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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1254526
審判番号 不服2011-1790  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-26 
確定日 2012-03-29 
事件の表示 特願2008-326311「入力装置および入力装置の制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月 1日出願公開、特開2010-146513〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成20年12月22日の出願であって、平成22年5月6日付けで拒絶理由を通知したところ、同年7月12日付けで意見書及び手続補正書が提出された。
これに対し、同年10月18日付けで拒絶査定を行ったところ、これを不服として平成23年1月26日に審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正書の提出がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年1月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
平成23年1月26日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は補正前の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明の
「押圧による入力を受け付ける入力部と、
前記入力部に対する押圧荷重を検出する荷重検出部と、
前記入力部を振動させる振動部と、
前記荷重検出部により検出される押圧荷重が、前記入力部への入力を受け付ける所定の基準を満たした際に、前記入力部を押圧している押圧物に対して触感を呈示するように前記振動部を1つの駆動信号で振動させ、前記入力部への入力を受け付けた後、前記荷重検出部により検出される押圧荷重が前記基準を満たした際に、前記押圧物に対して前記触感とは異なる触感を呈示するように前記振動部を前記1つの駆動信号とは異なる1つの駆動信号で振動させる制御部と、
を備えることを特徴とする入力装置。」
を、
「押圧による入力を受け付ける入力部と、
前記入力部に対する押圧荷重を検出する荷重検出部と、
前記入力部を振動させる振動部と、
前記荷重検出部により検出される押圧荷重が、前記入力部への入力を受け付ける所定の基準を満たした際に、前記入力部を押圧している押圧物に対して触感を呈示するように前記振動部を1つの駆動信号で駆動して前記入力部を振動させ、前記入力部への入力を受け付けた後、前記荷重検出部により検出される押圧荷重が前記基準を満たした際に、前記押圧物に対して前記触感とは異なる触感を呈示するように前記振動部を前記1つの駆動信号とは異なる1つの駆動信号で駆動して前記入力部を振動させることにより、前記入力部を押圧している押圧物に対してボタンが押し下がった触感およびリリースした触感を呈示する制御部と、
を備えることを特徴とする入力装置。」
という発明(以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項2に記載された「1つの駆動信号で振動させ、」及び「前記1つの駆動信号とは異なる1つの駆動信号で振動させる」を、それぞれ、「1つの駆動信号で駆動して前記入力部を振動させ、」及び「1つの駆動信号で駆動して前記入力部を振動させる」とするとともに、振動させることによるその作用として、「前記入力部押圧している押圧物に対してボタンが押下がった触感およびリリースした触感を呈示する」と「制御部」を限定して特許請求の範囲を減縮するものである。

3.独立特許要件について
そこで,補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.補正後の本願発明」の項で認定したとおりである。

(2)引用発明
原査定の拒絶理由に引用された特開2005-332063号公報(平成17年12月2日出願公開、以下、「引用例」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。

a.
「【0050】
次に、触覚入力機能付きの携帯電話機100の内部構成例及び感触フィードバック入力方法について説明をする。図6は、触覚入力機能付き携帯電話機100の内部構成例を示すブロック図である。
図6に示す携帯電話機100は、下部筐体10の回路基板17に各機能のブロックを実装して構成される。なお、図1?図5に示した各部及び手段と対応する部分は、同一符号で示している。携帯電話機100は、制御手段15、操作パネル18、受信部21、送信部22、アンテナ共用器23、入力検出手段45、アクチュエータ25a?25d、表示手段29、電源ユニット33、カメラ34及び記憶手段35を有している。
【0051】
図6に示す入力検出手段45は、図2では静電容量方式の入力デバイスを説明したが、カーソリングと選択の機能を区別できるものであれば何でも良く、例えば、抵抗膜方式、表面波弾性方式(SAW)、光方式、複数段方式タクトスイッチ等の入力デバイスであっても良く、好ましくは位置情報と力情報を制御手段15に与えられる構成の入力デバイスであれば良い。上述の入力検出手段45は操作者30の指30aを介して少なくとも位置検出信号S1および入力量(押圧力;加圧力F)となる入力検出信号S2が入力される。
【0052】
制御手段15は、A/Dドライバ31、CPU32、画像処理部26及びアクチュエータ駆動回路37を有している。A/Dドライバ31には、入力検出手段45からの位置検出信号S1および入力検出信号S2が供給される。A/Dドライバ31ではカーソリングとアイコン選択の機能を区別するために位置検出信号S1および入力検出信号S2よりなるアナログ信号をデジタルデータに変換する。この他にA/Dドライバ31は、このデジタルデータを演算処理して、カーソリング入力かアイコン選択情報かを検出し、カーソリング入力かアイコン選択かを区別するフラグデータD3あるいは位置情報D1または入力検出情報D2をCPU32に供給するようになされる。これらの演算はCPU32内で実行してもよい。
【0053】
A/Dドライバ31にはCPU32が接続される。CPU32はシステムプログラムに基づいて当該電話機全体を制御するようになされる。記憶手段35には当該電話器全体を制御するためのシステムプログラムデータが格納される。図示しないRAMはワークメモリとして使用される。CPU32は電源オンと共に、記憶手段35からシステムプログラムデータを読み出してRAMに展開し、当該システムを立ち上げて携帯電話機全体を制御するようになされる。例えば、CPU32は、A/Dドライバ31からの入力データD1?D3を受けて所定の指令データDを電源ユニット33や、カメラ34、記憶手段35、アクチュエータ駆動部37、映像&音声処理部44等のデバイスに供給したり、受信部21からの受信データを取り込んだり、送信部2へ送信データを転送するように制御する。
【0054】
この例で、CPU32は、入力検出手段45から得られる入力検出情報D2と予め設定された押下判定閾値Fthとを比較し、当該比較結果に基づいてアクチュエータ25a?25d等を振動制御するようにアクチュエータ駆動部37を制御する。例えば、入力検出手段45の押下位置における入力検出面から伝播される触覚をA及びBとすると、触覚Aは、その押下位置における操作者の指30aの加圧力Fに応じた入力検出面を低周波数かつ小振幅の振動パターンから、高周波数かつ大振幅の振動パターンに変化させることによって得られる。また、触覚Bは、その押下位置における操作者の指30aの加圧力Fに応じた入力検出面を高周波数かつ大振幅の振動パターンから、低周波数かつ小振幅の振動パターンに変化させることよって得られる。
【0055】
CPU32は、入力検出手段45が押下判定閾値Fthを越える入力検出情報D2を検出したとき、触覚Aを起動し、その後、押下判定閾値Fthを下回る入力検出情報D2を検出したとき、触覚Bを起動するようにアクチュエータ駆動回路37を制御する。このようにすると、操作者の指30a等の”加圧力”に合わせた異なる振動パターンを発生させることができる。
【0056】
CPU32には、アクチュエータ駆動部37が接続され、CPU32からの制御情報Dcに基づいて振動制御信号Sa?Sdを発生する。振動制御信号Sa?Sdは、正弦波形からなる出力波形を有している。アクチュエータ駆動部37には複数のアクチュエータ25a、25b、25c、25dが接続され、各々の振動制御信号Sa?Sdに基づいて振動するようになされる。
【0057】
この例で、アクチュエータ駆動部37は、各アプリケーションに対応する押下判定閾値Fthを記憶する。例えば、押下判定閾値Fthはトリガーパラメータとしてアクチュエータ駆動回路37に設けられたROM等に予め格納される。アクチュエータ駆動回路37は、CPU32の制御を受けて、入力検出情報D2を入力し、予め設定された押下判定閾値Fthと、入力検出情報D2から得られる加圧力Fとを比較し、Fth>Fの判定処理や、Fth≦F等の判定処理を実行する。
【0058】
この例で、押下判定閾値Fth=100[gf]を設定すると、クラシックスイッチの触覚を得るための振動パターンに基づいて入力検出面を振動するようになされる。また、押下判定閾値Fth=20[gf]を設定すると、サイバースイッチの触覚を得るための振動パターンに基づいて入力検出面を振動するようになされる。
」(【0050】から【0058】の記載。下線は当審で付与、以下同様。)

b.
「【0065】
図7A及びBは、触覚A及びBに係る振動パターン例を示す波形図である。図7A及びBにおいて、いずれも横軸は、時間tである。縦軸は振動制御信号Sa?Sd等の電圧(振幅Ax)[V]である。この例では、ボタンアイコン29a等において、それを押し込む時は触覚Aを与え、それを離す時は触覚Bを与える場合を前提とする。
【0066】
図7Aに示す第1の振動パターンPaは触覚Aを与える波形である。その触覚Aの駆動条件aは、ボタンアイコン29a等が押し込まれたとき、押下判定閾値Fthと加圧力Fとの関係がFth<Fとなる場合であって、第1段階iで約0.1秒間、周波数fx=50Hz、振幅Ax=5μm、回数Nx=2回の振動パターンで振動する。以下[fx Ax Nx]=[50 5 2]と表記する。同様にして、第2段階iiでは、約0.1秒間、[fx Ax Nx]=[100 10 2]の振動パターンで振動するようになされる。
【0067】
図7Bに示す第2の振動パターンPbは触覚Bを与える波形である。その触覚Bの駆動条件bは、ボタンアイコン29a等が押し込まれた後に、そのボタンアイコン29aが放されたとき、押下判定閾値Fthと加圧力Fとの関係がFth>Fとなる場合であって、第1段階iで約0.1秒間、[fx Ax Nx]=[80 8 2]で振動し、同様にして、第2段階iiでは、約0.1秒間、[fx Ax Nx]=[40 8 2]の振動パターンで振動する。このような振動パターンに基づいて入力検出面を振動すると、サイバースイッチ等の触覚を得ることができる。
【0068】
図8A及びBは、加圧力Fと振動パターンとの関係例(その1)を示す図である。図8Aにおいて、縦軸は加圧力Fであり、入力検出信号S2(二値化後は入力検出情報D2)から得られる。図8Bにおいて、縦軸は振動制御信号Sa等の電圧(振幅)である。図8A及びBにおいて、横軸はいずれも時間tである。
【0069】
一般に、ボタンスイッチ操作等において、入力モーションピークが存在する。設計通りの押下速度(操作入力速度)である場合、その加圧力Fは30[gf]乃至240[gf]程度であることが知られている。図8Aに示す加圧力分布波形Iは、入力装置設計時に基準とした、Z方向への押下速度による加圧力Fを反映したものである。
【0070】
この例で入力検出手段45から得られる入力検出信号S2に対して予め押下判定閾値Fthが設定され、CPU32は、入力検出信号S2の立ち上がり波形が押下判定閾値Fthを横切る時刻t11に第1の振動パターンPaを発生し、入力検出信号S2の立ち下がり波形が押下判定閾値Fthを横切る時刻t21に第2の振動パターンPbを発生するようにアクチュエータ振動回路37を制御する。
【0071】
このようにすると、入力検出手段45が入力装置設計時に基準とした加圧力Fを検出し、CPU32等が押下判定閾値Fth<加圧力Fを検出したとき、触覚Aを起動することができ、押下判定閾値Fth>加圧力Fを検出したとき、触覚Bを起動することができる。なお、振動パターンPaと振動パターンPbとの間には、無振動の空白期間Tx=T1が設けられる。この空白期間Txは、Z方向への押圧速度に応じて可変するようになされる。
【0072】
図9A及びBは、加圧力Fと振動パターンとの関係例(その2)を示す図である。図9Aにおいて、縦軸は加圧力Fであり、入力検出信号S2(二値化後は入力検出情報D2)から得られる。図9Bにおいて、縦軸は振動制御信号Sa等の電圧(振幅)である。図9A及びBにおいて、横軸はいずれも時間tである。
【0073】
図9Aに示す加圧力分布波形IIは、図8Aに示した基準押下速度よりも早くボタンアイコン等を押下した場合の加圧力Fを反映したものである。この例でも、図8Aと同様にして、入力検出手段45から得られる入力検出信号S2に対して予め押下判定閾値Fthが設定され、CPU32は、入力検出信号S2の立ち上がり波形が押下判定閾値Fthを横切る時刻t12に振動パターンPaを発生し、入力検出信号S2の立ち下がり波形が押下判定閾値Fthを横切る時刻t22に振動パターンPbを発生するようにアクチュエータ振動回路37を制御する。
【0074】
このようにすると、入力検出手段45が基準押下速度よりも早くボタンアイコン等が押下された場合の加圧力Fを検出し、CPU32等が押下判定閾値Fth<加圧力Fを検出したとき、触覚Aを起動することができる。また、CPU32等が押下判定閾値Fth>加圧力Fを検出したとき、触覚Bを起動することができる。なお、振動パターンPaと振動パターンPbとの間には、無振動の空白期間Tx=T2(T2<T1)が設けられる。
【0075】
このように、設計時の押下速度よりも早い押下速度である場合であっても、前半で触覚Aが伝わり、クリック感のある荷重に到達させることができ、その後半で、触覚Bが伝わり、クリック感のあるストロークに到達させることができる。この例で押下判定閾値Fth=100[gf]を設定すると、クラシックスイッチの触覚を得ることができる。」(【0065】から【0075】の記載。)

c.
「【0093】
従って、操作者の指30a等による押下操作に対応した振動パターン(振幅と周波数と振動回数)により複数種類の振動を発生させることができる。これにより、表示手段29上の入力検出面における操作者の指30aの押下操作に対応した、アナログスイッチや、サイバースイッチ等の触覚を取得できるようになる。」(【0093】の記載。)

したがって、上記a?cの記載から引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

〈引用発明〉
「制御手段15、操作パネル18、受信部21、送信部22、アンテナ共用器23、入力検出手段45、アクチュエータ25a?25d、表示手段29、電源ユニット33、カメラ34及び記憶手段35を有する携帯電話機100であって、
入力検出手段45は操作者30の指30aを介して少なくとも位置検出信号S1および入力量(押圧力;加圧力F)となる入力検出信号S2が入力され制御手段15は、A/Dドライバ31、CPU32、画像処理部26及びアクチュエータ駆動回路37を有し、前記CPU32は、入力検出手段45が押下判定閾値Fthを越える入力検出情報D2を検出したとき、触覚Aを起動し、その後、押下判定閾値Fthを下回る入力検出情報D2を検出したとき、触覚Bを起動するようにアクチュエータ駆動回路37を制御し、アクチュエータ駆動部37には複数のアクチュエータ25a、25b、25c、25dが接続され、各々の振動制御信号Sa?Sdに基づいて振動するようになされたもので、
前記押下判定閾値Fth=100[gf]を設定すると、クラシックスイッチの触覚を得るための振動パターンに基づいて入力検出面を振動するようになされ、また、押下判定閾値Fth=20[gf]を設定すると、サイバースイッチの触覚を得るための振動パターンに基づいて入力検出面を振動するようになされるもので、
触覚Aを与える波形である第1の振動パターンPaは、
第1段階iで約0.1秒間、周波数fx=50Hz、振幅Ax=5μm、回数Nx=2回の振動パターンで振動し、第2段階iiでは、約0.1秒間、[fx Ax Nx]=[100 10 2]の振動パターンで振動し、
触覚Bを与える波形第2の振動パターンPbは、
第1段階iで約0.1秒間、[fx Ax Nx]=[80 8 2]で振動し、同様にして、第2段階iiでは、約0.1秒間、[fx Ax Nx]=[40 8 2]の振動パターンで振動し、
このような振動パターンに基づいて入力検出面を振動すると、サイバースイッチ等の触覚を得ることができる」

(3)対比・判断
補正後の発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「入力検出面」は、補正後の発明の「入力部」に相当し、引用発明の「入力検出手段」は、入力量(押圧力:補正後の発明の押圧加重に相当)を検出しているので、補正後の発明の「荷重検出部」に相当し、そして、引用発明の「複数のアクチュエータ」は、入力検出面を振動させることから、補正後の発明の「振動部」に相当する。また、引用発明の「携帯電話機」は、入力部を備えることから、補正後の発明の「入力装置」に相当する。

(イ)引用発明の「制御手段」は、「入力検出手段45が押下判定閾値Fthを越える入力検出情報D2を検出したとき、触覚Aを起動し、その後、押下判定閾値Fthを下回る入力検出情報D2を検出したとき、触覚Bを起動する」ことから、補正後の発明と、「荷重検出部により検出される押圧荷重が、前記入力部への入力を受け付ける所定の基準を満たした際に、前記入力部を押圧している押圧物に対して触感を呈示するように前記振動部を駆動信号で駆動して前記入力部を振動させ、前記入力部への入力を受け付けた後、前記荷重検出部により検出される押圧荷重が前記基準を満たした際に、前記押圧物に対して前記触感とは異なる触感を呈示するように前記振動部を前記駆動信号とは異なる駆動信号で駆動して前記入力部を振動させる制御部」である点で共通している。

(ウ)また、引用発明は、「入力検出手段45が押下判定閾値Fthを越える入力検出情報D2を検出したとき、触覚Aを起動し、その後、押下判定閾値Fthを下回る入力検出情報D2を検出したとき、触覚Bを起動する」ことで、「前半で触覚Aが伝わり、クリック感のある荷重に到達させることができ、その後半で、触覚Bが伝わり、クリック感のあるストロークに到達させることができ」るので、触覚Aは荷重が増加し、基準を超えた場合に起動され、その後、荷重が減少し基準を下回った場合に触覚Bが起動されるものであるので、補正後の発明の「入力部を押圧している押圧物に対してボタンが押し下がった触感およびリリースした触感を呈示」している。

以上のことから、補正後の発明と引用発明は、以下の一致点と相違点とを有する。

〈一致点〉
「押圧による入力を受け付ける入力部と、
前記入力部に対する押圧荷重を検出する荷重検出部と、
前記入力部を振動させる振動部と、
前記荷重検出部により検出される押圧荷重が、前記入力部への入力を受け付ける所定の基準を満たした際に、前記入力部を押圧している押圧物に対して触感を呈示するように前記振動部を駆動信号で駆動して前記入力部を振動させ、前記入力部への入力を受け付けた後、前記荷重検出部により検出される押圧荷重が前記基準を満たした際に、前記押圧物に対して前記触感とは異なる触感を呈示するように前記振動部を前記駆動信号とは異なる駆動信号で駆動して前記入力部を振動させることにより、前記入力部を押圧している押圧物に対してボタンが押し下がった触感およびリリースした触感を呈示する制御部と、
を備えることを特徴とする入力装置。」

〈相違点〉
入力部を振動させる駆動信号が、補正後の発明では「1つの駆動信号」であるのに対し、引用発明ではそうではない点。


相違点につき検討する。

〈相違点〉
補正後の発明の「1つの駆動信号」について、その意味するところは、必ずしも明確ではないが、本願の出願当初の明細書及び図面の記載には、「駆動信号」に関して、以下の記載がある。

(あ)「【0028】
本発明に係る入力装置は、以上の原理に基づいて、プレート状の押圧式の入力部を押圧する場合に、押圧荷重が入力部への入力を受け付ける所定の基準を満たすまでは圧覚を刺激し、所定の基準を満たした際に、入力部を所定の駆動信号、すなわち一定周波数、駆動時間である周期(波長)、波形、振幅、で振動させて触覚を刺激する。
【0029】
また、ヒトが押しボタンスイッチを操作すると、押下時のみならず、リリース時においても、図4に示したように、指に押しボタンスイッチからの触感刺激が与えられる。そこで、本発明に係る入力装置においては、リリース時にも操作者にクリック触感(以下、リリース時のクリック触感を、適宜、リリース触感とも言う)を呈示する。これにより、操作者に、押しボタンスイッチを押下した場合と同様のリアルなクリック触感を呈示するものである。」(【0028】?【0029】の記載)

(い)第1実施の形態として、
「ステップS82で振動部14を駆動する所定の駆動信号、すなわち触覚を刺激する一定周波数、周期(波長)、波形、振幅は、呈示するクリック触感に応じて適宜設定すればよい。例えば、携帯端末に使用されているメタルドームスイッチに代表されるクリック触感を呈示する場合は、後述するように、タッチパネル12に所定の荷重が加わった時点で、例えば、170Hzの一定周波数のSin波からなる1周期分の駆動信号により振動部14を駆動して、タッチパネル12を、所定の荷重が加わった状態で、約15μm振動させる。これにより、操作者にリアルなクリック触感を呈示することができる。」(【0037】の記載)

(う)「ステップS84のリリース時において、振動部14を駆動する駆動信号は、ステップS82の押圧時における駆動信号と同じとすることもできるし、異ならせることもできる。例えば、タッチパネル12への入力を受け付ける押圧時における駆動信号の周波数は170Hzとし、リリース時における駆動信号の周波数は、例えば図4に示したように、125Hzとすることができる。
【0040】
このように、本実施の形態に係る入力装置は、荷重検出部13で検出されるタッチパネル12に加わる荷重が、タッチパネル12への入力を受け付ける所定の基準を満たすまでは圧覚を刺激するようにし、所定の基準を満たすと、振動部14を所定の駆動信号で駆動してタッチパネル12を所定の振動パターンで振動させて触覚を刺激する。これにより、操作者に対してクリック触感を呈示して、当該入力操作が完了したことを認識させる。したがって、操作者は、タッチパネル12を、押しボタンスイッチを操作した場合と同様のリアルなクリック触感を得ながら、入力操作を行うことができるので、違和感を覚えることがない。また、タッチパネル12を「押した」と言う意識との連動で入力操作を行うことができるので、単なる押圧による入力ミスも防止することができる。
【0041】
また、押圧入力を受け付けた後のリリース時に、所定の基準を満たした際に、押圧時と同様に、振動部14を所定の駆動信号で駆動して、タッチパネル12を予め設定した所定の振動パターンで振動させるので、リリース触感を呈示することができる。したがって、押圧時のクリック触感と相俟って、より押しボタンスイッチに近いクリック触感を操作者に呈示することができる。」(【0039】から【0041】の記載)

(え)第2の実施の形態の官能評価結果として、
「【0054】
図12は、周波数を変化させた場合の評価結果を示す。この官能評価においては、振動部14を駆動する駆動信号の周期(波長)すなわち駆動時間を1周期、波形をSin波として、周波数を50Hz?250Hzの範囲で変化させた。なお、駆動信号の振幅は、タッチパネル12において、所定の基準の荷重が加わった状態で、15μmの振動振幅が得られる信号振幅とした。その結果、図12から明らかなように、周波数は、170Hzの場合が最も評価が高いが、140Hz以上であれば、ヒトは携帯端末と似たクリック触感が得られることが確認できた。
【0055】
図13は、駆動信号の振幅を変化させた場合の評価結果を示す。この官能評価においては、駆動部14を駆動する駆動信号の周波数を170Hz、周期を1周期、波形をSin波とした。また、信号振幅は、タッチパネル12が押圧されていない無負荷状態で、タッチパネル12が1μm?35μm内の所定の振幅で振動するように変化させた。そして、各無負荷時の振動振幅条件で、タッチパネル12に1.5Nの荷重が加わった際に駆動部14を駆動して、各評価項目を評価した。なお、図13の横軸には、タッチパネル12の無負荷時の振動振幅に対応して、1.5Nの荷重が加わった状態での振動振幅を示す。その結果、図13から明らかなように、1.5Nの荷重が加わった状態では、振動振幅が15μm以上であれば、ヒトはクリック触感を十分に感じることが確認できた。つまり、タッチパネル12に1.5Nの押圧荷重が加わった状態で、170Hzの一定周波数で、タッチパネル12を15μm以上の振動振幅で、わずかに1周期分振動させることで、ヒトはクリック触感を感じるということが確認できた。
【0056】
図14は、駆動時間である周期(波長)を変化させた場合の評価結果を示す。この官能評価においては、振動部14を駆動する駆動信号の波形をSin波、信号振幅をタッチパネル12における所定の基準の荷重が加わった状態での振動振幅が約15μmとなる振幅、周波数を170Hzとして、周期を1/4周期?3周期の範囲で変化させた。なお、1/4周期および1/2周期では、他の周期とタッチパネル12における振動変位がほぼ等しくなる、すなわち約15μmの振動振幅が得られる信号振幅とした。その結果、図14から明らかなように、周期(波長)が1周期の場合に最も高い評価が得られた。また、5/4周期や、1周期未満でも、概ね良好な結果が得られたが、3/2周期以上になると、携帯端末のクリック触感からはずれることが確認できた。
【0057】
図15は、駆動信号の波形を変化させた場合の評価結果を示す。この官能評価においては、振動部14を駆動する駆動信号の波形をSin波、矩形波、三角波とした場合のそれぞれについて評価した。なお、各信号の周波数は170Hz、信号振幅はタッチパネル12における所定の基準の荷重が加わった状態での振動振幅が約15μmとなる振幅、周期は1周期とした。その結果、図15から明らかなように、Sin波の場合に最も高い評価が得られた。
【0058】
ここで、Sin波の駆動信号(駆動部14の入力電圧)は、図16に一点鎖線で示すように、位相0度から電圧が増加して減少する1周期に限らず、位相180度から電圧が減少して増加する等、任意の位相からの1周期の電圧とすることができる。なお、図16には、一点鎖線で示した入力電圧で駆動部14を駆動した際の、無負荷時におけるタッチパネル12の振動振幅波形(破線)と、1.5Nでの押圧時におけるタッチパネル12の振動振幅波形(実線)とを合わせて示す。
【0059】
以上の評価結果例から、図5および図6に示した構成の入力装置を携帯端末に適用する場合は、タッチパネル12の押圧時に所定の基準を満たす荷重が加わった時点で、例えば、周波数140Hz以上、好適には170Hzの一定周波数で、5/4周期以下、好適には1周期のSin波の駆動信号により、タッチパネル12を約15μm以上振動させれば、操作者にリアルなクリック触感を呈示可能であることが確認できた。なお、図10および図11に示した構成の入力装置においても、同様の結果が得られることが確認できた。
【0060】
次に、本発明者らは、上記のように振動部14を押圧時のみ駆動する場合と、押圧時およびリリース時の双方で駆動する場合とのクリック触感の官能評価を行った。以下、その結果について説明する。
【0061】
図17は、この場合の評価結果例を示す図である。図17において、左側は、振動部14を押圧時のみ駆動する場合、すなわち「リリース触感なし」の場合の評価結果を示し、右側は、押圧時およびリリース時の双方で駆動する場合、すなわち「リリース触感あり」の場合の官能評価結果を示す。被験者は、図2および図3の官能評価を行った者と同じ5人である。評価項目は、図12?図15における3項目に、「フィードバックとしてよい(認識し易い)」の項目を加えた4項目である。各項目の評価点は、7点を満点として、5人の平均点を示した。なお、「フィードバックとしてよい」の評価項目では、「悪い」が1点、「良い」が7点である。また、押圧時およびリリース時とも、振動部14を駆動する所定の基準の荷重を同じにするとともに、駆動信号も同じとする。ここでは、所定の基準の荷重は、1.5Nとした。また、駆動信号は、周波数170HzのSin波を1周期分として、タッチパネル12を1.5Nの押圧状態で約15μm振動させた。
【0062】
図17の評価結果から明らかなように、リリース時にもタッチパネル12を振動させてリリース触感を呈示した方が、携帯端末のクリック触感により類似し、かつ、フィードバック(認識)も良好であることが確認できた。なお、図10および図11に示した構成の入力装置においても、同様の結果が得られることが確認できた。」(【0054】?【0062】の記載)

上記(あ)?(え)の記載等を総合して検討すると、補正後の発明の「1つの駆動信号」とは、一定周波数、周期(波長)、波形、振幅を有する所定の駆動信号(例えば、周波数170HzのSin波で1周期分で、約15uμmの振動を与える駆動信号)を示しているものと解釈できる。
それに対し、引用発明においては、駆動信号は2つの周波数の信号を組み合わせたものであり、例えば、入力部への入力を受け付ける所定の基準を満たした際に、入力部を押圧している押圧物に対して触感を呈示するように振動部を振動させる駆動信号は、
「触覚Aを与える波形である第1の振動パターンPaは、第1段階iで約0.1秒間、周波数fx=50Hz、振幅Ax=5μm、回数Nx=2回の振動パターンで振動し、第2段階iiでは、約0.1秒間、[fx Ax Nx]=[100 10 2]の振動パターンで振動」と記載されているように、低周波数かつ小振幅の駆動信号から、高周波かつ大振幅の駆動信号へ変化するものである。

しかしながら、引用例には、振動パターン(振幅と周波数と振動回数)により、色々な触覚(アナログスイッチやサイバースイッチ等)を呈示できることが記載(上記(2)引用発明のc.参照。)されており、
また、クリック感を呈示するために1つの周波数の信号のみで、入力面を振動させることも、特開2005-149197号公報(特に図6参照)、特開2005-258666号公報(特に図7,9参照)等に記載の様に、周知の技術である。
してみると、所定の触覚を得るために、振動部を動作させる駆動信号をどのような信号にするかは、当業者が適宜に選択することができる事項であり、そして、クリック感を呈示するために、一定の周期での駆動信号を用いることも周知技術であることを考慮すると、引用発明において、駆動信号として一定周波数、周期(波長)、波形、振幅を有する所定の駆動信号を採用し、相違点に係る構成とすることは当業者が容易になしえたものである。

また、補正後の発明の構成を採用することによって奏する作用効果も、引用発明及び周知技術の奏する作用効果からみて格別のものであるともいえない。

以上のとおり、補正後の発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成23年1月26日付けの手続補正(「本件補正」)は上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年7月12日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2に記載された以下のとおりのものと認める。

「押圧による入力を受け付ける入力部と、
前記入力部に対する押圧荷重を検出する荷重検出部と、
前記入力部を振動させる振動部と、
前記荷重検出部により検出される押圧荷重が、前記入力部への入力を受け付ける所定の基準を満たした際に、前記入力部を押圧している押圧物に対して触感を呈示するように前記振動部を1つの駆動信号で振動させ、前記入力部への入力を受け付けた後、前記荷重検出部により検出される押圧荷重が前記基準を満たした際に、前記押圧物に対して前記触感とは異なる触感を呈示するように前記振動部を前記1つの駆動信号とは異なる1つの駆動信号で振動させる制御部と、
を備えることを特徴とする入力装置。」

2.引用発明及び周知技術
引用発明は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明」の項に示したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できた発明であるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明できた発明である。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-24 
結審通知日 2012-01-31 
審決日 2012-02-13 
出願番号 特願2008-326311(P2008-326311)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 豊田 朝子  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 安島 智也
近藤 聡
発明の名称 入力装置および入力装置の制御方法  
代理人 杉村 憲司  
代理人 大倉 昭人  

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