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審決分類 審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  B01D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01D
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  B01D
審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  B01D
審判 全部無効 2項進歩性  B01D
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B01D
管理番号 1263182
審判番号 無効2010-800085  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-04-28 
確定日 2012-08-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4087060号「ゼオライト吸着剤を使用して気体流から炭酸ガスを除去する方法」の特許無効審判事件についてされた平成23年 1月21日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成23年(行ケ)第10175号 平成23年 9月29日)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4087060号の請求項1ないし8に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4087060号についての手続の経緯の概要は、以下の通りである。
平成10年 3月 9日 本件特許の優先権主張の基礎となる出願
平成11年 3月 4日 本件出願
平成20年 2月29日 設定登録(請求項の数:9)

平成22年 4月28日 無効審判請求(請求人:大陽日酸株式会社)
平成22年 8月19日 答弁書(被請求人)
平成22年10月26日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成22年10月26日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成22年11月 9日 口頭審理
平成22年12月14日 上申書(請求人)
平成22年12月14日 上申書(被請求人)
平成23年 1月21日 審決
平成23年 5月27日 出訴(平成23年(行ケ)第10175号)
平成23年 8月24日 訂正審判請求(訂正2011-390101号)
平成23年 9月29日 審決取消(差戻し決定)
平成23年11月 7日 訂正請求書(請求項の数:8)
平成23年12月14日 弁駁書(請求人)
平成22年12月15日 上申書(被請求人)
平成24年 2月10日 意見書(請求人)
平成24年 2月29日 上申書(被請求人)


第2 請求人の主張の概要
1 請求人は、特許第4087060号を無効にする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由は、
(1)無効理由1
本件の請求項1乃至9に係る発明は、本件特許の特許出願前に頒布された甲第1号証及び甲第2?6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法第29条第2項により特許を受けることができず、本件特許は、同法第123条第1項第2号に基づき無効とされるべきである。

(2)無効理由2
本件の請求項1乃至9は、本件特許の特許出願前に頒布された甲第5号証並びに甲第1ないし4号証、甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法第29条第2項により特許を受けることができず、本件特許は、同法第123条第1項第2号に基づき無効とされるべきである。

(3)無効理由3
本件の請求項1及び8に記載された「ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ」るという記載事項において、カリウムが必須成分なのか任意成分なのか不明確であるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきものである。とし、
証拠方法として、下記甲第1ないし7号証を提出し、口頭審理陳述要領書において下記の甲第8号証を提出した。

また、平成23年11月7日付け訂正請求に対し、さらに、弁駁書において、証拠方法として下記甲第9ないし14号証を提出した。

<証拠方法>
甲第1号証:特開平8-252419号公報
甲第2号証:Y.Nakazaki et al., Mechanizms of CO_(2) separation by microporous crystals estimated by compitational chemistry, Catalysis Today, 23 (1995) 391-396
甲第3号証:冨永博夫「ゼオライトの科学と応用」講談社サイエンティフィク、1987年発行
甲第4号証:「活性炭読本」日刊工業新聞社、昭和53年1月20日
甲第5号証:特開平5-163015号公報
甲第6号証:特開平5-68833号公報
甲第7号証:本件特許第4087060号の出願の平成17年5月25日付け提出の手続補正書写し
甲第8号証:原 伸宣編 「ゼオライト-基礎と応用」講談社、昭和50年2月1日
甲第9号証:特開昭53-8400号公報
甲第10号証:特開昭61-222919号公報
甲第11号証:特開平6-198118号公報
甲第12号証:特開平6-183725号公報
甲第13号証:特開平6-183727号公報
甲第14号証:C.G.Coe,「Molecularly Engineered Adsorbents for Air Separation.」、Gas Separation Technology,Process Technology Proceedings,8 , Proceedings of the International Symposium on Gas Separation Technology,September 10-15, 1989


第3 被請求人の主張の概要
1 これに対して、被請求人は、平成22年 8月19日付け答弁書において、本件特許の請求項1ないし9に係る発明について、下記のとおり請求人の無効理由は成り立たない旨の主張をし、証拠方法として、下記乙第1ないし3号証を提出した。

(1)無効理由1について
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、甲第1号証及び甲第2?6号証に記載された発明に基づいて容易に想到することができたものでないことは明らかである。

(2)無効理由2について
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、甲第5号証並びに甲第1?4号証及び甲第6号証に記載された発明に基づいて容易に想到することができたものでないことは明らかである。

(3)無効理由3について
本件特許の請求項1及び8に記載された「ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ」るという記載事項について、「交換率98%以上のナトリウム」とは、ナトリウムの交換率が100%の場合を含むものであり、その場合には「残り」が存在しない、つまり、カリウムで占められる容量が0%となるものであるから、何ら不明瞭な点はなく、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、との請求人の主張が失当であることは明らかである。

2 また、被請求人は、平成23年11月7日付け訂正請求において「訂正後の請求項1乃至8に記載の発明・・・は、いわゆる進歩性を有するものであり、特許法第29条第2項の規定に該当するものではなく、同法第123条第1項第2号に該当しないものである」と無効理由は成り立たない旨の主張をし、証拠方法として、下記乙第4号証を提出し、また、平成23年12月15日付け上申書において、下記乙第5ないし7号証を提出した。

<証拠方法>
乙第1号証:米国特許第6464756号公報(写し)(明細書)
乙第2号証:米国特許第2882244号公報(写し)(明細書)
乙第3号証:米国特許第4481018号公報(写し)(明細書)
乙第4号証:平成20年(行ケ)第10096号事件、平成21年1月28日判決
乙第5号証:ルッツ博士の宣言書及びその翻訳文
乙第6号証:"Zeolite molecular sieves",Donald SW.Breck,John Wiley & Wiley & Sons,1974、第745頁、表紙及び奥付き並びにその抄訳文
乙第7号証:"Principles of adsorption & adsorption processes",Douglas M.Ruthven,John Wiley & Sons,1984、第20頁、表紙及び奥付け並びにその抄訳文


第4 訂正請求について
1 訂正の内容
平成23年11月7日付け訂正請求書において、被請求人が求めた訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】 CO_(2)で汚染された気体流、好ましくは空気から炭酸ガスを除去する方法であって、浄化すべき気体流を吸着ゾーンで少なくとも1種類の吸着剤に接触させる段階から成り、前記吸着剤が本質的に、1?1.15のSi/Al比を有しており、ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ、結合剤で凝集され、吸着剤の残留不活性結合剤が20重量%以下であるNaLSX型のゼオライトから成ることを特徴とする方法。」

「【請求項1】 CO_(2)で汚染された気体流、好ましくは空気から炭酸ガスを除去する方法であって、浄化すべき気体流を吸着ゾーンで少なくとも1種類の吸着剤に接触させる段階から成り、前記吸着剤が本質的に、1?1.15のSi/Al比を有しており、ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ、結合剤で凝集され、吸着剤の残留不活性結合剤が5重量%以下であるNaLSX型のゼオライトから成り、当該結合剤がカオリン又はメタカオリンを含む
ことを特徴とする方法。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の
「【請求項2】 凝集したゼオライト組成物中の残留不活性結合剤の割合が5重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の方法。」
を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の
「【請求項3】 圧力変調による吸着(PSA)、好ましくは圧力及び温度の変調による吸着(PTSA)によって実施することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。」

「【請求項2】 圧力変調による吸着(PSA)、好ましくは圧力及び温度の変調による吸着(PTSA)によって実施することを特徴とする請求項1に記載の方法。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の
「【請求項4】 ゼオライトXのSi/Al比が1であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。」

「【請求項3】 ゼオライトXのSi/Al比が1であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の
「【請求項5】 吸着圧力が1?10バールの範囲であり、脱着圧力が0.1?2バールの範囲であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。」

「【請求項4】 吸着圧力が1?10バールの範囲であり、脱着圧力が0.1?2バールの範囲であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6の
「【請求項6】 (a)1種または複数の汚染物質を吸着によって確実に分離する吸着剤床を含む吸着ゾーンに汚染気体流を通す段階と;
(b)吸着ゾーンの入口からCO_(2)を回収するために、前記吸着ゾーンで圧力勾配を成立させ圧力を次第に降下させることによって吸着CO_(2)を脱着する段階と;
(c)吸着ゾーンの出口から清浄気体流を導入することによって前記吸着ゾーンの圧力を再び上昇させる段階を含んでなる処理サイクルを使用することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。」

「【請求項5】 (a)1種または複数の汚染物質を吸着によって確実に分離する吸着剤床を含む吸着ゾーンに汚染気体流を通す段階と;
(b)吸着ゾーンの入口からCO_(2)を回収するために、前記吸着ゾーンで圧力勾配を成立させ圧力を次第に降下させることによって吸着CO_(2)を脱着する段階と;
(c)吸着ゾーンの出口から清浄気体流を導入することによって前記吸着ゾーンの圧力を再び上昇させる段階を含んでなる処理サイクルを使用することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7の
「【請求項7】 吸着剤を100?120℃の範囲の温度で再生することを特徴とする請求項6に記載の方法。」

「【請求項6】 吸着剤を100?120℃の範囲の温度で再生することを特徴とする請求項5に記載の方法。」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8の
「【請求項8】 浄化すべき気体流を吸着ゾーンで、好ましくはアルミナを主成分とする少なくとも1種類の乾燥剤及び少なくとも1種類の吸着剤に接触させることを特徴とする、CO_(2)及びH_(2)Oで汚染された空気の浄化方法であって、前記吸着剤が、1?1.15のSi/Al比を有しており、ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ、結合剤で凝集され、残留不活性結合剤の割合が20重量%以下であることを特徴とするNaLSX型のゼオライトから本質的に成ることを特徴とする方法。」

「【請求項7】 浄化すべき気体流を吸着ゾーンで、好ましくはアルミナを主成分とする少なくとも1種類の乾燥剤及び少なくとも1種類の吸着剤に接触させることを特徴とする、CO_(2)及びH_(2)Oで汚染された空気の浄化方法であって、前記吸着剤が、1?1.15のSi/Al比を有しており、ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ、結合剤で凝集され、残留不活性結合剤の割合が5重量%以下であり、当該結合剤がカオリン又はメタカオリンを含む
ことを特徴とするNaLSX型のゼオライトから本質的に成ることを特徴とする方法。」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9の
「【請求項9】 (a)乾燥剤床と請求項1に記載の吸着剤床とを含む吸着ゾーンに汚染気体流を通す段階と;
(b)吸着ゾーンの入口からCO_(2)を回収するために、前記吸着ゾーンで圧力勾配を成立させ圧力を次第に降下させることによって吸着CO_(2)を脱着する段階と;
(c)脱着ゾーンの出口から清浄気体流を導入することによって前記吸着ゾーンの圧力を再び上昇させる段階とを含んでなる処理サイクルを使用することを特徴とする請求項8に記載の方法。」

「【請求項8】 (a)乾燥剤床と請求項1に記載の吸着剤床とを含む吸着ゾーンに汚染気体流を通す段階と;
(b)吸着ゾーンの入口からCO_(2)を回収するために、前記吸着ゾーンで圧力勾配を成立させ圧力を次第に降下させることによって吸着CO_(2)を脱着する段階と;
(c)脱着ゾーンの出口から清浄気体流を導入することによって前記吸着ゾーンの圧力を再び上昇させる段階とを含んでなる処理サイクルを使用することを特徴とする請求項7に記載の方法。」に訂正する。


2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
(1-1)吸着剤の残留不活性結合剤について「20重量%以下」から「5重量%以下」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(1-2)「当該結合剤はカオリン又はメタカオリンを含む」の記載を追加し、当該結合剤の成分を特定するためのものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、これらの訂正は本件特許明細書の【0012】、【0017】の記載内容に基づくものであるから新規事項を追加するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
請求項2の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、新規事項を追加するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3-7、9について
請求項2の削除にともない請求項3-7、9のそれぞれを、請求項2-6、8と繰り上げ、引用する請求項の番号を整合させたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、新規事項を追加するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項8について
請求項2の削除にともない、「請求項8」を「請求項7」にするものであり、上記「(1)(1-1)」及び「(1)(1-2)」と同じであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、新規事項を追加するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 むすび
したがって、上記訂正事項1ないし9は、特許法第134条の2ただし書き第1項第1号及び第3号の規定に適合し、また、同条第5項で準用する特許法第126条第3項、及び第4項の規定に適合するから、本件訂正を認める。


第5 本件特許発明
上記「第4」のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、・・・、「本件発明8」という。)は、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】 CO_(2)で汚染された気体流、好ましくは空気から炭酸ガスを除去する方法であって、浄化すべき気体流を吸着ゾーンで少なくとも1種類の吸着剤に接触させる段階から成り、前記吸着剤が本質的に、1?1.15のSi/Al比を有しており、ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ、結合剤で凝集され、吸着剤の残留不活性結合剤が5重量%以下であるNaLSX型のゼオライトから成り、当該結合剤がカオリン又はメタカオリンを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】 圧力変調による吸着(PSA)、好ましくは圧力及び温度の変調による吸着(PTSA)によって実施することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】 ゼオライトXのSi/Al比が1であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】 吸着圧力が1?10バールの範囲であり、脱着圧力が0.1?2バールの範囲であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】 (a)1種または複数の汚染物質を吸着によって確実に分離する吸着剤床を含む吸着ゾーンに汚染気体流を通す段階と;
(b)吸着ゾーンの入口からCO_(2)を回収するために、前記吸着ゾーンで圧力勾配を成立させ圧力を次第に降下させることによって吸着CO_(2)を脱着する段階と;
(c)吸着ゾーンの出口から清浄気体流を導入することによって前記吸着ゾーンの圧力を再び上昇させる段階を含んでなる処理サイクルを使用することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】 吸着剤を100?120℃の範囲の温度で再生することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】 浄化すべき気体流を吸着ゾーンで、好ましくはアルミナを主成分とする少なくとも1種類の乾燥剤及び少なくとも1種類の吸着剤に接触させることを特徴とする、CO_(2)及びH_(2)Oで汚染された空気の浄化方法であって、前記吸着剤が、1?1.15のSi/Al比を有しており、ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ、結合剤で凝集され、残留不活性結合剤の割合が5重量%以下であり、当該結合剤がカオリン又はメタカオリンを含む
ことを特徴とするNaLSX型のゼオライトから本質的に成ることを特徴とする方法。
【請求項8】 (a)乾燥剤床と請求項1に記載の吸着剤床とを含む吸着ゾーンに汚染気体流を通す段階と;
(b)吸着ゾーンの入口からCO_(2)を回収するために、前記吸着ゾーンで圧力勾配を成立させ圧力を次第に降下させることによって吸着CO_(2)を脱着する段階と;
(c)脱着ゾーンの出口から清浄気体流を導入することによって前記吸着ゾーンの圧力を再び上昇させる段階とを含んでなる処理サイクルを使用することを特徴とする請求項7に記載の方法。」


第6 無効理由1についての当審の判断
1 甲各号証の記載事項
(1)本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証(特開平8-252419号公報)
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ガス流からの二酸化炭素の除去、より詳細には空気分離の前に空気から二酸化炭素を除去することによる空気の予備精製に関するものである。」(【0001】)

(1b)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】商業的な空気分離のための吸着式予備精製法において冷却の必要性を完全に排除するか、または必要な冷却量を有意に減らすことは、空気分離プロセス全体の経済的魅力を高めるので極めて有利であろう。本発明はこのような利点を備えた新規な二酸化炭素吸着法を提供する。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、ケイ素-対-アルミニウムの原子比約1.0?約1.15を有するX型ゼオライト床に約-50℃ないし約80℃の範囲の温度でガス流を導通することによりガス流から二酸化炭素を除去することによって、ガス流が精製される。本発明方法は二酸化炭素より極性が低く、かつ二酸化炭素を最高約25mbarまたはそれ以上の分圧の不純物として含有する任意のガスを精製するために採用しうる。本発明方法により精製しうるガスの代表例は、空気、窒素、酸素、アルゴン、水素、ヘリウム、メタンなどである。」(【0005】?【0006】)

(1c)「【0010】二酸化炭素の精製は、好ましくはサイクルプロセスによって、より好ましくは圧力スイング式吸着(PSA)、温度スイング式吸着(TSA)、・・・、またはこれらの組み合わせとして実施される。極めて好ましい態様においては、本方法はTSA法である。」(【0010】)

(1d)「【0011】二酸化炭素は好ましくはガス流中におけるその分圧が約25mbarを越えない濃度でガス流中に存在し、より好ましくはその分圧が約10mbarを越えない濃度で存在し、極めて好ましくはガス流中におけるその分圧が約5mbarを越えない濃度で存在する。」(【0011】)

(1e)「【0013】X型吸着剤による二酸化炭素吸着工程は、ガス流から水分(存在する場合には)を除去するためにも利用しうる。好ましい態様においては、二酸化炭素吸着の前に、ガス流を乾燥剤、好ましくは種々の型のアルミナ、シリカゲルもしくはゼオライト、またはこれらの混合物のうちのいずれかに導通することにより水分を除去する。」(【0013】)

(1f)「【0014】本発明方法は、低濃度、すなわちppm水準の二酸化炭素をガス流から約20℃より高い温度で除去するのに特に有用である。本方法は二酸化炭素が約25mbarより大きい分圧で存在するガス流から二酸化炭素を除去するのにも効果的に利用しうるが、前記のようにそれは二酸化炭素がガス流中におけるその分圧が約25mbarを越えない濃度でガス流中に存在する場合にガス流から二酸化炭素を除去するのに極めて有効である。」(【0014】)

(1g)「【0015】本発明方法に有用な吸着剤は、ケイ素-対-アルミニウムの原子比約1.15を越えない、すなわちケイ素-対-アルミニウムの原子比約1.0?約1.15を有するX型ゼオライトである。本発明に用いるのに好ましい吸着剤は、ケイ素-対-アルミニウムの原子比約1.0?約1.1を有するX型ゼオライトであり、極めて好ましい吸着剤はケイ素-対-アルミニウムの原子比約1.0を有するX型ゼオライト、一般に低ケイ素XまたはLSXゼオライトと呼ばれるものである。・・・。しかし理論的に最小のケイ素-対-アルミニウム原子比は1.0であり、この理論的に最小値を本明細書において採用し、この可能な最小のケイ素-対-アルミニウム原子比をもつX型ゼオライトが本発明の範囲に含まれるものとする。
【0016】ゼオライトは“ナトリウムX”ゼオライト、すなわちそれらの交換可能なカチオンが実質的にすべてナトリウムイオンであるものであってもよく、またはそれらは多数の既知のイオン交換されたX型ゼオライト、すなわちナトリウム以外のイオンを交換可能なカチオンとして含むX型ゼオライトのうち任意のものであってもよい。X型ゼオライト上の交換可能なカチオン部位を占めることができるイオンには、周期表のIA、IIA、IIIA、IIIB族、ランタニド系列元素の3価イオン、亜鉛(II)イオン、銅(II)イオン、クロム(III)イオン、鉄(III)イオン、アンモニウムイオン、ヒドロニウムイオン、またはこれらのカテゴリーのうち任意の2種以上の混合物が含まれる。好ましいIA族イオンはナトリウム、カリウムおよびリチウムイオン;好ましいIIA族イオンはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムイオンであり:好ましいIIIAおよびIIIB族イオンはアルミニウム、スカンジウム、ガリウム、インジウムおよびイットリウムであり:好ましい3価ランタニドイオンはランタン、セリウム、プラセオジムおよびネオジムである。極めて好ましいX型ゼオライトは、交換可能なカチオンとして下記から選ばれる1種または2種以上のイオンを含むものである:ナトリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、セリウム、ランタン、プラセオジムおよびネオジムイオン。」(【0015】?【0016】)

(1h)「【0017】本発明方法は単一の吸着容器内で、・・・、吸着と脱着からなるサイクルプロセスで操作すべく調整された2以上の一連の床で実施しうる。・・・。
【0018】本発明方法は一般にサイクルプロセス、たとえば温度スイング式吸着、圧力スイング式吸着、・・・、またはこれらの組み合わせとして実施される。・・・
・・・
【0020】吸着工程が実施される圧力は、圧力スイング式吸着サイクルについては・・・、好ましくは約1?10barであり、・・・である。
【0021】吸着プロセスがPSAである場合、再生工程は一般に吸着工程が実施される温度付近の温度、および吸着圧力より低い絶対圧力において実施される。PSAサイクルの再生工程中の圧力は、・・・、好ましくは約100?約2000mbarである。吸着プロセスがTSAである場合、床の再生は吸着温度より高い温度、・・・、好ましくは約100?約200℃で実施される。PSAとTSAの組み合わせを採用する場合、床再生工程中の温度および圧力は吸着工程で採用されたものよりそれぞれ高く、および低い。
【0022】本発明によるサイクルプロセスを始動させる際には、二酸化炭素が除去されるガス供給流を、前記の吸着剤床を収容した吸着容器へ導入する。ガスが吸着剤床を通過するのに伴って二酸化炭素が吸着され、実質的に二酸化炭素を含有しない非吸着ガス製品が非吸着ガス出口を通って吸着容器から排出される。吸着工程が進行するのに伴って、二酸化炭素フロントが吸着剤床に形成され、徐々に吸着剤床の非吸着ガス出口の方へ移動する。吸着工程の実施される吸着容器(1または2以上)を通って移動する吸着された二酸化炭素フロントが容器の目的地点に達した時点で、これらの容器における吸着プロセスを終了し、これらの容器は再生モードに入る。再生中は、吸着サイクルが圧力スイング式吸着である場合には二酸化炭素を吸収した容器を放圧し、温度スイング式吸着サイクルを採用した場合には加熱し、または組み合わせプロセスを採用した場合には放圧および加熱の両方を行う。
【0023】吸着床の再生法は採用した吸着プロセスの種類に依存する。圧力スイング式吸着である場合、再生期には一般に向流放圧工程が含まれ、その間に吸着床はそれらが目的とする低圧に達するまで向流排気される。・・・。
【0024】場合により、向流放圧工程(1または2以上)のほかに、吸着剤床(1または2以上)から排出される非吸着製品ガス流で吸着剤床を向流パージすることが望ましいであろう。この場合、吸着剤床(1または2以上)を非吸着ガスで向流パージすることができ、パージ工程は通常は向流放圧工程が終了する頃に、または終了後に開始される。・・・
・・・
【0026】本発明の好ましい態様によれば、ガス流、たとえば空気を、前記の種類の低ケイ素Xゼオライトを含有する吸着容器に導入する。・・・ガス流中の二酸化炭素の濃度が、その分圧が約25mbarを著しく越えるほど高くない限り、実質的にすべての二酸化炭素がガス流から除去され、実質的に二酸化炭素を含有しない製品ガスが吸着容器の非吸着製品ガス出口から排出するであろう。二酸化炭素吸着フロントが吸着容器内の予め定められた地点(通常は非吸着製品ガス出口付近)に達したとき、容器の吸着プロセスを終了し、容器に収容された吸着剤床を前記方法のうちのいずれかで再生する。吸着プラントが多重床システムである場合、吸着は第2床で直ちに開始され、従って精製プロセスの連続性は妨げられないであろう。精製ガスをさらに処理することができる。たとえば低温空気分離操作においては、予備精製空気を1または2以上の高純度ガス(たとえば純度80%の酸素、窒素またはアルゴン)に分画するための低温蒸留(または吸着)プラントへ送る。所望により、空気分離プラントからの廃ガス流を吸着床再生に際してパージガスとして使用するために予備精製プラントへ再循環させることができる。」(【0017】?【0026】)

(1i)「【0029】実施例1
二酸化炭素に関する平衡吸着恒温線を、カーン(Cahn)微量天秤により2?300mbarの範囲の一連の圧力で5℃、35℃および50℃において、ケイ素-対-アルミニウム原子比1.25の一般的なナトリウムXゼオライト(NaX)につき、およびケイ素-対-アルミニウム原子比1.02のX型ゼオライトのナトリウム形(Na LSX)につき、測定した。吸着剤の各試料(約60mg)を1回目の試験の前、および各温度における恒温線の測定間に、350℃で1.5時間排気することにより活性化した。各試験は平衡に達するまで行われ、これには最低分圧の二酸化炭素について最高3時間を要した。Na XおよびNa LSX試験のほか、リチウム-および希土類-交換X型ゼオライト、ならびにリチウム-およびカルシウム交換-X型ゼオライトを用いて、35℃で前記の各圧力につき試験を行った。実験の結果を表に記録する。
【0030】
【表1】

【0031】この表から、中程度に高いCO_(2)分圧(最高300mbar)において本発明のLSX吸着剤は従来から用いられているナトリウムX吸着剤のものより30?40%高いCO_(2) 容量をもつことが明らかである。これは一般的Xに対比して12.5%増大したLSXのイオン交換能の結果として、ある程度は予想される。本発明の予想外の性質は25mbar以下で得られた結果に例示され、特に5mbarの実験(約15気圧の圧力における典型的な空気中のCO_(2)分圧に相当する)および20℃より高い温度に示される。本発明の吸着剤の容量は同1条件下での従来のX吸着剤の場合の2倍を上回り、場合によっては4倍を上回る。」(【0029】?【0031】)

(2)本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第3号証(冨永博夫「ゼオライトの科学と応用」講談社サイエンティフィク、1987年発行)
(2a)「工業用ゼオライトの吸着剤は、・・・イオン交換を主体とする種々の修飾を加え、吸着特性を制御するとともに、処理流体の物性に適した吸着操作条件を設定することにより、表6.1に掲げられるように広範な用途に適用されている。
ゼオライト吸着では、固定層接触方式が一般的である。流通圧損と吸着速度の両条件を満たす吸着剤粒度として0.2mm(60メッシュ)?4mmが一般的である。ゼオライト結晶は天然に産する一部を除き、10μm以下の粉末粒子であり、結合剤による造粒成型を行う。」(第159頁第22行?第160頁第1行)

(2b)「造粒法は、結晶粉体と結合剤との混練・成型による粉末造粒と、結晶合成前駆体であるゲル状反応混合物を粒状成型し、合成・造粒固化を併行する反応造粒とに、大別される。」(第160頁第2行?第4行)

(2c)「粉末造粒では、通常、結晶粉末に対し15?25%の結合剤と若干の粘結性添加物が加えられ、さらに総水分量を、これら混合物の80?150%とし,捏和・混練する。結合剤にはカオリナイト、アタパルジャイト、モンモリロナイトなどの天然粘土系、またはシリカ、アルミナなど工業薬晶系を用いる。](第160頁 第5行?第8行)

(2d)「捏和・混練後、ペレット(柱状)は押出造粒機、ビーズ(球状)は転動造粒機などにより成型、分級する。ペレットは量産性が高いが断面エッジ部からの粉化と充填密度の経時変化がある。一方、ビーズは耐摩耗性に富み、充填状態は経時変化が少ない。成型粒子はキルン中、空気流通下で500?700℃に加熱、焼結する。この工程中、結晶自身が放出(脱着)する水蒸気により熱水雰囲気が形成され、わずかながら、結晶の破壊と結晶孔の収縮が進む。X型ゼオライト成型体の焼成では、送入空気量、昇温プロフィルなど注意深い制御により、結晶構造と本来の吸着性を維持している。」(第160頁第13行?第161頁第6行)

(2e)「粉末造粒法は結晶種によらずに高強度粒子が得られるが添加された結合剤に吸着能がなく、粒子当りの吸着容量を低下させる。・・・」(第161頁第6行?第11行)

(2f)「ゼオライト吸着剤と工業的用途例」である「表6.1」には、結晶「X」イオン「Na」の欄に、用途として「溶剤精製」、「プロパン,ブタン脱臭」、「天然ガス精製」、「深冷分離用空気精製」、「大気中酸素濃縮」が示され、また、結晶「X」イオン「Ca」の欄に、用途として、・・・「一酸化炭素の回収」、結晶「モルデナイト」イオン「Na」の欄に、用として「一酸化炭素濃縮」が示されている。

(3)本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第5号証(特開平5-163015号公報)
(3a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、結合剤含有量の少ないシリカ/アルミナモル比の低いX型ゼオライト成形体の製造方法に関するものである。更に詳しくは、著しく高い吸着容量を有し、例えば窒素と酸素とを主成分とする混合ガスから吸着分離法によって酸素を分離、濃縮するなどの目的で使用するのに適したシリカ/アルミナモル比の低いX型ゼオライト成形体の製造方法に関するものである。」(【0001】)

(3b)「【0002】
【従来の技術】通常、合成されたX型ゼオライトのシリカ/アルミナモル比は2.5であるが、合成時にNaOHに加えKOHを共存させることによって、そのシリカ/アルミナモル比を2.0にまで下げることができる。ゼオライトのシリカ/アルミナモル比を下げることは、結晶中のアルミニウム原子の数が増加することであり、従って、カチオンの数が増加することとなる。一般にゼオライトへの窒素、酸素などの分子の吸着は物理吸着と呼ばれ、このカチオンの数が多いほどその吸着容量は増加することとなる。ここでは、以下、シリカ/アルミナモル比が2.5より低いX型ゼオライトを低シリカX型ゼオライトと呼ぶこととする。
【0003】通常、X型ゼオライトを、吸着分離剤などとして工業的に利用する場合には、合成したX型ゼオライト粉末に、結合剤として粘土等を添加し、ペレットあるいはビーズのような成形体にして使用される。添加される粘土の量は約25重量部であり、従って、ゼオライト成形体の有する吸着容量は、ゼオライト粉末が有する吸着容量に対し、粘土の添加分だけ減少してしまうこととなる。その解決の為に、粘土をほとんど含有しない成形体、即ち、バインダーレス成形体の製造方法がこれまで提案されている。」(【0002】?【0003】)

(3c)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は以上の様な困難を回避した低シリカX型ゼオライトを90重量%以上含有するX型ゼオライト成形体を製造する方法を提供するものである。
・・・
【0006】即ち、本発明の要旨は、低シリカX型ゼオライト成形体を製造するに際し、シリカ/アルミナモル比が2.5より低いX型ゼオライト粉末、カオリン型粘土、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムを含む成形体を結晶化することにより、A型ゼオライト等の不純物の生成を抑制し、高純度な低シリカX型ゼオライト成形体を製造する方法である。」(【0004】?【0006】)

(3d)「【0011】実施例1
まず、シリカ/アルミナモル比2.0の低シリカX型ゼオライト粉末を以下の手順によって合成した。
【0012】・・・その化学組成は、モル比で表わして、0.75Na_(2)O・0.25K_(2)O・Al_(2)O_(3)・2.0SiO_(2)であった。また、結晶中のKイオンを全てNaイオン交換したNa型ゼオライトの格子定数をX線回折からもとめた結果、25.02オングストロームであって、この値からもシリカ/アルミナモル比は2.00と算出された。・・・
【0013】この低シリカX型ゼオライト粉末222gに、カオリン型粘土を56g、水酸化ナトリウム15g、水酸化カリウム7g及び造粒助剤としてカルボキシメチルセルロースを8g添加し、また、押出し成形が可能となるよう適当量の水を加えて、十分に混合・混練した。得られた捏和物を通常の押出し成形機で直径1.5mmの太さで押出し成形した。この成形体を110℃で乾燥後、600℃で2時間焼成し、カオリン型粘土をメタカオリンにした。冷却後、水に浸漬し、吸着された空気などの気体をできる限り水と置換した後、水酸化ナトリウム90g及び水酸化カリウム42gを含む水溶液800cc中に投入した。40℃で2日間、続いて90℃で2日間放置して結晶化を行った。・・・X線回折によって結晶解析を行った結果、X型ゼオライト以外の結晶相は全く認められず、カオリン型粘土がX型ゼオライトに転移していることを確認した。また、一部をNa型にし、その格子定数を測定したところ、25.03オングストロームであり、算出されたシリカ/アルミナモル比は1.96であった。また、このゼオライト成形体の・・・・・・X型ゼオライトの含有率は97%であった。
【0014】実施例2
実施例1で使用した低シリカX型ゼオライト粉末139gに、600℃で2時間焼成したカオリン型粘土を56g、水酸化ナトリウム15g、水酸化カリウム7g及び造粒助剤としてカルボキシメチルセルロースを6g添加し、また、押出し成形が可能となるよう適当量の水を加えて、十分に混合・混練し、捏和物を得た。その後は、600℃で2時間の焼成を行わなかった以外は実施例1と同一処理を行った。X線回折によって結晶解析を行った結果、X型ゼオライト以外の結晶相は全く認められず、Na型の格子定数は、25.02オングストロームであり、算出されたシリカ/アルミナモル比は2.00であった。また、このゼオライト成形体の相対湿度80%に於ける水分吸着容量は、30.8%であり、X型ゼオライトの含有率は95%であった。」(【0011】?【0014】)

(4)本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第6号証(特開平5-68833号公報)
(4a)「【要約】
【目的】 本発明は,空気分離ユニットに導入する前に空気を予備精製して水蒸気と二酸化炭素を除去するための改良されたPSAプロセスを提供する。」(【要約】【目的】)

(4b)「【0004】現在工業的に行われている空気の予備精製方法としては,逆転熱交換器による方法,温度スウィング吸着による方法,及び圧力スウィング吸着による方法等がある。」(【0004】)


2 甲第1号証に記載された発明
(1)摘記事項(1b)、(1g)及び(1i)によれば、二酸化炭素を不純物として含有するガス流、好ましくは空気から二酸化炭素を除去する方法であって、精製すべきガス流をNaLSX型のゼオライトの吸着剤に導通させる吸着工程から成る方法が記載されている。
(2)摘記事項(1g)には、ゼオライトにおける交換可能なカチオンとしては、「ゼオライトは“ナトリウムX”ゼオライト、すなわちそれらの交換可能なカチオンが実質的にすべてナトリウムイオンであるもの」または「それらは多数の既知のイオン交換されたX型ゼオライト、すなわちナトリウム以外のイオンを交換可能なカチオンとして含むX型ゼオライトのうち任意のものであってもよい。」と選択的に示されている。
ここで、「それらの交換可能なカチオンが実質的にすべてナトリウムイオンであるもの」について検討すると、「実質的にすべて」とは、文言上、「100%ないしはそれに近い割合」と解釈しうる。
そして、摘記事項(1g)には、上記記載内容に続いて、「X型ゼオライト上の交換可能なカチオン部位を占めることができるイオンには、周期表のIA、IIA・・・、またはこれらのカテゴリーのうち任意の2種以上の混合物が含まれる。・・・極めて好ましいX型ゼオライトは、交換可能なカチオンとして下記から選ばれる1種または2種以上のイオンを含むものである:ナトリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、セリウム、ランタン、プラセオジムおよびネオジムイオン。」と記載されていることから、X型ゼオライトは、その交換可能な部位を占めるカチオンとして、ナトリウムイオン1種のみを含むことも示されている。
したがって、甲第1号証には、交換率100%でナトリウム交換されたNaLSX型のゼオライトが記載されているといえる。


(3)よって、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「二酸化炭素を不純物として含有するガス流、好ましくは空気から二酸化炭素を除去する方法であって、精製すべきガス流をNaLSX型のゼオライトの吸着剤に導通させる吸着工程から成り、前記吸着剤が、ケイ素-対-アルミニウムの原子比約1.0?約1.15を有し、交換率100%でナトリウム交換されたNaLSX型のゼオライトから成る方法。」(以下、「引用発明1」という。)
及び
「精製すべきガス流から、好ましくはアルミナ等の混合物の乾燥剤及びNaLSX型のゼオライトの吸着剤に導通させて、二酸化炭素及び水分を不純物として含有する空気から除去する方法であって、前記吸着剤が、ケイ素-対-アルミニウムの原子比約1.0?約1.15を有し、交換率100%でナトリウム交換されたNaLSX型のゼオライトから本質的に成る方法。」(以下、「引用発明2」という。)


3 本件発明1について
(1)本件発明1と引用発明1との対比
ア 引用発明1における「二酸化炭素を不純物として含有するガス流」、「二酸化炭素」、「精製すべきガス流」及び「ケイ素-対-アルミニウムの原子比が約1.0?約1.15」は、本件発明1における「CO_(2)で汚染された気体流」、「CO_(2)」、「浄化すべき気体流」及び「1?1.15のSi/Al比」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明1における「精製すべきガス流をNaLSX型のゼオライトの吸着剤に導通させる吸着工程」について、「NaLSX型のゼオライトの吸着剤」は「少なくとも1種類の吸着剤」に相当する。また、引用発明1の「吸着工程」は、「吸着ゾーン」で行っているものと認められる。
よって、引用発明1における「精製すべきガス流をNaLSX型のゼオライトの吸着剤に導通させる吸着工程」は、本件発明1における「浄化すべき気体流を吸着ゾーンで少なくとも1種類の吸着剤に接触させる段階」に相当するといえる。

ウ 本件発明1のNaLSX型のゼオライトにおける「ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ」とは、被請求人も認めるとおり(平成22年8月19日付け答弁書第17頁「7.5.」)、ナトリウムイオンが100%のものを含むもの、すなわち、交換率100%でナトリウム交換されたものを含むものである。
したがって、引用発明1におけるNaLSX型のゼオライトの「交換率100%でナトリウム交換された」は、本件発明1におけるNaLSX型のゼオライトの「ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ」に相当する。


エ したがって、両者は、
「CO_(2)で汚染された気体流、好ましくは空気から炭酸ガスを除去する方法であって、浄化すべき気体流を吸着ゾーンで少なくとも1種類の吸着剤に接触させる段階から成り、前記吸着剤が本質的に、1?1.15のSi/Al比を有し、ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められているNaLSX型のゼオライトから成る方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1では、「吸着剤が結合剤で凝集され、吸着剤の残留不活性結合剤が5重量%以下であり、結合剤がカオリン又はメタカオリンを含む」ものであるのに対し、引用発明1では、結合剤の使用について明らかでない点。


(2)判断
上記相違点1について検討する。
ア 甲第1号証には、上記摘記事項(1b)の「商業的な空気分離のための吸着式予備精製法において冷却の必要性を完全に排除するか、または必要な冷却量を有意に減らすことは、空気分離プロセス全体の経済的魅力を高めるので極めて有利であろう。本発明はこのような利点を備えた新規な二酸化炭素吸着法を提供する。」(【0005】)及び摘記事項(1h)の「本発明の好ましい態様によれば、・・・。吸着プラントが多重床システムである場合、吸着は第2床で直ちに開始され、従って精製プロセスの連続性は妨げられないであろう。」(【0026】)によれば、吸着プラントを用いた商業的な空気分離のための二酸化炭素吸着式予備精製法が記載されている。
また、該予備精製法は、同摘記事項(1c)の「二酸化炭素の精製は、好ましくはサイクルプロセスによって、より好ましくは圧力スイング式吸着(PSA)、温度スイング式吸着(TSA)、・・・、またはこれらの組み合わせとして実施される。」(【0010】)によれば、圧力スイング式吸着(PSA)、温度スイング式吸着(TSA)または、これらの組合わせとして実施されるところ、甲第6号証の摘記事項(4b)に「現在工業的に行われている空気の予備精製方法としては,逆転熱交換器による方法,温度スウィング吸着による方法,及び圧力スウィング吸着による方法等がある。」(【0004】)と記載されていることから、甲第1号証に記載される予備精製法は、工業的に行われる空気の予備精製方法であるといえる。
そして、同摘記事項(1d)、(1f)及び(1i)によれば、該予備精製法における二酸化炭素の吸着剤をNa形の低シリカX型ゼオライトとしているため、従来のNaXゼオライトに比べて優れた吸着性能を示し、特に低分圧下(2mbarを含む)において予想外の優れた吸着性能を示すことも記載されている。

イ 甲第3号証には、摘記事項(2a)の「工業用ゼオライトの吸着剤は、・・・広範な用途に適用されている。 ゼオライト吸着では、固定層接触方式が一般的である。流通圧損と吸着速度の両条件を満たす吸着剤粒度として0.2mm(60メッシュ)?4mmが一般的である。ゼオライト結晶は天然に産する一部を除き、10μm以下の粉末粒子であり、結合剤による造粒成型を行う。」(第159頁第22行?第160頁第1行)、及び、摘記事項(2e)の「粉末造粒法は結晶種によらずに高強度粒子が得られるが添加された結合剤に吸着能がなく、粒子当りの吸着容量を低下させる。・・・」(第161頁第6行?第11行)の記載のとおり、工業用ゼオライト吸着が、固定層接触方式で行われるのが一般的であり、ゼオライトは結合剤により造粒されて使用されること、また、粉末造粒法によると、高強度粒子が得られるものの、粒子あたりの吸着容量が低下することが記載されている。

ウ 甲第5号証には、
(ウ1)通常のX型ゼオライトに比べ、シリカ/アルミナ比が2.5より低いX型ゼオライト、すなわち低シリカX型ゼオライトでは吸着容量が増加すること(摘記事項(3a),【0001】、(3b),【0002】)、
(ウ2)X型ゼオライトを吸着剤として工業的に利用する場合、合成したX型ゼオライト粉末に、結合剤として粘土等を添加し、ペレットあるいはビーズのような成形体にして使用されるが、ゼオライト成形体の有する吸着容量は、ゼオライト粉末が有する吸着容量に対し、粘土の添加分だけ減少してしまう課題があること(摘記事項(3b),【0003】)、
(ウ3)これに対し、結合剤含有量の少ない低シリカX型ゼオライト成形体を製造するために、シリカ/アルミナ比が2.5より低いX型ゼオライト粉末、カオリン型粘土、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムを含む成形体を結晶化することにより、高純度な低シリカX型ゼオライト成形体とすること(摘記事項(3c))が記載されている。
(ウ4)そして、具体的な実施例として、「実施例1・・・ 低シリカX型ゼオライト粉末・・・に、カオリン型粘土を・・・及び造粒助剤・・・を・・・添加し、・・・十分に混合・混練した。得られた捏和物を・・・押出し成形した。この成形体を・・・乾燥後、・・・焼成し、カオリン型粘土をメタカオリンにした。冷却後、・・・結晶化を行った。・・・X線回折によって結晶解析を行った結果、X型ゼオライト以外の結晶相は全く認められず、カオリン型粘土がX型ゼオライトに転移していることを確認した。また、一部をNa型にし、その格子定数を測定したところ、25.03オングストロームであり、算出されたシリカ/アルミナモル比は1.96であった。また、このゼオライト成形体の・・・・・・X型ゼオライトの含有率は97%であった。
実施例2

95%であった。」(摘記事項(3d))と記載されている。

前記実施例1及び2によれば、最終的に得られた成形体のX型ゼオライトは、シリカ/アルミナモル比が2.5以下の「低シリカX型ゼオライト」であり、また、X型ゼオライトの含有率は「97%」、「95%」であることから、成形体の「残留不活性結合剤」は、「3%以下」、「5%以下」であることも明らかである。

上記ア?ウの事項によれば、引用発明1は、Na形の低シリカXゼオライト、すなわち、NaLSX型ゼオライトを吸着剤とした、工業的に行われる空気の予備精製法である。そして、甲第3号証、あるいは甲第5号証に記載されるように、工業的にゼオライト粉末を吸着剤として使用する場合、ゼオライト粉末は結合剤により造粒して使用するのが通常であり、さらに、結合剤として、カオリン型粘土を使用すると、低シリカX型ゼオライト粉末を成形した場合にも、残留不活性結合剤の含有率が5%以下の吸着容量の高い低シリカX型ゼオライト成形体を製造できることも知られている(甲第5号証)のであるから、引用発明1の工業的な予備精製法におけるNaLSX型のゼオライトを、結合剤としてカオリン型粘土、すなわちカオリン等を用いて造粒、すなわち凝集することにより、吸着剤の残留不活性結合剤を5%以下のものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、そのことによる作用効果も、当業者が予測する程度のものである。

よって、本件発明1は、引用発明1、甲第3、5及び6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


4 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に「圧力変調による吸着(PSA)、好ましくは圧力及び温度の変調による吸着(PTSA)によって実施する」という事項を付加するものである。
甲第1号証には、摘記事項(1c)に「二酸化炭素の精製は、好ましくはサイクルプロセスによって、より好ましくは圧力スイング式吸着(PSA)、温度スイング式吸着(TSA)、・・・・、またはこれらの組み合わせとして実施される。・・・・。」と記載されているから、甲第1号証には、「圧力変調による吸着(PSA)、好ましくは圧力及び温度の変調による吸着(PTSA)によって実施する」事項が記載されていると認められる。
よって、本件発明2は、引用発明1、甲第1、3、5及び6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


5 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2に「ゼオライトXのSi/Al比が1である」という事項を付加するものである。
そして、引用発明1は「ケイ素-対-アルミニウムの原子比が約1.0?約1.15」であり、摘記事項(1g)(【0015】)のとおり「1.0」を含むものであるから、この点において、両者は相違しない。
よって、本件発明3は、引用発明1、甲第3、5及び6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


6 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1から3のいずれか一項に「吸着圧力が1?10バールの範囲であり、脱着圧力が0.1?2バールの範囲である」という事項を付加するものである。
甲第1号証の摘記事項(1h)には「吸着工程が実施される圧力は、圧力スイング式吸着サイクルについては・・・・、好ましくは約1?10barであり・・・・。」(【0020】)及び同摘記事項(1h)には「吸着プロセスがPSAである場合、再生工程は一般に吸着工程が実施される温度付近の温度、および吸着圧力より低い絶対圧力において実施される。PSAサイクルの再生工程中の圧力は、・・・・、好ましくは約100?約2000mbarである。」(【0021】)と記載されているから、吸着圧力が1?10バールの範囲であり、脱着圧力が0.1?2バールの範囲と設定することは、当業者においては容易になし得ることである。
よって、本件発明4は、引用発明1、甲第1、3、5及び6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


7 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1から4のいずれか一項に「(a)1種または複数の汚染物質を吸着によって確実に分離する吸着剤床を含む吸着ゾーンに汚染気体流を通す段階と;
(b)吸着ゾーンの入口からCO_(2)を回収するために、前記吸着ゾーンで圧力勾配を成立させ圧力を次第に降下させることによって吸着CO_(2)を脱着する段階と;
(c)吸着ゾーンの出口から清浄気体流を導入することによって前記吸着ゾーンの圧力を再び上昇させる段階を含んでなる処理サイクルを使用する」という事項を付加するものである。

本件発明5における「(a)1種または複数の汚染物質を吸着によって確実に分離する吸着剤床を含む吸着ゾーンに汚染気体流を通す段階」は、汚染物質を吸着によって確実に分離するものであるので、甲第1号証の摘記事項(1h)の「吸着と脱着からなるサイクルプロセス」(【0017】)の記載における「サイクルプロセス」の「吸着」に相当する。
また、甲第1号証の摘記事項(1h)の「再生期には一般に向流放圧工程が含まれ、その間に吸着床はそれらが目的とする低圧に達するまで向流排気される。」(【0023】)の記載から、吸着床の入口から排気して吸着床の圧力を降下しているものと解されるので、本件発明5における「(b)吸着ゾーンの入口からCO_(2)を回収するために、前記吸着ゾーンで圧力勾配を成立させ圧力を次第に降下させることによって吸着CO_(2)を脱着する段階」という事項は、甲第1号証に記載されているといえる。
さらに、甲第1号証の摘記事項(1h)における「場合により、向流放圧工程(1または2以上)のほかに、吸着剤床(1または2以上)から排出される非吸着製品ガス流で吸着剤床を向流パージすることが望ましいであろう。この場合、吸着剤床(1または2以上)を非吸着ガスで向流パージすることができ、パージ工程は通常は向流放圧工程が終了する頃に、または終了後に開始される。」(【0024】)の記載から、本件発明5における「(c)吸着ゾーンの出口から清浄気体流を導入することによって前記吸着ゾーンの圧力を再び上昇させる段階」は、甲第1号証に記載されていると見るのが自然である。
加えて、甲第1号証に記載された事項は「吸着」と、向流放圧工程と向流パージとの「脱着」と、からなる「サイクルプロセス」を行うものであるから、本件発明5における「(a)1種または複数の汚染物質を吸着によって確実に分離する吸着剤床を含む吸着ゾーンに汚染気体流を通す段階と;
(b)吸着ゾーンの入口からCO_(2)を回収するために、前記吸着ゾーンで圧力勾配を成立させ圧力を次第に降下させることによって吸着CO_(2)を脱着する段階と;
(c)吸着ゾーンの出口から清浄気体流を導入することによって前記吸着ゾーンの圧力を再び上昇させる段階を含んでなる処理サイクルを使用する」の事項は、甲第1号証に記載された事項である。
したがって、本件発明5は、引用発明1、甲第1、3、5及び6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


8 本件発明6について
本件発明6は、本件発明5に「吸着剤を100?120℃の範囲の温度で再生する」という事項を付加するものである。
甲第1号証の摘記事項(1h)に「吸着プロセスがTSAである場合、床の再生は吸着温度より高い温度、・・・・、好ましくは約100?約200℃で実施される。」(【0021】)と記載されているように、再生を、吸着温度より高い温度で行うことは周知事項であるといえ、その際に、温度範囲を100?120℃と設定することは単なる設計的事項にすぎない。
よって、本件発明6は、引用発明1、甲第1、3、5及び6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

9 本件発明7について
(1)本件発明7と引用発明2との対比
ア 引用発明2における「精製すべきガス流」及び「ケイ素-対-アルミニウムの原子比が約1.0?約1.15」は、本件発明7における「浄化すべき気体流」及び「1?1.15のSi/Al比」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明2は、「精製すべきガス流」を「乾燥剤及びNaLSX型のゼオライトの吸着剤に導通させ」ているので、当然、ガス流は乾燥剤及び吸着剤に接触させるものといえる。
また、乾燥剤による水分の除去及び吸着剤による二酸化炭素の除去は吸着によっていることは明らかであるから、「乾燥剤及び吸着剤」の領域は「吸着ゾーン」と見るのが自然である。
よって、引用発明2における「精製すべきガス流から、好ましくはアルミナ等の混合物の乾燥剤及びNaLSX型のゼオライトの吸着剤に導通させる」ことは、本件発明7における「浄化すべき気体流を吸着ゾーンで、好ましくはアルミナを主成分とする少なくとも1種類の乾燥剤及び少なくとも1種類の吸着剤に接触させる」ことに相当するといえる。

ウ 不純物である二酸化炭素及び水分を空気から除去することは、CO_(2)及びH_(2)Oで汚染された空気を浄化していることであることは明らかである。
よって、引用発明2における「二酸化炭素及び水分を不純物として含有する空気から除去する方法」は、本件発明7における「CO_(2)及びH_(2)Oで汚染された空気の浄化方法」に相当する。

エ 引用発明2における、NaLSX型のゼオライトの「交換率100%でナトリウム交換された」は、本件発明7のNaLSX型のゼオライトの「ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ」に相当する。

オ したがって、両者は
「浄化すべき気体流を吸着ゾーンで、好ましくはアルミナを主成分とする少なくとも1種類の乾燥剤及び少なくとも1種類の吸着剤に接触させることを特徴とする、CO_(2)及びH_(2)Oで汚染された空気の浄化方法であって、前記吸着剤が、1?1.15のSi/Al比を有し、ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められているNaLSX型のゼオライトから本質的に成る方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点2)
本件発明7では、「吸着剤が結合剤で凝集され、吸着剤の残留不活性結合剤が5重量%以下であり、結合剤がカオリン又はメタカオリンを含む」ものであるのに対し、引用発明2では、結合剤の使用について明らかでない点。

(2)判断
前記相違点2は、上記相違点1と同様な事項であり、上記「3 本件発明1について (2)判断」で検討したように、相違点2に係る構成とすることは当業者が容易に想到するものである。
よって、本件発明7は、引用発明2、甲第3、5及び6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

10 本件発明8について
本件発明8は、本件発明7に「(a)乾燥剤床と請求項1に記載の吸着剤床とを含む吸着ゾーンに汚染気体流を通す段階と;
(b)吸着ゾーンの入口からCO_(2)を回収するために、前記吸着ゾーンで圧力勾配を成立させ圧力を次第に降下させることによって吸着CO_(2)を脱着する段階と;
(c)脱着ゾーンの出口から清浄気体流を導入することによって前記吸着ゾーンの圧力を再び上昇させる段階とを含んでなる処理サイクルを使用する」という事項を追加したものである。
そして、前記追加された事項は、上記本件発明5において追加された事項と同様な事項であり、上記「7 本件発明5について」で検討したのと同様に、本件発明8は、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明8は、引用発明2、甲第1、3、5及び6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第7 被請求人の主張について
1 被請求人は、平成24年2月29日付け上申書において、以下の主張をしている。
(1)「本件訂正発明1の『CO_(2)で汚染された気体流、好ましくは空気から炭酸ガスを除去する方法』に用いられる、『1?1.15のSi/Al比を有しており、ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ、結合剤で凝集され』る、NaLSX形のゼオライトから成る吸着剤について、不活性結合剤の量が5重量%以下の凝集体が得られるよう、結合剤として『カオリン又はメタカオリン』を選択することは容易に想到し得るとは言えない。
すなわち、不活性なバインダー(結合剤)の量が5重量%以下の凝集体が得られるよう、凝集結合剤の種類を特定するためには、検討すべき事項が種々存在するから、当業者は、凝集結合剤の種類や特定の添加剤の種類を種々記載しているこれら様々な甲号証から、本件訂正発明1の結合剤として、「カオリン又はメタカオリン」を選択することに容易に想到し得るものではない。」(第14頁第13行?第24行)

(2)「相違点2の『吸着剤の残留不活性結合剤を5重量%以下にする点』については、本件訂正発明1の吸着剤では、吸着剤の残留不活性結合剤を5重量%以下にすることにより、吸着剤として、良好なCO_(2)吸着性を有しつつ、かつ、吸着剤としての良好な機械的強度及び操業性を備えた吸着剤となるものである。」(第15頁第4行?第7行)

(3)「甲第1号証に記載の発明は、これまで、被請求人が再三主張してきた通り、あくまで結合剤を含まないX型ゼオライト粉末に関する発明であることは明らかであり、実際、甲第1号証をいくら精査してみても、請求人が主張するような、『甲第1号証に記載の発明を工業的に生産するためには、吸着剤は成形体である必要があり』(下線は被請求人が付した)等といった事項については全く何らの記載も示唆すら見い出せないのであるから、上記請求人の主張が失当であるのは明らかである。」(第15頁第28行?第16頁第5行)

(4)「甲第5号証をいくら精査しても、段落【0001】においてはもちろん、その他の明細書の記載や実施例1?3及び比較例1及び2においても、全てゼオライト成形体の製造に関する記載に終始しており、二酸化炭素を吸着分離させる例や、さらには空気から二酸化炭素を吸着分離させる例に関しては全く何らの具体的記載も見い出せないのであるから、『空気から二酸化炭素の吸着分離させることも当然含まれる』との請求人の上記主張、さらにはかかる主張を前提とする『甲第1号証と甲第5号証とを組合わせる動機付けは十分』との主張のいずれもが失当であるのは明らかである。」(第16頁第20行?第27行)

(5)「本件訂正発明1が適用されるような、CO_(2)分圧が極めて低い領域においては、わずか数%程度の吸着能の差があっても、実用上は非常に有意な差であるといえるから、上記の『41.7cm^(3)/g』と『40cm^(3)/g』との差も、実用上、非常に有意な差であり、したがって、本件訂正発明1が、甲第1号証の実施例1で用いられたゼオライトよりも優れているものであることは明らかである。」(第17頁第17行?第21行)

なお、上記「(1)」?「(5)」を、それぞれ以下、「主張1」?「主張5」という。


2 主張1について
甲第5号証に記載された発明は、上記「第6.3.(2)ウ (ウ3)及び(ウ4)」のとおり、結合剤として、カオリン型粘土を使用すると、低シリカX型ゼオライト粉末を成形した場合にも、残留不活性結合剤の含有率が5%以下の吸着容量の高い低シリカXゼオライト成形体を製造するもの、すなわち、ゼオライト成形体において、ゼオライト成形体の吸着容量を良好にすべく粘土をほとんど含有しない成形体とするものであり、その実施例1及び2には「1?1.15のSi/Al比を有しており、ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ、結合剤で凝集される、NaLSX形のゼオライトから成る吸着剤について、不活性結合剤の量が5重量%以下の凝集体が得られるよう、結合剤としてカオリン又はメタカオリンを選択した」ものに該当する事項が記載されているのであるから、被請求人の「結合剤として、『カオリン又はメタカオリン』を選択することに容易に想到し得るものではない。」との主張は採用できない。

3 主張2について
甲第3号証の摘記事項(2a)及び(2e)にも記載のとおり、工業用ゼオライト吸着剤は、ゼオライトを造粒成形して操業に供され、粉末造粒により高強度粒子が得られること、すなわち、結合剤で造粒成形することによる機械的強度及び操業性の向上自体は周知の事項にすぎない。よって、吸着剤の残留不活性結合剤を5重量%以下にしたものにおいても、結合剤により造粒成形しているものであるから、機械的強度及び操業性が向上しているのは明らかである。
また、甲第5号証には、摘記事項(3b)に記載のとおり、粘土をほとんど含有しない、つまり、不活性な結合剤成分がほとんどないことによって、ゼオライト成型体のガス吸着容量を減らさないようにするものであるから、吸着剤の残留不活性結合剤を5重量%以下にすることにより、ガス吸着性が良好になることは明らかである。
したがって、吸着剤の残留不活性結合剤を5重量%以下にすることにより、吸着剤として、良好なCO_(2)吸着性を有しつつ、かつ、吸着剤としての良好な機械的強度及び操業性を備えた吸着剤となることは、当業者が予測する程度のものである。

4 主張3について
甲第1号証には、ゼオライト粉末との記載はなく、さらに、ゼオライトの使用形態について、結合剤を用いないとの記載もない。したがって、被請求人のいうように、「甲第1号証に記載の発明は、・・・結合剤を含まないX型ゼオライト粉末に関する発明である」とはいえない。
また、甲第1号証に記載される予備精製法は、工業的に行われる空気の予備精製方法であることは、上記「第6 3 (2) ア」で述べたとおりであり、成形体とすることの示唆がないとはいえない。
よって、被請求人の主張は採用できない。

5 主張4について
甲第5号証は、二酸化炭素の吸着との特定はされていないものの、低シリカゼオライト成形体におけるガス吸着容量を良好にすることを目的とした、低シリカゼオライトの造粒成形に関するものである。また、甲第1号証は、ガスである二酸化炭素をNaLSX型のゼオライト、すなわち、Na形の低シリカゼオライトで工業的に吸着分離するものであって、上記摘記事項(1i)のとおり、従来のNaXゼオライトよりも吸着性能が優れるものである。
そうすると、甲第1号証及び甲第5号証に記載の発明はともに、低シリカゼオライトを用いた工業用のガス吸着における吸着性能に着目したものである点で共通しているから、甲第1号証と甲第5号証とを組合わせる動機付けがないとはいえない。
よって、被請求人の主張は採用できない。

6 主張5について
上記摘記事項(1i)のとおり、甲第1号証には、NaLSXゼオライトが、従来のNaXゼオライトに比べ、特に低分圧下(2mbarを含む)において、優れた吸着性能を示すことが示されている。
また、被請求人の効果についての主張の根拠となる、本件発明1における実施例と甲第1号証に記載された実施例との比較に用いられた、2mbarにおける二酸化炭素吸着量の値「41.7cm^(3)/g」、「40cm^(3)/g」はともに、測定によって得られた測定結果を換算して得られたものではなく、他の数値から外挿して得た値であることから、ただちに、本件訂正明細書に記載された実施例のものと、甲第1号証に記載された実施例のものとの間に有意な差があるとも認められない。
よって、「本件訂正発明1が、甲第1号証の実施例1で用いられたゼオライトよりも優れているものである」との主張は採用できない。

以上のとおり、被請求人が主張する上記主張1ないし5は、採用することができない。


第8 むすび
以上のとおり、本件発明1ないし8は、甲第1、3、5及び6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、請求人が主張する無効理由2及び3について判断するまでもなく、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ゼオライト吸着剤を使用して気体流から炭酸ガスを除去する方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】CO_(2)で汚染された気体流、好ましくは空気から炭酸ガスを除去する方法であって、浄化すべき気体流を吸着ゾーンで少なくとも1種類の吸着剤に接触させる段階から成り、前記吸着剤が本質的に、1?1.15のSi/Al比を有しており、ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ、結合剤で凝集され、吸着剤の残留不活性結合剤が5重量%以下であるNaLSX型のゼオライトから成り、当該結合剤がカオリン又はメタカオリンを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】圧力変調による吸着(PSA)、好ましくは圧力及び温度の変調による吸着(PTSA)によって実施することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】ゼオライトXのSi/Al比が1であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】吸着圧力が1?10バールの範囲であり、脱着圧力が0.1?2バールの範囲であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】(a)1種または複数の汚染物質を吸着によって確実に分離する吸着剤床を含む吸着ゾーンに汚染気体流を通す段階と;
(b)吸着ゾーンの入口からCO_(2)を回収するために、前記吸着ゾーンで圧力勾配を成立させ圧力を次第に降下させることによって吸着CO_(2)を脱着する段階と;
(c)吸着ゾーンの出口から清浄気体流を導入することによって前記吸着ゾーンの圧力を再び上昇させる段階を含んでなる処理サイクルを使用することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】吸着剤を100?120℃の範囲の温度で再生することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】浄化すべき気体流を吸着ゾーンで、好ましくはアルミナを主成分とする少なくとも1種類の乾燥剤及び少なくとも1種類の吸着剤に接触させることを特徴とする、CO_(2)及びH_(2)Oで汚染された空気の浄化方法であって、前記吸着剤が、1?1.15のSi/Al比を有しており、ナトリウムイオンの数と四面体位置のアルミニウム原子の数の比として表される交換率98%以上のナトリウムで交換され、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ、結合剤で凝集され、残留不活性結合剤の割合が5重量%以下であり、当該結合剤がカオリン又はメタカオリンを含む
ことを特徴とするNaLSX型のゼオライトから本質的に成ることを特徴とする方法。
【請求項8】(a)乾燥剤床と請求項1に記載の吸着剤床とを含む吸着ゾーンに汚染気体流を通す段階と;
(b)吸着ゾーンの入口からCO_(2)を回収するために、前記吸着ゾーンで圧力勾配を成立させ圧力を次第に降下させることによって吸着CO_(2)を脱着する段階と;
(c)脱着ゾーンの出口から清浄気体流を導入することによって前記吸着ゾーンの圧力を再び上昇させる段階とを含んでなる処理サイクルを使用することを特徴とする請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、炭酸ガスで汚染された気体流の浄化、特にN_(2)/O_(2)分離段階に先立つ空気の浄化に関する。
【0002】
(従来の技術)
純粋な気体、特にN_(2)及びO_(2)を大気から生産することは大規模で行われている工業的処理であり、極低温法または吸着法が使用されている。吸着法は、圧力変調による吸着(PSA)の原理、温度変調による吸着(TSA)の原理もしくは双方の変調による吸着(PTSA)の原理などに基づく。更に、工業的処理から生じる多くの気体は大量の炭酸ガスを含有するので、通常は浄化されるのが望ましい。
【0003】
空気からN_(2)またはO_(2)を生産するためには、本来の分離段階に先立って浄化を行う必要がある。何故なら、原料空気中に存在する水または炭酸ガスは、極低温法を使用する場合には処理がこれらの不純物の凝固点よりもはるかに低い温度で実施されるので装置を閉塞するからである。吸着法を使用する場合には水及び炭酸ガスが窒素よりも強力に吸着されるので、長い期間の経過後には吸着剤が被毒し最終的にはその使用寿命が短縮される。
【0004】
これらの方法では、炭酸ガスを除去するためにフォージャサイト(faujasite)型のゼオライト(13X,1.2よりも大きいSi/Al比をもつ)が常用されており、水は、通常は分子ふるい床の上流に配置されたアルミナ床で分離(trapping)される。再生はPSTA型で行う。即ち、約150℃までの若干の温度上昇と圧力低下とを併用する。これらの手段によって、酸素に類似の吸着挙動をもつアルゴンを約1容量%の量で含む以外はN_(2)とO_(2)とだけから構成される気体が分子ふるい床に到着する。
【0005】
ゼオライトXがシリカゲルまたは活性炭よりも優れた炭酸ガスの吸着剤であることは以前から知られていた(米国特許第2,882,244号)。該特許はまた、種々の吸着質に対する選択性が温度及び圧力に伴って変化することを教示している。
【0006】
米国特許第3,885,927号(27.05.75)は、90%以上の交換率でバリウムで交換されたゼオライトXによるCO_(2)の吸着を教示している。これらの条件下で気体のCO_(2)含量は1000ppm以下であり、温度は-40℃?50℃の範囲でよい。
【0007】
欧州特許出願No.88107209.4(05.05.88)は、ストロンチウムで交換されたゼオライトXも浄化に有効であることを教示している。
【0008】
ゼオライトの交換可能なカチオンの数がCO_(2)の吸着に与える影響は、Barrerらの論文“Molecular Sieves”(Soc.Chim.Ind.,London,1968),p233及びCoughlanらの論文“J.C.S.Faraday”,1,1975,71,1809で検討されている。これらの論文は、ゼオライトのCO_(2)吸着能力は、Si/Al比が極限値1.2まで減少するに伴って増加することを示す。それ以下の範囲に関する試験はない。
【0009】
1.25に近いSi/Al比を有している常用のゼオライトXは極めて高度にCO_(2)選択性であり、温度が低いほどより高度に選択性である。室温に近い温度では、はるかに高いモル比で存在する窒素と競合するのでその効率が著しく低下する。環境空気(CO_(2)は?300/400vpm)中のN_(2)/CO_(2)比は約3,000である。従って、大量の吸着熱が発生してかなりの温度上昇(数十℃)が生じることもあるので、吸着による温度上昇を防止するために炭酸ガス除去には冷却システムを配備するのが必須であると一般には考えられている。
【0010】
米国特許第5,531,808号(02.07.96)は、1.15未満のSi/Al比を有するX型ゼオライトを使用してCO_(2)を極めて有効に吸着できるという教示を開示している。“標準”ゼオライトXに比べた利点は、該ゼオライトが50℃までは窒素に比べてCO_(2)に対して高い選択性を維持するという能力を有しているので炭酸ガス除去段階で冷却装置による温度低下が不要なことである。
【0011】
ゼオライトNaLSXのCO_(2)吸着能力はナトリウム交換率の上昇に伴って増加することが観察される。しかしながらまた、約90%の交換率に到達すると能力増加の平坦域が出現し、95%以上まで交換率を上昇させることには全く利点はないことが明らかである。この観察はCO_(2)分圧が比較的高い場合に限って得られることも最近になって判明した。ナトリウム交換率(ナトリウムイオンと正四面体位置のアルミニウム原子とのモル比として定義される、残りはカリウムである)が少なくとも98%であるようなゼオライトLSXを使用して約2ミリバールという低いCO_(2)分圧の炭酸ガス除去処理を行うとき、極めて顕著な能力増加が得られる。
【0012】
(発明の開示)
従って、本発明は、気体流、特に空気から炭酸ガスを除去する方法に関する。方法は、気体流をNaLSX型のゼオライト吸着剤に接触させる段階から成り、吸着剤は、1?1.15のSi/Al比を有しており、ナトリウム交換率が少なくとも98%であり、残りの交換容量がカリウムイオンで占められ、結合剤で凝集され、吸着剤の残留不活性結合剤が20重量%未満、好ましくは5重量%以下であるNaLSX型のゼオライトから成る。
【0013】
工業用設備では、凝集塊の形態のゼオライト吸着剤の使用は粉末の使用よりも明らかに有利である。何故なら、例えば吸着剤床を入れたり出したりする段階で粉末を取扱うときに微粉材料がかなり失われることを防止するのは、特に粉末が揮発性であるという理由からも極めて難しいからである。これは工業生産者にとってあまり経済的ではない。
【0014】
これに反して、顆粒、ビーズ、小円板、などのような粉末の凝集塊はこのような欠点を有していない。
【0015】
5重量%を上回る結合剤含量をもつゼオライト凝集塊は、結晶質ゼオライト粉末を水及び結合剤(通常は粉末形態)と混合し、次いでこの混合物を凝集シードとして作用するゼオライト凝集塊に噴霧する慣用の方法によって得られる。噴霧中に、ゼオライト凝集塊は、例えば回転軸を備えた反応装置内で“雪ダルマ”式に連続自転する。このようにして得られた凝集塊はビーズの形態を有している。
【0016】
いったん形成された後、凝集塊を、一般には500?700℃、好ましくは600℃に近い温度で硬化処理する。結合剤の例としてはカオリン、シリカ及びアルミナが挙げられる。
【0017】
好ましい凝集塊は5重量%未満の結合剤を含有する。低結合剤含量のこのような凝集塊を得る1つの方法では、上述の凝集塊の結合剤をゼオライト相に変換する。このために、ゼオライトLSX粉末をゼオライト化可能な結合剤(例えばカオリンまたはメタカオリン)によって先ず凝集させ、次いで例えばフランス特許出願No.97/09283に記載の方法によるアルカリ性浸漬によってゼオライト化し、次いでゼオライト化した顆粒のナトリウム交換を行う。本発明によればこのようにして、顆粒の少なくとも95%が交換率98%のゼオライトから成る極めて高い能力をもつ顆粒が容易に得られる。
【0018】
(発明の実施態様)
本発明の炭酸ガス除去方法は、並列に組み合わせるかまたは吸着段階と脱着段階(吸着剤の再生を目的とする)をサイクル的に連結し得る1つまたは複数の吸着剤床に気体流を通すことによって実施され得る。工業的段階では、圧力変調による吸着法(PSA)、好ましくは圧力及び温度の変調による吸着法(PTSA)を用いて方法を実施するのが有利である。PSA法及びPTSA法では圧力サイクルを使用する。第一段階では吸着剤床が吸着によって汚染物質を分離し、第二段階では圧力を降下させて吸着剤を再生する。新しいサイクル毎に吸着剤を等しいかまたは実質的に等しい再生状態に戻すように、新しいサイクル毎に汚染物質をできるだけ完全に且つ効率的に脱着することが必須である。
【0019】
気体流中に存在するCO_(2)の分圧は一般には25ミリバール以下であり、好ましくは10ミリバール未満である。
【0020】
空気のような気体流を連続的に浄化するために、複数の吸着剤床をほぼ平行に配置し、圧縮による吸着及び圧縮解除(decompression)による脱着から成るサイクルを各吸着剤床に交互に与える。PSA法及びPTSA法では、各床に与えられる処理サイクルが以下の段階から成る:
(a)汚染気体流を吸着剤床を含む吸着ゾーンに通し、吸着剤床が吸着によって(1つまたは複数の)汚染物質(この場合CO_(2))を確実に分離する段階;
(b)吸着ゾーンの入口からCO_(2)を回収するために、吸着ゾーンに圧力勾配を成立させ圧力を次第に降下させることによって吸着CO_(2)を脱着する段階;
(c)吸着ゾーンの出口から清浄気体流を導入することによって吸着ゾーンの圧力を再び上昇させる段階。
【0021】
従って、各床を、清浄気体を生産する第一段階と、圧縮解除させる第二段階と、再圧縮する第三段階とから成る処理サイクルで処理する。
【0022】
気体流から除去すべき汚染物質がCO_(2)だけである場合、上記に定義のようなゼオライトNaLSXの凝集塊から本質的に構成された吸着剤床を1つだけ吸着ゾーンに配置する。
【0023】
複数の除去すべき汚染物質が存在する場合、吸着ゾーンは複数の望ましくない不純物または汚染物質を吸着し得る複数の吸着剤床を含み得る。例えば、空気中に含まれている炭酸ガスと水とを除去するためには、水を吸着するためのアルミナまたはシリカゲルのような乾燥剤と本発明の吸着剤とを併用する。
【0024】
PSA法及びPTSA法を最適に実施するために、種々の吸着剤床の圧縮解除段階及び圧縮段階を同期化する。一方が圧縮解除段階にあり他方が再圧縮段階にある2つの吸着剤床の間の圧力を平衡させる段階を導入するのが特に有利であることが判明した。
【0025】
本発明方法を実施する間、吸着圧力は一般に0.2?20バール、好ましくは1?10バールの範囲であり、脱着圧力は一般に0.02?5バール、好ましくは0.1?2バールの範囲である。
【0026】
従来技術の炭酸ガス除去方法の場合と同様に、吸着ゾーンの温度は一般に20?80℃、好ましくは30?60℃の範囲である。従来技術の炭酸ガス除去方法の場合、吸着剤を十分に再生させるために必要な再生温度は典型的には約130?170℃であり、このためには吸着剤の加熱が必要で工業設備のコストも上がる。
【0027】
本発明は再生後に同じ能力の吸着剤を得るために使用すべき再生温度が100?120℃であり、従来技術で使用された温度よりもはるかに低いので、従来技術に比較して吸着剤の再生に関しても有意な付加的利点が得られる。
【0028】
実施例
以下の実施例では、ゼオライトは以下の実験方法で得られたSi/Al比=1のゼオライトLSXである。
(a)ゼオライトLSXの調製
以下の溶液を混合することによってSi/Al比=1のフォージャサイトLSX型のゼオライトを合成する。
溶液A:
136gの水酸化ナトリウムと(純物質として表して)73gの水酸化カリウムとを280gの水に溶解させる。溶液を100?115℃の沸点まで加熱し、次に78gのアルミナを溶解させる。完全に溶解後、溶液を放冷し、水の蒸発量を考慮して水を補充して570gとする。
溶液B:
300gの水と235.3gのケイ酸ナトリウム(25.5%SiO_(2);7.75%Na_(2)O)とを穏やかに撹拌しながら混合する。ケイ酸塩溶液をアルミン酸溶液に2500rpmで回転するRayneri型解膠性ターボミキサー(周辺速度=3.7m/秒)を使用して激しく撹拌しながら約2分間で添加し、形成されたゲルを撹拌しないで60℃で24時間静置する。この期間後、結晶化プロセスの特徴であるかなりのデカンテーションが観察される。ここで濾過し、次いで固体1gあたり約15mlの水で洗浄する。次に固体を80℃の炉で乾燥する。合成ゲルの組成は:
4Na_(2)O・1.3K_(2)O・1Al_(2)O_(3)・2SiO_(2)・91H_(2)O
である。
合成によって得られた固体を化学分析すると以下の組成:
0.77Na_(2)O・0.23K_(2)O・2SiO_(2)・1Al_(2)O_(3)
が示される。
【0029】
X線回折分析では、形成された粉末が、推定含量2%未満の微量のゼオライトAを伴う実質的に純粋なフォージャサイトから成ることが確認される。不活性雰囲気下で550℃で2時間焼成後のトルエン吸着能力を測定する。25℃、分圧0.5で観察された吸着能力は22.5%である。
【0030】
1リットルあたり1モルのNaClを含む濃度の塩化ナトリウム溶液を使用し、10ml/gの液体/固体(L/S)比でナトリウム交換試験を複数の連続的交換として90℃で3時間実施した。各交換後に1回または複数回の中間洗浄を行う。真空下で300℃で16時間ガス抜き後のCO_(2)吸着能力を測定する。
【0031】
実施例1
使用した吸着剤は、上述のLSX粉末から以下の手順で得られた顆粒である。
(焼成当量で表して)42.5gと、(焼成当量で表して)7.5gの繊維性クレーと、1gのカルボキシメチルセルロースと、直径1.6mm及び長さ約4mmの押出物の形態で押出すために十分な量の水とを混合する。押出物を80℃で乾燥し、次いで不活性雰囲気下で550℃で2時間焼成する。
表1は、15%の結合剤で凝集された種々のナトリウム交換度をもつゼオライトNaLSX顆粒について得られた結果を、25℃及び種々のCO_(2)圧力下のCO_(2)吸着能力(cm^(3)/g)として表す。これらの結果は、低分圧下の炭酸ガス除去の場合には高いナトリウム交換率をもつNaLSX吸着剤が有利であることをはっきりと示す。
【0032】
【表1】

高圧の場合よりも低圧の場合のほうが相対的な能力増加が大きいことが明らかである。
【0033】
実施例2
使用した吸着剤は、上述のゼオライトLSX粉末から以下の手順で調製した(ゼオライト化)顆粒である。
実施例1のゼオライトLSX粉末を、モンモリロナイト型クレー(15%)、カオリン型クレー(85%)、少量のカルボキシメチルセルロース及び水との混合物で凝集させることによって使用する。押出の完了後、水蒸気非含有の不活性雰囲気下で80℃で乾燥し500℃で2時間焼成する。
この凝集塊10gを濃度220g/リットルの水酸化ナトリウム溶液17mlに95℃で3時間浸漬させる。次に凝集塊を20ml/gの割合の水に浸漬させることによって連続的に4回洗浄する。
前述の条件下でトルエン吸着能力を測定すると以下の値が得られる:
凝集LSX(未処理)20.2%
凝集LSX(NaOH処理)22.4%。
【0034】
このトルエン吸着値は、吸着剤物質が95%を上回るゼオライトから成ることを示している。従って結果は、本発明のゼオライト物質の優れた効率を示しており、また、水酸化ナトリウムでゼオライト化することによって得られたLSXの高い結晶化度を示している。シリコンの高分解能NMRスペクトルは、結晶格子中のSi/Al比が1.01に等しいことを示している。
【0035】
表2は、5%のゼオライト化結合剤を含み種々のナトリウム交換率をもつゼオライトNaLSX顆粒について得られた結果を、種々のCO_(2)分圧下のCO_(2)吸着能力(cm^(3)/g)として表す。
【0036】
【表2】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-03-27 
結審通知日 2012-03-30 
審決日 2012-04-10 
出願番号 特願2000-535440(P2000-535440)
審決分類 P 1 113・ 855- ZA (B01D)
P 1 113・ 853- ZA (B01D)
P 1 113・ 121- ZA (B01D)
P 1 113・ 851- ZA (B01D)
P 1 113・ 537- ZA (B01D)
P 1 113・ 841- ZA (B01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 田中 永一
加藤 友也
登録日 2008-02-29 
登録番号 特許第4087060号(P4087060)
発明の名称 ゼオライト吸着剤を使用して気体流から炭酸ガスを除去する方法  
代理人 志賀 正武  
代理人 勝俣 智夫  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  
代理人 伏見 俊介  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  
代理人 高橋 詔男  

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