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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1261334
審判番号 不服2011-14066  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-01 
確定日 2012-08-08 
事件の表示 特願2005-111767「等速ジョイントの通気」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月 4日出願公開、特開2005-308217〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年4月8日(パリ条約による優先権主張2004年4月21日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成23年2月17日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成23年7月1日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、その請求と同時に、明りょうでない記載の釈明を目的として、特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものである。
本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成20年4月2日付け、平成23年1月28日付け、及び平成23年7月1日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1及び請求項9に係る発明(それぞれ、「本願発明1」及び「本願発明9」という。)は、次のとおりである。

[本願発明1]
「第1シャフトと第2シャフトとの間に配置され且つこれらのシャフトに結合された等速ジョイントと、
通気孔内に配置される通気弁と、
から成る通気型等速ジョイントシステムであって、前記等速ジョイントは前記第1シャフトの一部を受け取るジョイントキャビティと、そのジョイントキャビティと連通した通気孔を形成した通気プレートとを有し、前記通気弁は、
第1の端部と第2の端部と、これらの間に延びる少なくとも1つの逃がし通路とを有する本体部分と、
前記本体部分から延びた可撓性保持キャップとを有し、
前記保持キャップは平面部分を有し、その平面部分は通気弁の残り部分の最外部面より大きい連続面有し、通常は閉鎖された位置において少なくとも1つの逃がし通路を覆い、且つ外的汚染から前記ジョイントをシールするように作動し、前記ジョイントキャビティ内に生じた内圧に応答して開いて少なくとも1つの通路を露出させて、前記ジョイントキャビティから空気を逃がすように機能することを特徴とする通気型等速ジョイントシステム。」

[本願発明9]
「ジョイントキャビティと、そのジョイントキャビティと連通した通気孔を形成した通気プレートとを有する等速ジョイントと、
前記通気孔内に配置される通気弁と、
から構成される通気型等速ジョイントシステムであって、前記通気弁は、
第1の端部と第2の端部と、これらの間で延びる複数の円周方向に分布する通路とを有する本体部分と、
細い隙間も形成されないように連続した表面を有する可撓性の傘形保持キャップと、
から構成され、前記保持キャップは前記通気弁の残り部分の最外部面よりも大きくなるように前記本体から延びており、
前記保持キャップは、通常は閉鎖された位置において複数の逃がし通路を覆い、且つ外的汚染から前記ジョイントをシールするように作動し、前記ジョイントキャビティ内に生じた内圧に応答して外方にベロー状に開いて前記逃がし通路を露出させて、前記ジョイントキャビティから空気を逃がすように機能することを特徴とする通気型等速ジョイントシステム。」

2.引用例
(1)引用例1
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である実願昭54-1754号(実開昭55-102427号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、「ダブルカルダンジョイント」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「この考案は、例えば四輪駆動車のアクスルシャフトなどに用いる等速ジョイントに係り、特にダブルカルダンジョイントに関するものである。」(明細書1ページ18?20行)
イ.「この考案は、芯合わせ装置におけるグリース溜り空間の内圧調整は適正になされ、かつ外部からグリース溜り空間への泥水等の侵入を防止し得るダブルカルダンジョイントの提供を、その目的とするものである。」(明細書3ページ3?8行)
ウ.「ダブルカルダンジョイントを一部断面で表した第1図において、符号(10)は第一のクロスジョイント装置、(20)は第二のクロスジョイント装置を示している。こられ両クロスジョイント装置(10)(20)は、それぞれスパイダー(12)(22)と、これらスパイダー(12)(22)の一対のトラニオン(12a)(22a)に対して角運動可能に連結されたヨーク材(11)(21)とを有している。また、各スパイダー(12)(22)の他方の一対のトラニオン(12b)(22b)は、両クロスジョイント装置(10)(20)に共通のリング状をしたカップリング部材(30)によって連結されている。
前記両クロスジョイント装置(10)(20)の各ヨーク部材(11)(21)の相互の間には芯合わせ装置(40)が構成されている。すなわち、両ヨーク部材(11)(21)にはブリッジ(13)(23)がそれぞれ形成されており、第一のクロスジョイント装置(10)におけるヨーク部材(11)のブリッジ(13)には、円柱状のステム(14)が一体に形成されている。このステム(14)は、ニードルローラ(42)を介在して球状体(41)を回転可能に、かつ軸線に沿った方向へ移動可能に支持している。また、第二のクロスジョイント装置(20)におけるヨーク部材(21)のブリッジ(23)には、ソケット組み合わせ(47)を介在して前記の球状体(41)を受け入れるソケット部(24)が一体に形成されている。このように構成した芯合わせ装置(40)により、両クロスジョイント装置(10)(20)の各ヨーク部材(11)(21)の角運動を相対的に位置決めして等速ジョイントとしての機能をもたせている。」(明細書3ページ11行?4ページ17行)
エ.「ソケット部(24)の内部に残された空間はグリース溜り空間(45)となっていて、この空間(45)にはソケット部(24)に設けたグリースフィッティング(43)からグリースが注入される。そして、このソケット部(24)を有する側のブリッジ(23)には、上記のグリース溜り空間(45)を大気に開放させるためのブリーザ孔(46)があけられている。このブリーザ孔(46)は前に説明したように、グリース溜り空間(45)の内圧が高くなったときに、その内部の空気を大気へ逃がして、この空間(45)の内圧を調整するためのものである。」(明細書5ページ1?11行)
オ.「上記のブリーザ孔(46)には、第2図?第4図で示す形状の弁体(60)が取りつけられる。この弁体(60)は、ゴム等の弾性を有する素材によって円柱状の茎部(61)と、この茎部(61)の一方端に一体に形成された円板状の基部(62)と、茎部(61)の他方端に一体形成された円錐面を有する頂部(63)とを備えている。」(明細書5ページ12?18行)
カ.「頂部(63)における比較的肉厚の薄い周縁部は、ブリッジ(23)の外側面に対し、所定の締めしろをもって弾力的に圧接している。なお、この頂部(63)の周縁部が後で述べる受圧可動部(64)としての機能を果すのである。
前記茎部(61)の外径は、第2図から明らかなようにブリーザ孔(46)の内径よりも小さい寸法に設定されていて、この茎部(61)の外周面とブリーザ孔(46)の内周面との間に前記頂部(63)の内側に通じる隙間(66)を確保している。また、前記の基部(62)には、その円周方向に関して1個?2個のスリット(65)が上記の隙間(66)に通じるように形成されている。」(明細書6ページ6?17行)
キ.「この実施例では空間(45)の内圧が前記のスリット(65)および隙間(66)を通じて、受圧可動部(64)としての機能をもたせた頂部(63)の周縁部に常時作用しており、この内圧が所定値以上になると、そのときの圧力作用によって上記の受圧可動部(64)が弾性的に外方へ変形し、ブリーザ孔(46)を開口させることとなる。この結果、グリース溜り空間(45)の空気が外部へ放出され、もってこの空間(45)の内圧は前記衝撃圧に達することなく調整される。そして、常時は上記受圧可動部(64)がブリッジ(23)の外側面に圧接していて、グリース溜り空間(45)へ外部から泥水等が侵入することを阻止する。」(明細書7ページ8?20行)
ク.「弁体(60)の受圧可動部(64)が空間(45)の空気を逃がすべく作動するときの圧力値は、弁体(60)の素材の選定、スリット(65)の数や巾の選定、あるいは受圧可動部(64)の締めしろの選定などによって自由に設定し得るものである。」(明細書8ページ1?5行)
ケ.「第5図で示す実施例は、前記の隙間(66)に代えて弁体(60)を構成している茎部(61)の外周に、前記の受圧可動部(64)に通じる溝(67)を形成し、かつ基部(62)には、この溝(67)に通じるスリット(65')を形成したものであって、その他の機能については第2図?第4図で示す実施例と同様である。」(明細書8ページ10?15行)
コ.第2図には、頂部(63)と基部(62)と茎部(61)とからなる本体と、この本体の頂部(63)から延びた受圧可動部(64)とを有する弁体(60)が図示されている。この第2図から、受圧可動部(64)は、断面形状が湾曲状に形成された湾曲部分を有していること、また、その湾曲部分は弁体(60)の頂部(63)の円錐面より大きい連続した面であることが看取できる。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに倣って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明1]
「リング状のカップリング部材(30)によって連結された一対のスパイダー(12)(22)と、これら両スパイダー(12)(22)を通じて角運動可能に連結された一対のヨーク部材(11)(21)と、これら両ヨーク部材(11)(21)の角運動を相対的に位置決めする芯合わせ装置(40)とを備えたクロスジョイント装置(10)(20)と、
芯合わせ装置(40)内のグリース溜り空間(45)を大気に開放させるためのブリーザ孔(46)内に配置される弁体(60)と、
を備えているダブルカルダンジョイントであって、前記クロスジョイント装置(20)は前記ヨーク部材(11)の一部を受け入れるグリース溜り空間(45)と、そのグリース溜り空間(45)と連通したブリーザ孔(46)を形成したブリッジ(23)とを有し、前記弁体(60)は、
頂部(63)と基部(62)と、これらの間に延びる隙間(66)とを有する本体と、
前記本体から延びた受圧可動部(64)とを有し、
前記受圧可動部(64)は湾曲部分を有し、その湾曲部分は弁体(60の頂部(63)の円すい面より大きい連続した面となっており、常時はブリッジ(23)の外側面に圧接して隙間(66)を覆い、且つ泥水等の侵入を阻止し、前記グリース溜り空間(45)内の内圧が所定値以上になると外方へ変形してブリーザ孔(46)を開口させて隙間(66)を露出させて、前記グリース溜り空間(45)から空気を逃がすように機能するダブルカルダンジョイント。」

また、本願発明9の記載ぶりに倣って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明9」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明9]
「グリース溜り空間(45)と、そのグリース溜り空間(45)と連通したブリーザ孔(46)を形成したブリッジ(23)とを有するクロスジョイント装置(20)と、
前記ブリーザ孔(46)内に配置される弁体(60)と、
から構成されるダブルカルダンジョイントであって、前記弁体(60)は、
頂部(63)と基部(62)と、これらの間で延びる隙間(66)とを有する本体と、
ブリッジ(23)の外側面に対して所定の締めしろをもって弾性的に圧接している受圧可動部(64)と、
から構成され、前記受圧可動部(64)は前記弁体(60)の残り部分の最外部面よりも大きくなるように前記本体から延びており、
前記受圧可動部(64)は、通常は閉鎖された位置において隙間(66)を覆い、且つ泥水等の侵入を阻止し、前記グリース溜り空間(45)内の内圧が所定値以上になると外方へ変形してブリーザ孔(46)を開口させて前記隙間(66)を露出させて、前記グリース溜り空間(45)から空気を逃がすように機能するダブルカルダンジョイント。」

(2)引用例2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である実願昭50-173879号(実開昭52-85849号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、「ブリーザ」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。なお、促音、拗音は記載内容を損なわない限りで適宜表記した。
サ.「11はブリーザ本体を構成する中空栓体であって、該中空栓体11の頭部はオイルケース8方向へ一体的に延出されており、該部が吸盤状に拡開された外蓋部12となる。」(明細書3ページ13?17行)
シ.「係着凹部14の上端周縁部、すなわち、オイルケース8上壁への当接面14aは前記外蓋部12のリップ部12a端面より若干上方に位置すべく配されており、上記中空栓体11をオイル注入口10に嵌入して、係止用突起部13がオイルケース8内壁に当接し、中空栓体11が固定されたときに、上記リップ部12aがそれ自体の弾力によって変形し、通常の解放状態よりも図に示す(l)だけ上方に変位するようになっている。この場合、外蓋部12と、該外蓋部12に覆われた中空栓体11間は、上記リップ部12aの密着により環状の空室15となり、外気と遮断される。」(明細書4ページ8?19行)
ス.「16はオイルケース8内外を連通するための通気孔であって、該通気孔は、上記環状空室15と、中空栓体11枢芯部の空室17とを連通する中空栓体の適当部位に貫設されている。一方第5図、第6図は本考案の他例を示すものであって、中空栓体11の一側にスリット状の通気孔18を切欠形成したものである。」(明細書4ページ20行?5ページ6行)
セ.「注油後、当該中空栓体11によりオイルケース8を密閉した時点では、オイルケース8内気圧、環状空室15内気圧及び大気圧が同等であるが、オイルの潤滑を受ける各機構の連続作動に伴い、オイルケース8内の気圧が上昇すると該オイルケース8内の空気が通気孔16環状空室15を経てリップ12aから外方へ排気される。一方、かかるブリーザは第1図において(A)でその取付部位を示したように泥水との接触が多いが、外蓋部12が弾性材より形成され、かつ吸盤状に拡開されてそのリップ部12aがオイルケース8外壁に密着しているので、環状空室15からの排気は円滑に行われるが、泥水の浸入は完全に防止される。すなわち、上記排気の際に生ずるリップ部12aとオイルケース5外壁面間に生ずる間隙は排気時のみであり、しかもこの間隙は、大気と環状空室15内の気圧との差に比例するものであるからオイルケース8内の気圧変動が生じても環状空室15が泥水の浸入を防止する十分な気圧を保持し、泥水がオイルケース8内へ侵入してオイルの劣化を招くことが全くない。」(明細書5ページ8行?6ページ8行)
ソ.第3図及び第5図には、吸盤状に拡開された外蓋部12を有する中空栓体11が図示されている。これらの図から、外蓋部12は断面形状が細長くて湾曲していない平たい形状をしたリップ部12aを有しており、そのリップ部12aは中空栓体11の残り部分の最外部面より大きい連続した面となっていることが看取できる。
タ.第5図及び第6図には、上端部と下端部との間に延びる1つのスリット状の通気孔18を形成した中空栓体11が図示されている。

3.本願発明1について
(1)対比
そこで、本願発明1と引用発明1とを対比すると、後者の「リング状のカップリング部材(30)によって連結された一対のスパイダー(12)(22)と、これら両スパイダー(12)(22)を通じて角運動可能に連結された一対のヨーク部材(11)(21)と、これら両ヨーク部材(11)(21)の角運動を相対的に位置決めする芯合わせ装置(40)とを備えたクロスジョイント装置(10)(20)」は、前者の「第1シャフトと第2シャフトとの間に配置され且つこれらのシャフトに結合された等速ジョイント」に実質的に相当する。また、後者の「前記ヨーク部材(11)の一部を受け入れるグリース溜り空間」は、前者の「前記第1シャフトの一部を受け取るジョイントキャビティ」に実質的に相当する。
また、後者の「ブリーザ孔(46)」は、その機能又は作用などからみて、前者の「通気孔」に相当し、以下同様に、「弁体(60)」は「通気弁」に、「ダブルカルダンジョイント」は「通気型等速ジョイントシステム」に、「グリース溜り空間(45)」は「ジョイントキャビティ」に、「ブリッジ(23)」は「通気プレート」に、「頂部(63)」は「第1の端部」に、「基部(62)」は「第2の端部」に、「隙間(66)」は「少なくとも1つの逃がし通路」に、「本体」は「本体部分」に、「受圧可動部(64)」は「可撓性傘形保持キャップ」又は「傘形保持キャップ」に、「泥水等」は「外的汚染」に、それぞれ相当する。
さらに、後者の「常時はブリッジ(23)の外側面に圧接して隙間(66)を覆い」は、前者の「通常は閉鎖された位置において少なくとも1つの逃がし通路を覆い」に相当し、後者の「泥水等の侵入を阻止し」は、前者の「外的汚染から前記ジョイントをシールするように作動し」に相当し、後者の「前記グリース溜り空間(45)内の内圧が所定値以上になると外方へ変形してブリーザ孔(46)を開口させて隙間(66)を露出させて、前記グリース溜り空間(45)から空気を逃がす」ことは、前者の「前記ジョイントキャビティ内に生じた内圧に応答して開いて少なくとも1つの通路を露出させて、前記ジョイントキャビティから空気を逃がす」ことに相当する。

してみると、両者は、本願発明1の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「第1シャフトと第2シャフトとの間に配置され且つこれらのシャフトに結合された等速ジョイントと、
通気孔内に配置される通気弁と、
から成る通気型等速ジョイントシステムであって、前記等速ジョイントは前記第1シャフトの一部を受け取るジョイントキャビティと、そのジョイントキャビティと連通した通気孔を形成した通気プレートとを有し、前記通気弁は、
第1の端部と第2の端部と、これらの間に延びる少なくとも1つの逃がし通路とを有する本体部分と、
前記本体部分から延びた可撓性保持キャップとを有し、
前記保持キャップは、通常は閉鎖された位置において少なくとも1つの逃がし通路を覆い、且つ外的汚染から前記ジョイントをシールするように作動し、前記ジョイントキャビティ内に生じた内圧に応答して開いて少なくとも1つの通路を露出させて、前記ジョイントキャビティから空気を逃がすように機能する通気型等速ジョイントシステム。」

そして、両者は、次の点で相違する(かっこ内は本願発明1の対応する用語を示す。)。
[相違点A]
本願発明1は、保持キャップが「平面部分を有し、その平面部分は通気弁の残り部分の最外部面より大きい連続面有し」ているのに対して、引用発明1は、受圧可動部(64)(保持キャップ)が湾曲部分を有し、その湾曲部分は弁体(60)(通気弁)の頂部(63)の円錐面より大きい連続した面である点。

(2)判断
上記相違点Aについて検討する。
本願発明1の「平面部分」という発明特定事項は、それが本願の図10に図示された保持キャップのどの部分を指すのか必ずしも明らかでない。なぜなら、本願明細書には、「平面部分」という用語はどこにも記載されていないし、図10に図示された通気弁において「平面部分」といえる部分は、通気弁の最外部面である円形状の平面部分しか存在しない。保持キャップは円錐形状であって、保持キャップには幾何学上「平面」といえる部分は存在しない。
しかし、本願の請求項1の記載によれば、構文上、「平面部分は・・・逃がし通路を覆い、・・・開いて、・・・露出させて、・・・逃がすように機能する」と読めることから、そのような機能を果たす部分は、保持キャップの円錐形状の部分しか存在しないことは明らかである。
本願発明1の「保持キャップは平面部分を有し」との発明特定事項は、もともと平成20年4月2日付け手続補正によって「保持キャップは下方へ延びる平面部分を有し」と記載されていたものを、平成23年1月28日付け手続補正により「下方へ延びる」との事項を削除し、「保持キャップは平面部分を有し」と補正したものであり、この補正は、平成22年10月19日付けで通知された、「下方へ」とはいずれの向きからみて「下方」であるのかが不明であるとの前審における拒絶理由を受けて、これを解消するためになされたものである。このような手続の経緯からみても、「平面部分」とは、下方へ延びる円錐形状の部分を意味しているものと解される。そして、本願発明1の保持キャップは、断面形状が細長くて湾曲していない平たい形状であることから、「保持キャップは平面部分を有する」と表現したものと推察される。
ところで、本願発明1は、上記相違点Aの点で引用発明1と構成が相違するものの、その相違点Aの構成によって、機能、作用又は効果の点でどのような差異があるのか、本願明細書及び審判請求書の記載を見ても明らかでなく、本願発明1の保持キャップが「平面部分」を有している点に格別技術的意義があるとは認められない。
一方、引用例2には、第3図及び第5図に「外蓋部12は断面形状が細長くて湾曲していない平たい形状をしたリップ部12aを有しており、そのリップ部12aは中空栓体11の残り部分の最外部面より大きい連続した面となっていること」(上記ソ参照)が図示されており、そして、引用例2に記載された外蓋部12は、その機能又は作用からみて、本願発明1の保持キャップに相当し、同じく中空栓体11は通気弁に相当するから、引用例2には、結局、本願発明1の「保持キャップは平面部分を有し、その平面部分は通気弁の残り部分の最外部面より大きい連続面有し」ている構成に相当するものが記載されていると認められる。
また、引用例2に記載された中空栓体11は、一般に逆止弁と呼ばれるものであるが、このような形状の逆止弁は、例えば、実願昭63-108700号(実開平2-30586号)のマイクロフィルム(明細書4ページ5?8行の記載及び第1図参照)、実願昭55-98618号(実開昭57-24367号)のマイクロフィルム(第1図参照)、実願昭57-110102号(実開昭59-15864号)のマイクロフィルム(第2図及び第3図参照)、特開平8-326938号公報(図1及び図3参照)などに示されるように、従来周知である。
そうすると、引用発明1において、受圧可動部(64)の形状として、湾曲部分を有するものに代えて引用例2に記載されたような従来周知の平面部分を有するものを採用し、相違点Aに係る本願発明1のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本願発明1が奏する効果は、引用発明1、引用例2に記載された発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願発明1は、引用発明1、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「引用文献1(審決注:本審決における「引用例1」に相当する。)には第2図の『弁体60の頂部63』を別の構造に変更することは記載も示唆もされていません。また、引用文献2(審決注:本審決における「引用例2」に相当する。)には審査官殿が指摘された『平面部分』は記載も示唆もされていません。それ故、前記頂部63を前記『平面部分』で置き換えることは当業者といえども容易に想到し得ないと思慮致します。」(「3.本願発明が特許されるべき理由」の項参照)と主張する。
しかしながら、上記「(2)判断」で述べたとおりであるから、審判請求人の主張は採用できない。
審判請求人が、引用例1の第2図の「弁体60の頂部63」を別の構造に変更することが記載も示唆もされていないと主張しているところからみて、本願発明1の「平面部分」を、本願の図10における円錐形状の部分ではなく、本体部分の端部に形成された円形状の平面、つまり最外部面であると主張しているようであるが、「平面部分」をそのように捉えると、「本体部分から延びた可撓性保持キャップ」(請求項1参照)との記載、あるいは本願明細書の段落【0023】の記載と整合しないし、請求項1の「その平面部分は通気弁の残り部分の最外部面より大きい連続面有し」との事項の意味が不明となることからみて、「平面部分」に関する上記主張は首肯しがたい。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

4.本願発明9について
(1)対比
次に、本願発明9について検討する。
本願発明9と引用発明9とを対比すると、その機能又は作用などからみて、後者の「グリース溜り空間(45)」は前者の「ジョイントキャビティ」に相当し、以下同様に、「ブリーザ孔(46)」は「通気孔」に、「ブリッジ(23)」は「通気プレート」に、「クロスジョイント装置(20)」は「等速ジョイント」に、「弁体(60)」は「通気弁」に、「ダブルカルダンジョイント」は「通気型等速ジョイントシステム」に、「頂部(63)」は「第1の端部」に、「基部(62)」は「第2の端部」に、「隙間(66)」は「通路」又は「逃がし通路」に、「本体」は「本体部分」又は「本体」に、「受圧可動部(64)」は「傘形保持キャップ」に、「泥水等」は「外的汚染」に、それぞれ相当する。
また、後者の「ブリッジ(23)の外側面に対して所定の締めしろをもって弾性的に圧接している受圧可動部(64)」は、前者の「細い隙間も形成されないように連続した表面を有する可撓性の傘形保持キャップ」に実質的に相当する。
さらに、後者の「泥水等の侵入を阻止し」は、前者の「外的汚染から前記ジョイントをシールするように作動し」に相当し、同様に「前記グリース溜り空間(45)内の内圧が所定値以上になると外方へ変形してブリーザ孔(46)を開口させて前記隙間(66)を露出させて、前記グリース溜り空間(45)から空気を逃がすように機能する」ことは、「前記ジョイントキャビティ内に生じた内圧に応答して外方にベロー状に開いて逃がし通路を露出させて、前記ジョイントキャビティから空気を逃がすように機能する」ことに相当する。

してみると、両者は、本願発明9の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「ジョイントキャビティと、そのジョイントキャビティと連通した通気孔を形成した通気プレートとを有する等速ジョイントと、
前記通気孔内に配置される通気弁と、
から構成される通気型等速ジョイントシステムであって、前記通気弁は、
第1の端部と第2の端部と、これらの間で延びる通路とを有する本体部分と、
細い隙間も形成されないように連続した表面を有する可撓性の傘形保持キャップと、
から構成され、前記保持キャップは前記通気弁の残り部分の最外部面よりも大きくなるように前記本体から延びており、
前記保持キャップは、通常は閉鎖された位置において逃がし通路を覆い、且つ外的汚染から前記ジョイントをシールするように作動し、前記ジョイントキャビティ内に生じた内圧に応答して外方にベロー状に開いて前記逃がし通路を露出させて、前記ジョイントキャビティから空気を逃がすように機能する通気型等速ジョイントシステム。」

そして、両者は、次の点で相違する。
[相違点B]
本願発明9においては、第1の端部と第2の端部との間で延びる通路が「複数の円周方向に分布する」通路であり、保持キャップが「複数」の逃がし通路を覆うのに対して、引用発明9においては、その通路が隙間(66)であり、保持キャップに相当する受圧可動部(64)がその隙間(66)を覆う点。

(2)判断
上記相違点Bについて検討する。
引用例2には、上端部と下端部との間に延びる1つのスリット状の通気孔18を形成した中空栓体11が記載されている(上記タ参照)。即ち、引用例2には、本願発明9に倣って表現すると、「第1の端部と第2の端部と、これらの間で延びる1つの通路とを有する本体部分」が記載されている。
一方、引用例1には、隙間(66)に代えて第5図や第6図などの他の実施形態を採用することが記載又は示唆されている(上記ケ参照)。
そうすると、引用発明9において、隙間(66)に代えて引用例2に記載されたスリット状の通気孔16のような通路を採用することは、当業者であれば容易に想到できたことであり、その際に、通路を複数とし、その複数の通路を円周方向に分布させることは、当業者が必要に応じて設計変更の範囲内で適宜なし得る事項にすぎない。
したがって、相違点Bに係る本願発明9のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本願発明9が奏する効果は、引用発明9及び引用例2に記載された発明から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願発明9は、引用発明9及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明1(請求項1に係る発明)は、引用発明1、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
また、本願発明9(請求項9に係る発明)は、引用発明9及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明1及び本願発明9が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-22 
結審通知日 2012-03-06 
審決日 2012-03-21 
出願番号 特願2005-111767(P2005-111767)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野 孝朗仲村 靖  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 所村 陽一
常盤 務
発明の名称 等速ジョイントの通気  
代理人 山川 茂樹  
代理人 黒川 弘朗  
代理人 山川 政樹  

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