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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1258580 |
審判番号 | 不服2009-10316 |
総通号数 | 152 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-08-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-05-26 |
確定日 | 2012-06-11 |
事件の表示 | 特願2002-592342「STAPHYLOCOCCUSAUREUSタンパク質および核酸」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月28日国際公開、WO02/94868、平成17年 1月27日国内公表、特表2005-502326〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯及び本願補正発明 本願は,2002年3月27日(パリ条約による優先権主張2001年3月27日,英国)を国際出願日とする出願であって,平成21年2月23日付けで,平成20年12月12日の手続補正書でした補正を却下するとともに拒絶査定がなされ,これに対し,平成21年5月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,平成21年6月24日に手続補正がなされたものである。 第2 平成21年6月24日の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成21年6月24日の手続補正を却下する。 [理由] 1.平成20年12月12日の手続補正書でした補正は却下されているので,平成20年5月13日の手続補正書により補正された請求項1及び10は,本件補正により, 「【請求項1】 精製された又は組換えタンパク質であって,以下: (a)配列番号1168のアミノ酸配列を含む; (b)配列番号1168に対して70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む,そして,当該タンパク質は免疫原性である;または (c)配列番号1168由来の少なくとも7個の連続したアミノ酸を含むフラグメントを含み,当該タンパク質は免疫原性である; 前記精製された又は組換えタンパク質。 【請求項10】 請求項1?9のいずれかに記載のタンパク質,核酸分子,または抗体を含む,薬学的組成物。」 から請求項1及び8として, 「【請求項1】 精製された又は組換えタンパク質であって,配列番号1168のアミノ酸配列を含み,ここで該タンパク質は細胞表面タンパク質である,前記精製された又は組換えタンパク質。 【請求項8】 請求項1?7のいずれかに記載のタンパク質,核酸分子,または抗体を含む,薬学的組成物。」に補正された。 上記補正は,補正前の請求項1における,(a)?(c)の任意に選択される事項のうち,(b)及び(c)を削除し,(a)のみに限定するものであるので,特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の前記請求項1及び8に係る発明(以下,「本願補正発明1」及び「本願補正発明8」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかどうか)について,以下に検討する。 2.当審の判断 (1)特許法第36条第4項について 一般に,化学物質の発明は,新規で,産業上利用できる化学物質(すなわち有用性のある化学物質)を提供することにその本質があると解されるが,その化学物質が遺伝子等の,元来,自然界に存在する物質である場合には,単に存在を明らかにした,確認したというだけでは発見にとどまるものであり,自然界に存在した状態から分離し,一定の加工を加えたとしても,物の発明としては,いまだ産業上利用できる化学物質を提供したとはいえないものというべきであり,その有用性が明らかにされ,従来技術にない新たな技術的視点が加えられることで,初めて産業上利用できる発明として成立したものと認められるものと解すべきである。 そして,遺伝子関連の化学物質発明においてその有用性が明らかにされる必要があることは,明細書の発明の詳細な説明の記載要領を規定した特許法第36条第4項の実施可能要件についても同様である。なぜならば,当業者が,当該化学物質の発明を実施するためには,出願当時の技術常識に基づいて,その発明に係る物質を製造することができ,かつ,これを使用することができなければならないところ,発明の詳細な説明中に有用性が明らかにされていなければ,当該発明に係る物質を使用することはできず,したがって,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に,発明の詳細な説明に記載する必要があるからである。 本願補正発明1は,配列番号1168のアミノ酸配列を含む細胞表面タンパク質に関するものであるので,明細書中にその「有用性」が明らかにされ,使用できるように記載されているか検討する。 i)本願明細書の記載 「本発明は,細菌Staphylococcus aureus由来の核酸およびタンパク質に関する。」(段落0002)と記載されるともに,Staphylococcus aureus由来の核酸およびタンパク質に関する説明がなされ, 配列表に,2800余りのタンパク質のアミノ酸配列と対応する塩基配列が記載されるなかに,配列番号1168のアミノ酸配列が記載され,その項目<223>には,"cell surface protein"と記載されている。 ii)判断 上記明細書の記載においては,本願補正発明1に係るタンパク質の機能や活性はおろか,診断やワクチンに利用できるほどの免疫原性があることを,実際に調べて明らかにしてはいない。 したがって,本願の明細書の記載と本願出願日における技術常識からは,本願補正発明1に係るタンパク質の有用性が明らかにはなっておらず,本願補正発明1について,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に,発明の詳細な説明に記載がなされているものとも認められない。 また,本願補正発明1に係るタンパク質が,ワクチンに利用できるほどの免疫原性があることが明らかにされていないから,医薬用途に利用できるか不明であるというべきものであり,本願補正発明8について,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に,発明の詳細な説明に記載がなされているものとも認められない。 iii)請求人の主張 請求人は,本願明細書の段落0005の記載を根拠に,本願補正発明のタンパク質がStaphylococcus細菌,特にStaphylococcus aureusによる感染に対する免疫化のための抗原として,または当該感染の診断のために,有用であることを理解することができること,及び,細胞表面タンパク質である本願補正発明のタンパク質が,Staphylococcus細菌による感染に対する免疫化のための抗原として,または当該感染の診断のために,有用であることを,本願補正発明の記載に従って十分に理解することができることを主張しているが,本願明細書の段落0005の記載は,本願補正発明1に係るタンパク質に関するものではなく,Staphylococcus aureus由来のタンパク質一般に関する記載にすぎないものであるし,また,本願補正発明1に係るタンパク質が細胞表面タンパク質であることも,診断やワクチンに利用できるほどの免疫原性があることも,本願明細書の記載において,何ら具体的に確認していないのであるから,請求人の主張は採用できない。 また請求人は,平成20年5月13日付の意見書において参考資料1として添付したClarkeら(The Journal of Infectious Diseases, 193: 1098-1108 (2006))に,本願補正発明の配列番号1168に示されるタンパク質に相当するIsdA抗原が,Staphylococcus aureusによる感染に対する免疫化のための抗原として実際に効果を有することを示す結果や,IsdAでワクチン投与したコットンラットは,用量依存様式でStaphylococcus aureusによる鼻でのコロニー形成に対して保護されたことを裏付けるデータが示されていることを主張しているが,出願当初の明細書の記載と出願時の技術常識から,蓋然性が相当に高い事項を,出願後の刊行物の記載などにより補完するのではなく,単に可能性があるにすぎない事項を,出願後に明らかになった事項により補完することは,発明の十分な公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきものであり,採用できない。 iv)小括 以上のとおり,本願は,本願補正発明1及び8について,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず,特許出願の際,独立して特許を受けることができない。 (2)特許法第29条第2項について i)引用例 本願の優先日前に頒布された刊行物であるZent. bl. Bakteriol., 287 (1998) p.277-314(以下,「引用例」という。)は,「Staphylococcus aureusのゲノム:レビュー」という表題の論文であり, 「S.aureusのいくつかの株は,染色体の研究の標本として使われているが,1つのもの,NCTC8325(PS47)は,最も広範に研究されている。・・・。最も認識されている株,NCTC8325の染色体は長さが2.8mbpで,SmaIによる消化後,16のフラグメントを示す。その内の連続する15のものは,明らかにされてきている。約190の遺伝子座が,この株の染色体中にマップされている。S.aureusNCTC8325株の染色体の物理的及び遺伝的マップは図1に示される。」(278頁最初の2つの段落)と記載され, S.aureusNCTC8325の物理的及び遺伝的マップが図1に記載されている。 ii)判断 本願の優先日においては,ヒトゲノム計画の進展に伴い,高速シークエンサーも開発され,20種以上の細菌において,全ゲノム配列が明らかにされていたのであるから,本願の優先日に利用できる慣用の技術を利用すれば,引用例に記載される,Staphylococcus aureusNCTC8325株のゲノムの配列を適宜決定し,オープンリーディングフレームを定め,また,その配列から膜タンパク質であるか予測する程度のことは,当業者が容易になし得たことである。そして,本願補正発明1に係るタンパク質は,当業者が容易にStaphylococcus aureusNCTC8325株の膜タンパク質であると知ることができる,様々なものの1つにすぎないものであり,当業者が容易に発明できたものである。 そして,本願明細書をみても,配列を決定し,膜タンパク質であるか予測した以上の格別のことは行われていないので,本願補正発明に格別顕著な効果は認められず,本願補正発明1は,引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。 また,本願補正発明1に係るタンパク質が,細胞表面タンパク質であることは,本願の優先権主張の基となる,英国特許出願第107661号の明細書に記されていないので,本願補正発明1について,優先権主張の効果を認めることができず,本願は,現実の出願日である2002年3月27日に出願されたものとして取り扱うこととなる。そうすると,本願の出願前に頒布された刊行物であるThe Lancet, 357 (2001) p.1225-1240により,Staphylococcus aureusの全ゲノム配列が明らかにされているのであるから,なおのこと,当業者は容易に本願補正発明1を発明することができる。 iii)小括 以上のとおり,本願補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際,独立して特許を受けることができない。 3.むすび したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 平成21年6月24日の手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1及び10に係る発明(以下,「本願発明1」及び「本願発明10」という。)は,平成20年5月13日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1及び10に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 精製された又は組換えタンパク質であって,以下: (a)配列番号1168のアミノ酸配列を含む; (b)配列番号1168に対して70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む,そして,当該タンパク質は免疫原性である;または (c)配列番号1168由来の少なくとも7個の連続したアミノ酸を含むフラグメントを含み,当該タンパク質は免疫原性である; 前記精製された又は組換えタンパク質。 【請求項10】 請求項1?9のいずれかに記載のタンパク質,核酸分子,または抗体を含む,薬学的組成物。」 第4 当審の判断 本願発明1及び10は,前記「第2」において特許法第36条第4項について検討した本願補正発明1及び8を,それぞれその態様として含むものである。 したがって,特許法第36条第4項について,前記「第2 2.当審の判断(1)」におけると同様の理由により,本願は,本願発明1及び10について,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 第5 むすび 以上のとおりであるから,本願発明1及び10について,本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができない。 したがって,本願に係るその他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-01-19 |
結審通知日 | 2012-01-20 |
審決日 | 2012-01-31 |
出願番号 | 特願2002-592342(P2002-592342) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N) P 1 8・ 536- Z (C12N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渡邉 潤也 |
特許庁審判長 |
平田 和男 |
特許庁審判官 |
冨永 みどり 六笠 紀子 |
発明の名称 | STAPHYLOCOCCUSAUREUSタンパク質および核酸 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 増井 忠弐 |
代理人 | 廣瀬 しのぶ |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 富田 博行 |