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審決分類 審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  H04M
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H04M
審判 全部無効 2項進歩性  H04M
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  H04M
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  H04M
管理番号 1259962
審判番号 無効2011-800188  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-09-30 
確定日 2012-06-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3048964号発明「電話送受信ユニット、移動体通信中継端末、及び移動体通信端末」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3048964号の請求項2ないし6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許第3048964号の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)についての出願は、平成 9年6月24日に特許出願され、平成12年3月24日にその発明について特許の設定登録がされたものである。

2.その後、平成18年10月13日に本件の請求項1ないし6に係る発明の特許について、無効審判(無効2006-80205)が請求され、平成19年 5月10日に本件特許の請求項1に係る発明の特許を無効とし、同請求項2ないし6に係る発明についての審判請求は成り立たない旨の審決がなされ、同年 6月15日に同審決(以下、「先の審決」という。)の取消しを求めた訴え(平成19年(行ケ)第10214号)が知的財産高等裁判所になされた。

3.さらに、平成19年 9月5日に訂正審判(訂正2007-390103)が請求され、平成20年 1月8日に同審判請求は成り立たない旨の審決がなされ、同年12月11日に知的財産高等裁判所により先の審決の取消し請求が棄却され、先の審決が確定した。

4.その後、請求人は、平成23年9月30日に本件の請求項2ないし6に係る発明の特許について、無効審判を請求した。

5.これに対し、被請求人は、平成23年12月13日付け訂正請求書により訂正を請求し、同年12月19日付けで手続補正書を提出し、訂正請求書に添付した全文訂正明細書を補正するとともに、答弁書を提出しない旨の上申書を提出した。

6.その後、請求人は、平成24年 3月19日付けで口頭審理陳述要領書を提出し、被請求人は、同年 3月21日付けで口頭審理陳述要領書を提出し、同年 4月3日に口頭審理が行われた。

第2 訂正の内容
平成23年12月19日付け手続補正書による補正は、訂正請求書に添付した全文明細書の特許請求の範囲の請求項1を削除するものであって、本件訂正の内容は、本件特許発明の明細書を同手続補正書により補正された全文訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。
すなわち、明細書を下記のとおり訂正することを求めるものである(下線は、訂正箇所を示す。)。

訂正事項a
特許請求の範囲の請求項2の、
「【請求項2】基地局との間で信号を送受信するアンテナと、
通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、
入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、
操作に基づいて操作信号を生成する操作部と、
表示信号に基づいて表示する表示部と、
請求項1記載の電話送受信ユニット全体を収納するスロットと、
前記スロットに設けられ、前記電話送受信ユニットとの間で前記操作信号と前記表示信号を入出力する信号線、及び前記通話用音声信号を入出力する信号線を含む入出力部とを有する
ことを特徴とする移動体通信端末。」という記載を、
「【請求項2】基地局との間で信号を送受信するアンテナと、
通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、
入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、
操作に基づいて操作信号を生成する操作部と、
表示信号に基づいて表示する表示部と、
請求項1記載の電話送受信ユニット全体を収納するスロットと、
前記スロットに設けられ、前記電話送受信ユニットとの間で前記操作信号と前記表示信号を入出力する信号線、及び前記通話用音声信号を入出力する信号線を含む入出力部とを有し、
前記スロットに前記請求項1記載の電話送受信ユニット全体が収容され、前記請求項1記載の電話送受信ユニットについて契約された回線を通じて通話する
ことを特徴とする移動体通信端末。」という記載に訂正する。

訂正事項b
特許請求の範囲の請求項5の、
「【請求項5】請求項2記載の移動体通信端末において、前記移動体通信端末は、携帯電話機、簡易型携帯電話機、携帯情報通信端末、又はモバイルコンピュータであることを特徴とする移動体通信端末。」という記載を、
「【請求項5】請求項2記載の移動体通信端末において、前記移動体通信端末は、携帯電話機又は簡易型携帯電話機であることを特徴とする移動体通信端末。」という記載に訂正する。

訂正事項c
発明の詳細な説明の段落【0009】の、
「【0009】また、上記目的は、基地局との間で信号を送受信するアンテナと、通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、操作に基づいて操作信号を生成する操作部と、表示信号に基づいて表示する表示部と、上記の電話送受信ユニット全体を収納するスロットと、前記スロットに設けられ、前記電話送受信ユニットとの間で前記操作信号と前記表示信号を入出力する信号線、及び前記通話用音声信号を入出力する信号線を含む入出力部とを有することを特徴とする移動体通信端末により達成される。」という記載を、
「【0009】また、上記目的は、基地局との間で信号を送受信するアンテナと、通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、操作に基づいて操作信号を生成する操作部と、表示信号に基づいて表示する表示部と、上記の電話送受信ユニット全体を収納するスロットと、前記スロットに設けられ、前記電話送受信ユニットとの間で前記操作信号と前記表示信号を入出力する信号線、及び前記通話用音声信号を入出力する信号線を含む入出力部とを有し、前記スロットに前記請求項1記載の電話送受信ユニット全体が収納され、前記請求項1記載の電話送受信ユニットについて契約された回線を通じて通話することを特徴とする移動体通信端末により達成される。」という記載に訂正する。

訂正事項d
発明の詳細な説明の段落【0011】の、
「【0011】また、上記目的は、入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、上記の移動体通信中継端末との間で信号を送受信する手段とを有することを特徴とする移動体通信中継端末用の移動体通信端末により達成される。
また、上記の移動体通信端末において、前記移動体通信端末は、携帯電話機、簡易型携帯電話機、携帯情報通信端末、又はモバイルコンピュータであることが望ましい。」を、
「【0011】また、上記目的は、入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、上記の移動体通信中継端末との間で信号を送受信する手段とを有することを特徴とする移動体通信中継端末用の移動体通信端末により達成される。
また、上記の移動体通信端末において、前記移動体通信端末は、携帯電話機又は簡易型携帯電話機であることが望ましい。」という記載に訂正する。

第3 訂正の可否の判断
1.請求人の主張
請求人は平成24年 3月19日付け口頭審理陳述要領書において、本訂正事項aについて、
ア.被請求人が求めた訂正は、・・・、
(1)「前記スロットに前記請求項1記載の電話送受信ユニット全体が収納され」、及び、
(2)「前記請求項1記載の電話送受信ユニットについて契約された回線を通じて通話する」
という2つの要件を新たに付加するものであるから、このような要件を追加したのでは、かえって、「電話送受信ユニット」が「移動体通信端末」に含まれるかの如き誤解を助長させることになりかねない。そうすると、このような訂正は、到底「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものであるとはいえない。

イ.訂正事項aは、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正にもならない。まず、上記
(1)「前記スロットに前記請求項1記載の電話送受信ユニット全体が収納され」
との関係では、請求項2には、「移動体通信端末」が有する「スロット」の要件として、
「請求項1の電話送受信ユニット全体を収納するスロット」
という要件がもともと記載されているのであるから、上記(1)の記載を付加しても、何ら特許請求の範囲を減縮することにはならない。よって、まず、上記(1)の記載のみをもってしても、訂正事項aが、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正とはいえないことは明らかである。
また、上記
(2)「前記請求項1記載の電話送受信ユニットについて契約された回線を通じて通話する」
との要件は、「請求項1記載の電話送受信ユニット」に依拠した規定であるが、・・・、請求項2に係る発明においては、「電話送受信ユニット」自体は「移動体通信端末」には含まれないのであるから、当該構成を付加したところで、「移動体通信端末」という物の発明の構成を減縮していることにはならない。そうすると、上記(2)の記載に関しても、訂正事項aは、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正とはいえない。

ウ.被請求人の当該訂正は、「電話送受信ユニット」が「移動体通信端末」に含まれるかの如き誤解を与えることを意図したものであると解されるが、仮に、このような訂正により、「電話送受信ユニット」が「移動体通信端末」に含まれるものと解釈されることになるならば、訂正前の請求項2に係る発明の対象である「移動体通信端末」(すなわち「電話送受信ユニット」を含まない)は、「『移動体通信端末』と『電話送受信ユニット』の組み合わせ」に変更させられることになる。そうすると、訂正前の発明の対象と訂正後の発明の対象は物として異なることになる(「移動体通信端末」の解釈が変わるといってもよい)から、このような解釈を前提とするのであれば、訂正事項aは、実質上特許請求の範囲を変更する訂正に該当する。

エ.訂正事項aに係る訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものではない。また、仮に、当該訂正により、発明の対象を「電話送受信ユニットを含む移動体通信端末」と解釈するならば、当該訂正は、実質上特許請求の範囲を変更するものである。

と主張し、本訂正事項cについて、
オ.訂正事項a自体、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものではなく、また、実質上特許請求の範囲を変更するものであるから、訂正事項aに伴い、発明の詳細な説明の記載を整合させるべき正当な理由がない。
よって、訂正事項cは、「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものではない。

と主張し、訂正事項a及び訂正事項cに係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号及び第3号、及び特許法第134条の2第5項で読み替えて準用する特許法第126条第4項の規定に違反してされたものであるから、当該訂正は認めるべきでないと主張している。

2.被請求人の主張
被請求人は平成23年12月13日付け訂正請求書の「(4)訂正の原因」において、
ア.上記訂正事項aは、請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的に、本件特許明細書における段落【0027】の「PHS端末を用いて移動体通信を行いたいときには、電話送受信ユニットをPHS端末のカートリッジに装着することにより移動体通信を行うことができる。」、段落【0054】の「【発明の効果】以上の通り、本発明によれば、電話送受信ユニットを移動体通信端末のスロットに装着することにより、移動体通信端末を用いた移動体通信を行うことができる。」を根拠として、「前記スロットに前記請求項1記載の電話送受信ユニット全体が収容され、前記請求項1記載の電話送受信ユニットについて契約された回線を通じて通話する」と訂正するものである。
上記訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮を目的に、「前記移動体通信端末は、携帯電話機又は簡易型携帯電話機である」と訂正するものである。
上記訂正事項cは、明りょうでない記載の釈明を目的として、上記訂正事項aで挙げた本件特許訂正明細書における記載を根拠として、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の整合をとるために上記訂正事項aと同様の訂正を行うものである。
上記訂正事項dは、明りょうでない記載の釈明を目的として、上記訂正事項bで挙げた本件特許訂正明細書における記載を根拠として、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の整合をとるために上記訂正事項bと同様の訂正を行うものである。

イ.したがって、上記訂正事項aの訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、同ただし書第3号に規定する特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、上記訂正事項bの訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、上記訂正事項c、dは、同条ただし書第3号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

ウ.また、上記訂正事項a、cの訂正は、上記訂正の原因で挙示した段落【0027】、【0054】を根拠とするものであり、上記訂正事項b、dの訂正は一部を削除するものであるから、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内であって、かつ、本件特許訂正明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第2項(特許法第134条の2第5項で読み替えて準用する特許法第126条第3項)の規定にも適合するものである。

エ.また、上記訂正事項a、cの訂正は、「前記請求項1記載の電話送受信ユニットが前記スロットに収納されていない」ことを明示の要件としない請求項2について、前記請求項1記載の電話送受信ユニットが前記スロットに収納され、前記請求項1競いの電話送受信ユニットが前記スロットに収納され、前記請求項1記載の電話送受信ユニットについて契約された回線を通じて通話する」としたものであり、上記訂正事項b、dは一部を単に削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないので、特許法第134条の2第2項(特許法第134条の2第5項で読み替えて準用する特許法第126条第4項)の規定にも適合するものである。

オ.訂正後の特許請求の範囲記載事項により特定される発明(訂正発明)は、特許出願の際独立して特許を受けることができる発明であるから、特許法134条の2第2項(特許法第134条の2第5項で読み替えて準用する特許法第126条第5項)の規定にも適合するものである。

とし、訂正事項aないしdの訂正は、訂正要件に適合するものであると主張し、さらに、口頭審理において、訂正された請求項2は電話送受信ユニットを有するものと限定したとも主張している。

3.当審の判断
訂正事項a?dについて検討する。

訂正事項aについて
本訂正事項の「前記スロットに前記請求項1記載の電話送受信ユニット全体が収容され、前記請求項1記載の電話送受信ユニットについて契約された回線を通じて通話する」は、願書に添付した明細書又は図面(以下、「当初の明細書」という。)の段落【0027】の「PHS端末を用いて移動体通信を行いたいときには、電話送受信ユニットをPHS端末のカートリッジに装着することにより移動体通信を行うことができる。」あるいは【0054】の「【発明の効果】以上の通り、本発明によれば、電話送受信ユニットを移動体通信端末のスロットに装着することにより、移動体通信端末を用いた移動体通信を行うことができる。電話送受信ユニットは様々な移動体通信端末に装着することができるので、複数の回線を契約することなく、1つの回線を契約するだけで、時、場所、場合に応じた快適な移動体通信を提供することができる。」に記載した事項から自明な範囲内のものと認められる。
次に、本訂正事項の「前記スロットに前記請求項1記載の電話送受信ユニット全体が収容され、前記請求項1記載の電話送受信ユニットについて契約された回線を通じて通話する」は、上記本件特許明細書の段落【0027】及び【0054】の記載に基づいて「移動体通信端末」の動作を特定するものと認められ、当初の明細書に記載した事項から自明な範囲内において、特許請求の範囲の減縮を目的にしたものといえる。
そして、本訂正事項の「前記スロットに前記請求項1記載の電話送受信ユニット全体が収容され、前記請求項1記載の電話送受信ユニットについて契約された回線を通じて通話する」という記載のみでは、請求項2記載の「移動体通信端末」が「請求項1記載の電話送受信ユニット」を備えているものとは解釈できないので、請求人の「訂正前の請求項2に係る発明の対象である「移動体通信端末」(すなわち「電話送受信ユニット」を含まない)は、「『移動体通信端末』と『電話送受信ユニット』の組み合わせ」に変更させられる。そうすると、訂正前の発明の対象と訂正後の発明の対象は物として異なることになる(「移動体通信端末」の解釈が変わるといってもよい)から、このような解釈を前提とするのであれば、訂正事項aは、実質上特許請求の範囲を変更する訂正に該当する。」という主張を採用することはできない。
また、被請求人の口頭審理における「訂正された請求項2は電話送受信ユニットを持つものと限定した」という主張は、本訂正事項との関係を具体的に説明するものではなく、当該主張を採用することもできない。

訂正事項bについて
本訂正事項は、「移動体通信端末」を「携帯電話機、簡易型携帯電話機、携帯情報通信端末、又はモバイルコンピュータ」から「携帯電話機又は簡易型携帯電話機」に択一的記載の要素を削除するものであるから、当初の明細書に記載した事項から自明な範囲内において、特許請求の範囲の減縮を目的に訂正したものといえる。

訂正事項c及び訂正事項dについて
本訂正事項は、前記訂正事項a、bにより訂正された特許請求の範囲の記載と整合を取るためのものであるから、当初の明細書に記載した事項から自明な範囲内において、明りょうでない記載の釈明を目的としたものといえる。

(むすび)
本訂正事項は、上記「訂正事項aについて」?「訂正事項c及び訂正事項dについて」に記載したとおり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的としてしたものであるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。
したがって、平成23年12月13日付けの訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び同条第5項の規定において準用する同法第126条第3項、及び第4項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第4 本件発明
前記「第3 訂正の可否の判断」に記載したとおり、本件訂正が認められるから、本件の訂正後の請求項2?6に係る発明(以下、「本件特許発明2」?「本件特許発明6」という。)は、平成23年12月13日付けの訂正請求書に添付した全文訂正明細書、及び、同年12月19日付けの手続補正書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2?6に記載された次のとおりのものと認める。
なお、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)の特許は、「第1 手続の経緯」「2.」に記載したとおり、無効とする審決が確定しているが、本件特許発明2?6は請求項1を引用していることから、本件特許発明1も便宜上記載する。

(本件特許発明1)
「アンテナにより受信される受信信号をスピーカから音声として出力する通話用音声信号に変換する機能と、マイクに入力される音声が変換された通話用音声信号を前記アンテナから出力する送信信号に変換する機能と、操作部からの操作信号に基づいて所定の処理を行う機能と、表示部に表示する表示信号を生成する機能とを有する電子回路と、
前記電子回路を含み、前記スピーカ及び前記マイクを端末本体に備えた複数の移動体通信端末の各々に設けられたスロットに全体が収納されるような形状に形成されたカートリッジと、
前記カートリッジに設けられ、前記移動体通信端末との間で前記操作信号と前記表示信号を入出力する信号線、及び前記通話用音声信号を入出力する信号線を含む入出力部とを有し、
1つの回線を契約するだけで前記複数の移動体通信端末によって通話を可能にすることを特徴とする電話送受信ユニット。」

(本件特許発明2)
「基地局との間で信号を送受信するアンテナと、
通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、
入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、
操作に基づいて操作信号を生成する操作部と、
表示信号に基づいて表示する表示部と、
請求項1記載の電話送受信ユニット全体を収納するスロットと、
前記スロットに設けられ、前記電話送受信ユニットとの間で前記操作信号と前記表示信号を入出力する信号線、及び前記通話用音声信号を入出力する信号線を含む入出力部とを有し、
前記スロットに前記請求項1記載の電話送受信ユニット全体が収容され、
前記請求項1記載の電話送受信ユニットについて契約された回線を通じて通話することを特徴とする移動体通信端末。」

(本件特許発明3)
「基地局との間で信号を送受信するアンテナと、
請求項1記載の電話送受信ユニット全体を収納するスロットと、
前記スロットに設けられ、前記電話送受信ユニットとの間で信号を入出力する入出力部と、
移動体通信中継端末用の移動体通信端末との間で信号を送受信する手段とを有することを特徴とする移動体通信中継端末。」

(本件特許発明4)
「入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、
通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、
請求項3記載の移動体通信中継端末との間で信号を送受信する手段とを有することを特徴とする移動体通信中継端末用の移動体通信端末。」

(本件特許発明5)
「請求項2記載の移動体通信端末において、
前記移動体通信端末は、携帯電話機又は簡易型携帯電話機であることを特徴とする移動体通信端末。」

(本件特許発明6)
「請求項4記載の移動体通信中継端末用の移動体通信端末において、
前記移動体通信端末は、万年筆、キーホルダ、ライタ、又はペンダントの形態を有していることを特徴とする移動体通信中継端末用の移動体通信端末。」

第5 請求人の主張
請求人は、本件の請求項2ないし6に係る発明の特許を無効とするとの審決を求め、その理由として、
1.本件特許の特許請求の範囲の請求項2、5に記載された発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基づいて、あるいは、甲第1、2、4、5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反する(請求人の審判請求書及び口頭審理陳述要領書中の表現を援用し、以下、「無効理由(II)」という。)。

2.本件特許の特許請求の範囲の請求項2、5に記載された発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第2、4、5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反する(以下、「無効理由(III)」という。)。

3.本件特許の特許請求の範囲の請求項2、5に記載された発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第2、4、5、6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反する(以下、「無効理由(IV)」という。)。

4.本件特許の特許請求の範囲の請求項3、4、6に記載された発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明であるか、同甲第2、4、5、7?9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、第29条第1項第3号に該当するか、もしくは、特許法第29条第2項の規定に違反する(以下、甲第2号証のみに係るものを「無効理由(V)-1」といい、甲第2、4、5、7?9号証に係るものを「無効理由(V)-2」という。)。

5.本件特許の特許請求の範囲の請求項3、4、6に記載された発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第2、4、5、7?10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反する(以下、「無効理由(VI)」という。)。
旨を、無効審判請求書、口頭審理陳述要領書により主張する。

(証拠方法(書証))
甲第1号証 特開平8-186516号公報
甲第2号証 国際公開94/21058号パンフレット
甲第3号証 研究社新英和大辞典(2002年3月)
甲第4号証 特開平9-139972号公報
甲第5号証 特開平9-149109号公報
甲第6号証 国際公開95/34958号パンフレット
甲第7号証 特開平8-339号公報
甲第8号証 特開平5-211466号公報
甲第9号証 特開平5-83409号公報
甲第10号証 特開平8-153075号公報
甲第11号証 無効2006-80205号審決
甲第12号証 知的財産高等裁判所平成20年12月11日判決(平成19年(行ケ)10214号)
甲第13号証 東京地方裁判所平成18年12月 5日判決(平成18年(ワ)6108号)
甲第14号証 東京地方裁判所平成23年11月29日判決(平成22年(ワ)1832号)
甲第15号証 東京地方裁判所平成23年11月29日判決(平成22年(ワ)39014号)

第6 被請求人の主張
一方、被請求人は、
1.無効理由(II)に対して
甲第1号証記載の「無線本体部」が本件請求項2に係る発明における「請求項1記載の電話送受信ユニット」の構成要件を備えるものでないことは明らかである。したがってまた、本件請求項2に係る発明における「入出力部」を備えるものでないことも明らかである。
甲第2号証、甲第4号証にも、上記「請求項1記載の電話送受信ユニット」は開示されていない。
したがって、甲第1号証記載発明に甲第2号証、甲第4号証記載発明を組み合わせたところで、本件請求項2に係る発明は構成できない。
請求項2に係る発明を無効にすべき理由が存しない以上、請求項5に係る発明も有効である。

2.無効理由(III)について
甲第5号証には「請求項1記載の電話送受信ユニット」については明示されていない。
また、甲第2号証、甲第4号証にも、上記「請求項1記載の電話送受信ユニット」は開示されていない。
仮に、甲第5号証に記載の「基本部」を「前記請求項1記載の電話送受信ユニット」のように構成したとしても、甲第5号証「周辺部」は「前記請求項1記載の電話送受信ユニット全体を収納するスロット」を有するものではなく、甲第5号証の携帯電話の周辺部に甲第4号証或いは甲第2号証記載のパソコン本体を組み合わせることはできないし、組み合わせる動機付けもない。しかも、甲第5号証の「基本部」はアンテナが基本部の上部から突出しているが、このような基本部を甲第2号証のパソコン本体内に全体収納することまで甲第2号証、甲第4号証には開示されていない。
したがって、甲第5号証記載発明に甲第2号証、甲第4号証記載発明を組み合わせたところで、本件請求項2に係る発明は構成できない。
請求項2に係る発明を無効にすべき理由が存しない以上、請求項5に係る発明も有効である。

3.無効理由(IV)について
甲第6号証記載の「PCモジュール」が本件請求項2に係る発明における「請求項1記載の電話送受信ユニット」の構成要件を備えるものでないことは明らかである。したがってまた、本件請求項2に係る発明における「入出力部」を備えるものでないことも明らかである。
甲第2号証、甲第4号証にも、上記「請求項1記載の電話送受信ユニット」は開示されていない。
したがって、甲第6号証記載発明に甲第2号証、甲第4号証記載発明を組み合わせたところで、本件請求項2に係る発明は構成できない。
請求項2に係る発明を無効にすべき理由が存しない以上、請求項5に係る発明も有効である。

4.無効理由(V)、(VI)について
甲第2号証、甲第10号証には「請求項1記載の電話送受信ユニット」について開示されていないのであるから、請求項3に係る発明を構成することはできず、請求項3に係る発明を無効にすべき理由が存しない以上、請求項4、6に係る発明も有効である。
旨を、口頭審理陳述要領書により主張する。

第7 各甲号証
1.甲第1号証(特開平8-186516号公報)
甲第1号証には、「携帯無線機」の構成として、添付図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア.「【0014】
【実施例】次に、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施例の概念構成図である。携帯無線機の回路構成部分は、無線本体部1と、ベースバンド処理部2とで分割構成されており、無線機ケース3内に収納される。この無線機ケース3にはアンテナ4、マイク5、スピーカ6、キー操作部7、表示部8が固定的に設けられており、前記ベースバンド処理部2は無線機ケース3内に固定的に内装される。一方、前記無線本体部1は、ここでは小型のカード型に形成されており、無線機ケース3に設けた開口3aを通してケース内に着脱可能とされ、装着されたときにはベースバンド処理部2とアンテナ4に対してコネクタ9により電気的な接続が行われるように構成される。」(第3頁3欄)

イ.「【0018】したがって、携帯無線機の使用者は、1台の携帯無線機と、複数の異なる無線本体部1を用意しておくことになる。そして、使用する通信システムに対応する無線本体部1を携帯無線機のケース3内に装着する。この場合、無線本体部1はカード型に形成されているため、図1の例のように、携帯無線機のケース3に設けた開口3aを通して無線本体部1を着脱でき、装着したときにはコネクタ9によってベースバンド処理部2及びアンテナ4への接続が実現される。
【0019】このように、通信システムに対応して無線本体部1を選択して携帯無線機のケース3に内装し、ベースバンド処理部2とアンテナ4に対して電気接続を行うと、ベースバンド処理部2のCPU208は、無線本体部1のメモリ103にロードされているその通信システムのソフトウェアを取り込む動作を行い、以降はこのソフトウェアに基づいて前記DSP207と無線本体部1を、その通信システムのプロトコルに合うような制御を実行する。これにより、無線本体部1が適用される通信システムでの無線通信が可能とされる。」(第3頁4欄)

2.甲第2号証(国際公開94/21058号パンフレット)
甲第2号証には、「MODULAR RADIO COMMUNICATIONS SYSTEM」(訳文:モジュラー無線通信システム)に関する技術が、添付図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア.「The present invention relates to modular radio communications equipment. More particularly, one aspect of the present invention includes providing card mounted radio telephone and/or modem equipment configured for wireless telecommunication (which includes voice and/or data) in accordance with a preselected standard and/or format. Such modular units may be replaceably secured within other items of electronic equipment for establishing therefrom a telecommunications link with a wireless network. In one embodiment, such equipment includes portable cellular radio subscriber terminals.
In another aspect, the invention includes a modular housing for mounting a radio transceiver adapted for telecommunications in accordance with a preselected standard. An array of contacts are arranged along a first end of the housing and adapted for engagement with a mating array of contacts in an item of electronic equipment, such as a computer or portable communications device.」(第4頁1?20行)
(訳文:「本発明は、モジュラー無線通信装置に関する。より詳細には、本発明の1つの形態は、予め選択された規格及び/又はフォーマットに従う無線通信(音声及び/又はデータを含む)のために構成されたカード型無線電話及び/又はモデム装置を提供することである。かかるモジュラーユニットは、それによる無線ネットワークとの通信リンクを確立するため、他種の電子装置の中に交換可能に保護収容される。一実施例では、そのような装置は、携帯セルラ無線電話加入者端末を含む。
本発明の他の形態は、選択された規格に従った通信に適応される無線送受信機を搭載するためのモジュラー筐体を含む。接触子列が当該筐体の第一の端部に沿って配置され、その接続子列がコンピュータや携帯通信装置などのひとつの電子装置中の嵌合接触子列に係合可能となっている。」)

イ.「Referring now to FIG.11 there is shown an alternative mounting of the modular unit 131 of FIG. 10 and an alternative modification to the PC 200. In this particular view, the modular unit 131 is being installed in PC 200 constructed with a flap 280. The flap 280 is provided in a configuration for closure over the unit 131 and direct coupling with coaxial connector 51, while continuing to expose external power connector 54. In this embodiment, an internal antenna 270 is installed within the PC 200 and connected by a wire 271 (shown in phantom) to flap connector pin 272 of flap 280. Aperture 273 is positioned in flap 280 for alignment with power connector 54 of module 131 and sized to facilitate receipt of, and connection from, plug 252A into connector 54. As described above, connector 133 of module 131 is shown to matingly connect with slot connector 204 disposed one end 205 of slot 201. In an alternative embodiment, not specifically shown, an internal power supply from the PC 200 may be connected to the connector 54 of module 131 by coupling to a power connection pin disposed on the flap 280 in place of the aperture 273. The illustration thereof, if shown, would be similar to the illustration of the power supply 290 of FIG. 12 (discussed below) but with a line 291 extending to the flap 280.」(第16頁27行?第17頁17行)
(訳文:「図11を参照するに、図10におけるモジュラーユニット131の別の装着法とPC200の別の変形例とが示されている。この図を見ると、モジュラーユニット131は、フラップ280が設けられたPC200の中に装着されようとしている。このフラップ280は、外部電源コネクタ54を露出させつつ、ユニット131を閉包し、かつ同軸コネクタ51と直接連結されるように設けられている。この実施例において、内部アンテナ270はPC200内に設けられ、導線271(透視図により示される)によってフラップ280のフラップ接触子272へ接続される。開口273は、モジュール131の電源コネクタ54と一致するようにフラップ280に配置され、プラグ252Aがコネクタ54へ入りやすく、かつ接続しやすいような寸法とされる。以上説明したように、モジュール131のコネクタ133は、スロット201の端部205に配置されたスロットコネクタ204と嵌合接続することが示される。特に図示していない別の実施例では、開口273に代えてフラップ280に配置された電源接続接触子への結合により、PC200からの内部電源をモジュール131のコネクタ54に接続することができる。もしその図を描くとすれば、図12の電源290(以下に説明する)と同様の図になるが、導線291についてはフラップ280まで延長される。」)

ウ.「Referring now to FIG. 14 there is shown a diagrammatical illustration of the versatility and multiple uses possible with the modular units 31 and 131 of the present invention. As stated above, either module 31 or 131 may be used in such applications, although only module 31 is represented in this particular drawing. As represented herein, there are at least two wireless functions provided by the modular units 31 and 131. Several technologies may, in fact, reside on a single card within the modular units 31 and 131. For example, Mobitex and AMPS communication formats may be utilized. With the unit 31 herein shown plugged into a notebook 300, data communication over Mobitex may be therein provided. Telephone calls may likewise be completed through the AMPS system or other format, wherein a head set 302 is shown linked to the notebook 300. An infrared link 304 is illustrated, although other connections would be possible. Likewise, module mounting slot 306 is shown within housing 308 of notebook 300. A communication antenna 310 is shown on the top 312 of the notebook 300. The notebook 300 may be of a conventional design which has been modified for the slot 306 and the other connection and system aspects described above. More specifically, the slot 306 is constructed for the receipt of, and mating engagement with, connector 33 of the module 31. It may be seen that the module 31 in this particular embodiment is constructed for both power and antenna coupling from the area around connector 33, as described in FIG. 4 above.」(第18頁33行?第19頁27行)
(訳文:「ここで図14を参照すると、本発明によるモジュラーユニット31及び131と電子装置により構成されるシステムの多様で複合的な用途が図示されている。前述したとおり、モジュール31と131の両方がこのような応用に使用可能であるが、この図においてはモジュール31のみが描写されている。本明細書で説明しているように、少なくとも二つの無線機能がモジュラーユニット31及び131によって提供される。事実上、いくつかの技術がモジュラーユニット31及び131内の単一カード上に常駐可能である。例えば、Mobitex及びAMPS通信フォーマットが使用可能である。ユニット31を、図のようにノートブック300の中に装着し、データ通信を行う。そこでは、Mobitexが提供される。電話もAMPSシステムや他のフォーマットを通して同様に通話することができ、そこではノートブック300に接続されたヘッドセット302が示されている。赤外線接続304が示されているが、その他の接続手段も可能である。同様に、モジュール装着スロット306は、ノートブック300の筐体308内部に図示されている。通信アンテナ310はノートブック300の頂部312の上に図示されている。ノートブック300は、スロット306及びその他の接続並びに上述したシステムの形態について改良された通常のデザインでよい。より具体的には、スロット306はモジュール31のコネクタ33を受容し、嵌合接合するように構成されている。この特定の実施例におけるモジュール31は、前記図4で説明されたように、コネクタ33の周りの領域から電源とアンテナの両方の結合のために構成されることがわかる。」)

エ.「Still referring to FIG. 14, a second utilization of the module 31 may be within a cellular telephone 309. The phone 309 incorporates a chassis 309A of conventional design, or which incorporates a special display (not shown). The modular 31 is inserted into slot 311 and connected with a software generated display that corresponds to technology and the standards that are activated. In that regard a touch screen may then display the available phone features that can then be dialed. Antenna 312 is shown to upstand from chassis 310 in accordance with the aspects of the invention discussed above.」(第19頁32行?第20頁8行)
(訳文:「さらに図14を参照すると、モジュール31の二番目の利用態様は携帯電話309の内部にあることだろう。この電話309は、通常設計の、又は専用表示装置(図示せず)を備えたシャーシ309Aを含む。モジュール31は、スロット311の中に挿入され、有効な技術並びに規格に対応したソフトウエア生成表示につながれる。その点に関し、タッチスクリーンは、次にダイアルすることのできる有効な電話機能を表示するようにしてもよい。上述の本発明の形態に従い、アンテナ312はシャーシ310から直立して示されている。」)

オ.「Still referring to FIG. 14 there is shown a pen based computer 313 or similar structure which serves to provide pen input while generating a display similar to a cellular phone when activated. Due to the fact that the system for a cellular phone is already in the computer by virtue of the module 31 secured within slot 314, the user can use the option of telephonic communication by simply connecting a headset 316 through an infra red connection 318 or a headset 320 connected by a conventional cable 322. The computer can then be simultaneously used for data communication, faxes, and other forms of informational exchanges which are deemed necessary.」(第20頁9?21行)
(訳文:「さらに図14を参照すると、ペン型コンピュータ313あるいは活性化されたときに携帯電話と同様の表示を発生しつつペン入力を提供する同様の構造物が示されている。スロット314の内部に固着された(secured within)モジュール31の力で(by virtue of)コンピュータの中に携帯電話のシステムが既に在るという事実により、使用者は、赤外線接続318を介したヘッドセット316、又は、通常のケーブル322によって接続されたヘッドセット320を、単に接続することにより、電話通信の選択を使うことができる。このコンピュータは、同時にデータ通信、ファックス、及び必要とされるその他の形式の情報交換に使用することができる。」)

カ.図11に、アンテナを本体側に内蔵したPC200のスロット201に、モジュラーユニット131が装着され、モジュラーユニット側コネクタ133がスロット側コネクタ204に接続されるとともに、モジュラーユニット131がフラップ280によって閉包(closure over)されることが読み取れる。

キ.図14に、一つのモジュラーユニット31が、携帯電話309、ヘッドセットを備えたノートブック300、及び、持ち運び可能でヘッドセットを備えたコンピュータ313の各スロットに交代で装着され使用されることが読み取れる。

a)上記イ.カ.の記載及び図11によれば、モジュラーユニット131は、PC200のスロット201に装着され、モジュラーユニット側コネクタ133がスロット側コネクタ204に接続されるとともに、モジュラーユニット131はフラップ280によってスロット内に閉包(closure over)されるものである。
すると、甲第2号証の記載、添付図面及びこの分野の技術常識によれば、上記甲第2号証には、以下の技術が開示されていると認められる。

「パーソナルコンピュータ(パソコン、PC)に設けられたスロットに全体が収納されるような形状に形成されるモジュラーユニット(無線送受信ユニット)」(以下、「甲2技術A-1」という。)
及び、
「モジュラーユニット(無線送受信ユニット)全体を収納するパーソナルコンピュータ(パソコン、PC)に設けられたスロット」(以下、甲2技術A-2」という。)

b)同様に、上記エ.の記載及び図14によれば、モジュラーユニット31は、携帯電話309に装着されることにより、移動体通信端末として通話が可能となることが明らかである。
また、上記ウ.の記載及び図14によれば、ノートブック300に装着されたモジュラーユニット31(又は131)内に、モビテックス(Mobitex)の通信フォーマットを搭載すればデータ通信ができるようになる一方、アンプス(AMPS)等の通信フォーマットを搭載すれば電話ができるようになるのであるから、アンプス等を搭載したモジュラーユニット31がヘッドセット302を備えたノートブック300に装着されることにより、電話による通話が可能となることが明らかであり、モジュラーユニットは「電話送受信ユニット」ということができるものである。
ここで、甲第2号証の第1頁13?15行の「Personal computers have become smaller and more efficient in their progression through desktop, laptop, notebook, and palmtop versions.」(訳文:パーソナルコンピュータは、デスクトップ、ラップトップ、ノートブック、及びパームトップの順の進行で、より小さく、より効率的になってきた。)の記載、及び、同第7頁27?29行の「Referring first to FIG.1,・・・such as a laptop or notebook computer 11・・・」(訳文:最初に図1を参照すると、・・・ラップトップやノートブックコンピュータのような・・・)の記載に照らせば、前記ノートブック300は、周知のノートブック型コンピュータのことであることが自明である。
そして、上記ノートブック型コンピュータを使って電話による通話を行うには、スピーカとマイクが必要であることは当然のことであるから、上記ノートブック型コンピュータに備えられたヘッドセットのスピーカとマイクが通話に使用されると解釈することが自然である。
同様に、上記オ.の記載及び図14によれば、活性化されたときに携帯電話に似た表示が生成され、ペン入力できるペン方式コンピュータ313等においても、スロットに装着された同じモジュラーユニット31の力により、使用者は単にペンコンピュータ313にヘッドセット320を接続するだけで、電話通話の選択が可能となるのである。そして、上記ノートブック型コンピュータと同様に、ペン方式コンピュータにおいても、そこに備えられたヘッドセットのマイクとスピーカを使って通話が可能となると解釈することが自然である。
そして、甲第2号証の第2頁34行?第3頁2行の「a telecomunications terminal, such as a portable telephone or a portable personal computer, could be adapted for communication with different systems by simply replacing the modular unit」(訳文:持ち運び可能な電話又は持ち運び可能なパーソナルコンピュータのような無線通信端末は、単にモジュラーユニットを交代させるだけで異なったシステムの通信に適用可能になりうる)旨の記載及び図14に記載された携帯電話309、ノートブック型コンピュータ300、及びペン方式コンピュータ313の図を参照すると、これらの装置が持ち運んで使用可能であることが示唆されるから、図14に記載された携帯電話、ノートブック型コンピュータ、及びペン方式コンピュータは、何れも移動体通信端末であるということができる。
以上により、上記甲第2号証の記載、添付図面及びこの分野の技術常識によれば、上記甲第2号証には、以下の技術が開示されていると認められる。

「一つの電話送受信ユニット(モジュラーユニット)が、スピーカ及びマイクを備えた複数の移動体通信端末のスロットに交代して装着されることにより、装着された各々の移動体通信端末において通話を可能にする電話送受信ユニット(モジュラーユニット)」(以下、「甲2技術B」という。)

c)同様に、上記ウ.の記載及び図14によれば、ヘッドセット302は赤外線接続304によってノートブック300に接続されていることから、ノートブック300はヘッドセット304と無線(赤外線)信号の送受信をする手段を有することは明らかであって、ノートブック300(ノートブック型コンピュータ)は、上記b)に記載したとおり移動体通信端末であって、ヘッドセットからみると中継端末として機能しているということができるものである。そして、ヘッドセット302を使用して電話による通話を行うことから、ヘッドセットのマイクが入力した音声を通話用音声信号に変換すること、同スピーカが通話用音声信号を音声として出力することは自明のことである。
同様に、上記ウ.の記載及び図14によれば、ノートブック300は、頂部312に通信アンテナ310を備え、モジュラーユニット31を装着するスロット306を有し、スロット306はモジュールユニット31のコネクタ33と係合し、コネクタ33の周辺部がアンテナと結合する構成となっていることが明らかである。また、モジュラーユニットがセルラ無線電話加入者端末で使用される(上記ア.の記載参照。)ことから、通信アンテナ312がセルラ無線電話の基地局との間で信号を送受信するためのものであることは自明のことである。
すると、甲第2号証の記載、添付図面及びこの分野の技術常識によれば、上記甲第2号証には、以下の技術が開示されていると認められる。

「基地局との間で信号を送受信するアンテナと、
電話送受信ユニット(モジュラーユニット)を装着するスロットと、
前記スロットに設けられ、前記電話送受信ユニットのコネクタとの間で信号を入出力する係合部と、
ヘッドセットとの間で無線信号を送受信する手段とを有する移動体中継端末」(以下、「甲2技術C-1」という。)
及び、
「入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、
通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、
移動体中継端末との間で無線信号を送受信する手段とを有するヘッドセット」(以下、「甲2技術C-2」という。)

3.甲第4号証(特開平9-139972号公報)
甲第4号証には、「携帯無線電話装置」に関する技術が、添付図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア.「【請求項1】送受信アンテナ部と、
供給されるデータに応じて上記送受信アンテナ部を通じて送出すべきデータ信号を形成する送信処理部と、
該送信処理部に音声データを供給するマイクロフォンを含んだ音声データ形成部と、
上記送受信アンテナ部を通じた外部データ信号を受信して再生データを得る受信処理部と、
該受信処理部から得られる再生データに基づいて再生音声を得るスピーカを含む音声再生部と、
上記送受信アンテナ部の部分,送信処理部,音声データ形成部,受信処理部及び音声再生部を収容し、標準化された三次元寸法を有するICカードを全体的に収容できるカード挿入部が該カード挿入部に収容されたICカードとの電気的接続がなされる内蔵コネクタ部を伴って設けられた電子情報処理機器に対し、上記カード挿入部に全体的に収容される状態をもって装着可能とされる外形寸法をとる匣体と、
該匣体に設けられ、該匣体が上記カード挿入部に全体的に収容される状態をもって装着されたとき上記内蔵コネクタ部に接続されて、上記電子情報処理機器からのデータが上記送信処理部に供給される状態、及び、上記受信処理部からの再生データが上記電子情報処理機器に供給される状態をもたらすコネクタ部と、を備えて構成される携帯無線電話装置。」(第2頁1欄、【特許請求の範囲】)

イ.「【0012】そして、本発明に係る携帯無線電話装置は、電子情報処理機器によるデータ通信に供される状態をとるときには、その匣体が電子情報処理機器に設けられたカード挿入部に全体的に収容される状態におかれるので、電子情報処理機器を含んで構成される装置全体を、外観的に優れたものにできるとともに、移動あるいは向きの変更等に際して取扱い易く、かつ、使い勝手が良いものなすことができる。」(第4頁5欄)

上記ア.の記載によれば、匣体は、電話通信のための無線送受信機能を有することが明らかであるとともに、上記イ.の記載によれば、当該匣体はカード挿入部に「全体的に収容される状態」におかれることが明示されている。
すると、上記甲第4号証の記載、添付図面及びこの分野の技術常識によれば、上記甲第4号証には、 以下の技術が開示されていると認められる。

「無線送受信機能を有するユニットをパーソナルコンピュータ等の電子機器のスロットに装着する際、そのユニットが全体的に収容される状態にする」技術(以下、「甲4技術」という。)。

4.甲第5号証(特開平9-149109号公報)
甲第5号証には、「携帯電話器ユニット」に関する技術が、添付図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア.「【請求項1】 携帯電話器の無線通信機能部品を内蔵する基本部と、携帯電話器の電話機能部品を内蔵する周辺部とを有し、前記基本部と周辺部を分離可能に接続したことを特徴とする携帯電話器ユニット。」(第2頁1欄、【特許請求の範囲】)

イ.「【0004】したがって、本発明の目的は、本来の携帯電話器として使用できると共に、携帯電話器が有する無線通信機能に着目して、無線通信機能を有する部分を他の電子機器と組み合わせて使用可能な携帯電話器ユニットを提供することにある。」(第2頁2欄)

ウ.「【0008】基本部12は、パソコン等のメモリカードの一般的な規格、例えば、PCMCIA(Personal Computer Memory Card International Association )規格の形状と一致するメモリカード(ICカード)形状の下部20と、後述する周辺部の基本部保持部に載置するのに適した形状の上部22と、上部22の上部に取り付けられたアンテナ24から成り、基本部12の内部には、画像、文章等のデータと音声を処理する処理部と、無線通信を行うための無線通信部と、制御部が設けられている。また、下部20の下端20aは、PCMCIA規格のコネクタとして構成されている。即ち、複数の接点を内部に持つプラグとして構成されている。
【0009】周辺部14は、本体部分30を有し、本体部分30の前面には、図2の断面図で示すように、スピーカ38、LCD(液晶表示装置)40、キー(プッシュボタン)42、マイク44が設けられている。また、周辺部14の後部には、本体部分30と一体となって筒状の基本部保持部32を形成している。・・・(中略)・・・
【0011】図2、図3に示すように、周辺部14の本体部30と基本部保持部32で形成された筒の内部にはPCMCIA規格のコネクタ46が設けられている。このコネクタ46は前述の基本部12のコネクタ20aと接続されるものであり、複数のピン46aを有するレセプタクルとして構成されている。勿論、筒の内部形状は、基本部12の下部を受け入れてガタなく保持する形状に形成されている。
【0012】次に、携帯電話器ユニットの電子回路を図4を参照して説明する。図4に示すように、基本部12は、RFモジュール50、変復調モデム52、チャンネルコーデック(TDMA方式:Time Division Multiple Access 方式)54、ADPCM(Adaptive Differential Pulse Code Modulation )コーデック56、PCMCIAI/F(インターフェース)58、ROM/RAM60、EEP-ROM62、マイクロコントローラ64、音声/データセレクタ66を有している。
【0013】前述の各部の機能を概略すると、RFモージュル50は、無線周波数の処理用モジュールであり、変復調モデム52は、送信のためにチャンネルコーデック54からの信号を変調し、また受信のためにRFモジュール50からの信号を復調するための変調復調器であり、チャンネルコーデック54は、送信、受信データの組立て、分解を行い、ADPCMコーデック56は適応型差分パルス符号変調(データ圧縮、伸張)を行い、PCMCIAI/F58は、周辺部14または後述するパソコン等のPCMCIAI/Fと接続するためのインターフェースである。
【0014】ROM/RAM60、EEP-ROM62は、基本部12を制御するプログラムを格納し、作業中のワーキング領域となるメモリであり、マイクロコントローラ64は、ROMに格納されたプログラムに従って基本部12および周辺部14内の各機能部品を制御するものであり、音声/データセレクタ66は、PCMCIAI/F58からの音声またはデータを選択的にチャンネルコーデック54またはADPCMコーデック56に転送し、またはそれらからの音声またはデータをPCMCIAI/F58に転送するものである。
【0015】周辺部14は、前述のように、LCD40、キースイッチ42、マイク44、スピーカ38を有している。」(第2頁2欄?第3頁4欄)
エ.「【0017】携帯電話器として用いる場合を概略すると、キースイッチ(プッシュボタン)42を用いて無線通話を行う相手の電話番号を押す。このとき、LCD40は電話番号を表示する。キースイッチ42で入力された電話番号データは基本部12のPCMCIAI/F58を介して音声/データセレクタ66に転送され、チャンネルコーデック54によって送信データに組み立てられ変復調モデム52によって変調され、RFモジュール50を介してアンテナ24によって無線によって送信される。
【0018】電話回線が接続されると、以後、通常の携帯電話器と同様な動作が行われる。即ち、通話の送信では、マイク44から入力された音声は基本部12のPCMCIAI/F58を介して音声/データセレクタ66に転送され、音声/データセレクタ66からADPCM56に転送され、そこで、音声は圧縮され、チャンネルコーデック54に転送され、チャンネルコーデック54によって送信データに組み立てられ変復調モデム52によって変調され、RFモジュール50を介してアンテナ24によって無線によって送信される。
【0019】一方、通話の受信では、アンテナ24で受信した音声信号は、RFモジュール50で処理され、その後変復調モデム52によって復調され、チャンネルコーデック54によって受信データとして分解され、ADPCM56によって伸張され、音声/データセレクタ66に転送され、次に、基本部12のPCMCIAI/F58を介して周辺部14のスピーカ38に転送され、音声として出力される。
【0020】図5(b)は、携帯電話器ユニット10をパソコン70と共に使用する例を示す。例えば、パソコン70で作成したデータを他の電子機器(パソコンを含む)に無線送信することや、他の電子機器(パソコンを含む)からのデータを無線受信することに使用できる。この場合、基本部12は周辺部14と分離され、パソコン70に設けられたPCMCIA規格のコネクタに接続される。その後、携帯電話器の無線通信機能を用いて無線でデータを送受を行う。
【0021】例えば、パソコン70からのデータの送信では、パソコンからのデータは、基本部12のPCMCIAI/F58を介して音声/データセレクタ66に転送され、音声/データセレクタ66からチャンネルコーデック54に転送され、チャンネルコーデック54によって送信データに組み立てられ変復調モデム52によって変調され、RFモジュール50を介してアンテナ24によって無線によって送信される。
【0022】一方、他の電子機器からのデータの受信では、アンテナ24で受信した音声信号は、RFモジュール50で処理され、その後変復調モデム52によって復調され、チャンネルコーデック54によって受信データとして分解され、音声/データセレクタ66に転送され、次に、基本部12のPCMCIAI/F58を介してパソコン70に入力される。」(第3頁4欄?第4頁5欄)

オ.「【0024】
【発明の効果】以上説明したように、本発明は、携帯電話器を無線通信機能(RFモジュール、変復調モデム、チャンネルコーデック、ADPCMコーデック、音声/データセレクタ等)を内蔵する基本部と、電話機能(マイク、スピーカ、キースイッチ等)を内蔵する周辺部に分離できるように構成し、基本部の仕様をパソコン等の他の電子機器のインターフェース(例えば、PCMCIAインターフェース)、コネクタ規格(例えば、PCMCIA規格)と一致させたので、基本部を分離し、他の電子機器と共に用いることにより、他の電子機器とのデータを無線で送受できる。」(第4頁5?6欄)

カ.「【補正内容】
【0015】周辺部14は、前述のように、LCD40、キースイッチ42、マイク44、スピーカ38を有している。また周辺部14はその内部の各種制御を行うマイクロコントローラ46を有している。」(第6頁右下欄)

キ.甲第5号証の第5頁の図5の(a)、(b)や第9頁の図5の(a)、(b)では、一つの基本部12を周辺部14に装着して携帯電話器ユニット10として使うこと、及びパソコン70に装着して使うことを読み取ることができる。

ここで、段落【0009】、【0015】の記載からみて、「周辺部」は「スピーカ」、「マイク」、「操作部(キー、プッシュボタン、キースイッチ)」、「表示部(LCD)」、「筒状の基本部保持部」を有することが明らかであり、「スピーカ」が「通話用音声信号を音声として出力する」こと、「マイク」が「音声を通話用音声信号に変換する」ことは自明のことである。
同様に、段落【0011】の記載からみて、「周辺部」は「筒状の基本部保持部」の内部に、「基本部」に設けられた「コネクタ」と接続されるコネクタが設けられることが明らかである。
同様に、段落【0019】の記載からみて、「基本部」は「アンテナにより受信される受信信号をスピーカから音声として出力する通話用音声信号に変換する機能」を有することが明らかである。
同様に、段落【0018】の記載からみて、「基本部」は「マイクに入力される音声が変換された通話用音声信号を前記アンテナから出力する送信信号に変換する機能」を有することが明らかである。
同様に、段落【0017】の記載によれば、「キースイッチ(操作部)」から入力されたデータは、例えば、チャンネルコーデックによって送信データに組み立てられるところ、この処理は、「操作部からの操作信号に基づいて所定の処理を行う」ことに他ならないから、基本部は「操作部からの操作信号に基づいて所定の処理を行う機能」を有することが明らかである。
同様に、段落【0017】?【0019】に記載された前記機能を実現する「音声/データセレクタ66」、「チャンネルコーデック54」、「変復調モデム52」、「RFモジュール50」、「ADPCM56」は、「電子回路」であるということができる。
同様に、段落【0017】の記載によれば、「キースイッチ(操作部)」で入力された電話番号データ(操作信号)は、「基本部」のPCMCIAI/Fを介して音声/データセレクタに転送されるのであるから、「基本部」に設けられた「コネクタ」は、「周辺部との間で操作信号を入力する信号線を含む」ことが明らかであり、「周辺部」に設けられたコネクタが、「基本部との間で操作信号を出力する信号線を含む」ことも明らかである。
同様に、段落【0018】の「通話の送信では、マイク44から入力された音声は基本部12のPCMCIAI/F58を介して音声/データセレクタ66に転送され、」及び段落【0019】の「通話の受信では、アンテナ24で受信した音声信号は、・・・(中略)・・・音声/データセレクタ66に転送され、次に、基本部12のPCMCIAI/F58を介して周辺部14のスピーカ38に転送され、」旨の記載によれば、「基本部」に設けられた「コネクタ」は、「周辺部との間で通話用音声信号を入出力する信号線を含む」ことが明らかであり、「周辺部」に設けられたコネクタが、「基本部との間で通話用音声信号を入出力する信号線を含む」ことも明らかである。
同様に、【請求項1】の記載によれば、「基本部」は、無線通信機能部品を内蔵するのであるから、「基本部」と「コネクタ」を併せて「無線通信機能ユニット」であるということができる。
同様に、段落【0020】の「基本部12は周辺部14と分離され、パソコン70に設けられたPCMCIA規格のコネクタに接続される。その後、携帯電話器の無線通信機能を用いて無線でデータを送受を行う。」の記載、段落【0022】の「一方、他の電子機器からのデータの受信では、アンテナ24で受信した音声信号は、・・・(中略)・・・、基本部12のPCMCIAI/F58を介してパソコン70に入力される。」の記載、及び第5頁図5(b)、第9頁図5(b)の記載を参照すれば、前記「基本部」は、パソコンのスロットに収納され、コネクタ接続されることにより、前記パソコンで音声信号の受信を含む無線通信機能が使用可能とされることが明らかである。
すると、上記甲第5号証の記載、添付図面及びこの分野の技術常識によれば、上記甲第5号証には、以下の発明が記載されていると認められる。

「通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、
音声を通話用音声信号に変換するマイクと、
操作信号を生成する操作部と、
表示信号を表示する表示部と、
筒状の基本部保持部と、
前記基本部保持部に設けられ、無線通信機能ユニットとの間で前記操作信号を出力し、前記通話用音声信号を入出力する信号線を含むコネクタと、
を有する周辺部と、
前記無線通信機能ユニットは、
アンテナにより受信される受信信号を前記スピーカから音声として出力する通話用音声信号に変換する機能と、前記マイクに入力される音声が変換された通話用音声信号を前記アンテナから出力する送信信号に変換する機能と、前記操作部からの操作信号に基づいて所定の処理を行う機能とを有する電子回路と、
前記電子回路を含み、前記周辺部に設けられた筒状の前記基本部保持部に収容されるような形状に形成された基本部と、
前記基本部に設けられ、前記周辺部との間で前記操作信号を入力し、前記通話用音声信号を入出力する信号線を含むコネクタとを有する無線通信機能ユニットであって、
前記無線通信機能ユニットは、一つの無線通信機能ユニットが、前記周辺部及びパソコンに共通に使用され、前記周辺部に装着されたとき、携帯電話器として通話を可能にする一方、前記パソコンに装着されたとき、パソコンで音声信号の受信を含む無線通信機能を使用可能にする無線通信機能ユニットと、
を有する携帯電話器。」(以下、「甲5発明」という。)

5.甲第6号証(国際公開95/34958号パンフレット)
甲第6号証には、「A PC CARD CELLULAR-BASED COMMUNICATION SYSTEM」(訳文:PCカードセルラー式通信システム)に関する技術が、添付図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア.「Referring to FIG. 4, a PC module 50 in accordance with the present invention is shown. The PC module 50 comprises a cellular radio 52, an antenna 54, an analog modem 56, a connector 58 for external connections, and a standard female 68-pin connector 59. In a preferred embodiment, the PC module 50 is a PCMCIA Type III card and may be inserted into any electronic device that is equipped with either a PCMCIA Type III slot or a PCMCIA bay comprising two Type II slots. The PCMCIA standards currently define a 68-pin connector as the electrical hardware interface for PC cards. When the PC module 50 is docked into a PC slot, the female 68-pin connector 59 on the PC module 50 mates with a male connector of the PC slot (not shown).」(第6頁22?32行)
(訳文:図4を参照すると、本発明によるPCモジュール50が示されている。このPCモジュール50は、セルラ無線部52、アンテナ54,アナログモデム56,外部接続のためのコネクタ58、及び標準雌型68ピンコネクタ59を備える。好適実施例において、PCモジュール50はPCMCIAタイプIIIカードであり、PCMCIAタイプIIIスロットか、二つのタイプIIスロットを備えるPCMCIA収納部を装備したあらゆる電子装置の中に挿入可能である。PMCIA規格は、現在68ピンコネクタをPCカード用の電気的ハードウェアインタフェースとして規定している。PCモジュール50がPCスロットの中に装着合体されたとき、PCモジュール50の雌型68ピンコネクタはPCスロットの雄型コネクタ(図示せず)と係合する。

イ.「FIG. 7 shows the PC module 50 inserted into a PC slot 81 of the notebook computer 80. Once inserted into the slot 81 of the notebook computer 80, the PC module 50 is powered by the computer power supply (not shown). The PC module 50 provides cellular voice capability to the notebook computer 80 through the cellular radio 52, and provides fax and data capabilities to the notebook computer 80 through the analog modem 56. The voice capability provided by the PC module 50 enables the use of voice applications on the notebook computer 80, such as speakerphone and voice messaging applications.」(第7頁28?36行)
(訳文:図7は、ノートブックコンピュータ80のPCスロット81中に挿入されたPCモジュール50を示している。PCモジュール50は、ノートブックコンピュータ80のスロット81に挿入されるとコンピュータの電源(図示せず)によって作動する。PCモジュール50は、セルラ無線部52を介してセルラ音声通話機能をノートブックコンピュータ80に提供し、またアナログモデム56を介してファックス及びデータ機能をノートブックコンピュータ80に提供する。PCモジュール80によって提供される音声通話機能は、ノートブックコンピュータ80上でスピーカフォンやボイスメッセージアプリケーションのような音声応用を可能にする。)

ウ.「The notebook computer 80 contains well known computer components, which will not be discussed here in detail, including a CPU (central processing unit) 124 for processing data, an I/O (input/output) bus 126 for communication with various computer components, a microphone 128, a speaker 130, audio circuitry 132 for applications requiring sound processing, and a PC controller 134 which acts as the interface between the 68-pin connector 122 and the I/O bus 126.」(第9頁16?23行)
(訳文:ノートブックコンピュータ80は、データ処理のためのCPU(中央処理装置)124、多様なコンピュータ構成部品と通信するためのI/O(入出力)バス126、スピーカ130,アプリケーションが要求する音声処理のための音声回路132,及び68ピンコネクタ122とI/Oバス126との間のインタフェースとして作動するPCコントローラ134を含む周知のコンピュータ構成部品(詳細については省略する)を収容している。)

エ.「The audio interface of the present invention enables analog bidirectional communication between the PC module 50 and the audio circuitry 132 of the notebook computer 80. The voice capability provided by the audio interface may be used by a host computer to implement speakerphone and voice applications through the speaker 130 and microphone 128 as long as a host computer includes the switch 144 and the audio lines 150 through 156 of the analog interface as described herein. During a telephone conversation, audio signals received over the air by the cellular radio 52 (FIG. 4) of the PC module 50 are processed by the audio circuitry 140 of the PC module 50 and then transmitted over the audio-out lines 166 and 168 to the audio-in lines 154 and 156 of the notebook computer 80 through pins 53 and 54 of the 68-pin connector 122. The audio signals are then processed by the audio circuitry 132 and transmitted to the speaker 130 of the notebook computer 80. Signals received from the notebook 80 user over the microphone 128 are processed by the audio circuitry 132 of the notebook computer 80 and transmitted over audio-out lines 150 and 152 to the audio-in lines 162 and 164 of the PC module 50 using pins 51 and 52 of the 68-pin connector 122. The signals are processed by the audio circuitry 140 and then broadcast to their destinations over the cellular radio 52.」(第12頁6?26行)
(訳文:本発明の音声インタフェースは、PCモジュール50とノートブックコンピュータ80の音声回路132との間でアナログ双方向通信を可能にする。上記音声インタフェースによって提供される音声通話機能は、縷々説明した通りホストコンピュータがスイッチ144とアナログインタフェースの音声信号線150から156を備えていれば、ホストコンピュータがスピーカ130とマイクロフォン128を通じてスピーカフォン並びに音声アプリケーションを実行することによって利用できる。通話中、PCモジュール50のセルラ無線部52(図4)によって空中から受信された音声信号はPCモジュール50の音声回路140によって処理され、音声出力線166と168を通じ68ピンコネクタ122のピン53と54を介してノートブックコンピュータ80の音声入力線154と156へ伝送される。音声信号は、音声回路132で処理され、ノートブックコンピュータ80のスピーカ130へ送られる。ノートブックコンピュータ80のユーザからマイクロフォン128を通じて受信された信号は、ノートブックコンピュータ80の音声回路132で処理され、音声出力線150と152を通じ68ピンコネクタ122のピン51と52を用いてPCモジュール50の音声入力線162と164へ送られる。この信号は、音声回路140で処理され、セルラ無線部52からその宛先へ送出される。)

オ.「FIGS. 12 and 13 illustrate the analog interface of the PC module 50 when it is docked in the handset 60. FIG. 12 illustrates the analog interface of the PC module in the default mode while FIG. 13 illustrates the analog interface of the PC module 50 in normal audio mode. The handset 60 includes the display 64 (not shown), the keyboard 66, the microphone 70, and the speaker 68 of the handset (see FIG. 5). The handset also includes a display driver 204 to operate the display 64, a serial communication controller 202, and a microcontroller 200 for controlling the operation of the display driver 204 and the keyboard 66 through an address/data bus 206.
In the handset 60, pins 49 and 50 of the 68-pin interface are connected directly to the serial communications controller 202 while pins 51 and 52 are connected directly to the microphone 70 through amplifiers 210 and 212, and pins 53 and 54 are connected directly to the speaker 68 through amplifier 214. These direct connections eliminate the need for a switch as used in the notebook computer 80. Both the serial communications controller 202 in the handset 60 and the serial communications controller 138 in the PC module 50 control digital serial communications through the 68-pin connector 122. The use of the serial communications controllers 202 and 138 are required to enable the exchange of digital data and control signals between the handset microcontroller 200 and the microcontroller 136 in the PC module 50.」(第12頁27行?第13頁11行)
(訳文:図12と13は、PCモジュール50がハンドセット60に装着された場合に、そのアナログインタフェースを示している。図12はデフォルトモードにおける前記CPモジュールのアナログインタフェースを示し、図13は通常音声モードにおけるPCモジュール50のアナログインタフェースを示している。ハンドセット60は、ディスプレイ64(図示せず)、キーボード66、マイクロフォン70、及びハンドセットのスピーカ68(図5参照)を含む。上記ハンドセットは、ディスプレイ64を駆動するディスプレイドライバ204,シリアル通信コントローラ202,及びアドレスデータバス206を介してディスプレイドライバ204とキーボード66を制御するマイクロコントローラ200をさらに含む。
ハンドセット60では、68ピンコネクタのピン49と59はシリアル通信コントローラ202に直接接続される一方、ピン51と52は増幅器210と212を介して直接マイクロフォン70に接続され、ピン53と54は増幅器214を介して直接スピーカ68に接続されている。これらの直接接続は、ノートブックコンピュータ80で使用されたスイッチの必要性を排除するものである。ハンドセット60のシリアル通信コントローラ202及びPCモジュール50のシリアル通信コントローラ138双方は、68ピンコネクタ122を通じてデジタルシリアル通信を制御する。シリアル通信コントローラ202及び138の使用は、ハンドセットのマイクロコントローラ200とPCモジュール50のマイクロコントローラ136との間でデジタルデータ及び制御信号を交換するために要請される。)

6.甲第7号証(特開平8-339号公報)
甲第7号証には、「電波受信器」の構成として、添付図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア.「【0036】なお、前記電波受信器2は図1に示すような小形の単独の部材からなるものであるが、それ以外にも携帯用カード(例えば、ICカード、キャッシュカードあるいはクレジットカードなど)、またはネクタイピン、万年筆形ペン、ライター、あるいは腕時計などの小形携帯用品に組み込まれていてもよい。」(第3頁4欄)

7.甲第8号証(特開平5-211466号公報)
甲第8号証には、「無線受信機」の構成として、添付図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア.「【請求項2】 前記無線選択呼出受信機の受信機本体を収納するケースと前記携帯手段との組合せを、身体の頸部から吊下するペンダント形式か、身体の耳部から吊下するイヤリング形式か、身体の腕部に巻き付ける腕時計形式かのいずれかとして構成したことを特徴とする請求項1記載の無線選択呼出受信機。」(第2頁1欄)

8.甲第10号証(特開平8-153075号公報)
甲第10号証には、「ワイヤレスハンドセット」の構成として、添付図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア.「【0036】図4には、図3のワイヤレスハンドセット4を実現するためのスタイラス101の構成例が示されている。スタイラスペン101の内部回路は、ペン機能回路部と通信部に大別される。ペン機能回路はスタイラスペン101をポインティングデバイスとして機能させるための回路であり、コイル302、および交流電流発生回路303から構成されている。コイル302および交流電流発生回路303から構成された回路は、ペン先スイッチ301のオン/オフにかかわらず常時オンしており、ペン先スイッチ301の先端から交流磁界を発生する。この交流磁界の周波数は、マイクロコンピュータ28によって制御される。通信部は、LCD9、ボタン10、音声信号コーデック部27、無線部26、スピーカ102、マイク103、アンテナ104から構成されている。」(第4頁6欄?第5頁7欄)

第8 検討
1.無効理由(III)について
請求人は、本件特許発明2、5は、甲第2、4、5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨、主張する。そこで、以下に検討する。

(1-1)本件特許発明2について
ア.対比
本件特許発明2と甲5発明とを比較する。
a)甲5発明の「スピーカ」、「マイク」、「操作部」、「表示部」、「筒状の基本部保持部」、「コネクタ」は、それぞれ本件特許発明2の「スピーカ」、「マイク」、「操作部」、「表示部」、「スロット」、「入出力部」に相当することが明らかである。
b)甲5発明の「周辺部」は本件特許発明2の「移動体通信端末」に相当する。
c)本件特許発明2は「請求項1記載の電話送受信ユニット」自体は構成要件として含まれないものの、「スロット」は「請求項1記載の電話送受信ユニット」を収納し、「入出力部」は「請求項1記載の電話送受信ユニット」との間で信号を入出力するものと限定されるので、本件特許発明2の「請求項1記載の電話送受信ユニット」と甲5発明の「無線通信機能ユニット」の一致点、相違点も本件特許発明2と甲5発明の一致点、相違点となる。
すると、先の無効審判(無効2006-80205)の審決において、甲第5号証と本件特許発明1を比較したのと同様に、
c-1)甲5発明の「基本部」は、本件特許発明2が引用する請求項1(本件特許発明1)の「カートリッジ」に相当することが明らかである。
c-2)甲5発明の「周辺部」は、本件特許発明2が引用する請求項1(本件特許発明1)の「端末本体」、「移動体通信端末」に相当することが明らかである。
c-3)甲5発明において、無線通信機能ユニットを装着されたパソコンは、通信端末ということができる。
c-4)甲5発明の「無線通信機能ユニット」と本件特許発明が引用する請求項1(本件特許発明1)の「電話送受信ユニット」は、いずれも「無線送受信ユニット」という点で一致する。
よって、本件特許発明2の「請求項1記載の電話送受信ユニット」と甲5発明の「無線通信機能ユニット」とは、
「アンテナにより受信される受信信号をスピーカから音声として出力する通話用音声信号に変換する機能と、マイクに入力される音声が変換された通話用音声信号を前記アンテナから出力する送信信号に変換する機能と、操作部からの操作信号に基づいて所定の処理を行う機能とを有する電子回路と、
前記電子回路を含み、前記スピーカ及び前記マイクを端末本体に備えた移動体通信端末に設けられたスロットに収納されるような形状に形成されたカートリッジと、
前記カートリッジに設けられ、前記移動体通信端末との間で前記操作信号を入力するとともに、前記通話用音声信号を入出力する信号線を含む入出力部とを有し、
移動体通信端末を含む複数の通信端末に装着されて、前記複数の通信端末によって無線通信を可能にする無線送受信ユニット。」(以下、「(構成A)」という。)という点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点A-1)
電子回路が、本件特許発明2が引用する請求項1記載の電話送受信ユニットでは、「表示部に表示する表示信号を生成する機能を有する」のに対し、甲5発明では、このような機能を有するかどうか不明な点。

(相違点A-2)
カートリッジが、本件特許発明2が引用する請求項1記載の電話送受信ユニットでは、「前記スピーカ及び前記マイクを端末本体に備えた複数の移動体通信端末の各々に設けられたスロットに全体が収納されるような形状に形成」されるのに対し、甲5発明では、「カートリッジ(基本部)」が前記スピーカ及び前記マイクを端末本体に備えた移動体通信端末(周辺部)に設けられたスロット(筒状の基本部保持部)に収納されるような形状に形成されるものの、「複数の移動体通信端末」かどうか不明であるとともに、「スロット(筒状の基本部保持部)に全体が収納される」構成になっていない点。

(相違点A-3)
入出力部が、本件特許発明2が引用する請求項1記載の電話送受信ユニットでは、「前記操作信号と前記表示信号を入出力する信号線、及び前記通話用音声信号を入出力する信号線を含む」のに対し、甲5発明では、前記操作信号を入力するとともに、前記通話用音声信号を入出力するための信号線を含むものの、その余の構成については不明である点。

(相違点A-4)
無線送受信ユニットが、本件特許発明2が引用する請求項1記載の電話送受信ユニットでは、「1つの回線を契約するだけで前記複数の移動体通信端末によって通話を可能にする」のに対し、甲5発明では、一つの無線送受信ユニットが、複数の通信端末のうち、移動体通信端末(周辺部)に装着されたとき、当該移動体通信端末で通話を可能にする一方、他の通信端末であるパソコンに装着されたとき、当該パソコンで音声信号の受信を含む無線通信機能を使用可能にするものの、通話を可能とするかどうか不明な点。

(相違点A-5)
無線送受信ユニットが、本件特許発明2が引用する請求項1記載の電話送受信ユニットでは、「電話送受信ユニット」であるのに対し、甲5発明では、無線通信機能ユニットである点。

すると、本件特許発明2と甲5発明とは次の点で一致し、相違する。
(一致点)
「通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、
入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、
操作に基づいて操作信号を生成する操作部と、
表示信号に基づいて表示する表示部と、
(構成A)の無線送受信ユニットを収納するスロットと、
前記スロットに設けられ、前記無線送受信ユニットとの間で前記操作信号を出力するとともに、前記通話用音声信号を入出力する信号線を含む入出力部とを有し、
前記スロットに前記無線送受信ユニットが収容され、
通話する移動体通信端末。」(以下、「(構成B)」という。)

(相違点1)
(構成A)の「無線送受信ユニット」についての上記(相違点A-1)?(相違点A-5)。

(相違点2)
基地局との間で信号を送受信するアンテナが、本件特許発明2では、「移動体通信端末」に設けられているのに対し、甲5発明では、無線送受信ユニットに設けられている点。

(相違点3)
スロットが、本件特許発明2では、「電話送受信ユニット(無線送受信ユニット)全体を収納する」のに対し、甲5発明では、スロット(筒状の基本部保持部)は無線送受信ユニットを収納するものの、全体を収納する構成になっていない点。

(相違点4)
入出力部が、本件特許発明2では、「前記操作信号と前記表示信号を入出力する信号線、及び前記通話用音声信号を入出力する信号線を含む」のに対し、甲5発明では、前記操作信号を出力するとともに、前記通話用音声信号を入出力するための信号線を含むものの、その余の構成については不明である点。

(相違点5)
本件特許発明2では、「前記スロットに前記請求項1記載の電話送受信ユニット全体が収容され、前記請求項1記載の電話送受信ユニットについて契約された回線を通じて通話する」のに対し、甲5発明では、当該構成は明示されていない点。

イ.判断
以下、相違点について検討する。

(相違点A-1)について
甲第5号証の第3頁、段落【0015】の記載によれば、周辺部に表示部(LCD)が備えられるとともに、同じく段落【0017】の記載によれば、当該表示部(LCD)には操作部(キースイッチ)から入力された電話番号が表示されることが明らかである。そして、このように携帯電話器の表示部では、携帯電話器の操作部で入力された電話番号を表示するほか、例えば、携帯電話等に係る発明を開示する特開平6-141068号公報の第1頁の左下欄の「要約」の「目的」の項に、「受信した発信者名又は発信者番号デ-タを表示器に表示して発信者を確認でき」と記載されているように、アンテナから受信した信号を表示することは周知慣用である。
このような周知慣用技術において、移動体通信端末の内部回路が、移動体通信端末(携帯電話等)のアンテナから受信した文字情報を表示部に表示できるよう、その表示信号を生成する機能を含むことは自明であるところ、甲第5号証の段落【0008】の「基本部12の内部には、画像、文章等のデータと音声を処理する処理部と、」と記載されるように、前記基本部は、文章を処理する処理部を含むのであるから、甲第5号証の基本部の中の電子回路は、表示部に表示する表示信号を生成する機能を有する示唆があるといえる。
よって、携帯電話等に係る上記周知慣用技術を考慮すれば、甲5発明の電子回路は、実質的に表示部に表示する表示信号を生成する機能を有すると解釈することが自然であるから、相違点(A-1)は実質的な相違ではない。

(相違点A-2)及び(相違点3)について
先ず、「カートリッジが、前記スピーカ及び前記マイクを端末本体に備えた複数の移動体通信端末の各々に設けられたスロットに収納される」点について検討すると、前記「第7 各甲号証」「2.甲第2号証」に記載したように、甲第2号証には「一つの電話送受信ユニット(モジュラーユニット)が、スピーカ及びマイクを備えた複数の移動体通信端末のスロットに交代して装着されることにより、装着された各々の移動体通信端末において通話を可能にする電話送受信ユニット(モジュラーユニット)」(甲2技術B)が開示されている。
ここで、甲2技術Bのスピーカ及びマイクは、端末本体に備えたものではないが、パソコンにスピーカ及びマイクの機能を備える際に、ヘッドセットを引き出しケーブルにより接続することに代え、端末本体に備えるようにすることが、例えば甲第6号証(前記「第7 各甲号証」「5.甲第6号証」の摘記事項イ.ウ.エ.及び図10、11参照。)に開示されているように周知である。
そして、甲5発明と甲2技術Bは、「一つの無線送受信ユニットを、携帯電話やパソコンを含む通信端末に交代して装着可能にする」技術であるという点で共通するとともに、甲5発明に甲2技術Bを適用することに特段困難な点も見当たらないから、上記周知技術を踏まえ、甲5発明に甲2技術Bを適用して、(相違点A-2)に係る「カートリッジが、前記スピーカ及び前記マイクを端末本体に備えた複数の移動体通信端末の各々に設けられたスロットに収納される」よう構成することは当業者が容易になし得ることである。

次に、「スロットに全体が収納されるような形状に形成される」点及び「スロットが無線送受信ユニット全体を収納する」点について検討すると、前記「第7 各甲号証」「2.甲第2号証」に記載したように、同じく甲第2号証に「パーソナルコンピュータ(パソコン、PC)に設けられたスロットに全体が収納されるような形状に形成されるモジュラーユニット(無線送受信ユニット)」(甲2技術A-1)及び「モジュラーユニット(無線送受信ユニット)全体を収納するパーソナルコンピュータ(パソコン、PC)に設けられたスロット」(甲2技術A-1)が開示されている。
また、前記「第7 各甲号証」「3.甲第4号証」に記載したように、甲4技術により、移動体通信端末のスロットに無線送受信ユニットを全体的に収納することも明示されている。
すると、上記甲2技術A-1、同A-2及び甲4技術を踏まえれば、移動体通信端末のスロットに無線送受信ユニットを装着する際、本件特許発明のように「スロットに全体が収納されるような形状に形成される」よう構成する、及び、「無線送受信ユニット全体を収納するスロット」とすることは当業者が容易になし得ることである。

(相違点A-3)及び(相違点4)について
前記「(相違点A-1)について」に記載したように、甲5発明の電子回路は、実質的に表示部に表示する表示信号を生成する機能を有するが、この機能において、基本部の電子回路で生成された表示信号は、PCMCIAI/F58を介して周辺部の表示部に出力されることが自明である。
そして、例えば甲第6号証(前記「第7 各甲号証」「5.甲第6号証」の摘記事項ア.オ.及び図12、13参照。)にPCMCIA規格のインタフェースの構成として、デジタルデータ及び制御信号とマイク及びスピーカへの信号が別の信号線で入出力されることが記載され、また、例えば甲第5号証の段落【0014】に「音声/データセレクタ66は、PCMCIAI/F58からの音声またはデータを選択的にチャンネルコーデック54またはADPCMコーデック56に転送し、またはそれらからの音声またはデータをPCMCIAI/F58に転送するものである。」と記載され、さらに、同段落【0011】の「図2、図3に示すように、周辺部14の本体部30と基本部保持部32で形成された筒の内部にはPCMCIA規格のコネクタ46が設けられている。このコネクタ46は前述の基本部12のコネクタ20aと接続されるものであり、複数のピン46aを有するレセプタクルとして構成されている。」旨の記載及び図2、3のコネクタ46の図を参照すれば、第6頁や第8頁の図4の周辺部14側にもPCMCIAI/Fのレセプタクルが存在することが明らかであるとともに、このレセプタクルの複数のピンのために複数の信号線が基本部側及び周辺部側の双方に配線されると考えることが自然であるから、これらの記載によれば、入出力部(コネクタ)を介してデータ信号と音声信号を入出力する際に、データ信号と音声信号は別に分けられて入出力すること、さらに、音声信号とデータ信号及び制御信号は別の信号線とすることは周知慣用である。
すると、当該周知慣用技術に照らせば、甲5発明のコネクタ(入出力部)が、本件特許発明のように「前記操作信号と前記表示信号を入出力する信号線、及び前記通話用音声信号を入出力する信号線を含む」よう構成することは当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。

(相違点A-4)及び(相違点5)について
前記「第7 各甲号証」「2.甲第2号証」に記載したように、甲第2号証に「一つの電話送受信ユニット(モジュラーユニット)が、スピーカ及びマイクを備えた複数の移動体通信端末のスロットに交代して装着されることにより、装着された各々の移動体通信端末において通話を可能にする電話送受信ユニット(モジュラーユニット)」(甲2技術B)が開示されている。
ここで、携帯電話機等の通信端末による「通話」は通信業者と回線を契約することによって、その通信サービスを受けることが可能になることは周知慣用であるから、甲2技術Bで、複数の移動体通信端末に対し交代して共用される電話送受信ユニット(モジュラーユニット)は、1つの回線を契約した上で交代して使用されるものとみることが自然である。
また、前記甲2技術Bの移動体通信端末に含まれるノートブック型コンピュータやペン方式コンピュータと、甲5発明のパソコンは、パーソナルコンピュータとして共通する。
そして、甲5発明と甲2技術Bは、「一つの無線送受信ユニットを、携帯電話やパソコンを含む通信端末に交代して装着可能にする」技術であるという点で共通するとともに、甲5発明に甲2技術Bを適用することに特段困難な点は見当たらないから、上記通信端末の契約に関する常識を踏まえ、甲5発明に甲2技術Bを適用し、甲5発明のパソコンを、電話送受信ユニットが装着されて通話が可能にされる移動体通信端末として構成し、(相違点A-4)に係る「1つの回線を契約するだけで前記複数の移動体通信端末によって通話を可能にする」よう構成することは当業者が容易になし得ることである。
また、同様に、甲2技術Bが、複数の移動体通信端末に対し交代して共用される電話送受信ユニット(モジュラーユニット)は、1つの回線を契約した上で交代して使用されることを示唆する以上、本件特許発明2のように「前記スロットに前記請求項1記載の電話送受信ユニット全体が収容され、前記請求項1記載の電話送受信ユニットについて契約された回線を通じて通話する」ことも格別なものではない。(なお、「電話送受信ユニット全体が収容される」点については、前記「(相違点A-2)及び(相違点3)について」に記載したとおりである。)

(相違点A-5)について
甲5発明の「無線通信機能ユニット」は、「周辺部(移動体通信端末)」と接続して、携帯電話器としての機能を提供するものであるから、本件特許発明の「電話送受信ユニット」と呼べるものであって、(相違点A-5)は実質的な相違ではない。

(相違点2)について
無線送受信ユニットを装着して通話することができる携帯電話機等の移動体通信端末の構成として、基地局との間で信号を送受信するアンテナを無線送受信ユニットが装着される移動体通信端末の本体側に設けることは、例えば甲第2号証の図11?図14、甲第1号証(前記「第7 各甲号証」「1.甲第1号証」の摘記事項ア.イ.及び図1参照。)に記載されるように周知の構成であり、無線送受信ユニットと基地局との間で信号を送受信するアンテナをどのように接続するかは、当業者が適宜選択する設計事項にすぎない。

上記(相違点1)?(相違点5)についての判断に加え、本件特許発明2が奏する効果は、甲5発明、甲第2号証、甲第4号証に記載された技術及び上記周知慣用技術から容易に予測できる範囲内のものであり、格別のものではない。

以上により、本件特許発明2は、甲5発明、甲第2号証、甲第4号証に記載された技術及び上記周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-2)本件特許発明5について
ア.対比
本件特許発明5と甲5発明を比較する。
本件特許発明5の「移動体通信端末が携帯電話機又は簡易型携帯電話機である」ことは、甲5発明の「周辺部」が「携帯電話器」を構成することと実質的な差違はない。
そして、本件特許発明5は請求項2(本件特許発明2)を引用していることから、本件特許発明5と甲5発明は、前記「(1-1)本件特許発明2について」「ア.対比」に記載した(一致点)(構成B)の「移動体通信端末」で一致し、同(相違点1)?(相違点5)で相違する。

よって、本件特許発明5と甲5発明とは、次の点で一致し、相違する。
(一致点)
「(構成B)の移動体通信端末において、
前記移動体通信端末は携帯電話機又は簡易型携帯電話機である移動体通信端末。」

(相違点)
前記「(1-1)本件特許発明2について」「ア.対比」に記載した(相違点1)?(相違点5)。

イ.判断
上記(相違点1)?(相違点5)についての判断は、前記「(1-1)本件特許発明2について」「イ.判断」に記載したとおりであるから、本件特許発明5は、甲5発明、甲第2号証、甲第4号証に記載された技術及び上記周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.無効理由(V)-2について
(2-1)本件特許発明3について
ア.対比
請求人が審判請求書において主張するように、本件特許発明3の「移動体通信中継端末」の発明に係る構成要件として、「請求項1記載の電話送受信ユニット」自体の構成を読み込むことはできないが、「請求項1記載の電話送受信ユニット全体を収納するスロット」及び「前記電話送受信ユニットとの間で信号を入出力する入出力部」は、「スロット」が「請求項1記載の電話送受信ユニット」を収納し、「入出力部」が「請求項1記載の電話送受信ユニット」との間で信号を入出力するものと限定されるので、「請求項1記載の電話送受信ユニット」自体の構成も比較検討すべきものである。
口頭審理において、請求人は甲第5号証が無効理由(V)の主張を立証する証拠であると主張し、被請求人も甲第5号証が無効理由(V)の主張を立証する証拠であることを認めていることから、本件特許発明3と甲5発明とを比較する。
a)前記「1.無効理由(III)について」「(1-1)本件特許発明2について」「ア.対比 」「c)」に記載したように、 甲5発明の「周辺部」は、本件特許発明3が引用する請求項1(本件特許発明1)の「移動体通信端末」に相当するので、本件特許発明3の「移動体通信中継端末」と甲5発明の「周辺部」は、いずれも「移動体通信用端末」という点で一致する。
b)同様に、本件特許発明3の「請求項1記載の電話送受信ユニット」と甲5発明の「無線通信機能ユニット」とは、前記(構成A)の「無線送受信ユニット」という点で一致し、同(相違点A-1)?(相違点A-5)の点で相違する。

すると、本件特許発明3と甲5発明とは次の点で一致し、相違する。
(一致点)
「(構成A)の無線送受信ユニットを収納するスロットと、
前記スロットに設けられ、前記無線送受信ユニットとの間で信号を入出力する入出力部とを有する移動体通信用端末。」(以下、「(構成C)」という。)

(相違点1)
前記「(1-1)本件特許発明2について」「ア.対比」に記載した(構成A)の「無線送受信ユニット」についての(相違点A-1)?(相違点A-5)。

(相違点2)
移動体通信用端末が、本件特許発明3では、「移動体通信中継端末」であって、「移動体通信中継端末用の移動体通信端末との間で信号を送受信する手段」を有するのに対し、甲5発明では、当該構成は明示されていない点。

(相違点3)
基地局との間で信号を送受信するアンテナが、本件特許発明3では、「移動体通信中継端末」に設けられているのに対し、甲5発明では、無線送受信ユニットに設けられている点。

(相違点4)
スロットが、本件特許発明3では、「電話送受信ユニット(無線送受信ユニット)」全体を収納するのに対し、甲5発明においては、スロット(筒状の基本部保持部)は、無線送受信ユニットを収納するものの、全体を収納する構成になっていない点。

イ.判断
以下、相違点について検討する。
(相違点A-1)、(相違点A-2)及び(相違点4)、(相違点A-3)、(相違点A-4)、(相違点A-5)についての判断は、前記「(1-1)本件特許発明2について」「イ.判断」に記載した「(相違点A-1)について」、「(相違点A-2)及び(相違点3)について」、「(相違点A-3)及び(相違点4)について」、「(相違点A-4)及び(相違点5)について」、「(相違点A-5)について」の判断と同様である。

(相違点2)及び(相違点3)について
前記「第7 各甲号証」「2.甲第2号証」に記載したように、甲第2号証には、
「基地局との間で信号を送受信するアンテナと、
電話送受信ユニット(モジュラーユニット)を装着するスロットと、
前記スロットに設けられ、前記電話送受信ユニットのコネクタとの間で信号を入出力する係合部と、
ヘッドセットとの間で無線信号を送受信する手段とを有する移動体中継端末」(甲2技術C-1)が開示されている。
そして、甲2技術C-1のヘッドセットは、移動体中継端末と無線信号を送受信するものであるから、本件特許発明3の移動体通信端末と実質的な差違はないので、上記(相違点2)、(相違点3)に係る本件特許発明3の
a)移動体通信中継端末であって、移動体通信中継端末用の移動体通信端末との間で信号を送受信する手段を有し、
b)基地局との間で信号を送受信するアンテナが、移動体通信中継端末に設けられている
点は、甲2技術C-1と差違はない。
すると、甲5発明と甲2技術C-1は、「一つの無線送受信ユニットを、携帯電話やパソコンを含む通信端末に交代して装着可能にする」技術であるという点で共通し、甲5発明に甲2技術C-1を適用することに特段困難な点は見当たらないから、(相違点2)及び(相違点3)に係る構成は、甲5発明に甲2技術C-1の構成を適用することにより当業者が容易になし得ることである。

上記(相違点1)?(相違点4)についての判断に加え、本件特許発明3が奏する効果は、甲5発明、甲第2号証、甲第4号証に記載された技術及び上記周知慣用技術から容易に予測できる範囲内のものであり、格別のものではない。

以上により、本件特許発明3は、甲5発明、甲第2号証、甲第4号証に記載された技術及び上記周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-2)本件特許発明4について
ア.対比
本件特許発明4は請求項3(本件特許発明3)を引用していることから、本件特許発明4と甲5発明は、前記「(2-1)本件特許発明3について」「ア.対比」に記載した(一致点)(構成C)で一致し、同(相違点1)?(相違点4)及び以下の点で相違する。
(相違点5)
本件特許発明4は、「入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、請求項3記載の移動体通信中継端末との間で信号を送受信する手段とを有する移動体通信中継端末用の移動体通信端末」であるのに対し、甲5発明は、当該構成が明示されていない点。

イ.判断
上記(相違点1)?(相違点4)の判断については、前記「(2-1)本件特許発明3」「イ.判断」に記載した(相違点1)?(相違点4)の判断と同様である。

(相違点5)について
前記「第7 各甲号証」「2.甲第2号証」に記載したように、甲第2号証には、
「入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、
通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、
移動体中継端末との間で無線信号を送受信する手段とを有するヘッドセット」(甲2技術C-2)が開示されている。
甲2技術C-2のヘッドセットは、移動体中継端末と無線信号を送受信するものであるから、本件特許発明4の移動体通信端末と実質的な差違はなく、本件特許発明4の請求項3記載の移動体通信中継端末については、前記「(2-1)本件特許発明3について」「イ.判断」「(相違点2)及び(相違点3)について」に記載したとおり、甲2技術C-1と差違はない。
よって、(相違点5)に係る構成は、甲5発明に甲2技術C-1及びC-2を適用することにより当業者が容易になし得ることである。

上記(相違点1)?(相違点5)についての判断に加え、本件特許発明4が奏する効果は、甲5発明、甲第2号証、甲第4号証に記載された技術及び上記周知慣用技術から容易に予測できる範囲内のものであり、格別のものではない。

以上により、本件特許発明4は、甲5発明、甲第2号証、甲第4号証に記載された技術及び上記周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-3)本件特許発明6について
ア.対比
本件特許発明6は請求項4(本件特許発明4)を引用していることから、本件特許発明6と甲5発明は、前記「(2-2)本件特許発明4について」「ア.対比」と同様に、前記「(2-1)本件特許発明3について」「ア.対比」に記載した(一致点)(構成C)で一致し、同(相違点1)?(相違点4)、前記「(2-2)本件特許発明4について」「ア.対比」に記載した(相違点5)及び以下の点で相違する。
(相違点6)
本件特許発明6は、「請求項4記載の移動体通信中継端末用の移動体通信端末において、前記移動体通信端末は、万年筆、キーホルダ、ライタ、又はペンダントの形態を有している」のに対し、甲5発明は、当該構成が明示されていない点。

イ.判断
上記(相違点1)?(相違点4)の判断については、前記「(2-1)本件特許発明3」「イ.判断」における(相違点1)?(相違点4)の判断と同様であり、上記(相違点5)の判断については、前記「(2-2)本件特許発明4」「イ.判断」「(相違点5)について」の判断と同様である。

(相違点6)について
携帯して持ち運びのできる無線通信機の形態を万年筆、キーホルダ、ライタ、ペンダントとすることことは周知(甲第7号証(万年筆、ライタの例)、甲第8号証(ペンダントの例)、甲第10号証(ペンの例)、実開平5-6957号公報(キーホルダの例(図3参照。)))であり、甲2技術C-2のヘッドセット(移動体通信端末)を、万年筆、キーホルダ、ライタ、又はペンダントのような形態とすることは、当業者が適宜選択することができる設計事項にすぎない。

上記(相違点1)?(相違点6)についての判断に加え、本件特許発明6が奏する効果は、甲5発明、甲第2号証、甲第4号証に記載された技術及び上記周知慣用技術から容易に予測できる範囲内のものであり、格別のものではない。

以上により、本件特許発明6は、甲5発明、甲第2号証、甲第4号証に記載された技術及び上記周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項2?6に係る発明の特許については、他の前記無効理由(II)、(IV)、(V)-1、(VI)について判断するまでもなく、特許法第29条第2項に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電話送受信ユニット、移動体通信中継端末、及び移動体通信端末
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
基地局との間で信号を送受信するアンテナと、
通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、
入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、
操作に基づいて操作信号を生成する操作部と、
表示信号に基づいて表示する表示部と、
請求項1記載の電話送受信ユニット全体を収納するスロットと、
前記スロットに設けられ、前記電話送受信ユニットとの間で前記操作信号と前記表示信号を入出力する信号線、及び前記通話用音声信号を入出力する信号線を含む入出力部とを有し、
前記スロットに前記請求項1記載の電話送受信ユニット全体が収納され、
前記請求項1記載の電話送受信ユニットについて契約された回線を通じて通話する
ことを特徴とする移動体通信端末。
【請求項3】
基地局との間で信号を送受信するアンテナと、請求項1記載の電話送受信ユニット全体を収納するスロットと、前記スロットに設けられ、前記電話送受信ユニットとの間で信号を入出力する入出力部と、移動体通信中継端末用の移動体通信端末との間で信号を送受信する手段とを有することを特徴とする移動体通信中継端末。
【請求項4】
入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、請求項3記載の移動体通信中継端末との間で信号を送受信する手段とを有することを特徴とする移動体通信中継端末用の移動体通信端末。
【請求項5】
請求項2記載の移動体通信端末において、前記移動体通信端末は、携帯電話機又は簡易型携帯電話機であることを特徴とする移動体通信端末。
【請求項6】
請求項4記載の移動体通信中継端末用の移動体通信端末において、前記移動体通信端末は、万年筆、キーホルダ、ライタ、又はペンダントの形態を有していることを特徴とする移動体通信中継端末用の移動体通信端末。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数の回線を契約することなしに、時、場所、場合に応じた快適な移動体通信を実現する電話送受信ユニット、移動体通信中継端末、及び移動体通信端末に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、機器価格及び回線使用料の低下に伴い、携帯・自動車電話等の移動体通信への加入者が増加している。とくに、携帯電話やPHS(Personal Handyphone System、簡易型携帯電話)等の加入者の増加はめざましい。また、モバイルコンピュータ(Mobile Computer、携帯型コンピュータ)等の普及に伴い、モバイルコンピュータに携帯電話端末やPHS端末等を接続してデータ通信を行う用途も増加しつつあり、今後、移動体通信への加入者数はますます増加すると考えられる。
【0003】
また、最近では、PHS端末とPDA(Personal Digital Assistant、携帯情報通信端末)とを一体化させたPHS一体型端末も発売され、一台の端末で電話通話や電子メール等のサービスを利用できるようになってきている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、移動体通信では、割り当てられた周波数帯域の電波により通信を行っており、割り当てられた周波数帯域では一定の回線数しか提供することができない。このため、このまま加入者が増加していくと回線提供能力の限界を超えてしまうという問題が発生すると考えられる。
【0005】
また、PHS一体型端末は、様々な機能を実現できる反面、PHS端末や携帯電話端末に比べて大型であり持ち運びがやや不自由であるため、PHS端末や携帯電話端末とは別個に回線を契約して、PHS一体型端末とPHS端末等とを適宜使い分けているユーザもいた。このように、TPO(Time,Place,Occasion)に合わせて快適に移動体通信を行うためには、それぞれ別個に回線使用料を支払わなくてはならず、ユーザの負担が大きくなってしまうという問題があった。
【0006】
また、従来の通信サービスでは、電子メールのデータを文字として表示する機能を有しないPHS端末や携帯電話端末等では、ユーザ宛に送られてきた電子メールの内容を知ることはできなかった。本発明の目的は、複数の回線を契約することなしに、時、場所、場合に応じた快適な移動体通信を実現する電話送受信ユニット及び移動体通信端末を提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、複数の回線を契約することなしに、時、場所、場合に応じた快適な移動体通信を実現する電話送受信ユニット、移動体通信中継端末、及び移動体通信端末を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、アンテナにより受信される受信信号をスピーカから音声として出力する通話用音声信号に変換する機能と、マイクに入力される音声が変換された通話用音声信号を前記アンテナから出力する送信信号に変換する機能と、操作部からの操作信号に基づいて所定の処理を行う機能と、表示部に表示する表示信号を生成する機能とを有する電子回路と、前記電子回路を含み、前記スピーカ及び前記マイクを端末本体に備えた複数の移動体通信端末の各々に設けられたスロットに全体が収納されるような形状に形成されたカートリッジと、前記カートリッジに設けられ、前記移動体通信端末との間で前記操作信号と前記表示信号を入出力する信号線、及び前記通話用音声信号を入出力する信号線を含む入出力部とを有し、1つの回線を契約するだけで前記複数の移動体通信端末によって通話を可能にすることを特徴とする電話送受信ユニットにより達成される。
【0009】
また、上記目的は、基地局との間で信号を送受信するアンテナと、通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、操作に基づいて操作信号を生成する操作部と、表示信号に基づいて表示する表示部と、上記の電話送受信ユニット全体を収納するスロットと、前記スロットに設けられ、前記電話送受信ユニットとの間で前記操作信号と前記表示信号を入出力する信号線、及び前記通話用音声信号を入出力する信号線を含む入出力部とを有し、前記スロットに前記請求項1記載の電話送受信ユニット全体が収納され、前記請求項1記載の電話送受信ユニットについて契約された回線を通じて通話することを特徴とする移動体通信端末により達成される。
【0010】
また、上記目的は、基地局との間で信号を送受信するアンテナと、上記の電話送受信ユニット全体を収納するスロットと、前記スロットに設けられ、前記電話送受信ユニットとの間で信号を入出力する入出力部と、移動体通信中継端末用の移動体通信端末との間で信号を送受信する手段とを有することを特徴とする移動体通信中継端末により達成される。
【0011】
また、上記目的は、入力した音声を通話用音声信号に変換するマイクと、通話用音声信号を音声として出力するスピーカと、上記の移動体通信中継端末との間で信号を送受信する手段とを有することを特徴とする移動体通信中継端末用の移動体通信端末により達成される。
また、上記の移動体通信端末において、前記移動体通信端末は、携帯電話機又は簡易型携帯電話機であることが望ましい。
【0012】
また、上記の移動体通信端末において、前記移動体通信端末は、万年筆、キーホルダ、ライタ、又はペンダントの形態を有していることが望ましい。
【0013】
【0014】
【発明の実施の形態】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末を図1乃至図3を用いて説明する。図1は、本実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末を示す斜視図である。図2は、本実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末を詳細に示す斜視図である。図3は、本実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末の回路構成を示すブロック図である。
【0015】
図1に示すように、PHS端末10のボディ12の側面には、使用時にユーザの耳に接近するスピーカ58と、使用時にユーザの口に接近するマイク60とが設けられている。また、ボディ12の側面には、電話番号や所望の操作を入力するための操作ボタン18と、入力した電話番号や動作状態等を表示する液晶表示部20とが設けられている。
【0016】
ボディ12の上面には、PHSの基地局との間で信号を送受信するための送受信アンテナ22と、電話送受信ユニット24を着脱するためのスロット26とが形成されている。図2は、電話送受信ユニット24とスロット26とを詳細に示した図である。電話送受信ユニット24のカートリッジ28内には、電子回路(図3参照)が収納されている。また、カートリッジ28には、電子回路にPHS端末10側から電力を供給したり、PHS端末10との間で信号の入出力を行ったりするための入出力端子30が形成されている。入出力端子30は、電話送受信ユニット24をスロット26に挿入したときにスロット26に形成された入出力端子32と接続するように形成されている。また、カートリッジ28には、スロット26に形成されたガイドレール34と照合するように溝36が形成されている。ガイドレール34と溝36とは照合するように形成されているので、電話送受信ユニット24の誤挿入を防止することができる。
【0017】
スロット26の挿入口近傍にはスライドボタン38とバネ(図示せず)より成るロック機構が設けられている。図2は、スライドボタン38を矢印の方向にスライドした図である。スライドボタン38にはバネが取り付けられているので、矢印の方向にスライドボタン38をスライドすると、矢印と反対の方向にスライドボタン38を戻すようにバネが機能する。電話送受信ユニット24をスロット26に挿入する場合は、図2に示すようにスライドボタン38を矢印の方向にスライドして挿入口を開き、電話送受信ユニット24を挿入する。その後、矢印の方向にスライドボタン38をスライドしていた力を緩めると、スライドボタン38はバネにより所定の位置に戻される。挿入された電話送受信ユニット24はスライドボタン38により固定される。
【0018】
次に、図3を用いて電話送受信ユニット24とPHS端末10との回路構成を説明する。本実施形態による電話送受信ユニット24及びPHS端末10は、日本国内で多く用いられているPDC(Personal Digital Cellular system)方式のデジタル通信に対応したものである。
【0019】
図3において、一点鎖線内の構成要素は電話送受信ユニット24側に設けられ、点線内の構成要素はPHS端末10側に設けられている。一点鎖線内の構成要素は、多くの移動体通信端末において汎用的に用いられているものであるので、電話送受信ユニット側に設けられている。一方、点線内の構成要素は、送受信アンテナ22や受信アンテナ42のように電話送受信ユニット側に設けると良好な特性が得られないもの、液晶表示部20、スピーカ58、マイク60、操作部70、及びバッテリ76のように各々の移動体通信端末においてスペックが異なるものであるので、PHS端末10側に設けられている。
【0020】
PHS端末10には、送受信アンテナ22の他に、受信専用の受信アンテナ42がボディ12内に収納されている。このように、受信するアンテナを2系統設け、受信するアンテナを適宜切り替えて受信することにより受信状態の変化を少なくする方式を、ダイバーシチ受信方式という。ダイバーシチ受信方式は、経路の異なる電波の干渉によるマルチパスフェージング(multipass phasing)下においても、基地局からの信号を安定的に受信するために非常に有効な方式である。
【0021】
送受信アンテナ22により受信された受信信号は、送受共用器44を介して受信機46に入力される。また、受信機46には高速切換えシンセサイザ48から所定の周波数の信号が入力される。受信機46は、高速切換えシンセサイザ48から入力される所定の周波数の信号を用いて、送受共用器44から入力された受信信号に所定の信号処理をして復調器50に出力する。なお、基地局との送受信にはTDMA(Time Division Multiple Access)方式が用いられている。TDMA方式は、フレーム内の割り当て時間をそれぞれ分割して使用する方法である。TDMA方式においては、移動体通信端末は間欠的に送受信するバースト信号間の空きタイムスロットを利用して、周辺の各基地局の受信電界強度を瞬時に測定して良好に通信できる基地局を判別するので、瞬時にチャネル切換を完了できる高速切換えシンセサイザ48が用いられる。
【0022】
また、受信アンテナ42により受信された受信信号は、受信機52に入力される。また、受信機52には高速切換えシンセサイザ48から所定の周波数の信号が入力される。受信機52は、高速切換えシンセサイザ48から入力される所定の周波数の信号を用いて、受信アンテナ42から入力された受信信号に所定の信号処理をして復調器50に出力する。
【0023】
復調器50は、受信機46から入力される信号、又は受信機52から入力される信号を選択的に復調してTDMA回路54に出力する。TDMA回路54は、信号の多重・分離、誤り訂正、秘匿処理等の処理を行う機能を有している。TDMA回路54は、復調器50から入力された信号に所定の処理をして、CODEC(COder-DECoder)56に出力する。CODEC56は、TDMA回路54から入力されたデジタル信号をアナログの音声信号に変換してスピーカ58に出力する。スピーカ58は、入力された音声信号を音声として出力する。スピーカ58から出力された音声は、ユーザの耳に伝わる。
【0024】
一方、ユーザの口から発せられた音声は、マイク60により音声信号に変換され、CODEC56に入力される。CODEC56はマイク60から入力された音声信号をデジタル信号に変換してTDMA回路54に出力する。CODEC56からTDMA回路54に入力された信号は、TDMA回路54により所定の処理が行われた後、波形整形部62に出力される。波形整形部62に入力された信号は、波形整形された後、直交変調器64に出力される。直交変調器64は、高速切換えシンセサイザ48から入力される所定の周波数の信号を用いて、波形整形部62から入力された信号をπ/4シフトQPSK(Quarternary Phase-Shift Keying)変調方式を用いて変調する。π/4シフトQPSK変調方式を用いることにより、伝送効率を向上させることができる。
【0025】
直交変調器64にて変調された信号は、電力増幅器68に出力される。この電力増幅器68は高い線形増幅性能を有しているので、π/4QPSK変調波を良好に増幅することができる。電力増幅器68により増幅された信号は、送受共用器44を介して送受信アンテナ22から基地局に向けて発せられる。
【0026】
また、電源の入/切、電話番号の入力等の操作は、操作部70として設けられた操作ボタン18により行われ、操作信号が制御部72に入力される。制御部72は、入力された操作信号に基づいて電子回路の制御を行う。また、動作状態や操作部70から入力された電話番号等を示す表示信号が、制御部72から液晶表示部20に出力される。
【0027】
また、ボディ12内に設けられたバッテリ76からは、これらの電子回路に対して電力が供給される。このように、本実施形態によれば、上記のような機能を有する電子回路を、PHS端末等の移動体通信端末に共通に形成されたスロットに着脱可能なカートリッジ内に納めたので、PHS端末を用いて移動体通信を行いたいときには、電話送受信ユニットをPHS端末のスロットに装着することにより移動体通信を行うことができる。電話送受信ユニットは様々な移動体通信端末に装着することができるので、複数の回線を契約することなく、1つの回線を契約するだけで、時、場所、場合に応じた快適な移動体通信を提供することができる。
【0028】
また、上記のような移動体通信端末では、電話送受信ユニット内に形成される電子回路を移動体通信端末側に形成する必要がないので、移動体通信端末のコストダウンに寄与することができる。
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末を図4を用いて説明する。図4は、本実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末を示す斜視図である。図1乃至図3に示す第1実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略または簡潔する。
【0029】
本実施形態の電話送受信ユニットは、第1実施形態による電話送受信ユニットと同様である。本実施形態は、移動体通信端末がモバイルコンピュータであることが第1実施形態と異なる。モバイルコンピュータ78には、図3の点線内と同様に、送受信アンテナ22、受信アンテナ(図示せず)、スピーカ58、マイク60、液晶表示部20、操作部70、バッテリ(図示せず)が設けられている。
【0030】
図4は、モバイルコンピュータ78の蓋部80を開いた状態を示している。本体部82には、操作部70として複数のキー86が設けられ、複数のキー86の右側にはマイク60とスピーカ58とが設けられている。マイク60は、ユーザから発せられる音声を良好に入力するため、所望の角度に傾けることができる。本体部82の手前側の側面には、電話送受信ユニット24を挿入するためのスロット26が形成されている。スロット26には、電話送受信ユニット24を固定するためのスライドボタン38が形成されている。
【0031】
一方、蓋部80には、液晶表示部20、送受信アンテナ22、受信アンテナ(図示せず)が形成されている。通信を行うとき、液晶表示部20には、電話番号や電子メールアドレス等を入力するための画面や、動作状態を示す画面等が表示される。このように、本実施形態によれば、モバイルコンピュータにスロットを形成したので、モバイルコンピュータを用いて移動体通信を行いたいときには、電話送受信ユニットをモバイルコンピュータのスロットに装着することにより移動体通信を行うことができる。これにより、複数の回線を契約することなしに、時、場所、場合に応じた快適な移動体通信を提供することができる。
【0032】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末を図5を用いて説明する。図5は、本実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末を示す斜視図である。図1乃至図4に示す第1又は第2実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略または簡潔する。
【0033】
本実施形態の電話送受信ユニットは、第1又は第2実施形態による電話送受信ユニットと同様である。本実施形態は、移動体通信端末がPDAであることが第1又は第2実施形態と異なる。PDA88には、図3と同様に、送受信アンテナ22、受信アンテナ(図示せず)、スピーカ58、マイク60、バッテリ(図示せず)が設けられている。ただし、本実施形態では、液晶表示部20と操作部70とを一体化したタッチパネル90を用いている。
【0034】
PDA88のボディ92には、タッチパネル90が形成され、タッチパネル90の右側にはマイク60とスピーカ58とが設けられている。ボディ92の手前側の側面には、電話送受信ユニット24を挿入するためのスロット26が形成されている。スロット26には、電話送受信ユニット24を固定するためのスライドボタン38が設けられている。
【0035】
通信を行うとき、タッチパネル90には、電話番号や電子メールアドレス等を入力するための画面が表示される。ユーザはタッチパネル90をタッチすることにより、電話番号や電子メールアドレス等を入力する。また、タッチパネル90には、動作状態を示す画面等も表示される。このように、本実施形態によれば、PDAにスロットを形成したので、PDAを用いて移動体通信を行いたいときには、電話送受信ユニットをPDAのスロットに装着することにより移動体通信を行うことができる。これにより、複数の回線を契約することなしに、時、場所、場合に応じた快適な移動体通信を提供することができる。
【0036】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態による電話送受信ユニット、移動体通信中継端末、及び移動体通信端末を図6を用いて説明する。図6は、本実施形態による電話送受信ユニット、移動体通信中継端末、及び移動体通信端末を示す斜視図である。図1乃至図5に示す第1乃至第3実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略または簡潔する。
【0037】
本実施形態では、第1乃至第3実施形態で移動体通信端末に設けられていた一部の構成要素を移動体通信中継端末に設けることにより移動体通信端末を小型化し、移動体通信中継端末により信号を中継して移動体通信を行うことに主な特徴がある。なお、本実施形態の電話送受信ユニットは、第1乃至第3実施形態による電話送受信ユニットと同様である。
【0038】
移動体通信中継端末94には、スロット26、送受信アンテナ22、受信アンテナ(図示せず)、バッテリ(図示せず)、所定の信号処理を行うための電子回路(図示せず)、及び移動体通信端末と信号の送受信を行うための送受信アンテナ96が設けられている。移動体通信中継端末94は、カバン等に入れて持ち運びができるように小型に形成されている。なお、スロット26の形状は、第1乃至第3実施形態に示したスロット26と同様である。また、スロット26には電話送受信ユニット24を固定するためのスライドボタン38が設けられている。
【0039】
図6に示すように、本実施形態による移動体通信端末は、腕時計98である。腕時計98のボディ100内には、移動体通信中継端末94と信号の送受信を行うための送受信アンテナ(図示せず)、及び所定の処理を行うための電子回路(図示せず)が形成されている。ボディ100の上面には、操作ボタン18、液晶表示部20、スピーカ58、マイク60が形成されている。通信を行うとき、液晶表示部20には、電話番号や電子メールアドレス等を入力するための画面が表示される。ユーザは、操作ボタン18を押して所定の操作を行うことにより、電話番号や電子メールアドレス等を入力する。また、液晶表示部20には、時刻や動作状態等を示す画面等も表示される。
【0040】
なお、液晶表示部20にタッチパネルを用い、タッチペンにより電話番号や電子メールアドレス等を入力するようにしてもよい。このように、本実施形態によれば、スロットを移動体通信中継端末に設けたので、小型の移動体通信端末である腕時計を用いて移動体通信を行いたいときには、移動体通信中継端末により送受信信号を中継して移動体通信を行うことができる。これにより、腕時計等の小型の移動体通信端末を用いて、時、場所、場合に応じた快適な移動体通信を提供することができる。
【0041】
[第5実施形態]
本発明の第5実施形態による電話送受信ユニット、移動体通信中継端末、及び移動体通信端末を図7を用いて説明する。図7は、本実施形態による電話送受信ユニット、移動体通信中継端末、及び移動体通信端末を示す斜視図である。図1乃至図6に示す第1乃至第4実施形態による電話送受信ユニット、移動体通信中継端末、及び移動体通信端末と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略または簡潔する。
【0042】
本実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信中継端末は、第4実施形態と同様である。本実施形態は、移動体通信端末が第4実施形態と異なる。図7に示すように、本実施形態による移動体通信端末102のボディ104は、眼鏡のフレーム106に取付け可能に形成されている。ボディ104内には、所定の処理を行うための電子回路(図示せず)、移動体通信中継端末94と信号の送受信を行うための送受信アンテナ(図示せず)、及び電子回路に電力を供給するためのバッテリ(図示せず)が設けられている。ボディ104の側面には、最小限の操作ボタン18が形成されている。また、ボディ104には、マイク60が形成されている。マイク60は、ユーザの口に接近するよう棒状のフレーム108を有している。また、イヤホン112内に設けられたスピーカ58は、ボディ104内に形成された電子回路に配線ケーブルを介して接続されている。ユーザは、イヤホンを耳に装着し、マイク60から音声を入力することにより通信を行う。
【0043】
このように、本実施形態によれば、移動体通信端末を眼鏡に取り付けられるようにしたので、時、場所、場合に応じた快適な移動体通信を提供することができる。
[第6実施形態]
本発明の第6実施形態による通信サービスシステムを図8を用いて説明する。図8は、本実施形態による通信サービスシステムを示すブロック図である。
【0044】
本実施形態は、第1乃至第5実施形態による電話送受信ユニット、移動体通信中継端末、及び移動体通信端末等を用いて、電子メールデータを音声変換して配信する通信サービスを提供することに主な特徴がある。送信者から通信網を介して通信サービス業者に送信された電子メールデータや音声信号は、図8に示すように、データ/音声判定部114において、電子メールデータか音声かを判定し、電子メールデータである場合はデータ処理部116に入力される。データ処理部116は、入力された電子メールデータに所定のデータ処理を行い、音声合成部118に出力する。音声合成部118では、入力されたデータを音声信号に変換し、センターシステム120に出力する。センターシステム120では、入力された音声信号を記憶装置(図示せず)に記憶する。
【0045】
また、データ/音声判定部114において、音声と判断された音声信号は音声処理部122に入力される。音声処理部122は、入力された音声信号に所定の処理を行い、センターシステム120に出力する。センターシステム120では、入力された音声信号を記憶装置に記憶する。ユーザが電子メールの内容を知りたいときは、移動体通信端末等を用いてセンターシステム120にアクセスする。ユーザからのアクセスがあると、センターシステム120は記憶装置に記憶された音声信号をユーザの移動体通信端末等に送信する。
【0046】
このように、本実施形態によれば、電子メールのデータを文字として表示する機能を有しない移動体通信端末等を用いても、ユーザ宛の電子メールの内容を知ることができる。
[変形実施形態]
本発明は上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0047】
例えば、第1乃至第5実施形態において、カートリッジ内に設けられる電子回路の構成はこれに限定されるものではなく、例えば、CODECや制御部等の構成要素は移動体通信端末や移動体通信中継端末に設けられてもよい。また、一部の構成要素を一体化したり、省略してもよいし、他の構成要素を更に付加してもよい。
【0048】
また、第1乃至第5実施形態では、PDC方式のデジタル通信を例に説明したが、PDC方式のデジタル通信に限られるものではなく、他のデジタル通信方式でもよいし、アナログ通信等に適用してもよい。また、第1実施形態では、PHS端末を例に説明したが、通常の携帯電話や自動車電話などにも適用することができる。
【0049】
また、第1乃至第5実施形態において、信号の送受信は、PHSの基地局との間でのみ行われるものではなく、NTTの基地局、構内回線の基地局などあらゆる基地局との間で行うことができる。また、第1乃至第5実施形態では、カートリッジの断面形状はほぼ長方形に形成されているが、円形、又は楕円形などでもよい。また、電子回路を更に集積化すれば、カートリッジはカード型、チップ型などに形成することもできる。
【0050】
また、第1乃至第5実施形態において、移動体通信端末は、例えばノート型コンピュータ、電子手帳、携帯型DVD(Digital Versatile Disk)デッキ等でもよい。また、万年筆、グローブ、キーホルダ、ライタ、ユニホーム、ペンダント等のあらゆる物に移動体通信端末を取り付けられるようにしたり、組み込んだりしてもよい。
【0051】
また、第1乃至第3実施形態において、単に通話や電子メール通信等を行うだけでなく、液晶表示部やタッチパネル等を用いたテレビ電話などを実現してもよい。また、第4及び第5実施形態において、移動体通信中継端末に液晶表示部や操作部等を更に設けてもよい。
【0052】
また、第1乃至第5実施形態では、電話送受信ユニットと移動体通信端末、又は電話送受信ユニットと移動体通信中継端末との間の信号の入出力には入出力端子を用いているが、赤外線通信など他の方式により入出力するようにしてもよい。また、第6実施形態において、音声合成部からセンターシステムに入力された音声信号、及び音声処理部からセンターシステムに入力された音声信号は、センターシステムの記憶装置に記憶されずに、直接受信者に送信されてもよい。
【0053】
また、第6実施形態において、ユーザが用いる通信端末は移動体通信端末に限定される物ではなく、通常の電話機等を用いてセンターシステムにアクセスしてもよい。
【0054】
【発明の効果】
以上の通り、本発明によれば、電話送受信ユニットを移動体通信端末のスロットに装着することにより、移動体通信端末を用いた移動体通信を行うことができる。電話送受信ユニットは様々な移動体通信端末に装着することができるので、複数の回線を契約することなく、1つの回線を契約するだけで、時、場所、場合に応じた快適な移動体通信を提供することができる。また、上記のような移動体通信端末では、電話送受信ユニット内に形成される電子回路を移動体通信端末側に形成する必要がないので、移動体通信端末のコストダウンに寄与することができる。
【0055】
また、本発明によれば、電話送受信ユニットを装着するスロットを移動体通信中継端末に設けたので、移動体通信中継端末により送受信信号を中継して、移動体通信端末を用いた移動体通信を行うことができる。移動体通信端末を小型化することができるので、時、場所、場合に応じた快適な移動体通信を提供することができる。
【0056】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末を詳細に示す斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末の回路構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第2実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末を示す斜視図である。
【図5】本発明の第3実施形態による電話送受信ユニット及び移動体通信端末を示す斜視図である。
【図6】本発明の第4実施形態による電話送受信ユニット、移動体通信中継端末、及び移動体通信端末を示す斜視図である。
【図7】本発明の第5実施形態による電話送受信ユニット、移動体通信中継端末、及び移動体通信端末を示す斜視図である。
【図8】本発明の第6実施形態による通信サービスシステムを示すブロック図である。
【符号の説明】
10…PHS端末
12…ボディ
18…操作ボタン
20…液晶表示部
22…送受信アンテナ
24…電話送受信ユニット
26…スロット
28…カートリッジ
30、32…入出力端子
34…ガイドレール
36…溝
38…スライドボタン
42…受信アンテナ
44…送受共用器
46…受信機
48…高速切換えシンセサイザ
50…復調器
52…受信機
54…TDMA回路
56…CODEC
58…スピーカ
60…マイク
62…波形整形部
64…直交変調器
68…電力増幅器
70…操作部
72…制御部
76…バッテリ
78…モバイルコンピュータ
80…蓋部
82…本体部
86…キー
88…PDA
90…タッチパネル
92…ボディ
94…移動体通信中継端末
96…送受信アンテナ
98…腕時計
100…ボディ
102…移動体通信端末
104…ボディ
106、108…フレーム
112…イヤホン
114…データ/音声判定部
116…データ処理部
118…音声合成部
120…センターシステム
122…音声処理部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2012-04-23 
出願番号 特願平9-166916
審決分類 P 1 113・ 832- ZA (H04M)
P 1 113・ 113- ZA (H04M)
P 1 113・ 854- ZA (H04M)
P 1 113・ 841- ZA (H04M)
P 1 113・ 121- ZA (H04M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梶尾 誠哉宮田 繁仁  
特許庁審判長 田中 庸介
特許庁審判官 菅原 道晴
神谷 健一
登録日 2000-03-24 
登録番号 特許第3048964号(P3048964)
発明の名称 電話送受信ユニット、移動体通信中継端末、及び移動体通信端末  
代理人 黒川 恵  
代理人 稲元 富保  
代理人 小林 浩  
代理人 稲元 富保  
代理人 原田 崇史  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 片山 英二  

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