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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G09F
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  G09F
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  G09F
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  G09F
審判 全部無効 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  G09F
管理番号 1256633
審判番号 無効2011-800140  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-08-05 
確定日 2012-04-23 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4021925号発明「電子機器表示窓の保護パネル及び保護パネルの製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4021925号の請求項1ないし10に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴った平成17年2月17日(優先日、平成16年2月20日)を国際出願日とする特願2006-510216号に係り、平成19年8月23日付け手続補正によって補正された願書に添付された明細書及び特許請求の範囲並びに図面の内容について、特許第4021925号として平成19年10月5日に設定登録されたものである。
本件特許無効審判事件は、請求人 菊井 俊一(以下単に「請求人」という。)が、「本件特許の請求項1?10に係る発明についての特許を無効とする。審判請求費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」として、平成23年8月5日に請求したものであって、当該審判請求後の手続は以下のとおりである。

答弁書の提出、訂正請求 平成23年10月25日

弁駁書の提出 平成23年12月 2日

口頭審理陳述要領書の提出(請求人) 平成24年 1月25日

口頭審理陳述要領書の提出(被請求人) 平成24年 1月26日

第1回口頭審理 平成24年 2月 9日


第2 平成23年10月25日付け訂正請求について

平成23年10月25日付け訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の適否について、以下に検討する。

1 本件訂正請求の内容
本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲ついて、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。

訂正事項(A)【請求項10】において、
「複数のタッチパネル(14)を形成して、大判透明保護板(24)を構成し、」
という発明特定事項を追加する。

訂正事項(B)【請求項10】において、訂正前の、
「前記加飾領域よりも大きい面積を有する大判透明保護板(24)に、前記大判加飾フィルム(23)を、前記加飾部が大判透明保護板の表面と対向する方向となるように貼り合わせ、」

「前記大判透明保護板(24)に、前記大判加飾フィルム(23)を、前記加飾部が前記大判透明保護板(24)の表面と対向する方向となり、且つ、前記大判透明保護板(24)が前記大判加飾フィルム(23)との重複部分に含まれるすべての前記加飾領域よりも大きい面積を有するように、貼り合わせ、」
と訂正する。

訂正事項(C)【請求項10】において、訂正前の、
「前記透明窓部(3)の外側位置かつ加飾領域(26)の内側位置において、前記貼り合わされた大判加飾フィルム(23)と前記大判透明保護板(24)を一体的に切断して保護パネルを得る」

「前記透明窓部(3)の外側位置かつ加飾領域(26)の内側位置において、前記貼り合わされた大判加飾フィルム(23)と前記大判透明保護板(24)を一体的に切断して可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備えるタッチパネル(14)で構成された透明保護板(4)の表面に、前記可動電極フィルム側から加飾フィルム(7)が積層された保護パネルを得る」
と訂正する。

2 本件訂正請求の訂正の目的
上記訂正事項(A)?(C)は、請求項10において、「大判透明保護板(24)」を得る工程に関して、「複数のタッチパネル(14)を形成」するものに限定し、「大判透明保護板(24)」と「大判加飾フィルム(23)」の貼り合わせ工程に関して、「前記大判透明保護板(24)が前記大判加飾フィルム(23)との重複部分に含まれるすべての前記加飾領域よりも大きい面積を有する」ものと限定し、製造される「保護パネル」に関して、「可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備えるタッチパネル(14)で構成された透明保護板(4)の表面に、前記可動電極フィルム側から加飾フィルム(7)が積層された保護パネル」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、上記訂正事項(A)?(C)は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

3 新規事項の追加の有無について
上記訂正事項(A)?(C)が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であるかどうかについて検討する。

3-1 本件特許明細書等の記載事項
本件特許明細書等には、以下のとおりの記載事項(ア)?(カ)がある。

(ア)「【0015】
本発明の第9態様によれば、透明保護板は、前記加飾フィルムと積層された可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備えるタッチパネルで構成されている、第1から第8態様のいずれか1つの電子機器表示窓の保護パネルを提供する。」

(イ)「【0016】
本発明の第10態様によれば、電子機器のケーシング表示窓用開口部分に設けられたディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を保護する前記表示窓用開口に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルの製造方法であって、
前記ハードコートフィルムの一方の表面の一部に薄膜状に形成された加飾部を有する窓形成層を備え、前記加飾部が設けられていない部分が前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に透過させる透明窓部として形成される加飾領域を複数形成して、大判加飾フィルムを作成し、
前記加飾領域よりも大きい面積を有する大判透明保護板に、前記大判加飾フィルムを、前記加飾部が大判透明保護板の表面と対向する方向となるように貼り合わせ、
前記透明窓部の外側位置かつ加飾領域の内側位置において、前記貼り合わされた大判加飾フィルムと前記大判透明保護板を一体的に切断して保護パネルを得る、電子機器表示窓の保護パネルの製造方法を提供する。」

(ウ)「【0022】
電子機器表示窓の保護パネル1は、加飾部分2及び透明窓部分3とが設けられている。保護パネルが電子機器表示窓に配置された場合には、透明窓部分3から保護パネル1の下方に設けられる液晶パネル15を視認することができる。加飾部分2は、後述するように、保護パネルの周囲に設けられた加飾部を有する窓形成層6を備えた加飾フィルム7によって形成され、加飾部が形成されていない部分が透明窓部分3として形成される。したがって、加飾フィルム7は、保護パネルの全面にわたって設けられていてもよく、保護パネルを形成する透明保護板の表面に窓形成層を有する加飾フィルム7を貼り合わせ、その後透明保護板4と加飾フィルム7とを一体的に切断することにより、作成することができる。
【0023】
例えば、図8に示すように、加飾部2が設けられている加飾領域26を複数形成したロール状の加飾フィルム23を、透明両面テープ25を用いて大判の透明保護板24に貼り合わせ、その後、貼り合わされた透明保護板と加飾フィルムとを一体的に切断することにより、作成することができる。貼り合わされた大判の透明保護板24とロール状の加飾フィルム23とを一体的に切断する位置は、透明窓部3の外側であって、加飾領域26の内側であることが好ましい。このように構成することにより、周縁部分まで加飾層2が形成された保護パネルを作成することができる。」

(エ)「【0040】
また、上記偏光板8を配置した各構成において、透明保護板4をタッチパネル14で構成してもよい(図4参照)。タッチパネルとしては、従来より広く用いられているものを用いることができ、加飾フィルム7と積層された可動電極フィルムと、間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板とを備えるものがあげられる。」

(オ)「【0046】
(実施例3)
透明保護板を下記タッチパネルとしたこと以外は、実施例2と同様とした。すなわち、厚み0.1mmのポリカーボネートフィルムの一面に厚み20nmのITO膜をスパッタリングにて全面形成し、ITO膜の周縁部分を除去して幅広の四角形状をした透明電極とした。また、透明電極の横方向に対向する二辺に配置されるバスバーと該バスバーから各々外部に出力するための引き回し回路とからなる回路を、銀ペーストをスクリーン印刷して形成した。また、縦横が上記PETフィルムと同寸法で厚み0.7mmのアクリル板を、上記ポリカーボネートフィルムの透明電極を形成した面とは反対面に厚み25μmの基材レス透明粘着剤で貼り合わせ、下側電極板を得た。また、縦横が下側電極板と同寸法で厚み125μmのポリカーボネートフィルムフィルムを用い、その一面に厚み20nmのITO膜をスパッタリングにて全面形成し、ITO膜の周縁部分を除去して幅広の四角形状をした透明電極とした。また、透明電極の縦方向に対向する二辺に配置されるバスバーと該バスバーから各々外部に出力するための引き回し回路とからなる回路を、銀ペーストをスクリーン印刷して上側電極板を得た。上記上側電極板と上記下側電極板とを電極間を隔てるように対向配置させ、フィルムコネクタの挿入部分を除く周縁で粘着糊により貼り合わせ、タッチパネルとした。」

(カ)図8

3-2 判断
(1)訂正事項(A)について
上記記載事項(ア)、(エ)、(オ)から、本件特許明細書に、「透明保護板」を「タッチパネル」で構成することが記載されていると認められる。
また、上記記載事項(イ)、(ウ)、(カ)から、複数の「透明保護板」で構成された「大判透明保護板」を用いる「保護パネル」の製造方法が記載されていると認められる。
それらの記載事項を総合すると、「大判透明保護板」を用いる製造方法において、個々の「透明保護板」を複数の「タッチパネル」で構成することは、当業者にとって自明な事項の範疇である。
なお、後述する甲9?11号証及び乙1?2号証に記載されているとおり、複数の「タッチパネル」で構成された大判の基材を用いる製造方法はごくありふれた従来技術(周知の技術)に過ぎないことからしても、上記の記載事項(ア)?(カ)に接した当業者は、当初明細書等に記載された「大判透明保護板」を用いる製造方法において、「大判透明保護板」に含まれる個々の「透明保護板」を「タッチパネル」で構成することも包摂されていることは、当然に理解するものといえる。
よって、訂正事項(A)は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

(2)訂正事項(B)について
上記記載事項(イ)、(ウ)、(カ)から、「大判透明保護板」に「大判加飾フィルム」を、「加飾部」が「大判透明保護板」の表面と対向する方向となり、且つ、「大判透明保護板」が「大判加飾フィルム」との重複部分に含まれるすべての「加飾領域」よりも大きい面積を有するように貼り合わせることが記載されていると認められる。
よって、訂正事項(B)は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

(3)訂正事項(C)について
上記記載事項(イ)、(ウ)、(カ)から、「透明窓部」の外側位置かつ「加飾領域」の内側位置において、貼り合わされた「大判加飾フィルム」と「大判透明保護板」を一体的に切断して「保護パネル」を得る製造方法が記載されていると認められる。
また、上記記載事項(ア)、(エ)、(オ)から、本件特許明細書には、「透明保護板」が「タッチパネル」で構成された「保護パネル」が記載されていると認められ、かつ、当該「タッチパネル」として、「加飾フィルム7と積層された可動電極フィルムと、間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板とを備えるもの」が記載されていると認められる。
それらの記載事項を総合すると、「透明窓部」の外側位置かつ「加飾領域」の内側位置において、貼り合わされた「大判加飾フィルム」と「大判透明保護板」を一体的に切断して「保護パネル」を得る製造方法において、個々の「透明保護板」を「可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備える」「タッチパネル」で構成することは、当業者にとって自明な事項の範疇である。
さらに、「可動電極フィルム」は「タッチパネル」の外面側に位置するものであるから、「保護パネル」の外面側に貼着される「加飾フィルム」について、「保護パネル」を構成する「タッチパネル」の「可動電極フィルム側」から積層することも、当業者にとって自明な事項の範疇である。
なお、上述のとおり、複数の「タッチパネル」で構成された大判の基材を用いる製造方法はごくありふれた従来技術(周知の技術)に過ぎないことからしても、上記の記載事項(ア)?(カ)に接した当業者は、本件特許明細書等に記載された「大判透明保護板」を用いる製造方法において、個々の「透明保護板」を上述の構造を有する「タッチパネル」で構成することも包摂されていることは、当然に理解するものといえる。

4 訂正の適否のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正の訂正事項(A)?(C)はいずれも、特許法第134条の2第1項ただし書き各号に列挙された事項を目的としており、特許法第134条の2第5項で準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。

よって、本件訂正請求による訂正を認め、以下、請求項1?9に係る発明(以下「特許発明1」?「特許発明9」という。)、及び、訂正後の請求項10に係る発明(以下「特許発明10」という。)について、請求人の主張する無効理由を検討する。

なお、以下では、訂正後の特許請求の範囲を「訂正特許請求の範囲」という。


第3 特許発明

特許発明1?10は、訂正特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
電子機器のケーシング(21)の表示窓用開口部分(22)に設けられたディスプレイ装置(15)の前記表示窓用開口(22)からの露出部分を保護する前記表示窓用開口に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルであって、
前記ディスプレイ装置(15)の前記露出部分表面に対向して設けられる透明保護板(4)と、
透明なハードコートフィルム(5)と前記ハードコートフィルムの一方の表面に薄膜状に形成された窓形成層(6)とを備え、かつ、前記窓形成層(6)の一部が、印刷層として前記ハードコートフィルムに接触するように設けられた加飾部(2)と前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に構成され前記加飾部が形成されていない部分である透明窓部(3)として形成されている加飾フィルム(7)と、
前記窓形成層(6)が透明保護板の表面側に位置するように、前記加飾フィルム(7)を前記透明保護板の前記ディスプレイ装置(15)に対向しない側の表面に積層状態に貼着する透明な貼着層(10)を有する、電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項2】
前記加飾部(2)は、前記加飾フィルム(7)の周縁に設けられ、前記透明窓部(3)は前記加飾フィルムの中央部分に形成される、請求項1に記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項3】
前記加飾フィルム(7)は、さらに、第1の低反射処理層(12)が設けられている請求項1に記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項4】
前記第1の低反射処理層(12)は、前記ハードコートフィルムの他方の表面全体に設けられている、請求項3に記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項5】
前記透明保護板は、光学等方性であり、いずれかの表面に偏光板(8)が設けられている、請求項1に記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項6】
前記偏光板(8)は、前記透明保護板(4)の前記ディスプレイ装置に対向しない側の表面に設けられている、請求項5に記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項7】
前記透明保護板(4)は、前記ディスプレイ装置に対向する側の表面に第2の低反射処理層(11)が設けられている請求項5記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項8】
前記第2の低反射処理層(11)は、λ/4板で構成されている、請求項7記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項9】
透明保護板(4)は、前記加飾フィルム(7)と積層された可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備えるタッチパネル(14)で構成されている、請求項1から8のいずれか1つに記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項10】
電子機器のケーシング表示窓用開口部分(22)に設けられたディスプレイ装置(15)の前記表示窓用開口(22)からの露出部分を保護する前記表示窓用開口(22)に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルの製造方法であって、
ハードコートフィルム(5)の一方の表面の一部に薄膜状に形成された加飾部(2)を有する窓形成層(6)を備え、前記加飾部が設けられていない部分が前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に透過させる透明窓部(3)として形成される加飾領域(26)を複数形成して、大判加飾フィルム(23)を作成し、
複数のタッチパネル(14)を形成して、大判透明保護板(24)を構成し、
前記大判透明保護板(24)に、前記大判加飾フィルム(23)を、前記加飾部が前記大判透明保護板(24)の表面と対向する方向となり、且つ、前記大判透明保護板(24)が前記大判加飾フィルム(23)との重複部分に含まれるすべての前記加飾領域よりも大きい面積を有するように、貼り合わせ、
前記透明窓部(3)の外側位置かつ加飾領域(26)の内側位置において、前記貼り合わされた大判加飾フィルム(23)と前記大判透明保護板(24)を一体的に切断して可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備えるタッチパネル(14)で構成された透明保護板(4)の表面に、前記可動電極フィルム側から加飾フィルム(7)が積層された保護パネルを得る、電子機器表示窓の保護パネルの製造方法。」

特許発明1?10は上記のとおりであるが、便宜上、その発明特定事項を以下のとおり分節し、以後、各特定事項を、〔A〕ないし〔I〕の記号で表記する。

「【請求項1】
〔A〕電子機器のケーシング(21)の表示窓用開口部分(22)に設けられたディスプレイ装置(15)の前記表示窓用開口(22)からの露出部分を保護する前記表示窓用開口に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルであって、
〔B〕前記ディスプレイ装置(15)の前記露出部分表面に対向して設けられる透明保護板(4)と、
〔C〕透明なハードコートフィルム(5)と前記ハードコートフィルムの一方の表面に薄膜状に形成された窓形成層(6)とを備え、かつ、前記窓形成層(6)の一部が、印刷層として前記ハードコートフィルムに接触するように設けられた加飾部(2)と前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に構成され前記加飾部が形成されていない部分である透明窓部(3)として形成されている加飾フィルム(7)と、
〔D〕前記窓形成層(6)が透明保護板の表面側に位置するように、前記加飾フィルム(7)を前記透明保護板の前記ディスプレイ装置(15)に対向しない側の表面に積層状態に貼着する透明な貼着層(10)を有する、
〔A’〕電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項2】
〔C1〕前記加飾部(2)は、前記加飾フィルム(7)の周縁に設けられ、前記透明窓部(3)は前記加飾フィルムの中央部分に形成される、請求項1に記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項3】
〔C2〕前記加飾フィルム(7)は、さらに、第1の低反射処理層(12)が設けられている請求項1に記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項4】
〔C3〕前記第1の低反射処理層(12)は、前記ハードコートフィルムの他方の表面全体に設けられている、請求項3に記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項5】
〔B1〕前記透明保護板は、光学等方性であり、いずれかの表面に偏光板(8)が設けられている、請求項1に記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項6】
〔B2〕前記偏光板(8)は、前記透明保護板(4)の前記ディスプレイ装置に対向しない側の表面に設けられている、請求項5に記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項7】
〔B3〕前記透明保護板(4)は、前記ディスプレイ装置に対向する側の表面に第2の低反射処理層(11)が設けられている請求項5記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項8】
〔B4〕前記第2の低反射処理層(11)は、λ/4板で構成されている、請求項7記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項9】
〔B5〕透明保護板(4)は、前記加飾フィルム(7)と積層された可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備えるタッチパネル(14)で構成されている、請求項1から8のいずれか1つに記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項10】
〔E〕電子機器のケーシング表示窓用開口部分(22)に設けられたディスプレイ装置(15)の前記表示窓用開口(22)からの露出部分を保護する前記表示窓用開口(22)に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルの製造方法であって、
〔F〕ハードコートフィルム(5)の一方の表面の一部に薄膜状に形成された加飾部(2)を有する窓形成層(6)を備え、前記加飾部が設けられていない部分が前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に透過させる透明窓部(3)として形成される加飾領域(26)を複数形成して、大判加飾フィルム(23)を作成し、
〔G〕複数のタッチパネル(14)を形成して、大判透明保護板(24)を構成し、
〔H〕前記大判透明保護板(24)に、前記大判加飾フィルム(23)を、前記加飾部が前記大判透明保護板(24)の表面と対向する方向となり、且つ、前記大判透明保護板(24)が前記大判加飾フィルム(23)との重複部分に含まれるすべての前記加飾領域よりも大きい面積を有するように、貼り合わせ、
〔I〕前記透明窓部(3)の外側位置かつ加飾領域(26)の内側位置において、前記貼り合わされた大判加飾フィルム(23)と前記大判透明保護板(24)を一体的に切断して可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備えるタッチパネル(14)で構成された透明保護板(4)の表面に、前記可動電極フィルム側から加飾フィルム(7)が積層された保護パネルを得る、
〔E’〕電子機器表示窓の保護パネルの製造方法。」


第4 請求人の主張する無効理由

1 無効理由1(特許発明1?10について)
特許発明1?10について、請求人が主張する無効理由1は、
「本件特許発明1?10は、甲第2号証?甲第11号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。」(審判請求書第4頁第13?17行)
というものであって、概略、以下のとおり主張している。

(1)特許発明1について
(1-1)甲第2号証の記載を総合すると、以下の発明が記載されているといえる。
「[甲2発明]
携帯電話100の筐体20の窓部21に設けられた液晶表示装置30の前記窓部21からの露出部分を保護する前記窓部21に嵌め込まれる携帯電話表示窓のカバーガラス1eであって、
前記液晶表示装置30の前記露出部分表面に対向して設けられるカバーガラス基材2と、
カバーガラス基材2の外面側に設けられ、外面側から順に、反射防止膜73、ハードコート膜74、基材フィルム71、粘着剤層72を有する反射防止フィルム7’と、
カバーガラス基材2の内面側に設けられ、カバーガラス基材2側から順に、粘着剤層72、基材フィルム71、反射防止膜73を有する反射防止フィルム7とからなるカバーガラス1e。」(審判請求書第8頁第2?12行)

(1-2)特許発明1と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
「[一致点]
電子機器のケーシングの表示窓用開口部分に設けられたディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を保護する前記表示窓用開口に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルであって、
前記ディスプレイ装置の前記露出部分表面に対向して設けられる透明保護板と、
透明なハードコートフィルムを備えるフィルム部材と、
前記フィルム部材を前記透明保護板の前記ディスプレイ装置に対向しない側の表面に積層状態に貼着する透明な貼着層を有する、電子機器表示窓の保護パネル。

[相違点a]
本件特許発明1では、フィルム部材が、透明なハードコートフィルム(5)と前記ハードコートフィルムの一方の表面に薄膜状に形成された窓形成層(6)とを備え、かつ、前記窓形成層(6)の一部が、印刷層として前記ハードコートフィルムに接触するように設けられた加飾部(2)と前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に構成され前記加飾部が形成されていない部分である透明窓部(3)として形成されている加飾フィルム(7)であるのに対し、甲2発明のフィルム部材(反射防止フィルム7’)は、加飾部を備えていないため、加飾フィルムとはいえない点。

[相違点b]
本件特許発明1では、前記窓形成層(6)が透明保護板の表面側に位置するように、前記加飾フィルム(7)を前記透明保護板に貼着するのに対し、甲2発明では、加飾部を備えていないため、かかる構成も有していない点。」(審判請求書第22?23頁)

(1-3)相違点aの検討
上記甲第2号証には、反射防止フィルムの変形例として、「一方の表面にハードコート膜が形成された基材フィルム71と、該ハードコート膜の外側に形成された反射防止膜73と、前記基材フィルム71のハードコート膜とは反対側の表面の外周部に印刷などの手段で形成された装飾部11と、この装飾部11を覆うようにして設けられた粘着剤層72と、を備えた反射防止フィルム7a」(審判請求書第23頁第20?25行)が記載されており、甲2発明の「反射防止フィルム7‘」に代えて、該「反射防止フィルム7a」を適用することは容易である。

(1-4)相違点bの検討
甲2発明の「反射防止フィルム7’」に代えて上記「反射防止フィルム7a」を適用した場合、粘着剤層72を介してカバーガラス基材2に貼着することになるから、必然的に「装飾部11」がカバーガラス基材2の表面側に位置することになる。
したがって、相違点aの克服が容易である以上、相違点bの克服も容易である。

(1-5)小括
以上のとおり、特許発明1は、甲第2号証に記載の発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(2)特許発明2?4について
特許発明2?4は、特許発明1と同様の理由により、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(3)特許発明5について
甲2発明に、甲第3号証及び第5号証に示される、表示装置の保護パネルに偏光板を設ける周知技術を付加することは容易である。
よって、特許発明5は、甲第2号証に記載の発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(4)特許発明6について
甲第3号証には、タッチパネル部材10のディスプレイに対向しない側の表面に偏光板20を設けることが記載されており、当該技術を甲2発明に適用することは容易である。
よって、特許発明6は、甲第2?3号証に記載の発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(5)特許発明7について
特許発明7は、特許発明5と同様の理由により、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(6)特許発明8について
甲2発明に、甲第5号証及び第7号証に示される、反射防止部材にλ/4板やλ/4膜を用いる周知技術を付加することは容易である。
よって、特許発明8は、甲第2号証に記載の発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(7)特許発明9について
甲2発明の透明保護板について、甲第3号証及び第5号証に示される周知の抵抗膜式タッチパネルに置換することに格別の困難性はない。
よって、特許発明9は、甲第2号証に記載の発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(8)特許発明10について
(8-1)甲第2号証の記載を総合すると、以下の発明が記載されているといえる。
「[甲2方法発明]
電子機器(携帯電話100)のケーシング(筐体20)の表示窓用開口部分(窓部21)に設けられたディスプレイ装置(液晶表示装置30)の前記表示窓用開口(窓部21)からの露出部分を保護する前記表示窓用開口(窓部21)に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネル(携帯電話表示窓のカバーガラス1e)の製造方法であって、
反射防止膜73、ハードコート膜74、基材フィルム71、粘着剤層72を有する反射防止フィルム7’を作成し、
透明保護板(カバーガラス基材2)に反射防止フィルム7’を貼り合わせて保護パネル(カバーガラス)を得る、電子機器表示窓の保護パネル(携帯電話表示窓のカバーガラス1e)の製造方法。」(審判請求書第33頁第20行?第34頁第3行)

(8-2)特許発明10と甲2方法発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
「[一致点]
電子機器のケーシングの表示窓用開口部分に設けられたディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を保護する前記表示窓用開口に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルの製造方法であって、
ハードコートフィルムを有するフィルム部材を作成し、
透明保護板にフィルム部材を貼り合わせて保護パネルを得る、電子機器表示窓の保護パネルの製造方法。

[相違点α]
本件特許発明10では、フィルム部材が、ハードコートフィルム(5)の一方の表面の一部に薄膜状に形成された加飾部(2)を有する窓形成層(6)を備え、前記加飾部が設けられていない部分が前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に透過させる透明窓部(3)として形成される加飾領域(26)を複数形成して作成された大判加飾フィルムであるのに対し、甲2方法発明では、反射防止膜73、ハードコート膜74、基材フィルム71、粘着剤層72を有する反射防止フィルム7’であって、加飾フィルムでない上、大判に形成されているか否か不明である点。

[相違点β]
本件特許発明10では、加飾領域よりも大きい面積を有する大判透明保護板(24)を予め形成しておくのに対し、甲2方法発明では、カバーガラス基材2が大判に形成されているか否か不明である点。

[相違点γ]
本件特許発明10では、大判透明保護板(24)に、前記大判加飾フィルム(23)を、前記加飾部が大判透明保護板の表面と対向する方向となるように貼り合わせるのに対し、甲2方法発明では、かかる構成を有しない点。

[相違点δ]
本件特許発明10では、前記透明窓部(3)の外側位置かつ加飾領域(26)の内側位置において、前記貼り合わされた大判加飾フィルム(23)と前記大判透明保護板(24)を一体的に切断して保護パネルを得るのに対し、甲2方法発明では、かかる構成を有しない点。」(審判請求書第34頁第7行?第35頁第12行)

「[相違点ε]
本件特許発明10では、大判透明保護板(24)を複数の抵抗膜式タッチパネル(14)から構成しているのに対し、甲2方法発明では、かかる構成を有しない点。」(審判事件弁駁書第8頁第17?20行)

(8-3)相違点αの検討
上記「(1-3)」で述べたとおり、甲第2号証には、反射防止フィルムの変形例として、「反射防止フィルム7a」が記載されており、甲2発明の「反射防止フィルム7’」に代えて「反射防止フィルム7a」を用いることは容易である。
また、甲第6号証ないし第8号証に示すとおり、そもそも、製品を多数個取りするためにフィルムを大判に形成しておくことは周知の方法であり、予め「反射防止フィルム7a」を大判に形成しておくことは、当業者であれば適宜なし得たことに過ぎない。
よって、相違点αに係る特許発明10の構成は容易に想到し得たことである。

(8-4)相違点βの検討
甲第6号証ないし第8号証に示すとおり、予め透明保護板を大判に形成しておくことは周知の方法であり、この場合、加飾領域よりも大きい面積を有することになるのは当然である。
よって、相違点βに係る特許発明10の構成は容易に想到し得たことである。

(8-5)相違点γの検討
この点は、甲2発明に「反射防止フィルム7a」を適用すれば必然的に達成される構成であり、格別のものとはいえない。
よって、相違点γの構成も容易に想到し得たことである。

(8-6)相違点δの検討
甲第8号証には、透明窓部の外側位置かつ加飾領域の内側位置において大判のシートを打ち抜くことが記載されている。
また、甲第6号証ないし第8号証に示すとおり、多数個取りするために大判のパネルを切断して個々の保護パネルを得ることは周知の方法であり、その際、透明窓部の外側位置かつ加飾領域の内側位置において切断することになるのは当然のことである。
よって、相違点δに係る構成は格別のものではなく、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(8-7)相違点εの検討
甲第3号証及び第5号証に示すとおり、タッチパネルとして、可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備える抵抗膜式タッチパネルは周知である。
また、甲第5号証には、透明保護板自体を抵抗膜式タッチパネルで構成することが記載されている。
さらに、甲第6号証ないし第8号証に示すとおり、そもそも製品を多数個取りするために保護パネルの基材を大判に形成しておくことは周知の方法であり、また、甲第9号証ないし第11号証に示すとおり、大判に形成された透明保護板を複数の抵抗膜式タッチパネルからなるように構成しておくこと、及び、それを切断して個々の抵抗膜式タッチパネルを得ることも周知の方法である。
そうすると、甲2方法発明の透明保護板を大判に形成しておくこと、及び、このようにして大判に形成された透明保護板を複数の抵抗膜式タッチパネルからなるように構成しておくことは、当業者であれば容易になし得たことである。
したがって、相違点εに係る特許発明10の構成に想到することは容易である。

(8-8)小括
以上のとおり、特許発明10は、甲第2号証に記載の発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。


2 無効理由2(特許発明10について)
特許発明10について、請求人が主張する無効理由2は、
「本件特許発明10は、特許法第36条第4項第1号並びに同条第6項第1号及び第2号の要件に違反するものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。」(審判請求書第4頁第18?22行)
というものであって、概略、以下のとおり主張している。

本件訂正請求による訂正後の請求項10には、大判透明保護板(24)を複数の抵抗膜式タッチパネル(14)から構成した場合に、抵抗膜式タッチパネル(14)の内部構造と「加飾部2が設けられている加飾領域26」との関係について何ら限定されていないため、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないものである。
また、本件特許明細書には、大判透明保護板(24)を複数の抵抗膜式タッチパネル(14)から構成した場合について何ら記載されていないから、特許発明10は、発明の詳細な説明によって何ら裏付けられていないものである。
さらに、本件特許明細書には、大判透明保護板(24)を複数の抵抗膜式タッチパネル(14)から構成するに当たって、どのようにしてそれを実施するかについて何ら記載されていない。したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないものである。
以上のとおり、特許発明10は、《1》請求項の記載が不明確であり、《2》発明の詳細な説明によって十分に裏付けられておらず、《3》発明の詳細な説明にその実施ができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるから、明確性要件、サポート要件及び実施可能要件違反の各無効理由を有するものである。

3 請求人の提示した証拠方法
請求人が提示した証拠方法は以下のとおりである。

甲第1号証:特許第4021925号公報(本件特許公報)、

甲第2号証:特開2001-290005号公報、

甲第3号証:特開2003-36143号公報、

甲第4号証:特開2000-267192号公報、

甲第5号証:特開2002-72214号公報、

甲第6号証:特開2003-255847号公報、

甲第7号証:特開2003-270403号公報、

甲第8号証:特表2002-522966号公報、

甲第9号証:特開2002-116882号公報、

甲第10号証:特開平11-191341号公報、

甲第11号証:特開平5-61606号公報


第5 被請求人の主張

1 無効理由1について
請求人の主張する無効理由1について、被請求人は、以下のとおり主張している。

[1]特許発明1(及び4)について
「A 本特許の請求項1に係る発明について
まず、請求項1に係る電子機器表示窓の保護パネルは、
(a)電子機器のケーシング(21)の表示窓用開口部分(22)に設けられたディスプレイ装置(15)の前記表示窓用開口(22)からの露出部分を保護する前記表示窓用開口に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルであって、
(b)前記ディスプレイ装置(15)の前記露出部分表面に対向して設けられる透明保護板(4)と、
(c)透明なハードコートフィルム(5)と前記ハードコートフィルムの一方の表面に薄膜状に形成された窓形成層(6)とを備え、かつ、前記窓形成層(6)の一部が、印刷層として前記ハードコートフィルムに接触するように設けられた加飾部(2)と前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に構成され前記加飾部が形成されていない部分である透明窓部(3)として形成されている加飾フィルム(7)と、
(d)前記窓形成層(6)が透明保護板の表面側に位置するように、前記加飾フィルム(7)を前記透明保護板の前記ディスプレイ装置(15)に対向しない側の表面に積層状態に貼着する透明な貼着層(10)を有する、
電子機器表示窓の保護パネル。
と分節することができる。
さらに、詳細にみると、請求項1に係る電子機表示窓の保護パネルは、ディスプレイ装置(15)の露出部分表面側から表面側にむかって、
イ)透明保護板(4)
ロ)貼着層(10)
ハ)加飾部(2)と透明窓部(3)とが形成された窓形成層(6)
ニ)ハードコートフィルム(5)
の順に積層されている。
特に、請求項1に係る電子機器表示窓の保護パネルは、最表面にハードコートフィルム(5)を有するという構成上の特徴を有することによって、保護パネルの表面にハードコート性を付与することができるという効果が得られることを特徴としている。
なお、従属請求項4でハードコートフィルム(5)の表面に低反射処理層(12)を設けることが記載されているが、この場合には、表面のハードコート性が低下することは避けられない。従属請求項4に係る発明では、請求項1に係る電子機器表示窓の保護パネルの本質的な表面のハードコート性の効果に代えて、低反射処理層(12)による効果を得るものである。つまり、ハードコートフィルム(5)の表面に低反射処理層(12)の表面に設けた場合には、もはや請求項1に係る電子機器表示窓の保護パネルにおける、最表面にハードコートフィルム(5)を有するという構成上の特徴を有しないものであって、保護パネルの表面にハードコート性を付与することができるという効果も得られない。」(口頭審理陳述要領書第2頁第7行?第3頁第16行)

[2]甲第2号証乃至甲第8号証に記載の発明について
「(1)甲第2号証に記載の発明について
甲第2号証の図5(b)にはカバーガラス基材2の外面側に、外面側から順に反射防止膜73、ハードコート膜74、基材フィルム71、粘着材層72を有する反射防止フィルム7’が設けられ、内面側に、内面側から順に反射防止膜73、基材フィルム71、粘着材層72を有する反射防止フィルム7が設けられている、カバーガラス1eが示されている。」(審判事件答弁書第第6頁第27行?第7頁第5行)

「このカバーガラス1eは、カバーガラス基材2の外面と内面の両面に反射防止フィルム7,7’を設けている。反射防止フィルム7,7’は、いずれも基材フィルム71の一面に粘着材層72が設けられ、他面側に反射防止膜73が設けられている。
また、図4(b)のカバーガラス1cは、カバーガラス基材2の外面側にハードコート膜3を設け、ハードコート膜3の上に反射防止膜4を設けている。
つまり、甲第2号証に記載のカバーガラスは、いずれも最表面に反射防止膜73を有することを特徴としている。一方、ハードコート膜3、74を設ける場合には、カバーガラス基材と反射防止膜4との間に設けること(甲第2号証:段落[0105])、あるいは、基材フィルム71と反射防止膜73との間に設けること(甲第2号証:段落[0120])が記載されている。
したがって、甲第2号証に記載のカバーガラスでは、ハードコート膜を最表面に設けるという構成について全く記載されていない。」(口頭審理陳述要領書第3頁第18行?第4頁第2行)

「この甲第2号証の図5(b)に示されたカバーガラス1eを本件特許の請求項1に係る電子機器表示窓の保護パネルと対比すると、共通する点として、
(a)電子機器のケーシングの表示窓用開口部分に設けられたディスプレイ装置の表示窓用開口からの露出部分を保護する表示窓用開口に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルであって、
(b)ディスプレイ装置の露出部分表面に対向して設けられる透明保護板と、
(d)フィルム部材を透明保護板のディスプレイ装置に対向しない側の表面に積層状態に貼着する透明な貼着層を有する、
カバーガラス1eが記載されているものであることは認められる。
・(相違点)について
しかし、本件特許の請求項1に係る電子機器表示窓の保護パネルにおける特徴部分のうち、
(c)透明なハードコートフィルム(5)と前記ハードコートフィルムの一方の表面に薄膜状に形成された窓形成層(6)とを備え、かつ、前記窓形成層(6)の一部が、印刷層として前記ハードコートフィルムに接触するように設けられた加飾部(2)と前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に構成され前記加飾部が形成されていない部分である透明窓部(3)として形成されている加飾フィルム(7)
の構成について、甲第2号証の図5(b)には対応する部材の記載がない。
一方、甲第2号証の図6及び段落[0124]には、装飾部11を備えた反射防止フィルム7aが示されている。
しかし、甲第2号証の段落[0123]には、「図1に示したように、携帯機器のカバーガラス1では、縁飾りや文字などの装飾部11が設けられることが多い。本発明の反射防止フィルム7を貼着する構造のカバーガラスでは、この装飾部11を反射防止フィルムに予め設けておくことにより、別途装飾部を設ける工程を省略して低コストで反射防止機能と装飾部11を有するカバーガラスを製造することができる。」との記載がある。つまり、甲第2号証では、内面側の反射防止フィルム7と、外面側の反射防止フィルム7’とを区別して用いているものである。図6の反射防止フィルム7aは、上記記載に続いて示されているものであり、むしろ内面側の反射防止フィルム7に対応するものであると考えるべきものである。
したがって、たとえ図6の反射防止フィルム7aを内面側の反射防止フィルム7に代えて用いたとしても本件特許の請求項1に係る電子機器表示窓の保護パネルにおける(c)加飾フィルムに対応するものとはならない。
つまり、甲第2号証には、本件特許の請求項1に係る電子機器表示窓の保護パネルにおける構成要件のうち、(c)「加飾フィルム」について記載も示唆もない。
(2)甲第3号証に記載の発明について
甲第3号証には、タッチパネル部材10の視認側に偏光板20が配置され、さらにその偏光板20よりも視認側にアイコン印刷が施されているインナータッチパネル50が記載されている(段落[0020]-[0021]、図1,図2)。
(3)甲第4号証に記載の発明について
甲第4号証には、反射防止膜積層体が記載されている(特許請求の範囲、図1及び図2)。
しかし、この反射防止膜積層体16は、投写型画像表示装置10において、投射機22の照射された映像26を入射させて大画面の映像とするための透過型スクリーンを構成するものであって、本件特許の請求項1に係る電子機器表示窓の保護パネルとは全く異なるものである(段落[0003]-[0004])。
したがって、甲第4号証の反射防止膜積層体16は、本件特許発明1乃至10のいずれの構成も有しないものであることは明らかである。
(4)甲第5号証に記載の発明について
甲第5号証には、λ/4板1と偏光板2と透明保護板3との積層保護パネル10を液晶パネル20の上に配置した液晶表示用装置が記載されている(請求項1、図1)。
この液晶表示用装置では、本件特許の請求項1に係る電子機器表示窓の保護パネルと対比すれば、
(a)電子機器のケーシングの表示窓用開口部分に設けられたディスプレイ装置の表示窓用開口からの露出部分を保護する表示窓用開口に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネル
という構成要件を満たさないものである。
したがって、甲第5号証の液晶表示用装置は、本件特許発明1乃至10のいずれの構成も有しないものであることは明らかである。
(5)甲第6号証に記載の発明について
甲第6号証には、大判の基材シート21aから複数個の両面粘着シート2aを製造する工程が記載されている(段落[0044]、図2)。
この大判の基材シート21aとしては、「アルミニウム箔、白色顔料を含有した白色のポリエステルフィルム等を基材シート21aとして用いる。」(段落[0044])との記載がある。本件特許の請求項10に係る電子機器表示窓の保護パネルの製造方法と対比すれば、甲第6号証の大判の基材シート21aは、不透明な白色の基材シート21aである点で本件特許の電子機器表示窓の保護パネルにおける加飾フィルムと相違している。したがって、
(f)ハードコートフィルム(5)の一方の表面の一部に薄膜状に形成された加飾部(2)を有する窓形成層(6)を備え、前記加飾部が設けられていない部分が前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に透過させる透明窓部(3)として形成される加飾領域(26)を複数形成して、大判加飾フィルム(23)を作成し、
のステップに該当する記載がないものである。
なお、請求人による甲第6号証に関する記載(審判請求書第18頁最下行から第3行乃至第19頁第1行)において、「イ 大判のカバーウインドウ基材を用意する一方、装飾部と粘着剤層を有する大判の別のシートを用意し、両者を貼着した状態で切断して個々のカバーウインドウを形成すること。このような方法で製造すれば、生産性良くカバーウインドウを生産することができること。」との記載があるが、このような記載は甲第6号証の記載に基づくものではない。実際の甲第6号証の[発明の効果]の記載では、「本発明の両面粘着シートは、従来はカバーウインドウ基材に直接設けていた装飾部が設けられ、装飾部をカバーウインドウ基材に設ける部品と、カバーウインドウを携帯機器の筐体に貼り付けるための粘着剤層を設ける部品との2つの機能を兼用しているため、生産性良くカバーウインドウを生産することができる。」となっており、生産性の効果は、大判のカバーウインドウ基材等の使用とは関係がない。つまり、上記記載は請求人が自らに都合の良い部分をつなぎ合わせて創作したものであって、事実と相違する内容である。したがって、審判請求人によるその他の記載も信用に欠けるものと思われる。
(6)甲第7号証に記載の発明について
甲第7号証には、「反射防止膜を形成する場合の膜厚は、λ/4(λ:光の波長、通常520nmが用いられる)が最適である。」(甲第7号証:段落[0076])との記載がある。
しかし、この膜厚λ/4の反射防止膜は、本件特許の請求項8の発明特定事項である「λ/4板」とは異なるものである。
「λ/4板」とは、「入射光線に1/4波長の位相差を生じさせる機能を持った波長板である。」(本件特許掲載公報:段落[0038])と記載があるように、膜厚自体ではなく、生じさせる位相差Δnd(n:屈折率、d:膜厚)がλ/4である位相差板に関するものである。
したがって、たとえ膜厚dがλ/4であっても屈折率nを考慮していない場合には上記式に示されるように位相差λ/4とはならず、本件特許の請求項8の発明特定事項である 「λ/4板」に該当しないことは明らかである。
(7)甲第8号証に記載の発明について
甲第8号証には、「保護フィルム1のシートは、適当な形状に打ち抜かれ、余分な材料は除去される。」(甲第8号証:段落[0009])との記載があるのみである。
審判請求人による甲第8号証の要約では、「透明窓部の外側位置かつ加飾領域の内側位置において大判のシートを打ち抜くことにより個々のディスプレイカバーの大きさに形成することは公知であること。」と記載されているが、上述のように、甲第8号証には打ち抜く位置について何も記載がなく、審判請求人の記載は事実に基づくものではない。」(審判事件答弁書第7頁第6行?第11頁第4行)

[3]特許発明1?10の進歩性について
(1)特許発明1について
(1a)「(1)本件特許の請求項1に係る発明(本件特許発明1)の進歩性について
上述のように、甲第2号証には、本件特許の請求項1に係る電子機器表示窓の保護パネルにおける構成要件のうち、(c)加飾フィルムについて記載も示唆もない。
なお、甲第2号証は、「反射防止膜」を設けたカバーガラスであることを特徴とするものであって、本件特許の請求項1に係る電子機器表示窓の保護パネルと対比すると、甲第2号証のカバーガラスにはそれぞれの反射防止フィルム7、7’の「反射防止膜73」が余分な構成として存在する。
さらに、図5(b)のカバーガラス1eは、外面側の反射防止フィルム7’だけでなく、内面側の反射防止フィルム7も貼着されている。本件特許の請求項1に係る電子機器表示窓の保護パネルと対比すれば、甲第2号証の図5(b)のカバーガラス1eは、内面側の反射防止フィルム7という余分な構成を有するものである。このような甲第2号証の図5(b)に記載のカバーガラス1eから、本件特許発明にとっては余分な構成である内面側の反射防止フィルム7及び「反射防止膜73」をどのように取り除いて、本件特許発明1の構成のみとするかについて、示唆又は動機付けがない。
なお、請求人は、審判請求書第25頁の本件特許発明1に対する小括として 「本件特許発明1は、甲第2号証?甲第8号証に記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものである」と主張するが、上記記載を含めて審判請求書の全部においても本件特許発明1について甲第2号証との対比のみがなされているだけであって、その他の甲第3号証?甲第8号証との対比はなんらなされていない。したがって、甲第2号証以外の他の甲号証に基づく主張は根拠のない主張である。
以上のとおり、結局、甲第2号証の図5(b)のカバーガラス1eに基づいて本件特許発明1を容易に考えることはできない。したがって、本件特許発明1は、甲第2号証にかかわらず進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しない。」(審判事件答弁書第11頁第6行?第12頁第3行)

(1b)「請求人の主張に対する反論の補足
A 本特許の請求項1に係る発明と甲第2号証に記載の発明との本質的な相違点について
上述したように、請求項1に係る電子機器表示窓の保護パネルは、最表面にハードコートフィルム(5)を有するという構成上の特徴を有することによって、保護パネルの表面にハードコート性を付与することができるという効果が得られることを特徴としている。
一方、甲第2号証に記載のカバーガラスでは、ハードコート膜を最表面に設けるという構成について全く記載されていない。このため、甲第2号証に記載のカバーガラスは、本特許の請求項1に係る保護パネルにおける、最表面にハードコートフィルム(5)を有するという構成上の特徴もなく、表面にハードコート性を有するという効果も奏することができないものである。
したがって、甲第2号証には本特許の請求項1に係る発明の本質的な特徴の記載がなく、甲第2号証に記載の発明をどのように組み合わせたとしても、本特許の請求項1に係る保護パネルを得られないものである。すなわち、本特許の請求項1に係る発明は、甲第2号証の存在にかかわらず進歩性を有し、請求人による無効理由の主張は失当というべきものである。同様に、本特許の全ての請求項に係る発明は進歩性を有し、請求人による無効理由の主張は失当というべきものである。
B 相違点を組み合わせるための動機付けの不足
請求人は、本特許の請求項1に係る発明から請求項10に係る発明の全部について、無効理由1として進歩性欠如を挙げ、各特許発明と甲第2号証に記載の発明との相違点a、b、c、d、e、f、g、h、i、α、β、γ、δ、εを挙げている。特に、訂正後の請求項10については、甲第2号証に記載の発明との相違点として、実に5つの相違点α、β、γ、δ、εを挙げているが、これらの相違点が記載された各甲号証と主引例である甲第2号証に記載の発明とを組み合わせるための示唆が存在するか否かについては何ら述べていない。このように主引例に記載の発明と特許発明との間に相違点を有する場合には、主たる引例と副引例とを組み合わせるための示唆が必要であることが近年の知財高裁における判決で指摘されている(平成20年(行ケ)10096号知財高裁(平成21年1月28日判決)、平成22年(行ケ)10187号知財高裁(平成22年12月28日判決))。したがって、単に技術分野が近接するからといって、上記のように多数の相違点を有するにもかかわらず、甲第2号証に記載の発明について、多数の甲号証に記載の相違点を何の示唆もなく機械的に組み合わせて本特許発明に至ることは非常に困難であると考える。」(口頭審理陳述要領書第8頁第23行?第9頁第29行)

(1c)「甲第2号証に記載の発明の組合せの阻害要因について
・・・(中略)・・・
甲第2号証の図6(b)には、外周部に装飾部11が設けられた反射防止フィルム7aの断面図が示されている。この反射防止フィルム7aは、図6(b)に示すように、基材フィルム71の一面側に装飾部11が設けられ、この装飾部11を覆って粘着材層72が設けられ、他面側に反射防止膜73が設けられている。
甲第2号証の図6(a)、(b)に記載の反射防止フィルム7aを図4(a)?(b)、図5(a)?(b)に記載のカバーガラスの外面側の反射防止フィルムとして適用できるかについて検討する。
まず、図4(a)?(b)では、「カバーガラス基材2の外面側にハードコート膜3を設け、ハードコート膜3の上に反射防止膜4を設け」(甲第2号証:段落[0105])と記載されているように、反射防止膜4のみを直接に設けることのみ意図している。つまり、上記「反射防止膜3」を「反射防止フィルム7a」に置換することは想定されていないと言える。
次に、図5(a)?(b)に記載のカバーガラス1eには、内面と外面の両面に反射防止フィルム7,7’が設けられている。図6(b)に記載の「反射防止フィルム7a」を、図5(b)の内面側の反射防止フィルム7として用いる場合には、適用可能であると認められる。しかし、カバーガラス基材2の内面側に図6(b)に記載の「反射防止フィルム7a」を設けたとしても、当然のことであるが、本特許の請求項1に係る保護パネルにおける、最表面にハードコートフィルム(5)を有するという構成上の特徴を実現することはできず、したがって、表面にハードコート性を有するという効果も奏することができない。
一方、図6(b)に記載の「反射防止フィルム7a」を、図5(b)の外面側の反射防止フィルム7’として用いる場合には、以下の理由によって、本特許の請求項1に係る保護パネルの構成を実現することが困難と考えられる。
まず、図6(b)の積層構成の順のままで図5(b)の外面側の反射防止フィルム7’に用いるとすると、装飾部11の上に粘着材層72に代えて、本特許の請求項1に係る保護パネルの構成の最表面に存在する「ハードコートフィルム」に対応する「ハードコート膜」を設ける必要がある。甲第2号証では、装飾部11の上にハードコート膜を形成しようとする方法としては、「ハードコート塗膜の形成方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法、フロー法、ドクターブレード法などを採用できる。」(甲第2号証:段落[0062])と記載されている。この「ハードコート塗膜」は、「形成した塗膜を熱、紫外線、電子ビームなどで硬化させてハードコート膜3を得ることができる。」(甲第2号証:段落[0064])と記載されているように、熱、紫外線、電子ビームなどで硬化させている。上記のように装飾部11の上にハードコート塗膜を形成し、熱、紫外線、電子ビームなどで硬化させた場合、印刷によって形成された装飾部11が損傷するおそれがある。
したがって、図6(b)の反射防止フィルム7aを図5(b)のカバーガラス1eの外面側の反射防止フィルム7’として用い、本特許の請求項1に係る保護パネルの構成を得ようとした場合には、最表面に設けるハードコート膜のために装飾部11が損傷してしまうおそれがある。すなわち、本特許の請求項1に係る保護パネルの構成を得るために、図6(b)の反射防止フィルム7aを図5(b)のカバーガラス1eの外面側の反射防止フィルム7’として用いることに対して、装飾部11を損傷するという阻害要因がある。」(口頭審理陳述要領書第4頁第11行?第6頁第2行)

(2)特許発明2?10について
「(2)本件特許の請求項2に係る発明(本件特許発明2)の進歩性について
請求項2は、請求項1に従属するものである。上述の通り請求項1に係る発明が進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しないものであるので、請求項2に係る発明も当然に進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しない。
(3)本件特許の請求項3に係る発明(本件特許発明3)の進歩性について
請求項3は、請求項1に従属するものである。上述の通り請求項1に係る発明が進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しないものであるので、請求項3に係る発明も当然に進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しない。
(4)本件特許の請求項4に係る発明(本件特許発明4)の進歩性について
請求項4は、請求項3に従属するものである。上述の通り請求項3に係る発明が進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しないものであるので、請求項4に係る発明も当然に進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しない。
(5)本件特許の請求項5に係る発明(本件特許発明5)の進歩性について
請求項4は、請求項1に従属するものである。上述の通り請求項1に係る発明が進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しないものであるので、請求項5に係る発明も当然に進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しない。
(6)本件特許の請求項6に係る発明(本件特許発明6)の進歩性について
請求項6は、請求項5に従属するものである。上述の通り請求項5に係る発明が進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しないものであるので、請求項6に係る発明も当然に進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しない。
(7)本件特許の請求項7に係る発明(本件特許発明7)の進歩性について
請求項7は、請求項5に従属するものである。上述の通り請求項5に係る発明が進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しないものであるので、請求項7に係る発明も当然に進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しない。
(8)本件特許の請求項8に係る発明(本件特許発明8)の進歩性について
請求項8は、請求項7に従属するものである。上述の通り請求項7に係る発明が進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しないものであるので、請求項8に係る発明も当然に進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しない。
(9)本件特許の請求項9に係る発明(本件特許発明9)の進歩性について
請求項9は、請求項1乃至8のいずれか一項に従属するものである。上述の通り請求項1乃至8に係る発明はいずれも進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しないものであるので、請求項9に係る発明も当然に進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しない。
なお、請求人は、本件特許の請求項9に係る発明と、甲第2号証に記載の発明とを対比すれば、相違点a及びbに加えて「透明保護板(4)が・・・タッチパネル(14)で構成されている」相違点iがあると述べているが、これは請求項1に従属する場合である。請求項9が請求項2乃至8のいずれかに従属する場合には、さらに相違点が多くなる点について、審判請求人は看過している。例えば、請求項9が請求項8に従属する場合、請求項9に係る発明と甲第2号証に記載の発明との相違点は、相違点a、b、f、h及びiとの実に5箇所にもなり、それぞれの相違点に関して、引例として、甲第2号証、(相違点a及びb)、甲第3号証(相違点f,i)、甲第5号証(相違点f、h、i)、甲第7号証(相違点h)との数多くの引例が挙げられている。
さらに、上述のように、相違点a及びbについて、甲第2号証には本件特許の「加飾フィルム」に該当する記載があるとはいえない。また、相違点hに対して甲第7号証は適切な引例ではない。さらに、各引例に記載された特徴部分を主たる引例である甲第2号証に記載の発明にどのように組み合わせるかについての示唆又は動機付けとなる記載も示されていない。
したがって、請求項9に係る発明も当然に進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しない。
(10)本件特許の請求項9に係る発明(本件特許発明9)の進歩性について
イ)請求項10に係る電子機器表示窓の保護パネルの製造方法について
請求項10に係る電子機器表示窓の保護パネルの製造方法は、
(e)電子機器のケーシング表示窓用開口部分(22)に設けられたディスプレイ装置(15)の前記表示窓用開口(22)からの露出部分を保護する前記表示窓用開口(22)に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルの製造方法であって、
(f)ハードコートフィルム(5)の一方の表面の一部に薄膜状に形成された加飾部(2)を有する窓形成層(6)を備え、前記加飾部が設けられていない部分が前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に透過させる透明窓部(3)として形成される加飾領域(26)を複数形成して、大判加飾フィルム(23)を作成し、
(g)複数のタッチパネル(14)を形成して、大判透明保護板(24)を構成し、
(h)前記大判透明保護板(24)に、前記大判加飾フィルム(23)を、前記加飾部が前記大判透明保護板(24)の表面と対向する方向となり、且つ、前記大判透明保護板(24)が前記大判加飾フィルム(23)との重複部分に含まれるすべての前記加飾領域よりも大きい面積を有するように、貼り合わせ、
(i)前記透明窓部(3)の外側位置かつ加飾領域(26)の内側位置において、前記貼り合わされた大判加飾フィルム(23)と前記大判透明保護板(24)を一体的に切断して可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備えるタッチパネル(14)で構成された透明保護板(4)の表面に、前記可動電極フィルム側から加飾フィルム(7)が積層された保護パネルを得る、
電子機器表示窓の保護パネルの製造方法。
と分節することができる。
ロ)甲第2号証に記載のカバーガラスの製造方法について
請求人は、甲第2号証には、カバーガラス基材2の外面側に反射防止フィルム7’のみを貼着してカバーガラスを得る製造方法が記載されていると主張する。
しかし、甲第2号証の図5(b)には、カバーガラス基材2の外面側に反射防止フィルム7’を貼着するだけではなく、内面側に反射防止フィルム7を貼着することが明らかに記載されている(甲第2号証:段落[0120])。つまり、請求人は、甲第2号証の記載のうち、本件特許の請求項10に係る電子機器表示窓の保護パネルの製造方法と相違する点を故意に隠して対応する点のみを挙げており、これは事実と相違しているものである。
したがって、甲第2号証には、カバーガラス基材2の外面側と内面側の両面にそれぞれ反射防止フィルム7、7’を設けてカバーガラス1eを得るカバーガラスの製造方法が記載されていると認定すべきである。
なお、上述のように、甲第2号証では、内面側の反射防止フィルム7と、外面側の反射防止フィルム7’とを区別して用いている。図6の反射防止フィルム7aは、上記記載に続いて示されており、むしろ内面側の反射防止フィルム7に対応するものであると考えるべきものである。
ハ)本件特許の請求項10に係る発明と甲第2号証に記載の発明との対比
・一致点及び相違点について
本件特許の請求項10に係る発明と、甲第2号証に記載の発明とを対比すると、前提部分である(e)を除く、(f)「大判加飾フィルム」を作成する工程、(g)「タッチパネルによって大判透明保護板(24)を構成」する工程、(h)「大判透明保護板(24)に、大判加飾フィルム(23)を、加飾部が大判透明保護板の表面と対向する方向となるように貼り合わせ」る工程、(i)透明窓部(3)の外側位置かつ加飾領域(26)の内側位置において、貼り合わされた大判加飾フィルム(23)と大判透明保護板(24)を一体的に切断して保護パネルを得る工程、のいずれについても記載がない。
さらに、甲第2号証には、上述のように、本件特許の請求項10に係る発明には記載のないカバーガラス基材2の内面側に反射防止フィルム7を貼着する余分な工程を含んでいる。その一方、甲第2号証には、図5(b)の外面側及び内面側の反射防止フィルム7、7’を貼着する工程から、内面側の反射防止フィルム7を貼着する工程を含めないようにするという動機付け又は示唆となる記載等はない。したがって、甲第2号証に記載の製造方法は、カバーガラス基材2の内面側に反射防止フィルム7を貼着する余分な工程を含むものであって、これを除く動機付け又は示唆もない。
審判請求人は、甲第2号証の図5(b)の外面側及び内面側の反射防止フィルム7、7’のうち、外面側の反射防止フィルム7’に対して、図6に記載の「反射防止フィルム7a」を用いることが容易であると主張している。
しかし、上述の通り、甲第2号証では、内面側の反射防止フィルム7と、外面側の反射防止フィルム7’とを区別して用いているものである。図6の反射防止フィルム7aは、上記記載に続いて示されているものであり、むしろ内面側の反射防止フィルム7に対応するものであると考えるべきものである。
したがって、たとえ図6の反射防止フィルム7aを内面側の反射防止フィルム7に代えて用いたとしても本件特許の請求項10に係る電子機器表示窓の保護パネルの製造方法における(c)加飾フィルムに対応するものとはならない。
また、(g)「複数のタッチパネルを形成して、大判透明保護板(24)を構成」する工程については、今回の訂正で追加した限定事項であって、当然に甲第2号証には記載がない。なお、甲第5号証には透明保護板をタッチパネルで構成することが記載されているが、この場合にも大判透明保護板を複数のタッチパネルを形成して、構成することについて記載がない。
さらに、甲第2号証には、「加飾フィルム」及び「タッチパネル」に対応する記載がないのであるから、たとえ甲第6号証乃至8に記載の発明を考慮しても、上記(h)及び(i)の各工程についても容易に考えられるものではない。
さらに、本件特許の請求項10に係る電子機器表示窓の保護パネルの製造方法は、上述のように訂正によって上記(g)の工程及び(i)の工程の限定事項を追加した。これによって、本件特許の請求項10に係る発明に対して、甲第2号証、甲第6号証乃至8、に加えて、たとえ甲第3号証及び甲第5号証を組み合わせるとした場合、組み合わせる引例の数があまりに多くなりすぎる。すなわち、本件特許の請求項10に係る発明は、当業者にとって、到底容易に考えられるものではないことが明白である。
したがって、本件特許の請求項10に係る発明は、進歩性を有するものであって、特許法第29条第2項の規定には該当しない。
以上の通り、本件特許の請求項1乃至10に係る発明(本件特許発明1乃至10)の全てについての進歩性に関する無効審判請求人の主張は、もはや全く該当しない。」(審判事件答弁書第12頁第4行?第17頁第5行)


2 無効理由2について
請求人の主張する無効理由2について、被請求人は、以下のとおり主張している。
「無効審判請求人は、「本件特許発明10は、これの具体的な説明及び実施例が発明の詳細な説明に全く記載されていない。」と主張する。
具体的には、
a)『「前記加飾領域よりも大きい面積を有する大判透明保護板(24)に、前記大判加飾フィルム(23)を・・・貼り合わせ」という発明特定事項中の「前記加飾領域」とは、単数の加飾領域を意味するのか、複数の加飾領域を意味するのか不明である。また、加飾領域の数が不明なため、大判加飾フィルムの大きさも不明である。』という指摘を受けている。
上記指摘に対して、「前記大判透明保護板(24)が前記大判加飾フィルム(23)との重複部分に含まれるすべての前記加飾領域よりも大きい面積を有する」と訂正した。上記訂正は、本件特許の図6及び図8に基づくものである。
上記訂正によって、「前記加飾領域」は、複数の加飾領域を意味することが明確となった。なお、図8から明らかなように、大判加飾フィルム(23)は、複数の加飾領域(26)を含む大きさであることが明確であって、大判加飾フィルム(23)自体の大きさについても明確である。
したがって、審判請求人の上記指摘は失当である。
b)『「加飾領域」と大判透明保護板(24)との大きさの関係、この大判透明保護板(24)と大判加飾フィルム(23)との大きさの関係も不明である。』との指摘を受けている。
まず、上記訂正で「前記大判透明保護板(24)が前記大判加飾フィルム(23)との重複部分に含まれるすべての前記加飾領域よりも大きい面積を有する」として、「大判透明保護板(24)」と「大判加飾フィルム(23)」との重複部分に含まれるすべての「加飾領域」と、「大判透明保護板(24)」との大小関係を明確にした。
なお、大判透明保護板(24)と大判加飾フィルム(23)との関係では、図8に示されているように、両者の大小関係は問題とはならず、最終的に「貼り合わされた大判加飾フィルム(23)と大判透明保護板(24)を一体的に切断して保護パネルを得る」ことができるものであればよい。
さらに、審判請求人自身も上記記載について、審判請求書第36頁第1-3行に「予め透明保護板を大判に形成しておくことは周知の方法であり、この場合、加飾領域よりも大きい面積を有することになるのは当然である。」と述べているように、元の記載における「大型透明保護板(24)」と「加飾領域」との大小関係についても当業者にとって容易に解釈しうるものであることを認めている。
したがって、審判請求人の上記指摘は失当である。
c)『大判透明保護板(24)については、・・・これの具体的な説明が全くなく、その構成が全く不明である。』との指摘を受けている。
この「大判透明保護板(24)」について、「複数のタッチパネル(14)を形成して、大判透明保護板(24)を構成し」として、複数の「タッチパネル」によって「大判透明保護板」を構成することを規定した。さらに、作成する「保護パネル」が、「可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備えるタッチパネル(14)で構成された透明保護板(4)の表面に、前記可動電極フィルム側から加飾フィルム(7)が積層された保護パネル」であることを規定した。上記訂正によって、「保護パネル」と「タッチパネル」との関係を明らかにした。以上によって、「大判透明保護板」と複数の「タッチパネル」との関係、及び、「保護パネル」と「タッチパネル」との関係が明確となった。
なお、本件特許明細書の実施例3においても「透明保護板」が「タッチパネル」である場合について記載している。
したがって、審判請求人の上記指摘は失当である。
d)『「前記透明窓部(3)の外側位置かつ加飾領域(26)の内側位置」とは、どこの位置を指して記載しているか全く不明である。』との指摘を受けている。
上記指摘に対して、図1、図6及び図8に示されているように、「前記透明窓部(3)の外側位置かつ加飾領域(26)の内側位置」とは、その文言通りに明らかであると考える。例えば、「少なくとも透明窓部(3)を含み、加飾領域(26)と同じかそれよりも内側となる位置」と理解できる。
なお、請求人は、審判請求書第36頁第17-18行に「その際、透明窓部の外側位置かつ加飾領域の内側位置において切断することになるのは当然である。」と述べており、審判請求人自身も、上記記載を当業者が容易に理解しうることを認めている。
したがって、審判請求人の上記指摘は失当である。
以上のように、請求項10に係る発明(本件特許発明10)について指摘を受けたa)乃至d)の各事項はいずれも本件特許明細書及び図面において記載された事項又は記載された事項から自明な事項である。したがって、当然に、請求項10に係る発明(本件特許発明10)は、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定を満たすものであって、審判請求人の主張は失当である。」(審判事件答弁書第17頁第8行?第19頁第17行)

3 被請求人の提示した証拠方法

被請求人の提示した証拠方法は 以下のとおりである。

乙第1号証:特開平11-191341号公報、

乙第2号証:特開2002-82772号公報


第6 当審の判断

1 無効理由1について

〔特許発明1?10〕
特許発明1?10は、上記「第3 特許発明」に記載したとおりのものである。

1-1 甲号各証の記載内容
上記無効理由1の根拠として挙げられた甲第2?11号証には、以下の技術的事項が開示されている。

(1)甲第2号証(特開2001-290005号公報参照)の記載事項
甲第2号証には、「カバーガラス」に関し、図面の図示と共に次の技術的事項が記載されている。

(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、携帯機器の筐体の窓部に固定されて筐体の内部を透視するために用いられるカバーガラスに関する。
【0002】
【従来の技術】携帯電話等の液晶表示装置を備えた携帯機器では、液晶表示装置の表示面は薄い無機ガラスで構成されているため、携帯機器の外面に液晶表示装置が露出していると、使用中の外力や衝撃により液晶が割れてしまうおそれがある。そのため、液晶表示装置を筐体内のやや奥まった位置に収納し、筐体に表示面を視認できる窓部を設け、この窓部を閉塞するように透明なカバーガラスを固定し、カバーガラスで液晶表示装置の表示面を保護する構成が採用される。
【0003】カバーガラスは、軽量で、加工コストが低く、耐衝撃性に優れたアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂などの透明樹脂の射出成形品が用いられ、一般的に外表面には傷を防止するためのハードコート処理が施される。
【0004】このようなカバーガラスで液晶表示装置の表示面を覆って保護するため、液晶表示装置の表示面は、カバーガラスを介して視認することになる。そのため、カバーガラスの光学性能が、表示面の視認性に大きな影響がある。」

(1b)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のカバーガラスは、光学性能が劣るため、液晶表示装置の表示の視認性が十分ではなかった。
【0006】即ち、携帯機器は電源が電池であるため、電池寿命を長くするために、液晶表示装置は、表面側からの外光の反射を利用する反射型が主であり、バックライトを内蔵していても短時間で消えるようになっている。
【0007】そのため、屋内、屋外、昼夜など様々な環境で用いられる携帯機器では、外光や照明が変化するため、これらの外光がカバーガラスの表面で反射し、表示がちらついたり、照明がカバーガラスに写り込んで表示が見えにくいという問題がある。
【0008】また、カバーガラスが介在すると、光透過率が低下し、反射型液晶表示装置の表示の読み取りに悪影響を及ぼすという問題もある。特に、最近のカラー液晶表示装置の場合は、表示の光量がカラーフィルターの吸収により更に少なくなるため、カバーガラスによる光透過率の低下の影響が大きいという問題がある。
【0009】本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、外光の反射を少なくし、光透過率を向上させて携帯機器における表示装置の視認性を向上させることができるカバーガラスを提供することを目的とする。」

(1c)「【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するため、透明のカバーガラス基材の少なくとも外面側、好ましくは、外面側と内面側の両面に反射防止膜を設けることにより、カバーガラスにおける外光の反射を顕著に抑制し、光透過率を向上させて携帯機器における表示装置の視認性を飛躍的に高めることに成功したものである。
【0011】即ち、カバーガラスの外面側に反射防止膜を設けることにより、カバーガラスの外表面での反射を抑制し、表示装置の視認性を向上させることができる。
【0012】また、カバーガラスで表示装置を保護する場合、カバーガラスと表示装置の表示面との間に隙間(空気の層)がある。そのため、外からカバーガラスに入射した光は、カバーガラスを透過して表示装置に達し、表示装置で反射して再びカバーガラスを透過して眼に入射する。このとき、カバーガラスの表面で一部が反射し、更に、表示装置から反射した光は、カバーガラスの表面で一部が反射するため、結局カバーガラスで2回の反射が行われ、光透過率を低下させている。
【0013】そこで、カバーガラスの外面側だけでなく、内面側にも反射防止膜を設けることにより、カバーガラスの光透過率を大きく向上させることができ、表示装置の視認性を向上させることができる。
【0014】反射防止膜として、安価な反射防止フィルムを用いることにより、反射防止膜を設けるコストを低減し、カバーガラスの製造コストを低減させることができる。
【0015】また、蒸着により成膜される反射防止膜は、一般にカバーガラス基材と密着性が良くないため、カバーガラス基材と反射防止膜の間にハードコート膜を介在させることにより、カバーガラスに傷が付くことを防止すると共に、反射防止膜の密着性を向上させることができる。
【0016】カバーガラスの外面側と内面側の両面に反射防止膜を設ける場合、内面側の反射防止膜にはカバーガラス基材との強固な密着性は必要がないため、外面側の反射防止膜にのみハードコート膜を介在させることが好ましい。
【0017】反射防止フィルムは比較的硬質で曲面上に貼着することが困難であるため、曲面に構成される場合が多いカバーガラスの外面側に蒸着による反射防止膜を設け、平面状に構成されるカバーガラスの内面側に反射防止フィルムを貼着することが好ましい。
【0018】ハードコート膜は、ホットスタンピングによって設けることがコスト面で有利である。
【0019】また、反射防止膜との密着性を向上させるため、金属酸化物微粒子を配合したコーティング用組成物を塗布硬化したハードコート膜を採用することが好ましい。
【0020】反射防止フィルムに装飾部を設けることにより、別途装飾部を形成する場合と比較して製造工程が簡略化し、コスト面で有利である。
【0021】ハードコート膜を設ける場合、ハードコート膜とカバーガラス基材との間にプライマー層を介在させることによって、カバーガラスの耐衝撃性を向上させることができる。
【0022】更に、携帯機器では、カバーガラスに手を触れたりして、カバーガラスに汚れがつきやすいが、撥水撥油処理を施すことにより、汚れを簡単にふき取ることができ、反射防止膜の耐久性を向上させることができる。」

(1d)「【0034】
【発明の実施の形態】以下、本発明のカバーガラスの実施の形態について説明するが、本発明は、下記の実施の形態に制限されるものではない。
【0035】本発明のカバーガラスは、携帯機器の筐体の窓部に固定されて筐体の内部を透視する用途に用いられるもので、携帯機器の表示装置の表示面に直接物が当たらないように、筐体内部に収納した液晶表示装置の表示面を被覆して表示面を保護し、表示面を視認するために用いられる用途が代表的である。その他の用途としては、携帯機器の内部の覗き窓のような用途にも使用できる。
【0036】本発明のカバーガラスは、例えば、携帯電話、携帯ゲーム機、デジタルカメラ、携帯無線通信機、携帯ラジオ、腕時計、携帯音響機器等の表示装置の表示面の保護に用いることができる。表示装置としては、液晶表示装置が代表的であり、特に、外光を利用するカラー反射型液晶表示装置の場合に有効である。
【0037】図1は、携帯電話100の筐体20の内部に収納された液晶表示装置30の保護に用いられたカバーガラス1の一例を示している。カバーガラス1の周縁部には、メッキ、印刷等で光を透過しない装飾部11が形成されることが多い。
【0038】図2は、図1のA-A’線に沿ったカバーガラス1周辺をやや拡大した断面図で、携帯機器100の液晶表示装置30をカバーガラス1で保護する構造の一例を示す。図2に示すように、携帯機器の筐体20内部にやや奥まって配置された液晶表示装置30の表示面31に対応する筐体20には、表示面31を外部から視認できる窓部21が開口されている。カバーガラス1は、この窓部21に突き出た枠部22に固定され、窓部21を閉塞している。外部からの力でカバーガラス1が内側に変形しても液晶表示装置30の表示面31に直接当たらないように、カバーガラス1の内面側は、表示面31と隙間23を形成するように配置されている。
【0039】外部からカバーガラス1に入射した外光L1は、カバーガラス1を透過して液晶表示装置30に達し、液晶表示装置30で反射して再びカバーガラス1を透過して反射光L2となって眼に到達し、液晶表示装置30の表示面31を視認することができる。このとき外光L1の一部はカバーガラス1の外表面12で反射され、更に、液晶表示装置30で反射した光は、カバーガラス1の内表面13で一部が反射される。
【0040】このように、カバーガラス1と液晶表示装置30との間に隙間(空気の層)23が存在するため、外光L1が液晶表示装置30から反射してくるまでに、カバーガラス1を2回透過し、2回の反射が起こっていることになる。そのため、カバーガラス1の光学性能が、液晶表示装置30の視認性に大きな影響を及ぼす。
【0041】また、カバーガラス1の形状は、外表面12が筐体20とデザインを統一する外観上の要請から、筐体20の外表面に合わせた曲面形状であることが多い。一方、カバーガラス1の内表面13は、表示面31に近接して配置されるため、平面かわずかに湾曲している面で構成される。
【0042】図3に本発明のカバーガラスの第1実施形態の断面構造を示す。このカバーガラス1は、カバーガラスの形状に形成されているカバーガラス基材2の外面側にハードコート膜3が設けられ、このハードコート膜3の上に外面側の反射防止膜4が設けられている。一方、カバーガラス基材2の内面側には反射防止膜5が直接設けられている。
【0043】カバーガラス基材2としては、軽量で耐衝撃性に優れ、かつ、熱可塑性の透明樹脂又は無機ガラスが選択される。透明樹脂としては、例えば、ポリ(メチル)メタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂等が用いられる。カバーガラス基材2の成形方法は一般的には射出成形であるが、薄板からカバーガラス形状に切り出してもよい。」

(1e)「【0078】カバーガラスの周縁部等に光を透過しない装飾部11を設ける場合は、外面側、内面側のいずれに設けてもよい。装飾部11の形成方法は、例えば、メッキ法、ホットスタンピング、シルク印刷、インモールド成形により行うことができる。」

(1f)「【0081】図4(a)に示す第2実施形態のカバーガラス1bは、カバーガラスの形状に形成されている透明樹脂製のカバーガラス基材2の外面側にプライマー層6が設けられ、プライマー層6の上にハードコート膜3が設けられ、ハードコート膜3の上に反射防止膜4が設けられ、カバーガラス基材2の内面側に反射防止膜5が直接設けられた構造を有する。第1実施形態のカバーガラス1と比較すると、プライマー層6がカバーガラス基材2とハードコート膜3の間に介在している点が相違する。」

(1g)「【0105】図4(b)に示す第3実施形態のカバーガラス1cは、カバーガラス基材2の外面側にハードコート膜3を設け、ハードコート膜3の上に反射防止膜4を設け、カバーガラス基材2の内面側には反射防止膜を設けない構造を有する。第1実施形態のカバーガラス1と比較すると、内面側の反射防止膜5を省略して安価に製造できる構造である。
【0106】内面側の反射防止膜が設けられていないため、カバーガラス1cの光透過率は第1実施形態のカバーガラス1と比較してやや劣るが、表示がちらついたり、照明がカバーガラスに写り込んで表示が見えにくいという問題は外面側の反射防止膜4が解消しているため、表示装置の視認性は良好である。
【0107】以上の説明では、反射防止膜をカバーガラス基材2又はハードコート膜3上に直接成膜したカバーガラスを示したが、反射防止膜を設けるには大量生産される反射防止フィルムを用いる方がコスト的に有利である。」

(1h)「【0113】反射防止フィルム7を構成する基材フィルム71の材質としては、例えば、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、トリアセテート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、セロファン等の透明フィルムを例示できる。基材フィルム71の厚さは、1μm?100μmの範囲が通常である。」

(1i)「【0120】図5(b)に示す第5実施形態のカバーガラス1eは、カバーガラス基材2の外表面が平面か円筒面である場合に、カバーガラス基材2の外面と内面の両面に反射防止フィルム7,7’を設けた例を示している。これらの反射防止フィルム7,7’も、基材フィルム71の一面側に粘着剤層72が設けられ、他面側に反射防止膜73が設けられている。外面側の反射防止フィルム7’には、耐擦傷性を付与するために反射防止膜73と基材フィルム71との間にハードコート膜74を介在させた構造を有する。このハードコート膜74は、実施例のように省略することも可能である。
【0121】また、外面側の反射防止フィルム7’では、傷が付きにくいように、基材フィルム71として硬く傷つき難い材料を選択することが推奨される。
【0122】更に、外面に反射防止フィルム7’を貼着する場合、カバーガラス1eの外周端面を隠す構造にしたり、あるいは反射防止フィルム7’の端面処理を行って端面をきれいに仕上げる工程が必要になる場合がある。」

(1j)「【0123】図1に示したように、携帯機器のカバーガラス1では、縁飾りや文字などの装飾部11が設けられることが多い。本発明の反射防止フィルム7を貼着する構造のカバーガラスでは、この装飾部11を反射防止フィルムに予め設けておくことにより、別途装飾部を設ける工程を省略して低コストで反射防止機能と装飾部11を有するカバーガラスを製造することができる。
【0124】図6はこのような装飾部が設けられた反射防止フィルムの一例を示すものであり、(a)は平面図、(b)はB-B’線に沿った断面図である。図6(a)に示すように、この反射防止フィルム7aの外周部には、装飾部11が設けられている。図6(b)に示すように、基材フィルム71の一面側に印刷などの手段で形成された装飾部11が設けられ、更にこの装飾部11を覆って粘着剤層72が設けられ、他面側に反射防止膜73が設けられている。これらの層構成に加えて、ハードコート膜を基材フィルム71と反射防止膜73の間に介在させてもよい。」

(1k)「【0125】次に、本発明の反射防止フィルムが貼着されたカバーガラスの製造工程について説明する。反射防止フィルム7、7’は、反射防止膜73側に保護フィルムが貼られ、粘着剤層72側に剥離フィルムが貼られた状態で供給される。そのため、反射防止フィルムの貼着工程を先に行い、保護フィルムが反射防止フィルムに貼られた状態で、後から蒸着などの曲面部に反射防止加工を行う方がキズや汚れに対して有利である。但し、蒸着などの熱が加わる工程があり、反射防止フィルムの耐熱性が低く、クラックなどが発生するおそれがあるときは、反射防止フィルムを貼る前に熱が加わる工程を行う。また、反射防止膜をカバーガラス基材2に成膜する場合、反射防止膜が成膜される面の前処理として、例えば酸洗浄やアルカリ洗浄などを行うときは、反射防止膜を成膜した後に、反射防止フィルムを貼ることが望ましい。反射防止フィルムの保護フィルムは、運搬や保管時にもつけたままにしておき、携帯機器に組み付けるときに保護フィルムを剥がすようにすることが望ましい。
【0126】図5(a)に示した内面側に反射防止フィルム7が貼着され、外面側にハードコート膜3と反射防止膜4が形成されたカバーガラス1dの一般的な製造工程は、例えば、インモールド成形で、外面側に未硬化のハードコート膜が設けられたカバーガラス基材2を成形し、カバーガラス基材2に紫外線などの放射線を照射して硬化したハードコート膜3を得る。その後、反射防止フィルム7から剥離フィルムを剥がし、カバーガラス基材2の内面に貼着する。更に、図示しない保護フィルムが反射防止フィルム7に貼り付いているままの状態で真空蒸着などで反射防止膜4を成膜し、最後に反射防止膜4の撥水処理加工を行ってカバーガラス1dを得る。
【0127】図5(b)に示した反射防止フィルムが両面に貼着されたカバーガラス1eの場合は、通常の成形法でカバーガラス基材2を成形し、その後、必要により、カバーガラス基材2の表面処理を行った後、ハードコート膜74を有する反射防止フィルム7’をカバーガラス基材2の外面に貼着し、更に、カバーガラス基材2の内面に反射防止フィルム7を貼り付けることにより製造することができる。」

(1l)「【0144】<実施例7>アクリル樹脂(PMMA)で外表面が円筒面で内面が平面のかまぼこ形状のカバーガラス基材を射出成形で作製した。カバーガラス基材の内面にカバーガラス基材より大きい寸法に切り出した市販の反射防止膜付きフィルム(ARCTOP PFO3;旭硝子株式会社製)を貼り付け、周辺にはみ出した部分のフィルムを切り取った。続いて、外表面にも同様に同じフィルムを貼り付け、周辺にはみ出した部分のフィルムを切り取った。
【0145】このようにして得られた外面側と内面側の両面に反射防止フィルムが貼着されたカバーガラスの視感透過率は98.5%であった。
【0146】<実施例8>アクリル樹脂(PMMA)で平板形状のカバーガラス基材を射出成形で作製し、このカバーガラス基材に実施例7と同様に両面に反射防止膜付きフィルムを貼り付けた。
【0147】このようにして得られた外面側と内面側の両面に反射防止フィルムが貼着されたカバーガラスの視感透過率は98.5%であった。」

(1m)図1

(1n)図2

(1o)図3


(1p)図4

(1q)図5


(1r)図6

〔摘記事項から認定できる事項〕
(1A)摘記事項(1g)、(1n)及び(1q)から、「カバーガラス基材2」は「液晶表示装置30」の「表示面31」に対向して設けられているといえる。

(1B)摘記事項(1j)及び(1r)の記載内容に加えて、摘記事項(1d)の「カバーガラス1の周縁部には、メッキ、印刷等で光を透過しない装飾部11が形成されることが多い。」との記載、および、摘記事項(1j)の「これらの層構成に加えて、ハードコート膜を基材フィルム71と反射防止膜73の間に介在させてもよい。」との記載を参酌すると、甲第2号証には、
「基材フィルム71の一面側に印刷により、基材フィルム71の外周部に形成された光を透過しない装飾部11が設けられ、更にこの装飾部11を覆って粘着剤層72が設けられ、他面側に反射防止膜73が設けられており、基材フィルム71と反射防止膜73の間にハードコート膜が設けられた反射防止フィルム7a」
が記載されているといえる。

(1C)摘記事項(1i)の段落【0120】の「外面側の反射防止フィルム7’には、耐擦傷性を付与するために反射防止膜73と基材フィルム71との間にハードコート膜74を介在させた構造を有する。」との記載及び技術常識からして、ハードコート膜を有する「反射防止フィルム7a」については、「カバーガラス基材2」の外面に貼着することが実質的に記載されているといえる。

〔甲第2号証に記載された発明〕
(引用発明1)
甲第2号証の摘記事項及び図示内容の技術事項(主に、「第3実施形態」、図4(b)の記載事項)を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下「引用発明1」という。)の記載が認められる。

「携帯電話100の筐体20に開口された液晶表示装置30の表示面31を外部から視認できる窓部21を閉塞し、液晶表示装置30を保護するカバーガラス1cであって、
液晶表示装置30の表示面31に対向して設けられるカバーガラス基材2と、
カバーガラス基材2の上面に設けられたハードコート膜3及び反射防止膜4とを有するカバーガラス1c。」

(引用発明2)
「摘記事項から認定できる事項」の(1B)で述べたとおり、甲第2号証には、次の発明(以下「引用発明2」という。)の記載が認められる。

「基材フィルム71の一面側に印刷により、基材フィルム71の外周部に形成された光を透過しない装飾部11が設けられ、更にこの装飾部11を覆って粘着剤層72が設けられ、他面側に反射防止膜73が設けられており、基材フィルム71と反射防止膜73の間にハードコート膜が設けられた反射防止フィルム7a」

(引用発明3)
甲第2号証の摘記事項及び図示内容の技術事項(主に、「第1実施形態」、図3の記載事項)を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下「引用発明3」という。)の記載が認められる。

「携帯電話100の筐体20に開口された液晶表示装置30の表示面31を外部から視認できる窓部21を閉塞し、液晶表示装置30を保護するカバーガラス1であって、
液晶表示装置30の表示面31に対向して設けられるカバーガラス基材2と、
カバーガラス基材2の上面に設けられたハードコート膜3及び反射防止膜4とを有し、
さらに、カバーガラス基材2の液晶表示装置30の表示面31に対向する表面に反射防止膜5を有するカバーガラス1。」

(引用発明4)
甲第2号証の摘記事項(1g)において、反射防止フィルムを大量生産することが記載されており、同(1j)において、反射防止フィルムの基材フィルムに印刷などの手段で装飾部を設けることが記載されている。また、同(1j)には、基材フィルムと反射防止膜の間にハードコート膜を介在させることが記載されていると共に、同(1i)に外面側の反射防止フィルムに、耐擦傷性を付与するために反射防止膜と基材フィルムとの間にハードコート膜を介在させるとしていることからして、同(1j)における基材フィルムと反射防止膜の間にハードコート膜を介在させた反射防止フィルムを外面側の反射防止フィルムとすることも実質的に記載されているに等しい事項といえる。さらに、同(1k)において、反射防止フィルムをカバーガラス基材の外面側と内面側に貼着するカバーガラスの製造工程が記載されている。
そうすると、甲第2号証には、装飾部とハードコート膜とを備える反射防止フィルムを作成し、当該反射防止フィルムをカバーガラス基材の外面側に貼着し、内面側にはハードコート膜を備えない反射防止フィルムを貼着する製造方法が記載されていると認められる。
よって、甲第2号証の摘記事項(1g)?(1k)及び図示内容の技術事項を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下「引用発明4」という。)の記載が認められる。

「携帯電話100の筐体20に開口された液晶表示装置30の表示面31を外部から視認できる窓部21を閉塞し、液晶表示装置30を保護するカバーガラス1eの製造方法であって、
基材フィルム71の一面側に印刷などの手段で、基材フィルム71の外周部に形成された光を透過しない装飾部11が設けられ、更にこの装飾部11を覆って粘着剤層72が設けられ、他面側に反射防止膜73が設けられており、基材フィルム71と反射防止膜73の間にハードコート膜が設けられた反射防止フィルム7aを作成し、
ハードコート膜を有さない反射防止フィルム7を形成し、
カバーガラス基材2を準備し、
カバーガラス基材2の外面にハードコート膜を有する反射防止フィルム7aを貼着し、
カバーガラス基材2の内面にハードコート膜を有さない反射防止フィルム7を貼着する、
液晶表示装置30を保護するカバーガラス1eの製造方法。」

(2)甲第3号証(特開2003-36143号公報参照)の記載事項
甲第3号証には、「インナータッチパネル」に関し、図面の図示と共に次の技術的事項が記載されている。

「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、指やペンなどの接触により情報を入力するタッチパネルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】ガラスやプラスチックフィルムからなる光学的等方性部材や、延伸加工により位相差板としての光学特性をもたせた部材に透明導電膜を形成し、透明電極基板としたタッチパネル式の表示装置が実用化されている。
【0003】タッチパネル式の表示装置においては、表示装置で表示した画像を指やペンでタッチしたり、文字を記入したりするだけではなく、よく使う操作については、その操作に該当する絵、すなわちアイコンが予め印刷されていることが多い。そして従来のタッチパネルにおいては、これらのアイコンが裏面に印刷されたフィルムをタッチパネル裏面に両面テープで固定するなどの方法で配置されている。
【0004】このような従来のタッチパネル式表示装置の概要を図3に基づいて説明する。この図において、タッチパネル部材10は上側面状部材11と下側面状部材12とで構成され、さらに両者の間を所定間隔に保つためのスペーサー15,15が配置されている。上側面状部材11の下面及び下側面状部材12の上面には、それぞれ酸化インジウム錫(ITO)などからなる透明導電膜13,14が形成され、電極を構成している。そして、上側面状部材11側から指やペンなどで押圧することにより、透明導電膜同士が接触して、情報が入力される。一方、タッチパネル部材10の下方には、ディスプレイ60が配置され、そこからの画像を上方で観察するようになっている。
【0005】かかるタッチパネル式表示装置において、アイコンが予め印刷されたフィルムを配置する場合は、アイコン35が裏面に印刷された透明フィルム30を、タッチパネル部材10の裏面(ディスプレイ側)に配置している。この例では、透明フィルム30が、タッチパネル部材10の下側面状部材12の裏面に、接着剤層40を介して貼り合わされている。これらのタッチパネル部材10及びアイコン35が印刷された透明フィルム30で、タッチパネル55が構成されている。
【0006】そしてディスプレイ60が液晶セルである場合、そこを通る偏光を検出するために、その表面に偏光板が配置される。その場合、従来は、ディスプレイ60の出射側直上に偏光板を配置したものが主流であった。また、ディスプレイ60がエレクトロルミネッセンス(EL)タイプである場合にも、ディスプレイ60の出射側直上に円偏光板を配置したものが主流であった。これに対し、最近では視認性向上のために、タッチパネル部材10の視認側(図の最も上側)に偏光板を配置したものが好まれている。このようにタッチパネル部材10の視認側に偏光板を貼り合わせたものは、インナータッチパネルと呼ばれている。
【0007】インナータッチパネルは、偏光板や位相差板の機能により内部反射が大幅に低減でき、屋外でも視認性が良いことから、ディスプレイ付きビデオカメラ(例えば、ソニー(株)の“ハンディカム”、シャープ(株)の“液晶ビューカム”など)や携帯パーソナルコンピュータ、カーナビゲーター、携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistant)など、さまざまなアプリケーションに使われ始めている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、インナータッチパネルにおいては、従来のようにアイコンを印刷したフィルムをタッチパネル部材10の下側に配置する方式では、偏光板や位相差板よりもアイコン印刷部位が下になるため、アイコンが暗くて見えにくくなったり、位相差により色合いが変化したりしてしまい、問題となっていた。
【0009】かかる問題を解決するために、アイコンの表示品位を改善したインナータッチパネルを開発すべく、鋭意研究を行った結果、アイコンが印刷されたフィルムを偏光板よりも観察者側(視認側)に配置することで、表示品位が改善できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、タッチパネル部材の視認側に偏光板が配置され、さらにその偏光板よりも視認側にアイコンの印刷が施されているインナータッチパネルを提供するものである。このインナータッチパネルは、そのタッチパネル部材と面するようにディスプレイ上に配置することで、インナータッチパネル式表示装置となる。
【0011】アイコンの印刷は、例えば、ハードコートフィルムの裏面に印刷し、これを偏光板の上に接着して設けることができる。また、偏光板の表面にアイコンを印刷し、これをハードコートフィルム上に接着して設けることもできる。アイコン印刷部分は、その周囲との高さの差が5μm 以下となるようにするのが、接着時の気泡の混入などをなくすうえで好ましい。そのためには、アイコン印刷のインキ厚みを5μm 以下とすればよい。一方で、アイコンの印刷されない部分にも透明インキで印刷を行い、有色アイコン印刷部分との高さの差を5μm 以下にするのも有効である。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明においては、タッチパネル部材の視認側に偏光板を配置し、さらにその偏光板よりも視認側にアイコンの印刷を施す。アイコンを偏光板よりも視認側に設ける方法としては、二通りが考えられる。一つは、偏光板よりも上に配置するフィルムの裏面に印刷する方法であり、もう一つは、偏光板の表面に印刷し、その上に保護フィルムを配置する方法である。偏光板表面は耐擦傷性が弱いため、ペン入力に対応するためには偏光板の表面にハードコートフィルムを設けることが多い。ハードコートフィルムには、ポリエチレンテレフタレート(PET)やアクリル樹脂など、硬度の高い材料を用いることが好ましい。指入力程度の硬度でよい場合は、トリアセチルセルロースやポリカーボネートなどでも、実用上問題はない。
【0013】ハードコートフィルムを用いる場合、そのハードコート層は通常、タッチパネルの最表面、すなわち空気に触れ、指やペンでタッチされる視認側に設けられるが、そのフィルムの裏面にもハードコートが施されていてもよい。このように片面又は両面にハードコートが施されたフィルムにアイコンを印刷し、それを偏光板の上に配置する場合、片面ハードコートフィルムであればそのハードコートが施されていない面にアイコンを印刷し、また両面ハードコートフィルムであればその一方の面にアイコンを印刷し、それぞれアイコン印刷部を偏光板側にして、両者を貼り合わせればよい。一方、偏光板の表面にアイコンを印刷し、その上にハードコートフィルムを配置する場合、片面ハードコートフィルムであれば、そのハードコートが施されていない面を偏光板のアイコン印刷面に貼り合わせればよいし、両面ハードコートフィルムであれば、その一方の面を偏光板のアイコン印刷面に貼り合わせればよい。
【0014】アイコンを偏光板表面に印刷する場合であっても、ハードコートフィルム裏面に印刷する場合であっても、偏光板とハードコートフィルムは接着することになる。接着には、熱硬化又は紫外線硬化型の接着剤や、感圧粘着剤などが用いられる。ペン入力方式を採用する場合の弾力性を確保し、また薄さや印刷の凹凸に影響されにくいことからは、熱硬化又は紫外線硬化型の接着剤が好ましいが、生産性においては感圧粘着剤の方が好ましい。
【0015】感圧粘着剤で接着する場合、印刷面にインキによる凹凸があると貼り合わせの際に気泡を生じるので、フラットな印刷面にする必要がある。アイコン印刷部分とその周囲との高さの差を5μm 以下とすれば、このような貼り合わせ時の気泡の発生を防ぐことができる。感圧粘着剤を用いた場合でも、インキの凹凸を吸収できるフラットな印刷面を得るためには、インキの厚みを接着剤の厚みより十分に薄くする方法が考えられる。具体的には、25μm の感圧接着剤の場合、凹凸は5μm 以下であればよい。すなわち、アイコン印刷のインキの厚みを5μm 以下とすればよい。また、アイコンの印刷されない透明な部分にも透明なインキで印刷を行うことによっても、アイコン印刷部分との高さの差を5μm 以下としたフラットな印刷面を得ることが可能である。
【0016】偏光板は、一般に用いられているものでよく、例えば、ヨウ素や二色性染料などが吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを偏光子とする、いわゆるヨウ素系偏光板や染料系偏光板が挙げられる。これらの偏光子は通常、耐久性向上のため、その片面又は両面にトリアセチルセルロースやノルボルネン系樹脂などからなる保護フィルムが貼り合わされて、偏光板となっている。
【0017】タッチパネルの方式は、図3に示したような抵抗膜式のほか、電磁誘導式、静電容量式、光学式、超音波式などであることができ、偏光板を組み合わせた各種の方式に本発明を適用することができる。抵抗膜式の場合、上下一対の面状部材でタッチパネル部材を構成することになるが、その材質も特に限定されず、ガラスや透明樹脂が用いられる。下側面状部材をガラスで構成し、上側面状部材(タッチにより押圧される側)を樹脂で構成することにより、押圧側に可撓性を持たせるのも有効である。
【0018】本発明のインナータッチパネルを表示装置に適用するにあたり、ディスプレイ自体は特に限定されるものでなく、液晶ディスプレイのほか、無機エレクトロルミネッセンス(無機EL)ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイ、陰極線管(CRT)などが挙げられ、いずれを用いても本発明の効果に変わりはない。
【0019】次に、本発明に係るインナータッチパネル及びそれを組み込んだ表示装置の例を、図1及び図2に基づいて説明する。
【0020】図1は、アイコン35が印刷された透明フィルム30を偏光板20の表面(視認側)に配置した例である。この例では、タッチパネル部材10が上側面状部材11と下側面状部材12とで構成され、両者の間を所定間隔に保つためのスペーサー15,15が配置されている。上側面状部材11と下側面状部材12のそれぞれ対向する面には、酸化インジウム錫(ITO)などの透明導電膜13,14が形成されて、抵抗膜式タッチパネルとなっている。そして、タッチパネル部材10の上側面状部材11の上には、偏光板20が配置され、さらにその上には、アイコン35が裏面に印刷された透明フィルム30が、アイコン35の印刷面を偏光板20側にして配置される。この例では、透明フィルム30の片面にハードコート層31が形成され、その反対側の面にアイコン35が印刷されている。アイコン35が印刷された透明フィルム30と偏光板20との間、及び偏光板20とタッチパネル部材10の上側面状部材11との間は、それぞれ接着剤層41,42で接着される。これらのタッチパネル部材10、偏光板20、及びアイコン35が印刷された透明フィルム30で、インナータッチパネル50が構成されている。その下方にディスプレイ60が配置されて、インナータッチパネル式表示装置となる。
【0021】図2は、偏光板20の表面にアイコン35を印刷し、そのアイコン35を視認側として、さらにその上に透明フィルム30を積層した例である。この例において、タッチパネル部材10とディスプレイ60の配置は図1と同じである。そして、タッチパネル部材10の上側面状部材11の表面に配置する偏光板20の視認側表面には、アイコン35が印刷されている。またこの例では、アイコン35と別のアイコン35の間に、透明インキによる印刷層37を設けることにより、アイコン35の印刷部との高さの差をなくしている。このように、アイコンの印刷されない透明部分にも透明インキで印刷を行い、有色印刷部(アイコン部分)との高さの差を5μm 以下にしておけば、接着時の段差による気泡の混入等が防止でき、良好な表示品位が保たれる。この例でも、透明フィルム30の片面にはハードコート層31が形成されており、その面を視認側(タッチ面)とし、その裏側が、偏光板20のアイコン35及び透明印刷層37が印刷された面に、接着剤層41を介して接着される。また、偏光板20の裏側とタッチパネル部材10の上側面状部材11との間も、接着剤層42で接着される。これらのタッチパネル部材10、アイコン35が印刷された偏光板20、及び透明フィルム30で、インナータッチパネル50が構成されている。
【0022】図示した例は以上のとおりであるが、これらの図は本発明の基本的な構成を示すものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、偏光板20とタッチパネル部材10の間には、位相差板を配置することがあるし、また、タッチパネル部材10の上側面状部材11自体を位相差板で構成することも可能である。さらに、タッチパネル部材10とディスプレイ60の間にも、別途位相差板を配置することがある。
【0023】タッチパネルの最表面となる偏光板やハードコートフィルムの表面には、その他の付加機能を付与することもできる。例えば、表面に微細な凹凸を形成し、防眩性を付与したアンチグレア処理や、誘電多層膜による反射防止処理、さらにはフッ素化合物やシリコン化合物による防汚処理を施すこともできる。
【0024】
【実施例】以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0025】実施例1
ハードコートが片面に施された125μm 厚のポリエチレンテレフタレートフィルムのハードコート層と反対側の面に、シルク印刷によりインキ厚み5μm でアイコンを印刷して、アイコンフィルムを作製した。このアイコンフィルムを偏光板の表面に、アイコン印刷面が偏光板側となるように厚み25μm の粘着剤で貼り合わせ、さらに偏光板の反対側の面を等方性タッチパネルの上面に粘着剤で貼り合わせて、インナータッチパネルを作製した。このタッチパネルの下方に液晶ディスプレイを配置して、図1に示す層構成のインナータッチパネル式表示装置とした。この表示装置を観察したところ、気泡等の混入もなく、アイコン表示が明るくて見やすいものであった。
・・・(中略)・・・
【0028】
【発明の効果】本発明によれば、アイコンの表示品位を損なわないインナータッチパネルを得ることができる。」

(3)甲第5号証(特開2002-72214号公報参照)の記載事項
甲第5号証には、「液晶表示用装置」に関し、図面の図示と共に次の技術的事項が記載されている。

(3a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、透明保護板を有する液晶表示装置に関するものであり、詳しくは、保護板を有し、明るさ、視認性及び視野角特性の改良された液晶表示装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】情報機器の多様化、携帯端末の小型軽量化の流れから、鉛筆で紙に書く感覚で操作できるペン入力技術が重要になってきており、タッチパネルを具備した入力表示一体型の表示装置が広く使用されている。かかるタッチパネルとして、光学式、超音波式、抵抗膜式、静電容量式、電磁誘導式などの各方式が実用化されているが、いずれの方式においても通常は、入力信号検出のため、あるいは画面保護のために透明保護板が上面に用いられている。すなわち、タッチパネルの上面に透明保護板を設けるか、あるいは透明保護板自体がタッチパネルを構成するようになっている。また、表示には、薄型小電力の液晶表示装置が多く使用されているが、強誘電液晶パネルは、外部衝撃を受けると配向欠陥を生じるため、その前面に配置される透明保護板が、かかる外部衝撃から液晶層を保護する役割も果たしている。
【0003】このような透明保護板を有する液晶表示装置においては、液晶表示パネルからの表面反射だけでなく、透明保護板からの反射もあり、明るい室内あるいは屋外では表示が極めて見にくくなる。このような視認性の問題を解決するために、特開平 5-127822 号公報には、λ/4板と偏光板との組合せである円偏光板の使用が提案されている。また特開平 10-48625 号公報には、円偏光板を有するタッチパネルと液晶表示装置との間に別のλ/4板を配置し、表示品位を改善する方法が提案されている。後者の公報には、円偏光板を構成するλ/4板と別のλ/4板は、両者の配向軸(光軸)が同方向になるか、又は直交するように配置されると記載され、ただ視認性の良さから直交する方向に配置するのが好ましいとされている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このように、円偏光板を構成するλ/4板と別のλ/4板の配向軸を直交させて位相差を相殺させる構成では、斜めから見た場合に表示が黄色くなる問題があることがわかった。また、2枚のλ/4板を両者の配向軸が平行となるように配置し、λ/2板として機能させる場合は、上記公報にも記載されるとおり、視認性が劣ることになる。
【0005】そこで本発明者は、このような問題を解決するために鋭意研究を行った結果、円偏光板を構成するλ/4板とは別に、保護板と液晶パネルの間に少なくとも2枚の位相差板を配置することにより、正面の表示品位を保ちつつ、斜め方向の着色が改善できることを見出し、本発明に至った。
【0006】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、λ/4板と偏光板と透明保護板との積層保護パネルが、間隔を設けて液晶パネルの上面に配置され、積層保護パネルと液晶パネルの間に少なくとも2枚の位相差板が配置されている液晶表示装置を提供するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、図面も参照しながら、本発明についてさらに詳細に説明する。図面中、図1?図3は、本発明に係る液晶表示装置の層構成について、いくつかの例を模式的に示す断面図である。図4及び図5は、45°の直線偏光を発する液晶パネルを使用した場合の偏光変換の概念をポアンカレ球上に示したものであって、図4は従来技術に従って、円偏光板を構成するλ/4板及び、積層保護パネルと液晶パネルの間の位相差板を、それぞれの配向軸が直交するように配置した場合を表し、図5は本発明に従って、円偏光板を構成するλ/4板のほか、積層保護パネルと液晶パネルの間に2枚の位相差板をそれぞれの配向軸を違えて配置した場合を表す。図6は、λ/4板ないし位相差板の配向軸と偏光板の吸収軸の配置角度を説明するための図である。また図7は、後述する実施例において、本発明を抵抗膜式タッチパネルに応用した場合の層構成を模式的に示す断面図である。
【0008】図1?図3に示す液晶表示装置において、λ/4板1と偏光板2は、それぞれの光学軸が相対的に約45゜の角度をなすように組み合わされ、円偏光板を形成している。この円偏光板は、外部からの入射光による内部反射を効率よく吸収する反射防止フィルターとして機能する。円偏光板は、図1に示す如く透明保護板3の前面に配置されてもよいし、図2に示す如く背面に配置されてもよく、また図3に示す如く分離されて配置されてもよい。これらのλ/4板1、偏光板2及び透明保護板3が積層保護パネル10を構成している。一方、液晶パネル20は通常、液晶セル5とその両面に配置される上偏光板6及び下偏光板7とで構成されるが、上偏光板6を省略することも可能である。明るさを重視する場合には、上偏光板6はない方が好ましく、逆にコントラストを重視する場合には、上偏光板6はある方が好ましい。
【0009】偏光板2は、液晶表示分野で通常用いられているものであることができ、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂にヨウ素や二色性染料のような二色性物質が吸着配向された一軸延伸フィルムなどが好適であり、通常はかかる二色性物質が吸着配向された一軸延伸フィルムの両面に保護フィルムが積層された状態で用いられる。液晶表示パネル20を構成する上偏光板6及び下偏光板7についても同様である。
【0010】透明保護板3が偏光板2の下側に配置される場合、この保護板3は光学的に等方性の材料であるのが好ましく、ガラスや無配向の高分子フィルムなどが適している。さらに、透明保護板3がタッチパネルであってもよい。それが抵抗膜式のタッチパネルである場合、λ/4板1や偏光板2は、直接抵抗膜を形成して、タッチパネルを構成する部材を兼ねていてもよい。
【0011】本発明においては、λ/4板1と偏光板2と透明保護板3とが積層された保護パネル10と液晶パネル20との間に、少なくとも2枚の位相差板を配置する。図1?図3では、2枚の位相差板8,9を配置した例を示している。これらの位相差板8,9は、積層保護パネル10と液晶パネル20との間にあればよく、積層保護パネル10の背面に貼合されていてもよいし、液晶パネル20の前面に貼合されていてもよい。もちろん、第一の位相差板8は液晶パネル20の前面に貼合し、第二の位相差板9は積層保護パネル10の背面に貼合するようにしてもよい。また、これらの位相差板8,9を、積層パネル10と液晶パネル20との間に単に置くだけでもかまわない。ただし、反射防止効果の観点からは、これらの位相差板8,9は、液晶パネルの表面に貼り合わせるのが好ましい。
【0012】これらの位相差板8,9は、液晶パネル20からの表示光が、λ/4板1と偏光板2とで円偏光板の形成された積層保護パネル10を効率よく透過するために配置される。前記特開平 10-48625 号公報で提案されているように、積層保護パネル10を構成するλ/4板1と配向軸が直交するように、積層保護パネル10と液晶パネル20との間に別のλ/4板を1枚配置し、積層保護パネル10を構成する偏光板2と液晶パネル20の上偏光板6の吸収軸が平行となるように配置した場合、正面レターデーションが相殺されるため、正面から見た表示光は保護板を効率よく透過し、良好な表示品位を与える。しかし、このような位相差フィルムが2枚直交される構成では、斜めから見た場合、レターデーションの角度変化による影響から、黄色みをおびた表示光となってしまう。これは、斜め方向では、一方のλ/4板のレターデーションは増加し、もう一方のλ/4板のレターデーションは減少することから、レターデーションが相殺されなくなるためである。
【0013】そこで本発明では、液晶パネル20からの表示光に含まれる赤、緑及び青の三原色すべてが、積層保護パネル10を構成する円偏光板を効率よく透過するように、積層保護パネル10と液晶パネル20の間に少なくとも2枚の位相差板を配置し、偏光変換する点に特徴を有する。つまり、使用するλ/4板や位相差板の波長分散を考慮して、赤、緑及び青の三原色すべてがほぼ同じ直線偏光に変換され、積層保護パネル10を透過するように最適化を行うものである。
【0014】図4及び図5は、45°の直線偏光を発する液晶パネルを使用した場合の、赤(R)、緑(G)及び青(B)の三原色について、偏光変換の軌跡をポアンカレ球(偏光の状態を球面上の1点に対応させて表示する球面)上に模式的に示したものである。ポアンカレ球では、赤道が各振動方向の直線偏光状態を表し、北極及び南極が円偏光状態を表している。図4及び図5においては、三原色のうち赤の偏光変換の軌跡を破線で、緑の偏光変換の軌跡を実線で、そして青の偏光変換の軌跡を一点鎖線でそれぞれ表している。また、一枚目の位相差板を通るときの赤、緑及び青の偏光変換の軌跡をそれぞれR1、G1及びB1で表し、二枚目の位相差板(図4ではλ/4板)を通るときの赤、緑及び青の偏光変換の軌跡をそれぞれR2、G2及びB2で表し、そして図5で三枚目の位相差板(λ/4板)を通るときの赤、緑及び青の偏光変換の軌跡をそれぞれR3、G3及びB3で表している。なお、赤、緑及び青とも、本来は同じ場所からスタートし、2枚又は3枚の位相差板を通過した後は同じ場所に到達するのであるが、平面上での図示の都合から、スタート位置及び最終到達位置は左右にずらして表示している。
【0015】積層保護パネル10を構成するλ/4板1と配向軸が直交するように、積層保護パネル10と液晶パネル20の間にλ/4板を1枚配置した場合は、図4に示す如く、同じ軌跡をたどって元の偏光状態に戻る。一般の位相差板では、波長の短い光ほど位相差が大きくなる傾向にあるため、三原色の中では青色光に最も位相差が大きく現れ、次いで緑色光、赤色光の順に位相差が小さくなるが、いずれも同じ軌跡をたどって元の偏光状態に戻ることになる。これに対し、本発明に従って積層保護パネル10と液晶パネル20の間に2枚の位相差板を所定の角度で配置した場合には、例えば図5に示す如く、45°の直線偏光が第一の位相差板8により、赤色光はR1のように、緑色光はG1のように、そして青色光はB1のように、それぞれ変換される。その際、赤色光、緑色光及び青色光が分散するので、第二の位相差板9で折り返しながら、積層保護パネル10を構成するλ/4板1の波長分散にあった円偏光となるよう、それぞれR2、G2及びB2へと変換が行われる。最後に、積層保護パネルを構成するλ/4板1により、R3、G3及びB3へと変換が行われ、赤、緑及び青の三原色が効率よく積層保護パネル10を透過することになる。
【0016】このように、少なくとも3回の変換を繰り返すことで、レターデーションを相殺しなくても良好な表示が得られるようになる。また、斜め方向からの黄色みには、前に説明したように、円偏光板を構成するλ/4板と液晶パネルの上に配置される位相差板のレターデーションの角度変化が影響しているが、本発明のように複数の位相差板8,9がいろいろな角度で配置されるような構成では、それぞれのレターデーション変化の偏光変換へ及ぼす影響は低減される傾向にある。そのため本発明では、液晶表示装置を斜め方向から見たときの色変化が改良できるようになる。
【0017】そこで、円偏光板を構成するλ/4板1及び積層保護パネル10と液晶パネル20の間に配置される少なくとも2枚の位相差板は、互いの配向軸が平行となるように配置するのではなく、互いにある程度の角度をもたせるのが好ましい。例えば、図1?3のように2枚の位相差板8,9を用いる場合は、λ/4板1の配向軸は第一の位相差板8と第二の位相差板9の配向軸の間にあるのが好ましく、さらには、λ/4板1の配向軸に対して、一方の位相差板の配向軸が+10?+80°程度、他方の位相差板の配向軸が-10?-80°程度となるように配置するのが好ましい。また、λ/4板1の配向軸を中心に2枚の位相差板8,9の配向軸を対称とする必要はないが、2枚の位相差板8,9は、両者の配向軸が約30°以上となるように配置するのが好ましい。3枚以上の位相差板を用いる場合も同様であって、それらとλ/4板1とが、それぞれ適当な角度で配向軸が交わるように配置すればよい。
・・・(中略)・・・
【0021】本発明の液晶表示装置において、積層保護パネル10の表面には、付加機能を付与することもできる。例えば、表面に傷つき防止のための透明なハードコート層を設けることができる。ハードコート層は、塗布によって形成するか、あるいはハードコートフィルムの貼合によって形成することができる。また、外光の反射を防止するため、表面に微細な凹凸を形成して外光を乱反射させるアンチグレア層や、誘電体薄膜の多層膜からなる反射防止層を形成することもできる。さらに、反射防止層を形成した透明なハードコートフィルムを貼合したり、ハードコート層上に反射防止層を形成したりすることもできる。
【0022】
【実施例】以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、これらの例において、λ/4板ないし位相差板の配向軸及び偏光板の吸収軸は、図6に示すように、ある方向(図では横方向)を0°とし、反時計回りに角度が進むように表示する。また、例中のレターデーション値は、測定波長550nmでの値である。
【0023】実施例1
ここでは、透明保護板として等方性の抵抗膜式タッチパネルを用い、図7に示すような、上から順に、(偏光板2)/(λ/4板1)/(タッチパネル4)/(第二の位相差板9)/(第一の位相差板8)/(液晶パネル20)の層構成からなるタッチパネル式液晶表示装置を例に、適宜図中の番号を引用しながら説明する。
【0024】住友化学工業社で販売しているポリカーボネート製のλ/4板“SEF340138B”(レターデーション値138nm、λ/4板1とする)の配向軸を90゜とし、偏光板2の吸収軸が45゜となるように両者を貼り合わせ、さらにそのλ/4板1側を等方性の抵抗膜式タッチパネル4の上面に貼り合わせて、円偏光板付きタッチパネル11とした。一方、上偏光板6の吸収軸が135゜に配置された液晶パネル20の表面に、住友化学工業社で販売しているポリカーボネート製位相差板“SEF460275B”(レターデーション値275nm、第一の位相差板8とする)を、配向軸が60゜となるように貼り合わせ、さらにその上に同社で販売している別のポリカーボネート製位相差板“SEF340120B”(レターデーション値120nm、第二の位相差板9とする)を、配向軸が120゜となるように貼り合わせた。こうして2枚の位相差板8,9が貼合された液晶パネル20の上面(第二の位相差板9側)に、上記の円偏光板付きタッチパネル11を、タッチパネル4が下になるように配置して、タッチパネル式液晶表示装置とした。
・・・(中略)・・・
【0029】
【発明の効果】本発明によれば、反射防止機能を備え、視認性に優れた、タッチパネル方式などの液晶表示装置とすることができ、また視野角特性も改善することができる。」

(3b)図3


(3c)図7


(4)甲第6号証(特開2003-255847号公報参照)の記載事項
甲第6号証には、「携帯機器の表示面の保護に用いられるカバーウインドウの技術」に関し、図面の図示と共に次の技術的事項が記載されている。

(4a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、携帯機器の表示装置の表示面の保護に用いられるカバーウインドウの技術に関する。
【0002】
【従来の技術】携帯電話等の液晶表示装置を備えた携帯機器では、液晶表示装置の表示面は薄い無機ガラスで構成されているため、携帯機器の外面に液晶表示装置が露出していると、使用中の外力や衝撃により液晶が割れてしまうおそれがある。そのため、液晶表示装置を筐体内のやや奥まった位置に収納し、筐体に表示面を視認できる窓部を設け、この窓部を閉塞するように透明なカバーウインドウを固定し、カバーウインドウで液晶表示装置の表示面を保護する構成が採用される。
【0003】図5に示すように、携帯電話200の筐体の前面にカバーウインドウ100が配置され、表示装置はカバーウインドウ100で覆われた内部に配置され、表示装置の表示面220はカバーウインドウ100を通して視認する。通常、カバーウインドウ100の外周部の内面には、表示装置の表示面220の周囲を覆って額縁状に遮光する装飾部103が設けられている。
【0004】図6に、従来のカバーウインドウの製造工程と携帯機器への組み付け工程とを示す。
【0005】カバーウインドウを構成するカバーウインドウ基材には、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂などの透明樹脂が用いられる。カバーウインドウの製造方法には、予め射出成形等でカバーウインドウの形状に成形した個々のカバーウインドウ基材に所定の処理を施す方法と、大判のカバーウインドウ基材に所定の処理を施した後、切断等で個々のカバーウインドウの形状に形成する方法とがある。
・・・(中略)・・・
【0007】
【課題を解決するための手段】しかしながら、上述したカバーウインドウの製造工程によれば、多色刷りの装飾部103を形成する場合は、スクリーン印刷を複数回行うので、スクリーン印刷、その後の乾燥の工程が複数回繰り返されることから、生産性が悪く、生産コストが高いという問題がある。また、スクリーン印刷不良が発生すると、カバーウインドウ基材101を廃棄しなければならず、生産コストの上昇を招くという問題がある。
【0008】その上、ハードコート膜102は印刷適性に劣り、スクリーン印刷が困難な場合もあるという問題がある。
【0009】また、従来のカバーウインドウ100の装飾部103は、スクリーン印刷で形成されているため、印刷の色がそれほど美しくなく、意匠的に劣る場合があるという問題がある。
【0010】更に、従来のカバーウインドウ100は、曲げ剛性、耐衝撃性、耐荷重性が不十分な場合があり、大きな力を受けると割れてしまう場合があるという問題がある。
【0011】本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、カバーウインドウの装飾部の生産性を良好にできると共に、装飾部形成過程で生産コストの上昇を招くことのない技術を提供することを目的とする。
【0012】また、本発明は、上記の目的に加えて装飾部を容易に形成できる技術を提供することを目的とする。
【0013】また、本発明は、上記の目的に加えて美しい装飾部を形成できる技術を提供することを目的とする。
【0014】また、本発明は、カバーウインドウの曲げ剛性、耐衝撃性、耐荷重性を高めることができる技術を提供することを目的とする。
【0015】更に、本発明は、これらの技術を用いたカバーウインドウを提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、カバーウインドウに貼り付けられる固定用の両面粘着テープに着目し、この両面粘着テープに装飾部を形成した両面粘着シートとすることが有効であることを知見した。
【0017】即ち、両面粘着テープは、基材シートの両面に粘着剤層が設けられている構造を有し、この基材シートに装飾部を形成することにより、両面粘着テープが装飾部を取り付ける部品として機能し、装飾部の形成方法としてグラビア印刷等の生産性の良い印刷方法を採用できること、直接カバーウインドウ基材に印刷しないので、印刷不良が発生してもカバーウインドウ基材を廃棄せずに済み、生産コストを低減できること、基材シートに対する印刷は、ハードコート膜に対するスクリーン印刷よりも容易であることを見い出した。
【0018】また、カバーウインドウの装飾部と両面テープは表示装置の表示面の周囲に配置されており、表示装置の表示面に対応する部分がくり抜かれていれば、両面粘着シートの基材シートとして金属箔や白色フィルムのような光不透過性のものを用いることができ、このような基材シートを装飾部の下地として用いることによって、これまでにない美しい装飾部を形成できることを見い出した。
【0019】また、両面粘着シートの基材シートと粘着剤層に透明性の高いものを用いてカバーウインドウ基材全面に貼り付けることによって、カバーウインドウの曲げ剛性、耐衝撃性、耐荷重性を高めることができ、割れを防止することができることを見いだした。
・・・(中略)・・・
【0029】
【発明の実施の形態】以下、本発明の両面粘着シート及びカバーウインドウの実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0030】本発明のカバーウインドウは、携帯機器の筐体の窓部に固定されて筐体の内部を透視する用途に用いられるもので、携帯機器の表示装置の表示面に直接物が当たらないように、筐体内部に収納した液晶表示装置の表示面を被覆して表示面を保護し、表示面を視認するために用いられる用途が代表的である。
【0031】携帯機器としては、携帯電話、携帯ゲーム機、デジタルカメラ、携帯無線通信機、携帯ラジオ、腕時計、携帯音響機器等の表示装置の表示面の保護に用いることができる。表示装置としては、液晶表示装置が代表的である。
【0032】本発明の両面粘着シートは、このようなカバーウインドウに貼着されてカバーウインドウの装飾部を構成する部品としての機能と、携帯機器の筐体に貼着して固定するための固定用部品としての機能とを有するものである。
【0033】まず、第1実施形態のカバーウインドウについて図1及び図2を参照して説明する。図1は、第1実施形態のカバーウインドウを構成する両面粘着シートとカバーウインドウ基材とに分離したそれぞれの断面構造を示す。図2(a)は、大判の基材シートから複数個の両面粘着シートを形成する状態を説明する平面図、図2(b)は(a)矢印の断面図である。
【0034】図1に示すカバーウインドウ1aは、第1実施形態の両面粘着シート2aを第1実施形態のカバーウインドウ基材3aに貼着した構造を有する。
【0035】第1実施形態の両面粘着シート2aは、形状はカバーウインドウ1aの装飾部の形状と同一形状で、外形がカバーウインドウ基材3aの外形と同じに形成され、中央の表示装置の表示面に対応する矩形部分がくり抜き部20となったリング状となっている。
【0036】両面粘着シート2aは、基材シート21a上に各種の層が設けられている構造となっている。基材シート21aのカバーウインドウ基材3aに貼着される側の面を上面、携帯機器の筐体に貼着される側の面を下面とする。基材シート21aの上面には、基材シート21aの印刷適性を良好にする処理層22を介して装飾部24が設けられている。また、装飾部24の上には、透明保護層25を介して透明な第1粘着剤層26が設けられている。基材シート21aの下面には第2粘着剤層27が設けられている。
【0037】基材シート21aは、くり抜き部20を通して表示装置の表示面を視認できるため、光透過性であっても光不透過性であっても良い。とりわけ、光不透過性とすることによって遮光性が良好になり、装飾部24の下地として装飾部24の色を美しくすることができる。基材シート21aとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、トリアセテート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、セロファン等の透明樹脂又はこれらの樹脂に着色剤を配合した着色樹脂、アルミニウム、錫、銅などの展延性に優れた金属箔を例示することができる。基材シート21aの厚さは、5μm?200μm、好ましくは10?150μmの範囲が通常である。着色剤としては、樹脂に練り込むことができる各種の顔料、染料を選択することができ、例えば白色顔料であるチタンホワイト、黒色顔料であるカーボンブラックを例示することができる。樹脂基材シートには光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを配合することができる。
【0038】基材シート21aと装飾部24との間に介在する処理層22は、基材シート21aの印刷適性が良好であれば不要である。処理層22としては、コロナ放電、粗面化処理、無機質充填材を配合した接着剤、プラズマ処理、各種の有機樹脂で構成されるバインダを例示することができる。
【0039】装飾部24は、カバーウインドウの装飾部を構成するもので、印刷、メタライジング、塗装、ホットスタンピングなどの表面加飾方法で形成することができる。印刷としては、インクジェットによる印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、パッド印刷などを例示することができる。メタライジングには、メッキ法、真空蒸着法などがある。装飾部24は基材シート21a上の必要な部分に形成される。装飾部24は、基材シート21aが例えばアルミニウム箔や白色の樹脂シート等で構成され、基材シート21aだけで十分な加飾性が得られれば、設けずに済む場合がある。
【0040】装飾部24の上に設けられている透明保護層25は、第1粘着剤層26を形成する際の溶剤などで装飾部24が侵されないように装飾部24を保護する機能を有する。装飾部24の保護が必要ないときには、透明保護層25は省略可能である。透明保護層25としては、透明性が良好であると共に、耐溶剤性に優れた材質のフィルムやコーティングが選択される。フィルムとしては、上記透明樹脂が例示され、透明粘着剤又は透明接着剤を用いて装飾部24に接着される。
【0041】第1粘着剤層26は、これを透過して装飾部24を視認するため、光透過性である必要がある。粘着剤層26としては、ゴム系、アクリル系、ビニルエーテル系、ウレタン系、シリコーン系等があり、形態としては、溶剤型、エマルジョン型などがある。特に透明性、耐候性等からアクリル系、シリコーン系の粘着剤が好ましい。粘着剤層26の厚さは、通常25?250μm程度である。
【0042】粘着剤層26の形成方法としては、例えばスクリーン印刷、リバースロールコータ、ナイフコーター、バーコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター等が用いられる。
【0043】基材シート21の下面に設けられている第2粘着剤層27は、光透過性である必要はない。第2粘着剤層27は、第1粘着剤層26と同様のものを用いて同様に形成することができる。
【0044】このような両面粘着シート2aの製造方法は、例えば、アルミニウム箔、白色顔料を含有した白色のポリエステルフィルム等を基材シート21aとして用いる。大判の基材シート21aの上面の全面に処理層22を形成し、次に、装飾部24を処理層22の装飾部を必要とする部分にグラビア印刷等で形成する。その後、透明保護層25を全面に形成する。第1粘着剤層26を基材シートの上面の全面に設ける。次に、図2(b)に示すように、第1剥離紙41を第1粘着剤層26の上に貼り付け、次に、第2粘着剤層27を基材シート21aの下面に設け、第2粘着剤層27の上に第2剥離紙42を貼り付ける。そして、図2(b)に示すように、第2剥離紙側42から第1剥離紙41を残して両面粘着シート2aをカバーウインドウの外形の形状とその内側の表示装置の表示面の矩形状にそれぞれ金型で打ち抜き50を形成することにより、図2(a)に示すように、大判の両面粘着シートから複数の個々の両面粘着シート2aを製造することができる。
【0045】このような第1実施形態の両面粘着シート2aが貼り付けられるカバーウインドウ基材3aについて説明する。カバーウインドウ基材3aの両面粘着シート2aが貼り付けられる側の面を内面、その反対側の面を外面とする。図1に示すように、このカバーウインドウ基材3aは、透明樹脂基板30の外面と内面の両面にハードコート膜31が設けられ、更に、ハードコート膜31の上に反射防止膜32が外面と内面の両方に設けられている構造を有する。これらのハードコート膜31、反射防止膜32は必ずしも必要ではなく、全く設けなくてもよい。また、ハードコート膜31は外面のみに、反射防止膜32も外面のみ又は内面のみに設けることができる。
【0046】透明樹脂基板30としては、例えば、ポリ(メチル)メタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂等が用いられる。透明樹脂基板30の成形方法は一般的には射出成形であるが、薄板からカバーウインドウ形状に切り出してもよい。
【0047】ハードコート膜31は、透明樹脂基板30に耐擦傷性を付与すると共に、一般的に透明樹脂基板30に対する反射防止膜32の密着性が良くないため、カバーウインドウ基材と反射防止膜の間に介在させて反射防止膜32の密着性を良好にして剥離を防止する働きを有する。内面側の反射防止膜32では、それほど密着性を要求されないため、ハードコート膜31を設けなくてもよい。
・・・(中略)・・・
【0059】第1実施形態のカバーウインドウ1aは、図1に示すように、上述のようにして得られた大判の両面粘着シートからリング状の個々の両面粘着シート2aを第1剥離紙41から剥離し、個々の両面粘着シート2aを第2粘着シート42が残存したままでカバーウインドウ基材3aの内面に貼り付けることにより、製造される。携帯機器に装着するときは、第2粘着剤層27の上の第2剥離紙42を剥がし、第2粘着剤層27を介して携帯機器の筐体210に貼り付ける。
【0060】第1実施形態の両面粘着シート2aは、従来、カバーウインドウ基材にスクリーン印刷等で設けていた装飾部24をカバーウインドウ基材に組み付ける部品として機能すると共に、従来の両面粘着テープとしても機能する。
【0061】第1実施形態の両面粘着シート2aは、装飾部24を多色刷りの生産性が良好なグラビア印刷等で形成できるため、生産性が良く、生産コストを低下させることができる。また、装飾部の印刷不良が発生しても、その部分の両面粘着シートを破棄すればよいので、生産に無駄が少なくなり、生産コストを低減することができる。
【0062】また、装飾部24は、従来のように印刷適性が良くないハードコート膜の上ではなく、基材シート21aの上に形成するので、印刷が容易になり、この点でも不良発生を抑制することができる。しかも、基材シート21aとして、アルミニウム箔や白色の樹脂フィルム等の光不透過性のものを用いることができるため、遮光性が良好で、その上に形成される装飾部を美しく見せることができ、見栄えがよい装飾部24を形成することができる。
【0063】このような両面粘着シート2aが貼り付けられたカバーウインドウ1aは、カバーウインドウ基材3aの内面の外周部に両面粘着シート2aが貼り付けられているため、カバーウインドウ1aの曲げ剛性、耐衝撃性、耐荷重性がやや向上し、割れ難い特性を備える。
【0064】次に、本発明の第2実施形態のカバーウインドウについて、図3及び図4を参照して説明する。図3は、第2実施形態のカバーウインドウを構成する両面粘着シートとカバーウインドウ基材とに分離したそれぞれの断面構造を示す。図4は、カバーウインドウ基材に大判の両面粘着シートを貼着した状態で切断してカバーウインドウを形成する場合の断面構造を示す。
【0065】図3に示す第2実施形態のカバーウインドウ1bは、第2実施形態の両面粘着シート2bを第2実施形態のカバーウインドウ基材3bの内面側に貼着した構造を有する。
【0066】第2実施形態の両面粘着シート2bは、透明基材シート21bの上面の装飾部を形成すべき領域に処理層22を介して装飾部24が設けられ、装飾部24の上に透明保護層25が形成され、透明基材シート21bの最外面の全面に第1粘着剤層26が設けられている。透明基材シート21bの装飾部24に対応する部分の下面に第2粘着剤層27が設けられ、第2粘着剤層27が設けられていない透明基材シート21bの表示装置の表示面に対応する矩形部分に反射防止膜28が設けられている構造を有する。第1実施形態と同様に、処理層22と透明保護層25は必要により設けられる。
【0067】第2実施形態の両面粘着シート2bでは、基材シート21bは光透過性である必要がある。基材シート21bの素材としては、上述した透明樹脂を例示することができる。また、処理層22、装飾部24、透明保護層25、第1粘着剤層26及び第2粘着剤層27は上述した第1実施形態と同様である。反射防止膜28も、カバーウインドウ基材3aに設けられる反射防止膜32と同様である。反射防止膜28も、それほど反射防止が要求されない場合は、設けなくてもよい。
【0068】第2実施形態の両面粘着シート2bが貼り付けられる第2実施形態のカバーウインドウ基材3bは、透明樹脂基板30の外面にのみハードコート膜31と反射防止膜32が設けられている。内面は両面粘着シート2bが貼り付けられるため、これらを設ける必要がない。なお、外面のハードコート膜31と反射防止膜32は場合によっては設けなくてもよい。また、反射防止膜32には、上述した撥水処理を施すことができる。カバーウインドウ基材3bは、大判であっても、カバーウインドウの外形に成形されていても、あるいは板状から切り抜かれていても良い。
【0069】第2実施形態の両面粘着シート2bの製造方法は、例えば大判の透明樹脂シート21bの上面に選択的に処理層22、装飾部24及び保護層25を形成し、透明樹脂シート21bの上面全面に第1粘着剤層26を形成し、第1粘着剤層26の上に図示しない第1剥離紙41を貼り付ける。また、透明樹脂シート21b下面に選択的に第2粘着剤層27を形成し、第2剥離紙42を貼り付ける。その後、表示装置の表示面に対応する矩形部分の第2剥離紙42を切り抜き、分離し、表示装置の表示面に対応する矩形部分の透明樹脂シート2bの内面を露出させる。
【0070】カバーウインドウ基材3bが大判の場合は、図4に示すように、反射防止膜が未形成の両面粘着シートの第1剥離紙41を剥がし、第1粘着剤層26を介して大判の透明樹脂シート21bをカバーウインドウ基材3bの内面に全面的に貼り付ける。その後、好ましくはカバーウインドウ基材3bの外面に反射防止膜32を形成し、更に、両面粘着シート2bの下面の表示装置の表示面に対応する矩形部分に反射防止膜28を形成する。最後に、カバーウインドウ基材3bに両面粘着シート2bを貼り付けた状態でこれらをNCやレーザーで所定のカバーガラスの外形の形状の切断線51に沿って切り取ることによって、第2実施形態のカバーウインドウ1bを得ることができる。
【0071】カバーウインドウ基材3bが個々のカバーウインドウの形状に形成されているときは、大判の両面粘着シートから金型で個々のカバーウインドウの形状に両面粘着シートを打ち抜き、第1剥離紙41を剥がし、第1粘着剤層26を介して両面粘着シート2bを全面的にカバーウインドウ基材に貼り付ける。その後、反射防止膜を両面粘着シート2bの下面に形成することによって第2実施形態のカバーウインドウ1bを得ることができる。
【0072】第2実施形態のカバーウインドウは、従来、カバーウインドウ基材にスクリーン印刷等で設けていた装飾部24を両面粘着シート2bに設けて別体としている。これにより、多色刷りの生産性が良好なグラビア印刷等で装飾部24を形成できるため、生産性が良く、生産コストを低下させることができる。また、装飾部の印刷不良が発生しても、両面粘着シートを破棄すればよいので、生産に無駄が少なくなり、生産コストを低減することができる。しかも、装飾部24は、従来のように印刷適性が良くないハードコート膜の上ではなく、基材シート21bの上に形成するので、印刷が容易になり、印刷不良発生を抑制することができる。
【0073】このような両面粘着シート2bが貼り付けられたカバーウインドウ1bは、カバーウインドウ基材3bの内面の全面に両面粘着シート2bが貼り付けられているため、カバーウインドウ1bの曲げ剛性、耐衝撃性、耐荷重性が向上し、割れ難い特性を備える。
【0074】
【発明の効果】本発明の両面粘着シートは、従来はカバーウインドウ基材に直接設けていた装飾部が設けられ、装飾部をカバーウインドウ基材に設ける部品と、カバーウインドウを携帯機器の筐体に貼り付けるための粘着剤層を設ける部品との2つの機能を兼用しているため、生産性良くカバーウインドウを生産することができる。
【0075】また、表示装置の表示面に対応する部分がくり抜かれている両面粘着シートは、基材シートとして遮光性の良い金属箔や着色のものを用いることができ、このような基材シートを装飾部の下地に用いることによって、美しい装飾部を形成できる。
【0076】また、カバーウインドウの全面に貼り付ける両面粘着シートは、カバーウインドウの曲げ剛性、耐衝撃性、耐荷重性を高め、割れを防止することができる。
【0077】また、本発明のカバーウインドウは、かかる両面粘着シートが貼り付けられているため、生産性が良く、低コストで生産することができる。」

(5)甲第7号証(特開2003-270403号公報参照)の記載事項
甲第7号証には、「携帯機器のカバーウインドウ等の光学部品の製造方法」に関し、図面の図示と共に次の技術的事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光学部品の製造方法に関し、特に、携帯機器のカバーウインドウ等の光学部品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】携帯電話等の液晶表示装置を備えた携帯機器では、液晶表示装置の表示面は薄い無機ガラスで構成されているため、携帯機器の外面に液晶表示装置が露出していると、使用中の外力や衝撃により液晶が割れてしまうおそれがある。そのため、液晶表示装置を筐体内のやや奥まった位置に収納し、筐体に表示面を視認できる窓部を設け、この窓部を閉塞するように透明なカバーウインドウを固定し、カバーウインドウで液晶表示装置の表示面を保護する構成が採用される。
・・・(中略)・・・
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の光学部品の製造方法の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0018】本発明の光学部品の製造方法は、光学部品に施すプライマー処理、ハードコート膜形成、印刷、反射防止膜形成、撥水処理、粘着剤層形成の各工程の一つ以上、好ましくは全部をインクジェットによる塗布方法に切り替えるものである。
【0019】本発明の光学部品の製造方法の対象となる光学部品としては、例えば、眼鏡レンズ、調光用レンズ、サングラス、カメラレンズ、望遠鏡レンズ、拡大鏡レンズ、プロジェクターレンズ、ピックアップレンズ、マイクロレンズ等の各種光学レンズおよび光学ミラー、光学フィルター、半導体露光用のステッパー、携帯機器のカバーウインドウ等の光学物品に適用することができる。
【0020】特に、上記工程のほとんどの工程が必要となるカバーウインドウの製造に適している。以下では、カバーウインドウの製造方法について説明するが、本発明では、光学部品に必要とされる処理を選択して上記工程を組み合わせることができる。
【0021】カバーウインドウは、携帯機器の筐体の窓部に固定されて筐体の内部を透視する用途に用いられるもので、携帯機器の表示装置の表示面に直接物が当たらないように、筐体内部に収納した液晶表示装置の表示面を被覆して表示面を保護し、表示面を視認するために用いられる用途が代表的である。
【0022】携帯機器としては、携帯電話、携帯ゲーム機、デジタルカメラ、携帯無線通信機、携帯ラジオ、腕時計、携帯音響機器等の表示装置の表示面の保護に用いることができる。表示装置としては、液晶表示装置が代表的である。
【0023】図2に、カバーウインドウの一例を示す。図2(a)はカバーウインドウの一例を示す平面図、(b)?(e)はカバーウインドウの断面構造の例を示す。
【0024】カバーウインドウ1は、図2(a)に示すように、表示装置の表示面を視認するための中央の透視部2と透視部2の周囲の額縁状の装飾部3を有する。装飾部3は遮光性を有する印刷やホットスタンプ等の加飾法で形成される。装飾部3は、図2(a)に示すように、最外周の第1装飾部3aとその内側の第2装飾部3bのように、2色以上で形成される場合が多い。
【0025】カバーウインドウ1の構造としては、図2(b)に示すように、透明なカバーウインドウ基材4の外面に第1ハードコート膜5a、内面に第2ハードコート膜5bが設けられている。ハードコート膜5a、5bは、耐擦傷性を付与すると共に、反射防止膜の密着性を良好にするために設けられる。図示していないが、ハードコート膜5a、5bの基材4に対する密着性を良好にするために、ハードコート膜5a、5bと基材4の間にプライマー層が設けられる場合がある。外面のハードコート膜5aの上に第1反射防止膜6aが設けられ、内面のハードコート膜5bの外周部に装飾部3が設けられ、中央の透視部2に対応する部分に第2反射防止膜6bが設けられている。内面の装飾部3の上には粘着剤層7が設けられる。
【0026】図2(c)に示すように、内面側のハードコート膜5bは省略されることもある。また、図2(d)に示すように、外面側の反射防止膜6aもコストの面から省略されることがある。更に、図2(e)に示すように、外面側のハードコート膜を省略して反射防止膜6aを形成し、内面側の反射防止膜6bを省略する場合もある。
【0027】また、図示していないが、カバーウインドウ1の最外層を構成する反射防止膜6aやハードコート膜5aに、汚れの付着防止などの目的で防汚性、撥水性、撥油性等の性質を付与する撥水処理が行われる場合がある。
【0028】カバーウインドウ基材4は、軽量で耐衝撃性に優れ、かつ、熱可塑性の透明樹脂が選択される。透明樹脂としては、例えば、ポリ(メチル)メタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂等が用いられる。
【0029】カバーウインドウの製造方法としては、予め射出成形等でカバーウインドウの形状に成形した個々のカバーウインドウ基材に所定の処理を施す方法と、大判のカバーウインドウ基材に所定の処理を施した後、切断等で個々のカバーウインドウの形状に形成する方法とがある。
【0030】本発明の光学部品の製造方法の一実施形態のフローチャートを図1に示す。本発明の光学部品の製造方法は、図1に示すように、カバーウインドウ基材に、インクジェットによるプライマー処理工程、インクジェットによるハードコート膜形成工程、インクジェットによる印刷工程、インクジェットによる反射防止膜形成工程、インクジェットによる撥水処理工程、インクジェットによる粘着剤層形成工程を必要に応じて順次選択してこれらの処理が行われた光学部品を得る。これらの工程後に、剥離紙・保護シート貼り付け工程を行う。これらの工程のどの工程もインクジェットを用いない通常の工程に変更可能であるが、全てインクジェットを用いる工程とすることにより、製造装置がコンパクトになり、全体の装置をクリーンルーム9内に配置することができるようになる。
【0031】カバーウインドウ基材としては、後に個々のカバーウインドウに切り出す大判の板状基材と射出成形等により個々のカバーウインドウの形状に成形された基材とがある。
・・・(中略)・・・
【0076】反射防止膜を形成する場合の膜厚は、λ/4(λ:光の波長、通常520nmが用いられる)が最適である。多層膜とする場合は、基材側から、高屈折率層、低屈折率層の順に積層する。
・・・(中略)・・・
【0082】このような工程により製造されたカバーウインドウは、粘着剤層を覆って剥離紙を貼り付け、外面には保護シートを貼り付けて製品とすることができる。大判の基材の場合は、切断加工により個々のカバーウインドウに形成して完成品となる。」

(6)甲第8号証(特表2002-522966号公報参照)の記載事項
甲第8号証には、「携帯電話等のディスプレイカバーの製造方法」に関し、図面の図示と共に次の技術的事項が記載されている。

(6a)「【0001】
発明の技術分野
本発明は、デバイスに使用される携帯電話等のディスプレイカバーに関する。また、本発明は、本発明のディスプレイカバーの製造方法にも関する。
【0002】
従来技術
携帯電話の配達時において、一般には携帯電話のディスプレイカバーに取付けられる保護フィルムが提供されている。この保護フィルムは、永久に使用するものではなく、輸送段階での保護を目的としたものであり、この保護フィルムは、携帯電話を使い始めたときに除去することができる。すなわち、携帯電話のディスプレイは携帯電話を使い始めたら保護されないこととなる。また、携帯電話を使い始めたときに保護フィルムを除去する必要はないが、保護フィルムの材料又はディスプレイに対する接着性は、永久に使用できる程、高品質なものではない。通常、前記保護フィルムは透明であり、携帯電話をある程度使用すると引っかき傷や磨耗等の損傷が生じる。この損傷により次第にディスプレイに表示される情報の認識が困難になってくる。また、保護フィルムは、まず保護フィルムの角部分が剥がれ始め、最終的にはディスプレイから完全に剥がれることになる。
【0003】
これに関して、通常、ディスプレイの材料自体が引っかき傷や他の磨耗に対して特に耐久性を有さないということではなく、ある程度使用した後でもディスプレイに表示された情報の認識自体には何ら問題がない。
【0004】
発明の目的及び特徴
本発明の第一の目的は、ディスプレイを引っかき傷や他の磨耗から保護するとともにディスプレイとディスプレイを備えた器具の隣接領域とを衝撃から保護することである。
・・・(中略)・・・
【0007】
本発明のディスプレイカバーの好ましい実施形態の詳細な説明
図1から明らかにされるように、本発明のディスプレイカバーの製造は、材料を傷に強く衝撃を吸収する材料にする追加の可塑剤を有するPVC材料の保護フィルム1のシートのカッティングから開始される。保護フィルム1は、比較的厚く、0.2?0.5mmの間の適当な厚さである。このPVC材料に基本的に必要な条件は、可視性が非常に高く、傷や衝撃にも非常に強い。また、以下に示すように、保護フィルム1は通常、社章その他の情報等のプリンティング(印刷)に必要とされるので、前記PVC材料がスクリーンプリンティング(スクリーン印刷)に適する場合が好ましい。保護フィルム1用の適当な商業上利用できるPVC材料が登録商標クリアシールドであることが判明している。
【0008】
切り抜かれたシートは、プリンティングに対して一次材料に内部応力が生じないようにされる、すなわち予め収縮される。図2に示されるように、接着コーティング3は、本発明のディスプレイカバーのフレーム9を構成することになる保護フィルム1の一部に施される、すなわちスクリーンプリンティングされる。図2に拡大して詳細に示されるように、幅の狭い区切フレーム6としての非接着コーティングは、本発明のディスプレイカバーのディスプレイウィンドウ5を構成することになる部分に施される、すなわちスクリーンプリンティングされる。前記区切フレーム6は、ディスプレイウィンドウ5の全周囲に延び、その幅は約1ミリメートルが適当である。以下に示すように、接着コーティングを施すことにより、接着コーティングが施されたフレーム9等のPVC材料の一部が、最後に施されるポリウレタンに対し良好な接着強度を有することが保証される。本発明のディスプレイカバーにスクリーンプリンティング、すなわち社章としてプリンティングを施す必要がある場合には、そのスクリーンプリンティングは、保護フィルム1の適当な部分に施され、図10で完成状態のディスプレイカバーが示される。前記スクリーンプリンティングは、接着コーティングで処理された保護フィルム1の部分に位置される。
【0009】
図で示されるように、保護フィルム1のシートは、適当な形状に打ち抜かれ、余分な材料は除去される。これにより、本発明のディスプレイカバー用のブランク(素材板)7が作られ、このブランク7は、非接着コーティングの区切フレーム6を備えたディスプレイウィンドウ5と、接着コーティングで処理された周囲フレーム9とを有する。図4aと4bとで、このようなブランク7が開示されている。
・・・(中略)・・・
【0019】
実施可能な発明の変形例
これに関連して、上述の本発明のディスプレイカバーを製造する方法は、好ましい例だけを構成しているものであることを明示する。このように本発明の範囲内で、別個のユニットとしてポリウレタンのフレームを製造し、従って、適当な接着剤を用いて前記フレームと保護フィルムとを結合することが可能である。
【0020】
ディスプレイカバーの一部であるポリウレタンの隆起したフレームは、着色材料で製造されても非着色材料で製造されても良い。さらにまた、前記フレームは、当該器具に適したポリウレタンと異なる材料で製造されても良い。
【0021】
上述の実施形態では、文字や対象が保護フィルムにスクリーンプリンティングされることが述べられてきた。本発明の範囲内で、オフセットプリンティング及び/又はエンボシング等のスクリーンプリンティングと異なる他の印刷技術を使用することもできる。」

(6b)図2

(6c)図3

(7)甲第9号証(特開2002-116882号公報参照)の記載事項
甲第9号証には、「透過性タッチパネルとその製造方法」に関し、図面の図示と共に次の技術的事項が記載されている。

(7a)「【0023】次に、図1乃至図3に示した第1実施形態のタッチパネル1を製造する場合に基づいて、本発明に係る製造方法を説明する。図6に示すように、まず、複数の固定電極部材2を採寸可能な固定側素材シート40と、複数の可動電極部材4を採寸可能な可動側素材シート41とを準備する。また、貼り合わせ部材5についても、その複数を採寸可能となる大型の貼り合わせシート42のかたちで準備しておくのが好ましい。
【0024】なお、固定側素材シート40における固定電極部材2の採寸個数、可動側素材シート41における可動電極部材4の採寸個数、更には貼り合わせシート42における貼り合わせ部材5の採寸個数については、図6ではそれぞれ4個ずつとしているが、何ら限定されるものではない。固定側素材シート40には、固定電極部材2の割当位置(二点鎖線で示す)に対応させて電極8及び導線12を形成させておき、可動側素材シート41には、可動電極部材4の割当位置(二点鎖線で示す)に対応させて電極10及び導線13を形成させておく。
【0025】貼り合わせシート42については、貼り合わせ部材5の割当位置(二点鎖線で示す)に対応させて非接触隙間3を形成させるための開口44を形成させると共に、連通孔23及び結線用切欠24を形成しておく。更に、貼り合わせシート42には、各貼り合わせ部材5を切り出すことによって凹部27が形成されるようにするための打ち抜き孔45を形成させておき、これと同様に可動側素材シート41にも、各可動電極部材4を切り出すことによって凹部28が形成されるようにするための打ち抜き孔46を形成させておく。
【0026】このような準備が整った段階で、固定側素材シート40と可動側素材シート41と貼り合わせシート42を、それらの固定電極部材2の割当位置、可動電極部材4の割当位置、貼り合わせ部材5の割当位置を所定に一致させつつ、貼り合わせる。そして、この貼り合わせが済んだ段階で、固定側素材シート40又は可動側素材シート41の一方又は両方から、各割当位置を所定のパネル形状に沿って切断し、もって複数のタッチパネル1を切り出すようにする。
【0027】ここにおいて、切断は、レーザー光線を用いた切断方法を採用する。その理由は次の通りである。タッチパネル1では、その品質として重要視されるものの一つに透過性が上げられることは言うまでもないが、これに加え、外観上の透明性も重要視されている。すなわち、固定電極部材2や可動電極部材4に濁りや汚れ、傷等が発生したものでは、タッチパネル1として低級品乃至不良品とされることになる。そしてこれに加え、固定電極部材2や可動電極部材4として用いられる材料において、透過性の高いものは硬度も高く、これに比例して脆性も高いという傾向にあることが広く知られている。
【0028】そのため、このような脆性の高い固定電極部材2や可動電極部材4を、例えば金属製カッター刃等を用いて機械的に切断するようなことをすれば、固定電極部材2(殊にそのハードコート層18)や可動電極部材4(殊にそのハードコート層21)にその切断縁での微少なカケが生じたり、パネル内方へ向けてマイクロクラックが伸長したり、場合によってはこのマイクロクラックが蜘蛛の巣状に拡大・拡散したりすることが必定となる。また、固定電極部材2では肉厚的にボリュウムを有するために、カッター刃の摩耗や欠損が著しく、このためカッター刃の交換ということに関して作業効率的にもコスト的にも問題が出てくる。
【0029】この場合、カッター刃の当接を固定電極部材2からと可動電極部材4からとの両方に分けて、その切断抵抗を少しでも抑えようとする試みは、それぞれの問題点に対してある程度の成果を奏することには繋がるが、位置精度を高めることに関して作業が面倒且つ複雑となるために、根本的な解決にはならないことを知見している。その点、上記したようにレーザー光線を用いた切断方法を採用すると、カッター刃を用いた場合の上記懸案事項を全て排除し得るものであり、好適なものとなる。
【0030】殊に、レーザー光線を用いた切断方法では、その切断縁で切断と同時に微少な材料融着が起こるために、その後のパネル外周部として一体性及び層間の密着性がでて、一層好適となる。そして、このレーザー光線を用いた切断作業中、使用材料の焼け(主に貼り合わせ部材5)によって炭化カスや各種ガスが発生したとしても、これら炭化カスや各種ガスは、連通孔23が設けられた辺部30において、この連通孔23の外部側開口縁部がパネル内方へ後退していることに伴って、この外部側開口縁部から実質的に遠ざかった位置での発生ということになり、結果、この連通孔23内へ入ってしまうということが防止されることになる。」

(7b)図6

(8)甲第10号証(特開平11-191341号公報参照)の記載事項
甲第10号証には、「高強度タッチパネルとその製造方法」に関し、図面の図示と共に次の技術的事項が記載されている。

(8a)「【0002】
【従来の技術】従来より、タッチパネルとしては、フレキシブルな透明フィルムの一面に電極を有し他面にハードコート層を有する上部電極シートと、ガラス基板の一面に電極を有する下部電極シートとが、電極間にスペーサーを介して対向配置され、その周縁部が接着シートで接着された抵抗膜方式のタッチパネルがある。このタッチパネルの製造方法としては、通常、電極を多数取りした大型の上部電極シート及び下部電極シートを製作してこれらを貼り合わせた後に、上部電極シート側から金属刃等のカッタを用いて切れ込みを入れることにより上部電極シートを電極毎に切断する一方で下部電極シート側からカッタを用いて切れ込みを入れることにより下部電極シートのガラス基板へ電極毎に溝を設け、最後にガラス基板の溝に沿って分割することにより個々のタッチパネルを得る方法が採用されている。」

(8b)「【0021】上記した抵抗膜方式のタッチパネルの製造方法を以下に詳しく説明する。
【0022】まず、上部電極111を多数個取り、例えば図1では4個取りした大型の矩形の上部電極シート1と下部電極121を多数個取り、例えば図1では4個取りした大型の矩形の下部電極シート2とを接着シート3により貼り合わせる(図1参照)。上記したように、この状態では、上部電極シート1の各上部電極111と下部電極シート2の各下部電極121とが間に多数のドット状のスペーサー13を介して間隔をあけて対向配置されているとともに、上部電極シート1の各下部電極電力供給用補助電極22は、接着シート3の各貫通孔3b内の導電性接着剤を介して下部電極シート2の下部電極121の各端部と電気的に接続されている。
【0023】その後、上部電極シート1側から、図2に示す切断予定線30の通りにレーザー光線4を照射する(図2参照)ことにより上部電極シート1を上部電極111毎に切断する(図3参照)。ガラス基板10には予めアライメントマークを印刷などにより形成しておき、そのアライメントマークを光学的に認識カメラで読み取り、読み取られたアライメントマークを基準に座標を決め、その座標において切断すべき切断予定線30を決定し、その切断予定線30に沿って、レーザー光線4を照射する照射ノズル40を移動させる。
【0024】その後、下部電極シート2側から、上記レーザー光線4の照射により上部電極シート1が切断された切断線に沿って、カッタ6を用いて切れ込みを入れる(図4参照)ことにより、下部電極シート2のガラス基板10へ下部電極121毎に溝7を設ける(図5参照)。上記ガラス基板10のアライメントマークを下部電極シート2側から読み取り、読み取られたアライメントマークを基準に座標を決め、その座標において上記切断された切断予定線30の位置に一致するように切れ込み予定線31を決定し、当該切れ込み予定線に沿ってカッタ6を用いてきり込みを入れて上記溝7を形成する。このようにすれば、上記レーザー光線4の照射により上部電極シート1が切断された切断線の幅内に上記溝7を位置させることができる。このとき、上記溝7は連続した直線に限らず、ガラス基板10を分割可能な限りにおいて点線状でもよい。
【0025】その後、最後にガラス基板10の溝7に沿って手などによりガラス基板10を、例えば、長手方向沿いに2つに分割したのち、短手方向に2つに分割することにより、4個に分割して(図6参照)、個々のタッチパネル8を得る(図7参照)。
【0026】このようにして得られた各タッチパネル8は、上記レーザー光線4を上部電極シート1に照射することにより、上部電極シート1を構成する透明フィルム9とハードコート層12とが4つの側端部において融着されて融着部14を形成するとともに、上記融着部14の延長上のガラス基板10の4つの側端面の表層部分が圧縮応力層10aとなっている(図8参照)。
【0027】上部電極シート1の透明フィルム9としては、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリエーテルケトン系等のエンジニアリングプラスチック、アクリル系、ポリエチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系などの透明フィルムなどを用いる。なお、透明フィルム9は、1枚のフィルムではなく、複数枚のフィルムを重ね合わせた積層体であってもよい。
【0028】下部電極シート2のガラス基板10としては、ソーダーガラス板、又は、ホウケイ酸ガラス板などを用いる。
【0029】上部電極シート1と下部電極シート2の対向する面には上部電極111及び下部電極121とともに、透明導電膜や平行な一対のバスバー、引き回し回路などが形成されている。透明導電膜としては、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化カドミウム、若しくはインジウムチンオキサイド(ITO)などの金属酸化物膜、これらの金属酸化物を主体とする複合膜、又は、金、銀、銅、錫、ニッケル、アルミニウム、若しくはパラジウムなどの金属膜がある。また、透明導電膜は多層形成してもよい。バスバー及び引き回し回路としては、金、銀、銅、若しくはニッケルなどの金属あるいはカーボンなどの導電性を有するペーストを用いる。また、引き回し回路は、上部電極シート1及び下部電極シート2のいずれか一方にまとめて設けられる場合が多い。たとえば、図1では、上部電極シート1の透明導電膜11aをバスバー11b間にのみ形成し、上部電極シート1の透明導電膜11aの形成されていない部分に引き回し回路11cをまとめて設け、上部電極シート1に設けられているバスバー11aを同じシート上の引き回し回路11cと直接導通させ、下部電極シート2に設けられているバスバー21bを上部電極シート1上の下部電極電力供給用補助電極22を有する引き回し回路11dと接着シート3の各貫通孔3b内に配置された導電性接着剤を介して導通させる。なお、引き回し回路は、これに限られるものではなく、逆に、下部電極シート2にまとめて設けるようにしてもよく、また、上部電極シート1及び下部電極シート2にそれぞれ設けるようにしてもよい。
【0030】透明フィルム9の上部電極111を設けた面と反対の面に形成されるハードコート12としては、アクリルエポキシ系、ウレタン系の熱硬化型樹脂、又はアクリレート系の光硬化型樹脂などの有機材料がある。また、ハードコート層12には、ハードコート塗膜の表面を微粒子で荒らすことにより、光が荒らされた凹凸面で乱反射するノングレア処理を施してもよい。たとえば、ハードコート層12の表面を凹凸加工したり、ハードコート層12中に体質顔料やシリカ、若しくはアルミナなどの微粒子を混ぜたりする。
【0031】スペーサー13は、上部電極シート1または下部電極シート2のいずれかの透明導電膜11a又は21aの表面に形成されている。図1では、スペーサー13は下部電極シート2の透明導電膜21aの表面に形成されている。スペーサー13としては、たとえばメラミンアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、メタアクリルアクリレート樹脂、若しくはアクリルアクリレート樹脂などのアクリレート樹脂、又は、ポリビニールアルコール樹脂などの透明な光硬化型樹脂をフォトプロセスで微細なドット状に形成して得ることができる。また、印刷法により微細なドットを多数形成してスペーサー13とすることもできる。
【0032】接着シート3としては、通常、パネル可視エリアに相当する部分及び及び引き回し回路の導電性接着剤を塗布する部分に相当する部分をそれぞれ矩形開口3a及び貫通孔3bとして打ち抜いた両面接着シートを用いる。また、両面接着シートの代わりに接着剤、たとえば水性、アクリル系などの印刷糊を用いてもよい。
【0033】レーザー光線4を照射することにより上部電極シート1の切断を行うには、レーザー光線4の幅、言いかえれば、照射スポット径を上部電極シート1上の照射面で一定として照射ノズル40を直線的に移動させ、照射されたレーザー光線4の照射スポット径を幅寸法とし、照射ノズル40の移動寸法を長さ寸法とするレーザー光線照射領域の部分の上部電極シート1を焼き飛ばす。このレーザー光線4の幅は、レーザー光線4をレーザー光線照射用レンズで集光し、その焦点を絞ることでその大きさを制御することができる。この焼き飛ばしたレーザー光線照射領域の幅は、下部電極シート2側からガラス基板10へ溝7を設けたときに、上部電極シート1の切断線5と下部電極シート2のガラス基板10へ設けられた溝7とのアライメントを可能にする寸法にする(図5参照)。好ましくは、レーザー光線照射領域の幅は、通常0.1?0.5mmの範囲が最適である。
【0034】レーザー光線4の照射により上部電極シート1の切断しようとする部分を焼き飛ばした結果、透明フィルム9とその上のハードコート層12とがその各切断端部において溶融の後に互いに融合して融着し、融着部14を形成する透明フィルム9及びハードコート層12はこの融着部14において強い密着性を持つようになる(図8参照)。
【0035】また、上部電極シート1の切断しようとする部分にレーザー光線4を照射することで、ガラス基板10も上部電極シート1の切断線5下に位置する部分においてガラスの軟化温度(例えば、ソーダーガラスでは696℃、ホウケイ酸ガラスでは780℃)以上の高温(例えば、レーザービームの出力にもよるが数千度程度のガラスが昇華してしまうほどの高温)に急上昇する。そして、加熱された部分はレーザー光線4の照射が終了すると瞬時に(例えばミリ秒程度の単位の時間で)室温状態に空冷などにより急冷され、これによって側端面の表層部分が先に固化し、安定した圧縮応力層10aとなる(図8参照)。すなわちガラス基板10は部分強化ガラス化され、衝撃に対するガラス強度が1.5?2倍程度に向上する。
【0036】レーザー光線4のレーザー光源としては、炭酸レーザー、YAGレーザー等が使用可能であるが、ガラス強度を向上させる為には、炭酸レーザーが最も優れている。
【0037】なお、透明フィルム9とハードコート層12とが4つの側端部である融着部14において融着され、ガラス基板10の4つの側端面の表層部分が圧縮応力層10aとなっているタッチパネルの製造方法は、上記した方法に限定されるものではない。
【0038】たとえば、上部電極シート1側からレーザー光線4を照射することにより、上部電極シート1を上部電極111毎に切断するとともに、同時に上記レーザー光線4により、その下の下部電極シート2のガラス基板10へも下部電極121毎に溝27を設け(図9参照)、最後にガラス基板10の両面の溝7に沿って分割することにより個々のタッチパネル8を得るようにしてもよい。この図9の実施形態の場合、レーザーの出力ワット数を制御したり、又は、レーザー光線を照射するレンズの焦点の絞り面積を変化させてレーザー光線のパワーを制御することにより、図1の実施形態の場合とは異なり、ガラス基板10へもレーザー光線4が照射されるため、さらにガラス強度が向上する。このとき、上記溝27又は溝7は連続した直線に限らず、ガラス基板10を分割可能な限りにおいて点線状でもよい。なお、上部電極シート側からカッタを用いて切れ込みを入れることにより上部電極シートを切断するとともにその下の下部電極シートのガラス基板へも溝を設ける従来の方法とは異なり、図9の実施形態の場合には、上部電極シート側からカッタではなくレーザー光線4により上部電極シート1を切断するとともにその下の下部電極シート2のガラス基板10へも溝27を設けるため、カッタのようにガラス基板表面における切れ味が悪くなることがなく、溝27にマイクロクラックが発生することもない。
【0039】また、レーザー光線4を照射することにより下部電極シート2のガラス基板10に設ける溝27の深さは、ガラス基板10の厚みの1割程度あれば十分であり、1割以内が好ましい。
【0040】また、レーザーの出力ワット数を制御したり、又は、レーザー光線を照射するレンズの焦点の絞り面積を変化させてレーザー光線のパワーを制御することにより、レーザー光線4の照射によって設けられるガラス基板10の溝27を、例えばガラス基板10の厚みの1割以上、深くすることによって、下部電極シート2側からカッタ6を用いて切れ込みを入れなくても(図10参照)、十分に分割可能とすることもできる。レーザー光線4の照射による溝27の深さをガラス基板10の厚みの1割以上とすることによって、ガラス基板10を確実に分割することができる。また、ガラス基板10を確実に分割するため、レーザー光線4の照射による溝27は連続した直線で形成することが好ましい。この図10の実施形態の場合、上部電極シート1側からレーザー光線4を照射することにより上部電極シート1を上部電極111毎に切断するとともにその下の下部電極シート2のガラス基板10へ下部電極121毎に溝27を設けるだけなので、上部電極シート1の切断線5と下部電極シート2のガラス基板10へ設けられた溝とのアライメントは不要となる。
【0041】さらに、レーザーの出力ワット数を制御したり、又は、レーザー光線を照射するレンズの焦点の絞り面積を変化させてレーザー光線のパワーを制御しつつ上部電極シート1側からレーザー光線4を照射することにより、上部電極シート1を上部電極111毎に切断するとともにその下の下部電極シート2を下部電極121毎に完全に切断線28で切断して(図11参照)個々のタッチパネル8を得るようにしてもよい。この図11の実施形態の場合、個々のタッチパネル8への分割作業さえも不要となる。」

(8b)図1

(8c)図2

(8d)図4

(8e)図6

(9)甲第11号証(特開平5-61606号公報参照)の記載事項
甲第11号証には、「座標入力装置用入力盤の製造方法」に関し、図面の図示と共に次の技術的事項が記載されている。

「【0005】そこで当然の事ながら、一枚の大きな基板にITO膜を形成し、複数個分の電極パターンを形成し、上下各基板の接着後、基板を所定の寸法に切断することが考えられる(例えば液晶表示装置などで、通常用いられている方法である)。しかしながら、本発明の座標入力装置用入力盤の構成では、基板のそりなどが発生しないように基板を引出し電極線を接続する部分以外の全ての面で、全面接着する必要があり、この接着層が透明且つ均一であることが必要なため、接着面積が小さくかつ接着層自身の透明性を要求されない液晶表示装置とは違い、生産性良く接着することは、困難な方法であった。」

1-2 当審の判断
特許発明1?10が特許法第29条第2項の規定に違反するか否かについて検討する。
以下では、特許発明9については、請求項1を引用する場合の請求項9に記載された事項により特定される発明特定事項を有するものを対象とする。

1-2-1 特許発明1について
(1)対比
特許発明1と引用発明1とを対比する。

<対応関係A>
引用発明1の「携帯電話100」、「筐体20」、「液晶表示装置30の表示面31を外部から視認できる窓部21」、「液晶表示装置30」、「液晶表示装置30を保護するカバーガラス1c」及び「カバーガラス基材2」はそれぞれ、特許発明1の「電子機器」、「ケーシング」、「表示窓用開口部分」、「ディスプレイ装置」、「電子機器表示窓の保護パネル」及び「透明保護板」に相当する。

<対応関係B>
引用発明1の「カバーガラス1c」が保護する領域は「筐体20に開口された」部分の「表示面31」であるから、引用発明1の「携帯電話100の筐体20に開口された液晶表示装置30の表示面31を外部から視認できる窓部21を閉塞し、液晶表示装置30を保護するカバーガラス1c」は、特許発明1の「電子機器のケーシングの表示窓用開口部分に設けられたディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を保護する前記表示窓用開口に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネル」に相当する。

<対応関係C>
引用発明1の「カバーガラス基材2の上面に設けられたハードコート膜3及び反射防止膜4とを有する」ことと、特許発明1の「透明なハードコートフィルムと前記ハードコートフィルムの一方の表面に薄膜状に形成された窓形成層とを備え、かつ、前記窓形成層の一部が、印刷層として前記ハードコートフィルムに接触するように設けられた加飾部と前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に構成され前記加飾部が形成されていない部分である透明窓部として形成されている加飾フィルムと、
前記窓形成層が透明保護板の表面側に位置するように、前記加飾フィルムを前記透明保護板の前記ディスプレイ装置に対向しない側の表面に積層状態に貼着する透明な貼着層を有する」こととは、「透明保護板の表面側に位置するハードコート性を持つ層を有する」点で共通する。

以上の対応関係からして、特許発明1と引用発明1とは、
「電子機器のケーシングの表示窓用開口部分に設けられたディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を保護する前記表示窓用開口に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルであって、
前記ディスプレイ装置の前記露出部分表面に対向して設けられる透明保護板と、
前記透明保護板の表面側に位置するハードコート性を持つ層を有する、電子機器表示窓の保護パネル。」
の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「透明保護板の表面側に位置するハードコート性を持つ層」に関して、特許発明1は、「透明なハードコートフィルムと前記ハードコートフィルムの一方の表面に薄膜状に形成された窓形成層とを備え、かつ、前記窓形成層の一部が、印刷層として前記ハードコートフィルムに接触するように設けられた加飾部と前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に構成され前記加飾部が形成されていない部分である透明窓部として形成されている加飾フィルムと、前記窓形成層が透明保護板の表面側に位置するように、前記加飾フィルムを前記透明保護板の前記ディスプレイ装置に対向しない側の表面に積層状態に貼着する透明な貼着層」を有するものと限定しているのに対して、引用発明1は「カバーガラス基材2の上面に設けられたハードコート膜3及び反射防止膜4」である点。

(2)相違点1についての検討
(2-1)引用発明2の「反射防止フィルム7a」について
引用発明2の「反射防止フィルム7a」について、特許発明1との関係を検討する。
本件特許明細書の段落【0029】の「上記加飾フィルム7のハードコートフィルム5としては、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリエーテルケトン系等のエンジニアリングプラスチック、アクリル系、ポリエチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系などの透明樹脂フィルムの片面又は両面にアクリル樹脂、シリコン樹脂、UV硬化樹脂などによるハードコート処理層を形成したものを用いる。」という記載を参酌すると、引用発明2の「基材フィルム71」と「ハードコート膜」の積層体は、特許発明1の「透明なハードコートフィルム」に相当し、引用発明2の「基材フィルム71の外周部に形成された装飾部11」を含む層が特許発明1の「薄膜状に形成された窓形成層」に相当し、引用発明2の「粘着剤層72」が特許発明1の「透明な貼着層」に相当するから、引用発明2の「反射防止フィルム7a」が特許発明1の「加飾フィルム」と「透明な貼着層」の積層体に相当することも明らかである。
また、引用発明2の「基材フィルム71の一面側に印刷により」「設けられ」た「基材フィルム71の外周部に形成された光を透過しない装飾部11」は、「基材フィルム71」の表面に形成された印刷されたパターンの層であり、かつ、「装飾部11」の形成されない内側部分は、「ディスプレイ装置」を観察可能な透明な窓となっていることも明らかであるから、「装飾部11」を備えた「基材フィルム71」は、特許発明1の「窓形成層の一部が、印刷層としてハードコートフィルムに接触するように設けられた加飾部とディスプレイ装置の表示窓用開口からの露出部分を視認可能に構成され加飾部が形成されていない部分である透明窓部として形成されている加飾フィルム」に相当する。
そうすると、引用発明2の「反射防止フィルム7a」は、特許発明1の「透明なハードコートフィルムと前記ハードコートフィルムの一方の表面に薄膜状に形成された窓形成層とを備え、かつ、前記窓形成層の一部が、印刷層として前記ハードコートフィルムに接触するように設けられた加飾部と前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に構成され前記加飾部が形成されていない部分である透明窓部として形成されている加飾フィルム」に相当するものである。

(2-2)引用発明1に「反射防止フィルム7a」を適用する動機について
甲第2号証の段落【0107】において、「以上の説明では、反射防止膜をカバーガラス基材2又はハードコート膜3上に直接成膜したカバーガラスを示したが、反射防止膜を設けるには大量生産される反射防止フィルムを用いる方がコスト的に有利である。」と、反射防止フィルムを用いることはコスト的に有利であることが明示されているから、引用発明1についても、反射防止「膜」に代えて反射防止「フィルム」を適用することに動機付けがあるといえる。また、段落【0037】において、「図1は、携帯電話100の筐体20の内部に収納された液晶表示装置30の保護に用いられたカバーガラス1の一例を示している。カバーガラス1の周縁部には、メッキ、印刷等で光を透過しない装飾部11が形成されることが多い。」と記載されているように、美観向上や意匠を凝らすためにカバーガラスの周縁部に光を透過しない装飾部を設けることはよく行われているから、引用発明1にそのような装飾部(特許発明1の「加飾部」に相当)を設けることにも動機付けがあるといえる。
してみると、引用発明1に上述の「反射防止フィルム7a」を適用することは、当業者にとって十分な動機付けが存在するといえる。

(2-3)「反射防止フィルム7a」の適用形態について
甲第2号証の段落【0120】において、「外面側の反射防止フィルム7’には、耐擦傷性を付与するために反射防止膜73と基材フィルム71との間にハードコート膜74を介在させた構造を有する。」と記載されており、反射防止膜と基材フィルムとの間にハードコート膜を介在させた反射防止フィルムが耐擦傷性を有しており、外面側の反射防止フィルムに適したものであることは、当業者にとって明らかであるから、「ハードコート膜」を付加した引用発明2の「反射防止フィルム7a」が外面側の反射防止フィルムに適したものであることも自明である。
また、技術常識及び甲第2号証の段落【0011】?【0013】の記載等を参酌すれば、反射防止膜は、主に反射防止フィルムの基材フィルムやハードコート膜と空気層との界面での反射を防止するために設けるものであるから、引用発明2の「反射防止フィルム7a」を外面側に適用する際、反射防止膜の側を外面側に向けて配置するのは当然のことである。

(2-4)相違点1に係る構成の容易想到性についての小括
そうすると、引用発明1において、「ハードコート膜3」及び「反射防止膜4」の代わりに、引用発明2の「反射防止フィルム7a」を採用することで、引用発明1の「カバーガラス1c」が「透明なハードコートフィルムと前記ハードコートフィルムの一方の表面に薄膜状に形成された窓形成層とを備え、かつ、前記窓形成層の一部が、印刷層として前記ハードコートフィルムに接触するように設けられた加飾部と前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に構成され前記加飾部が形成されていない部分である透明窓部として形成されている加飾フィルムと、前記窓形成層が透明保護板の表面側に位置するように、前記加飾フィルムを前記透明保護板の前記ディスプレイ装置に対向しない側の表面に積層状態に貼着する透明な貼着層」を有するようにすることは、当業者であれば容易になし得ることである。
よって、引用発明1に引用発明2を適用することにより、相違点1に係る特許発明1の構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(3)作用効果についての検討
特許発明1の奏する作用効果は、引用発明1及び引用発明2から予測できる範囲のものであり、格別のものということができない。

なお、被請求人は、特許発明1の作用効果に関して、ハードコートフィルムが最表面に位置しており、ハードコート性を奏する旨を主張しているが、訂正特許請求の範囲の請求項1の記載上、ハードコートフィルムの上に別の層を形成しないという限定やハードコートフィルムが最表面に位置するという限定はないから、特許発明1からハードコートフィルムの上に別の層を有するものが排除されているとは認められない。また、審査過程を参酌しても、特許発明1から、ハードコートフィルムの上に別の層を有するものを意図的に除外したといえるような特別な事由(例えば、意見書において、その旨を主張している等)も認められない。さらに、上述のとおり、引用発明2におけるハードコート膜は「耐擦傷性を付与」するために設けられるものであるから、ハードコート性を奏するという作用効果の点で特許発明1と相違するものでもないから、請求人の上記主張を採用することはできない。

(4)特許発明1についての小括
よって、特許発明1は、甲第2号証に記載された発明(引用発明1、2)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、上記の判断では、甲第2号証の図4(b)の「カバーガラス1c」を主たる引用発明としたが、請求人の主張する「甲2発明」であるところの図5(b)の「カバーガラス1e」を基礎としても同様の結論に至ることは自明である。下記の「1-2-10 特許発明10について」「(2-2)相違点13について」で述べるとおり、「カバーガラス基材2」の内面の「ハードコート膜を有さない反射防止フィルム7」については省略可能なものであることは、甲第2号証の記載から明らかなことである。

1-2-2 特許発明2について
(1)対比
特許発明2と引用発明1とを対比すると、上記相違点1に加えて、以下の相違点2で相違し、その余の点では一致している。

(相違点2)
「加飾フィルム」に関して、特許発明2は、「加飾部は、加飾フィルム周縁に設けられ、透明窓部は前記加飾フィルムの中央部分に形成される」とするのに対して、引用発明1はそのような構成を有さない点

(2)相違点2についての検討
相違点1については、「1-2-1 特許発明1について」「(2)相違点1についての検討」で既に検討したので、相違点2について検討する。
引用発明2の「反射防止フィルム7a」において、「光を透過しない装飾部11」は「基材フィルム71の外周部」に形成されるものであるから、「反射防止フィルム7a」の中央部分を含む「装飾部11」よりも内側に、「液晶表示装置30」からの表示光を透過する領域があることは明らかである。
そうすると、相違点2に係る特許発明2の構成は引用発明2が備えている構成であるから、引用発明1に引用発明2を適用することにより、相違点2に係る特許発明2の構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(3)作用効果についての検討
特許発明2の奏する作用効果は、引用発明1及び引用発明2から予測できる範囲のものであり、格別のものということができない。

(4)特許発明2についての小括
よって、特許発明2は、甲第2号証に記載された発明(引用発明1、2)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1-2-3 特許発明3について
(1)対比
特許発明3と引用発明1とを対比すると、上記相違点1に加えて、以下の相違点3で相違し、その余の点では一致している。

(相違点3)
「加飾フィルム」に関して、特許発明3は、「加飾フィルムは、さらに、第1の低反射処理層が設けられている」とするのに対して、引用発明1はそのような構成を有さない点。

(2)相違点3についての検討
相違点1については、「1-2-1 特許発明1について」「(2)相違点1についての検討」で既に検討したので、相違点3について検討する。
引用発明2の「反射防止フィルム7a」は、「反射防止膜73」を有するものである。
そうすると、相違点3に係る特許発明3の構成は引用発明2が備えている構成であるから、引用発明1に引用発明2を適用することにより、相違点3に係る特許発明3の構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(3)作用効果についての検討
特許発明3の奏する作用効果は、引用発明1及び引用発明2から予測できる範囲のものであり、格別のものということができない。

(4)特許発明3についての小括
よって、特許発明3は、甲第2号証に記載された発明(引用発明1、2)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1-2-4 特許発明4について
(1)対比
特許発明4と引用発明1とを対比すると、上記相違点1,3に加えて、以下の相違点4で相違し、その余の点では一致している。

(相違点4)
「加飾フィルム」に関して、特許発明4は、「第1の反射処理層」が「ハードコートフィルムの他方の表面全体に設けられている」とするのに対して、引用発明1はそのような構成を有さない点。

(2)相違点4についての検討
相違点1,3については、それぞれ「1-2-1 特許発明1について」「(2)相違点1についての検討」及び「1-2-3 特許発明3について」「(2)相違点3についての検討」で既に検討したので、特許発明1,3で既に検討したので、相違点4について検討する。
引用発明2の「反射防止フィルム7a」の「反射防止膜73」は、基材フィルムの他面側の一部のみに設けることを目的とするものではなく、反射防止の目的からしても、他面側の全体を覆うものであることは明らかである。
そうすると、相違点4に係る特許発明4の構成は引用発明2が備えている構成であるから、引用発明1に引用発明2を適用することにより、相違点4に係る特許発明4の構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(3)作用効果についての検討
特許発明4の奏する作用効果は、引用発明1及び引用発明2から予測できる範囲のものであり、格別のものということができない。

(4)特許発明4についての小括
よって、特許発明4は、甲第2号証に記載された発明(引用発明1、2)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1-2-5 特許発明5について
(1)対比
特許発明5と引用発明1とを対比すると、上記相違点1に加えて、以下の相違点5で相違し、その余の点では一致している。

(相違点5)
「透明保護板」に関して、特許発明5は、「透明保護板は、光学的等方性であり、いずれかの表面に偏光板が設けられている」とするのに対して、引用発明1は、「カバーガラス基材2」に光学的異方性のものを使う目的はないから、技術常識からして「カバーガラス基材2」は光学的等方性は有するものの、偏光板を設けていない点。

(2)相違点5についての検討
相違点1については、「1-2-1 特許発明1について」「(2)相違点1についての検討」で既に検討したので、相違点5について検討する。
甲第3号証(段落【0006】等)及び第5号証(段落【0002】?【0003】等)に記載されているとおり、視認性向上のために、表示装置の保護パネルに偏光板を設けることは周知の技術(必要であれば、甲第3、5号証以外にも、特開2002-148592号公報等も参照されたい。)である。
そうすると、引用発明1に当該周知の技術を適用することにより、相違点5に係る特許発明5の構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(3)作用効果についての検討
特許発明5の奏する作用効果は、引用発明1、引用発明2及び周知の技術から予測できる範囲のものであり、格別のものということができない。

(4)特許発明5についての小括
よって、特許発明5は、甲第2号証に記載された発明(引用発明1、2)及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1-2-6 特許発明6について
(1)対比
特許発明6と引用発明1とを対比すると、上記相違点1,5に加えて、以下の相違点6で相違し、その余の点では一致している。

(相違点6)
「偏光板」に関して、特許発明6は、「偏光板は、前記透明保護板の前記ディスプレイ装置に対向しない側の表面に設けられている」とするのに対して、引用発明1は、そのような構成を有しない点。

(2)相違点6についての検討
相違点1,5については、それぞれ「1-2-1 特許発明1について」「(2)相違点1についての検討」及び「1-2-5 特許発明5について」「(2)相違点5についての検討」で既に検討したので、相違点6について検討する。
甲第3号証の段落【0006】に「最近では視認性向上のために、タッチパネル部材10の視認側(図の最も上側)に偏光板を配置したものが好まれている。」と記載されているように、甲第3号証には、視認性向上のために、表示装置のパネル部材に偏光板を設けるに際して、パネル部材の視認側に設けることが記載されている。そして、このような配置は周知の技術(例えば、甲第3号証及び特開2002-148592号公報等を参照されたい。)に過ぎない。
そうすると、引用発明1に甲第3号証に記載の技術または周知の技術を適用することにより、相違点6に係る特許発明6の構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(3)作用効果についての検討
特許発明6の奏する作用効果は、引用発明1、引用発明2及び甲第3号証に記載の技術または周知の技術から予測できる範囲のものであり、格別のものということができない。

(4)特許発明6についての小括
よって、特許発明6は、甲第2号証に記載された発明(引用発明1、2)及び甲第3号証に記載の技術または周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1-2-7 特許発明7について
(1)対比
特許発明7と引用発明3とを対比すると、引用発明3の「カバーガラス基材2の液晶表示装置30の表示面31に対向する表面に反射防止膜5を有する」ことは、特許発明7の「透明保護板は、前記ディスプレイ装置に対向する側の表面に第2の低反射処理層が設けられている」ことに相当するから、両者は上記相違点1,5で相違し、その余の点では一致している(引用発明3は「反射防止膜5」を有する点以外は引用発明1と同じ構成を有する。)。

(2)相違点1,5についての検討
相違点1,5については、上述の通り、引用発明2及び周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

(3)作用効果についての検討
特許発明7の奏する作用効果は、引用発明3、引用発明2及び周知の技術から予測できる範囲のものであり、格別のものということができない。

(4)特許発明7についての小括
よって、特許発明7は、甲第2号証に記載された発明(引用発明3、2)及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1-2-8 特許発明8について
(1)対比
特許発明8と引用発明3とを対比すると、上記相違点1,5に加えて、以下の相違点7で相違し、その余の点では一致している。

(相違点7)
「第2の低反射処理層」に関して、特許発明8は、「第2の低反射処理層は、λ/4板で構成されている」とするのに対して、引用発明3は、そのような構成を有しない点。

(2)相違点7についての検討
相違点1,5については、それぞれ「1-2-1 特許発明1について」「(2)相違点1についての検討」及び「1-2-5 特許発明5について」「(2)相違点5についての検討」で既に検討したので、相違点7について検討する。
甲第5号証(図3等)や特開2002-148592号公報(図3等)に記載されているとおり、λ/4板(と偏光板)を用いた反射防止手段は周知の技術であり、引用発明3において、反射防止膜の代わりに当該周知の技術を採用することは、当業者であれば容易に想到することである。
そうすると、引用発明3に周知の技術を適用することにより、相違点7に係る特許発明8の構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(3)作用効果についての検討
特許発明8の奏する作用効果は、引用発明3、引用発明2及び周知の技術から予測できる範囲のものであり、格別のものということができない。

(4)特許発明8についての小括
よって、特許発明8は、甲第2号証に記載された発明(引用発明3、2)及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1-2-9 特許発明9について
(1)対比
請求項1を引用する特許発明9と引用発明1とを対比すると、上記相違点1に加えて、以下の相違点8で相違し、その余の点では一致している。

(相違点8)
「透明保護板」に関して、特許発明9は、「透明保護板は、前記加飾フィルムと積層された可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備えるタッチパネルで構成されている」とするのに対して、引用発明1は、そのような構成を有しない点。

(2)相違点8についての検討
相違点1については、「1-2-1 特許発明1について」「(2)相違点1についての検討」で既に検討したので、相違点8について検討する。
甲第3号証(段落【0004】等)、甲第5号証(段落【0002】、【0023】及び図7等)、甲第9号証(段落【0023】?【0026】及び図6)、甲第10号証(段落【0002】等)、乙第2号証(段落【0007】?【0009】等)や特開2002-148592号公報(段落【0002】、【0019】及び図6等)等に記載されているとおり、抵抗膜式タッチパネルは周知の技術であり、可動電極フィルムと空気層と固定電極板とからなる構造は、抵抗膜式タッチパネルとしては、よく知られたものに過ぎない。
そして、甲第5号証(段落【0002】等)や特開2002-148592号公報(段落【0002】等)に記載されているとおり、透明保護板自体を抵抗膜式タッチパネルで構成することも従来から行われていることであるから、引用発明1において、「カバーガラス基材2」を周知の抵抗膜式タッチパネルに置き換えることは、当業者であれば容易に想到することである。
そうすると、引用発明1に周知の技術を適用することにより、相違点8に係る特許発明9の構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(3)作用効果についての検討
特許発明9の奏する作用効果は、引用発明1、引用発明2及び周知の技術から予測できる範囲のものであり、格別のものということができない。

(4)特許発明9についての小括
よって、特許発明9は、甲第2号証に記載された発明(引用発明1、2)及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1-2-10 特許発明10について
(1)対比
特許発明10と引用発明4とを対比する。

<対応関係A>
引用発明4の「携帯電話100」、「筐体20」、「液晶表示装置30の表示面31を外部から視認できる窓部21」、「液晶表示装置30」及び「液晶表示装置30を保護するカバーガラス1e」は、それぞれ、特許発明10の「電子機器」、「ケーシング」、「表示窓用開口部分」、「ディスプレイ装置」及び「電子機器表示窓の保護パネル」に相当する。

<対応関係B>
引用発明4の「カバーガラス1e」が保護する領域は「筐体20に開口された」部分の「表示面31」であるから、引用発明4の「携帯電話100の筐体20に開口された液晶表示装置30の表示面31を外部から視認できる窓部21を閉塞し、液晶表示装置30を保護するカバーガラス1e」は、特許発明10の「電子機器のケーシングの表示窓用開口部分に設けられたディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を保護する前記表示窓用開口に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネル」に相当する。

<対応関係C>
引用発明4の「基材フィルム71の一面側に印刷などの手段で、基材フィルム71の外周部に形成された光を透過しない装飾部11が設けられ、更にこの装飾部11を覆って粘着剤層72が設けられ、他面側に反射防止膜73が設けられており、基材フィルム71と反射防止膜73の間にハードコート膜が設けられた反射防止フィルム7aを作成」することと、特許発明10の「ハードコートフィルムの一方の表面の一部に薄膜状に形成された加飾部を有する窓形成層を備え、前記加飾部が設けられていない部分が前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に透過させる透明窓部として形成される加飾領域を複数形成して、大判加飾フィルムを作成」こととは、「ハードコートフィルムの一方の表面の一部に薄膜状に形成された加飾部を有する窓形成層を備え、前記加飾部が設けられていない部分が前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に透過させる透明窓部として形成される加飾領域を形成して、加飾フィルムを作成」する点で共通する。

<対応関係D>
引用発明4の「カバーガラス基材2を準備」することと、特許発明10の「複数のタッチパネル(14)を形成して、大判透明保護板(24)を構成」することとは、「透明保護板を構成」する点で共通する。

<対応関係E>
引用発明4の「カバーガラス基材2の外面にハードコート膜を有する反射防止フィルム7aを貼着」することと、特許発明10の「前記大判透明保護板に、前記大判加飾フィルムを、前記加飾部が前記大判透明保護板の表面と対向する方向となり、且つ、前記大判透明保護板が前記大判加飾フィルムとの重複部分に含まれるすべての前記加飾領域よりも大きい面積を有するように、貼り合わせ」ることとは、「前記透明保護板に、前記加飾フィルムを、前記加飾部が前記透明保護板の表面と対向する方向となるように、貼り合わせ」る点で共通する。

以上の対応関係からして、特許発明10と引用発明4とは、
「電子機器のケーシング表示窓用開口部分に設けられたディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を保護する前記表示窓用開口に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルの製造方法であって、
ハードコートフィルムの一方の表面の一部に薄膜状に形成された加飾部を有する窓形成層を備え、前記加飾部が設けられていない部分が前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に透過させる透明窓部として形成される加飾領域を形成して、加飾フィルムを作成し、
透明保護板を構成し、
前記透明保護板に、前記加飾フィルムを、前記加飾部が前記透明保護板の表面と対向する方向となるように、貼り合わせる、
電子機器表示窓の保護パネルの製造方法。」
の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点9)
「加飾フィルムを作成」する工程に関して、特許発明10は、「加飾領域を複数形成して大判加飾フィルムを作成」するのに対して、引用発明4は、「反射防止フィルム7a」について、「装飾部11」を複数形成し「大判」のフィルムを作成することはしていない点。

(相違点10)
「透明保護板を構成」する工程に関して、特許発明10は、「複数のタッチパネルを形成して、大判透明保護板を構成」するものであるのに対して、引用発明4は、「カバーガラス基材2」をタッチパネルで形成せず、「大判」とすることもない点。

(相違点11)
「透明保護板」と「加飾フィルム」とを貼り合わせる工程に関して、特許発明10は、「大判透明保護板が前記大判加飾フィルムとの重複部分に含まれるすべての前記加飾領域よりも大きい面積を有するように、貼り合わせ」るのに対して、引用発明4は、「カバーガラス基材2」と「反射防止フィルム7a」とを「大判」としておらず、「カバーガラス基材2」と「装飾部11」との面積の相対関係も限定していない点。

(相違点12)
特許発明10は、「透明窓部の外側位置かつ加飾領域の内側位置において、貼り合わされた大判加飾フィルムと大判透明保護板を一体的に切断して可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備えるタッチパネルで構成された透明保護板の表面に、前記可動電極フィルム側から加飾フィルムが積層された保護パネルを得る」工程を有するのに対して、引用発明4はそのような工程を有さない点。

(相違点13)
特許発明10は、「透明保護板」の背面側にフィルム等は形成していないのに対して、引用発明4は、「カバーガラス基材2の内面にハードコート膜を有さない反射防止フィルム7を貼着する」点。

(2)相違点9?13について
(2-1)相違点9?12について
相違点9?12は、大判の基材を用いて保護パネルの製造を行う工程に関するものであって、相互に関連するものであるから、相違点9?12をまとめて検討する。
まず、甲第5号証(段落【0002】等)や特開2002-148592号公報(段落【0002】)に記載されているとおり、透明保護板自体を抵抗膜式タッチパネルで構成することも従来から行われていることであるから、引用発明4において、「カバーガラス基材2」を周知の抵抗膜式タッチパネルに置き換えることは、当業者にとって格別の創意を必要とすることではない。そして、周知の抵抗膜式タッチパネルが可動電極フィルムと空気層と固定電極板とからなる構造を有することは、「1-2-9 特許発明9について」「(2)相違点8についての検討」で述べたとおりである。
また、甲第6号証(段落【0064】?【0070】等)、甲第7号証(段落【0029】、【0031】、【0076】、【0082】等)、第8号証(段落【0007】?【0009】、【0019】等)に記載されているとおり、電子機器表示窓の保護パネルの技術分野において、生産性向上を目的として複数の保護パネルを同時に製造するために、透明保護板(基材)とそれに積層するフィルムとを大判に形成しておき、両者を貼り合わせ、それを切断することにより個々の保護パネルを得ることは、周知の技術であり、且つまた、甲第9号証(段落【0023】?【0030】及び図6等)、甲第10号証(乙第1号証)(段落【0002】、【0021】?【0041】及び図1,2,4,6等)及び乙第2号証(段落【0120】?【0154】及び図18?30等)に記載されているとおり、複数の抵抗膜式タッチパネルを同時に製造するために、複数の抵抗膜式タッチパネルを含む大判状の基材を形成し、それを切断することにより個々の抵抗膜式タッチパネルを得ることも、周知の技術であるから、引用発明4に当該周知の製造方法を適用することは、当業者にとって格別の創意を必要とすることではない。
そうすると、引用発明4において、生産性向上のために、周知の技術を採用し、「反射防止フィルム7a」を大判のフィルムとし、「カバーガラス基材2」に代えて複数の抵抗膜式タッチパネルを含む大判状の基材を形成し、それらを貼り合わせた後で切断して個々の「カバーガラス」を得ることは、当業者であれば容易に想到することである。
その際、甲第2号証の図6や甲第8号証の図3等に記載されているような「カバーガラス」(ディスプレイカバー)の外縁に設ける装飾部について、装飾部の外側に美観を損ねる不要な余白部が残ってしまわないようにすることは当業者であれば当然に考慮すべきことである。そのために装飾部の外縁の境界線で切断するか、あるいは、製造上の余裕を持たせるため装飾部の外縁の境界線よりも若干内側の所で切断すべきことは当業者にとって自明な事項である。さらに、技術常識に鑑みれば、製造工程において位置合わせの精度や確度を考慮してマージンをとっておく必要性があることは明らかであるといえるから、当業者であれば、後者の余裕を持って装飾部の外縁の境界線の若干内側の所で切断する方を採用するのは当然の帰結に過ぎない。
してみると、引用発明4に周知の技術を適用することにより、相違点9?12に係る特許発明10の構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

なお、技術常識及び甲第2号証の段落【0011】?【0013】の記載等を参酌すれば、反射防止膜は、主に反射防止フィルムの基材フィルムやハードコート膜と空気層との界面での反射を防止するために設けるものであるから、引用発明2の「反射防止フィルム7a」を外面側に適用する際、反射防止膜の側を外面側に向けて配置するのは当然のことである。また、引用発明の「反射防止フィルム7a」の「装飾部11」は「カバーガラス」の部分のみに対応して設けられるものであるから、「反射防止フィルム7a」を大判としたとき、その中に含まれる全ての「装飾部11」の占有面積は、複数の抵抗膜式タッチパネルを含む大判状の基材の全体の面積よりも小さくなることも当然である。

(2-2)相違点13について
甲第2号証の段落【0105】?【0106】には、「カバーガラス基材2の内面側には反射防止膜を設けない構造」が記載されており、「内面側の反射防止膜5を省略して安価に製造でき」、「表示装置の視認性は良好である」ことも記載されている。また、段落【0107】において、「以上の説明では、反射防止膜をカバーガラス基材2又はハードコート膜3上に直接成膜したカバーガラスを示したが、反射防止膜を設けるには大量生産される反射防止フィルムを用いる方がコスト的に有利である」ことも示されている。
それらの記載を総合すると、引用発明4のような「反射防止フィルムを用いる」場合でも、「カバーガラス基材2の内面側には反射防止膜を設けない構造」を採用することで「安価に製造でき」ることは、当業者にとって自明なことである。
そうすると、引用発明4において、「カバーガラス基材2の内面にハードコート膜を有さない反射防止フィルム7を貼着する」工程を省略することにより、相違点13に係る特許発明10の構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(3)作用効果についての検討
特許発明10の奏する作用効果は、引用発明4及び周知の技術から予測できる範囲のものであり、格別のものということができない。

(4)特許発明10についての小括
よって、特許発明10は、甲第2号証に記載された発明(引用発明4)及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1-3 無効理由1についてのまとめ

よって、特許発明1?10についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許発明1?10についての特許は同法第123条第1項第2号に該当し、その余の理由を検討するまでもなく無効とすべきである。


第7 むすび

以上のとおりであるから、特許発明1?10についての特許は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その全額を被請求人の負担とする。

よって、上記結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電子機器表示窓の保護パネル及び保護パネルの製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器のケーシングの表示窓用開口に嵌め込まれ、前記ケーシングの表示窓用開口の近傍に設けられたディスプレイ装置の表面を保護する電子機器表示窓の保護パネル及び保護パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、スマートフォン等の電子機器におけるケーシングは、合成樹脂製の前面ケーシングと背面ケーシングを組み合わせて構成された扁平なものが一般的である。具体的には、前面ケーシングには液晶ディスプレイ装置などを配置する表示窓用開口が設けられており、表示窓の下側に設けられるディスプレイ装置の表面を保護するために保護パネルが融着等により固定されている。
【0003】
そして、この保護パネルには、従来より様々な工夫が提案されている。例えば、特開2002-72214号公報には、反射によって明るい室内あるいは屋外では液晶表示が極めて見にくくなるという問題を解決するためにλ/4板と偏光板と透明保護板との組み合わせで保護パネルを構成することが開示されている。また、上記透明保護板をタッチパネルとしたり、ハードコートフィルムや低反射フィルムを貼合するなどして保護パネルの最表面に付加機能を付与したりすることも開示されている。
【0004】
また、最近では、電子機器のファッション化に伴い、特開2001-318612号公報に開示されているように、印刷にて縁取り等の加飾が上記保護パネルに施されるようになってきている。
【特許文献1】特開2002-72214号公報
【特許文献2】特開2001-318612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記印刷による保護パネルへの加飾は、保護パネルを成形し、成形された保護パネルごとに印刷を行なわなければならないため、生産性の面で不利であるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記の問題点を解決し、生産性に優れた電子機器表示窓の保護パネル及び保護パネルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1態様によれば、電子機器のケーシングの表示窓用開口部分に設けられたディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を保護する前記表示窓用開口に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルであって、
前記ディスプレイ装置の前記露出部分表面に対向して設けられる透明保護板と、
透明なハードコートフィルムと前記ハードコートフィルムの一方の表面に薄膜状に形成された窓形成層とを備え、かつ、前記窓形成層の一部が、印刷層として前記ハードコートフィルムに接触するように設けられた加飾部と前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に構成され前記加飾部が形成されていない部分である透明窓部として形成されている加飾フィルムと、
前記窓形成層が透明保護板の表面側に位置するように、前記加飾フィルムを前記透明保護板の前記ディスプレイ装置に対向しない側の表面に積層状態に貼着する透明な貼着層を有する、電子機器表示窓の保護パネルを提供する。
【0008】
本発明の第2態様によれば、前記加飾部は、前記加飾フィルムの周縁に設けられ、前記透明窓部は前記加飾フィルムの中央部分に形成される、第1態様の電子機器表示窓の保護パネルを提供する。
【0009】
本発明の第3態様によれば、前記加飾フィルムは、さらに、第1の低反射処理層が設けられている第1態様の電子機器表示窓の保護パネルを提供する。
【0010】
本発明の第4態様によれば、前記第1の低反射処理層は、前記ハードコートフィルムの他方の表面全体に設けられている、第3態様の電子機器表示窓の保護パネルを提供する。
【0011】
本発明の第5態様によれば、前記透明保護板は、光学等方性であり、いずれかの表面に偏光板が設けられている、第1態様の電子機器表示窓の保護パネルを提供する。
【0012】
本発明の第6態様によれば、前記偏光板は、前記透明保護板の前記ディスプレイ装置に対向しない側の表面に設けられている、第5態様の電子機器表示窓の保護パネルを提供する。
【0013】
本発明の第7態様によれば、前記透明保護板は、前記ディスプレイ装置に対向する側の表面に第2の低反射処理層が設けられている第5態様の電子機器表示窓の保護パネルを提供する。
【0014】
本発明の第8態様によれば、前記第2の低反射処理層は、λ/4板で構成されている、第7態様の電子機器表示窓の保護パネルを提供する。
【0015】
本発明の第9態様によれば、透明保護板は、前記加飾フィルムと積層された可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備えるタッチパネルで構成されている、第1から第8態様のいずれか1つの電子機器表示窓の保護パネルを提供する。
【0016】
本発明の第10態様によれば、電子機器のケーシング表示窓用開口部分に設けられたディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を保護する前記表示窓用開口に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルの製造方法であって、
前記ハードコートフィルムの一方の表面の一部に薄膜状に形成された加飾部を有する窓形成層を備え、前記加飾部が設けられていない部分が前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に透過させる透明窓部として形成される加飾領域を複数形成して、大判加飾フィルムを作成し、
前記加飾領域よりも大きい面積を有する大判透明保護板に、前記大判加飾フィルムを、前記加飾部が大判透明保護板の表面と対向する方向となるように貼り合わせ、
前記透明窓部の外側位置かつ加飾領域の内側位置において、前記貼り合わされた大判加飾フィルムと前記大判透明保護板を一体的に切断して保護パネルを得る、電子機器表示窓の保護パネルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電子機器表示窓の保護パネルは、以上のような構成からなるので、次の効果を奏する。
【0018】
すなわち、本発明の電子機器表示窓の保護パネルは、透明保護板表面に、透明窓部を有する窓形成層がハードコートフィルム裏面にあらかじめ形成されてなる加飾フィルムを積層状態に貼着するものであるから、保護パネル毎に印刷を行なう必要がない。しかも、このように構成すれば、窓形成層の形成対象であるハードコートフィルムに印刷を行なう際に、このフィルムをロール状にして多数個分の柄を連続印刷することが可能となるので、製造時には、これらの大判の加飾フィルムと大判の透明保護板を貼り合わせ、一体的に切断することによって保護パネルの生産性を高めることができる。また、窓形成層はハードコートフィルムと透明保護板の間に配置され、外側に露出していないため経時的使用による加飾部の塗装落ちがない。さらに、加飾部は薄膜として設けられているため、加飾フィルムの表面に凹凸が形成されることがなく、透明保護板に貼着される場合に間に気泡が形成されるなどの問題が生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の一実施例に係る電子機器表示窓の保護パネルの断面図であり、図6のI-I線断面図である。
【図2】図2は、本発明の他の実施形態に係る電子機器表示窓の保護パネルの断面図である。
【図3】図3は、本発明のさらに他の実施例に係る電子機器表示窓の保護パネルの断面図である。
【図4】図4は、本発明のさらに他の実施例に係る電子機器表示窓の保護パネルの断面図である。
【図5】図5は、本発明のさらに他の実施例に係る電子機器表示窓の保護パネルの断面図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態にかかる電子機器表示窓の保護パネルの外観構成を示す図である。
【図7】図7は、本発明の実施形態にかかる電子機器表示窓の保護パネルの使用例を示す図である。
【図8】図8は、本発明の実施形態にかかる電子機器表示窓の保護パネルの製造工程を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の記述を続ける前に、添付図面において同じ部品については同じ参照符号を付している。以下、図面も参照しながら、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0021】
本発明の電子機器表示窓の保護パネルは、図6に示すように、薄い樹脂製のパネルであり、図7に示すように、電子機器のケーシングの表示窓用開口を被覆するものである。すなわち、前面ケーシング21には液晶ディスプレイ装置15などを配置する表示窓用開口22が設けられており、表示窓用開口22の下側に設けられるディスプレイ装置15の表面を保護するために保護パネルが融着等により固定される。
【0022】
電子機器表示窓の保護パネル1は、加飾部分2及び透明窓部分3とが設けられている。保護パネルが電子機器表示窓に配置された場合には、透明窓部分3から保護パネル1の下方に設けられる液晶パネル15を視認することができる。加飾部分2は、後述するように、保護パネルの周囲に設けられた加飾部を有する窓形成層6を備えた加飾フィルム7によって形成され、加飾部が形成されていない部分が透明窓部分3として形成される。したがって、加飾フィルム7は、保護パネルの全面にわたって設けられていてもよく、保護パネルを形成する透明保護板の表面に窓形成層を有する加飾フィルム7を貼り合わせ、その後透明保護板4と加飾フィルム7とを一体的に切断することにより、作成することができる。
【0023】
例えば、図8に示すように、加飾部2が設けられている加飾領域26を複数形成したロール状の加飾フィルム23を、透明両面テープ25を用いて大判の透明保護板24に貼り合わせ、その後、貼り合わされた透明保護板と加飾フィルムとを一体的に切断することにより、作成することができる。貼り合わされた大判の透明保護板24とロール状の加飾フィルム23とを一体的に切断する位置は、透明窓部3の外側であって、加飾領域26の内側であることが好ましい。このように構成することにより、周縁部分まで加飾層2が形成された保護パネルを作成することができる。
【0024】
図6に示す保護パネルは、透明保護板4と加飾フィルム7の積層構造であり、具体的には、例えば、図1に示すような断面構造を有する。
【0025】
図1に示す保護パネル1aは、透明保護板4の表面に加飾フィルム7が貼着層10によって積層状態に貼着され、透明保護板4の裏面に第2の低反射処理層11が形成されている。また、加飾フィルム7は、ハードコートフィルム5の透明保護板4側の面に加飾部2を有する窓形成層6を形成し且つ反対面に第1の低反射処理層12を形成してなるものである。
【0026】
なお、第1及び第2の低反射処理層12,11は、それぞれ、透明窓部分を通して視認される液晶パネル15の表示を見やすくするために、光学的に何らかの反射を軽減するものであれば、特にその構成は問わない。
【0027】
上記透明保護板4としては、透視性に優れ、液晶パネル15を破損から保護できる材料を用いる。例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル系樹脂、AN樹脂などの汎用樹脂を挙げることができる。また、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂などの汎用エンジニアリング樹脂や、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアリル系耐熱樹脂などのスーパーエンジニアリング樹脂を用いる。
【0028】
透明保護板4裏面に設けられる第2の低反射処理層11の形成には、次のような低反射処理方法を用いることができる。例えば、フッ素樹脂やシリコン樹脂などの低屈折率樹脂を用いた低反射材料を塗布したり、金属の多層膜を蒸着等により形成したり、低反射フィルムを貼り付けたり、サンドブラスト加工やエンボス加工、マットコーティング加工、エッチング加工等により表面を梨地状に処理したりする等である。
【0029】
上記加飾フィルム7のハードコートフィルム5としては、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリエーテルケトン系等のエンジニアリングプラスチック、アクリル系、ポリエチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系などの透明樹脂フィルムの片面又は両面にアクリル樹脂、シリコン樹脂、UV硬化樹脂などによるハードコート処理層を形成したものを用いる。なお、片面にハードコート処理層を形成する場合は、ハードコート処理層の形成されていない面を透明保護板4側とする。
【0030】
上記加飾フィルム7の第1の低反射処理層12の形成には、前記透明保護板4裏面の第2の低反射処理層11と同様に、フッ素樹脂やシリコン樹脂などの低屈折率樹脂を用いた低反射材料を塗布したり、金属の多層膜を蒸着等により形成したり、低反射フィルムを貼り付けたり、サンドブラスト加工やエンボス加工、マットコーティング加工、エッチング加工等により表面を梨地状に処理したりする等である。なお、この第1の低反射処理層12を形成するタイミングは、ハードコートフィルム5に窓形成層6を形成する前又は後のいずれでもよい。
【0031】
上記加飾フィルム7は透明窓部と加飾部を有し、該加飾フィルム7が前記透明保護板4の表面に積層されて得られる保護パネル1は、加飾される部分が加飾部分2となり、加飾部2が設けられていない部分が透明窓部3となる。加飾部分2は、加飾フィルムの周囲にのみ設けられ、中央部分に透明窓部3が形成されるように形成することにより、例えば、液晶パネル15の周囲に設けられている電極部分の隠蔽部としても用いることができる。
【0032】
窓形成層6の加飾部の材質としては、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。加飾部の形成方法としては、グラビア印刷法やスクリーン印刷法などを用いるとよい。窓形成層に加飾部を印刷法により薄膜状に形成することにより、加飾フィルム表面に形成される凹凸が少なくなり、透明保護板に貼着する場合に透明保護板4と加飾フィルム7の間に気泡が形成されるなどが起こりにくくなる。
【0033】
また、窓形成層6は、金属薄膜層からなるもの、あるいは印刷層と金属薄膜層との組み合わせからなるものでもよい。金属薄膜層は、窓形成層6として金属光沢を表現するためのものであり、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、鍍金法などで形成する。この場合、表現したい金属光沢色に応じて、アルミニウム、ニッケル、金、白金、クロム、鉄、銅、スズ、インジウム、銀、チタニウム、鉛、亜鉛などの金属、これらの合金又は化合物を使用する。金属薄膜層は、通常は、部分的に形成する。また、金属薄膜層を設ける際に、他の層との密着性を向上させるために、前アンカー層や後アンカー層を設けてもよい。
【0034】
貼着層10は、透明両面テープが好適に使用できるが、透明接着剤を使用してもよい。貼着層は加飾フィルム7の表面全面に設けられていてもよいし、透明窓部の視認性を高めるために窓形成層の加飾部が設けられている部分のみに設けられていてもよい。
【0035】
以上のように構成することにより、この保護パネルは、生産性に優れたものとなる。つまり、透明保護板4表面に、加飾部と透明窓部を有する窓形成層6がハードコートフィルム5裏面にあらかじめ形成されてなる加飾フィルム7を積層するものであるから、保護パネル毎に印刷を行なう必要がない。しかも、窓形成層6の形成対象であるハードコートフィルム5又は透明樹脂フィルム12に加飾部を設ける際にこれらのフィルムをロール状にして多数個分の柄を連続印刷することが可能となるので、保護パネルの生産性を向上させることができる。
【0036】
なお、本発明の実施形態にかかる電子機器表示窓の保護パネルは、上記した構成に限定されるものではない。例えば、図2に示す保護パネル1bは、光学等方性の透明保護板4の表面に偏光板8を介して加飾フィルム7を積層して構成されている(図2参照)。なお、この場合、ハードコートフィルム5の透明保護板4側の面に加飾部と透明窓部を有する窓形成層6を少なくとも形成してなるものである。このように偏光板8を配置することで液晶パネル15側からの反射光を低減することができる。また、保護パネルを電子機器配置した場合において、窓形成層6が偏光板4よりも前面に位置するように構成されているため、窓形成層6の視認性がよい。これに対して、窓形成層6が偏光板4よりも背面側に位置すると、偏光板4を通して窓形成層6を見ることとなるため、窓形成層の視認性が悪くなる。偏光板8は、液晶表示分野で通常用いられているものであることができ、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂にヨウ素や二色性染料のような二色性物質が吸着配向された一軸延伸フィルムなどが好適であり、通常はかかる二色性物質が吸着配向された一軸延伸フィルムの両面に保護フィルムが積層された状態で用いられる。また、この保護パネルを用いる場合は、液晶パネル15に設けられる偏光板を省略することもできる。
【0037】
ところで、電子機器表示窓の保護パネルに加飾を施す方法として特開2001-318612号公報には転写インモールド法やインサート法が記載されている。これらの方法でも透明保護板4のみへの加飾なら可能ではあるが、上記した偏光板8を備えた構成の場合には用いることができない。なぜなら、印刷済みシートを金型内挿入し溶融樹脂を射出すると、熱により偏光板8が変質してしまうからである。偏光板8を設けた透明保護板4に加飾フィルム7を積層すれば、偏光板8が変質することはない。
【0038】
また、本発明の他の実施形態にかかる電子機器表示窓の保護パネル1cは、上記偏光板8を備えた構成においてさらに透明保護板4裏面にλ/4板9を積層してもよい(図3参照)。λ/4板9は、入射光線に1/4波長の位相差を生じさせる機能を持った波長板である。また、このλ/4板9は偏光板8と透明保護板4との間に配置してもよい(図5参照)。λ/4板9と偏光板8は、それぞれの光学軸が相対的に約45°の角度をなすように組み合わされ、円偏光板を形成している。この円偏光板は、外部からの入射光による内部反射を効率よく吸収する反射防止フィルターとして機能し、視認性を向上させることができる。
【0039】
λ/4板9は、液晶表示分野で一般に採用されている各種高分子物質の一軸延伸フィルムであることができ、その素材としては、例えば、ポリビニルアルコール、ノルボルネン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリカーボネートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
また、上記偏光板8を配置した各構成において、透明保護板4をタッチパネル14で構成してもよい(図4参照)。タッチパネルとしては、従来より広く用いられているものを用いることができ、加飾フィルム7と積層された可動電極フィルムと、間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板とを備えるものがあげられる。
【0041】
また、本発明の電子機器表示窓保護パネル1は、上記加飾フィルム7を、ハードコートフィルム5の透明保護板4側の面に透明樹脂フィルムを介して窓形成層6を形成したものでとしてもよい。この場合、ハードコートフィルム5に透明樹脂フィルムを貼り合わせた後に窓形成層6を形成してもよいし、窓形成層6を透明保護板4側の面に形成した透明樹脂フィルムをハードコートフィルム5に貼り合わせてもよい。また、本発明では、加飾フィルム7として、窓形成層6をハードコートフィルム5側の面に形成した透明樹脂フィルムをハードコートフィルム5の透明保護板4側の面に貼り合わせたものを用いてもよい。
【0042】
(実施例1)
厚み0.075mmのPET基材の片面ハードコートフィルム(低反射処理付き)を用い、そのハードコート面とは反対面に透明窓部を有する窓形成層をグラビア印刷法にて形成して加飾フィルムとした。次に、厚み1.0mmのアクリル板からなるが光学等方性の透明保護板の表面に、上記加飾フィルムを窓形成層側が裏面となるように透明両面テープで貼り合わせる一方、透明保護板の裏面に低反射フィルム(日本油脂製)を貼り合わせることにより低反射処理層を形成した。
【0043】
この保護パネルは、透明保護板表面に、透明窓部を有する窓形成層がハードコートフィルム裏面にあらかじめ形成されてなる加飾フィルムを積層するものであるので、生産性に優れていた。
【0044】
(実施例2)
厚み0.075mmのPET基材の片面ハードコートフィルムを用い、そのハードコート面とは反対面に透明窓部を有する窓形成層をグラビア印刷法にて形成して加飾フィルムとした。次に、厚み1.0mmのアクリル板からなるが光学等方性の透明保護板の表面に、厚み0.2mmのポリビニルアルコール系樹脂にヨウ素が吸着配向された偏光板(日東電工(株)製HEG1425DU)を貼り合わせ、さらに偏光板の表面に上記加飾フィルムを窓形成層側が裏面となるように透明両面テープで貼り合わせる一方、透明保護板の裏面に厚み.40μmのポリカーボネート樹脂からなるλ/4板(住友化学工業(株)製SEF340138B)を貼り合わせて電子機器表示窓の保護パネルを得た。なお、λ/4板の配向軸及び偏光板の吸収軸は、横方向を0°とし、反時計回りに角度が進むように表わした場合において、λ/4板は配向軸を90°とし、偏光板2は吸収軸を45°とした。また、各貼り合わせは、厚み25μmの基材レス透明粘着剤を用い全面的に行なう。
【0045】
この保護パネルは、透明保護板表面に、透明窓部を有する窓形成層がハードコートフィルム裏面にあらかじめ形成されてなる加飾フィルムを積層するものであるので、生産性に優れていた。
【0046】
(実施例3)
透明保護板を下記タッチパネルとしたこと以外は、実施例2と同様とした。すなわち、厚み0.1mmのポリカーボネートフィルムの一面に厚み20nmのITO膜をスパッタリングにて全面形成し、ITO膜の周縁部分を除去して幅広の四角形状をした透明電極とした。また、透明電極の横方向に対向する二辺に配置されるバスバーと該バスバーから各々外部に出力するための引き回し回路とからなる回路を、銀ペーストをスクリーン印刷して形成した。また、縦横が上記PETフィルムと同寸法で厚み0.7mmのアクリル板を、上記ポリカーボネートフィルムの透明電極を形成した面とは反対面に厚み25μmの基材レス透明粘着剤で貼り合わせ、下側電極板を得た。また、縦横が下側電極板と同寸法で厚み125μmのポリカーボネートフィルムフィルムを用い、その一面に厚み20nmのITO膜をスパッタリングにて全面形成し、ITO膜の周縁部分を除去して幅広の四角形状をした透明電極とした。また、透明電極の縦方向に対向する二辺に配置されるバスバーと該バスバーから各々外部に出力するための引き回し回路とからなる回路を、銀ペーストをスクリーン印刷して上側電極板を得た。上記上側電極板と上記下側電極板とを電極間を隔てるように対向配置させ、フィルムコネクタの挿入部分を除く周縁で粘着糊により貼り合わせ、タッチパネルとした。
【0047】
この保護パネルは、透明保護板表面に、透明窓部を有する窓形成層がハードコートフィルム裏面にあらかじめ形成されてなる加飾フィルムを積層するものであるので、生産性に優れていた。
【0048】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【0049】
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器のケーシング(21)の表示窓用開口部分(22)に設けられたディスプレイ装置(15)の前記表示窓用開口(22)からの露出部分を保護する前記表示窓用開口に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルであって、
前記ディスプレイ装置(15)の前記露出部分表面に対向して設けられる透明保護板(4)と、
透明なハードコートフィルム(5)と前記ハードコートフィルムの一方の表面に薄膜状に形成された窓形成層(6)とを備え、かつ、前記窓形成層(6)の一部が、印刷層として前記ハードコートフィルムに接触するように設けられた加飾部(2)と前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に構成され前記加飾部が形成されていない部分である透明窓部(3)として形成されている加飾フィルム(7)と、
前記窓形成層(6)が透明保護板の表面側に位置するように、前記加飾フィルム(7)を前記透明保護板の前記ディスプレイ装置(15)に対向しない側の表面に積層状態に貼着する透明な貼着層(10)を有する、電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項2】
前記加飾部(2)は、前記加飾フィルム(7)の周縁に設けられ、前記透明窓部(3)は前記加飾フィルムの中央部分に形成される、請求項1に記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項3】
前記加飾フィルム(7)は、さらに、第1の低反射処理層(12)が設けられている請求項1に記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項4】
前記第1の低反射処理層(12)は、前記ハードコートフィルムの他方の表面全体に設けられている、請求項3に記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項5】
前記透明保護板は、光学等方性であり、いずれかの表面に偏光板(8)が設けられている、請求項1に記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項6】
前記偏光板(8)は、前記透明保護板(4)の前記ディスプレイ装置に対向しない側の表面に設けられている、請求項5に記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項7】
前記透明保護板(4)は、前記ディスプレイ装置に対向する側の表面に第2の低反射処理層(11)が設けられている請求項5記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項8】
前記第2の低反射処理層(11)は、λ/4板で構成されている、請求項7記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項9】
透明保護板(4)は、前記加飾フィルム(7)と積層された可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備えるタッチパネル(14)で構成されている、請求項1から8のいずれか1つに記載の電子機器表示窓の保護パネル。
【請求項10】
電子機器のケーシング表示窓用開口部分(22)に設けられたディスプレイ装置(15)の前記表示窓用開口(22)からの露出部分を保護する前記表示窓用開口(22)に嵌め込まれる電子機器表示窓の保護パネルの製造方法であって、
ハードコートフィルム(5)の一方の表面の一部に薄膜状に形成された加飾部(2)を有する窓形成層(6)を備え、前記加飾部が設けられていない部分が前記ディスプレイ装置の前記表示窓用開口からの露出部分を視認可能に透過させる透明窓部(3)として形成される加飾領域(26)を複数形成して、大判加飾フィルム(23)を作成し、
複数のタッチパネル(14)を形成して、大判透明保護板(24)を構成し、
前記大判透明保護板(24)に、前記大判加飾フィルム(23)を、前記加飾部が前記大判透明保護板(24)の表面と対向する方向となり、且つ、前記大判透明保護板(24)が前記大判加飾フィルム(23)との重複部分に含まれるすべての前記加飾領域よりも大きい面積を有するように、貼り合わせ、
前記透明窓部(3)の外側位置かつ加飾領域(26)の内側位置において、前記貼り合わされた大判加飾フィルム(23)と前記大判透明保護板(24)を一体的に切断して可動電極フィルムと、前記可動電極フィルムとの間に空気層を形成するように周縁部において前記可動電極フィルムと接着された固定電極板と、を備えるタッチパネル(14)で構成された透明保護板(4)の表面に、前記可動電極フィルム側から加飾フィルム(7)が積層された保護パネルを得る、電子機器表示窓の保護パネルの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2012-03-13 
出願番号 特願2006-510216(P2006-510216)
審決分類 P 1 113・ 851- ZA (G09F)
P 1 113・ 121- ZA (G09F)
P 1 113・ 841- ZA (G09F)
P 1 113・ 852- ZA (G09F)
P 1 113・ 853- ZA (G09F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田井 伸幸  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 森林 克郎
橋本 直明
登録日 2007-10-05 
登録番号 特許第4021925号(P4021925)
発明の名称 電子機器表示窓の保護パネル及び保護パネルの製造方法  
代理人 岡部 博史  
代理人 和田 充夫  
代理人 山田 卓二  
代理人 稲葉 和久  
代理人 稲葉 和久  
代理人 山田 卓二  
代理人 岡部 博史  
代理人 和田 充夫  

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