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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1265544
審判番号 不服2011-11567  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-01 
確定日 2012-10-31 
事件の表示 特願2000-276303号「再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートからなる手術器具」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月24日出願公開、特開2001-112799号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成12年9月12日(パリ条約による優先権主張 1999年9月15日 米国)の出願であって、平成23年1月27日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成23年6月1日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


II.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年7月30日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートからなる手術器具であって、
前記シートは、
(i)主にコラーゲンI、コラーゲンIIまたはそれらの混合物であるグルコサミノグリカンで含浸されたバリア層を備え、前記コラーゲン膜物質の上での細胞付着を阻止すると共に細胞の通過を防止するためのバリアとして作用するように1つの平滑面を有し、前記平滑面の反対側の繊維面を有すると共に前記繊維面がその上での細胞増殖を可能にする単一層膜であるか、または、
(ii)前記バリア層の前記繊維面に隣接するコラーゲンIIのグリコサミノグリカンで含浸されたマトリックス層を備えた前記(i)のバリア層からなる二重層膜のいずれかであり、
前記手術器具は、椎骨及び脊髄の少なくとも一部の周りに位置づけされることにより、脊椎手術中またはその後に使用される手術器具。」


III.引用例の記載事項
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である特開平8-257111号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

1ア:「本発明は、薄膜の分野に関し、さらに特定すると、医学用途(具体的には、癒着の防止)に使用する薄膜に関する。本発明の抗癒着性フィルムは、少なくとも1層の基質物質(例えば、コラーゲン)を包含し、この基質物質は、患者の受容組織に共有結合される。」(段落【0001】)

1イ:「骨髄腫、椎間板ヘルニアまたは脊椎髄膜炎を治療する際に、脊椎管の空洞での外科手術により、神経突起および脊髄を背面から除去するとき、体壁への癒着を防止する必要がある。」(段落【0007】)

1ウ:「上記のように、生体組織の癒着は、大なり小なり、大部分の外科分野で認められている。癒着の形成は、種々の理由で起こり得、これには、外科手術に伴った生体組織の機械的および化学的な刺激、手術後の細菌感染、炎症または合併症が含まれる。他の要因(例えば、異物反応、出血、および子宮内膜症)も、癒着の形成に影響を与え得る。
それゆえ、癒着(特に、手術後の癒着)の形成を防止することが望まれている。多くの癒着防止方法が開発されている。手術後の癒着を防止するかまたは低減する効果的なアジュバントは、依然として、外科医の手に入らず、新しい物質が実験されている。」(段落【0016】?【0017】)

1エ:「物理的な障壁は、対抗する表面を機械的に分離し、その表面を癒着から保護する作用を与える。これは、少なくとも部分的には、これらの障壁が、線維素溶解活性および線維形成の競合によって癒着の形成が起こる重大な時点(しばしば、約3日間)の後にも、一定位置に残留しているからである。」(段落【0020】)

1オ:「従って、本発明の目的は、癒着の形成を防止する組成物および方法を提供することにある。本発明の他の目的は、再吸収性であり、従って、除去のための外科的な関与を必要としない新規な癒着防止剤を提供することにある。本発明のさらに他の目的は、抗癒着性フィルムの形状での癒着防止剤を提供することにあり、このフィルムは、取付や移動防止のための機械的な手段(例えば、縫合または接着テープ)の必要性が低いか、またはそれらを必要としない。本発明のさらに他の目的は、抗癒着特性と組み合わせて、負傷治癒および出血防止の機能を有する、新規な抗癒着性フィルムを提供することにある。」(段落【0025】)

1カ:「ここで使用する『受容組織』との用語は、一般に、この抗癒着性組成物または膜が適用される患者の組織であって、この抗癒着性フィルムが最終的に化学的に結合する患者の組織に関する。受容組織の例には、骨(例えば、指および手の骨、足指および足の骨、頭および顎の骨、肘の骨、手首の骨、肩の骨、胸骨、膝の骨、尻の骨、骨盤、および脊柱)、・・・が包含される。」(段落【0059】)

1キ:「本発明での使用に適当なコラーゲンには、全てのタイプのコラーゲンが含まれ、好ましくは、タイプI、IIIおよびIVである。」(段落【0064】)

1ク:「本発明の抗癒着性フィルムは、このフィルムが物理的な障壁として作用できる(特に、組織液およびその成分がフィルムを通って自由に流れることを防止するか妨害できる)のに充分な厚みのフィルム厚および充分に小さい孔サイズを有する。適当なら、この抗癒着性フィルムの膜成分の孔サイズは、このフィルムの物理的障壁としての作用を最適化するように、特に選択され得る。」(段落【0088】)

1ケ:「コラーゲンのような繊維状物質から形成した膜では、その繊維のサイズおよび形状ならびに架橋度は、それから形成される膜の強度、柔軟性および風合いに影響を与えることが知られている。これらのパラメーターは、このフィルムの物理的特性を最適化するために、当業者により調整され得る。」(段落【0089】)

1コ:「従来技術で周知の非再吸収性膜とは反対に、本発明の抗癒着性膜は、緩やかに生体再吸収性される。抗癒着性フィルムの再吸収性の程度は、その生体吸収期間に反映される。
ここで使用する『生体吸収期間』との用語は、この基質物質の実質的な生体吸収が完了するに要する期間に関し、この時点では、この抗癒着性フィルムの残部は、物理的障壁としては、もはや効果的に機能しない。この生体吸収期間後のある時点では、この抗癒着性フィルムの最初の成分は、完全にまたはほぼ完全に再吸収されて、残留物をほとんどまたは全く残さない。典型的な生体吸収期間は、適応症および適用部位に依存し、10日と90日との間、好ましくは、20日と60日との間、さらに好ましくは、30日と50日との間で、変わり得る。」(段落【0090】?【0091】)

1サ:「ここで使用する『適用する』との用語は、適用し、付着し、移植し、注射する方法など、およびそれらを組み合わせた方法に一般化される。適用方法には、例えば、注入、塗布、塗抹、注射および噴霧が包含される。抗癒着性組成物が液状なら、好ましい方法には、塗布、注射および噴霧が挙げられる。抗癒着性組成物がゲル状なら、好ましい方法には、注入、塗抹および注射が挙げられる。抗癒着性組成物が、半固体または固体(例えば、膜)であるなら、好ましい適用方法として、被覆(draping)およびテーピング(例えば、フィブリン接着剤を用いた医療用接着テープを使用する)、縫合(例えば、顕微縫合を使用する)が用いられ得るが、好ましい方法は、縫合を含まず、最も好ましい方法は、テーピングを含まない。」(段落【0094】)

1シ:「本発明の抗癒着性デバイスは、種々の適応症に対して、種々の方法を用いて適用され得る。例えば、胸部の手術では、治療する表面(例えば、手術により外傷が生じた組織に近いか、それと接触している器官の表面)に、低粘度の抗癒着性組成物が噴霧され得る。この様式で、腹膜のライニングの種々の表面が噴霧され、この抗癒着性フィルムが「硬化」され、そして手術が継続されるか、または手術を終了する。この方法では、この抗癒着性フィルムは、この腹膜のライニングと隣接組織との間の癒着の形成を防止する。
他の例では、腹部手術において、コラーゲン性の膜に、適当な抗癒着性結合剤を塗布し、所定期間にかけて反応させ、引き続いて、手術により外傷が生じた小腸の一部を包むかまたは覆う。この方法では、この抗癒着性フィルムは、この手術部位と、小腸または他の器官の隣接部分または上に重なる部分との間の癒着の形成を防止する。
さらに他の例では、靭帯または腱組織は、同様に、適当な抗癒着性結合剤をあらかじめ塗布した基質物質膜で包まれ、それにより、この腱または靭帯と、その上に重なる皮膚または表面組織との間の癒着の形成が防止される。」(段落【0102】?【0104】)

1ス:記載事項1カの「ここで使用する『受容組織』との用語は、一般に、この抗癒着性組成物または膜が適用される患者の組織であって」、記載事項1サの「ここで使用する『適用する』との用語は、適用し、付着し、移植し、注射する方法など、およびそれらを組み合わせた方法に一般化される。・・・抗癒着性組成物が、半固体または固体(例えば、膜)であるなら、好ましい適用方法として、被覆(draping)およびテーピング(例えば、フィブリン接着剤を用いた医療用接着テープを使用する)」、記載事項1ケの「コラーゲンのような繊維状物質から形成した膜」の各記載によれば、抗癒着性フィルムはコラーゲンのような繊維状物質から形成した膜であり、患者の組織への適用に当たり、膜による組織の被覆が行われることが分かる。また、記載事項1シの記載も考慮すれば、この被覆の作業は少なくとも手術終了前、即ち手術中に行われていることも明らかである。

1セ:記載事項1イの「外科手術により、神経突起および脊髄を背面から除去するとき、体壁への癒着を防止する必要がある。」及び記載事項1カの「受容組織の例には、骨(例えば、・・・脊柱)」の各記載から、抗癒着性フィルムが適用される患者の組織には、脊柱及び脊髄が含まれるものといえる。

よって、上記各記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「再吸収性であり、少なくとも1層の基質物質(例えば、コラーゲン)を包含する抗癒着性フィルムであって、
前記フィルムは、
対抗する表面を機械的に分離し、その表面を癒着から保護する物理的な障壁として作用する、コラーゲンのような繊維状物質から形成した膜であり、
手術中に脊柱及び脊髄に被覆されて、生体吸収期間後のある時点では、完全にまたはほぼ完全に再吸収されて、残留物をほとんどまたは全く残さない、抗癒着性フィルム。」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である特表平9-507144号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

2ア:「手術後、とくに口腔または歯科手術後のように創傷の癒合が望ましい場合に、再生が必要な領域内への他の組織の内方成長を防止する状態の提供は困難なことが明らかにされている。」(第4頁第5?7行)

2イ:「本発明は、組織再生の誘導に使用するための吸収性コラーゲン膜であって、その膜の一方の面は繊維性でその上での細胞増殖を可能にし、膜の逆の面は平滑でその上への細胞の接着は阻止される膜を提供する。
すなわち、膜の2つの反対の側もしくは面が、細胞増殖に異なる影響を与える異なる組織を有する。
平滑な側は、細胞の内方増殖を遮蔽するための障壁またはフィルターとして働き、物理的な分離を介して膜によって囲まれた空洞部に望ましくない種類の細胞が侵入することを防止する。これと対照的に、膜の繊維性の側は止血性で(血餅を安定化する)、新たな細胞に対して適当な支持体を提供することにより細胞の増殖を補助する。したがって、使用に際しては、膜は、平滑な面が外側に、繊維性の面が再生の望まれる細胞に面するように挿入されなければならない。」(第5頁第6?17行)

2ウ:「本発明に使用される膜は、天然に存在する膜から可能な限りそれらの天然のコラーゲン構造を残して直接誘導することができる。膜の原料には、銀面側を有する獣皮の切片、腱、動物の各種の膜等が包含される。」(第6頁第23?25行)

2エ:「この理由から、コラーゲン膜にGAGたとえばヒアルロン酸を含浸させると、創傷または骨損傷内における組織再生の改善を生じる。さらに他の態様として、本発明は、誘導された組織再生に使用するための膜であってその膜の一方の面は平滑な構造で、逆の面は繊維性の構造を有し、膜には1種または2種以上のGAGまたはPGが含浸されている膜を提供する。
GAGおよび/またはPGの濃度は膜の厚み方向に向かって上昇し、GAGまたはPGの濃度は膜の繊維性の側で最高になることが好ましい。」(第11頁第13?19行)

2オ:「狭い口腔顔面領域は外科手術が難しく、したがって、誘導された組織再生のための非毒性の完全に吸収性の移植体は極めて有利である。さらに膜の性質は、骨細胞(骨組織)の成長の促進にとくに適している。」(第12頁第18?22行)

2カ:上記記載事項2ア及び記載事項2オの記載を参酌すれば、記載事項2イの「膜によって囲まれた空洞部」は、手術が施された領域といえる。

よって、上記各記載事項及び図示内容を総合すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「獣皮の切片、腱、動物の各種の膜等から誘導され、GAGが含浸されている吸収性コラーゲン膜であって、その膜の一方の面は繊維性でその上での細胞増殖を可能にし、膜の逆の面は平滑でその上への細胞の接着は阻止され、この平滑な側は、細胞の内方増殖を遮蔽するための障壁またはフィルターとして働き、物理的な分離を介して手術の施された領域に望ましくない種類の細胞が侵入することを防止する膜。」


IV.対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「再吸収性であり、」は、文言の意味、形状又は機能等からみて本願発明の「再吸収可能な」に相当し、以下同様に、「少なくとも1層の基質物質(例えば、コラーゲン)を包含する抗癒着性フィルム」は「コラーゲン膜物質のシート」に、「脊柱及び脊髄に被覆されて」は「椎骨及び脊髄の少なくとも一部の周りに位置づけされることにより、」にそれぞれ相当する。

引用発明1の「抗癒着性フィルム」は、「手術中に脊髄及び脊柱に被覆され」「その表面を癒着から保護する物理的な障壁として作用する」のであるから、その「抗癒着性フィルム」自体が、手術器具の一種といえるものである。よって、引用発明1は、「再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートからなる手術器具」なる事項を具備している。

引用発明1の「抗癒着性フィルム」は、「手術中に脊髄及び脊柱に被覆され」るのであるから、手術中に使用されるものといえる。
また、引用発明1の「抗癒着性フィルム」は、「生体吸収期間後のある時点では、完全にまたはほぼ完全に再吸収されて、残留物をほとんどまたは全く残さない」ものであるところ、引用例1の記載事項1エ、1コの各記載を参照すれば、手術後の期間であって、生体吸収期間中の所定期間においては、この抗癒着性フィルムが残留し、物理的な障壁としての機能を継続するものである。
よって、引用発明1の「手術中に脊髄及び脊柱に被覆されて、生体吸収期間後のある時点では、完全にまたはほぼ完全に再吸収されて、残留物をほとんどまたは全く残さない、抗癒着性フィルム」は、本願発明の「椎骨及び脊髄の少なくとも一部の周りに位置づけされることにより、脊椎手術中またはその後に使用される手術器具」に相当する。

引用発明1の「抗癒着性フィルム」は、「少なくとも1層の基質物質(例えば、コラーゲン)を包含する」「コラーゲンのような繊維状物質から形成した膜」であるから、主にコラーゲンである単一層膜を包含するものである。
また、引用発明1の「抗癒着性フィルム」は、「対抗する表面を機械的に分離し、その表面を癒着から保護する物理的な障壁として作用する」「膜」であり、記載事項1クの「(特に、組織液およびその成分がフィルムを通って自由に流れることを防止するか妨害できる)のに充分な厚みのフィルム厚および充分に小さい孔サイズを有する。適当なら、この抗癒着性フィルムの膜成分の孔サイズは、このフィルムの物理的障壁としての作用を最適化するように、特に選択され得る。」の記載も踏まえると、この「フィルム」は、細胞の通過を防止するためのバリアとして作用するものといえる。
よって、引用発明1の「対抗する表面を機械的に分離し、その表面を癒着から保護する物理的な障壁として作用する、コラーゲンのような繊維状物質から形成した膜」と本願発明の「主にコラーゲンI、コラーゲンIIまたはそれらの混合物であるグルコサミノグリカンで含浸されたバリア層を備え、前記コラーゲン膜物質の上での細胞付着を阻止すると共に細胞の通過を防止するためのバリアとして作用するように1つの平滑面を有し、前記平滑面の反対側の繊維面を有すると共に前記繊維面がその上での細胞増殖を可能にする単一層膜」とは、“主にコラーゲンであるバリア層を備え、細胞の通過を防止するためのバリアとして作用する単一層膜”である点で共通する。

してみると、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、本願発明の用語を用いて表現すると、次のとおりである。

(一致点)
「再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートからなる手術器具であって、
前記シートは、
主にコラーゲンであるバリア層を備え、細胞の通過を防止するためのバリアとして作用する単一層膜であり、
前記手術器具は、椎骨及び脊髄の少なくとも一部の周りに位置づけされることにより、脊椎手術中またはその後に使用される手術器具。」

(相違点)
本願発明のコラーゲン膜物質のシートは、「主にコラーゲンI、コラーゲンIIまたはそれらの混合物であるグルコサミノグリカンで含浸されたバリア層を備え、前記コラーゲン膜物質の上での細胞付着を阻止すると共に細胞の通過を防止するためのバリアとして作用するように1つの平滑面を有し、前記平滑面の反対側の繊維面を有すると共に前記繊維面がその上での細胞増殖を可能にする単一層膜」であるのに対し、引用発明1のコラーゲン膜物質のシートは、「主にコラーゲンI、コラーゲンIIまたはそれらの混合物であるグルコサミノグリカンで含浸されたバリア層」を備えておらず、「細胞付着を阻止すると共に細胞の通過を防止するためのバリアとして作用するように1つの平滑面」を有しているのか否か不明であり、「平滑面の反対側の繊維面を有すると共に前記繊維面がその上での細胞増殖を可能にする」事項を備えていない点。


V.相違点の判断
引用発明2の「GAGが含浸されている吸収性コラーゲン膜」は「グルコサミノグリカンで含浸された再吸収可能なコラーゲン膜物質のシート」と、「一方の面は繊維性で」は「一方の面は繊維面で」と、「逆の面は平滑でその上への細胞の接着は阻止され、この平滑な側は、細胞の内方増殖を遮蔽するための障壁またはフィルターとして働き」は「逆の面は平滑面でコラーゲン膜物質の上での細胞付着を阻止すると共に細胞の通過を防止するためのバリアとして作用し」といえ、また、「獣皮の切片、腱、動物の各種の膜等から誘導され」るコラーゲン膜が、主にコラーゲンIであるコラーゲン膜となることは技術常識である。
よって、引用発明2は、「主にコラーゲンIであるグルコサミノグリカンで含浸された再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートであって、その膜の一方の面は繊維面でその上での細胞増殖を可能にし、逆の面は平滑面でコラーゲン膜物質の上での細胞付着を阻止すると共に細胞の通過を防止するためのバリアとして作用し、物理的な分離を介して、手術が施された領域内に望ましくない種類の細胞が侵入することを防止する膜」と言い換えることができる。
そして、引用発明2のコラーゲン膜物質のシートにおいて、物理的な分離を介して、手術が施された領域内に望ましくない種類の細胞が侵入することを防止することに伴い、手術が施された領域と他の組織との癒着も防止されることは明らかであるから、引用発明1と引用発明2とは、他の組織からの細胞の侵入を防止するという技術課題及びそのための膜からなる手術器具という技術分野で共通しており、しかも、引用発明1においても、手術が施された領域の組織再生は当然に望まれる事項である。
してみると、手術が施された領域への他の組織の侵入防止のみならず、手術が施された領域の組織再生をも期待して、引用発明1の抗癒着性フィルムに引用発明2の膜を適用し、相違点における本願発明の特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、本願発明による効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。


VI.むすび
したがって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-30 
結審通知日 2012-06-05 
審決日 2012-06-20 
出願番号 特願2000-276303(P2000-276303)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小原 深美子  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 高田 元樹
関谷 一夫
発明の名称 再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートからなる手術器具  
代理人 梶並 順  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 田口 雅啓  
代理人 曾我 道治  
代理人 古川 秀利  

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