• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B24D
管理番号 1259059
審判番号 不服2011-21372  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-04 
確定日 2012-06-20 
事件の表示 特願2004-380351「電着ワイヤ工具およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月13日出願公開、特開2006-181701〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成16年12月28日の出願であって、平成22年11月1日付けで第1回の拒絶理由が通知され、平成23年1月4日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年3月2日付けで第2回の拒絶理由が通知され、同年4月27日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年6月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、これと同時に特許請求の範囲、及び、明細書を補正対象とする手続補正(以下、同手続補正を「本件補正」という。)がなされ、同年12月27日付けで前置報告がなされ、前置報告書の内容を送付した平成24年1月23日付けの当審からの審尋に対して、同年3月2日付けの回答書が提出されたものである。

第2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
ダイヤモンドからなる砥粒の表面がTi、Ni、Cu、TiC及びSiCから選択されるいずれかからなる導電性の被覆層で覆われている被覆砥粒を用意するステップ1と、
前記被覆砥粒が混入された鍍金浴中に負電位を印加した線状体を浸漬しつつ、プーリによって搬送することにより、前記被覆砥粒を前記線状体の外周面に電着による鍍金層で固定して、前記被覆砥粒を覆う前記鍍金層が前記線状体の外周面を覆う前記鍍金層から突出するようにするステップ2と、
前記被覆砥粒を電着した前記線状体をドレッシングストーンに通すことにより、前記線状体の外周面を覆う前記鍍金層から突出した前記被覆砥粒を覆う前記鍍金層の一部を除去して、前記被覆砥粒を露出させるステップ3とを含むシリコン又はサファイヤからなる硬脆材料切断用の電着ワイヤ工具の製造方法。」
と、補正された。

(2)補正前の本願発明
本件補正前の、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
線状体の外周面に電着による鍍金層で固定された複数の被覆砥粒を有する電着ワイヤ工具であって、
前記被覆砥粒はダイヤモンドからなり、表面がTi、Ni、Cu、TiC及びSiCから選択されるいずれかからなる導電性の被覆層で覆われ、
前記被覆砥粒を覆う前記鍍金層が前記線状体の外周面を覆う前記鍍金層から突出しており、
前記被覆砥粒を電着した前記線状体がドレッシングストーンに通されることにより、前記線状体の外周面を覆う前記鍍金層から突出した前記被覆砥粒を覆う前記鍍金層の一部から前記被覆砥粒が露出している電着ワイヤ工具。
【請求項2】
ダイヤモンドからなる砥粒の表面がTi、Ni、Cu、TiC及びSiCから選択されるいずれかからなる導電性の被覆層で覆われている被覆砥粒を用意するステップと、
前記被覆砥粒が混入された鍍金浴中に線状体を浸漬しつつ搬送することにより、前記被覆砥粒を前記線状体の外周面に電着による鍍金層で固定して、前記被覆砥粒を覆う前記鍍金層が前記線状体の外周面を覆う前記鍍金層から突出するようにするステップと、
前記被覆砥粒を電着した前記線状体をドレッシングストーンに通すことにより、前記線状体の外周面を覆う前記鍍金層から突出した前記被覆砥粒を覆う前記鍍金層の一部を除去して、前記被覆砥粒を露出させるステップと、
を含む電着ワイヤ工具の製造方法。」
であった。

(3)補正事項
上記補正は、以下の事項からなる。

ア.補正事項1
請求項1を削除する。

イ.補正事項2
請求項2に記載された発明を特定する事項である「ダイヤモンドからなる砥粒の表面がTi、Ni、Cu、TiC及びSiCから選択されるいずれかからなる導電性の被覆層で覆われている被覆砥粒を用意するステップと」を、「ダイヤモンドからなる砥粒の表面がTi、Ni、Cu、TiC及びSiCから選択されるいずれかからなる導電性の被覆層で覆われている被覆砥粒を用意するステップ1と」と補正する。

ウ.補正事項3
請求項2に記載された発明を特定する事項である「前記被覆砥粒が混入された鍍金浴中に線状体を浸漬しつつ搬送することにより、前記被覆砥粒を前記線状体の外周面に電着による鍍金層で固定して、前記被覆砥粒を覆う前記鍍金層が前記線状体の外周面を覆う前記鍍金層から突出するようにするステップと」を、「前記被覆砥粒が混入された鍍金浴中に負電位を印加した線状体を浸漬しつつ、プーリによって搬送することにより、前記被覆砥粒を前記線状体の外周面に電着による鍍金層で固定して、前記被覆砥粒を覆う前記鍍金層が前記線状体の外周面を覆う前記鍍金層から突出するようにするステップ2と」と補正する。

エ.補正事項4
請求項2に記載された発明を特定する事項である「前記被覆砥粒を電着した前記線状体をドレッシングストーンに通すことにより、前記線状体の外周面を覆う前記鍍金層から突出した前記被覆砥粒を覆う前記鍍金層の一部を除去して、前記被覆砥粒を露出させるステップと」を、「前記被覆砥粒を電着した前記線状体をドレッシングストーンに通すことにより、前記線状体の外周面を覆う前記鍍金層から突出した前記被覆砥粒を覆う前記鍍金層の一部を除去して、前記被覆砥粒を露出させるステップ3と」と補正する。

オ.補正事項5
請求項2に記載された発明を特定する事項である「電着ワイヤ工具の製造方法。」を、「シリコン又はサファイヤからなる硬脆材料切断用の電着ワイヤ工具の製造方法。」と補正する。

(3)補正の目的
補正事項3は、「被覆砥粒を覆う前記鍍金層が前記線状体の外周面を覆う前記鍍金層から突出するようにするステップ」の「被覆砥粒が混入された鍍金浴中に線状体を浸漬しつつ搬送すること」が「被覆砥粒が混入された鍍金浴中に負電位を印加した線状体を浸漬しつつ、プーリによって搬送すること」に限定するものであり、
補正事項5は、「電着ワイヤ工具の製造方法」が「シリコン又はサファイヤからなる硬脆材料切断用」の「電着ワイヤ工具の製造方法」に限定するものであって、
これらは、平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(4)補正後の請求項1に係る発明について
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(4-1)引用刊行物
○引用刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された
特開2003-340729号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、「ワイヤーソー及びその製造方法」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア.【特許請求の範囲】
「【請求項1】長尺線状体の外周面に電着層で固定された複数の砥粒を有するワイヤーソーであって、
前記長尺線状体の長さ方向において、長尺線状体外周面に砥粒が高密度で分布する高密度領域と低密度で分布する低密度領域が交互に繰り返す領域を有し、
前記高密度領域の少なくとも一について、長尺線状体外周面の砥粒による被覆率Aは1?35%であり、
前記低密度領域の少なくとも一について、長尺線状体外周面の砥粒による被覆率Bは0.2?28%であり、
前記高密度領域と前記低密度領域の少なくとも一組について、B/Aは0.2?0.8であり、
前記長尺線状体の長さ方向における前記高密度領域と前記低密度領域の長さは、それぞれ、1?1000mmであることを特徴とするワイヤーソー。
【請求項2】長尺線状体の外周面に電着層で固定された複数の砥粒を有するワイヤーソーであって、
長尺線状体外周面の砥粒による被覆率は35%以下であることを特徴とするワイヤーソー。
【請求項3】前記長尺線状体外周面の全面に渡って前記砥粒が略均一な密度で分散して分布することを特徴とする請求項2に記載のワイヤーソー。
【請求項4】前記長尺線状体外周面に前記砥粒が高密度で分布する高密度領域と低密度で分布する低密度領域を、前記長尺線状体の長さ方向に交互に繰り返す領域を有することを特徴とする請求項2に記載のワイヤーソー。
【請求項5】砥粒が分散して沈降する砥粒沈降領域を少なくとも一部に有する電着液の中で長尺線状体を走行させて、前記長尺線状体の外周面に砥粒を付着させる砥粒付着工程と、
前記砥粒付着工程で前記外周面に付着させた砥粒を前記外周面に電着する砥粒電着工程を含み、
前記砥粒付着工程において、前記長尺線状体の外周面に所望の密度で砥粒が分布するように、前記砥粒沈降領域へ供給する砥粒ないし砥粒含有物の供給量を制御することを特徴とするワイヤーソーの製造方法。
【請求項6】砥粒が分散して沈降する砥粒沈降領域を少なくとも一部に有する液状体で砥粒を外周面に付着させた長尺線状体における、前記外周面に付着させた砥粒を前記外周面に電着する電着工程を含むことを特徴とするワイヤーソーの製造方法。
【請求項7】砥粒が分散して沈降する砥粒沈降領域を少なくとも一部に有する電着液で長尺線状体の外周面に砥粒を付着させる砥粒付着工程を、前記電着工程よりも前に有することを特徴とする請求項6に記載のワイヤーソーの製造方法。
【請求項8】長尺線状体に電着層を形成することができる電着漕と、
砥粒が分散して沈降する砥粒沈降領域を前記電着漕に貯えられた電着浴の中に形成するように、砥粒ないし砥粒含有物を放出する砥粒放出部を有することを特徴とするワイヤーソーの製造装置。
【請求項9】長尺線状体の外周面に所望の密度で砥粒が分布するように、前記砥粒放出部から放出する砥粒ないし砥粒含有物の放出量を制御する砥粒放出量制御部を有することを特徴とする請求項8に記載のワイヤーソーの製造装置。」

イ.段落【0001】?【0003】
「【発明の属する技術分野】本発明は、ワイヤーソー、ワイヤーソーの製造方法及びワイヤーソーの製造装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、特に、単結晶シリコン、水晶、アモルファスシリコン等の高脆性材料の切断加工に用いて、目詰まりすることなく切断可能であり、かつ使用中に断線する確率がほとんどないワイヤーソー、前記ワイヤーソーを製造することができるワイヤーソーの製造方法及び装置に関する。
【従来の技術】半導体デバイスには、メモリー等の集積回路の基板に用いられる単結晶シリコン、発振子に用いられる水晶、太陽電池に用いられるアモルファスシリコンなどの脆性材料が使用されており、これらの材料を高精度・低価格で製造する技術は極めて重要である。
半導体デバイスの製造に用いる基板等を得るために、柱状の素材インゴットを径方向に切断して薄板であるウェハーを多数枚切り出すスライシング工程がある。スライシング工程には、スライシング加工による欠損やクラック層の大きさをできる限り小さくし、一つのインゴットからできるだけ多数枚のウェハーをできるだけ速く切り出すことが要求される。」

ウ.段落【0008】?【0009】
「最近、上記両者の長所を兼ね備えた工具として、ダイヤモンド砥粒を金属メッキあるいは樹脂によりワイヤーに固着させた、電着ワイヤーソーあるいはレジンワイヤーソーのような固定砥粒ワイヤーソーが提案されている。
【発明が解決しようとする課題】ダイヤモンド砥粒を金属メッキによりワイヤーに固着させた電着ワイヤーソーは、金属メッキによりダイヤモンド砥粒を固着するため砥粒保持力が高く、理想的な工具と言える。」

エ.段落【0032】?【0039】
「本発明のワイヤーソーの長尺線状体の外周面に砥粒を固定するための砥粒固定電着層の厚さは、例えば、固定する砥粒の径の5?200%の厚さにすることができる。また、本発明のワイヤーソーには、前記砥粒固定電着層を被覆する少なくとも1層の被覆層を設けることができる。前記被覆層の材料は、前記砥粒固定電着層の材料と同じ材料にすることができ、また、相違する材料にすることができる。前記被覆層は、電着で形成した層にすることができ、また、電着以外の方法で形成した層にすることができる。砥粒の先端部が前記砥粒固定電着層から突出している場合、砥粒の先端部は、前記被覆層から突出させることができ、また、前記被覆層に埋没させることができる。
砥粒は、切断対象に応じて適宜選択することができる。切断対象の硬度が小さい場合は、アルミナ砥粒等の普通砥粒にすることができる。砥粒は、好ましくは、立方晶窒化ホウ素の硬度以上の高い硬度を有する超砥粒(例えば、ダイヤモンド砥粒、立方晶窒化ホウ素砥粒、又はこれらの混合物等)にする。長尺線状体の径との関係から、砥粒の平均粒径は、好ましくは、長尺線状体の径の35%以下(より好ましくは1?35%、さらに好ましくは5?35%)にする。また、砥粒の平均粒径は、良好な研削力を確保できるように1μm以上に設定し、好ましくは1μm以上60μm以下(より好ましくは2μm以上55μm以下、さらに好ましくは3μm以上50μm以下)にする。
また、砥粒としては、砥粒表面が少なくとも1層の被覆層で被覆されている砥粒である被覆砥粒を用いることができる。前記被覆層は、例えば、ニッケルメッキ層等の金属メッキ層にすることができ、好ましくは、長尺線状体に対して親和性(例えば、化学的親和性)を有するもの(より好ましくは、長尺線状体の素材と同じないし性質が近い素材の被覆層)にする。例えば、長尺線状体が鋼(スチール)の場合は、前記被覆層はニッケル層等の金属層(好ましくは、ニッケルメッキ層等の金属メッキ層)にする。
被覆層を有さない裸の砥粒(例えば、ダイヤモンド砥粒)の場合、ワイヤーソーにおける長尺線状体に対して前記砥粒は電着層(例えば、メッキ層)で物理的に保持される。これに対して、長尺線状体(例えば、鋼)に対して親和性(例えば、化学的親和性)を有する被覆層(例えば、ニッケルメッキ層等の金属メッキ層)で被覆されている被覆砥粒の場合、ワイヤーソーにおける長尺線状体に対して前記被覆砥粒は電着層(例えば、金属メッキ層)で物理的に保持されるだけでなく、化学的にも保持されることが可能になる。
そのため、被覆砥粒を用いて本発明のワイヤーソーを製造する際に長尺線状体に被覆砥粒を仮固定する場合は、被覆層を有さない裸の砥粒(例えば、ダイヤモンド砥粒)を仮固定する場合(例えば、実施例1の第1の電着漕C1において、付着させた砥粒をメッキ層で固定する場合)と比較して、より少量の電着層(例えば、メッキ層)で長尺線状体に仮固定(プーリーで脱落しない程度での固定)することができる。被覆砥粒を用いる場合の砥粒仮固定用メッキ層の厚さは、走行する長尺ワイヤーに固定した砥粒がプーリーで長尺ワイヤーから脱落しない程度の厚さにし、好ましくは付着させた砥粒の径の1?10%程度の厚さにする。
被覆砥粒としては、被覆率(被覆砥粒における被覆層の重量百分率)が、例えば30?55重量%のものを用いることができる。被覆率が前記範囲のものは市販されている。被覆砥粒としては、例えば、金属層(ニッケル、チタン、銅等の金属層)が砥粒の表面を被覆しているものがある。被覆砥粒は、樹脂ボンドを用いたダイヤモンドホイール(ダイヤモンド砥粒を用いた環状の砥石車)に用いられる被覆砥粒として市販されているものを使用することができる。
また、ニッケル層(例えば、ニッケルメッキ層)で被覆されているダイヤモンド砥粒は、メッキ液中に分散させた後に、若干プラス(正)に帯電するため、この帯電により陰極である長尺線状体(例えば、鋼製のワイヤー)に引き付けられることになる。このため、特に、微粒(例えば、平均粒径20μm以下)の場合、重力に逆らい電気的に長尺線状体に近づくことができるため、長尺線状体の下側(重力方向に向いている側)にも砥粒を付着させることが可能になる。
[ワイヤーソーの製造方法]
本発明のワイヤーソーの製造方法は、好ましくは、大多数の砥粒が略同一方向に分散して沈降する砥粒沈降領域を少なくとも一部に有する液状体の前記砥粒沈降領域で砥粒を外周面に付着させた長尺線状体における、前記外周面に付着させた砥粒を前記外周面に電着する砥粒電着工程を含む。前記外周面に付着させた砥粒を前記外周面に電着するには、例えば、電気メッキにより行うことができる。」

オ.段落【0043】
「前記砥粒付着工程は、例えば、砥粒を電着することができる電着漕に貯えられた電着液(例えば、電気メッキ液)の少なくとも一部に分散した大多数の砥粒が略同一方向に沈降する砥粒沈降領域の中を、砥粒が長尺線状体の外周面に付着するように長尺線状体を走行させる工程にすることができる。」

カ.段落【0052】?【0054】
「【実施例】[実施例1]本発明の一実施例のワイヤーソーの製造方法を図面の図1に基づいて説明する。図1は、本実施例のワイヤーソーの製造方法の概略を説明するための、長尺ワイヤーの走行方向の概略部分断面図である。長尺ワイヤーWは、ロールRに巻かれており、先端部がモータ等の回転軸(図示せず)に巻き取られることによりプーリーPに案内されて走行するものである。この実施例のワイヤーソーの製造方法では、脱脂漕A1、第1の水洗漕A2、酸洗漕A3、第2の水洗漕A4、下地メッキ漕B、第1の電着漕C1、第2の電着漕C2、埋込漕D、水洗漕A5のそれぞれに貯えられている所定の液状体の中を長尺ワイヤーWが順次通過するようにプーリーPを設けている。
また、走行する長尺ワイヤーが下地メッキ漕B、第1の電着漕C1、第2の電着漕C2、及び埋込漕Dのそれぞれの漕で電気メッキされるように、前記それぞれの漕のメッキ浴の中に陽極電極(図示せず)を設けると共に、走行する長尺ワイヤーを陰極電極Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6に接触させている。なお、陰極電極についてより詳細に説明すれば、次のとおりである。
陰極電極Z1は、第2の水洗漕A4の水に浸った後かつ下地メッキ漕Bのメッキ浴に浸る前の長尺ワイヤー部分に接触する。陰極電極Z2は、下地メッキ漕Bのメッキ浴に浸った後かつ第1の電着漕C1のメッキ浴に浸る前の長尺ワイヤー部分に接触する。陰極電極Z3及びZ4は、第1の電着漕C1のメッキ浴に浸った後かつ第2の電着漕C2のメッキ浴に浸る前の長尺ワイヤー部分に接触する。陰極電極Z5は、第2の電着漕C2のメッキ浴に浸った後かつ埋込漕Dのメッキ浴に浸る前の長尺ワイヤー部分に接触する。陰極電極Z6は、埋込漕Dのメッキ浴に浸った後かつ水洗漕A5の水に浸る前の長尺ワイヤー部分に接触する。」

キ.段落【0058】?【0063】
「次に、長尺ワイヤー部分は、第1の電着漕C1のメッキ浴の中を通過する。第1の電着漕C1のメッキ浴の一部の領域には、第1の砥粒沈降領域T1を設けている。前記砥粒沈降領域では、メッキ浴の液面に対して砥粒を分散した状態で供給しているので、砥粒は分散した状態でメッキ浴中を沈降する。
第1の電着漕C1のメッキ浴において、長尺ワイヤー部分は、第1の電着漕C1のメッキ浴の第1の砥粒沈降領域T1を通過するので、長尺ワイヤー部分(下地メッキ層を備えている)の上側(メッキ浴の液面側)から重力方向に砥粒が沈降して供給されるから、長尺ワイヤー部分の外周面の一部(主として、メッキ浴の液面に向かい合う側の略半周面)にだけ砥粒が付着する。次に、長尺ワイヤー部分は、第1の電着漕C1のメッキ浴の砥粒沈降領域以外の領域(砥粒が供給されない領域)を引き続き通過するのでメッキ層が形成される。形成されるこのメッキ層(砥粒固定用メッキ層)によって、長尺ワイヤー部分の下地メッキ層(場合によっては、下地メッキ層の上に第1の電着漕C1で新たに形成された電気メッキ層)に付着した砥粒は、下地メッキ層(場合によっては、下地メッキ層の上に第1の電着漕C1で新たに形成された電気メッキ層)に固定される。この砥粒固定用メッキ層の厚さは、走行する長尺ワイヤーに固定した砥粒がプーリーで長尺ワイヤーから脱落しない程度の厚さにし、好ましくは付着させた砥粒の径の5?25%程度の厚さにする。ここで、第1の電着漕C1で長尺ワイヤーに砥粒を固定させた側を長尺ワイヤーの「表側」と呼び、砥粒を固定させなかった側を長尺ワイヤーの「裏側」と呼ぶことにする。
第1の電着漕C1のメッキ浴を通過した長尺ワイヤー部分は、第2の電着漕C2のメッキ浴に進入する前に、砥粒を固着させた表側が重力方向を向くようにプーリー11及び12によって走行方向が180°反転する。
次に、長尺ワイヤー部分は、第2の電着漕C2のメッキ浴の中を通過する。第2の電着漕C2には、第1の電着漕C1と同様に、メッキ浴の一部の領域に第2の砥粒沈降領域T2を設けている。前記砥粒沈降領域では、メッキ浴の液面に対して砥粒を分散した状態で供給しているので、砥粒は分散した状態でメッキ浴中を沈降する。
第2の電着漕C2のメッキ浴において、長尺ワイヤー部分は、第2の電着漕C2のメッキ浴の第2の砥粒沈降領域T2を、砥粒を固定させた側(表側)が下方向(第2の電着漕C2の内側の底面)を向き第1の電着漕C1で砥粒を固定させなかった側(裏側)がメッキ浴の液面側を向くようにして通過する。そのため、長尺ワイヤー部分の前記裏側にだけ砥粒が付着する。次に、長尺ワイヤー部分は、第2の電着漕C2のメッキ浴の第2砥粒沈降領域T2以外の領域を引き続き通過するので当該長尺ワイヤー部分にはメッキ層が形成される。第2の電着漕C2で形成されるメッキ層によって、長尺ワイヤー部分のメッキ層(第1の電着漕で形成されたメッキ層)に付着した砥粒は、付着した前記メッキ層に固定される。第2の電着漕C2で形成するメッキ層の厚さは、走行する長尺ワイヤー部分に固定した砥粒がプーリーで長尺ワイヤー部分から脱落しない程度の厚さにし、好ましくは付着させた砥粒の径の5?25%程度の厚さにする。
次に、長尺ワイヤー部分は、埋込漕Dのメッキ浴の中を通過するので、埋込漕Dにおいて長尺ワイヤー部分の表面に電気メッキにより新たなメッキ層が形成される。このメッキ層は、第1及び第2の電着漕のメッキ浴で長尺ワイヤーの表面に電着された砥粒が完全に埋没するように形成する埋込メッキ層である。埋込メッキ層の厚さは、砥粒が完全に埋没する程度の厚さにし、例えば、埋め込む砥粒の径の20?80%(好ましくは25?75%、より好ましくは30?70%)にする。」

摘記事項エ.によれば、被覆砥粒の先端部が電着で形成した砥粒固定電着層から突出している場合、被覆砥粒の先端部は砥粒固定電着層を被覆する被覆層から突出しているものもあり、また、摘記事項カ.によれば、被覆砥粒の被覆層は金属メッキ層からなるものであるから導電性であり、「第1の電着漕C1」での電着、及び、「第2の電着漕C2」での電着により、「長尺ワイヤー」に被覆砥粒を固定した際、メッキ層から突出した被覆砥粒の突出部分にも電着によるメッキ層ができることは明らかである。

以上によれば、引用刊行物1には、
「単結晶シリコン、水晶、アモルファスシリコン等の高脆性材料の切断加工に用いる、長尺線状体の外周面に電着層で固定された複数の砥粒を有するワイヤーソーを製造する方法であって、
ダイヤモンド砥粒にニッケルメッキ層等の金属メッキ層からなる被覆層が被覆されている被覆砥粒を電着漕に貯えられた電着液に分散し、
陰極電極Z2を長尺ワイヤー部分に接触させ、
長尺ワイヤー部分をプーリーPに案内させて電着漕のメッキ浴の中を通過させ、
被覆砥粒が長尺ワイヤー部分の外周面に付着するように長尺線状体を走行させて電着することにより、被覆砥粒はメッキ層により固定されるとともに、被覆砥粒の一部はメッキ層から突出して固定され、被覆砥粒の突出部分もメッキ層に覆われている、
ワイヤーソーを製造する方法。」
との発明(以下、「引用刊行物発明1」という。)が開示されていると認められる。

○引用刊行物2
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-107260号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、「電着工具」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

ク.【特許請求の範囲】
「【請求項1】工具軸材の表面に付着させた砥粒を電着金属で該軸材に保持固定した構造からなる電着工具において、該砥粒は、表面に無電解メッキ膜を被覆され、該無電解メッキ膜を介して電着固定されてなることを特徴とする電着工具。
【請求項2】上記無電解メッキがニッケル系無電解メッキである請求項1に記載の電着工具。
【請求項3】上記無電解メッキ膜の厚さが0.001?50μmである請求項1あるいは2に記載の電着工具。」

ケ.段落【0001】?【0002】
「【発明の属する技術分野】本発明は、電着工具に係り、更に詳しくは、砥粒が脱落し難く、耐久性に優れた電着工具の砥粒の保持固定構造に係るものである。
【従来の技術】電着工具とは、軸材の周りに付着させた砥粒を電着金属で軸材の周りに埋めて固定したものである。砥粒粒子の50%以上は電着金属に埋没されており、先端部を露出させて使用する。電着工具の砥粒は電着金属に埋めこまれて物理的に保持固定されているだけであるので、砥粒が脱落しやすい欠点がある。砥粒の保持力を大きくするためには、砥粒と電着金属の界面の接触面積をいかに大きくするかがポイントになる。現状の電着工具では、電着金属と砥粒の界面の状況は図2のようになっており、矢印で示す部分に隙間ができている。この隙間の発生が砥粒脱落の大きな原因となっている。脱落を防止するためには矢印部分の隙間をなくして図1に示すような構造にする必要があるが、現在まで解決する方法は見出されていない。」

コ.段落【0004】
「【課題を解決するための手段】本発明者は上記課題に関して鋭意研究した結果次の知見を得た。すなわち、
○1電着工具の砥粒表面に予め無電解メッキ膜を被覆し、この無電解メッキ膜を介して電着金属で電着固定すると、砥粒と電着金属の間に隙間が発生しないこと。
○2無電解メッキ膜としてはニッケル系無電解メッキが最も好ましいこと。
○3無電解メッキ膜の厚さが0.001?50μmが最も好ましいこと。
以上の知見を得た。本発明は以上の知見を基になされたものである。」

サ.段落【0005】?【0010】
「【発明の実施の形態】本発明の電着工具の砥粒2は図1に示す様に、表面に無電解メッキ膜4が被覆されており、この無電解メッキ膜が電着金属3と結合されているのが特徴である。従来工具のような隙間がなくなり、接触面積が大きくなることにより、砥粒の脱落がなくなり耐久性が大幅に向上する。
電着砥粒は、ダイヤモンド、BN,SiC,WC,SiO_(2),グラファイト、SiN、SiC-Cu,SiC-Al、その他全ての砥粒を粒度を問わず使用できる。
無電解メッキは、ニッケル系、銅系、コバルト系のメッキが有効であり、特にニッケル系の無電解メッキ、たとえば、Ni-B系、Ni-P系等が好ましい。メッキ厚みは、0.001?50μmが好ましい。図1のような隙間のない構造にするためには、メッキ厚さは0.001μm以上必要である。メッキ厚が上限を越えると加工中にメッキ膜に亀裂が発生して砥粒が脱落することがあり好ましくない。
本発明では砥粒全面無電解メッキされているので、軸材に電着固定した時、砥粒突出部も電着金属で覆われている。したがって使用時、必要に応じて突出部を覆う電着金属をドレッシングあるいは化学的エッチングして除去し、砥粒を露出させる。
電着金属は、ニッケル、コバルト、鉄系金属等を適宜使用できるが、最も好ましいのは、ニッケル系金属である。
砥粒は種付けメッキ法で基材(軸材)に一旦種付けした後、砥粒の周囲を電着金属で埋めて固定する。種付けメッキとしては、メッキ液に砥粒を懸濁、分散させてメッキ液と共に共析させる方法、あるいは多孔質容器の中に砥粒を収めて電気メッキ液に沈め、軸材を砥粒の中に差込んで埋めて電気メッキして、電着金属で砥粒を軸材に種付けする方法等、この種の用途に使用される方法は全て採用できる。」

シ.段落【0011】
「【実施例】 実施例1(ダイヤモンド電着ドリル)
砥粒:粒度 100メッシュのダイヤモンド砥粒
無電解メッキ:ダイヤモンド砥粒を公知の方法で脱脂、センシタイジング処理、アクチベーター処理を行ってから、下記組成の無電解メッキを使って砥粒の表面にNi-Bを概ね0.2μm無電解メッキした。
無電解Ni-Bメッキ液の組成
硫酸ニッケル30g/l,ホウ酸30g/l、塩化アンモニウム30g/l、ロッセル塩30g/l、ジメチルアミンボラン3g/l、PH5.5、浴温60℃
種付けメッキ:ガラス繊維製の多孔質坩堝にダイヤモンド砥粒を入れて、下記組成のNiメッキ液に沈め、砥粒の中に直径10mmの鉄製軸材を差込んで電流密度0.2A/dm^(2)で30分電気メッキした。
種付けメッキ液の組成
硫酸ニッケル240g/l,塩化ニッケル40g/l、ホウ酸40g/l,PH4.2、浴温55℃
次に、ダイヤモンド砥粒を種付けした軸材をメッキ液から引き上げ、余分に付着した砥粒を刷毛で落とした後、仮付した砥粒の周囲を下記組成のNiメッキ液を使用して電流密度0.5A/dm^(2)で2時間メッキして砥粒の周りにNiを肉盛して、砥粒を軸材に固定した。
肉盛用電気メッキ液の組成
硫酸ニッケル240g/l,塩化ニッケル45g/l、ホウ酸40g/l,応力減少剤(ワールドメタル社製:ゼロオール)20ml/l、PH4.2、浴温55℃ 砥粒の周囲は隙間なくNiで肉盛され、砥粒の突出部にもNiが被覆されていた。
評価テスト
砥粒の突出部に被覆されたNiをドレッシングして除去した後、アルミナセラミックの研磨に使用して性能を評価した。延べ700時間、砥粒が脱落することなく使用できた。一方従来の工具では延べ70時間で砥粒が脱落して使用不可になった。本発明構造は砥粒の脱落防止と耐久性の向上に顕著な効果があることを確認できた。」

以上によれば、引用刊行物2には、
「工具軸材の表面に付着させた砥粒を電着金属で該軸材に埋めて固定した構造からなる電着工具において、該砥粒は、ダイヤモンドであり、表面にニッケル系無電解メッキである無電解メッキ膜を被覆され、該無電解メッキ膜を介して該砥粒が軸材に電着固定されてなり、該砥粒の全面が無電解メッキされていることにより、軸材に電着固定した時、砥粒突出部も電着金属で覆われており、使用時、砥粒突出部を覆う電着金属をドレッシングして除去し、該砥粒を露出させて使用する電着工具。」
との発明(以下、「引用刊行物発明2」という。)が開示されていると認められる。

(4-2)対比
そこで、本願補正発明と引用刊行物発明1とを比較すると、後者は「ワイヤーソーを製造する方法」であり、「長尺線状体の外周面に電着層で固定された複数の砥粒を有する」ものである限りにおいて、前者の「電着ワイヤ工具の製造方法」と一致している。
そして、後者の「単結晶シリコン、水晶、アモルファスシリコン等の高脆性材料の切断加工に用いる」点は、前者の「シリコンからなる硬脆材料切断用」の点に相当しており、以下同様に、後者の「ダイヤモンド砥粒にニッケルメッキ層等の金属メッキ層からなる被覆層が被覆されている被覆砥粒」は、前者の「ダイヤモンドからなる砥粒の表面がNiからなる導電性の被覆層で覆われている被覆砥粒」に、後者の「被覆砥粒を電着漕に貯えられた電着液に分散し」は、前者の「被覆砥粒を用意する」に、後者の「陰極電極Z2を長尺ワイヤー部分に接触させ」は、前者の「負電位を印加した線状体」に、後者の「長尺ワイヤー部分をプーリーPに案内させて電着漕のメッキ浴の中を通過させ」は、前者の「被覆砥粒が混入された鍍金浴中に線状体を浸漬しつつ、プーリによって搬送する」に、夫々相当しているものといえる。
また、電着とは、メッキ、あるいは鍍金のことにほかならないから、後者の「被覆砥粒が長尺ワイヤー部分の外周面に付着するように長尺線状体を走行させて電着する」は、前者の「被覆砥粒を線状体の外周面に電着による鍍金層で固定して」に、相当している。
さらに、後者の「被覆砥粒の一部はメッキ層から突出して固定され、被覆砥粒の突出部分もメッキ層に覆われている」点についてみると、これは、前者の「被覆砥粒を覆う鍍金層が線状体の外周面を覆う鍍金層から突出する」点に相当するものということができる。
そして、後者の「ダイヤモンド砥粒にニッケルメッキ層等の金属メッキ層からなる被覆層が被覆されている被覆砥粒を電着漕に貯えられた電着液に分散」する段階の全体が、前者の「ステップ1」に、後者の「陰極電極Z2を長尺ワイヤー部分に接触させ、長尺ワイヤー部分をプーリーPに案内させて電着漕のメッキ浴の中を通過させ、被覆砥粒が長尺ワイヤー部分の外周面に付着するように長尺線状体を走行させて電着することにより、被覆砥粒はメッキ層により固定されるとともに、被覆砥粒の一部はメッキ層から突出して固定され、被覆砥粒の突出部分もメッキ層に覆われている」段階の全体が、前者の「ステップ2」に相当するものといえる。

以上の通りであるから、両者は、

<一致点>
「ダイヤモンドからなる砥粒の表面がNiからなる導電性の被覆層で覆われている被覆砥粒を用意するステップ1と、
前記被覆砥粒が混入された鍍金浴中に負電位を印加した線状体を浸漬しつつ、プーリによって搬送することにより、前記被覆砥粒を前記線状体の外周面に電着による鍍金層で固定して、前記被覆砥粒を覆う前記鍍金層が前記線状体の外周面を覆う前記鍍金層から突出するようにするステップ2と、
を含むシリコンからなる硬脆材料切断用の電着ワイヤ工具の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
本願補正発明では、「被覆砥粒を電着した線状体をドレッシングストーンに通すことにより、前記線状体の外周面を覆う鍍金層から突出した前記被覆砥粒を覆う前記鍍金層の一部を除去して、前記被覆砥粒を露出させるステップ3」とを含むものであるのに対して、引用刊行物発明1は、「被覆砥粒を電着した線状体」からなる電着ワイヤ-ソーであり、「線状体の外周面を覆う鍍金層から突出した被覆砥粒を覆う鍍金層」があるものの、「ドレッシングストーンに通すことにより」、「被覆砥粒を覆う鍍金層の一部を除去して、前記被覆砥粒を露出させる」ステップはない点。

(4-3)判断
○ 相違点について
相違点に関して引用刊行物発明2をみると、引用刊行物発明2は、「ニッケルを被覆」された「ダイヤモンド砥粒」を基材に「電着」した「電着工具」に関するものである点で基本的に本願補正発明と共通している。
さらに、引用刊行物発明2の、「砥粒を露出させて使用する」という事項についてみるとこれは、使用前に砥粒露出工程があるということであり、使用段階の前段階は製造段階であるといえるから、この点に関して、引用刊行物発明2は「砥粒を露出させる製造方法」と言い換えることができるものである。
してみれば、「ドレッシング」が「ドレッシングストーンを通す」ことによるものである点を除いて、相違点に係る発明特定事項は引用刊行物発明2と異なるところがないものであるところ、「ドレッシング」を「ドレッシングストーン」によって行うことは周知事項であり、例えば、特開平1-281873号公報、特開平8-318525号公報、特開平8-336754号公報に示されており、また、ドレッシングストーンを「通す」点についてみても、例えば、針金などの線状体を加工するに際にダイスなどの加工具を「通す」ことが普通に行われていることを見れば、この点は、ドレッシングするにあたって、ドレッシングの対象物が、何かを「通す」ことのできる「線状体」であるということ以上の技術的意義は見いだせない。

そして、引用刊行物発明1と引用刊行物発明2は、ともに、基材の表面にダイヤモンド砥粒を固定して、このダイヤモンド砥粒による研削を行うものである点では共通の技術であり、突出したダイヤモンド砥粒による研削作用そのものは両者共通のものであるから、引用刊行物2に接した当業者であれば、引用刊行物発明2が引用刊行物発明1に適用できるものと認識でき、両者を組み合わせることは容易に想到できることである。

したがって、相違点に係る発明特定事項の違いは、引用刊行物発明1に引用刊行物発明2を組み合わせたにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

なお、請求人は、審判請求書において、「引用文献2に開示されている『軸回転工具』は、本願発明のワイヤ工具と技術分野が全く異なるので、ここに記載されている研磨工具及びドリル工具等の『軸回転工具』形態に用いられている技術的思想を、引用文献1のワイヤ工具に結び付ける動機付けがなく、引用文献2の開示によって、本願発明の進歩性は阻害されない」と主張し、回答書においても同趣旨の主張をしているが、引用刊行物発明2は、巨視的に見れば電着工具という類似の技術であるとともに、微視的に見ても、電着金属をドレッシングにより除去して砥粒を露出させるという類似の技術であるから、技術分野が異なるという請求人の主張は採用できない。

以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用刊行物発明1及び引用刊行物発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので、改正前特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1、2に係る発明は、平成23年4月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1、2に係る発明(以下、「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、前記第2.の(2)補正前の本願発明に示したとおりのものである。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物、及び、その記載事項は、前記第2.に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明2は、前記第2.で検討した本願補正発明から、前記第2.(2)に記載した補正事項2ないし5の発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明2の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2.(4-3)に記載したとおり、引用刊行物発明1及び引用刊行物発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明2も、同様の理由により、引用刊行物発明1及び引用刊行物発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明2は、引用刊行物発明1及び引用刊行物発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、請求項1についてみるまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-10 
結審通知日 2012-04-11 
審決日 2012-04-24 
出願番号 特願2004-380351(P2004-380351)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B24D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 成彦段 吉享  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 菅澤 洋二
刈間 宏信
発明の名称 電着ワイヤ工具およびその製造方法  
代理人 内山 充  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ