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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
管理番号 1260013
審判番号 不服2009-15760  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-27 
確定日 2012-07-11 
事件の表示 特願2004-269154「歩留りベースの光近接効果補正法を用いたマスク・パターン生成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月 7日出願公開、特開2005- 92212〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願の手続の経緯は、概要次のとおりである。
特許出願 :平成16年 9月16日
(パリ条約に基づく優先権主張の日:平成15年 9月18日、米国)
拒絶理由通知(最初):平成19年 9月28日(起案日)
意見書 :平成19年12月20日
拒絶理由通知(最初):平成20年 7月16日(起案日)
意見書 :平成20年10月21日
拒絶査定 :平成21年 4月21日(起案日)
拒絶査定不服審判請求:平成21年 8月27日
手続補正 :平成21年 8月27日
審尋 :平成22年 7月27日(起案日)
回答書 :平成22年11月 2日
拒絶理由通知(最初):平成23年 5月12日(起案日)
手続補正 :平成23年 9月16日
意見書 :平成23年 9月16日

第2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年9月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
基板上にレイアウト・フィーチャをリソグラフィによって作製する際に使用するのに適合したマスクを生成する方法であって、
前記基板上に作製する設計レイアウト・パターンの設計マスク・パターンを提供するステップと、
前記基板上に前記設計マスク・パターンを使用して作製される予測レイアウト・パターンを、前記設計マスク・パターンから提供するステップと、
前記予測レイアウト・パターンのエッジ上と前記設計マスク・パターンのエッジ上の対応する点の組を複数サンプリングして、それぞれの組の点間の距離値を求めるステップと、
前記点の組間の前記距離値の関数として歩留り曲線を提供するステップと、
前記歩留り曲線から、前記組ごとに、前記予測レイアウト・パターン上の点の位置が、許容される歩留りを提供する位置にあるかどうかを判定するステップと、
前記組ごとに、前記設計マスク・パターンのエッジ上の点の位置を、歩留りが向上する場合には当該点を歩留まりが向上するように移動させるステップと
を含む方法。」

第3 当審における拒絶の理由
当審で通知した平成23年5月12日付け拒絶理由通知書の理由1?2で指摘した内容は、概略次のとおりである。

「理由1
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


・・・(中略)・・・
(2)本願発明1?9において、「前記予測レイアウト・パターンと前記設計マスク・パターンの関連輪郭エッジ・フィーチャの選択された点を連続してサンプリングして、前記輪郭エッジ・フィーチャのそれぞれの点間の距離値を求めるステップ」という発明特定事項があるが、少なくとも以下の点で意味が不明確である。
(2a)「関連輪郭エッジ・フィーチャ」が通常の日本語の技術用語ではなく、発明の詳細な説明を参照しても、その意味が明確ではない。少なくとも、発明の詳細な説明中に、「関連輪郭エッジ・フィーチャ」という用語は現れていない。
(2b)「関連輪郭エッジ・フィーチャ」と「前記輪郭エッジ・フィーチャ」とが同じものを意味するのか否かが明りょうでない。
(2c)「関連輪郭エッジ・フィーチャの選択された点」と「前記輪郭エッジ・フィーチャのそれぞれの点」とが同じものを意味するのか否かが明りょうでない。
本願発明10?12についても同様である。

(3)本願発明1?9において、「前記輪郭エッジ・フィーチャ間の前記距離値の関数として歩留り曲線を提供するステップ」という発明特定事項があるが、当該記載では、「輪郭エッジフィーチャ」が2以上の複数存在するかのように記載されているのに対して、これ以前に「輪郭エッジフィーチャ」が2以上の複数存在すると解釈し得る記載は存在しておらず、当該記載の意味が不明確である。

(4)本願発明1?9において、「前記歩留り曲線から、選択されたそれぞれのサンプリング点ごとに、前記予測レイアウト・パターンの前記輪郭エッジ・フィーチャの現在位置が、許容される歩留りを提供する位置にあるかどうかを判定するステップ」という発明特定事項があるが、少なくとも以下の点で意味が不明確である。
(4a)「選択されたそれぞれのサンプリング点」と、上記(2c)で述べた「「関連輪郭エッジ・フィーチャの選択された点」及び「前記輪郭エッジ・フィーチャのそれぞれの点」とが、同じものを意味するのか否かが明りょうでない。
(4b)「前記予測レイアウト・パターンの前記輪郭エッジ・フィーチャの現在位置」とあるが、「現在位置」とは何のどの段階における位置を意味しているのかが不明確である。
本願発明10?12についても同様である。

(5)本願発明1?9において、「前記予測ウェーハ・レイアウト・パターンの輪郭エッジ・フィーチャの前記現在位置を、歩留りが向上するエッジ位置に向かって移動させるステップ」という発明特定事項があるが、少なくとも以下の点で意味が不明確である。
・・・(中略)・・・
(5c)「歩留まりが向上するエッジ位置」とあるが、どのような性質の「エッジ位置」であれば歩留まりが向上するのかが図3のような特定パターンを前提とすれば例示できるとしても、それ以外の一般的なものにおいては、技術常識を参酌しても明確であるとはいえず、当該記載は意味が不明確である。また、「エッジ位置」が何を指しているのかも明りょうではない。
さらに、技術常識を踏まえれば、どのような場合であっても常に歩留まりに向上の余地がある訳ではないから、移動させるべき「歩留まりが向上するエッジ位置」が無い場合も含まれており、その点においても意味の不明確な記載である。
本願発明10?12についても同様である。」

「理由2
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


本願発明1?9において、「前記輪郭エッジ・フィーチャ間の前記距離値の関数として歩留まり曲線を提供する」という技術的事項があるが、「歩留まり曲線」の「関数」を得るための方法が発明の詳細な説明に記載されていない。
発明の詳細な説明中には、図2,5,6,9等に示されているような特性を示す関数が所与のものとして得られていることを前提として記載されており、どのようにして当該関数を見出せばよいのか、その具体的な方法が説明されていない。
また、本願発明1?9の歩留まり曲線は、図2,5,6,9等に示される特定の特性を示す関数に限定されず、様々な特性を有する一般的な関数、すなわち、ごく単純な特定のパターンを前提とした歩留まり関数のみならず、現実の集積回路において通常見受けられるような単純とはいえないパターンにおける歩留まり曲線の関数をも包含しているが、そのような一般的な歩留まり曲線の関数を見出すための一般的な方法も説明されていない。
本願発明10?12についても同様である。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1?12を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」

第4 請求人の主張
平成23年9月16日付け意見書における請求人の主張は、概略次のとおりである。

「<拒絶の理由1について>
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとの指摘を受けた。
以下、拒絶理由に付された番号に沿い、説明する。
・・・(中略)・・・
1-(2a?c)
請求項1?12において、「関連輪郭エッジ・フィーチャー」の意味が明確ではないとの指摘を受けた。
請求項1及び12において、「輪郭エッジ・フィーチャー」を削除すべく、「前記予測レイアウト・パターンと前記設計マスク・パターンの関連輪郭エッジ・フィーチャの選択された点を連続してサンプリングして、前記輪郭エッジ・フィーチャのそれぞれの点間の距離値を求める」との記載を、「前記予測レイアウト・パターンのエッジ上と前記設計マスク・パターンのエッジ上の対応する点の組を複数サンプリングして、それぞれの組の点間の距離値を求めるステップと、」書き換えた。
当該補正は、図3及び明細書第0028段落の記載、例えば、「設計幅の線に沿ってサンプリング点を選択した(ブロック5のステップ)。これが点1、2、3および4で示されている。」との記載に基づくものである。
これに関連し、以下の点を補正した。
第1に、「前記輪郭エッジ・フィーチャ間の前記距離値の関数として歩留り曲線」を、「前記点の組間の前記距離値の関数として歩留り曲線」と書き換えた。
当該補正は、図3及び、第0028段落の、例えば、「歩留り関数をd_edge1の関数と見ることによって与えられる。」との記載に基づくものである。
第2に、「前記歩留り曲線から、選択されたそれぞれのサンプリング点ごとに、前記予測レイアウト・パターンの前記輪郭エッジ・フィーチャの現在位置が、許容される歩留りを提供する位置にあるかどうかを判定」を、「前記歩留り曲線から、前記組ごとに、前記予測レイアウト・パターン上の点の位置が、許容される歩留りを提供する位置にあるかどうかを判定」と書き換えた。
当該補正は、第0030段落の、例えば、「次いで、ブロック13によって表されるステップが、許容されるエッジ移動範囲にわたってメリット関数の値を現在の値に対してチェックすることによって、メリット関数の計算値が最大値であるかどうかを判定する。」
との記載に基づくものである。
第3に、「前記予測ウェーハ・レイアウト・パターンの輪郭エッジ・フィーチャの前記現在位置を、歩留りが向上するエッジ位置に向かって移動させる」を、「前記組ごとに、前記設計マスク・パターンのエッジ上の点の位置を、歩留りが向上する場合には当該点を歩留まりが向上するように移動させる」と書き換えた。
当該補正は、第0030段落の、例えば、「当該サンプリング点のメリット関数の計算値が最大でない場合には、ブロック17のステップに示すように、当該サンプリング点に関連したマスク・エッジ点を、あらかじめ規定された許容範囲内で、最大となる点に近づける。」との記載に基づくものである。
「歩留まりが向上する場合には」の点は、図1のステップ13に基づくものである。
第4に、請求項2、3、5、11及び12において、「前記予測レイアウト・パターンの前記輪郭エッジ・フィーチャの現在位置が」を、「前記組ごとの、前記予測レイアウト・パターン上の点の位置が」と書き換えた。

1-(3)
「輪郭エッジフィーチャ」が2以上記載されているとの指摘を受けた。
上記、(2a?c)に記載した通り、補正により、「輪郭エッジ・フィーチャー」を削除したので、拒絶の理由は解消された。

1-(4a)
「選択されたそれぞれのサンプリング点」と、「関連輪郭エッジフィーチャの選択された点」及び「前記輪郭エッジ・フィーチャのそれぞれの点」とが、同じものを意味するのか否か明瞭でないとの指摘を受けた。
上記、(2a?c)に記載した通り、補正により、「輪郭エッジ・フィーチャー」を削除したので、拒絶の理由は解消された。

1-(4b)
「前記予測レイアウト・パターンの前記輪郭エッジ・フィーチャの現在位置」とあるが、「現在位置」とは何のどの段階における位置を意味しているのかが不明確であるとの指摘を受けた。
上記、(2a?c)に記載した通り、補正により、「輪郭エッジ・フィーチャー」を削除し、更に「現在位置」を別の表現に改めたので、拒絶の理由は解消された。

1-(5a)
「前記予測ウェーハ・レイアウト・パターン」とあるが、対応すべき「予測ウェーハ・レイアウト・パターン」が前出していないとの指摘を受けた。
「予測されたレイアウト・パターン」と「前記予測レイアウト・パターン」に統一し、拒絶の理由は解消された。

1-(5b)
「予測ウェーハ・レイアウトパターンの輪郭エッジ・フィーチャの前記現在位置を、歩留まりが向上するエッジ位置に向かって移動させる」がどのような工程を意味しているのかが不明確であるとの指摘を受けた。
上記した通り、「前記予測ウェーハ・レイアウト・パターンの輪郭エッジ・フィーチャの前記現在位置を、歩留りが向上するエッジ位置に向かって移動させる」を、「前記組ごとに、前記設計マスク・パターンのエッジ上の点の位置を、歩留りが向上するように移動させる」と書き換えたので、拒絶の理由は解消された。

1-(5c)
「歩留まりが向上するエッジ位置」の意味が不明確であるとの指摘を受けた。
まず、「エッジ位置」を、「エッジ上の点の位置」と補正したので、図3等に照らせば、エッジ上のサンプルされた点、1-4等の位置を指すことは明確になったものと考える。
次に、「歩留まりが向上するエッジ位置」が技術常識を参酌しても不明確との指摘に関し、本願明細書第0020に記載の通り、「歩留り関数を導き出すのにはさまざまなアプローチを使用することができる。」
更に、歩留まりが向上するように、回路パタンの面積を修正すること、デザインルールを変更すること、基本プロセス条件を変更すること等は、例えば引用例1の図2に示されているし、トランジスタ突き出し寸法が正常動作を保証しない場合に、パターンデータを修正することは、例えば引用例2の図1に示されている。
このような歩留まりを考慮した諸条件修正の適用対象は、特定パターンに限定されるものではなく、引用例1の図3-5に例示される如く、パターンに応じて適宜調整し得るものである。
従って、「特定パターンを前提とすれば例示できるとしても、それ以外の一般的なものにおいては、技術常識を参酌しても明確であるとはいえず」との指摘はあたらないものと考える。」

「<拒絶の理由2について>
発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項1号に規定する要件を満たしていないとの指摘を受けた。
「どのようにして当該関数を見出せばよいのか、その具体的な方法が説明されていない」との指摘を受けたが、図4に例示されている通り、d_edge1と歩留まりの関係は、例えば、「テスト・マクロを使用して歩留り関数を実験的に決定することができ」(第0021段落)る。
また、「現実の集積回路において通常見受けられるような単純とはいえないパターンにおける歩留まり曲線の関数をも包含しているが、そのような一般的な歩留まり曲線の関数を見出すための一般的な方法も説明されていない」との指摘を受けたが、例えば、「本発明の原理に基づく修正メリット関数として使用することができる歩留りに基づく他のメリット関数の例を図6に示す。この例は図7に示すレイアウト配置に基づく。図7は、幅の広い金属線とそれらの間の狭幅のスペースとを含む図3に示したレイアウトの拡張を示す。ただしこのケースでは、第1の金属線のエッジ73の近くにコンタクト71が配置されている。サンプリング点1および関連サンプリング点2、3および4は、図3と同様に配置されている。歩留りに関するここでの追加の関心事は、接触抵抗を十分に低くするために十分なコンタクト・カバレージを達成することである。この例では、オーバレイなどの配置およびリソグラフィ制御情報を含むレベル間パラメータが、コンタクトおよび金属線の配置に含まれることが明らかである。コンタクト・カバレージの大きさと故障とに基づく、この例に対する修正メリット関数を得るための歩留り曲線は容易に作成することができる。」(第0035段落)と記載されているように、複雑な系であっても、歩留まりに影響する特別な構造に着目し、その構造と歩留まりとの関係が求められる。本例の場合には、「接触抵抗を十分に低くするために十分なコンタクト・カバレージを達成すること」が着目され、この物理的特性と歩留まりとの関係が歩留まり曲線として採用される。
本明細書では、系の中の特徴ある構造に着目し、歩留まり曲線を求める方法が開示されており、これら開示から、当業者であれば、歩留まり曲線の関数を見出すための方法を理解することはでき得るものと考える。
尚、以上の通り、系の特性に応じて関数を見出すための方法は変わり得るので、「一般的な歩留まり曲線の関数を見出すための一般的な方法」が説明されていないからといって、明細書及び図面の記載が不十分であるとの指摘は当を得ないものと考える。
よって、発明の詳細な説明の記載は明瞭であり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものと考える。」

第5 当審の判断

1 本願発明の明確性について(特許法第36条第6項第2号)
(1)平成23年9月16日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により、補正前の
「前記予測レイアウト・パターンと前記設計マスク・パターンの関連輪郭エッジ・フィーチャの選択された点を連続してサンプリングして、前記輪郭エッジ・フィーチャのそれぞれの点間の距離値を求めるステップ」
という発明特定事項が、本件補正後は、
「前記予測レイアウト・パターンのエッジ上と前記設計マスク・パターンのエッジ上の対応する点の組を複数サンプリングして、それぞれの組の点間の距離値を求めるステップ」
という発明特定事項に変更された。
ここで、本件補正後の記載では、「予測レイアウト・パターンのエッジ上」の「点」と「設計マスク・パターンのエッジ上」の「点」との「組」における「点間の距離値を求める」ことになっているが、発明の詳細な説明の段落【0024】?【0028】及び図3には、次のとおり記載されている。

「【0024】
この関連サンプリング点を、図3を参照してより詳細に説明する。図3は、間に絶縁スペースを有する一対の金属線のサンプリング・パターンを示している。図3には、このプロセスのある時点における全体レイアウトの一部の断片と考えられるものが示されている。金属線は、陰影のついた領域33および35によって示されており、これらは金属レイアウトの設計幅を表す。陰影のついた領域33と領域35の間の領域37は、金属線間の設計スペースである。点線39、41、43および45は、金属線33および35の予測ウェーハ・パターン・イメージ・エッジの位置を表し、×印のついた実線47、49、51および53は現在のマスク・エッジを表しており、現在の予測ウェーハ・パターン・イメージ・エッジはこのマスク・エッジから導き出されたものである。これによって、オリジナルの設計マスク・パターンから修正された現在のマスク・パターンを得るために少なくとも1回の補正が実施されたと考えられる。線55は、現在のサンプリング線を表している。
【0025】
従来のOPCプロセスでは、サンプリング線55上の予測ウェーハ・パターン・イメージ・サンプリング点57の位置または値を、対応する設計パターン・イメージの点59の位置または値と比較して、すなわち予測エッジ点を対応する設計エッジ点と比較して、それらの間の距離を求める。しかし、金属線幅および金属線間のスペース幅に関連した知られている故障メカニズムがあるため、本発明によれば、線幅および線スペースを求めるのに使用できる関連サンプリング点61、63および65を識別する。
【0026】
それぞれのサンプリング点57、61、63および65と、図3のd_edge1、d_edge2、d_edge3およびd_edge4として識別される設計パターン・イメージ上の対応するそれぞれの点との間の距離は既知である(すなわち計算することができる)ので、予測線幅を求めることができる。すなわち、予測金属線幅=設計線幅+d_edge1+d_edge3、予測金属スペース幅=設計スペース幅-d_edge1-d_edge2である。
・・・(中略)・・・
【0028】
さらに詳細に説明するため、図3に基づくレイアウトおよび図1の流れ図を参照する。ブロック9からスタートする。このアルゴリズムの最初のステップでは、設計幅の線に沿ってサンプリング点を選択した(ブロック5のステップ)。これが点1、2、3および4で示されている。点1の関連サンプリング点セットには、スペース幅および線幅を定義する点3および2が含まれる(ブロック7のステップ)。マスク・レイアウト(線47)に基づいて新しいエッジ配置が計算された、すなわち点63、57、61および65が既知であると仮定する。さらに、現在、点1のエッジ配置の質を評価していると仮定する。図3に示すとおり、メリット関数は、線幅(点63と点57の間の距離)およびスペース幅(点57と点61の間の距離)の関数である。今は点1に着目しているので、このアルゴリズムは、歩留りに関して点57の現在位置が最適(または最適に近い)か否かを判断しなければならない。この問いの答えは、歩留り関数をd_edge1の関数と見ることによって与えられる。この特定の反復に関して、d_edge2、d_edge3、d_edge4は全て既知であり、固定のままである。したがって、図2に示した歩留り関数を、d_edge1のメリット関数に変換することができる。これだけを取りだして図4に概略的に示す。図1のプロセスが取り組む課題は、予測エッジ配置d_edge1は、最大歩留りが得られるエッジ配置にどれくらい近いのかということである。この問いの答えは、図1のブロック9、10、11および13に示したステップで与えられる。ブロック9のステップでは、図3のサンプリング点57など、このプロセスのさまざまなサンプリング点における予測線エッジの位置を決定する。次いで、ブロック11のステップでは、関連サンプリング点および関係するメリット関数から変量の値を計算する。この点に関して、ブロック11では「修正メリット関数」を参照する。この用語は、本発明に基づくプロセスを、メリット関数が単なる距離の関数である従来のOPCプロセスから区別するために使用する。」

【図3】

上記記載によれば、「歩留り関数をd_edge1の関数と見ること」になっているが、「予測エッジ配置d_edge1」とは、「設計パターン・イメージ」上の「点59」と「予測ウェーハ・パターン・イメージ」上の「サンプリング点57」との間の距離値であって、「設計マスク・パターン」(×印のついた実線49)上の点とは直接関係するものではない。
それに対して、本願発明は、「予測レイアウト・パターンのエッジ上と前記設計マスク・パターンのエッジ上の対応する点の組」の点間の距離値を求めることになっているから、本願発明と発明の詳細な説明の記載は、距離値の算出に「設計マスク・パターン」上の点を用いるか否かで食い違っており、両者の記載は矛盾している。
そうすると、本件補正後の本願発明の上記発明特定事項も、補正前と同様に何を意味するのかが明確であるとはいえない。

(2)本件補正により、補正前の
「前記輪郭エッジ・フィーチャ間の前記距離値の関数として歩留り曲線を提供するステップ」
という発明特定事項が、本件補正後は、
「前記点の組間の前記距離値の関数として歩留り曲線を提供するステップ」
という発明特定事項に変更された。
しかし、上述のとおり、発明の詳細な説明の記載では、「歩留り関数」は「設計パターン・イメージ」上の「点59」と「予測ウェーハ・パターン・イメージ」上の「サンプリング点57」との間の距離値「d_edge1」の関数であって、「予測レイアウト・パターンのエッジ上」の「点」と「設計マスク・パターンのエッジ上」の「点」との「点の組間の距離値の関数」ではないから、本願発明と発明の詳細な説明の記載は矛盾している。
そうすると、本件補正後の本願発明の上記発明特定事項も、補正前と同様に何を意味するのかが明確であるとはいえない。

(3)本件補正により、補正前の
「前記歩留り曲線から、選択されたそれぞれのサンプリング点ごとに、前記予測レイアウト・パターンの前記輪郭エッジ・フィーチャの現在位置が、許容される歩留りを提供する位置にあるかどうかを判定するステップ」
という発明特定事項が、本件補正後は、
「前記歩留り曲線から、前記組ごとに、前記予測レイアウト・パターン上の点の位置が、許容される歩留りを提供する位置にあるかどうかを判定するステップ」
という発明特定事項に変更された。
しかし、上述のとおり、発明の詳細な説明の記載では、「歩留り関数」は「設計パターン・イメージ」上の「点59」と「予測ウェーハ・パターン・イメージ」上の「サンプリング点57」との間の距離値「d_edge1」の関数であって、「予測レイアウト・パターンのエッジ上」の「点」と「設計マスク・パターンのエッジ上」の「点」との「点の組間の距離値の関数」ではないから、当該「点」の「組ごと」に判定を行うとする本願発明と発明の詳細な説明の記載は矛盾している。
そうすると、本件補正後の本願発明の上記発明特定事項も、補正前と同様に何を意味するのかが明確であるとはいえない。

(4)本件補正により、補正前の
「前記予測ウェーハ・レイアウト・パターンの輪郭エッジ・フィーチャの前記現在位置を、歩留りが向上するエッジ位置に向かって移動させるステップ」
という発明特定事項が、本件補正後は、
「前記組ごとに、前記設計マスク・パターンのエッジ上の点の位置を、歩留りが向上する場合には当該点を歩留まりが向上するように移動させるステップ」
という発明特定事項に変更された。
しかし、「歩留まりが向上するように移動させる」とあるが、どのように移動させれば、歩留まりが向上するのかが、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、本願図面の図3,7等に示される特定パターンについて例示されるのみであり、それ以外の一般的なものにおいては、技術常識を参酌しても明確であるとはいえず、当該記載は意味が不明確である。
そうすると、本件補正後の本願発明の上記発明特定事項も、補正前と同様に何を意味するのかが明確であるとはいえない。

なお、上述のとおり、請求人はこの(4)の点に関して、
「本願明細書第0020に記載の通り、「歩留り関数を導き出すのにはさまざまなアプローチを使用することができる。」
更に、歩留まりが向上するように、回路パタンの面積を修正すること、デザインルールを変更すること、基本プロセス条件を変更すること等は、例えば引用例1の図2に示されているし、トランジスタ突き出し寸法が正常動作を保証しない場合に、パターンデータを修正することは、例えば引用例2の図1に示されている。
このような歩留まりを考慮した諸条件修正の適用対象は、特定パターンに限定されるものではなく、引用例1の図3-5に例示される如く、パターンに応じて適宜調整し得るものである。」
と主張しているが、本願明細書に「歩留まり関数を導き出す」「さまざまなアプローチ」が具体的に開示されているとはいえず、かつ、引用例1?2の記載事項は、どちらも本願明細書に記載されたものではないから、当該主張は妥当ではない。

(5)小括
以上のとおり、本願発明は不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 実施可能要件について(特許法第36条第4項第1号)
本願発明は、
「前記予測レイアウト・パターンのエッジ上と前記設計マスク・パターンのエッジ上の対応する点の組を複数サンプリングして、それぞれの組の点間の距離値を求めるステップ」
を前提として、
「前記点の組間の前記距離値の関数として歩留り曲線を提供するステップ」
とする発明特定事項を含むが、「歩留まり曲線」の「関数」を得るための方法が発明の詳細な説明に記載されていない。
まず、上述のとおり、発明の詳細な説明の記載において、「歩留り関数」は「設計パターン・イメージ」上の「点59」と「予測ウェーハ・パターン・イメージ」上の「サンプリング点57」との間の距離値「d_edge1」の関数であって、「予測レイアウト・パターンのエッジ上」の「点」と「設計マスク・パターンのエッジ上」の「点」との「点の組間の距離値の関数」ではないから、本願発明を実施するために必要な技術的事項が記載されているとはいえない。
また、発明の詳細な説明中には、図2,5,6,9等に示されているような特性を示す関数が所与のものとして得られていることを前提として記載されており、どのようにして当該関数を見出せばよいのか、その具体的な方法が説明されていない。 図2,5,6,9等に対応する特定の関数については、それが何の距離値の関数になるのかは特定しているものの、歩留まりが何の距離値の関数になるかを見出す方法や個々の関数を具体的に導出するための方法については何ら開示されていない。
さらに、本願発明の歩留まり曲線は、図2,5,6,9等に示される特定の特性を示す関数に限定されず、様々な特性を有する一般的な関数、すなわち、ごく単純な特定のパターンを前提とした歩留まり関数のみならず、現実の集積回路において通常見受けられるような単純とはいえないパターンにおける歩留まり曲線の関数をも包含しているが、そのような一般的な歩留まり曲線について、何の距離値の関数になるかを見出す一般的な方法や具体的な関数を見出すための一般的な方法も説明されていない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

なお、上述のとおり、請求人はこの点に関して、
「図4に例示されている通り、d_edge1と歩留まりの関係は、例えば、「テスト・マクロを使用して歩留り関数を実験的に決定することができ」(第0021段落)る。」
と主張しているが、「テスト・マクロ」を用いるとしても、どのように用いて、歩留まり関数を決定するのか、発明の詳細な説明に十分な記載がないので、妥当な主張とはいえない。
また、請求人は、
「複雑な系であっても、歩留まりに影響する特別な構造に着目し、その構造と歩留まりとの関係が求められる。本例の場合には、「接触抵抗を十分に低くするために十分なコンタクト・カバレージを達成すること」が着目され、この物理的特性と歩留まりとの関係が歩留まり曲線として採用される。
本明細書では、系の中の特徴ある構造に着目し、歩留まり曲線を求める方法が開示されており、これら開示から、当業者であれば、歩留まり曲線の関数を見出すための方法を理解することはでき得るものと考える。」
と主張しているが、請求人が根拠とする段落【0035】の記載は、図7のレイアウト配置に対応する修正メリット関数を図6に例示し、当該修正メリット関数を得るための歩留まり曲線は容易に作成することができると述べているだけであって、段落【0036】?【0038】の記載を参酌しても、具体的な修正メリット関数の導出法が十分に記載されているとはいえないので、やはり妥当な主張とはいえない。
さらに、請求人は、
「尚、以上の通り、系の特性に応じて関数を見出すための方法は変わり得るので、「一般的な歩留まり曲線の関数を見出すための一般的な方法」が説明されていないからといって、明細書及び図面の記載が不十分であるとの指摘は当を得ないものと考える。」
と主張しているが、系の特性に応じて関数を見出すための方法が変わり得るのならば、なおさら、現実の回路パターンを適用可能な関数を見出すための方法を十分に説明しなければ、当業者が本願発明を実際に実施することができないといえる。
したがって、請求人の主張は採用できない。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本願の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができないものである。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-07 
結審通知日 2012-02-14 
審決日 2012-02-28 
出願番号 特願2004-269154(P2004-269154)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G03F)
P 1 8・ 537- WZ (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉浦 淳  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 橋本 直明
樋口 信宏
発明の名称 歩留りベースの光近接効果補正法を用いたマスク・パターン生成方法  
代理人 上野 剛史  
代理人 市位 嘉宏  
代理人 太佐 種一  

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