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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1257344
審判番号 不服2010-22072  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-01 
確定日 2012-05-24 
事件の表示 特願2007- 76160「発光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月 9日出願公開、特開2007-200904〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願の手続の経緯は、概要次のとおりである。
特許出願 :平成19年03月23日
(特願2002-214298号を原出願とした分割出願)
(原出願の出願日 :平成14年07月23日)
手続補正 :平成19年 4月20日
拒絶理由通知(最初):平成21年 9月30日(起案日)
手続補正 :平成21年12月 3日
拒絶査定 :平成22年 6月30日(起案日)
拒絶査定不服審判請求:平成22年10月 1日
手続補正 :平成22年10月 1日
審尋 :平成23年 7月 5日(起案日)
回答書 :平成23年 9月 8日
拒絶理由通知(最初):平成23年10月21日(起案日)
手続補正 :平成23年12月26日
意見書 :平成23年12月26日

第2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年12月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
基板の上方で第1画素内に形成された第1電極と、
前記第1電極の上方に配置された第1発光層と、
前記第1発光層の上方に配置された第2電極と、
前記基板の上方で第2画素内に形成された第3電極と、
前記第3電極の上方に配置された第2発光層と、
前記第2発光層の上方に配置された第4電極と、
前記第1画素と前記第2画素とを仕切るバンク層と、を備え、
前記第2電極は、反射層と、前記第1発光層と前記反射層との間に設けられ前記反射層に接する第1透過層とを含む積層構造からなり、
前記第4電極は、前記反射層と、前記第2発光層と前記反射層との間に設けられ前記反射層に接する第2透過層とを含む積層構造からなり、
前記第1透過層と前記第2透過層とは前記バンク層によって仕切られており、
前記第1透過層と前記第2透過層の少なくとも一方は積層構造を有し、
前記反射層は前記第1透過層、前記第2透過層及び前記バンク層の上に連続して設けられ、
前記第1透過層の膜厚と前記第2透過層の膜厚が異なることを特徴とする発光装置。 」

第3 引用例
当審で通知した平成23年10月21日付けの拒絶理由で引用した、本願の原出願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第00/60905号(以下「引用例」という。公開日:平成12年10月12日)には、図面とともに、次の事項が記載されている(以下、丸1、丸2(○に数字の1、2)等の記号を「《1》」、「《2》」のように表記する。)。

(a)明細書第1頁第3?7行
「技術分野
この発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」とも称する。)に関する。さらに詳しくは、民生用および工業用の表示機器(ディスプレイ)、あるいはプリンターヘッドの光源等に用いて好適な有機EL素子に関する。」

(b)明細書第1頁第8行?第2頁第12行
「背景技術
従来の有機EL素子の一例が、特開平7-78689号公報に開示されている。この開示された有機EL素子は、高い発光輝度を得ることを目的とし、第20図に示すように、干渉ピーク(A2)の波長と、有機発光層で発生した光の発光ピーク(B2)の波長とを一致させることを特徴としている。すなわち、有機発光層で発生した光が積層された各層を通過するためにいわゆる干渉効果が生じるが、この干渉効果に起因した干渉ピーク波長と、発光層で発生した光の発光ピーク波長とを一致させるものである。
しかしながら、干渉効果による干渉ピーク波長と、発生した光の発光ピーク波長とを一致させると、逆に色純度(CIE色度座標)の値が低下する傾向が見られた。例えば、発光ピーク波長が400?490nmの青色発光の場合、視感度の高い緑色成分を一部含んでいるため、干渉ピーク波長と、発光ピーク波長とを一致させると、緑色成分の光強度も強めることになり、その結果、色純度(CIE色度座標)の値が低下する現象が見られた。
また、特開平7-240277号公報にも、第35図に示すように、高屈折性透明電極と、有機発光層の合計光学膜厚を中心波長の値を強めるように設定した有機EL素子が開示されている。
しかしながら、この有機EL素子においても、中心波長の値を強める際に、中心波長付近の強度の値も同時に強めることになり、色純度が低下する場合が見られた。
もちろん、これらの有機EL素子において、有機発光層の厚さが極めて均一であって、厚さのばらつきがなければ、CIE色度座標の値を均一化することができるが、歩留りが著しく低下するため現実的な解決方法ではなかった。
そこで、本発明の発明者らは上記問題を鋭意検討したところ、JIS Z 8701に準拠して測定されるCIE色度座標値は、透明電極と有機層との合計光路長の値に対応して極大値および極小値を有して周期的に変化するため、かかる極大値および極小値を考慮して有機層の厚さを決定し、むしろ干渉ピーク波長と発光ピーク波長とを一定範囲ずらすことにより、CIE色度座標の変化が小さくなることを見出した。
すなわち、本発明は、透明電極と有機層との合計光路長に所定分布が生じたとしても、色純度(CIE色度座標)の変化が小さい有機EL素子およびそのような有機EL素子が効率的に得られる製造方法を提供することを目的とする。」

(c)明細書第5頁第17行?第6頁第7行
「[9] また、本発明の有機EL素子の別の態様は、少なくとも一方が透明電極である電極間に、発光ピーク波長が400?490nmである青色発光有機層と、発光ピーク波長が500?570nmである緑色発光有機層と、発光ピーク波長が580?700nmである赤色発光有機層とを挟持してなる有機EL素子であり、
透明電極と青色発光有機層との合計光路長をt1とし、JIS Z 8701に準拠して測定したCIEy色度座標の極小値を示す光路長をMinとしたときに、Min-20nm<t1<Min+20nmの大小関係を満足し、
透明電極と緑色発光有機層との合計光路長をt3とし、JIS Z 8701に準拠して測定したCIEy色度座標の極大値を示す光路長をMaxとしたときに、Max-20nm<t3<Max+20nmの大小大小関係を満足し、かつ、
透明電極と赤色発光有機層との合計光路長をt2とし、JIS Z 8701に準拠して測定したCIEx色度座標の極大値を示す光路長をMaxとしたときに、Max-20nm<t2<Max+20nmの大小関係を満足すること、
を特徴としている。
このように構成することにより、有機層における所定の膜厚分布が生じたとしても、三原色(赤、青、緑)の色純度(CIE色度座標)の変化をそれぞれ小さくすることができる。
よって、有機EL素子における有機層を大面積化したような場合であっても、優れた色調を有するカラー表示可能となる。」

(d)明細書第21頁第23行?第22頁第14行
「(3)電極
(陽極層)
陽極層としては、正孔注入性が良好なように、仕事関数の大きい(例えば、4.0eV以上)金属、合金、電気電導性化合物またはこれらの混合物を使用することが好ましい。具体的には、インジウムチンオキサイド(ITO)、CuI(よう化銅)、SnO_(2)(酸化錫)、酸化亜鉛、金、白金、パラジウム等の1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
また、陽極層の厚さも特に制限されるものではないが、10?1,000nmの範囲内の値とするのが好ましく、10?200nmの範囲内の値とするのがより好ましい。

(陰極層)
一方、陰極層には、電子注入性が良好なように、仕事関数の小さい(例えば、4.0eV未満)金属、合金、電気電導性化合物またはこれらの混合物を使用することが好ましい。具体的には、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、リチウム、ナトリウム、銀等の1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
また陰極層の厚さも特に制限されるものではないが、10?1,000nmの範囲内の値とするのが好ましく、10?200nmの範囲内の値とするのがより好ましい。
なお、光を外部に取り出すため、陽極または陰極の少なくとも一方を透明にすることが必要である。」

(e)明細書第26頁第18行?第30頁第10行
「[第3の実施形態]
第3の実施形態における有機EL素子116は、第14図に示すように、透明電極層(陽極層)10と、陰極層12と間に、発光ピーク波長が400?490nmである青色発光有機層30と、発光ピーク波長が500?570nmである緑色発光有機層32と、発光ピーク波長が580?700nmである赤色発光有機層34とを挟持してガラス基板22上に構成してある。
そして、第3の実施形態における有機EL素子116は、透明電極層10と青色発光有機層30との合計光路長をt1とし、JIS Z 8701に準拠して測定したCIEy色度座標の極小値を示す合計光路長をMinとしたときに、Min-20nm<t1<Min+20nmの大小関係を満足している。
また、透明電極層10と緑色発光有機層32との合計光路長をt3とし、JIS Z 8701に準拠して測定したCIEy色度座標の極大値を示す合計光路長をMaxとしたときに、Max-20nm<t3<Max+20nmの大小関係を満足している。
さらに、透明電極層10と赤色発光有機層34との合計光路長をt2とし、JIS Z 8701に準拠して測定したCIEx色度座標の極大値を示す合計光路長をMaxとしたときに、Max-20nm<t2<Max+20nmの大小関係を満足している。
したがって、第3の実施形態では、有機層として発光ピーク波長が400?490nmである青色発光有機層30のみならず、発光ピーク波長が500?570nmである緑色発光有機層32および、発光ピーク波長が580?700nmである赤色発光有機層34を電極間に挟持してある以外は、第1の実施形態の有機EL素子と同様の構成である。
また、発光ピーク波長が500?570nmである緑色発光有機層を電極間に挟持して構成した有機EL素子については、第2の実施形態で説明したとおりである。
よって、以下の第3の実施形態の説明では、発光ピーク波長が580?700nmである赤色発光有機層34について中心に説明するものとし、その他の構成要素についての説明は、適宜省略するものとする。

第15図は、透明電極および赤色発光有機層の合計光路長(t2)と、EL発光のCIEx色度座標値との関係を示す図である。横軸に合計光路長(t2)の値(nm)を採って示してあり、縦軸にCIEx色度座標値を採って示してある。
また、第16図は、透明電極および赤色発光有機層の合計光路長(t2)と、EL発光のCIEy色度座標値との関係を示す図である。横軸に合計光路長(t2)の値(nm)を採って示してあり、縦軸にCIEy色度座標値を採って示してある。
なお、参考のため、赤色発光有機層からの発光についてのCIE色度座標(計算値)を第17図に、その拡大図を第18図に示す。それぞれ横軸がCIEx色度座標の値を示しており、縦軸がCIEy色度座標の値を示している。一般に赤色発光の場合、CIEx色度座標の値は、0.60?0.70程度であり、CIEy色度座標の値は、0.30?0.38程度である。
これらの第15図および第16図から理解されるように、CIEx色度座標値およびCIEy色度座標値は、それぞれ透明電極および緑色発光有機層の合計光路長が変化するにつれて周期的に変化している。
そして、CIEx色度座標値については、以下の合計光路長に極小値(Min)および極大値(Max)を有している。
極小値(Min):230nm、530nm、820nm程度
極大値(Max):100nm、390nm、680nm、980nm程度
また、CIEy色度座標値については、以下の合計光路長に極小値(Min)および極大値(Max)を有している。
極小値(Min):100nm、390nm、690nm,980nm程度
極大値(Max):230nm、520nm、820nm程度
さらに、CIEx色度座標およびCIEy色度座標の値のばらつきが、それぞれ小さいほど、赤色発光における色変化が小さいことになる。ただし、赤色発光の場合、人間の目による認識上、CIEy色度座標のばらつきよりも、CIEx色度座標値のばらつきのほうが、赤色変化が大きく認識されるという特性がある。
したがって、透明電極および赤色発光有機層の合計光路長に一定のばらつきがあったとしても、CIEx色度座標値の極小値(Min)または極大値(Max)と関係づけることにより、より色調に影響するCIEx色度座標値の変化を小さくすることができる。
例えば、透明電極および赤色発光有機層の合計光路長に±20nmのばらつきがあり、第18図に記号R1で示すように、かかる合計光路長(t2)をCIEx色度座標値の極小値(Min)または極大値(Max)と関係のない596nmとすると、CIEx色度座標値は、0.6231?0.6247の範囲内で変化し、その最大値と最小値との差は0.0016となる。
それに対して、透明電極および赤色発光有機層の合計光路長(t2)に±20nmのばらつきがあったとしても、第18図に記号R2で示すように、かかる合計光路長(12)をCIEx色度座標値の極小値(Min)と関係づけて523nmとすると、CIEx色度座標値は、0.6202?0.6203の範囲内で変化し、その最大値と最小値との差は0.0001となる。すなわち、極小値(Min)と関係付けない場合と比較して、7%以下の低い値となっている。
同様に、第18図に記号R3で示すように、透明電極および赤色発光有機層の合計光路長(t2)をCIEy色度座標値の極大値(Max)と関係づけて688nmとすると、CIEx色度座標値は、0.6295?0.6296の範囲内で変化し、その最大値と最小値との差は0.0001となる。すなわち、極大値(Max)と関係付けない場合と比較して、7%以下の低い値となっている。
また、第19図は、第3の実施形態における赤色発光をしている場合の干渉ピークおよび発光スペクトルの関係を示す図である。第19図中、干渉ピークを記号A1、発光スペクトルを記号B1でそれぞれ示してある。また、この例では、透明電極および赤色発光有機層の合計光路長(nm)を、CIEx色度座標値の極大値(Max)と関係付ける680nmとしてある。ただし、干渉ピーク位置が明確になるように、便宜上、干渉因子は規格化して示してあり、極大を100,極小を0に規格化してある。一方、発光強度については、規格化せず、実際の発光強度を示してある。
第19図から、明かなように、第3の実施形態における赤色発光有機層では、干渉ピーク(波長500nm)(A1)と、発光スペクトルのピーク(波長520nm)(B1)とが、波長において約97nmずれていることがわかる。
それに対して、第20図は、従来の有機EL素子における赤色発光の場合の干渉ピークおよび発光スペクトルと、波長との関係を示す図である。第20図中、同様に干渉ピークを記号A2、発光スペクトルを記号B2でそれぞれ示してある。また、この従来例では、干渉ピーク(A2)と、発光スペクトルのピーク(B2)とを一致させるために、第18図に記号R1で示すように、透明電極および赤色発光有機層の合計光路長(nm)を極大値(Max)や極小値(Min)と関係が無い596nmとしてある。
よって、第15図および第16図に示す関係を考慮すれば、透明電極および赤色発光有機層の合計光路長に一定のばらつきがあり、干渉ピーク(A1)と、発光ピーク(B1)とがずれていたとしても、かかる合計光路長を極大値(Max)や極小値(Min)と関係付けることにより、より好ましくは、CIEx色度座標値の極小値(Min)または極大値(Max)と関係付けることにより、第3の実施形態の有機EL素子の赤色発光有機層では、色変化を少なくすることができる。
一方、従来の有機EL素子では、干渉ピーク(A2)と、発光ピーク(B2)とが一致していたとしても、透明電極および赤色発光有機層の合計光路長が極大値(Max)や極小値(Min)と関係付けられていないために、かかる合計光路長のばらつきに起因したCIEx色度座標値の変化が大きくなり、その結果、視覚される赤色変化が大きくなる。
なお、第3の実施形態の有機EL素子において、赤色発光有機層の干渉ピーク(A1)と、発光ピーク(B1)とがずれることにより、EL発光強度の値が若干低下するが、干渉ピーク(A2)と、発光ピーク(B2)とが一致した従来の有機EL素子の場合と比較して、20%程度の低下であり、実用上、全く問題とならない。」

(f)明細書第30頁第11行?第33頁第25行
「[第4の実施形態]
第4の実施形態における有機EL素子120は、第21図に示すように、ガラス基板22上に、光路長補正層20と、透明電極層(陽極層)10と、発光ピーク波長(S1)が400?490nmの青色発光有機層12と、陰極層16とを順次に積層して構成してある。そして、第4の実施形態の有機EL素子120は、透明電極10と青色発光有機層12と、光路長補正層20との合計光路長をt4とし、JIS Z 8701に準拠して測定したCIEy色度座標の極小値を示す光路長をMinとしたときに、Min-20nm<t4<Min+20nmの大小関係を満足している。
すなわち、第4の実施形態においては、透明電極層(陽極層)10と、青色発光有機層12との間に、光路長補正層20を設けて、合計光路長を所定範囲内の値とした以外は、第1の実施形態の有機EL素子と同様の構成である。
したがって、光路長補正層20について中心に説明するものとし、その他の構成要素についての説明は、適宜省略する。
なお、透明電極は陽極層に限るものではなく、陰極層が透明電極であってもよいし、あるいは陽極層と陰極層の両方とも透明電極であってもよい。ただし、陽極層と陰極層の両方とも透明電極の場合には、陽極層と陰極層の両方の光路長をさらに合計したものを合計光路長とする。
(1)光路長補正層による光路長補正方法
第2図?第7図を参照しながら光路長補正層による光路長の補正方法について説明する。第7図は、既に説明したように、従来の有機EL素子における青色発光有機層からの干渉因子および発光スペクトルと、波長(nm)との関係を示す図である。第7図の例では、透明電極および青色発光有機層の合計光路長(t3)を468nmとしてあり、第2図および第3図から理解されるように、この合計光路長は、CIEx色度座標値やCIEy色度座標値の極大値(Max)や極小値(Min)と関係ない値である。
そこで、第2図および第3図から、CIEx色度座標値やCIEy色度座標値の、例えば、極小値(Min)と一致するような透明電極および青色発光有機層の合計光路長(t1)を選択することになる。
なお、その際、第2図および第3図において、それぞれ3?4つの極小値(Min)を示しているため、いずれの極小値(Min)を示すような合計光路長(t1)を選択しても良い。ただし、極小値(Min)付近のCIEx色度座標値やCIEy色度座標値の変化がより小さい極小値(Min)を選択するのが好ましい。このような極小値(Min)を選択することにより、合計光路長の変化に起因したCIEx色度座標値やCIEy色度座標値の変化をさらに小さくすることができる。
したがって、従来の有機EL素子における透明電極および青色発光有機層の合計光路長と、選択したCIEx色度座標値やCIEy色度座標値の極小値(Min)に対応した透明電極および青色発光有機層の合計光路長(t1)との差が、光路長補正層による光路長となる。
よって、かかる補正すべき光路長を付加できるように、光路長補正層の厚さおよび構成材料を選択すれば良い。この場合、CIEy色度座標値の極小値(Min)の一つに対応した光路長である670nmと一致させるために、光路長補正層を設ける前の透明電極および青色発光有機層の合計光路長(nm)である468nmを670nmから控除し、202nmの光路長を有する光路長補正層を設けることになる。また、光路長補正層を用いることで、光学補正をするための電極間の有機物を厚くする事態を避けることができ、有機層を厚くした時の電圧上昇を避けることができるという点で優れている。

(2)構成材料
光路長補正層の構成材料は、特に制限されるものではなく、無機物や有機物を使用することができる。無機物としては、ガラス、石英、酸化錫、酸化インジウム、酸化鉛、酸化アルミニウム、酸化リチウムなどの酸化物、フッ化リチウム,フッ化カルシウム,フッ化マグネシウム等のフッ化物、金、銀、銅、アルミニウム、モリブテン等の金属も薄いときは透明であるので用いることができる。これらの一種単独、または二種以上の組み合わせが挙げられる。
また、有機物としては、有機EL材料、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の一種単独、または二種以上の組み合わせが挙げられる。電極間に介在するときは電荷が通過することが必要であるが、電極間の外に置くときは完全な絶縁体であっても良い。
また、光路長は、膜厚および屈折率で定まることから、構成材料の屈折率を1.0?3.0(温度25℃、アッベ屈折率計による測定)の範囲内の値とするのが好ましい。この理由は、構成材料の屈折率が1.0未満となる物質は入手が困難なためであり、一方、構成材料の屈折率が3.0を超えると、使用可能な構成材料の選択幅が過度に制限される場合があるためである。
したがって、かかる構成材料の薄膜性と選択性とのバランスがより良好となることから、構成材料の屈折率を1.3?2.5の範囲内の値とするのがより好ましく、1.7?2.1の範囲内の値とするのがさらに好ましい。

(3)厚さ
光路長補正層の厚さについても、特に制限されるものではないが、例えば、1?2,000nmの範囲内の値とするのが好ましい。この理由は、光路長補正層の厚さが1nm未満となると、均一な厚さに形成したり、あるいは得られる光路長補正効果が乏しくなる場合があるためである。一方、光路長補正層の厚さが2,000nmを超えると、光路長補正層の膜厚むらも無視できなくなるため、透明電極層と発光有機層との合計光路長の調整が逆に困難となる場合があるためである。
したがって、光路長補正層の厚さを2?500nmの範囲内の値とするのがより好ましく、5?100nmの範囲内の値とするのがさらに好ましい。

(4)形成方法
光路長補正層の形成方法は、特に制限されるものではないが、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、電子ビーム(EB、Electron Beam)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法、LB(Langumuir-Blodgett)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スピンコート法、キャスト法とするのが好ましい。(5)構成例
第4の実施形態の有機EL素子120は、第21図に示すように光路長補正層20を基板と透明電極層(陽極層)10との間に設けた構成例としたが、他の構成要素、例えば正孔注入層や電子注入層と組み合わせて、以下に示す構成例《2》?《7》とすることも好ましい。特に基板と、陽極層との間に光路長補正層を設けた構成例《1》および《5》?《7》は、従来実績がある有機EL素子の構成(陽極層/有機発光層/陰極層)を変えることがないことから好ましい。
なお、基板は陽極の下地に限られるものではなく、陰極の下地としても良い。さらに、構成例《4》のように光路長補正層を一層ばかりでなく、二層以上設けても良い。
《1》基板/光路長補正層/陽極層/有機発光層/陰極層
《2》基板/陽極層/光路長補正層/有機発光層/陰極層
《3》基板/陽極層/有機発光層/光路長補正層/陰極層
《4》基板/光路長補正層/陽極層/光路長補正層/有機発光層/陰極層
《5》基板/光路長補正層/陽極層/正孔注入層/有機発光層/陰極層
《6》基板/光路長補正層/陽極層/有機発光層/電子注入層/陰極層
《7》基板/光路長補正層/陽極層/正孔注入層/有機発光層/電子注入層/陰極層」

(g)明細書第34頁第23行?第34頁第26行
「ただし、基板上に第1の光路長補正層を形成しておき、その上に陽極層を形成し、その後、第2の光路長補正層を形成しても良い。このように形成すると、光路長補正層の種類や厚さが異なる三原色(赤色、青色、緑色)の有機EL素子にも適確に対応することができる。」

(h)明細書第42頁第16行?第43頁第8行
「《2》第1の層間絶縁膜の形成
次いで、IZOパターン上に、アクリル系ネガ型レジストV259PA(新日鉄化学(株)製)をスピンコートし、IZOパターンに直交するストライプ状パターンを有するフォトマスク(ライン幅90μm,ギャップ幅20μm)を介して、温度80℃、時間10分の条件で乾燥した後、露光量が100mJ/cm^(2)となるように、高圧水銀灯を光源としたコンタクト露光を行った。
次いで、現像液としてTMAHを用いて、未露光部を現像し、さらに、オーブンを用いて、160℃、10分の条件でポストベーク処理して、第22図に示すように、第1の層間絶縁膜(IZOの開口部70μm×290μm)16を形成した。

《3》第2の層間絶縁膜の形成
次いで、第1の層間絶縁膜の上から、ネガ型レジストZPN1100(日本ゼオン(株)製)をスピンコートし、下部電極であるIZOパターンに対して平行するストライプ状パターン(ライン幅20μm,ギャップ幅310μm)を有するフォトマスクを介して、80℃、10分の条件で乾燥した後、露光量が100mJ/cm^(2)となるように、高圧水銀灯を光源としたコンタクト露光を行った。
次いで、現像液としてTMAHを用いて、未露光部を現像し、さらに、オーブンを用いて、160℃、10分の条件でポストベーク処理して、第22図に示すように、隔壁としての第2の層間絶縁膜(ライン幅20μm,ギャップ幅310μm)18を形成した。」

(i)第14図

(j)第22図

〔引用例に記載された発明〕
上記摘記事項(a)、(b)、(c)、(e)、(h)の記載を総合すると、引用例1には、
「基板上に形成された透明電極である陽極と、該陽極上に配置された陰極との間に、発光ピーク波長が400?490nmである青色発光有機層と、発光ピーク波長が500?570nmである緑色発光有機層と、発光ピーク波長が580?700nmである赤色発光有機層とを挟持してなる有機EL素子であり、
透明電極と青色発光有機層との合計光路長をt1とし、JIS Z 8701に準拠して測定したCIEy色度座標の極小値を示す光路長をMinとしたときに、Min-20nm<t1<Min+20nmの大小関係を満足し、
透明電極と緑色発光有機層との合計光路長をt3とし、JIS Z 8701に準拠して測定したCIEy色度座標の極大値を示す光路長をMaxとしたときに、Max-20nm<t3<Max+20nmの大小関係を満足し、かつ、
透明電極と赤色発光有機層との合計光路長をt2とし、JIS Z 8701に準拠して測定したCIEx色度座標の極大値を示す光路長をMaxとしたときに、Max-20nm<t2<Max+20nmの大小関係を満足することにより、有機層における所定の膜厚分布が生じたとしても、三原色(赤、青、緑)の色純度(CIE色度座標)の変化をそれぞれ小さくすることができ、優れた色調を有するカラー表示可能となる、表示機器に用いる有機EL素子。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

<対応関係A>
引用発明の「有機EL素子」は、本願発明の「発光装置」に相当する。

<対応関係B>
引用発明の「有機EL素子」は「カラー表示可能」な「表示機器」に用いるものであるから、カラー表示に必要な青、緑、赤の画素を有していること、「青色発光有機層」、「緑色発光有機層」、「赤色発光有機層」は当該青、緑、赤の画素のそれぞれに対応して配置されること、「陽極」及び「陰極」は当該青、緑、赤の画素のそれぞれを駆動可能なように画素に対応して配置されることは、技術常識から明らかである。
そうすると、引用発明において、青、緑、赤の画素の何れか一つに対応する領域で「基板上に形成された透明電極である陽極」、「陽極上に配置された陰極との間」に「狭持」された「発光有機層」(「青色発光有機層」、「緑色発光有機層」、「赤色発光有機層」の何れか一つ。)及び「陽極上に配置された陰極」はそれぞれ、本願発明の「基板の上方で第1画素内に形成された第1電極」、「第1電極の上方に配置された第1発光層」及び「第1発光層の上方に配置された第2電極」に相当する。
同様に、引用発明において、青、緑、赤の画素の他の一つ(上記の「何れか一つ」以外の一つ。)に対応する領域で「基板上に形成された透明電極である陽極」、「陽極上に配置された陰極との間」に「狭持」された「発光有機層」(「青色発光有機層」、「緑色発光有機層」、「赤色発光有機層」の何れか一つ。)及び「陽極上に配置された陰極」はそれぞれ、本願発明の「基板の上方で第2画素内に形成された第3電極」、「第3電極の上方に配置された第2発光層」及び「第2発光層の上方に配置された第4電極」に相当する。

以上の対応関係からして、本願発明と引用発明とは、
「基板の上方で第1画素内に形成された第1電極と、
前記第1電極の上方に配置された第1発光層と、
前記第1発光層の上方に配置された第2電極と、
前記基板の上方で第2画素内に形成された第3電極と、
前記第3電極の上方に配置された第2発光層と、
前記第2発光層の上方に配置された第4電極と、を備えた発光装置。」
の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
「第2電極」及び「第4電極」の電極構造について、本願発明は、「反射層」と、「発光層」と「反射層」との間に設けられ「反射層」に接する「透過層」と、を含む「積層構造」を有する共に、当該「透過層」が「積層構造」を有し、かつ、「第2電極」の「第1透過層の膜厚」と「第4電極」の「第2透過層の膜厚」とが異なるとしているのに対して、引用発明はそのような構成を有さない点。

<相違点2>
本願発明は「第1画素」と「第2画素」とを仕切る「バンク層」を備え、「第1透過層」と「第2透過層」とが「バンク層によって仕切られて」いるのに対して、引用発明はそのような構成を有さない点。

<相違点3>
本願発明は「反射層は第1透過層、第2透過層及びバンク層の上に連続して設けられ」ているとしているのに対して、引用発明は反射層を明示しておらず、そのような構成を有さない点。

第5 当審の判断
上記相違点1?3について検討する。

(1)相違点1について
引用例の上記摘記事項(f)の記載によれば、引用例には、「基板/陽極層/有機発光層/光路長補正層/陰極層」という素子構造を形成し、かつ、「光路長補正層の構成材料」として「酸化錫、酸化インジウム・・・金、銀、銅、アルミニウム、モリブテン等の金属」等の「電荷が通過する」透明な材料を用いる技術が記載されているから、引用発明における「光路長」を調整する手段として、当該技術を採用することは、当業者とって格別の創意を必要とすることではない。
そして、「酸化錫、酸化インジウム・・・金、銀、銅、アルミニウム、モリブテン等の金属」等の「電荷が通過する」材料からなる「光路長補正層」と「陰極層」との積層体は、陰極側の電極の一部として機能することは明らかであり、かつ、赤、青、緑の光で光路長が異なることからして、赤、青、緑の画素に対応して「光路長補正層」の膜厚が異なることも明らかである。
また、有機EL素子の陰極と有機発光層との間に、有機EL素子の特性改善のための機能層(例えば、金属酸化物・金属フッ化物・金属等からなる電子注入層(特開平6-163158号公報、特開平11-307258号公報、特開2000-68061号公報等、特開平11-329732号公報(段落【0014】等)参照。)など。)を追加することは、有機EL素子の技術分野における周知の技術であるから、引用発明において、当該特性改善のための機能層を追加することは、当業者であれば容易に想到することである。
してみると、引用発明において、陰極側の電極の一部として機能する「電荷が通過する」材料からなり、赤、青、緑の画素に対応して膜厚が異なる「光路長補正層」を設けると共に、当該「光路長補正層」と「有機発光層」との間に、特性改善のための周知の機能層を設けることは当業者であれば容易になし得ることである。
さらに、特性改善のための機能層も光路長に影響を与えることは当業者にとって自明であるから、「光路長補正層」の厚みを特性改善のための機能層の光路長を考慮して決定することや当該機能層を光を透過する材料で構成すること等は、引用発明のように干渉効果を用いる有機EL素子について知悉した当業者であれば当然に考慮すべきことに過ぎないので、それらの点は周知の技術を採用する際の阻害要因とはなり得ない。
そして、そのようにして得られた、「光路長補正層」と特性改善のための機能層からなる2層の構造は、光を透過する性質の積層構造であることは明らかである。
よって、引用発明において、引用例に記載された技術及び周知の技術を採用することで、相違点1に係る本願発明の構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(2)相違点2について
引用例の上記摘記事項(h)、(j)の記載によれば、引用例には、バンク層に相当する有機EL素子に画素間を分離する「層間絶縁膜」を設ける技術が記載されている。
そうすると、引用発明に引用例に記載された当該技術を採用することで、相違点2に係る構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。
また、例えば、国際公開第00/076010号(FIG.11等)に記載されているように、バンク層を設けることは周知の技術に過ぎないから、引用発明に当該周知の技術を採用することで、相違点2に係る本願発明の構成を得ることも、当業者であれば容易になし得ることである。

(3)相違点3について
上記摘記事項(b)によれば、引用発明は干渉効果を用いる有機EL素子の一種であるから、干渉効果を用いる有機ELの技術常識(例えば、引用例の背景技術の特開平7-240277号公報を参照されたい。)を参酌すれば、「陰極層」が反射層として機能していることは明らかであるといえる。
ここで、アクティブマトリクス型の有機EL素子において、陰極を画素領域全体に渡る連続したベタ状のものとすることは、周知の技術に過ぎない。
そして、色調を改善することはアクティブマトリクス型の有機EL素子にも共通する課題であるから、引用発明をアクティブマトリクス型の有機EL素子とし、「陰極層」を画素領域全体に渡る連続したベタ状のものとすることは、当業者にとって格別の創意を必要とすることではない。
その際、「光路長補正層」は、赤、青、緑で異なるもの(膜厚等)であるから、発光有機層と同様に、バンク層間に配置することは、当業者であれば容易に想到することである。
そうすると、引用発明に引用例に記載された技術及び周知の技術を採用することで、相違点3に係る本願発明の構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(4)本願発明の作用効果についての検討
本願発明によってもたらされる作用効果は、引用発明、引用例に記載された技術及び周知の技術から当業者が予測し得る程度のものである。

なお、請求人は、平成23年12月26日付け意見書において、
「・・・引用文献1の明細書第32頁には、光路長補正層に使用可能な構成材料として以下の材料が挙げられております。具体的には、「無機物としては、ガラス、石英、酸化錫、酸化インジウム、酸化鉛、酸化アルミニウム、酸化リチウムなどの酸化物、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等のフッ化物、金、銀、銅、アルミニウム、モリブデン等の金属も薄いときは透明であるので用いることができる。これらの一種単独、または二種以上の組み合わせが挙げられる」との記載があります。
上記のようなイオン化傾向や電子受容性、電子供与性の異なる材料を混合することにより、異種の原子や分子が近接して電荷移動やイオン種の移動等の現象が生起することがあります。これにより、可視域に吸収帯を有し、着色したF中心や電荷移動錯体等が生じます(例えば、岩手大学学芸学部研究年報第7巻(1954)第2部20-25頁、A. Dreuw and M. Head-Gordon, J. Am. Chem. Soc. 126(2004), 4007-4016など)。そのため発光層の発した光が吸収され、光取り出し効率が低下します。さらに着色した層を透過するため所望の色純度が得られないという問題も生じます。
即ち、引用文献1に記載のように二種以上の材料を組み合わせ、光路長補正層として使用した場合には、光取り出し効率の低下やこの光路長補正層を通過した光が本来所望しない色の発光となる等、種々の不都合を生じることになります。
これに対して、本願請求項1に係る発明のように、透過層として積層構造を用いることにより近距離の相互作用である電荷移動やイオン種の移動等の現象が抑制され、光路長補正層の十分な光学透過率を確保することが可能となり、ひいては表示性能が向上した電子機器を提供することができます。」
と主張している。
しかし、引用例には「光路長補正層」の構成材料が「一種単独」の場合も記載されており、殊更「二種以上の組合せ」に限定する記載はないから、当該主張は妥当ではない。また、「二種以上の組合せ」についても、殊更「異種の原子や分子が近接して電荷移動やイオン種の移動等の現象が生起する」ようなものに限定されている訳ではないし、従来知られている好ましくない反応を引き起こす材料の組合せを避けることは、当業者であれば当然に行うことに過ぎない。
よって、上記請求人の主張は採用できず、本願発明と引用発明との間に作用効果の特段の相違を認めることはできない。

(5)小括
したがって、本願発明は、引用発明、引用例に記載された技術及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2012-03-23 
結審通知日 2012-03-27 
審決日 2012-04-09 
出願番号 特願2007-76160(P2007-76160)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 神 悦彦
橋本 直明
発明の名称 発光装置  
代理人 須澤 修  
代理人 上柳 雅誉  
代理人 宮坂 一彦  

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