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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 C12N |
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管理番号 | 1258472 |
審判番号 | 無効2008-800091 |
総通号数 | 152 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-08-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2008-05-20 |
確定日 | 2012-05-21 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3867926号「核酸の増幅法」の特許無効審判事件についてされた平成21年 3月17日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成21年(行ケ)第10107号平成23年10月11日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3867926号の請求項1ないし21に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 1.本件特許第3867926号に係る発明(以下、「本件発明」という。)についての特許出願は、平成15年10月29日に出願され、平成18年10月20日にその発明についての特許権の設定登録がされたものである。 2.これに対して、請求人は、平成20年5月20日に、請求項1ないし21に係る発明の特許について、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであること、及び、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることに基づき特許無効審判を請求し、証拠方法として、甲第1ないし第3号証を提出した。 3.被請求人は、平成20年8月4日に答弁書を提出するとともに、証拠方法として乙第1及び第2号証を提出し、それとともに訂正請求書を提出して訂正を求めた(以下、「第1次訂正」という。)。これに対して、請求人は、同年10月10日に弁駁書を提出した。 4.平成20年12月12日に、請求人及び被請求人が口頭審理陳述要領書(以下、それぞれ、「請求人口頭審理陳述要領書」、「被請求人口頭審理陳述要領書」という。)を提出した。 5.平成21年1月7日に、口頭審理が行われ、同日、被請求人及び請求人に対して、特許法第153条第2項の規定により、本件に係る「第1次訂正」の特許請求の範囲の請求項1ないし21に係る特許について、無効理由が通知された。 6.請求人は、平成21年2月6日に、上申書を提出し、被請求人は、同日に、意見書を提出するとともに、証拠方法として乙第3号証を提出し、それとともに訂正請求書を提出して訂正を求めた(以下、「第2次訂正」という。)。 7.特許庁は、平成21年3月17日に、訂正を認め、本件審判の請求は、成り立たない旨の審決がされた。 8.これに対し、請求人は、審決の取消訴訟を提起し(平成21年(行ケ)第10107号)、裁判所は、平成23年10月11日に、「審決を取消す。」との判決(以下、「本件判決」という。)をした。 9.その後、被請求人は、特許法第134条の3第1項の規定に基づき、平成23年11月1日に訂正の請求の申立てをし、平成23年12月12日に訂正請求書を提出し、平成23年12月19日に上申書を提出した。これに対し、請求人は、平成24年2月13日に弁駁書を提出するとともに、証拠方法として甲第4ないし第6号証を提出した。 なお、「第1次訂正」及び「第2次訂正」は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされる。 第2.訂正の可否に対する判断 1.平成23年12月12日に提出した訂正請求書による訂正請求によって求める訂正の内容 被請求人が平成23年12月12日に提出した訂正請求書による訂正請求によって求める訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の記載を、同訂正請求書に添付した明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項aないしnからなるものと認められる。 (1)訂正事項a 本件特許公報の特許請求の範囲の請求項1において 「【請求項1】 鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成する方法であって、 (a)標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなるプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在しない場合には、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、(X-Y)/Xが-1.00?1.00の範囲にあり、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在する場合には、XおよびYを前記の通りとし、該介在配列の塩基数をY'としたときに、{X-(Y-Y')}/Xが-1.00?1.00の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (b)鋳型核酸を用意する工程、 (c)前記プライマーを前記鋳型核酸にアニーリングさせ、プライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む相補核酸を合成する工程、 (d)工程(c)により合成された相補核酸の5'側に存在する配列(B')を同相補核酸上に存在する配列(Bc)にハイブリダイズさせ、これにより、鋳型核酸上の前記配列(A)の部分を一本鎖とする工程、および (e)工程(d)により一本鎖とされた鋳型核酸上の前記配列(A)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(c)により合成された相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程、 を含んでなる、方法。」 とあるのを、 「【請求項1】 鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成する方法であって、 (a)標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなるプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (b)鋳型核酸を用意する工程、 (c)前記プライマーを前記鋳型核酸にアニーリングさせ、プライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む相補核酸を合成する工程、 (d)工程(c)により合成された相補核酸の5'側に存在する配列(B')を同相補核酸上に存在する配列(Bc)にハイブリダイズさせ、これにより、鋳型核酸上の前記配列(A)の部分を一本鎖とする工程、および (e)工程(d)により一本鎖とされた鋳型核酸上の前記配列(A)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(c)により合成された相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程、 を含んでなり、工程(c)、工程(d)および工程(e)が等温で行われる、方法。」と訂正する。 (2)訂正事項b 本件特許公報の特許請求の範囲の請求項3において、 「【請求項3】 工程(c)、工程(d)および工程(e)が等温で行われる、請求項1に記載の方法。」とあるのを、 「【請求項3】 鎖長が15?100ヌクレオチドであるプライマーを使用し、工程(c)、工程(d)および工程(e)が等温で行われる、請求項1に記載の方法。」に訂正する。 (3)訂正事項c 本件特許公報の特許請求の範囲の請求項9において、 「【請求項9】 二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅する方法であって、 (a)二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなる第一のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在しない場合には、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、(X-Y)/Xが-1.00?1.00の範囲にあり、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在する場合には、XおよびYを前記の通りとし、該介在配列の塩基数をY'としたときに、{X-(Y-Y')}/Xが-1.00?1.00の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (b)二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5'側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D')を前記配列(Cc')の5'側に含んでなる第二のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Cc')と前記配列(D')との間に介在配列が存在しない場合には、前記配列(Cc')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、(X-Y)/Xが-1.00?1.00の範囲にあり、 プライマー中において前記配列(Cc')と前記配列(D')との間に介在配列が存在する場合には、XおよびYを前記の通りとし、該介在配列の塩基数をY'としたときに、{X-(Y-Y')}/Xが-1.00?1.00の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (c)第一の鋳型核酸および第二の鋳型核酸からなる二本鎖鋳型核酸を用意する工程、 (d)前記第一および第二のプライマーをそれぞれ前記第一および第二の鋳型核酸にアニーリングさせ、それぞれプライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む第一および第二の相補核酸を合成する工程、 (e)工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸の5'側に存在する配列(B')および配列(D')を、同相補核酸上に存在する配列(Bc)および配列(Dc)にそれぞれハイブリダイズさせ、これにより、第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分を一本鎖とする工程、ならびに(f)工程(e)により一本鎖とされた第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程、 を含んでなる、方法。」 とあるのを、 「【請求項9】 二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅する方法であって、 (a)二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなる第一のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (b)二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5'側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D')を前記配列(Cc')の5'側に含んでなる第二のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Cc')と前記配列(D')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Cc')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (c)第一の鋳型核酸および第二の鋳型核酸からなる二本鎖鋳型核酸を用意する工程、 (d)前記第一および第二のプライマーをそれぞれ前記第一および第二の鋳型核酸にアニーリングさせ、それぞれプライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む第一および第二の相補核酸を合成する工程、 (e)工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸の5'側に存在する配列(B')および配列(D')を、同相補核酸上に存在する配列(Bc)および配列(Dc)にそれぞれハイブリダイズさせ、これにより、第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分を一本鎖とする工程、ならびに (f)工程(e)により一本鎖とされた第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程、 を含んでなり、工程(d)、工程(e)および工程(f)が等温で行われる、方法。」と訂正する。 (4)訂正事項d 本件特許公報の特許請求の範囲の請求項12において、 「【請求項12】 工程(d)、工程(e)および工程(f)が等温で行われる、請求項9に記載の方法。」とあるのを、 「【請求項12】 鎖長が15?100ヌクレオチドであるプライマーを使用し、工程(d)、工程(e)および工程(f)が等温で行われる、請求項9に記載の方法。」に訂正する。 (5)訂正事項e 本件特許公報の特許請求の範囲の請求項18において、 「【請求項18】 鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成するためのプライマーであって、 標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなり、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在しない場合には、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、(X-Y)/Xが-1.00?1.00の範囲にあり、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在する場合には、XおよびYを前記の通りとし、該介在配列の塩基数をY'としたときに、{X-(Y-Y')}/Xが-1.00?1.00の範囲にあるプライマー。」 とあるのを、 「【請求項18】 請求項1に記載の方法により鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成するためのプライマーであって、前記プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり、 標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなり、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にある、プライマー。」に訂正する。 (6)訂正事項f 本件特許公報の特許請求の範囲の請求項20において、 「【請求項20】 二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅するためのプライマーセットであって、 (a)二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなる第一のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在しない場合には、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、(X-Y)/Xが-1.00?1.00の範囲にあり、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在する場合には、XおよびYを前記の通りとし、該介在配列の塩基数をY'としたときに、{X-(Y-Y')}/Xが-1.00?1.00の範囲にある第一のプライマー、および (b)二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5'側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D')を前記配列(Cc')の5'側に含んでなる第二のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Cc')と前記配列(D')との間に介在配列が存在しない場合には、前記配列(Cc')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、(X-Y)/Xが-1.00?1.00の範囲にあり、 プライマー中において前記配列(Cc')と前記配列(D')との間に介在配列が存在する場合には、XおよびYを前記の通りとし、該介在配列の塩基数をY'としたときに、{X-(Y-Y')}/Xが-1.00?1.00の範囲にある第二のプライマー、 を含んでなる、プライマーセット。」 とあるのを、 「【請求項20】 請求項9に記載の方法により二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅するためのプライマーセットであって、 (a)二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなる第一のプライマーであって、プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にある、第一のプライマー、および (b)二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5'側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D')を前記配列(Cc')の5'側に含んでなる第二のプライマーであって、プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり、 プライマー中において前記配列(Cc')と前記配列(D')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Cc')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にある、第二のプライマー、 を含んでなる、プライマーセット。」に訂正する。 (7)訂正事項g 本件特許公報第6頁第34行目?第8頁第40行目を、 「 そして、本発明による核酸合成法は、鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成する方法であって、 (a)標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなるプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (b)鋳型核酸を用意する工程、 (c)前記プライマーを前記鋳型核酸にアニーリングさせ、プライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む相補核酸を合成する工程、 (d)工程(c)により合成された相補核酸の5'側に存在する配列(B')を同相補核酸上に存在する配列(Bc)にハイブリダイズさせ、これにより、鋳型核酸上の前記配列(A)の部分を一本鎖とする工程、および (e)工程(d)により一本鎖とされた鋳型核酸上の前記配列(A)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(c)により合成された相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程、 を含んでなり、工程(c)、工程(d)および工程(e)が等温で行われる、方法である。 また、本発明による核酸増幅法は、二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅する方法であって、 (a)二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなる第一のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (b)二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5'側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D')を前記配列(Cc')の5'側に含んでなる第二のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Cc')と前記配列(D')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Cc')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (c)第一の鋳型核酸および第二の鋳型核酸からなる二本鎖鋳型核酸を用意する工程; (d)前記第一および第二のプライマーをそれぞれ前記第一および第二の鋳型核酸にアニーリングさせ、それぞれプライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む第一および第二の相補核酸を合成する工程、 (e)工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸の5'側に存在する配列(B')および配列(D')を、同相補核酸上に存在する配列(Bc)および配列(Dc)にそれぞれハイブリダイズさせ、これにより、第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分を一本鎖とする工程、ならびに (f)工程(e)により一本鎖とされた第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程、 を含んでなり、工程(d)、工程(e)および工程(f)が等温で行われる、方法である。 さらに、本発明によるプライマーは、前記本発明の方法により鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成するためのプライマーであって、前記プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり、 標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなり、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーである。 さらに、本発明によるプライマーセットは、前記本発明の方法により二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅するためのプライマーセットであって、 (a)二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなる第一のプライマーであって、プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にある、第一のプライマー、および (b)二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5'側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D')を前記配列(Cc')の5'側に含んでなる第二のプライマーであって、プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり、 プライマー中において前記配列(Cc')と前記配列(D')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Cc')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にある、第二のプライマー、 を含んでなるプライマーセットである。」と訂正する。 (8)訂正事項h 本件特許公報第9頁第28行目?第44行目を、 「 本発明による核酸合成の作用機序を、図1に模式的に示す。まず、鋳型となる核酸中の標的核酸配列を決定し、その標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)、および配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)を決定する。本発明によるプライマーは、配列(Ac’)を含んでなり、さらにその5’側に配列(B’)を含んでなる。配列(Ac’)は、配列(A)にハイブリダイズするものである。配列(B’)は、配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズするものである。このようなプライマーを鋳型核酸にアニーリングさせると、プライマー中の配列(Ac’)が標的核酸配列の配列(A)にハイブリダイズした状態となる(図1(a))。この状態でプライマー伸長反応が起こると、標的核酸配列の相補配列を含む核酸が合成される。そして、合成された核酸の5’末端側に存在する配列(B’)が、同核酸中に存在する配列(Bc)にハイブリダイズし、これにより、合成された核酸の5’末端部分においてステム-ループ構造が形成される。その結果、鋳型核酸上の配列(A)が一本鎖となり、この部分に先のプライマーと同一の配列を有する他のプライマーがハイブリダイズする(図1(b))。その後、鎖置換反応により、新たにハイブリダイズしたプライマーからの伸長反応が起こると同時に、先に合成された核酸が鋳型核酸から分離される(図1(c))。」と訂正する。 (9)訂正事項i 本件特許公報第10頁第10行目?第21行目を、 「 (a)標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなるプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程;」と訂正する。 (10)訂正事項j 本件特許公報第11頁第18行目?第41行目を、 「 以上のような観点から、プライマーを構成する配列(Ac')と配列(B')の間に介在配列が存在せず、本発明によるプライマーは、(X-Y)/Xが-1.00以上、好ましくは0.00以上、さらに好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.10以上となり、また、0.75以下、好ましくは0.50以下、さらに好ましくは0.25以下となるように設計される。さらに、(X+Y)は、30以上かつ50以下とされ、また、好ましくは48以下、さらに好ましくは42以下とされる。 本発明によるプライマーは、デオキシヌクレオチドおよび/またはリボヌクレオチドにより構成されており、与えられた条件下で必要な特異性を維持しながら標的核酸との塩基対結合を行うことができる程度の鎖長を有するものである。本発明によるプライマーの鎖長は、好ましくは15?100ヌクレオチド、より好ましくは30?60ヌクレオチドとする。また、本発明によるプライマーを構成する配列(Ac')の長さは、10?30ヌクレオチド、配列(B')の長さは、好ましくは5?50ヌクレオチド、より好ましくは10?30ヌクレオチドである。」と訂正する。 (11)訂正事項k 本件特許公報第13頁第45行目?第14頁第20行目を、 「 (a)二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなる第一のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程; (b)二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5'側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D')を前記配列(Cc')の5'側に含んでなる第二のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Cc')と前記配列(D')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Cc')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程;」と訂正する。 (12)訂正事項l 本件特許公報第16頁第15行目に記載した「またほ」を「または」に訂正する。 (13)訂正事項m 本件特許公報第17頁第38行目に記載した「プライマーセット1」を「プライマーセット1(比較例)」に、同第43行目に記載した「プライマーセット2」を「プライマーセット2(比較例)」に、同第50行目に記載した「プライマーセット3」を「プライマーセット3(比較例)」に、第18頁第7行目に記載した「プライマーセット4」を「プライマーセット4(実施例)」に、同第14行目に記載した「プライマーセット5」を「プライマーセット5(実施例)」に、同第21行目に記載した「プライマーセット6」を「プライマーセット6(実施例)」に、同第28行目に記載した「プライマーセット7」を「プライマーセット7(実施例)」に、同第35行目に記載した「プライマーセット8」を「プライマーセット8(実施例)」に、同第42行目に記載した「プライマーセット9」を「プライマーセット9(実施例)」に、同第49行目に記載した「プライマーセット10」を「プライマーセット10(実施例)」に、第19頁第7行目に記載した「プライマーセット11」を「プライマーセット11(実施例)」に、第22頁第41行目に記載した「プライマーセット12」を「プライマーセット12(実施例)」に、第23頁第1行目に記載した「プライマーセット13」を「プライマーセット13(実施例)」に、第24頁第2行目に記載した「プライマーセット14」を「プライマーセット14(比較例)」に、同第13行目に記載した「プライマーセット15」を「プライマーセット15(比較例)」に、同第24行目に記載した「プライマーセット16」を「プライマーセット16(実施例)」に、同第35行目に記載した「プライマーセット17」を「プライマーセット17(実施例)」に、同第46行目に記載した「プライマーセット18」を「プライマーセット18(実施例)」に、第25頁第7行目に記載した「プライマーセット19」を「プライマーセット19(実施例)」に、同第18行目に記載した「プライマーセット20」を「プライマーセット20(実施例)」に、それぞれ訂正する。 (14)訂正事項n 本件特許公報第28頁第12行目に記載した「下記の表7示す通りである」を「下記の表7に示す通りである」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項a について 訂正事項aは、プライマー中において配列(Ac')と配列(B')との間に介在配列が存在しない場合と存在する場合の選択肢で記載されていたところを、介在配列が存在する場合を削除し、介在配列を含まないように限定し、また、プライマー中において配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、X、X+Yの範囲に限定がなかったところを「Xが10?30の範囲」および「X+Yが30?50の範囲」と限定し、(X-Y)/Xが-1.00?1.00の範囲であったところを「(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、「Xが10?30の範囲」すなわち前記配列(Ac')の塩基数が10?30ヌクレオチドであることについては、本件特許公報第11頁第38?40行目に明示的に記載されており、「(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲」については、本件特許公報第11頁第18?22行目に、「X+Yが30?50の範囲」については、本件特許公報第11頁第22?25行目にそれぞれ明示的に記載されており、かつ、「工程(c)、工程(d)および工程(e)が等温で行われる」すなわち核酸合成方法においてプライマーと鋳型核酸を用意する工程以外の各工程が等温で行われることについては、本件特許公報の請求項3、第8頁第41?43行目、および第13頁第27?32行目に明示的に記載されているから、訂正事項aは特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (2)訂正事項b について 訂正事項bは、工程(c)、工程(d)および工程(e)が等温で行われる鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成する方法において、さらに、「鎖長が15?100ヌクレオチドであるプライマーを使用する」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、プライマーの鎖長については、本件特許公報第11頁第36?37行目に、「本発明によるプライマーの鎖長は、好ましくは15?100ヌクレオチド」と、明示的に記載されているから、訂正事項bは特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (3)訂正事項c について 訂正事項cは、第一のプライマー中の配列(Ac')と配列(B')との間、又は、第二のプライマー中の配列(Cc')と配列(C')との間の介在配列について、それぞれ介在配列が存在しない場合と存在する場合の選択肢で記載されていたところを、介在配列が存在する場合を削除し、介在配列を含まないように限定し、また、「Xが10?30の範囲」、「(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲」および「X+Yが30?50の範囲」と限定し、さらに、核酸増幅方法を「工程(d)、工程(e)および工程(f)が等温で行われる」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項cに係る各訂正内容については、訂正事項aについて述べたとおり、本件特許公報に明示的に記載されているから、訂正事項cは特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (4)訂正事項d について 訂正事項dは、工程(d)、工程(e)および工程(f)が等温で行われる二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅する方法において、さらに、「鎖長が15?100ヌクレオチドであるプライマーを使用する」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項dに係る訂正内容については、訂正事項bについて述べたとおり、本件特許公報に明示的に記載されているから、訂正事項dは特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (5)訂正事項e について 訂正前の請求項18記載の特許発明は、鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成するためのプライマーの発明であるが、前記核酸を合成する方法については何ら記載がなく特定されていないのに対して、訂正後の請求項18記載の特許発明は、「請求項1に記載の方法により鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成するためのプライマー」として、鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成するに際し、具体的には請求項1に記載の方法を用いると限定し、さらに、「プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり」と限定し、また、プライマー中において配列(Ac')と配列(B')との間に介在配列が存在しない場合と存在する場合の選択肢で記載されていたところを、介在配列が存在する場合を削除し、介在配列を含まないように限定し、「Xが10?30の範囲」、「(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲」および「X+Yが30?50の範囲」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項eに係る各訂正内容については、訂正事項aについて述べたとおり、本件特許公報に明示的に記載されているから、訂正事項eは特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (6)訂正事項f について 訂正前の請求項20記載の特許発明は、二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅するためのプライマーセットの発明であるが、前記核酸配列を増幅する方法については何ら記載がなく特定されていないのに対して、訂正後の請求項20記載の特許発明は、「請求項9に記載の方法により二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅するためのプライマーセット」として、二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅するに際し、具体的には請求項9に記載の方法を用いると限定し、さらに、第一のプライマーおよび第二のプライマーにおいて、「プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり」と限定し、また、第一のプライマー中の配列(Ac')と配列(B')との間、又は、第二のプライマー中の配列(Cc')と配列(D')との間の介在配列について、それぞれ介在配列が存在しない場合と存在する場合の選択肢で記載されていたところを、介在配列が存在する場合を削除し、介在配列を含まないように限定し、「Xが10?30の範囲」、「(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲」および「X+Yが30?50の範囲」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項fに係る各訂正内容については、訂正事項a及びcについて述べたとおり、本件特許公報に明示的に記載されているから、訂正事項eは特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (7)訂正事項g?k及びm について 訂正事項g?k及びmは、発明の詳細な説明の記載を訂正後の特許請求の範囲と整合させるものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、当初明細書又は図面に記載した事項の範囲でなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (8)訂正事項l及びn について 訂正事項l及びnは、誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当し、当初明細書又は図面に記載した事項の範囲でなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 3.通常実施権者の承諾 平成23年12月12日に提出した承諾書により、請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正を請求することについて、通常実施権者の承諾を得られたと認められ、本件訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第127条の要件を満たしている。 4.むすび 以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項において読み替えて準用する第126条第3項?第5項並びに第127条の規定に適合するので、当該訂正を認める。 第3.本件発明 上記第2.のとおり、本件訂正は認められたので、本件発明は、本件訂正により訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項を発明特定事項とする、以下のとおりのものである。(以下、「本件発明1」、「本件発明2」等という。) 「【請求項1】 鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成する方法であって、 (a)標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなるプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (b)鋳型核酸を用意する工程、 (c)前記プライマーを前記鋳型核酸にアニーリングさせ、プライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む相補核酸を合成する工程、 (d)工程(c)により合成された相補核酸の5'側に存在する配列(B')を同相補核酸上に存在する配列(Bc)にハイブリダイズさせ、これにより、鋳型核酸上の前記配列(A)の部分を一本鎖とする工程、および (e)工程(d)により一本鎖とされた鋳型核酸上の前記配列(A)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(c)により合成された相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程、 を含んでなり、工程(c)、工程(d)および工程(e)が等温で行われる、方法。 【請求項2】 工程(e)により得られた二本鎖の核酸を工程(d)で繰り返して使用する、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 鎖長が15?100ヌクレオチドであるプライマーを使用し、工程(c)、工程(d)および工程(e)が等温で行われる、請求項1に記載の方法。 【請求項4】 鎖置換能を有するDNAポリメラーゼが使用される、請求項1に記載の方法。 【請求項5】 鋳型核酸がRNAである場合に、逆転写酵素を用いてcDNAを合成する工程をさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。 【請求項6】 工程(c)、工程(d)および工程(e)が融解温度調整剤の存在下で行われる、請求項1に記載の方法。 【請求項7】 融解温度調整剤が、ジメチルスルホキシド、ベタイン、ホルムアミドもしくはグリセロール、またはこれらの混合物である、請求項6に記載の方法。 【請求項8】 鋳型核酸中の標的核酸配列が非天然ヌクレオチドを含んでなるものである、請求項1に記載の方法。 【請求項9】 二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅する方法であって、 (a)二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなる第一のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (b)二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5'側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D')を前記配列(Cc')の5'側に含んでなる第二のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Cc')と前記配列(D')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Cc')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (c)第一の鋳型核酸および第二の鋳型核酸からなる二本鎖鋳型核酸を用意する工程、 (d)前記第一および第二のプライマーをそれぞれ前記第一および第二の鋳型核酸にアニーリングさせ、それぞれプライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む第一および第二の相補核酸を合成する工程、 (e)工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸の5'側に存在する配列(B')および配列(D')を、同相補核酸上に存在する配列(Bc)および配列(Dc)にそれぞれハイブリダイズさせ、これにより、第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分を一本鎖とする工程、ならびに (f)工程(e)により一本鎖とされた第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程、 を含んでなり、工程(d)、工程(e)および工程(f)が等温で行われる、方法。 【請求項10】 工程(f)により得られた二本鎖の核酸を工程(e)で繰り返して使用する、請求項9に記載の方法。 【請求項11】 工程(f)により一本鎖の核酸として得られた第一および第二の相補核酸を、工程(d)においてそれぞれ第二および第一の鋳型核酸として繰り返して使用する、請求項9に記載の方法。 【請求項12】 鎖長が15?100ヌクレオチドであるプライマーを使用し、工程(d)、工程(e)および工程(f)が等温で行われる、請求項9に記載の方法。 【請求項13】 鎖置換能を有するDNAポリメラーゼが使用される、請求項9に記載の方法。 【請求項14】 鋳型核酸がRNAの場合に、逆転写酵素を用いてcDNAを合成する工程をさらに含んでなる、請求項9に記載の方法。 【請求項15】 工程(d)、工程(e)および工程(f)が融解温度調整剤の存在下で行われる、請求項9に記載の方法。 【請求項16】 融解温度調整剤が、ジメチルスルホキシド、ベタイン、ホルムアミドもしくはグリセロール、またはこれらの混合物である、請求項15に記載の方法。 【請求項17】 鋳型核酸中の標的核酸配列が非天然ヌクレオチドを含んでなるものである、請求項9に記載の方法。 【請求項18】 請求項1に記載の方法により鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成するためのプライマーであって、前記プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり、 標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなり、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にある、プライマー。 【請求項19】 請求項18に記載のプライマーを含んでなる、鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成するためのキット。 【請求項20】 請求項9に記載の方法により二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅するためのプライマーセットであって、 (a)二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなる第一のプライマーであって、プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にある、第一のプライマー、および (b)二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5'側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D')を前記配列(Cc')の5'側に含んでなる第二のプライマーであって、プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり、 プライマー中において前記配列(Cc')と前記配列(D')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Cc')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にある、第二のプライマー、 を含んでなる、プライマーセット。 【請求項21】 請求項20に記載のプライマーセットを含んでなる、二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅するためのキット。」 第4.請求人の主張、及び、特許法第153条第2項の規定による通知の内容の概要 1.請求人の主張の概要 請求人は、「特許第3867926号の特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めており、その主張は、以下の(1)ないし(2)にあるものと認められる。 (1)本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許は第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。(以下、「無効理由1」という。) (2)本件発明は、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。(以下、「無効理由2」という。) また、請求人が提出した甲第1ないし3号証は次のとおりである。 甲第1号証: 特開2000-37194号公報 甲第2号証: EMBL/GenBank/DDBJデータベースにあるAccession No. Z72478のHepatitis B virusのDNA配列(1996年5月15日) 甲第3号証: 特許第3313358号公報(2002年8月12日) また、請求人は、平成24年2月13日付の弁駁書において、下記の甲第4?6号証を提出している。 甲第4号証:国際公開第01/77317号 甲第5号証:特開2002-186481号公報 甲第6号証:国際公開01/83817号 2.特許法第153条第2項の規定による通知の内容の概要 特許法第153条第2項の規定による通知(以下、「無効理由通知」という。)は、概略、以下の理由からなるものである。 (1)本件の請求項1ないし21に係る発明は、審判請求書に提示された甲第1号証に記載された発明及び引用例2ないし6に記載された優先日前の周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。(以下、「職権無効理由1」という。) (2)本件請求項1ないし21の記載が、明細書のサポート要件に適合するということはできず、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすとはいえず、当業者が本件特許明細書の開示から本件請求項1ないし21に係る発明を容易に実施できず、特許法第36条第4項第1号の規定を満たさないから、本件の請求項1ないし21に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。(以下、「職権無効理由2」という。) また、無効理由通知で提示した引用例2ないし6は次のとおりである。 引用例2:特表平2-501532号公報 引用例3:特表2001-503973号公報 引用例4:国際公開02/070735号パンフレット 引用例5:特許第3152927号公報(2002年8月12日) 引用例6:特開平10-201476号公報 第5.被請求人の主張 被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は審判請求人の負担とする。」との審決を求め、上記無効理由1、2及び職権無効理由1、2は、いずれも理由がない旨主張している。 特に、無効理由2について、概略以下のように主張する。 1.甲第1号証に記載された発明に対し、甲第3号証に記載された発明を適用することについて、当業者において阻害要因があるものであって、阻害要因Aとして、アウタープライマーを必須としない核酸合成方式が記載された甲第1号証に対し、アウタープライマーを必須とする甲第3号証を適用することは、当業者において不自然かつ困難であること、及び、阻害要因Bとして、一本鎖の状態でステムループ構造を形成する増幅方式である甲第3号証を、二本鎖の状態でステムループ構造を形成することを必須の条件とする甲第1号証に適用することは、当業者において不自然かつ困難である(平成20年8月4日付答弁書第21頁?第26頁(3)(当審注:(3)は丸付き数字。)引用発明1(甲第1号証)への引用発明3(甲第3号証)の適用の項)。 2.甲第3号証において、具体的に示されたプライマーは全て「介在配列あり」のものであり、塩基数XとYの範囲は示されているものの、塩基数XとYの比については記載されていないから、甲第1号証に甲第3号証を適用したとしても、本件発明は構成されない(平成23年12月19日付上申書(3-2))。 3.本件発明1は、「介在配列なし」のプライマーであって、-1.00≦(X-Y)/X≦0.75、30≦X+Y≦50の条件のプライマーを使用することにより、アウタープライマーが無くても、特異的かつ効率的な核酸増幅が可能であるのに対し、甲第1号証では、アウタープライマー無しの増幅反応が記載されているものの、増幅効率が悪く、また、甲第3号証の増幅反応では、全てアウタープライマーを使用しているから、本件発明は、甲第1号証及び甲第3号証に対し、優れた効果を奏するものである(平成23年12月19日付上申書(3-3))。 また、被請求人が提出した乙第1ないし3号証は次のとおりである。 乙第1号証:Nucleic Acids Research,2000,Vol.28,No.12,e63 乙第2号証:「ヒトの分子遺伝学」(第1版)m株式会社メディカル・サイエンス・インターナショナル、1997年12月15日発行 乙第3号証:実験成績証明書 第6.請求人が主張する無効理由1について 請求人は、請求人口頭審理陳述要領書に、 「6.陳述の要領 (1)新規性欠如についての主張 請求人は、平成20年10月10日付審判事件弁駁書第7項「理由」中(4)記載の、訂正後の本件発明が新規性を欠如する旨の主張を撤回する。なお、請求人は、訂正前の本件発明が新規性を欠如する旨の審判請求書記載の主張を撤回するものではない。」(第2頁27行?第3頁2行)と記載し、口頭審理においても、「訂正後の特許発明については、特許法第29条第1項第3号に基づく無効理由の主張は撤回する。」と陳述した。 ところで、上記第2.のとおり、本件訂正は認められたので、本件発明1ないし21は、本件訂正により上記第3.のとおりに訂正された。 本件第2次訂正は、第1次訂正の特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された発明特定事項を、プライマー中において配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をY、配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在する場合に、該介在配列の塩基数をY'としたときにプライマー中において配列(Ac')と配列(B')との間に介在配列が存在しない場合について、Xの範囲に限定がなかったところを「Xが10?30の範囲」と限定し、X+Yが30以上の範囲であったところを「X+Yが30?50の範囲」と限定し、(X-Y)/Xが-1.00?1.00の範囲であったところを「(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲」と限定し、また、プライマー中において配列(Ac')と配列(B')との間に介在配列が存在する場合について、Xの範囲に限定がなかったところを「Xが10?30の範囲」と限定し、X+Y+Y'が30以上の範囲であったところを「X+Y+Y'が30?50の範囲」と限定し、{X-(Y-Y')}/Xが-1.00?1.00の範囲であったところを「{X-(Y-Y')}/Xが-1.00?0.75の範囲」と限定し、さらに、核酸合成方法を「工程(c)、工程(d)および工程(e)が等温で行われる」と限定したものであり、そして、本件訂正は、第2次訂正において、プライマー中において配列(Ac')と配列(B')との間に介在配列が存在しない場合と存在する場合の選択肢で記載されていたところを、介在配列が存在する場合を削除し、介在配列を含まないように限定したものであり、特許請求の範囲はさらに減縮されている。 このように、本件訂正の特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された発明は、第1次訂正後の特許発明よりもさらに減縮されたのであるから、当然に特許法第29条第1項第3号に基づく無効理由が新たに生ずるものではない。 第7.請求人が主張する無効理由2について 1.請求人が提出した甲第1号証(特開2000-37194号公報)の記載事項 甲第1号証には、以下の記載事項が記載されている。 ア.「本発明は、特定の核酸配列を直線的に増幅するためのプロセスを提供する。このプロセスは、以下の工程:該特定の核酸配列、初期プライマーまたは核酸構築物であって、以下の2つのセグメント:(A)第1のセグメントであって、(i)該特定の核酸配列に第1の部分に実質的に相補的であり、そして(ii)テンプレート依存性の第1の伸長をし得る、セグメント、および(B)第2のセグメントであって、(i)該第1のセグメントに実質的に非同一であり、(ii)該特定の核酸配列の第2の部分に実質的に同一であり、(iii)該第2のセグメントの相補的な配列に結合し得、そして(iv)第2のプライマー伸長が生成され、そして第1のプライマー伸長を置換するように、均衡(isostatic)または限定サイクリング条件下で、第2のプライマーまたは核酸構築物の第1のセグメントの、続く該特定の核酸配列の該第1の部分への結合を提供し得る、セグメントを含む、初期プライマーまたは核酸構築物;ならびに、基質、緩衝液、およびテンプレート依存性重合化酵素;を提供する工程;ならびに、均衡または限定サイクリング条件下で該基質、緩衝液、およびテンプレート依存性重合化酵素の存在下で、該特定の核酸配列および該新規プライマーまたは核酸構築物をインキュベートし;それにより、該特定の核酸配列を直線的に増幅する工程、を包含する。」(【0014】) イ.「【発明の実施の形態】 以下の定義は、本発明および本開示の理解に有用である。 定義 均衡条件は、実質的に定常な温度および/または化学条件をいう。」(【0081】) ウ.「直線的増幅は、核酸の1つの鎖のみの2つ以上のコピーが生成される場合に行われる。 非直線的増幅は、核酸配列の2つ以上のコピーが、核酸およびその相補体の各鎖から生成される場合に行われる。」(【0084】及び【0085】) エ.「この産物は、図1に例示される、連続する一連の以下の工程によって、形成され得る。新規のプライマーまたは核酸構築物のテンプレート依存性伸長は、この新規のプライマーまたは核酸構築物の第2セグメントを含む配列に相補的である伸長部分配列において生成する。これらの自己相補性領域は、テンプレートに結合しままであり得るか、または自己相補性構造を形成し得る。二次構造の形成は、テンプレートからの、伸長した新規のプライマーの第1セグメントの全てまたは一部の除去を提供し得る。このことは、別の初期プライマーが、テンプレートからの新規の第1伸長プライマーの除去の前に、テンプレート配列に結合することを可能にする。テンプレート上の第2プライマーの伸長は、テンプレートからの第1伸長プライマーの置換を導き得る。このことは、伸長プライマーの分離が、別の結合および伸長反応のためのテンプレートの使用の前に常に起こる先行技術とは対照的である。これらの手段によって、単一のテンプレートは、均衡条件下で、2つ以上の初期事象を提供し得る。さらに、この方法は、全ての温度が伸長産物およびそのテンプレートのTmのものを下回る、限定サイクル条件下で使用され得る。連続するプロセスにおいて、新規の第2伸長プライマーにおける二次構造の形成は、新規の第3プライマーの結合および続く伸長を提供し得る。このようにして、変性条件の非存在下において、本発明の新規のプロセスは、核酸テンプレートの単鎖からの多重プライミング、伸長、および遊離事象を提供し得る。さらに、これらの工程の全ては、均衡条件下で、同時および連続的に起こり得る。」(【0104】) オ.「複数の同一の第1セグメントおよび第2セグメントを有する新規の核酸構築物はまた、図1に示されている同じプロセスによって直線的増幅を行うために使用され得る。この新規の構築物は、潜在的に、1つの極性を有する線状構築物と比較して、効率の増加に恵まれている。構築物分子の第1セグメントの1つの結合および伸長は、再生されたプライマー結合部位に結合し得る構築物の他の第1セグメントの局在化高濃度を生じる。複数のプライミングおよび伸長反応の後、1本鎖である標的DNAの複数のコピーを含む構築物が作製され得る。」(【0105】) カ.「非直線的増幅産物は、標的核酸の異なる鎖に相補的な2つの新規のプライマーの使用によって、連続する一連の以下の工程によって、均衡または限定サイクル条件下で合成され得る。新規のプライマー(A)は、標的鎖に結合し、そして新規の単一プライマーでの直線的増幅について以前に記載されたのと同様の一連の伸長、二次構造形成、プライマー結合部位の再生、第2結合、第2伸長、伸長プライマーのテンプレートからの分離が存在する。新規の伸長プライマーは、他の新規のプライマーの結合および伸長と置き換えられるので、これらの1本鎖産物は、新規のプライマー(B)と結合し得、そして伸長させて完全な2本鎖アンプリコンを作製することを可能にする。この潜在的な一連の事象は、図5に示される。以前に記載したように、伸長して置換したプライマーの相補体の形成は、均衡または限定サイクル条件下で、複数の結合、伸長、および置換事象を可能にするべき二次構造を有するテンプレートを作製する。新規の第1プライマーおよびその相補体から寄与される配列に由来する一方の末端での二次構造、および新規の第2プライマーおよびその相補体によって寄与される配列に由来する他方の末端での二次構造を有する産物が形成され得る。この構造は、プライマー結合部位として使用され得る1本鎖セグメントを再生する各鎖において、ループ構造を有するので、新規のプライマーまたは核酸構築物のさらなる結合および伸長が、均衡または限定サイクル条件下で、いずれかの鎖において開始され得る。例示するために、図5に示される一連の事象は、新規のプライマー(A)による一方の末端での最初の開始事象の結果であるが、相補的なテンプレート鎖の利用可能性とともに、一連の事象が、新規のプライマー(B)による、相補的な標的鎖のプライマー結合部位での最初の開始と、類似の様式で示されている。」(【0134】) キ.「【実施例】 (実施例1 53℃および63℃でのBstポリメラーゼによるPCR産物の等温増幅) (i)HBVプラスミドDNAのPCR増幅 HBVマイクロタイタープレートアッセイ(ENZO Diagnostics、NY、NY)からのHBVポジティブコントロールを、PCRによる増幅のための標的として使用した。製造業者によると、このDNAは80pg/ul(ulにつき1.2×107コピーのHBVと同量)である。1ulのHBV標的、1×PE緩衝液(Perkin-Elmer、Emeryville、CA)、4mMのMgCl2、250umのdNTP、6単位のアンプリサーム(Amplitherm)(Invitrogen、LaJolla、CA)、ならびに10ピコモルのHBVオリゴプライマーFCおよびRCからなる50ulのPCR反応を実施した。 FC配列=5’-CATAGCAGCA GGATGAAGAG GAATATGATA GGATGTGTCT GCGGCGTTT-3’ RC配列=5’-TCCTCTAATT CCAGGATCAA CAACAACCAG AGGTTTTGCA TGGTCCCGTA-3’。」(【0178】) ク.「 (実施例2 HBV配列の等温増幅の時間経過/感度) (i)増幅 Eco R1であらかじめ消化されたHBVプラスミドDNAを、等温増幅のテンプレートとして使用した。DNA混合物は、 FCおよびRCプライマーがそれぞれ40pM、1×ThermoPol緩衝液(N.E.Biolabs、Beverly MA)および4×106、4×104、または0 HBV分子を含む100ulからなった。これらはPerkin-Elmer(Emeryville、CA)製のサーモサイクラーモデル480を使用して5分間で94℃まで熱した。次いで装置を63℃で480分セットした。ブロックを63℃に調節した後、酵素混合物25ulを含有する個々のチューブをサーモサイクラーブロックの中に置いた。それぞれの酵素混合物チューブは、4単位のBstポリメラーゼ(N.E.Biolabs、Beverly MA)、1×ThermoPol緩衝液(N.E.Biolabs、Beverly MA)、および400uMのdNTPを含有した。DNA混合物、および酵素混合物を63℃に調節した後、25ulのサンプルをそれぞれのDNA混合物から採取し、合計容量がそれぞれ50ulになるようにそれぞれの酵素混合物チューブに加えた。DNA混合物のそれぞれのチューブ用として、3件のサンプルを採取した。それぞれのDNA濃度用についてひとつのサンプルを、2、4、および8時間後に63℃のブロックの外に取り出した。」(【0184】) ケ.「逆転写酵素または逆転写が可能なDNAポリメラーゼは、開始基質としてRNA分子を用いて、本発明を実行するために使用され得る。」(【0172】9行?12行) コ.「補充的なエレメントもまた、適切な二次構造の形成を好むように反応混合物中に含まれ得る。これらのエレメントとしては、1本鎖結合タンパク質、T4遺伝子32タンパク質、RecAタンパク質、および種々のヘリカーゼのようなタンパク質が挙げられ得るがこれらに限定されない。これらのエレメントとしてはまた、ホルムアミドまたはDMSOのような化学試薬が挙げられ得るがこれらに限定されない。」(【0096】6行?13行) サ.「当業者は、第1セグメントまたはプライマー伸長産物、これらのエレメントの両方が、少なくとも1つの改変ヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログを含み得ることを認識する。このような場合において、改変ヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログは、その相補物に対する第1セグメントまたはプライマー伸長産物の熱力学安定性を減少させる。このような熱力学安定性を減少させる改変ヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログは、例えば、カルボン酸のような負に荷電した化学基を含む。」(【0101】) シ.「本発明はさらに、上記の種々のプロセスにおける使用のために組成物およびキットを意図しそして包含する。」(【0176】) 2.請求人が提出した甲第3号証(特許第3313358号公報)の記載事項 甲第3号証には、以下の記載事項が記載されている。 ス.「【請求項1】 次の工程を繰り返すことによる1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の増幅方法。 A)3'末端と5'末端において、それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖上に備え、この互いに相補的な塩基配列がアニールしたときに両者の間に塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型を提供する工程 B)同一鎖にアニールさせた前記鋳型の3'末端を合成起点として相補鎖合成を行う工程、 C)前記ループのうち3'末端側に位置するループ内に相補的な塩基配列を3'末端に含むオリゴヌクレオチドを、ループ部分にアニールさせ、これを合成起点として鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによる相補鎖合成を行って、工程B)で合成された相補鎖を置換してその3'末端を塩基対結合が可能な状態とする工程、および D)工程C)において3'末端を塩基対結合が可能な状態とした鎖を工程A)における新たな鋳型とする工程」(公報第1頁【特許請求の範囲】) セ.「 本発明の特徴となっている、3’末端に同一鎖上の一部F1cにアニールすることができる領域F1を備え、この領域F1が同一鎖上のF1cにアニールすることによって、塩基対結合が可能な領域F2cを含むループを形成することができる核酸は、様々な方法によって得ることができる。もっとも望ましい態様においては、次の構造を持ったオリゴヌクレオチドを利用した相補鎖合成反応に基づいてその構造を与えることができる。 すなわち本発明において有用なオリゴヌクレオチドとは、少なくとも以下の2つの領域X2およびX1cとで構成され、X2の5’側にX1cが連結されたオリゴヌクレオチドからなる。 X2:特定の塩基配列を持つ核酸の領域X2cに相補的な塩基配列を持つ領域 X1c:特定の塩基配列を持つ核酸における領域X2cの5’側に位置する領域X1cと実質的に同じ塩基配列を持つ領域 ここで、本発明のオリゴヌクレオチドの構造を決定する特定の塩基配列を持つ核酸とは、本発明のオリゴヌクレオチドをプライマーとして利用するときに、その鋳型となる核酸を意味する。本発明の合成方法に基づいて核酸の検出を行う場合には、特定の塩基配列を持つ核酸とは、検出対象、あるいは検出対象から誘導された核酸である。特定の塩基配列を持つ核酸は、少なくともその一部の塩基配列が明らかとなっている、あるいは推測が可能な状態にある核酸を意味する。塩基配列を明らかにすべき部分とは、前記領域X2cおよびその5’側に位置する領域X1cである。この2つの領域は、連続する場合、そして離れて存在する場合とを想定することができる。両者の相対的な位置関係により、生成物である核酸が自己アニールしたときに形成されるループ部分の状態が決定される。また、生成物である核酸が分子間のアニールではなく自己アニールを優先的に行うためには、両者の距離が不必要に離れないほうが望ましい。したがって、両者の位置関係は、通常0-500塩基分の距離を介して連続するようにするのが望ましい。ただし、後に述べる自己アニールによるループの形成において、両者があまりにも接近している場合には望ましい状態のループの形成を行うには不利となるケースも予想される。ループにおいては、新たなオリゴヌクレオチドのアニールと、それを合成起点とする鎖置換を伴う相補鎖合成反応がスムーズに開始できる構造が求められる。したがってより望ましくは、領域X2cおよびその5’側に位置する領域X1cとの距離が、0?100塩基、さらに望ましくは10?70塩基となるように設計する。なおこの数値はX1cとX2を含まない長さを示している。ループ部分を構成する塩基数は、更にX2に相当する領域を加えた長さとなる。 なお本発明に基づくオリゴヌクレオチドを構成する塩基配列の特徴付けのために用いられる同一、あるいは相補的という用語は、いずれも完全に同一、あるいは完全に相補的であることを意味しない。すなわち、ある配列と同一とは、ある配列に対してアニールすることができる塩基配列に対して相補的な配列をも含むことができる。他方、相補的とは、ストリンジェントな条件下でアニールすることができ、相補鎖合成の起点となる3’末端を提供することができる配列を意味する。 上記特定の塩基配列を持つ核酸に対して本発明によるオリゴヌクレオチドを構成する領域X2およびX1cは、通常は重複することなく連続して配置される。あるいはもしも両者の塩基配列に共通の部分があるのであれば、部分的に両者を重ねて配置することもできる。X2はプライマーとして機能する必要があることから、常に3’末端となるようにしなければならない。一方X1cは、後に述べるように、これを鋳型として合成された相補鎖の3’末端にプライマーとしての機能を与える必要があることから、5’末端に配置する。このオリゴヌクレオチドを合成起点として得られる相補鎖は、次のステップにおいては逆向きからの相補鎖合成の鋳型となり、最終的には本発明によるオリゴヌクレオチド部分も鋳型として相補鎖に写し取られる。写し取られることによって生じる3’末端は塩基配列X1を備えており、同一鎖上のX1cにアニールするとともに、ループを形成する。 本発明においてオリゴヌクレオチドとは、相補的な塩基対結合を形成できること、そしてその3’末端において相補鎖合成の起点となる-OH基を与えること、の2つの条件を満たすものを意味する。したがって、そのバックボーンは必ずしもホスホジエステル結合によるものに限定されない。たとえばPではなくSをバックボーンとしたホスホチオエート体やペプチド結合に基づくペプチド核酸からなるものであることもできる。また、塩基は、相補的な塩基対結合を可能とするものであれば良い。天然の状態では、一般にはACTGおよびUの5種類となるが、たとえばブロモデオキシウリジン(bromodeoxyuridine)といった類似体であることもできる。本発明に用いるオリゴヌクレオチドは、合成の起点となるのみならず、相補鎖合成の鋳型としても機能するものであることが望ましい。なお、本発明においてはオリゴヌクレオチドを含む用語としてポリヌクレオチドを用いる。用語ポリヌクレオチドは、その鎖長を制限しない場合に用い、オリゴヌクレオチドは比較的短い鎖長のヌクレオチド重合体を意味する用語として用いられる。 本発明によるオリゴヌクレオチドは、以下に述べる各種の核酸合成反応において、与えられた環境の下で必要な特異性を維持しながら相補鎖との塩基対結合を行うことができる程度の鎖長を持つ。具体的には、5-200塩基、より望ましくは10-50塩基対とする。配列依存的な核酸合成反応を触媒する公知のポリメラーゼが認識するプライマーの鎖長が、最低5塩基前後であることから、アニールする部分の鎖長はそれ以上である必要がある。加えて、塩基配列としての特異性を期待するためには、確率的に10塩基以上の長さを利用するのが望ましい。一方、あまりにも長い塩基配列は化学合成によって調製することが困難となることから、前記のような鎖長が望ましい範囲として例示される。なお、ここで例示した鎖長はあくまでも相補鎖とアニールする部分の鎖長である。後に述べるように、本発明によるオリゴヌクレオチドは最終的には少なくとも2つの領域に個別にアニールすることができる。したがって、ここに例示する鎖長は、オリゴヌクレオチドを構成する各領域の鎖長と理解するべきである。」(公報第6頁右欄39行?第7頁右欄49行) ソ.「 以下の態様においては、本発明に基づくオリゴヌクレオチドとして2種類を用意する。これを説明のためにFAとRAと名づける。FAとRAを構成する領域は、以下のとおりである。 X2 X1c FA F2 F1c RA R2 R1c ここで、F2は鋳型となる核酸の領域F2cに相補的な塩基配列である。またR2はF2をプライマーとして合成される相補鎖に含まれる任意の領域R2cに相補的な塩基配列である。F1cとR1cはそれぞれ、F2cおよびR2cのそれぞれ下流に位置する任意の塩基配列である。」(第10頁左欄31行?43行) タ.「実施例1 M13mp18内の領域の増幅 M13mp18を鋳型として、本発明による1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の合成方法を試みた。実験に使用したプライマーは、M13FA、M13RA、M13F3、そしてM13R3の4種類である。M13F3とM13R3は、それぞれM13FAとM13RAを合成起点として得られた第1の核酸を置換するためのアウタープライマーである。アウタープライマーはM13FA(あるいはM13RA)よりも後から相補鎖合成の起点となるべきプライマーなので、M13FA(あるいはM13RA)と隣接する領域にコンティギュアス スタッキング現象を利用してアニールするように設計した。また、M13FA(あるいはM13RA)のアニールが優先的に起こるようにこれらのプライマー濃度を高く設定した。 各プライマーを構成する塩基配列は配列表に示したとおりである。プライマーの構造的な特徴を以下にまとめた。また標的塩基配列(target)に対する各領域の位置関係を図7に示した。 プライマー 5’側の領域 / 3’側の領域 M13FA M13FAによる合成相補鎖の領域F1cと同じ /M13mp18の領域F2cに相補 M13RA M13RAによる合成相補鎖の領域R1cと同じ /M13FAによる合成相補鎖の領域R2cに相補 M13F3 M13mp18の領域F2cの3’側に隣接するF3cに相補 M13R3 M13FAによる合成相補鎖の領域R2cの3’側に隣接するR3cに相補 このようなプライマーによって、M13mp18の領域F1cからR1cにいたる領域とその相補的な塩基配列とが、F2cを含むループ形成配列を挟んで1本鎖上に交互に連結した核酸が合成される。これらのプライマーによる本発明による核酸の合成方法のための反応液組成を以下に示す。 反応液組成(25μL中) 20mM Tris-HCl pH8.8 10mM KCl 10mM(NH4)2SO4 6mM MgSO4 0.1% Triton X-100 5% ジメチルスルホキシド(DMSO) 0.4mM dNTP プライマー: 800nM M13FA/配列番号:1 800nM M13RA/配列番号:2 200nM M13F3/配列番号:3 200nM M13R3/配列番号:4 ターゲット:M13mp18 dsDNA/配列番号:5 反応:上記反応液を95℃で5分間加熱し、ターゲットを変性させて1本鎖とした。」(第16頁右欄17行?第17頁左欄10行) チ.「実施例8 mRNAをターゲットとした増幅反応 ターゲットとなる核酸をmRNAとして、本発明による核酸の合成方法を試みた。ターゲットとなるmRNAは、前立腺特異抗原(Prostate specific antigen;PSA)を発現した細胞である前立腺癌細胞株LNCaP cell(ATCC No.CRL-1740)と、非発現細胞である慢性骨髄性白血病細胞株K562cell(ATCC No.CCL-243)を、1:106?100:106で混合し、Qiagen社(ドイツ)のRNeasy Mini kitを用いて全RNAを抽出した。実験に使用したプライマーは、PSAFA、PSARA、PSAF3、そしてPSAR3の4種類である。PSAF3とPSAR3は、それぞれPSAFAとPSARAを合成起点として得られた第一の核酸を置換するためのアウタープライマーである。また、PSAFA(あるいはPSARA)のアニールが優先的に起こるようにこれらのプライマー濃度を高く設定した。各プライマーを構成する塩基配列は以下のとおりである。 プライマー: PSAFA: TGTTCCTGATGCAGTGGGCAGCTTTAGTCTGCGGCGGTGTTCTG(配列番号:26) PSARA: TGCTGGGTCGGCACAGCCTGAAGCTGACCTGAAATACCTGGCCTG(配列番号:27) PSAF3:TGCTTGTGGCCTCTCGTG(配列番号:28) PSAR3:GGGTGTGGGAAGCTGTG(配列番号:29) プライマーの構造的な特徴を以下にまとめた。また、標的のmRNAをコードするDNA塩基配列に対する各プライマーの位置関係、および制限酵素Sau3AIの認識部位を図17に示した。 プライマー 5’側の領域 / 3’側の領域 PSAFA PSAFAによる合成相補鎖の領域F1cと同じ /標的塩基配列の領域F2cに相補 PSARA PSARAによる合成相補鎖の領域R1cと同じ /PSAFAによる合成相補鎖の領域R2cに相補 PSAF3 標的塩基配列の領域F2cの3’側に隣接するF3cに相補 PSAR3 PSAFAによる合成相補鎖の領域R2cの3’側に隣接するR3cに相補 本発明による核酸の合成方法のための反応液組成を以下に示す。 反応液組成(25μL中) 20mM Tris-HCl pH8.8 4mM MgSO4 0.4mM dNTPs 10mM KCl 10mM (NH4)2SO4 0.1% TritonX-100 0.8M betaine 5mM DTT 1600nM PSAFA & PSARAプライマー 200nM PSAF3 & PSAR3プライマー 8U Bst DNAポリメラーゼ 100U ReverTra Ace(TOYOBO、日本) 5μg 全RNA 全ての成分は氷上で混合した。」(公報第20頁右欄39行?第21頁右欄34行) ツ.図17には、標的mRNAをコードする塩基配列における、オリゴヌクレオチドを構成する各塩基配列の位置関係が示されている。(公報第40頁) 3.本件発明1について (1)甲第1号証に記載されたFCおよびRCプライマーについて 甲第1号証の「(実施例2 HBV配列の等温増幅の時間経過/感度)」に記載された、FCおよびRCプライマーとは、「Eco R1であらかじめ消化されたHBVプラスミドDNAを、等温増幅のテンプレート」すなわちHBV核酸を標的核酸とするものであって、各プライマーの化学構造は、FC配列=5’-CATAGCAGCA GGATGAAGAG GAATATGATA GGATGTGTCT GCGGCGTTT-3’RC配列=5’-TCCTCTAATT CCAGGATCAA CAACAACCAG AGGTTTTGCA TGGTCCCGTA-3’」(【0178】)である。 そしてHBV核酸は甲2号証の「ORIGIN」の項の記載を参酌すれば、 「361 tcctggttat cgctggatgt gtctgcggcg ttttatcata ttcctcttca tcctgctgct 421 atgcctcatc ttcttattgg ttcttctgga ttatcaaggt atgttgcccg tttgtcctct 481 aattccagga tcaacaacaa ccagtacggg accatgcaaa acctgcacga ctcctgctca」なる配列を有するものであり、この配列と相補な配列もまた当該プライマーの標的となるといえる。 このうち、RCプライマーの3’末端部分の「AGGTTTTGCATGGTCCCGTA」(5’側から数えて31-50位)は、上記HBV核酸の「TACGGGACCATGCAAAACCT」(HBV核酸の505-524位)」と完全に相補であってハイブリダイズすることが可能であり、RCプライマーの5’末端部分の「TCCTCTAATTCCAGGATCAACAACAACCAG」(5’側から数えて1-30位)は、上記HBV核酸の「TCCTCTAATT CCAGGATCAA CAACAACCAG」(HBV核酸の475-504位)と完全に同一であって、上記HBV核酸のこの部分に対する相補配列「CTGGTTGTTGTTGATCCTGGAATTAGAGGA」にハイブリダイズ可能な配列である。 してみるとRCプライマーの3’末端部分の「AGGTTTTGCATGGTCCCGTA」(5’側から数えて31-50位)は、標的となるHBV核酸配列の3'末端部分の配列「TACGGGACCATGCAAAACCT」(A)にハイブリダイズする配列(Ac')に相当し、RCプライマーの5’末端部分の「TCCTCTAATTCCAGGATCAACAACAACCAG」(5’側から数えて1-30位)は、標的となるHBV核酸配列において前記配列「TACGGGACCATGCAAAACCT」(HBV核酸の505-524位)(A)よりも5'側に存在する配列「TCCTCTAATT CCAGGATCAA CAACAACCAG」(HBV核酸の475-504位)(B)の相補配列「CTGGTTGTTGTTGATCCTGGAATTAGAGGA」(Bc)にハイブリダイズする配列「TCCTCTAATTCCAGGATCAACAACAACCAG」(B')に相当し、当該「TCCTCTAATTCCAGGATCAACAACAACCAG」(B')は5’側から数えて1-30位であって、5’側から数えて31-50位である「AGGTTTTGCATGGTCCCGTA」(Ac')よりも5'側に含んでなるものである。 そして、RCプライマーの配列(Ac')の塩基数Xは20であり、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域は存在しないから、その塩基数Yは0であって、(X-Y)/Xは1である。 また、FCプライマーの3’末端部分の「GGATGTGTCTGCGGCGTTT」(5’側から数えて31-49位)は、上記HBV核酸の相補配列の「AAACGCCGCAGACACATCC」(HBV核酸の375-393位)」と完全に相補であってハイブリダイズすることが可能であり、FCプライマーの5’末端部分の「CATAGCAGCAGGATGAAGAGGAATATGATA」(5’側から数えて1-30位)は、上記HBV核酸の相補配列「CATAGCAGCAGGATGAAGAGGAATATGATA」(HBV核酸の394-423位)と完全に同一であって、上記HBV核酸のこの部分の相補配列に対する相補配列「TATCATATTCCTCTTCATCCTGCTGCTATG」にハイブリダイズ可能な配列である。 してみるとFCプライマーの3’末端部分の「GGATGTGTCTGCGGCGTTT」(5’側から数えて31-49位)は、標的となるHBV核酸配列の相補配列の3'末端部分の配列「AAACGCCGCAGACACATCC」(A)にハイブリダイズする配列(Ac')に相当し、FCプライマーの5’末端部分の「CATAGCAGCAGGATGAAGAGGAATATGATA」(5’側から数えて1-30位)は、標的となるHBV核酸配列の相補配列において前記配列「AAACGCCGCAGACACATCC」(HBV核酸の375-393位)(A)よりも相補配列として5'側に存在する配列「CATAGCAGCAGGATGAAGAGGAATATGATA」(HBV核酸の394-423位)(B)の相補配列「TATCATATTCCTCTTCATCCTGCTGCTATG」(Bc)にハイブリダイズする配列「CATAGCAGCAGGATGAAGAGGAATATGATA」(B')に相当し、当該「CATAGCAGCAGGATGAAGAGGAATATGATAG」(B')は5’側から数えて1-30位であって、5’側から数えて31-49位である「GGATGTGTCTGCGGCGTTT」(Ac')よりも5'側に含んでなるものである。 そして、FCプライマーの配列(Ac')の塩基数Xは19であり、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域は存在しないから、その塩基数Yは0であって、(X-Y)/Xは1、X+Yは19である。 (2)甲第3号証に記載されたFA及びRAプライマー、PSAFA及びPSARAプライマーについて 上記記載事項ス?ソの各記載によれば、「FAプライマー」は、「標的核酸配列の3'末端部分の配列(F2c)にハイブリダイズする配列(F2)を3'末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(F2c)よりも5'側に存在する配列(F1c)の相補配列(F1)にハイブリダイズする配列(F1c)を前記配列(F2)の5'側に含んでなるプライマー」であり、「RAプライマー」は「標的核酸配列の3'末端部分の配列(R2c)にハイブリダイズする配列(R2)を3'末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(R2c)よりも5'側に存在する配列(R1c)の相補配列(R1)にハイブリダイズする配列(R1c)を前記配列(R2)の5'側に含んでなるプライマー」である。 また、「本発明によるオリゴヌクレオチドは、以下に述べる各種の核酸合成反応において、与えられた環境の下で必要な特異性を維持しながら相補鎖との塩基対結合を行うことができる程度の鎖長を持つ。具体的には、5-200塩基、より望ましくは10-50塩基対とする。配列依存的な核酸合成反応を触媒する公知のポリメラーゼが認識するプライマーの鎖長が、最低5塩基前後であることから、アニールする部分の鎖長はそれ以上である必要がある。加えて、塩基配列としての特異性を期待するためには、確率的に10塩基以上の長さを利用するのが望ましい。」こと、及び、「したがってより望ましくは、領域X2cおよびその5’側に位置する領域X1cとの距離が、0?100塩基、さらに望ましくは10?70塩基となるように設計する。なおこの数値はX1cとX2を含まない長さを示している」のであるから(上記記載事項ケ)、すなわち本件発明1におけるプライマーを規定するパラメーターと同様に、前記配列(X2)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(X1c)と前記配列(X2c)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときには、「10≦X≦50」、「10≦Y≦70」のものが好ましいことが記載されている。 上記記載事項チ、ツによれば、「FAプライマー」として具体的に開示された、第26番塩基配列からなるPSAFAプライマーは、図17のPSA F2の相補配列を標的核酸配列の結合部位として結合し増幅するものであるが、配列(F1c)の相補配列(F1)にハイブリダイズする配列(F1c)に相当する5'末端の23塩基と、介在塩基の2塩基と、標的核酸配列の3'末端部分の配列(F2c)にハイブリダイズする配列(F2)に相当する3'末端の19塩基とからなる。よって、Xの値は19、Y'の値は2となる。そして、図17から分かるように、PSA F2とPSA F1cとの間には、23塩基が介在しているため、Yの値は23となる。 そして、第27番塩基配列からなるPSARAプライマーは、図17のPSA R2配列を標的核酸配列の結合部位として結合し増幅するものであるが、配列(R1c)の相補配列(R1)にハイブリダイズする配列(R1c)に相当する5'末端の23塩基と、介在塩基の2塩基と、標的核酸配列の3'末端部分の配列(R2c)にハイブリダイズする配列(R2)に相当する3'末端の19塩基とからなる。よって、Xの値は23、Y'の値は2となる。そして、図17から分かるように、PSA R2とPSA R1cとの間には、16塩基が介在しているため、Yの値は16となる。 このように、具体的に記載されたプライマーの塩基数については、Y=23、Y’=2、X=19及び、Y=16、Y’=2、X=23のものが開示されている。 (3)本件発明1と甲第1号証との対比 甲第1号証に記載された「HBV配列」、「FCおよびRCプライマー」、「Eco R1であらかじめ消化されたHBVプラスミドDNAを、等温増幅のテンプレートとして使用した」こと、「新規のプライマーまたは核酸構築物のテンプレート依存性伸長は、この新規のプライマーまたは核酸構築物の第2セグメントを含む配列に相補的である伸長部分配列において生成する」こと、「自己相補性領域は、テンプレートに結合しままであり得るか、または自己相補性構造を形成し得る。二次構造の形成は、テンプレートからの、伸長した新規のプライマーの第1セグメントの全てまたは一部の除去を提供し得る」こと、「別の初期プライマーが、テンプレートからの新規の第1伸長プライマーの除去の前に、テンプレート配列に結合することを可能にする。テンプレート上の第2プライマーの伸長は、テンプレートからの第1伸長プライマーの置換を導き得る」こと、「DNA混合物、および酵素混合物を63℃に調節した後、・・・サンプルを、2、4、および8時間後に63℃のブロックの外に取り出した」ことは、それぞれ、本件発明1における「標的核酸配列」、「標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなるプライマーであって、プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在しない場合には、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあるプライマー」、「鋳型核酸を用意する工程」、「前記プライマーを前記鋳型核酸にアニーリングさせ、プライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む相補核酸を合成する工程」、「工程(c)により合成された相補核酸の5'側に存在する配列(B')を同相補核酸上に存在する配列(Bc)にハイブリダイズさせ、これにより、鋳型核酸上の前記配列(A)の部分を一本鎖とする工程」、「工程(d)により一本鎖とされた鋳型核酸上の前記配列(A)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(c)により合成された相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程」、「工程(c)、工程(d)および工程(e)が等温で行われる」に相当する。 そこで、本件発明1と甲第1号証に記載された事項を対比すると、両者は、 「鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成する方法であって、 (a)標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなるプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (b)鋳型核酸を用意する工程、 (c)前記プライマーを前記鋳型核酸にアニーリングさせ、プライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む相補核酸を合成する工程、 (d)工程(c)により合成された相補核酸の5'側に存在する配列(B')を同相補核酸上に存在する配列(Bc)にハイブリダイズさせ、これにより、鋳型核酸上の前記配列(A)の部分を一本鎖とする工程、および (e)工程(d)により一本鎖とされた鋳型核酸上の前記配列(A)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(c)により合成された相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程、 を含んでなり、工程(d)、工程(e)および工程(f)が等温で行われる、方法。」である点で一致する。 そして、本件発明1に係るプライマーは、プライマーの配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるものであるのに対して、甲第1号証には、そのような特定が記載されていない点で相違する。 そして、-1.00≦(X-Y)/X≦0.75は、式を変形すると、0.25X≦Y≦2Xであり、Yが最小となるためには、Y=0.25Xとなる。また、30≦X+Y≦50は、式を変形すると、30-X≦Y≦50-Xであり、Yが最小となるためには、Y=30-Xとなる。Y=0.25X及びY=30-Xの2式の交点は、X=24、Y=6であって、10≦X≦24においては、0.25X≦30-Xであるから、30-X≦Yを満たす必要があり、24≦X≦30においては、30-X≦0.25Xであるから、0.25X≦Yを満たす必要がある。したがって、10≦X≦30において、これら条件式を満たす最も小さい自然数Yは、X=24のときに取る値であるY=6である。 以上のことから、配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数Yとは少なくともY≧6であることが必要であって、Y=0、すなわち、アニールする配列(A)と配列(B)の間に一定の領域を置かないものは、本件発明1に含まれない。 (4)甲第1号証に記載のプライマーに甲第3号証を適用することの容易想到性について この点について、被請求人は、甲第1号証に記載された発明に対し、甲第3号証に記載された発明を適用することについて、当業者において阻害要因があること(上記第5.1.)及び、甲第3号証において、具体的に示されたプライマーは全て「介在配列あり」のものであり、塩基数XとYの範囲は示されているものの、塩基数XとYの比については記載されていないから、甲第1号証に甲第3号証を適用したとしても、本件発明1は構成されないことを主張する(上記第5.2.)。 本件判決では、本件訂正前の相違点について以下のように判示する(なお、以下の本件判決の抜粋中、「引用例1」、「引用例3」とは、それぞれ、本審決にいう「甲第1号証」、「甲第3号証」のことである。)。 「そこで、引用発明3に開示された上記構成を、引用発明1に適用することが容易であるか否かを検討する。 (1)引用発明3に開示された核酸の増幅方法は、引用例3の記載(請求項1、第7欄32行?第9欄32行、図5及び図6)によれば、核酸の増幅反応において、鋳型の核酸にアニールし、プライマー伸長反応をすると自己アニールによってループを形成するようなプライマー(オリゴヌクレオチド)を使用する方法と認められる。 また、引用例3には、次の記載がある。 「本発明のオリゴヌクレオチドの構造を決定する特定の塩基配列を持つ核酸とは、本発明のオリゴヌクレオチドをプライマーとして利用するときに、その鋳型となる核酸を意味する。本発明の合成方法に基づいて核酸の検出を行う場合には、特定の塩基配列を持つ核酸とは、検出対象、あるいは検出対象から誘導された核酸である。特定の塩基配列を持つ核酸は、少なくともその一部の塩基配列が明らかとなっている、あるいは推測が可能な状態にある核酸を意味する。塩基配列を明らかにすべき部分とは、前記領域X2cおよびその5’側に位置する領域X1cである。この2つの領域は、連続する場合、そして離れて存在する場合とを想定することができる。両者の相対的な位置関係により、生成物である核酸が自己アニールしたときに形成されるループ部分の状態が決定される。また、生成物である核酸が分子間のアニールではなく自己アニールを優先的に行うためには、両者の距離が不必要に離れないほうが望ましい。したがって、両者の位置関係は、通常0-500塩基分の距離を介して連続するようにするのが望ましい。ただし、後に述べる自己アニールによるループの形成において、両者があまりにも接近している場合には望ましい状態のループの形成を行うには不利となるケースも予想される。ループにおいては、新たなオリゴヌクレオチドのアニールと、それを合成起点とする鎖置換を伴う相補鎖合成反応がスムーズに開始できる構造が求められる。したがってより望ましくは、領域X2cおよびその5’側に位置する領域X1cとの距離が、0?100塩基、さらに望ましくは10?70塩基となるように設計する。」(第13欄6行?33行) これによれば、同一のプライマー上にある特定の塩基配列を持つ領域と相補的な塩基配列を持つ領域とが、自己アニールを優先的に行うためには、両者の距離が不必要に離れない方が望ましく、また、両者があまりにも接近している場合には望ましいループの形成を行うのが不利になるという技術的知見に基づき、プライマーの領域Yの塩基を10?70とすることによって、新たなプライマーのアニールと、それを合成起点とする鎖置換を伴う相補鎖合成反応が円滑に開始できることが開示されている。すなわち、プライマーの領域Yに着目し、この塩基を10?70とすると、効率的に核酸を合成できることが開示されており、引用例3の実施例に具体的に記載されるY=16やY=23のプライマーは、上記のような効率的な核酸の合成ができるプライマーとして開示されているといえる。 一方、引用例1に記載された核酸の増幅方法も、鋳型の核酸にアニールし、プライマー伸長反応をすると自己アニールによってループを形成するようなプライマーを使用する方法であり、引用例1の実施例において使用されているプライマーは、特定の配列を有するものであって、配列に含まれる塩基数の観点から見ると、X=20、Y=0のものである。 そうすると、引用発明1及び引用発明3は、いずれもループを形成するプライマーを使用する核酸の増幅方法であって、核酸の増幅方法において効率的な反応を行うことは、当業者にとって自明の技術課題であるから、より効率的な反応を行うことを目的として、引用発明1に開示されたプライマーの構成である、X=20、Y=0のものに替えて、引用発明3に開示された効率的な反応が可能なプライマーの要件、すなわち、「10≦X≦50」、「10≦Y≦70」であるプライマーやY=16(このときX=23、Y’=2)、Y=23(このときX=19、Y’=2)という要件を満足するプライマーの構成を採用することは、当業者が容易になし得ることである。」(第18頁9行?第20頁7行) 上記判示のとおり、甲第1号証に開示されたプライマーの構成である、X=20、Y=0のものに替えて、甲第3号証に開示された、Y=16(このときX=23、Y’=2)、Y=23(このときX=19、Y’=2)という要件を満足するプライマーの構成を採用することは、当業者が容易になし得ることであるところ、甲第3号証には、「本発明によるオリゴヌクレオチドを構成する領域X2およびX1cは、通常は重複することなく連続して配置される。」(上記記載事項セ)、すなわち、Y’を0とすることが記載されていることを考慮すれば、甲第3号証の実施例に具体的に記載されたプライマーにおいて、Y’を0と設定することは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。 そして、Y’=0として算定を行うと、Y=16、X=23のとき、X+Y=39、(X-Y)/X=約0.30であり、Y=23、X=19のとき、X+Y=42、(X-Y)/X=約-0.21であるから、甲第3号証の実施例に具体的に記載されたプライマーにおいて、Y’=0としたものは、本件発明1において特定される数値や数式を満足するものである。 よって、甲第1号証に開示されたプライマーの構成である、X=20、Y=0のものに替えて、甲第3号証に具体的に記載されたプライマーにおいて、Y’=0としたものを採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。 (5)本件発明1の効果について 被請求人は、本件発明は、アウタープライマーが無くても、特異的かつ効率的な核酸増幅が可能であるのに対し、甲第1号証では、アウタープライマー無しの増幅反応が記載されているものの、増幅効率が悪く、また、甲第3号証の増幅反応では、全てアウタープライマーを使用しているから、本件発明は、甲第1号証及び甲第3号証に対し、優れた効果を奏するものであることを主張する(上記第5.3.)。 本件判決では、以下のように判示する。 「確かに、引用例3の図5に開示される方法は、相補鎖の置換をアウタープライマーを用いて行うものであるが、同引用例の図2の(7)には、同引用例に記載された要件を満足するプライマーを使用することによって、ループに新しいプライマーがアニールする反応が効率的に起こることが開示されており、当該プライマーと配列が異なるアウタープライマーがこの反応に関係するものではない。すなわち、引用発明3に開示された核酸の増幅方法では、ループにプライマーがアニールする段階ではアウタープライマーの使用を必須の構成とするものではない。 一方、引用発明1に開示された核酸の増幅反応においても、図2の(4)(当審注:(4)は丸付き数字。)に示されるように、ループにプライマーがアニールする反応段階があり、当業者であれば、引用発明1の核酸の増幅方法では、この反応段階を経て核酸が増幅されていくものと理解できるから、当該反応段階が効率化されれば、引用発明1の核酸増幅反応全体としても、反応が効率化されると考えるといえる。」(第21頁7行?18行)」 甲第1号証に記載された核酸の増幅反応も、本件発明1と同様、アウタープライマーを使用しないものであるし、また、上記判示のように、甲第1号証に記載された核酸の増幅反応において、甲第3号証に開示されたプライマーを使用すれば、ループにプライマーがアニールする反応段階自体、あるいは、当該反応段階を含む増幅反応全体が効率化されることは、当業者が予測し得ることである。そして、プライマーを用いたこの増幅反応は特異的に核酸を合成するものであるといえる。 よって、本件発明1の奏する効果が、従来技術からは予測できない顕著なものであるということはできない。 (6)小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の方法において、「工程(e)により得られた二本鎖の核酸を工程(d)で繰り返して使用する」という限定を加えるものである。 しかし、甲第1号証には、連続するプロセスにおいて、新規の第2伸長プライマーにおける二次構造の形成は、新規の第3プライマーの結合および続く伸長を提供できること、すなわち、合成反応により得られた核酸を繰り返し次の反応の鋳型として使用することが記載されているから(上記記載事項エ)、この点において、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明と相違するということはできない。 したがって、本件発明2は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 5.本件発明3について 本件発明3は、本件発明1において、「鎖長が15?100ヌクレオチドであるプライマーを使用」するという限定を加えるものである。 しかし、上記3.(2)で述べたように、甲第1号証には、プライマーの鎖長が41や44である実施例が記載されているから、この点において、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明と相違するということはできない。 また、甲第1号証に記載された発明に甲第3号証において、Y’=0としたプライマーを採用した場合でも、甲第3号証の実施例に具体的に記載されたプライマーにおいて、Y’=0としたプライマーの鎖長X+Yは、42及び39であるから、本件発明3において限定した事項を満たしているものである。 したがって、本件発明3は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 6.本件発明4について 本件発明4は、本件発明1において、「鎖置換能を有するDNAポリメラーゼが使用される」という限定を加えるものである。 しかし、甲第1号証には、Bstポリメラーゼを使用することが記載されており(上記記載事項ク)、Bstポリメラーゼは、鎖置換能を有するDNAポリメラーゼであるから(要すれば、例えば、特開2002-233367号公報の【0034】参照)、この点において、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明と相違するということはできない。 したがって、本件発明4は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 7.本件発明5について 本件発明5は、本件発明1において、「鋳型核酸がRNAである場合に、逆転写酵素を用いてcDNAを合成する工程をさらに含んでなる」という限定を加えるものである。 しかし、甲第1号証には、開始基質としてRNAを用いて、逆転写酵素を作用させて、本発明を実行することが記載されているから(上記記載事項ケ)、この点において、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明と相違するということはできない。 したがって、本件発明5は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 8.本件発明6及び7について 本件発明6は、本件発明1において、「工程(c)、工程(d)および工程(e)が融解温度調整剤の存在下で行われる」という限定を加えるものであり、本件発明7は、本件発明6において、「融解温度調整剤が、ジメチルスルホキシド、ベタイン、ホルムアミドもしくはグリセロール、またはこれらの混合物である」という限定を加えるものである。 しかし、甲第1号証には、ホルムアミド又はDMSOすなわち、ジメチルスルホキシドのような化学試薬を反応混合物中に含むことができることが記載されている(上記記載事項コ)。 そして、核酸の合成における融解温度調整剤として、核酸増幅反応混合物中にホルムアミド、ジメチルスルホキシドを添加することは、技術常識である(要すれば、例えば、特開2002-233367号公報の【0029】参照)。 よって、この点において、本件発明6又は7は、甲第1号証に記載された発明と相違するということはできない。 したがって、本件発明6及び7は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 9.本件発明8について 本件発明8は、本件発明1において、「鋳型核酸中の標的核酸配列が非天然ヌクレオチドを含んでなるものである」という限定を加えるものである。 しかし、甲第1号証には、相補物に対するプライマー伸長産物の熱力学安定性を減少させるために、第1セグメントに、改変ヌクレオチド又はヌクレオチドアナログを含ませることができることが記載されており、改変ヌクレオチド又はヌクレオチドアナログの具体例として、ヌクレオチドにカルボン酸のような負に荷電した化学基を含ませることが記載されている(上記記載事項サ)。 甲第1号証に記載されたカルボン酸のような負に荷電した化学基を含ませた改変ヌクレオチド又はヌクレオチドアナログは、本件発明8の「非天然ヌクレオチド」に相当し、本件発明8における限定は、この点において、甲第1号証に記載された発明と相違するということはできない。 したがって、本件発明8は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 10.本件発明9について (1)本件発明9 本件発明9は、「第一のプライマー」及び「第二のプライマー」により「二本鎖核酸からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅する方法」に係る発明であって、第一のプライマーは、二本鎖鋳型核酸の第一鎖に対するものであって、本件発明1において特定されたプライマーと同一のものであり、第二のプライマーは、二本鎖鋳型核酸の第二鎖に対するものであって、そのプライマーの配列(Cc’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における配列(C)と配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、XとYが、第一のプライマーと同1条件を満たすものである。 (2)甲第1号証に記載されたFCおよびRCプライマーについて 上記3.(1)にて述べたとおり、甲第1号証に記載されたRCプライマーの3’末端部分の「AGGTTTTGCATGGTCCCGTA」(5’側から数えて31-50位)は、標的となるHBV核酸配列の3'末端部分の配列「TACGGGACCATGCAAAACCT」(A)にハイブリダイズする配列(Ac')に相当し、RCプライマーの5’末端部分の「TCCTCTAATTCCAGGATCAACAACAACCAG」(5’側から数えて1-30位)は、標的となるHBV核酸配列において前記配列「TACGGGACCATGCAAAACCT」(HBV核酸の505-524位)(A)よりも5'側に存在する配列「TCCTCTAATT CCAGGATCAA CAACAACCAG」(HBV核酸の475-504位)(B)の相補配列「CTGGTTGTTGTTGATCCTGGAATTAGAGGA」(Bc)にハイブリダイズする配列「TCCTCTAATTCCAGGATCAACAACAACCAG」(B')に相当し、当該「TCCTCTAATTCCAGGATCAACAACAACCAG」(B')は5’側から数えて1-30位であって、5’側から数えて31-50位である「AGGTTTTGCATGGTCCCGTA」(Ac')よりも5'側に含んでなるものである。 そして、RCプライマーの配列(Ac')の塩基数Xは20であり、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域は存在しないから、その塩基数Yは0であって、(X-Y)/Xは1である。 また、甲第1号証に記載されたFCプライマーの3’末端部分の「GGATGTGTCTGCGGCGTTT」(5’側から数えて31-49位)は、標的となるHBV核酸配列の相補配列の3'末端部分の配列「AAACGCCGCAGACACATCC」(C)にハイブリダイズする配列(Cc')に相当し、FCプライマーの5’末端部分の「CATAGCAGCAGGATGAAGAGGAATATGATA」(5’側から数えて1-30位)は、標的となるHBV核酸配列の相補配列において前記配列「AAACGCCGCAGACACATCC」(HBV核酸の375-393位)(C)よりも相補配列として5'側に存在する配列「CATAGCAGCAGGATGAAGAGGAATATGATA」(HBV核酸の394-423位)(D)の相補配列「TATCATATTCCTCTTCATCCTGCTGCTATG」(Dc)にハイブリダイズする配列「CATAGCAGCAGGATGAAGAGGAATATGATA」(D')に相当し、当該「CATAGCAGCAGGATGAAGAGGAATATGATAG」(D')は5’側から数えて1-30位であって、5’側から数えて31-49位である「GGATGTGTCTGCGGCGTTT」(Cc')よりも5'側に含んでなるものである。 そして、FCプライマーの配列(Cc')の塩基数Xは19であり、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域は存在しないから、その塩基数Yは0であって、(X-Y)/Xは1、X+Yは19である。 (3)本件発明9と甲第1号証との対比 甲第1号証に記載された「HBVプラスミドDNA」、「RCプライマー」、「FCプライマー」、「Eco R1であらかじめ消化されたHBVプラスミドDNAを、等温増幅のテンプレートとして使用した」こと、「非直線的増幅産物は、標的核酸の異なる鎖に相補的な2つの新規のプライマーの使用によって、連続する一連の以下の工程によって、均衡または限定サイクル条件下で合成され得る。新規のプライマー(A)は、標的鎖に結合し、そして新規の単一プライマーでの直線的増幅について以前に記載されたのと同様の一連の伸長、二次構造形成、プライマー結合部位の再生、第2結合、第2伸長、伸長プライマーのテンプレートからの分離が存在する。新規の伸長プライマーは、他の新規のプライマーの結合および伸長と置き換えられるので、これらの1本鎖産物は、新規のプライマー(B)と結合し得、そして伸長させて完全な2本鎖アンプリコンを作製することを可能にする。」こと、及び、「DNA混合物、および酵素混合物を63℃に調節した後、・・・サンプルを、2、4、および8時間後に63℃のブロックの外に取り出した」ことは、それぞれ、本件発明9における「二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列」、「二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなる第一のプライマーであって、プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあるプライマー」、「二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc')を3'末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(C)よりも5'側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D')を前記配列(Cc')の5'側に含んでなる第二のプライマーであって、プライマー中において前記配列(Cc')と前記配列(D')との間に介在配列せず、前記配列(Cc')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあるプライマー」、「(c)第一の鋳型核酸および第二の鋳型核酸からなる二本鎖鋳型核酸を用意する工程」、「(d)前記第一および第二のプライマーをそれぞれ前記第一および第二の鋳型核酸にアニーリングさせ、それぞれプライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む第一および第二の相補核酸を合成する工程、(e)工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸の5'側に存在する配列(B')および配列(D')を、同相補核酸上に存在する配列(Bc)および配列(Dc)にそれぞれハイブリダイズさせ、これにより、第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分を一本鎖とする工程、(f)工程(e)により一本鎖とされた第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程」、及び、「工程(d)、工程(e)および工程(f)が等温で行われる」に相当する。 そこで、本件発明9と甲第1号証に記載された事項を対比すると、両者は、 「二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅する方法であって、 (a)二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5'側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B')を前記配列(Ac')の5'側に含んでなる第一のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac')と前記配列(B')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (b)二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3'末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc')を3'末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5'側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D')を前記配列(Cc')の5'側に含んでなる第二のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Cc')と前記配列(D')との間に介在配列が存在せず、前記配列(Cc')の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (c)第一の鋳型核酸および第二の鋳型核酸からなる二本鎖鋳型核酸を用意する工程、 (d)前記第一および第二のプライマーをそれぞれ前記第一および第二の鋳型核酸にアニーリングさせ、それぞれプライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む第一および第二の相補核酸を合成する工程、 (e)工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸の5'側に存在する配列(B')および配列(D')を、同相補核酸上に存在する配列(Bc)および配列(Dc)にそれぞれハイブリダイズさせ、これにより、第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分を一本鎖とする工程、ならびに (f)工程(e)により一本鎖とされた第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程、 を含んでなり、工程(d)、工程(e)および工程(f)が等温で行われる、方法。」である点で一致する。 そして、本件発明9に係る「第一のプライマー」及び「第二のプライマー」は、プライマーの配列(Ac')又は(Cc’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域又は、前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるものであるのに対して、甲第1号証には、それに関して特定していない点で相違する。 しかしながら、この点について、上記3.(5)で述べたとおり、甲第1号証に記載された発明において、プライマーとして、甲第3号証に具体的に記載されたプライマーにおいて、Y’=0としたものを採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。 そして、本件発明9の奏する効果が、従来技術からは予測できない顕著なものであるということはできない。 したがって、本件発明9は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 11.本件発明10及び11について 本件発明10は、本件発明9において、「工程(f)により得られた二本鎖の核酸を工程(e)で繰り返して使用する」という限定を加えるものであり、本件発明11は、本件発明9において、「工程(f)により一本鎖の核酸として得られた第一および第二の相補核酸を、工程(d)においてそれぞれ第二および第一の鋳型核酸として繰り返して使用する」という限定を加えるものである。 しかし、甲第1号証には、連続するプロセスにおいて、新規の第2伸長プライマーにおける二次構造の形成は、新規の第3プライマーの結合および続く伸長を提供できること、すなわち、合成反応により得られた核酸を繰り返し次の反応の鋳型として使用することが記載されているから(上記記載事項エ)、この点において、本件発明10は、甲第1号証に記載された発明と相違するということはできない。 したがって、本件発明10及び11は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 12.本件発明12について 本件発明12は、本件発明9において、「鎖長が15?100ヌクレオチドであるプライマーを使用」するという限定を加えるものである。 しかし、上記3.(2)で述べたように、甲第1号証には、プライマーの鎖長が41や44である実施例が記載されているから、この点において、本件発明12は、甲第1号証に記載された発明と相違するということはできない。 また、甲第1号証に記載された発明に甲第3号証において、Y’=0としたプライマーを採用した場合の鎖長についても、甲第3号証の実施例に具体的に記載されたプライマーにおいて、Y’=0としたプライマーの鎖長X+Yは、42及び39であるから、本件発明3において限定した事項を満たしているものである。 したがって、本件発明12は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 13.本件発明13について 本件発明13は、本件発明9において、「鎖置換能を有するDNAポリメラーゼが使用される」という限定を加えるものである。 しかし、甲第1号証には、Bstポリメラーゼを使用することが記載されており(上記記載事項ク)、Bstポリメラーゼは、鎖置換能を有するDNAポリメラーゼであるから(要すれば、例えば、特開2002-233367号公報の【0034】参照)、この点において、本件発明13は、甲第1号証に記載された発明と相違するということはできない。 したがって、本件発明13は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 14.本件発明14について 本件発明14は、本件発明9において、「鋳型核酸がRNAである場合に、逆転写酵素を用いてcDNAを合成する工程をさらに含んでなる」という限定を加えるものである。 しかし、甲第1号証には、開始基質としてRNAを用いて、逆転写酵素を作用させて、本発明を実行することが記載されているから(上記記載事項ケ)、この点において、本件発明14は、甲第1号証に記載された発明と相違するということはできない。 したがって、本件発明14は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 15.本件発明15及び16について 本件発明15は、本件発明9において、「工程(d)、工程(e)および工程(f)が融解温度調整剤の存在下で行われる」という限定を加えるものであり、本件発明16は、本件発明15において、「融解温度調整剤が、ジメチルスルホキシド、ベタイン、ホルムアミドもしくはグリセロール、またはこれらの混合物である」という限定を加えるものである。 しかし、甲第1号証には、ホルムアミド又はDMSOすなわち、ジメチルスルホキシドのような化学試薬を反応混合物中に含むことができることが記載されている。 そして、核酸の合成における融解温度調整剤として、核酸増幅反応混合物中にホルムアミド、ジメチルスルホキシドを添加することは、技術常識である(要すれば、例えば、特開2002-233367号公報の【0029】参照)。 よって、この点において、本件発明15又は16は、甲第1号証に記載された発明と相違するということはできない。 したがって、本件発明15及び16は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 16.本件発明17について 本件発明17は、本件発明9において、「鋳型核酸中の標的核酸配列が非天然ヌクレオチドを含んでなるものである」という限定を加えるものである。 しかし、甲第1号証には、相補物に対するプライマー伸長産物の熱力学安定性を減少させるために、第1セグメントに、改変ヌクレオチド又はヌクレオチドアナログを含ませることができることが記載されており、改変ヌクレオチド又はヌクレオチドアナログの具体例として、ヌクレオチドにカルボン酸のような負に荷電した化学基を含ませることが記載されている(上記記載事項サ)。 甲第1号証に記載されたカルボン酸のような負に荷電した化学基を含ませた改変ヌクレオチド又はヌクレオチドアナログは、本件発明8の「非天然ヌクレオチド」に相当し、本件発明17における限定は、この点において、甲第1号証に記載された発明と相違するということはできない。 したがって、本件発明17は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 17.本件発明18について 本件発明18は、「請求項1に記載の方法により鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成するためのプライマー」に係る発明であって、当該プライマーは、本件発明1において特定された構成を有するものであって、さらに、本件発明3における限定と同様に、「鎖長が15?100ヌクレオチド」であることを特定したものである。 本件発明3のプライマーを使用した核酸を合成する方法は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであることは、上記3.及び5.で述べたとおりであるから、当該方法において使用するプライマーも同様の理由により、当業者が容易に発明することができたものである。 したがって、本件発明18は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 18.本件発明19について 本件発明19は、「 請求項18に記載のプライマーを含んでなる、鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成するためのキット」に係る発明である。 そして、甲第1号証には、甲第1号証に記載された方法における使用のためのキットが記載されていることを考慮すれば(上記記載事項シ)、本件発明18のプライマーを含むキットを作製することは、当業者が容易に想到し得ることである。 したがって、本件発明19は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 19.本件発明20について 本件発明20は、第一のプライマー及び第二のプライマーを含んでなる「請求項9に記載の方法により二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅するためのプライマーセット」に係る発明であって、「第一のプライマー」及び「第二のプライマー」は、それぞれ、本件発明9に特定された「第一のプライマー」及び「第二のプライマー」と同一である。 本件発明9の「第一のプライマー」及び「第二のプライマー」を使用した二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅する方法は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであることは、上記10.で述べたとおりであるから、当該方法において使用する「第一のプライマー」及び「第二のプライマー」のセットも同様の理由により、当業者が容易に発明することができたものである。 したがって、本件発明20は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 20.本件発明21について 本件発明21は、「請求項20に記載のプライマーセットを含んでなる、二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅するためのキット」に係る発明である。 そして、甲第1号証には、甲第1号証に記載された方法における使用のためのキットが記載されていることを考慮すれば(上記記載事項シ)、本件発明20のプライマーセットを含むキットを作製することは、当業者が容易に想到し得ることである。 したがって、本件発明21は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 21.小括 以上のとおりであるから、本件発明1ないし21は、甲第1号証及び第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第8.むすび 以上のとおり、本件発明1ないし21に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、その他の無効理由について検討するまでもなく、無効にすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 核酸の増幅法 【発明の詳細な説明】 [発明の背景] 発明の分野 本発明は、遺伝子工学分野において有用な核酸配列の合成法および増幅法に関するものであり、より詳細には、鎖置換反応を利用した核酸配列の合成法および増幅法に関するものである。 【背景技術】 遺伝子工学分野においては、遺伝的な特徴を直接的に分析しうる方法として、核酸配列の相補性に基づく分析が知られている。このような分析では、試料中に存在する目的遺伝子量が少ない場合には、一般にその検出が容易ではないため、目的遺伝子そのものを予め増幅することが必要となる。 目的遺伝子の増幅(核酸増幅)は、主に、DNAポリメラーゼを利用した酵素的方法により行われる。このような酵素的方法の主要なものとしては、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法;米国特許第4683195号明細書、米国特許第4683202号明細書および米国特許第4800159号明細書)、さらには、PCR法と逆転写酵素反応を組合わせた逆転写PCR法(RT-PCR法;Trends in Biotechnology 10,pp146-152,1992)がある。これらの方法は、鋳型となる二本鎖核酸の一本鎖核酸への解離(変性)、一本鎖核酸へのプライマーのアニーリング、およびプライマーからの相補鎖合成(伸長)の3つの段階からなる反応を繰り返すことにより、DNAまたはRNAからの目的遺伝子の増幅を可能とするものである。これらの方法では、反応溶液を上記3段階のそれぞれに適した温度に調節する計3工程の繰り返しが必要とされる。 上記の核酸増幅法において工程数を2工程とする改良法としては、シャトルPCR法(「PCR法最前線」、蛋白質 核酸 酵素 別冊、共立出版、第41巻、第5号、425頁?428頁(1996))が知られている。シャトルPCR法では、PCR法における3段階の反応のうち、プライマーのアニーリングおよび伸長の2段階が同一温度で行われるため、計2工程の反応により目的遺伝子を増幅することが可能となる。さらに、欧州特許出願公開第0320308号明細書には、リガーゼ連鎖反応法(LCR法)が開示されており、該方法では、耐熱性のDNAリガーゼを用いて2工程の温度サイクリング反応(加熱と冷却の繰り返し反応)を行うことにより既知の遺伝子配列が増幅される。 以上に記載した方法においては、広い温度範囲で、かつ、厳密な温度制御を経時的に行なうことのできる高価なサーマルサイクラーを使用することが必要となる。また、該反応は、2種類?3種類の温度条件で行なうために、各反応温度に調整するための時間が必要であり、サイクル数が増えれば増えるほど、それに要する時間は増大する。 上記問題点を解決すべく、等温状態で実施可能な核酸増幅法が開発されている。このような方法としては、例えば、特公平7-114718号公報に記載の鎖置換型増幅(SDA;strand displacement amplification)法、自立複製(3SR;self-sustainedsequence replication)法、日本国特許第2650159号公報に記載の核酸配列増幅(NASBA;nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(transcription-mediated amplification)法、日本国特許第2710159号公報に記載のQベータレプリカーゼ法、米国特許第5824517号明細書、国際公開第99/09211号パンフレットまたは国際公開第95/25180号パンフレットに記載の種々の改良SDA法、国際公開第00/28082号パンフレットに記載のランプ法(Loop-Mediated Isothermal Amplification)、国際公開第02/16639号パンフレットに記載のアイキャン法(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)等が挙げられる。これらの等温核酸増幅法に関与する全段階の反応は一定の温度に保たれた反応混合物中で同時に進行する。 SDA法では、最終的にDNAが増幅される系において、DNAポリメラーゼと制限エンドヌクレアーゼが介する二本鎖の置換により、試料中の目的核酸(およびその相補鎖)の増幅が可能となる。該方法では、4種類のプライマーが必要とされ、その内の2種類は、制限エンドヌクレアーゼの認識部位を含むように設計する必要がある。また、該方法では、核酸合成のための基質として、修飾されたデオキシヌクレオチド3リン酸、例えば3リン酸部分のα位のリン酸基の酸素原子が硫黄原子(S)に置換されたデオキシヌクレオチド3リン酸が必要とされる。従って、該方法は、高いランニングコストを必要とする。さらに該方法では、増幅された核酸断片中に修飾ヌクレオチド、たとえばαS置換デオキシヌクレオチドが含まれるため、例えば、増幅断片を制限酵素断片長多型(RFLP;restriction enzyme fragment length polymorphism)解析に供しようとする場合に、該増幅断片が制限酵素で切断できないことがあり、よって、そのような解析を実施できない場合がある。 米国特許第5824517号明細書に記載の改良SDA法は、RNAとDNAから構成され、3’末端側がDNAであるキメラプライマーを必要とする。そのようなRNAとDNAから構成されるキメラプライマーはその合成にかかる費用が高く、また、RNAを含むプライマーはその取り扱いに専門的な知識を必要とする。また、国際公開第99/09211号パンフレットに記載の改良SDA法は、5’突出末端を生じさせる制限酵素を必要とし、さらに、国際公開第95/25180号パンフレットに記載の改良SDA法は、少なくとも2組のプライマー対を必要とするため、これらの方法は高いランニングコストを必要とする。 アイキャン法では、RNAとDNAから構成され、3’末端側がRNAであるキメラプライマー、さらには、そのプライマーの3’末端のRNA部分を切断するRNaseHが必要とされるため、必要な試薬のための費用が高価となる。そのため、この方法は、特に大量のサンプルについての遺伝子検査等において、高いランニングコストを必要とする。 ランプ法では、4種類のプライマーが必要とされ、それらが6個所の領域を認識することにより、目的遺伝子の増幅が可能となる。すなわち、この方法では、まず、第一のプライマーが鋳型鎖にアニーリングして伸長反応が起こり、この第一のプライマーの構成に起因して伸長鎖の5’末端部分でステム-ループ構造が形成される。次に、第一のプライマーよりも上流側に設計された第二のプライマーによる鎖置換反応により第一のプライマーによる伸長鎖が鋳型鎖から分離する。これと同様の反応が二本鎖核酸のもう一方の鎖についても行なわれ、これらの反応が繰り返されることにより、標的核酸が増幅される。従って、ランプ法では増幅反応の作用機序が複雑となり、さらには必ず6個所の領域を選定しなければならないため、プライマーの設計が困難となる。また、4種類のプライマーのうち、2種類は比較的長鎖のプライマーが必要とされるため、プライマーの合成およびその精製に費用と時間がかかる。 従って、低いランニングコストで実施でき、かつ得られた核酸断片をさらに遺伝子工学的な処理に使用することを可能とする核酸増幅法が求められている。特に、一対のプライマーで速やかに増幅可能な等温核酸増幅法が望まれる。 [発明の概要] 本発明者らは、鎖置換反応を利用した核酸の増幅法において、該方法に使用される、プライマーの伸長によってステム-ループ形成可能なプライマーを特定の条件を満たすように設計することにより、1種のプライマーを用いて標的核酸配列と相補的な核酸配列を含む核酸を合成でき、さらには、2種のプライマーを用いて効率的に標的核酸を増幅できることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。 従って、本発明は、標的核酸配列を含む核酸を効率的に合成または増幅する方法、ならびにこれらの方法に用いられるプライマーまたはプライマーセットを提供することを目的とする。 そして、本発明による核酸合成法は、鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成する方法であって、 (a)標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac’)を3’末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B’)を前記配列(Ac’)の5’側に含んでなるプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac’)と前記配列(B’)との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (b)鋳型核酸を用意する工程、 (c)前記プライマーを前記鋳型核酸にアニーリングさせ、プライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む相補核酸を合成する工程、 (d)工程(c)により合成された相補核酸の5’側に存在する配列(B’)を同相補核酸上に存在する配列(Bc)にハイブリダイズさせ、これにより、鋳型核酸上の前記配列(A)の部分を一本鎖とする工程、および (e)工程(d)により一本鎖とされた鋳型核酸上の前記配列(A)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(c)により合成された相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程、 を含んでなり、工程(c)、工程(d)および工程(e)が等温で行われる、方法である。 また、本発明による核酸増幅法は、二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅する方法であって、 (a)二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac’)を3’末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B’)を前記配列(Ac’)の5’側に含んでなる第一のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac’)と前記配列(B’)との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (b)二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc’)を3’末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5’側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D’)を前記配列(Cc’)の5’側に含んでなる第二のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Cc’)と前記配列(D’)との間に介在配列が存在せず、前記配列(Cc’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (c)第一の鋳型核酸および第二の鋳型核酸からなる二本鎖鋳型核酸を用意する工程; (d)前記第一および第二のプライマーをそれぞれ前記第一および第二の鋳型核酸にアニーリングさせ、それぞれプライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む第一および第二の相補核酸を合成する工程、 (e)工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸の5’側に存在する配列(B’)および配列(D’)を、同相補核酸上に存在する配列(Bc)および配列(Dc)にそれぞれハイブリダイズさせ、これにより、第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分を一本鎖とする工程、ならびに (f)工程(e)により一本鎖とされた第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程、を含んでなり、工程(d)、工程(e)および工程(f)が等温で行われる、方法である。 さらに、本発明によるプライマーは、前記本発明の方法により鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成するためのプライマーであって、前記プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり、 標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac’)を3’末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B’)を前記配列(Ac’)の5’側に含んでなり、 プライマー中において前記配列(Ac’)と前記配列(B’)との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーである。 さらに、本発明によるプライマーセットは、前記本発明の方法により二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅するためのプライマーセットであって、 (a)二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac’)を3’末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B’)を前記配列(Ac’)の5’側に含んでなる第一のプライマーであって、プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり、 プライマー中において前記配列(Ac’)と前記配列(B’)との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にある、第一のプライマー、および (b)二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc’)を3’末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5’側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D’)を前記配列(Cc’)の5’側に含んでなる第二のプライマーであって、プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり、 プライマー中において前記配列(Cc’)と前記配列(D’)との間に介在配列が存在せず、前記配列(Cc’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にある、第二のプライマー、 を含んでなるプライマーセットである。 本発明によれば、DNAまたはRNAを鋳型として、1本のオリゴヌクレオチドプライマーを用いることにより、等温条件下で連続して標的DNAを合成することが可能となる。また、本発明によれば、DNAまたはRNAを鋳型として、1対のオリゴヌクレオチドプライマーを用いることにより、等温条件下で連続して標的DNAを増幅することが可能となる。従って、本発明による方法は、サーマルサイクラー等の特別な装置を必要とせず、また、温度設定に要する時間も必要ないため、短時間で増幅産物が得られるという優れた効果を奏する。さらに、本発明に従って増幅されたDNA断片は、制限酵素処理することができるため、制限酵素断片長多型や変異検出等の遺伝子検査の領域において利用可能である。 【図面の簡単な説明】 図1は、本発明による核酸増幅方法を模式的に示した図である。 図2は、ヒトSTS DYS237遺伝子の増幅に用いたプライマーの5’側の配列と3’側の配列の、該遺伝子上での位置を示す図である。 図3は、sY160遺伝子の増幅に用いたプライマーの5’側の配列と3’側の配列の、該遺伝子上での位置を示す図である。 図4は、M13mp18RT DNAの増幅に用いたプライマーの5’側の配列と3’側の配列の、該DNA上での位置を示す図である。 図5は、各種条件下におけるヒトSTS DYS237遺伝子の増幅の結果を示す図である。 図6は、各種条件下におけるヒトSTS DYS237遺伝子の増幅の結果を示す図である。 図7は、各種条件下におけるヒトSTS DYS237遺伝子の増幅の結果を示す図である。 図8は、各種条件下におけるsY160遺伝子の増幅の結果を示す図である。 図9は、各種条件下におけるM13mp18RT DNAの増幅の結果を示す図である。 図10は、各種条件下におけるM13mp18RT DNAの増幅の結果を示す図である。 図11は、ヒトSTS DYS237遺伝子からの増幅産物を制限酵素処理して得られる泳動パターンを示す図である。 図12は、sY160遺伝子からの増幅産物を制限酵素処理して得られる泳動パターンを示す図である。 図13は、M13mp18RT DNAからの増幅産物を制限酵素処理して得られる泳動パターンを示す図である。 図14は、各種融解温度調整剤の存在下におけるヒトSTS DYS237遺伝子の増幅の結果を示す図である。 [発明の具体的説明] 本発明による核酸合成の作用機序を、図1に模式的に示す。まず、鋳型となる核酸中の標的核酸配列を決定し、その標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)、および配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)を決定する。本発明によるプライマーは、配列(Ac’)を含んでなり、さらにその5’側に配列(B’)を含んでなる。配列(Ac’)は、配列(A)にハイブリダイズするものである。配列(B’)は、配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズするものである。このようなプライマーを鋳型核酸にアニーリングさせると、プライマー中の配列(Ac’)が標的核酸配列の配列(A)にハイブリダイズした状態となる(図1(a))。この状態でプライマー伸長反応が起こると、標的核酸配列の相補配列を含む核酸が合成される。そして、合成された核酸の5’末端側に存在する配列(B’)が、同核酸中に存在する配列(Bc)にハイブリダイズし、これにより、合成された核酸の5’末端部分においてステム-ループ構造が形成される。その結果、鋳型核酸上の配列(A)が一本鎖となり、この部分に先のプライマーと同一の配列を有する他のプライマーがハイブリダイズする(図1(b))。その後、鎖置換反応により、新たにハイブリダイズしたプライマーからの伸長反応が起こると同時に、先に合成された核酸が鋳型核酸から分離される(図1(c))。 上記の作用機序において、配列(B’)が配列(Bc)にハイブリダイズする現象は、同一鎖上に相補領域が存在することにより起こる。一般に、二本鎖核酸が一本鎖に解離するときは、その末端あるいはそれ以外の比較的不安定な部分から部分的な解離が始まる。上記プライマーによる伸長反応で生成した二本鎖核酸は、比較的高温では末端部分の塩基対は解離と結合の平衡状態にあり、全体としては二本鎖を保っている。そのような状態で末端の解離した部分に相補的な配列が同一鎖上に存在すると、準安定な状態としてステム-ループ構造を形成することができる。このステムループ構造は安定的には存在しないが、その構造の形成により剥き出しとなった相補鎖部分(鋳型核酸上の配列(A))に同一のプライマーが結合し、すぐさまポリメラーゼが伸長反応を行うことにより、先に合成した鎖が置換されて遊離すると同時に、新たな二本鎖核酸が生成する。 以上の反応を繰り返すことにより、鋳型核酸中の標的核酸配列に相補的な核酸を大量に合成することが可能となる。また、上記の鋳型核酸の相補鎖を鋳型として同様の核酸合成を行なうこともできる。従って、本発明によれば、二本鎖の鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅することも可能となる。 本発明による核酸合成法は、以下の工程を含んでなる: (a)標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac’)を3’末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B’)を前記配列(Ac’)の5’側に含んでなるプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac’)と前記配列(B’)との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程; (b)鋳型核酸を用意する工程; (c)前記プライマーを前記鋳型核酸にアニーリングさせ、プライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む相補核酸を合成する工程; (d)工程(c)により合成された相補核酸の5’側に存在する配列(B’)を同相補核酸上に存在する配列(Bc)にハイブリダイズさせ、これにより、鋳型核酸上の前記配列(A)の部分を一本鎖とする工程;および (e)工程(d)により一本鎖とされた鋳型核酸上の前記配列(A)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(c)により合成された相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程。 本発明において「ハイブリダイズする」とは、本発明によるプライマーの一部がストリンジェントな条件下で標的核酸にハイブリダイズし、標的核酸以外の核酸分子にはハイブリダイズしないことを意味する。ストリンジェントな条件は、本発明によるプライマーとその相補鎖との二重鎖の融解温度Tm(℃)およびハイブリダイゼーション溶液の塩濃度などに依存して決定することができ、例えば、J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis;Molecular Cloning 2nd edition,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)等を参照することができる。例えば、使用するプライマーの融解温度よりわずかに低い温度下でハイブリダイゼーションを行なうと、プライマーを標的核酸に特異的にハイブリダイズさせることができる。このようなプライマーは、市販のプライマー構築ソフト、例えば、Primer3(Whitehead Institute for Biomedical Research社製)などを用いて設計することができる。本発明の好ましい実施態様によれば、ある標的核酸にハイブリダイズするプライマーは、その標的核酸に相補的な核酸分子の全部または一部の配列を含んでなるものである。 上記工程(a)において用意される本発明によるプライマーは、工程(c)における鋳型核酸へのアニーリング、工程(d)における配列(B’)と配列(Bc)とのハイブリダイゼーション、および同一配列を有する他のプライマーがアニーリングしうる一本鎖の配列(A)の提供を可能とするように構成されている。以下、これらの工程を良好に行なうためのプライマーの構成について、さらに詳細に説明する。 上記工程(e)において新たなプライマーが効率よくアニーリングするためには、工程(c)により合成された相補核酸の工程(d)におけるステム-ループ構造形成により、鋳型核酸上の前記配列(A)の部分を一本鎖とする必要がある。そのためには、配列(Ac’)の塩基数Xと標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数Yとの差(X-Y)の、Xに対する割合(X-Y)/Xが重要となる。ただし、鋳型核酸上において配列(A)よりも5’側に存在する、プライマーのハイブリダイズとは関係無い部分まで一本鎖とする必要はない。また、上記工程(e)において新たなプライマーが効率よくアニーリングするためには、工程(c)により合成された相補核酸の工程(d)におけるステム-ループ構造形成を効率よく行なうことが必要となる。そして、効率の良いステム-ループ構造形成、すなわち、効率の良い配列(B’)と配列(Bc)とのハイブリダイゼーションには、前記配列(B’)と前記配列(Bc)との間の距離(X+Y)が重要となる。一般に、プライマー伸長反応のための最適温度は最高でも72℃付近であり、そのような低い温度では伸長鎖の長い領域にわたって解離することは困難である。従って、配列(B’)が配列(Bc)に効率よくハイブリダイズするためには、両配列の間の塩基数は少ないほうが好ましいと考えられる。一方で、配列(B’)が配列(Bc)にハイブリダイズして鋳型核酸上の前記配列(A)の部分を一本鎖とするためには、配列(B’)と配列(Bc)との間の塩基数は多い方が好ましいと考えられる。 以上のような観点から、プライマーを構成する配列(Ac’)と配列(B’)の間に介在配列が存在せず、本発明によるプライマーは、(X-Y)/Xが-1.00以上、好ましくは0.00以上、さらに好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.10以上となり、また、0.75以下、好ましくは0.50以下、さらに好ましくは0.25以下となるように設計される。さらに、(X+Y)は、30以上かつ50以下とされ、また、好ましくは48以下、さらに好ましくは42以下とされる。 本発明によるプライマーは、デオキシヌクレオチドおよび/またはリボヌクレオチドにより構成されており、与えられた条件下で必要な特異性を維持しながら標的核酸との塩基対結合を行うことができる程度の鎖長を有するものである。本発明によるプライマーの鎖長は、好ましくは15?100ヌクレオチド、より好ましくは30?60ヌクレオチドとする。また、本発明によるプライマーを構成する配列(Ac’)の長さは、10?30ヌクレオチド、配列(B’)の長さは、好ましくは5?50ヌクレオチド、より好ましくは10?30ヌクレオチドである。 本発明において、「リボヌクレオチド」(単に「N」ということもある)とは、リボヌクレオチド3リン酸をいい、例えば、ATP,UTP,CTP,GTP等がある。さらに、リボヌクレオチドにはこれらの誘導体が含まれ、例えば、α位のリン酸基の酸素原子を硫黄原子に置き換えたリボヌクレオチド(α-チオ-リボヌクレオチド)等がある。 また、本発明によるプライマーには、未修飾デオキシヌクレオチドおよび/または修飾デオキシヌクレオチドで構成されたオリゴヌクレオチドプライマー、および未修飾リボヌクレオチドおよび/または修飾リボヌクレオチドで構成されたオリゴヌクレオチドプライマー、未修飾デオキシヌクレオチドおよび/または修飾デオキシヌクレオチドおよび未修飾リボヌクレオチドおよび/または修飾リボヌクレオチドを含有するキメラオリゴヌクレオチドプライマー等も含まれる。 本発明によるプライマーは、オリゴヌクレオチドの合成に用いることのできる任意の方法、例えば、リン酸トリエステル法、H-ホスホネート法、チオホスホネート法等により合成できる。本発明によるプライマーは、例えば、ABI社(Applied Biosystem Inc.)のDNAシンセサイザー394型を用いてホスホアミダイト法により合成すれば、容易に取得することができる。 本発明による核酸合成方法において使用するDNAポリメラーゼは、鎖置換(strand displacement)活性(鎖置換能)を有するものであればよく、常温性、中温性、もしくは耐熱性のいずれのものも好適に使用できる。また、このDNAポリメラーゼは、天然体もしくは人工的に変異を加えた変異体のいずれであってもよい。さらに、このDNAポリメラーゼは、実質的に5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有しないものであることが好ましい。このようなDNAポリメラーゼとしては、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus、以下「B.st」という)、バチルス・カルドテナックス(Bacillus caldotenax、以下「B.ca」という)等の好熱性バチルス属細菌由来DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異体、大腸菌(E.coli)由来DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント等が挙げられる。本発明による核酸合成方法において使用するDNAポリメラーゼとしては、さらに、Vent DNAポリメラーゼ、Vent(Exo-)DNAポリメラーゼ、DeepVent DNAポリメラーゼ、DeepVent(Exo-)DNAポリメラーゼ、Φ29ファージDNAポリメラーゼ、MS-2ファージDNAポリメラーゼ、Z-Taq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Pfu turbo DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、9°Nm DNAポリメラーゼ、Therminater DNAポリメラーゼ等が挙げられる。 本発明による核酸合成方法において使用するその他の試薬としては、例えば、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等の触媒、dNTPミックス等の基質、トリス塩酸バッファー、トライシンバッファー、リン酸ナトリウムバッファー、リン酸カリウムバッファー等の緩衝液を使用することができる。さらに、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)やベタイン(N,N,N-trimethyl glycine)等の添加物、国際公開第99/54455号パンフレットに記載の酸性物質、陽イオン錯体等を使用してもよい。 本発明による核酸合成方法において鋳型となる核酸は、DNAまたはRNAのどちらでもよい。これらの核酸は、例えば、血液、組織、細胞、さらには動物、植物のような生体由来試料、または食品、土壌、排水等から分離された微生物由来試料から単離することができる。 鋳型核酸の単離は任意の方法で行うことができ、例えば、界面活性剤による溶解処理、音波処理、ガラスビーズを用いた振盪撹拌およびフレンチプレス等を用いる方法が挙げられる。また、内在性ヌクレアーゼが存在する場合には、単離された核酸を精製することが好ましい。核酸の精製は、例えば、フェノール抽出、クロマトグラフィー、イオン交換、ゲル電気泳動、密度に依存した遠心分離などにより実施することが可能である。 より具体的には、本発明による核酸合成方法における鋳型核酸としては、上記方法により単離したゲノムDNAやPCRフラグメントのような二本鎖核酸、全RNAもしくはmRNAから逆転写反応で調製されたcDNAのような一本鎖核酸のいずれも使用可能である。上記二本鎖核酸の場合は、変性工程(denaturing)を行なって一本鎖とすることにより、より最適に利用することができる。 上記の逆転写反応に用いられる酵素は、RNAを鋳型としたcDNA合成活性を有するものであれば特に限定されず、例えば、トリ骨髄芽球症ウイルス由来逆転写酵素(AMVRTase)、ラウス関連ウイルス2逆転写酵素(RAV-2 RTase)、モロニーネズミ白血病ウイルス由来逆転写酵素(MMLV RTase)等、種々の起源の逆転写酵素が挙げられる。このほか、逆転写活性を併せ持つDNAポリメラーゼを使用することも可能である。また、本発明の目的のためには、高温で逆転写活性を有する酵素が最適であり、例えばサーマス属細菌由来DNAポリメラーゼ(TthDNAポリメラーゼ等)、バチルス属細菌由来DNAポリメラーゼ等を使用できる。特に好ましい酵素を例示すれば、例えば、好熱性バチルス属細菌由来DNAポリメラーゼとして、B.st由来DNAポリメラーゼ(Bst DNAポリメラーゼ)、およびB.ca由来DNAポリメラーゼ(Bca DNAポリメラーゼ)、例えばBcaBEST DNAポリメラーゼ、Bca(exo-)DNAポリメラーゼ等が挙げられる。例えば、Bca DNAポリメラーゼは、反応にマンガンイオンを必要とせず、高温条件下で鋳型RNAの二次構造形成を抑制しながらcDNAを合成することが可能である。 さらに、本発明による核酸合成方法においては、逆転写活性を併せ持つDNAポリメラーゼ、例えば、BcaBEST DNAポリメラーゼ、Bca(exo-)DNAポリメラーゼ等を使うことにより、全RNAもしくはmRNAからの逆転写反応とcDNAを鋳型にしたDNAポリメラーゼ反応を1種類のポリメラーゼで行なうことが可能である。また、DNAポリメラーゼと、MMLV逆転写酵素などの逆転写酵素とを組み合わせて用いてもよい。 本発明による核酸合成方法では、鋳型核酸が二本鎖核酸の場合でも、これをそのまま反応に用いることができるが、必要に応じてそれらを変性して一本鎖にすることにより、鋳型核酸へのプライマーのアニーリングを効率よく行なうこともできる。温度を約95℃に上昇させることは、好ましい核酸変性法である。他の方法として、pHを上昇させることにより変性させることも可能であるが、この場合には、プライマーを標的核酸にハイブリダイズさせるためにpHを低下させる必要がある。 本発明の好ましい実施態様によれば、工程(e)により得られた二本鎖の核酸は工程(d)で繰り返して使用される。すなわち、工程(e)により得られた二本鎖の核酸は工程(c)により得られるものと同一の構造を有するため、そのまま工程(d)において利用される。これにより、鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を量産することができる。 本発明による核酸合成方法の特徴の一つは、等温で実施可能であることである。従って、本発明によれば、鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成する方法であって、鋳型核酸と本発明によるプライマーとを含んでなる核酸合成用溶液を用意する工程、およびこの核酸合成用溶液を等温でインキュベートする工程を含んでなる方法が提供される。ここで、「等温」とは、酵素およびプライマーが実質的に機能しうるような、ほぼ一定の温度条件下に保つことをいう。 本発明による核酸合成方法は、使用する酵素の活性を維持できる温度に保つことにより実施することができる。また、本発明による核酸合成方法において、プライマーが標的核酸にアニーリングするためには、例えば、反応温度を、そのプライマーの融解温度(Tm)付近の温度、もしくはそれ以下に設定することが好ましく、さらには、プライマーの融解温度(Tm)を考慮し、ストリンジェンシーのレベルを設定することが好ましい。従って、この温度は、好ましくは、約20℃?約75℃であり、さらに好ましくは、約35℃?約65℃とする。 本発明による核酸合成方法において、二本鎖からなる核酸を鋳型とし、その各鎖に対して設計した2種の本発明によるプライマーからなるプライマーセットを用いることにより、前記核酸中の標的核酸配列を増幅することができる。従って、本発明によれば、二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅する方法が提供され、この核酸増幅方法は以下の工程を含んでなる: (a)二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac’)を3’末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B’)を前記配列(Ac’)の5’側に含んでなる第一のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac’)と前記配列(B’)との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程; (b)二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc’)を3’末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5’側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D’)を前記配列(Cc’)の5’側に含んでなる第二のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Cc’)と前記配列(D’)との間に介在配列が存在せず、前記配列(Cc’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程; (c)第一の鋳型核酸および第二の鋳型核酸からなる二本鎖鋳型核酸を用意する工程; (d)前記第一および第二のプライマーをそれぞれ前記第一および第二の鋳型核酸にアニーリングさせ、それぞれプライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む第一および第二の相補核酸を合成する工程; (e)工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸の5’側に存在する配列(B’)および配列(D’)を、同相補核酸上に存在する配列(Bc)および配列(Dc)にそれぞれハイブリダイズさせ、これにより、第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分を一本鎖とする工程;ならびに (f)工程(e)により一本鎖とされた第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程。 なお、プライマーの設計、反応条件等の詳細は、本発明による核酸合成方法について上記した通りである。 本発明の好ましい実施態様によれば、本発明による核酸増幅方法において、工程(f)により得られた二本鎖の核酸は工程(e)で繰り返して使用される。すなわち、工程(f)により得られた二本鎖の核酸は工程(d)により得られるものと同一の構造を有するため、そのまま工程(e)において利用される。 他の好ましい実施態様によれば、本発明による核酸増幅方法において、工程(f)により一本鎖の核酸として得られた第一および第二の相補核酸は、工程(d)においてそれぞれ第二および第一の鋳型核酸として繰り返して使用される。すなわち、工程(f)により得られた第一の相補核酸は工程(d)における第二の鋳型核酸として利用され、工程(f)により得られた第二の相補核酸は工程(d)における第一の鋳型核酸として利用される。 本発明による核酸増幅方法は、本発明による核酸合成方法と同様に等温で実施可能である。従って、本発明によれば、二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅する方法であって、二本鎖鋳型核酸と本発明によるプライマーセットとを含んでなる核酸増幅用溶液を用意する工程、およびこの核酸増幅用溶液を等温でインキュベートする工程を含んでなる方法が提供される。ここで、「等温」とは、酵素およびプライマーが実質的に機能しうるような、ほぼ一定の温度条件下に保つことをいう。その温度条件の詳細については、本発明による核酸合成方法に関して上述したとおりである。 本発明による核酸増幅方法においては、逆転写酵素活性を持つDNAポリメラーゼ、例えば、BcaBEST DNAポリメラーゼを使用すると、RNAを鋳型とする場合においても、該RNAからcDNAを調製する工程を含む核酸増幅方法として最適に実施できる。また、RNAからcDNAを調製する工程を独立させて行い、その生成物を本発明による核酸増幅方法に使用してもよい。 本発明による核酸合成方法および核酸増幅方法において、核酸の合成効率または増幅効率を高めるために、融解温度調整剤を反応溶液中に添加することができる。核酸の融解温度(Tm)は、一般的に、核酸中の二本鎖形成部分の具体的なヌクレオチド配列によって決定される。反応溶液中に融解温度調整剤を添加することにより、この融解温度を変化させることができ、従って、一定の温度下では、核酸における二本鎖形成の強度を調整することが可能となる。一般的な融解温度調整剤は、融解温度を下げる効果を有する。このような融解温度調整剤を添加することにより、2本の核酸の間の二本鎖形成部分の融解温度を下げることができ、換言すれば、その二本鎖形成の強度を下げることが可能となる。従って、本発明による核酸合成方法および核酸増幅方法においてこのような融解温度調整剤を反応溶液中に添加すると、強固な二本鎖を形成するGCの豊富な核酸領域や複雑な二次構造を形成する領域において効率的に二本鎖部分を一本鎖とすることが可能となり、これにより、プライマーによる伸長反応が終わった後に次のプライマーが目的領域にハイブリダイズしやすくなるため、核酸の合成効率および増幅効率を上げることができる。本発明において用いられる融解温度調整剤およびその反応溶液中での濃度は、ハイブリダイゼーション条件に影響を与える他の反応条件、例えば塩濃度、反応温度等を考慮して、当業者により適切に選択される。従って、融解温度調整剤は、特に制限されるものではないが、好ましくはジメチルスルホキシド(DMSO)、ベタイン、ホルムアミドもしくはグリセロール、またはこれらの任意の組み合わせとされ、より好ましくはジメチルスルホキシド(DMSO)とされる。 さらに、本発明による核酸合成方法および核酸増幅方法において、酵素安定化剤を反応溶液中に添加することもできる。これにより、反応液中の酵素が安定化されるため、核酸の合成効率および増幅効率を高めることが可能となる。本発明において用いられる酵素安定化剤は、グリセロールなどの、当技術分野において知られているいかなるものであってもよく、特に制限されない。 さらに、本発明による核酸合成方法および核酸増幅方法において、DNAポリメラーゼ、逆転写酵素などの酵素の耐熱性を増強するための試薬を反応溶液中に添加することもできる。これにより、反応液中の酵素が安定化されるため、核酸の合成効率および増幅効率を高めることが可能となる。このような試薬は、トレハロースなどの、当技術分野において知られているいかなるものであってもよく、特に制限されない。 本発明による核酸合成方法および核酸増幅方法においては、酵素が失活するか、またはプライマーをはじめとする試薬のうちの一つが使い尽くされるかのいずれかまで合成反応または増幅反応が繰り返される。 本発明による核酸合成方法および核酸増幅方法においては、非天然ヌクレオチドを含む核酸を鋳型核酸とすることも可能である。本明細書において「非天然ヌクレオチド」とは、天然ヌクレオチドに含まれる塩基(アデニン、グアニン、シトシン、およびチミンもしくはウラシル)以外の塩基を含むヌクレオチドであって、核酸配列中に取り込まれうるものを意味し、例えば、キサントシン類、ジアミノピリミジン類、isoG,isoC(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92,6329-6333,1995)等が挙げられる。非天然ヌクレオチドを含む標的核酸の増幅には、一般に、耐熱性を持たない核酸増幅酵素が用いられる。一方で、本発明による核酸合成方法および核酸増幅方法は、例えば50℃前後の等温で行うことが可能であるため、従来のPCR法と比較して核酸増幅酵素(DNAポリメラーゼなど)が失活する可能性が低い。従って、本発明による核酸合成方法および核酸増幅方法は、耐熱性を持たない核酸増幅酵素が用いられる非天然ヌクレオチドを含む標的核酸の増幅にも有効である。非天然ヌクレオチドを含む核酸の増幅に用いられる酵素は、そのような標的核酸を増幅可能なものであればよく、特に限定されないが、特に取り込み効率の観点から、Y188L/E478Q変異型HIV I 逆転写酵素、AMV逆転写酵素、DNAポリメラーゼのクレノウ断片、9°N DNAポリメラーゼ、HotTub DNAポリメラーゼ等が好適である(Michael Sismour 1 et al.,Biochemistry 42,No.28,8598,2003/米国特許第6617106号明細書、Michael J.Lutz et al.,Bioorganic & Medical Chemistry letters 8,1149-1152,1998等を参照のこと)。さらに、核酸増幅酵素の耐熱性を向上させる物質、例えばトレハロースなど、を反応溶液に添加することもでき、これにより、より効率的に非天然ヌクレオチドを含む標的核酸の増幅を行うことができる。 本発明による核酸合成方法または核酸増幅方法を使用することにより、DNAチップに固定するための一本鎖核酸、塩基配列決定のための一本鎖DNAプローブ、または長鎖PCR法のためのメガプライマーを、簡便かつ迅速に作製することができる。例えば、本発明による核酸合成方法または核酸増幅方法を使用することにより、目的に応じて、センス配列のみ、あるいはアンチセンス配列のみを選択して増幅させることが可能である。従って、本発明による核酸合成方法または核酸増幅方法は、ある標的核酸のセンス配列またはアンチセンス配列の製造方法としても有用である。 本発明による核酸合成方法または核酸増幅方法によって得られた増幅産物の存在は、多くのあらゆる方法により検出が可能である。一つの方法は、一般的なゲル電気泳動による特定のサイズの増幅産物の検出である。この方法では、例えば、エチジウムブロマイドやサイバーグリーン等の蛍光物質により検出できる。他の方法としては、ビオチンのような標識を有する標識プローブを用い、これを増幅産物にハイブリダイズさせることにより検出することもできる。ビオチンは、蛍光標識されたアビジン、ペルオキシダーゼのような酵素に結合したアビジン等との結合により検出可能である。 また、本発明による核酸合成方法または核酸増幅方法によって得られた増幅産物は、免疫クロマトグラフなどを用いても検出が可能である。この方法では、肉眼で検出可能な標識を利用したクロマトグラフ媒体を用いることが考案されている(イムノクロマトグラフィー法)。上記増幅断片と標識プローブとをハイブリダイズさせ、該増幅断片のさらに異なる配列とハイブリダイズ可能な捕捉用プローブをクロマト媒体に固定しておけば、その固定した部分でトラップすることができ、クロマト媒体での検出が可能となる。その結果、肉眼的にシンプルな検出が可能となる。 さらに、本発明による核酸合成方法または核酸増幅方法において、ビーズに固定化したプライマーを用いることができ、これにより、核酸合成または核酸増幅によるビーズの凝集を確認することによって合成産物または増幅産物を検出することが可能となる。また、複数の標的核酸を合成または増幅の対象とする場合には、それぞれの標的核酸について設計したプライマーを相互に識別可能なビーズ(例えば、色、形状等が異なるビーズ)に固定化し、これらを含有する単一の反応溶液を用いて核酸合成反応または核酸増幅反応を行なうことができる。その場合には、各ビーズの凝集の有無を確認することにより、各標的核酸の存否を知ることができる。 さらに、本発明による核酸合成方法または核酸増幅方法において、アレイ(例えば、DNAチップ)に固定化したプライマーを用いることができ、これにより、核酸合成または核酸増幅によってアレイ上に生ずる核酸凝集物を確認することにより、合成産物または増幅産物を検出することが可能となる。また、複数の標的核酸を合成または増幅の対象とする場合には、それぞれの標的核酸について設計したプライマーをアレイ上の識別可能な位置に固定化し、該アレイを含有する反応溶液を用いて核酸合成反応または核酸増幅反応を行なうことができる。その場合には、アレイ上の対応する位置における核酸凝集物の有無を確認することにより、各標的核酸の存否を知ることができる。核酸凝集物の確認に代えて、インターカレーターを利用することもできる。 本発明による核酸増幅方法によって得られた増幅断片は通常の塩基により構成されるため、増幅後、増幅断片内部の制限酵素部位を用いて適当なベクターにサブクローニングすることも可能である。さらに、RFLPのような、制限酵素を用いた処理をすることも可能であり、遺伝子検査の分野においても広く利用することができる。また、本発明による核酸増幅方法によって得られた増幅断片は通常の塩基により構成されるため、増幅断片中にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を組込んでおけば、増幅断片から直接RNAを合成することが可能となり、このRNAは、RNAプローブとして使用することもできる。 さらに、本発明による核酸合成方法または核酸増幅方法においては、通常のdNTPの代わりに、ビオチンや蛍光物質で標識された塩基を使用することができ、これにより、ビオチンや蛍光物質で標識されたDNAプローブを調製することも可能である。 本発明による核酸合成方法または核酸増幅方法により調製された一本鎖核酸は、DNAチップ上に固定するDNA断片として使用できる。すなわち、本発明による核酸合成方法または核酸増幅方法は、DNAチップ作製において固定化するDNA鎖を調製する方法にも応用が可能である。また、あらかじめ、プライマーの5’末端をあらかじめDNAチップ上に固定しておき、そのチップ上で核酸合成または核酸増幅を行ない、DNAチップを作製することも可能である。また、その核酸合成または核酸増幅を行なう前にあらかじめ蛍光標識プローブを添加しておけば、DNAチップ上で核酸合成または核酸増幅を行ないながら、リアルタイムな検出も可能となる。 本発明による核酸合成方法または核酸増幅方法を実施するために、必要な試薬をまとめてキットとすることができる。従って、本発明によるキットは、本発明によるプライマーまたは本発明によるプライマーセットを含んでなる。また、本発明による核酸合成方法または核酸増幅方法は、本発明によるプライマーまたはプライマーセット以外のプライマーを必要としないという利点を有する。従って、本発明の好ましい実施態様によれば、本発明によるキットは、本発明によるプライマーまたは本発明によるプライマーセット以外のプライマー成分を含まないものとされる。本発明によるキットはさらに、上述の試薬類、反応容器、説明書等を含んでいてもよい。 【実施例】 以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。 例1 本例では、鋳型としてHuman DNA(Clontech社製)を使用してヒトSTS DYS237遺伝子の増幅を試みた。用いたプライマーは、以下に示す通りとした。これらのプライマーの合成は、エスペックオリゴサービス株式会社に依頼した。 実験に使用したプライマーの特徴を以下に記載した。また、テンプレートに対する各プライマー領域の位置関係は図2に示す通りとした。なお、下記の配列において、下線部は、センスプライマーおよびアンチセンスプライマーのそれぞれにおいて共通の3’末端領域を示す。 プライマーセット1(比較例):鋳型にアニーリングする配列(20mer)のみからなるプライマーの組み合わせ; プライマーセット2(比較例):各プライマーの3’端側にある配列(20mer:プライマーセット1と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、各プライマーの3’末端残基の1塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなプライマーの組み合わせ; プライマーセット3(比較例):各プライマーの3’端側にある配列(20mer:プライマーセット1と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、各プライマーの3’末端残基の6塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなプライマーの組み合わせ; プライマーセット4(実施例):各プライマーの3’端側にある配列(20mer:プライマーセット1と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、各プライマーの3’末端残基の11塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなプライマーの組み合わせ; プライマーセット5(実施例):各プライマーの3’端側にある配列(20mer:プライマーセット1と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、各プライマーの3’末端残基の16塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなプライマーの組み合わせ; プライマーセット6(実施例):各プライマーの3’端側にある配列(20mer:プライマーセット1と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(10mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、各プライマーの3’末端残基の21塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなプライマーの組み合わせ; プライマーセット7(実施例):各プライマーの3’端側にある配列(20mer:プライマーセット1と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、各プライマーの3’末端残基の21塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなプライマーの組み合わせ; プライマーセット8(実施例):各プライマーの3’端側にある配列(20mer:プライマーセット1と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(16mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、各プライマーの3’末端残基の21塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなプライマーの組み合わせ; プライマーセット9(実施例):各プライマーの3’端側にある配列(20mer:プライマーセット1と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(22mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、各プライマーの3’末端残基の21塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなプライマーの組み合わせ; プライマーセット10(実施例):各プライマーの3’端側にある配列(20mer:プライマーセット1と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(25mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、各プライマーの3’末端残基の21塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなプライマーの組み合わせ; プライマーセット11(実施例):各プライマーの3’端側にある配列(20mer:プライマーセット1と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(28mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、各プライマーの3’末端残基の21塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなプライマーの組み合わせ; 次の組成を有する反応液(25μL):Tris-HCl(20mM,pH88)、KCl(10mM)、(NH_(4))_(2)SO_(4)(10mM)、MgSO_(4)(2mM)、Triton X-100(0.1%)、dNTP(0.4mM)、それぞれ100pmolの上記のプライマー対および100ngの鋳型DNA、さらに8UのBst DNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BioLabs)を含有;を調製し、これを60℃で20、40、または60分間インキュベートした。 各反応液5μlについて、3% NuSieve GTG Agarose(BioWhittaker Molecular Applications(BMA)社製;タカラバイオ社より購入;「NuSieve」はBMA社の登録商標である)にて電気泳動を行った。結果は図5、図6、および図7に示すとおりである。これらの図における各レーンのサンプルは下記の表1?3に示す通りである。 各図のレーン5、9、13、17、および21ではテンプレートが添加されていないため、未反応のプライマーが染色されたもの以外のバンドは確認されなかった。 図5のレーン2および3ではテンプレートが添加されているため、未反応のプライマーと高分子サイズのテンプレートのバンドが確認された。しかし、反応時間が不十分であるため、増幅産物は確認されなかった。図5のレーン4からわかるように、テンプレートが添加された反応時間60分のサンプルについては増幅産物が得られたが、これらは、低サイズ域がラダー状で高サイズ域がスメアー状の増幅産物であった。図5のレーン2?5では、鋳型にアニーリングするオリゴヌクレオチド(20mer)のみからなるプライマーセット1を用いており、本発明による合成反応が起らなかったために、目的とする増幅産物が得られなかった。 図5のレーン6以降は各プライマーの3’端側にある配列(20mer:プライマーセット1と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、5’端側にある配列が、そのプライマーによる伸長鎖上の、各プライマーの3’末端残基の下流から始まる領域にハイブリダイズするようなプライマーセットを用いて増幅を行った結果である。 図5のレーン8および12からわかるように、プライマーセット2または3を用いた場合、60分の反応時間で目的増幅産物を得ることが可能であった。低サイズのバンドのうち、約160bp付近のバンドは、本発明の合成反応により予想される産物である。 さらに、図5のレーン15および16、図6のレーン3、4、7、8、11、12、15、16、19および20、ならびに図7のレーン3および4からわかるように、プライマーセット4、6、7、8、9、10、および11を用いた場合、40分以上の反応時間で目的増幅産物を得ることが可能であった。低サイズのバンドのうち、約160bp付近のバンドは、本発明の合成反応により予想される産物である。 さらに、図5のレーン18?20からわかるように、プライマーセット5を用いた場合、20分以上の反応時間で目的増幅産物を得ることが可能であった。低サイズのバンドのうち、約160bp付近のバンドは、本発明の合成反応により予想される産物である。 プライマーセット2および3のように、そのプライマー伸長鎖上における、プライマーの3’末端側配列に相当する領域と5’末端側配列がハイブリダイズする領域との間隔が比較的小さい場合には、同一の配列を有する次のプライマーがアニーリングすべき鋳型上の配列の大部分が二本鎖のままとなり、次のプライマーのアニーリングが困難になるために、長い反応時間が必要になると考えられる。 また、プライマーセット6?11のように、そのプライマー伸長鎖上における、プライマーの3’末端側配列に相当する領域と5’末端側配列がハイブリダイズする領域との間隔が比較的大きい場合には、各プライマーの5’端側の配列が折り返す効率が低下し、比較的長い反応時間が必要になると考えられる。 一方で、プライマーセット5のように、そのプライマー伸長鎖上における、プライマーの3’末端側配列に相当する領域と5’末端側配列がハイブリダイズする領域との間隔が小さすぎず、かつ、大きすぎない距離にある時に、本発明における最も効率のよい増幅が可能となると考えられる。 例2 本例では、鋳型としてHuman DNA(Clontech社製)を使用してsY160遺伝子の増幅を試みた。用いたプライマーは、以下に示す通りとした。これらのプライマーの合成は、エスペックオリゴサービス株式会社に依頼した。 実験に使用したプライマーの特徴を以下に記載した。また、テンプレートに対する各プライマー領域の位置関係は図3に示す通りとした。なお、下記の配列において、下線部は、センスプライマーおよびアンチセンスプライマーのそれぞれにおいて共通の3’末端領域を示す。 プライマーセット12(実施例):プライマーの3’端側にある配列(20mer)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の27塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなセンスプライマーと:プライマーの3’端側にある配列(20mer)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の21塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなアンチセンスプライマーの組み合わせ; プライマーセット13(実施例):プライマーの3’端側にある配列(20mer:プライマーセット12と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(16mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の27塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなセンスプライマーと:プライマーの3’端側にある配列(20mer:プライマーセット12と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(16mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の21塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなアンチセンスプライマーの組み合わせ; 次の組成を有する反応液(25μL):Tris-HCl(20mM,pH8.8)、KCl(10mM)、(NH_(4))_(2)SO_(4)(10mM)、MgSO_(4)(2mM)、Triton X-100(0.1%)、dNTP(0.4mM)、それぞれ100pmolの上記のプライマー対および100ngの鋳型DNA、さらに8UのBst DNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BioLabs)を含有;を調製し、これを60℃で60または90分間インキュベートした。 各反応液5μlについて、3% NuSieve GTG Agarose(BMA社製;タカラバイオ社より購入;「NuSieve」はBMA社の登録商標である)にて電気泳動を行った。結果は図8に示すとおりである。これらの図における各レーンのサンプルは下記の表4に示す通りである。 レーン4および7ではテンプレートが添加されていないため、未反応のプライマーが染色されたもの以外のバンドは確認されなかった。 レーン2および5ではテンプレートが添加されているため、未反応のプライマーと高分子サイズのテンプレートのバンドが確認された。しかし、反応時間が不十分であるため、増幅産物は確認されなかった。レーン3および6からわかるように、テンプレートが添加された反応時間90分のサンプルについては目的とする増幅産物が十分に得られた。低サイズのバンドのうち、約260bp付近のバンドは、本発明の合成反応により予想される産物である。 例3 本例では、鋳型としてM13mp18RF DNA(ファージベクター:タカラバイオ社製)を使用して、その増幅を試みた。用いたプライマーは、以下に示す通りとした。これらのプライマーの合成は、エスペックオリゴサービス株式会社に依頼した。 実験に使用したプライマーの特徴を以下に記載した。また、テンプレートに対する各プライマー領域の位置関係は図4に示す通りとした。なお、下記の配列において、下線部は、センスプライマーおよびアンチセンスプライマーのそれぞれにおいて共通の3’末端領域を示す。 プライマーセット14(比較例):プライマーの3’端側にある配列(24mer)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(24mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の51塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなセンスプライマーと:プライマーの3’端側にある配列(22mer)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(25mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の54塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなアンチセンスプライマーとの組み合わせ; プライマーセット15(比較例):プライマーの3’端側にある配列(24mer:プライマーセット14と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の1塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなセンスプライマーと:プライマーの3’端側にある配列(22mer:プライマーセット14と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の1塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなアンチセンスプライマーとの組み合わせ; プライマーセット16(実施例):プライマーの3’端側にある配列(24mer:プライマーセット14と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の7塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなセンスプライマーと:プライマーの3’端側にある配列(22mer:プライマーセット14と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の7塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなアンチセンスプライマーとの組み合わせ; プライマーセット17(実施例):プライマーの3’端側にある配列(24mer:プライマーセット14と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の13塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなセンスプライマーと:プライマーの3’端側にある配列(22mer:プライマーセット14と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の13塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなアンチセンスプライマーとの組み合わせ; プライマーセット18(実施例):プライマーの3’端側にある配列(24mer:プライマーセット14と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の19塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなセンスプライマーと:プライマーの3’端側にある配列(22mer:プライマーセット14と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の19塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなアンチセンスプライマーとの組み合わせ; プライマーセット19(実施例):プライマーの3’端側にある配列(24mer:プライマーセット14と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の25塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなセンスプライマーと:プライマーの3’端側にある配列(22mer:プライマーセット14と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(13mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の23塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなアンチセンスプライマーとの組み合わせ; プライマーセット20(実施例):プライマーの3’端側にある配列(24mer:プライマーセット14と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(23mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の25塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなセンスプライマーと:プライマーの3’端側にある配列(22mer:プライマーセット14と同様の配列)が鋳型にアニーリングし、伸長反応の後、5’端側にある配列(23mer)が、そのプライマーによる伸長鎖上の、プライマーの3’末端残基の23塩基下流から始まる領域にハイブリダイズするようなアンチセンスプライマーとの組み合わせ; 次の組成を有する反応液(25μL):Tris-HCl(20mM,pH8.8)、KCl(10mM)、(NH_(4))_(2)SO_(4)(10mM)、MgSO_(4)(2mM)、Triton X-100(0.1%)、dNTP(0.4mM)、それぞれ100pmolの上記のプライマー対および0.05μgの鋳型DNA、さらに8UのBst DNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BioLabs)を含有;を調製し、これを65℃で20?120分間インキュベートした。 各反応液5μlについて、3% NuSieve GTG Agarose(BMA社製;タカラバイオ社より購入;「NuSieve」はBMA社の登録商標である)にて電気泳動を行った。結果は図9および図10に示すとおりである。これらの図における各レーンのサンプルは下記の表5および表6に示す通りである。 各図のレーン5、9、13、17、および21ではテンプレートが添加されていないため、未反応のプライマーが染色されたもの以外のバンドは確認されなかった。 図9のレーン3および4ではテンプレートが添加されており、反応時間90分以上で増幅産物が得られた。しかし、これは、目的のサイズとは異なる低サイズのラダー状の増幅産物であった。これらのレーンでは、増幅反応にプライマーセット14が用いられている。そのプライマー伸長鎖上における、プライマーの3’末端側配列に相当する領域と5’末端側配列がハイブリダイズする領域との間隔は、センスプライマーでは50ヌクレオチドであり、アンチセンスプライマーでは53ヌクレオチドである。このことから、プライマー伸長鎖上における、プライマーの3’末端側配列に相当する領域と5’末端側配列がハイブリダイズする領域との間隔が過度に大きくなると、各プライマーの5’端側にある配列が折り返す効率が顕著に低下し、本発明の合成反応が起こりにくくなるために、目的とする増幅産物が得られなかったものと考えられる。 図9のレーン7からわかるように、プライマーセット15を用いた場合、90分以上の反応時間で目的増幅産物を得ることが可能であった。低サイズのバンドのうち、約240bp付近のバンドは、本発明の合成反応により予想される産物である。 さらに、図9のレーン12および16、ならびに図10のレーン4および8からわかるように、プライマーセット16、17、19、および20を用いた場合、60分の反応時間で目的増幅産物を得ることが可能であった。低サイズのバンドのうち、約240bp付近のバンドは、本発明の合成反応により予想される産物である。 さらに、図9のレーン19からわかるように、プライマーセット18を用いた場合、40分以上の反応時間で目的増幅産物を得ることが可能であった。低サイズのバンドのうち、約240bp付近のバンドは、本発明の合成反応により予想される産物である。 プライマーセット15のように、そのプライマー伸長鎖上における、プライマーの3’末端側配列に相当する領域と5’末端側配列がハイブリダイズする領域との間隔が小さい場合には、同一の配列を有する次のプライマーがアニーリングすべき鋳型上の配列の大部分が二本鎖のままとなり、次のプライマーのアニーリングが困難になるために、長い反応時間が必要になると考えられる。 また、プライマーセット19および20のように、そのプライマー伸長鎖上における、プライマーの3’末端側配列に相当する領域と5’末端側配列がハイブリダイズする領域との間隔が大きい場合には、各プライマーの5’端側の配列が折り返す効率が低下し、比較的長い反応時間が必要になると考えられる。 一方で、プライマーセット18のように、そのプライマー伸長鎖上における、プライマーの3’末端側配列に相当する領域と5’末端側配列がハイブリダイズする領域との間隔が小さすぎず、かつ、大きすぎない距離にある時に、本発明における最も効率のよい増幅が可能となると考えられる。 例4 例1?3で得られた増幅産物のうち、それぞれのターゲットごとに最も増幅効率が良かったと思われる増幅産物を用い、制限酵素で消化した。例1に記載のプライマーセット5を用いて得られた増幅産物の反応液1μLを制限酵素MboIIで消化し、例2に記載のプライマーセット12を用いて得られた増幅産物の反応液1μLを制限酵素BstXIで消化し、例3に記載のプライマーセット18を用いて得られた増幅産物の反応液1μLを制限酵素PstIで消化した。制限酵素消化の条件は、37℃で3時間とした。 各消化物について、3% NuSieve GTG Agarose(BMA社製;タカラバイオ社より購入;「NuSieve」はBMA社の登録商標である)にて電気泳動を行った。結果は図11、図12、および図13に示すとおりである。それぞれの塩基配列から推測される各制限酵素消化断片のサイズは、泳動写真の横に記したとおりである。未消化でのバンドのほとんどが消化後に推定されるサイズのバンドへ変化したことから、目的の増幅産物が得られていることが確認された。 例5:各種融解温度調整剤の効果 増幅反応溶液に各種融解温度調整剤を添加して増幅反応を行ない、増幅効率に対する融解温度調整剤の効果を検討した。例1と同様に、鋳型としてHuman DNA(Clontech社製)を使用してヒトSTS DYS237遺伝子の増幅を試みた。用いたプライマーは、例1で最も良好な増幅効率を示したプライマーセット5(配列番号9および配列番号10)とした。 次の組成を有する反応液(25μL):Tris-HCl(20mM,pH8.8)、KCl(10mM)、(NH_(4))_(2)SO_(4)(10mM)、MgSO_(4)(8mM)、Triton X-100(0.1%)、dNTP(1.4mM)、それぞれ1600nMの上記プライマー対、および鋳型DNA、さらに16UのBst DNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BioLabs)を含有;を調製した。鋳型DNAの濃度は、100ng、10ng、1ng、または0ngとした。この反応液に、さらに、最終濃度として、6%DMSO、0.5Mベタイン、4%ホルムアミド、または10%グリセロールを添加した。これを60℃で90分間インキュベートした。 増幅反応後、実施例1と同様に電気泳動を行った。結果は図14に示すとおりである。図14における各レーンのサンプルは下記の表7に示す通りである。 図14において、約160bp付近のバンドが本発明の合成反応により予想される増幅産物である。図14から明らかなように、100ngの鋳型DNAを用いた場合には、融解温度調整剤の有無にかかわらず増幅産物が得られた。一方で、10ngの鋳型DNAを用いた場合には、融解温度調整剤を添加した場合にのみ増幅産物が得られた。さらに、1ngの鋳型DNAを用いた場合にも、融解温度調整剤を添加した場合にのみ増幅産物のバンドが確認され、特に、融解温度調整剤としてDMSO(6%)を添加した場合に最も明確な増幅産物のバンドが確認された。 以上の結果から、本発明による核酸増幅方法において、DMSO、ベタイン、ホルムアミド、グリセロールなどの融解温度調整剤を反応液に添加することにより増幅効率が向上し、特に、DMSOを添加した場合に良好な増幅効率が得られると考えられる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成する方法であって、 (a)標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac’)を3’末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B’)を前記配列(Ac’)の5’側に含んでなるプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac’)と前記配列(B’)との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (b)鋳型核酸を用意する工程、 (c)前記プライマーを前記鋳型核酸にアニーリングさせ、プライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む相補核酸を合成する工程、 (d)工程(c)により合成された相補核酸の5’側に存在する配列(B’)を同相補核酸上に存在する配列(Bc)にハイブリダイズさせ、これにより、鋳型核酸上の前記配列(A)の部分を一本鎖とする工程、および (e)工程(d)により一本鎖とされた鋳型核酸上の前記配列(A)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(c)により合成された相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程、 を含んでなり、工程(c)、工程(d)および工程(e)が等温で行われる、方法。 【請求項2】 工程(e)により得られた二本鎖の核酸を工程(d)で繰り返して使用する、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 鎖長が15?100ヌクレオチドであるプライマーを使用し、工程(c)、工程(d)および工程(e)が等温で行われる、請求項1に記載の方法。 【請求項4】 鎖置換能を有するDNAポリメラーゼが使用される、請求項1に記載の方法。 【請求項5】 鋳型核酸がRNAである場合に、逆転写酵素を用いてcDNAを合成する工程をさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。 【請求項6】 工程(c)、工程(d)および工程(e)が融解温度調整剤の存在下で行われる、請求項1に記載の方法。 【請求項7】 融解温度調整剤が、ジメチルスルホキシド、ベタイン、ホルムアミドもしくはグリセロール、またはこれらの混合物である、請求項6に記載の方法。 【請求項8】 鋳型核酸中の標的核酸配列が非天然ヌクレオチドを含んでなるものである、請求項1に記載の方法。 【請求項9】 二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅する方法であって、 (a)二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac’)を3’末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B’)を前記配列(Ac’)の5’側に含んでなる第一のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Ac’)と前記配列(B’)との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (b)二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc’)を3’末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5’側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D’)を前記配列(Cc’)の5’側に含んでなる第二のプライマーであって、 プライマー中において前記配列(Cc’)と前記配列(D’)との間に介在配列が存在せず、前記配列(Cc’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にあるプライマーを用意する工程、 (c)第一の鋳型核酸および第二の鋳型核酸からなる二本鎖鋳型核酸を用意する工程、 (d)前記第一および第二のプライマーをそれぞれ前記第一および第二の鋳型核酸にアニーリングさせ、それぞれプライマー伸長反応を行なって前記標的核酸配列の相補配列を含む第一および第二の相補核酸を合成する工程、 (e)工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸の5’側に存在する配列(B’)および配列(D’)を、同相補核酸上に存在する配列(Bc)および配列(Dc)にそれぞれハイブリダイズさせ、これにより、第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分を一本鎖とする工程、ならびに (f)工程(e)により一本鎖とされた第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーをアニーリングさせて鎖置換反応を行なうことにより、工程(d)により合成された第一および第二の相補核酸を、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸で置換する工程、を含んでなり、工程(d)、工程(e)および工程(f)が等温で行われる、方法。 【請求項10】 工程(f)により得られた二本鎖の核酸を工程(e)で繰り返して使用する、請求項9に記載の方法。 【請求項11】 工程(f)により一本鎖の核酸として得られた第一および第二の相補核酸を、工程(d)においてそれぞれ第二および第一の鋳型核酸として繰り返して使用する、請求項9に記載の方法。 【請求項12】 鎖長が15?100ヌクレオチドであるプライマーを使用し、工程(d)、工程(e)および工程(f)が等温で行われる、請求項9に記載の方法。 【請求項13】 鎖置換能を有するDNAポリメラーゼが使用される、請求項9に記載の方法。 【請求項14】 鋳型核酸がRNAの場合に、逆転写酵素を用いてcDNAを合成する工程をさらに含んでなる、請求項9に記載の方法。 【請求項15】 工程(d)、工程(e)および工程(f)が融解温度調整剤の存在下で行われる、請求項9に記載の方法。 【請求項16】 融解温度調整剤が、ジメチルスルホキシド、ベタイン、ホルムアミドもしくはグリセロール、またはこれらの混合物である、請求項15に記載の方法。 【請求項17】 鋳型核酸中の標的核酸配列が非天然ヌクレオチドを含んでなるものである、請求項9に記載の方法。 【請求項18】 請求項1に記載の方法により鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成するためのプライマーであって、前記プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり、 標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac’)を3’末端部分に含んでなり、標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B’)を前記配列(Ac’)の5’側に含んでなり、 プライマー中において前記配列(Ac’)と前記配列(B’)との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にある、プライマー。 【請求項19】 請求項18に記載のプライマーを含んでなる、鋳型核酸中の標的核酸配列と相補的な核酸を合成するためのキット。 【請求項20】 請求項9に記載の方法により二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅するためのプライマーセットであって、 (a)二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac’)を3’末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B’)を前記配列(Ac’)の5’側に含んでなる第一のプライマーであって、プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり、 プライマー中において前記配列(Ac’)と前記配列(B’)との間に介在配列が存在せず、前記配列(Ac’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にある、第一のプライマー、および (b)二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc’)を3’末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5’側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D’)を前記配列(Cc’)の5’側に含んでなる第二のプライマーであって、プライマーの鎖長が15?100ヌクレオチドであり、 プライマー中において前記配列(Cc’)と前記配列(D’)との間に介在配列が存在せず、前記配列(Cc’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、Xが10?30の範囲にあり、(X-Y)/Xが-1.00?0.75の範囲にあり、かつ、X+Yが30?50の範囲にある、第二のプライマー、 を含んでなる、プライマーセット。 【請求項21】 請求項20に記載のプライマーセットを含んでなる、二本鎖からなる鋳型核酸中の標的核酸配列を増幅するためのキット。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2012-03-21 |
結審通知日 | 2012-03-23 |
審決日 | 2012-04-10 |
出願番号 | 特願2004-548072(P2004-548072) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
ZA
(C12N)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 齊藤 真由美 |
特許庁審判長 |
鈴木 恵理子 |
特許庁審判官 |
六笠 紀子 冨永 みどり |
登録日 | 2006-10-20 |
登録番号 | 特許第3867926号(P3867926) |
発明の名称 | 核酸の増幅法 |
代理人 | 小和田 敦子 |
代理人 | 中山 ゆみ |
代理人 | 山上 和則 |
代理人 | 辻丸 光一郎 |
代理人 | 伊佐治 創 |
代理人 | 磯田 志郎 |
代理人 | 滝澤 敏雄 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 中山 ゆみ |
代理人 | 伊佐治 創 |
代理人 | 滝澤 敏雄 |
代理人 | 山上 和則 |
代理人 | 白洲 一新 |
代理人 | 永島 孝明 |
代理人 | 吉田 玲子 |
代理人 | 安國 忠彦 |
代理人 | 小和田 敦子 |
代理人 | 桂田 健志 |
代理人 | 吉田 玲子 |
代理人 | 辻丸 光一郎 |
代理人 | 熊倉 禎男 |