• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1261189
審判番号 不服2010-24056  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-26 
確定日 2012-08-09 
事件の表示 特願2005- 92944「半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月12日出願公開,特開2006-278550〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年3月28日の出願であって,平成22年6月22日に手続補正書が提出されたが,同年7月20日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年10月26日に審判の請求がされるとともに,同日付で手続補正書が提出されたものである。その後,平成23年12月9日付けで審尋がされ,これに対し,平成24年2月8日に回答書が提出された。

第2 補正の却下の決定

〔補正の却下の決定の結論〕
平成22年10月26日に提出された手続補正書による補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正
(1)本件補正の内容
平成22年10月26日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし8を,補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし7と補正するとともに,明細書を補正するものであるところ,補正前後の請求項1の記載は,次のとおりである。

ア 補正前
「【請求項1】
下部電極膜を形成する工程と,
前記下部電極膜上に,厚さが150nm以下の強誘電体膜を形成する工程と,
前記強誘電体膜に対して,酸化雰囲気中で熱処理を行うことにより,前記強誘電体膜を結晶化する工程と,
前記強誘電体膜上に上部電極膜を形成する工程と,
を有し,
前記熱処理の際に,O_(2)ガスの流量を15sccm乃至25sccmとすることを特徴とする半導体装置の製造方法。」

イ 補正後
「【請求項1】
下部電極膜を形成する工程と,
前記下部電極膜上に,厚さが150nm以下の強誘電体膜を形成する工程と,
前記強誘電体膜に対して,酸化雰囲気中で熱処理を行うことにより,前記強誘電体膜を結晶化する工程と,
前記強誘電体膜上に上部電極膜を形成する工程と,
を有し,
前記熱処理の際に,O_(2)ガスの流量を15sccm乃至25sccmとし,
前記強誘電体膜の(111)面のロッキングカーブの半値幅を4.6度以下とし,
前記強誘電体膜の(101)面のロッキングカーブのピーク値を100(arb. unit)とすることを特徴とする半導体装置の製造方法。」

(2)本件補正内容の整理
(補正事項1)
補正前の請求項1に「前記強誘電体膜の(111)面のロッキングカーブの半値幅を4.6度以下とし, 前記強誘電体膜の(101)面のロッキングカーブのピーク値を100(arb. unit)とする」ことを付加して,補正後の請求項1とする。

(補正事項2)
補正前の請求項7を削除する。

(補正事項3)
補正前の請求項8に「前記強誘電体膜の(111)面のロッキングカーブの半値幅を4.6度以下とし, 前記強誘電体膜の(101)面のロッキングカーブのピーク値を100(arb. unit)とする」ことを付加して,補正後の請求項7とする。

(補正事項4)
補正前の明細書の段落【0026】を,補正後の請求項1の記載にそろえて補正する。

2 新規事項の有無について
(1)補正事項1について
ア 請求人は,補正事項1について,審判請求書の【本願発明が特許されるべき理由】の「(2)補正について」において,「請求項1についての補正は,補正前の請求項7の構成要件を追加するとともに,図9及び図11に図示されている内容に基づいて,強誘電体膜の(101)面のロッキングカーブのピーク値を100(arb. unit)とすることを明確にするものであり,所謂限定的減縮を目的とするものであります。」と主張している。
イ ここで,「強誘電体膜の(101)面のロッキングカーブのピーク値」に関して,本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。また,本願の願書に最初に添付した図面を「当初図面」といい,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面をまとめて「当初明細書等」という。)には,以下の記載がある。

a.「【0052】
(第1の試験)
第1の試験では,上述の実施形態に倣って下部電極膜を2種類の方法で形成した。その後,強誘電体膜の形成及び結晶化アニールを行った。また,いずれの方法においても,強誘電体膜(PLZT)を結晶化させるために行う1回目のRTAの際のO_(2)ガスの流量を変化させた。但し,O_(2)ガス及びArガスの総流量は2000sccmに固定した。そして,PLZT膜の形成後に,PLZT膜の(111)面のロッキングカーブの半値幅(ロッキング半値幅)及び(101)面のピーク値を測定した。(111)面がスイッチング可能な配向面であるのに対し,(101)面はスイッチング可能であるが,強度が弱い配向面である。(111)面のロッキング半値幅は4軸X線回折により求め,(101)面のピーク値は3軸X線回折により求めた。これらの結果を,夫々図3,図4に示す。なお,図3及び図4中の◆は,高温で下部電極膜を形成した場合の結果を示し,■は,低温で下部電極膜を形成した場合の結果を示す。
【0053】
図3に示すように,O_(2)ガスの流量が低くなるほど,ロッキング半値幅が小さくなり,結晶性が向上した。特に,O_(2)ガスの流量が75sccm以下の範囲において低いロッキング半値幅が得られた。また,図4に示すように,O_(2)ガスの流量が25sccm?75sccmの範囲において,PLZT膜の(101)面への配向はほとんど検出されなかった。但し,O_(2)ガスの流量が15sccm以下の範囲では,PLZT膜が若干(101)面へ配向した。これは,酸素欠損が生じたためであると考えられる。これらの結果を考慮すると,O_(2)ガスの流量は25sccm?75sccmであることが好ましい。」
b.「【0058】
(第4の試験)
第4の試験では,上述の実施形態に倣って3種類の厚さの強誘電体膜を形成した。なお,下部電極膜としては,第1?第3の試験で形成したものとは異なるものを形成した。4軸X線回折により下部電極膜(Pt膜)の(111)面配向を測定したところ,そのロッキング半値幅は3.0度程度であった。強誘電体膜の形成後には,Ar及びO_(2)の雰囲気下で600℃以下のRTAを行った。次に,厚さが50nmのIrO_(x)膜を上部電極膜として形成した。次いで,上部電極膜及びPLZT膜に対して,700℃以上のAr及びO_(2)の雰囲気中(O_(2)濃度:0.1-100%,制限なし)でRTAを行った。このアニールにより,PLZT膜が完全に結晶化すると共に,強誘電体膜と上部電極膜との界面が改善された。更に,下部電極膜(Pt膜)が緻密化し,下部電極とPLZT膜との間の境界面近傍におけるPtとOとの相互拡散が抑制されるようになる。そして,第1の試験と同様に,PLZT膜の(111)面のロッキング半値幅及び(101)面のピーク値を測定した。これらの結果を図7?図12に示す。図7は,PLZT膜の厚さが200nmの場合の(101)面のピーク値を示し,図8は,PLZT膜の厚さが200nmの場合の(111)面のロッキング半値幅を示す。図9は,PLZT膜の厚さが150nmの場合の(101)面のピーク値を示し,図10は,PLZT膜の厚さが150nmの場合の(111)面のロッキング半値幅を示す。図11は,PLZT膜の厚さが120nmの場合の(101)面のピーク値を示し,図12は,PLZT膜の厚さが120nmの場合の(111)面のロッキング半値幅を示す。なお,図7,図9及び図11中の「center」は,ウェハの中央部でのピーク強度を示し,「bottom」はウェハの下部(中央部よりオリエンテーションフラットが形成された側の部分)におけるピーク強度を示している。
【0059】
図7に示すように,PLZT膜の厚さが200nmの場合には,O_(2)ガスの流量が20sccm?100sccmの範囲において,PLZT膜は(101)面にほとんど配向していなかった。一方,O_(2)ガスの流量が15sccm以下の範囲では,酸素欠損のために(101)面に若干配向した。また,図8に示すように,O_(2)ガスの流量が低いほど,ロッキング半値幅が低くなり,O_(2)ガスの流量が10sccm?50sccmの範囲において,4.5度以下の良好なロッキング半値幅が得られた。特に,O_(2)ガスの流量が25sccm程度であると,ロッキング半値幅が4.0度以下となった。これらを考慮すると,O_(2)ガスの流量は20sccm?50sccmであることが特に好ましい。
【0060】
図9に示すように,PLZT膜の厚さが150nmの場合には,O_(2)ガスの流量が15sccm?100sccmの範囲において,PLZT膜は(101)面にほとんど配向していなかった。一方,O_(2)ガスの流量が10sccm以下の範囲では,酸素欠損のために(101)面に若干配向した。また,図10に示すように,O_(2)ガスの流量が低いほど,ロッキング半値幅が低くなり,O_(2)ガスの流量が10sccm?50sccmの範囲において,4.5度以下の良好なロッキング半値幅が得られた。特に,O_(2)ガスの流量が25sccm程度であると,ロッキング半値幅が4.1度以下となった。これらを考慮すると,O_(2)ガスの流量は15sccm?50sccmであることが特に好ましい。
【0061】
図11に示すように,PLZT膜の厚さが120nmの場合には,O_(2)ガスの流量が10sccm?100sccmの範囲において,PLZT膜は(101)面にほとんど配向していなかった。一方,O_(2)ガスの流量が5sccm以下の範囲では,酸素欠損のために(101)面に若干配向した。また,図12に示すように,O_(2)ガスの流量が低いほど,ロッキング半値幅が低くなり,O_(2)ガスの流量が10sccm?50sccmの範囲において,4.5度以下の良好なロッキング半値幅が得られた。特に,O_(2)ガスの流量が25sccm程度であると,ロッキング半値幅が4.2度以下となった。これらを考慮すると,O_(2)ガスの流量は10sccm?50sccmであることが特に好ましい。」
c.当初図面の【図4】には,O_(2)ガスの流量に対して(101)面のピーク値を示すグラフが,また,【図7】,【図9】,【図11】には,PLZT膜の厚さが200nmの場合,150nmの場合,120nmの場合の(101)面のピーク値を示すグラフが示されている。

ウ しかしながら,上記摘記事項a.?c.を参照しても,当初明細書には,「強誘電体膜の(101)面のロッキングカーブのピーク値を100(arb. unit)とする」との記載は一切なく,ピーク値が低いものについて「PLZT膜は(101)面にほとんど配向していなかった。」との記載はあるものの,「前記強誘電体膜の(101)面のロッキングカーブのピーク値を100(arb. unit)とする」ことの技術的意義は記載されていない。
エ また,上記各図には,様々な条件下でのPLZT膜の(101)面のピーク値が示されているが,「厚さが150nm以下の強誘電体膜」を用い,「熱処理の際に,O_(2)ガスの流量を15sccm乃至25sccm」との条件のもとで,「強誘電体膜の(101)面のロッキングカーブのピーク値を100(arb. unit)」とした例は見あたらない。
オ そうすると,補正事項1は,当初明細書等に記載がなく,また当初明細書等の記載から自明な事項でもないので,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであり,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。

(2)補正事項2について
ア 補正事項2は,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものであり,新規事項を追加するものではないことは明らかである。

(3)補正事項3,4について
ア 補正事項3,4は,補正事項1と同様に,「強誘電体膜の(101)面のロッキングカーブのピーク値を100(arb. unit)とする」ことを含むものである。
イ そして,上記(1)にて検討したとおり,当初明細書等には,「前記強誘電体膜の(101)面のロッキングカーブのピーク値を100(arb. unit)とする」ことが記載されているとはいえない。
ウ したがって,補正事項3,4は,当初明細書等に記載がなく,また当初明細書等の記載から自明な事項でもないので,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであり,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。

(4)新規事項の有無についてのむすび
以上のとおり,上記補正事項1,3,4を含む本件補正は,特許法第17条の2第3項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)の規定する要件を満たしていない。

3 独立特許要件について
以上,検討したとおり,本件補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないが,仮に,本件補正が,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たし,かつ,同法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものとみなした場合において,補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下,予備的に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は,上記1(1)イの補正後の請求項1の記載のとおりである。

(2)引用例の記載と引用発明
(2-1)引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2004-153019号公報(以下「引用例」という。)には,「半導体装置及びその製造方法」(発明の名称)に関して,図1?35とともに,次の記載がある(下線は当審で付加したもの。以下同様。)。
ア 技術分野
・「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,半導体装置及びその製造方法に関し,より詳しくは,強誘電体キャパシタを有する半導体装置及びその製造方法に関する。」

イ 第1の実施の形態
・「【0037】
次に,第1の層間絶縁膜11上に,表面粗さRmsが0.79nm以下の密着層12を形成する。なお,表面粗さRmsは,測定対象面において,平均線から測定曲線までの偏差の二乗を平均した値の平方根である。
【0038】
密着層12として,例えば表面粗さRmsが0.79nm以下のアルミナ(Al_(2)O_(3))層を形成する。表面粗さRmsが0.79nm以下のアルミナ層をスパッタにより形成する条件として,スパッタ装置のチャンバ内に入れたシリコン基板1の温度を20?100℃とし,チャンバ内に導入するアルゴンガスの流量を10?50sccmとし,ターゲットとしてアルミナを用い,ターゲット・基板間に印加するパワーを0.2?4.0kWとする。そのような表面粗さを有するアルミナ層の膜厚は,特に限定されるものではないが,5?100nm,より好ましくは,5?30nmに形成される。なお,アルミナ層はアモルファス状態である。
【0039】
密着膜12は,後述する下部電極と第1層間絶縁膜11の密着層であって,下部電極の下地層となる。
【0040】
次に,図1(b) に示すように,密着膜12上に,第1の導電膜13としてプラチナ(Pt)膜を50?300nm,例えば150nmの厚さに形成する。厚さ150nmのPt膜をスパッタにより形成する条件として,例えばスパッタ装置のチャンバ内に入れたシリコン基板1の温度を約100℃とし,チャンバ内に導入するアルゴンガスの流量を約116sccmとし,ターゲットとしてプラチナを用い,ターゲット・基板間に印加するパワーを約1.0kWとして,形成時間を約84秒間とする。
【0041】
この状態では,密着層12上のPt膜の結晶粒の(111)配向方位の傾きは,シリコン基板1上面の垂直方向から2.3度以下に傾いている。なお,本実施形態及び以下の実施形態における配向は,膜又は層の上面に現れる面方位である。
【0042】
その後に,図2(a) に示すように,強誘電体膜14として厚さ100?300nm,例えば200nmのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT; Pb(Zr_(1-x)Ti_(x ) )O_(3) ,0<x<1)膜をRFスパッタ法により第1の導電膜13上に形成する。
【0043】
厚さ200nmのPZT膜を形成する条件として,例えば,スパッタパワーを1kW,チャンバ内に導入するアルゴンの流量を20sccm,基板温度を50℃,ターゲットとしてPZT,膜形成時間を315秒とする。
【0044】
なお,強誘電体層14の形成方法は,その他に,MOD(metal organic deposition)溶液を用いたスピンオン法,MOCVD( 有機金属CVD)法,ゾル・ゲル溶液使用のスピンオン法などがある。また,強誘電体層15の材料としては,PZT以外に,PZTにランタン(La),ストロンチウム(Sr),カルシウム(Ca)の少なくとも1つの元素を含む他のPZT系材料や,SrBi_(2)Ta_(2)O_(9)(SBT,Y1),SrBi_(2)(Ta,Nb)_(2)O_(9) (SBTN,YZ)等のBi層状構造化合物,その他の金属酸化物強誘電体を採用してもよい。
【0045】
続いて,強誘電体膜14を構成するPZT膜の第1回目のアニール処理として,急速加熱処理装置を用いて,酸素雰囲気中で温度585℃程度,90秒間程度の条件で急速熱処理(RTA(Rapid Thermal Annealing))を行う。この場合,酸素雰囲気には,酸素ガスを流量50cc/min. ,アルゴンガスを流量1.95リットル/min. で導入する。この第1回目のPZTアニールによりPZT膜が結晶化する。
【0046】
続いて,図2(b) に示すように,強誘電体膜14の上に第2の導電膜15として酸化イリジウム(IrO_(x) ) 膜を反応性スパッタ法により例えば200nmの厚さに形成する。」

ウ 配向方位について
・「【0070】
上記した強誘電体キャパシタQは,密着層12,下部電極13a,誘電体層14a及び上部電極15aの各層の改善により従来よりも優れたキャパシタ特性を有している。そこで,その詳細を以下に説明する。
【0071】
まず,半導体チップ内で,強誘電体キャパシタQとMOSトランジスタT_(1) ,T_(2) から構成されるメモリセルの特性のバラツキを抑えることを目的として,強誘電体膜14を構成するPZT結晶の配向方位の不均一性を小さくことと,下部電極13aを構成するPt結晶の配向方位の不均一性を小さくすることについて説明する。
【0072】
Pt下部電極13aの下の密着層12の表面粗さがPt膜の配向性に与える影響を調査するために,複数枚のシリコン基板上に100nmの厚さのSiO_(2)膜を形成し,さらに,各SiO_(2)膜上にそれぞれ種類の異なる膜を形成した。ここでは,種類の異なる膜として,酸化チタン(TiO_(2))膜と酸化プラチナ(PtO) 膜とアルミナ(Al_(2)O_(3))膜のいずれかをSiO_(2)膜上に形成した。
【0073】
そして,シリコン基板,SiO_(2)膜,Al_(2)O_(3) 膜の積層構造を第1の試料とした。また,シリコン基板,SiO_(2)膜,PtO 膜の積層構造を第2の試料とした。さらに,シリコン基板,SiO_(2)膜,TiO_(2)膜の積層構造を第3の試料とした。
【0074】?【0076】(略)
【0077】
そして,第1の試料のAl_(2)O_(3) 膜,第2の試料のPtO 膜,第3の試料のTiO_(2)膜のそれぞれの上に,真空チャンバ内で同じ条件のスパッタによりプラチナ(Pt)膜を150nmの厚さに形成した。そのスパッタ条件として,バイアスパワーを1kW,アルゴンガス流量を116sccm,基板温度を100℃,スパッタ時間を84秒に設定した。
【0078】
その後に,第1?第3の試料の各々のPt膜について,(111)配向のロッキングカーブを取得し,その半値幅を求めた。その測定は,4軸ゴニオX線測定装置を用いて2θ/θ法により測定する。即ち,Pt膜の(111)配向を示す強度のピークが最大となる2θ=39.8゜付近に2θ/θ角を固定してウェハをあおりながら(111)配向強度のピークを測定するχスキャン法を採用した。これにより,プラチナ膜のχスキャンのあおり角度χと(111)配向強度の関係は図7に示すような結果となった。
【0079】
図7によれば,第1?第3の試料の層構造について,プラチナ膜の(111)配向強度のロッキングカーブの半値幅を小さい順に挙げるとPt/Al_(2)O_(3),Pt/PtO,Pt/TiO_(2 ) となる。
【0080】
また,第1?第3の試料にプラチナ膜を形成する前に,Al_(2)O_(3) 膜,PtO 膜,TiO _( x) 膜のそれぞれの表面の粗さRmsを測定したところ,図8に示すような結果が得られ,Al_(2)O_(3) 膜のRmsは0.28,PtO 膜のRmsは0.43,TiO_(2)膜のRmsは1.8となった。
【0081】
そこで,第1?第3の試料のAl_(2)O_(3) ,PtO ,TiO_( x) のそれぞれをPt膜とSiO_(2)膜を密着させるための密着層とし,Pt膜の(111)配向のロッキングカーブの半値幅と密着層のRmsとの関係をプロットしたところ,図9に示すような結果が得られた。図9によれば,Pt膜の(111)配向のロッキングカーブの半値幅と密着層表面のRmsとの間に直線的な相関関係があり,Pt膜の(111)配向性は密着層の表面粗さに大きく依存し,表面粗さRmsが小さくなるほどPt膜の(111)配向方位の基板面垂直方向からのずれが小さくなることがわかる。
【0082】
密着層上のPtの自己配向の面方位は(111)である。従って,以上のような実験結果により,プラチナの自己配向性を阻害する要因として下地の表面粗さがあり,下地である密着層の平坦性が良いほどプラチナ膜の自己配向が促進される。即ち,密着層の粗さが小さいほどプラチナ膜の自己配向が優勢となる。
【0083】
なお,同じ材料の密着層であってもその形成条件の相違によってその表面の粗さRmsは異なる。
【0084】
次に,第1,第2及び第3の試料の各々のPt膜上にPZT膜をスパッタにより200nmの厚さに形成し,急速加熱処理装置で各試料のPZT膜に一回目の熱処理を行い,各試料のPZT膜上に酸化イリジウムを上部電極として形成し,その後に,各試料に急速加熱処理装置で二回目の熱処理をした。その後に,第1,第2,第3の試料のそれぞれのPZT膜の(111)配向の特性を評価した。
【0085】
PZT膜を真空チャンバ内で形成する条件として,例えば,スパッタパワーを1kW,チャンバ内に導入するアルゴンの流量を20sccm,基板温度を50℃,ターゲットとしてPZT,膜形成時間を315秒とする。また,一回目の熱処理条件として,酸素ガスが流量50cc/min. ,アルゴンガスが流量1.95リットル/min. で導入された酸素雰囲気中で基板温度585℃,加熱時間90秒間に設定する。
【0086】
また,酸化イリジウム膜をスパッタにより形成する条件として,例えばスパッタ装置のチャンバ内に入れたシリコン基板1の温度を約20℃とし,チャンバ内に導入するアルゴンガスの流量を約100sccm,酸素(O2)ガスの流量を56sccmとし,ターゲットとしてイリジウム(Ir)を用い,ターゲット・基板間に印加するパワーを約2.0kWとする。
【0087】
さらに,二回目の熱処理条件として,酸素ガスが流量20cc/min. ,アルゴンガスが流量2リットル/min. で導入された酸素雰囲気中で基板温度725℃,加熱時間20秒間に設定する。
【0088】
第1,第2,第3の試料のPZT膜のそれぞれの(111)配向の特性を評価するために,各PZT膜の(111)配向のロッキングカーブを測定し,その半値幅を求めた。その測定は,4軸ゴニオX線測定装置を用いて2θ/θ法により測定する。即ち,PZT膜の(111)配向を示す強度のピークが最大となる2θ=31゜付近に2θ/θ角を固定してウェハをあおりながら(111)配向強度のピークを測定するχスキャン法を採用した。これにより,図10に示すようなプラチナ膜のχスキャンのあおり角度χと(111)配向強度の関係が得られた。
【0089】
図10によれば,第1?第3の試料のPZT膜の下の層構造について,PZT膜の(111)配向強度のロッキングカーブの半値幅を小さくする順に挙げるとPt/Al_(2)O_(3),Pt/PtO,Pt/TiO_(2) となる。なお,あおり角度χの半値幅が小さいほど(111)配向が良くなる。
【0090】
また,第1?第3の試料のそれぞれのAl_(2)O_(3) 膜,PtO 膜,TiO_(2)膜を密着層として,図8の結果に基づき,密着層の表面粗さとPZT膜の(111)配向のロッキングカーブの半値幅との関係をプロットしたところ図11に示すような結果が得られた。
【0091】
図11によれば,PZT膜の(111)配向のロッキングカーブの半値幅と密着層表面のRmsとの間に直線的な相関関係があり,PZT膜の(111)配向性は密着層の表面粗さに大きく依存し,表面粗さRmsが小さくなるほどPZT膜の(111)配向方位の基板面垂直方向からのずれが小さくなることがわかる。」

エ 第2の実施の形態
・「【0142】
この後に,図2(a) に示すように,第1の導電膜13の上に強誘電体膜14としてPZT膜を120nmの厚さに形成する。但し,本実施形態では,次のような条件でMOCVD法によりPZT膜を形成する。」

オ 図面
図11には,横軸(密着層のRms)が0.28で縦軸(PZT(111)配向方位の垂直方向からのずれ)が約3°である測定点が見て取れる。

(2-2)引用発明
ア 引用例において,シリコン基板,SiO_(2)膜,Al_(2)O_(3)膜の積層構造を有する第1の試料に注目すると,Al_(2)O_(3)膜の表面粗さRmsは0.28である。
イ 引用例では,第1の試料として,Al_(2)O_(3)膜の上に,下部電極13aとしてプラチナ(Pt)膜を150nmの厚さに形成し,さらに,誘電体層14aとしてPZT膜をスパッタにより200nmの厚さに形成し,急速加熱処理装置で試料のPZT膜に一回目の熱処理を行い,試料のPZT膜上に酸化イリジウムを上部電極として形成している。また,一回目の熱処理条件は,酸素ガスが流量50cc/min.,アルゴンガスが流量1.95リットル/min.で導入された酸素雰囲気中で基板温度585℃,加熱時間90秒間である。
ウ そして,引用例(段落【0045】)によれば,強誘電体膜14を構成するPZT膜の第1回目のアニール処理(急速加熱処理装置を用いて,酸素雰囲気中で温度585℃程度,90秒間程度の条件,酸素雰囲気には,酸素ガスを流量50cc/min.,アルゴンガスを流量1.95リットル/min.で導入。)により,PZT膜が結晶化する。
エ 図11は,「第1?第3の試料のそれぞれのAl_(2)O_(3)膜,PtO膜,TiO_(2)膜を密着層として,図8の結果に基づき,密着層の表面粗さとPZT膜の(111)配向のロッキングカーブの半値幅との関係をプロットした」結果であるから,図面の縦軸の「PZT(111)配向方位の垂直方向からのずれ」とは,実質的に「PZT膜の(111)配向のロッキングカーブの半値幅」を意味するものと認められる。そうすると,Al_(2)O_(3)膜(Rms:0.28)を密着層とした場合の「PZT膜の(111)配向のロッキングカーブの半値幅」は,約3度である。
エ したがって,引用例には,次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されていることが理解できる。

「Al_(2)O_(3)膜の上に,下部電極13aとしてのプラチナ(Pt)膜を形成し,
下部電極13a上に,誘電体層14aとしてのPZT膜を200nmの厚さに形成し,
急速加熱処理装置で酸素雰囲気中でPZT膜に熱処理を行い,PZT膜を結晶化し,
PZT膜上に上部電極としての酸化イリジウム膜を形成し,
前記熱処理では,酸素ガスを流量50cc/min.導入し,
PZT膜の(111)配向のロッキングカーブの半値幅は,約3°である
半導体装置の製造方法。」

(3)本願補正発明と引用発明との対比
ア 本願補正発明と引用発明を対比すると,引用発明の「下部電極13aとしてのプラチナ(Pt)膜」,「誘電体層14aとしてのPZT膜」及び「上部電極としての酸化イリジウム膜」は,それぞれ本願補正発明の「下部電極膜」,「強誘電体膜」及び「上部電極膜」に相当する。
イ したがって,引用発明の「下部電極13a上に,誘電体層14aとしてのPZT膜を200nmの厚さに形成」することと,本願補正発明の「前記下部電極膜上に,厚さが150nm以下の強誘電体膜を形成する工程」とは,「前記下部電極膜上に」,所定の厚さの「強誘電体膜を形成する工程」であることにおいて共通する。
ウ また,引用発明の「前記熱処理では,酸素ガスを流量50cc/min.導入」することと,本願補正発明の「前記熱処理の際に,O_(2)ガスの流量を15sccm乃至25sccmと」することとは,「前記熱処理の際に,O_(2)ガスの流量を」所定量とすることにおいて,共通する。
エ 引用発明において,「PZT膜の(111)配向のロッキングカーブの半値幅は,約3°である」ことは,本願補正発明の「前記強誘電体膜の(111)面のロッキングカーブの半値幅を4.6度以下」とすることを満たしている。
オ そうすると,本願補正発明と引用発明とは,
「下部電極膜を形成する工程と,
前記下部電極膜上に,所定の厚さの強誘電体膜を形成する工程と,
前記強誘電体膜に対して,酸化雰囲気中で熱処理を行うことにより,前記強誘電体膜を結晶化する工程と,
前記強誘電体膜上に上部電極膜を形成する工程と,
を有し,
前記熱処理の際に,O_(2)ガスの流量を所定量とし,
前記強誘電体膜の(111)面のロッキングカーブの半値幅を4.6度以下とすることを特徴とする半導体装置の製造方法。」
であることにおいて一致しており,次の3点で相違している。

〈相違点1〉
本願補正発明は,「厚さが150nm以下の強誘電体膜」を形成しているのに対して,引用発明は,PZT膜の厚さを200nmとしている点。
〈相違点2〉
本願補正発明は,「O_(2)ガスの流量を15sccm乃至25sccm」としているのに対して,引用発明は,酸素ガスを流量50cc/min.導入している点。
〈相違点3〉
本願補正発明は,「前記強誘電体膜の(101)面のロッキングカーブのピーク値を100(arb. unit)」としているのに対して,引用発明は,(101)面について特定されていない点。

(4)相違点についての検討
(4-1)相違点1について
ア 引用発明においては,200nmのPZT膜を形成しているが,引用例(段落【0042】)に「強誘電体膜14として厚さ100?300nm,例えば200nmのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT; Pb(Zr_(1-x)Ti_(x ) )O_(3) ,0<x<1)膜」と記載されるように,200nmは例示であって,強誘電体膜の厚さを「100?300nm」の範囲から適宜選択することは,引用例に開示されている技術的事項であるといえる。
イ また,引用例(段落【0142】)には,製法が異なるものの,強誘電体膜14としてPZT膜を120nmの厚さ,すなわち,150nm以下の厚さに形成することも記載されている。
ウ そして,一般に,キャパシタを構成する際に,誘電体膜の厚さを薄くした方が,容量の大きいキャパシタを得ることができることは技術常識であるから,強誘電体キャパシタの誘電体膜であるPZT膜の厚さを薄くすることは,当業者であれば容易に想到しうることである。
エ そうすると,引用発明において,強誘電体膜であるPZT膜を形成する際に,本願補正発明のように「厚さが150nm以下の強誘電体膜」を形成することは,当業者が適宜なし得たことである。

(4-2)相違点2について
ア 引用発明の「流量50cc/min.」は,「流量を50sccm」としたことに相当するから,引用発明は,本願補正発明よりも多くの酸素を流しているが,以下の周知例1(拒絶査定で例示された周知例)にも記載されるように,従来より,熱処理雰囲気の酸素分圧が低いほど,PZT膜の結晶化温度が低下することが知られているから,結晶化温度の低温下を図るために,酸素分圧,すなわち,酸素流量を少なくすることは,当業者が適宜なし得ることである。

周知例1:特開2002-94023号公報
上記周知例1には,「【0023】[第2の比較例]次に,熱処理雰囲気の影響を調べた。図3は,熱処理時の酸素分圧を変化させ,得られた膜のペロブスカイト相含有率を前記(1)式に従って計算したものを縦軸に,横軸を熱処理温度としてプロットしたグラフである。ここでは,Ar/O_(2)=9/1,0.8Pa(5.7mTorr),400℃,3kW,5分間スパッタ成膜を行った後に施す熱処理雰囲気の影響を調べた。用いたターゲット組成は,Pb_(1.1)Zr_(0.35)Ti_(0.65)O_(x)である。熱処理雰囲気の酸素分圧が低いほど,ペロブスカイト相への結晶化温度が低下する様子が見られ,熱処理雰囲気を酸素分圧0とした場合には,480℃でペロブスカイト相への結晶化を実現した。」と記載されている。

イ ところで,本願明細書(段落【0027】)によれば,本願の発明は,熱処理における酸化性ガスの流量を適切に規定し,強誘電体膜の配向性を良好なものとしたものと解されるが,一般に,熱処理を行う際の酸化雰囲気は,単に「O_(2)ガスの流量」のみで特定できるものではなく,同時に加えるガスの種類や流量,処理室内の圧力や構造等,様々な条件を設定した上で定まるものであり,最適な「O_(2)ガスの流量」も,他の条件により影響を受けるものと認められるから,最適な「O_(2)ガスの流量」は,他の条件を定めた上で,当業者が適宜決定しうるものと認められる。
ウ また,本願補正発明の「O_(2)ガスの流量を15sccm乃至25sccm」とすることは,本願明細書の段落【0074】を根拠とするものと認められるが(意見書での主張を参照),段落【0074】には,「アニール温度が600℃?630℃の範囲,O_(2)ガスの流量が15sccm?25sccmの範囲では,スイッチング電荷量はほとんど変化しなかった。」との記載はあるものの,図24,25にはO_(2)ガスの流量として15sccmと25sccmのデータのみが記載されており,他の流量との比較等はなく,適切な「O_(2)ガスの流量」として,「15sccm乃至25sccm」の範囲に,格別の臨界的意義があるとも認められない。
エ そうすると,引用発明において,上記周知の技術的事項等を勘案して,酸素流量をさらに少なくし,本願補正発明のように「O_(2)ガスの流量を15sccm乃至25sccm」とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

(4-3)相違点3について
ア まず,本願補正発明の「前記強誘電体膜の(101)面のロッキングカーブのピーク値を100(arb. unit)」とすることの技術的意義を検討すると,「arb. unit」とは,一般に,「arbitrary unit」の省略形であって,「任意単位」と言われるものであり,所定の基準測定系に対する物質量・強度等の量の比を表すために用いられる,相対的な物理単位である。したがって,何の測定条件も設定せずに「100(arb. unit)」とすることは,他との比較ができないから,発明の特定事項として,何らの技術的意義も認めることはできない。
イ 請求人は,審判請求書の【本願発明が特許されるべき理由】の「(2)補正について」において,「100(arb. unit)の単位である『arb. unit』が『cps』と等価であることは当業者にとって明らかであり,補正後の発明は明確であるということができます。」と主張するが,「arb. unit」がX線回折の強度を示す「cps」と等価であるとしても,やはり,X線回折の測定条件等を何ら設定することなく,強誘電体膜の(101)面のロッキングカーブのピーク値を「100(cps)」(=100(arb. unit))と特定することは,他との比較ができないから,格別の技術的意義を認めることはできない。
ウ さらに,以下の周知例2にも示されるように,強誘電体膜の(101)面は,従来よりX線回折において回折強度を測定していた結晶面であり,その強度が比較的弱いことも周知の技術的事項であるから,強誘電体膜の(101)面のロッキングカーブのピーク値を小さいものとすることは,当業者が適宜なし得ることである。

周知例2:特開平11-340428号公報
上記周知例2には,「【0036】仮焼成を終えた後,RTAにより結晶化の熱処理を行い,得られたPLZT膜の結晶性をX線回折法により測定した。X線回折により得られた結果を表1に示す。なお,X線回折の測定は,スイッチング可能な配向方向である(111)面ピ-クの他,スイッチング可能であるが強度が弱い(101)面ピ-クおよびスイッチングに寄与しない(100)に対して行なった。これらのピークの回折強度および相対強度(%配向性)を表1に示す。」と記載されている。

エ そうすると,引用発明において,本願補正発明のように「前記強誘電体膜の(101)面のロッキングカーブのピーク値を100(arb. unit)」とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

(5)小括
したがって,本願補正発明は,引用例に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって,本件補正は,本願補正発明が特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,特許法第17条の2第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項をいう。以下同じ。)において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

4 補正の却下についてのむすび
以上検討したとおり,本件補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。また,仮に,本件補正が,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たし,かつ,同法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものとみなした場合であっても,同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。
したがって,本件補正は,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり,本件補正は却下されたので,本願発明(本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明)は,前記第2,1(1)アに摘記したとおりのものである。

2 引用例の記載と引用発明
引用例の記載及び引用発明は,前記第2,3(2)で認定したとおりである。

3 対比・判断
本願補正発明は,本件補正前に記載した発明特定事項を更に限定するものである。
そうすると,本願発明の構成要素をすべて含み,これを更に限定したものである本件補正発明が,前記第2,3(3)ないし(5)で検討したように,引用例に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,この限定をなくした本願発明も,同様の理由により,引用例に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 結言
以上のとおり,本願発明(請求項1に係る発明)は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-18 
結審通知日 2012-06-19 
審決日 2012-06-26 
出願番号 特願2005-92944(P2005-92944)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 561- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮部 裕一  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官 早川 朋一

近藤 幸浩
発明の名称 半導体装置の製造方法  
代理人 國分 孝悦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ