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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04F
管理番号 1255598
審判番号 不服2011-7980  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-14 
確定日 2012-04-16 
事件の表示 特願2001-231424「床仕上げ材用基材」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月13日出願公開、特開2003- 41758〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成13年7月31日の出願であって,平成23年1月20日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年4月14日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると共に,同時に手続補正がなされ,同年5月17日付けで平成23年4月14日付け手続補正書を補正する手続補正書が提出された。
その後,同年7月19日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年8月29日付けで回答書が提出されたものである。


第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年4月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容・目的
平成23年4月14日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲について,補正前(平成22年9月30日付けの手続補正書参照。)の請求項1を,以下のように補正することを含むものである。

「吸熱分解性を有する無機化合物を固形分で55?85質量%と,セルロース繊維を固形分で2?17質量%と,無機繊維を固形分で3?17質量%と,熱硬化性樹脂を固形分で6?17質量%とを含有し,かつ,撥水性付与剤を内添,含浸もしくは塗布したシート状熱圧成形体であって,繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定して両者の平均を求めた曲げ強度(JIS A-5905による)が20MPa以上であり,厚さが1.5?3.5mmであることを特徴とする床仕上げ材用基材。」

上記補正事項は,請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「吸熱分解性を有する無機化合物」の固形分を「50?90質量%」から「55?85質量%」に,「無機繊維」の固形分を「2?20質量%」から「3?17質量%」に,「熱硬化性樹脂」の固形分を「5?20質量%」から「6?17質量%」に,「曲げ強度」を「19MPa以上」から「20MPa以上」に,「厚さ」を「1?4mm」から「1.5?3.5mm」に減縮したものと認められるから,本件補正は,少なくとも,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。

そこで,本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項に規定する要件を満たしているか,について以下に検討する。

2 独立特許要件違反(特許法第29条第2項違反)
2-1.引用刊行物
(1)刊行物1
本願出願前に頒布された刊行物である,特開2001-139703号公報(以下,「刊行物1」という。)には,以下の記載がある(下線は当審にて付与。)。
(1a)「【請求項1】 含水無機化合物を固形分で60?95質量%と,セルロース繊維及び繊維長2mm以上のロックウール繊維を固形分で合計4?40質量%と,熱硬化性樹脂を固形分で1?20質量%とを含有し,かつ,前記セルロース繊維/ロックウール繊維が固形分質量比でセルロース繊維/ロックウール繊維=20/80?62/38であるシート状熱成形体であって,前記熱硬化性樹脂の全部または一部はキュラストメータによる175℃での熱硬化速度が0.5N/分以上6N/分未満なる硬化特性を有し,かつ,厚さが0.5?3mmであることを特徴とするシート状不燃成形体。
【請求項2】 含水無機化合物及び炭酸塩を固形分で合計60?95質量%と,セルロース繊維及び繊維長2mm以上のロックウール繊維を固形分で合計4?40質量%と,熱硬化性樹脂を固形分で1?20質量%とを含有し,かつ,前記含水無機化合物/炭酸塩が固形分質量比で50/50より含水無機化合物過多側であり,前記セルロース繊維/ロックウール繊維が固形分質量比でセルロース繊維/ロックウール繊維=20/80?62/38であるシート状熱成形体であって,前記熱硬化性樹脂の全部または一部はキュラストメータによる175℃での熱硬化速度が0.5N/分以上6N/分未満なる硬化特性を有し,かつ,厚さが0.5?3mmであることを特徴とするシート状不燃成形体。
【請求項3】 上記熱硬化性樹脂の内,固形分で30質量%以上がキュラストメータによる175℃での硬化速度が0.5N/分以上6N/分未満なる硬化特性を有するものであることを特徴とする請求項1または2記載のシート状不燃成形体。
【請求項4】 上記熱硬化性樹脂はフェノール樹脂,メラミン樹脂,エポキシ樹脂,尿素樹脂,尿素メラミン樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂の中から選ばれた少なくとも1種類からなる請求項1,2または3記載のシート状不燃成形体。
【請求項5】 上記含水無機化合物は,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウム,水酸化カルシウム,二水和石こう及びアルミン酸化カルシウムの中から選ばれた少なくとも1種類からなる請求項1,2,3または4記載のシート状不燃成形体。
【請求項6】 上記炭酸塩は炭酸カルシウムである請求項1,2,3,4または5記載のシート状不燃成形体。」
(1b)「【0002】
【従来技術】従来から,建築物の防火対策上,各種建築物の不燃化に際し,石綿スレート板,けい酸カルシウム板,石こうボードなどの各種不燃材料である板状成形体が使用されている。また最近は,施工作業性改善のための軽量化あるいは設計,施工方法の多様化から,薄型でかつ高度の不燃性能を有するシート状不燃成形体に対する必要性が高まりつつある。」
(1c)「【0008】上記した含水無機化合物としては水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウム,水酸化カルシウム,二水和石こう及びアルミン酸化カルシウム等を挙げることができる。これらの化合物は何れも分子内に結晶水を持ち化学的に類似した構造を有する。また,含水無機化合物は,その種類によって分解温度及び吸熱量に幾分差があるが,高温加熱時に分解して吸熱作用により不燃化効果を示すという点では全く共通している。従って,基本的に前記した含水無機化合物の何れを用いてもよいが,入手価格等の経済性をも考慮すると水酸化アルミニウムが最適である。
【0009】本発明で使用する炭酸塩としては,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,炭酸バリウム,炭酸ストロンチウム,炭酸ベリリウム,炭酸亜鉛等の中から少なくとも1種類を選択して使用する。これらの炭酸塩はその種類により,分解温度等に幾分差があるが,高温加熱時に分解して吸熱作用により難燃化効果を示すという点では全く共通している。従って,基本的に前記した炭酸塩の何れを用いてもよいが,価格の面から炭酸カルシウムが最適である。なお,炭酸塩配合によるもう一つの重要な効果として本発明者が特開平5-112659号公報で指摘したところの発煙量低減効果を挙げることができる。」
(1d)「【0022】本発明に係るシート状不燃成形体は,含水無機化合物または炭酸塩の歩留を向上させるための各種歩留向上剤あるいは必要に応じて合成繊維または着色のための合成染料,顔料などを含有していてもよい。また,用途によっては,機械的強度もしくは後加工性の改善等を図るべく乾燥または湿潤紙力増強剤,サイズ剤,耐水化剤,撥水剤等を含有せしめるべきことは言うまでもない。」
(1e)「【0037】
【実施例】次に,本発明を以下の実施例に基づいてさらに具体的に説明する。本実施例中の各項目の測定は次の方法によった。
厚さ及び密度:JIS P-8118による。
裂断長:JIS P-8113による。繊維配向性がある場合,繊維配向方向とこれに直角をなす方向について測定し両者の平均を求めた。
曲げ強度:JIS A-5907による。繊維配向性がある場合,繊維配向 方向とこれに直角をなす方向について測定し両者の平均を求めた。
不燃性1:JIS A-1321の表面試験での亀裂等の防火上有害な変形 の有無で評価した。
不燃性2:JIS A-1321の表面試験の1級の合否で評価した。
また,熱硬化性樹脂のキュラストメータによる175℃での硬化速度がは硬化曲線上の最大応力の10%に達した点(応力F10(N),時間T10(分))と最大応力の90%に達した点 (応力F90(N),時間T90(分))とを結んだ直線の傾き,すなわち(F90-F10)/(T90-T10)N/分で与えられる。
【0038】実施例1
市販の針葉樹系未晒硫酸塩パルプと繊維長3mmのロックウール繊維(以下,無機繊維aと略称する。)を離解機にて離解して得たセルロース繊維と無機繊維の混合分散液の所定量を取り,これに水酸化アルミニウム粉体(平均粒径5.7μmである。以下同じ),炭酸カルシウム粉体(平均粒径1.5μmである。以下同じ),及びキュラストメータによる175℃での硬化速度が2.1N/分であるフェノール樹脂(以下,熱硬化性樹脂aと略称する。)を添加し,攪拌機にて十分に分散混合後,角型テスト抄紙機にて抄造し,圧搾,乾燥した後,熱プレスにて加熱処理(温度200℃,圧力3.9MPa,時間10分)し,シート状成形体Aを得た。シート状成形体Aについて,含水無機化合物及び炭酸塩の合計含有率,含水無機化合物/炭酸塩の含有質量比率,セルロース繊維と無機繊維の合計含有率,セルロース繊維/無機繊維の含有質量比率及び熱硬化性樹脂の含有率を表1に示すとともに,厚さ,密度,裂断長,曲げ強度,不燃性1及び不燃性2をそれぞれ測定し,その結果を表1に示した。
【0039】省略。
【0040】実施例3
実施例1において,無機繊維aに代えて,繊維長7mmのロックウール繊維(以下,無機繊維bと略称する。)を用いた以外は実施例1と同様にしてシート状成形体Cを得た。・・・
【0041】?【0044】省略。
【0045】実施例8
市販の針葉樹系未晒硫酸塩パルプと無機繊維bをパルパーにて離解し,これに水酸化アルミニウム粉体,炭酸カルシウム粉体及び熱硬化性樹脂aを添加し,十分に分散混合後,長網/ワインドアップロール構成の巻取板紙抄紙機にてシート層を14層積層させて抄造し,圧搾,乾燥した後,熱プレス処理(温度200℃,圧力3.9MPa,時間10分)し,シート状成形体Hを得た。・・・
【0046】実施例9
実施例8において,無機繊維bに代えて,無機繊維aを用い,熱プレスの加熱処理条件を温度175℃,圧力2.0MPa,時間3分とした以外は実施例8と同様にしてシート状成形体Iを得た。シート状成形体Iについて,含水無機化合物及び炭酸塩の合計含有率,含水無機化合物/炭酸塩の含有質量比率,セルロース繊維と無機繊維の合計含有率,セルロース繊維/無機繊維の含有質量比率及び熱硬化性樹脂の含有率を表1に示すとともに,厚さ,密度,裂断長,曲げ強度,不燃性1及び不燃性2をそれぞれ測定し,その結果を表1に示した。」
(1f)【0057】における【表1】の実施例9には,含水無機化合物+炭酸塩が79.1質量%,セルロース繊維+無機繊維が14.0質量%,セルロース繊維/無機繊維が47/53,熱硬化性樹脂が6.9質量%であり,その熱プレス処理後のシート状成形体の測定結果として,厚さが2.01mm,曲げ強度が20.3MPaと記載されている。曲げ強度の値は記載(1e)の【0037】からみて,繊維配向性がある場合,繊維配向 方向とこれに直角をなす方向について測定し両者の平均を求めたものである。そして,セルロース繊維は14.0×47/100=6.58質量%,無機繊維は14.0×53/100=7.42質量%含有となる。
また,刊行物1の含水無機化合物+炭酸塩等の量は,記載(1a)で固形分で質量%が記載されていることからみて,【表1】に記載されたものも同様に固形分での質量%であると認められる。

上記記載(1a)?(1f)の記載からみて,刊行物1には,以下の発明が記載されているものと認められる。

「含水無機化合物及び炭酸塩を固形分で合計79.1質量%と,セルロース繊維を固形分で6.58質量%と,無機繊維を固形分で7.42質量%と,熱硬化性樹脂を固形分で6.9質量%とを含有し,熱プレスにて加熱処理したシート状熱成形体であって,繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定して両者の平均を求めた曲げ強度(JIS A-5907による)が20.3MPaであり,厚さが2.01mmである,建築物のシート状不燃成形体。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

2-2.補正発明と刊行物1記載の発明との対比
刊行物1記載の発明と補正発明とを対比すると,
刊行物1記載の発明の「熱プレスにて加熱処理したシート状熱成形体」は,補正発明の「シート状熱圧成形体」に相当し,
刊行物1記載の発明の「含水無機化合物及び炭酸塩」は,補正発明の「吸熱分解性を有する無機化合物」に相当する。
また,刊行物1記載の発明の「建築物のシート状不燃成形体」と,補正発明の「床仕上げ材用基材」とは,「建材」で共通している。
そして,吸熱分解性を有する無機化合物について,刊行物1記載の発明の「79.1質量%」は,補正発明の「55?85質量%」の範囲内にあり,以下同様に,
セルロース繊維について,「6.58質量%」は,「2?17質量%」の範囲内に,
無機繊維について,「7.42質量%」は,「3?17質量%」の範囲内に,
熱硬化性樹脂について,「6.9質量%」は,「6?17質量%」の範囲内に,
厚さについて,「2.01mm」は,「1.5?3.5mm」の範囲内にある。
また,曲げ強度(JIS A-5907による)と,曲げ強度(JIS A-5905による)に実質的な違いはないと認められるから,刊行物1記載の発明の「繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定して両者の平均を求めた曲げ強度(JIS A-5907による)が20.3MPa」は,「繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定して両者の平均を求めた曲げ強度(JIS A-5905による)が20MPa以上」の範囲内にある。

したがって,両者は,以下の点で一致している。
「吸熱分解性を有する無機化合物を固形分で79.1質量%と,セルロース繊維を固形分で6.58質量%と,無機繊維を固形分で7.42質量%と,熱硬化性樹脂を固形分で6.9質量%とを含有したシート状熱圧成形体であって,繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定して両者の平均を求めた曲げ強度(JIS A-5907による)が20.3MPaであり,厚さが2.01mmであることを特徴とする建材。」

そして,以下の点で相違している。
<相違点1>
建材を,補正発明は,「床仕上げ材用基材」として用い,「撥水剤」を含有するのに対して,刊行物1記載の発明は,「建築物」に用いるものであるが,床仕上げ材用基材として用いるか否か不明であり,「撥水性付与剤を内添,含浸もしくは塗布」するかも不明である点。

2-3.判断
<相違点1について>
刊行物1記載の発明は「建築物のシート状不燃成形体」であって,記載(1d)に「用途によっては,・・・撥水剤等を含有せしめるべきことは言うまでもない。」とあるように,撥水性を求められる用途に用いることが考慮されており,建築物の中で,撥水性を求められる場所の一つとして床の表面は当業者に周知であるから,刊行物1記載の発明のシート状不燃成形体を,床仕上げ材として用い,その際に,撥水性付与剤を内添,含浸もしくは塗布することは当業者が容易に想到したことである。

また,本願明細書の【0044】?【0049】に記載された発明の効果に関しては,刊行物1記載の発明が,撥水剤以外は補正発明と一致する建材である以上,撥水性以外の効果は同等であると認められる。そして,撥水剤を含有させれば耐水性が向上することは当然であり,耐水性は当業者の予想の範囲内である。

したがって,補正発明は,刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.補正の却下の決定のむすび
以上より,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項に規定する要件を満たしていないものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明
1 本願発明
平成23年4月14日付けの手続補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成22年9月30日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものと認める。

「吸熱分解性を有する無機化合物を固形分で50?90質量%と,セルロース繊維を固形分で2?17質量%と,無機繊維を固形分で2?20質量%と,熱硬化性樹脂を固形分で5?20質量%とを含有し,かつ,撥水性付与剤を内添,含浸もしくは塗布したシート状熱圧成形体であって,繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定して両者の平均を求めた曲げ強度(JIS A-5905による)が19MPa以上であり,厚さが1?4mmであることを特徴とする床仕上げ材用基材。」 (以下,請求項1に係る発明を,「本願発明」という。)

2 引用刊行物
(1)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された,特開平9-208718号公報(以下,「刊行物2」という。)には,以下の記載がある。なお,丸数字は,かっこ数字にして記載した(下線は当審にて付与。)。
(2a)「【請求項3】 含水無機化合物を固形分で60?95重量%と,セルロ-ス繊維を固形分で2?30重量%と,無機繊維を固形分で0?20重量%と,熱硬化性樹脂を固形分で1?20重量%とを含有する湿式抄造による不燃シ-トを熱成形してなる不燃成形体であって,前記熱硬化性樹脂の全部または一部はキュラストメ-タによる175℃での硬化速度が0.4?1.2kg/分なる硬化特性を有することを特徴とする不燃成形体。
【請求項4】 含水無機化合物と炭酸塩を固形分で合計60?95重量%と,セルロ-ス繊維を固形分で2?30重量%と,無機繊維を固形分で0?20重量%と,熱硬化性樹脂を固形分で1?20重量%とを含有し,かつ含水無機化合物/炭酸塩が固形分重量比で50/50より含水無機化合物過多側である湿式抄造による不燃シ-トを熱成形してなる不燃成形体であって,前記熱硬化性樹脂の全部または一部はキュラストメ-タによる175℃での硬化速度が0.4?1.2kg/分なる硬化特性を有することを特徴とする不燃成形体。
【請求項5】 省略。
【請求項6】 含水無機化合物は水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウム,水酸化カルシウム,二水和石こう及びアルミン酸化カルシウムの中から選ばれた少なくとも1種類からなる請求項3または4記載の不燃成形体。
【請求項7】 省略。
【請求項8】 熱硬化性樹脂の内,固形分で30重量%以上がキュラストメ-タによる175℃での硬化速度が0.4?1.2kg/分なる硬化特性を有するものである請求項3,4,または6記載の不燃成形体。
【請求項9】 省略。
【請求項10】 熱硬化性樹脂はフェノ-ル樹脂,メラミン樹脂,エポキシ樹脂,尿素樹脂,尿素メラミン樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂の中から選ばれた少なくとも1種類からなる請求項3,4,6または8記載の不燃成形体。
【請求項11】 省略。
【請求項12】 炭酸塩は炭酸カルシウムである請求項3,4,6,8または10記載の不燃成形体。
【請求項13】 省略。
【請求項14】 無機繊維はガラス繊維,ロックウ-ル繊維及びセラミック繊維の中から選ばれた少なくとも1種類からなる請求項3,4,6,8,10,または12記載の不燃成形体。」
(2b)「【0002】
【従来の技術】従来から建築物の防火対策上,各種建材に不燃性を付与する不燃性基材として,水酸化アルミニウム粉体を多量に含有せしめた基材が使用されている。この水酸化アルミニウム粉体を多量に含有せしめた基材は水酸化アルミニウムの200?300℃における脱水吸熱反応によって不燃化が図られている。」
(2c)「【0012】上記した含水無機化合物としては,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウム,水酸化カルシウム,二水和石こう及びアルミン酸化カルシウム等を挙げることができる。これらの化合物は何れも分子内に結晶水を持ち化学的に類似した構造を有する。また,含水無機化合物は,その種類によって分解温度及び吸熱量に幾分差があるが,高温加熱時に分解して吸熱作用により不燃化効果を示すという点では全く共通している。従って,基本的に前記した含水無機化合物のいずれを用いてもよいが入手価格等の経済性をも考慮すると水酸化アルミニウムが最適である。
【0013】本発明で使用する炭酸塩としては,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,炭酸バリウム,炭酸ストロンチウム,炭酸ベリリウム,炭酸亜鉛等の中から少なくとも1種類を選択して使用する。これらの炭酸塩はその種類により,分解温度等に幾分差があるが,高温加熱時に分解して吸熱作用により難燃効果を示すという点では全く共通している。従って,基本的に前記した炭酸塩のいずれを用いてもよいが,価格の面から炭酸カルシウムが最適である。なお,炭酸塩配合によるもう1つの重要な効果として本発明者が特開平5-112659号公報で指摘したところの発煙量低減効果を挙げることが出来る。」
(2d)「【0021】本発明に係る不燃シ-トまたは不燃成形体は含水無機化合物または炭酸塩の歩留を向上させるための各種歩留向上剤あるいは必要に応じて合成繊維あるいは熱可塑性樹脂もしくはごく少量の合成ゴムまたは着色のための合成染料などを含有していてもよい。また,用途によっては機械的強度もしくは後加工適性の改善等を図るべく乾燥または湿潤紙力増強剤,サイズ剤,耐水化剤,撥水剤等を含有せしめるべきことは言うまでもない。」
(2e)「【0038】実施例
次に本発明を以下の実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
本実施例中の各項目の測定は次の方法によった。
(1)厚さ及び密度;JIS P-8118による。
(2)発煙性(発煙係数);JIS A-1321の表面試験による。
(3)不燃性1;JIS A-1322による。
(4)不燃性2;JIS A-1321の表面試験による。
(5)裂断長;JIS A-8113による。
(6)曲げ強度;JIS A-5907による。
また,熱硬化性樹脂のキュラストメ-タによる175℃での硬化速度は硬化曲線上の最大応力の10%に達した点(応力F10(kg),時間T10(分))と最大応力の90%に達した点(応力F90(kg),時間T90(分))とを結んだ直線の傾き,すなわち,(F90-F10)/(T90-T10)kg/分で与えられる。
【0039】実施例1
市販の針葉樹系未晒硫酸塩パルプとガラス繊維(繊維径3μmである。以下同じ)を離解機にて離解して得たセルロ-ス繊維とガラス繊維の混合分散液の所定量を取り,これに水酸化アルミニウム粉体(平均粒径5.7μmである。以下同じ),炭酸カルシウム粉体(平均粒径1.5μmである。以下同じ)及びキュラストメ-タによる175℃での硬化速度が0.71kg/分であるフェノ-ル樹脂(以下,フェノ-ル樹脂aと略称する。)を添加し,撹拌機にて十分に分散混合後,角型テスト抄紙機にて抄造し,圧搾後,110℃の熱風乾燥機で乾燥しシ-トAを得た。シ-トAについて,各成分の含有率を表1に示すとともに,厚さ,密度,裂断長,曲げ強度,発煙係数及び不燃性をそれぞれ測定し,その結果を表1に示した。次に,シ-トAを熱プレスにて加熱処理(温度175℃,圧力5kg/cm2 ,時間3分)した後の厚さ,密度,裂断長,曲げ強度,発煙係数及び不燃性をそれぞれ測定し,その結果を表1に併せて示した。
【0040】実施例2
実施例1において,フェノ-ル樹脂aに代えて,キュラストメ-タによる175℃での硬化速度が0.53kg/分であるフェノ-ル樹脂(以下,フェノ-ル樹脂bと略称する。)を用いた以外は実施例1と同様にしてシ-トBを得た。」
(2f)「【0048】実施例7実施例1において,フェノ-ル樹脂aとフェノ-ル樹脂bをフェノ-ル樹脂a/フェノ-ル樹脂b=1/1なる固形分重量比率で配合した以外は実施例1と同様にしてシ-トJを得た。シ-トJについて,各成分の含有率を表1に示すとともに,厚さ,密度,裂断長,曲げ強度,発煙係数及び不燃性をそれぞれ測定し,その結果を表1に示した。次にシ-トJを実施例1と同様にして熱プレスにて加熱処理した後の厚さ,密度,裂断長,曲げ強度,発煙係数及び不燃性をそれぞれ測定し,その結果を表1に併せて示した。」
(2g)【0054】の【表1】には,実施例7について,含水無機化合物51.7重量%,炭酸塩23.7重量%,セルロース繊維10.3重量%,無機繊維5.2重量%,熱硬化性樹脂9.1重量%含有し,その熱プレス処理後のシートの測定結果として,厚さ4.10mm,曲げ強度193kg/cm2と記載されている。したがって,含水無機化合物+炭酸塩=75.4重量%,曲げ強度19.3MPaとなる。
また,刊行物2の含水無機化合物等の量は,記載(2a)で固形分で重量%が記載されていることからみて,【表1】に記載されたものも同様に固形分での重量%であると認められる。

上記記載(2a)?(2g)の記載からみて,刊行物2には,以下の発明が記載されているものと認められる。

「含水無機化合物と炭酸塩を固形分で合計75.4重量%と,セルロース繊維を固形分で10.3重量%と,無機繊維を固形分で5.2重量%と,熱硬化性樹脂を固形分で9.1重量%とを含有し,熱プレスにて加熱処理した不燃シートであって,曲げ強度(JIS A-5907による)が19.3MPaであり,厚さが4.10mmである,建築物用不燃性基材の不燃成形体。」(以下,「刊行物2記載の発明」という。)

3 本願発明と刊行物2記載の発明との対比
刊行物2記載の発明と本願発明とを対比すると,
刊行物2記載の発明の「熱プレスにて加熱処理した不燃シート」は,本願発明の「シート状熱圧成形体」に相当し,
刊行物2記載の発明の「含水無機化合物と炭酸塩」は,本願発明の「吸熱分解性を有する無機化合物」に相当する。
また,刊行物2記載の発明の「建築物用不燃性基材の不燃成形体」と,本願発明の「床仕上げ材用基材」とは,「建材」で共通している。
さらに,「重量%」と「質量%」とは,同等とみなすことができるから,吸熱分解性を有する無機化合物について,刊行物2記載の発明の「75.4重量%」は本願発明の「50?90質量%」の範囲内にあり,以下同様に,
セルロース繊維について,「10.3重量%」は「2?17質量%」の範囲内に,
無機繊維について,「5.2重量%」は「2?20質量%」の範囲内に,
熱硬化性樹脂について,「9.1重量%」は「5?20質量%」の範囲内にある。
また,曲げ強さについて,刊行物2記載の発明の「19.3MPa」は,本願発明の「19MPa以上」の範囲内である。刊行物2記載の発明の曲げ強さには「繊維配向方向及びこれと直角をなす方向について測定して両者の平均を求めた」との記載はないが,同じ出願人の出願であることからみて,同様に測定したものと認められる。そして,曲げ強度(JIS A-5907による)と,曲げ強度(JIS A-5905による)に実質的な違いはないと認められるから,刊行物2記載の発明の曲げ強度は,本願発明の曲げ強度の範囲内であるといえる。

したがって,両者は,以下の点で一致している。
「吸熱分解性を有する無機化合物を固形分で合計75.重量%と,セルロース繊維を固形分で10.3重量%と,無機繊維を固形分で5.2重量%と,熱硬化性樹脂を固形分で9.1重量%とを含有したシート状熱圧成形体であって,
曲げ強度(JIS A-5907による)が19.3MPaであることを特徴とする建材。」

そして,以下の点で相違している。
<相違点2>
建材を,本願発明は,床仕上げ材用基材として用い,「撥水性付与剤を内添,含浸もしくは塗布」するのに対して,刊行物2記載の発明は,床仕上げ材用基材として用いるか否か不明であり,「撥水性付与剤を内添,含浸もしくは塗布」するかも不明である点。

<相違点3>
厚さが,本願発明は,「1?4mm」であるのに対して,刊行物2記載の発明は「4.10mm」である点。

4 判断
<相違点2について>
刊行物2記載の発明は「建築物用不燃性基材の不燃成形体」であって,記載(2d)に「用途によっては,・・・撥水剤等を含有せしめるべきことは言うまでもない。」とあるように,撥水性を求められる用途に用いることが考慮されており,建築物の中で,撥水性を求められる場所の一つとして床の表面は当業者に周知であるから,刊行物2記載の発明の建築物用不燃性基材の不燃成形体を,床仕上げ材として用い,その際に,撥水性付与剤を内添,含浸もしくは塗布することは当業者が容易に想到したことである。

<相違点3について>
刊行物2記載の発明の「4.10mm」は,本願発明の「1?4mm」に極めて近く,本願発明の「4mm」という値に臨界的意義も認められない。そうすると,「4.10mm」と「4mm」に実質的な差は認められず,厚さについて,刊行物2記載の発明の「4.10mm」は,実質的に本願発明の「1?4mm」の範囲内であるといえる。

また,本願明細書の【0044】?【0049】に記載された発明の効果に関しては,刊行物2記載の発明が,撥水剤以外は補正発明と一致する建材である以上,撥水性以外の効果は同等であると認められる。そして,撥水剤を含有させれば耐水性が向上することは当然であり,耐水性は当業者の予想の範囲内である。

したがって,本願発明は,刊行物2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

請求人は,平成23年8月29日付けの回答書において,補正案を提示して,請求項1に係る発明における曲げ強度を「21MPa以上」と限定的減縮しているが,硬い部材を傷の付きやすい床材に用いることは当業者に周知な技術事項であり,曲げ強度は硬さの指標であるから,床仕上げ材用基材として用いる際に適切な硬さを持たせ,その結果として「曲げ強度(JIS A-5905による)が21MPa以上」とすることは格別のことではなく,本願発明は,審尋で引用文献3として示された上記刊行物1を拒絶理由通知により提示して補正の機会が与えられたとしても,特許を受けることはできない。


第4 むすび
以上のとおり,本願発明は特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-13 
結審通知日 2012-02-14 
審決日 2012-03-06 
出願番号 特願2001-231424(P2001-231424)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04F)
P 1 8・ 575- Z (E04F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鉄 豊郎  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 宮崎 恭
土屋 真理子
発明の名称 床仕上げ材用基材  
代理人 鴇田 將  

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