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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1261007
審判番号 不服2011-16171  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-26 
確定日 2012-08-03 
事件の表示 特願2005-153695号「車輪用軸受装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月 7日出願公開、特開2006-329320号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成17年5月26日の出願であって、平成23年4月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年7月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、明細書及び特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。

II.平成23年7月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年7月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材間の開口端部に形成される環状空間に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、
前記シールが嵌合される嵌合面にそれぞれ面取りが形成され、これらの面取りのうち少なくとも前記外方部材側の面取りが、熱処理後に前記シール嵌合面と一体に総型の砥石によって同時研削された所定の形状、寸法のシール嵌合面および面取りを有していることを特徴とする車輪用軸受装置。」(なお、下線部は補正箇所を示す。)
上記補正は、新規事項を追加するものではなく、補正前の請求項1(平成22年11月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1)に記載された発明を特定するために必要な事項である「嵌合面」及び「面取り」について、「所定の形状、寸法」「を有し」ていることを限定したものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.刊行物の記載事項
(1)特開平9-274051号公報
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-274051号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「密封装置及びトーンホイールを備えた転がり軸受ユニット」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「【0001】
【産業上の利用分野】この発明に係る密封装置及びトーンホイールを備えた転がり軸受ユニットは、自動車の車輪、一般機械の回転軸等、各種回転部材を回転自在に支持すると共に、センサと組み合わせる事により、この回転部材の回転速度を検出する為の回転速度検出装置を構成する。」
イ.「【0010】又、上記ハブ1内周面の外輪軌道2、2と上記各内輪5、5外周面の内輪軌道6、6との間には、転動体である玉11、11を、各列毎に複数ずつ設けている。これら各玉11、11は、保持器12、12により、円周方向に互いに間隔をあけた状態で、転動自在に保持されている。従って上記ハブ1は、上記車軸7の周囲に回転自在に支持されている。尚、重量の嵩む自動車用の転がり軸受ユニットの場合には、転動体として、玉11、11に代えてテーパころを使用する場合もある。
【0011】更に、上記ハブ1の内端部(内とは、自動車への組み付け状態で幅方向中央側となる部分を言い、図1で右)内周面と、上記1対の内輪5、5のうちで内側の内輪5の内端部周面との間には、密封装置13を設けて、これらハブ1の内周面と内輪5、5の外周面との間に存在する空間14の内端部開口を塞いでいる。更に、この密封装置13の内側面に、円環状のトーンホイール15を添設している。そして、このトーンホイール15の内側面に、上記車軸7の基部に支持したセンサ16を対向させる事により、回転速度検出装置を構成している。
【0012】上記密封装置13は、それぞれが軟鋼板等の金属板をプレス加工する事により、断面L字形で全体を円環状に造られた、外径側芯金17、内径側芯金18と、ゴム、エラストマー等の弾性材により造られて上記外径側芯金17に全周に亙って添設された、シールリップ20a、20b、20cとから構成される。
【0013】このうちの外径側芯金17は、断面略L字形で全体を円環状に形成されており、外径側嵌合筒部21と、この外径側嵌合筒部21の内端縁から直径方向内方に折れ曲がった外径側円輪部22とを有する。又、上記外径側嵌合筒部21は、先半側(図1?2の左半側)の円筒部26と、基半側(図1?2の右半側)のテーパ筒部27とから構成される。このテーパ筒部27の直径は、上記外径側円輪部22に近づく程小さくなる。この様な外径側芯金17は、上記外径側嵌合筒部21を上記ハブ1の内端部に内嵌する事により、このハブ1に固定されている。尚、上記ハブ1に内嵌する作業を容易に行なえる様にすべく、このハブ1の内端開口周縁部には、面取り部23aを形成している。
【0014】又、上記内径側芯金18は、断面L字形で全体を円環状に形成されており、内径側嵌合筒部24と、この内径側嵌合筒部24の外端縁から直径方向外方に折れ曲がった内径側円輪部25とを有する。そして、上記内径側嵌合筒部24を前記内側の内輪5の内端部外周面に外嵌する事により、この内輪5に固定している。尚、上記内輪5に外嵌する作業を容易に行なえる様にすべく、この内輪5の内端部外周縁には、面取り部23bを形成している。」

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「内周に複列の外輪軌道2が一体に形成されたハブ1と、外周に前記複列の外輪軌道2に対向する複列の内輪軌道6が形成された内輪5と、この内輪5とハブ1の両軌道間に転動自在に収容された複列の玉11と、前記ハブ1と内輪5間の開口端部に形成される環状空間に装着された密封装置13とを備えた軸受ユニットにおいて、
前記密封装置13が嵌合される嵌合面にそれぞれ面取り部23a、23bが形成された軸受ユニット。」

(2)国際公開第2005/45268号
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第2005/45268号(以下、「刊行物2」という。)には、「車輪用軸受装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ウ.「[0001]
本発明は、自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承する車輪用軸受装置、特に、ハブ輪に圧入される内輪の耐久性向上を図った車輪用軸受装置およびその製造方法に関するものである。」
エ.「[0029]
図3は、こうした再切削加工の方法を示す説明図である。熱処理後の内輪3’は、正面側の端面16をチャック13に突き合わせて加工基準面とし、小径端部12が保持された状態で回転が付与され、切削バイト14で背面側の外径面取り部11が切削加工される。ここで、切削バイト14は、所望の形状・寸法に予め形成された超硬チップ15が接合されたものを使用している。又、所望の面取り形状にバイトが動くNC切削でも良い。なお、面取り部11は、シールランド面となる大径側の外径面17および背面側の端面18の研削加工により最終的に軸方向および径方向共に1?3mmの範囲になるよう、バイト送り量が設定されている。
[0030]
これ以外に、内側転走面3a等の研削加工時に面取り部11を同時研削加工される方法もある。この加工方法は、図4に示すように、熱処理後の内輪3’の背面側の端面18を研削盤のバッキングプレート19に押圧させて加工基準面とし、正面側の端面16、内側転走面3a、大径側外径面17および面取り部11を単一の研削砥石20で同時研削するものである。」

(3)特開2004-92830号公報
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-92830号公報(以下、「刊行物3」という。)には、「車輪用軸受ユニットの製造方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
オ.「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、車両(自動車)の車輪を懸架装置に対し支持する為の車輪用軸受ユニットの製造方法の改良に関する。」
カ.「【0035】
図4は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合、外輪6の内周面に形成した複列の外輪軌道11a、11bとシールリングを内嵌固定する為の円筒面部41とに同時に仕上加工を施す。この為、第一の回転砥石33aの外周面を、上記外輪6の内周面のうちで上記両外輪軌道11a、11b及び上記円筒面部41となる部分に押し付ける。尚、図示は省略するが、第一の総型ロータリドレッサの外周面の断面形状を上記両外輪軌道11a、11b及び円筒面部41の仕上げるべき断面形状に合致させるのは勿論である。その他の構造及び作用は、上述した第1例と同様である。」

3.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「外輪軌道2」は、その意味又は機能などからみて、前者の「外側転走面」に相当し、以下同様に、「ハブ1」は「外方部材」に、「内輪軌道6」は「内側転走面」に、「内輪5」は「内方部材」に、「玉11」は「転動体」、「密封装置13」は「シール」に、「軸受ユニット」は「車輪用軸受装置」に、「面取り部23a、23b」は「面取り」にそれぞれ相当し、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は、
[一致点]
「内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材間の開口端部に形成される環状空間に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、
前記シールが嵌合される嵌合面にそれぞれ面取りが形成された車輪用軸受装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
本願補正発明は、「これらの面取りのうち少なくとも前記外方部材側の面取りが、熱処理後に前記シール嵌合面と一体に総型の砥石によって同時研削された所定の形状、寸法のシール嵌合面および面取りを有している」のに対し、引用発明は、そのような構成を有してない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
刊行物2には、熱処理後の内輪3’の背面側の端面18を研削盤のバッキングプレート19に押圧させて加工基準面とし、正面側の端面16、内側転走面3a、大径側外径面17および面取り部11を単一の研削砥石20で同時研削する技術事項が記載されている。(上記摘記事項エ.を参照。)
刊行物3には、外輪6の内周面に形成した複列の外輪軌道11a、11bとシールリングを内嵌固定する為の円筒面部41とに、回転砥石にて同時に仕上加工を施す技術事項が記載されている。(上記摘記事項カ.を参照。)
また、軸受の部品において、切削、研磨等の仕上げを行うに際し、それらの仕上げを熱処理後に行うことにより、熱処理による変形を除去することは、特開2005-9666号公報(段落【0009】を参照。)、特開2000-234624号公報(段落【0021】を参照。)、特開平6-246546号公報(段落【0007】を参照。)に見られるように周知の技術事項である。
引用発明と刊行物2及び刊行物3に記載の発明とは、車輪用軸受装置に関する発明であり、同一技術分野に属するものであり、してみると、引用発明に刊行物2及び刊行物3に記載の技術事項及び周知の上記事項を適用して、熱処理後に密封装置13の嵌合面と、嵌合面に形成される面取り部23aとに単一の砥石にて同時に仕上加工を施すことは当業者が容易に想到し得たものであり、その際に熱処理による変形を考慮して、仕上げ加工を熱処理後に行うこと、面取り部、嵌合面を所定の形状、寸法とすることは、当業者が諸条件を考慮して適宜行う設計事項にすぎない。

そして、本願補正発明の奏する効果も、引用発明、刊行物2及び刊行物3に記載の技術事項から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2及び刊行物3に記載の技術事項に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成22年11月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材間の開口端部に形成される環状空間に装着されたシールとを備えた車輪用軸受装置において、
前記シールが嵌合される嵌合面にそれぞれ面取りが形成され、これらの面取りのうち少なくとも前記外方部材側の面取りが、熱処理後に前記シール嵌合面と一体に総型の砥石によって同時研削されていることを特徴とする車輪用軸受装置。」

2.刊行物の記載事項
刊行物の記載事項並びに引用発明は、前記II.2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明における「嵌合面」及び「面取り」についての限定である「所定の形状、寸法」「を有し」ている点を除くことにより拡張したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3.及び4.に記載したとおり、引用発明、刊行物2及び刊行物3に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2及び刊行物3に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-28 
結審通知日 2012-06-01 
審決日 2012-06-19 
出願番号 特願2005-153695(P2005-153695)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 芳枝  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 所村 陽一
冨岡 和人
発明の名称 車輪用軸受装置  
代理人 越川 隆夫  

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