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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1265180
審判番号 不服2010-20286  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-09 
確定日 2012-10-26 
事件の表示 平成11年特許願第217088号「下地調整剤及びその調整法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 2月13日出願公開、特開2001- 40277〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成11年7月30日の特許出願であって、平成22年1月29日付けの拒絶理由通知に対し、同年4月2日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが、同年6月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月9日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされた後、平成24年2月14日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされたところ、これに対する回答書が指定期間内に提出されなかったものである。

2 平成22年9月9日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年9月9日付け手続補正を却下する。

[補正却下の決定の理由]
(1)補正の目的
ア 平成22年9月9日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本願の明細書について補正をするものであって(以下、本件補正後の明細書を「本件補正明細書」という。)、その特許請求の範囲を次のとおりに補正するものである。
「 【請求項1】
石膏、炭酸カルシウムを含む群から選ばれた無機充填剤と、
粒子径が10?150μmの有機質系中空バルーン、粒子径が10?150μmの無機質系中空バルーン、粒子径が10?150μmのパーライト、粒子径が10?150μmのヒル石の何れか1つ以上が、体積比で50%以上配合された軽量充填剤とを主成分とした粉末状充填剤と、
アクリル樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂-アクリル樹脂エマルジョン、又は、合成ゴムラテックスの何れか1つ以上を含むエマルジョン樹脂を主成分とした液状固着剤とを、
下地調整の直前に水を添加して混練し、
水35重量部に対し、アクリル樹脂エマルジョン10重量部を配合して混練することを特徴とする下地調整剤の調製法。
【請求項2】
石膏、炭酸カルシウムを含む群から選ばれた無機充填剤と、
粒子径が10?150μmの有機質系中空バルーン、粒子径が10?150μmの無機質系中空バルーン、粒子径が10?150μmのパーライト、粒子径が10?150μmのヒル石の何れか1つ以上が、体積比で50%以上配合された軽量充填剤と、
界面活性剤を乳化剤として重合し、アクリル樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂-アクリル樹脂エマルジョン、又は、合成ゴムラテックスの何れか1つ以上を含むエマルジョン樹脂に保護コロイド剤として分散剤を配合して噴霧乾燥して得られた再乳化可能な粉末状固着剤とを配合してなる下地調整剤に、
予め定められた量の水を添加して混練し、
水40重量部に対しアクリル樹脂エマルジョンに保護コロイド剤として分散剤を配合して噴霧乾燥して得られた再乳化可能な粉末10重量部を配合して混練することを特徴とする下地調整剤の調製法。」

イ 上記補正は、補正前の請求項1、2、4、6を削除するとともに、本件補正前の請求項3に「水35重量部に対し、アクリル樹脂エマルジョン10重量部を配合して」との発明特定事項を付加することで、同3の発明特定事項である「水」と「アクリル樹脂エマルジョン」との「混練」について割合を特定し(補正後の請求項1)、また、本件補正前の請求項5に「水40重量部に対しアクリル樹脂エマルジョンに保護コロイド剤として分散剤を配合して噴霧乾燥して得られた再乳化可能な粉末10重量部を配合して」との発明特定事項を付加することで、同5の発明特定事項である「水」と「再乳化可能な粉末状固着剤」との「混練」について割合を特定するもの(補正後の請求項2)とみることができるので、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定する「請求項の削除」及び同第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものということができる。

(2)独立特許要件
そこで、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否かについて以下検討する。

ア 本件補正発明
本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明は、上記2(1)アに記載したとおりであり、その請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明1」という。)は、再掲すると、次のとおりである。
「石膏、炭酸カルシウムを含む群から選ばれた無機充填剤と、
粒子径が10?150μmの有機質系中空バルーン、粒子径が10?150μmの無機質系中空バルーン、粒子径が10?150μmのパーライト、粒子径が10?150μmのヒル石の何れか1つ以上が、体積比で50%以上配合された軽量充填剤とを主成分とした粉末状充填剤と、
アクリル樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂-アクリル樹脂エマルジョン、又は、合成ゴムラテックスの何れか1つ以上を含むエマルジョン樹脂を主成分とした液状固着剤とを、
下地調整の直前に水を添加して混練し、
水35重量部に対し、アクリル樹脂エマルジョン10重量部を配合して混練することを特徴とする下地調整剤の調製法。」

イ 刊行物及びその記載事項
本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開昭57-074378号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
a 「合成樹脂エマルシヨン、充填材、水または水に可溶な有機溶剤、および増粘剤を含んでなるパテであつて、充填材に対する水または水に可溶な有機溶剤の量を、密度より換算した体積割合で55%以下とし、かつ増粘剤としてチクソトロピツク性のない樹脂を、合成樹脂エマルシヨンに対する体積割合で16%以上配合したことを特徴とする低収縮パテ。」(第1頁特許請求の範囲第1項)
b 「合成樹脂エマルシヨンを結合剤とするパテは、一般に、成型剤として、炭酸カルシウム、硅砂、硅酸の無機質塩等の無機充填材を配合し、これに流動性を付与するための水等の溶剤を加えて製造される。」(第1頁右下欄16?20行)
c 「充填材としては、この種のパテに通常充填材として配合される各種の無機質または有機質充填材が用いられる。無機質充填材として例えば、炭酸カルシウム、・・・・等が挙げられる。有機質充填材として、・・・・等が挙げられる。これら充填材は、粒径範囲が約0.1?500ミクロンのものが好ましく用いられる。」(第2頁右下欄6?16行)
d 「充填材としては上記のほか、球形状を有するものを使用することができる。・・・・球形状を有する充填材としては、例えば、火山灰を焼成して得られる中空球状のシラスバルーン、ガラス質中空体として知られるパーライト、あるいはマイクロバルーンとして市販されている中空球状体・・・・等の無機質球状体、あるいはポリエチレン、塩化ビニル等の高分子有機化合物から成る球状体等が挙げられる。上記各球状充填材は、粒径範囲約10?200μ、平均粒径約50?80μのものが好ましく用いられる。これら球状充填材の使用量は、密度より換算した体積割合で、充填材全量の約半分以上配合することが望ましい。」(第2頁右下欄17行?第3頁左上欄16行)
e 「結合剤として加えられるエマルシヨン樹脂としては、アクリル酸樹脂、・・・・スチレン/アクリル共重合樹脂等各種のものを用いることができる。エマルシヨンは、体積割合で樹脂固形分約30?70%、水約70?30%を混合して調製される。」(第3頁左上欄16行?同頁右上欄4行)
f 「上記充填材は、これに合成樹脂エマルシヨンおよび水または水に可溶な有機溶剤を加えて混練される。」(第3頁右上欄5?7行)
g 「本発明のパテの組成例を第2表に示す。」(第4頁左上欄8行)との記載に続けて「第2表」(第4頁右上欄)が次のとおり示されている。

h 「第2表の各実施例における充填材の吸水量の和と、使用した水およびエマルシヨン中の水の和を比較すると下記のとおりであり、いづれの例も水分量は吸水量以下である。
実施例1の場合
吸水量:125+42+72=240
水の量:125+50=175
・・・・
また、・・・・増粘剤と合成樹脂エマルシヨンの割合(増粘剤/合成樹脂エマルシヨン×100)を密度より換算した体積割合(%)で示せば第3表のごとくである。

上記各実施例のパテを、石こうボード板に穿設した深さ12mm、幅20mmの目地に充填し、常温で30日以上放置したのち、それぞれの目地中央部の目やせの深さを測定したところ、・・・・
また、本発明パテは未使用のまゝ長期間放置しても動粘性・流動性を失なわず、すぐれた塗装性を保持することも確認された。」(第4頁左下欄1行?同頁右下欄最下行)
i 「以上のように、本発明パテは、目やせがほとんどなく、収縮による亀裂の発生もないので、下地調整等に用いて、一回の塗装で平滑・美麗な仕上がりを得ることができる。また、長期間良好なパテ状流動性が保たれるので商品価値にもすぐれる。」(第5頁左上欄1?5行)

ウ 刊行物1に記載された発明
(ア)刊行物1には、上記イaからみて、「合成樹脂エマルション、充填材、水または水に可溶な有機溶剤、および増粘剤を含んでなる」「低収縮パテ」であって、「充填材に対する水または水に可溶な有機溶剤の量を、密度より換算した体積割合で55%以下とし、かつ増粘剤としてチクソトロピック性のない樹脂を、合成樹脂エマルションに対する体積割合で16%以上配合した」ものが記載されており、当該「低収縮パテ」は、上記イiによれば、「下地調整」に用い得るものである。
(イ)そして、上記イc及びdによれば、上記「充填材」として、例えば、炭酸カルシウム等の無機質充填材が用いられ、その粒径範囲は0.1?500ミクロンのものが好ましく用いられ、そのほか、シラスバルーン等の球状充填材を使用することもできる。
さらに、上記イgによれば、上記「充填材」は、無機質充填材である炭酸カルシウムと球状充填材とを組み合わせて用いることができ、球状充填材としては、「a:粒径5?150μ」のものを用いたり、それを「b:10?200μ」のものと組み合わせて用いることもできる。
ここで、球状充填材に関し、上記イdに「上記各球状充填材は、粒径範囲約10?200μ、平均粒径約50?80μのものが好ましく用いられる。」と記載されていることからみて、上記イgに記載の「a:粒径5?150μ」及び「b:10?200μ」の数値範囲は、いずれも粒径範囲を表すものと解することができる。
(ウ)また、上記イeによれば、上記「合成樹脂エマルション」は、結合剤となるエマルション樹脂としてアクリル酸樹脂やスチレン/アクリル共重合樹脂等を用い、その樹脂を水と混合して調製したものである。加えて、上記イb及びfを併せみると、刊行物1には、上記「低収縮パテ」の製造方法として、充填材に合成樹脂エマルション及び水を加えて混練し製造することが記載されているということができる。
さらに、上記イhには、「充填材の吸水量の和」と「使用した水およびエマルシヨン中の水の和」の量についての記載の後に「上記各実施例のパテを、石こうボード板に穿設した深さ12mm、幅20mmの目地に充填し」たことの記載があり、その後に「また、本発明パテは未使用のまゝ長期間放置しても動粘性・流動性を失なわず、すぐれた塗装性を保持することも確認された。」との記載があることからみて、刊行1発明の「低収縮パテ」は、混練して製造した後、未使用のまま長期間放置しても使用することができるだけでなく、混練して製造した後、直ちに使用することができることも、当業者には自明である。
(エ)以上を踏まえ、刊行物1に記載された事項を整理すると、刊行物1には、
「合成樹脂エマルション、充填材、水、および増粘剤を含んでなる低収縮パテの製造方法であって、
低収縮パテは下地調整用のものであり、
合成樹脂エマルションは、結合剤となるエマルション樹脂としてアクリル酸樹脂やスチレン/アクリル共重合樹脂を用い、その樹脂を水と混合して調製したものであり、
充填材としては、粒径範囲が0.1?500ミクロンの炭酸カルシウムからなる無機質充填材と粒径範囲が5?150μのシラスバルーンからなる球状充填材とを組み合わせて用い、
充填材に対する水の量を、密度より換算した体積割合で55%以下とし、かつ増粘剤としてチクソトロピック性のない樹脂を、合成樹脂エマルションに対する体積割合で16%以上配合し、充填材に合成樹脂エマルション及び水を加えて混練して製造し、その後直ちに使用することができる低収縮パテの製造方法」
の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているということができる。

エ 対比
本件補正発明1と刊行1発明とを対比する。
(ア)刊行1発明の「低収縮パテ」は、「下地調整用のもの」であることから、本件補正発明1の「下地調整剤」に相当し、刊行1発明の「低収縮パテの製造方法」は、本件補正発明1の「下地調整剤の調製法」に相当するということができる。
(イ)本件補正発明1では、「アクリル樹脂エマルジョン」と「アクリル樹脂系エマルジョン」というように、「アクリル樹脂」という用語と「アクリル樹脂系」という用語が併用されており、両者が異なる意味で区別して用いられているか否かについては、本件補正発明1の発明特定事項から直ちに判然としない。
しかしながら、これについて本件補正明細書をみると、両者を異なる意味に使い分けるような記載は一切なく、また、「アクリル樹脂」という用語そのものが、一般に、「アクリル酸およびその誘導体を重合したものを総称し、アクリル酸およびそのエステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸およびそのエステルなどの重合体および共重合体が包含される」ものであって(化学大辞典1,共立出版株式会社,1997年9月20日発行,縮刷版第36刷,42頁,「アクリルじゅし」の項を参照。)、アクリル酸の共重合体までも包含されるものであるから、本件補正発明1において、「アクリル樹脂」という用語と「アクリル樹脂系」という用語は、区別せずに同じ意味で用いられていると解するのが自然である。
他方、刊行1発明の「合成樹脂エマルション」は、「エマルション樹脂としてアクリル酸樹脂やスチレン/アクリル共重合樹脂を用い」たものであり、これは「アクリル樹脂(系)エマルション」ということができるので、本件補正発明1の「アクリル樹脂エマルジョン」及び「アクリル樹脂系エマルジョン」に相当する。
加えて、刊行1発明の「合成樹脂エマルション」が「液状」であることは自明であり、その「エマルション樹脂」が「結合剤」となることを踏まえると、刊行1発明の「合成樹脂エマルション」は、本件補正発明1の「アクリル樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂-アクリル樹脂エマルジョン、又は、合成ゴムラテックスの何れか1つ以上を含むエマルジョン樹脂を主成分とした液状固着剤」と、「アクリル樹脂系エマルジョンを含むエマルジョン樹脂を主成分とした液状固着剤」である点で重複するということができる。
(ウ)刊行1発明の「炭酸カルシウムからなる無機質充填材」は、本件補正発明1の「石膏、炭酸カルシウムを含む群から選ばれた無機充填剤」と、「炭酸カルシウムからなる無機充填材」である点で重複する。
(エ)本件補正発明1では、「軽量充填剤」に関し、「粒子径が10?150μmの有機質系中空バルーン、粒子径が10?150μmの無機質系中空バルーン、粒子径が10?150μmのパーライト、粒子径が10?150μmのヒル石の何れか1つ以上が、体積比で50%以上配合された軽量充填剤」と特定されているところ、本件補正明細書の記載(段落【0020】?【0022】)によれば、「軽量充填剤」として用いられる「無機質系中空バルーン」には、「シラスバルーン」が含まれる。
(オ)また、本件補正発明1では、「軽量充填剤」として用いられる「無機質系中空バルーン」等の「粒子径」が「10?150μm」という範囲で特定されているところ、当該範囲が、粒子径の平均値を範囲で特定するものであるのか、粒子径の許容範囲を下限値と上限値で特定するものであるのかについては、本件補正発明1の発明特定事項から直ちに判然としない。
そこで、本件補正明細書をみると、充填剤の粒子径に関し、次の記載がある。
「【0024】この無機充填剤と軽量充填剤とからなる粉末状充填剤の粒径は、下塗り用下地調整剤として用いるのであれば、厳密な制限はないが、上塗り・下塗り両用を目的とするのであれば、充填剤の粒子径は150μm以下と制限がある。
【0025】従って、本発明に好ましい態様としては、軽量充填剤として、粒子径が10?150μmの有機質系中空バルーン、粒子径が10?150μmの無機質系中空バルーン、粒子径が10?150μmのパーライト、粒子径が10?150μmのヒル石の何れか1つ以上を、体積比で50%以上配合したものである。これにより、下塗り及び上塗りの両方に使用可能な下地調整剤を得ることができる。」
この記載、特に「上塗り・下塗り両用を目的とするのであれば、充填剤の粒子径は150μm以下と制限がある。」(段落【0024】)との記載によれば、「150μm」という数値は、許容される粒子径の上限値を意味することが明らかであるので、本件補正発明1における「10?150μm」という範囲は、粒子径の平均値を範囲で特定するものではなく、粒子径の許容範囲を下限値と上限値で特定するものであると解することができる。すなわち、本件補正発明1の「粒子径が10?150μmの」という事項は、粒子径が10μm以上150μm以下の範囲にあることを特定するものであると解される。
なお、本件補正明細書の段落【0026】には、「軽量充填剤の粒子径が大きいと充填効果が高く、粒子径が小さいときめが細かくなる。このため、充填効果を高めるため、軽量充填剤の粒径が10?150μmの中空バルーンを嵩比で50%以上配合する。特に、粒子径が10?150μmの中空バルーンを75%以上配合したものは、特に充填効果がよく、体積収縮がない下地調整剤が得られる。しかしながら、中空バルーンが95%以上配合されている系では、きめが粗くなり、しかも樹脂量の割には強度が得られず、乾燥性にも問題が生じる。」と記載され、この記載によれば、軽量充填剤の粒子径が大きいほど充填効果が高く、きめが粗くなり、そのため、軽量充填剤のうち、粒径が10?150μmの中空バルーンを嵩比で50%以上配合すると、充填効果が高くなり、75%以上配合すると、特に充填効果がよく、95%以上配合すると、きめが粗くなるとされていることから、軽量充填剤のうち、粒径が10?150μmの中空バルーンを特定の割合で配合するとき、その残部は、粒径がより小さいもので占められていると解さざるを得ない。そうすると、本件補正明細書の段落【0026】の記載は、「150μm」という数値が充填剤の粒子径として許容される上限値であることと整合するので、このことからも本件補正発明1の「粒子径が10?150μmの」という事項に関する上記解釈は裏付けられているということができる。
(カ)上記(エ)で検討したところを踏まえると、刊行1発明の「シラスバルーン」は、本件補正発明1の「無機質系中空バルーン」にも「軽量充填剤」にも相当するものということができる。
加えて、上記(オ)で検討したところも踏まえると、刊行1発明の「粒径範囲が5?150μのシラスバルーンからなる球状充填材」は、本件補正発明1の「粒子径が10?150μmの有機質系中空バルーン、粒子径が10?150μmの無機質系中空バルーン、粒子径が10?150μmのパーライト、粒子径が10?150μmのヒル石の何れか1つ以上が、体積比で50%以上配合された軽量充填剤」と、「粒子径が150μm以下である無機質系中空バルーンが配合された軽量充填剤」である点で共通するということができる。
(キ)刊行1発明の「充填材」は、「粒径範囲が0.1?500ミクロンの炭酸カルシウムからなる無機質充填材と粒径範囲が5?150μのシラスバルーンからなる球状充填材とを組み合わせて用い」たものであるから、これらの「無機質充填材」と「球状充填材」とを主成分としたものということができ、また、これらの粒径からみて、「粉末状」のものということができる。
そうすると、刊行1発明の「充填材」は、本件補正発明1の「粉末状充填剤」が「粉末状」であり、「無機充填剤」と「軽量充填剤」とを主成分としたのと同様である。
(ク)また、刊行1発明において、「充填材に合成樹脂エマルション及び水を加えて混練して製造し、その後直ちに使用する」ことは、本件補正発明1において、「粉末状充填剤と」「液状固着剤とを」「下地調整の直前に水を添加して混練」することに相当する。
(ケ)以上を踏まえると、本件補正発明1と刊行1発明とは、
「炭酸カルシウムの無機充填材と、
粒子径が150μm以下である無機質系中空バルーンが配合された軽量充填剤とを主成分とした粉末状充填剤と、
アクリル樹脂系エマルジョンを含むエマルジョン樹脂を主成分とした液状固着剤とを、
下地調整の直前に水を添加して混練する下地調整剤の調製法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
a 相違点1
「無機質系中空バルーン」が配合された「軽量充填剤」として、本件補正発明1では、「粒子径が10?150μmの無機質系中空バルーンが、体積比で50%以上配合された」ものを用いるのに対し、刊行1発明では、「粒径範囲が5?150μのシラスバルーンからなる」ものを用いる点。
b 相違点2
「水」と「アクリル樹脂エマルジョン」との配合割合に関し、本件補正発明1では、「水35重量部に対し、アクリル樹脂エマルジョン10重量部を配合」するとの特定がなされているのに対し、刊行1発明では、そのような特定がなされていない点。

オ 相違点についての検討
a 相違点1について
刊行1発明の「シラスバルーン」は、「粒径範囲が5?150μ」のものであるが、その平均粒径や粒径分布については明らかでない。
刊行物1には、上記イdに、「上記各球状充填材は、粒径範囲約10?200μ、平均粒径約50?80μのものが好ましく用いられる。」との記載もあるが、上記イgの「第2表」において、当該記載に該当する球状充填材は、「b:10?200μ」の球状体bであって、「a:粒径5?150μ」の球状体aではないと解することもできるので、当該記載があることから直ちに、刊行1発明の「シラスバルーン」は、平均粒径が「約50?80μ」のものであるということはできない。
しかしながら、粒子の大きさが粒径範囲で示される場合、平均粒径は、粒径範囲の上限値及び下限値には極端に近接しないのが普通であり、このことは、刊行物1の当該記載から裏付けられることである。
してみると、刊行1発明の「シラスバルーン」は、「粒径範囲が5?150μ」のものであることからみて、平均粒径が小さくとも「5?10μ」のようには「5μ」に近接しないものであると解するのが自然である。
よって、刊行1発明の「シラスバルーン」は、「粒径範囲が5?150μ」のものであり、平均粒径が小さくとも「10μ以上」のものであると解することができるので、粒径範囲が「10?150μ」のものが「体積比で50%以上配合された」ものであるということができる。
したがって、相違点1は、実質的なものではない。また、そのような判断をしないとしても、刊行1発明の「粒径範囲が5?150μ」の「シラスバルーン」に関し、相違点1に係る本件補正発明1の発明特定事項を導くことは、何ら困難なことではない。

b 相違点2について
相違点2に係る本件補正発明1の「水35重量部に対し、アクリル樹脂エマルジョン10重量部を配合」との発明特定事項は、「アクリル樹脂エマルジョン」そのものが「水」を含み得るものであることを考慮すると、その意味を直ちに明確に理解することはできないが、この点について本件補正明細書をみると、段落【0040】に「「アクリル樹脂(液)」とはアクリル樹脂エマルジョン、「アクリル樹脂(粉)」とはアクリル樹脂エマルジョンに・・・・して得られた再乳化可能な粉末としたもので、固形分換算値で表記した。・・・・「水」は混合水と樹脂エマルジョンの水の換算値の合計で表記した。」との記載があり、この記載からみて、上記発明特定事項中の「水35重量部」とは、「混合水」と「アクリル樹脂エマルジョン」に含まれる「水」の合計値が「35重量部」であることを特定するものであり、また、同「アクリル樹脂エマルジョン10重量部」とは、「アクリル樹脂エマルジョン」に含まれる「固形分」である「アクリル樹脂」が「10重量部」であることを特定するものであると解することができる。
他方、刊行物1には、上記イhに、「使用した水およびエマルシヨン中の水の和」である「水の量」について、実施例1では「125」と「50」の和から「175」であると計算できることが示されており、加えて上記イgの「第2表」の実施例1を併せみると、上記計算の「125」の数値は、実施例1で「使用した水」の「重量(g)」であることが明らかであるので、上記計算の「50」の数値は、実施例1で用いた「エマルション」中の「水」の「重量(g)」であると解することができる。
この解釈について詳細に検討すると、上記イgの「第2表」下部に「結合剤エマルシヨン:水分50%:固形分50%(容量)」との記載があり、同「第2表」の実施例1において、「結合剤」となる「スチレン/アクリル共重合樹脂」の「重量(g)」が「100」であること及び「増粘剤」となる「ポリウレタン系」の「重量(g)」が「18」であることの記載があり、さらに、上記イhの「増粘剤と合成樹脂エマルシヨンとの割合(増粘剤/合成樹脂エマルシヨン×100)を密度より換算した体積割合(%)で示せば第3表のごとくである。」との記載に照らし同「第3表」をみれば、「密度より換算した体積割合(%)」を示す「増粘剤/エマルシヨン(%)」の欄の計算式の数値に「第2表」に示された「重量(g)」の数値がそのまま用いられており、これらのことからみて、「結合剤」となる「スチレン/アクリル共重合樹脂」は「エマルション」としての「重量(g)」が「100」であり、しかもその「エマルション」は比重が1であるということができる。
そうすると、上記計算の「50」の数値は、「結合剤」となる「スチレン/アクリル共重合樹脂」の「エマルション」の「重量(g)」が「100」であること、その「エマルション」に含まれる「水分」が容積比で「50%」であること、及びその「エマルション」は比重が1であることに基づいて計算されたものであることを理解できるので、このことからも上記計算の「50」の数値は、実施例1で用いた「エマルション」中の「水」の「重量(g)」であるという解釈が裏付けられる。
そして、刊行物1の実施例1で用いられた「スチレン/アクリル共重合樹脂」の「エマルション」の「重量(g)」が「100」であって、その「エマルション」中の「水」の「重量(g)」が「50」であることは、その「エマルション」中の「スチレン/アクリル共重合樹脂」の「重量(g)」が「50」であることに他ならない。
よって、刊行物1には、実施例1として、「使用した水」と「エマルション」中の「水」の和を「重量(g)」で「175」とし、その「エマルション」中の「スチレン/アクリル共重合樹脂」を「重量(g)」で「50」とすることについて示されており、このことは、相違点2に係る本件補正発明1の発明特定事項についての上記(a)の解釈に照らせば、本件補正発明1と同様、「水35重量部に対し、アクリル樹脂エマルジョン10重量部を配合」しているということができる(175:50=35:10)。
したがって、相違点2に係る本件補正発明1の発明特定事項は、刊行物1に記載されているということができるので、相違点2は、実質的なものではない。
また、そのような判断をしなくても、刊行1発明において、「充填材に合成樹脂エマルション及び水を加えて混練」するにあたり、「合成樹脂エマルション」及び「水」の量をどの程度とするかは、製造の効率や利便性のほか、最終製造物の品質に応じて当業者が適宜最適化し得るものであるから、実験等を通して相違点2に係る本件補正発明1の発明特定事項を導くことは、当業者であれば容易になし得ることである。

c 効果について
相違点1及び2は、上述のとおり実質的なものではないが、本件補正発明1の効果について念のために検討すると、本件補正明細書(段落【0038】?【0050】、特に表2及び段落【0049】)には、本件補正発明1の実施例であると解される配合例1で作製されたものによると、塗布後の擬似硬化が速く、肉ヤセが少ないという効果を奏することが示されている。
しかしながら、本件補正発明1は、「水」と「アクリル樹脂エマルジョン」との配合割合について特定されてはいるものの、無機充填剤については、配合例1で採用した「石膏」以外に「炭酸カルシウム」を採用する場合も含み、また、粉末状充填剤については、配合例1で採用した「シラスバルーン」以外に「有機質系中空バルーン」等を採用する場合も含み、さらに、これらの充填材の配合割合については何ら特定されていないことからみて、本件補正発明1は、配合例1で作製されたもの以外に多様なものを含む発明である。
そして、無機充填剤として「炭酸カルシウム」を用いた配合例6と、無機充填剤として「石膏」を用いた配合例1とでは、塗布後の擬似硬化時間や肉ヤセ量などの効果が異なることが示されていることからみても(段落【0038】?【0050】)、上記効果は無機充填剤の種類に左右されることは明らかであるし、それ以外に無機充填剤の量や粉末状充填剤の種類及び量にも左右されると推認されるから、配合例1で作製されたものによれば、上記効果が奏されるということができるとしても、そのことから本件補正発明1の全範囲にわたって上記効果が奏されると解することは到底できない。
このことを踏まえると、本件補正明細書の記載から本件補正発明1の効果として格別なものは見いだせない。

カ 小括
以上より、本件補正発明1は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、仮にそうでないとしても、本件補正発明1は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3)補正却下についてのむすび
本件補正発明1は、上述のとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願発明
平成22年9月9日付け手続補正は、上記3のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成22年4月2日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであると認められ、その請求項3に係る発明(以下、「本願発明3」という。)は、次のとおりのものである。
「石膏、炭酸カルシウムを含む群から選ばれた無機充填剤と、
粒子径が10?150μmの有機質系中空バルーン、粒子径が10?150μmの無機質系中空バルーン、粒子径が10?150μmのパーライト、粒子径が10?150μmのヒル石の何れか1つ以上が、体積比で50%以上配合された軽量充填剤とを主成分とした粉末状充填剤と、
アクリル樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂-アクリル樹脂エマルジョン、又は、合成ゴムラテックスの何れか1つ以上を含むエマルジョン樹脂を主成分とした液状固着剤とを、
下地調整の直前に水を添加して混練することを特徴とする下地調整剤の調整法。」

4 刊行物及びその記載事項
刊行物1は、上記2(2)イに記載したとおり、本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭57-074378号公報であり、その記載事項も上記2(2)イに記載したとおりである。

5 対比・判断
本願発明3を本件補正発明1に照らしてみると、本願発明3は、本件補正発明1の「水35重量部に対し、アクリル樹脂エマルジョン10重量部を配合して」との発明特定事項を削除したものであって、その発明特定事項による限定がされないものであるから、本件補正発明1を拡張したものとなる。
してみれば、本件補正発明1が、上記2(2)で述べたように、特許を受けることができないものである以上、本件補正発明1を拡張したものとなる本願発明3も、本件補正発明1と同様の理由により、特許を受けることができないものである。
すなわち、本願発明3は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、仮にそうでないとしても、本願発明3は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

6 むすび
以上検討したところによれば、本願の特許請求の範囲の請求項3に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-22 
結審通知日 2012-08-29 
審決日 2012-09-11 
出願番号 特願平11-217088
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C09D)
P 1 8・ 121- Z (C09D)
P 1 8・ 575- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 由美千葉 桃子藤原 浩子  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 目代 博茂
橋本 栄和
発明の名称 下地調整剤及びその調整法  
代理人 花村 太  

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