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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16J
管理番号 1265463
審判番号 不服2012-1456  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-25 
確定日 2012-11-01 
事件の表示 特願2006-355039「ゴム/樹脂複合シール材」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月17日出願公開、特開2008-164079〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成18年12月28日の出願であって、平成23年10月14日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成24年1月25日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成23年4月15日付けの手続補正書によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「ゴム状弾性体からなる基材と、厚さが1?20μmのフッ素樹脂製フィルムとを接着剤により接合してなることを特徴とするゴム/樹脂複合シール材。」

3 引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平1-120484号公報(以下、「引用例」という。)には、「シールパッキン及びその製造方法」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「[従来の技術]
シールパッキン、殊に、化学工業、食品製造工業、半導体工業等に於いて使用されるシールパッキンは、耐摩耗性、耐熱性の他に耐化学薬品性、耐食性等が要求される為、フッ素樹脂乃至フッ素樹脂とゴムを混合してなる素材等が使用されているが、これ等は非常に高価である。
この為 ゴムの外側にフッ素樹脂を被覆したものが使用されることがある。これは、例えばフッ素樹脂からなる中空の管内に、管の中空断面とほぼ同じ断面を有した棒状乃至紐状のゴムを挿入していき、所定の長さの所で管を切断し、管の両端を熱着してリング状にしたり、
或いは2枚のフッ素樹脂フィルムの間に生ゴムを配置して、金型内で上下から押圧しながら焼付成形して作られる。」(1頁右下欄7行?2頁左上欄2行)
イ 「[発明が解決しようとする問題点]
しかし、フッ素樹脂製の中空の管内にゴムを挿入したものでは、管はその形状を保持するために、少なくても0.3?0.5mm程度の肉厚は必要であるが、肉厚がこれくらいあると、硬くなり中のゴムの反撥弾性が十分発揮されずシール性が悪くなる。」(2頁左上欄3行?9行)
ウ 「第一の発明は、シールパッキンで、リング状等の所望の形状のシールパッキン材に、シールパッキン材の表面が全く露出しないようにフッ素樹脂フィルムを、接着、ラミネートしてなる。」(2頁左下欄4行?7行)
エ 「シールパッキン材及びフッ素樹脂フィルムは、それぞれシールパッキンの用途や、使用条件に最適のものが使用される。シールパッキン材としては例えばフッ素ゴム、ニトリルゴム(NBR)、エチレン・プロピレンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム等が使用できる。」(2頁右下欄3行?8行)
オ 「またフッ素樹脂フィルムとしては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等のフィルムが使用できる。」(2頁右下欄9行?14行)
カ 「フィルムの厚さは、シールパッキンの形状や、使用場所、使用目的によって異なるが、25?500μm位のものが使われる。」(2頁右下欄15行?17行)
キ 「[実施例1]
第1及び2図は、本発明のシールパッキンの一実施例を示すもので、シールパッキン1はリング状をしており、ニトリルゴムよりなるリング状のシールパッキン材2をETFEからなるフッ素樹脂フィルム3a、3bでラミネートしてなる。第2図に於けるシールパッキン材2の断面の直径は6mmで、フッ素樹脂フィルムの厚さは100μmである。」(3頁左上欄17行?右上欄5行)
ク 「[発明の効果]
本発明のシールパッキンは、ゴム等からなる所望の形状のシールパッキン材をフッ素樹脂フィルムで接着、ラミネートしてなるので、シールパッキン材がフッ素樹脂で被覆されているにも拘らず、シールパッキン材の反撥弾性が損なわれずシール性の優れたシールパッキンが出来る。」(3頁右下欄4行?10行)

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ニトリルゴムよりなるシールパッキン材1と、厚さが100μmのフッ素樹脂フィルム3a,3bとを接着、ラミネートしてなるシールパッキン。」

4 対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、その機能又は作用などからみて、後者の「ニトリルゴムよりなるシールパッキン材1」は前者の「ゴム状弾性体からなる基材」に相当し、以下同様に、「フッ素樹脂フィルム3a,3b」は「フッ素樹脂製フィルム」に、「接着、ラミネートしてなる」は「接着剤により接合してなる」に、それぞれ相当する。後者の「シールパッキン」は、ニトリルゴムよりなるシールパッキン材1とフッ素樹脂フィルム3a,3bとからなるので、前者の「ゴム/樹脂複合シール材」に相当する。
後者の「厚さが100μm」と前者の「厚さが1?20μm」とは、「所定厚さ」である点で共通する。

してみると、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、
[一致点]
「ゴム状弾性体からなる基材と、所定厚さのフッ素樹脂製フィルムとを接着剤により接合してなるゴム/樹脂複合シール材。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
本願発明は、フッ素樹脂製フィルムの厚さが「1?20μm」であるのに対して、引用発明は、フッ素樹脂フィルム3a,3bの厚さが「100μm」である点。

5 判断
上記相違点について検討する。
引用例に「フィルムの厚さは、シールパッキンの形状や、使用場所、使用目的によって異なるが、25?500μm位のものが使われる。」(上記カ参照)と記載されているように、フッ素樹脂フィルムの厚さをどの程度にするかは、シールパッキン材1の形状や、使用場所、使用目的などに応じて当業者が適宜決定し得る設計的事項にすぎない。
引用例には、従来のシールパッキンの問題点に関して、「フッ素樹脂製の中空の管内にゴムを挿入したものでは、管はその形状を保持するために、少なくても0.3?0.5mm程度の肉厚は必要であるが、肉厚がこれくらいあると、硬くなり中のゴムの反撥弾性が十分発揮されずシール性が悪くなる。」(上記イ参照)と記載され、フッ素樹脂フィルム3a,3bの厚さを厚くすると、硬くなって、中のゴムの反撥弾性が十分発揮されずシール性が悪くなることが記載又は示唆されている。そして、引用発明は、フッ素樹脂フィルム3a,3bの厚さを100μmとしたから、「シールパッキン材の反撥弾性が損なわれずシール性の優れたシールパッキン」(上記ク参照)となるというものである。
このように、引用例には、フッ素樹脂フィルム3a,3bの厚さを薄くした方がゴムの反撥弾性が十分発揮され、シール性に優れたものになることが記載又は示唆されている。ちなみに、前審において周知例として示された特開2005-344038号公報にも、同様の趣旨のことが記載されており(段落【0005】には、「生産加工性を考慮して厚めのフィルム(例えば、100?300μm)を用いることも提案されているが、ゴム内芯の弾性が損なわれ、シール材として機能しなくなる問題が生じる。」と記載され、段落【0034】には「本発明に従い、フッ化ビニリデン/ヘキサフロロプロピレン共重合体とETFEとのブロック共重合体を内芯とし、厚さ0.1?50μmのフッ素樹脂外層を有する各実施例のOリングは、非粘着性、柔軟性、シール性に優れる。中でも、実施例1及び実施例2のように、外層厚を20μm以下とすることにより、シール性が特に優れるようになる。」と記載されている。)、フッ素樹脂フィルム3a,3bの厚さを薄くした方がゴムの反撥弾性が十分発揮され、シール性に優れたものになることは、当業者にとって周知の事項ということができる。
しかも、ゴム状弾性体からなる基材にフッ素樹脂製フィルムを被覆したシール材において、フッ素樹脂フィルムの厚さを「1?20μm」程度の数値範囲とすること自体は、技術的に格別なことではない(例えば前審において周知例として示された特開2002-221276号公報の段落【0007】には「本発明のパッキングは、図1に示すようにシリコーンゴムからなるパッキング材1の表面を厚さ3?50μmのフッ素樹脂層2で被覆してなるパッキングにある。・・・(中略)・・・上記フッ素樹脂層2の厚さは3?50μm、好ましくは、3?15μmの範囲とする必要があり、3μm未満では耐酸性の改良効果が発揮できず、また製膜しづらいという問題があり、50μmを越えると賦形しづらくまたコストが上昇するという問題がある。」と記載され、段落【0015】に「本発明のパッキング・・・(中略)・・・は、・・・(中略)・・・封止性やシール耐久性、耐酸性等に優れる」と記載されている。また、前掲の特開2005-344038号公報の段落【0001】には「本発明は、フッ素ゴムからなる内芯をフッ素樹脂で被覆したフッ素樹脂被覆ゴム・・・(中略)・・・からなるシール材に関する。」と記載され、段落【0017】に「本発明のフッ素樹脂被覆ゴムにおいて、内芯は、そのほぼ全面がフッ素樹脂からなる外層によって覆われる。このことによって、フッ素樹脂被覆ゴムの耐薬品性、非粘着性が発現する。フッ素樹脂被覆ゴムの柔軟性を保つ上で、外層厚は0.1?50μm、好ましくは0.1?20μm、特に好ましくは0.1?10μmとする。」と記載され、段落【0034】に「本発明に従い、フッ化ビニリデン/ヘキサフロロプロピレン共重合体とETFEとのブロック共重合体を内芯とし、厚さ0.1?50μmのフッ素樹脂外層を有する各実施例のOリングは、非粘着性、柔軟性、シール性に優れる。中でも、実施例1及び実施例2のように、外層厚を20μm以下とすることにより、シール性が特に優れるようになる。」と記載されている。)。
そうすると、引用発明において、シールパッキンのシール性をより向上させるために、フッ素樹脂フィルム3a,3bの厚さを最適な数値範囲とすることは、当業者の通常の創作能力の範囲内で行い得るものにすぎないというべきであるから、相違点に係る本願発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、本願発明が奏する効果は、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「引用文献1(審決注:本審決でいう「引用例」と同じ。)を参照しても、フッ素樹脂フィルムを薄くすることで、耐プラズマ性などを確保しつつ、シール性能が高められることは予見できないと考えます。そのため、記載されているフッ素樹脂フィルムの厚さの範囲を超えてまで、本願発明のフッ素樹脂フィルムの厚さに想到できるとは到底思われません。」(「3.本願発明が特許されるべき理由」「(2)引用文献との比較」「ウ)」の項参照)と主張する。
しかしながら、シール性の問題については、上述のとおり、引用例には、フッ素樹脂フィルム3a,3bの厚さを厚くすると、硬くなって、中のゴムの反撥弾性が十分発揮されずシール性が悪くなること、逆に、フッ素樹脂フィルム3a,3bの厚さを薄くすると、シール性に優れたものが得られることが記載又は示唆されている。また、フッ素樹脂が耐プラズマ性を有することは、例えば、特開平11-2328号公報(「コスト的にもフッ素樹脂等の耐腐食性・耐プラズマ性を有する樹脂自体は手に入りやすい価格であり」(段落【0016】)と記載されている。)や国際公開第2004/038781号(「プラズマに対する耐性のあるものとして、上記ゴム製Oリング51に代えて、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)よりなるシールを用いることがある」(2頁2行?4行)と記載されている。)などに示されるように、従来周知の事項であり、しかも、引用発明のシールパッキンは「半導体工業」において使用することを想定している(上記ア参照)から、フッ素樹脂フィルムを使用することが耐プラズマ性を確保することにつながることは、当業者であれば容易に理解できることである。
また、審判請求人は、同じく「本願発明の実施例1と比較例4との比較から、PTFEのフィルム厚が僅か20μm増えただけでも、シール性能が低下します。」(同「エ)」の項参照)と主張するが、本願の出願当初の明細書においては、比較例4は実施例2として記載されていたものであり、ヘリウムリーク試験の結果を見てみると、比較例4が実施例1に比べてシール性能が低下しているとみるのか、ほとんど変化しないとみるのか微妙なところである。また、加熱圧縮後のプラズマ暴露試験の結果についてみると、比較例4の方が実施例1よりも重量減少率が小さく、むしろ良好な結果が得られており、加熱加圧後に再度、ヘリウムリーク試験を行った場合においても、実施例1が比較例4に比べてシール性能が優れているといえるのかどうか疑問である。したがって、実施例1が比較例に比べてシール性能に優れているとの主張は、にわかに首肯しがたい。「20μm」という数値についてみても、その数値を境に特性が大きく変化するという証拠が示されているわけでもなく、「20μm」という数値に臨界的意義があるとは解されない。
さらに、審判請求人は、同じく「フッ素樹脂フィルムの厚さについて、特開2002-221276号公報、特開2005-344038号公報(以下「参考公報」という)を挙げていますが、何れもシール性能との関係についての記載はありません。そのため、参考文献を参照したとしても、本願発明で規定するフィルム厚とすることで、シール性にも優れるようになることには想到できません。」(同「エ)」の項参照)と主張する。
しかしながら、いずれの参考公報にも、フッ素樹脂フィルムの厚さを本願発明と同じ程度にすることが記載されていることは上述のとおりである。そして、これらの参考公報には、該公報に記載されたシール材がシール性に優れたものであることが記載されており(特開2002-221276号公報の段落【0007】及び【0015】の記載、特開2005-344038号公報の段落【0005】及び【0034】の記載を参照)、これらの記載に接した当業者ならば、フッ素樹脂フィルムの厚さを本願発明で規定する厚さ程度とすることで、シール性に優れたものとなることは容易に理解し得ることである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-28 
結審通知日 2012-09-04 
審決日 2012-09-20 
出願番号 特願2006-355039(P2006-355039)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 道広  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 所村 陽一
常盤 務
発明の名称 ゴム/樹脂複合シール材  
代理人 市川 利光  
代理人 小栗 昌平  
代理人 本多 弘徳  

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