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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
管理番号 1256663
審判番号 不服2010-5714  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-15 
確定日 2012-05-10 
事件の表示 特願2007-325066「光記録媒体と光記録再生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月10日出願公開、特開2008- 84536〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成10年10月14日に出願した特願10-292281号の一部を平成19年12月17日に新たな特許出願としたものであって、平成21年12月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年3月15日付けで拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされた。

その後、当審において、平成23年5月11日付けで前置報告書(特許法第164条第3項)を利用した審尋を行ったところ、同年7月5日付けで回答書の提出がなされ、同年11月21日付けで拒絶の理由を通知したところ、同年12月19日付けで手続補正がなされたものである。


2.本願発明

本願の請求項1ないし2に係る発明は、平成23年12月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
光透過層の厚みをtとし、前記光透過層の厚さむらをΔtとして、
前記光透過層の厚さtを、t=0.6(mm)+Δtで表すとき、
前記Δtが±5.98λ/(N.A.)^(4)の範囲内であり、かつ限界値±10μmを超えるように選定され、
光透過層側から、波長λが390nm≦λ≦440nmのレーザ光により、N.A.≦0.72とされたレンズ系を通じて記録または再生のいずれかがなされる
光記録媒体。」


3.引用例

(1)引用例1
当審における拒絶の理由で引用された本願のそ及出願日前に頒布された刊行物である国際公開第97/33276号パンフレット(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(なお、以下、摘記事項の下線は当審で付した。)

ア.「 この発明の1つの実施例に基づく光ディスク装置では、記録媒体として、それぞれの厚みがhで、少なくとも一方の裏面に信号マークもしくは信号マークとなり得る反射層を備えた2枚の基板を貼り合わせて構成された光ディスクが用いられる。そして、上記光ディスクに対して、対物レンズを介してレーザビームを照射し、前記反射層からの反射光を検出する光検出装置が設けられる。この光検出装置の出力は一方においては信号読取り装置に供給され、他方においては対物レンズのフォーカスエラーを検出して光ディスクに対する対物レンズの位置を制御するフォーカシング装置に供給される。
ここで、この光ディスク装置では、前記レーザビームの中心波長をλ_(0)、その半値幅をΔλ、前記対物レンズの開口数をNA、前記光ディスクを構成している基板材質の屈折率をn_(2)としたとき、前記レーザビームの半値幅Δλが、次の(1)式を満たしていることを特徴としている。換言すると、(1)式を満たすレーザビームを出力するレーザ光源を用いている。
Δλ≧λ_(0)^(2)/{2h(n_(2)^(2)-NA^(2))^(0.5)} …(1)」(第2ページ第23行目-第3ページ第7行目)

イ.「このため、開口数NA=0.6の範囲内に存在する光束はほぼ同じΔh(つまり基板の厚さむら)に対して、それらの干渉強度が変動する。このため、光ディスクの回転に伴って基板の厚みが変動すると、干渉縞は最大幅で明から暗へと変化し、その結果、フォーカスエラー信号も変動することになる。」(第5ページ第4-8行目)

ウ.「 上記説明から判るように、記録媒体としてDVDを用いる光ディスク装置さらには将来出現すると予想されるHight Definition-DVDと呼ばれている高精細なDVDを取り扱う光ディスク装置において、より精度の高い記録・再生を実現するには、前述したU_(1)とU_(2)との干渉を回避する必要がある。」(第10ページ第26-29行目)

エ.「 また、Hight Definition-DVDを取り扱う光ディスク装置では、図11に示すように、中心波長λ_(0)=417(nm)程度のレーザビームを使用する必要がある。そこで、(1)式に、λ_(0)=417(nm)、h=0.6(mm)、n_(2)=1.5を代入して必要な半値幅Δλを求めてみると、Δλ≧0.105(nm)となる。すなわち、Hight Definition-DVDを取り扱う光ディスク装置では、中心波長λ_(0)が410(nm)から420(nm)で、半値幅Δλが0.105(nm)以上であることが必要である。なお、Hight Definition-DVDよりさらに機能アップさせた光ディスク装置でも、(1)式より、U_(1)とU_(2)とが干渉するのを防止できる半値幅Δλを求めることができる。
なお、上記実施例においては、光デイスクの一例としてDVDプレーヤを示したが、プログラムやコンピュータ用データ等を記録・再生するためのROM(DVD-ROM)やRAM(DVD-RAM)等にも適用できる。」(第11ページ第9-20行目)

上記「ア.」ないし「エ.」の記載から、引用例1には次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。

基板の厚みがh=0.6(mm)で、基板の厚さむらがΔhで、基板材質の屈折率n_(2)=1.5であり、
基板側から、中心波長λ_(0)が410(nm)から420(nm)のレーザビームにより、開口数がNAの対物レンズを通じて、記録・再生がなされ、
レーザビームの中心波長の半値幅Δλ≧λ_(0)^(2)/{2h(n_(2)^(2)-NA^(2))^(0.5)}=0.105(nm)である
Hight Definition-DVD。

(2)引用例2
当審における拒絶の理由で引用された本願のそ及出願日前に頒布された刊行物である中国特許出願公開明細書第1194436号(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(なお、以下、摘記事項の日本語訳は、特開平10-326435号公報を参考に、当審で付した。)

オ.「

」(説明書の第1ページ下から第3-5行目)
(訳)「既に提案されているDigital Versatile Disc(DVD)においては、情報信号部の領域内、すなわち、中心から半径24mm?58mmの範囲内においては、波長λ=0.65μm 、開口数(N.A.)=0.6の条件で容量は4.7GBである。」

カ.「

」(説明書の第6ページ上から第6-17行目)
(訳)「さらに、光透過層の厚さむらについてもさらなる高精度さが要求される。
光透過層の厚さが(再生対物レンズの設計中心から)ずれた場合、その厚さ誤差がスポットに与える収差量は波長に、またN.A.の4乗に比例する。したがって、高N.A.化、または短波長化による高密度化を行う場合、光透過層の厚さむらはさらに厳しく制限される。具体的なシステム例としてCDはN.A.=0.45が実用化されており光透過層の厚さむらの標準許容値は±100μmである。
DVDはN.A.=0.6で厚さむらの標準許容値は±30μmである。CDでの許容量±100μmを基準にすると、厚さむらΔtは(5)式のように表わされる。
Δt=±(0.45/N.A.)^(4 )×(λ/0.78)×100
=±5.26×(λ/N.A.^(4) )μM
(N.A.は、開口数) ・・・(5)」


4.対比

引用例1発明と本願発明とを対比する。

引用例1発明の「Hight Definition-DVD」は、本願発明の「光記録媒体」に相当する。

引用例1発明の「基板」は、本願発明の「光透過層」に相当する。
引用例1発明において、「基板の厚みがh=0.6(mm)で、基板の厚さむらがΔh」であるから、厚さむらを考慮した基板の厚さは、0.6(mm)+Δhで表すことができるので、本願発明の「光透過層の厚みをtとし、前記光透過層の厚さむらをΔtとして、前記光透過層の厚さtを、t=0.6(mm)+Δtで表す」ことは、引用例1発明に実質的に特定されている。

引用例1発明の「基板側から、中心波長λ_(0)が410(nm)から420(nm)のレーザビームにより、開口数がNAの対物レンズを通じて、記録・再生がなされ」ることは、本願発明の「光透過層側から、波長λが390nm≦λ≦440nmのレーザ光により、」「レンズ系を通じて記録または再生のいずれかがなされる」ことに含まれる。
そして、引用例1発明において、「基板材質の屈折率n_(2)=1.5」、「h=0.6(mm)」、「中心波長λ_(0)が410(nm)から420(nm)」のとき、「λ_(0)^(2)/{2h(n_(2)^(2)-NA^(2))^(0.5)}=0.105(nm)」であるから、これを満たすNAは、約0.54から0.69の範囲であり、本願発明の「N.A.≦0.72」に含まれる。

以上のことから、引用例1発明と本願発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]

「 光透過層の厚みをtとし、前記光透過層の厚さむらをΔtとして、
前記光透過層の厚さtは、t=0.6(mm)+Δtで表され、
光透過層側から、波長λが390nm≦λ≦440nmのレーザ光により、N.A.≦0.72とされたレンズ系を通じて記録または再生のいずれかがなされる
光記録媒体。」である点。

[相違点1]
本願発明では、光透過層の厚さむらΔtが±5.98λ/(N.A.)^(4)の範囲内であるのに対して、引用例1発明ではそのような特定がない点。

[相違点2]
本願発明では、光透過層の厚さむらΔtが限界値±10μmを超えるように選定されるのに対して、引用例1発明ではそのような特定がない点。


5.判断

上記相違点について検討する。

[相違点1について]
引用例1には、基板の厚さむらに関する記載があり、光透過層(基板)の厚さむらを許容範囲内とすること(光透過層の厚さむらの上限を規定すること)は、例えば、引用例2、特開平8-255347号公報(【0021】-【0024】)、特開平9-50641号公報(【0006】)等に記載されるように、技術常識であるから、引用例1発明においても、当然考慮されるべき事項である。
ここで、引用例2には、光透過層の厚さむらΔtについて、CD(N.A.=0.45、波長λ=0.78μm、光透過層の厚さむらの標準許容値は±100μm)を基準にすると、Δt=±(0.45/N.A.)^(4) ×(λ/0.78)×100=±5.26λ/(N.A.)^(4) の範囲内にすることが記載されている。
さらに、引用例2には、DVD(N.A.=0.6、波長λ=0.65μm、光透過層の厚さむらの標準許容値は±30μm)が記載されており、DVDを基準にする場合には、上記記載によれば、Δt=±(0.6/N.A.)^(4) ×(λ/0.65)×30=±5.98λ/(N.A.)^(4) の範囲内にすると認められる。
そして、引用例1発明は、より高精細なDVDであるHight Definition-DVD(一般に、HD-DVDと称されるもので、DVDとの互換性を保つもの)の発明であるから、その基板の厚さむらを考慮するにあたり、CDを基準にするのではなく、DVDを基準にすることは、自然な発想であり、引用例1発明において、引用例2に記載された発明をもとに、DVDを基準にして、基板の厚さむらを±5.98λ/(N.A.)^(4) の範囲内とすることは、当業者にとって容易に想到し得るものである。

[相違点2について]
光透過層の厚さむらは、小さい方がより好ましく、理想的にはない(Δt=0μm)のが良いことが自明であるところ、現実の光記録媒体において、過度に厳しい精度を求めることは、生産性の観点から望ましくないこともまた、技術常識からして自明であるから、光透過層の厚さむらについて、許容範囲内において、生産性を考慮して、精度の要件を緩和し、多少の厚さむらを許容する程度のこと(光透過層の厚さむらの下限を規定すること)は、当業者であれば容易に着想し得ることである。
また、本願発明において、限界値「±10μm」に臨界的意義を見いだすことはできないし、当該値が格別なものであるとも認められない。
したがって、引用例1発明において、基板の厚さむらの下限を規定することは、当業者にとって容易に想到し得るものであり、その下限(限界値)を「±10μm」とすることは、光記録媒体の品質と生産性とのバランスから、当業者が適宜なし得る事項である。

そして、上記相違点により本願発明が奏する効果は、引用例1及び2に記載された発明から、当業者が十分に予測できたものであって、格別なものとはいえない。

以上のとおり、本願発明は、引用例1発明、及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


6.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-06 
結審通知日 2012-03-13 
審決日 2012-03-26 
出願番号 特願2007-325066(P2007-325066)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蔵野 雅昭  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 馬場 慎
小松 正
発明の名称 光記録媒体と光記録再生装置  
代理人 角田 芳末  
代理人 伊藤 仁恭  

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