• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1256739
審判番号 不服2009-606  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-07 
確定日 2012-05-07 
事件の表示 平成11年特許願第347679号「内燃機関の排気ガス用浄化触媒」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月 5日出願公開、特開2000-237602〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年12月7日(優先権主張平成10年12月21日)の出願であって、平成19年5月31日付けで拒絶理由が起案され、同年7月31日に意見書とともに手続補正書が提出され、平成20年11月21日付けで拒絶査定された。
これに対し、平成21年1月7日に拒絶査定不服審判請求がなされ、同年2月5日に明細書及び請求の理由に係る手続補正書が提出されたものであり、その後、平成23年6月21日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、これに対する回答書が同年8月24日に提出されている。

第2 平成21年2月5日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年2月5日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲(平成19年7月31日付け手続補正書により補正されたもの)を、以下のように補正するものである。
(補正前)
「 【請求項1】 六角形状のセルを200メッシュ以上設けてなると共に上記セルを形成する隔壁の気孔率が25%以上であるコージェライトよりなるモノリス担体と,該モノリス担体の上記隔壁の表面に配設され,排気ガス浄化用の触媒成分を含有する触媒層とよりなり,
該触媒層の厚さは,薄部が10?70μmであり,かつ,厚部は上記薄部の12倍以下の厚さを有することを特徴とする内燃機関の排気ガス用浄化触媒。
【請求項2】 請求項1において,上記隔壁の気孔率は30%以上であることを特徴とする内燃機関の排気ガス用浄化触媒。
【請求項3】 請求項1又は2において,上記触媒層の厚さは,上記薄部が20?50μmであり,かつ,上記厚部の厚さは,上記薄部よりも厚く,かつ上記薄部の6倍以下であることを特徴とする内燃機関の排気ガス用浄化触媒。
【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項において,上記厚部は,上記六角セルにおける六角形の頂点部分に担持された触媒層の厚みをいい,上記薄部は,六角形の頂点からから最も離れた各辺の中央部に担持された触媒層の厚みをいうことを特徴とする内燃機関の排気ガス用浄化触媒。」を、
(補正後)
「 【請求項1】
六角形状のセルを200メッシュ以上設けてなると共に上記セルを形成する隔壁の気孔率が25%以上であるコージェライトよりなるモノリス担体と、排気ガス浄化用の触媒成分を含有するスラリーを用いて前記モノリス担体の上記隔壁の表面に配設され、前記触媒成分を含有する触媒層とよりなり、 該触媒層の厚さは,薄部が10?70μmであり、かつ、厚部は上記薄部の12倍以下の厚さを有しすることを特徴とする内燃機関の排気ガス用浄化触媒。
【請求項2】
請求項1において、上記隔壁の気孔率は30%以上であることを特徴とする内燃機関の排気ガス用浄化触媒。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、上記触媒層の厚さは,上記薄部が20?50μmであり,かつ,上記厚部の厚さは、上記薄部よりも厚く、かつ上記薄部の6倍以下であることを特徴とする内燃機関の排気ガス用浄化触媒。
【請求項4】
請求項1?3のしずれか1項において、上記厚部は、上記六角セルにおける六角形の頂点部分に担持された触媒層の厚みをいい、上記薄部は、六角形の頂点からから最も離れた各辺の中央部に担持された触媒層の厚みをいうことを特徴とする内燃機関の排気ガス用浄化触媒」とする。
(当審注:アンダーラインが補正箇所)

2.補正の目的
本件補正は、読点の一部だけを「,」から「、」に変換したり、「有する」を「有しする」としたり、「いずれか」を「しずれか」とするなど、多数の誤記が散見されるが、基本的には、モノリス担体の隔壁の表面に配設される「排気ガス浄化用の触媒成分を含有する触媒層」を、「排気ガス浄化用の触媒成分を含有するスラリーを用いて」配設されることを特定するものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.独立特許要件
3-1.本件補正発明
本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、次の事項により特定事項されるものである。
「【請求項1】
六角形状のセルを200メッシュ以上設けてなると共に上記セルを形成する隔壁の気孔率が25%以上であるコージェライトよりなるモノリス担体と、排気ガス浄化用の触媒成分を含有するスラリーを用いて前記モノリス担体の上記隔壁の表面に配設され、前記触媒成分を含有する触媒層とよりなり、
該触媒層の厚さは,薄部が10?70μmであり、かつ、厚部は上記薄部の12倍以下の厚さを有しすることを特徴とする内燃機関の排気ガス用浄化触媒。」
(当審注:「12倍以下の厚さを有しする」は、「12倍以下の厚さを有する」の誤記と認める。)

3-2.引用文献の記載事項・視認事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特開平10-1263416号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「ハニカム形状の担体基材と、該担体基材のセル壁表面に形成された触媒担持層と、該触媒担持層に担持された触媒貴金属及びNO_(x) 吸蔵材と、からなる排ガス浄化用触媒において、
前記触媒担持層は、その表面から深さ100μm以内に存在する部分が該触媒担持層の体積全体の80%以上を占める・・・排ガス浄化用触媒。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(イ)「【発明の属する技術分野】本発明は、自動車などの内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒に関し、さらに詳しくは、酸素過剰の排ガス、すなわち排ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)、水素(H_(2) )及び炭化水素(HC)等の還元性成分を完全に酸化するのに必要な酸素量より過剰の酸素を含む排ガス中の、窒素酸化物(NO_(x) )を効率良く還元浄化できる排ガス浄化用触媒に関する。」(段落【0001】)
(ウ)「ところで、浄化性能を向上させるには、排ガスと触媒貴金属及びNO_(x) 吸蔵材との接触確率を高くすることが必要となる。そのため触媒担持層には比表面積の高い活性アルミナを用いるのが主流である。また担体基材としては、幾何表面積を大きくするためにセル密度が400セル/inch^(2) 程度のハニカム担体基材が一般的に用いられている。」(段落【0006】)
(エ)「一方、活性アルミナから触媒担持層を形成する際に用いられるスラリーは、表面張力の大きな水を分散媒としている。したがって、そのスラリーを付着させて形成される触媒担持層は、スラリーは表面張力により開口部の断面が円形になろうとするため、図9に示すようにハニカム担体基材のセル壁表面に不均一な厚さで形成されることとなる。
・・・・・・
・・・以上のことから、触媒担持層内の成分の重量比や全体量は従来と同等に維持しつつ、その厚さをできるだけ均一にすることが望ましいことが明らかとなった。
本発明者は、このような知見に基づいて鋭意研究を進めた結果、触媒担持層の表面からの深さと、その深さの分布に最適値が存在することを発見し、本発明を完成したものである。すなわち本発明の排ガス浄化用触媒では、表面から深さ100μm以内に存在する部分が触媒担持層の体積全体の80%以上を占めている。これにより排ガスとNO_(x) 吸蔵材及び触媒貴金属との接触確率が高く維持され、リーン時のNO_(x)吸蔵能及びリッチパルス時のNO_(x) 放出還元能が高まるためNOx 浄化性能が向上する。」(段落【0014】?【0017】)
(オ)「また従来と同様のスラリー法を用いて触媒担持層を形成する場合においては、ハニカム担体のセルの断面形状を六角形以上、さらには円形とすることも好ましい。これにより、スラリーの表面張力とセル壁面形状とのバランスがよくなり、従来と同様に触媒担持層を形成するだけで、表面から深さが100μm以内に存在する部分が触媒担持層の体積全体の80%以上を占めるようにすることができる。ただ、複数のセルを限られた容積内に多数個配置するには、断面形状を正六角形とするのが望ましい。それより辺の多い多角形や円形の断面形状では、セル以外の部分のデッドスペースが多くなるため好ましくない。」(【0020】)
(カ)「触媒貴金属としては、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、銀(Ag)などが例示される。また、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)などの卑金属を併用してもよい。・・・
・・・・・・
・・・なお、NO_(x) 吸蔵材及び触媒貴金属を触媒担持層に担持させるには、その塩化物や硝酸塩等を用い、含浸法、噴霧法、スラリー混合法などを利用して従来と同様に担持させることができる。」(段落【0024】?【0026】)
(キ)「・・・
(実施例1)図1に本発明の一実施例の排ガス浄化用触媒の端面の拡大断面図を示す。この排ガス浄化用触媒は、モノリス担体1と、モノリス担体1のセル壁表面に形成された触媒担持層2とから構成され、触媒担持層2にはPt3とBa4とが担持されている。・・・」(段落【0027】)として、【図1】には、六角形の頂点から最も離れた各辺の中央部の「触媒担持層2」が最も薄く、六角形頂点部分の「触媒担持層2」が最も厚いことを窺うことができる。
(ク)「先ずコーディエライト製のハニカム形状のモノリス担体1を用意した。セルの断面形状は正六角形であり、全体の断面積は83cm^(2) 、セル密度は400セル/inch^(2) 、容積は1.3リットルである。次に、γ-アルミナ粉末100重量部と、アルミナを20重量%含むアルミナゾル3重量部と、水200重量部とからなるスラリーを用意し、上記モノリス担体1をこのスラリーに浸漬後引き上げて余分なスラリーを吹き払い、120℃で6時間乾燥後、500℃で3時間焼成して触媒担持層2を形成した。触媒担持層2のコート量は、モノリス担体1リットル当たり190gである。
次に、触媒担持層2をもつモノリス担体1を所定濃度の白金テトラアンミンヒドロキシド水溶液に2時間浸漬し、引き上げて余分な水滴を吹き払った後、250℃で1時間乾燥して触媒担持層1にPt3を担持した。Pt3の担持量はモノリス担体1リットル当たり1.5gである。さらに、Pt3が担持された触媒担持層2をもつモノリス担体1を所定濃度の酢酸バリウム水溶液に1時間浸漬し、引き上げて余分な水滴を吹き払った後、250℃で1時間乾燥して触媒担持層2にBa4を担持した。Ba4の担持量はモノリス担体1リットル当たり0.2モルである。」(段落【0028】?【0029】)
(ケ)「得られた実施例1の触媒について、触媒担持層2の存在深さ別のコート体積分布を顕微鏡写真の画像処理により測定した。結果を図2に、それを浅い方から積算したものを図3に示す。図2及び図3からわかるように、触媒担持層2は表面から深さ100μm以内に存在する部分が全体の88%を占めている。
・・・」(段落【0030】)として、【図2】には、6角400セルの「触媒担持層2」の表面からの深さが、最小20μm、最大160μmであることが見てとれる。

3-3.引用発明
(a)引用文献1には、記載事項(ア)に、「ハニカム形状の担体基材と、該担体基材のセル壁表面に形成された触媒担持層と、該触媒担持層に担持された触媒貴金属及びNO_(x) 吸蔵材と、からなる排ガス浄化用触媒において、
前記触媒担持層は、その表面から深さ100μm以内に存在する部分が該触媒担持層の体積全体の80%以上を占める排ガス浄化用触媒。」が記載されている。
(b)上記「ハニカム形状の担体基材」について、記載事項(ク)に、「コーディエライト製のハニカム形状のモノリス担体1」と記載されるとともに、「セルの断面形状は正六角形」及び「セル密度は400セル/inch^(2) 」と記載されており、上記「ハニカム形状の担体基材」は、「セルの断面形状が正六角形でセル密度が400セル/inch^(2) であるコーディエライト製のモノリス担体」であるといえる。
(c)上記「触媒担持層に担持された触媒貴金属及びNO_(x) 吸蔵材」について、記載事項(カ)に、「NO_(x) 吸蔵材及び触媒貴金属を触媒担持層に担持させるには、・・・スラリー混合法などを利用して従来と同様に担持させることができる。」と記載されており、上記「触媒貴金属及びNO_(x) 吸蔵材」は、「スラリー混合法」により「触媒担持層に担持」されているといえる。
(d)上記「排ガス浄化用触媒」について、記載事項(イ)には、「自動車などの内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒に関し」と記載されていることから、上記「排ガス浄化用触媒」は、「内燃機関」の「排ガス浄化用触媒」であるといえる。

(e)上記(a)?(d)の検討を踏まえ、記載事項(ア)、(イ)、(カ)、(ク)の事項を本件補正発明の記載ぶりに則して整理すると、引用文献1には、
「セルの断面形状が正六角形でセル密度が400セル/inch^(2) であるとコーディエライト製のモノリス担体と、該モノリス担体のセル壁表面に形成された触媒担持層と、スラリー混合法により該触媒担持層に担持された触媒貴金属及びNO_(x) 吸蔵材と、からなる内燃機関の排ガス浄化用触媒において、
前記触媒担持層は、その表面から深さ100μm以内に存在する部分が該触媒担持層の体積全体の80%以上を占める内燃機関の排ガス浄化用触媒。」なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3-4.対比・判断
(a)引用発明の「断面形状が正六角形」の「セル」は、本件補正発明の「六角形のセル」に相当する。
(b)本件補正発明の「200メッシュ」について、本願明細書の段落【0011】には、「上記モノリス担体としては,上記のごとく,六角形のセル(六角セル)を200メッシュ以上有するものを用いる。ここでメッシュとは1インチ四方(1in^(2))の単位面積当たりに存在するセルの数を表している。」と記載されており、上記「200メッシュ」は「200セル/in^(2)」であるといえるから、引用発明の「セル密度が400セル/inch^(2) である」ことは、本件補正発明が「セルを200メッシュ以上設けてなる」ことと、「セルが400メッシュ」である点で一致する。
(c)引用発明の「コーディエライト」は、本件補正発明の「コージェライト」に相当することは明らかである。
(d)引用発明の「触媒貴金属」について、記載事項(カ)には、「触媒貴金属としては、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、銀(Ag)などが例示される。」と記載されている。
一方、本件補正発明の「排気ガス浄化用の触媒成分」について、本願明細書の段落【0017】には、「また,上記触媒層の触媒成分としては,例えば,白金,ロジウム等の貴金属がある。」と記載されており、両社とも「白金」、「ロジウム」を用いていることから、引用発明の「触媒貴金属」は、本件補正発明の「排気ガス浄化用の触媒成分」に相当する。
(e)引用発明の「モノリス担体のセル壁表面に形成された触媒担持層と、スラリー混合法により該触媒担持層に担持された触媒貴金属及びNO_(x) 吸蔵材」は、本件補正発明の「排気ガス浄化用の触媒成分を含有するスラリーを用いて前記モノリス担体の上記隔壁の表面に配設され、前記触媒成分を含有する触媒層」に相当する。

(f)上記(a)?(e)を踏まえると、両者は、
「六角形状のセルが400メッシュであるコージェライトよりなるモノリス担体と、排気ガス浄化用の触媒成分を含有するスラリーを用いて前記モノリス担体の上記隔壁の表面に配設され、前記触媒成分を含有する触媒層とよりなる内燃機関の排気ガス用浄化触媒。」である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点A
本件補正発明は、「セルを形成する隔壁の気孔率が25%以上である」のに対し、引用発明は、「セル壁」が係る事項を有していない点。

・相違点B
本件補正発明は、「触媒層の厚さは,薄部が10?70μmであり、かつ、厚部は上記薄部の12倍以下の厚さを有する」のに対し、引用発明は、「触媒担持層は、その表面から深さ100μm以内に存在する部分が該触媒担持層の体積全体の80%以上を占める」点。

上記各相違点について検討する。
・相違点Aについて
セル密度が400セル/inch^(2) 以上のコージェライトからなるモノリス担体において、セルを形成する隔壁の気孔率を25%以上とすることは、例えば、特開平6-165943号公報(【請求項3】、段落【0024】?【0025】を参照)、特開平9-299811号公報(段落【0012】を参照)、梅原一彦,“排ガス浄化用多孔性コージェライトハニカム”,セラミックス,1998年7月1日,第33巻第7号,p.530-533(特に、第531頁左欄15?24行、第532頁左欄24?29行を参照)等に記載されるとおり、本願出願前周知であるから、引用発明のような、六角形状のセルを400メッシュ設けたコージェライトからなるモノリス担体において、セルを形成する隔壁の気孔率を25%以上とすることは、触媒の担持性やモノリス担体の機械強度に応じて、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。

・相違点Bについて
引用発明が「触媒担持層は、その表面から深さ100μm以内に存在する部分が該触媒担持層の体積全体の80%以上を占める」ことについて、記載事項(ケ)によれば、「表面から深さ100μm以内に存在する部分が該触媒担持層の体積全体の88%を占める」とき、表面からの深さが、最小20μm、最大160μmであることから、引用文献1は、本件補正発明の「薄部が10?70μmであり、かつ、厚部は上記薄部の12倍以下の厚さを有する」ことを満足する実施例が開示されているといえる。

してみると、引用発明の「触媒担持層は、その表面から深さ100μm以内に存在する部分が該触媒担持層の体積全体の80%以上を占める」ことは、本件補正発明の「触媒層の厚さは,薄部が10?70μmであり、かつ、厚部は上記薄部の12倍以下の厚さを有する」ことであるといえるから、上記相違点Bは実質的な相違点とはならない。

なお、引用発明の「触媒担持層は、その表面から深さ100μm以内に存在する部分が該触媒担持層の体積全体の80%以上を占める」ことが、本件補正発明の「触媒層の厚さは,薄部が10?70μmであり、かつ、厚部は上記薄部の12倍以下の厚さを有する」ことであることが、理論上成り立つかについて、以下のモデルを用いて検討する。



・条件1
引用発明では、セル壁の壁厚が特定されていないので、正六角形一辺の長さaは、壁芯の長さを用いる。

・条件2
セル内にスラリーを付着させると、記載事項(エ)の、「スラリーを付着させて形成される触媒担持層は、スラリーは表面張力により開口部の断面が円形になろうとする」なる記載から、開口部の断面は円形とする。

引用発明のモノリス担体は、セル密度が400セル/inch^(2) であるから、セル1個の面積(正六角形の面積)Sは、
S=25.4^(2)/400=1.61[mm^(2)]
となり、正六角形一辺の長さをaとすると、正六角形の面積Sは、
S=3^(1.5)a^(2)/2
a^(2)=2S/3^(1.5) a=(2S/3^(1.5))^(0.5)=787.91[μm]
となる。
上記正六角形の各辺の垂直二等分線は、円の中心を通ることから、前記円の中心と、上記正六角形の辺と前記垂直二等分線との交点とを結ぶ線を底辺とし、前記円の中心と、上記正六角形の頂点とを結ぶ線を斜辺とした直角三角形を考えたとき、上記「その表面から深さ100μm以内に存在する部分が該触媒担持層の体積全体の80%以上を占める」ことは、円の中心からの仰角θがθ≦0.8×π/6[rad]の範囲内であるということができる。
ここで、円の半径をr、厚部の膜厚をt_(l)、薄部の膜厚をt_(s)、壁厚をw、三角形の底辺の長さをl、三角形の斜辺の長さをm、深さ100μmの部分を通り、円の中心と正六角形の辺を結ぶ線の長さをnとすると、
l=r+t_(s)+w/2
=acos(π/6)
m=r+t_(l)+w/2cos(π/6)
=a
n=acos(π/6)/cosθ
となる。
これらの式から、円の半径r、厚部の膜厚t_(l)、薄部の膜厚t_(s)を計算する。
(計算するに当たり、壁厚wは、上記相違点Aの検討で例示した各文献に記載の膜厚である、「6ミル(150μm)」、「4ミル(100μm)」を用いた。)

(1)壁厚wが6ミル(150μm)で、「表面から深さ100μm以内に存在する部分が該触媒担持層の体積全体の80%を占める」とき、
r=564.88[μm]
t_(l)=136.48[μm]
t_(s)=42.52[μm]
t_(l)/t_(s)=3.21
となり、「表面から深さ100μm以内に存在する部分が該触媒担持層の体積全体の100%を占める」とき、
r=601.31[μm]
t_(l)=100.00[μm]
t_(s)=6.04[μm]
t_(l)/t_(s)=16.55
となるから、引用発明の「触媒担持層は、その表面から深さ100μm以内に存在する部分が該触媒担持層の体積全体の80%以上を占める」ことは、「薄部が6.04?42.52μmであり、厚部は薄部の3.21?16.55倍の厚さを有する」といえ、本件補正発明の「薄部が10?70μmであり、かつ、厚部は上記薄部の12倍以下の厚さを有する」ことと、「薄部が10?42.52μmであり、厚部は上記薄部の3.21倍以上12倍以下の厚さを有する」点で重複する。

(2)壁厚wが4ミル(100μm)で、「表面から深さ100μm以内に存在する部分が該触媒担持層の体積全体の80%を占める」とき、
r=592.20[μm]
t_(l)=137.98[μm]
t_(s)=40.16[μm]
t_(l)/t_(s)=3.44
となり、「表面から深さ100μm以内に存在する部分が該触媒担持層の体積全体の100%を占める」とき、
r=630.18.[μm]
t_(l)=100.00[μm]
t_(s)=2.17[μm]
t_(l)/t_(s)=45.98
となるから、引用発明の「触媒担持層は、その表面から深さ100μm以内に存在する部分が該触媒担持層の体積全体の80%以上を占める」ことは、「薄部が2.17?40.16μmであり、厚部は薄部の3.44?45.98倍の厚さを有する」といえ、本件補正発明の「薄部が10?70μmであり、かつ、厚部は上記薄部の12倍以下の厚さを有する」ことと、「薄部が10?40.16μmであり、厚部は上記薄部の3.44倍以上12倍以下の厚さを有する」点で重複する。

そして、触媒担持層の厚さを薄くしすぎると、触媒能力が低下することは、原査定において引用文献3として提示した、特開昭63-143941号公報(第3頁左下欄第17行?右下欄第11行を参照)に記載されるとおり、本願出願前周知であるから、内燃機関の排ガス浄化用触媒において、「薄部が10?70μmであり、かつ、厚部は上記薄部の12倍以下の厚さを有する」ようにすることは、セル密度やセル壁厚、モノリス担体の機械強度に応じて、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。

よって、本件補正発明は、引用文献1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成21年2月5日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年7月31日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】 六角形状のセルを200メッシュ以上設けてなると共に上記セルを形成する隔壁の気孔率が25%以上であるコージェライトよりなるモノリス担体と,該モノリス担体の上記隔壁の表面に配設され,排気ガス浄化用の触媒成分を含有する触媒層とよりなり,
該触媒層の厚さは,薄部が10?70μmであり,かつ,厚部は上記薄部の12倍以下の厚さを有することを特徴とする内燃機関の排気ガス用浄化触媒。」

2.引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、およびその記載事項は、上記3-2.に記載したとおりである。

3.引用発明
引用発明については、上記3-3.で述べたとおりである。

4.対比・判断
引用発明と本願発明との一致点については、上記3-4.で述べたとおりである。また、本願発明は、本件補正発明の「排気ガス浄化用の触媒成分を含有するスラリーを用いて」を削除したものであるから、引用発明と本願発明との相違点は、上記3-4.で述べた相違点A、Bであり、これら相違点の検討についても、上記3-4.で述べたとおりである。

第4 補正案について
請求人は、回答書において補正案を提示し、平成21年2月5日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1(本件補正発明)の「排気ガス用浄化触媒」を「排気ガス中のHC、CO、NOx等を酸化反応又は酸化・還元反応により浄化する排気ガス用浄化触媒」とし、「触媒層の厚さは,薄部が10?70μmであり、かつ、厚部は上記薄部の12倍以下の厚さを有する」を「触媒層の厚さは薄部が26.5?67.5μmであり、かつ、厚部は上記薄部の12倍以下の厚さとする」とする補正の機会を求めている。

しかしながら、引用文献1には、記載事項(イ)に「排ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)、水素(H_(2) )及び炭化水素(HC)等の還元性成分を完全に酸化するのに必要な酸素量より過剰の酸素を含む排ガス中の、窒素酸化物(NO_(x) )を効率良く還元浄化できる排ガス浄化用触媒に関する」と記載され、上記3-4.の相違点Bの検討で述べたとおり、引用文献1も上記「26.5?67.5μm」と重複するから、上記補正案を採用することができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された引用文献1に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。

よって、上記のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-02 
結審通知日 2012-03-06 
審決日 2012-03-21 
出願番号 特願平11-347679
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B01J)
P 1 8・ 121- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 政博  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 吉川 潤
中澤 登
発明の名称 内燃機関の排気ガス用浄化触媒  
代理人 永井 聡  
代理人 伊藤 高順  
代理人 加藤 大登  
代理人 碓氷 裕彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ