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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1252388
審判番号 不服2010-9459  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-06 
確定日 2012-02-16 
事件の表示 特願2003-378111「画像処理方法及び画像処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 2日出願公開、特開2005-142891〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【第1】経緯

[1]手続の概要
本願は、平成15年11月7日の出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成21年 3月12日(起案日)
意見書 :平成21年 5月18日
手続補正 :平成21年 5月18日
拒絶査定 :平成22年 1月29日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成22年 5月 6日

[2]査定
原審での査定の理由は、以下のとおりである。

〈査定の理由〉
本願の各請求項に係る発明は、下記の刊行物1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
記(刊行物)
刊行物1:特開2002-083294号公報
刊行物2:特開2002-281315号公報

《詳細》
出願人は、平成21年5月18日付けの意見書において、
「引用文献1,2(審決註:上記刊行物1,2に同じ)と本願発明とを対比しますと、本願発明に於ける前述の画像の平滑化とエッジ強調との処理及び平坦部分と急峻部分との中間部分に対して、円滑化とエッジ強調との特性が連続的に変化する特性で処理する点は、前記引用文献1,2には開示されていません」と主張しているが、
刊行物1においても「上記の式(4)においては、カラーエッジ情報f(n,m)が、閾値thd1以下の場合は先鋭度を平滑化するような強調係数が、閾値thd1よりも大きく、閾値thd2以下の場合は先鋭度を強調するような強調係数が...それぞれ算出されることになる。図7は、上記の式(4)を図で表した概念図である。」([0045]-[0047]なる記載および、【数3】,図7からみて、平滑化処理を行う係数(本願「平滑化フィルタの処理を行う係数」に対応)と先鋭度強調処理を行う係数(本願「エッジ強調フィルタの処理を行う係数」に対応)とが連続しているものであって、「画像の平滑化とエッジ強調との処理処理および円滑化とエッジ強調との特性が連続的に変化する特性で処理する」ことと特段の相違は認められない。
したがって、出願人の主張は採用できず、請求項1-4に係る発明は、刊行物1-2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことと認められる。

【第2】本願発明

本願の請求項1?4までに係る発明は、本願特許請求の範囲,明細書及び図面(平成21年5月18日付けの手続補正書により補正されたもの)の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4までに記載した事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、下記のとおりのものである。
記(本願発明)
入力された画像の単一又は複数の画素毎に平坦度合い又は急峻度合いを示す値を算出する過程と、
前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値を基にフィルタ係数を求める過程と、
該過程により求めた前記フィルタ係数により前記画素に対するフィルタリング処理を行う過程とを含み、
前記フィルタ係数を求める過程に於いて、前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値が、平坦部分を示す時に平滑化フィルタの処理を行う係数として求め、急峻部分を示す時にエッジ強調フィルタの処理を行う係数として求め、前記平坦部分と前記急峻部分との中間部分を示す時に前記平滑化フィルタの処理を行う係数と前記エッジ強調フィルタの処理を行う係数との間を連続的に変化する係数として求める過程を有する
ことを特徴とする画像処理方法。

【第3】当審の判断

[1]引用刊行物の記載(摘示)
原査定の拒絶理由に引用された刊行物1:特開2002-083294号公報には、以下の記載(下線は、注目箇所を示すために当審で施したものである。)が認められる。

[2]刊行物の記載(摘示)
刊行物1:特開2002-083294号公報(先の「引用文献1」に同じ。以下「刊行物1」という。)には、以下の記載(下線は、注目箇所を示すために当審で施したものである。)が認められる。
なお、【数2】、【数3】等はまとめて最後に示す。

(K1)〈特許請求の範囲、請求項13?19〉
「【請求項13】 入力された画像データに対して適応的な精細度補正を施す画像処理方法であって、
前記入力画像データから画像特徴量を算出する画像特徴量算出ステップと、
前記画像特徴量算出ステップで算出された画像特徴量が、第一の値以下の場合は先鋭度を平滑化する強調係数を、第一の値よりも大きく、第二の値以下の場合は先鋭度を強調する強調係数を、第二の値よりも大きい場合は先鋭度の補正を行わない強調係数をそれぞれ算出する強調係数算出ステップと、
前記強調係数算出ステップで算出された強調係数に基づいて前記入力画像データの精細度補正を行う精細度補正ステップとの各処理を実行することを特徴とする画像処理方法。
【請求項14】 前記画像特徴量算出手段では、画像特徴量としてカラーエッジ情報を算出することを特徴とする請求項13記載の画像処理方法。
【請求項15】 略
【請求項16】 前記強調係数算出ステップでは、入力画像全体に係る強調係数を算出する大域的強調係数算出ステップと、入力画像の画素毎に係る強調係数を算出する局所的強調係数算出ステップとの各処理を実行することを特徴とする請求項13記載の画像処理方法。
【請求項17】 略
【請求項18】 前記局所的強調係数算出ステップでは、前記画像特徴量算出ステップで算出された画像特徴量が第一の値以下の場合は、局所的強調係数に負の値を設定することを特徴とする請求項16記載の画像処理方法。
【請求項19】 前記局所的強調係数算出ステップでは、前記画像特徴量算出ステップで算出された画像特徴量が第二の値よりも大きい場合は、局所的強調係数に0あるいは0に近い値を設定することを特徴とする請求項16記載の画像処理方法。」

(K2)〈発明の属する技術分野〉
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムが格納された記録(記憶)媒体に関し、特に画像に対して適応的な精細度補正を行う画像処理装置およびその処理方法、ならびに当該処理方法の処理手順をコンピュータに実行させるための画像処理プログラムがソフトウェアとして格納された記録媒体に関する。」

(K3)〈従来の技術〉
「【0005】上記の画質劣化の一つとして、精細度がかけている、いわゆる、なまっている状態が挙げられる。これは、スキャナやディジタルカメラの撮像デバイス(例えば、CCD型撮像素子)のMTF(modulation transfer function)特性や光量、撮影条件などのさまざまな劣化要因が重なって起こる現象である。
【0006】略
【0007】一方、画像に適応的な精細度補正を行う方法の一つとして、周知技術であるアンシャープネスマスク処理という手法がある。このアンシャープネスマスク処理は、入力画像とその平滑化画像の差分、即ち高周波成分を算出し、この算出した高周波成分に一定のゲインをかけてから入力画像に加算することで、精細度補正を実現する手法である。次式(1)に、アンシャープネスマスク処理の一般式を示す。
【0008】
out(n,m)=in(n,m)+K・{in(n,m)-sm(n,m)} ・・・(1)
ここで、out(n,m)は出力画像、in(n,m)は入力画像、sm(n,m)は平滑化画像(フィルタサイズN×M)である。また、Kは強調係数、n,mは位置である。ただし、強調係数Kは、
【0009】
【数1】
K=K in(n,m)-sm(n,m) > THD
K=0 else
である。ここで、THDは閾値である。
【0010】上記の式(1)に示すように、アンシャープネスマスク処理は3つのパラメータを持つ。すなわち、1つ目のパラメータは、式(1)の強調係数Kである。この強調係数Kは高周波成分をどれだけ強調するかを示す係数(ゲイン)であり、K=0であれば精細度補正は行われず、Kが大きくなればなるほど精細度の強調度合いは強くなる。
【0011】2つ目のパラメータは、式(1)の平滑化画像sm(n,m)を作成する際に用いるフィルタのサイズN×Mである。このフィルタのサイズN×Mが大きくなればなるほどボケ具合が大きくなり、それに伴って、入力画像との差分である高周波成分も大きくなる。
【0012】3つ目のパラメータは、式(1)の強調係数Kを決定するための閾値THDである。高周波成分が閾値THDよりも大きければ精細度補正を行い、逆に高周波成分が閾値THD以下であればその部分にはエッジがないと判断して、強調係数Kを0に設定する。強調係数K=0では、精細度の強調は行われず、入力画像の値が保持される。
【0013】このように、アンシャープネスマスク処理は、画像毎に最適な値をこの3つのパラメータ、即ち強調係数K、フィルタサイズN×Mおよび閾値THDに設定することで、適応的な精細度補正を実行する手法である。」

(K4)〈解決しようとする課題〉
「【0014】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、周知技術であるアンシャープネスマスク処理は、基本的には、画像に対して1つの強度係数(ゲイン)Kしか設定できないため、例えば、髪や輪郭などはエッジが強調されるが、濃淡の少ない背景や人の肌、ノイズなども強調されてしまい、全体的に粒状性が粗くなってしまう場合がある。
【0015】3つ目のパラメータである閾値THDを用いれば、高周波成分のない部分は強調しないように設定できるが、強調のON/OFFのみの設定しかできないために、処理のON/OFFの切り替え部分で違和感が生じる場合がある。また、どのパラメータをどのように設定すれば、好ましい精細度補正が実現できるかどうかは、一般ユーザにはわかりづらく、幾度となく試行錯誤的な操作を繰り返すことになる。
【0016】これに対して、自動的に画像に適応的な精細度補正を行う方法として、入力画像のエッジに基づいて補正を行う方法が提案されている(例えば、特開平11-055526号公報参照)。この従来技術は、1次微分フィルタや2次微分フィルタを通すことで、あるいは、単純に周辺画素との差分をとることでエッジ画像を抽出し、エッジ画像の特徴から画像のエッジらしさを算出した後、そのエッジらしさをアンシャープネスマスク処理の強調係数Kに反映させたり、エッジ強調フィルタの決定に用いたりする方法である。
【0017】しかしながら、この従来技術では、エッジ情報から自動的にパラメータを決定して精細度補正を行うのであるが、ここで用いられるエッジ情報は一般的に明度の信号を用いて算出されることが多いため、なだらかなカラーグラデーションに節目やむらが発生することがある。
【0018】すなわち、明度信号のエッジは、かならずしも人の視覚で認知できるエッジと一致しているわけではなく、例えば、なだらかなカラーのグラデーションなどの場合は、人の目にはエッジがないように見えるが、明度信号だけをみるとエッジが存在していることがある。従って、このような部分に明度のエッジ情報を用いて自動的にパラメータを設定するような精細度補正を行うと、なだらかなカラーグラデーションに節目やむらが発生することがある。
【0019】本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、補正後の画像に節目やむらなどの不具合を発生させることなく、適応的な精細度補正が可能な画像処理装置およびその処理方法、ならびにその処理方法の処理動作を実行させるための画像処理プログラムが格納された記録媒体を提供することにある。」

(K5)〈課題を解決するための手段〉
「【0021】本発明に係る画像処理方法は、入力された画像データに対して適応的な精細度補正を施す画像処理方法であって、入力画像データから画像特徴量を算出する画像特徴量算出ステップと、この画像特徴量算出ステップで算出された画像特徴量が、第一の値以下の場合は先鋭度を平滑化する強調係数を、第一の値よりも大きく、第二の値以下の場合は先鋭度を強調する強調係数を、第二の値よりも大きい場合は先鋭度の補正を行わない強調係数をそれぞれ算出する強調係数算出ステップと、この強調係数算出ステップで算出された強調係数に基づいて入力画像データの精細度補正を行う精細度補正ステップとの各処理を実行する。
【0022】上記構成の画像処理装置およびその処理方法において、入力された画像データに対して適応的な精細度補正を施すに当たって、先ず、入力画像データから画像特徴量を算出する。そして、この画像特徴量に応じて画像に対して複数の強調係数を算出し、その算出した複数の強調係数を用いて先鋭度を平滑化したり、先鋭度を強調したり、あるいは先鋭度の補正を行わないような精細度補正を行う。これにより、ユーザが試行錯誤的な操作を行うことなく、適応的な精細度補正を実現できる。特に、画像特徴量として、明度のエッジ情報を用いずに、色の凸凹を表すカラーエッジ情報を用いることで、人の感覚に応じてエッジ情報を得ることができ、補正後の画像に節目やむらなどの不具合を発生させることもない。」

(K6)〈発明の実施の形態,第1実施形態,カラーエッジ情報f(n,m)〉
「【0024】<第1実施形態>図1は、本発明の第1実施形態に係る画像処理装置の構成例を示すブロック図である。図1において、本実施形態に係る画像処理装置は、画像入力部11、画像特徴量算出部12、強調係数算出部13、精細度補正部14および画像出力部15を有する構成となっている。
【0025】上記構成の画像処理装置において、画像入力部11は、例えばスキャナなどのディジタル多値画像入力機器やメモリなどからなり、原稿などから読み取った画像データあるいは記憶保持している画像データを入力する。画像特徴量算出部12は、画像入力部11から入力された入力画像(データ)から画像特徴量としてカラーエッジ情報f(n,m)を算出する。
【0026】強調係数算出部13は、特徴量算出部12において算出したカラーエッジ情報f(n,m)から精細度補正に必要な2種類の強調係数を算出する。ここで算出する2種類の強調係数とは、画像全体に一律な大域的強調係数Kと、画素毎に異なる係数を持つ局所的強調係数K(n,m)である。
【0027】精細度補正部14は、強調係数算出部13において算出した2種類の強調係数K,k(n,m)を用いて、画像入力部11から入力された画像データを補正し、出力画像データを作成する。画像出力部15は、例えばプリンタ等の画像出力機器やメモリなどからなり、精細度補正部14で補正された出力画像データを紙などの媒体に画像として出力したり、あるいはそのまま記憶保持する。
【0028】図2に、第1実施形態に係る画像処理装置における強調係数算出部13の具体的な構成の一例を示す。この強調係数算出部13は、大域的強調係数算出部21および局所的強調係数算出部22を有する構成となっている。
【0029】上記構成の強調係数算出部13において、大域的強調係数算出部21は、画像特徴量算出部12において算出されたカラーエッジ情報f(n,m)に基づいて、画像全体に係る大域的強調係数Kを算出する。局所的強調係数算出部22は、画像特徴量算出部12において算出されたカラーエッジ情報f(n,m)に基づいて、画素毎に係る局所的強調係数k(n,m)を算出する。
【0030】次に、上記構成の第1実施形態に係る画像処理装置での各処理部の動作および画像処理方法の手順について、図3のフローチャートに従って説明する。
【0031】最初に、画像入力部11からディジタル多値画像データが入力される(ステップS11)。このディジタル多値画像データとしては、メモリに予め格納されている画像データでも良いし、スキャナや画像読み取り機能を搭載したディジタル複写機等からスキャンインして得られる画像データでも良い。
【0032】次に、画像特徴量算出部12において、画像入力部11から入力された入力画像(データ)から、画像特徴量としてカラーエッジ情報f(n,m)を算出する(ステップS12)。なお、本発明においては、画像の色の凹凸状態をカラーエッジ情報として定義し、本実施形態では、このカラーエッジ情報を対象画素とその周辺画素との色距離の平均値で表す。次式(2)に、カラーエッジ情報f(n,m)の算出式を示す。
【0033】
【数2】
【0034】ここで、D(n,m,i,j)は、
D(n,m,i,j)=√[{R(n,m)-R(n+i,m+j) }2
+{G(n,m)-G(n+i,m+j) }2
+{B(n,m)-B(n+i,m+j) }2]
であり、またf(n,m)は位置n,mにおける画像特徴量、R(n,m),G(n,m),B(n,m)は位置n,mにおけるR,G,Bの各値、D(n,m,i,j)は位置n,mの画素と位置n+i,m+jの画素とのユークリッド距離、W,Hは参照範囲の横幅と高さ、n,mは位置である。
【0035】画像特徴量算出部12においては、上記の式(2)を用いて、全画素に対してカラーエッジ情報f(n,m)を算出する。カラーエッジ情報f(n,m)は、RGB各成分の距離を基に算出するため、明度のエッジ情報だけでなく色も考慮したエッジ情報であり、人の視覚と一致したエッジを抽出することができる。本実施形態では、このカラーエッジ情報f(n,m)を入力画像の特徴量として、次段の強調係数算出部13に引き渡す。」

(K7)〈大域的強調係数〉
「【0036】次に、強調係数算出部13では、特徴量算出部12で算出したカラーエッジ情報f(n,m)から、精細度補正に必要な2種類の強調係数K,k(n,m)を算出する(ステップS13)。具体的には、まず、大域的強調係数算出部21において、カラーエッジ情報f(n,m)から入力画像の全体的なシャープ度合いを推定する。そして、推定したシャープ度合いと入力画像を補正する強調度合いとを、図4に示す対応表のように対応付ける。
【0037】図4に示す対応表において、画像特徴量f(n,m)の上限側代表値Hpを、画像特徴量f(n,m)の累積ヒストグラムが99.9%の度数を示す値とし、上限側の0.1%の値を考慮しないことで、ノイズなどの影響を回避している。また、画像特徴量f(n,m)の取り得る最大値FMAXは、前記した式(2)で画像特徴量f(n,m)を求めた場合には、FMAX=255となる。
【0038】ここで、上限側代表値Hpが小さい場合は、入力画像の全体的なシャープ度合いは小さい、つまり、「入力画像は全体的にエッジが少なくなまっている画像である」と推定する。従って、その場合は、精細度補正の強調度合い、つまり、大域的な強調係数Kを強めに設定する。また、上限側代表値Hpが大きい場合、入力画像の全体的なシャープ度合いは大きい、つまり、「入力画像は全体的にエッジが多いので、ある程度シャープな画像である」と推定する。従って、その場合は、過強調を防ぐために、精細度補正の強調度合い、つまり、大域的な強調係数Kを弱めに設定する。
【0039】本実施形態で用いた大域的強調係数Kの算出式を次式(3)に示す。
K=1.0-(Hp/FMAX) ・・・(3)
【0040】図5は、上記の式(3)を図で表した概念図である。同図において、横軸が画像特徴量f(n,m)の上限側代表値Hp、縦軸が大域的強調係数Kである。本実施形態では、大域的強調係数Kの算出式を、式(3)および図5のように設定したが、図4の対応表に示す関係を満たすものであれば、これに限られるものではない。

(K8)〈局所的強調係数〉
【0041】次に、局所的強調係数算出部22では、カラーエッジ情報f(n,m)から、入力画像の画素毎の凹凸状態を推定する。推定した画素毎の凹凸状態と画素毎の補正の強調度合いとを、図6に示す対応表のように対応付ける。
【0042】図6に示す対応表において、画素毎の画像特徴量f(n,m)が小さい場合は、対象とする画素の色の凹凸が小さい、つまり、「対象とする画素は、人物の肌や壁などの背景である可能性が高い」と推定する。その場合は、精細度を強調するより、平滑化して滑らかにした方が美しい仕上がりとなるため、局所的な強調係数k(n,m)に負の値を設定して、平滑化を実現させる。
【0043】逆に、画素毎の画像特徴量f(n,m)が大きい場合は、対象とする画素の色の凹凸が大きい、つまり、「対象とする画素は、人物の輪郭や文字など十分にエッジがシャープな部分である可能性が高い」と推定する。その場合は、過強調を防ぐために、精細度の補正度合い、つまり、局所的な強調係数k(n,m)を弱めに、あるいは0に設定する。それ以外の場合は、精細度を強調するような局所的強調係数k(n,m)を設定する。
【0044】本実施形態で用いた局所的強調係数k(n,m)の具体的な算出式を次式(4)に示す。なお、thd1,thd2は閾値である。
【0045】
【数3】
【0046】すなわち、上記の式(4)においては、カラーエッジ情報f(n,m)が、閾値thd1(第一の値)以下の場合は先鋭度を平滑化するような強調係数が、閾値thd1よりも大きく、閾値thd2(第二の値)以下の場合は先鋭度を強調するような強調係数が、閾値thd2よりも大きい場合は先鋭度の補正を行わないような強調係数がそれぞれ算出されることになる。
【0047】図7は、上記の式(4)を図で表した概念図である。同図において、横軸が画素毎の画像特徴量f(n,m)、縦軸が画素毎の局所的調係数k(n,m)である。画像特徴量f(n,m)の上限側代表値Hpは、大域的強調係数の算出式(3)で用いた値と同様である。本実施形態では、局所的強調係数の算出式を、式(4)および図7のように設定したが、図6の対応表に示す関係を満たすものであれば、これに限られるものではない。
【0048】以上のようにして、大域的な強調係数Kおよび局所的な強調係数k(n,m)を算出し、精細度補正部14に値を引き渡す。
【0049】再び図3のフローチャートにおいて、精細度補正部14では、強調係数算出部13で算出した大域的強調係数Kおよび局所的強調係数k(n,m)を用いて、画像入力部11から入力された入力画像の精細度補正を行う(ステップS14)。本実施形態では、R,G,Bの各信号毎に、大域的強調係数Kおよび局所的強調係数k(n,m)を用いて補正を行う。
【0050】この精細度補正部14で用いる算出式を次式(5)に示す。
Rout(n,m)=Rin(n,m)+K・k(n,m)・{Rin(n,m) -Rsm(n,m)}
Gout(n,m)=Gin(n,m)+K・k(n,m)・{Gin(n,m) -Gsm(n,m)}
Bout(n,m)=Bin(n,m)+K・k(n,m)・{Bin(n,m) -Bsm(n,m)}
・・・(5)
ここで、Rout(n,m),Gout(n,m),Bout(n,m)は出力R,G,B信号、Rin (n,m),Gin(n,m) ,Bin(n,m) は入力R,G,B信号、Rsm(n,m),Gsm (n,m),Bsm(n,m) は平滑化R,G,B信号である。
【0051】上記の式(5)を用いて精細度補正を行うことにより、自動的に、入力画像全体のシャープらしさを考慮しつつ、しかも画素毎の状態もふまえた精細度補正が実現できる。
【0052】次に、画像出力部15では、精細度補正部14で補正された画像(データ)を出力する。ここで、画像出力部15としては、メモリでも良いし、プリンタやプリントアウト機能を搭載したディジタル複写機などでも良い。
【0053】以上説明したように、本発明の第1実施形態に係る画像処理装置およびその処理方法においては、画像の特徴量に基づいて大域的な強調係数Kと局所的な強調係数k(n,m)の両者を算出し、さらに、強調係数に負の値を持たせて精細度(先鋭度)の強調処理と平滑化処理を共存させることにより、画像全体のシャープさと画素毎のシャープさを踏まえた精細度補正を行えるため、画像に対して適応的な精細度補正を実現できる。特に、画像の特徴量として明度のエッジ情報を用いずに、色の凸凹を表すカラーエッジ情報を用いることで、人の感覚に応じたエッジ情報を得ることができるため、補正後の画像にむらや節目などの不具合を発生させることがない。」

(K9)〈第2実施形態、簡易的なカラーエッジ情報f(n,m)〉
【0054】<第2実施形態>図8は、本発明の第2実施形態に係る画像処理装置の構成例を示すブロック図である。本実施形態に係る画像処理装置では、第1実施形態に係る画像処理装置の構成に加えて、明度信号を利用して自動的に精細度補正を実施する構成を採っている。
【0055】図8において、本実施形態に係る画像処理装置は、画像入力部31、画像特徴量算出部32、強調係数算出部33、精細度補正部34、画像出力部35および明度算出部36を有する構成となっている。ここで、画像入力部31、強調係数算出部33および画像出力部35については、第1実施形態に係る画像処理装置(図1を参照)における画像入力部11、強調係数算出部13および画像出力部15と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0056】画像特徴量算出部32は、画像入力部31から入力された入力画像(データ)から、画像特徴量としてカラーエッジ情報f(n,m)を算出する。本実施形態においては、後述するような簡易的に求められるカラーエッジ情報を算出する。明度信号算出部36は、画像入力部31から入力された入力画像(データ)から明度信号Y(n,m)を算出する。
【0057】精細度補正部34は、強調係数算出部33において算出した2種類の強調係数K,k(n,m)と明度算出部36において算出した明度信号Y(n,m)とを用いて、画像入力部31から入力された入力画像(データ)に対して精細度の補正を行って出力画像(データ)を作成する。
【0058】上記構成の第2実施形態に係る画像処理装置における各処理部の動作について説明する。ただし、第1実施形態と同様である画像入力部31、強調係数算出部33および画像出力部35についてはその説明を省略する。
【0059】画像特徴量算出部32では、画像入力部31から入力された入力画像から、カラーエッジ情報f(n,m)を算出する。本実施形態では、次式(6)に示す算出式を用いて、簡易的なカラーエッジ情報f(n,m)を算出する。
【0060】
【数4】
【0061】ここで、D(n,m,i,j)は、
D(n,m,i,j)={|R(n,m) -R(n+i,m+j) |
+|G(n,m) -G(n+i,m+j) |
+|B(n,m) -B(n+i,m+j) |}/3
であり、またf(n,m)は位置n,mにおける画像特徴量、R(n,m) ,G(n,m) ,B(n,m) は位置n,mにおけるR,G,Bの各値、D(n,m,i,j) は位置n,mの画素と位置n+i,m+jの画素との簡易ユークリッド距離、W,Hは参照範囲の横幅と高さ、n,mは位置である。
【0062】上記の式(6)を用いることで、第1実施形態で用いた算出式(2)との対比から明らかなように、当該算出式(6)では平方根や自乗などの複雑な演算を行わないため、その分だけ第1実施形態の係る画像処理装置の場合よりも、画像特徴量算出部32における回路規模の縮小化および処理速度の高速化を図ることができる。」

(K10)〈発明の効果〉
「【0109】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、入力された画像データに対して適応的な精細度補正を施すに当たって、入力画像データの画像特徴量に応じて画像に対して複数の強調係数を算出し、その算出した複数の強調係数を用いて先鋭度を平滑化したり、先鋭度を強調したり、あるいは先鋭度の補正を行わないような精細度補正を行うことにより、ユーザが試行錯誤的な操作を行うことなく、適応的な精細度補正を実現できるため、ユーザの負担を軽減することができる。特に、画像特徴量として、明度のエッジ情報を用いずに、色の凸凹を表すカラーエッジ情報を用いることで、人の感覚に応じてエッジ情報を得ることができ、補正後の画像に節目やむらなどの不具合を発生させることもない。」


[2]刊行物1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)

ア 従来技術
前掲(K3)によれば、適応的な精細度補正を行う方法の一つである、周知技術であるアンシャープネスマスク処理が紹介され、同処理は下記1の式(1)による処理である。

記1(アンシャープネスマスク処理)
out(n,m)=in(n,m)+K・{in(n,m)-sm(n,m)} ・・・式(1)
out(n,m)は出力画像、in(n,m)は入力画像、sm(n,m)は平滑化画像(フィルタサイズN×M)である。また、Kは強調係数、n,mは位置である。
強調係数Kは、 K=K in(n,m)-sm(n,m) > THD であり、
K=0 else
高周波成分が閾値THDよりも大きければ精細度補正を行い、逆に高周波成分が閾値THD以下であればその部分にはエッジがないと判断して、強調係数Kを0に設定する。強調係数K=0では、精細度の強調は行われず、入力画像の値が保持される。
平滑化画像sm(n,m)を作成する際に用いるフィルタのサイズN×Mが大きくなればなるほどボケ具合が大きくなり、それに伴って、入力画像との差分である高周波成分も大きくなる。

イ 刊行物1には、前掲(K2)(K3)(K4)によれば、上記のアンシャープネスマスク処理では、「基本的には、画像に対して1つの強度係数(ゲイン)Kしか設定できないため、例えば、髪や輪郭などはエッジが強調されるが、濃淡の少ない背景や人の肌、ノイズなども強調されてしまい、全体的に粒状性が粗くなってしまう場合がある。」、「閾値THDを用いれば、高周波成分のない部分は強調しないように設定できるが、強調のON/OFFのみの設定しかできないために、処理のON/OFFの切り替え部分で違和感が生じる場合がある。」等の課題に鑑み、
補正後の画像に節目やむらなどの不具合を発生させることなく、適応的な精細度補正が可能な画像処理装置および画像処理方法を提供することを目的とする画像処理方法が記載されており(段落【0019】)、
主に実施の形態として記載されたものから、本願発明と対比する引用発明を認定する。

ウ 実施の形態(特に第1実施形態)の画像処理方法{図1?図7,(K6)?(K9)}
実施の形態(特に第1実施形態)の画像処理方法は、
「画像の特徴量に基づいて大域的な強調係数Kと局所的な強調係数k(n,m)の両者を算出し、さらに、強調係数に負の値を持たせて精細度(先鋭度)の強調処理と平滑化処理を共存させることにより、画像全体のシャープさと画素毎のシャープさを踏まえた精細度補正を行えるため、画像に対して適応的な精細度補正を実現できる」(段落【0053】)ようにした、
式(5)による画像処理方法であり、
Rout(n,m)=Rin(n,m)+K・k(n,m)・{Rin(n,m) -Rsm(n,m)}
Gout(n,m)=Gin(n,m)+K・k(n,m)・{Gin(n,m) -Gsm(n,m)}
Bout(n,m)=Bin(n,m)+K・k(n,m)・{Bin(n,m) -Bsm(n,m)}
・・・式(5)
Rout(n,m),Gout(n,m),Bout(n,m)は出力R,G,B信号、Rin (n,m),Gin(n,m) ,Bin(n,m) は入力R,G,B信号であり、Rsm(n,m),Gsm (n,m),Bsm(n,m) は平滑化R,G,B信号である。
このRsm(n,m),Gsm (n,m),Bsm(n,m)は、上記従来技術の「sm(n,m)」と同様、フィルタのサイズN×Mのフィルタを用いて作成されるものということができる。

式(5)による画像処理方法は、以下のステップでなされる。

〈ステップS11〉
画像入力部11からディジタル多値画像データが入力される。

〈ステップS12〉
画像特徴量算出部12において、画像入力部11から入力された入力画像(データ)から、画像特徴量としてカラーエッジ情報f(n,m)を算出する。f(n,m)は、式(2)(【数2】)で算出される、カラーエッジ情報であり、対象画素とその周辺画素との色距離の平均値で表す。
ここで、D(n,m,i,j)は、
D(n,m,i,j)=√[{R(n,m)-R(n+i,m+j) }2
+{G(n,m)-G(n+i,m+j) }2
+{B(n,m)-B(n+i,m+j) }2]
であり、またf(n,m)は位置n,mにおける画像特徴量、R(n,m),G(n,m),B(n,m)は位置n,mにおけるR,G,Bの各値、D(n,m,i,j)は位置n,mの画素と位置n+i,m+jの画素とのユークリッド距離、W,Hは参照範囲の横幅と高さ、n,mは位置である。
また、カラーエッジ情報f(n,m)は、式(2)の他、式(6)(【数4】)による簡易的なものでも良いとされている{(K9)}。

〈ステップS13〉
次に、強調係数算出部13では、特徴量算出部12で算出したカラーエッジ情報f(n,m)から、精細度補正に必要な2種類の強調係数K,k(n,m)を算出する。2種類の強調係数は、大域的強調係数Kと局所的強調係数k(n,m)であり、次の様に算出される。
《大域的強調係数K》(段落【0036】?【0040】)
大域的強調係数Kは、式(3)で算出され、図5に示される。
K=1.0-(Hp/FMAX) ・・・式(3)
FMAXは、最大値であり、FMAX=255である。
Hpは、画像特徴量f(n,m)の上限側代表値であって、画像特徴量f(n,m)の累積ヒストグラムが99.9%の度数を示す値である。
上限側代表値Hpが小さい場合は、入力画像の全体的なシャープ度合いは小さい、つまり、「入力画像は全体的にエッジが少なくなまっている画像である」と推定する。従って、その場合は、精細度補正の強調度合い、つまり、大域的な強調係数Kを強めに設定する。また、上限側代表値Hpが大きい場合、入力画像の全体的なシャープ度合いは大きい、つまり、「入力画像は全体的にエッジが多いので、ある程度シャープな画像である」と推定する。従って、その場合は、過強調を防ぐために、精細度補正の強調度合い、つまり、大域的な強調係数Kを弱めに設定されるものである。
《局所的強調係数》(段落【0041】?【0047】)
局所的強調係数k(n,m)は、式(4)(数【3】)で算出され、図7に示される。
thd1,thd2は閾値、Hpは画像特徴量f(n,m)の上限側代表値であり、
カラーエッジ情報f(n,m)が、
閾値thd1以下の場合は先鋭度を平滑化するような強調係数が、
閾値thd1よりも大きく、Hp以下の場合は先鋭度を強調するような強調係数(閾値thd2で最大値)が、
Hpよりも大きい場合は先鋭度の補正を行わないような強調係数が、
それぞれ算出される。
(なお、段落【0046】には、「閾値thd1よりも大きく、閾値thd2(第二の値)以下の場合は先鋭度を強調するような強調係数が、閾値thd2よりも大きい場合は先鋭度の補正を行わないような強調係数がそれぞれ算出される」と記載されているが、式(4)及び図7に即すれば、局所的強調係数k(n,m)は上述のように算出される。)

〈ステップS14〉(段落【0049】?【0053】)
精細度補正部14では、強調係数算出部13で算出した大域的強調係数Kおよび局所的強調係数k(n,m)を用いて、画像入力部11から入力された入力画像の精細度補正を行うもので、R,G,Bの各信号毎に、大域的強調係数Kおよび局所的強調係数k(n,m)を用いて、上記(5)式により、精細度を補正する画像処理を行う。

エ 引用発明
以上によれば、本願発明と対比する引用発明として、下記の発明を認定することができる。

記(引用発明)
S0:画像の特徴量に基づいて大域的な強調係数Kと局所的な強調係数k(n,m)の両者を算出し、さらに、強調係数に負の値を持たせて精細度(先鋭度)の強調処理と平滑化処理を共存させることにより、画像全体のシャープさと画素毎のシャープさを踏まえた精細度補正を行えるため、画像に対して適応的な精細度補正を実現できるようにした、
式(5)による画像処理方法であって、下記S1?S4のステップでなされる
画像処理方法。

式(5);
Rout(n,m)=Rin(n,m)+K・k(n,m)・{Rin(n,m) -Rsm(n,m)}
Gout(n,m)=Gin(n,m)+K・k(n,m)・{Gin(n,m) -Gsm(n,m)}
Bout(n,m)=Bin(n,m)+K・k(n,m)・{Bin(n,m) -Bsm(n,m)}
Rout(n,m),Gout(n,m),Bout(n,m)は出力R,G,B信号、Rin (n,m),Gin(n,m) ,Bin(n,m) は入力R,G,B信号であり、
Rsm(n,m),Gsm (n,m),Bsm(n,m) は平滑化R,G,B信号であって、フィルタのサイズN×Mのフィルタを用いて作成される。

S1:カラーエッジ情報f(n,m)の算出{式(2)/式(6)}
入力された入力画像(データ)から、式(2)(【数2】)又は式(6)(【数4】)で算出される、画像特徴量としてのカラーエッジ情報f(n,m)を算出する。

S2:大域的強調係数Kの算出{式(3),図5}
算出したカラーエッジ情報f(n,m)から、式(3)で算出される大域的強調係数K(図5)を算出する。
式(3);
K=1.0-(Hp/FMAX)
FMAXは、最大値であり、FMAX=255である。
Hpは、画像特徴量f(n,m)の上限側代表値であって、画像特徴量f(n,m)の累積ヒストグラムが99.9%の度数を示す値である。

S3:局所的強調係数k(n,m){式(4),図7}
算出したカラーエッジ情報f(n,m)から、式(4)(数【3】)で算出される局所的強調係数k(n,m)(図7)を算出する。
thd1,thd2は閾値、Hpは画像特徴量f(n,m)の上限側代表値であり、
カラーエッジ情報f(n,m)が、
閾値thd1以下の場合は先鋭度を平滑化するような強調係数が、
閾値thd1よりも大きく、Hp以下の場合は先鋭度を強調するような強調係数(閾値thd2で最大値)が、
Hpよりも大きい場合は先鋭度の補正を行わないような強調係数が、
それぞれ算出される。

S4:入力画像に対する画像処理の実行{式(5)}
算出した大域的強調係数Kおよび局所的強調係数k(n,m)を用いて、画像入力部11から入力された入力画像の精細度補正を行うもので、R,G,Bの各信号毎に、大域的強調係数Kおよび局所的強調係数k(n,m)を用いて、上記式(5)により、精細度を補正する画像処理を行う。

[3]本願発明と引用発明との対比(対応関係)

(1)本願発明(構成要件の分説)

本願発明は、以下のように要件A,B,C,B1,Dに分説することができる。

本願発明(分説)
A:入力された画像の単一又は複数の画素毎に平坦度合い又は急峻度合いを示す値を算出する過程と、
B:前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値を基にフィルタ係数を求める過程と、
C:該過程により求めた前記フィルタ係数により前記画素に対するフィルタリング処理を行う過程とを含み、
B1:前記フィルタ係数を求める過程に於いて、前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値が、平坦部分を示す時に平滑化フィルタの処理を行う係数として求め、急峻部分を示す時にエッジ強調フィルタの処理を行う係数として求め、前記平坦部分と前記急峻部分との中間部分を示す時に前記平滑化フィルタの処理を行う係数と前記エッジ強調フィルタの処理を行う係数との間を連続的に変化する係数として求める過程を有する
D:ことを特徴とする画像処理方法。

(2)本願発明と引用発明との対比(対応関係)
本願発明の各構成要件について、引用発明と対応する。

ア 要件D「ことを特徴とする画像処理方法。」
引用発明も「画像処理方法」の発明であり、この点一致している

イ 要件Aについて
A「入力された画像の単一又は複数の画素毎に平坦度合い又は急峻度合いを示す値を算出する過程と、」

本願発明でいう「単一の画素毎に平坦度合い又は急峻度合いを示す値」とは、明細書・図面の実施例についての記載、
特に、段落【0027】,【0032】「平坦部にスムージングを行い、境界部分にエッジ強調を行う為には、EPm,nの値が大きい場合は、Bの値が負の値であり、EPm,nの値が0に近い場合は、Bの値が正の値となり、中域では、B=0となることが望ましい。これらの条件を持つ値としてBを計算する為に、例えば、
B=max(min(α(L-EP(m,n)),E),F) ・・・(5)を用いることができる。」,【0033】,【0034】「エッジ量演算部2は、マスク走査部1からの出力画素の差分の絶対値を求めて、平坦度合い又は急峻度合いを示すエッジ量を求めて、フィルタ係数演算部3に入力する。」,【0035】,【0036】等,図2?図4の記載に照らせば、
EP(m,n)を含んでいうものであって、
『単一の画素毎に決まる値であって、その大きさの程度で平坦度合い又は急峻度合いを示すエッジ量』をいうものといえるところ、
引用発明のステップS1で算出されるカラーエッジ情報f(n,m)も、式(2)(【数2】)又は式(6)(【数4】)で算出されるものであって、『単一の画素毎に決まる値であって、その大きさの程度で平坦度合い又は急峻度合いを示すエッジ量』ということができるものである。
したがって、引用発明のカラーエッジ情報f(n,m)は、本願発明でいう「入力された画像の単一又は複数の画素毎に平坦度合い又は急峻度合いを示す値」に相当するといえ、引用発明も要件Aの過程を含んでいるといい得るものである。
要件Aにおいて、本願発明と引用発明は相違しない。

ウ 要件B,Cについて
B「前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値を基にフィルタ係数を求める過程と、」
C「該過程により求めた前記フィルタ係数により前記画素に対するフィルタリング処理を行う過程とを含み、」

ウ-1 本願発明でいう「フィルタ係数」
本願発明でいう「フィルタ係数」とは、明細書・図面の実施例についての記載{例えば、段落【0025】?【0038】
(段落【0031】「中心以外の非0の係数をB、中心の係数をAとすると、係数に対する拘束条件は、C=ΣWi,j=A+4Bとなる(尚、Cは周波数0Hzに於ける出力を正規化する為の係数)」、
段落【0037】「 このような係数A,Bを有するフィルタは、
Wi,j={0,B,0,B,A,B,0,B,0}
となり、EP<Lの範囲では平滑化フィルタ、EP=Lの周辺では全域通過フィルタ、EP>Lの範囲では高域強調(エッジ強調)フィルタとして動作して、画像処理を実行することができる。又係数Bは、図示のように上限値Eから下限値Fに連続的に変化する。」)
に照らせば、段落【0037】,図4で示される『中心の係数A』,『中心以外の非0の係数B』{又は、これを正規化係数(周波数0Hzに於ける出力を正規化する為の係数)で割ったもの}を含んでいうものである。

ウ-2 引用発明における「フィルタ係数」
刊行物1には「フィルタ係数」なる明示的記載はない。
しかしながら、引用発明は、ステップS4で「R,G,Bの各信号毎に、大域的強調係数Kおよび局所的強調係数k(n,m)を用いて、式(5)式により、精細度を補正する画像処理を行う」ものであるところ、
式(5)が、入力画像であるR,G,Bの各信号毎に、フィルタ係数により、R,G,Bの各画素であるRin(n,m),Gin(n,m),Bin(n,m)に対するフィルタリング処理を意味するものであることは、当業者に明らかである。
したがって、ステップS4は、「フィルタ係数により」「画素に対するフィルタリング処理を行う過程」といい得るものである。

そして、このとき、画素に対するフィルタリング処理で用いるフィルタ係数について、以下に検討する。
Rに対するフィルタ係数を例に検討すると、Rについての式(5)は、
Rout(n,m)=Rin(n,m)+K・k(n,m)・{Rin(n,m) -Rsm(n,m)}
=(1+K・k(n,m))・Rin(n,m)
-K・k(n,m)・Rsm(n,m)
であり、
Rsm(n,m)は、フィルタのサイズN×Mのフィルタを用いて作成される平滑化R信号であるところ、
サイズN×Mの平滑フィルタとして最も単純かつ典型的な周知のものとして、3×3サイズの、中心の係数がA’(>0)、中心以外の係数がすべて定数B’(>0)である、
| B’,B’,B’ |
平滑F(3,3)=(1/C)*| B’,A’,B’ |
| B’,B’,B’ |
Cは、周波数0Hzに於ける出力を正規化する為の係数で
C=ΣWi,j=A’+8B’
が当業者に普通に想定される。 (A’>0,B’>0)

このとき、Rsm(n,m)は、
Rsm(n,m)=(1/C)*
[ B’*Rin(n-1,m-1)+B’*Rin(n,m-1)+B’*Rin(n+1,m-1)
+B’*Rin(n-1,m) +A’*Rin(n,m) +B’*Rin(n+1,m)
+B’*Rin(n-1,m+1)+B’*Rin(n,m+1)+B’*Rin(n+1,m+1)]
となり、これを式(5)に代入すれば明らかなように、
式(5)で示されるフィルタリング処理における
中心画素以外の画素に対する係数(『中心以外の非0の係数』)、及び、中心画素に対する係数は、
中心以外の係数:-[B’/(A’+8B’)]・K・k(n,m) 、
中心の係数 :1+[8B’/(A’+8B’)]・K・k(n,m)
となる。

ウ-3 要件B,C
上記ウ-1,2によれば、ステップS4は、「フィルタ係数により」「画素に対するフィルタリング処理を行う過程」といえ、
「フィルタ係数」である中心以外の係数、中心の係数も共に、K・k(n,m)に基づいて決まるものということができる。
そして、引用発明では、そのステップS2・S3から明らかなように、Kもk(n,m)も、ステップS1で算出したカラーエッジ情報f(n,m)に基づいて算出されるものであるから、
「フィルタ係数」は、結局、カラーエッジ情報f(n,m)に基づいて決まるものと言うことができる。
そして、式(5)から明らかなように、「フィルタ係数」を算出して求めなければ、ステップS5での画像処理・フィルタリング処理を行うことはできないのであるから、
引用発明は、
カラーエッジ情報f(n,m){これが、本願発明でいう「入力された画像の単一又は複数の画素毎に平坦度合い又は急峻度合いを示す値」に相当することは前記のとおりである。}を基にフィルタ係数を求める過程と、
該過程により求めた前記フィルタ係数により前記画素に対するフィルタリング処理を行う過程と、
を含んでいる、
つまり要件B,Cの過程を含んでいるといいるものである。

以上によれば、要件B、Cにおいて、本願発明と引用発明は相違しない。

エ 要件B1について
B1「前記フィルタ係数を求める過程に於いて、前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値が、平坦部分を示す時に平滑化フィルタの処理を行う係数として求め、急峻部分を示す時にエッジ強調フィルタの処理を行う係数として求め、前記平坦部分と前記急峻部分との中間部分を示す時に前記平滑化フィルタの処理を行う係数と前記エッジ強調フィルタの処理を行う係数との間を連続的に変化する係数として求める過程を有する」

エ-1 要件B1について
要件B1は、
前記フィルタ係数を求める過程に於いて、
b1-1:前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値が、平坦部分を示す時に平滑化フィルタの処理を行う係数として求め、
b1-2:(前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値が、)急峻部分を示す時にエッジ強調フィルタの処理を行う係数として求め、
b1-3:(前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値が、)前記平坦部分と前記急峻部分との中間部分を示す時に前記平滑化フィルタの処理を行う係数と前記エッジ強調フィルタの処理を行う係数との間を連続的に変化する係数として求める
過程を有する
であるところ、
これがいかに解されるかについて、明細書・図面の記載に照らし検討する。

要件B1は、明細書の段落【0032】?【0038】(時に下記記載),図4に照らせば、図4(特に図4(B))のものを含んでいうものであることは明らかであるところ、
「前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値」とは、EP(|EP|)に対応するものと理解される。
そして、段落【0034】では「平滑化フィルタと全域通過フィルタと高域通過フィルタ(エッジ強調フィルタ)との特性を連続的に変更して、平坦部分は平滑化して滑らかな画像とし、急峻部分はエッジ強調により明確な画像とし、その他はそのままの画像とし、それらの間は連続的に遷移する状態の画像とするものである」と説明し、、
段落【0037】では「EP<Lの範囲では平滑化フィルタ、EP=Lの周辺では全域通過フィルタ、EP>Lの範囲では高域強調(エッジ強調)フィルタとして動作して」と説明していて、
上記b1-3は、「EPがEP=Lの周辺の時」に対応するもの理解される。
そして、図4(A)(B)をみると、真に“全域通過”となるのは係数B=0となるEP=Lのときだけであって、係数B>0の範囲では程度はともかく平滑化フィルタの処理が行われ、係数B<0の範囲では程度はともかくエッジ強調の処理が行われるのである。
すなわち、EP=Lの周辺でも、比較的弱い平滑化フィルタの処理(EP<L)又は比較的弱いエッジ強調の処理(EP>L)がなされるのである。
そうすると、上記b1-1、b1-2での処理は、上記b1-3(EP=Lの周辺)でのこれら「比較的弱い平滑化フィルタの処理」「比較的弱いエッジ強調の処理」と区別して、それぞれ、「比較的強い平滑化フィルタの処理」「比較的強いエッジ強調の処理」と言うことができる。
また、上記b-1?b-3のそれぞれの「・・・時」とは、
上記b1-1は、「EPがLの周辺より小さく比較的強い平坦部分を示す時」に、上記b1-2は、「EPがLの周辺より大きく比較的強い急峻部分を示す時」に、上記b1-3は、EP=Lの周辺で、「EPが比較的強い平坦部分と比較的強い急峻部分」との「中間部分を示す時」に、それぞれ対応するものということができる。

以上によれば、要件B1(b1-1?b1-3)は、
b1-1:(EPがLの周辺より小さく)比較的強い平坦部分を示す時に比較的強い平滑化フィルタの処理を行う係数として求め、
b1-2:(EPがLの周辺より大きく)比較的強い急峻部分を示す時に比較的強いエッジ強調フィルタの処理を行う係数として求め、
b1-3:(EPがLの周辺で)前記比較的強い平坦部分と前記比較的強い急峻部分との中間部分を示す時に前記比較的強い平滑化フィルタの処理を行う係数と前記比較的強いエッジ強調フィルタの処理を行う係数との間を連続的に変化する係数として求める過程を有する
ことを特定するものと解することができる。

そして、本願発明(請求項1)を引用する請求項2が、
「【請求項2】
前記フィルタ係数を求める過程に於いて、前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値が、小さい急峻部分を示す時に於ける前記エッジ強調フィルタの強調度に対して、大きい急峻部分を示す時に於ける前記エッジ強調フィルタの強調度を弱くする係数として求める過程を有することを特徴とする請求項1記載の画像処理方法。」であって、
これが、図4(B)の実施例に対応するものであることを考慮すれば、
請求項2を含む請求項1の本願発明は、
b1-4:(EPが、Lの周辺より十分に大きく)b1-2の「比較的強い急峻部分」より更に強い急峻部分を示す時に、b1-2の比較的強い急峻部分を示す時に於ける「比較的強いエッジ強調フィルタ」の強調度を弱くする係数、すなわち、「比較的弱いエッジ強調フィルタ」の処理を行う係数として求める過程を有するものも含むものと解される。

記(明細書の記載)
【0032】平坦部にスムージングを行い、境界部分にエッジ強調を行う為には、EPm,nの値が大きい場合は、Bの値が負の値であり、EPm,nの値が0に近い場合は、Bの値が正の値となり、中域では、B=0となることが望ましい。これらの条件を持つ値としてBを計算する為に、例えば、
B=max(min(α(L-EP(m,n)),E),F) ・・・(5)
を用いることができる。尚、Eは係数Bの上限値、Fは係数Bの下限値、αは平滑化フィルタとエッジ強調フィルタとの切替えの度合いを示す。又Lは全域通過としたい領域を示す。
【0034】・・・フィルタ係数に従って、平滑化フィルタと全域通過フィルタと高域通過フィルタ(エッジ強調フィルタ)との特性を連続的に変更して、平坦部分は平滑化して滑らかな画像とし、急峻部分はエッジ強調により明確な画像とし、その他はそのままの画像とし、それらの間は連続的に遷移する状態の画像とするものである。
【0036】図4は、フィルタ係数の変化の説明図であり、エッジ強度の絶対値|EP|に対する係数Bの変化を示し、Eは係数Bの上限値、Fは係数Bの下限値、Lは全域通過の領域を示す。同図の(A)は、|EP|が小さい時は、係数Bを上限値Eとし、|EP|が大きい時は、係数Bを下限値Fとし、|EP|がそれらの間の値の時に、|EP|の値に対応して、係数Bが、0を通過して連続的に変化するように制御した場合を示す。
【0037】このような係数A,Bを有するフィルタは、
Wi,j={0,B,0,B,A,B,0,B,0}
となり、EP<Lの範囲では平滑化フィルタ、EP=Lの周辺では全域通過フィルタ、EP>Lの範囲では高域強調(エッジ強調)フィルタとして動作して、画像処理を実行することができる。又係数Bは、図示のように上限値Eから下限値Fに連続的に変化する。
【0038】
又図4の(B)は、高域強調フィルタとして動作する場合に、エッジ強度の絶対値が大きくなるに従って係数Bを下限値Eから次第に0に変化させ、エッジ強調大からエッジ強調小に変化するフィルタ特性とした場合を示す。即ち、エッジ強度の絶対値が大きい急峻な輪郭の領域の強調度合いを低くし、少し急峻な領域に対しては、より急峻な領域となるように処理して画質を向上させることができる。

エ-2 引用発明(Kを考慮しないものとしたもの)
ここで、一旦、引用発明が「大域的強調係数」を用いた処理をしない、すなわち、K(大域的強調係数)を考慮しない(具体的にはK=1で一定の)ものであるとした場合を想定し、このときの上記ウ-2での3×3のフィルタのフィルタ係数について検討する。

K(大域的強調係数)を考慮しない(K=1)場合、
中心以外の係数(K=1のときの)は、
-[B’/(A’+8B’)]・k(n,m) 、
中心の係数(K=1のときの)は、
1+[8B’/(A’+8B’)]・k(n,m)
で求める。

局所的強調係数k(n,m)は、その定義式(4)(数【3】),図7に示されるような関数で示されるものであって、カラーエッジ情報f(n,m)が0からthd1→thd2→Hp→FMAXと大きくなるにしたがって、-1からサイン曲線で0.0(f(n,m);0→thd1)に、0.0からサイン曲線で1に(f(n,m);thd1→thd2)、1からサイン曲線で0.0(thd2→Hp)に、その後FMAXまで0.0のまま(Hp→FMAX)と変化する。
上記k(n,m)の取り得る範囲は、-1から1の間であり、A’>0、B’>0であるから、中心の係数(Kを考慮しない場合)は常に正値であり、中心以外の係数(Kを考慮しない場合)は、k(n,m)<0のとき正値、k(n,m)>0のとき負値である。
したがって、そのフィルタ処理は、
(i)f(n,m)<thd1の場合、k(n,m)<0であるから、中心以外の係数も中心の係数も正値となって、平滑化フィルタの処理となり、
(ii)thd1<f(n,m)<Hpの場合、k(n,m)>0であるから、中心以外の係数(K=1のときの)は負値、中心の係数は正値となって、先鋭度を強調するフィルタの処理(本願発明でいう「エッジ強調フィルタの処理」)となり、
(iii)f(n,m)>Hpの場合、k(n,m)=0であるから、平滑も先鋭度の強調もしない。
これは、引用発明のS3の画像処理(平滑化する/先鋭度を強調する/先鋭度の補正を行わない)と一致している。

そして、平滑化フィルタ/エッジ強調フィルタとしての強さについてみるに、
k(n,m)が、k(n,m)<0で、小さい程(絶対値は大きい程)平滑化フィルタの強度は強くなり、
k(n,m)が、k(n,m)>0で、大きい程(絶対値も大きい程)エッジ強調フィルタの強度は強くなるものである。
そこで、上記エ-1のように解される本願発明と比較するのに、比較的強い平滑化フィルタ、比較的弱い平滑化フィルタ、比較的強いエッジ強調フィルタ、比較的弱いエッジ強調フィルタをk(n,m)の値によって区分する。
区分は、例えば、k(n,m)を、-0.5と+0.5により、
比較的強い平滑化フィルタ処理となる(-1<)k(n,m)<-0.5の範囲、
比較的強いエッジ強調フィルタ処理となる+0.5<k(n,m)(<+1)の範囲、
比較的弱い平滑化又は比較的弱いエッジ強調フィルタ処理となる-0.5<k(n,m)<+0.5の範囲、
に分けて考え、このとき、
αを、k(n,m)=-0.5となるf(n,m)の値、
βを、k(n,m)=+0.5となるf(n,m)<thd2の値、
γを、k(n,m)=+0.5となるf(n,m)>thd2の値とすれば、
以下のように、範囲分けすることができる。

c1:0<f(n,m)<αの範囲、すなわち、比較的強い平坦部を示す範囲では、
(-1<)k(n,m)<-0.5であって、比較的強い平滑化フィルタの処理となり、同範囲で求める係数は、比較的強い平滑化フィルタの処理を行う係数としてのものとなる。
c2:α<f(n,m)<βの範囲、すなわち、比較的強い平坦部と比較的強い急峻部との中間部分を示す範囲では、
-0.5<k(n,m)<+0.5であって、比較的強い平滑化フィルタの処理と比較的強いエッジ強調フィルタの処理との間を連続的に変化するフィルタの処理となり、同範囲で求める係数は、比較的強い平滑化フィルタの処理を行う係数と比較的強いエッジ強調フィルタの処理を行う係数との間を連続的に変化する係数としてのものとなる。
c3:β<f(n,m)<γの範囲、すなわち、比較的強い急峻部を示す範囲では、
+0.5<k(n,m)(<+1)であって、比較的強いエッジ強調フィルタの処理となり、同範囲で求める係数は、比較的強いエッジ強調フィルタの処理を行う係数としてのものとなる。
c4:γ<f(n,m)の範囲、すなわち、比較的強い急峻部より更に強い急峻部を示す範囲では、
0<k(n,m)<+0.5であって、比較的弱いエッジ強調フィルタの処理となり、同範囲で求める係数は、比較的弱いエッジ強調フィルタの処理を行う係数としてのものとなる。

エ-3 本願発明と引用発明(Kを考慮しないものとしたもの)の対比
引用発明(Kを考慮しないものとしたもの)のエ-2のフィルタ係数を求めることも、「前記フィルタ係数を求める過程に於いて」そのフィルタ「係数を求める過程を有する」といい得ることは明らかであるから、この点相違しない。
そして、上記エ-1,エ-2によれば、
上記c1,c3,c2で求める係数は、
それぞれ、本願発明の要件B1の、
b1-1:前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値が、比較的強い平坦部分を示す時に比較的強い平滑化フィルタの処理を行う係数としてのものとなり、、
b1-2:(前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値が、)比較的強い急峻部分を示す時に比較的強いエッジ強調フィルタの処理を行う係数としてのものとなり、
b1-3:(前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値が、)前記比較的強い平坦部分と前記比較的強い急峻部分との中間部分を示す時に前記比較的強い平滑化フィルタの処理を行う係数と前記比較的強いエッジ強調フィルタの処理を行う係数との間を連続的に変化する係数としてのものとなる。

したがって、要件B1において、本願発明と、Kを考慮しないものとした引用発明とは相違しない。(なお、上記c4で求める係数も、上記b1-4と相違しないものである。)

エ-4 本願発明と引用発明の対比
引用発明はKを考慮するものであるから、最終的に係数として求めるものは、
上記エ-2で検討した、Kを考慮しない場合の引用発明(エ-2)での係数である上記各c1,c3,c2で求める係数(これが、要件B1で求める係数と相違しない係数であることは上記のとおりである。)に、式(3)で算出される大域的強調係数K(図5)が掛けられた係数であり、本願発明とはこの下線の部分が相違するものである。

すなわち、
本願発明では、要件B1、すなわち、
前記フィルタ係数を求める過程に於いて、前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値が、平坦部分を示す時に平滑化フィルタの処理を行う係数として求め、急峻部分を示す時にエッジ強調フィルタの処理を行う係数として求め、前記平坦部分と前記急峻部分との中間部分を示す時に前記平滑化フィルタの処理を行う係数と前記エッジ強調フィルタの処理を行う係数との間を連続的に変化する係数として求める過程を有する、
とするのに対して
引用発明では、
前記フィルタ係数を求める過程に於いて、前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値が、
平坦部分を示す時に平滑化フィルタの処理を行う係数としてのものに、
急峻部分を示す時にエッジ強調フィルタの処理を行う係数としてのものに、
前記平坦部分と前記急峻部分との中間部分を示す時に前記平滑化フィルタの処理を行う係数と前記エッジ強調フィルタの処理を行う係数との間を連続的に変化する係数としてのものに、
それぞれ、式(3)で算出される大域的強調係数K(図5)が掛けられた係数として求める過程を有する、
とする点
で相違が認められる。

[4]一致点、相違点
以上の対比結果によれば、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりであることが認められる。

[一致点]
A:入力された画像の単一又は複数の画素毎に平坦度合い又は急峻度合いを示す値を算出する過程と、
B:前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値を基にフィルタ係数を求める過程と、
C:該過程により求めた前記フィルタ係数により前記画素に対するフィルタリング処理を行う過程とを含み、
D:とする画像処理方法。


[相違点]
本願発明では、要件B1、すなわち、
前記フィルタ係数を求める過程に於いて、前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値が、平坦部分を示す時に平滑化フィルタの処理を行う係数として求め、急峻部分を示す時にエッジ強調フィルタの処理を行う係数として求め、前記平坦部分と前記急峻部分との中間部分を示す時に前記平滑化フィルタの処理を行う係数と前記エッジ強調フィルタの処理を行う係数との間を連続的に変化する係数として求める過程を有する、
とするのに対して
引用発明では、
前記フィルタ係数を求める過程に於いて、前記平坦度合い又は急峻度合いを示す値が、
平坦部分を示す時に平滑化フィルタの処理を行う係数としてのものに、
急峻部分を示す時にエッジ強調フィルタの処理を行う係数としてのものに、
前記平坦部分と前記急峻部分との中間部分を示す時に前記平滑化フィルタの処理を行う係数と前記エッジ強調フィルタの処理を行う係数との間を連続的に変化する係数としてのものに、
それぞれ、式(3)で算出される大域的強調係数K(図5)が掛けられた係数として求める過程を有する、
とする点

[5]相違点等の判断

(1)[相違点の克服]
引用発明の式(5)を、大域的強調係数Kを考慮しない式とする、すなわち、大域的強調係数Kを用いない処理(K=1)とすることで、上記相違点は克服され、本願発明に至る。
大域的強調係数Kを考慮しない(K=1)式(5)は、
Rout(n,m)=Rin(n,m)+k(n,m)・{Rin(n,m) -Rsm(n,m)}
Gout(n,m)=Gin(n,m)+k(n,m)・{Gin(n,m) -Gsm(n,m)}
Bout(n,m)=Bin(n,m)+k(n,m)・{Bin(n,m) -Bsm(n,m)}
である。

(2)[相違点の克服]の容易性判断
刊行物1に接した当業者は、「大域的強調係数」を用いる実施例(第1実施形態)の発明(引用発明)を認識するものではあるが、同時に、
「大域的強調係数」を必須とせず、画素毎に係る強調係数である「局所的強調係数」が必須かつ重要なものであって、「局所的強調係数」に応じて、適応的に先鋭度を平滑化する/または先鋭度を強調する/または先鋭度の補正を行わない画像処理をすることも、次の理由で、容易に想到し得るというべきである。
すなわち、刊行物1に接した当業者は、「大域的強調係数」をオプションとするものを容易に想到し得るものである。
そうであれば、引用発明の式(5)を、大域的強調係数Kを考慮しない式とする、すなわち、大域的強調係数Kを用いない処理(K=1)として上記[相違点の克服]をすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

〈理由〉
上記のように容易想到ということができる理由は、次のとおりである。
刊行物1の独立請求項である請求項13には、「画像特徴量」と「強調係数」について、「入力された画像データに対して適応的な精細度補正を施す画像処理方法であって、」「画像特徴量が、第一の値以下の場合は先鋭度を平滑化する強調係数を、第一の値よりも大きく、第二の値以下の場合は先鋭度を強調する強調係数を、第二の値よりも大きい場合は先鋭度の補正を行わない強調係数をそれぞれ算出する強調係数算出ステップと、
前記強調係数算出ステップで算出された強調係数に基づいて前記入力画像データの精細度補正を行う精細度補正ステップとのとの各処理を実行する」としていて、
「画像特徴量」に応じて適応的に先鋭度を平滑化する/または先鋭度を強調する/または先鋭度の補正を行わないような、「強調係数」に基づく画像処理をするものと規定されているところ、
実施例・引用発明のものは、
画像に対して一つ決まる「大域的強調係数」Kのみによって平滑化することが決定される場合はないこと、
「大域的強調係数」Kによって適応的に先鋭度を平滑化する/または先鋭度を強調する/または先鋭度の補正を行わない画像処理が決定されるものではなく、単に大域的なフィルタの強さの程度、すなわち、全体的なゲインを与えるものにすぎないこと、
適応的に先鋭度を平滑化する/または先鋭度を強調する/または先鋭度の補正を行わないとの3種類の画像処理を決定づける「強調係数」は、「入力画像の画素毎に係る強調係数」である「局所的強調係数」k(n,m)であること、
以上のことは明らかである。
したがって、当業者は、請求項13でいう「強調係数」とは「局所的強調係数」k(n,m)を指して言うものであって、先鋭度を平滑化する/または先鋭度を強調する/または先鋭度の補正を行わないとの適応的処理を決定づける重要な係数と理解し、
これに対して、画像に対して一つ決まる「大域的強調係数」Kは、全体的なゲインを与えるものであって、「局所的強調係数」k(n,m)によって決まる上記3種類の適応的画像処理をする上で、より適した画像処理をするために使用されているもの、すなわち、「大域的強調係数」Kを用いた処理はオプション的なものと理解すると言うべきである。
そうすると、特に大域的強調係数Kを用いない画像処理とすることは、当業者が容易になし得ることということができる。

また、画像全体の大域的・全体的なゲインを与える処理は、画像の全体的なコントラスト補正ともいえる処理であり、局所的な処理と分けその前処理として、別途、設けることも容易になし得るといい得るものであり、このことからみても、上記[相違点の克服]は当業者が容易に想到し得ることと言うことができる。

なお、前掲(K4)〈解決しようとする課題〉の段落【0019】で「本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、補正後の画像に節目やむらなどの不具合を発生させることなく、適応的な精細度補正が可能な画像処理装置およびその処理方法、ならびにその処理方法の処理動作を実行させるための画像処理プログラムが格納された記録媒体を提供することにある。」とし、
前掲(K5)〈課題を解決するための手段〉で「本発明に係る画像処理方法は、」に続き、上記請求項13と同じ記載である「入力された画像データに対して・・・各処理を実行する」を受けて、また、発明の効果として前掲(K10)で、
「その算出した複数の強調係数を用いて先鋭度を平滑化したり、先鋭度を強調したり、あるいは先鋭度の補正を行わないような精細度補正を行う。」とは記載されているものの、「先鋭度を平滑化したり、先鋭度を強調したり、あるいは先鋭度の補正を行わないような精細度補正」は、「複数の強調係数」のうちの専ら「局所的強調係数」によってなされるのであって、「大域的強調係数」によってなされるものではないことは、上記のとおりである。
そうすると、段落【0022】,【0109】記載の「先鋭度を平滑化したり、先鋭度を強調したり、あるいは先鋭度の補正を行わないような精細度補正を行うことにより、」奏するとする「ユーザが試行錯誤的な操作を行うことなく、適応的な精細度補正を実現できるため、ユーザの負担を軽減することができる。特に、画像特徴量として、明度のエッジ情報を用いずに、色の凸凹を表すカラーエッジ情報を用いることで、人の感覚に応じてエッジ情報を得ることができ、補正後の画像に節目やむらなどの不具合を発生させることもない。」との効果も、
専ら「局所的強調係数」によってなされる「先鋭度を平滑化したり、先鋭度を強調したり、あるいは先鋭度の補正を行わないような精細度補正を行うことにより、」奏する効果と捉えることができ、
この点からみても、刊行物1に接した当業者は、「大域的強調係数」Kを用いた処理はオプション的なものと理解すると言うべきである。

(3)請求人の主張について
請求人は、「引用文献1,2と本願発明とを対比しますと、本願発明に於ける前述の画像の平滑化とエッジ強調との処理及び平坦部分と急峻部分との中間部分に対して、円滑化とエッジ強調との特性が連続的に変化する特性で処理する点は、前記引用文献1,2には開示されていません。」と、意見書と同様な主張を繰り返している。
しかしながら、
刊行物1(引用文献1)には、上記認定の引用発明が記載されているといえること、
引用発明において「大域的強調係数」を用いた処理をしないと想定したものと本願発明とは相違しないこと、
刊行物1に接した当業者は、「大域的強調係数」をオプションとするものを容易に想到し得るものであるから、本願発明は当業者の容易想到ということができること、
は、前述のように理由と共に説明したとおりであり、したがって、上記請求人の主張は採用し得ない。

(4)まとめ(相違点等の判断)
以上、引用発明を出発点として、上記[相違点の克服]をすることで、本願発明の構成に達するところ、同克服は、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願発明の構成は、上記のとおり当業者容易想到であるところ、本願発明の効果は、その容易想到である構成から当業者が予測し得る範囲内のものであり、同範囲を超える格別顕著なものでもない。

【第4】むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、上記刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-15 
結審通知日 2011-12-20 
審決日 2012-01-05 
出願番号 特願2003-378111(P2003-378111)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西谷 憲人  
特許庁審判長 乾 雅浩
特許庁審判官 ▲徳▼田 賢二
藤内 光武
発明の名称 画像処理方法及び画像処理装置  
代理人 渡邊 弘一  
代理人 土井 健二  
代理人 眞鍋 潔  
代理人 林 恒徳  
代理人 柏谷 昭司  
代理人 伊藤 壽郎  

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