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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01B
管理番号 1262266
審判番号 不服2010-11257  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-26 
確定日 2012-08-22 
事件の表示 特願2003-568342「多関節アームを有する可搬式座標測定器」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月21日国際公開、WO03/69267、平成17年 6月16日国内公表、特表2005-517909〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本件審判事件の手続の概要は、以下のとおりである。

2003年 2月13日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:2002年2月14日(以下、「優先日」という。)、アメリカ合衆国、2002年7月10日、アメリカ合衆国)とする特許出願
平成21年 6月 5日 拒絶理由通知(同年6月9日発送)
平成21年11月 6日 意見書・手続補正書
平成22年 1月15日 拒絶査定(同年1月26日送達)
平成22年 5月26日 本件審判請求
平成23年11月22日 拒絶理由通知(同年11月29日発送。以下、「当審拒絶理由通知」という。)
平成24年 2月28日 意見書

2.当審の拒絶理由
当審が通知した拒絶理由の概要は、

この出願の請求項1?36に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平8-261745号公報(以下、「引用刊行物」という。)に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

というものである。

3.本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年11月6日付け手続補正によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「選択された体積内における物体の位置を測定するための可搬式座標測定器(CMM)であって、
対向する第一および第二の端部を備えて手動で位置決め可能な多関節アームであって、当該多関節アームが少なくとも五つの回転軸を基準として移動するべく少なくとも五自由度を実現するための少なくとも五つの旋回関節を含む多関節アームと、
前記多関節アームの第一端部に取付けられた測定用プローブと、
前記アームのトランスデューサから位置信号を受信して、選択された体積内におけるプローブの位置に対応するデジタル座標を提供する電子回路と、
を含み、
前記旋回関節の少なくとも1個が更に、
測定可能な特徴の周期的なパターンと、
前記パターンから間隔を置かれ、かつ導通している少なくとも2個の読み取りヘッドと、
第一の筐体と、
第二の筐体と、
前記第二の筐体から伸長して前記第一の筐体へ入る回転可能シャフトと、
前記シャフトと前記第一の筐体の間に配置されていて、前記回転可能シャフトが前記第一の筐体内で回転できるようにするベアリングと、
を含み、
前記パターンが前記回転可能シャフトに取付けられていて、
前記少なくとも2個の読み取りヘッドが前記第一の筐体内に固定されていることにより前記第一の筐体が第二の筐体の回りを回転すれば前記少なくとも2個の読み取りヘッドが前記パターンに相対的に移動し、
前記パターンおよび前記少なくとも2個の読み取りヘッドが、互いに対して回転可能であるように前記関節内に配置され、
前記少なくとも2個の読み取りヘッドが、付加された加重が当該読み取りヘッドとパターン間の相対的位置関係に影響することに起因して生じる回転式測定におけるエラーを減少させるCMM。」

4.引用発明
引用刊行物である特開平8-261745号公報には、「三次元座標測定装置」の発明に関して、以下の事項が記載されている。

<記載事項1>
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、三次元座標測定器(CMM:coordinate measuring machine)に関するものである。本発明は特に、可搬式で、精度及び使いやすさが向上した新しい改良型三次元CMMに関するものである。」

<記載事項2>
「【0006】
【課題を解決するための手段】従来技術の上記及び他の問題及び欠点は、本発明の三次元測定器(例えば測角器)によって解決されるか、軽減される。本発明による新規な可搬式座標測定器は、好適な実施例では、直径が6?12フィート(182?366センチメートル。しかし、この範囲の上下の直径も含むこともできる)の球を有する体積を好ましくは、2Σ±0.003インチ(1インチ=約2.54センチメートル。オプションとして2Σ(シグマ)±0.001インチ)の測定精度で正確に容易に測定する多重ジョイント式(好ましくは6または7ジョイント)手動位置決め形測定アームを有している。測定アームに加えて、本発明は、アーム及びホストコンピュータ間の電子インターフェースとして作用するコントローラ(またはシリアルボックス)を用いている。
【0007】本発明のCMMに使用されている機械式測定アームは一般的に、複数の移動ハウジング(各移動ハウジングはジョイントで構成され、1回転自由度を備えている)と伸張部材とを互いに取り付けて構成されており、好ましくは5、6または7自由度を備えた可動アームを形成できるように隣接の移動ハウジングが直角に配置されている。各移動ハウジングは、測定トランスジューサと新規な軸受構造とを備えている。これらの新規な軸受構造は、対向配置された円錐形玉軸受で形成されたプレストレスを加えた軸受と、低い縦断面構造での曲げ強さを高めるための補剛スラスト軸受か、あるいは標準形組み合わせ軸受とを備えている。又、各移動ケーシングは、機械的応力による機械的過負荷を防止するために物理的に見えるか、聞こえる端部ストップインジケータを備えている。」

<記載事項3>
「【0012】具体的には、請求項1に記載の発明は、『第1及び第2の対向端部を備え、また複数のジョイントを設け、該各ジョイントが1自由度(a degree of freedom)に対応することによって選択体積(selected volume) 内を移動できるようになっており、前記ジョイントの各々が位置信号を発生する位置トランスジューサ手段を収納するための回転移動ハウジングを有するようにした可動アームと、可動アームの前記第1端部に取り付けられた支持ベースと、可動アームの前記第2端部に取り付けられたプローブと、前記トランスジューサから前記位置信号を受け取って、選択体積内での前記プローブの位置及び方位に対応したデジタル座標を発生する電子回路手段とを有する三次元座標測定装置。』である。」

<記載事項4>
「【0027】
【発明の実施の形態】まず図1を参照しながら本発明の好適実施例について説明すると、本発明の三次元測定装置は、手動操作式多重ジョイント式アーム12及び支持ベースまたはポスト14で構成された座標測定器(CMM)10と、コントローラまたはシリアルボックス16と、ホストコンピュータ18とを有している。CMM10は、シリアルボックス16に電子的に連通し、またシリアルボックス16はホストコンピュータ18に電子的に連通している。
【0028】以下にさらに詳細に説明と、CMM10は、回転位置データを収集してこの基本データをシリアルボックス16へ送るトランスジューサ(例えば各自由度に対して1つのトランスジューサ)を備えている。シリアルボックス16は、一定の複雑な計算を処理するためのホストコンピュータ18の要件全体を減少させるためのもので、一定の事前データ処理を行う。図2に示されているように、シリアルボックス16はホストコンピュータ18(例えば図2に示されているノート型コンピュータ)の下に配置されるもので、データ処理ソフトウェア、マイクロコンピュータプロセッサ、信号処理ボード及び多数のインジケータライト20を含むEEPROMSを備えている。前述したように、基本トランスジューサデータはCMM10からシリアルボックス16へ送られる。次に、シリアルボックス16は進行中に生トランスジューサデータを処理して、ホストコンピュータの照会に対して所望の三次元位置または方位情報で応答する。
【0029】好ましくは、本発明の三次元測定装置を構成する3つの構成要素(すなわちCMM10、シリアルボックス16及びホストコンピュータ18)は全て、剛性プレートと標準的光学測定器ねじの両方またはいずれか一方を用いて固定取り付け表面に取り付けられてから、図3に22で示されているような公知の標準的なセオドライト可動スタンドに取り付けられる。好ましくは、セオドライトスタンド22は、ブランソン(Brunson)製の部品番号MWS750の部品である。そのような可動スタンドは、伸縮式の垂直タワーと一般的な取り付け具及びロック機構とを備えた安定的な回転台を特徴としている。図2及び3に示されているように、CMM10の支持ベース14は、スタンド22の垂直支持部材24上にねじ止めされるか、他の方法で取り付けられているのに対して、シリアルボックス16/ホストコンピュータ18は、第2ジョイント32に回動可能に取り付けられたアーム30に第1ジョイント28で回動可能に連結された棚26上に支持されている。連結部材34が、部材24の上部の上方に取り付けられたキャップ38に取り付けられた自在連結部36にジョイント32を連結している。
【0030】次に、図1及び図4?図9を参照しながら、CMM10を詳細に説明する。図5に詳細に示すように、CMM10に設けられたベース14は、第1移動ハウジング40を(ハウジング40に対して直角方向に配置された)第2移動ハウジング42に連結してなる第1組の2つの移動ハウジングに連結されている。第1延長部材44が、第3移動ハウジング46を第4移動ハウジング48に直角方向に取り付けてなる第2組の2つの移動ハウジングに固定されている。第1延長部材44は、移動ハウジング42及び46間に垂直に配置されている。第2延長部材50が、移動ハウジング48に対して整合してそれに固定されている。剛性の延長部材50は、第5移動ハウジング52を第6移動ハウジング54に直角方向に取り付けてなる第3組の2つの移動ハウジングに固定されている。第6移動ハウジング54にハンドル/プローブアセンブリ56が取り付けられている。
【0031】一般的に(また以下にさらに詳細に述べるように)、6個の移動ハウジング40、42、46、48、52及び54の各々の内部に位置感知トランスジューサが取り付けられている。各ハウジングは、軸受支持部と、45゜傾斜取り付けねじ(図6)を用いて互いに円筒状に取り付けられるように形成されたトランスジューサ室とで構成されている。ベース14には、アーム12を標準的な垂直配置に支持するための釣り合いばね装置60が設けられている(図8)。
【0032】次に、図6及び図7を参照しながら、移動ハウジング及びその内部構成部材について詳細に説明する。図6は移動ハウジングの分解図であるのに対し、図7は直角向きに取り付けられた移動ハウジング(すなわちハウジング46及び48)の拡大図である。各ハウジングは、内部キャリヤ62と外部ケーシング64とを備えている。内部キャリヤ62と外部ケーシング64との間の機械的安定性は、それぞれの円錐形レース70、72に押し付けられるように配置された2つの対向配置された(例えば向き合わせて設けられた)円錐形玉軸受66、68によって与えられる。円錐形レース70及び72は、外部移動ケーシング64内に永久的に固定されている。キャリヤから軸122が延出しており、それの終端部にねじ74が付けられている。円錐形軸受66、68は焼き入れ鋼で製造するのが好ましく、レース70、72も焼き入れ鋼で製造される。わかりやすくするために、好適な第1実施例を十分に説明した後で好適な第2実施例の軸受構造を説明する。
【0033】移動ケーシング48の組み立て中に、ナット73をねじ74に特定トルクまで締め付けることによって圧縮力を加えて、プレストレスを加えた軸受状態にすることによって、一般的に加えられる負荷状態では軸方向回転以外に移動しないようにする。手動処理ではそのようなアームの縦断面を低くする必要があり、それに伴って全体の剛性が低下するため、キャリヤ62とケーシング64との間の接合面にスラスト軸受76も設けることが好ましく、また実際に一部の用例では必要である。スラスト軸受76は、移動ハウジングのキャリヤ62とケーシング64との間をさらに機械的に補剛する。スラスト軸受76は、スラスト調節リング300、平板状の環状レース302、ころ軸受及び保持器304、環状レース306及び向き合ったスラストカバー308の5つの部材を有している。スラスト軸受76は、一連の止めねじ78で調節されて、高い曲げ強さを与える。トランスジューサ(好ましくはハインデンハイン(Heindenhain)からミニロッド(Mini Rod)(部品番号450M-03600)の名前で入手できるようなエンコーダ80)は、移動ケーシング内に取り付けるために汎用取り付けプレート82に取り付けられる。トランスジューサ80の製造変更及びそれに伴った取り付けねじ形状の変更に取り付けプレート82の変更によって対応できるようにするため、汎用取り付けプレート82は部品調達で考えられる問題に対処するために重要である。取り付けプレート82は、図29Aには角に丸味を付けた三角形のプレートとして示されている。図29Aはまた、ねじ付き部材88及び90と、ピン86と、カプラー84とを示している(これら全てについて後述する)。
【0034】エンコーダ80を用いた高精度回転測定では、エンコーダに負荷がまったく加わらないようにし、また移動ケーシングの軸線とエンコーダの軸線とにわずかな位置ずれがあっても、移動ケーシングの移動がエンコーダに正確に伝達されることが必要である。角度伝達誤差は、発行されているエンコーダの文献から当該分野の専門家には公知である。エンコーダ80には、レンブラント(Renbrandt)から部品番号B1004R51Rで入手できるカプラー84が連通している。エンコーダ80を移動ケーシング64に最終的に連結するために延長軸86が用いられている。軸86は、カプラー84と、キャリヤ62のねじ74側の端部との両方に止めねじ88、90で取り付けられている(図7を参照)。本発明の重要な特徴によれば、電子前置増幅器ボード92がエンコーダ80に近接して配置されており、(ねじ94で)キャップカバー96の内側に取り付けられている。キャップカバー96はねじ97によってケーシング64に取り付けられている。つなぎハウジング98が、キャップカバー96をねじ97で及びねじ100でケーシング64に連結している。ジョイントにOリング溝102設けて、それに標準的なゴムOリング104を取り付けることによって、移動ハウジングが環境から密封されている。回転端部ストップ106(後述する)が図29Bにわかりやすく示されており、これは、開口を貫設した正方形の金属ハウジングを設けており、ハウジングの開口にねじ込まれたボルト108によってケーシング64に取り付けられている。長期使用による磨耗を防止するために、キャリヤ62及びケーシング64の両方に取り付けられたグロメット110及び112をワイヤが通っている。2つの隣接した移動ケーシングの相対方位を維持するため、位置決めピン114がキャリヤ62内の対応形状のリセス116にはめ込まれている。
【0035】図7に示すように、環境上または他の理由から、すべてのワイヤを見えないように完全に隠蔽し、従ってアーム12内部に収容することが重要である。図7は互いに直角に取り付けられた2つの組み付け移動ハウジング46、48を示し、ワイヤの通路を説明している。CMM10の使用中に、エンコーダ80からのエンコーダ情報がワイヤ118を通ってプロセッサボード92へ送られ、そこで増幅されて、機械加工された通路120によってアーム内を通ることが理解されるであろう。ワイヤ118は次に移動ハウジング46の内部キャリヤ62の軸122の内部のチャネル120を通り、さらにグロメット孔124を通ることによって、移動ハウジング46の外部ケーシング64に機械加工された大きいキャビティ126に入る。キャビティ126は、移動ハウジングの回転時にワイヤをコイル状に巻くことができるようにし、ワイヤの磨耗やわずかなワイヤの曲げも生じない形状になっている。しかし、ワイヤは全回転範囲全体を限定するため、不完全な球形の溝128が形成されて、その内部に端部ストップねじ130が配置されており、これが全回転を、この場合は330゜に制限する。わかりやすくするために、第1の好適な実施例を完全に説明した後で、660゜回転できるようにする第2の好適な変更形端部ストップ構造を説明する。通過チャネル120及びワイヤコイル巻きキャビティ126は、各移動ハウジングに同様に設けられており、ワイヤはベース14に取り付けられたコネクタまで順次進むことができるため、配線の露出がまったくないことが理解されるであろう。」

<記載事項5>
「【0039】わかりやすくするため、CMM10の第1の好適な実施例の残りの部材を完全に説明した後、さらに6個の好適な変更形プローブ構造を説明する。図11及び12を参照しながら、コントローラまたはシリアルボックス16を説明する。図11は、コントローラまたはシリアルボックス16の前パネル面162を示している。前パネル162には、電源インジケータライト164、エラー状態ライト166及び各移動ハウジング内に配置された6個のトランスジューサの各々(1?6)に1つずつ対応した6個のライト20を含む8個のライトを備えている。起動時に電源ライト164がアーム12への送電を示す。その時、6個のトランスジューサライト全てが、6個のトランスジューサの各々の状態を表示する。本発明の好適な実施例では、トランスジューサは増分デジタル光学エンコーダ80であって、基準化を必要とする。(好適さが低下するが、トランスジューサをアナログ装置にすることもできる。)このため、始動時に、6個のジョイント(例えば移動ハウジング)の各々は、基準位置を求めて回転する必要があり、この時には6個のライトが消える。」

<記載事項6>
「【0058】次に図22を参照しながら、支柱及びその使い方を詳細に説明する。測定アーム10のベース14は、セオドライトスタンド22のベースプレート38または他の適当な剛性プレート内に公知のようにして取り付けられている。ベースプレート38には、互いに向き合った少なくとも2カ所に適当な既知寸法のねじ孔400が外向きに設けられている。支柱402は、ほぼ4つの部材で構成されている。すなわち、2つのアーム部材404と、調節ねじ406と、図示のユニバーサルクランプ408(すなわちCクランプ)である。もちろん、図示のCクランプの代わりに、磁気クランプ、吸引クランプ等の多くの適当な取り付け装置を用いることができる。図22に示されているように、三次元測定アーム10によって測定すべき物体410が第2取り付けプレート412上に取り付けられるか、他の方法で固定される。このため、両方のベースプレート38及び412は互いに対して固定保持され、不安定性が最小限に抑えられる。」

<記載事項7>
「【0059】三次元座標測定器即ちCMMの本発明による3つの基本的なアーム構造が、広範囲な要求及び状態に適合するために開発されている。これらのアーム構造の2つは6自由度を与える。第3アーム構造は7自由度を与える。これらの3つのアーム構造は、本発明の3つの好適な実施例を示している。各実施例は、異なった機能及び測定中の物体によって決定される測定状態の両方またはいずれか一方、または実行中の機能または作動に対して利点を備えている。図3及び図23A?23Cはこれらの構造の各々を示している。図3も参照されたい。図23A?23Cは、CMM10に許される自由度を概略的に示している。支持ベース14により、回転方向矢印421及び422で示される2つの自由度が与えられる。
【0060】CMM10は、支持ベース14に相当する肩等の部位からなる人体の腕構造にたとえることができる。エルボ部材444、50は、人間の腕の肘に相当し、ハンドル/プローブアセンブリ56は人間の手首に相当する。肩、肘及び手首に示された2自由度を備えた図23Aの構造(2-2-2配置)は、到達し難い部分の探索を容易にすることができる。反対に、肩に2自由度、肘に1自由度、手首に3自由度を備えた図23Bの構造には次のような利点がある。端部作動器(手首)に3自由度を設けている(2-1-3配置)構造によって、物体の完全な方向決め及び位置決め、すなわち非軸方向プローブが可能になる。以上に述べた2つの構造(図23A及び23B)の各々には上記の非常に特殊な利点がある。第3の好適なアーム構造(図23C)は、上記2つのアーム構造を組み合わせた利点を備え、7自由度を与える(2-2-3配置)。この第3の好適なアーム構造は、2-2-2構造の到達範囲及び位置決めと、2-1-3構造の端部作動器の完全な方向決め能力とを組み合わせた利点を与える。
【0061】前述したように、3つの構造すべてが肩(支持ベース14)に2自由度を備えている。図23Aでは、肘の2自由度が回転方向矢印424、426で示されており、最後の手首(作動部材)アセンブリ56の2自由度は、回転方向矢印428、430で示されている。図23Bでは、肘部分の1自由度が回転方向矢印434、436及び438で示されている。最後になるが、図23Cでは、肘部分の2自由度が回転方向矢印444、446及び448で示されている。」

(2)引用刊行物に記載された発明
(2-1)
上記記載事項1には、「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、三次元座標測定器(CMM:coordinate measuring machine)に関するものである。本発明は特に、可搬式で、精度及び使いやすさが向上した新しい改良型三次元CMMに関するものである。」と記載され、また、上記記載事項3には、「【0012】具体的には、請求項1に記載の発明は、『第1及び第2の対向端部を備え、また複数のジョイントを設け、該各ジョイントが1自由度(a degree of freedom)に対応することによって選択体積(selected volume) 内を移動できるようになっており、前記ジョイントの各々が位置信号を発生する位置トランスジューサ手段を収納するための回転移動ハウジングを有するようにした可動アームと、可動アームの前記第1端部に取り付けられた支持ベースと、可動アームの前記第2端部に取り付けられたプローブと、前記トランスジューサから前記位置信号を受け取って、選択体積内での前記プローブの位置及び方位に対応したデジタル座標を発生する電子回路手段とを有する三次元座標測定装置。』である。」と記載され、また、上記記載事項6には、「【0058】・・・図22に示されているように、三次元測定アーム10によって測定すべき物体410が第2取り付けプレート412上に取り付けられるか、他の方法で固定される。」と記載されている。(下線は、摘記箇所を強調するために、当審において付した。)

これらの記載によれば、引用刊行物には、「選択体積内の測定すべき物体の位置を測定するための可搬式三次元座標測定装置」の発明が記載されている。

(2-2)
上記記載事項3には、「【0012】具体的には、請求項1に記載の発明は、『第1及び第2の対向端部を備え、また複数のジョイントを設け、該各ジョイントが1自由度(a degree of freedom)に対応することによって選択体積(selected volume) 内を移動できるようになっており、前記ジョイントの各々が位置信号を発生する位置トランスジューサ手段を収納するための回転移動ハウジングを有するようにした可動アームと、可動アームの前記第1端部に取り付けられた支持ベースと、可動アームの前記第2端部に取り付けられたプローブと、前記トランスジューサから前記位置信号を受け取って、選択体積内での前記プローブの位置及び方位に対応したデジタル座標を発生する電子回路手段とを有する三次元座標測定装置。』である。」と記載され、また、上記記載事項4には、「【0027】【発明の実施の形態】まず図1を参照しながら本発明の好適実施例について説明すると、本発明の三次元測定装置は、手動操作式多重ジョイント式アーム12及び支持ベースまたはポスト14で構成された座標測定器(CMM)10と、コントローラまたはシリアルボックス16と、ホストコンピュータ18とを有している。・・・【0030】次に、図1及び図4?図9を参照しながら、CMM10を詳細に説明する。図5に詳細に示すように、CMM10に設けられたベース14は、第1移動ハウジング40を(ハウジング40に対して直角方向に配置された)第2移動ハウジング42に連結してなる第1組の2つの移動ハウジングに連結されている。第1延長部材44が、第3移動ハウジング46を第4移動ハウジング48に直角方向に取り付けてなる第2組の2つの移動ハウジングに固定されている。第1延長部材44は、移動ハウジング42及び46間に垂直に配置されている。第2延長部材50が、移動ハウジング48に対して整合してそれに固定されている。剛性の延長部材50は、第5移動ハウジング52を第6移動ハウジング54に直角方向に取り付けてなる第3組の2つの移動ハウジングに固定されている。第6移動ハウジング54にハンドル/プローブアセンブリ56が取り付けられている。・・・【0033】移動ケーシング48の組み立て中に、ナット73をねじ74に特定トルクまで締め付けることによって圧縮力を加えて、プレストレスを加えた軸受状態にすることによって、一般的に加えられる負荷状態では軸方向回転以外に移動しないようにする。」と記載されている。

これらの記載によれば、引用刊行物に記載された「可搬式三次元座標測定装置」は、「第1及び第2の対向端部を備えた手動操作式多重ジョイント式アーム12であって、当該多重ジョイント式アーム12が、それぞれが1個の回転自由度に対応して移動できる回転移動ハウジングである第1ないし第6移動ハウジング40、42、46、48、52、54を含み、6つの回転軸方向を中心として回転する6自由度を実現した多重ジョイント式アーム12」と、「前記多重ジョイント式アーム12の第2の対向端部に取り付けられているハンドル/プローブアセンブリ56」とを有するものである。

(2-3)
上記記載事項3には、「【0012】具体的には、請求項1に記載の発明は、『第1及び第2の対向端部を備え、また複数のジョイントを設け、該各ジョイントが1自由度(a degree of freedom)に対応することによって選択体積(selected volume) 内を移動できるようになっており、前記ジョイントの各々が位置信号を発生する位置トランスジューサ手段を収納するための回転移動ハウジングを有するようにした可動アームと、可動アームの前記第1端部に取り付けられた支持ベースと、可動アームの前記第2端部に取り付けられたプローブと、前記トランスジューサから前記位置信号を受け取って、選択体積内での前記プローブの位置及び方位に対応したデジタル座標を発生する電子回路手段とを有する三次元座標測定装置。』である。」と記載され、また、上記記載事項4には、「【0028】以下にさらに詳細に説明と、CMM10は、回転位置データを収集してこの基本データをシリアルボックス16へ送るトランスジューサ(例えば各自由度に対して1つのトランスジューサ)を備えている。シリアルボックス16は、一定の複雑な計算を処理するためのホストコンピュータ18の要件全体を減少させるためのもので、一定の事前データ処理を行う。図2に示されているように、シリアルボックス16はホストコンピュータ18(例えば図2に示されているノート型コンピュータ)の下に配置されるもので、データ処理ソフトウェア、マイクロコンピュータプロセッサ、信号処理ボード及び多数のインジケータライト20を含むEEPROMSを備えている。前述したように、基本トランスジューサデータはCMM10からシリアルボックス16へ送られる。次に、シリアルボックス16は進行中に生トランスジューサデータを処理して、ホストコンピュータの照会に対して所望の三次元位置または方位情報で応答する。・・・【0031】一般的に(また以下にさらに詳細に述べるように)、6個の移動ハウジング40、42、46、48、52及び54の各々の内部に位置感知トランスジューサが取り付けられている。各ハウジングは、軸受支持部と、45゜傾斜取り付けねじ(図6)を用いて互いに円筒状に取り付けられるように形成されたトランスジューサ室とで構成されている。」と記載されている。

これらの記載によれば、引用刊行物に記載された「可搬式三次元座標測定装置」は、「前記第1ないし第6移動ハウジング40、42、46、48、52、54の各々に取り付けられたトランスジューサ」と「前記トランスジューサからの位置信号を受け取って、選択体積内での前記ハンドル/プローブアセンブリ56の位置及び方位に対応したデジタル座標を発生するシリアルボックス16」とを有するものである。

(2-4)
上記記載事項4には、「【0032】・・・各ハウジングは、内部キャリヤ62と外部ケーシング64とを備えている。内部キャリヤ62と外部ケーシング64との間の機械的安定性は、それぞれの円錐形レース70、72に押し付けられるように配置された2つの対向配置された(例えば向き合わせて設けられた)円錐形玉軸受66、68によって与えられる。円錐形レース70及び72は、外部移動ケーシング64内に永久的に固定されている。キャリヤから軸122が延出しており、それの終端部にねじ74が付けられている。円錐形軸受66、68は焼き入れ鋼で製造するのが好ましく、レース70、72も焼き入れ鋼で製造される。わかりやすくするために、好適な第1実施例を十分に説明した後で好適な第2実施例の軸受構造を説明する。【0033】移動ケーシング48の組み立て中に、ナット73をねじ74に特定トルクまで締め付けることによって圧縮力を加えて、プレストレスを加えた軸受状態にすることによって、一般的に加えられる負荷状態では軸方向回転以外に移動しないようにする。手動処理ではそのようなアームの縦断面を低くする必要があり、それに伴って全体の剛性が低下するため、キャリヤ62とケーシング64との間の接合面にスラスト軸受76も設けることが好ましく、また実際に一部の用例では必要である。スラスト軸受76は、移動ハウジングのキャリヤ62とケーシング64との間をさらに機械的に補剛する。スラスト軸受76は、スラスト調節リング300、平板状の環状レース302、ころ軸受及び保持器304、環状レース306及び向き合ったスラストカバー308の5つの部材を有している。スラスト軸受76は、一連の止めねじ78で調節されて、高い曲げ強さを与える。トランスジューサ(好ましくはハインデンハイン(Heindenhain)からミニロッド(Mini Rod)(部品番号450M-03600)の名前で入手できるようなエンコーダ80)は、移動ケーシング内に取り付けるために汎用取り付けプレート82に取り付けられる。・・・【0034】エンコーダ80を用いた高精度回転測定では、エンコーダに負荷がまったく加わらないようにし、また移動ケーシングの軸線とエンコーダの軸線とにわずかな位置ずれがあっても、移動ケーシングの移動がエンコーダに正確に伝達されることが必要である。角度伝達誤差は、発行されているエンコーダの文献から当該分野の専門家には公知である。エンコーダ80には、レンブラント(Renbrandt)から部品番号B1004R51Rで入手できるカプラー84が連通している。エンコーダ80を移動ケーシング64に最終的に連結するために延長軸86が用いられている。軸86は、カプラー84と、キャリヤ62のねじ74側の端部との両方に止めねじ88、90で取り付けられている(図7を参照)。本発明の重要な特徴によれば、電子前置増幅器ボード92がエンコーダ80に近接して配置されており、(ねじ94で)キャップカバー96の内側に取り付けられている。キャップカバー96はねじ97によってケーシング64に取り付けられている。つなぎハウジング98が、キャップカバー96をねじ97で及びねじ100でケーシング64に連結している。ジョイントにOリング溝102設けて、それに標準的なゴムOリング104を取り付けることによって、移動ハウジングが環境から密封されている。」と記載され、また、上記記載事項5には、「【0039】・・・本発明の好適な実施例では、トランスジューサは増分デジタル光学エンコーダ80であって、基準化を必要とする。」と記載されている。

これらの記載によれば、引用刊行物に記載された「可搬式三次元座標測定装置」が有する「第1ないし第6移動ハウジング40、42、46、48、52、54」は、「内部キャリア62」と、「連結された外部ケーシング64とつなぎハウジング98とキャップカバー96」と、「前記内部キャリア62から延出して、その終端部にねじ74が付けられ、前記外部ケーシング64等内に入り、軸方向回転移動を可能とする軸122」と、「前記軸122の前記ねじ74にナット73を締め付けることにより圧縮力が加えられ、前記内部キャリア62と前記外部ケーシング64等の機械的安定性を与え、両者の軸方向回転移動を可能とする円錐形玉軸受66、68」と、「前記外部ケーシング64等に連結され、高精密回転測定器に用いられ、基準化を必要とする増分デジタル光学エンコーダ80」とを有している。

(2-5)
よって、上記(2-1)?(2-4)によれば、引用刊行物には、以下の発明が記載されているものと認める。
「選択体積内の測定すべき物体の位置を測定するための可搬式三次元座標測定装置であって、
第1及び第2の対向端部を備えた手動操作式多重ジョイント式アーム12であって、当該多重ジョイント式アーム12が、それぞれが1個の回転自由度に対応して移動できる回転移動ハウジングである第1ないし第6移動ハウジング40、42、46、48、52、54を含み、6つの回転軸方向を中心として回転する6自由度を実現した多重ジョイント式アーム12と、
前記多重ジョイント式アーム12の第2の対向端部に取り付けられているハンドル/プローブアセンブリ56と、
前記第1ないし第6移動ハウジング40、42、46、48、52、54の各々に取り付けられたトランスジューサと、
前記トランスジューサからの位置信号を受け取って、選択体積内での前記ハンドル/プローブアセンブリ56の位置及び方位に対応したデジタル座標を発生するシリアルボックス16と、
を含み、
前記第1ないし第6移動ハウジング40、42、46、48、52、54は、
内部キャリア62と、
連結された外部ケーシング64とつなぎハウジング98とキャップカバー96(以下、「外部ケーシング64等」という。)と、
前記内部キャリア62から延出して、その終端部にねじ74が付けられ、前記外部ケーシング64等内に入り、軸方向回転移動を可能とする軸122と、
前記軸122の前記ねじ74にナット73を締め付けることにより圧縮力が加えられ、前記内部キャリア62と前記外部ケーシング64等の機械的安定性を与え、両者の軸方向回転移動を可能とする円錐形玉軸受66、68と、
前記外部ケーシング64等に連結され、高精密回転測定器に用いられ、基準化を必要とする増分デジタル光学エンコーダ80と、
を含んだ可搬式三次元座標測定装置。」(以下、「引用発明」という。)

5.対比
本願発明と引用発明とを比較する。

(1)
引用発明の「可搬式三次元座標測定装置」は、本願発明の「可搬式座標測定器(CMM)」に相当し、以下同様に、「選択体積」は「選択された体積」に、「測定すべき物体」は「物体」に相当する。

よって、引用発明の「選択体積内の測定すべき物体の位置を測定するための可搬式三次元座標測定装置」は「選択された体積内における物体の位置を測定するための可搬式座標測定器(CMM)」に相当する。

(2)
引用発明の「第2の対向端部」は、本願発明の「第1の端部」に相当し、以下同様に、「第1の対向端部」は「第2の端部」に、「手動操作式多重ジョイント式アーム12」は「手動で位置決め可能な多関節アーム」に、「回転移動ハウジングである第1ないし第6移動ハウジング40、42、46、48、52、54」は「少なくとも五つの旋回関節」に、「6つの回転軸方向を中心として回転する6自由度を実現した」は「少なくとも五つの回転軸を基準として移動するべく少なくとも五自由度を実現する」に相当する。

よって、引用発明の「第1及び第2の対向端部を備えた手動操作式多重ジョイント式アーム12であって、当該多重ジョイント式アーム12が、それぞれが1個の回転自由度に対応して移動できる回転移動ハウジングである第1ないし第6移動ハウジング40、42、46、48、52、54を含み、6つの回転軸方向を中心として回転する6自由度を実現した多重ジョイント式アーム12」は、本願発明の「対向する第一および第二の端部を備えて手動で位置決め可能な多関節アームであって、当該多関節アームが少なくとも五つの回転軸を基準として移動するべく少なくとも五自由度を実現するための少なくとも五つの旋回関節を含む多関節アーム」に相当する。

(3)
引用発明の「ハンドル/プローブアセンブリ56」は、本願発明の「測定用プローブ」に相当する。

よって、引用発明の「前記多重ジョイント式アーム12の第2の対向端部に取り付けられているハンドル/プローブアセンブリ56」は、本願発明の「前記多関節アームの第一端部に取付けられた測定用プローブ」に相当する。

(4)
引用発明の、多重ジョイント式アーム12が含む前記第1ないし第6移動ハウジング40、42、46、48、52、54の各々に取り付けられた、「トランスジューサ」は、本願発明の、アームの、「トランスデューサ」に相当する。
また、引用発明の「シリアルボックス16」は、本願発明の「電子回路」に相当する。

よって、引用発明の「前記トランスジューサからの位置信号を受け取って、選択体積内での前記ハンドル/プローブアセンブリ56の位置及び方位に対応したデジタル座標を発生するシリアルボックス16」は、本願発明の「前記アームのトランスデューサから位置信号を受信して、選択された体積内におけるプローブの位置に対応するデジタル座標を提供する電子回路」に相当する。

(5)
引用発明の「内部キャリア62」は、本願発明の「第二の筐体」に相当し、以下同様に、「連結された外部ケーシング64とつなぎハウジング98とキャップカバー96(外部ケーシング64等)」は「第一の筐体」に、「軸方向回転移動を可能とする軸122」は「回転可能シャフト」に、「円錐形玉軸受66、68」は「ベアリング」に相当する。

よって、引用発明の「前記内部キャリア62から延出して、その終端部にねじ74が付けられ、前記外部ケーシング64等内に入り、軸方向回転移動を可能とする軸122」は、本願発明の「前記第二の筐体から伸長して前記第一の筐体へ入る回転可能シャフト」に相当し、引用発明の「前記軸122の前記ねじ74にナット73を締め付けることにより圧縮力が加えられ、前記内部キャリア62と前記外部ケーシング64等の機械的安定性を与え、両者の軸方向回転移動を可能とする円錐形玉軸受66、68」は、本願発明の「前記シャフトと前記第一の筐体の間に配置されていて、前記回転可能シャフトが前記第一の筐体内で回転できるようにするベアリング」に相当する。

(6)
本願発明の「周期的パターン」と「少なくとも2個の読み取りヘッド」は、前記周期的パターンが前記回転可能シャフトに取付けられていて、前記少なくとも2個の読み取りヘッドが前記第一の筐体内に固定されていることにより前記第一の筐体が第二の筐体の回りを回転すれば前記少なくとも2個の読み取りヘッドが前記パターンに相対的に移動し、前記パターンおよび前記少なくとも2個の読み取りヘッドが、互いに対して回転可能であるように前記関節内に配置され、前記少なくとも2個の読み取りヘッドが、付加された加重が当該読み取りヘッドとパターン間の相対的位置関係に影響することに起因して生じる回転式測定におけるエラーを減少させるものである。
よって、本願発明の「周期的パターン」と「少なくとも2個の読み取りヘッド」は、一体として、旋回関節の回転軸を基準として相対的に回転可能な第1の筐体と第2の筐体との回転角度を測定するための、ロータリエンコーダとして機能するものと言える。

一方、引用発明の「増分デジタル光学エンコーダ80」も、第1ないし第6移動ハウジングの回転軸方向を中心として回転する内部キャリア62と外部ケーシング64等との回転角度を測定するためのロータリエンコーダとして機能するものである。

したがって、引用発明の、前記外部ケーシング64等に連結され、高精密回転測定器に用いられ、基準化を必要とする、「増分デジタル光学エンコーダ80」と、本願発明の、「前記パターンが前記回転可能シャフトに取付けられていて、前記少なくとも2個の読み取りヘッドが前記第一の筐体内に固定されていることにより前記第一の筐体が第二の筐体の回りを回転すれば前記少なくとも2個の読み取りヘッドが前記パターンに相対的に移動し、前記パターンおよび前記少なくとも2個の読み取りヘッドが、互いに対して回転可能であるように前記関節内に配置され、前記少なくとも2個の読み取りヘッドが、付加された加重が当該読み取りヘッドとパターン間の相対的位置関係に影響することに起因して生じる回転式測定におけるエラーを減少させる」ものである、「周期的パターン」と「少なくとも2個の読み取りヘッド」とは共に、「旋回関節の回転軸を基準として相対的に回転可能な第1の筐体と第2の筐体との回転角度を測定するための、ロータリエンコーダとして機能する構成要素」である点で共通する。

(7)
したがって、本願発明と引用発明の両者は、
「選択された体積内における物体の位置を測定するための可搬式座標測定器(CMM)であって、
対向する第一および第二の端部を備えて手動で位置決め可能な多関節アームであって、当該多関節アームが少なくとも五つの回転軸を基準として移動するべく少なくとも五自由度を実現するための少なくとも五つの旋回関節を含む多関節アームと、
前記多関節アームの第一端部に取付けられた測定用プローブと、
前記アームのトランスデューサから位置信号を受信して、選択された体積内におけるプローブの位置に対応するデジタル座標を提供する電子回路と、
を含み、
前記旋回関節の少なくとも1個が更に、
第一の筐体と、
第二の筐体と、
前記第二の筐体から伸長して前記第一の筐体へ入る回転可能シャフトと、
前記シャフトと前記第一の筐体の間に配置されていて、前記回転可能シャフトが前記第一の筐体内で回転できるようにするベアリングと、
前記旋回関節の前記回転軸を基準として相対的に回転可能な前記第1の筐体と前記第2の筐体との回転角度を測定するための、ロータリエンコーダとして機能する構成要素と、
を含むCMM。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点
「前記旋回関節の前記回転軸を基準として相対的に回転可能な前記第1の筐体と前記第2の筐体との回転角度を測定するための、ロータリエンコーダとして機能する構成要素」に関して、本願発明では「測定可能な特徴の周期的なパターンと、前記パターンから間隔を置かれ、かつ導通している少なくとも2個の読み取りヘッド」であって、「前記パターンが前記回転可能シャフトに取付けられていて、前記少なくとも2個の読み取りヘッドが前記第一の筐体内に固定されていることにより前記第一の筐体が第二の筐体の回りを回転すれば前記少なくとも2個の読み取りヘッドが前記パターンに相対的に移動し、前記パターンおよび前記少なくとも2個の読み取りヘッドが、互いに対して回転可能であるように前記関節内に配置され、前記少なくとも2個の読み取りヘッドが、付加された加重が当該読み取りヘッドとパターン間の相対的位置関係に影響することに起因して生じる回転式測定におけるエラーを減少させる」ものであるのに対し、
引用発明では「高精密回転測定器に用いられ、基準化を必要とする増分デジタル光学エンコーダ80」にとどまり、該増分デジタル光学エンコーダ80を構成する周期的パターン及び光学読取部と、「軸122」及び「外部ケーシング64等」との関係、及び、光学読取部の個数が明らかでない点。

6.判断
上記相違点について検討する。

「三次元座標測定装置」の技術分野において、所定の軸方向に対して、相互に回転可能な1組の構成部材において、軸を有する一方の構成部材に、測定可能な周期的パターンを設け、他方の構成部材に、前記周期的パターンを読み取って所定の信号を出力する読取部を設けて、構成部材間の相対的角度を測定することは、例えば、
・当審拒絶理由通知で指摘した特公平3-13521号公報(以下、「周知例1」という。)の、特に、第9欄第20行?第29行、第3図に、相対的に回転するZ軸構造物8と、Zスピンドル9を備えた三次元測定器において、前記Zスピンドル9の連結軸61にロータリディスク75を取り付け、前記Z軸構造物8の内面に検出器76を取り付け、ロータリエンコーダ77を構成することが記載されているように、
・また、同じく特開平8-105738号公報(以下、「周知例2」という。)の、特に、段落【0020】?【0022】、【0025】、図1、図2に、支持体4に第1の旋回軸6が取り付けられ、前記第1の旋回軸6に第1のヒンジアーム5が旋回可能に支承され、前記第1のヒンジアーム5に第2の旋回軸8が取り付けられ、前記第2の旋回軸8に第2のヒンジアーム7が旋回可能に支承された座標測定器において、前記第1の旋回軸6の上に部分円16を設け、前記第2の旋回軸8の上に部分円18を設け、前記支持体4の第1の旋回軸6の両側の部分及び前記第1のヒンジアーム5の第2の旋回軸8の両側の部分にそれぞれ、2つの読み出しヘッド26a/26b,28a/28bを設け、旋回運動を検出することが記載されているように、
周知技術(以下、「周知技術1」という。)である。

また、同じく「三次元座標測定装置」の技術分野において、所定の軸を中心に相互に回転可能な1組の構成部材において、構成部材間の軸のセンタリング誤差を回避するために、軸を中心として回転する周期的パターンと、前記周期的パターンを光学的に読み取る光学読取部を軸の両側に2つ設け、2つの光学読取部の角度測定値を平均して、1組の構成部材間の相対的角度を算出することは、
・周知例2の、特に、段落【0020】?【0022】、【0025】、図2に、支持体4に第1の旋回軸6が取り付けられ、前記第1の旋回軸6に第1のヒンジアーム5が旋回可能に支承され、前記第1のヒンジアーム5に第2の旋回軸8が取り付けられ、前記第2の旋回軸8に第2のヒンジアーム7が旋回可能に支承された座標測定器において、前記第1の旋回軸6の上に部分円16を設け、前記第2の旋回軸8の上に部分円18を設け、前記支持体4の第1の旋回軸6の両側の部分及び前記第1のヒンジアーム5の第2の旋回軸8の両側の部分にそれぞれ、2つの読み出しヘッド26a/26b,28a/28bを設け、読み出しヘッド26a/26bの角度測定値の平均値、及び、読み出しヘッド28a/28bの角度測定値の平均値を形成して、それぞれ、前記支持体4と前記第1のヒンジアーム5との相対的角度、及び、前記第1のヒンジアーム5と前記第2のヒンジアーム7との相対的角度とすることが記載されているように、
周知技術(以下、「周知技術2」という。)である。

そして、引用刊行物の上記記載事項4には、「【0033】・・・手動処理ではそのようなアームの縦断面を低くする必要があり、それに伴って全体の剛性が低下するため、キャリヤ62とケーシング64との間の接合面にスラスト軸受76も設けることが好ましく、また実際に一部の用例では必要である。スラスト軸受76は、移動ハウジングのキャリヤ62とケーシング64との間をさらに機械的に補剛する。スラスト軸受76は、スラスト調節リング300、平板状の環状レース302、ころ軸受及び保持器304、環状レース306及び向き合ったスラストカバー308の5つの部材を有している。スラスト軸受76は、一連の止めねじ78で調節されて、高い曲げ強さを与える。トランスジューサ(好ましくはハインデンハイン(Heindenhain)からミニロッド(Mini Rod)(部品番号450M-03600)の名前で入手できるようなエンコーダ80)は、移動ケーシング内に取り付けるために汎用取り付けプレート82に取り付けられる。・・・【0034】エンコーダ80を用いた高精度回転測定では、エンコーダに負荷がまったく加わらないようにし、また移動ケーシングの軸線とエンコーダの軸線とにわずかな位置ずれがあっても、移動ケーシングの移動がエンコーダに正確に伝達されることが必要である。角度伝達誤差は、発行されているエンコーダの文献から当該分野の専門家には公知である。エンコーダ80には、レンブラント(Renbrandt)から部品番号B1004R51Rで入手できるカプラー84が連通している。エンコーダ80を移動ケーシング64に最終的に連結するために延長軸86が用いられている。軸86は、カプラー84と、キャリヤ62のねじ74側の端部との両方に止めねじ88、90で取り付けられている(図7を参照)。」と記載されている。
ここで、引用刊行物には明示の記載はないが、増分デジタル光学エンコーダ80内には、周期的パターンと光学読取部があるものであって、増分デジタル光学エンコーダ80自体は、外部ケーシング64等に連結されており、内部キャリア62からの軸122の回転移動が軸86を介して伝達されるものであるから、増分デジタル光学エンコーダ80内の周期的パターンと光学読取部のいずれか一方は、外部ケーシング64等に連結されているものであり、いずれか他方が、内部キャリア62の軸122に連動して回転移動するものである。
よって、上記記載における「移動ケーシングの軸線とエンコーダの軸線」との「位置ずれ」は、「増分デジタル光学エンコーダ80」内の周期的パターンの軸線と光学読取部の軸線との位置ずれに対応する「位置ずれ」であると言える。
したがって、上記記載からは、増分デジタル光学エンコーダ80内の周期的パターンの軸線と光学読取部の軸線との位置ずれが生じるので、測定時に該エンコーダ80に対する負荷が加わることは問題となるので、該エンコーダ80には負荷が加わらないことが望ましいこと、及び、手動処理による移動ハウジングの回転において、曲げに対する剛性を高めることが必要であることが読み取れる。

よって、引用発明において、軸122を備えた内部キャリア62と、外部ケーシング64等とは、軸122の軸方向に相互に手動操作により回転可能な構成であって、増分デジタル光学エンコーダ80を構成する周期的パターンと光学読取部とによって、内部キャリア62と、外部ケーシング64等との相対的角度を測定しているところ、周知技術1を勘案して、内部キャリア62(本願発明の「第2の筐体」に相当する。以下同様。)の軸122(回転可能シャフト)に周期的パターン(周期的パターン)を設け、外部ケーシング64等(第1の筐体)に光学読取部(読み取りヘッド)を設ける構成を選択することは、当業者が適宜になし得たことである。そして、引用発明において、上記したように、周期的パターンと光学読取部のいずれか一方が外部ケーシング64等に連結され、いずれか他方が内部キャリア62の軸122に連動して回転移動するものであるから、測定時の負荷が周期的パターンの軸線と光学読取部の軸線に与える影響を軽減することは可能であっても、その構造上、全く影響を与えないようにすることは不可能なものであるから、かかる測定時の負荷(付加された加重)に対応するために、曲げに対する剛性を高めるなどの対処に代えて(あるいは加えて)、周知技術2を適用して、周期的パターン(周期的パターン)の軸線と光学読取部(読み取りヘッド)の軸線とがずれた場合であっても、正確な角度測定が行えるように、光学読取部(読み取りヘッド)を2つ設けて、2つの光学読取部(少なくとも2個の読み取りヘッド)の角度測定値を平均して、最終的な角度測定値とすることにより、上記軸線のずれによる誤差を回避する(付加された加重が当該読み取りヘッドとパターン間の相対的位置関係に影響することに起因して生じる回転式測定におけるエラーを減少させる)ことは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項は、当業者が引用発明並びに周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に想到し得たことである。

そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明並びに周知技術1及び周知技術2から想定することができない格別のものと認めることもできない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

7.請求人の主張について
請求人は、平成24年2月28日付けの意見書において、周知例2には、部分円および読み出しヘッドがいかなる部材に取り付けられているか不明であり、周知技術1を例示する文献として適切でない旨(以下、「主張1」という。)及び、周知例2の「センタリング誤差を回避するため」との記載のみでは、付加された加重が当該読み取りヘッドとパターン間の相対的位置関係に影響することに起因して生じる回転式測定におけるエラーを減少させるために、少なくとも2個の読み取りヘッドを設ける構成に至らない旨(以下、「主張2」という。)、主張しているので、これらの点について、以下、検討する。

(1)主張1について
周知例2には、部分円と読み出しヘッドに関して、以下のとおりの記載がある。

「【0020】
【実施例】図1に示されている座標測定機は、垂直のZ方向案内体として構成されている支柱1を有する。この支柱には支持体4が駆動装置2を用いて可動に支承されている。垂直方向のZ位置は物差3を用いて光電的に読み取れる。
【0021】支持体4に旋回軸6が取り付けられており、この旋回軸を中心として第1のヒンジアーム5が平面(x,y)において旋回できる。旋回角度を、同じく光電的に読み取られる、軸6の上の部分円16が示す。
【0022】第1のヒンジアーム5に垂直軸6に平行な第2の軸8が取り付けられている。この軸に第2のヒンジアーム7が同じく旋回可能に支承されている。この第2の旋回軸8の旋回運動を検出する目的で部分円18が、図示されていない光電走査装置と共働して用いられる。」

「【0025】
・・・マイクロプロセッサ41は座標測定装置の測定値も、即ちZ変位を測定する測定物差/発信器装置3の測定値と両方の角度発信器16,18の測定値も供給される。後者はそれぞれ旋回軸の両側に設けられた2つの読み出しヘッド26a/26b,28a/28bによるセンタリング誤差を回避するために読み出される。角度測定信号φとψの対は、インクリメント式角度測定装置のサイン/コサイン信号は、補間器回路66,68において80回補間されて多重計数器ユニット69,70において計数される。補間器65,66,67,68と計数器69,70は機能ユニット“変位測定”44としてまとめられている。2つの加算回路45,46は発信器対26a/b,28a/bの角度測定値の平均値を形成する。これにより得られた実際のディジタル形式の角度測定値φとψならびに測定値Zは、マイクロプロセッサ41の3つのディジタル入力側へ導びかれる。」

すなわち、周知例2に記載された座標測定装置において、支持体4は支柱1に取り付けられており、該支持体4に第1の旋回軸6が回転可能に取り付けられているものである。そして、該第1の旋回軸6に第1のヒンジアーム5が一体的に移動するように取り付けられており、かかる構成によって、支持体4と第1のヒンジアーム5とが、第1の旋回軸6を中心として相対的に回転角度を変更可能な構成となっている。そして、上記記載には、相対的な回転角度である旋回角度を読み取ることを目的として、第1の旋回軸6の上に部分円16が設けられていることが記載されているのであるから、部分円16は、文字どおり第1の旋回軸6に対して設けられており、かつ、第1の旋回軸6と一体的に移動するものと認められる。そして、かかる部分円16から旋回角度を読み取るためには、読み取りヘッド26a/26bは、一体的に移動する第1の旋回軸6、第1のヒンジアーム5及び部分円16に対して、相対的に移動する構成要素である支持体4に対して設けられ、かつ、第1の旋回軸6の両側に位置するものであることは明らかである。
同様に、部分円18が第2の旋回軸8に対して設けられ、かつ、第2の旋回軸8と一体的に移動するものであり、読み取りヘッド28a/28bが、一体的に移動する第2の旋回軸8、第2のヒンジアーム7及び部分円18に対して、相対的に移動する構成要素である第1のヒンジアーム5に対して設けられ、かつ、第2の旋回軸8の両側に位置するものであることは明らかである。

よって、周知例2についての認定は妥当であり、周知技術1を例示する文献として、周知例2は適切なものである。

(2)主張2について
周知例2には、以下のとおりの記載がある。

「【0023】第2のヒンジアーム7は同時に走査器10のための支持体を構成する。走査器は両方のリンク(関着)的な脚9a,9bを有するばね平行四辺形を介して支持体4に支承されている。ばね平行四辺形9a,9bを介して走査器10は垂直方向に運動可能である。平行四辺形の変位Wは測定装置23を介して検出され、さらに増幅器15を介してモータ2へ通報される。モータは平行四辺形のより大きい変位を支持体4の追従走行により補償する。
【0024】走査ぴん11は走査器10において弾性のカルダン継手14を介して平面(X,Y)において変位可能である。変位の値は、2つの互いに垂直に配置されている測定装置13a,13bを介して検出される。そのためXY平面における走査球12の位置は角度測定装置16,18の測定値φ,ψから、両方のヒンジアーム5と7の長さR1,R2を用いて、次の式により求められる。この式は図1を用いて簡単に導出できる:
X=R1cosφ+R2cos(φ+ψ)
Y=R1sinφ+R2sin(φ+ψ)
ただしR2とψはさらに走査ぴん11の変位U,V,Wに依存する。」

「【0036】所定の高さにおいて孔または軸31を走査すべき時は、前もってばね平行四辺形9a,9bの変位をクランプ装置22を介して阻止して、Zスライダ4のサーボ制御を遮断する。次に垂直方向に操作力も加えられると、この操作力は曲げビーム21の曲げを生ぜしめる。この曲げは測定装置23により検出される。この曲げビーム20の弾性特性を介して、走査器10の支持体7へ作用する垂直のZ方向の力も測定される。このようにして、加工物における走査球12の接触から生ずる全部の力またはトルクもわかるため、走査ピン11の曲げまたはヒンジアーム4?9の変形の補正のために使用できる。・・・」

すなわち、周知例2に記載された座標測定装置において、支持体4に対して、第1のヒンジアーム5と第2のヒンジアーム7を介して接続された走査球12のXY平面の位置は、角度測定装置16,18の測定値φ,ψから、両方のヒンジアーム5と7の長さR1,R2(R2とψはさらに走査ぴん11の変位U,V,Wに依存する。)を用いて、
X=R1cosφ+R2cos(φ+ψ)
Y=R1sinφ+R2sin(φ+ψ)
により求められるものである。そして、かかる数式が成立するためには、第1の旋回軸6における支持体4と第1のヒンジアーム5の2つの構成要素の接続、及び、第2の旋回軸8における第1のヒンジアーム5と第2のヒンジアーム7の2つの構成要素の接続は、各構成要素の軸同士が一致していること、及び、かかる軸がXY平面に対して垂直であることが必要であるから、周知例2において、第1の旋回軸6及び第2の旋回軸8における各構成要素間の接続は、操作が行われていない静止状態において、各構成要素の軸同士が一致しているものと認められる。また、第2のヒンジアーム7は、ばね平行四辺形9a,9bを介して走査器10を垂直方向に運動可能に支承するものであるから、操作時において、XY平面に対して垂直な方向であるZ方向に操作力が加わることを前提としたものである。
したがって、周知例2における「センタリング誤差」は、上記した構成要素の軸線同士のずれに起因する角度測定値における誤差を意味するものであるところ、かかる構成要素の軸線同士のずれを生ぜしめる要因としては、請求人の主張するように、静止状態においても存在する、構成要素の取り付け誤差だけであると解するよりは、むしろ、操作力が加わって回転移動を行う動作中に生じる誤差も含むものと解するのが、自然である。

事実、「軸受に設けられたロータリエンコーダ」の技術分野において、偏心誤差(周知例2における「センタリング誤差」と、同義の用語である。)が生じる要因として、外力があること、かかる偏心誤差を補正するために、エンコーダディスクの回転軸に対して対称に複数の読み取りヘッドを設けることは、例えば、特開昭64-49915号公報の、第2ページ左下欄第11行?第3ページ右上欄第15行に、従来の技術として記載されているように、技術常識であって、周知例2の認定は、かかる技術常識に沿ったものである。

以上のとおり、周知例2についての認定は妥当であり、周知技術2を例示する文献として、周知例2は適切なものである。

そして、上記「6.判断」で説示したように、付加された加重が当該読み取りヘッドとパターン間の相対的位置関係に影響することに起因して生じる回転式測定におけるエラーを減少させるために、少なくとも2個の読み取りヘッドを設けるとの構成は、引用発明に周知技術2を適用することにより、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、上記主張2は、採用できない。

(3)小括
上記したとおり、請求人の主張は、いずれも失当であって、採用できない。

8.むすび
したがって本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもあるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-15 
結審通知日 2012-03-27 
審決日 2012-04-09 
出願番号 特願2003-568342(P2003-568342)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴野 幹夫小林 紀史  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 山川 雅也
後藤 亮治
発明の名称 多関節アームを有する可搬式座標測定器  
代理人 石田 純  
代理人 吉田 研二  

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