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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1252567
審判番号 不服2008-25615  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-06 
確定日 2012-02-21 
事件の表示 特願2002-515228「制御された放出のシグモイドパターンを示すエレトリプタンの粒状組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月 7日国際公開、WO02/09675、平成16年 2月19日国内公表、特表2004-505034〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は、2001(平成13)年7月18日(パリ条約による優先権主張2000(平成12)年8月2日、英国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1?18に係る発明は、平成18年10月19日付け補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「臭化水素酸エレトリプタンを含むコアを含む、経口投与に好適な粒状形態の医薬組成物であって、上記コアはトリメチルアンモニウムエチルメタクリレート基を含む1以上のアクリル共重合体、そして場合により可塑剤、抗付着剤又は湿潤剤の内の1以上から成る水-不溶性の、透過性のコーティングで覆われ、上記組成物は制御された薬物放出のシグモイドパターンを達成することができる、前記医薬組成物。」

2.引用例の記載

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された以下の刊行物には、次の事項が記載されている。

(1)国際公開第00/06161号(以下、「引用例1」という。なお、原文は英語であるため、訳文で示す。以下、下線は当審で付加した。)

(1-1)「本発明は、片頭痛再発予防のための、薬剤製造のための、エレトリプタンの使用に関する。」(第1ページ第3?4行)

(1-2)「エレトリプタンもしくはそれの塩の好ましい処方は、WO-A-92/06973,WO-A-96/06842及びWO-A-99/01135に開示される。片頭痛再発予防に使用するための、エレトリプタンもしくはそれの塩の特に好ましい処方は、2重放出、持続放出、制御放出、遅延放出またはパルス放出の処方を含む。」(第6ページ第26?30行)

(1-3)「パルス放出処方は、患者の投与形式の処方に従って、持続時間中にパルス状に活性化合物を放出するように計画される。(・・・中略・・・)適切な投与形式は、
(a)浸透圧誘因放出形式(例えば、US Patent no.3,952,741参照)、
(b)圧縮コート2層性錠剤(例えば、US Patent no.5,464,633参照)、
(c)滲出可能なプラグを含むカプセル剤(例えば、US Patent no.5,474,784参照)、
(d)シグモイド放出ペレット(例えば、US Patent no.5,112,621に参照されるような)、及び、
(e)シェラック、フタル酸誘導体、ポリアクリル酸誘導体及びクロトン酸コポリマーを含む、pH依存性ポリマーでコートされた処方、またはこれらのpH依存性ポリマーを含む処方、
を含む。」(第7ページ第25行?第8ページ第11行)

(1-4)「好ましい薬剤2重放出プロファイルは、
(a)制御された放出が後に続く、即時的放出、
(b)ゼロオーダー放出が後に続く、即時的放出、
(c)シグモイド型の放出が後に続く、即時的放出、及び、
(d)ダブルパルス放出
を含む。」(第8ページ第22?26行)

(1-5)「制御放出処方は、活性化合物の放出の速度、もしくは、放出の時間、またはその双方の点で制御を加え、持続放出、パルス放出、2重放出及び遅延放出処方を含む。」(第9ページ第1?3行)

(1-6)「薬理学的データ
急性片頭痛発作を経験した患者に、経口的に、錠剤処方で、40もしくは80mgのエレトリプタンを(臭化水素酸塩の型で)投与した。」(第10ページ第1?5行)

(1-7)「請求の範囲
1.エレトリプタン、またはその医薬的に許容可能な塩もしくは組成物の、片頭痛再発予防のための薬剤の製造のための使用。
2.塩が臭化水素酸塩である、請求項1に記載の使用。」(第11ページ第1?7行)

(2)国際公開第99/59557号(以下、「引用例2」という。なお、原文は仏語であるため、訳文で示す。以下、下線は当審で付加した。)

(2-1)「本発明は、プログラム放出性及びパルス放出性の多微粒子薬剤形態であって、経口投与用のものに関する。」(第1ページ第5?7行)

(2-2)「実施例
以下の実施例においては、以下の薬学的賦形剤を使用した:
-EUDRAGIT RS100:ROHM社により販売される低浸透率のポリアクリル酸エステル-ポリメタクリル酸エステル樹脂、
-EUDRAGIT RL100:ROHM社により販売される浸透性ポリアクリル酸-ポリメタクリル酸樹脂、
-PVP K 90:BASF社により販売されるポリビニルピロリドン、
-AEROSIL:DEGUSSA社により販売されるシリカゲル、
-薬学用のアルコール、
-薬学用のタルク、
-SOLVAY社により販売されるエチルフタレート、
-サッカロースとデンプンからなる、WERNER’s社により販売される球状の中性コア、
-INWITOR 900:UHLS社により販売されるグリセロールモノステアレート、
-EUDRAGIT L100:ROHM社により販売される、メタクリル酸及びメタクリル酸メチルをベースとする樹脂。」(第6ページ第12行?第7ページ第3行)
(2-3)「実施例1:
本発明の薬剤形態からなる球状薬体であって、有効成分がジルチアゼムであるものの調製
0.7kgの中性の球状コアであって、直径が300乃至400μmであるものを、GPCG1タイプの流動空気床反応容器に導入し、そのコアの上で、以下の組成を有する懸濁液をスプレーした:
EUDRAGIT RS 100 ・・・・・・・・・・ 0.525kg
PVP K90 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.525kg
ジルチアゼム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7.000kg
薬学用アルコール ・・・・・・・・・・・・・・・・18.760kg

次に、このようにして得られた粒子へ、コーティング懸濁液をスプレーしたが、この懸濁液は以下の組成を有している。
EUDRAGIT RS 100 ・・・・・・・・・2.000kg
EUDRAGIT RL 100 ・・・・・・・・・0.100kg
エチルフタレート ・・・・・・・・・・・・・・・・0.192kg
AEROSIL ・・・・・・・・・・・・・・・・・0.320kg
薬学用タルク ・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.400kg
薬学用アルコール ・・・・・・・・・・・・・・・10.500kg
アセトン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4.500kg

このようにして得られた球状薬体の400乃至500個を、古典的組成のゼラチンの硬カプセル剤へ導入した。
(・・・中略・・・)
導入したカプセル剤中に含まれている有効成分の全体に対する、放出された有効成分の量(重量%で示す)は、以下の通りであった:
(・・・中略・・・)
結果は表1に示す。
表1(略)」(第7ページ第6行?第9ページ第4行)

(2-4)「実施例2:
本発明の薬剤形態からなり、有効成分がジルチアゼムである球状薬体の調製
以下の組成を有する懸濁液をコーティング懸濁液として使用して、実施例1のようにして、球状薬体を調製した。
EUDRAGIT RS 100 ・・・・・・・・・3.060kg
EUDRAGIT RL 100 ・・・・・・・・・0.340kg
エチルフタレート ・・・・・・・・・・・・・・・・0.340kg
Inwitor 900 ・・・・・・・・・・・・・0.170kg
イソプロパノール ・・・・・・・・・・・・・・・14.28kg
アセトン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9.52kg
実施例1と同様にして、その溶解を測定した。結果を表2に示す。
表2(略)」(第9ページ第5行?第10ページ第2行)

(2-5)「実施例3:
本発明の薬剤形態からなり、有効成分がジルチアゼムである球状薬体の調製
以下の組成を有する懸濁液をコーティング懸濁液として使用して、実施例1のようにして、球状薬体を調製した。
EUDRAGIT RS 100 ・・・・・・・・・3.612kg
EUDRAGIT RL 100 ・・・・・・・・・0.638kg
エチルフタレート ・・・・・・・・・・・・・・・・0.425kg
Inwitor 900 ・・・・・・・・・・・・・0.213kg
イソプロパノール ・・・・・・・・・・・・・・・17.850kg
アセトン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11.900kg
実施例1と同様にして、溶解を測定した。結果を表3に示す。
表3(略)」(第10ページ第3行?第11ページ第2行)

(2-6)「実施例4:
本発明の薬剤形態を含み、有効成分がベラパミルである球状薬体の調製
有効成分としてジルチアゼムの代りにベラパミルを使用して、以下の組成を有する懸濁液からなるコーティング懸濁液を使用して、実施例1と同様に球状薬体を調製した。
EUDRAGIT RS 100 ・・・・・・・・・1.650kg
EUDRAGIT RL 100 ・・・・・・・・・0.87kg
EUDRAGIT L 100 ・・・・・・・・・・0.063kg
エチルフタレート ・・・・・・・・・・・・・・・・0.165kg
AEROSIL ・・・・・・・・・・・・・・・・・0.274kg
タルク ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.343kg
薬学用アルコール ・・・・・・・・・・・・・・・・9.000kg
アセトン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3.857kg
実施例1と同様にして、溶解を測定したが、放出したベラパミルは、278nmのUV分光器で測定した。結果を表4に示す。
表4(略)」(第11ページ第4行?第12ページ第7行)

上記(2-3)?(2-6)の結果を示す表1?4のデータからは、各有効成分の放出がシグモイド型であることが理解できる。

(3)国際公開第00/33835号(以下、「引用例3」という。なお、原文は英語であるため、訳文で示す。以下、下線は当審で付加した。)

(3-1)「本発明は、ゾルピデム(zolpidem)またはその塩からなる制御放出剤形に関する。」(第1ページ第4?5行)

(3-2)「実施例4:即放出ペレットおよび被覆された持続放出ペレットの混合物からなるカプセル剤
100gのゾルピデム ヘミ酒石酸塩と100gのポピドン、BASFにより参照Plasdone K29/32として市販、からなる670gのエタノール中の懸濁液を調製した。750gのこの懸濁液を流動床乾燥機中で1060gの16?18メッシュのミクロ顆粒剤上に噴霧した。ゾルピデムの溶出を0.01M塩酸中で実施例1に記述の方法に従い試験した。80%が2分以内で溶解し、100%が30分で溶解した。
25gのメタクリレートコポリマーEUDRAGIT(登録商標)RL100、143gのメタクリレートコポリマーEUDRAGIT(登録商標)RS100(両方ともRohm Pharmaにより市販されている)および18.7gの商標名Eudrafex(登録商標)としてRohm Pharmaにより市販されている可塑剤であるクエン酸エチルからなる溶液を、1180gの60:40m/mのイソプロパノール/アセトン混合物中で調製した。ゾルピデムからなるペレットを流動床乾燥機中で噴霧することによりこのポリマー混合物でコーティングし、コーティングの最終的な量は被覆されていないペレットの20質量%であった。35℃で24時間のペレットの熟成の後、先に記述したこれらの被覆されたペレットと被覆されていないペレットの混合物を、ゾルピデム含有量が1:1の割合で調製し、ゼラチンカプセル剤中に詰め、カプセル剤あたりのゾルピデム ヘミ酒石酸塩含有量の総量が15mg(12mgのゾルピデム塩基)となるようにした。カプセル剤の溶出を実施例1に記述の方法で試験し、その結果のプロフィールは図6に示した。
したがって即および持続放出医薬本体各々は、7.5mgのゾルピデム ヘミ酒石酸塩(50%)を含有した。(・・・中略・・・)プロフィールパラメータは:T3=3.17時間;T2=1.68時間;(T2-T1)=0.44(T3-T1)およびプロフィールはシグモイド状であった。」(第20ページ第2?38行)

上記(3-2)の実施例の結果を示す図6から、持続放出ペレットからのゾルピデム ヘミ酒石酸塩の放出がシグモイド型であることが理解できる。

(4)国際公開第00/19984号(以下、「引用例4」という。なお、原文は独語であるため、訳文で示す。以下、下線は当審で付加した。)

(4-1)「本発明は、制御された作用物質放出性を有するコーティングされた医薬品形の分野に関する。」(第1ページ第2?3行)

(4-2)「他の添加剤
(・・・中略・・・)
- 可塑剤:
(・・・中略・・・)
- 付着防止剤:
(・・・中略・・・)
更なる添加剤として、自体公知のように、例えば安定剤、色素、酸化防止剤、湿潤剤、孔形成剤、顔料、艶だし剤等を添加することができる。」(第9ページ第1行?10ページ第3行)

(4-3)「実施例
使用コポリマー
コポリマー1:
メタクリル酸メチル65質量%、アクリル酸エチル30質量%及び2-トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート-クロリド5質量%(EUDRAGIT(R)RS)。

コポリマー2:
メタクリル酸メチル60質量%、アクリル酸エチル30質量%及び2-トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート-クロリド10質量%(EUDRAGIT(R)RL)。

コポリマー3:
アクリル酸エチル30質量%、メタクリル酸メチル69質量%及びメタクリル酸1質量%(EUDRAGIT(R)NE 30D)。

コーティングされたテオフィリン-製剤の製造:
作用物質含有ペレットコアの製造を、自体公知の方法で、慣用の施糖衣釜中で、撒布法で行う。(・・・中略・・・)
コーティングを、公知方法により流動層装置中で実施する。コポリマー含有率30質量%を有する水性分散液を使用した。付加的に可塑剤としてのクエン酸トリエチル及び抗付着剤としてのタルクを使用した。」(第14ページ第1行?第15ページ第11行)

(4-4)「例1:
コポリマー1 30質量%の被覆量を有するテオフィリン/酢酸ナトリウム-コアでの、種々の量(21、32及び43質量%)の酢酸ナトリウムの影響に関する放出曲線。

例2:
テオフィリン/酢酸ナトリウム-コア上のコポリマー1の種々の層厚(20、30及び40質量%)の影響に関する放出曲線。

例3:
コポリマー1の42及び60質量%被覆施与量でのテオフィリン/酢酸ナトリウム-コハク酸塩(コハク酸ナトリウム)及びテオフィリン/コハク酸-製剤からのテオフィリンの放出の比較。」(第16ページ第1?13行)

上記(4-4)の例1?例3の結果を示す図1/5?3/5によれば、テオフィリンの放出がシグモイド型であることが理解できる。

(5)国際公開第00/42998号(以下、「引用例5」という。なお、原文は英語であるため、訳文で示す。以下、下線は当審で付加した。)

(5-1)「オイドラギットRS及びオイドラギットRLの商標でRohm & Haasによって市販されているポリマーを含むアンモニオメタクリレートコポリマーも、本発明による製剤中に使用するためにまた特に適している。これらのポリマーは、純水、希釈酸、緩衝溶液又は全ての生理学的pHの範囲にわたる消化液に不溶である。フィルムは水(及びpHによらず消化液)中で膨潤する。膨潤した状態のとき、これらは水及び溶解した活性物に対して透過性である。フィルムの透過性は、ポリマー中のエチルアクリレート(EA)、メチルメタクリレート(MMA)及びトリメチルアンモニオエチルメタクリレートクロリド(TAMCl)基の比率に依存する。1:2:0.2のEA:MMA:TAMClの比率を有するポリマー(オイドラギットRL)は、1:2:0.1の比率のもの(オイドラギットRS)より透過性である。オイドラギットRLのフィルムは、“高い透過性の不溶性フィルム”として記載され、そしてオイドラギットRSのフィルムは、“低い透過性の不溶性フィルム”として記載される。
適当には、アンモニオメタクリレートコポリマーは、オイドラギットRS:オイドラギットRL(90:10)の比率で混合される。然しながら、二つのポリマーは、比率の範囲内で混合することができる。要求される遅延時間を得るために、ポリマーは好ましくは100:0ないし80:20のオイドラギットRS:オイドラギットRL、更に特に100:0ないし90:10のオイドラギットRS:オイドラギットRLの範囲の比率で、即ち、フィルム被覆の主要な部分はより透過性の低いポリマーオイドラギットRSであるように混合されなければならない。」(第11ページ第17行?第12ページ第12行)

(5-2)「実施例2
オイドラギットRS:RL(90:10)でコーティングしたビソプロロールフマル酸塩2:1を含む多粒子の調製

オイドラギットRS:オイドラギットRL(90:10)の水性分散物を次のように調製した:0.5gのUSPシメシコーン乳剤(OSI Specialities,Belgium)及び300gのUSPタルクを、混合しながら1139.5gの精製水に加えた。混合物を15分間撹拌した。900gのオイドラギットRS 30D及び100gのオイドラギットRL 30D(水性分散物の形のアンモニオメタクリレートコポリマー、Rohm Pharma,Germanyから入手)を混合物に加え、そして20分間撹拌した。60gのセバシン酸ジブチル(Morflex Inc.,Greensboro,North Carolina,USA)を混合物に加え、そして20分間撹拌した。水性分散物を500μmの篩を通して濾過した。
(・・・中略・・・)
得られた混合分散物を、実施例1によって調製された即時放出多粒子上に、実施例1で使用したような流動床装置を使用して噴霧した。(・・・後略・・・)」(第19ページ第1行?第20ページ第12行)

(5-3)「実施例3
オイドラギットRS:オイドラギットRL(90:10)でコーティングしたビソプロロールフマル酸塩2:1を含む多粒子の調製

ビソプロロール即時放出多粒子(実施例1により調製)を、オイドラギットRS:オイドラギットRL(90:10)水性分散物(実施例2により調製)で、50.03%のより高いポリマーによる重量増加までコーティングした。多粒子を以下の方法で硬化した:(・・・後略・・・)」(第20ページ第14行?第21ページ第7行)

(5-4)「表1
実施例2ないし5に記載されたように製造された多粒子の溶解特性 (略)」(第24ページ第1?6行)

上記(5-4)の表1からは、コーティングされた多粒子からのビソプロロールフマル酸塩の放出が、シグモイド型であることが理解できる。

3.対比
上記2.の(1-1)?(1-7)(特に下線部)によれば、引用例1には「臭化水素酸エレトリプタンを含む経口投与に好適な医薬組成物であって、制御された薬物放出を達成することができる、前記医薬組成物」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

そこで、本願発明と引用発明を対比すると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

(一致点)
両者が「臭化水素酸エレトリプタンを含む経口投与に好適な医薬組成物であって、制御された薬物放出を達成することができる、前記医薬組成物」である点。

(相違点)
本願発明では「制御された薬物放出がシグモイドパターンを達成する」ものであり、「臭化水素酸エレトリプタンを含むコア」が「トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート基を含む1以上のアクリル共重合体、そして場合により可塑剤、抗付着剤又は湿潤剤の内の1以上から成る水-不溶性の、透過性のコーティングで覆われ」ている「粒状形態」であるのに対し、
引用発明ではかかる事項について特定されていない点。

4.当審の判断

上記相違点について検討する。

まず、引用例1には、片頭痛の再発を予防するにあたり、臭化水素酸エレトリプタンを制御放出する組成物において、持続放出、パルス放出、2重放出及び遅延放出といった放出処方を用いうることが記載されており(上記2.(1-5))、特にパルス放出の組成物として、あるいは2重放出組成物の成分として、シグモイドパターンで薬物を放出する剤型を好適に選択しうることが示唆されている(同(1-3)及び(1-4))。

また、引用例2には、ジルチアゼム及びベラパミルについて、引用例3にはゾルピデム ヘミ酒石酸塩について、引用例4にはテオフィリンについて、また引用例5にはビソプロロールフマル酸塩について、それぞれの薬効成分を含むコアを、EUDRAGIT(登録商標)RSを主体とするアクリル共重合体からなるコーティング剤でコーティングすることにより、制御された薬物放出のシグモイドパターンを達成することができることが記載されている(同(2-3)?(2-6)、(3-1)及び(3-2)、(4-3)?(4-4)並びに(5-1)?(5-4))。
これらの組成物は粒状であると記載され(同(2-1)、(3-2)及び(5-2)?(5-4))、あるいはペレットコアを流動層装置中でコーティングするという製法より粒状であると認められる(同(4-3))。
また、上記コーティング剤には場合によりフタル酸ジエチル(=エチルフタレート、同(2-3)?(2-6))、クエン酸トリエチル(=クエン酸エチル、同(3-2)及び(4-3))、並びにセバシン酸ジブチル(同(5-2))等の可塑剤、コロイド状二酸化シリコン(=シリカゲル、同(2-2)、(2-3)及び(2-6))、タルク(同(2-2)、(2-3)、(2-6)、(4-3)及び(5-2))、並びにモノステアリン酸グリセロール(=グリセロールモノステアレート、同(2-2)、(2-4)及び(2-5))等の抗付着剤、あるいは湿潤剤(同(4-2))が用いられている。
一方、引用例5の上記2.(5-1)にも記載されるとおり、EUDRAGIT(登録商標)RS及びEUDRAGIT(登録商標)RLは「トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート基を含む1以上のアクリル共重合体」であり、「水-不溶性の、透過性コーティング」の基剤である。

してみると、種々の化学構造を有する薬効成分について、それぞれの成分を含むコアを、トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート基を含む1以上のアクリル共重合体、そして場合により可塑剤、抗付着剤又は湿潤剤の内の1以上から成る水-不溶性の、透過性のコーティングで覆われた粒状形態とすることにより、制御された薬物放出のシグモイドパターンを達成することができることは、当業者に広く知られた事項である。

したがって、引用発明において、シグモイドパターンで薬物を放出する剤型を選択すること、またそのために薬物である臭化水素酸エレトリプタンのコアを、トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート基を含む1以上のアクリル共重合体、そして場合により可塑剤、抗付着剤又は湿潤剤の内の1以上から成る水-不溶性の、透過性のコーティングで覆われた粒状形態とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願明細書の記載からみて、これらの相違点によって本願発明が当業者の予測を超えた顕著な効果を奏するものと認めることもできない。

以上より、本願発明は、その優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用例1に記載された発明及び引用例2?5に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、請求人は、平成18年10月19日付け意見書、並びに平成21年1月8日付けで提出した、審判請求書の理由について補正する手続補正書の中で、本願出願時において、「薬物放出のシグモイドパターンのためには、溶解媒質中での医薬の高い溶解度が要求される」と考えられていた旨を主張し、上記手続補正書に添付書類2(Journal of Controlled Release 44(1997)263-270)を添付している。
請求人は上記手続補正書の中でさらに、例えば、引用例4に具体的に開示されている組成のうち、例4及び例5の処方については、シグモイド型放出であるとは認め難く、また、エレトリプタンについては、添付書類1で示したとおり、エチルセルロースを含めたコーティングがシグモイド型放出を呈していないのに対し、引用例3においては、エチルセルロースを含むコーティングを施した製剤がシグモイド型放出を呈していることから、「少なくとも溶解度が高くない薬剤につきシグモイド型放出を達成するためには、引例3(当審における引用例2)に加えて何らかの工夫が必要であると当業者に想起させるところであり、結局は、薬剤ごとに処方を検討せねばならない」(括弧書きは当審で付加)旨、主張している。

この点、薬物がシグモイド型の放出をされるかどうかは、例えば添付資料2の図3にも示されるとおり、遅れ時間が確保されるかどうかに依存していると認められる。

そして、添付書類2には、薬物の制御放出を行うにあたり、「Theoretically, a lag time is required for the film barrier to become permeable to achieve a constant release rate equivalent to that at steady state」(第264ページ左欄第29?31行:理論的には、フィルム障壁が透過性となり、定常状態と同じ一定の放出速度に達するために、遅れ時間が生じることとなる。)と記載されている。そして、「In a theoretical simulation, it was found that the lag time could be controlled by varying the thickness of the coated polymer」(要約第2?3行:理論的シミュレーションにおいては、コーティングポリマーの厚さを調節することにより、遅れ時間を制御できることが発見された)(図1参照)とも記載され、その実験的裏付けを図3に示されている。

また、引用例5には、EUDRAGIT(登録商標)RS及びEUDRAGIT(登録商標)RLを含むコーティングにおいて「フィルムは水(及びpHによらず消化液)中で膨潤する。膨潤した状態のとき、これらは水及び溶解した活性物に対して透過性である。フィルムの透過性は、ポリマー中のエチルアクリレート(EA)、メチルメタクリレート(MMA)及びトリメチルアンモニオエチルメタクリレートクロリド(TAMCl)基の比率に依存する。」と記載され、「要求される遅延時間を得るために」、は、「フィルム被覆の主要な部分はより透過性の低いポリマーオイドラギットRSであるように混合されなければならない」(上記2.(5-1)参照)と記載され、遅延時間を制御するために、コーティングの透過性を調節することが説明されている。

一方、薬物の溶解度については、添付資料2の図1について、第265ページ左欄第34?37行に「It also demonstrates that the solubility of the drug determines how fast that drug will be released after the lag period.」(これはまた、遅れ時間の後にどれだけ速く薬物が放出されるかは、薬物の溶解度に依存していることを示す。)と記載されている。同様に、添付資料2の第270ページ「5. Conclusion」の5?7行目にも、「High drug solubility is also required for rapid drug release after the lag period.」(遅れ時間の後の速やかな薬物放出のためには、高い薬物溶解性が必要である)と記載されており、薬物を速やかに放出するためには、薬物溶解度は重要であると記載されている。
ところが、同資料の図1によって明らかなように、薬物の放出速度は放出曲線の傾きに影響するものであるが、遅れ時間の存在及びその長さには影響していない。

また請求人が指摘する、引用例4の例4及び例5ではシグモイド型放出がみられない点、及びエチルセルロースを含むコーティングを施した製剤がシグモイド型放出を示しうる点はいずれも、特定のコーティング剤と遅れ時間の関係について述べているものであるが、薬剤の溶解度によって遅れ時間が制御されるかどうかとは無関係である。

このように、シグモイド型放出に必要な遅れ時間は、コーティングの厚さや透過性といった要素により制御されるものと理解できるが、添付資料2あるいは他の文献を参酌しても、薬剤の溶解度によって遅れ時間が制御されるということはできない。

むしろ、引用例2?5に記載された薬効成分には、引用例2のジルチアゼムやベラパミルのように、水に溶けやすいか、やや溶けやすいもののみならず、引用例3のゾルビデム ヘミ酒石酸塩あるいは引用例4のテオフィリンのように、水にやや溶けにくいか、溶けにくいものも含まれているように、EUDRAGIT(登録商標)RSを主体とし、適切な透過性を有するコーティング剤の使用により、種々の水溶解度の薬剤成分について、シグモイド型放出が得られることが、当業者に理解されるものというべきである(なお、ジルチアゼムは水に溶けやすい「Freely sol in water」物質であり、ベラパミル塩酸塩及びゾルビデム ヘミ酒石酸塩の水溶解度はそれぞれ83mg/ml及び23mg/mlである。テオフィリン1グラムの薬効成分は120mlの水に溶け、1/120≒8.3mg/mlの水溶解度である。(「The Merck Index」、Merck & Co.,Inc.発行、第12版、1996年、第541ページ、「3247. Diltiazem」の項、同1696ページ、「10083. Verapamil」の項、同第1739ページ、「10321. Zolpidem」の項、並びに同第1584ページ、「9421. Theophylline」の項参照。)。

以上のことより、請求人の主張はいずれも採用できない。

5.むすび

以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-28 
結審通知日 2011-08-23 
審決日 2011-09-13 
出願番号 特願2002-515228(P2002-515228)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大宅 郁治  
特許庁審判長 横尾 俊一
特許庁審判官 新留 豊
渕野 留香
発明の名称 制御された放出のシグモイドパターンを示すエレトリプタンの粒状組成物  
代理人 宮澤 純子  
代理人 室伏 良信  
代理人 四本 能尚  
代理人 ▲高▼橋 宏次  

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