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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09B
管理番号 1256221
審判番号 不服2011-2555  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-03 
確定日 2012-05-01 
事件の表示 特願2003-433928「道路地図」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月14日出願公開、特開2005-189713〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年12月26日の出願であって、平成22年4月21日付け拒絶理由通知に対して、同年6月28日に手続補正書及び意見書が提出され、さらに、同年8月2日付け拒絶理由通知(最後)に対して、同年10月4日付けで意見書が提出されたが、同年11月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年2月3日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後、当審において、平成23年11月30日付けで拒絶の理由(最初)を通知したところ、平成24年1月27日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成22年6月28日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

「【請求項1】
地図に表示された道路について、出発点と到達点とによってコースが設定されるとともに、そのコースの途中に分岐点が設けられて、該分岐点と上記到達点とは異なる別の到達点とによって別のコースが設定され、さらに上記出発点から各到達点への進行方向に沿って、上り坂と下り坂とが異なる色で表示されていることを特徴とする道路地図。」

第3 引用文献に記載の事項
当審の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平7-85397号公報(以下「引用文献1」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。

1 「【請求項1】 自車の位置を検出する手段と、その検出された位置にもとづいて、記憶媒体から読み出された地図情報にしたがって画面に写し出されている道路地図上に自車の現在位置を表示する手段と、バッテリの残容量を検出する手段と、その検出されたバッテリの残容量にもとづいて、記憶媒体から読み出された道路地図上における各道路の地形情報にしたがい、所定の地形による道路を走行するときのバッテリの電力消費量から車両の走行可能距離を求める手段と、その求められた車両の走行可能距離にもとづいて、自車の現在位置からみた走行可能範囲を道路地図上に表示する手段とをとるようにした電気自動車用表示装置。」

2 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電気自動車のバッテリの残容量に応じた走行可能範囲を道路地図上に自車の現在位置とともに表示するようにした電気自動車用表示装置に関する。」

3 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】解決しようとする問題点は、電気自動車におけるバッテリの残容量を検出して、その検出されたバッテリの残容量をメータ表示させるだけでは、そのバッテリの残容量によってあとどの程度の距離を走行できるのかを運転者に明確に把握させることができないことである。
【0005】また、電気自動車におけるバッテリの残容量を検出して、その検出されたバッテリの残容量にもとづいて、車両走行にともなうバッテリの電力消費量から車両の走行可能距離を求めて、その求められた車両の走行可能距離にしたがって、自車の現在位置からみた走行可能範囲を道路地図上に表示するようにすることが考えられるが、特に、電気自動車の場合にあっては、平坦な道路走行時と登坂走行時とではバッテリの消費電力が大きく異なリ、また、坂道の勾配によってもバッテリの消費電力が大きく異なり、バッテリの残容量が少ないと瞬時に出力できる電流値が制限されて通常登坂できる坂道でも登坂できなくなってしまい、バッテリの残容量だけから車両の走行可能距離を一率に求めることができないという問題がある。」

4 「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、自車の現在位置からみた走行可能範囲を道路地図上に表示するに際して、バッテリの残容量に応じた車両の登坂能力を考慮した走行可能範囲を設定することができるように、特に、記憶媒体に道路地図上における各道路の地形情報を記憶しておき、検出されたバッテリの残容量にもとづいて、その記憶媒体から読み出された道路地図上における各道路の地形情報にしたがい、所定の地形による道路を走行するときのバッテリの電力消費量から車両の走行可能距離を求めて、その求められた車両の走行可能距離にもとづいて自車の現在位置からみた走行可能範囲を道路地図上に表示するようにしている。」

5 「【0007】
【実施例】図1は本発明による電気自動車用表示装置の一構成例を示すもので、車両の走行距離を検出する距離検出器1と、車両の進行方向を検出する方向検出器2と、道路地図の情報および各道路の地形情報が格納されている地図情報記憶媒体(CD-ROM)3から地図情報および対応する地形情報を選択的に読み出す記憶情報再生装置4と、電気自動車のバッテリ残容量を検出するバッテリ残容量検出装置5と、操作装置6からの入力指令にしたがい、各検出信号を読み込んで所定の演算処理を行うとともに、各部の制御をなして、表示装置7の画面に写し出された道路地図上に自車の現在位置およびその位置からみた自車の走行可能範囲を表示させるマイクロコンピュータからなる信号処理装置8とによって構成されている。」

6 「【0011】そして、信号処理装置8は、図2に示すように、画面に写し出されている道路地図上に、その表示縮尺率に応じて、車両の現在位置Pおよびその位置における車両の進行方向Dのマーク表示を車両の走行状態に追従して更新的になしていく。
【0012】信号処理装置8は、バッテリ残容量検出装置5によって検出されたバッテリ残容量を読み込んで、その検出されたバッテリ残容量がしきい値以下になっているときには、予め設定されている車両走行にともなうバッテリの電力消費量から、検出されたバッテリの残容量によって走行可能な距離を算出する。そして、図3に示すように、その算出された走行可能距離を画面上にデジタル表示するとともに、その走行可能距離に応じて、画面に写し出されている道路地図上に自車の現在位置Pを中心とする円によって走行可能範囲Aを簡便に表示する。
【0013】また、操作装置6からバッテリの残容量に応じた車両の登坂能力を考慮した詳細な走行可能範囲の表示指令が与えられたときには、信号処理装置8は、検出されたバッテリの残容量にもとづいて、地図情報記憶媒体3から読み出された道路地図上における各道路の地形情報から各道路の勾配を求めて、その各勾配をもった道路を走行するときのバッテリの電力消費量から車両の走行可能距離を求めて、その求められた車両の走行可能距離にもとづいて、自車の現在位置からみた道路上における走行可能範囲を道路地図上に表示する。
【0014】地形情報としては、道路地図上における各道路の標高または勾配などの情報が地図情報記憶媒体3に道路地図の情報とともに、あるいは専用の記憶媒体に別途記憶されている。
【0015】図4に、信号処理装置8におけるバッテリの残容量に応じた車両の登坂能力を考慮した走行可能範囲の表示を行わせるための処理の一例を示している。
【0016】ここでは、まず、検出されたバッテリの残容量から瞬時消費可能電流Icを求め、その求められた瞬時消費可能電流Icから最大登坂可能角度θaを予め設定された関数f(Ic)にしたがって算出する。
【0017】
θa=f(Ic) …(1)
【0018】そして、地図上の現在位置Pからみた車両の進行方向を優先させて、その進行方向の道路を1番目の処理対象のルートとしたうえで、その道路における進行方向の単位距離Δx分の道路勾配θrを、地形情報としての標高データh(x)をもとに算出する。
【0019】
【数1】
θr=Tanθ^(-1)[{h(x+Δx)-h(x)}/Δx] …(2)
【0020】次いで、θa≦θrかどうかの判定を行い、そうであれば進行方向の単位距離Δx分を走行するのに要する電力消費量ΔQを算出する。
【0021】そして、進行方向の単位距離Δx分ごとの電力消費量Qを累積的に求めていきながら、その都度Q≦Qb(Qbはバッテリの残容量)かどうかの判定を行い、そうであればΔx分を累積的に加算していって、そのルートにおける走行可能距離を算出する。
【0022】次に、地図上の現在位置Pからみた車両の進行方向の道路から分岐する1つの道路を含むルートを2番目の処理対象として、同様の処理をくり返し行って、そのルートにおける走行可能距離を算出する。
【0023】以下同様に、地図上の現在位置Pからみた車両の進行方向の道路から分岐する他の道路を含むルートにおける走行可能距離の算出が終了したら、今度は地図上の現在位置Pからみた車両の進行方向とは逆方向の道路を処理対象のルートとしたうえで、そのルートにおける走行可能距離を算出する。そして、地図上の現在位置Pからみた車両の進行方向とは逆方向の道路から分岐する各道路を含むルートにおける走行可能距離をそれぞれ順次算出する。
【0024】各ルートにおける走行可能距離が算出されたら、信号処理装置8は、例えば、図5に示すように、車両の現在位置Pにつながる各ルートの走行可能距離にしたがって、地図の各道路上に自車の現在位置Pからみた走行可能範囲Aを表示する。」

7 「【0025】ここで、○に1(当審注:審決では丸付き数字を表記できないので、このように記した。以下同じ。)、○に2、○3・・・は走行可能距離が算出されていくルートの順番を示しており、例えば、ルート(○に2)では上り坂U1の勾配が急で登坂できない場合を示し、ルート(○に3)は比較的勾配の緩やかな上り坂U2を越えるために走行可能距離が平坦なルート(○に1)よりも短くなっている場合を示し、ルート(○に5)では上り坂U3の途中までしか登坂できない場合を示し、また、ルート(○に6)では下り坂D1があるために走行可能距離が平坦なルートよりも長くなっている場合を示している。
【0026】走行可能範囲Aの表示を行う際、全てのルートについての走行可能距離の算出が完了してから走行可能範囲Aを表示するのでは、その処理に時間を要して表示が遅くなるので、信号処理装置8は、各ルートの走行可能距離が優先度をもって順次算出されていくごとに、各対応するルートにおける走行可能範囲を部分的に表示していき、最終的に全てのルートを含む全体の走行可能領域Aが表示されるようにする。
【0027】それにより、運転者は、まず自車が進みたい方向における走行能力を直ちに知ることができるようになる。
【0028】地図情報記憶媒体3には道路地図上における各給電所の位置データが登録されており、信号処理装置8の制御下において、走行可能範囲A内にある給電所の位置のデータが読み出されて、図5に示すように、その走行可能範囲A内にある給電所ESの表示がなされる。
【0029】その際、信号処理装置8の制御下において、現在位置Pから最も電力消費量が少ない経路を通つて給電所まで行けることができるための誘導がなされる。
【0030】信号処理装置8は、道路地図のデジタルデータにもとづいて、図6に示すように、走行可能範囲内に複数の給電所ES1,ES2がある場合、現在位置Pと各給電所ES1,ES2との間の距離をそれぞれ算出して、現在位置Pから最短距離にある給電所ES1を選択し、現在位置Pからその選択された給電所ES1に至るまでの全ての経路を抽出する。そして、各経路を走行するのに要する電力消費量を前述と同様にしてそれぞれ算出し、そのうち電力消費量が最も少ない経路を選択し、その選択された経路を輝度変調や特定のカラーによって表示するなどして誘導表示する。」

8 「【0041】
【発明の効果】以上、本発明による電気自動車用表示装置にあっては、自車の現在位置からみたバッテリの残容量に応じた走行可能範囲を道路地図上に表示するに際して、道路地図上における各道路の地形情報にしたがい、所定の地形による道路を走行するときのバッテリの電力消費量から車両の走行可能距離を求めて、その求められた車両の走行可能距離にもとづいて走行可能範囲を決定するようにしているので、バッテリの残容量に応じた車両の登坂能力を考慮した適切な走行可能範囲を設定することができるという利点を有している。」

9 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による電気自動車用表示装置の一実施例を示すブロック構成図である。
【図2】画面に写し出された道路地図上に自車の現在位置が表示されている状態を示す図である。
【図3】画面に写し出された道路地図上に自車の現在位置を中心とする円によって走行可能範囲を表示した状態を示す図である。
【図4】バッテリ残容量に応じた走行可能範囲の表示を行わせるための処理のフローを示す図である。
【図5】道路の地形を参酌したときの自車の現在位置からみた走行可能範囲の表示状態の一例を示す図である。
【図6】給電所への誘導表示の一例を示す図である。
【図7】給電所への誘導表示の処理のフローを示す図である。
【図8】現在のバッテリ残容量に応じた走行可能範囲内にある給電所で給電したあとの走行可能範囲を表示した状態を示す図である。
【図9】画面の全面にメータ表示がなされている状態を示す図である。
【図10】画面の隅にメータ表示がなされている状態を示す図である。
【図11】入力操作に応じた画面切換えの処理のフローを示す図である。
【図12】バッテリの残容量がしきい値以下になったときの画面の強制的な切換えの処理のフローを示す図である。
【図13】音楽ソフト情報を画面に表示した状態を示す図である。」

10 上記6の「【0020】次いで、θa≦θrかどうかの判定を行い、そうであれば進行方向の単位距離Δx分を走行するのに要する電力消費量ΔQを算出する。
【0021】そして、進行方向の単位距離Δx分ごとの電力消費量Qを累積的に求めていきながら、その都度Q≦Qb(Qbはバッテリの残容量)かどうかの判定を行い、そうであればΔx分を累積的に加算していって、そのルートにおける走行可能距離を算出する。」との記載及び 上記7の「ルート(○に2)では上り坂U1の勾配が急で登坂できない場合を示し、ルート(○に3)は比較的勾配の緩やかな上り坂U2を越えるために走行可能距離が平坦なルート(○に1)よりも短くなっている場合を示し、ルート(○に5)では上り坂U3の途中までしか登坂できない場合を示し、また、ルート(○に6)では下り坂D1があるために走行可能距離が平坦なルートよりも長くなっている場合を示している。」との記載から、進行方向の単位距離Δx分を走行するのに要する電力消費量ΔQの大きさは、上り坂>平坦>下り坂の順となり、電気自動車に対する負荷は上り坂では大きく、下り坂では小さくなる。

11 上記6、7及び図5から、以下の事項が読み取れる。
(1)道路地図上には、走行可能範囲、車両の現在位置及び車両の進行方向表示されていること。

(2)現在位置から到達することのできる道路上の限界点(以下「到達可能点」という。)として、以下の6箇所あること。
ア 現在位置から車両の進行方向の到達可能点に至るルート(以下「第1ルート」という。)。

イ 現在位置から車両の進行方向の交差点から左右に分岐する道路の、それぞれの到達可能点に至るルート(以下「第2ルート」及び「第3ルート」という。)。

ウ 現在位置から車両の進行方向の逆方向の到達可能点に至るルート(以下「第4ルート」という。)。

エ 現在位置から車両の進行方向の逆方向の交差点から左右に分岐する道路の、それぞれの到達可能点に至るルート(以下「第5ルート」及び「第6ルート」という。)。

(3)走行可能距離は、上り坂の勾配が急で登坂できない第2ルートが最も短く表示され、上り坂の途中までしか登坂できない第5ルートが次に短く表示され、下り坂がある第6ルートが最も長く表示されていること。

12 上記記載から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「電気自動車のバッテリの残容量に応じた車両の登坂能力を考慮した適切な走行可能範囲を自車の現在位置とともに表示装置の画面に写し出された道路地図であって、
走行可能範囲は、
検出されたバッテリの残容量にもとづいて、地図情報記憶媒体から読み出された道路地図上における各道路の地形情報から各道路勾配を求めて、その各勾配をもった道路を走行するときのバッテリの電力消費量から車両の走行可能距離を求めて、その求められた車両の走行可能距離にもとづいて、自車の現在位置からみた道路上における走行可能な範囲であり、
道路地図上には、
走行可能範囲、車両の現在位置及び車両の進行方向が表示され、
現在位置から車両の進行方向の到達可能点に至る第1ルートと、
現在位置から車両の進行方向の交差点から左右に分岐する道路の、それぞれの到達可能点に至る第2ルート及び第3ルートと、
現在位置から車両の進行方向の逆方向の到達可能点に至る第4ルートと、
現在位置から車両の進行方向の逆方向の交差点から左右に分岐する道路の、それぞれの到達可能点に至る第5ルート及び第6ルートとが、表示され、
走行可能距離は、
上り坂の勾配が急で登坂できない第2ルートが最も短く表示され、上り坂の途中までしか登坂できない第5ルートが次に短く表示され、下り坂がある第6ルートが最も長く表示された、
表示装置の画面に写し出された道路地図。」

第4 対比
1 本願発明と引用発明との対比
(1)引用発明の「道路地図」が本願発明の「地図」及び「道路地図」に相当し、同様に、
「道路」が「道路」に、
「現在位置」が「出発点」に、
「到達可能点」が「到達点」に、
「ルート」が「コース」に、
「交差点」が「分岐点」に、それぞれ、相当する。

(2)引用発明の「道路地図」を見た者は、現在位置と各到達可能点とを結ぶ各道路を「車両の走行できる道路」として認識できるから、「出発点と到達点とによってコースが設定されている」といえるので、引用発明の「第6ルート」は本願発明の「そのコース」に相当する。
また、引用発明の、第6ルート(そのコース)の途中にある交差点(分岐点)から第5ルートの到達可能点に至るルートは、分岐点とそのコースの到達点とは別の到達点とによってコースが設定されているといえる。
したがって、引用発明と本願発明とは、
「地図に表示された道路について、出発点と到達点とによってコースが設定されるとともに、そのコースの途中に分岐点が設けられて、該分岐点と上記到達点とは異なる別の到達点とによって別のコースが設定され」ている点で一致する。

(3)ア 引用発明の「走行可能距離」は、地図情報記憶媒体から読み出された道路地図上における各道路の地形情報から各道路勾配を求めて、その各勾配をもった道路を走行するときのバッテリの電力消費量から求められるものであるから、電気自動車に対する負荷は「上りの勾配が急で登坂できない第2ルート」が最も大きく、「下り坂がある第6ルート」が最も小さいことになり、各ルートの長短が、そのルートを走行する際の電気自動車に対する負荷の大小を示していることになる。
したがって、引用発明の「道路地図」は、出発点から各到達可能点への進行方向に沿って、負荷が分かるように表示されているといえる。

イ 一方、本願明細書には、以下の事項が記載されている。
(ア)【0012】
その他のサイクリングコースについてもその勾配に応じて上記と同様な表示が付してあり、したがって使用者は、各分岐点9において自分の疲れ具合等を勘案して、赤の多いコースや青の多いコースを容易に選択することができる。
【0013】
なお、上記実施例では上り坂の勾配と下り坂の勾配とを同一レベルで設定してあるが、サイクリングの場合、下り坂よりも上り坂の勾配の方が重要である。このような場合、上り坂についてはより細かく勾配を分けて4種以上の色で表示してもよい、他方、下り坂DW3、DW2、DW1については、一種類のみの下り坂で表示してもよい。
【0014】
また上記実施例は、一般道路を利用したサイクリングコースについて説明したが、これに限定されるものではなく、サイクリング専用コースであっても、或いは登山道であってもよい。
特に登山道の場合には、山頂を到着点、複数の登山コースの各登山口を出発点として進行方向を決めることが望ましい。このように設定すれば、どの登山コースが楽なコースなのか、一目で理解することができるようになる。

(イ)上記(ア)の記載からして、
本願発明において、進行方向に沿って、上り坂と下り坂とを異なる色で表示するのは、サイクリングコースや登山コース等における負荷を把握するためのものであると解される。

ウ してみれば、引用発明と本願発明とは「出発点から各到達点への進行方向に沿って、負荷が分かるように表示されている」点で共通する。

(4)以上のことから、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「地図に表示された道路について、
出発点と到達点とによってコースが設定されるとともに、そのコースの途中に分岐点が設けられて、該分岐点と上記到達点とは異なる別の到達点とによって別のコースが設定され、
かつ、出発点から各到達点への進行方向に沿って、負荷が分かるように表示されている、
道路地図。」

(5)一方で、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
<相違点>
負荷表示に関し
本願発明が「上り坂と下り坂とが異なる色で表示されている」のに対して、
引用発明では、そのような負荷表示ではない点。

第5 判断
1 <相違点>についての検討
ア 引用発明において、各コース(ルート)の走行可能距離が異なる原因が、道路勾配の違い、つまり、進行方向における上り坂や下り坂の有無及びその長短(以下「上り坂/下り坂の情報」という。)であることは、当業者にとって明らかである。
また、自動車を運転する際に、「上り坂/下り坂の情報」が有用であることも、当業者にとって周知の事実である(例えば、以下の文献を参照。
(ア)特開2002-195841号公報の【0011】、【0012】及び図1を参照。
これから走行する道路の地形情報を前もって知ることができるので、その道路地形に適した運転走行をすることのできる旨記載されている。

(イ)特開平8-247777号公報の【0003】、【0044】ないし【0049】を参照。
走行前に道路の勾配が判っていれば車両の性能に合った道路を選んで走行できる旨記載されている。
以下「周知事実」という。)。

イ ところで、引用文献1の【0019】ないし【0023】には、地形情報としての標高データh(x)をもとに、道路勾配θrを、
θr=Tanθ^(-1)[{h(x+Δx)-h(x)}/Δx]の式から算出して、各ルートの走行可能距離を求める旨記載されていることから(摘記6を参照。)、引用発明の「道路勾配」を、各コースの「上り坂/下り坂の情報」として利用し得ることは、当業者にとって明らかである。

ウ してみれば、引用発明の「道路勾配」を利用して、各コースの走行可能距離が異なる原因である「上り坂/下り坂の情報」を道路地図を見る者に対して提供することは、上記周知事実からして充分に動機付けがあるといえる。

エ また、「地図上の道路に関する情報」を視認し易くするために、道路を色分けして表示することは、本願出願前に周知である(例えば、以下の文献を参照。
(ア)特開2003-232640号公報の【0028】を参照。
道路の標高に応じて着色する色にグラデーション表示を行う旨記載されている。
(イ)特開2003-148982号公報の【0115】ないし【0122】を参照。
道路勾配に応じて異なる排出ガス量を色で表示する旨記載されている。
(ウ)特開2002-62152号公報の【0008】及び図1を参照。
道路を道路の種別によって色分けする旨記載されている。
(エ)特開平11-85013号公報の【0009】及び図1を参照。
道路を色別に表し、色の濃淡により道路の傾斜及び高低を表す旨記載されている。
(オ)特開平10-9879号公報の【0015】及び図13を参照。
道路に色付けをすることにより、注意しなければならない道路を、色の違いによって容易に認識できる旨記載されている。
(カ)実願昭62-106218号(実開昭64-10774号)のマイクロフィルムの「2.実用新案登録請求の範囲」を参照。
道路を制限速度に応じて色分けする旨記載されている。
以下「周知技術」という。)。

オ してみれば、引用発明の「道路地図」において、「上り坂/下り坂の情報」を地図を見る者が視認し易いように、色分けして表示することは、当業者が上記周知技術に基づいて適宜なし得た設計事項である。

カ 上記オのようにした引用発明においては、
そのコース(第6ルート)の下り坂と別のコース(第6ルートの途中にある交差点から第5ルートの到達可能点に至るルート)の上り坂が色分けして表示されることになるので、結果として、上記相違点に係る本願発明の構成を備えることになる。

キ 本願発明の効果も、当業者が引用発明の奏する効果、周知事実及び周知技術の奏する効果から予測し得た範囲内のものである。

2 まとめ
以上のことから、引用発明において、上記<相違点>に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が周知事実及び周知技術に基づいて容易になし得たことである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献1に記載された発明、周知事実及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-02 
結審通知日 2012-03-06 
審決日 2012-03-19 
出願番号 特願2003-433928(P2003-433928)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 東 治企
星野 浩一
発明の名称 道路地図  
代理人 神崎 真一郎  

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