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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B66B
管理番号 1251972
審判番号 不服2010-24569  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-01 
確定日 2012-02-09 
事件の表示 特願2004-279531「エレベータの遠隔監視システム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月 6日出願公開、特開2006- 89256〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成16年9月27日の出願であって、平成22年4月15日付けの拒絶理由通知に対し、平成22年6月21日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年7月29日付けで拒絶査定がなされ、平成22年11月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成23年4月11日付けで書面による審尋がなされ、平成23年6月13日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成22年11月1日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年11月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
平成22年11月1日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成22年6月21日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記(ア)を、下記(イ)と補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
エレベータかご内の監視を防犯カメラからの画像データに基づき行う遠隔監視サイトを備えたエレベータの遠隔監視システムにおいて、
前記遠隔監視サイトは、警備又は防犯に関する業務を遂行する者に帰属する第1の遠隔監視サイト、及びエレベータの保守に関する業務を遂行する者に帰属する第2の遠隔監視サイトにより構成され、
前記第1の遠隔監視サイトは、エレベータかご内の乗客の生命的観点からの緊急度につき判定を行い、且つこの緊急度が所定レベル以上の場合に緊急出動指令を発報する第1の遠隔監視装置を有するものであり、
前記第2の遠隔監視サイトは、前記第1の遠隔監視サイトが判定した緊急度が所定レベル未満の場合にエレベータ保守作業遂行指令を発報する第2の遠隔監視装置を有するものである、
ことを特徴とするエレベータの遠隔監視システム。
【請求項2】
前記第1の遠隔監視サイト又は前記第2の遠隔監視サイトのいずれもが、前記エレベータかご内に設置された送受話器との間で通話が可能であり、
前記送受話器は、フックオフ状態とすることなくエレベータかご内の音声情報を収集し、この音声情報を前記第1の遠隔監視サイト又は前記第2の遠隔監視サイトに送信可能なものである、
ことを特徴とする請求項1記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項3】
前記第1の遠隔監視サイトが緊急度につき判定を行う際の判定情報には、少なくとも前記防犯カメラからの画像データ、又はエレベータかご内から収集した音声情報が含まれる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項4】
前記第2の遠隔監視装置は、前記第1の遠隔監視装置と同様に、前記緊急度につき判定を行うものである、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項5】
前記第1の遠隔監視装置又は第2の遠隔監視装置により判定される緊急度が複数段階に分けられて設定されている、
ことを特徴とする請求項4記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項6】
前記第1の遠隔監視サイトは前記防犯カメラからの画像データを直接に入力し、前記第2の遠隔監視サイトは前記防犯カメラからの画像データを前記第1の遠隔監視サイトを介
して入力するものである、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項7】
前記第2の遠隔監視サイトは前記防犯カメラからの画像データを直接に入力し、前記第1の遠隔監視サイトは前記防犯カメラからの画像データを前記第2の遠隔監視サイトを介して入力するものである、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項8】
前記第1及び第2の遠隔監視サイトは前記防犯カメラからの画像データをそれぞれ直接に入力するものである、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のエレベータの遠隔監視システム。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
エレベータかご内の監視を防犯カメラからの画像データに基づき行う遠隔監視サイトを備えたエレベータの遠隔監視システムにおいて、
前記遠隔監視サイトは、警備又は防犯に関する業務を遂行する者に帰属する第1の遠隔監視サイト、及びエレベータの保守に関する業務を遂行する者に帰属する第2の遠隔監視サイトにより構成され、
少なくとも前記第1の遠隔監視サイトに対しては、前記防犯カメラからの画像データの全てが伝送される、
ことを特徴とするエレベータの遠隔監視システム。
【請求項2】
前記第1の遠隔監視サイトは、エレベータかご内の乗客の生命的観点からの緊急度につき判定を行い、且つこの緊急度が所定レベル以上の場合に緊急出動指令を発報する第1の遠隔監視装置を有するものであり、
前記第2の遠隔監視サイトは、前記第1の遠隔監視サイトが判定した緊急度が所定レベル未満の場合にエレベータ保守作業遂行指令を発報する第2の遠隔監視装置を有するものである、
ことを特徴とする請求項1記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項3】
前記第1の遠隔監視サイトが緊急度につき判定を行う際の判定情報には、少なくとも前記防犯カメラからの画像データ、又はエレベータかご内から収集した音声情報が含まれる、
ことを特徴とする請求項2記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項4】
前記第2の遠隔監視装置は、前記第1の遠隔監視装置と同様に、前記緊急度につき判定を行うものである、
ことを特徴とする請求項2又は3記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項5】
前記第1の遠隔監視装置又は第2の遠隔監視装置により判定される緊急度が複数段階に分けられて設定されている、
ことを特徴とする請求項4記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項6】
前記第1の遠隔監視サイトは前記防犯カメラからの画像データを直接に入力し、前記第2の遠隔監視サイトは前記防犯カメラからの画像データを前記第1の遠隔監視サイトを介して入力するものである、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項7】
前記第2の遠隔監視サイトは前記防犯カメラからの画像データを直接に入力し、前記第1の遠隔監視サイトは前記防犯カメラからの画像データを前記第2の遠隔監視サイトを介して入力するものである、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項8】
前記第1及び第2の遠隔監視サイトは前記防犯カメラからの画像データをそれぞれ直接に入力するものである、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のエレベータの遠隔監視システム。」(なお、下線は、請求人が補正箇所を明示するために付した。)

2.本件補正の目的
本件補正は、請求項1に関し、本件補正前の発明特定事項である「第1の遠隔監視サイト」及び「第2の遠隔監視サイト」に関し、それぞれ「エレベータかご内の乗客の生命的観点からの緊急度につき判定を行い、且つこの緊急度が所定レベル以上の場合に緊急出動指令を発報する第1の遠隔監視装置を有するものであり」及び「前記第1の遠隔監視サイトが判定した緊急度が所定レベル未満の場合にエレベータ保守作業遂行指令を発報する第2の遠隔監視装置を有するものである」との限定を削除するとともに、「少なくとも前記第1の遠隔監視サイトに対しては、前記防犯カメラからの画像データの全てが伝送される」という限定を加えるものである。
これらの請求項1についての補正事項のうち、補正前の発明特定事項の限定を削除する補正は、特許請求の範囲を拡張するものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
さらに、本件補正が同第1号の請求項の削除、同第3号の誤記の訂正、同第4号の明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもないことは明らかである。
なお、本件補正後の請求項2に係る発明は、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項に加え、「少なくとも前記第1の遠隔監視サイトに対しては、前記防犯カメラからの画像データの全てが伝送される」という限定を加えたものであるから、本件補正前の請求項1に係る発明を減縮するものであるといえる。しかし、その場合には、本件補正によって新たに請求項1を増項することになり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮のほか、同第1号の請求項の削除、同第3号の誤記の訂正、同第4号の明りょうでない記載の釈明のいずれも目的とするものでないことは明らかである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159号第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成22年11月1日付けの手続補正は前述のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成22年6月21日付けの手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項によって特定されるものであって、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2.の[理由]1.(ア)の【請求項1】に記載したとおりのものである。

2.引用文献
2-1.引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2004-59209号公報(平成16年2月26日公開。以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が図面と共に記載されている。

(ア)「【0007】
また、エレベータ乗りかご内の防犯カメラに対するいたずらなど軽微なトラブルから、犯罪目的のため防犯カメラを監視不能な状態にしたり防犯カメラを取り外して持ち去ったりというような悪質なものまで、防犯カメラをめぐる様々なトラブルが防犯カメラの普及とともに増加傾向にあり、防犯上の問題が重視されるために、上記の防犯カメラのトラブルを管制センタや警備会社の防犯センタのような緊急対応部署に通報する必要がある。
【0008】
以上のように、防犯カメラとその録画映像を記録する記録装置の信頼性が重視されるようになり、防犯カメラや記録装置に異常が発生した場合、その異常の内容や重要性に応じて適切な対処ができるような体制が望まれるようになってきている。
【0009】
本発明は、上述したような従来技術における実情に鑑みなされたもので、その目的は、乗りかご内の防犯カメラに対する悪質な行為による異常や、防犯カメラと映像記録装置そのものの異常などの内容や重要性に応じて警備業務や保全業務に従事する個々の担当者が適切に対処することのできるエレベータの遠隔監視装置を提供することにある。」(段落【0007】ないし【0009】)

(イ)「【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は、エレベータ制御装置からエレベータの運行制御情報や電源状態を読み出して異常を監視するエレベータ異常検出手段と、このエレベータ異常検出手段が前記エレベータの異常を検出したときに異常信号を発報する管制センタ発報手段と、前記異常信号を遠隔地に設けられた管制センタに通信回線を介して送信する遠隔通信手段と、前記エレベータ異常検出手段が異常を検出したときに前記エレベータの乗りかご内と前記管制センタとの直接通話を可能とする直接通話接続手段とを有するエレベータの遠隔監視装置において、
前記乗りかご内に設けられた防犯カメラからの映像入力状態を監視する防犯カメラ監視手段と、この防犯カメラ監視手段が異常を検出したときに防犯センタに発報する防犯センタ発報手段と、前記防犯カメラの映像を記録する映像記録装置の動作状態を監視する記録装置監視手段と、この記録装置監視手段が前記映像記録装置の異常を検出したときに、例えば保守会社のサービス拠点に発報する発報手段とを設けた構成してある。
【0011】
このように構成した本発明では、エレベータの異常を検出したときに管制センタ発報手段により異常信号を発報して管制センタに通信回線を介して送信し、防犯カメラからの映像入力状態の異常を検出したときに防犯センタ発報手段により防犯センタに発報し、防犯カメラの映像を記録する映像記録装置の異常を検出したときに、発報手段により例えば保守会社のサービス拠点に発報する。これにより、発生した異常の内容によってそれぞれ発報先を区別したので、乗りかご内の防犯カメラに対する悪質な行為による異常や、防犯カメラと映像記録装置そのものの異常などの内容や重要性に応じて警備業務や保全業務に従事する個々の担当者が適切に対処することができる。」(段落【0010】及び【0011】)

(ウ)「【0014】
図1に示すエレベータ1は、エレベータ制御装置11と、このエレベータ制御装置11によって回転が制御される巻上機12と、この巻上機12によって駆動される乗りかご13と、この乗りかご13とともにロープ15を介してつるべ状に連結されるつり合いおもり14と、乗りかご13内に設置されるインターホン子機16と、乗りかご13内の映像を撮影する防犯カメラ17と、この防犯カメラ17で撮影される映像を記録する映像記録装置18とを備えている。この映像記録装置18は、具体的にはハードディスクタイプの記録媒体を想定しており、通常パソコンなどで使用しているハードディスクと同様に、一部のセクタの異常を検出しても全体の機能には支障を来さないよう設計されている。
【0015】
図1に示す防犯センタ3は、遠隔地に設けられ警備会社などが管理するものであり、24時間365日常に警備会社の管制員が常駐して、万が一犯罪の可能性のある異常通報を受けた場合に、最寄りの警備員が直ちに現場に急行して犯罪に対処するようになっており、この防犯センタ3は、通信回線、例えば一般公衆回線6を介して通信を行なう図示しない通信手段や、複数のビルに設置された防犯装置からの通報を受信する機能を有している。
【0016】
図1に示す管制センタ4は、エレベータ保守会社の管制員が24時間、365日常駐して種々のトラブルに対応するものであり、一般公衆回線6を介して通信を行なう通信手段や、管制員が直接通話する他の通話手段、乗りかご13内の画像を表示する画像表示手段など図示しない設備が充実しているが、図が煩雑となることを避けるため省略する。
【0017】
また、図1に示すエレベータ保守会社のサービス拠点5は、当該ビルに最も近く当該ビルのエレベータ1の保全を担当している所轄のサービス拠点であり、このサービス拠点5は、主にエレベータ1の定期点検業務を担当する部門であるので人が24時間常駐していることはないが、エレベータ1や防犯カメラ17などの定期的に点検するため直接設備をメンテナンスする作業員を有している。
【0018】
そして、本実施形態の遠隔監視装置2は、エレベータ制御装置11および乗りかご13内の防犯カメラ17に接続されるエレベータ異常検出手段21と、このエレベータ異常検出装置21に接続される管制センタ発報手段22と、この管制センタ発報手段22に接続され、遠隔地にそれぞれ設けられた防犯センタ3、管制センタ4、および保守会社のサービス拠点5へ一般公衆回線6を介して通信を行なう遠隔通信手段23と、乗りかご13内のインターホン子機16と接続させるインターホンI/F24と、このインターホンI/F24および管制センタ発報手段22と接続される直接通話接続手段25と、防犯カメラ17からの映像信号入力状況を監視する防犯カメラ監視手段26と、この防犯カメラ監視手段26が映像入力信号の異常を検出したときに防犯カメラ17の異常信号を遠隔通信手段23より防犯センタ3に発報する防犯センタ発報手段27と、映像記録装置18内の記録媒体の異常を監視する記録装置監視手段28と、この記録装置監視手段28が映像記録装置18内の記録媒体の部分的な異常を検出したときに、映像記録装置18の異常信号を遠隔通信手段23より保守会社のサービス拠点5に発報するサービス拠点発報手段29とで構成されている。
【0019】
エレベータ異常検出手段21は、エレベータ制御装置11からエレベータ1の運行制御情報や電源状態を常時読み出して監視するとともに、防犯カメラ17の電源状態をも監視し、エレベータ制御装置11および防犯カメラ17の両者の電源状態がともに異常となったときに「電源異常信号」を発報する。また、防犯カメラ17のみに異常が発生し、防犯カメラ17の電源状態が異常となり、防犯カメラ17からの映像信号入力が途絶えた状態となったとき、防犯カメラ監視手段26のみが異常を検出して防犯センタ3に発報する仕組みとなっている。」(段落【0014】ないし【0019】)

(エ)「【0022】
また、乗りかご13内の防犯カメラ17を犯罪者などが悪意を持って破壊し、防犯カメラ17からの映像信号入力が途絶えた場合、防犯カメラ17からの映像信号入力状態を監視する防犯カメラ監視手段26が映像入力信号の異常を検出し、防犯センタ発報手段27に対して「防犯カメラ異常信号」を出力する。防犯センタ発報手段27は、防犯カメラ監視手段26から「防犯カメラ異常信号」を受信すると、防犯センタ3の電話番号をダイヤリングした後、遠隔通信手段23を介して防犯センタ3に防犯カメラ17の異常発報を行なう。次いで、防犯センタ3に常駐する管制員は、前記の異常発報を受信すると、直ちに当該ビルに警備員を急行させ、防犯カメラ17の被害状況を確認するとともに、ビル内で犯罪が発生していないかどうかという確認作業を実施して、場合によっては警察に通報するなど緊迫した対応が迫られる。
【0023】
また、防犯カメラ17の映像を記録する映像記録装置18の製品寿命が近づいてきて、映像記録装置18内の記録媒体すなわちハードディスクの一部分に異常が検出された場合、映像記録装置18が直ちに映像記録不能な状態に陥るわけではなく、ハードディスクの中のほんの一部のセクタが使用できなくなった程度であるので、上記2つのケースと比較すると緊急性は低い状態である。そこで、このような状態のときは、まず映像記録装置18自身が自ら内蔵されたハードディスクのセクタ異常を検出し、この映像記録装置18を監視する記録装置監視手段28は、以上のようなハードディスクの異常状態を検出し、サービス拠点発報手段29に対して「記録装置異常信号」を出力する。サービス拠点発報手段29は記録装置監視手段28から「記録装置異常信号」を受信すると、保守会社の数あるサービス拠点の中で当該ビルの保全業務を担当している所轄のサービス拠点5に異常発報を行なう。次いで、サービス拠点5では「記録装置異常信号」を受信すると、エレベータ1の次回定期点検時に映像記録装置18を交換するため、部品の手配や作業時間の割り当てなど保全業務による適切な対応作業を行なうようにしている。」(段落【0022】及び【0023】)

(オ)「【0024】
このように構成した本実施形態の遠隔監視装置2では、エレベータ1の異常を監視するとともに、防犯カメラ17からの映像入力状態を監視し、この異常を検出したときに防犯センタ3に発報するとともに、映像記録装置18の動作状態を監視し、この映像記録装置18の異常を検出したときに保守会社のサービス拠点5に発報し、すなわち、それぞれの異常に適した拠点に発報することにより、エレベータ1の警備業務や保全業務に従事する個々の担当者が適切な対応を行なえる。
【0025】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、エレベータの異常、防犯カメラからの映像入力状態の異常、および防犯カメラの映像を記録する映像記録装置の異常をそれぞれ検出したとき、これらの発生した異常の内容によって発報先を区別し、それぞれの異常に適した拠点に発報するので、乗りかご内の防犯カメラに対する悪質な行為による異常や、防犯カメラと映像記録装置そのものの異常などの内容や重要性に応じて警備業務や保全業務に従事する個々の担当者が適切に対処することができる。」(段落【0024】及び【0025】)

(2)引用文献1記載の事項
(カ)上記(1)(ウ)及び図1の記載から、遠隔監視装置2と、遠隔地に設けられ、一般公衆回線を介して接続された防犯センタ3、管制センタ4及びサービス拠点5から、エレベータの遠隔監視システムを構成していることが分かる。

(キ)上記(1)(ウ)及び図1の記載から、防犯センタ3は、例えば一般公衆回線6を介して通信を行う通信手段や、防犯装置からの通報を受信する機能を持つ装置を有し、管制センタ4は、一般公衆回線6を介して通信を行う通信手段や、管制員が直接通話する他の通話手段、乗りかご13内の画像を表示する画像表示手段などを持つ装置を有することが分かる。

(ク)上記(1)(エ)及び図1の記載から、遠隔監視装置2が、通信回路を介して防犯センタ3の装置及び管制センタ4の装置に接続され、乗りかご13内でのいたずら等の軽微なトラブルや悪質な行為等による異常を監視し、発生した異常の内容、あるいは、その重要性や緊急性等の程度に応じて、防犯センタ3の装置及び管制センタ4の装置にそれぞれ発報するように構成されていることが分かる。

(3)引用文献1記載の発明
上記(1)(ア)ないし(オ)及び(2)(カ)ないし(ク)並びに図面の記載を総合すると、引用文献1には、次の発明が記載されているといえる。

「乗りかご13内の監視を防犯カメラ17からの画像データに基づき行うエレベータ遠隔監視システムにおいて、
該エレベータ遠隔監視システムは、遠隔地に設けられた防犯センタ3及び管制センタ4を備え、
防犯センタ3は警備会社に帰属するとともに、管制センタ4はエレベータ保守会社に帰属し、
遠隔監視装置2は、通信回路を介して防犯センタ3の装置及び管制センタ4の装置に接続され、乗りかご13内でのいたずら等の軽微なトラブルや悪質な行為等による異常を監視し、発生した異常の内容、あるいは、その重要性や緊急性等の程度に応じて、防犯センタ3の装置及び管制センタ4の装置にそれぞれ発報するように構成されているエレベータ遠隔監視システム。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

2-2.引用文献2
(1)引用文献2の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開昭58-113087号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「本発明はこうした点に鑑みなされたもので、輝度空間分布の変化を更に詳しく判定してかご内の異常の種類、程度を知り、それに応じて最も適切な処理を選択するとともに、乗客への注意の喚気および犯罪を意図する者への警告を迅速に行なって犯罪の発生を未然の防止する装置を提供することを目的とする。」(第2ページ左上欄第17行ないし右上欄第3行)

(イ)「以下本発明装置の動作について説明する。
まず、犯罪を意図する者がエレベータかごドアの閉まる直前にエレベータかご内へ乗り込みかご内で乗客に暴力行為を行なう場合には、かご内で暴力行為が発生しそうになると、かご内の輝度空間分布を検出する装置1からの出力信号1aは正常時とは異なった波形となり、これが交流増幅器5、帯域フイルタ7、感度補正器8を介して不要なノイズ成分が除去されて、信号8aとして異常判定装置9に入力される。
異常判定装置9内では、特徴検出器10は入力信号8aを特徴信号10aとしてその周波数、振幅に応じたパルス信号に変換し信号を出力するが、判別器11,12はかご内の異常の種類と程度を判別してそれに応じた信号を出力する。そしてその異常の種類と程度によりそれに対して最も適切な処置を選択回路は選択し乗客の安全を図る。例えばかご内で人や人体の一部の動きが通常より速くなった場合には異常判定装置内の判別器11で検出され、動きが軽度の場合には信号11aを出力してORゲート21を介してかご上ベル27を作動させるとともにORゲート24を介して最寄階停止装置31を作動させてエレベータかごを最寄階に停止させる。このため犯罪行為が原因で判別器11が働いたのであれば、犯人がブザーの音に驚いているすきに乗客がかご内から脱出できるはずである。
しかし、動きが軽度の場合には必ずしも暴力行為が発生したとは限らないため、以上述べた処置のみに留めるものとする。
次に動きが中程度の場合には暴力行為の発生している可能性が強いため、判別器11は信号11bを出力し、ORゲート22を介し、乗場ベル28及び管理人室への報知装置29を作動させるとともに、かご上ベル27の音量を増加する。更に動きが激しい場合には重大な異常事態の発生が考えられるので、判別器11は信号11cを出力し、ORゲート23を介して警察署への通報装置30を作動させ、警察へ通報する。
万一、かご内で刃物や金属片が所定時間以上取り出された場合は判別器11の出力信号の有無に関係なく刃物判別器12により検出され、信号12bを発することにより、一斉にかご上ベル27、乗場ベル28、管理人室への通報装置29、警察署への通報装置30を作動させるとともに最寄階停止装置31によりエレベータかごを最寄階へ停止させる。」(第2ページ右下欄第10行ないし第3ページ右上欄第16行)

(2)引用文献2記載の技術
上記記載(1)(ア)及び(イ)並びに図面の記載を総合すると、引用文献2には、次の技術が記載されているといえる。

「エレベータかご内の暴力行為の発生や、かご内で刃物や金属片が所定時間以上取り出された場合を検出してかご内の異常の種類と程度を判定する技術」(以下、「引用文献2記載の技術」という。)

3.対比
本願発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「乗りかご13」は、その機能及び構成からみて、本願発明における「エレベータかご」に相当し、以下同様に、「防犯カメラ17」は「防犯カメラ」に、「エレベータ遠隔監視システム」は「エレベータの遠隔監視システム」に、それぞれ相当する。
また、引用文献1記載の発明において「警備会社」及び「エレベータ保守会社」は、それぞれ「警備又は防犯に関する業務を遂行する者」及び「エレベータの保守に関する業務を遂行する者」であるから、引用文献1記載の発明における「防犯センタ3」は、本願発明における「警備又は防犯に関する業務を遂行する者に帰属する第1の遠隔監視サイト」及び「第1の遠隔監視サイト」に相当し、同様に「管制センタ4」は、「エレベータの保守に関する業務を遂行する者に帰属する第2の遠隔監視サイト」及び「第2の遠隔監視サイト」に相当する。
そして、本願発明において「遠隔監視サイト」は「第1の遠隔監視サイト」及び「第2の遠隔監視サイト」により構成されるから、引用文献1記載の発明において「防犯センタ3」及び「管制センタ4」を合わせたものは、本願発明における「遠隔監視サイト」に相当する。
さらに、引用文献1記載の発明における「防犯センタ3の装置」及び「管制センタ4の装置」は、本願発明における「第1の遠隔監視装置」及び「第2の遠隔監視装置」に、それぞれ「第1の遠隔監視サイトに設けられた装置」及び「第2の遠隔監視サイトに設けられた装置」という限りにおいて相当する。

したがって、本願発明と引用文献1記載の発明とは、
「 エレベータかご内の監視を防犯カメラからの画像データに基づき行う遠隔監視サイトを備えたエレベータの遠隔監視システムにおいて、
前記遠隔監視サイトは、警備又は防犯に関する業務を遂行する者に帰属する第1の遠隔監視サイト、及びエレベータの保守に関する業務を遂行する者に帰属する第2の遠隔監視サイトにより構成されるエレベータの遠隔監視システム」で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

[相違点]
(1)本願発明においては、エレベータかご内の乗客の生命的観点からの緊急度につき判定を行うのに対して、引用文献1記載の発明は、乗りかご13内でのいたずら等の軽微なトラブルや悪質な行為等により発生した異常の内容、あるいは、その重要性や緊急性等の程度について判定を行う点(以下、「相違点1」という。)。
(2)本願発明においては、第1の遠隔監視装置により緊急度の判定を行うのに対し、引用文献1記載の発明においては、遠隔監視装置2により緊急性等の程度について判定を行う点(以下、「相違点2」という。)。
(3)本願発明においては、緊急度が所定レベル以上の場合に第1の遠隔監視装置が緊急出動指令を発報し、緊急度が所定レベル未満の場合に第2の遠隔監視装置がエレベータ保守作業遂行指令を発報するのに対し、引用文献1記載の発明においては、発生した異常の内容、あるいは、その重要性や緊急性等の程度に応じて、防犯センタ3の装置及び管制センタ4の装置にそれぞれ発報する点(以下、「相違点3」という。)。

4.判断
上記相違点について検討する。

(1)相違点1について
本願発明において「エレベータかご内の乗客の生命的観点からの緊急度につき判定を行う」点に関し、本願の明細書の段落【0046】には、エレベータかご内の乗客が犯罪に巻き込まれて生命上の危機に陥った場合が例として示されている。これに対して、引用文献1記載の発明では、乗りかご13内でのいたずら等の軽微なトラブルや悪質な行為等により発生した異常の内容、あるいは、その重要性や緊急性等の程度について判定を行うとされ、本願発明とは緊急度の程度が異なっている。
これに対し、引用文献2記載の技術である「エレベータかご内の暴力行為の発生や、かご内で刃物や金属片が所定時間以上取り出された場合を検出してかご内の異常の種類と程度を判定すること」は、まさに「エレベータかご内の乗客の生命的観点からの緊急度につき判定を行う」ものであると認められる。そして、この引用文献2記載の技術を考慮すれば、引用文献1記載の発明において、乗りかご内で発生した異常の内容や緊急性等の判定の程度を変えて、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。

(2)相違点2について
ネットワークを介してサーバー同士を連結したコンピュータシステムにおいて、コンピュータシステム上の処理をどのサーバーによって行うかということは、一般に、ネットワークの構成や各サーバー仕様などを考慮しつつ、設計上において決定されている。本願発明において、第1の遠隔監視装置により緊急度の判定を行う点は、引用文献1記載の発明において、遠隔監視装置2の判定機能を防犯センタ3の装置にて行うようにしたものといえるが、それによって格別の作用効果を奏するものということはできないから、単なるシステム設計上の事項にすぎない。
したがって、引用文献1記載の発明において、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。

(3)相違点3について
本願発明における「緊急度」点に関し、本願の明細書の段落【0041】ないし【0044】には、エレベータかご内で発生したトラブルが犯罪事件であれば緊急度が高く、警備会社で対処するケースであるのに対し、単なる閉じ込め事故である場合には緊急度が低く、エレベータ保守会社にて対処するケースである旨が記載されている。この例に見られるように、本願発明において「緊急度」のレベルの大きさは、エレベータかご内で発生したトラブルの内容が警備会社で対処すべきケースであるのか、エレベータ保守会社で対処すべきケースであるのかに応じて決められているものであると認められる。
これに対して、引用文献1記載の発明は、発生した異常の内容、あるいは、その重要性や緊急性等の程度に応じて、防犯センタ3の装置及び管制センタ4の装置にそれぞれ発報するものであるから、本願発明において、緊急度が所定レベル以上か、所定レベル未満かに応じて、それぞれ警備会社への緊急出動指令の発報及びエレベータ保守会社へのエレベータ保守作業遂行指令の発報を行うものと、実質的な差異はない。
なお、本願発明において、緊急出動指令及びエレベータ保守指令は、それぞれ第1及び第2の遠隔監視装置が発報するものであるところ、引用文献1記載の発明においては、防犯センタ3の装置及び管制センタの装置に対して、遠隔監視装置2が発報する点で、文言上、「発報」を行う主体が異なる。
しかし、本願発明における「発報」とは、遠隔監視装置からそのオペレータに対して通知することを意味しているところ、引用文献1記載の発明においても、例えば遠隔監視装置2の異常発報は、防犯センタ3の装置から管制員に対して通知される(上記第3の3-1.(1)(エ)の段落【0022】参照)ものであるから、この点についても、実質的に違いはない。

そして、本願発明を全体としてみても、本願発明の奏する効果は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

なお、請求人は、平成23年6月13日付けの回答書において、審判請求時の補正によって請求項1に加えた「少なくとも前記第1の遠隔監視サイトに対し前記防犯カメラからの画像データの全てが伝送される」構成は、本願発明に特有の構成であり、それにより本願発明特有の作用効果を有するものである旨を主張し、上記構成を含むように特許請求の範囲を補正したいと希望している。
しかし、例えば上記第3の4.(2)に記載したように、引用文献1記載の発明において、遠隔監視装置2の判定機能を防犯センタ3で行うようにした場合には、防犯センタ3に対し防犯カメラ17の映像入力信号を伝送することになるから、上記構成を設けることは、引用文献1記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
また、エレベータの遠隔監視装置において、警備又は防犯を行う遠隔監視サイトでカメラによって撮影された画像を送ることは周知技術(例えば、特開平11-228046号公報の段落【0016】及び図3等参照)であって、上記構成を設けることは、該周知技術を考慮することによっても当業者が容易に想到することができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-12 
結審通知日 2011-12-13 
審決日 2011-12-27 
出願番号 特願2004-279531(P2004-279531)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B66B)
P 1 8・ 121- Z (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤村 聖子▲高▼橋 杏子  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 川口 真一
金澤 俊郎
発明の名称 エレベータの遠隔監視システム  
代理人 川崎 康  
代理人 赤岡 明  
代理人 関根 毅  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 勝沼 宏仁  

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