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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1264117
審判番号 不服2010-13130  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-16 
確定日 2012-10-03 
事件の表示 特願2000-556496「赤外フィルタなしピクセル構造」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月29日国際公開、WO99/67944、平成14年7月2日国内公表、特表2002-519853〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、1999年6月23日(パリ条約に基づく優先権主張 外国庁受理1998年6月24日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成18年6月12日に手続補正書が提出され、その後、平成21年2月13日付けの拒絶理由通知に対して同年5月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年2月19日付けで拒絶査定がなされた。
それに対して、同年6月16日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、平成23年10月20日付けで審尋がなされ、平成24年3月16日に回答書が提出された。

第2.補正の却下の決定
【補正の却下の決定の結論】
平成22年6月16日に提出された手続補正書による補正を却下する。

【理由】
1.補正の内容
平成22年6月16日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の明細書の特許請求の範囲の請求項1?3を補正して、補正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1?3とするものであり、補正前後の請求項1?3は各々次のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】 赤外光線の吸収を阻止するために予め定めた厚みを有するアモルファス・シリコン・ダイオードとインジュウム?酸化物(ITO)の導電層とを備える一組の光選択性エレメントと、そして
上記一組の光選択性エレメントと結合された制御回路と
を具備した撮像システムのピクセル構造体。
【請求項2】 入力光と制御信号に応答してセンサ信号を供給するピクセル構造体と、
上記ピクセル構造体の上に設けたフィルタ素子配列と、
上記制御信号を発生しイメージセンサを制御する制御回路と、そして
上記センサ信号に応答してイメージ・データを発生する信号処理回路と
から構成され、
上記ピクセル構造体は、赤外光線の吸収を阻止するために予め定めた厚みを有するアモルファス・シリコン・ダイオードとインジュウム?酸化物(ITO)の導電層とを備える一組の光選択性エレメントを有する、
ことを特徴とするイメージ・センサ装置。
【請求項3】 赤外光線の吸収を阻止するために予め定めた厚みを有するアモルファス・シリコン・ダイオードとインジュウム?酸化物(ITO)の導電層とを形成するステップであって、上記ダイオードと上記導電層は制御回路と結合される、ステップを備えることを特徴とする光選択性エレメントの製作方法。」

(補正後)
「【請求項1】
入力光およびリセット信号に応答してセンサ信号を供給するためのCMOS制御回路(580)上のイメージ・センサ・デバイス用ピクセル構造を備える装置であって、
前記ピクセル構造が、
水素化アモルファス・シリコンpinダイオード(510)を有する一組の光選択性エレメントと、
前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオードの非入力光側に配置された導電層(560)と、そして
前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオードの入力光側に配置されたインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層(550)と
を備え、
前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオードの真性型層(530)は0.1μmから1μmの範囲の厚さを有し、そのp型層は5nmから20nmの範囲の厚さを有し、そのn型層は5nmから40nmの範囲の厚さを有し、前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオード(510)と前記ITO導電層(550)の厚さは可視光の波長のみを吸収し赤外光線の吸収をIRフィルタを使用しないで阻止するように予め定められている、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
入力光とリセット信号に応答してセンサ信号を供給するピクセル構造体であって、水素化アモルファス・シリコンpinダイオード(510)を有する一組の光選択性エレメントと、前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオードの非入力光側に配置された導電層(560)と、そして前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオードの入力光側に配置されたインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層(550)とを備え、前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオードの真性型層(530)は0.1μmから1μmの範囲の厚さを有し、そのp型層は5nmから20nmの範囲の厚さを有し、そのn型層は5nmから40nmの範囲の厚さを有し、前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオード(510)と前記ITO導電層(550)の厚さは可視光の波長のみを吸収し赤外光線の吸収をIRフィルタを使用しないで阻止するように予め定められている、ピクセル構造体と、
上記ピクセル構造体の上に設けたフィルタ素子配列と、
上記制御信号を発生しイメージ・センサ(405)を制御する制御回路(418)と、
そして
上記センサ信号に応答してイメージ・データを発生する信号処理回路(414)と
を備えることを特徴とするイメージ・センサ・システム。
【請求項3】
水素化アモルファス・シリコンpinダイオード(510)を有する一組の光選択性エレメントと、前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオードの非入力光側に配置された導電層(560)と、そして前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオードの入力光側に配置されたインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層(550)とを形成するステップであって、前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオードの真性型層(530)は0.1μmから1μmの範囲の厚さを有し、そのp型層は5nmから20nmの範囲の厚さを有し、そのn型層は5nmから40nmの範囲の厚さを有し、前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオード(510)と前記ITO導電層(550)の厚さは可視光の波長のみを吸収し赤外光線の吸収をIRフィルタを使用しないで阻止するように予め定められている、ステップを備える方法。」

なお、ここにおいて、補正前の請求項1?3の「インジュウム?酸化物(ITO)」は、「インジュウム錫酸化物(ITO)」の誤記であることが明らかであるから、以下においては、そのように読み換える。

2.補正事項の整理
本件補正による補正事項を整理すると次のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項1を補正して、補正後の請求項1とすること。

(2)補正事項2
補正前の請求項2を補正して、補正後の請求項2とすること。

(3)補正事項3
補正前の請求項3を補正して、補正後の請求項3とすること。

3.新規事項の追加の有無、及び補正の目的の適否についての検討
(1)補正事項1について
(1-1)新規事項の追加の有無
補正事項1により補正された部分は、本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。また、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面を「当初明細書等」という。)の0017段落?0022段落及び0032段落等に記載されているものと認められるから、補正事項1は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、補正事項1は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項(平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項という。以下同じ。)に規定する要件を満たす。

(1-2)補正の目的の適否
補正事項1により、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「アモルファス・シリコン・ダイオードとインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層とを備える一組の光選択性エレメント」が、「水素化アモルファス・シリコンpinダイオード(510)を有する一組の光選択性エレメント」とする補正されている。
しかしながら、そのような補正は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「アモルファス・シリコン・ダイオードとインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層とを備える一組の光選択性エレメント」について、「インジュウム錫酸化物(ITO)の導電層とを備える」という技術的限定を削除するするものであるから、特許法第17条の2第4項(平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に係る特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
また、そのような補正が特許法第17条の2第4項のその他のいずれの号に掲げる事項を目的とするものにも該当しないことは明らかである。
したがって、補正事項1は特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。

(2)補正事項2について
(2-1)新規事項の追加の有無
補正事項2により補正された部分は、当初明細書の0017段落?0022段落等に記載されているものと認められるから、補正事項2は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、補正事項2は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

(2-2)補正の目的の適否
補正事項2により、補正前の請求項2に係る発明の発明特定事項である「赤外光線の吸収を阻止するために予め定めた厚みを有するアモルファス・シリコン・ダイオードとインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層とを備える一組の光選択性エレメント」が、「水素化アモルファス・シリコンpinダイオード(510)を有する一組の光選択性エレメント」と補正されている。
しかしながら、そのような補正は、上記(1-2)において検討したとおりの理由で、特許法第17条の2第4項のいずれの号に掲げる事項を目的とするものにも該当しない。
したがって、補正事項2は特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。

(3)補正事項3について
(3-1)新規事項の追加の有無
補正事項3により補正された部分は、当初明細書の0017段落?0022段落等に記載されているものと認められるから、補正事項3は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、補正事項3は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

(3-2)補正の目的の適否
補正事項3により、補正前の請求項3に係る発明の発明特定事項である「赤外光線の吸収を阻止するために予め定めた厚みを有するアモルファス・シリコン・ダイオードとインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層とを形成するステップであって、上記ダイオードと上記導電層は制御回路と結合される、ステップ」について、「上記ダイオードと上記導電層は制御回路と結合される」という技術的限定を削除する補正がなされているが、そのような補正は、特許法第17条の2第4項第2号に係る特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
また、そのような補正が特許法第17条の2第4項のその他のいずれの号に掲げる事項を目的とするものにも該当しないことは明らかである。
したがって、補正事項3は特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。

(4)新規事項の追加の有無、及び補正の目的の適否についてのまとめ
以上検討したとおり、補正事項1?3は、いずれも特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないから、本件補正は特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしてない。

4.独立特許要件についての検討
(1)はじめに
上記3.において検討したとおり、本件補正は特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。
しかしながら、仮に、本件補正の目的が特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件補正が同法同条同項に規定する要件を満たすものであった場合において、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについても、一応検討する。

(2)補正後の発明
本願の本件補正による補正後の請求項1?3に係る発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、上記1.に補正後の請求項1として記載したとおりのものであって、再掲すると次のとおりである。

「【請求項1】
入力光およびリセット信号に応答してセンサ信号を供給するためのCMOS制御回路(580)上のイメージ・センサ・デバイス用ピクセル構造を備える装置であって、
前記ピクセル構造が、
水素化アモルファス・シリコンpinダイオード(510)を有する一組の光選択性エレメントと、
前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオードの非入力光側に配置された導電層(560)と、そして
前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオードの入力光側に配置されたインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層(550)と
を備え、
前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオードの真性型層(530)は0.1μmから1μmの範囲の厚さを有し、そのp型層は5nmから20nmの範囲の厚さを有し、そのn型層は5nmから40nmの範囲の厚さを有し、前記水素化アモルファス・シリコンpinダイオード(510)と前記ITO導電層(550)の厚さは可視光の波長のみを吸収し赤外光線の吸収をIRフィルタを使用しないで阻止するように予め定められている、
ことを特徴とする装置。」

(3)引用刊行物に記載された発明
(3-1)本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開平4-124883号公報(「以下「引用例」という。)には、第1図?第3図と共に、次の記載がある(ここにおいて、下線は当合議体にて付加したものである。以下同じ。)。

a.「〔産業上の利用分野〕
この発明は、アモルファスSi製の光電変換薄膜を有するカラーセンサに適した光電変換装置に関する。」(1ページ左下欄20行?右下欄3行)

b.「〔従来の技術〕
従来、カラーセンサとして、単結晶Si中に光電変換用領域を形成し、表面に赤外カットフィルターおよび色フィルターを配したセンサがある。しかし、このセンサは、構造・製造工程が複雑であるため、非常にコストが高い。
一方、近年、アモルファスSi(以下、適宜「a-Si」と言う)製の光電変換薄膜を、太陽電池の他に光センサ-、あるいは、イメージセンサーに応用する試みがなされている。
第3図に図示したa-Si製光電変換薄膜51応用力ラーセンサはコストダウンが期待できる。a-Si製光電変換薄膜51の場合、製造工程が簡単であるし、対波長感度特性が人間の目のそれに近くて赤外域の感度が低く赤外カットフィルタの省略が可能であり、ガラス基板上に作り付け同ガラス基板にそのまま保護板機能を兼ねさせることもできるからである。
第3図のカラーセンサの場合、光入射側に赤(R)・緑(G)・青(B)用の3つの色フィルタ52a、52b、52cがガラス基板53表面に並べて設けられ、同基板53裏面の透明電極54を透過してa-Si製光電変換薄膜51に光が達すると、透明電極54および裏面電極55a、55b、55cの間にRGB信号が発生する。
しかしながら、このカラーセンサは、色フィルタを光入射側に設ける必要があるため、十分な低コスト化を図ることは無理であり、RGB3つ分を合わせた広い基板面積を必要とし各色毎にそれぞれフィルタを必要とする構造は、高集積化が図り難く、カラーイメージセンサに用いることは難しい。
〔発明が解決しようとする課題〕
この発明は、上記事情に鑑み、色フィルタを必要とせず、高集積化が図り易くてカラーセンサに通した光電変換装置を提供することを課題とする。」(1ページ右下欄4行?2ページ左上欄20行)

c.「以下、この発明をより具体的に説明する。
光入射側にある第1光電変換薄膜は青色検出用であり、中間の第2光電変換薄膜は緑色検出用であり、光入射側と反対の側の第3光電変換薄膜は赤色検出用である。
一般に、a-Si製薄膜の場合、短波長光に対して吸収係数が大きく、波長が長くなるに従い吸収係数が小さくなる性質がある。a-Si光電変換薄膜に、青、緑、赤の各光が入射した場合、それぞれの光を90%吸収するのに必要な膜深さは、下記の通りである。
光の色 波長 吸収係数 膜深さ
(nm) (cm^(-1)) (μm)
青 480 1×10^(5) 0.23
緑 550 5×10^(4) 0.49
赤 650 5×10^(2) 2.3
つまり、a-Si光電変換薄膜が光入射側から順に0.23μm、0.26μm、1.81μmであれば、青色光は第1光電変換薄膜で殆ど吸収され、緑色光は第2光電変換薄膜までで殆ど吸収され、第3光電変換薄膜では赤色光のみが吸収されるということになる。」(2ページ右上欄8行?左下欄9行)

d.「この発明における光電変換薄膜では、光電変換に直接与からないp型a-Si層とn型a-Si層は極く薄く(数100Å以下、通常100?300Å)でイントリンシックアモルファスSi(以下、適宜「i型a-Si」と言う)層の厚みに比べ非常に小さい。そのため、光電変換薄膜厚みは、事実上、i型a-Si層に支配される。各光電変換薄膜における各色の光の吸収が上記のように適切な状態であるためには、i型a-Si層の厚みは、請求項2のように、すなわち、下記の範囲にあることが好ましい。
光入射側の光電変換薄膜(第1光電変換薄膜)のイントリンシックアモルファスSi層:0.2?0.5μm
中間の光電変換薄膜(第2光電変換薄膜)のイントリンシックアモルファスSi層:0.3?1.8μm
光入射側とは逆の側の光電変換薄膜(第3光電変換薄膜)のイントリンシックアモルファスSi層:0.1?2.0μm
赤色光入射の場合、第1、2光電変換薄膜の出力にも赤色光吸収分が出るし、緑色光入射の場合は、第1光電変換薄膜の出力にも緑色光吸収分が出る。また、青、緑、赤の色の光のうち2以上が同時に入射する場合、第1、2光電変換薄膜の出力には他の色の光吸収分が含まれる。しかし、信号処理の段階で他の出力を使い他色の混入光吸収分を除く補正を行うようにして、RGB信号を得ることができるので問題ない。例えば、青色光と赤色光が同時に入射した場合、第1光電変換薄膜には青色光吸収分の他、赤色光吸収分も含まれるが、信号処理の段階で、第3光電変換薄膜の出力を使い、第1光電変換薄膜に出力から赤色光吸収分を差し引く補正を行えば、この補正出力がB信号になるのである。」(2ページ左下欄10行?3ページ左上欄4行)

e.「 -実施例2-
以下のようにして、第1図と第2図に示す構成の光電変換装置を得た。
表面に酸化膜が形成されたSiウェハを用い、同ウェハ上に厚み0.2μmのCr薄膜を形成し、パターン化して所定形状の電極を設けた。
ついで、プラズマCVD法により、厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.6μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層し、フォトリソグラフィ技術を用いパターン化し、所定形状の第3光電変換薄膜を設けた。
第3光電変換薄膜の上に、厚み0.2μmのITO薄膜をEB蒸着により形成し、フォトリソグラフィ技術を用いパターン化し、所定形状の透明な電極を設けた。
電極形成に続いて、プラズマCVD法により、厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.6μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層し、フォトリソグラフィ技術を用いパターン化し、所定形状の第2光電変換薄膜を設けた。その後、厚み0.2μmのITO薄膜をEB蒸着により形成し、フォトリソグラフィ技術を用いパターン化し、所定形状の透明な電極を設けた。
この後、再び、プラズルCVD法(審決注:「プラズマCVD法」の誤記)により、厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.4μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層し、フォトリソグラフィ技術を用いパターン化し、所定形状の第1光電変換薄膜を設けた。最後に、厚み0.2μmのITO薄膜を形成し、フォトリソグラフィ技術を用いパターン化し、所定形状の透明な電極を設け、光電変換装置を完成した。
そして、この光電変換装置に、基板側とは反対の側から青、緑、赤の各色の光を入射し、光電変換特性を調べた。
波長480nmの青色光の場合、第1光電変換薄膜に約0.7Vの電圧が発生した。第2、3光電変換薄膜には電圧が殆ど発生しなかった。
波長550nmの緑色光の場合、第2光電変換薄膜に約0.7Vの電圧が発生した。第3光電変換薄膜には電圧が殆ど発生しなかった。なお、第2光電変換薄膜では緑色光の約40%が吸収される。
波長650nmの赤色光の場合、第3光電変換薄膜に約0.7Vの電圧が発生した。なお、第3光電変換薄膜では赤色光の約25%が吸収される。
また、光の強度を変えると強度に応じた出力電流が得られることも確認できた。」(4ページ右上欄9行?右下欄14行)

(3-2)ここにおいて、摘記事項e.に記載された「実施例2」に係る光電変換装置(以下「引用例の光電変換装置」という。)に注目すると、摘記事項e.の記載並びに第1図及び第2図の記載から、引用例の光電変換装置は、表面に酸化膜が形成されたSiウェハ上に厚み0.2μmのCr薄膜電極が設けられ、その上に厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.6μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層してなる第3光電変換薄膜を設けられ、その上に厚み0.2μmのITO薄膜からなる透明な電極が設けられ、その上に厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.6μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層してなる第2光電変換薄膜が設けられ、その上に厚み0.2μmのITO薄膜からなる透明な電極が設けられ、その上に厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.4μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層してなる第1光電変換薄膜が設けられ、その上に厚み0.2μmのITO薄膜からなる透明な電極が設けられたものであることが明らかである。
また、摘記事項e.の「そして、この光電変換装置に、基板側とは反対の側から青、緑、赤の各色の光を入射し、光電変換特性を調べた。」という記載における「基板側」とは、「Siウェハ」の側であることが明らかである。

(3-3)したがって、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「光電変換装置において、
表面に酸化膜が形成されたSiウェハ上に厚み0.2μmのCr薄膜電極が設けられ、その上に厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.6μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層してなる第3光電変換薄膜を設けられ、その上に厚み0.2μmのITO薄膜からなる透明な電極が設けられ、その上に厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.6μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層してなる第2光電変換薄膜が設けられ、その上に厚み0.2μmのITO薄膜からなる透明な電極が設けられ、その上に厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.4μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層してなる第1光電変換薄膜が設けられ、その上に厚み0.2μmのITO薄膜からなる透明な電極が設けられ、
前記Siウェハの側とは反対の側から青、緑、赤の色の光を入射するものである光電変換装置。」

(4)補正発明と引用発明との対比
(4-1)引用発明の「光電変換装置」と補正発明の「イメージ・センサ・デバイス用ピクセル構造」とは、共に光電変換を実現する構造である点で一致する。
また、引用発明の「光電変換装置」が入力光に反応するものであり、光の検出信号、すなわちセンサ信号を供給するという機能を有していることは当業者にとって自明である。
したがって、補正発明と引用発明とは、「『入力光』『に応答してセンサ信号を供給するための』光電変換を実現する構造『を備える装置』」である点で一致する。

(4-2)引用発明の「厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.6μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層してなる第3光電変換薄膜」、「厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.6μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層してなる第2光電変換薄膜」及び「厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.4μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層してなる第1光電変換薄膜」が、各々ダイオードとして機能すること、及び特定の波長の光に反応して電圧を発生する性質、すなわち光選択性を備えていることは明らかであり、引用発明の「a-Si」がアモルファス・シリコンを意味することは当業者の技術常識である。
したがって、引用発明の「厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.6μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層してなる第3光電変換薄膜」、「厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.6μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層してなる第2光電変換薄膜」及び「厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.4μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層してなる第1光電変換薄膜」の各々は、補正発明の「『アモルファス・シリコンpinダイオード(510)を有する』『光選択性エレメント』」に相当する。

(4-3)引用発明の「第3光電変換薄膜」の「Siウェハ」の側に設けられた0.2μmのCr薄膜電極、並びに、「第2光電変換薄膜」及び「第1光電変換薄膜」の各々の「Siウェハの側」に設けられた「0.2μmのITO薄膜」は、各々補正発明の「『前記』『アモルファス・シリコンpinダイオードの非入力光側に配置された導電層(560)』」に相当する。
また、引用発明の「第3光電変換薄膜」、「第2光電変換薄膜」及び「第1光電変換薄膜」の各々の「Siウェハ」の側とは反対の側に設けられた「0.2μmのITO薄膜」は、各々補正発明の「『前記』『アモルファス・シリコンpinダイオードの入力光側に配置されたインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層(550)』」に相当する。
したがって、補正発明と引用発明とは、「『前記』光電変換を実現する構造が、『アモルファス・シリコンpinダイオード(510)を有する』『光選択性エレメントと、 前記』『アモルファス・シリコンpinダイオードの非入力光側に配置された導電層(560)と、そして 前記』『アモルファス・シリコンpinダイオードの入力光側に配置されたインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層(550)とを備え』」ている点で一致する。

(4-4)引用発明の「i型a-Si層」、「p型a-Si層」及び「n型a-Si層」が、各々補正発明の「真性型層」、「p型層」及び「n型層」に相当することは、当業者にとって自明である。
そして、引用発明の「第3光電変換薄膜」、「第2光電変換薄膜」及び「第1光電変換薄膜」における「i型a-Si層」の厚さは、各々「0.6μm」、「0.6μm」及び「0.4μm」であって、いずれも「0.1μmから1μmの範囲の厚さ」であり、引用発明の「第3光電変換薄膜」、「第2光電変換薄膜」及び「第1光電変換薄膜」における「p型a-Si層」の厚さは、すべて「0.01μm」であって、いずれも「5nmから20nmの範囲の厚さ」であり、引用発明の「第3光電変換薄膜」、「第2光電変換薄膜」及び「第1光電変換薄膜」における「n型a-Si層」の厚さは、すべて「0.01μm」であって、いずれも「5nmから40nmの範囲の厚さ」である。
したがって、補正発明と引用発明とは、「前記アモルファス・シリコンpinダイオードの真性型層(530)は0.1μmから1μmの範囲の厚さを有し、そのp型層は5nmから20nmの範囲の厚さを有し、そのn型層は5nmから40nmの範囲の厚さを有し」ている点で一致する。

(4-5)以上を総合すると、補正発明と引用発明とは、

「入力光に応答してセンサ信号を供給するための光電変換を実現する構造を備える装置であって、
前記光電変換を実現する構造が、
アモルファス・シリコンpinダイオード(510)を有する光選択性エレメントと、
前記アモルファス・シリコンpinダイオードの非入力光側に配置された導電層(560)と、そして
前記アモルファス・シリコンpinダイオードの入力光側に配置されたインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層(550)と
を備え、
前記アモルファス・シリコンpinダイオードの真性型層(530)は0.1μmから1μmの範囲の厚さを有し、そのp型層は5nmから20nmの範囲の厚さを有し、そのn型層は5nmから40nmの範囲の厚さを有している、
ことを特徴とする装置。」

である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
補正発明は、「CMOS制御回路(580)上のイメージ・センサ・デバイス用ピクセル構造を備える装置」であって、「センサ信号」の供給が「リセット信号に応答して」なされるものであるのに対して、引用発明は、「光電変換装置」そのものであって、「センサ信号」の供給が「リセット信号に応答して」なされる構成ともなっていない点。

(相違点2)
「アモルファス・シリコンpinダイオード(510)」を構成する「アモルファス・シリコン」が、補正発明では「水素化」されたものであるのに対して、引用発明ではそのような特定がなされていない点。

(相違点3)
補正発明は、「前記ピクセル構造」が「一組の光選択性エレメント」を備えているのに対して、引用発明は、「光電変換装置」が「第3光電変換薄膜」、「第2光電変換薄膜」及び「第1光電変換薄膜」という3組の「光選択性エレメント」を備えている点。

(相違点4)
補正発明は、「アモルファス・シリコンpinダイオード(510)と前記ITO導電層(550)の厚さは可視光の波長のみを吸収し赤外光線の吸収をIRフィルタを使用しないで阻止するように予め定められている」のに対して、引用発明はそのようなことが特定されていない点。

(5)相違点についての当審の判断
(5-1)相違点1について
(5-1-1)一般に、光電変換装置をイメージ・センサ・デバイス用ピクセル構造に適用することは、当業者における周知技術であって、引用例の従来技術についての「一方、近年、アモルファスSi(以下、適宜「a-Si」と言う)製の光電変換薄膜を、太陽電池の他に光センサ-、あるいは、イメージセンサーに応用する試みがなされている。」(1ページ右下欄10行?13行)という記載から、引用例においても、引用発明をイメージセンサーに応用すること、すなわち、イメージ・センサ・デバイス用ピクセル構造に適用することが想定されていることは明らかである。
そして、一般に、光電変換装置をイメージ・センサ・デバイス用ピクセル構造に適用するに当たり、光電変換装置をMOSトランジスタを用いた制御回路の上部に形成する構造とすることは、例えば、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である下記周知例1にも記載されているように、当業者における周知技術であり、さらに、一般に、MOSトランジスタを用いて回路を構成する場合において、NMOS、PMOS又はCMOSのうちのどのトランジスタを採用するかは、速度や消費電力、更には製造装置等を考慮して当業者が適宜選択し得る設計的事項であって、いずれのトランジスタも広く採用されてきているところ、イメージセンサの制御回路をCMOSトランジスタで実現することも、例えば、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である下記周知例2にも記載されているように、当業者において従来から行われてきていることである。
さらに、光電変換装置をMOSトランジスタを用いた制御回路の上部に形成する構造とした場合には、下記周知例1にも記載されているように、光電変換装置がリセットトランジスタに応答して出力信号を供給する構成となることは当業者の技術常識である。

a.周知例1:特開平10-93066号公報
上記周知例1には、図1、12及び13と共に次の記載がある。
「【0016】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1は、この発明の第1の実施の形態に於ける固体撮像装置の構成を示した図である。
【0017】図1に於いて、単位セルは、フォトダイオード21、読出しトランジスタ22、増幅トランジスタ23、リセットトランジスタ24から成っており、ソース線25に接続された読出しトランジスタ26は、信号線27を通じて増幅トランジスタ23とソースフォロワ回路を構成している。」
「【0056】次に、この発明の第4の実施の形態について説明する。図12及び図13は、光電変換部を積層した構造の増幅型固体撮像素子について示したもので、図12は増幅型固体撮像素子の1画素分についての信号線とドレイン線の配置構成を示した図、図13は図12の増幅型固体撮像素子の配線配置についての半面配置を示した図である。
【0057】上述した第3の実施の形態と同様に、先ず素子部分から形成される。尚、このとき、第3の実施の形態の光電変換部となる部分でも一部電荷を蓄積することができる。
【0058】そして、信号電荷を蓄積部73に運ぶために、絶縁層74にRIE等を用いて公が形成され、タングステンCVD等により金属の柱(プラグ)75が形成される。この後、スパッタリング法等により、Al(アルミニウム)膜が、例えば400nm堆積されて、レジストのパターニング、RIE等によって所望の形状に形成される。これにより、ドレイン線76と金属キャップ77が同時に形成される。
【0059】この後、シリコン酸化膜74が堆積され、再度、レジストのパターニング、RIE、金属膜の堆積等が繰返されて、金属プラグ78上に信号線79及び金属キャップ80が形成される。このとき、信号線79と同層で金属キャップ80が形成されるので、信号線79と金属キャップ80が電気的に接触しないようにしなければならない。このため、信号線79と金属キャップ80の間には、0.6μm以上の間隔を保って電気的に接触する危険性を避けるようにする。
【0060】このため、図12からも分かるように、信号線79は、ドレイン線76の上に重ならないように配線することはできない。つまり、信号線79とドレイン線76は、重ねられた構造にしなくてはならない。
【0061】信号線まで形成された後は、再度シリコン酸化膜74が堆積され、RIEによる加工、金属膜の堆積加工が行われて金属プラグ81が形成される。この後、例えば、Ti等の金属が堆積され、RIE等による形状加工が行われて画素電極82が形成される。
【0062】最後に、光電変換層83として、例えばアモルファスSi膜が堆積され、光電変換層83上、すなわち最上部に、例えばITO等で構成される透明電極84が堆積される。」

上記記載、及び図1、12及び13の記載から、上記周知例1には、イメージセンサーである固体撮像素子において、光電変換層83を、読出しトランジスタ22、増幅トランジスタ23、リセットトランジスタ24、読出しトランジスタ26等のMOSトランジスタを含む制御回路の上に形成する構造が記載されているものと認められる。

b.周知例2:特開平6-117924号公報
上記周知例2には、図6と共に次の記載がある。
「【0029】図6に示す如く、信号処理回路28は、フォトダイオードアレイ26X,26Yを構成している合計200個のフォトダイオードD1?D200に、夫々、コンデンサC1?C200を並列接続すると共に、このコンデンサC1?C200の端子電圧を外部に取り出すためのCMOS型のトランジスタTR1?TR200と、各コンデンサC1?C200を充電するためのCMOS型のトランジスタTR0とを各画素毎に設けることにより、フォトダイオードアレイ26X,26Yの各画素毎に検出回路K1?K200を形成し、各検出回路K1?K200毎に、順次、コンデンサC1?C200を基準電圧V1で充電した後所定時間経過する間にフォトダイオードD1?D200を介して放電される電荷量を検出し、これを各フォトダイオードD1?D200が受光した光量を表す検出信号SOUTとして出力する、CMOS型のイメージセンサとして構成されている。」

上記記載から、上記周知例2には、イメージセンサの制御回路である信号処理回路28をCMOS型のトランジスタを用いて構成することが記載されているものと認められる。

(5-1-2)したがって、引用発明に接した当業者であれば、引用発明の「光電変換装置」を、CMOS制御回路の上に形成してイメージ・センサ・デバイス用ピクセル構造とし、リセット信号に応答して光検出信号を供給する構成とすること、すなわち、補正発明のように、「CMOS制御回路(580)上のイメージ・センサ・デバイス用ピクセル構造を備える装置」であって、「センサ信号」の供給が「リセット信号に応答して」なされる構成とすることは当業者が容易になし得たことである。
よって、相違点1は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(5-2)相違点2について
(5-2-1)一般に、受光素子等にアモルファスシリコンを用いる場合において、そのままではダングリングボンドが多く実用に供し難いため、例えば、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である下記周知例3にも記載されているように、ダングリングボンドを水素で終端させた水素化アモルファスシリコンを用いることが通常行われている。

a.周知例3:特開平6-181300号公報
上記周知例3には、図1及び2と共に次の記載がある。
「【0018】
【実施例】次に、本発明に係る半導体装置の製造方法の実施例を図面に基づいて詳しく説明する。
【0019】半導体装置として半導体素子であるフォトダイオード及びブロッキングダイオードと、マトリックス配線とを有する原稿読み取り装置を例にして説明する。図2(c)に示すように、本発明方法により製造される原稿読み取り装置10は絶縁基板12上に下部電極14と半導体部16と上部電極18とから成る1対の半導体素子20(フォトダイオード),22(ブロッキングダイオード)が複数配列させられて構成されている。このような構造の原稿読み取り装置10は概略次のようにして製造される。
【0020】図1(a)に示すように、先ずガラスなどから成る絶縁基板12上に第1の下部電極層24と第2の下部電極層25から成る下部電極層と、半導体層26及び上部電極層28をこの順にそれぞれ成膜して積層する。
(途中略)
【0023】次に、半導体層26はたとえば水素化アモルファスシリコンa-Si:Hを用いてpin構造のフォトダイオードの構造に堆積されたものが用いられる。すなわち、先ずホウ素Bあるいは周期律表第3族の元素をドープしたp形a-Si:H、ノンドープのi形a-Si:H、リンPあるいは周期律表第5族の元素をドープしたn形a-Si:Hを順に堆積して形成され、これらp層,i層,n層は真空を保持しつつ連続して成膜するのが好ましい。なお、本実施例ではpin構造に限らず、逆の順に積層したnip構造であっても良い。」

上記記載から、上記周知例3には、フォトダイオードに水素化アモルファスシリコンa-Si:Hを用いることが記載されているものと認められる。

(5-2-2)したがって、引用発明において用いられている「a-Si」も、実際には水素化されたもの、すなわち補正発明のように「水素化アモルファス・シリコン」であると解されるから、相違点2は実質的なものではない。
また、仮に、引用発明において用いられている「a-Si」が水素化されたものであるとまではいえず、相違点2が実質的なものであったとしても、上に述べた技術常識に鑑み、相違点2は当業者が適宜なし得た範囲に含まれる程度のものである。

(5-3)相違点3について
(5-3-1)相違点3は、補正発明が、カラーフィルタを用いることを前提とし、入射光に応じて1つの電気信号を出力する構造となっているのに対して、引用発明は、カラーフィルタを用いないことを前提とし、入射光に応じて3つの電気信号を出力する構造(いわゆるタンデム構造)となっていることに起因するものと認められる。
そして、引用発明においてそのような構造を採用している理由は、引用例の「しかしながら、このカラーセンサは、色フィルタを光入射側に設ける必要があるため、十分な低コスト化を図ることは無理であり、RGB3つ分を合わせた広い基板面積を必要とし各色毎にそれぞれフィルタを必要とする構造は、高集積化が図り難く、カラーイメージセンサに用いることは難しい。・・・この発明は、上記事情に鑑み、色フィルタを必要とせず、高集積化が図り易くてカラーセンサに通した光電変換装置を提供することを課題とする。」(2ページ左上欄9行?20行)という記載から明らかなように、カラーフィルタを必要とせず、高集積化を実現するためであることが明らかである。
すなわち、引用発明は、カラーフィルタを必要とせず、高集積化を実現するために、補正発明のような入射光に応じて1つの電気信号を出力する構造に対して改良を加えたものであることが明らかであるから、引用発明において、タンデム構造に換えて、補正発明のような入射光に応じて1つの電気信号を出力する構造としても(引用発明において、「光電変換装置」が「第3光電変換薄膜」、「第2光電変換薄膜」及び「第1光電変換薄膜」という3組の「光選択性エレメント」を備えている構造に換えて、補正発明のように、「前記ピクセル構造」が「一組の光選択性エレメント」を備えている構造としても)、カラーフィルタを必要とし、高集積化が困難であるという点で引用発明には劣るものの、光電変換装置として問題なく機能するということは、当業者であれば直ちに察知し得たことである。
よって、相違点3は、当業者が適宜なし得た範囲に含まれる程度のものである。

(5-3-2)相違点3については以上のとおりであるが、引用発明において、タンデム構造に換えて、補正発明のような入射光に応じて1つの電気信号を出力する構造とした場合には、変更後の構造において光電変換が問題なく行えるよう、光電変換特性を「『事実上』『支配』」(引用例2ページ左下欄16行)する「i型a-Si層」の厚さについて設計し直すことが当然必要となるものと認められる。
したがって、上に述べた構造の変更により、上記(4)(4-4)における対比において補正発明と引用発明とで相違しないと判断した、補正発明の「アモルファス・シリコンpinダイオードの真性型層(530)は0.1μmから1μmの範囲の厚さを有し」という構成について、改めて検討することが必要となるが、これについては、後記(5-4)において相違点4とまとめて検討する。

(5-4)相違点4について
(5-4-1)上記(5-3)において検討したとおり、引用発明において、「光電変換装置」が「第3光電変換薄膜」、「第2光電変換薄膜」及び「第1光電変換薄膜」という3組の「光選択性エレメント」を備えている構造に換えて、補正発明のように、「前記ピクセル構造」が「一組の光選択性エレメント」を備えている構造とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ところで、引用発明はa-Si薄膜を光電変換薄膜として使用しているが、引用例には、「従来の技術」についての説明において、「a-Si製光電変換薄膜51の場合、製造工程が簡単であるし、対波長感度特性が人間の目のそれに近くて赤外域の感度が低く赤外カットフィルタの省略が可能であり、」(1ページ右下欄16行?19行)と記載されており、当該a-Si薄膜を光電変換薄膜として使用する場合の利点として、対波長感度特性が人間の目のそれに近い、すなわち可視光を吸収するとともに、赤外域での感度が低い、すなわち赤外光線を吸収しないことが明示されている。
一方、引用例の
「一般に、a-Si製薄膜の場合、短波長光に対して吸収係数が大きく、波長が長くなるに従い吸収係数が小さくなる性質がある。a-Si光電変換薄膜に、青、緑、赤の各光が入射した場合、それぞれの光を90%吸収するのに必要な膜深さは、下記の通りである。
光の色 波長 吸収係数 膜深さ
(nm) (cm^(-1)) (μm)
青 480 1×10^(5) 0.23
緑 550 5×10^(4) 0.49
赤 650 5×10^(2) 2.3 」
という記載からも明らかなように、a-Si光電変換薄膜は、厚いほど波長の長い光を吸収することが当業者の技術常識である。

(5-4-2)したがって、引用発明において、補正発明のように、「前記ピクセル構造」が「一組の光選択性エレメント」を備える構造とした場合において、「p型a-Si層」、「n型a-Si層」、「ITO薄膜」の厚さが、各々「0.01μm」、「0.01μm」及び「0.2μm」という条件下で、「i型a-Si層」の厚さを、わざわざ赤外光線を吸収するような厚いものとはせず、可視光は吸収するが赤外光線を吸収しないような薄いものとすること、すなわち、補正発明にように、「アモルファス・シリコンpinダイオード(510)と前記ITO導電層(550)の厚さは可視光の波長のみを吸収し赤外光線の吸収をIRフィルタを使用しないで阻止するように予め定められている」構造とすることは、当業者であれば当然になし得たことである。
よって、相違点4は、当業者が当然になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(5-4-3)最後に、引用発明において、補正発明のように、「前記ピクセル構造」が「一組の光選択性エレメント」を備える構造とした場合における「i型a-Si層」の厚さの数値範囲について検討する。
上記(5-4-2)において検討したとおり、引用発明において、補正発明のように、「前記ピクセル構造」が「一組の光選択性エレメント」を備える構造とした場合においても、「p型a-Si層」、「n型a-Si層」、「ITO薄膜」の厚さが、各々「0.01μm」、「0.01μm」及び「0.2μm」という条件下で、「i型a-Si層」の厚さを、わざわざ赤外光線を吸収するような厚いものとはせず、可視光は吸収するが赤外光線を吸収しないような薄いものとすることは、当業者が当然になし得たことである。
そして、pinダイオード構造を有し、青、緑、赤のような可視光用の光電変換装置において、波長感度が特にi層の厚さに依存することは当業者の技術常識であり、かつ、引用例の2ページ左下欄1行?3行には、例えば青色光を吸収する場合には、「i型a-Si層」の厚さを「0.23μm」とすることが記載されているから、当業者にとって、引用発明において、補正発明のように、「前記ピクセル構造」が「一組の光選択性エレメント」を備える構造とした場合において、「i型a-Si層」の厚さを補正発明のように「0.1μmから1μmの範囲」とすること自体に何らの困難性もないことは明らかである。
そして、補正発明において「アモルファス・シリコンpinダイオードの真性型層(530)は0.1μmから1μmの範囲の厚さ」とすることの効果は、「可視光(青、緑および赤)の内の望ましい波長を吸収するが、赤外領域の光の波長はカットする。」(本願の明細書の0022段落)というものであることが明らかであるが、そのような効果は、引用例の「a-Si製光電変換薄膜51の場合、製造工程が簡単であるし、対波長感度特性が人間の目のそれに近くて赤外域の感度が低く赤外カットフィルタの省略が可能であり、」(1ページ右下欄16行?19行)という記載から当業者が予測できるものにすぎない。
したがって、引用発明において、補正発明のように、「前記ピクセル構造」が「一組の光選択性エレメント」を備える構造とした場合において、「p型a-Si層」の厚さを補正発明のように「0.1μmから1μmの範囲」とすることは当業者が容易になし得たことである。

(5-5)相違点についての判断のまとめ
以上のとおりであるから、補正発明は、周知技術を勘案することにより、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)独立特許要件についてのまとめ
以上検討したとおり、補正発明は、周知技術を勘案することにより、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項をいう。以下同じ。)の規定に適合しない。

5.補正の却下の決定のむすび
以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしておらず、また、仮に当該要件を満たすものであったとしても、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明についての検討
1.本願発明
平成22年6月16日に提出された手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成21年5月21日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、上記第2.1.に補正前の請求項1として記載した次のとおりのものである。

「【請求項1】 赤外光線の吸収を阻止するために予め定めた厚みを有するアモルファス・シリコン・ダイオードとインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層とを備える一組の光選択性エレメントと、そして
上記一組の光選択性エレメントと結合された制御回路と
を具備した撮像システムのピクセル構造体。」

2.引用刊行物に記載された発明
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開平4-124883号公報(引用例)には、上記第2.4.(3)に記載した事項及び次のとおりの発明(引用発明)が記載されているものと認められる。

「光電変換装置において、
表面に酸化膜が形成されたSiウェハ上に厚み0.2μmのCr薄膜電極が設けられ、その上に厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.6μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層してなる第3光電変換薄膜を設けられ、その上に厚み0.2μmのITO薄膜からなる透明な電極が設けられ、その上に厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.6μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層してなる第2光電変換薄膜が設けられ、その上に厚み0.2μmのITO薄膜からなる透明な電極が設けられ、その上に厚み0.01μmのp型a-Si層、厚み0.4μmのi型a-Si層、厚み0.01μmのn型a-Si層を積層してなる第1光電変換薄膜が設けられ、その上に厚み0.2μmのITO薄膜からなる透明な電極が設けられ、
前記Siウェハの側とは反対の側から青、緑、赤の色の光を入射するものである光電変換装置。」

3.本願発明と引用発明との対比
(1)引用発明の「a-Si」がアモルファス・シリコンを意味することは当業者の技術常識であり、また、引用発明の「第3光電変換薄膜」、「第2光電変換薄膜」及び「第1光電変換薄膜」を構成する「p型a-Si層」、「i型a-Si層」及び「n型a-Si層」の積層構造が、各々ダイオードを形成していることは当業者にとって明らかである。
したがって、引用発明の「光電変換装置」と本願発明の「赤外光線の吸収を阻止するために予め定めた厚みを有するアモルファス・シリコン・ダイオードとインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層とを備える一組の光選択性エレメント」とは、「『予め定めた厚みを有するアモルファス・シリコン・ダイオードとインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層とを備える』『光選択性エレメント』」である点で一致する。
また、引用発明の「光電変換装置」と本願発明の「撮像システムのピクセル構造体」とは、共に光電変換を実現する構造体である点で一致する。

(2)したがって、本願発明と引用発明とは、
「予め定めた厚みを有するアモルファス・シリコン・ダイオードとインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層とを備える光選択性エレメント
を具備した光電変換を実現する構造体。」

である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点5)
「光選択性エレメント」が、本願発明は、「一組の光選択性エレメント」であるのに対して、引用発明は、「第3光電変換薄膜」、「第2光電変換薄膜」及び「第1光電変換薄膜」、並びに各「光電変換薄膜」に対応する「ITO薄膜」からなる3組の「光選択性エレメント」である点。

(相違点6)
本願発明は、「アモルファス・シリコン・ダイオードとインジュウム錫酸化物(ITO)の導電層」の「予め定めた厚み」が、「赤外光線の吸収を阻止するため」のものであるのに対して、引用発明はそのような特定がなされていない点。

(相違点7)
本願発明は、「光選択性エレメントと結合された制御回路とを具備した撮像システムのピクセル構造体」であるのに対して、引用発明は、「光電変換装置」そのものである点。

4.相違点についての当審の判断
(1)相違点5について
相違点5は、相違点3と同様に、本願発明が、カラーフィルタを用いることを前提とし、入射光に応じて1つの電気信号を出力する構造となっているのに対して、引用発明は、カラーフィルタを用いないことを前提とし、入射光に応じて3つの電気信号を出力する構造(いわゆるタンデム構造)となっていることに起因するものと認められるから、相違点3と同様に、当業者が適宜なし得た範囲に含まれる程度のものである。

(2)相違点6について
相違点6は、技術的にみて相違点4と実質的に同じでものあると認められるから、相違点4と同様に、当業者が当然になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(3)相違点7について
一般に、光電変換装置を撮像システムのピクセル構造体に適用することは、当業者における周知技術であって、引用例の従来技術についての「一方、近年、アモルファスSi(以下、適宜「a-Si」と言う)製の光電変換薄膜を、太陽電池の他に光センサ-、あるいは、イメージセンサーに応用する試みがなされている。」(1ページ右下欄10行?13行)という記載から、引用例においても、引用発明をイメージセンサーに応用すること、すなわち、撮像システムのピクセル構造体に適用することが想定されていることは明らかである。
そして、一般に、光電変換装置を撮像システムのピクセル構造体に適用するに当たり、光電変換装置を、当該光電変換装置と結合された制御回路の上部に形成する構造とすることは、例えば、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例1(特開平10-93066号公報)にも記載されているように、当業者における周知技術である。
したがって、引用発明に接した当業者であれば、引用発明の「光電変換装置」を、当該光電変換装置と結合された制御回路の上部に形成して、撮像システムのピクセル構造体とすること、すなわち、本願発明のように、「光選択性エレメントと結合された制御回路とを具備した撮像システムのピクセル構造体」とすることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、相違点7は当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(4)相違点についての判断のまとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、周知技術を勘案することにより、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.本願発明についてのまとめ
以上検討したとおり、本願発明は、周知技術を勘案することにより、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-18 
結審通知日 2012-05-01 
審決日 2012-05-16 
出願番号 特願2000-556496(P2000-556496)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 57- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴山 将隆  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 恩田 春香
早川 朋一
発明の名称 赤外フィルタなしピクセル構造  
代理人 西山 修  
代理人 黒川 弘朗  
代理人 山川 政樹  
代理人 山川 茂樹  

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