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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1257235
審判番号 不服2011-10728  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-23 
確定日 2012-05-17 
事件の表示 特願2006-301801「シフト切換機構の制御装置および制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月22日出願公開、特開2008-116002〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成18年11月7日の出願であって、平成23年3月15日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成23年5月23日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
本願の請求項1ないし14に係る発明は、平成23年2月18日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「操作部材の状態に対応した信号に基づいてアクチュエータにより、車両に搭載された自動変速機のシフトポジションを切り換えるシフト切換機構の制御装置であって、
前記車両の速度に関連する物理量を検出するための車速検出手段と、
前記車両の制動力の要求の度合いを検出するための要求検出手段と、
前記検出された物理量に基づいて、車両が停止中であるか否かを判定するための判定手段と、
前記車両が停止中であるときに、前記検出された度合いに基づいて、前記シフトポジションをパーキングポジションに切り換えるように前記アクチュエータを制御するための制御手段とを含む、シフト切換機構の制御装置。」

2.引用例
(1)引用例1
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-63365号公報(以下、「引用例1」という。)には、「駐車ブレーキシステム」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「【0003】従来、駐車ブレーキシステムの一構成として、例えば停止時に駐車ブレーキを自動的にかけ、その後ブレーキペダルから足を放すか、アクセルペダルを踏み込むことで自動的に駐車ブレーキが解除される自動駐車ブレーキシステムがある。」
イ.「【0019】駐車ブレーキシステム11は、例えば車両の各車輪(図1では左右後輪のみ示す)に設けられた車速検出手段12、車両加速度検出手段13、車両姿勢検出手段14、ブレーキペダル踏力検出手段15、アクセルペダル踏力検出手段16、変速位置検出手段17、及びそれらを制御する制御手段18を備えている。
【0020】また、駐車ブレーキシステム11は、電動駐車ブレーキ機構21、電動変速選択機構22、電動アクセル機構23を備え、それらは前記制御手段18からの制御信号に基づいて動作する。
【0021】図2は、駐車ブレーキシステム11の電気的な構成を示すブロック図である。車速検出手段12は例えば各車輪に設けられた車速センサであって、各車速センサは対応する車輪の車輪速を検出して該車輪速に比例したパルス信号を生成し、そのパルス信号に基づく車速検出信号Svを制御手段18に出力する。制御手段18は、各車速センサからの車速検出信号Svに基づいて演算処理を行い、車両の走行速度を算出する。
・・・(省略)・・・
【0024】ブレーキペダル踏力検出手段(以下、ブレーキ検出手段)15は例えばブレーキセンサであって、該ブレーキセンサは、運転者による図示しないブレーキペダルの操作量(踏み込み量)を検出してブレーキ踏込量検出信号Sbpを出力する。このブレーキ検出信号Sbpに基づいて制御手段18は各車輪の電動ブレーキを制御し、前記ブレーキペダルの踏み込み量に応じたブレーキ力(制動力)を作用させる。
・・・(省略)・・・
【0026】変速位置検出手段17は例えばシフト位置センサであって、シフト位置センサは上記変速機のギヤを切替え操作する操作手段としてのシフトレバーの位置を検出して位置検出信号Spを出力する。即ち、シフト位置センサは、シフトレバーが駐車位置P(パーキング)、後退位置R(リバース)、中立位置N(ニュートラル)及び前進位置D(ドライブ)のうちいずれの位置にあるかを検出し、各位置に対応する位置検出信号Spを出力する。
【0027】制御手段18は、CPU、各種の処理プログラムを記憶したROM、及び一時的にデータを記憶するRAM等より構成される電子制御装置であって、該制御装置は車両に搭載されるバッテリ(図示略)等からの電源供給を受けて動作する。そして、制御手段18は、上記各センサからの検出信号に基づいてCPUにて演算処理を行い、電動駐車ブレーキ機構21、電動変速選択機構22及び電動アクセル機構23を制御するための各種の制御信号を生成する。」
ウ.「【0028】電動駐車ブレーキ機構21は、車両の状態に応じて駐車ブレーキの作動を自動的に行う。例えば電動駐車ブレーキ機構21は、シフトレバーの位置に依らず、車速略ゼロ(停止)、且つ、ブレーキペダルが踏み込まれて一定時間経過する場合に自動的に駐車ブレーキを作動する。即ち、車速検出手段12から車速略ゼロを示す車速検出信号Svが出力され、且つ、ブレーキ検出手段15からブレーキ踏力有りを示すブレーキ検出信号Sbpが出力されるとき、制御手段18にて生成される制御信号により駐車ブレーキが作動する。」
エ.「【0029】又、電動駐車ブレーキ機構21は、車両の状態に応じて駐車ブレーキの解除を自動的に行う。この駐車ブレーキの自動的な解除は、路面の傾斜状態(勾配)に応じて上記変速機のギヤが電動変速選択機構22により所定のギヤに切替えられる所定時間内で解除される。即ち、駐車ブレーキの解除方法は車両状態及び路面状態に応じて異なる。
【0030】詳述すると、電動駐車ブレーキ機構21は、例えばシフトレバーが駐車位置Pや中立位置N以外の位置で、ブレーキペダルから足を放すか、アクセルペダルを踏むか、或いはその両方の条件が成立する場合に自動的に駐車ブレーキを解除する。即ち、変速位置検出手段17から前進位置D又は後退位置Rを示す位置検出信号Spが出力され、且つ、ブレーキ検出手段15からブレーキ踏力無しを示すブレーキ検出信号Sbpが出力されるか或いはアクセル検出手段16からアクセル踏力有りを示すアクセル検出信号Sapが出力されるとき、制御手段18にて生成される制御信号により駐車ブレーキが解除される。
【0031】その駐車ブレーキ解除の際に、制御手段18は、車両姿勢検出手段14にて検出される傾斜検出信号Srに基づいて路面の勾配(即ち平坦路、登坂路、降坂路のいずれであるか)を認識する。さらに、制御手段18は、当該路面状態下におけるシフトレバーの位置(即ち前進位置D、後退位置Rのうちいずれであるか)を、変速位置検出手段17にて検出される位置検出信号Spに基づいて認識する。そして、制御手段18は、変速機のギヤを上記路面の勾配及びシフトレバーの位置に応じて予め定めたギヤの位置に切替えるべく制御信号を電動変速選択機構22に出力する。
【0032】詳述すると、駐車ブレーキ解除の際に、路面が登坂路且つシフトレバーの位置が後退位置Rである時、制御手段18は、電動駐車ブレーキ機構21によって駐車ブレーキが解除されるまでの時間に略相当する所定時間、変速機のギヤを前進ギヤに切替えるべく制御信号を電動変速選択機構22に出力する。電動変速選択機構22は、その制御信号に基づいて変速機のギヤを一時的に後退ギヤから前進ギヤに切替え、所定時間後(電動駐車ブレーキ機構21により駐車ブレーキが解除された後)、ギヤを再び前進ギヤから後退ギヤに戻す。
【0033】即ち、登坂路の後退発進時には、駐車ブレーキは変速機のギヤが前進ギヤに切替えられた状態で解除される。因みに、登坂路の前進発進時では変速機のギヤは前進ギヤの位置であり、この状態ではギヤの位置が制御されずに(即ち前進ギヤの状態で)駐車ブレーキが解除される。
【0034】又、駐車ブレーキ解除の際に、路面が降坂路且つシフトレバーの位置が前進位置Dである時、制御手段18は、同様に駐車ブレーキ解除時間に略相当する所定時間、変速機のギヤを後退ギヤに切替えるべく制御信号を電動変速選択機構22に出力する。電動変速選択機構22は、その制御信号に基づいて変速機のギヤを一時的に前進ギヤから後退ギヤに切替え、所定時間後(駐車ブレーキが解除された後)、ギヤを再び後退ギヤから前進ギヤに戻す。
【0035】即ち、降坂路の前進発進時には、駐車ブレーキは変速機のギヤが後退ギヤに切替えられた状態で解除される。因みに、降坂路の後退発進時では変速機のギヤは後退ギヤの位置であり、この状態ではギヤの位置が制御されずに(即ち後退ギヤの状態で)駐車ブレーキが解除される。」
オ.「【0041】図3は、電動駐車ブレーキ作動時の処理を説明するフローチャートである。運転者によりブレーキペダルが踏み込まれると(ステップ31)、車速検出手段12は車速を検出する(ステップ32)。尚、このステップ32において、例えば減速中又は運転者によりアクセルペダルが踏み込まれており、車速が略ゼロでない場合には車速検出手段12から車速略ゼロを示す検出信号Svが出力されるまで待つ。
【0042】車速が略ゼロとなり、該車速略ゼロの検出信号Svが一定時間出力されると(ステップ33)、制御手段18からの電動駐車ブレーキ機構21を駆動する制御信号に基づいて、駐車ブレーキが自動的に作動する(ステップ34)。
【0043】尚、上記ステップ33において、車速略ゼロの時間が一定時間経過する前に、運転者がブレーキペダルから足を放し、アクセルペダルが踏み込まれる場合には再度ステップ31(ブレーキ踏力有り),ステップ32(車速略ゼロ)を経て車速略ゼロが一定時間経過した後に自動駐車ブレーキが作動する。
【0044】図4は、電動駐車ブレーキ解除時の処理を説明するフローチャートである。尚、上記したように、この電動駐車ブレーキ解除の処理は、例えばシフト位置が前進位置D又は後退位置Rのときに実行される。
【0045】つまり、シフトレバーの位置が前進又は後進のいずれかの位置にある状態で、運転者がブレーキペダルから足を放すと(ステップ41)、車両姿勢検出手段14は路面が傾斜しているか否かを検出する(ステップ42)。
【0046】ステップ42において、路面が傾斜していない場合、即ち当該路面が平坦路である場合には、制御手段18からの電動駐車ブレーキ機構21の駆動を解除する制御信号に基づいて、駐車ブレーキが自動的に解除される(ステップ43)。
【0047】ステップ42において、路面が傾斜しており、当該路面が登坂路である場合(ステップ44)、変速位置検出手段17はシフト位置が前進位置D又は後退位置Rのいずれの位置にあるかを検出する(ステップ45)。このステップ45において、シフト位置が前進位置Dにある場合には、上記ステップ43と同様にして制御手段18からの制御信号により駐車ブレーキが自動的に解除される(ステップ46)。一方、同ステップ45において、シフト位置が後退位置Rにある場合には、電動変速選択機構22により変速機のギヤが一旦前進ギヤの位置に切替えられて駐車ブレーキが自動解除され、その駐車ブレーキ解除後に当該ギヤが後退ギヤの位置に戻される(ステップ47)。
【0048】上記ステップ42において、路面が傾斜しており、当該路面が降坂路である場合(ステップ48)、上記同様にして変速位置検出手段17によりシフト位置が検出され(ステップ49)、その際シフト位置が後退位置Rにある場合には、上記同様に駐車ブレーキが自動的に解除される(ステップ43)。一方、同ステップ49において、シフト位置が前進位置Dにある場合には、電動変速選択機構22により変速機のギヤが一旦後退ギヤの位置に切替えられて駐車ブレーキが自動解除され、その駐車ブレーキ解除後に当該ギヤが前進ギヤの位置に戻される(ステップ50)。
【0049】このようにして、登坂路の後退発進時には、変速機のギヤが前進ギヤに切替えられた状態で駐車ブレーキが解除されることにより、該駐車ブレーキに抗してかかる駆動力が軽減される。
【0050】さらに、変速機のギヤが前進ギヤに切替えられ、その後再び後退ギヤに自動的に切替えられる間は、電動アクセル機構23によりアクセル開度が路面傾斜に応じた当該車両の自重に基づく駆動力と略等しくなるような一定開度に制御される。従って、駐車ブレーキ解除の際に、自重に基づく駆動力がエンジン(原動機)からの駆動力にてほぼ打ち消されることで、それら駆動力と駐車ブレーキの制動力とを均衡させることができる。これにより、駐車ブレーキに抗してかかる駆動力がより軽減される。
【0051】同様にして、降坂路の前進発進時にも駆動力と制動力とを均衡させるような位置に変速機のギヤが切替えられた状態で駐車ブレーキが解除されるため、該駐車ブレーキに抗してかかる駆動力が同様に軽減される。」
カ.上記イの「車速検出手段12は例えば各車輪に設けられた車速センサであって、各車速センサは対応する車輪の車輪速を検出して該車輪速に比例したパルス信号を生成し、そのパルス信号に基づく車速検出信号Svを制御手段18に出力する。制御手段18は、各車速センサからの車速検出信号Svに基づいて演算処理を行い、車両の走行速度を算出する。」(段落【0021】参照)との記載、及び、上記ウの「電動駐車ブレーキ機構21は、シフトレバーの位置に依らず、車速略ゼロ(停止)、且つ、ブレーキペダルが踏み込まれて一定時間経過する場合に自動的に駐車ブレーキを作動する。」との記載からみて、駐車ブレーキシステム11は、「検出された車輪速に基づいて、車両が車速略ゼロ(停止)であるか否かを判定する判定手段」を備えていることは明らかである。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「シフトレバーの位置に対応した位置検出信号Spに基づいて電動変速選択機構22により、車両に搭載された変速機のギヤを路面の勾配及びシフトレバーの位置に応じて予め定めたギヤの位置に切替える駐車ブレーキシステム11であって、
前記車両の走行速度に関連する車輪速を検出するための車速検出手段12と、
ブレーキペダルの踏み込み量を検出するためのブレーキペダル検出手段15と、
前記検出された車輪速に基づいて、車両が車速略ゼロ(停止)であるか否かを判定する判定手段と、
前記車速略ゼロ(停止)で、且つ、前記ブレーキペダルが踏み込まれて一定時間経過する場合に、駐車ブレーキを作動させるように電動駐車ブレーキ機構21を制御するとともに、アクセルペダルが踏み込まれると駐車ブレーキを自動的に解除するように電動駐車ブレーキ機構21を制御するための制御手段18とを含む、駐車ブレーキシステム11。」

(2)引用例2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である実願平4-75942号(実開平6-40511号)のCD-ROM(以下、「引用例2」という。)には、「電動ATチェンジ」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。なお、丸数字は表記できないので、かっこ書きの数字で表記した。
キ.「【0001】
【産業上の利用分野】
この考案は、変速操作を電気的に行う電動ATチェンジに関し、特にドライブレンジでの走行中に必要に応じて有効にエンジンブレーキが効くようにした電動ATチェンジに関する。」
ク.「 【0014】
次に各ルーチンの処理内容について説明する。
「自動パーキング処理」
自動パーキングルーチンにおいては、イグニッションスイッチ7a、パーキングブレーキスイッチ7b、ブレーキスイッチ7c、シートベルトスイッチ7d、車速センサ7eの各信号に基づき、 (1)イグニッションがOFFでかつ車速が3km/h以下であるか否か、又は (2)車速が3km/h以下でシートベルトが外されかつブレーキの踏込みが解除されたか否か、あるいは (3)車速が3km/h以下でパーキングブレーキが作動されかつブレーキの踏込みが解除されたか否かを判定し、何れかの条件が満たされた場合に駆動信号が発生され、駆動モータ40、41が作動されて変速機5がパーキングレンジに切替えられる。
同時に、インジケータ6に対して制御信号が発生され、パーキングレンジに変速されていることを示すインジケータ6の「P」の表示が点灯される。」

3.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、その機能又は作用などからみて、後者の「シフトレバー」は前者の「操作部材」に相当し、以下同様に、「シフトレバーの位置に対応した位置検出信号Sp」は「操作部材の状態に対応した信号」に、「電動変速選択機構22」は「アクチュエータ」に、「変速機」は「自動変速機」に、「走行速度」は「速度」に、「車輪速」は「物理量」に、「車速検出手段12」は「車速検出手段」に、「ブレーキペダルの踏み込み量」は「車両の制動力の要求の度合い」に、「ブレーキペダル検出手段15」は「要求検出手段」に、「車両が車速略ゼロ(停止)であるか否かを判定する判定手段」は「停止中であるか否かを判定するための判定手段」に、それぞれ相当する。
また、後者の「シフトレバーの位置に対応した位置検出信号Spに基づいて電動変速選択機構22により、車両に搭載された変速機のギヤを路面の勾配及びシフトレバーの位置に応じて予め定めたギヤの位置に切替える」ことは、前者の「操作部材の状態に対応した信号に基づいてアクチュエータにより、車両に搭載された自動変速機のシフトポジションを切り換える」ことに相当するから、この機能又は作用の点で、後者の「駐車ブレーキシステム11」は前者の「シフト切換機構の制御装置」に相当するといえる。
後者の「前記車速略ゼロ(停止)で、且つ、前記ブレーキペダルが踏み込まれて一定時間経過する場合に、駐車ブレーキを作動させるように電動駐車ブレーキ機構21を制御するための制御手段18」と、前者の「前記車両が停止中であるときに、前記検出された度合いに基づいて、前記シフトポジションをパーキングポジションに切り換えるように前記アクチュエータを制御するための制御手段」とは、「前記車両が停止中であるときに、前記検出された制動力の要求に基づいて、車両をパーキング状態に保持するように制御するための制御手段」である点で共通する。

してみると、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「操作部材の状態に対応した信号に基づいてアクチュエータにより、車両に搭載された自動変速機のシフトポジションを切り換えるシフト切換機構の制御装置であって、
前記車両の速度に関連する物理量を検出するための車速検出手段と、
前記車両の制動力の要求の度合いを検出するための要求検出手段と、
前記検出された物理量に基づいて、車両が停止中であるか否かを判定するための判定手段と、
前記車両が停止中であるときに、前記検出された制動力の要求に基づいて、車両をパーキング状態に保持するように制御するための制御手段とを含む、シフト切換機構の制御装置。」

そして、両者は、次の点で相違する。
[相違点]
本願発明の制御手段は、車両が停止中であるときに、「前記検出された度合いに基づいて、前記シフトポジションをパーキングポジションに切り換えるように前記アクチュエータを制御する」のに対して、引用発明の制御手段18は、車両が停止中であるときに、「前記ブレーキペダルが踏み込まれて一定時間経過する場合に、駐車ブレーキを作動させるように電動駐車ブレーキ機構21を制御する」点

4.判断
次に相違点について検討する。
本願発明における「車両の制動力の要求の度合い」とは、本願明細書の「運転者の車両の制動力の要求の度合いが検出できれば、特にペダル踏力センサ82を用いることに限定されるものではない。」(段落【0032】参照)との記載、及び「ペダル踏力センサ82は、運転者によるブレーキペダルへの踏力を検知する。」(段落【0030】参照)との記載などからみて、具体的には「踏力の強弱」を意味するものと解される。
また、本願明細書の記載によれば、本願発明の「検出された度合いに基づいて」とは、「たとえば、検出された度合いが高い状態が継続したとき」(段落【0009】参照)を意味するので、本願発明の「前記車両が停止中であるときに、前記検出された度合いに基づいて、前記シフトポジションをパーキングポジションに切り換える」という発明特定事項は、運転者が意図的にブレーキペダルを強く踏み込んだときに、シフトポジションをパーキングポジションに切り換えてパーキング状態にすることを意味するものと解される。
引用発明は、「車速略ゼロ(停止)で、且つ、ブレーキペダルが踏み込まれて一定時間経過する場合に、駐車ブレーキを作動させる」ものである。つまり、引用発明は、車両が停止中であるときに、検出された制動力の要求に基づいて、駐車ブレーキを作動させるものであるが、「検出された制動力の要求の度合いに基づいて」、駐車ブレーキを作動させるかどうかまでは明らかでない。
しかし、ブレーキペダルを踏み込むたびに駐車ブレーキが作動すると、作動頻度が多くなってCPU等に余分な制御による負担が増える上、制御弁や油圧機構などの各種部品等の寿命が短くなるなどの問題があることは技術的に明らかであり、それゆえ、駐車ブレーキシステムにおいて、ブレーキペダルの踏力が強いときだけ、駐車ブレーキを作動させるようにすることは、例えば特開2002-283984号公報(段落【0005】【0078】参照)や特開2000-309256号公報(段落【0074】参照)などに示されるように、従来周知の技術にすぎない。
してみると、引用発明において、検出された制動力の要求の度合いに基づいて、駐車ブレーキを作動させるようにすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。
一方、引用例2には、段落【0014】に「車速が3km/h以下でパーキングブレーキが作動されかつブレーキの踏込みが解除された」ときに、「駆動モータ40、41が作動されて変速機5がパーキングレンジに切替えられる」ようにした電動ATチェンジが記載されている。即ち、本願発明の用語を用いて表現すると、引用例2には、「車両が停止中であるときに」、駐車ブレーキが作動されかつブレーキの踏込みが解除された場合に、「シフトポジションをパーキングポジションに切り換えるようにアクチュエータを制御する」ことが記載されている。
そして、引用発明と引用例2に記載された発明とは、どちらも車両が停車状態にあるときに所定の操作に基づいて車両をパーキング状態に保持する機能を作動させる点で機能が共通している。
また、一般に車両をパーキング状態に保持するとき、運転者は駐車ブレーキをかけるとともに、シフトポジションをパーキングポジションに切り換える操作を行うのが普通であるから、引用発明における駐車ブレーキを作動させる状況は、引用例2に記載されたシフトポジションをパーキングポジションに切り換える状況と共通する部分がある。
そうすると、引用発明において、上記のとおり周知技術を適用して、検出された制動力の要求の度合いに基づいて駐車ブレーキを作動させるようにするとともに、駐車ブレーキが作動されかつブレーキの踏込みが解除された際に、シフトポジションをパーキングポジションに切り換えるようにした引用例2に記載された発明を適用して、相違点に係る本願発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本願発明が奏する効果は、引用発明、引用例2に記載された発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「引用文献2(審決注:本審決における「引用例2」に該当する。以下同様。)は、『運転者が再発進しないことが明らかな場合』にドライバが車両を再発進させないことが確実に判断された上で自動パーキング制御によってシフトポジションがパーキングポジションに切り換えられるものである。
一方、引用文献1(審決注:本審決における「引用例1」に該当する。以下同様。)の「運転者がブレーキを踏んでいる時」というブレーキオン条件が成立した場合でも、その後に車両が再発進する可能性がある。
したがって、引用文献1と引用文献2とを組み合わせることは、引用文献2の自動パーキング制御を行なう目的と相反することとなる。したがって、引用文献1と引用文献2とを組み合わせることを当業者が容易に思いつくことはできない。」(「(b)請求項1に係る発明と引用文献との対比」の項参照)と主張する。
確かに、引用例1に記載された駐車ブレーキは、車両が停止したとき、ブレーキペダルが踏み込まれて一定時間経過する場合に、駐車ブレーキを作動させるものであるから、再発進する可能性に対処し得るものではあるが、駐車ブレーキを作動させたときに必ず再発進するというものでもなく、再発進しないで駐車する場合も普通によくあることである。また、引用例2に記載された電動ATチェンジは、駐車ブレーキが作動した後、再発進させないことが確実になったときに、シフトポジションをパーキングポジションに切り換えるものであるから、引用発明に引用例2に記載の発明を適用することは、車両を駐車する際に運転者が行う一連の動作と合致するものであって、何ら相反するものではない。
なお、本願発明においては、検出された度合いに基づいて、シフトポジションがパーキングポジションに切り換えられるので、例えば、急な登坂路で信号待ちなどのためにブレーキペダルを強く踏み込んだときなどのように、運転者が車両を再発進させたい場合でも、その度合いを超えればパーキングポジションに切り換わってしまうという問題があり、むしろ本願発明の中にこそ、矛盾するものを含んでいるといえる。
また、審判請求人は、同じく審判請求書において、「引用文献1は、車両発進時の駐車ブレーキを解除する際のブレーキ異音を防止することを課題とする発明である(引用文献1の第0006段落および第0007段落ご参照)。引用文献1において、車速略ゼロ、かつ、ブレーキペダルが踏み込まれて一定時間経過する場合に自動的に駐車ブレーキを作動する点については、明細書中において、発明の課題とは関係のない駐車ブレーキの内容を説明するための位置付けでしかない。
さらに、引用文献2は、MTチェンジと同様にエンジンブレーキが効くようにブレーキペダルが強く踏み込まれると、変速機がドライブからセカンド又はローに自動的に切り替えられる電動ATチェンジを提供することを課題とする発明である(引用文献2の第0003段落および第0005段落ご参照)。引用文献2において、自動パーキング制御を行なう際、変速機5のシフトレンジをパーキングレンジとする点については、発明の課題とは関係のない自動パーキング制御の内容を説明するための位置付けでしかない。
すなわち、引用文献1と引用文献2とは、そもそも発明の課題がまったく異なる。さらに、拒絶査定に記載された引用文献1の技術と引用文献2の技術とは、いずれも各引用文献の課題とは全く関係のない位置づけの技術である。さらに、引用文献1の制御対象は、駐車ブレーキであるのに対して、引用文献2の制御対象は、変速機であるため、その制御対象は、全く異なる。」(「(b)請求項1に係る発明と引用文献との対比」の項参照)と主張する。
しかしながら、本審決においては、引用例1について、請求項に係る発明の前提となった技術であって、発明の課題とは直接関係のない技術を引用発明として認定しており、また、引用例2についても、請求項に係る発明とは直接関係のない、実施例の「自動パーキング処理」だけを引用しているのであって、発明の課題とは直接関係のない技術を引用しているのであるから、引用例1の技術と引用例2の技術とで課題が異なるとの主張は、全く意味のない主張である。
また、制御対象が異なることは審判請求人の主張するとおりであるが、上記のとおり、車両を駐車する際には、運転者は、駐車ブレーキのための操作とシフトレンジをパーキングレンジに入れる操作とを一連の動作として行うのが普通であるところから、それらの技術的関連性が高いことは明らかである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-14 
結審通知日 2012-03-21 
審決日 2012-04-03 
出願番号 特願2006-301801(P2006-301801)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野 孝朗  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 冨岡 和人
倉田 和博
発明の名称 シフト切換機構の制御装置および制御方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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