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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1253960
審判番号 不服2010-21476  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-24 
確定日 2012-03-12 
事件の表示 特願2005-377675「トリポード型等速自在継手及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月12日出願公開、特開2007-177919〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年12月28日の出願であって、平成22年6月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年9月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

2.平成22年9月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年9月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外方部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸に装着され、複数の針状ころを介して回転自在に支持された状態で前記トラック溝に挿入されたローラとを備え、そのローラが外方部材の軸方向に移動可能なトリポード型等速自在継手において、前記ローラ表面の突出山部を低減させ、研削加工でローラ表面に形成されて油溜まりとして機能する微細な溝状凹部を高密度分布で残すバレル加工により、その表面の面粗度Raを0.16μm以下としたことを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【請求項2】
前記ローラがローラ案内面に対して一点でサーキュラコンタクトする請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項3】
前記ローラがローラ案内面に対して二点でアンギュラコンタクトする請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項4】
内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外方部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有し、その脚軸の横断面を長軸が継手の軸線に直交する略楕円形としたトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸に装着され、前記脚軸に外嵌された内側ローラに複数の針状ころを介して外側ローラが回転自在に支持された状態で前記トラック溝に挿入されたローラカセットとを備え、その外側ローラがローラ案内面に対してアンギュラコンタクトしながら外方部材の軸方向に移動可能なトリポード型等速自在継手において、前記内側ローラおよび外側ローラ表面の突出山部を低減させ、研削加工でローラ表面に形成されて油溜まりとして機能する微細な溝状凹部を高密度分布で残すバレル加工により、その表面の面粗度Raを0.16μm以下としたことを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【請求項5】
内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外方部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸に装着され、複数の針状ころを介して回転自在に支持された状態で前記トラック溝に挿入されたローラとを備え、そのローラが外方部材の軸方向に移動可能なトリポード型等速自在継手の製造方法において、前記ローラの表面を、研削加工後にバレル加工することにより、その表面の面粗度Raを0.16μm以下とすることでローラ表面の突出山部を低減させ、研削加工でローラ表面に形成されて油溜まりとして機能する微細な溝状凹部を高密度分布で残すことを特徴とするトリポード型等速自在継手の製造方法。
【請求項6】
前記ローラがローラ案内面に対して一点でサーキュラコンタクトする請求項5に記載のトリポード型等速自在継手の製造方法。
【請求項7】
前記ローラがローラ案内面に対して二点でアンギュラコンタクトする請求項5に記載のトリポード型等速自在継手の製造方法。
【請求項8】
内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外方部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有し、その脚軸の横断面を長軸が継手の軸線に直交する略楕円形としたトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸に装着され、前記脚軸に外嵌された内側ローラに複数の針状ころを介して外側ローラが回転自在に支持された状態で前記トラック溝に挿入されたローラカセットとを備え、その外側ローラがローラ案内面に対してアンギュラコンタクトしながら外方部材の軸方向に移動可能なトリポード型等速自在継手の製造方法において、前記内側ローラおよび外側ローラの表面を、研削加工後にバレル加工することにより、その表面の面粗度Raを0.16μm以下とすることでローラ表面の突出山部を低減させ、研削加工でローラ表面に形成されて油溜まりとして機能する微細な溝状凹部を高密度分布で残すことを特徴とするトリポード型等速自在継手の製造方法。」に補正された。
上記補正について、請求項1についてみると、実質的に、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記ローラ表面の突出山部を低減させるバレル加工により、その表面の面粗度Raを0.25μm以下とした」を「前記ローラ表面の突出山部を低減させ、研削加工でローラ表面に形成されて油溜まりとして機能する微細な溝状凹部を高密度分布で残すバレル加工により、その表面の面粗度Raを0.16μm以下とした」に減縮するものであって、これは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開平3-277823号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「(1) 外輪の内面に軸方向の3本の円筒形トラック溝を形成し、外輪の内側に組込んだトリポード部材には上記各トラック溝内へ挿入される半径方向の3本の脚軸を設け、各脚軸の外側に回転自在に取付けた球形外面を有するスフェリカルローラをトラック溝内に嵌合した等速自在継手において、スフェリカルローラの表面に、独立した微小な凹形状のくぼみを無数にランダムに形成し、この微小くぼみの平均面積が35?150μm^(2)、微小くぼみの表面に占める割合いが10?40%としたことを特徴とする等速自在継手。」(第1ページ左下欄第5?15行)
(い)「[発明が解決しようとする課題]
第3図と第4図において、上記したインナーリング7とアウターリング6の間及びインナーリング7と針状ころ8間、アウターリング6と外輪トラック溝2間又は、第1図と第2図において、スフェリカルローラ5と針状ころ8及び外輪トラック溝2間で油膜切れによる潤滑不良を起こすと、発生した滑りによって等速自在継手の誘起スラスト力に悪影響を及ぼし、発熱も発生するという問題がある。
そこでこの発明の課題は、上記のような問題点を解決するため、等速自在継手における滑り面の油膜形成が十分に行なえ、潤滑性を向上させてスフェリカルローラの円滑な回転を維持し、摩耗やピーリングの発生を防止することができる等速自在継手を提供することにある。」(第2ページ左上欄第15行?右上欄第11行)
(う)「上記等速自在継手におけるスフェリカルローラ5の表面、第3図と第4図の例ではインナーリング7とアウターリング6の何れか一方又は両方の、表面が、ランダムな方向の微小粗面Aに形成されている。
上記微小粗面Aの微小なくぼみの平均面積は35?150μm^(2)、くぼみの表面に占める割合いは10?40%である。
また、微小粗面Aの面粗さは平均でRmax0.6?2.5μm、表面粗さのパラメータSK値が-1.6以下に成っている。
上記のような表面の粗面条件を得るための表面加工処理は、特殊なバレル研摩によって、所望する仕上面を得ることができる。第5図は上記微小粗面Aの粗面粗さ形状を示しており、同図のごとく、平面に凹部を形成し、平面から飛び出す凸部が生じないような特殊表面である。」(第2ページ左下欄第13行?右下欄第9行)
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「外輪1の内面に軸方向の3本の円筒形トラック溝2を形成し、外輪1の内側に組込んだトリボード部材3には上記各トラック溝2内へ挿入される半径方向の3本の脚軸4を設け、各脚軸4の外側に針状ころ8を介して回転自在に取付けた球形外面5aを有するスフェリカルローラ5を、円筒形ローラ案内面2aを有するトラック溝2内に嵌合した等速自在継手において、スフェリカルローラ5の表面に、独立した微小な凹形状のくぼみを無数にランダムに形成し、特殊なバレル研摩によって仕上面が得られており、この微小くぼみの平均面積が35?150μm^(2)、微小くぼみの表面に占める割合いが10?40%とするとともに、その面粗さは平均でRmax0.6?2.5μm、表面粗さのパラメータSK値が-1.6以下に成っている等速自在継手。」
(2-2)引用例2
特開2005-54879号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【0025】
一方、この実施形態の等速自在継手において、耐久寿命後に外側継手部材10のローラ案内面14にある程度の摩耗が発生する。特に、低振動性能を発揮する等速自在継手では、耐久寿命後に外側継手部材10のローラ案内面14に摩耗が発生すると、その摩耗が原因で誘起スラストを低減させることになる。そのため、耐久寿命後の誘起スラストおよびスライド抵抗の低位安定化を図るため、ローラ案内面14に接触するローラ34の外周面34aの面粗さを0.35Ra以下、好ましくは0.25Ra以下に規制する。」
(2-3)引用例3
特開2005-257021号公報(以下、「引用例3」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(さ)「【0008】
第1の発明による一方向クラッチは、軸とこれの周囲に同心状に配されたプーリとの間に、内輪、外輪、両輪間に配されたころ、ころを噛み込み方向へ付勢する付勢部材およびころを保持する保持器を備えた一方向クラッチにおいて、一方向クラッチのころと一方向クラッチの軌道輪のうちのカム面が設けられていない方の軌道輪とが、表面粗さ0.2Ra以下とされていることを特徴とするものである。
【0009】
表面粗さ0.2Ra以下は、超仕上げ、バレル研磨などを施すことにより得ることができる。」
(2-4)引用例4
特開2004-324670号公報(以下、「引用例4」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(た)「【0009】
本発明の目的は、ころ軸受におけるローラ端面と内外輪の突き当て面との間における潤滑油の保持率を高めて、ころ軸受における摩擦損失を低減することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明のころ軸受は、内輪と外輪との間にローラが組み込まれたころ軸受であって、内輪と外輪の少なくとも一方に形成される突き当て面と当該突き当て面に接触するローラの端面との少なくとも一方の表面粗さの算術平均粗さをRaとし、最大高さをRyとし、スキューネスをRskとしたときに、前記スキューネスRskを-1以下とし、前記最大高さRyを3μm以下とし、Ry/Raを6?12とすることを特徴とする。また、本発明のころ軸受は、前記ローラがテーパ形状であることを特徴とする。
【0011】
本発明にあっては、突き当て面やローラ端面の表面粗さを上述した範囲に設定することにより、突き当て面やローラ端面の摺動面の接触面積を増加させて面圧を低下させることにより面圧強度が向上するとともに、摺動面に形成される多数の谷の溝幅が潤滑油の保持性を確保することができる幅となり、摺動面が摺動接触する際には谷の部分から潤滑油が摺動面に補充されて摺動面の摩擦係数を小さくすることができる。これにより、摺動面の耐焼き付け性と耐摩耗性が向上するとともに、ローラに加えられる予圧の経年変化を縮小することができる。」
(ち)「【0033】
図10は図7(B)に示す表面粗さの突き当て面16を加工するための内輪11の製造方法を示す工程図であり、鍛造加工により内輪11と外輪12の素材を製造した後に、旋盤などの切削機械により内輪11の外周面を切削加工して鍔部14を形成する。このようにして鍔部14が機械加工された内輪11は、表面に所定の厚みの表面硬化層を形成するために浸炭焼き入れ処理され、その後に、内輪11の外周面を形成するために仕上げ研削加工が行われる。その後この仕上げ研削加工面の表面粗さ形状を出すため、更にバレル研磨法によるバレル研磨仕上げ加工が行われる。このバレル研磨仕上げによって、突き当て面16の面粗度が形成される。」
(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、後者の「外輪1」は前者の「外方部材」に相当し、同じく、「スフェリカルローラ5」は「ローラ」に、「等速自在継手」は「トリポード型等速自在継手」に、それぞれ相当する。後者の「スフェリカルローラ5の表面に、独立した微小な凹形状のくぼみを無数にランダムに形成した微小粗面Aに形成し、特殊なバレル研摩によって仕上面が得られており、この微小くぼみの平均面積が35?150μm^(2)、微小くぼみの表面に占める割合いが10?40%とするとともに、その面粗さは平均でRmax0.6?2.5μm、表面粗さのパラメータSK値が-1.6以下に成っている」と前者の「前記ローラ表面の突出山部を低減させ、研削加工でローラ表面に形成されて油溜まりとして機能する微細な溝状凹部を高密度分布で残すバレル加工により、その表面の面粗度Raを0.16μm以下とした」とは、「ローラ表面が微小粗面である」という点で一致する。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外方部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸に装着され、複数の針状ころを介して回転自在に支持された状態で前記トラック溝に挿入されたローラとを備え、そのローラが外方部材の軸方向に移動可能なトリポード型等速自在継手において、ローラ表面が微小粗面であるトリポード型等速自在継手。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願補正発明の「ローラ表面」は「前記ローラ表面の突出山部を低減させ、研削加工でローラ表面に形成されて油溜まりとして機能する微細な溝状凹部を高密度分布で残すバレル加工により、その表面の面粗度Raを0.16μm以下とした」ものであるのに対し、引用例1発明の「スフェリカルローラ5の表面」は「スフェリカルローラ5の表面に、独立した微小な凹形状のくぼみを無数にランダムに形成し、特殊なバレル研摩によって仕上面が得られており、この微小くぼみの平均面積が35?150μm^(2)、微小くぼみの表面に占める割合いが10?40%とするとともに、その面粗さは平均でRmax0.6?2.5μm、表面粗さのパラメータSK値が-1.6以下に成っている」点。
(4)判断
(4-1)相違点について
引用例1発明の「独立した微小な凹形状のくぼみ」を有する「スフェリカルローラ5の表面」は「特殊なバレル研摩によって仕上面が得られて」いるが、「特殊なバレル研摩」以外にどのような手段を用いるかは適宜の設計的事項にすぎない。そして、引用例4には、上記に摘記したように、ころ軸受の内輪外周面に関してではあるが、仕上げ研削加工した後にバレル研摩仕上げ加工して面粗度を形成するものが示されている。このように転動面ないし摺動面を研削加工後にバレル加工すること自体は、例えば、特開2005-106234号公報(特に【0019】)、特開2005-214330号公報(特に【0002】、【0005】、【0006】)に示されているように周知であるということもできる。引用例1発明に引用例4の上記事項を適用することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。表面のくぼみが「溝状」であるかどうかは、例えば研削手段に依存するものであって、そのような研削手段の選択も適宜であって格別のものではない。また、バレル加工によって表面の突出部が低減されることは、例えば、特開2005-106234号公報(特に【0023】)に示されているように技術常識ないし通常起こり得る事象にすぎない。
引用例1発明の「スフェリカルローラ5の表面」の「面粗さは平均でRmax0.6?2.5μm」であるが、この点は、引用例1では実施例として説明されているにすぎず、この数値範囲の上下限値に格別の意義があるわけではない。また、上記に摘記したとおり、引用例2には、等速自在継手のローラの面粗さを0.25Ra以下にすることが、引用例3には、一方向クラッチではあるが、一方向クラッチのころと一方向クラッチの軌道輪のうちのカム面が設けられていない方の軌道輪の表面粗さを0.2Ra以下とすることが、それぞれ示されており、下限値がないことに留意すると、引用例2、3の数値限定事項と本願補正発明の数値限定事項とは相当範囲において重複している。そして、(a)本願の図6では、「バレル加工有り品」のデータが限られており、「バレル加工有り品」における面粗度の上限値「0.16μm」に格別顕著な意義があるかどうか、必ずしも明らかではないこと、(b)本願の図6では、面粗度Ra以外の面粗さ条件(例えば平均面積、表面に占める割合)が不明であり、本願明細書の「【0044】…図6に示す結果から、0.16μm以下であることが望ましい。」という効果が、面粗度Raを特定するだけで足り、他の条件の如何によらないといえるのかどうか、必ずしも明らかではないこと、(c)特開平11-62990号公報には、転がり軸受についてではあるが、「【0002】【従来の技術】一般に、転がり軸受においては、摩擦トルク低減、磨耗防止、耐久性向上のために、軌道輪と転動体との接触部に、表面粗さに比べ十分な厚さの潤滑油膜を確保する必要がある。よって、深溝玉軸受などの一般的な転がり軸受では、軌道面に超仕上加工を施し、その表面粗さを小さくしている。」、「【0020】…この遠心バレル機により12時間連続のバレル加工を実施した場合、加工前に0.3μmRaであった外輪12の軌道面12aの表面粗さが0.06μmRaに改善された。」、「【0027】本実施の形態では、バレル加工による軌道面の表面粗さの加工範囲を0.03μmRaから0.1μmRaまでの範囲に設定している。」と記載されているように、表面に十分な厚さの潤滑油膜を確保するには表面粗さが小さい方が望ましいことは技術常識であること、以上を合わせ考えると、引用例1発明において、そのRmaxをさらに小さくして、「面粗度Raを0.16μm以下」という事項を充足する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして、本願補正発明の効果は、引用例1?4に記載された発明に基づいて当業者が予測し得たものにすぎない。
したがって、本願補正発明は、引用例1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成22年9月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明8」という。)は、平成22年5月31日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外方部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸に装着され、複数の針状ころを介して回転自在に支持された状態で前記トラック溝に挿入されたローラとを備え、そのローラが外方部材の軸方向に移動可能なトリポード型等速自在継手において、前記ローラ表面の突出山部を低減させるバレル加工により、その表面の面粗度Raを0.25μm以下としたことを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【請求項2】
前記ローラがローラ案内面に対して一点でサーキュラコンタクトする請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項3】
前記ローラがローラ案内面に対して二点でアンギュラコンタクトする請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項4】
内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外方部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有し、その脚軸の横断面を長軸が継手の軸線に直交する略楕円形としたトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸に装着され、前記脚軸に外嵌された内側ローラに複数の針状ころを介して外側ローラが回転自在に支持された状態で前記トラック溝に挿入されたローラカセットとを備え、その外側ローラがローラ案内面に対してアンギュラコンタクトしながら外方部材の軸方向に移動可能なトリポード型等速自在継手において、前記内側ローラおよび外側ローラ表面の突出山部を低減させるバレル加工により、その表面の面粗度Raを0.25μm以下としたことを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【請求項5】
内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外方部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸に装着され、複数の針状ころを介して回転自在に支持された状態で前記トラック溝に挿入されたローラとを備え、そのローラが外方部材の軸方向に移動可能なトリポード型等速自在継手の製造方法において、前記ローラの表面を、研削加工後にバレル加工することにより、その表面の面粗度Raを0.25μm以下とすることでローラ表面の突出山部を低減させ、研削加工でローラ表面に形成された溝状凹部を残すことを特徴とするトリポード型等速自在継手の製造方法。
【請求項6】
前記ローラがローラ案内面に対して一点でサーキュラコンタクトする請求項5に記載のトリポード型等速自在継手の製造方法。
【請求項7】
前記ローラがローラ案内面に対して二点でアンギュラコンタクトする請求項5に記載のトリポード型等速自在継手の製造方法。
【請求項8】
内周部に軸方向の三本のトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外方部材と、半径方向に突出した三本の脚軸を有し、その脚軸の横断面を長軸が継手の軸線に直交する略楕円形としたトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸に装着され、前記脚軸に外嵌された内側ローラに複数の針状ころを介して外側ローラが回転自在に支持された状態で前記トラック溝に挿入されたローラカセットとを備え、その外側ローラがローラ案内面に対してアンギュラコンタクトしながら外方部材の軸方向に移動可能なトリポード型等速自在継手の製造方法において、前記内側ローラおよび外側ローラの表面を、研削加工後にバレル加工することにより、その表面の面粗度Raを0.25μm以下とすることでローラ表面の突出山部を低減させ、研削加工でローラ表面に形成された溝状凹部を残すことを特徴とするトリポード型等速自在継手の製造方法。」

3-1.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1?4、及び、その記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明の「前記ローラ表面の突出山部を低減させ、研削加工でローラ表面に形成されて油溜まりとして機能する微細な溝状凹部を高密度分布で残すバレル加工により、その表面の面粗度Raを0.16μm以下とした」を「前記ローラ表面の突出山部を低減させるバレル加工により、その表面の面粗度Raを0.25μm以下とした」に拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1は、実質的に同様の理由により、引用例1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
したがって、本願発明1は引用例1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結語
以上のとおり、本願発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願発明2?8について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-13 
結審通知日 2012-01-16 
審決日 2012-01-31 
出願番号 特願2005-377675(P2005-377675)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16D)
P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 宏和小野 孝朗  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 所村 陽一
冨岡 和人
発明の名称 トリポード型等速自在継手及びその製造方法  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  

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