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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B26B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B26B
管理番号 1263595
審判番号 不服2012-2953  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-15 
確定日 2012-09-20 
事件の表示 特願2006- 50529「保護カバー付き刃物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月13日出願公開、特開2007-228989〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成18年2月27日の特許出願であって、同23年9月5日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同23年10月12日に意見書とともに特許請求の範囲及び明細書について手続補正書が提出されたが、同23年11月16日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同24年2月15日に本件審判の請求がされるとともに特許請求の範囲及び明細書について再度手続補正書が提出されたものである。

第2 平成24年2月15日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年2月15日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容の概要
平成24年2月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をするとともにそれに関連して明細書の一部について補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(1)補正前
「先端に刃体が設けられた柄本体の外周に対して、保護カバーが前記刃体を覆う位置と、該刃体を露出する位置間を摺動自在に配置された保護カバー付き刃物において、
前記柄本体は、片手で保持可能に形成された把持部と、該把持部に一体に連結され前記保護カバーを外周にて摺動自在に支持する支持部とを含み、
前記支持部の外周には突起が形成され、
前記保護カバーには、該保護カバーが前記刃体を覆う位置と、該刃体を露出する位置に位置する際に前記突起がそれぞれ弾性的に係合する一対の係止部が形成され、
前記保護カバーの周面には、前記把持部を握った状態の片手の親指により保護カバーの回動操作を行うための操作突部が形成されていることを特徴とする保護カバー付き刃物。」
(2)補正後
「先端に刃体が設けられた柄本体の外周に対して、保護カバーが前記刃体を覆う位置と、該刃体を露出する位置間を摺動自在に配置された保護カバー付き刃物において、
前記柄本体は、片手で保持可能に形成された把持部と、該把持部に一体に連結され前記保護カバーを外周にて摺動自在に支持する支持部とを含み、
前記支持部が前記把持部の先端部よりも小径に形成されて、前記保護カバーが刃体を露出する位置に位置する際に、該保護カバーの基端部は、前記把持部の先端面と接するように配置されて、前記保護カバーが前記支持部に侵入不能になっており、
前記支持部の外周には突起が形成され、
前記保護カバーには、該保護カバーが前記刃体を覆う位置と、該刃体を露出する位置に位置する際に前記突起がそれぞれ弾性的に係合する一対の係止部が形成され、
前記保護カバーの周面には、保護カバーの回動操作を行うための操作突部が形成されて、少なくとも露出する位置に位置する保護カバーに対して前記回動操作が行われる際、前記保護カバーが把持部の先端面に接して前記弾性に抗して回転可能とされていることを特徴とする保護カバー付き刃物。」
2 補正の適否
(1)補正の目的について
請求項1についてする補正は、柄本体の把持部と支持部との関係及び保護カバーと把持部との関係等について限定的に減縮しているものの、保護カバーの回動操作について、補正前の「把持部を握った状態の片手の親指により」という限定を削除している。
したがって、上記補正は、特許請求の範囲の減縮に該当しないことが明らかであり、また、請求項の削除、誤記の訂正ないし明りようでない記載の釈明のいずれにも該当しない。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
(2)独立特許要件について
本件補正は、上記したとおり、改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるが、仮に、上記請求項1についてする補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであったとした場合、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、検討しておく。
ア 補正発明
補正発明は、本件補正により補正された明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、以下のものであると認める。
「先端に刃体が設けられた柄本体の外周に対して、保護カバーが前記刃体を覆う位置と、該刃体を露出する位置間を摺動自在に配置された保護カバー付き刃物において、
前記柄本体は、片手で保持可能に形成された把持部と、該把持部に一体に連結され前記保護カバーを外周にて摺動自在に支持する支持部とを含み、
前記支持部が前記把持部の先端部よりも小径に形成されて、前記保護カバーが刃体を露出する位置に位置する際に、該保護カバーの基端部は、前記把持部の先端面と接するように配置されて、前記保護カバーが前記把持部に侵入不能になっており、
前記支持部の外周には突起が形成され、
前記保護カバーには、該保護カバーが前記刃体を覆う位置と、該刃体を露出する位置に位置する際に前記突起がそれぞれ弾性的に係合する一対の係止部が形成され、
前記保護カバーの周面には、保護カバーの回動操作を行うための操作突部が形成されて、少なくとも露出する位置に位置する保護カバーに対して前記回動操作が行われる際、前記保護カバーが把持部の先端面に接して前記弾性に抗して回転可能とされていることを特徴とする保護カバー付き刃物。」
(なお、上記1の(2)に示すように補正後の特許請求の範囲の請求項1には「・・・、前記保護カバーが前記支持部に侵入不能になっており、・・・」と記載されているが、上記引用箇所中の「支持部」は、平成24年5月16日付け回答書の(3)の「補正案における請求項1の『保護カバーが前記把持部に侵入不能になっており、』の補正事項は、誤記の訂正を目的としたものであり、出願当初の明細書段落番号0038の記載『執刀医師が把持部20を片手で握った状態で、』、明細書段落番号0039の記載『この状態で、執刀医師は親指により操作して保護カバー40を被覆位置から露出位置に移動操作させる。……保護カバー40が把持部20の先端面に当接すると、……。この状態で続いて執刀医師は、先ほどと同様に把持部20を片手で握った状態で、』に基づくものです。すなわち、この記載から、保護カバーが把持部に侵入不能となっていることが自明です。」の記載から、「把持部」の誤記であることが明らかであるので、補正発明を上記のように認定した。)
イ 刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本件出願前に頒布された刊行物である実公昭61-2570号公報(以下「刊行物1」という。)及び米国特許出願公開第2003/0093100号明細書(以下「刊行物2」という。)の記載内容はそれぞれ以下のとおりである。
(ア)刊行物1について
刊行物1には以下の事項が記載されている。
(ア)-1 第1欄第11行?第2欄第21行。
「本案は刃先を包被する鞘管を有する手術刀に関するもので、刃先を保護すると共に危なくなく、扱い易い上、刃先を被覆したまま消毒もできるものである。
以下実施例について説明すると、支持杆1の一端にルビー製の切刃2があり、支持杆にはその外側に摺動する先端部3aは開放状に形成された鞘管3が嵌入されており、該鞘管は刃先側に移動されて刃先をおおう部位で支持杆の外周面に止まる適当な係止部4が形成されている。一方該鞘管は施術するさいには、支持杆の後端側に移動されて、該支持杆の一端の切刃2を施術の邪摩にならない程度に露出した部位で支持杆の外周面上に止まる適当な係止部5が形成されている。鞘管の長さは任意に形成できるが、前記の切刃の露出部位で該鞘管の後端部3bが支持杆の後端部とほぼ一致するように形成するとよい場合が多い。上記鞘管の係止は支持杆の外周所要部に突起6を設け、鞘管に前記突起6が通過するスリツト7を設けると共に該スリツトの両端部壁に突起6に引つ掛かる切欠状の係止部4,5を設け、鞘管により切刃を被覆させる場合には、突起6に係止部4を引つ掛けて、切刃を使用するため露出させる場合には突起6に他方の係止部5を引つ掛けてそれぞれ係止できる。鞘管は上述の如く支持杆の外側に沿つて必要に応じて容易に切刃を被覆したり、露出させたりできるが、支持杆から抜出さないから紛失したり、落下等して破損したりする恐れが全くないし、施術のさいに邪魔にもならない。突起6は鞘管のスリツト壁が沿接して容易に鞘管が移動できると共にこれを所定位に係止できるように形成すればよく、その場合前記突起をその上端部がスリツト外に適当に突出するように形成すれば、手術刀の転動が防止できる。鞘管にはその管壁に前記スリツト7以外にもこれとほぼ同様なスリツトの適宜数を設けることができ、切刃を被覆したままでの消毒が一層し易くなるほか、滑り止めとなりゴム手袋を着用したさいの細部施術もし易くなる。」
(ア)-2 第1図?第4図
係止部4,5は、スリツト7の延出方向とは交差する方向に形成されて突起6の係入を許容する切込を含んでおり、また、上記スリツト7を含む適宜数のスリツトが鞘管3の周方向に形成されていること。
(ア)-3 刊行物1記載の発明
刊行物1には明記されていないが、手術刀の支持杆1は、片手で保持可能に形成されていることが明らかであることを考慮に入れて、刊行物1記載の事項を補正発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認めることができる。
[刊行物1記載の発明]
「先端に切刃2が設けられた片手で保持可能に形成された支持杆1の外周に対して、鞘管3が前記切刃2を覆う位置と、該切刃2を露出する位置間を摺動自在に配置された鞘管3付き手術刀において、
前記支持杆1の外周には突起6が形成され、
前記鞘管3には、該鞘管3が前記切刃2を覆う位置と、該切刃2を露出する位置に位置する際に前記突起6がそれぞれ係合する一対の係止部4,5が形成され、
前記鞘管3には、前記突起6が通過するスリット7と、これとほぼ同様なスリットの適宜数が周方向に形成されており、前記鞘管3に形成された一対の係止部4,5は、前記スリット7の両端にその延出方向とは交差する方向に形成されて突起6の係入を許容する切込を含んでいる鞘管3付き手術刀。」
(イ)刊行物2について
刊行物2には以下の事項が記載されている。なお、括弧内は、当審日本語仮訳を示す。
(イ)-1 段落【0001】
「This invention relates generally to the field of surgical knives and, more particularly, to ophthalmic surgical knives.」(本発明は、一般的に手術メスの分野に関係し、より具体的には眼科の手術メスに関係する。)
(イ)-2 段落【0015】?【0017】
「As seen in FIG. 1 , knife 10 of the present invention generally includes sheath 12 , blade 14 and handle 16 . Blade 14 may be any suitable surgical blade made, for example, from stainless steel, titanium, diamond or diamond-coated substrate, such blades being well-known in the art. Sheath 12 and handle 14 preferably are made from injection-molded thermoplastic, but may also be made from other plastics, stainless-steel or titanium. Sheath 12 preferably contains ribs or knurling 18 to make sheath 12 easier to grip. Sheath 12 is tube-like and defines bore 20 that is sized and shaped to reciprocate linearly over blade end 22 of handle 16 . As best seen in FIG. 2 , projecting into bore 20 from sheath 12 is spring latch 24 and ramp 26 . Latch 24 and ramp 26 interact with clasp 28 on blade end 22 of handle 16 in the manner discussed below.
Handle 16 preferably is rod-like having blade end 22 and gripping end 30 opposite blade end 22 . Gripping end 30 may contain a plurality of ridges 34 to allow handle 16 to be gripped more easily. As best seen in FIG. 3 , blade end 22 is of slightly reduced diameter relative to gripping end 30 and contains bore 32 that is sized and shaped to receive blade 14 . The diameter of blade end 22 is sized so that blade end 22 will linearly reciprocate within bore 20 of sheath 12 . Projecting outwardly from blade end 22 of handle 16 are spring-like cantilevered locking arms 36 and 38 of clasp 28 . Locking arms 36 and 38 contain detents 40 and 42 , and locking pins 44 and 46 , respectively.
In use, blade 14 is mounted within bore 32 of blade end 22 of handle 16 and fix by any suitable method, such as an adhesive. Sheath 12 is slid or threaded over blade end 22 of handle 16 until latch 24 contacts locking pin 46 . Pushing sheath 12 with additional force cause latch 24 to ride up and over pin 46 and into detent 42 because of the spring-like construction of latch 24 and locking arm 38 . With latch 24 held within detent 42 , sheath 12 extends out and away from handle 16 , thereby covering blade 14 , as best seen in FIG. 5 . Additional linear force on sheath 12 will cause latch 24 to ride up out of detent 42 and ride along locking arms 38 and 36 until latch 24 engages detent 40 , thereby holding sheath 12 closer to gripping end 30 of handle 16 and exposing blade 14 , as best seen in FIG. 4 . Pin 44 and ridge 48 on handle 16 prevent additional rearward movement of sheath 12 . With sheath 12 in the most rearward position shown in FIG. 4 , locking arm 38 and locking pin 46 are compressed by ramp 26 in bore 20 . Such compression firmly engages sheath 12 on handle 16 and helps prevent rocking or wobbling of sheath 12 on handle 16 with blade 14 is exposed, allowing knife 10 to be held by sheath 12 during use. Sheath 12 may be extended by pushing forwardly (away from gripping end 30 and toward blade end 22 of handle 16 ) on sheath 12 , causing latch 24 to ride up and out of detent 40 , along locking arms 38 and 36 and into detent 42 . 」(図1に示したように、本発明のメス10は、一般的にシース(さや)12、ブレード(刃)14および握り16を含んでいる。ブレード14は、たとえば、ステンレス・スチール、チタニウム、ダイアモンドまたはダイヤモンドコーティングされた基板から製造される適当な手術ブレードでよい。このようなブレードは、この技術でよく知られている。シース12および握り16(当審注:原文の「handle14」は、「handle16」の誤記である。)は射出成形プラスチック製とするのが好ましいが、その他のプラスチック、ステンレス・スチールまたはチタニウム製でもよい。シース12は、シース12をつかみやすくするために、リブまたはナーリング18をもつことが好ましい。シース12はチューブ状であり、握り16のブレード端22の上を直線的に往復する寸法および形状の穴20を画定している。図2から最もよく分かるように、シース12から穴20の中に突き出しているのは、スプリング・ラッチ24およびランプ26である。ラッチ24およびランプ26は、握り16のブレード端22の上の留め金28と以下で述べる方法により相互に作用する。
握り16は、好ましくは棒状であり、ブレード端22およびブレード端22の反対側の保持端30をもつ。保持端30は、握り16のつかみをさらに容易にする複数の隆起部34を包含できる。図3から最もよく分かるように、ブレード端22の直径は、保持端30よりやや細くなっている。また、ブレード端は、ブレード14を受け入れる寸法および形状の穴32を含んでいる。ブレード端22の直径は、ブレード端22がシース12の穴20内で直線的に往復できるような寸法をもっている。握り16のブレード端22から外側に突き出しているのは、留め金28のスプリング状片持ちロッキング・アーム36および38である。ロッキング・アーム36および38は、それぞれ、デテント40と42、およびロッキング・ピン44と46を含んでいる。
使用にあたっては、ブレード14を握り16のブレード端22の穴32の中に装着し、接着剤のような適当な方法により固定する。シース12を握り16のブレード端22の上に滑らせ、それを中に通し、ラッチ24をロッキング・ピン46に接触させる。シース12をさらに押し込み、ラッチ24のスプリング状構造およびロッキング・アーム38によりラッチ24がピン46に乗り超えてデテント42にはまるようにする。ラッチ24をデテント42内に保持している状態において、図5から最もよく分かるように、シース12は、握り16から伸び出し、それによりブレード14を被覆する。シース12にさらに直線方向に力を加えると、ラッチ24はデテント42から出てロッキング・アーム38および36に沿って進み、ラッチ24が遂にデテント40と係合することにより、図4から最もよく分かるように、シース12を握り16の保持端30近傍に保持し、ブレード14を露出させる。握り16上のピン44および隆起部48は、シース12のそれ以上後方への動きを阻止する。シース12が図4に示す最も後方の位置にあるとき、ロッキング・アーム38およびロッキング・ピン46は、穴20中のランプ26により押さえられている。かかる押さえ込みは、シース12を握り16に確実に噛み合わせ、ブレード14が露出しているときの握り16上のシース12の揺れ動きまたはぐらつきの防止に役立つ。これにより、使用中にシース12によりメス10を確実に保持できる。シース12は、シース12の上で前方に押すことにより(保持端30から離れて握り16のブレード端22の方へ)、伸ばすことができる。これにより、ラッチ24はずり上がり、デテント40から出てロッキング・アーム38および36に沿って進んでデテント42に入る。)
(イ)-3 刊行物2記載の事項
刊行物2記載の事項を技術常識を考慮に入れて整理すると、刊行物2には以下の事項が記載されていると認めることができる。
[刊行物2記載の事項]
「先端にブレード14が設けられた片手で保持可能に形成された握り16の外周に対して、シース12が前記ブレード14を覆う位置と、該ブレード14を露出する位置間を摺動自在に配置されたシース12付き手術メスにおいて、
握り16は、片手で保持可能に形成された保持端30と、該保持端30に一体に連結され前記シース12を外周にて摺動自在に支持するブレード端22とを含み、前記ブレード端22が前記保持端30よりも小径に形成されて、前記シース12がブレード14を露出する位置に位置する際に、該シース12の基端部は、前記保持端30の先端の隆起部48と接するように配置されて、前記シース12のそれ以上後方への動きを阻止するようになっていること。」
ウ 対比
補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると以下のとおりである。
刊行物1記載の発明の「切刃2」は、補正発明の「刃体」に相当する。
また、刊行物1記載の発明の「鞘管3」は、刃体を覆うことができる保護カバーであって、「保護カバー」ということができるものである。
また、刊行物1記載の発明の「片手で保持可能に形成された支持杆1」は、把持部と保護カバーを外周にて摺動自在に支持する支持部とを兼ねており、「片手で保持可能に形成された把持部と、該把持部に一体に連結され保護カバーを外周にて摺動自在に支持する支持部とを含」んでいるという限りで、補正発明の「柄本体」と共通している。
また、刊行物1記載の発明において、一対の係止部4,5は、支持部の外周に形成された突起6が通過するスリット7の両端にその延出方向とは交差する方向に形成されて上記突起6の係入を許容する切込を含んでいることからみて、上記突起6が上記一対の係止部4,5と係合するためには保護カバーの回動操作が行われるとみるのが相当である。そして、刊行物1記載の発明において、保護カバーを回動操作する際には、上記スリット7を含む保護カバーの周方向に形成された適宜数のスリットが設けられた部位が上記回動操作を行うための保護カバーの周面に形成された操作部となる。
また、刊行物1記載の発明は「鞘管3付き手術刀」として表現されているが、補正発明と同様に「保護カバー付き刃物」として表現できるものである。
したがって、補正発明と刊行物1記載の発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「先端に刃体が設けられた柄本体の外周に対して、保護カバーが前記刃体を覆う位置と、該刃体を露出する位置間を摺動自在に配置された保護カバー付き刃物において、
前記柄本体は、片手で保持可能に形成された把持部と、該把持部に一体に連結され前記保護カバーを外周にて摺動自在に支持する支持部とを含み、
前記支持部の外周には突起が形成され、
前記保護カバーには、該保護カバーが前記刃体を覆う位置と、該刃体を露出する位置に位置する際に前記突起がそれぞれ係合する一対の係止部が形成され、
前記保護カバーの周面には、保護カバーの回動操作を行うための操作部が形成されて、少なくとも露出する位置に位置する保護カバーに対して前記回動操作が行われる際、前記保護カバーが回転可能とされている保護カバー付き刃物。」
そして、補正発明と刊行物1記載の発明とは、以下の3点で相違している。
(ア)<相違点1>
補正発明では、支持部が把持部の先端部よりも小径に形成されて、保護カバーが刃体を露出する位置に位置する際に、該保護カバーの基端部は、前記把持部の先端面と接するように配置されて、前記保護カバーが前記把持部に侵入不能になっており、少なくとも露出する位置に位置する保護カバーに対して回動操作が行われる際、前記保護カバーが把持部の先端面に接して回転可能とされているのに対して、刊行物1記載の発明では、そのようになっていない点。
(イ)<相違点2>
補正発明では、支持部の外周に形成された突起が係止部に弾性的に係合し、保護カバーが前記弾性に抗して回転可能とされているのに対して、刊行物1記載の発明では、そのようになっているのかどうか明らかでない点。
(ウ)<相違点3>
補正発明では、保護カバーの回動操作を行うための操作部が、操作突部であるのに対して、刊行物1記載の発明では、上記操作部が、操作突部ではない点。
エ 相違点の検討
(ア)<相違点1>について
上記イの(イ)末尾で認定したように刊行物2には以下の事項が記載されている。「先端にブレード14が設けられた片手で保持可能に形成された握り16の外周に対して、シース12が前記ブレード14を覆う位置と、該ブレード14を露出する位置間を摺動自在に配置されたシース12付き手術メスにおいて、
握り16は、片手で保持可能に形成された保持端30と、該保持端30に一体に連結され前記シース12を外周にて摺動自在に支持するブレード端22とを含み、前記ブレード端22が前記保持端30よりも小径に形成されて、前記シース12がブレード14を露出する位置に位置する際に、該シース12の基端部は、前記保持端30の先端の隆起部48と接するように配置されて、前記シース12のそれ以上後方への動きを阻止するようになっていること。」
刊行物2記載の事項における「ブレード14」は補正発明の「刃体」に相当することが明らかであり、以下同様に、「握り16」は「柄本体」に、「シース12」は「保護カバー」に、握り16の「保持端30」は「把持部」に、握り16の「ブレード端22」は「支持部」にそれぞれ相当する。
また、刊行物2記載の事項における「シース12付き手術メス」は、「保護カバー付き刃物」ということができるものである。
さらに、刊行物2記載の事項において、シース12がブレード14を露出する位置に位置する際に、シース12のそれ以上後方への動きを阻止するようになっていることは、保護カバーが把持部に侵入不能になっていることにほかならない。
刊行物2記載の事項及び刊行物1記載の発明は、いずれも保護カバー付き刃物に関する技術であることからみて、刊行物2記載の事項を刊行物1記載の発明に適用して、柄本体の支持部が把持部の先端部よりも小径に形成されて、保護カバーが刃体を露出する位置に位置する際に、該保護カバーの基端部は、前記把持部の先端面と接するように配置されて、前記保護カバーが前記把持部に侵入不能となるように構成することは、当業者が格別の創意を要することなく容易に想到するところである。そして、このように構成することによって、刃体を露出する位置に位置する保護カバーに対して回動操作が行われる際、おのずと、前記保護カバーが把持部の先端面に接して回転可能とされることになる。
(イ)<相違点2>について
原審の平成23年9月5日付け拒絶理由通知書でもその旨指摘しているように、突起を係止部に弾性的に係合させることは、例えば、米国特許第4994045号明細書(第6欄第56行?第7欄第8行参照。)、米国特許第4425120号明細書(第4欄第15行?第29行参照。)に記載されているように従来周知であり、この従来周知の事項を刊行物1記載の発明に適用して、支持部の外周に形成された突起が係止部に弾性的に係合し、保護カバーが前記弾性に抗して回転可能とされるように構成することに格別の困難性はない。
(ウ)<相違点3>について
回動操作を行うための操作部を操作突部とすることは、特に例示するまでもない従来周知の事項であり、この従来周知の事項を刊行物1記載の発明に適用して、補正発明のように構成することにも格別の困難性はない。
(エ)<補正発明の効果>について
補正発明によってもたらされる効果も、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び上記従来周知の事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別のものではない。
オ したがって、補正発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
カ よって、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願の発明について
1 本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項に係る発明は、平成23年10月12日付け手続補正書により補正された明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本件出願の発明」という。)は、上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「保護カバー付き刃物」である。
2 刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載内容は、上記第2の2(2)に示したとおりである。
3 対比
本件出願の発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は以下の3つの相違点を除いて、「保護カバー付き刃物」として一致している。
(1)<相違点4>
本件出願の発明では、支持部の外周に形成された突起が係止部に弾性的に係合するのに対して、刊行物1記載の発明では、そのようになっているのかどうか明らかでない点。
(2)<相違点5>
本件出願の発明では、把持部を握った状態の片手の親指により保護カバーの回動操作を行うのに対して、刊行物1記載の発明では、把持部を片手で保持可能であるものの、片手の親指により保護カバーの回動操作を行うのかどうか明らかでない点。
(3)<相違点6>
本件出願の発明では、保護カバーの回動操作を行うための操作部が、操作突部であるのに対して、刊行物1記載の発明では、上記操作部が、操作突部ではない点。
4 相違点の検討
(1)<相違点4>について
上記第2の2(2)エの「(イ)<相違点2>について」で指摘したように、突起を係止部に弾性的に係合させることは、例えば、米国特許第4994045号明細書、米国特許第4425120号明細書に記載されているように従来周知であり、この従来周知の事項を刊行物1記載の発明に適用して、本件出願の発明のように構成することに格別の困難性はない。
(2)<相違点5>について
把持部を片手で保持した場合に保護カバーの回動操作を行う指としては、親指のほかに人差し指、または、親指と人差し指の両方、がごく普通に考えられるところであって、上記回動操作を行う指を親指に限定することに格別の困難性は見当たらない。
(3)<相違点6>について
相違点6は、上記第2の2(2)ウの「(ウ)<相違点3>」と同一であり、同エの「(ウ)<相違点3>について」で指摘したとおりである。
(4)<本件出願の発明の効果>について
本件出願の発明によってもたらされる効果も刊行物1記載の発明及び上記従来周知の事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別のものではない。
5 むすび
したがって、本件出願の発明は、刊行物1記載の発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-17 
結審通知日 2012-07-24 
審決日 2012-08-06 
出願番号 特願2006-50529(P2006-50529)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B26B)
P 1 8・ 121- Z (B26B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 成彦  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 長屋 陽二郎
藤井 眞吾
発明の名称 保護カバー付き刃物  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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