• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1261033
審判番号 不服2010-3351  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-16 
確定日 2012-08-01 
事件の表示 特願2006-35856「痒みを抑制するための薬剤または機能性食品」拒絶査定不服審判事件〔平成18年5月25日出願公開、特開2006-131644〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年8月5日に出願した特願2002-227055号の一部を、平成18年2月13日に新たな特許出願としたものであって、平成21年7月13日付けで拒絶理由が通知され、平成21年9月17日付けで手続補正がなされたが、平成21年11月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年2月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、そして、平成22年4月6日付けで審判請求書の請求の理由に対する手続補正がなされたものである。

2.本願発明1?3
本願請求項1?3に係る発明は、平成21年9月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次のとおりのものである(以下、各請求項の番号に対応させて「本願発明1」などともいう。)。
「【請求項1】
牡蠣肉および貝殻からの抽出エキスを含有することを特徴とする痒みを抑制するための内用薬剤。
【請求項2】
前記抽出エキスは、牡蠣肉を貝殻と共に、生のまま或いは乾燥させて粉砕したものから熱水抽出したものであることを特徴とする請求項1に記載の痒みを抑制するための内用薬剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内用薬剤を含むことを特徴とする痒みを抑制するための機能性食品。」

3.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由となった、平成21年7月13日付けで通知した拒絶理由のうち、特許法第29条第1項第3号に基づく理由1、特許法第36条第4項に基づく理由3、並びに、特許法第36条第第6項第1号に基づく理由4の概要は、それぞれ、以下のとおりである。
・理由1の概要
引用文献5には、カキ肉と貝殻とから抽出したカキ肉エキスを含む食品が記載されているから、本願発明3は、引用文献5に記載された発明である。
・理由3、4の概要
本願明細書の発明の詳細な説明には、牡蠣肉エキスを内服した場合に鎮痒効果が得られることについて、具体的に裏付けられていないから、発明の詳細な説明の記載が、当業者が特許請求の範囲に記載される「内用薬剤」の発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず(理由3)、また、特許請求の範囲に記載される「内用薬剤」の発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない(理由4)。

4.理由1(特許法第29条第1項第3号)について
(1)本願発明3
本願発明3は、
「請求項1又は2に記載の内用薬剤を含むことを特徴とする痒みを抑制するための機能性食品。」
であり、そして、引用する請求項1の記載(「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキスを含有することを特徴とする痒みを抑制するための内用薬剤。」)を組み入れて言い直すと、本願発明3は、
「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキスを含有することを特徴とする痒みを抑制するための内用薬剤、を含むことを特徴とする痒みを抑制するための機能性食品。」
であると認められる。

(2)引用例とその主な記載事項・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願のもとの出願の出願日前に頒布されたことが明らかな、特開昭61-85322号公報(拒絶理由通知書の引用文献5 以下、「引用例」という。)には、以下(a)?(c)の事項が記載されている。
(a)「カキ(Ostrea gigas Thunb.)の全部位又は各部位の粉末及び/又はこの抽出エキスを必須成分として配合してなるシミ防止等の美顔及び美髪食品。」(特許請求の範囲(1))

(b)「この発明で使用するカキ(…)肉エキスとは、従来公知のベッコウガキ…などを使用して、貝殻とともに或いはカキ肉のみを取り出して、原料とし、この原料を生のままあるいは乾燥して粉砕したもの、或いはこの乾燥物から熱水抽出等の従来公知の方法で得たカキ肉エキスが、溶液状、粉末状の任意状態で使用できる。」(第2頁左上欄最下行?右上欄第7行)

(c)「実施例
カキ肉エキス粉末を使用し添加物を加えて攪拌混合し、次のような組成のシミ防止等の美顔及び美髪食品を調製した。
それぞれ10gの散剤に分包した。
組 成
1 2 3 4
カキ肉エキス 56g 51g 54g 40g
ビタミンA 2g 9g 2g -
ビタミンE 2g - 2g 2g
ビタミンC - - 2g 8g 」
(第2頁右下欄第3行?下から第6行)

引用例には、カキの全部位又は各部位の粉末及び/又はこの抽出エキスを必須成分として配合してなるシミ防止等の美顔及び美髪食品(上記(a))が記載されており、そして、カキの抽出エキスとは、これと同義の用語と認められる「カキ(…)肉エキス」について説明する上記(b)の記載からみて、従来公知のベッコウガキなどを使用して、貝殻とともに或いはカキ肉のみを取り出して、原料とし、この原料を生のままあるいは乾燥して粉砕したもの、或いはこの乾燥物から熱水抽出等の従来公知の方法で得たものであることが記載されているといえる。
さらに、実施例には、カキ肉エキス粉末を使用し添加物を加えて撹拌混合して調製した、シミ防止等の美顔及び美髪食品(上記(c))が具体的に開示されている。
よって、引用例の上記(a)?(c)の記載事項からみて、引用例には、
「貝殻とカキ肉を原料とし、この原料を生のままあるいは乾燥して粉砕したもの、或いはこの乾燥物から熱水抽出等の従来公知の方法で得たカキ肉エキスを含有するシミ防止等の美顔及び美髪食品。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比
そこで、本願発明3と引用発明とを対比する。
まず、引用発明にいう「シミ防止等の美顔及び美髪食品」とは、「シミ防止等の美顔及び美髪」をもたらす機能を有する「食品」であると解されるから、この「食品」は、本願発明3にいう「機能性食品」に相当するものと認められる。
また、「食品」に含まれる成分について、本願発明3では、「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキスを含有することを特徴とする痒みを抑制するための内用薬剤、を含むことを特徴とする」と特定されているが、かかる発明特定事項はつまるところ、「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキスを含むことを特徴とする」ことに他ならないものと解される。
そうすると、引用発明の食品に含まれる成分である「貝殻とカキ肉を原料とし、この原料を生のままあるいは乾燥して粉砕したもの、或いはこの乾燥物から熱水抽出等の従来公知の方法で得たカキ肉エキス」は、前記「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキス」に相当することは明らかであるから、本願発明3にいう上記「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキスを含有することを特徴とする痒みを抑制するための内用薬剤」に相当するものであるといえる。
したがって、両者は、
「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキスを含有することを特徴とする痒みを抑制するための内用薬剤、を含むことを特徴とする機能性食品。」
である点で一致し、以下の点で、一応、相違する。
[相違点]
機能性食品における機能が、本願発明3では、「痒みを抑制する」であるのに対し、引用発明では、「シミ防止等の美顔及び美髪」である点。

(4)判断
上記一応の[相違点]について判断する。
一般に、用途発明は、ある物の未知の属性を発見し、その属性により、その物が新たな用途に適することを見いだしたことに基づく発明と解される。
ただし、未知の属性を発見したとしても、その技術分野の出願時の技術常識を考慮し、その物の用途として新たな用途を提供したといえなければ、新規性は否定される。
これを本件についてみると、「食品」とは、
・「人が日常的に食物として摂取する物の総称。」(広辞苑第5版(岩波書店)【食品】の項目)
であるから、「食品」とされる物である以上、その機能が如何なるものであれ、一般に、不特定の人が日常的に食物として摂取するという用途に供されるものと解される。
してみれば、公知の食品の新たな属性を発見したとしても、公知の食品と区別できるような新たな用途を提供したとすることはできない。
そうすると、本願発明3は、「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキス」を
含む食品について、「痒みを抑制する」という新たな属性を発見したものであるとしても、この発見をもって、引用発明の「食品」と区別できるような用途を提供したとすることはできない。
したがって、上記一応の「相違点」によって、引用発明と本願発明3とを別異のものとすることはできない。
よって、本願発明3は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。

5.理由3(特許法第36条第4項)について
本願発明1、2は、「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキスを含有する」「痒みを抑制するための内用薬剤」の発明である。
そして、本願発明1、2において、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない」(いわゆる、実施可能要件)とは、発明の詳細な説明が、「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキス」が、「痒みを抑制するための内用薬剤」として有効であることを、当業者が理解できるように記載されている必要があると認められる。
そこで検討するに、まず、本願のもとの出願の出願時の技術常識からは、当業者は、「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキス」が「痒みを抑制するための内用薬剤」として有効であると理解することができるといえる事情は見い出せない。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明に、「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキス」が「痒みを抑制するための内用薬剤」として有効なものであることが理解できるように記載されているかについて以下に検討する。
発明の詳細な説明には、「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキス」を「痒みを抑制するための内用薬剤」として用いることに関して、以下の(a)、(b)の記載がされている。
(a)「本発明による牡蠣肉エキスを用いる再には、予防や治療に有効な量の牡蠣肉エキスが製薬学的に許容できる担体または希釈剤と共に製剤化されると良い。その他にも、結合剤、吸収促進剤、滑沢剤、乳化剤、界面活性剤、酸化防止剤、防腐剤、着色剤、香料、甘味料などを添加しても良い。
このような製剤において、有効成分である牡蠣肉エキスの担体成分に対する配合割合は、0.1?30.0重量%の範囲であり、特に0.5?5.0重量%の範囲が好ましい。
剤形としては、巴布剤、噴霧剤、溶液剤、懸濁液剤、軟膏剤、ゲル剤、ペースト剤、クリーム剤、顆粒剤、細粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤などを挙げることができ、その投与経路としては、貼付、塗布、経口、静脈内、筋肉内、皮下、関節腔など、種々の投与経路を挙げることができるが、特に外用剤が良好である。本発明の物質を皮膚外用剤として用いる場合は、一般の皮膚外用剤に配合される通常の成分を必要に応じて適宜に配合すれば良い。また、有効成分の投与量および投与頻度は、病状、年齢、性別、投与経路などに応じて適宜に変更することができる。
本発明による牡蠣肉エキスは、特開平3-287536号公報に開示されている如き外用剤、注射薬、内服薬として、医薬品、医薬部外品、化粧品にも適用可能である。その場合は、同公報に提案されているピコリン酸亜鉛に替えて本発明物質を用いれば良い。」(【0019】?【0022】)
(b)「以上詳述した通り本発明によれば、牡蠣肉からの抽出エキスを含有する薬剤または機能性諸侯品を外用塗布または内服することにより、一般的な皮膚疾患の湿疹、蕁麻疹などに伴う痒み(一般掻痒)のみならず、従来の鎮痒剤(抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤)で抑制し難い血液透析患者の皮膚掻痒症、老人性皮膚掻痒症、並びにアトピー性皮膚炎などの痒み(難治性掻痒)を、眠気などの副作用を生ずることなく安全に抑制することができ、皮膚症状を有効に予防、改善或いは治療する上に多大な効果を奏することができる。」(【0024】)

しかし、上記(a)の記載は、製剤化や投与量に関する説明であり、痒みを抑制することについて記載するものではない。
また、上記(b)の記載は、単に痒みを抑制することができる旨を述べるにすぎないものであって、実際に本願発明1、2の内用薬剤が痒みの抑制効果をもたらしたことを裏付けるに足る薬理試験結果のような、当業者が痒みの抑制効果の存在を理解できるとする記載は見出せない。
ここで、本願明細書の【0013】?【0018】、図1、2には、発痒動物モデルに対して、牡蠣肉エキスを「塗布」した場合、鎮痒効果があったことについては具体的に記載されている。
しかし、「塗布」による場合と「内用」による場合とでは、投与経路が相違し、薬剤が吸収される機構が異なることは明らかであるから、「塗布」による結果から、内用薬剤の結果を推認することはできず、「塗布」による薬理試験結果をもって、「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキス」が「痒みを抑制するための内用薬剤」として有効なものであることが理解できるように記載されていると認めることはできない。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明には、「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキス」が「痒みを抑制するための内用薬剤」として有効であることについて、当業者が理解できるように記載されているとは認められないから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない。

6.理由4(特許法第36条第6項第1号)について
特許法第36条第6項第1号では、特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」でなければならないと規定されており(いわゆる、サポート要件)、そして、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載より、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
これに対し、本願発明1、2における「牡蠣肉および貝殻からの抽出エキス」が、「痒みを抑制するための内用薬剤」として有効であることについては、本願のもとの出願の出願時の技術常識を考慮しても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からでは、当業者が理解できないことは、上記「5.理由3(特許法第36条第4項)について」で既に述べたとおりである。
そうすると、本願発明1、2は、発明の詳細な説明の記載によっても、さらに、本願のもとの出願の出願時の技術常識に照らしても、当業者が該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるとはいえない。
したがって、本願特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合せず、本願特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。

なお、請求人は、審判請求書において、「現在、「牡蠣肉及び牡蠣の貝殻からの抽出エキス」を用いての「痒みの抑制効果」を確認するための実験を行っており、その結果を実験成績証明書の形で御庁に提出する予定です。しばらくの審理のご猶予をお願い申し上げます。」と述べている(意見書でも同様の依頼をしていた。)。
しかし、2年以上経過した現時点においても、実験成績証明書は未提出のままである。
また、そもそも、本願明細書の発明の詳細な説明の記載内容を、出願後にその記載外で補足することによって、特許法第36条第4項に規定する要件に適合させること、また、その記載内容を特許請求の範囲まで拡張ないし一般化し、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合させることは、先願主義を採用し、また、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し、許されないというべきである。
してみると、仮に、上記実験成績証明書が提出されたとしても、参酌することはできない。

7.むすび
以上のとおり、
・本願請求項3に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができず、
・本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、
・本願特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、
本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-22 
結審通知日 2012-05-29 
審決日 2012-06-11 
出願番号 特願2006-35856(P2006-35856)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上條 のぶよ天野 貴子  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 渕野 留香
平井 裕彰
発明の名称 痒みを抑制するための薬剤または機能性食品  
代理人 三嶋 景治  
代理人 川崎 仁  
代理人 中里 浩一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ