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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1252157
審判番号 不服2011-3874  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-22 
確定日 2012-02-09 
事件の表示 特願2007- 17799「電食防止型転がり軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月 5日出願公開、特開2007-170673〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成12年8月4日に出願した特願2000-236791号(以下、「原出願」という。)の一部を平成19年1月29日に新たな特許出願としたものであって、平成22年11月8日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年2月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

【2】平成23年2月22日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年2月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明

平成23年2月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
外輪のハウジングに取付けられる面に、セラミックスの溶射層である絶縁層からなる一層構造の被膜層を設け、前記外輪の前記絶縁層が設けられる面を、前記絶縁層の密着性を高める密着性向上処理面とし、この密着性向上処理面は粗面化処理面とされ、この粗面化処理面の表面粗さを、中心線粗さで3.2aより粗いか、または最大高さで25Sよりも粗いかの、いずれか一方を満足する粗さとし、前記セラミックスの絶縁層の前記外輪に対する密着力を、44.8MPa以上とし、前記セラミックスの絶縁層の厚さを0.15mm?0.45mmとした電食防止型転がり軸受。」
と補正された。(なお、下線は補正箇所を示す。)

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である補正前の「軌道輪」を下位概念の「外輪」に限定するとともに、同じく、セラミックスの溶射層である絶縁層からなる一層構造の被膜層を設ける面について、補正前の「ハウジングまたは軸に取付けられる面」という択一的記載から、「軸」を削除して「ハウジングに取付けられる面」に限定し、同じく、「粗面化処理面」について、「この粗面化処理面の表面粗さを、中心線粗さで3.2aより粗いか、または最大高さで25Sよりも粗いかの、いずれか一方を満足する粗さとし」との限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物は、次のとおりである。なお、刊行物1は、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1に相当し、また同様に、刊行物2は引用文献3に相当する。

刊行物1:実願昭59-64806号(実開昭60-177958号)
のマイクロフィルム
刊行物2:実願昭63-124258号(実開平2-46119号)
のマイクロフィルム

(1)刊行物1(実願昭59-64806号(実開昭60-177958号)のマイクロフィルム)の記載事項

刊行物1には、「電食防止形転がり軸受」に関し、図面(特に、第3図)とともに次の事項が記載されている。

(ア) 「この考案は、電食防止形転がり軸受に関し、詳しくは、玉軸受、ころ軸受などの転がり軸受の外輪とハウジングとの間、または内輪と軸との互のはめあい面間に流れる電流を絶縁するために、前記外輪または/および内輪のはめあい面となる周面およびこれに続く端面に非金属材料の絶縁被膜を、ベーキング、コーテング、溶射などの手段によって形成し、該被膜によって軸受内部を流れようとする電流をしや断し、電流の通過による軸受の電食(極部的溶融)を防止するようにしたものである。
従来より知られているこの種の電食防止形転がり軸受には、例えば、第1図に示すように、軸受1aの外輪2aまたは/および内輪3aの周面にセラミツク、プラスチックなどの非金属材料による絶縁被膜4aを有する軸受の端面側に、前記被膜4aとは別体に形成された絶縁プレート5aを、前記軸受の組付け時に、該軸受の端面と相手部材との間に介在させて組付ける構造のものとか、あるいは、第2図に示すように、軸受1Bの外輪2Bまたは/および内輪3Bの周面とこれに続く両端面の一部に非金属材料よりなる絶縁被膜4Bを有するものが知られている。
しかしながら、前者の第1図に示すものにあっては、その取扱い、特に装置への組付けがめんどうであり、また後者の第2図に示すものにあっては、被膜4Bの厚みの管理がしやすい反面、その厚みが全体的にほぼ均一であり、しかも、前記被膜の端面側の周縁部41Bの周縁42Bが、外輪端面の非被膜面43Bから完全に突出しているため、使用中の振動や衝撃によって被膜と非被膜面との境界からはがれ、このはがれた非金属粉が軸受内部に侵入して軸受に早期はくりを生じせしめるという危険があった。
この考案は、上記従来の欠点を除去するもので、具体的には、前述の境界面からのはくりとか,軸受の組付け時におけるチヤンフアー(周溝と端面とのつながり部)のはくりなどを防止して軸受寿命の延長を計ったものである。
次のこの考案の電食防止形転がり軸受を第3図ないし第5図に示す実施例について説明すると、1は転がり軸受、2はその外輪、3は内輪、4は転動体、5は保持器、6はシール体、7はセラミック、プラスチックなどの非金属材料よりなる絶縁被膜、8はハウジング、9は軸体である。
はじめに第3図に示す実施例において、外輪2は半径方向の内周側端部に、後述する絶縁被膜7の厚みに必要な高さだけ軸方向に凸出した周凸条21をもって形成されており、そして、前記周凸条21を除く外周面22、これに続く両端面23の外表面には、必要な下地処理を行った後、その表面に前記周凸条21の軸方向の突出高さとほぼ等しい厚みをもった、例えば、セラミックの被膜7が溶射によって形成されている。
従って、前記被膜の端面側の端縁部に包含される内周縁は、周凸条21の端面(非被面)よりも軸方向の内側に入り込んでおり、前記周縁が保護されている。図中、内輪3に鎖線で示す部分70は、内輪に前述の被膜を施こした場合の例を示しているものである。」(明細書第1ページ第12行?第4ページ第12行)

上記記載事項(ア)及び図面(特に、第3図)の記載を総合すると、刊行物1には、
「外輪2の外周面22及び両端面23の外表面に、必要な下地処理を行った後、その表面に周凸条21の軸方向の突出高さとほぼ等しい厚みをもった、セラミックの被膜7が溶射によって形成されている電食防止形転がり軸受1。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2(実願昭63-124258号(実開平2-46119号)のマイクロフィルム)の記載事項

刊行物2には、「電食防止型転がり軸受」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

(イ) 「〔産業上の利用分野〕
本考案は、例えば鉄道車両のモータ用軸受や車軸用軸受として用いられる電食防止型の転がり軸受に関する。」(明細書第1ページ第12?15行)

(ウ) 「〔実施例〕
以下、本考案の一実施例を図面に基づいて説明する。
転がり軸受1は、内輪2と外輪3との間に、複数のコロ4を転動可能に配設した円筒コロ軸受で、外輪3の外周面から両端面に亙って、金属層5,6との間に絶縁層7を挟装した被覆層8が設けられている。
上記金属層5,6は、それぞれ金属パウダを溶射して、また絶縁層7は、アルミナやグレイアルミナ,ジルコニア等のパウダを溶射してそれぞれ形成される。これら各層5,6,7のコーティング厚さは、例えば本考案の転がり軸受1を鉄道車両のモータ用軸受として使用する場合に、内側の金属層5で0.1?0.15mm,外側の金属層6で0.3?0.4mm(但し研削代0.15?0.2mmを含む),また絶縁層7で0.2?0.3mm程度に設けられる。」(明細書第3ページ第13行?第4ページ第9行)

3.発明の対比

本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「外輪2」は、本願補正発明の「外輪」に相当し、以下同様に、外輪2の「外周面22及び両端面23の外表面」は、第3図の記載からみて、ハウジング8に取付けられる面と認められるので、外輪の「ハウジングに取付けられる面」に、「セラミックの被膜7が溶射によって形成されている」ことは、「セラミックスの溶射層である絶縁層からなる一層構造の被膜層を設け」たことに、「電食防止形転がり軸受1」は、「電食防止型転がり軸受」に、それぞれ相当する。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
[一致点]
「外輪のハウジングに取付けられる面に、セラミックスの溶射層である絶縁層からなる一層構造の被膜層を設けた電食防止型転がり軸受。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明は、「前記外輪の前記絶縁層が設けられる面を、前記絶縁層の密着性を高める密着性向上処理面とし、この密着性向上処理面は粗面化処理面とされ、この粗面化処理面の表面粗さを、中心線粗さで3.2aより粗いか、または最大高さで25Sよりも粗いかの、いずれか一方を満足する粗さとし」ているのに対して、引用発明は、「外輪2の外周面22及び両端面23の外表面に、必要な下地処理」を行っているものの、上記「必要な下地処理」が、具体的にどのような下地処理であるのか明らかでない点。

[相違点2]
本願補正発明は、「前記セラミックスの絶縁層の前記外輪に対する密着力を、44.8MPa以上とし」たのに対して、引用発明は、そのような密着力が明らかでない点。

[相違点3]
本願補正発明は、「前記セラミックスの絶縁層の厚さを0.15mm?0.45mmとした」のに対して、引用発明は、「周凸条21の軸方向の突出高さとほぼ等しい厚みをもった」セラミックの被膜7であり、その厚さの具体的な数値が明らかでない点。

4.当審の判断

(1)相違点1について

部材の表面に被膜層を設ける場合に、当該被膜層の密着性を高めるために、上記部材の表面に粗面化処理を施すことは、原出願の出願前に周知の技術である(例えば、特開平10-195625号公報(以下、「周知例1」という。)の段落【0027】には、金属基材の表面に自溶性合金溶射粉末を溶射施工する前に、金属基材の表面をブラスト処理によってRaが5μm?20μm、またはRmaxが30μm?150μmの表面粗さにする旨が記載され、また、特開平1-182621号公報(以下、「周知例2」という。)の第3ページ左上欄第9?12行には、セラミックコーティング被膜の下地材との結合性を高めるために、ブラスト処理を予め施す旨が記載され、更に、特開平6-81109号公報(以下、「周知例3」という。)の段落【0002】には、金属板へ金属やセラミックスを溶射するに際しては、グリットによるブラスト処理を行って粗面化し、溶射物と素地との投錨効果によって溶射皮膜の密着性を高める旨が記載され、更に、日本溶射協会編「溶射技術ハンドブック」(1998年5月30日 初版第1刷発行)株式会社新技術開発センター(以下、「周知例4」という。)の第268ページの表5・12には、セラミック溶射の粗面処理のブラスト面の表面粗さが「Ra:2.5?13μm〔中心線平均粗さ(通常の場合)〕」である旨が記載されている)。
そして、引用発明において、外輪2の外周面22及び両端面23の外表面に、セラミックの被膜7を溶射によって形成するに際して、当該セラミックの被膜7の密着性を高めることは、当業者が配慮すべき一般的な課題であるから、引用発明の必要な下地処理として、上記周知の技術の粗面化処理を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
また、粗面化処理面の表面粗さは、上記周知例1及び4のように当業者が適宜設定しているところであり、特に周知例4の「Ra:2.5?13μm〔中心線平均粗さ(通常の場合)〕」と、上記相違点1に係る本願補正発明の「中心線粗さで3.2aより粗い」こととは、「3.2?13」の範囲で重複している。
そうすると、本願補正発明において、「中心線粗さで3.2aより粗いか、または最大高さで25Sよりも粗いかの、いずれか一方を満足する粗さとし」た点は、粗面化処理面の表面粗さについて当業者が通常試みる範囲において、中心線粗さ及び最大高さの各数値の下限値を設定して、絶縁層の外輪に対する密着性を確保するようにしたということができ、そのように各数値の下限値を設定することは、当業者の通常の創作能力の発揮というべきことであり、また、上記「3.2a」及び「25S」という下限値に臨界的意義があるともいえない。

(2)相違点2について

上記相違点2について、本願明細書の記載を検討すると、図1に示す第1の提案例である、外輪2に直接にセラミックスの絶縁層6を設けるものに関し、「また、外輪2の絶縁層6が設けられる面a,b,cをサンドブラストにより、面粗さが中心線平均粗さでは3.2aよりも粗く、最大高さでは25Sよりも粗い粗面化処理した密着性向上処理面としたため、絶縁層6としてセラミックスを用いながら、絶縁層6の外輪2に対する密着性が確保できる。なお、最近の溶射技術の進歩によっても、絶縁層6の外輪2に対する密着力の確保が容易になった。JISによる密着力測定法に準拠し、絶縁層6の密着力を測定したところ、44.8MPa以上の結果が得られ、十分に実用性の有ることが確認できた。」(段落【0016】)との記載があり、また、図3に示すこの発明の一実施形態に関し、「この実施形態は、外輪2の外径面、幅面、および面取付部cにわたり、セラミックスの溶射層である絶縁層6Aからなる一層の被覆層を設け、外輪2の絶縁層6Aが設けられる面を、絶縁層6Aの密着性を高める密着性向上処理面としたものである。絶縁層6Aは、前記提案例の絶縁層6と同じ材質のものとされ、外輪2の密着性向上処理面も前記提案例と同様とされる。」、及び、「一層構造であっても、外輪2に対する絶縁層6Aの密着性は、外輪2に設けた密着性向上処理面によって確保される。」(いずれも段落【0020】)との記載がある。
上記記載によれば、図1に示す第1の提案例においては、絶縁層6の密着力が44.8MPa以上となるのは、「外輪2の絶縁層6が設けられる面a,b,cをサンドブラストにより、面粗さが中心線平均粗さでは3.2aよりも粗く、最大高さでは25Sよりも粗い粗面化処理した密着性向上処理面とした」ことと「最近の溶射技術」とによるものと認めれるが、後者の「最近の溶射技術」についての具体的な記載はないから、一般的に用いられる溶射技術を適用したにすぎないものと解される。したがって、図3に示すこの発明の一実施形態においては、外輪2に対する絶縁層6Aの密着性は、外輪2に設けた密着性向上処理面を設けた結果によるものである。
そうすると、上記「(1)相違点1について」で検討したように、引用発明の必要な下地処理として、上記周知の技術の粗面化処理を採用し、また、粗面化処理面の表面粗さについて、当業者の通常の創作能力の発揮して、本願補正発明の中心線粗さ及び最大高さの各数値の下限値を設定したものに、一般的な溶射技術により引用発明のセラミックの被膜7を溶射したものでも、セラミック被膜7の外輪2に対する密着力が44.8MPa以上となることは予測されるし、そうでないとしても、必要とされる密着力の下限値を適宜設定して、その下限値以上の密着力を得るようにすることは、当業者が通常行う設計上の事項であり、更に、本願明細書の記載を検討しても、上記「44.8MPa」という下限値に臨界的意義があるともいえない。

(3)相違点3について

刊行物1の記載事項(ア)の「従って、前記被膜の端面側の端縁部に包含される内周縁は、周凸条21の端面(非被面)よりも軸方向の内側に入り込んでおり、前記周縁が保護されている。」との記載を参酌すれば、引用発明おいて、セラミックの被膜7の厚さを、「周凸条21の軸方向の突出高さとほぼ等しい厚み」としたことは、セラミックの被膜7の周縁を保護するための最大の厚さを限定したもので、セラミックの被膜7の厚さとして、周凸条21の端面(非被面)よりも軸方向の内側に入り込むような、周凸条21の軸方向の突出高さよりも小さい厚みも含まれるものと解される。よって、セラミックの被膜7の厚さは、周凸条21の軸方向の突出高さを適宜設定するとともに、その突出高さを超えない範囲で、セラミックの被膜7を溶射することによって、当業者が適宜設定し得るものと認められる。
そして、刊行物2の記載事項(ウ)及び図面には、金属層5,6との間に絶縁層7を挟装した3層構造の被覆層8を設けたものにおいて、絶縁層7のコーティング厚さを0.2?0.3mm程度とする旨が記載されており、当該絶縁層7のコーティング厚さ「0.2?0.3mm程度」は、上記相違点1に係る本願補正発明のセラミックスの絶縁層の厚さ「0.15mm?0.45mm」に包含される数値である。
そうすると、引用発明において、セラミックの被膜7の厚さを設定するに際して、電気絶縁性の確保、加工時間の短縮、材料の節減、放熱性の向上、亀裂の発生の防止を図ることは、当業者が配慮すべき一般的な課題であるから、上記刊行物2に記載の3層構造の被覆層8における絶縁層7のコーティング厚さ「0.2?0.3mm程度」を参酌し、実験的に数値範囲を最適化又は好適化して、上記相違点3に係る本願補正発明のセラミックスの絶縁層の厚さ「0.15mm?0.45mm」とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮というべきことであり、また、上記相違点3に係る本願補正発明の数値限定の内と外で量的に顕著な効果の差異があるともいえない。

(4)作用効果について

本願補正発明が奏する作用効果は、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。

(5)まとめ

したがって、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)審判請求人の主張について

審判請求人は、平成23年2月22日付けで提出した審判請求書の請求の理由において、本願補正発明は、「粗面化処理面の表面粗さ、セラミックスの絶縁層の厚さ、および密着力の有機的な組み合わせにより、電気絶縁性、軸受の放熱性、密着性の確保、製造の簡素化による低コスト化につき、総合的に優れた電食防止型転がり軸受を実現して」(【本願発明が特許されるべき理由】の「1.」の項を参照。)いる旨を主張するとともに、当審における審尋に対する平成23年8月19日付けの回答書においても同趣旨の主張をしている。
しかしながら、上記審判請求人が主張する構成は、上記「(1)相違点1について」?「(3)相違点3について」で説示したとおり、当業者が容易に想到し得たことであるし、これらの相違点に係る本願補正発明の構成が有機的な組み合わせであるとしても当業者が予測できないような効果を奏するものではないことは上述のとおりである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成23年2月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成22年9月24日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
軌道輪のハウジングまたは軸に取付けられる面に、セラミックスの溶射層である絶縁層からなる一層構造の被膜層を設け、前記軌道輪の前記絶縁層が設けられる面を、前記絶縁層の密着性を高める密着性向上処理面とし、この密着性向上処理面は粗面化処理面とされ、前記セラミックスの絶縁層の前記軌道輪に対する密着力を、44.8MPa以上とし、前記セラミックスの絶縁層の厚さを0.15mm?0.45mmとした電食防止型転がり軸受。」

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及び2とその記載事項は、上記【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明の「外輪」を上位概念の「軌道輪」にするとともに、「ハウジングに取付けられる面」に「軸」という選択肢を追加して「ハウジングまたは軸に取付けられる面」という択一的記載にし、「粗面化処理面」についての限定事項である「この粗面化処理面の表面粗さを、中心線粗さで3.2aより粗いか、または最大高さで25Sよりも粗いかの、いずれか一方を満足する粗さとし」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、審判請求時の手続補正によってさらに構成を限定的に減縮した本願補正発明が、上記【2】3.及び【2】4.に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2011-11-25 
結審通知日 2011-11-29 
審決日 2011-12-16 
出願番号 特願2007-17799(P2007-17799)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保 克彦佐々木 芳枝  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 所村 陽一
常盤 務
発明の名称 電食防止型転がり軸受  
代理人 杉本 修司  
代理人 野田 雅士  

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