。
そうすると,本願発明と引用例に記載されたポリヌクレオチドを比較すると,両者は,乳児重症ミオクロニーてんかんに関連する遺伝子由来のポリヌクレオチドであって,配列番号1の塩基配列において,変異を有するポリヌクレオチドである点で一致しているが,本願発明は,(a)?(s)の特定の変異に関するものであるが,引用例には,これとは異なる別の変異が記載されるだけである点で相違している。

第4 判断
引用例には,わずか14人の乳児重症ミオクロニーてんかん患者について,SCN1A遺伝子の変異を調べたことが記載されるだけであるから,当業者であれば,より多くの乳児重症ミオクロニーてんかん患者についての,SCN1A遺伝子の変異の情報を得て,乳児重症ミオクロニーてんかんとSCN1A遺伝子の変異の関連について検討したいと当然に想到するものである。
また,引用例には,乳児重症ミオクロニーてんかんの主要因が,SCN1A遺伝子のナンセンスとフレームシフト変異であり,これらの変異がde novo変異であることが示されている。そして,ナンセンスとフレームシフト変異は,遺伝子の様々な個所で起こる可能性があるものであるから,当業者であれば,乳児重症ミオクロニーてんかんにおいて,引用例に示された変異のみならず,他にも様々な変異があることを当然に想到するものである。
そうであるから,様々な乳児重症ミオクロニーてんかんの患者から,引用例に記載された方法により,新たなSCN1A遺伝子の変異を特定する程度のことは,当業者が容易になしえることであり,本願発明の変異のいずれも,そうして特定される変異の1つにすぎないものであって,当業者が容易に発見できる程度のものにすぎない。

そして,本願発明の変異のいずれもが,引用例に記載された変異から,当業者が予測できない格別顕著な効果を有しているものとも,明細書の記載からは認めることができない。

したがって,本願発明は,引用例に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(請求人の反論について)
請求人は,(1)本願発明による新規19変異を診断指標として追加することによる診断精度の大幅な増加は優れた顕著な効果であること,(2)生体機能にとって重要なSCN1Aに新しい変異が次々と生じるとすれば,その変異はSMEIのみならず,様々な神経疾患等の障害との関連性が今よりも多く報告されているはずであり,SMEIと関連するSCN1A変異は次々と新たに生じる訳ではなく,限られた個数の変異がSMEIと関連していると考えるのが当然で,文献1(原査定の拒絶の理由に引用されたAm. J. Hum. Genet.,2001年,Vol. 68,pp.1327-1332)及び文献2(引用例に相当)がそれぞれ異なるSCN1A変異を報告しているとしても,さらに新しい変異が存在するか否かを本願発明の時点で予測することは不可能であること,(3)文献1はベルギー人患者の変異であり,文献2は日本人患者の変異で,文献1と文献2が異なる変異を報告しているとしても,それは人種の違いによるものであり,文献1とは異なる変異が文献2で報告されているからといって,このことがさらに別の新規変異の存在を保証するものではないことを主張するので検討する。

(1)の点について,本願発明は,19種類の変異のいずれか1を有するポリヌクレオチドであり,19種類の変異すべてを含むものでない。また,請求項7の「乳児重症ミオクロニーてんかんの検査方法であって,被験者から単離した染色体DNA中に請求項1のポリヌクレオチドが存在するか否かを検出する」との記載によれば,乳児重症ミオクロニーてんかんの検出は,本願発明に係る19種類の変異のうちの1種類のみの変異に基づき行うことも前提としているものである。したがって,新規19変異すべてを診断指標とすることが前提の請求人の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであり採用できないし,そもそも,診断精度の増加は,検出しようとする変異の種類が増加したことから,当業者が当然に予測できるものであって,格別顕著な効果とはいえない。
(2)の点について,そもそも,引用例の記載によれば,わずか14人の患者から,10種類もの変異が発見されているのであり,他の変異も存在すると予測するは極めて自然なことである。
引用例には,SMEIの患者が電圧作動性ナトリウムチャネルのαサブユニットタイプIの短縮という重大な変異を有していることが示されてはいるが,こららの患者が,さらに別の様々な神経疾患等の障害があることは示されていない。SCN1Aの変異が,SMEIのみならず,様々な神経疾患等の障害との関連性があるとする請求人の主張の根拠が不明であり,採用できない。
また,引用例には,SMEIにおけるSCN1Aの変異が,de novo変異であることが示されており,SMEIと関連するSCN1A変異は,SMEIの発症と関連して新たに発生しているものと考えられ,次々と新たに生じる訳ではないとする請求人の主張の根拠も不明である。
さらに,Biochemical and Biophysical Research Communications, 295 (2002) p.17-23に,文献1や引用例を発表したのとは別のグループがSMEIにおけるSCN1Aの変異について発表しているし,本願の発明者らも,「てんかん研究」21巻1号(2003年2月)p.43に,29例のSMEIにおける14例のSCN1Aの変異を検討したことを発表していることも,さらに新しい変異が存在すると当業者が想到していたことの査証となるものである。
(3)の点について,家族性の遺伝する変異であれば,人種の違いにより差異が生じる場合もあろうが,SCN1A遺伝子のde novo変異が,人種の違いにより格別に異なるという理由も不明であり,請求人の主張は採用できない。

第5 特許法第36条第6項第2号
1.平成20年7月18日付け拒絶理由通知
特許法第158条の規定により効力を有するとされる,平成20年7月18日付け拒絶理由通知により通知された拒絶理由の1つは,この出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないというものであり,下記の点が付記されている。

請求項1には,配列番号1に表された塩基配列中における19種類の変異より許容選択される1以上の変異を有するポリヌクレオチドが記載されている。
ここで,上記のポリヌクレオチドには,理論上,非常に多種類の変異が存在すると認められる。
しかし,発明の詳細な説明を参酌すると,上記の変異はSCN1A遺伝子における変異であることが記載されているが(段落【0008】参照),SMEIの原因であるSCN1A遺伝子の変異は,文献1に示されているように出願時において公知であるから(表2参照),上記の19種類の変異より許容選択される1以上の変異を有するポリヌクレオチドは,重要な化学構造を共有するものであるとは認められない。
したがって,一の請求項から一の発明が明確に把握できないから,請求項1に係る発明は明確でない。

2.判断
本願発明の解決しようとする課題は,明細書の段落0008にあるように,SCNA1A遺伝子に存在するSMEIに関連した新規の遺伝子変異と,この遺伝子変異を利用したSMEI診断方法を提供することにあるが,拒絶理由で指摘されたように,SMEIの原因であるSCN1A遺伝子の変異は,出願時において公知であるから,本願発明の19種類の変異のいずれもが,SMEIに関連したSCN1A遺伝子の変異である点で共通していることのみで,一の発明に包含されうる一連の発明とはいえない。
そして,SMEIの診断における重要な化学構造とは,課題解決手段であるところの具体的な変異の種類であると解されるが,本願発明の19種類の変異はそれぞれに異なり,重要な化学構造を共有するものでないので,19種類の変異のいずれか1を有する本願発明は,それぞれ解決手段の異なる別の19の発明を包含するものである。
したがって,特許請求の範囲の記載から,一の発明が明確に把握できず,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないし,また,本願発明について,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって,本願に係る他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-07 
結審通知日 2011-12-13 
審決日 2011-12-27 
出願番号 特願2003-132280(P2003-132280)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 537- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高山 敏充  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 鵜飼 健
六笠 紀子
発明の名称 乳児重症ミオクロニーてんかん関連遺伝子変異と乳児重症ミオクロニーてんかん診断方法  
代理人 西澤 利夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ