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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1257252
審判番号 不服2011-21590  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-06 
確定日 2012-05-16 
事件の表示 特願2006-345777「送電線の劣化診断方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月10日出願公開、特開2008-157715〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年12月22日を出願日とするものであり,平成23年6月28日付けで拒絶査定がされ,これに対し同年10月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がされたものである。

第2 平成23年10月6日付けの手続補正についての補正却下の決定

1 補正却下の決定の結論
平成23年10月6日付けの手続補正を却下する。

2 理由
(1)本願補正発明
本件補正は,補正前の特許請求の範囲の請求項1を,
「【請求項1】送電線の最外層の隣り合う素線間を広げて送電線の内層を露呈すること,および,前記内層に生成している腐食生成物については,前記送電線の内層露呈状態において,当該腐食生成物を有する送電線内層部分に接着性薄肉部材を付着させた後,前記接着性薄肉部材を前記送電線内層部分から剥離して採取すること,および,前記接着性薄肉部材を介して採取した腐食生成物を前記接着性薄肉部材から剥離した後,当該腐食生成物を分析して前記送電線の劣化を診断することを特徴とする送電線の劣化診断方法。」とする補正を含むものである(下線部は補正箇所を示す。)。

(2)補正要件について
上記請求項1についての補正は,補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「劣化診断方法」について「接着性薄肉部材から剥離した後,当該腐食生成物を分析」することを限定するものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,上記請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3)独立特許要件(進歩性)について

ア 刊行物1およびその記載事項
本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である,意匠登録第1211108号公報(以下,「刊行物1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。以下,下線は当審において付記したものである。

(ア-1)「【意匠に係る物品】電線腐食点検工具」

(ア-2)「【意匠に係る物品の説明】本物品は送電線の内部が腐食しているかを点検するためのものであり,使用に際しては,上下に分離する正面図の左端部に取付けた素線の半径と電線半径に合った溝が彫られた一対の爪によって,使用時,左側に設けた円形部内に送電線を上下より挟み,そして一対の爪を素線と素線との隙間に入れて右側の柄を握ることによって,その素線間を広げ,しかる後広げた隙間より内部を確認,点検するものである。」

イ 対比・判断
刊行物1からの摘記事項(ア-1)および(ア-2)を総合すると,刊行物1には次の発明が記載されているものと認められる。

「送電線の内部が腐食しているかを点検するための電線腐食点検工具の使用方法であり,上下に分離する正面図の左端部に取付けた素線の半径と電線半径に合った溝が彫られた一対の爪によって,使用時,左側に設けた円形部内に送電線を上下より挟み,そして一対の爪を素線と素線との隙間に入れて右側の柄を握ることによって,その素線間を広げ,しかる後広げた隙間より内部を確認,点検する方法。」(以下,「刊行物1発明」という。)

そこで,以下に本願補正発明と刊行物1発明を対比する。

(ア)刊行物1発明の「左側に設けた円形部内に送電線を上下より挟み,そして一対の爪を素線と素線との隙間に入れて右側の柄を握ることによって,その素線間を広げ」る工程は,「広げた隙間より内部を確認,点検する」ための工程である。また,送電線が最外層および内層を備えることは技術常識であるから,上記工程において広げられる「素線」が最外層のものであり,隙間より確認,点検される「内部」が内層であるのは明らかである。
そうすると,刊行物1発明の「左側に設けた円形部内に送電線を上下より挟み,そして一対の爪を素線と素線との隙間に入れて右側の柄を握ることによって,その素線間を広げ」る工程は,本願補正発明の「送電線の最外層の隣り合う素線間を広げて送電線の内層を露呈すること」に相当する。

(イ)「腐食」は「劣化」の一種であり,「確認」および「点検」は「診断」の一形態である。
そうすると,刊行物1発明の「送電線の内部が腐食しているかを点検するため」に「電線腐食点検工具」を使用して行う「確認,点検する方法」は,本願補正発明の「送電線の劣化を診断する」「送電線の劣化診断方法」に相当する。

以上より,本願補正発明と刊行物1発明とは,
「送電線の最外層の隣り合う素線間を広げて送電線の内層を露呈すること,による,
送電線の劣化を診断する送電線の劣化診断方法。」である点において一致し,以下の点で相違する。

(相違点)「送電線の劣化診断方法」が,本願補正発明においては「前記内層に生成している腐食生成物については,前記送電線の内層露呈状態において,当該腐食生成物を有する送電線内層部分に接着性薄肉部材を付着させた後,前記接着性薄肉部材を前記送電線内層部分から剥離して採取すること,および,前記接着性薄肉部材を介して採取した腐食生成物を前記接着性薄肉部材から剥離した後,当該腐食生成物を分析」する工程を有するのに対して,刊行物1発明においては,このような工程を有していない点。

以下,上記相違点について検討する。

対象物の状態の点検を,対象物の面上に存在する物質を接着テープに貼り付けて採取して行うことは,本願出願前における周知の技術事項であり,例えば,原査定の拒絶の理由において引用した刊行物である,特開平5-99858号公報の【請求項1】,【0001】に,「成形機の金型などの表面上に付着している異物を,透明な粘着テープに転写して検出し,評価する方法」について記載され,また,特開2000-282270号公報の【0001】,【0031】に,「上下水道管やガス管等に広く用いられる鋳鉄管の耐白錆性についての試験方法および評価基準として,24時間連続降雨条件で試験した後,セロハンテープを試片に貼り付け,瞬時に剥がした際のセロハンテープに付着した白錆の量を評価すること」について記載され,さらに,特開2001-240987号公報の【0001】,【0058】に,「海岸地帯等,飛来塩分量が多い地域で使用する鋼材について,浮き錆量を評価するセロテープ剥離テストとして,錆表面にセロテープを粘着させて剥がし,セロテープに付着した錆粒子の数密度,大きさを調べること」について記載されるとおりであり,後の二つの文献には,接着テープにより対象物上の錆,つまり劣化を点検することについても記載されている。

また,送電線や電力ケーブルの劣化診断において,目視に代えてより精度よい手法を選択することは本願出願前における周知の技術事項にすぎず,例えば,特開2002-218615号公報の【0001】,【0005】,【0008】には,「アルミ架空送電線の腐食検知方法として,従来の目視点検に代えて,腐食検知用アルミ線を用いて行うようにしたこと」が記載され,特開2006-256348号公報の【0001】,【0004】,【0006】には,「電力ケーブルの劣化検出において,従来の目視による点検に代えて,異常検出装置を用いること」について記載されている。

そうすると,刊行物1発明における目視による送電線内部の腐食の確認,点検方法に代えて,上記周知技術を適用し,送電線内層を露呈させ,送電線内層部分に接着性薄肉部材を付着させた後,接着性薄肉部材を剥離して腐食に伴う生成物を採取することは,当業者が容易になし得ることといえる。そして,上記周知例では,接着テープに付着した異物を検出したり,錆の量,数密度,大きさを調べていることから,上記適用に際して,接着性薄肉部材を介して採取した腐食生成物を,接着性薄肉部材から剥離した後分析することについても,当業者が当然なすべき設計的事項にすぎない。

(本願補正発明の効果について)
本願補正発明の有する効果は,刊行物1の記載事項および周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

したがって,本願補正発明は,刊行物1発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)小括
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成23年10月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1および2に係る発明は,平成23年3月29日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1および2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】送電線の最外層の隣り合う素線間を広げて送電線の内層を露呈すること,および,前記内層に生成している腐食生成物については,前記送電線の内層露呈状態において,当該腐食生成物を有する送電線内層部分に接着性薄肉部材を付着させた後,前記接着性薄肉部材を前記送電線内層部分から剥離して採取すること,および,前記接着性薄肉部材を介して採取した腐食生成物を分析して前記送電線の劣化を診断することを特徴とする送電線の劣化診断方法。」

1 刊行物およびその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1の記載事項は,前記「第2 2(3)」に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は,前記「第2 2(3)」で検討した本願補正発明における,「劣化診断方法」についての「接着性薄肉部材から剥離した後,当該腐食生成物を分析」するとの限定事項を省くものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加し限定したたものに相当する本願補正発明が,前記「第2 2(3)」にて述べたとおり,刊行物1発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-08 
結審通知日 2012-03-13 
審決日 2012-03-26 
出願番号 特願2006-345777(P2006-345777)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阿部 知樋口 宗彦  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 横井 亜矢子
信田 昌男
発明の名称 送電線の劣化診断方法  
代理人 菊池 徹  
代理人 菊池 新一  

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